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特許7180825アルミニウム顔料組成物およびアルミニウムペースト、アルミニウムスラリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】アルミニウム顔料組成物およびアルミニウムペースト、アルミニウムスラリー
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/64 20060101AFI20221122BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221122BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20221122BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20221122BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20221122BHJP
【FI】
C09C1/64
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/62
C09D11/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022552595
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2022021488
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021093581
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝典
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050893(WO,A1)
【文献】特開平10-120936(JP,A)
【文献】特表2013-518948(JP,A)
【文献】特開2005-314632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C,C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とアルミニウム顔料を含むアルミニウム顔料組成物であって、前記ジカルボン酸が二つのカルボキシル基間の炭素鎖が2~4であるジカルボン酸であり、当該ジカルボン酸がアルミニウム顔料に対して1~7wt%含有するアルミニウム顔料組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸が、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ジヒドロムコン酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム顔料組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のアルミニウム顔料組成物を含有するアルミニウムペースト、アルミニウムスラリー。
【請求項4】
請求項1または2記載のアルミニウム顔料組成物を含有することを特徴とする塗料またはインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム顔料組成物および該アルミニウム顔料組成物を含有するアルミニウムペースト、アルミニウムスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主にメタリック調の質感を付与する目的で、扁平形状(鱗片形状ともいう)を有するアルミニウム・銅・ニッケル・チタンなどの金属粉や、マイカ等の金属酸化物粒子等に代表されるメタリック顔料が配合されたメタリックインキ、メタリック塗料が使用されている。何らの表面処理も施されていないアルミニウム顔料は、金属感や意匠性が高い反面、塗料や印刷インキにした場合、塗膜中で樹脂や基材との密着性が低く、例えば印刷工程の巻取時に非印刷面にブロッキングを起こしたり、ラミネート工程でラミ強度が低下する等の欠点を有している。これらの問題を解決するため、アルミニウム顔料の密着性の改善を図る方法として、アクリル樹脂等で表面を被覆したアルミニウム顔料が提案されている。しかしながら、樹脂被覆されたアルミニウム顔料は樹脂層での散乱による輝度低下を招き、近年の高輝度化の要求特性を満たせていない状況である。
【0003】
アルミニウム顔料の密着性の改善を図る方法として、アルミニウム顔料に所定の表面処理を施す方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、アルミニウム顔料であるフレーク状アルミニウム粉末を有機溶媒中に分散し、はじめにラジカル重合性不飽和カルボン酸等を吸着せしめ、次いでラジカル重合性二重結合を3個以上有する単量体から生成される重合体によって表面被覆する方法が提案されている。しかしこの方法は、密着性は改善されるもののメタリック塗膜の耐薬品性の実現を本来の主な目的としているため、被覆させる単量体を相当量添加することが必要となり、このとき同時に金属感の低下をもたらし、意匠性が著しく低下してしまうという問題点を有している。
