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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】回路一体型アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/08 20060101AFI20221122BHJP
   H01Q 23/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q23/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021554000
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042877
(87)【国際公開番号】W WO2021084705
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 豪
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】野坂 秀之
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04197544(US,A)
【文献】特開平05-048328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0254740(US,A1)
【文献】特開平11-317614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01Q 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路を構成する基板上に実装される回路一体型アンテナであって、
前記基板の表面に形成され、給電された電磁界を放射するパッチ導体と、
前記基板の表面に形成され、入力された電磁界を前記パッチ導体に給電する給電線路と、
前記パッチ導体と前記給電線路の接続部の両側に、前記パッチ導体の内側に向かうように形成された、前記給電線路に平行な2つのスリットと、
前記基板の表面に形成され、第1のギャップを挟んで前記パッチ導体と離間し、前記パッチ導体の外周を取り囲むように配置されたリング導体と
を備え
前記リング導体は、前記給電線路と接続するように配置されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【請求項2】
集積回路を構成する基板上に実装される回路一体型アンテナであって、
前記基板の表面に形成され、給電された電磁界を放射するパッチ導体と、
前記基板の表面に形成され、入力された電磁界を前記パッチ導体に給電する給電線路と、
前記パッチ導体と前記給電線路の接続部の両側に、前記パッチ導体の内側に向かうように形成された、前記給電線路に平行な2つのスリットと、
前記基板の表面に形成され、第1のギャップを挟んで前記パッチ導体と離間し、前記パッチ導体の外周を取り囲むように配置されたリング導体と
を備え、
前記リング導体は、一定幅で帯状に形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【請求項3】
請求項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
前記リング導体は、第2のギャップを挟んで前記給電線路と離間するように配置されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【請求項4】
請求項3に記載の回路一体型アンテナにおいて、
前記第1のギャップと前記第2のギャップは、前記2つのスリットのそれぞれの一端部と連接するよう形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【請求項5】
請求項1記載の回路一体型アンテナにおいて、
前記リング導体は、一定幅で帯状に形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
前記第1のギャップは、一定幅で環状に形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノリシックマイクロ波集積回路などの集積回路に実装される回路一体型アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの高機能化・大容量化のためには集積回路やRF回路の高周波化・小型化が必要である。特に、通信用途のRF回路では、ミリ波・テラヘルツ帯などの高周波帯で回路上の信号伝搬損失が大きい。このため、信号生成部/増幅部と伝送部分の回路を一体化させて設計することで、低損失な信号伝達と小型サイズを実現する手法が一般的である。このような手法を用いた集積回路は、通常、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC:Monolithic Microwave Integrated Circuit)と呼ばれている(非特許文献1)。上記のような高い周波数帯を搬送波として用いることで、帯域幅を稼ぎやすいメリットがある。
【0003】
また、パワーアンプ・ミキサ等の非線形性を含む電子デバイスの動作帯域は、中心周波数に対する比率で決定する性質を持つ。これにより、中心周波数が高い方が比帯域をとることができるため、帯域幅が広くなりベースバンド信号が持つ情報量を増やすことができる(非特許文献2)。また、無線伝送距離をより大きく稼ぐためには、高出力・低損失・良好なSN比が求められるため、伝送部分を担うアンテナにおいても同様に広帯域・高利得であることが望ましい。
【0004】
