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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】気相成長方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20221122BHJP
   H01L 29/201 20060101ALI20221122BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20221122BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20221122BHJP
   C30B 25/16 20060101ALI20221122BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20221122BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20221122BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L29/201
C23C16/34
C30B29/38 C
C30B25/16
H01L29/80 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018036381
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019153630
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100088487
【氏名又は名称】松山 允之
(72)【発明者】
【氏名】津久井 雅之
(72)【発明者】
【氏名】名古 肇
(72)【発明者】
【氏名】家近 泰
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502246(JP,A)
【文献】特開2012-256706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0307027(US,A1)
【文献】特開2010-177675(JP,A)
【文献】特開2014-205892(JP,A)
【文献】特開2009-255277(JP,A)
【文献】特開2011-184774(JP,A)
【文献】特開2010-021233(JP,A)
【文献】特開2014-239159(JP,A)
【文献】特開2017-045927(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0236146(US,A1)
【文献】特開2008-130916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0240082(US,A1)
【文献】特開2012-227228(JP,A)
【文献】特開2006-322074(JP,A)
【文献】特開2011-151183(JP,A)
【文献】特表2015-527486(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0093614(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 29/201
C23C 16/34
C30B 29/38
C30B 25/16
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室に第1の基板を搬入し、
少なくともガリウムを含むガス及び窒素化合物を含むガスが混合された第1の混合ガスを生成し、
前記反応室に前記第1の基板を搬入した後に、前記反応室の上部に設けられたシャワープレートと前記第1の基板の第1の表面との間の距離が3cm以上の状態で、前記シャワープレートから前記第1の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第1の基板を300rpm以上の第1の回転数で回転させ、前記第1の基板の上に第1のガリウム含有窒化膜を形成し、
インジウムを含むガス、アルミニウムを含むガス、及び、前記窒素化合物を含むガスが混合された第2の混合ガスを生成し、
前記第1のガリウム含有窒化膜を形成した後に前記第1の基板を前記反応室から搬出することなく連続して、前記第2の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第1の基板を300rpm以上の前記第1の回転数よりも大きい第2の回転数で回転させて、前記第1の基板の上に第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する気相成長方法。
【請求項2】
前記反応室は、基板を一枚ずつ成膜処理する反応室であり、前記第1の基板の回転は自転である請求項1記載の気相成長方法。
【請求項3】
前記第1のガリウム含有窒化膜を形成した後、前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜の厚さよりも薄い窒化アルミニウム膜又は窒化アルミニウムガリウム膜を形成し、
前記窒化アルミニウム膜又は前記窒化アルミニウムガリウム膜を形成した後、前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する請求項1又は請求項2記載の気相成長方法。
【請求項4】
前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成した後に、前記第1の基板を前記反応室から搬出し、
前記反応室の洗浄を行うことなく、第2の基板を前記反応室に搬入し、
前記反応室に前記第2の基板を搬入した後に、前記シャワープレートから前記第1の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第2の基板を前記第1の回転数で回転させ、前記第2の基板の上に第2のガリウム含有窒化膜を形成し、
前記第2のガリウム含有窒化膜を形成した後に前記第2の基板を前記反応室から搬出することなく連続して、前記シャワープレートから前記第2の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第2の基板を前記第2の回転数で回転させ、前記第2の基板の上に第2の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する請求項1ないし請求項いずれか一項記載の気相成長方法。
