(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20221122BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20221122BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K9/02
C08K3/40
(21)【出願番号】P 2022500689
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029054
(87)【国際公開番号】W WO2022059374
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020154550
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇倫
(72)【発明者】
【氏名】神田 智道
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-324804(JP,A)
【文献】特開2005-255517(JP,A)
【文献】特開2009-167359(JP,A)
【文献】特開平11-172105(JP,A)
【文献】特開平10-245305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合し、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
抗ウイルス剤(B)が金属イオン含有リン酸塩及
び硼酸塩ガラスであること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、抗ウイルス剤(B)が2~44質量部の範囲であること、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(V6)が10Pa・s以上の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂(A)を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10
6
Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。)
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び抗ウイルス剤(B)を乾式混合する工程を有する、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記抗ウイルス剤(B)が、銀イオン含有リン酸塩及
び硼酸塩ガラスである請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項記載の製造方法でポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造する工程、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
抗ウイルス剤(B)が金属イオン含有リン酸塩及
び硼酸塩ガラスであること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、抗ウイルス剤(B)が2~44質量部の範囲であること、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(V6)が10Pa・s以上の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂(A)を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10
6
Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。)
【請求項6】
前記抗ウイルス剤(B)が、銀イオン含有リン酸塩及
び硼酸塩ガラスである請求項
5記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
溶融混練物である請求項5
又は6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5~
7の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項9】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品を抗ウイルス性部材として使用する方法であって、
抗ウイルス剤(B)が金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスであること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、抗ウイルス剤(B)が2~44質量部の範囲であること、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(V6)が10Pa・s以上の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品を抗ウイルス性部材として使用する方法。
(ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂(A)を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10
6
Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS樹脂」)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、自動車部品、電気電子部品、流体配管部品用途等に幅広く利用されている。かかる利用範囲の拡大に伴って、高温多湿下のような比較的に菌類の発生しやすい環境下でも使用されるようになってきた。
【0003】
従来から、樹脂材料にあらかじめ抗菌剤を混合し、これを成形して成形品を作る方法が検討されている。例えば、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール、2,3,5,6-チトクロロ-4-(メチルスルホニル)-ピリジン、10,10´-オキシビスフェノキシアルシン、トリメトキシシリル-プロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛等の有機系の抗菌剤が、一般的に市販され使用されている。しかしながら、PPS樹脂は成形加工温度が300~350℃と高いことから、前述の多くの公知の抗菌剤は成形加工時に分解、変質して、その効果を発揮し得ないという欠点を有していた。
【0004】
かかる欠点を排除するために、無機系抗菌剤としてリン酸塩粒子を配合するPPS樹脂組成物(特許文献1参照)や、金属イオン含有リン酸カルシウム複塩を配合したPPS樹脂組成物が開示されている(特許文献2参照)。また、PPS樹脂と金属イオン含有ホウケイ酸ガラスを含むPPS樹脂組成物が、優れた抗菌性及び防かび性を有し、かつ長期間に亘って該性質を持続することが開示されている(特許文献3参照)。
【0005】
さらに、近年は、抗菌性だけでなく、季節性インフルエンザ、新型インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、新型コロナウイルス(COVID-19)など、ウイルス感染対策として抗ウイルス性(ウイルス不活化性あるいは抗ウイルス活性)に対する関心が高まっており、従来の抗菌性とは別の新しい高付加価値として抗ウイルス性を有する製品を生み出す動きが現れている。
【0006】
しかしながら、従来の無機系抗菌剤を配合したPAS樹脂組成物およびその成形品の、抗ウイルス性については検討が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平03-043457号公報
【文献】特開平11-172105号公報
【文献】特開平10-324804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、抗菌性および抗ウイルス性を有し、かつ機械強度、特にウェルド強度に優れたPAS樹脂組成物、当該樹脂組成物の成形品およびそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、下記所定の抗ウイルス剤を所定量で配合することにより、PAS樹脂成形品の本来有する機械強度、特にウェルド強度を維持しながら、優れた抗菌性および抗ウイルス性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、PAS樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合してなるPAS樹脂組成物であって、
抗ウイルス剤(B)が、金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスである、ことを特徴とするPAS樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記記載のPAS樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【0012】