MMIC上に実装する回路一体型アンテナの場合、代表的な構造として、パッチアンテナ(Patch Antenna)、スロットアンテナ(Slot Antenna)などが挙げられる。これらの動作原理は、基本的にはダイポールアンテナと同様であり、構造上の境界条件から定まる電圧・電流の定在波分布を形成(共振)することで電界を放射するものである。構造がシンプルなため実装しやすい反面、アンテナとしての性能は汎用性が重視されたものであり、周波数帯・指向性・伝送距離など、特定の定まった条件下では非効率な部分が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ch. V. N. Rao、 D. K. Ghodgaonkar、 and N. Sharma、 "GaAs MMIC Low Noise Amplifier With Integrated High-Power Absorptive Receive Protection Switch"、 IEEE Microwave and Wireless Components Letters、 Vol. 28、 pp. 1128-1130、Dec. 2018
【文献】G. Hau、 T. B. Nishimura、 and N. Iwata、 "High Efficiency、 Wide Dynamic Range Variable Gain and Power Amplifier MMICs for Wide-Band CDMA Handsets"、 IEEE Microwave and Wireless Components Letters、 Vol. 11、 pp. 13-15、 Jan. 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来構造では、指向性が乏しく、入力から特定受信方向に対する放射電力の実質的な放射効率が悪いため、アンテナを含む無線伝送システムの伝送距離が短くなってしまう問題がある。また、従来構造では、単一周波数の共振系であることから、放射の周波数特性が単一周波数でピークを持つ特性であり、アンテナを含む無線伝送システムの帯域幅を稼ぎにくい問題がある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、指向性・利得を大幅に向上でき、広帯域な放射特性が得られる回路一体型アンテナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明にかかる回路一体型アンテナは、集積回路を構成する基板上に実装される回路一体型アンテナであり、前記基板の表面に形成され、給電された電磁界を放射するパッチ導体と、前記基板の表面に形成され、入力された電磁界を前記パッチ導体に給電する給電線路と、前記パッチ導体と前記給電線路の接続部の両側に、前記パッチ導体の内側に向かうように形成された、前記給電線路に平行な2つのスリットと、前記基板の表面に形成され、第1のギャップを挟んで前記パッチ導体と離間し、前記パッチ導体の外周を取り囲むように配置されたリング導体とを備え、前記リング導体は、前記給電線路と接続するように配置されている、または前記リング導体は、一定幅で帯状に形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パッチ導体とリング導体との間、すなわちギャップに電気容量を形成でき、給電線路とのインピーダンス整合をとる際に、リング導体やギャップのサイズを用いて調整することができる。このため、回路一体型アンテナの設計過程において、中心周波数、帯域幅、指向性・利得など、高い制御自由度を得ることができる。したがって、回路一体型アンテナの電界分布の広がりを抑えて安定させることで指向性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。
図2図2は、図1のI-I断面図である。
図3図3は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件を説明するための図である。
図4図4は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズを示す説明図である。
図5図5は、従来のパッチアンテナの構成を示す平面図である。
図6図6は、図5のII-II断面図である。
図7図7は、従来のパッチアンテナの解析条件を説明するための図である。
図8図8は、従来のパッチアンテナのアンテナサイズを示す説明図である。
図9A図9Aは、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果(電力比)を示す説明図である。
図9B図9Bは、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果(利得)を示す説明図である。
図10A図10Aは、従来のパッチアンテナの解析結果(電力比)を示す説明図である。
図10B図10Bは、従来のパッチアンテナの解析結果(利得)を示す説明図である。
図11図11は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
図12図12は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。
図13図13は、図12のIII-III断面図である。
図14図14は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件を説明するための図である。
図15図15は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズを示す説明図である。
図16A図16Aは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果(電力比)を示す説明図である。
図16B図16Bは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果(利得)を示す説明図である。
図17図17は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
図18図18は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界強度分布を示す説明図である。
図19図19は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界強度分布を示す説明図である。