【請求項5】
前記シャワープレートは表面に複数のガス放出孔を有し、最近接の放出孔の間隔が1mm以上15mm以下である請求項1ないし請求項いずれか一項記載の気相成長方法。
【請求項6】
前記シャワープレートは表面に凹凸部分を有する請求項1ないし請求項いずれか一項記載の気相成長方法。
【請求項7】
前記凹凸部分の表面と水平方向とのなす角度が45度以下である請求項記載の気相成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを供給して基板上に膜を形成する気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体(GaN based semiconductor)を用いたHigh Electron Mobility Transistor(HEMT)は、高い耐圧と低いオン抵抗を実現する。HEMTは、積層されたチャネル層とバリア層との間のヘテロ界面に誘起される二次元電子ガス(2DEG)を電流経路として用いる。
【0003】
例えば、チャネル層には窒化ガリウム(以下、GaNとも称する)、バリア層には窒化アルミニウムガリウム(以下、AlGaNとも称する)が用いられる。バリア層に窒化アルミニウムガリウムに代えて、窒化インジウムアルミニウム(以下、InAlNとも称する)を適用することが検討されている。
【0004】
InAlNは大きな自発分極を備えるため、InAlNとGaNの界面の2DEG濃度を高くすることができる。したがって、低いオン抵抗のHEMTが実現できる。また、InAlN中のIn組成(In/(In+Al))を約17原子%にすることで、GaNとの格子整合が実現できる。したがって、格子不整合に起因する歪がなくなり、HEMTの信頼性が向上する。
【0005】
また、InAlN膜とGaN膜との積層構造は面発光レーザ等に用いられる誘電体ミラーへの応用も期待される。上記の誘電体ミラーへの応用については、GaN膜とInAlN膜の界面が明確であること、つまり、上記2つの膜の化合物組成が急峻に変化することが求められる。
【0006】
しかし、InAlN膜の気相成長では、InAlN膜中への意図しないガリウム(Ga)の取り込み(unintentional Ga incorporation)が問題となっている。InAlN膜中へガリウムが取り込まれると、例えば、InAlNとGaNの界面の2DEG密度の低下や、電子の移動度の低下が生ずるおそれがある。また、化合物組成の急峻な変化が得られないため、良好な誘電体ミラーを形成することが困難である。
【0007】
上記のInAlN膜に意図しないGaの取り込みが生じる原因としては、InAlN膜の成長前に行うGaを含む膜の成長時に、成長装置の上流部分にGaを含む堆積物が生じ、このGaを含む堆積物からInAlN膜の成長時にGaが成長雰囲気に放出され、このGaがInAlN膜に取り込まれるものと考えられている。
【0008】
非特許文献1には、Fig.1(b)に示される分離ガス供給を行う装置を用いて成膜され、意図しないガリウムの取り込みが抑制されたInAlN膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2010/0143588号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】J.Ju et al.“Epitaxial Growth of InAlN/GaN Heterostructures on Silicon Substrates in a Single Wafer Roatating Disk MOCVD Reactor”,MRS Advances,2017.174,pp329-334.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、意図しないガリウムの取り込みが抑制された良質なInAlN膜を形成する気相成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の気相成長方法は、反応室に第1の基板を搬入し、少なくともガリウムを含むガス及び窒素化合物を含むガスが混合された第1の混合ガスを生成し、前記反応室に前記第1の基板を搬入した後に、前記反応室の上部に設けられたシャワープレートと前記第1の基板の第1の表面との間の距離が3cm以上の状態で、前記シャワープレートから前記第1の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第1の基板を300rpm以上の第1の回転数で回転させ、前記第1の基板の上に第1のガリウム含有窒化膜を形成し、インジウムを含むガス、アルミニウムを含むガス、及び、前記窒素化合物を含むガスが混合された第2の混合ガスを生成し、前記第1のガリウム含有窒化膜を形成した後に前記第1の基板を前記反応室から搬出することなく連続して、前記第2の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第1の基板を300rpm以上の前記第1の回転数よりも大きい第2の回転数で回転させて、前記第1の基板の上に第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する。
【0013】
上記態様の気相成長方法において、前記反応室は、基板を一枚ずつ成膜処理する反応室であり、前記第1の基板の回転は自転であることが好ましい。
【0016】
上記態様の気相成長方法において、前記第1のガリウム含有窒化膜を形成した後、前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜の厚さよりも薄い窒化アルミニウム膜又は窒化アルミニウムガリウム膜を形成し、前記窒化アルミニウム膜又は窒化アルミニウムガリウム膜を形成した後、前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成することが好ましい。
【0017】
上記態様の気相成長方法において、前記第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成した後に、前記第1の基板を前記反応室から搬出し、前記反応室の洗浄を行うことなく、第2の基板を前記反応室に搬入し、前記反応室に前記第2の基板を搬入した後に、前記シャワープレートから前記第1の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第2の基板を前記第の回転数で回転させ、前記第2の基板の上に第2のガリウム含有窒化膜を形成し、