【0005】
また特許文献2では、フレーク状アルミニウム粉末100重量部に対して0.1~2.1重量部のアクリル樹脂を表面に形成させたアルミニウム顔料について記載があり、密着性と印刷インキでの輝度を両立させるために、低樹脂コート量を意識した記載となっている。
【0006】
さらに、引用文献3では、優れた初期密着性、意匠性、及び樹脂との密着性を有し、かつ下地に対する隠ぺい性においても優れたメタリック塗膜を形成可能な樹脂付着アルミニウム顔料を提供している。
しかし、密着性に関する問題を解決するには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平1-49746号公報
【文献】特開2002-226733号公報
【文献】特開2017-57309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の技術では、高意匠性をもたらす輝度や、昨今のインキ中の樹脂または基材との密着レベルの要求特性を満たすには不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のジカルボン酸をアルミニウム顔料に処理をすることで、輝度を低下させることなく、インキ、塗料とした時に基材との密着性が非常に優れることを見出し、本発明のアルミニウム顔料組成物、該顔料組成物を含有するアルミニウムペースト、アルミニウムスラリーを完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ジカルボン酸とアルミニウム顔料を含むアルミニウム顔料組成物であって、前記ジカルボン酸が二つのカルボキシル基間の炭素鎖が2~4であるジカルボン酸であり、当該ジカルボン酸がアルミニウム顔料に対して1~7wt%含有するアルミニウム顔料組成物。
(2)前記ジカルボン酸が、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ジヒドロムコン酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)記載のアルミニウム顔料組成物。
(3)(1)または(2)記載のアルミニウム顔料組成物を含有するアルミニウムペースト、アルミニウムスラリー。
(4)(1)~(3)いずれか一記載のアルミニウム顔料組成物、アルミニウムペースト、アルミニウムスラリーを含有することを特徴とする塗料またはインキ。
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
当該アルミニウム顔料組成物を用いて塗膜を形成した際に、密着性が向上し所謂「凝集剥離」やインキ層と基材との剥離を起こしにくくなり、剥離性が少ないアルミニウム顔料組成物、および該アルミニウム顔料組成物を用いて形成される塗料またはインクを提供することができる。
【0012】
ここで「凝集剥離」とは、基材とインキ層の界面ではなくインキ層内で起こる剥離のことを指す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ジカルボン酸>
本実施形態のアルミニウム顔料組成物で用いられるジカルボン酸は、二つのカルボキシル基間の炭素鎖が2~4であるジカルボン酸が好適に使用できる。
【0014】
本実施形態では、特定のジカルボン酸を処理することで、密着性が向上する。カルボキシ基を二つ有することから、一方のカルボキシ基はアルミニウム顔料表面と水素結合を形成し、もう一方のカルボキシ基はバインダー(例えばNC樹脂やアクリル樹脂)と水素結合を形成することで、アルミニウム顔料とバインダーを繋ぐ役割を果たし、インキ層間での剥離およびインキ層と基材との剥離を抑制することが可能である。二つのカルボキシ基間の炭素鎖が2~4であるジカルボン酸として、具体的には、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ジヒドロムコン酸等のジカルボン酸が挙げられる。これらジカルボン酸は単体で用いても良いし、2種類以上のジカルボン酸を混合して使用しても良い。
【0015】
本実施形態で使用するジカルボン酸は、アルミニウム顔料に対して、質量換算で1~7wt%を含有しており、さらに、3~7wt%が好ましい。
【0016】
<アルミニウム顔料>
本実施形態では、従来公知の方法で製造されたものを広く用いることができる。扁平形状のアルミニウム粒子を用いる場合には、略球状のアルミニウム粒子を磨砕・加工して扁平形状のアルミニウム粒子にしてもよく、蒸着等の方法により扁平形状のアルミニウムに加工してもよい。加工方法としては、ボ-ルミルを用いる方法や蒸着を利用する方法等が挙げられる。コ-ンフレ-クまたはシルバ-ダラーと呼ばれる形状のアルミニウム粒子や蒸着アルミニウム粒子等が例示される。
【0017】
以下、粒子の形状について説明する。通常、顔料としての粒子は1個のみで提供されることは想定されないため、下記に示す値は、提供される複数個の粒子を対象にして求められた平均値であってもよい。
【0018】
粒子の平均粒径は、レ-ザ-回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径d50として算出可能である。
【0019】
本発明において、粒子の平均粒径は、優れた光輝性及び密着性が得られるとの観点から、5~30μmの範囲であることが好ましく、5~20μmの範囲であることがより好ましい。
【0020】
粒子が扁平形状である場合、粒子の平均厚みは、1μm以下であってよく、0.001μm~1μmであってよく、0.01~0.8μmであってよく、0.01~0.5μmであってよい。粒子の平均厚みは、1個の粒子に対して、無作為に選定された領域における厚みの平均値をもとめ、そこからさらに複数個の粒子の厚みについての平均値とする。ここで複数個とは10個以上とする。
【0021】
粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tは、5以上であることが好ましく、5~3000であってよく、15~1500であってよく、30~750であってよい。粒子の前記R/tが上記の範囲内であることで、粒子が適度な薄片の形状となるため、優れた光輝性が得られやすい。
【0022】
粒子の表面粗さRaは、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましい。粒子の表面粗さRcは、80nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。前記表面粗さRa及び/又はRcが上記の上限値以下であることにより、粒子の表面状態がより平滑となり、優れた光輝性が発揮されやすい。
【0023】
粒子の形状に関し、上記の平均粒径、平均厚み、R/t、Ra、Rcの5つの項目の数値範囲のうち、2つ以上の項目の数値範囲を満たしていることが好ましい。
【0024】
また、本発明で用いる粒子(A)は、2μm以下の微粒子が、粒子全量を100質量部としたときに40質量部以下であってよく、34質量部以下であることが好ましく、33質量部以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の実施形態において、アルミニウム顔料は、本願発明の効果を損なわない範囲であればコーティングを有してもよい。コーティングが存在する場合、当業者に知られているアルミニウム顔料のための任意の種類のコーティングが許容されてもよい。コーティングは、実際は有機でもよく又は無機でもよい。さらに、コーティングは、無機及び有機成分の混合物でもよい。コーティングは、単一の層でもよく、又は複数の層を有してもよい。
【0026】
コーティングが有機物である場合、コーティングは小分子又はポリマーでもよい。小分子有機コーティングの適切な種類としては、限定されないが、飽和脂肪酸、モノ不飽和脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、アラキジン酸、リノール酸、ラウリン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、トリフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、ブチル酸ホスフェート、オクチルホスホン酸、ラウリルホスホン酸、オクチルホスファイト、オクタデシルホスファイト、オクタデシルホスホン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。他の種類の小分子有機コーティングとしては、サルフェート及びスルホネートが挙げられる。
【0027】
コーティングがポリマーである場合、任意の分子量のものが使用できるが、適切な分子量は、1,000g/mol~1,000,000g/molの範囲である。ポリマーコーティングの適切な種類としては、限定されないが、ポリ(アクリル酸)、ポリ(スチレン)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリメタクリル酸、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(スチレ
ン)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(n-ブチルメタクリレート)、及びこれらの混合物、又はランダム、ブロック、若しくは交互コポリマーが挙げられる。
【0028】
コーティングが無機物である場合、金属酸化物が用いられる。アルミニウム顔料をコーティングするために用いる金属酸化物としては、限定されないが、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化ジルコニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化バナジウム(IV)、酸化マンガン、酸化鉛、酸化クロム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化タングステン、並びにこれらの混合物及び合金が挙げられる。コーティングは、上記の酸化物の任意の一つの水和酸化物もまた含んでもよい。コーティングは、前述の任意の一つのドープされた酸化物でもよい。金属酸化物層の厚みは、様々であるが、部分透明性を可能にしなければならない。一般に、金属酸化物層の厚みは、好ましくは約20nm~350nmの範囲である。