図20A図20Aは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ(最適化)の解析結果(電力比)を示す説明図である。
図20B図20Bは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ(最適化)の解析結果(利得)を示す説明図である。
図21図21は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ(最適化)に関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。図2は、図1のI-I断面図である。
【0012】
本発明にかかる回路一体型アンテナ10は、モノリシックマイクロ波集積回路(以下、MMICという)などの集積回路を構成する誘電体の基板B上に、一般的な半導体プロセス技術により形成されたアンテナである。以下では、回路一体型アンテナ10をオンチップアンテナ(On Chip Antenna)ということもある。
【0013】
図1および図2に示すように、回路一体型アンテナ10は、主に、基板Bの表面Pに形成された、給電線路11、パッチ導体12、リング導体13、およびギャップ14(第1のギャップ)から構成されている。また、図2に示すように、基板Bの底面Rのうち、少なくとも、これら給電線路11、パッチ導体12、リング導体13と対向する領域には、グランドプレーンGNDが形成されている。
【0014】
給電線路11は、全体としてマイクロストリップラインからなり、外部から入力された高周波の電磁界をパッチ導体12およびリング導体13へ給電するための伝送線路である。以下では、説明を容易とするため、表面P上において、給電線路11が伸延する方向(紙面に向かって左右方向)を方向Yと呼び、方向Yと直行する方向(紙面に向かって上下方向)を方向Xという。
【0015】
パッチ導体12は、一辺12Aの中央に位置する接続部12Bに給電線路11が接続されて、給電線路11から給電された電磁界を放射するアンテナエレメント(放射素子)である。
【0016】
リング導体13は、パッチ導体12の外周をリング状に取り囲むように、ギャップ14を挟んでパッチ導体12と離間するよう配置された導体である。リング導体13は、一定幅からなる環状のギャップ14に相当する間隔だけパッチ導体12と離間して、一定幅で帯状に形成されて、その両端が接続部12Bの近傍で給電線路11と接続されている。
【0017】
給電線路11とのインピーダンス整合をとるために、パッチ導体12の接続部12Bの両側に、方向Yに沿って給電線路11に平行な2つのスリット15A,15Bを、パッチ導体12の端部から内側に向かうように形成している。ギャップ14の2つの端部のそれぞれは、スリット15A,15Bのそれぞれの一端部と連接するよう形成されている。スリット15A,15Bは、方向Yにおけるパッチ導体12の幅より短い長さを有している。
【0018】
以下では、給電線路11が直線状に形成されている場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、途中に屈曲部や湾曲部、さらにはスタブが設けられていてもよい。また、パッチ導体12やリング導体13の外側形状が、略正方形をなす場合を例として説明するがこれに限定されるものではなく、略矩形形状や略円形形状など、他の形状であってもよい。また、リング導体13の内側形状は、略正方形状をなす場合を例として説明するがこれに限定されるものではなく、ギャップ14の幅が一定となるようパッチ導体12の外側形状に合わせた形状としてもよい。なお、ギャップ14の幅は、全周(全長)にわたって一定でなくてもよく、各部の幅を変更することにより、パッチ導体12の電界強度分布を調整してもよい。
【0019】
また、基板BとしてInp(インジュウムリン)などの化合物半導体からなる基板を用いる場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、高周波回路に用いられる一般的な誘電体基板を用いてもよい。また、給電線路11、パッチ導体12、リング導体13などの薄膜導体として金(Au)の薄膜を用いる場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、高周波回路に用いられる一般的な金属の薄膜導体を用いてもよい。
【0020】
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、図1に示すように、給電線路11の接続部におけるスリット15A,15Bに加えて、パッチ導体12の外周を取り囲むように、リング導体13を配置したものである。これにより、パッチ導体12とリング導体13との間、すなわちギャップ14に電気容量を形成でき、給電線路11とのインピーダンス整合をとる際に、スリット15A,15Bのサイズに加えて、リング導体13やギャップ14のサイズを用いて調整することができる。したがって、回路一体型アンテナ10の設計過程において、中心周波数、帯域幅、指向性・利得など、高い制御自由度を得ることができ、結果として、回路一体型アンテナ10の電界分布の広がりを抑えて安定させることで指向性を向上させることが可能となる。
【0021】
[第1の実施の形態にかかる動作解析]
次に、図3図11を参照して、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の動作として、シミュレーションによる解析結果について説明する。以下では、比較のため、従来のパッチアンテナに関する解析結果についても合わせて説明する。
【0022】
図3は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件を説明するための図である。図4は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズを示す説明図である。図5は、従来のパッチアンテナの構成を示す平面図である。図6は、図5のII-II断面図である。図7は、従来のパッチアンテナの解析条件を説明するための図である。図8は、従来のパッチアンテナのアンテナサイズを示す説明図である。図9は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果を示す説明図である。図10は、従来のパッチアンテナの解析結果を示す説明図である。図11は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【0023】