前記第2のガリウム含有窒化膜を形成した後に前記第2の基板を前記反応室から搬出することなく連続して前記シャワープレートから前記第の混合ガスを前記反応室の中に供給しながら前記第2の基板を前記第の回転数で回転させ、前記第2の基板の上に第2の窒化インジウムアルミニウム膜を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、意図しないガリウムの取り込みが抑制された良質なInAlN膜を形成する気相成長方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態の気相成長方法で用いられる気相成長装置の模式断面図。
図2】第1の実施形態の気相成長方法のプロセスステップを示す図。
図3】第1の実施形態の気相成長方法の効果の説明図。
図4】第2の実施形態の気相成長方法のプロセスステップを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
本明細書中、同一又は類似の部材について、同一の符号を付す場合がある。
【0022】
本明細書中、気相成長装置が、膜の形成が可能に設置された状態での重力方向を「下」と定義し、その逆方向を「上」と定義する。したがって、「下部」とは、基準に対し重力方向の位置、「下方」とは基準に対し重力方向を意味する。そして、「上部」とは、基準に対し重力方向と逆方向の位置、「上方」とは基準に対し重力方向と逆方向を意味する。また、「縦方向」とは重力方向である。
【0023】
また、本明細書中、「プロセスガス」とは、基板上への膜の形成のために用いられるガスの総称であり、例えば、ソースガス、キャリアガス、希釈ガス等を含む概念とする。
【0024】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の気相成長方法は、反応室に第1の基板を搬入し、インジウムを含むガス、アルミニウムを含むガス、及び、窒素化合物を含むガスが混合された第1の混合ガスを生成し、第1の混合ガスを反応室の中に供給しながら第1の基板を300rpm以上の第1の回転数で回転させて、第1の基板の上に第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する。さらに、少なくともガリウムを含むガス及び窒素化合物を含むガスが混合された第2の混合ガスを生成し、第2の混合ガスを反応室の中に供給しながら第1の基板を300rpm以上の第2の回転数で回転させて、第1の基板の上に第1のガリウム含有窒化膜を形成し、第1のガリウム含有窒化膜を形成した後、第1の基板を反応室から搬出することなく連続して第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する。
【0025】
図1は、第1の実施形態の気相成長方法で用いられる気相成長装置の模式断面図である。第1の実施形態の気相成長装置は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いる枚葉型のエピタキシャル成長装置である。
【0026】
第1の実施形態の気相成長装置は、反応室10、第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、第3のガス供給路13を備えている。反応室10は、ホルダ15、回転体ユニット16、回転軸18、回転駆動機構19、ガス供給口20、混合ガス室21、シャワープレート22、インヒータ24、アウトヒータ26、リフレクタ28、支持柱34、固定台36、固定軸38、ガス排出口40を備えている。
【0027】
第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び第3のガス供給路13は、ガス供給口20に接続され、混合ガス室21にプロセスガスを供給する。
【0028】
第1のガス供給路11は、例えば、反応室10にIII族元素の有機金属とキャリアガスを含む第1のプロセスガスを供給する。第1のガス供給路11は複数設けることができる。また、複数の第1のガス供給路11は一元化されてもよい。第1のプロセスガスは、ウェハ上にIII-V族半導体の膜を形成するための、III族元素を含むガスである。
【0029】
III族元素は、例えば、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)である。また、有機金属は、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)である。
【0030】
第2のガス供給路12は、反応室10に窒素(N)のソースとなる窒素化合物を含む第2のプロセスガスを供給する。窒素化合物は、例えば、アンモニア(NH)である。第2のプロセスガスは、ウェハ上にIII-V族半導体の膜を形成するための、V族元素のソースガスである。V族元素は窒素(N)である。
【0031】
なお、窒素化合物は、活性な窒素化合物であればよく、アンモニアに限らず、ヒドラジン、アルキルヒドラジン、アルキルアミンなどの他の窒素化合物を含むガスを用いてもよい。
【0032】
第3のガス供給路13は、例えば、第1のプロセスガス、及び、第2のプロセスガスを希釈する希釈ガスである第3のプロセスガスを反応室10へ供給する。希釈ガスで、第1のプロセスガス、及び第2のプロセスガスを希釈することにより、反応室10に供給されるIII族元素及びV族元素の濃度を調整する。希釈ガスは、例えば、水素ガス、窒素ガス、又は、アルゴンガス等の不活性ガス又はこれらの混合ガスである。
【0033】
第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び、第3のガス供給路13は、ガス供給口20の前で合流する。したがって、第1のプロセスガス、第2のプロセスガス、及び、第3のプロセスガスは、ガス供給口20の前で混合されて混合ガスとなる。第1のプロセスガス、第2のプロセスガス、及び、第3のプロセスガスの混合ガスが、ガス供給口20から混合ガス室21に供給される。
【0034】
なお、プロセスガスの混合は、必ずしも混合ガス室21より上流側の配管内で行う必要はなく、いくつかのプロセスガス配管を混合ガス室21に個別に接続し、プロセスガスの混合を混合ガス室21で行ってもよい。
【0035】
プロセスガスを混合してシャワープレート22から反応室10に放出することで、各ガス放出孔から放出されるガスの流量と密度が均一に保たれるため、反応室10内部のガス流が層流になりやすい。このため、シャワープレート22の表面に付着物が発生しにくくなると考えられる。
