(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】含フッ素共重合体組成物、その製造方法、および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221122BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20221122BHJP
C08L 27/20 20060101ALI20221122BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20221122BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20221122BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221122BHJP
C08L 81/04 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L27/18
C08L27/20
C08L67/00
C08L77/10
C08L79/08 B
C08L79/08 C
C08L81/04
(21)【出願番号】P 2021154682
(22)【出願日】2021-09-22
(62)【分割の表示】P 2018514641の分割
【原出願日】2017-04-25
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2016091886
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016172023
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6958546(JP,B2)
【文献】特表平05-502059(JP,A)
【文献】特開2006-274073(JP,A)
【文献】特開昭61-203153(JP,A)
【文献】特開昭62-112767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記熱可塑性樹脂Aおよび下記含フッ素エラストマーBを含み、
前記含フッ素エラストマーBは、前記熱可塑性樹脂A中に分散しており、
前記含フッ素エラストマーBの数平均粒子径が1~300μmであり、
前記含フッ素エラストマーBのJIS K6300-1:2000に準じて121℃で測定されるムーニー粘度が、20~200であり、
前記熱可塑性樹脂Aと前記含フッ素エラストマーBとの体積比が97:3~55:45であり、
1000~3700MPaの曲げ弾性率を有する、含フッ素共重合体組成物。
(熱可塑性樹脂A)
ポリアリレート、
芳香族ポリアミド、
芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、
ポリアミドイミド、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の、溶融成形可能な熱可塑性耐熱樹脂。
(含フッ素エラストマーB)
テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する含フッ素弾性共重合体。
【請求項2】
請求項
1に記載の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を成形してなる成形体。
【請求項3】
請求項
2に記載の成形体からなるフィルム。
【請求項4】
表面粗度(Ra)が4.0未満である、請求項
3に記載のフィルム。
【請求項5】
フィルムの製造方法であって、350~420℃のダイ温度で、溶融押し出しによって、請求項
3または
4に記載のフィルムが製造される、前記フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を射出成形してなる射出成型品。
【請求項7】
摺動部材として使用される、請求項
2に記載の成形体。
【請求項8】
摺動部材として使用される、請求項
6に記載の射出成型品。
【請求項9】
シール材、ギア、アクチュエーター、ピストン、ベアリング、筺体、航空機内装材、燃料用チューブまたはブッシュである、請求項
2に記載の成形体。
【請求項10】
シール材、ギア、アクチュエーター、ピストン、ベアリング、筺体、航空機内装材、燃料用チューブまたはブッシュである、請求項
6に記載の射出成型品。
【請求項11】
下記熱可塑性樹脂Aと下記含フッ素エラストマーBとの体積比を97:3~55:45として溶融混練する含フッ素共重合体組成物の製造方法であって、
前記溶融混練は、架橋剤および架橋助剤を実質的に存在させずに、JIS K6300-1:2000に準じて121℃で測定されるムーニー粘度が20~200である前記含フッ素エラストマーBが、1~300μmの数平均粒子径を有する粒子となって前記熱可塑性樹脂A中に分散するように行われる、含フッ素共重合体組成物の製造方法。
(熱可塑性樹脂A)
ポリアリレート、
芳香族ポリアミド、
芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、
ポリアミドイミド、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の、溶融成形可能な熱可塑性耐熱樹脂。
(含フッ素エラストマーB)
テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する含フッ素弾性共重合体。
【請求項12】
前記溶融混練が、混練温度が220~480℃であり、押出せん断速度が3~2500s
-1であり、かつ押出機内での滞留時間が10~290秒である条件において行われる、請求項
11に記載の含フッ素共重合体組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項
1に記載の含フッ素共重合体組成物と強化繊維とからなるプリプレグ。
【請求項14】
請求項
13に記載のプリプレグを用いた繊維強化成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体組成物、その製造方法、成形体、射出成型品、プリプレグおよび繊維強化成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンケトン等のエンジニアリングプラスチックは、耐熱性や機械的物性等に優れるため、摺動部材等の成形材料として様々な分野で広く使用されている。
しかし、これらのエンジニアリングプラスチックは常温時、あるいは低温時の耐衝撃性に難点があり、その改良が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では室温における靱性、熱変形温度および/または透過性の改善を目的として、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトンとを特定の割合で溶融配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、エンジニアリングプラスチックの優れた耐熱性や機械的物性を維持しつつ、耐衝撃性を向上させることを目的として、エンジニアリングプラスチックとフッ素樹脂との組成物の物性について鋭意検討したところ、エンジニアリングプラスチックとフッ素樹脂との親和性が必ずしも充分ではないために、得られる組成物においてエンジニアリングプラスチックとフッ素樹脂の優れた物性がそれぞれ充分に発現せず、期待する機械的物性の向上効果が得られないことを見出した。また、得られる組成物は、押出成形等の溶融成形を行うと樹脂の脱離が部分的に起こり、成形品の表面が荒れて表面平滑性に劣るなど、成形性にも問題があった。さらに、当該組成物を射出成形した際には、射出成型品に表面荒れや層状剥離が認められる等の成形不良に基づく欠点が生じる場合があることを見出した。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、エンジニアプラスチックなどの熱可塑性耐熱樹脂が元来有する優れた耐熱性や機械的物性を損なわずに、耐衝撃性と成形性に優れる含フッ素共重合体組成物、およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、当該含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を成形してなる成形体および射出成形してなる射出成型品を提供することを課題とする。