【0029】
アルミニウム顔料は、アルミニウム顔料組成物、および凝集を抑制するため分散体の形態で供給される。顔料濃度の高低により、ペースト又はスラリーとして供給することができる。ペーストの場合、アルミニウム顔料含有量は、ペーストの合計質量に関して、35~95質量%の範囲であってもよい。スラリーの場合、アルミニウム顔料含有量は、スラリーの合計質量に関して、1~35質量%の範囲であってもよく、5~15質量%の範囲が好ましい。
【0030】
<溶媒>
本実施形態で使用される溶媒の一般的な含有量は、アルミニウム分散体の合計質量に対して、約5質量%~99質量%である。本実施形態で使用される溶媒は、エステル溶媒であっても良いし、アルコール溶媒であっても良いし、エステル溶媒及びアルコール溶媒の混和性ブレンドであっても良い。溶媒がエステル溶媒及びアルコール溶媒のブレンドである場合、アルコール溶媒に対するエステル溶媒の重量比は、約0.1%~99.9%の範囲である。アルミニウムペーストは、一つより多い種類のエステル溶媒、及び/又は一つより多い種類のアルコール溶媒を、技術的範囲を制限せずに含むことができる。
【0031】
エステル溶媒の例として特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、n-酢酸プロピル、1-酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、n-酢酸ブチル、酢酸イソブチル、sec-酢酸ブチル、tert-酢酸ブチル、酪酸エチル、乳酸エチル、酢酸ヘキシル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、並びにこれらの混合物及びブレンドが挙げられる。
【0032】
アルコール溶媒の例として特に限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、2-エチルヘキサノール、グリセロール、メチルカルビトール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル酢酸塩、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル酢酸塩、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、並びにこれらの混合物及びブレンドが挙げられる。
【0033】
また、エステル溶媒及び/又はアルコール溶媒に加えて、任意に他の種類の溶媒をアルミニウム顔料に更に添加してもよい。用いることができる他の溶媒の例としては、限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、モルホリン、イソホロン、メシチルオキシド、メチルイソブチルケトン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ケロセン、ガソリン、ミネラルスピリット、鉱油、トルエン、キシレン、2-ブタノン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ニトロメタン、トリエチルアミン、ピリジン、並びにこれらの混合物及びブレンドからの一つ又は複数で使用が可能である。
【0034】
また、本実施形態で使用される溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、デカリンなどの炭化水素系溶媒、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、等の工業用ガソリン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類、鉱物類等が挙げられる。
【0035】
<添加剤>
本実施形態において、アルミニウム顔料を安定的に分散し、さらにアルミニウム分散体の保存安定性を付与するため、添加剤を使用してもよい。添加剤は、アルミニウム分散体中のアルミニウム顔料の合計質量に対して、1~50質量%、又は1~30質量%、又は2~15質量%の範囲で使用してもよい。
【0036】
添加剤としては、約100g/mol~約5,000,000g/molの範囲の分子量を有する。この分子量範囲内の任意の種類のポリマーを使用してもよく、限定されないが、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ブチレン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(アセタール)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ブチレングリコール)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(スチレン)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(n-ブチルメタクリレート)、ポリ(酪酸ビニル)、ポリ(塩化ビニル)、ポリシロキサン、及びこれらの混合物、又はランダム、ブロック、若しくは交互コポリマーが挙げられる。
【0037】