【0036】
反応室10は、例えば、ステンレス製で円筒状の壁面17を備える。シャワープレート22は反応室10の上部に設けられる。シャワープレート22は反応室10と混合ガス室21との間に設けられる。
【0037】
シャワープレート22には、複数のガス噴出孔が設けられる。混合ガス室21から複数のガス噴出孔を通って、反応室10内にプロセスガスの混合ガスが供給される。
【0038】
さらに、ウェハW表面とシャワープレート22とは、3cm以上離間している。ウェハW表面とシャワープレート22との間隔が広いため、ウェハWの表面に到達したプロセスガスが再びシャワープレート22側に戻り、シャワープレート22の表面に、反応生成物が付着することが抑制される。言い換えれば、ウェハW表面とシャワープレート22との間隔が広いため、ウェハW表面とシャワープレート22との間で乱流が生じにくく、シャワープレート22の表面に、反応生成物が付着することが抑制される。
【0039】
ウェハWの表面に対向するシャワープレート22の表面に、反応生成物が付着しにくいことから、InAlN膜への意図しないGaの取り込みが抑制される。またシャワープレート22に付着した反応生成物が、ウェハW表面に落下することに起因する表面欠陥が生じにくい。よって、欠陥密度の低い良質な膜が形成される。
【0040】
ウェハW表面とシャワープレート22との間の距離は3cm以上20cm以下であることが好ましく、5cm以上15cm以下であることがより好ましい。上記範囲を下回ると、シリコンウェハWの表面に到達したプロセスガスが再びシャワープレート22側に戻り、シャワープレート22の表面に、反応生成物が付着するおそれがある。また、上記範囲を上回ると、反応室10の内部で熱対流が生じ、ウェハWの表面に形成される膜50の膜厚均一性、膜質均一性が低くなるおそれがある。
【0041】
またシャワープレート22の表面に設けられたガス放出孔については、最近接の放出孔の間隔が1mm以上、15mm以下が好ましい。より好ましくは3mm以上、10mm以下である。またシャワープレートのガス放出面に凹凸を設けてシャワープレート22から放出されるガス流を安定させることができる場合がある。ただし、上記の凹凸が大きくなりすぎると却ってシャワープレート22の表面に反応生成物が付着するので好ましくない。好ましいシャワープレート22の表面の凹凸は、凹凸部分の表面と水平方向とのなす角度が45度以下である。より好ましくは30度以下、最も好ましくは20度以下である。
【0042】
またシャワープレート22のガス放出面におけるガス放出孔の高低差(最も上側にある部分と最も下側にある部分の上下方向の距離の差)が15mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは10mm以下であり、最も好ましくは5mm以下である。これより高低差が大きい場合にはシャワープレート22の表面に堆積物が生じ、成膜の際に表面欠陥濃度が増大する。
【0043】
ホルダ15は、反応室10の内部に設けられる。ホルダ15には、基板の一例であるウェハWが載置可能である。ホルダ15は、例えば、環状である。ホルダ15には、中心部に開口部が設けられる。このような環状のホルダ15は、例えばSi基板のような不透明基板を用いたとき用いることができ、高い面内均一性を得ることができる。なお、ホルダ15の形状は、中央部に空洞を有しない略平板型であってもよい。
【0044】
ホルダ15は、例えば、炭化珪素(SiC)、炭化タンタル(TaC)、窒化ホウ素(BN)、パイロリティックグラファイト(PG)などのセラミックス、又は、カーボンを基材として形成される。ホルダ15には、例えば、SiC、BN、TaC、又はPGなどをコーティングしたカーボンを用いることができる。
【0045】
ホルダ15は、回転体ユニット16の上部に固定される。回転体ユニット16は、回転軸18に固定される。ホルダ15は、間接的に回転軸18に固定される。
【0046】
回転軸18は、回転駆動機構19によって回転可能である。回転駆動機構19により、回転軸を回転させることによりホルダ15を回転させることが可能である。ホルダ15を回転させることにより、ホルダ15に載置されたウェハWを高速で自転させることが可能である。自転とは、ウェハWがウェハWの略中心を通る法線を回転軸として回転することを意味する。
【0047】
例えば、ウェハWを300rpm以上3000rpm以下の回転数で自転させる。回転駆動機構19は、例えば、モータとベアリングで構成される。
【0048】
インヒータ24とアウトヒータ26は、ホルダ15の下方に設けられる。インヒータ24とアウトヒータ26は、回転体ユニット16内に設けられる。アウトヒータ26は、インヒータ24とホルダ15との間に設けられる。
【0049】
インヒータ24とアウトヒータ26は、ホルダ15に保持されたウェハWを加熱する。インヒータ24は、ウェハWの少なくとも中心部を加熱する。アウトヒータ26は、ホルダ15およびウェハWの外周領域を加熱する。インヒータ24は、例えば、円板状である。アウトヒータ26は、例えば、環状である。
【0050】
リフレクタ28は、インヒータ24とアウトヒータ26の下方に設けられる。リフレクタ28とホルダ15との間に、インヒータ24とアウトヒータ26が設けられる。
【0051】
リフレクタ28は、インヒータ24とアウトヒータ26から下方に放射される熱を反射し、ウェハWの加熱効率を向上させる。また、リフレクタ28は、リフレクタ28より下方の部材が加熱されるのを防止する。リフレクタ28は、例えば、円板状である。
【0052】
リフレクタ28は、耐熱性の高い材料で形成される。リフレクタ28は、例えば、1100℃以上の温度に対する耐熱性を有する。
【0053】
リフレクタ28は、例えば、SiC、TaC、カーボン、BN、PGなどのセラミックス、又はタングステンなどの金属を基材として形成される。リフレクタ28にセラミックスを用いる場合、焼結体や気相成長により作製した基材を用いることができる。リフレクタ28として、カーボンの基材などに、SiC、TaC、BN、PG、ガラス状カーボンなどのセラミックスをコートしたものを用いてもよい。
【0054】
リフレクタ28は、例えば、複数の支持柱34によって、固定台36に固定される。固定台36は、例えば、固定軸38によって支持される。
【0055】
回転体ユニット16内には、ウェハWをホルダ15から脱着させるために、突き上げピン(図示せず)が設けられる。突き上げピンは、例えば、リフレクタ28、及び、インヒータ24を貫通する。
【0056】