また、本発明は成形性に優れ、耐衝撃性を有する繊維強化成形品を製造できるプリプレグ、および耐衝撃性を有する繊維強化成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]下記熱可塑性樹脂Aおよび下記含フッ素エラストマーBを含み、
前記含フッ素エラストマーBは、前記熱可塑性樹脂A中に分散しており、
前記含フッ素エラストマーBの数平均粒子径が1~300μmであり、
前記熱可塑性樹脂Aと前記含フッ素エラストマーBとの体積比が97:3~55:45であり、
1000~3700MPaの曲げ弾性率を有する、含フッ素共重合体組成物。
(熱可塑性樹脂A)
ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の、溶融成形可能な熱可塑性耐熱樹脂。
(含フッ素エラストマーB)
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、およびクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のモノマーに基づく単位を含む、1種以上の含フッ素弾性共重合体。
[2]前記含フッ素エラストマーBは、テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位およびフッ化ビニリデンに基づく単位を有する共重合体、ならびにテトラフルオロエチレンに基づく単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を有する共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の含フッ素弾性共重合体であり、前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は下式(I)で表される化合物である、[1]に記載の含フッ素共重合体組成物。
CF2=CF(ORF) ・・・(I)
[式中、RFは炭素数1~8の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
[3]前記熱可塑性樹脂Aは、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエーテルアミド、およびポリアリールスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の熱可塑性耐熱樹脂である、[1]または[2]に記載の含フッ素共重合体組成物。
[4]前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエーテルケトンケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を成形してなる成形体。
[6][5]に記載の成形体からなるフィルム。
[7]表面粗度(Ra)が4.0未満である、[6]に記載のフィルム。
[8]フィルムの製造方法であって、350~420℃のダイ温度で、溶融押し出しによって、[6]または[7]に記載のフィルムが製造される、前記フィルムの製造方法。
[9][1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を射出成形してなる射出成型品。
[10]摺動部材として使用される、[5]に記載の成形体。
[11]摺動部材として使用される、[9]に記載の射出成型品。
[12]シール材、ギア、アクチュエーター、ピストン、ベアリング、筺体、航空機内装材、燃料用チューブまたはブッシュである、請求項5に記載の成形体。
[13]シール材、ギア、アクチュエーター、ピストン、ベアリング、筺体、航空機内装材、燃料用チューブまたはブッシュである、[9]に記載の射出成型品。
[14]下記熱可塑性樹脂Aと下記含フッ素エラストマーBとの体積比を97:3~55:45として溶融混練する含フッ素共重合体組成物の製造方法であって、
前記溶融混練は、架橋剤および架橋助剤を実質的に存在させずに、前記含フッ素エラストマーBが、1~300μmの数平均粒子径を有する粒子となって前記熱可塑性樹脂A中に分散するように行われる、含フッ素共重合体組成物の製造方法。
(熱可塑性樹脂A)
ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の、溶融成形可能な熱可塑性耐熱樹脂。
(含フッ素エラストマーB)
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、およびクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のモノマーに基づく単位を含む、1種以上の含フッ素弾性共重合体。
[15]前記含フッ素エラストマーBは、テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位およびフッ化ビニリデンに基づく単位を有する共重合体、ならびにテトラフルオロエチレンに基づく単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を有する共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の含フッ素弾性共重合体である、[14]に記載の含フッ素共重合体組成物の製造方法。
[16]前記熱可塑性樹脂Aは、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエーテルアミド、およびポリアリールスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の熱可塑性耐熱樹脂である、[14]または[15]に記載の含フッ素共重合体組成物の製造方法。
[17]前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエーテルケトンケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、[14]~[16]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物の製造方法。
[18]前記溶融混練が、混練温度が220~480℃であり、押出せん断速度が3~2500s-1であり、かつ押出機内での滞留時間が10~290秒である条件において行われる、[14]~[17]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物の製造方法。
[19][1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体組成物と強化繊維とからなるプリプレグ。
[20][19]に記載のプリプレグを用いた繊維強化成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の含フッ素共重合体組成物は、熱可塑性耐熱樹脂が元来有する優れた耐熱性や機械的物性が損なわれずに、耐衝撃性と成形性に優れる。
本発明の成形体および射出成型品は、耐熱性、機械的物性、耐衝撃性に優れ、かつ成形不良に基づく欠点が少ない。
本発明の含フッ素共重合体組成物の製造方法によれば、熱可塑性耐熱樹脂が元来有する優れた耐熱性や機械的物性を損なわずに、耐衝撃性と成形性に優れる含フッ素共重合体組成物を製造できる。
本発明のプリプレグは、本発明の含フッ素共重合体組成物を含むため成形性に優れ、耐衝撃性を有する繊維強化成形品の原料となりうる。
本発明の繊維強化成形品は、本発明の含フッ素共重合体組成物を含む本発明のプリプレグを用いて形成されるため、耐衝撃性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーが重合することによって形成された当該モノマーに由来する単位を意味する。モノマーに基づく単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって当該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0010】
[含フッ素共重合体組成物]
本発明の含フッ素共重合体組成物は、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとを含む。
【0011】
本発明の含フッ素共重合体組成物に含まれる熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの体積比(A:B)は97:3~55:45である。該体積比(A:B)は95:5~57:43が好ましく、95:5~60:40がより好ましく、93:7~60:40がさらに好ましく、90:10~65:35が特に好ましい。
含フッ素共重合体組成物に熱可塑性樹脂Aが上記範囲で含有されていれば、優れた耐熱性および機械的物性が得られ、また、含フッ素エラストマーBが上記範囲で含有されていれば、優れた柔軟性および耐衝撃性が得られる。