図3に示す回路一体型アンテナ10に関する解析条件については、周波数帯域を300-400GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、給電線路11、パッチ導体12、リング導体13の薄膜導体として膜厚が3μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが55μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。
【0024】
また、図4に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10に関するアンテナサイズについては、パッチ導体12の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを220μmとし、給電線路11の幅MSL_wを36μmとし、リング導体13の縦横の幅すなわちリングサイズRingを282μmとし、リング導体13の帯幅RingWidthを20μmとし、ギャップ14の幅Intを11μmとし、スリット15A,15Bの幅Slit_xを10μmとし、スリット15A,15Bの長さSlit_yを74μmとした。
【0025】
一方、比較対象として用いた従来のパッチアンテナ50は、図5および図6に示すように、基板Bの表面Pに形成された、給電線路51、パッチ導体52、およびスタブ53から構成されている。パッチアンテナ50は、アンテナエレメント(放射素子)であるパッチ導体52に対して、電磁界を供給する給電線路51の途中に、給電線路51から方向Xに沿って突出するようにスタブ53が設けられた、一般的なパッチアンテナである。また、基板Bの底面Rには、グランドプレーンGNDが形成されている。
【0026】
図7に示す従来のパッチアンテナ50に関する解析条件については、周波数帯域を250-350GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、給電線路51、パッチ導体52、スタブ53の薄膜導体として膜厚が3μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが55μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。
【0027】
また、図8に示すように、従来のパッチアンテナ50に関するアンテナサイズについては、パッチ導体52の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを150μmとし、給電線路11およびスタブ53の幅MSL_wを36μmとし、ポートPTからスタブ53までの距離Stab_shiftを50μmとし、給電線路11から突出したスタブ53の長さStab_xを97μmとした。
【0028】
図9A、Bは、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果を示したものであり、342GHzにおけるアンテナパラメータは以下の通りである。
【0029】
指向性:5.65 dBi
利得:4.97 dBi
放射効率:87.9 %
全体効率:85.8 %
【0030】
図10A、Bは、従来のパッチアンテナ50の解析結果を示したものであり、288GHzにおけるアンテナパラメータは以下の通りである。
【0031】
指向性:2.74 dBi
利得:2.24 dBi
放射効率:81.6 %
全体効率:38.3 %
【0032】
従来のパッチアンテナ50は、放射電解パターンの広がりが大きく、最大利得も2.24dBi程度であるが、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、放射電解パターンの広がりは少なく、上方向へ効率よく放射されていることがわかる。また、最大利得も4.97dBiであり、従来のパッチアンテナ50に比べて2倍以上であり、大幅に向上していることが分かる。
【0033】
図11には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果として、給電線路11の入力端(ポート)における入力反射係数S11の周波数特性が示されている。本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、図11に示すように、中心周波数は、主にパッチ導体12のパッチサイズPatを変えることで調整可能であることが分かる。例えば、パッチサイズPatを350μmとした場合には中心周波数が約340GHzとなり、パッチサイズPatを310μmとした場合には中心周波数が約360GHzとなる。
【0034】
また、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、図11に示すように、リング導体13のリングサイズRingWidthを小さくすることで放射時の帯域幅を広げられることが分かる。この傾向は、パッチ導体12とリング導体13との間幅すなわちギャップ14の幅Intを一定にした状態でも確認されており、ギャップ14の幅Intを一定にした状態を保つことで、給電時の整合条件が大きくずれない状態を保持したまま帯域幅を変えることができる。
【0035】
また、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、図11に示すように、リング導体13のリングサイズRingWidthを変えることで、リング導体13側の共振モードを変化させることができるため、共振点を複数重ね合わせることで減衰特性(≒放射特性)の帯域幅を広帯域化させることができる。例えば、入力反射係数S11のー10.0dBにおける帯域幅は、リングサイズRingWidthを54μmとした場合は約13GHzであるが、リングサイズRingWidthを34μmとした場合は約29GHzまで広がっていることが分かる。