ガス排出口40は、反応室10の底部に設けられる。ガス排出口40は、ウェハW表面でプロセスガスが反応した後の余剰の反応生成物、及び、余剰のプロセスガスを反応室10の外部に排出する。
【0057】
また、反応室10の壁面17には、図示しないウェハ出入口及びゲートバルブが設けられている。ウェハ出入口及びゲートバルブにより、ウェハWを反応室10内に搬入したり、反応室10外に搬出したりすることが可能である。
【0058】
次に、第1の実施形態の気相成長方法について説明する。第1の実施形態の気相成長方法は、図1に示すエピタキシャル成長装置を用いる。
【0059】
以下、窒化ガリウム膜(GaN膜)の上に窒化インジウムアルミニウム膜(InAlN膜)を連続して形成する場合を例に説明する。例えば、GaN膜はHEMTのチャネル層、InAlN膜はHEMTのバリア層として用いられる。なお、HEMTのバリア層の材料のバンドギャップは、チャネル層の材料のバンドギャップよりも大きい。
【0060】
以下、チャネル層が窒化ガリウムの場合を例に説明する。しかし、チャネル層に、ガリウムを含むガスとアンモニアを含むガスにインジウムを含むガス及びアルミニウムを含むガスを混合して生成した混合ガスを基に形成される窒化ガリウム系膜を適用することも可能である。具体的にはチャネル層はInGaN膜、AlGaN膜などとすることができる。
【0061】
図2は、第1の実施形態の気相成長方法のプロセスステップを示す図である。第1の実施形態の気相成長方法は、第1の基板搬入ステップ(S100)、第1のGaN膜形成ステップ(S110)、第1のInAlN膜形成ステップ(S120)、第1の基板搬出ステップ(S130)、第2の基板搬入ステップ(S200)、第2のGaN膜形成ステップ(S210)、第2のInAlN膜形成ステップ(S220)、第2の基板搬出ステップ(S230)を備える。
【0062】
最初に、第1のウェハW(第1の基板)を、反応室10内に搬入する(S100)。第1のウェハWは、表面が{111}面であるシリコン基板である。第1のウェハWの面方位の誤差は3度以下であることが好ましく、より好ましくは2度以下である。シリコン基板の厚さは、例えば、700μm以上1.2mm以下である。なお、{111}面は、(111)面と結晶学的に等価な面を示す。
【0063】
次に、第1のウェハWを、ホルダ15に載置する。次に、第1のウェハWを回転駆動機構19により自転させながら、ホルダ15の下方に設けられたインヒータ24及びアウトヒータ26により加熱する。
【0064】
次に第1のウェハWの上にTMA、TMG及びアンモニアを用いて、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)のバッファ層を形成する。
【0065】
次に、第1のウェハWの上に第1のGaN膜を形成する(S110)。第1のGaN膜は、単結晶である。第1のGaN膜の厚さは、例えば、100nm以上10μm以下である。
【0066】
第1のGaN膜を形成する際、第1のウェハWを所定の回転数(第2の回転数)で回転させる。第2の回転数は、例えば、500rpm以上1500rpm以下である。また、第1のウェハWの温度は、例えば、1000℃以上1100℃以下である。
【0067】
第1のGaN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMGが供給される。また、第2のガス供給路12から、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスが供給される。
【0068】
窒素ガスをキャリアガスとするTMG、アンモニア、窒素ガスは混合されて混合ガス(第2の混合ガス)が生成され、混合ガス室21に供給される。混合ガスは、混合ガス室21からシャワープレート22を通って、反応室10の中に供給される。
【0069】
混合ガスは反応室10の中で第1のウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、第1のウェハWの表面に供給される。第1のウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転する第1のウェハWの表面に沿って第1のウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、第1のGaN膜が第1のウェハWの上に形成される。
【0070】
次に、第1のウェハWを反応室10から搬出することなく、第1のウェハWの上に第1のInAlN膜を形成する(S120)。第1のInAlN膜は、単結晶である。第1のInAlN膜の膜厚は、例えば、5nm以上30nm以下である。第1のInAlN膜の膜厚は、例えば、第1のGaN膜の膜厚よりも薄い。
【0071】
第1のInAlN膜のIn組成は、例えば、約17原子%である。In組成は、第1のInAlN膜の中のIII族元素に占めるインジウムの割合を示す。
【0072】
第1のInAlN膜を形成する際、第1のウェハWを所定の回転数(第1の回転数)で回転させる。第1の回転数は、例えば、1600rpm以上1800rpm以下である。第1の回転数は、例えば、第2の回転数よりも大きい。また、第1のウェハWの温度は、例えば、700℃以上900℃以下である。
【0073】
第1のInAlN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMIが供給される。また、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMAが供給される。また、第2のガス供給路12から、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスを供給する。
【0074】
窒素ガスをキャリアガスとするTMI、窒素ガスをキャリアガスとするTMA、アンモニア、窒素ガスは混合されて混合ガス(第1の混合ガス)が生成され、混合ガス室21に供給される。混合ガスは、混合ガス室21からシャワープレート22を通って、反応室10の中に供給される。
【0075】
混合ガスは反応室10の中で第1のウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、第1のウェハWの表面に供給される。第1のウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転する第1のウェハWの表面に沿って第1のウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、第1のInAlN膜が第1のウェハWの上に形成される。
【0076】