【0012】
上記体積比(A:B)は、以下の手順で求められる。
本発明の含フッ素共重合体組成物を製造する際に溶融混練する(混練機に投入する)熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBのそれぞれの質量w(g)を、それぞれの比重d(g/cm3)で除することにより体積(cm3)を算出し、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBのそれぞれの体積(cm3)から上記体積比(A:B)を算出する。
比重は、23℃における値である。熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBのそれぞれの比重は、水中置換(懸架)方法により測定できる。
【0013】
本発明の含フッ素共重合体組成物における熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの体積の合計は、含フッ素共重合体組成物の体積の50%以上であることが好ましく、60~99%がより好ましく、70~97%がさらに好ましい。
該割合が前記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの組成物が示す柔軟性や力学強度などの優れた機械的物性や、優れた柔軟性および耐衝撃性を発現できる。該割合が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの組成物が示す優れた耐熱性および機械的特性、優れた柔軟性および耐衝撃性を示しつつ、組成物に新たな特性を付与することが可能となる。
【0014】
また、本発明の含フッ素共重合体組成物において、含フッ素エラストマーBは、熱可塑性樹脂A中に分散しており、その数平均粒子径は1~300μmであり、5~200μmが好ましく、10~150μmがより好ましい。
該数平均粒子径が前記下限値以上であれば、含フッ素共重合体組成物中の含フッ素エラストマーBの柔軟性を確保し、含フッ素共重合体組成物の耐衝撃性を向上させることができる。該数平均粒子径が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂A中に、含フッ素エラストマーBが均一に分散でき、成形体は機械的物性に優れる。
【0015】
また、該数平均粒子径が1~300μmであることから、後述の溶融混練工程において必要以上に含フッ素エラストマーBをせん断する必要がなく、含フッ素エラストマーBの分子構造を維持したまま、熱可塑性樹脂A中に分散させることができる。このように、含フッ素エラストマーBの柔軟性を確保しつつ熱可塑性樹脂A中に分散させることにより、熱可塑性樹脂Aだけでは不足していた耐衝撃性を含フッ素共重合体組成物に付与し、含フッ素共重合体組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0016】
含フッ素エラストマーBの数平均粒子径は、SEM観察により無作為に選んだ100個の粒子の最大直径を測定し、それらの平均値を数平均粒子径とした。
【0017】
含フッ素共重合体組成物の曲げ弾性率は1000~3700MPaであり、1300~3500MPaが好ましく、1500~3400MPaがより好ましく、1700~3300MPaがさらに好ましい。
該曲げ弾性率の上限値が3700MPaであることは、含フッ素共重合体組成物中の含フッ素エラストマーBが架橋されていないこと、若しくは実質的に架橋されていないことを意味する。
該曲げ弾性率が前記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂の化学的、熱的、機械的特性を持ちつつ、耐衝撃性を向上させることができる。該曲げ弾性率が前記上限値以下であれば、含フッ素共重合体組成物が優れた柔軟性を有し、耐衝撃性が向上する。
【0018】
含フッ素共重合体組成物の曲げ弾性率は、ASTM D790に準じて測定した。
【0019】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂Aは、下記群Aから選ばれる少なくとも1種以上の、溶融成形可能な熱可塑性耐熱樹脂である。群A:ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、および液晶ポリエステル。
熱可塑性樹脂Aとしては、1種でも、2種以上を用いてもよいが、1種を用いることが好ましい。
熱可塑性樹脂Aとしては、機械的強度および耐熱性の観点から、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン(PES)、芳香族ポリエーテルアミド、およびポリアリールスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の熱可塑性耐熱樹脂であることが好ましい。ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはポリエーテルケトンケトン(PEKK)が好ましい。PEEK、またはPESがより好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂Aの融点は、200~430℃が好ましく、250~400℃がより好ましく、280~380℃がさらに好ましい。
該融点が前記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの組成物が示す優れた耐熱性を保持できる。該融点が前記上限値以下であれば、溶融混練時における含フッ素エラストマーBの熱分解による物性の劣化を抑制でき、柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性等の含フッ素エラストマーの特徴を保持できる。
【0021】
熱可塑性樹脂Aのメルトフローレート(MFR)は、0.1~300g/10分が好ましく、1~100g/10分がより好ましく、3~70g/10分がさらに好ましい。
該メルトフローレート(MFR)が前記下限値以上であれば、溶融成形可能で外観荒れのない組成物が得られる。該メルトフローレート(MFR)が前記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの組成物中での分散性が良好となり、その結果、機械的物性、耐熱性、柔軟性、耐衝撃性に優れる。
【0022】
MFRは、ASTM D3307に準じて、372℃にて49N(5kg)荷重下、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する樹脂の質量(g)を測定し、その値をMFR(g/10分)とする。
【0023】
熱可塑性樹脂Aとしては、市販されている熱可塑性耐熱樹脂を用いてもよいし、公知の方法を用いて、各種原料から製造してもよい。
【0024】
(含フッ素エラストマーB)
含フッ素エラストマーBは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VdF)、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のモノマー(以下、「モノマー(MB1)」とも言う。)に基づく単位を含む含フッ素弾性共重合体である。
含フッ素エラストマーBとしては、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、1種を用いることが好ましい。
【0025】
含フッ素エラストマーBは、TFEに基づく単位(以下、「TFE単位」とも言う。他の単位についても同様である。)、HFP単位、VdF単位、およびCTFE単位からなる群から選ばれる2種または3種の単位のみからなる含フッ素弾性共重合体であってもよく、モノマー(MB1)と、モノマー(MB1)と共重合可能な下記のモノマー(MB2)に基づく単位の1種以上とからなる含フッ素弾性共重合体であってもよい。
【0026】
モノマー(MB2)は、エチレン(E)、プロピレン(P)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニル(VF)、1,2-ジフルオロエチレン(DiFE)、1,1,2-トリフルオロエチレン(TrFE)、3,3,3-トリフルオロ-1-プロピレン(TFP)、1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、および2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群より選ばれる1種以上のモノマーである。
【0027】