また、添加剤としては、アルミニウム顔料に一般的に使用される、各種脂肪酸を用いても良い。例えば、オレイン酸やステアリン酸等が挙げられる。
【0038】
本発明のアルミニウム分散体は、更なる添加剤を含んでもよい。更なる添加剤の例としては、限定されないが、共分散剤、共溶媒、有機顔料、無機顔料、真珠光沢(pearlescent)顔料、金属顔料、乳化剤、増粘剤、レオロジー調整剤、融合助剤、ワックス、樹脂、バインダー、ニス、充填材、又は当業者に知られている他の種類の添加剤が挙げられる。
【0039】
また、本発明のアルミニウム分散体は、バインダーを含んでもよい。バインダーを含む場合、バインダーは分散体の合計質量に対して0.01~20%の範囲で加えられる。バインダーの種類の例としては、限定されないが、ポリ(エステル)、ポリ(ウレタン)、ポリ(ビニル)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、セルロース、ポリ(酪酸ビニル)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(スチレン)、酢酸セルロース、プロピオン酸酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アミド)、ニトロセルロース、アクリル、アルキド、フッ素系樹脂、又はこれらの任意の混合物、又はランダム、ブロック、若しくは交互コポリマーが挙げられる。
【0040】
本発明の実施形態のアルミニウムペーストは、質量換算で、
ジカルボン酸が0.6~5.6%
アルミニウム顔料が64.3~79.4%、
溶媒が15.0~35.0%、
の構成比率が基材とインキ層の密着性およびインキ層内の密着性をより高めることができる。
【0041】
<塗料・インク>
実施形態のアルミニウムペーストは、塗料又はインクとして利用可能である。一実施形態として、実施形態のアルミニウム顔料を含有する塗料又はインクを提供できる。塗料としては、粉体塗料、家具塗装用塗料、電化製品塗装用塗料、自動車塗装用塗料、プラスチック塗装用塗料等が挙げられる。インクとしては、印刷用インク、包装材印刷用インク等が挙げられる。
【0042】
塗料又はインクは、実施形態のアルミニウムペーストと、分散媒と塗料又はインク用樹脂とを含有してもよい。分散媒としては、顔料の分散に用いられる任意の分散媒を用いることができ、従来公知の分散媒を用いてもよい。分散媒としては、エチルアルコ-ル、n-プロピルアルコ-ル、イソプロピルアルコ-ル、n-ブチルアルコ-ル、イソブチルアルコ-ルなどのアルコ-ル系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエ-テルエステル系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、ホワイトスピリッツ等の脂肪族炭化水素系溶剤、及びミネラルスピリット等の芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素の混合系溶剤等が挙げられる。
【0043】
塗料又はインク用樹脂としては、塗料またはインクへと配合される任意の樹脂を用いることができ、従来公知の樹脂を用いてもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ニトロセルロース樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0044】
また、塗料又はインク用顔料としては、アルミニウム顔料の他に、実施形態のアルミニウム顔料に該当しない、塗料またはインクへと配合される任意の着色顔料又は光輝材を更に含有することができ、従来公知の着色顔料や光輝材を用いてもよい。着色顔料としては、フタロシアニン系顔料、ハロゲン化フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロ-ル系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料、アゾメチン金属錯体系顔料、インダンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、アントラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、ベンゾイミダゾロン系顔料、縮合アゾ系顔料、トリフェニルメタン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラピリミジン系顔料、酸化チタン、酸化鉄、カ-ボンブラック、バナジウム酸ビスマスが挙げられる。また光輝材としては、金属又は金属酸化物を被覆したアルミニウム顔料、マイカ顔料、アルミナ顔料、ガラスフレーク顔料等が挙げられる。
【0045】
例えば、塗料又はインクは、アルミニウム顔料を0.5~50質量%含有することが好ましく、1~40質量%含有することがより好ましく、3~30質量%含有することがさらに好ましい。
【0046】
塗料又はインクは、実施形態のアルミニウムペーストの他に、必要に応じて老化防止剤、防腐剤、防軟剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0047】