次に、第1のウェハW(第1の基板)を、反応室10から外に搬出する(S130)。
【0077】
次に、第2のウェハW(第2の基板)を、反応室10内に搬入する(S200)。第1のウェハWを反応室10から搬出した後、反応室10の洗浄(ウエット洗浄)を行わずに、第2のウェハWを、反応室10内に搬入する。第2のウェハWは、第1のウェハWと同様のシリコン基板である。
【0078】
次に、第2のウェハWに、第1のウェハWに形成したバッファ層と同一のプロセス条件で、AlN及びAlGaNのバッファ層を形成する。
【0079】
次に、第2のウェハWの上に第2のGaN膜を形成する(S210)。第2のGaN膜は、単結晶である。第2のGaN膜は、第1のGaN膜と同様のプロセス条件で形成される。
【0080】
次に、第2のウェハWを反応室10から搬出することなく、第2のウェハWの上に第2のInAlN膜を形成する(S220)。第2のInAlN膜は単結晶である。第2のInAlN膜は、第1のInAlN膜と同様のプロセス条件で形成される。
【0081】
第2のInAlN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMIが供給される。また、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMAが供給される。また、第2のガス供給路12から、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスを供給する。
【0082】
窒素ガスをキャリアガスとするTMI、窒素ガスをキャリアガスとするTMA、アンモニア、窒素ガスは混合されて混合ガスが生成され、混合ガス室21に供給される。混合ガスは、混合ガス室21からシャワープレート22を通って、反応室10の中に供給される。
【0083】
混合ガスは反応室10の中で第2のウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、第1のウェハWの表面に供給される。第2のウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転する第1のウェハWの表面に沿って第2のウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、第2のInAlN膜が第2のウェハWの上に形成される。
【0084】
次に、第2のウェハW(第2の基板)を、反応室10から外に搬出する(S230)。
【0085】
次に、第1の実施形態の気相成長方法の作用及び効果について説明する。
【0086】
InAlN膜の気相成長では、InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みが問題となる。InAlN膜中へガリウムが取り込まれると、例えば、InAlNとGaNの界面の2DEG密度の低下や、電子の移動度の低下が生ずる。このため、例えば、GaN膜とInAlN膜の積層膜を用いたHEMTの特性が劣化する。また、制御されていない量のガリウムがInAlN膜中に取り込まれるので、HEMTの特性の再現性が失われる。
【0087】
特に、InAlN膜をGaN膜の上に連続して形成する場合、GaN膜を形成する際に反応室10の壁面等に付着したガリウムを含む物質が、InAlN膜中へ取り込まれると考えられる。InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みを抑制する方法として、例えば、InAlN膜を形成する前に、反応室を洗浄することが考えられる。しかし、InAlN膜を形成する度に、反応室を洗浄することで気相成長装置の稼働率が大幅に低下する。
【0088】
第1の実施形態の気相成長方法では、III族元素のプロセスガスとV族元素のプロセスガスを、反応室10に供給する前に混合して混合ガスを生成する。そして、混合ガスを反応室10の中に供給してウェハの上にGaN膜やInAlN膜を形成する。反応室10の中のウェハは1枚だけである。そして、1枚のウェハが高速で自転した状態で、ウェハの上にGaN膜やInAlN膜を形成する。
【0089】
第1の実施形態の気相成長方法によれば、InAlN膜をGaN膜の上に連続して形成する場合であっても、InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みを抑制することが可能となる。第1の実施形態の気相成長方法によれば、反応室10に供給する前にIII族元素のプロセスガスとV族元素のプロセスガスの混合ガスを生成することにより、反応室10の中での乱流の発生が抑制される。このため、例えば、GaN膜の形成中に反応室10の壁面等へのガリウムを含む物質の付着が抑制されると考えられる。また、反応室10の中での乱流の発生が抑制され、反応室10の壁面等へ付着したガリウムを含む物質が、InAlN膜の形成中に雰囲気中に脱離することが抑制されると考えられる。
【0090】
また、高速で自転するウェハによる混合ガスの引き込み効果により、反応室10の中での乱流の発生が抑制され、反応室10の壁面等へのガリウムを含む物質の付着や、ガリウムを含む物質の脱離が抑制されると考えられる。また、ウェハを高速で自転させることにより混合ガスの反応及び分解を、ウェハ表面近傍に限定させることができ、反応室10の壁面等へのガリウムを含む物質の付着が抑制されると考えられる。
【0091】
図3は、第1の実施形態の気相成長方法の効果の説明図である。第1の実施形態の気相成長方法を用いて、GaN膜を含む積層膜の形成を、反応室10の洗浄を行わずに100回以上行った。図3は、その後、反応室10の洗浄を行わずに形成したInAlN膜とGaN膜の積層膜の中の、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、窒素(N)の深さ方向の分布を示す。
【0092】
図3は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)による分析結果である。横軸はInAlN膜の表面を基準とする深さ、縦軸は各元素の存在割合である。例えば、ガリウムの場合、Ga/(In+Al+Ga+N)で表される割合が原子%で示されている。
【0093】
InAlN膜の中のガリウムは、検出限界(6原子%)以下であった。二次イオン質量分析法(SIMS)によっても、同じ試料を分析したが、InAlN膜の中のガリウムは、1000ppm以下であった。
【0094】
このことから第1の実施形態の気相成長方法によれば、多数回のガリウムを含む膜の形成を行った後に、反応室10の洗浄を挟まずにInAlN膜を形成しても、InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みが生じないことが明らかとなった。
【0095】
第1の実施形態の気相成長方法において、InAlN膜を形成する際のウェハの回転数(第1の回転数)は、GaN膜を形成する際のウェハの回転数(第2の回転数)よりも大きいことが好ましい。
【0096】
InAlN膜をHEMTのバリア層として用いる場合、薄いInAlN膜の膜厚の均一性や組成の均一性を高くすることは、HEMTの特性を安定させる上で重要である。膜厚の均一性や組成の均一性は、ウェハの回転数が大きい程、高くなる。
【0097】
GaN膜をHEMTのチャネル層として用いる場合、GaN膜中に取り込まれる炭素の量が多くなると、2DEG濃度の低下や電子の移動度の低下が生じるおそれがある。したがって、GaN膜中の炭素の量は少ないことが好ましい。GaN膜の形成に用いられるTMGから、炭素がGaN膜中に取り込まれる。
【0098】
GaN膜中に取り込まれる炭素の量は、ウェハの回転数が大きい程、多くなる。したがって、GaN膜中の炭素の量を抑制する観点からは、ウェハの回転数が小さいことが好ましい。
【0099】
InAlN膜を形成する際のウェハの回転数(第1の回転数)を、GaN膜を形成する際のウェハの回転数(第2の回転数)よりも大きくすることで、InAlN膜の膜厚の均一性や組成の均一性の向上と、GaN膜中の炭素の量の抑制を両立することができる。
【0100】
なお、InAlN膜をHEMTのバリア層、GaN膜をHEMTのチャネル層として用いる場合、GaN膜の厚さはInAlN膜の厚さより厚くなる。厚い膜の成膜を大きな回転数で行うと、膜形成に使われる消費電力が増大する。したがって、膜形成のための製造コストが増大する。よって、製造コストを抑制する観点からも、InAlN膜を形成する際のウェハの回転数(第1の回転数)を、GaN膜を形成する際のウェハの回転数(第2の回転数)よりも大きくすることが好ましい。言い換えれば、厚いGaN膜を形成する際のウェハの回転数(第2の回転数)を、薄いInAlN膜を形成する際のウェハの回転数(第1の回転数)よりも小さくすることが好ましい。
【0101】
InAlN膜を形成する際のウェハの回転数(第1の回転数)は、1600rpm以上2000rpm以下であることが好ましい。上記範囲を下回ると、InAlN膜の膜厚の均一性や組成の均一性が低下するおそれがある。上記範囲を上回ると、回転数を安定して制御することが困難となる。
【0102】
GaN膜を形成する際のウェハの回転数(第2の回転数)は、500rpm以上1500rpm以下であることが好ましい。上記範囲を下回ると、GaN膜の膜厚の均一性や組成の均一性が低下するおそれがある。上記範囲を上回ると、GaN膜中に取り込まれる炭素の量が多くなりすぎるおそれがある。
【0103】
InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みを抑制する観点から、第1の回転数及び第2の回転数は、300rpm以上であることが好ましく、800rpm以上であることがより好ましく、1000rpm以上であることが更に好ましい。
【0104】
以上、第1の実施形態の気相成長方法によれば、意図しないガリウムの取り込みが抑制されたInAlN膜を形成することが可能となる。
【0105】
なお、窒化インジウムアルミニウム膜を形成し、ウェハWを反応室10から搬出した後、次のウェハWの処理の前に、反応室10内でホルダ15に付着した堆積物を気相エッチングで除去することが望ましい。或いは、堆積物が付着したホルダ15を、新たなホルダ15又は反応室の外部で堆積物を除去したホルダ15と交換することが望ましい。ホルダをエッチングしたり、交換したりすることにより、成長ランごとに堆積物が付着していないホルダを用いることができ、ホルダの初期状態を同じ状態とすることができるので成膜再現性が向上する。ホルダの搬入は、次に処理するウェハWを反応室10に搬入するのと同時でもよい。
【0106】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の気相成長方法は、第1の窒化ガリウム膜を形成した後、第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する前に、第1の基板の上に、厚さが第1の窒化インジウムアルミニウム膜の厚さよりも薄い窒化アルミニウム膜又は窒化アルミニウムガリウム膜を形成する以外は、第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0107】
図4は、第2の実施形態の気相成長方法のプロセスステップを示す図である。以下、第1の窒化ガリウム膜を形成した後、第1の窒化インジウムアルミニウム膜を形成する前に、窒化アルミニウム膜を形成する場合を例に説明する。
【0108】
第2の実施形態の気相成長方法は、第1の基板搬入ステップ(S100)、第1のGaN膜形成ステップ(S110)、第1のAlN膜形成ステップ(S115)、第1のInAlN膜形成ステップ(S120)、第1の基板搬出ステップ(S130)、第2の基板搬入ステップ(S200)、第2のGaN膜形成ステップ(S210)、第2のAlN膜形成ステップ(S125)、第2のInAlN膜形成ステップ(S220)、第2の基板搬出ステップ(S230)を備える。
【0109】
第1の基板搬入ステップ(S100)から第1のGaN膜形成ステップ(S110)までは、第1の実施形態と同様である。
【0110】
次に、第1のウェハWを反応室10から搬出することなく、第1のウェハWの上に第1のAlN膜を形成する(S115)。第1のAlN膜は、単結晶である。第1のAlN膜の厚さは、例えば、0.1nm以上好ましくは0.3nm以上5nm以下である。第1のAlN膜の厚さは、第1のInAlN膜の厚さよりも薄い。
【0111】
第1のAlN膜を形成する際、第1のウェハWを所定の回転数で回転させる。回転数は、例えば、1600rpm以上2000rpm以下である。また、第1のウェハWの温度は、例えば、1000℃以上1100℃以下である。
【0112】
第1のAlN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMAが供給される。また、第2のガス供給路12から、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスを供給する。
【0113】
窒素ガスをキャリアガスとするTMA、アンモニア、窒素ガスは混合されて混合ガスが生成され、混合ガス室21に供給される。混合ガスは、混合ガス室21からシャワープレート22を通って、反応室10の中に供給される。
【0114】
混合ガスは反応室10の中で第1のウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、第1のウェハWの表面に供給される。第1のウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転する第1のウェハWの表面に沿って第1のウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、第1のAlN膜が第1のウェハWの上に形成される。
【0115】
次に、第1のウェハWを反応室10から搬出することなく、第1のウェハWの上に第1のInAlN膜を形成する(S120)。第1のInAlN膜形成ステップ(S120)は、第1の実施形態と同様である。
【0116】
次に、第1のウェハW(第1の基板)を、反応室10から外に搬出する(S130)。
【0117】
次に、第2のウェハW(第2の基板)を、反応室10内に搬入する(S200)。第2の基板搬入ステップ(S200)から第2のGaN膜形成ステップ(S120)までは、第1の実施形態と同様である。
【0118】
次に、第2のウェハWを反応室10から搬出することなく、第2のウェハWの上に第2のAlN膜を形成する(S215)。第2のAlN膜は、単結晶である。第2のAlN膜は、第1のAlN膜と同様のプロセス条件で形成される。
【0119】
次に、第2のウェハWを反応室10から搬出することなく、第2のウェハWの上に第2のInAlN膜を形成する(S220)。第2のInAlN膜形成ステップ(S220)は、第1の実施形態と同様である。
【0120】
次に、第2のウェハW(第2の基板)を、反応室10から外に搬出する(S230)。
【0121】
次に、第2の実施形態の気相成長方法の作用及び効果について説明する。
【0122】
第2の実施形態の気相成長方法によれば、第1の実施形態の気相成長方法と同様、InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みを抑制することが可能となる。
【0123】
なお、第1実施形態と同様に、窒化インジウムアルミニウム膜を形成し、ウェハWを反応室10から搬出した後、次のウェハWの処理の前に、反応室内でホルダ15に付着した堆積物を気相エッチングで除去することが望ましい。或いは、堆積物が付着したホルダ15を、新たなホルダ15又は反応室10の外部で堆積物を除去したホルダ15と交換することが望ましい。ホルダの搬入は、次に処理するウェハWを反応室10に搬入するのと同時でもよい。
【0124】
InAlN膜をHEMTのバリア層、GaN膜をHEMTのチャネル層として用いる場合、InAlN膜とGaN膜との間に薄いAlN膜又はAlGaN膜を挟むことにより、電子の散乱が抑制され、電子の移動度が向上する。したがって、第2の実施形態の気相成長方法によれば、HEMTへの適用に適した積層膜を形成することが可能となる。
【0125】
以上、第2の実施形態の気相成長方法によれば、意図しないガリウムの取り込みが抑制されたInAlN膜を形成することが可能となる。さらに、HEMTへの適用に適した積層膜を形成することが可能となる。
【実施例
【0126】
第1の実施形態の気相成長方法により第1の試料の作製した後、さらに以下述べる手順を8回連続で繰り返し、8個の試料を作製した。第1の試料の作製から上記の8個の試料の作製まで、および上記の8個の試料の作製の間に、反応室10の洗浄は行っていない。
【0127】
ホルダ15にダミーウェハを載置した状態で反応室10の内部で加熱してホルダ15上の付着物を除去した。ホルダ15を反応室10から搬出したのち、6インチシリコンウェハWをホルダ15に載置し、ホルダ15とウェハWを反応室10に搬入した。
【0128】
第2の実施形態と同様の手順でウェハW上に、第2の実施形態と同様に、バッファ層としてAlN膜とAlGaN膜を成長したのち、GaNチャネル層、AlN膜(設計膜厚1nm)、InAlNバリア層(設計膜厚10nm)を成長した。ただし、バッファ層、チャネル層、及びチャネル層上のAlN膜の成長時には水素と窒素の混合ガスをキャリアガスとした。またInAlNバリア層の成長時には窒素ガスをキャリアガスとした。
【0129】
こうして作製した8枚のウェハはいずれも表面のくもりは認められず、良質な膜が形成されていることが確認された。これらの8枚のウェハについてX線回折によりInAlNの半径方向(半径0、20、40、60、及び70mm)の膜厚分布を評価した。各ウェハのInAlN膜の膜厚の平均値は10nm±0.2nmであった。8枚のウェハのすべての測定点(40点)に対しての平均値は9.89nm、標準偏差は0.2nmであった。
【0130】
これらの8枚のウェハについて表面欠陥を評価した(KLA-Tencor社製SurfScan6420)。ウェハ周辺の5mmを除外して、1枚当たりの欠陥個数は100個以下であった(欠陥サイズ0.7μm以上)。
【0131】
以上の結果は、良質なInAlN膜が再現性良く成長されていることを示している。
【0132】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。上記、実施形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、各実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもかまわない。
【0133】
また、実施形態では、プロセスガスが混合ガス室21に入る前に混合される場合を例に説明したが、プロセスガスが混合ガス室21の中で混合される構成であってもかまわない。
【0134】
また、実施形態では、ヒータとして、インヒータ24とアウトヒータ26の2種を備える場合を例に説明したが、ヒータは1種のみであっても構わない。
【0135】
また、基板を一枚ずつ成膜処理する枚葉式の反応室を例に挙げて説明したが、サセプタ上に多数枚のウェハを載置し、同時に成膜処理をするものについても適用可能である。
【0136】
実施形態では、装置構成や製造方法等、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や製造方法等を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての気相成長方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0137】
10 反応室
図1
図2
図3
図4