また、本発明は、PAS樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、
抗ウイルス剤(B)が、金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスである、ことを特徴とするPAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、前記記載の製造方法でPAS樹脂組成物を製造する工程、得られたPAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法に関する。
さらに本発明は、前記の成形品を抗ウイルス性部材として使用する方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗菌性および抗ウイルス性を有し、かつ機械強度、特にウェルド強度に優れたPAS樹脂組成物、当該樹脂組成物の成形品およびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、
抗ウイルス剤(B)が、金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスである、ことを特徴とする。以下、説明する。
【0016】
本発明のPAS樹脂組成物は、必須成分としてPAS樹脂(A)を配合してなる。PAS樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0017】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0018】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記PAS樹脂(A)は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0022】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂(A)中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0023】
また、前記PAS樹脂(A)は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、PAS樹脂(A)の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0025】
(溶融粘度)
本発明に用いるPAS樹脂(A)の溶融粘度は特に限定されないが、流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは10Pa・s以上の範囲であり、そして、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは300Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂(A)を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0026】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるPAS樹脂(A)の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型PAS樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなPAS樹脂(A)は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0027】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0028】
(製造方法)
前記PAS樹脂(A)の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂(A)を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0029】
重合工程により得られたPAS樹脂(A)を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0030】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂(A)の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0031】
本発明のPAS樹脂組成物は、抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合してなり、当該抗ウイルス剤(B)は、リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスを担体とした金属イオン含む抗ウイルス剤、つまり、金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスである。
【0032】
本発明に用いる抗ウイルス剤(B)が含有する金属イオンは銀イオン、亜鉛イオン、銅イオンのいずれでもよいが、好ましくは銀イオンを用いるのが良い。これらの金属イオンは、ガラス中に0.01~5質量%の割合であることが好ましい。
ガラス成分として、P2O5成分が40~75モル%を含むものであることが好ましい。また、ガラス成分として、B2O3成分が1~10モル%を含むものであることが好ましい。ガラス成分としてP2O5成分およびB2O3成分を含むものであることが特に好ましい。たとえば、銀イオンをAg2O成分としてガラス中に0.1ないし5重量%含有したB2O3-P2O5系ガラスが特に好ましいものとして挙げられる。
【0033】
なお、残部は、Na2O成分、K2O成分、SiO2成分、MgO成分、CaO成分、ZnO成分およびAl2O3成分からなる群から選ばれる少なうとも1種であってよい。より具体的には、残部として、例えば、ZnO成分およびAl2O3成分などであってもよく、また、CaO成分、MgO成分、Na2O成分、K2O成分、SiO2成分及びAl2O3成分などであってもよい。
当該残部において、Na2O成分、K2O成分の割合を増やすと金属イオンの水への溶出が増える傾向にあり、一方、SiO2成分、MgO成分、CaO成分、ZnO成分およびAl2O3成分の割合を増やすと該溶出が減る傾向にあることから、水への溶出度を考慮して適宜調整すればよい。例えば、金属イオンが銀イオンの場合には、浸漬時間(1h)あたりの銀イオンの累積溶出量が0.00001~0.001(mg/ガラス1g)の範囲となるよう調整することができる。
本発明に用いる金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスの製造方法は特に限定されないが、金属イオンと、リン酸塩及び/又は硼酸塩またはそれらの酸化物とを必須成分とし、さらに、必要に応じて、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属塩、マグネシウムやカルシウムといったアルカリ土類金属塩、ケイ酸塩、亜鉛塩、又はそれらの酸化物を配合して混合し、800~1500℃にて溶融し、冷却後、得られたガラス状物を粉砕・分級することで得られる。
【0034】
本発明に用いる抗ウイルス剤(B)の最大粒子径については、特に限定されないが、機械強度、流動性、表面外観性に優れる観点から、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることがとくに好ましい。なお、ここでいう最大粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機(Microtrac MT3300EXII)を用いて常法に従って測定した累積粒径分布曲線の98%における粒径(D98)である。
【0035】
このような抗ウイルス剤(B)として、例えば「イオンピュア P」(石塚硝子株式会社)などが挙げられる。
【0036】
上記抗ウイルス剤(B)の配合量は、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは4量部以上の範囲であり、そして、好ましくは44質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下の範囲である。上記抗ウイルス剤(B)の配合量がこれらの範囲にあることにより、菌およびウイルスの発生を抑制する効果並びに成形性及び機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0037】
本発明のPAS樹脂組成物は、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。本発明で用いるシランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、成形性および機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0038】