ここで、PAVEは、下式(I)で表される化合物であり、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)が挙げられる。
CF2=CF(ORF) ・・・(I)
[式中、RFは炭素数1~8の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
【0028】
含フッ素エラストマーBは、モノマー(MB1)と共重合可能であり、当該共重合体が弾性共重合体となる、モノマー(MB1)およびモノマー(MB2)以外の他のモノマー(以下、「モノマー(MB3)」とも言う。)に基づく単位の1種以上を有していてもよい。
含フッ素エラストマーBを構成する全単位のうち、モノマー(MB3)に基づく単位は20モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、モノマー(MB3)に基づく単位を有さないことがさらに好ましい。
【0029】
含フッ素エラストマーBは、含フッ素エラストマーBを構成する全単位の100モル%が、モノマー(MB1)に基づく単位の2種または3種からなるか、または、モノマー(MB1)に基づく単位の1種以上と、モノマー(MB2)に基づく単位の1種以上とからなることが好ましい。ただし、不純物等としてこれら以外の単位を含有することは許容される。
モノマー(MB1)に基づく単位の2種または3種からなる含フッ素弾性共重合体、および、モノマー(MB1)に基づく単位の1種以上とモノマー(MB2)に基づく単位の1種以上とからなる含フッ素弾性共重合体は、含フッ素共重合体組成物の柔軟性に寄与する。
【0030】
含フッ素エラストマーBとしては、TFE/P含有共重合体(TFE単位とP単位とを含有する共重合体を意味する。なお、「/」で結ばれた各単位の合計、TFE/P含有共重合体の場合にはTFE単位とP単位との合計が、すべての単位の合計に占める割合は、50モル%以上であることが好ましい。他の「含有共重合体」についても同様である。)、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が挙げられる。
なお、TFE/PAVE含有共重合体には、TFE単位とPAVE単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位やVdF単位を含むものは含まない。また、HFP/VdF含有共重合体には、HFP単位とVdF単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位を含むものは含まない。
【0031】
TFE/P含有共重合体としては、TFE/P(TFE単位とP単位とからなる共重合体を意味する。他についても同様である。)、TFE/P/VF、TFE/P/VdF、TFE/P/E、TFE/P/TFP、TFE/P/PAVE、TFE/P/1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/TrFE、TFE/P/DiFE、TFE/P/VdF/TFP、TFE/P/VdF/PAVEが挙げられ、なかでもTFE/Pが好ましい。
HFP/VdF含有共重合体としては、HFP/VdF、TFE/VdF/HFP、TFE/VdF/HFP/TFP、TFE/VdF/HFP/PAVE、VdF/HFP/TFP、VdF/HFP/PAVEが挙げられ、なかでもHFP/VdFが好ましい。
TFE/PAVE含有共重合体としては、TFE/PAVE、TFE/PMVE、TFE/PMVE/PPVEが挙げられ、なかでもTFE/PMVEが好ましい。
【0032】
含フッ素エラストマーBとしては、上記のTFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体以外に、TFE/VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、VdF/PAVE、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、E/HFPも挙げられる。
【0033】
上記の含フッ素エラストマーBのなかでも、TFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が好ましく、TFE/P含有共重合体がより好ましく、TFE/Pがさらに好ましい。TFE/Pは特に溶融混練時の熱安定性が良好であり、溶融混練時の搬送性が安定する。また、本発明の成形体の着色および発泡は低減されるため好ましい。
【0034】
これらのエラストマーの組成は、本発明の含フッ素共重合体組成物の柔軟性に寄与しやすい点から、以下の範囲が好ましい。
TFE/P(TFE単位とP単位とのモル比を意味する、下記の比率も同様にモル比である。)は、30~80:70~20が好ましく、40~70:60~30がより好ましく、60~50:40~50がさらに好ましい。TFE/P/VFにおいて、TFE:P:VF=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/VdFにおいて、TFE:P:VdF=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/Eにおいて、TFE:P:E=20~60:70~30:0.05~40が好ましい。TFE/P/TFPにおいて、TFE:P:TFP=30~60:60~30:0.05~20が好ましい。TFE/P/PAVEにおいて、TFE:P:PAVE=40~70:60~29.95:0.05~20が好ましい。TFE/P/1,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:P:1,3,3,3-テトラフルオロプロペン=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:P:2,3,3,3-テトラフルオロプロペン=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/TrFEにおいて、TFE:P:TrFE=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/DiFEにおいて、TFE:P:DiFE=30~60:60~20:0.05~40が好ましい。TFE/P/VdF/TFPにおいて、TFE:P:VdF:TFP=30~60:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。TFE/P/VdF/PAVEにおいて、TFE:P:VdF:PAVE=30~70:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。HFP/VdFにおいて、HFP:VdF=99~5:1~95が好ましい。TFE/VdF/HFPにおいて、TFE:VdF:HFP=20~40:1~40:20~40が好ましい。TFE/VdF/HFP/TFPにおいて、TFE:VdF:HFP:TFP=30~60:0.05~40:60~20:0.05~20が好ましい。TFE/VdF/HFP/PAVEにおいて、TFE:VdF:HFP:PAVE=30~70:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。VdF/HFP/TFPにおいて、VdF:HFP:TFP=1~90:95~5:0.05~20が好ましい。VdF/HFP/PAVEにおいて、VdF:HFP:PAVE=20~90:9.95~70:0.05~20が好ましい。TFE/PAVEにおいて、TFE:PAVE=40~70:60~30が好ましい。TFE/PMVEにおいて、TFE:PMVE=40~70:60~30が好ましい。TFE/PMVE/PPVEにおいて、TFE:PMVE:PPVE=40~70:3~57:3~57が好ましい。TFE/VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:VdF:2,3,3,3-テトラフルオロプロペン=1~30:30~90:5~60が好ましい。VdF/PAVEにおいて、VdF:PAVE=3~95:97~5が好ましい。VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいて、VdF:2,3,3,3-テトラフルオロプロペン=30~95:70~5が好ましい。E/HFPにおいて、E:HFP=40~60:60~40が好ましい。
【0035】
含フッ素エラストマーBにおけるフッ素含有量は、50~74質量%であることが好ましく、55~70質量%であることがより好ましい。該含有量は、具体的には、TFE/P共重合体においては57~60質量%であることが好ましく、HFP/VdF共重合体においては66~71質量%であることが好ましく、TFE/PMVE共重合体においては66~70質量%であることが好ましい。