【0036】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、給電線路11の接続部におけるスリット15A,15Bに加えて、パッチ導体12の外周を取り囲むように、ギャップ14を挟んでパッチ導体12と離間するようリング導体13を配置したものである。
これにより、パッチ導体12とリング導体13との間、すなわちギャップ14に電気容量を形成でき、給電線路11とのインピーダンス整合をとる際に、スリット15A,15Bのサイズに加えて、リング導体13やギャップ14のサイズを用いて調整することができる。このため、回路一体型アンテナ10の設計過程において、中心周波数、帯域幅、指向性・利得など、高い制御自由度を得ることができる。
【0037】
したがって、回路一体型アンテナ10の電界分布の広がりを抑えて安定させることで指向性を向上させることが可能となる。これにより、オンチップアンテナの指向性・利得を大幅に向上させることができるため、より長距離で無線通信を行うことが可能になる。また広帯域な放射特性が得られるため、伝送可能な情報量が増加することでシステム全体を通じたミリ波帯/テラヘルツ帯の無線通信の大容量化が期待できる。一方、チップ設計の観点では、設計自由度が高いためアンテナの構成やサイズなどの基本設計要素を変更することなく、放射特性の中心周波数/帯域幅を変えることができる。また、スタブ等を用いることなくパラメータ最適化のみで容易にインピーダンスマッチングをとることができる。
【0038】
また、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10については、単体設計の観点から説明したが、これに限定されるものではなく、回路一体型アンテナ10を複数並べてアレー化することも可能である。その際に、指向性のよいアンテナ素子の方が素子間における電磁界結合等の問題が軽減できるため、従来のパッチアンテナよりも素子間隔を小さくすることができ、小型化およびビーム制御性の向上が期待できる。
【0039】
[第2の実施の形態]
次に、図12および図13を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10について説明する。図12は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。図13は、図12のIII-III断面図である。
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、図12および図13に示すように、リング導体13を給電線路11から電気的に分離して、無給電状態とした場合について説明する。
【0040】
すなわち、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、図12に示すように、リング導体13は、一定幅からなる環状のギャップ14に相当する間隔だけパッチ導体12と離間して帯状に形成されて、その両端がギャップ16A,16B(第2のギャップ)により接続部12Bの近傍で給電線路11と離間して配置されている。これにより、接続部12B付近の電界強度を強めることができ、パッチ導体12の上下左右の4面それぞれに集中する電界分布を均等にすることで指向性をより向上・安定させることができる。尚、図12および図13では、ギャップ14とギャップ16A,16Bは、スリット15A,15Bのそれぞれの一端部と連接するよう形成されているが、ギャップ16A,16Bは、スリット15A,15Bのそれぞれの一端部に連接されていなくても、接続部12B付近の電界強度を強めることができる。
【0041】
[第2の実施の形態にかかる解析結果]
次に、図14図17を参照して、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10と従来のパッチアンテナに関する、シミュレーションによる解析結果について説明する。図14は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件を説明するための図である。図15は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズを示す説明図である。図16A、Bは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果を示す説明図である。図17は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【0042】
図14に示す回路一体型アンテナ10に関する解析条件については、周波数帯域を250-350GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、給電線路11、パッチ導体12、リング導体13の薄膜導体として膜厚が3μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが55μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。
【0043】
また、図15に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10に関するアンテナサイズについては、パッチ導体12の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを250μmとし、給電線路11の幅MSL_wを36μmとし、リング導体13の縦横の幅すなわちリングサイズRingを410μmとし、リング導体13の帯幅RingWidthを20μmとし、ギャップ14の幅Intを11μmとし、スリット15A,15Bの幅Slit_xを10μmとし、スリット15A,15Bの長さSlit_yを74μmとし、ギャップ16A,16Bの幅Ring_intを10μmとした。
【0044】
図16A、Bは、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果であり、300GHzにおけるアンテナパラメータは以下の通りである。
【0045】
指向性:5.9 dBi
利得:5.07 dBi
放射効率:85.9 %
全体効率:85.1 %
【0046】
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、図9A、Bと同様に、放射電解パターンの広がりは少なく抑えられており、上方向へ効率よく放射されていることがわかる。特に、中心周波数300GHzにおける指向性が5.90dBiであり、図10A、Bの2.74dBiの2倍程度の高い指向性が得られている。また、最大利得も5.07dBiであり、図9A、Bと同様に、従来のパッチアンテナ50に比べて2倍以上であり、大幅に向上していることが分かる。
【0047】
図17には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果として、給電線路11の入力端(ポート)における入力反射係数S11の周波数特性が示されている。本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、図17に示すように、中心周波数は、主にパッチ導体12のパッチサイズPatを250μmとすることにより中心周波数が約300GHzに調整されている。また、入力反射係数S11のー10.0dBにおける帯域幅は約8GHzであり、中心周波数300GHzを中心として、左右にほぼ対称となるよう調整されていることが分かる。
【0048】
図18は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界強度分布を示す説明図である。図19は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界強度分布を示す説明図である。
図1で用いたアンテナ面内の電界強度分布は、図19に示すように、給電線路11のマイクロストリップライン上の電界分布が弱くスリット15A,15B間の線路における電界分布のみがやや弱い状態である。
【0049】
一方、図18に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10ではスリット15A,15B及びギャップ16A、16B間の線路に電界強度が集中しており、パッチの対向する2辺とその周辺部の電界強度分布がそれぞれ対称性を持っていることがわかる。アンテナ面内の電界分布を給電線路方向とそれに垂直な方向に対して対称的に形成することで指向性が改善されていると考えられる。
【0050】
また、第1の実施の形態と同様に、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10において、中心周波数や帯域幅は、主にパッチ導体12のパッチサイズPatやリング導体13のリングサイズRingWidthを変えることで調整可能である。具体的には、パッチサイズPatを大きくすれば中心周波数は低くなり、パッチサイズPatを小さくすれば中心周波数は高くなる。また、リングサイズRingWidthを大きくすれば帯域幅は狭くなり、リングサイズRingWidthを小さくすれば帯域幅は広くなる。
【0051】
これらパッチサイズPatやリング導体13のリングサイズRingWidthを変えることで、中心周波数や帯域幅を最適化することができる。図20A、Bは、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ(最適化)の解析結果を示す説明図である。図21は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ(最適化)に関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。
図20A、Bおよび図21では、最適化例として、図14および図15と比較して、パッチサイズPatを250μmから270に変更して中心周波数を低くし、リングサイズRingを410μmから405に変更して帯域幅を広くした場合が示されている。周波数305GHzにおけるアンテナパラメータは以下の通りである。
【0052】
指向性:5.65 dBi
利得:4.97 dBi
放射効率:75.5 %
全体効率:69.6 %
【0053】
この最適化により、共振点同士が離れすぎない程度に、中心周波数および帯域幅が最大となるようにして放射特性を広帯域化させることが可能となる。これにより、図17で示した特性では帯域幅が8GHzであったのに対して、図21では最適化により15GHzに改善されており、一般的な共振系アンテナの放射特性と比べて帯域幅を2倍近く拡張できることがわかる。また、図20によれば、広帯域化した場合でも放射特性は、図16と同様に、良好な状態が保たれていることがわかる。
【0054】
また、リング導体13と給電線路11との間隔すなわちギャップ16A,16Bの幅を変更することで、放射特性の中心周波数を調整することができる。なお、ギャップ16A,16Bの幅を変更した場合、この付近に集中する電界強度も変化するため、指向性との兼ね合いを考慮する必要がある。
【0055】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、リング導体13を、給電線路11およびパッチ導体12から電気的に分離して配置したものである。
これにより、接続部12B付近の電界強度を強めることができ、パッチ導体12の上下左右の4面それぞれに集中する電界分布を均等にすることで指向性をより向上・安定させることができる。
【0056】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…回路一体型アンテナ、11…給電線路、12…パッチ導体、12A…一辺、12B…接続部、13…リング導体、14…ギャップ(第1のギャップ)、15A,15B…スリット、16A,16B…ギャップ(第2のギャップ)、B…基板、P…表面、R…底面、GND…グランドプレーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21