本発明のPAS樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを任意成分として配合することができる。当該熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーの配合量は、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、成形性および機械的強度、特に、耐衝撃性に優れた成形品が得られる。
【0039】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、または2以上のα-オレフィンの共重合体、1または2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種または2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明には、繊維状充填剤を任意成分として配合することができる。そのような繊維充填剤として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられ、1種又は2種以上を配合することができる。
【0041】
繊維状充填剤の配合量は、任意成分であるが、配合する場合には、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下の範囲である。繊維状充填剤の配合量がこれらの範囲にあることにより、成形品の機械的強度保持の点でより優れた効果が得られる。
【0042】
繊維状充填材は、表面処理剤や集束剤で加工されたものを用いることもできる。これによりPAS樹脂(A)との接着力を向上させることができることから好ましい。前記表面処理剤又は集束剤としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基等の官能基を有するシラン化合物、チタネート化合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂等からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー等が挙げられる。
【0043】
本発明のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、必須成分である上記抗ウイルス剤(B)や、任意成分である繊維状充填剤以外の他の充填剤(以下、「他の充填剤」とも称する)を、さらに任意成分として配合することができる。これら他の充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、粒状や板状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0044】
本発明において他の充填剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。他の充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0045】
更に、本発明のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂(A)の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0046】
また本発明のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0047】
本発明のPAS樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂(A)および抗ウイルス剤(B)を必須成分として配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、
抗ウイルス剤(B)が、金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスである、ことを特徴とする。以下、詳述する。
【0048】
本発明のPAS樹脂組成物の製造方法は、上記必須成分を配合し、PAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する。より詳しくは、本発明のPAS樹脂組成物は、各必須成分、および、必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本発明に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必須成分をタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が特に好ましい製造方法として挙げられる。
【0049】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0050】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、本発明で使用する金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスは、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することができる。一方、前記成分のうち、必要に応じて繊維状充填剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。通常、ガラス成分を含む充填剤はサイドフィーダーから該押出機内に投入するが、本発明で使用する金属イオン含有リン酸塩及び/又は硼酸塩ガラスは、事前に他の必須成分と乾式混合してからトップフィーダより該押出機内へ投入することが分散性、ひいては、機械的強度を向上させ、かつ、抗菌性および抗ウィルス性により優れる観点から好ましい。サイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率(以下、「S/T比」とも称する)が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0051】
このように溶融混練して得られる本発明に係るPAS樹脂組成物は、前記必須成分と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物である。このため、本発明のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。本発明に係るPAS樹脂組成物は、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0052】
本発明の成形品はPAS樹脂組成物を溶融成形してなる。また、本発明の成形品の製造方法は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。このため、本発明の成形品は、PAS樹脂(A)が連続相を形成し、PAS樹脂(A)を除く他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。PAS樹脂組成物が、かかるモルフォロジーを有することにより、機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0053】
本発明のPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0054】
本発明のPAS樹脂組成物の成形品の製品としては、例えばパイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類、(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品が挙げられる。さらに、例えば、自動車部品等の内燃機関に付属する、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ等の部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。また、本発明の成形品は上記に限定されるものではなく、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは温度センサなどの家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却流体センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0056】
<実施例1~8及び比較例1~4>
表1に記載する組成成分および配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm。設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ガラス繊維はサイドフィーダー(S/T比0.5)から投入し、それ以外の材料はタンブラーで予め均一に混合しトップフィーダーから投入した。得られた樹脂組成物のペレットを140℃ギヤオーブンで2時間乾燥した後、射出成形することで各種試験片を作製し、下記の試験を行った。
【0057】
<実施例9>