実施形態に係るアルミニウムペーストより形成される成型品としては、実施形態に係るアルミニウムペーストから形成される塗料やインキが塗布され加飾された各種成型品が挙げられ、例えば包装容器、各種プラスチック塗装品、自動車部品等が例示される。また別の形態として、実施形態に係るアルミニウム顔料を内添した成型品も挙げられ、例えば電気機器筐体や自動車部品、プラスチック容器、マニキュア及びアイシャドー等のメイキャップやファンデーションなどのベースメイクを含む化粧料等が例示される。
【0048】
一例として、アルミニウム顔料は、通常n-酢酸プロピル中のペーストとして提供され、インク、コーティング、及び特定の化粧品用途、例えばマニキュア液の着色剤として用いられる。
【実施例
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりがない限り「部」、「%」は質量基準である。
【0050】
(実施例1)
容量3Lの4つ口フラスコに、ノンリーフィングタイプのアルミニウムペースト(BENDA-LUTZ社、平均粒子径 14μm、金属分71.7質量%)140.4gとノルマル酢酸プロピル500.0gを加え、80℃に昇温した。次にコハク酸3.0gを加え、80℃で1時間攪拌した。常温まで冷却し、この反応液を濾過し、ノルマル酢酸プロピルを用いて洗浄することにより、コハク酸で処理されたアルミニウムペースト(X-1)を得た。
【0051】
(実施例2)
前記実施例1で、コハク酸をフマル酸に変更した以外は実施例1と同様に行い、フマル酸で処理されたアルミニウムペースト(X-2)を得た。
【0052】
(実施例3)
前記実施例1で、コハク酸をアジピン酸に変更した以外は実施例1と同様に行い、アジピン酸で処理されたアルミニウムスラリー(X-3)を得た。
【0053】
(実施例4)
前記実施例3で、アジピン酸3.0gを1.0gに変更した以外は実施例3と同様に行い、アジピン酸で処理されたアルミニウムスラリー(X-4)を得た。
【0054】
(実施例5)
前記実施例3で、アジピン酸3.0gを5.0gに変更した以外は実施例3と同様に行い、アジピン酸で処理されたアルミニウムスラリー(X-5)を得た。
【0055】
(実施例6)
前記実施例3で、アジピン酸3.0gを7.0gに変更した以外は実施例3と同様に行い、アジピン酸で処理されたアルミニウムスラリー(X-6)を得た。
【0056】
(実施例7)
前記実施例1で、コハク酸をジヒドロムコン酸に変更した以外は実施例1と同様に行い、ジヒドロムコン酸で処理されたアルミニウムペースト(X-7)を得た。
【0057】
[比較例1]
アルミニウムペースト(BENDA-LUTZ社、平均粒子径 14μm、金属分71.7質量%、X-8)を評価した。
【0058】
[比較例2]
前記実施例1で、コハク酸をピメリン酸に変更した以外は実施例1と同様に行い、ピメリン酸で処理されたアルミニウムペースト(X-9)を得た。
【0059】
[比較例3]
前記実施例1で、コハク酸をセバシン酸に変更した以外は実施例1と同様に行い、セバシン酸で処理されたアルミニウムペースト(X-10)を得た。
【0060】
(印刷インキ及び印刷物の作製方法)
アルミニウムスラリー12.5質量部(金属分10.0%)に、希釈溶剤(酢酸エチル:イソプロピルアルコール=60.0質量部:40.0質量部)12.5質量部、硝化綿樹脂(Nobel NC Company Ltd.)8.5質量部を混ぜて印刷インキを作製した。作製したインキをバーコーター#6を用いて収縮PETフィルム(東洋紡社:SP809)に印刷して、40~50℃で乾燥し印刷物を得た。
【0061】
(輝度の評価)
前記の(印刷インキおよび印刷物の作製方法)により得られた印刷物の輝度の状態を五段階評価で目視判定した。
[評価基準]
5:比較例1と比較して、輝度が大幅に高い
4:比較例1と比較して、輝度が高い
3:比較例1と比較して、同等
2:比較例1と比較して、輝度が低い
1:比較例1と比較して、輝度が大幅に低い
【0062】
(密着性の評価)
前記の(印刷インキおよび印刷物の作製方法)により得られた印刷物を乾燥させた直後および40℃の恒温槽の中に一日静置させた後に、印刷面にセロハンテープを貼り付け、これを印刷面から垂直方向へ急速に剥がしたときの印刷皮膜の外観の状態を五段階評価で目視判定した。
[評価基準]
5:テープ側にほとんどインキがとられていない
4:テープ側に一部とられた
3:テープ側に半分とられた
2:テープ側に半分以上とられた
1:テープ側にほとんどとられた
【0063】
輝度評価、密着性評価(直後、一日後、三日後)を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
アルミニウムスラリー(X-1)~(X-7)は、輝度を損なうことなく、密着性を大幅に向上させていることが分かる。
【要約】
高意匠性をもたらし、基材との密着レベルの要求特性を満たすことが可能であるアルミニウム顔料組成物およびアルミニウムペースト、アルミニウムスラリーを提供する。
特定のジカルボン酸をアルミニウム顔料に処理をすることで、輝度を低下させることなく、インキ、塗料とした時に基材との密着性が非常に優れることを見出し、本発明のアルミニウム顔料組成物、該顔料組成物を含有するアルミニウムペースト、アルミニウムスラリーを完成させるに至った。