該含有量が前記下限値以上であれば、優れた耐熱性および耐薬品性が得られる。該含有量が前記上限値以下であれば、含フッ素共重合体組成物の柔軟性が高まる。
【0036】
該含有量は、フッ素含有量の分析により得られ、含フッ素エラストマーBを構成するすべての原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を示す。
フッ素含有量の分析は、溶融NMR測定および全フッ素含有量測定から、含フッ素共重合体中の各単位のモル比を求めて行う。
【0037】
含フッ素エラストマーBの数平均分子量は、1万~150万が好ましく、2万~100万がより好ましく、2万~80万がさらに好ましく、5万~60万が特に好ましい。該数平均分子量が前記下限値以上であれば、成形体の機械的強度が良好となる。該数平均分子量が前記上限値以下であれば、高い流動性を有し、熱可塑性樹脂A中における分散が良好となり、かつ含フッ素共重合体組成物の柔軟性が高まる。
【0038】
含フッ素エラストマーBのムーニー粘度(ML1+10、121℃)は、20~200が好ましく、30~150がより好ましく、40~120がさらに好ましい。
ムーニー粘度は、分子量の尺度であり、JIS K6300-1:2000に準じて測定される。この値が大きいと分子量が大きいことを示し、小さいと分子量が小さいことを示す。該ムーニー粘度が前記範囲内にあれば、含フッ素共重合体組成物は機械的特性および成形性に優れる。
【0039】
溶融混練前の含フッ素エラストマーBの数平均粒子径は10mm以下であることが好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。上記範囲内の場合、溶融混練時スクリューによる搬送性が安定するため好ましい。なお、溶融混練前の含フッ素エラストマー(B)の数平均粒子径は、光学顕微鏡により、100個の粒子を無作為に選択し、これの粒子径を測定し、平均値を求めたものである。
【0040】
(含フッ素エラストマーBの製造)
含フッ素エラストマーBは、1種以上のモノマー(MB1)、ならびに必要に応じてモノマー(MB2)およびモノマー(MB3)の一方または両方の1種以上を共重合することにより製造できる。
重合法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。含フッ素共重合体の数平均分子量や共重合体組成の調整が容易で、生産性に優れることから、水性媒体および乳化剤の存在下で、単量体を重合する乳化重合法が好ましい。
乳化重合法では、水性媒体、乳化剤およびラジカル重合開始剤の存在下に、上記モノマーを含む単量体成分を重合(乳化重合)する工程(乳化重合工程)を経て、エラストマーのラテックスを得る。乳化重合工程においては、pH調整剤を添加してもよい。
【0041】
(その他の成分)
本発明の含フッ素共重合体組成物は、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーB以外に、任意成分として、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、充填剤、可塑剤、難燃剤等の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
任意成分であるその他の成分を含フッ素共重合体組成物に含有させる場合、その他の成分の体積の合計は、含フッ素共重合体組成物の体積の50%以下であることが好ましく、1~40体積%がより好ましく、3~30体積%がさらに好ましい。
【0043】
その他の成分としての充填剤としては、無機充填剤等が挙げられる。
無機充填剤としては、CaCO3、SiO2、TiO2、BaSO4、ZnO、Al(OH)3、Mg(OH)2、タルク、マイカ、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、カーボンナノチューブ、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0044】
カーボンブラックとしては、フッ素ゴムの充填剤として用いられているものであれば制限なく使用できる。その具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、ファーネスブラックが好ましい。ファーネスブラックとしては、HAF-LSカーボン、HAFカーボン、HAF-HSカーボン、FEFカーボン、GPFカーボン、APFカーボン、SRF-LMカーボン、SRF-HMカーボン、MTカーボン等が挙げられ、これらのなかではMTカーボンがより好ましい。
含フッ素共重合体組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、含フッ素エラストマーAの100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましい。該含有量が前記下限値以上であれば、含フッ素共重合体組成物が架橋してなる架橋物は強度が優れ、カーボンブラックを配合したことによる補強効果が充分に得られる。また、該含有量が前記上限値以下であれば、架橋物の伸びも優れる。このように該含有量が前記範囲内であれば、架橋物の強度と伸びとのバランスが良好となる。
【0045】
含フッ素共重合体組成物がカーボンブラック以外の充填剤を含有する場合、その含有量は、含フッ素エラストマーAの100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。
なお、充填剤は1種以上を使用でき、カーボンブラックとそれ以外の充填剤とを併用してもよい。成形体が、カーボンブラックとそれ以外の充填剤とを含有する場合、その含有量は、含フッ素エラストマーAの100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、3~50質量部がより好ましい。
【0046】
その他の成分としての可塑剤、難燃剤としては、特に限定されず、公知の可塑剤、難燃剤を採用できる。可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等が挙げられる。難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、五酸化アンチモン、ホスファゼン化合物、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、赤リン、モリブデン化合物、ホウ酸化合物、PTFE等が挙げられ、三酸化アンチモン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートその他芳香族リン酸エステル等のリン酸エステル;樹脂中でフィブリル構造を形成するドリップ防止剤であるPTFE;が好ましい。
【0047】
[含フッ素共重合体組成物の製造方法]
本発明の含フッ素共重合体組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBと、必要に応じて任意成分であるその他の成分とを溶融混練する工程(以下、「溶融混練工程」とも言う。)を含む。
なお、任意成分であるその他の成分を含フッ素共重合体組成物に含有させる場合、その他の成分は、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとを溶融混練する工程で添加されてもよいし、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとを溶融混練した後に添加されてもよい。
【0048】
溶融混練工程においては、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとの体積比(A:B)を97:3~55:45として溶融混練する。該体積比(A:B)は95:5~57:43が好ましく、95:5~60:40がより好ましく、93:7~60:40がさらに好ましく、90:10~65:35が特に好ましい。
該体積比(A:B)が上記範囲内にあれば、溶融混練時に得られるストランドの外観荒れがなく、その結果、得られるペレットは溶融成形加工性に優れる。
【0049】
また、熱可塑性樹脂Aが上記範囲で含有されていれば、優れた耐熱性、機械的物性および耐衝撃性が得られる。含フッ素エラストマーBが上記範囲で含有されていれば、優れた柔軟性が得られ、成形体表面上の荒れも抑制できる。
【0050】
溶融混練工程に用いる装置としては、公知の溶融混練機能を有する装置を用いることができ、混練効果の高いスクリューを備えていてもよい単軸押出機または二軸押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましく、混練効果の高いスクリューを備えた二軸押出機がさらに好ましい。混練効果の高いスクリューとしては、溶融混練対象物に対する充分な混練効果を有し、かつ、過剰なせん断力を与えないものを選択できる。
このような溶融混練機能を有する装置としては、ラボプラストミル混練機(東洋精機製作所社製)が挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBの溶融混練機能を有する装置への供給方法としては、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとをあらかじめ混合し、その混合物を、溶融混練機能を有する装置へ供給してもよく、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBを別々に、溶融混練機能を有する装置へ供給してもよい。
なお、任意成分であるその他の成分を含フッ素共重合体組成物に含有させる場合、その他の成分は、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBの一方とあらかじめ混合して、溶融混練機能を有する装置へ供給してもよく、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBとは別に、溶融混練機能を有する装置へ供給してもよい。また、上述の通り、その他の成分は、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとを溶融混練した後に添加されてもよい。
【0052】
溶融混練工程における混練温度は、使用する熱可塑性樹脂Aや含フッ素エラストマーBにもよるが、220~480℃が好ましく、280~450℃がより好ましく、290~420℃がさらに好ましく、300~400℃が特に好ましい。
【0053】
溶融混練工程における押出せん断速度は、上記の溶融混練工程における混練温度における、溶融混練対象物の溶融粘度に応じて設定することが好ましい。
溶融混練工程における押出せん断速度は、3~2500s-1が好ましく、10~2000s-1がより好ましく、15~1500s-1がさらに好ましい。
【0054】
溶融混練工程における、溶融混練対象物の溶融混練機能を有する装置内での滞留時間は、10~290秒が好ましく、20~240秒がより好ましく、30~210秒がさらに好ましい。
【0055】
本発明の含フッ素共重合体組成物の製造方法においては、含フッ素エラストマーBが、数平均粒子径が1~300μmの粒子となって熱可塑性樹脂A中に分散するように溶融混練工程が行われる。
溶融混練工程における混練温度、押出せん断速度、および溶融混練対象物の溶融混練機能を有する装置内での滞留時間を適宜調整することにより、含フッ素エラストマーBが、数平均粒子径が1~300μmの粒子となって熱可塑性樹脂A中に分散するように溶融混練工程を行うことができる。
【0056】
溶融混練工程における混練温度が充分高ければ、溶融混練時に含フッ素エラストマーBが熱可塑性樹脂A中に分散しやすく、含フッ素エラストマーBの粗大粒子が残存しにくい。該混練温度が充分低ければ、含フッ素エラストマーBの熱分解が促進されにくく、含フッ素共重合体組成物の耐熱性に優れ、含フッ素エラストマーBが小粒径化されすぎることがない。
溶融混練工程における押出せん断速度が充分大きければ、溶融混練時に含フッ素エラストマーBが熱可塑性樹脂A中に分散しやすく、含フッ素エラストマーBの粗大粒子が残存しにくい。該押出せん断速度が充分小さければ、含フッ素エラストマーBが小粒径化されすぎることがない。
溶融工程における溶融混練対象物の溶融混練機能を有する装置内での滞留時間が充分長ければ、溶融混練時に含フッ素エラストマーBが熱可塑性樹脂A中に分散しやすく、含フッ素エラストマーBの粗大粒子が残存しにくい。該滞留時間が充分短ければ、含フッ素エラストマーBの熱分解が促進されにくい。
【0057】
また、溶融混練工程は、架橋剤および架橋助剤を実質的に存在させずに行われる。
架橋剤および架橋助剤を実質的に存在させずに行うとは、含フッ素共重合体組成物中の含フッ素エラストマーBを実質的に架橋させずに溶融混練を行うことを意味する。含フッ素共重合体組成物中の含フッ素エラストマーBが実質的に架橋していないかどうかは、含フッ素共重合体組成物の曲げ弾性率の値によって確認できる。含フッ素エラストマーBが実質的に架橋されると、含フッ素弾性共重合体の柔軟性が失われるため、含フッ素共重合体組成物の曲げ弾性率が3700MPaを超える。
溶融混練工程を、架橋剤および架橋助剤を実質的に存在させずに行うことにより、含フッ素共重合体組成物中の含フッ素エラストマーBの柔軟性を確保し、含フッ素共重合体組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0058】
上記のように、熱可塑性樹脂Aおよび含フッ素エラストマーBを含む溶融混練対象物を溶融混練することで、熱可塑性樹脂Aと含フッ素エラストマーBとを含有する含フッ素共重合体組成物が得られ、得られる含フッ素共重合体組成物は、溶融成形が可能であり、溶融成形によって成形体とすることができる。
【0059】
本発明の含フッ素共重合体組成物はパウダー状にしてコーティング材料として用いることもできる。コーティングされた物品の用途としては、国際公開第2015/182702号に記載されたものが挙げられる。
また、本発明の含フッ素共重合体組成物は、本発明の繊維強化成形品の添加剤または本発明のプリプレグのマトリックス樹脂としても有用である。
【0060】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料を成形してなる成形体である。
本発明の含フッ素共重合体組成物以外の、成形材料に含まれうる成分としては高分子充填剤が挙げられる。
高分子充填剤としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカプロラクトン、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、アクリルゴム、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
【0061】
本発明の含フッ素共重合体組成物を含む成形材料の成形方法としては、通常の成形方法であれば特に制限されないが、たとえば、射出成形、押出成形、共押出成形、ブロー成形、圧縮成形、インフレーション成形、トランスファー成形、カレンダー成形等が挙げられる。本発明の含フッ素共重合体組成物は、溶融成形加工性に特に優れるため、本発明の成形体は射出成形による射出成型品であることが好ましい。
【0062】
含フッ素共重合体組成物の溶融成形に用いられる溶融成形装置としては、溶融成形に通常用いられるものであればよく、たとえば、ホットプレス二連式「型式:SA-301」(メルト熱プレス機、テスター産業社製)が挙げられる。
【0063】
なお、成形体の製造は、上述の含フッ素共重合体組成物の製造に次いで、連続して行ってもよい。
【0064】
本発明の成形体は種々の用途に用いることができる。具体例としては、特に限定するものではないが、摺動部材、シール材、ギア、アクチュエーター、ピストン、ベアリング、筺体、航空機内装材、燃料用チューブ、ブッシュ、チューブ、ホース、タンク、シール、ワイヤー、ケーブル、フィルム、シート、ボトル、繊維等が挙げられる。
チューブ、ホース、タンク、シール、ワイヤーとしては、国際公開第2015/182702号に記載されたものが挙げられる。また、チューブ、ホースとしては石油、天然ガス、シェールオイル等のエネルギー資源掘削用のチューブが挙げられる。ワイヤー、ケーブル等の電線被覆材としてはモーターコイル用の電線または平角銅線、特にハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)の駆動用モーターに使用される平角導体の絶縁被覆として用いることが好ましく、その場合フィルムで絶縁被覆することが好ましい。石油、天然ガス、シェールオイル等エネルギー資源掘削用のダウンホールケーブル用途等も挙げられる。さらに、スピーカー振動版、外傷・骨折用プレート板、モーターの絶縁紙等、各種電気絶縁用粘着テープ等の絶縁紙、石油・天然ガス用パイプに使われるシールテープ用途なども挙げられる。
また、本発明の成形体の形状は特に限定されず、国際公開第2015/182702号に記載された形状、用途や、ライザー管として用いることもできる。
本発明の成形体は、エンジニアプラスチックなどの熱可塑性耐熱樹脂が元来有する優れた耐熱性や機械的物性を損なうことなく、耐衝撃性が向上し、かつ成形性に優れた含フッ素共重合体組成物からなるため、これらの特性が要求される用途に用いられることが好ましく、筺体、航空機内装材として用いられることがより好ましい。
【0065】
フィルムの溶融押し出し成形方法としては特に制限はないが、フラットダイ法、インフレ―ション法が好適である。フラットダイ法は溶融樹脂の流量調整や製品厚みをダイ内のチョークバーやリップの調整によって精密に制御可能である。また、インフレ―ション法については円形のダイから押出品の内部に空気を入れて膨張させ、フィルムを得ることで均一な膜厚制御が可能である。
【0066】
前記成形時のシリンダー温度は300~420℃が好ましく、330~370℃がより好ましい。またダイ温度は350~420℃が好ましく、350~380℃がより好ましい。前記範囲であると、得られるフィルムはダイとの摩擦応力が低減され表面平滑性に優れるとともに、成形時の熱履歴による樹脂の分解が抑えられ、フィルムの表面平滑性に優れる。
フィルム成形の際の押出しせん断速度は3~2500秒-1が好ましく、10~1000秒-1がより好ましく、10~100秒-1がさらに好ましい。装置内での滞留時間は10~1000秒が好ましく、60~500秒がより好ましい。
【0067】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂と強化繊維とからなる。具体的には、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したシート状の材料であり、マトリックス樹脂に強化繊維が埋め込まれたシート状の材料とも言える。マトリックス樹脂は、前述の本発明の含フッ素共重合体組成物である。
【0068】
(強化繊維)
強化繊維としては、繊維強化成形品の機械的特性の点から、長さが10mm以上の連続した長繊維が好ましい。強化繊維は、強化繊維シートの長さ方向の全長または幅方向の全幅にわたり連続している必要はなく、途中で分断されていてもよい。
【0069】
強化繊維の加工形態としては、繊維強化成形品の機械的特性の点から、シート状に加工されたもの(以下、「強化繊維シート」とも言う。)が好ましい。
強化繊維シートとしては、複数の強化繊維からなる強化繊維束、該強化繊維束を織成してなるクロス、複数の強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向性強化繊維束、該一方向性強化繊維束から構成された一方向性クロス、これらを組み合わせたもの、複数の強化繊維束を積み重ねたもの等が挙げられる。
【0070】
強化繊維としては、無機繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維等が挙げられる。
金属繊維としては、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等が挙げられる。
有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等が挙げられる。
【0071】
強化繊維は、表面処理が施されているものであってもよい。
強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
強化繊維としては、比重が小さく、高強度、高弾性率である点から、炭素繊維が好ましい。
【0072】
[繊維強化成形品]
本発明の繊維強化成形品は、本発明のプリプレグを用いたものである。
本発明の繊維強化成形品は、本発明のプリプレグのみを用いて形成されたものであってもよく;本発明のプリプレグと、本発明のプリプレグ以外の他のプリプレグとを用いて形成された積層体であってもよく;本発明のプリプレグおよび必要に応じて他のプリプレグと、プリプレグ以外の他の部材とを用いて形成された積層体であってもよい。
【0073】
他のプリプレグとしては、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂Aを含み、含フッ素エラストマーBを含まないプリプレグ;マトリックス樹脂が含フッ素エラストマーBを含み、熱可塑性樹脂Aを含まないプリプレグ等が挙げられる。
【0074】
プリプレグ以外の他の部材としては、金属部材;熱可塑性樹脂Aを含む樹脂フィルム;含フッ素エラストマーBを含む樹脂フィルム等が挙げられる。
金属部材としては、金属箔、各種金属製部品等が挙げられる。金属としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛等が挙げられる。金属部材の形状は、特に限定されず、得ようとする繊維強化成形品に合わせて適宜選択できる。
【0075】
本発明の繊維強化成形品は、本発明のプリプレグを用いて通常の加熱加圧成形処理により形成できる。
【0076】
本発明の繊維強化成形品は、国際公開第2015/182702号に記載されたものや、スマートフォンの箇体、送電線の芯材、水素またはガソリン等燃料オイル保管用の圧力容器、トンネルまたは道路向け等の補修または補強シート、として用いることができる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板、電子機器の筐体、トレイやシャーシ、スポーツ用品(テニスラケットのフレーム、バット、ゴルフシャフト、釣竿、自転車のフレーム、リム、ホイール、クランク等)、などに好ましく用いられる。
【0077】
また、本発明の成形体は部分的に他材料との積層化または複合化して用いることもできる。上記他材料としては金属(鉄、銅、ステンレス等)、硝子、プラスチック、ゴム等が挙げられる。
プラスチックの具体例としては、国際公開第2015/182702号に記載したものや、液晶ポリマー、ポリアリールケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアセタール、ポリウレタン、などが挙げられる。また、ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66コポリマー、ポリアミド6/66/610コポリマー、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T、ポリアミド9T及びポリアミド6/6Tコポリマー等も挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、各測定項目は下記方法により測定した。
【0079】
(MFRの測定)
テクノ・セブン社製メルトインデクサーを用い、ASTM D3307に準じて、372℃にて49N(5kg)荷重下、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する樹脂の質量(g)を測定し、その値をMFR(g/10分)とした。
【0080】
(曲げ弾性率の測定)
TOYO BALDWIN社製TENSILON(型式:UTM-5T)を用い、ASTM D790に準じて測定した。
【0081】
(数平均粒子径の測定)
日立社製の電子顕微鏡(型式:S-4800)を用いた観察により無作為に選んだ100個の粒子の最大直径を測定し、それらの平均値を数平均粒子径とした。
溶融混練前の含フッ素エラストマー(B-1)および(B-2)の数平均粒子径は、光学顕微鏡(マルトー社製 SCOPEMAN MS-802)を用いて、100個の粒子を無作為に選択し、これらの粒子径を測定し、平均値を求めたものである。
【0082】
(表面状態の評価)
目視により表面を観察し、層状剥離の有無を確認した。表面に層状剥離が全く見られなかったものを「A」、わずかに層状剥離が見られたもの、もしくは全体的に層状剥離が見られたものを「B」とした。
【0083】
(使用原料)
熱可塑性樹脂(A-1):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、MFR:17.3g/10分、ビクトレックスジャパン社製、製品名「VICTREX PEEK 150P」)
熱可塑性樹脂(A-2):ポリフェニルスルホン(BASF社製、「Ultrason P3010」)
含フッ素エラストマー(B-1):テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(旭硝子社製、製品名「AFLAS 150FC」、数平均粒子径4.5μm)
含フッ素エラストマー(B-2):ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(DuPont社製、グレード名「バイトンフリーフローSCPW」、数平均粒子径0.8μm)
【0084】
〔例1〕
二軸押出機(KZW15TW-45HG1100、スクリュー径:15mmΦ、L/D:45、テクノベル社製)のスクリューの基端に、熱可塑性樹脂(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)とを、体積比が90:10になるように、かつ合計の投入量が2.0kg/時間になるように連続的に投入し、スクリュー回転数を200rpm、温度を380℃として、スクリューの先端側から、混練物を2.0kg/時間で連続的に吐出し、含フッ素共重合体組成物である混練物1を得た。なお、シリンダ、ヘッドおよびダイの設定温度は、C1/C2/C3/C4/C5/C6/D/H=340/350/360/370/370/370/350/350℃とした。
【0085】
〔例2〕
熱可塑性耐熱樹脂(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比を80:20になるように連続的に投入した以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物2を得た。
【0086】
〔例3〕
熱可塑性耐熱樹脂(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比を70:30になるように連続的に投入した以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物3を得た。
【0087】
〔例4〕
熱可塑性耐熱樹脂(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比を50:50になるように連続的に投入した以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物4を得た。
【0088】
〔例5〕
含フッ素エラストマー(B-1)を使用しなかった(すなわち、熱可塑性耐熱樹脂(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比は100:0である。)以外は、例1と同様にして、混練物5を得た。
【0089】
〔例6〕
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに熱可塑性耐熱樹脂(A-2)を用いた以外は、例1と同様にして、混練物6を得た。
【0090】
〔例7〕
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに熱可塑性耐熱樹脂(A-2)を用いた以外は、例2と同様にして、混練物7を得た。
【0091】
〔例8〕
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに含フッ素エラストマー(B-2)を用いた以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物8を得た。
【0092】
例1~3、5および8で得られた混練物の表面状態はいずれも「A」であった。例4、6および7で得られた混練物の表面状態は「B」であった。
【0093】
各例で得られた混練物を、200℃の加熱下、3時間予備乾燥し、メルト熱プレス機(ホットプレス二連式「型式:SA-301」(テスター産業社製))を用いて、温度:370℃、圧力:10MPa、プレス時間:5分の条件下でプレス成形し、大きさ:80mm×80mm、厚さ:1.0±0.05mmのプレス成型品を得た。
得られたプレス成型品から曲げ弾性率評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において曲げ弾性率を求めた。
各例における結果を表1および2に示す。
【0094】
各例で得られた混練物を用い、射出成形による熱プレス成型品(射出成形によるダンベル片)を作成した。得られた熱プレス成型品からIzod衝撃強度評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において常温Izod衝撃強度を、-40℃の条件下において低温Izod衝撃強度をそれぞれ求めた。
各例における結果を表1~3に示す。ただし例6、7および8は常温Izod衝撃強度のみ記す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
表1に示すように、本発明の含フッ素共重合体組成物である例1~3の混練物1~3の射出成型品は、曲げ弾性率が低く、常温および低温におけるIzod衝撃強度が高く、かつ表面状態も良好であった。
また、含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに含フッ素エラストマー(B-2)を用いた例8の混練物8の射出成型品も、Izod衝撃強度が高く、かつ表面状態も良好であった。
【0099】
一方、含フッ素エラストマーの含有量が大きい、例4の混練物4の射出成型品は、低い曲げ弾性率を示したものの、溶融押出し成形性が悪く表面状態が荒れており、優れたIzod衝撃性と成形物の表面状態が良好となる状態を両立できなかった。
【0100】
また、含フッ素エラストマーを含有しない、例5の混練物5の射出成型品は、曲げ弾性率が高く、また常温におけるIzod衝撃強度も本発明の含フッ素共重合体組成物に劣り、特に低温におけるIzod衝撃強度は、非常に低いものであった。
【0101】
また、含フッ素エラストマーの代わりに他の熱可塑性耐熱樹脂(A-2)を用いた例6および例7の混練物6および7の射出成型品は、表面状態が荒れているとともに、曲げ弾性率が高く、常温におけるIzod衝撃強度も本発明の含フッ素共重合体組成物に劣るものであった。
【0102】
(誘電率の測定)
前記混練物1~3および5を用い、上記に記載した条件でプレス成形を実施し、大きさ:80mm×80mm、厚さ:0.3±0.05mmのプレス成型品を得た。
該プレス成型品に対して、プレシジョンLCRメータE4980A(アジレント・テクノロジー社製)を用いてJIS C 2138(自動平衡ブリッジ法)に準拠した方法で試験を実施した。試験は200℃の温度条件下にて、周波数60Hz、1kHz、1MHzの3点、n(試験回数)=2にて測定した。また、試験で用いた電極は導電性銀ペイントを用い、寸法は主電極径φ36mm、環状電極内径φ38mmのものを用いた。各例における結果を表4に示す。
【0103】
(摩耗量の測定)
前記混練物1~3および5を用い、上記に記載した条件でプレス成形を実施し、サンプル寸法φ30mm、厚さ0.2±0.05mmの円形プレスシートを得た。
該プレス成型品に対して、オリエンテック社製摩擦摩耗試験機を用いてJIS K-7218に準拠した松原式摩擦測定法(円筒平面型 オーリング型)にて試験を実施した。
室温にて、試験片に相手材であるリング(材質:S45Cs(1.5S)、接触面積:2cm2)を圧力:0.8MPa、回転速度:0.5m/sec、試験時間:1時間の条件で接触させ、試験片の摩耗量を測定した。各例における結果を表4に示す。
【0104】
【0105】
表4に示すように、含フッ素エラストマーを含有しない、例12の混練物5の成型品は、例9~11に示す本発明の含フッ素共重合体組成物よりも誘電率が高いとともに、摩耗量が多く耐摩耗性に劣るものであった。
【0106】
(表面粗度の測定)
Φ30mm単軸押し出し機(田辺プラスチック社製)を用い、前記混練物3を押し出し機の各シリンダー温度を330~370℃、Tダイ温度を350~380℃として成形し、厚み100μm±10、幅100mmのフィルムを作製した。得られたフィルムの表面粗度(Ra)は3.1だった。
表面粗度(Ra)の測定方法:超深度形状測定顕微鏡VK-8500、VK-8510(キーエンス社製)を用い、倍率を200倍、観察測定範囲を1117×1489.9(μm)とし、ここから任意に描いた1117μmの直線上におけるRaを2回測定し、その平均値を算出した。
【0107】
以上より、本発明の含フッ素共重合体組成物を用いたときには、外観上の表面荒れや層状剥離は観察されなかった。また、本発明の含フッ素共重合体組成物は、含フッ素エラストマーを含有しない熱可塑性耐熱樹脂と比較して、曲げ弾性率が低下したことにより柔軟性を有し、常温および低温における衝撃強度が向上したことにより耐衝撃性を有することが明らかとなった。さらに、誘電率も低く、耐摩耗性も良好であることから、電子基板等の低誘電率が必要とされる用途や、摺動部材など耐摩耗性が必要とされる用途にも好適である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の含フッ素共重合体組成物は、耐熱性や機械的物性を損なわずに、耐衝撃性と成形性に優れるため、摺動部材などこれらの特性が要求される用途に用いられる。
なお、2016年4月28日に出願された日本特許出願2016-91886号及び2016年9月2日に出願された日本特許出願2016-172023号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。