表1に記載する組成成分および配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm。設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ガラス繊維及び抗ウイルス剤はサイドフィーダー(S/T比0.5)から投入し、それ以外の材料はタンブラーで予め均一に混合しトップフィーダーから投入した。得られた樹脂組成物のペレットを140℃ギヤオーブンで2時間乾燥した後、射出成形することで各種試験片を作製し、下記の試験を行った。
【0058】
<抗菌活性試験>JIS Z 2801準拠
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調した成形用金型を用いて射出成形を行い、50mm×50mm×厚さ2mmのシート状成形品を得た。
滅菌済シャーレに上記のシート状成形品を入れ、この成形品の上に濃度4.4×105cfu/mlの菌液を0.4ml接種した。これに、40mm×40mmに切断したポリプロピレン製フィルムにより被覆した後、菌液がフィルム全体に広がるように軽く押さえつけシャーレの蓋をかぶせた。これらのシャーレを35℃、相対湿度90%以上で0、24時間保管した後、SCDLP培地10mlで試験片から試験菌を洗い流し、寒天平板培養法により生菌数を測定した。抗菌活性値はR=Ut-At(Ut:無加工試験片の反応後の単位面積あたりの生菌数の対数値、At:加工試験片の反応後の単位面積あたりの生菌数の対数値)により算出し、R値が1.0未満を「×」、1.0以上2.0未満を「△」、2.0以上を「〇」とした。試験菌は黄色ブドウ球菌(NBRC12732)および大腸菌(NBRC3972)を使用した。
【0059】
<抗ウイルス活性試験>ISO 21702準拠
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調した成形用金型を用いて射出成形を行い、50mm×50mm×厚さ2mmのシート状成形品を得た。
滅菌済シャーレに上記のシート状成形品を入れ、この成形品の上にウイルス感染価4×107PFU/mlの試験ウイルス懸濁液を0.4ml接種した。これを、40mm×40mmに切断したポリプロピレン製フィルムにより被覆した後、ウイルス懸濁液がフィルム全体に広がるように軽く押さえつけシャーレの蓋をかぶせた。これらのシャーレを25℃で24時間保管した後、SCDLP培地10mlで試験片からウイルスを洗い流し、プラーク測定法により抗ウイルス感染価を測定した。抗ウイルス活性値は、Mv=Ig(Vb)-Ig(Vc)(Ig(Vb):無加工試験片の反応後のウイルス感染価の対数値、Ig(Vc):加工試験片の反応後のウイルス感染価の対数値)により算出し、Mv値が1.0未満を「×」、1.0以上2.0未満を「△」、2.0以上を「〇」とした。試験はA型インフルエンザウイルス(ATCCC CL-34)を使用した。
【0060】
<引張強度>
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調したISO Type-Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO Type-Aダンベル片を得た。なお、ウェルド部を含まない試験片となるよう1点ゲートから樹脂を射出して作製したものとした。得られたダンベル片をISO 527-1および2に準拠した測定方法で引張強度を測定した。
【0061】
<ウェルド引張強度>
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調したISO Type-Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO Type-Aダンベル片を得た。なお、成形品中央部にウェルド部を含む試験片となるよう2点ゲートから樹脂を射出して作製したものとした。得られたダンベル片をISO 527-1および2に準拠した測定方法で引張強度を測定した。
【0062】
【0063】
【0064】
なお、表1、2中の配合成分の配合比率は質量部を表し、下記のものを用いた。
【0065】
・PAS樹脂成分
PPS樹脂
A-1: 溶融粘度175Pa・s、非ニュートン指数1.02
A-2: 溶融粘度100Pa・s、非ニュートン指数1.07
A-3: 溶融粘度15Pa・s、非ニュートン指数1.06
a-4: 溶融粘度6Pa・s、非ニュートン指数1.10
【0066】
(製造例1) PPS樹脂(A-1)の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、「p-DCB」と略記する。)33.075質量部(225モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0067】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンタで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0068】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3リットル部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(A-1)を得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は175Pa・sであった。非ニュートン指数は1.02であった。
【0069】
(製造例2) PPS樹脂(A-2)の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、「p-DCB」と略記する。)33.222質量部(226モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0070】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンタで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0071】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3リットル部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(A-2)を得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は100Pa・sであった。非ニュートン指数は1.02であった。
【0072】
(製造例3) PPS樹脂(A-3)の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp-ジクロロベンゼン35.868質量部(244モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0073】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンタで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0074】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3リットル部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(A3)を得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は15Pa・sであった。非ニュートン指数は1.06であった。
【0075】
(製造例4) PPS樹脂(a-4)の製造
圧力計、温度計、コンデンサーを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3質量%Na2S)19.413質量部と、NMP45.000質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644質量部を留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン22.05質量部及びNMP18.000質量部を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。
【0076】
反応後、冷却し、冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3リットル部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を7回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥しして白色の粉末状のPPS樹脂(a-4)を得た。得られたポリマーの溶融粘度は6Pa・s、非ニュートン指数が1.10であった。
【0077】
・抗ウイルス剤
B-1:石塚硝子株式会社製「イオンピュアP」最大粒子径40μm、銀イオン含有リン酸-硼酸系ガラス
B-2:日本板硝子株式会社製「アモルクリンP-05」平均粒子径5μm、銀イオン含有硼酸系ガラス
【0078】
・炭酸カルシウム
C-1:丸尾カルシウム株式会社製「炭酸カルシウム」
【0079】
・熱可塑性エラストマー
D-1:住友化学株式会社製「ボンドファースト7L」
【0080】
・ガラス繊維
E-1:日本電気硝子株式会社製「T-717H」、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm