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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】排気システムおよび排気方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/10 20220101AFI20221122BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20221122BHJP
   B01D 53/46 20060101ALI20221122BHJP
   F01N 3/05 20060101ALI20221122BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B01F23/10 ZAB
B01F25/10
B01D53/46
F01N3/05
G03F7/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019186629
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021062316
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】松島 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 一知
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-115753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0192139(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109004252(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-0778566(KR,B1)
【文献】特開2019-027776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/10
B01F 25/00 - 25/96
B01D 53/34 - 53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
G03F 7/20 - 7/24
F01N 3/00 - 3/38
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを含む排ガスが流れる排気ラインに接続される排気システムであって、
前記排気ラインから分岐し、入口バルブが配置された入口ラインと、
前記入口ラインに連結され、円筒形状部を有するバッファタンクと、
前記バッファタンクの下部に連結され、第1出口バルブが配置された出口ラインと、
前記入口ラインを前記出口ラインに連結し、バイパスバルブが配置されたバイパスラインと、
前記バッファタンクの上部から前記パイパスラインまたは前記出口ラインまで延び、第2出口バルブが配置された水素排出ラインと、
前記バッファタンクにパージガスを供給するパージラインと、
前記出口ラインに連結され、希釈ガス導入バルブが配置された希釈ガスラインと、
前記入口バルブ、前記第1出口バルブ、前記第2出口バルブ、前記バイパスバルブ、および前記希釈ガス導入バルブの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記バイパスラインは、前記入口ラインで前記入口バルブの上流側に設けられた分岐点から延びて、前記第1出口バルブの下流側に設けられた連結点で前記出口ラインに連結され、
前記入口ラインは、前記バッファタンクの接線方向に前記排ガスを導入するように、前記円筒形状部の上部に連結され、
前記制御装置は、
前記排気ラインに配置された主バルブが閉じられると、前記入口バルブ、および前記第1出口バルブを少なくとも開く、初期排気動作を実行し、
前記初期排気動作を所定時間実行した後で、前記入口バルブおよび前記第1出口バルブを閉じて、前記バイパスバルブ、前記第2出口バルブ、および前記希釈ガス導入バルブを開く水素排気動作を実行することを特徴とする排気システム。
【請求項2】
前記バッファタンクの内周面には、螺旋状に延びる案内板が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
前記バッファタンクの円筒形状部は、その上端から下端に向かって徐々に大きくなる直径を有する円錐台形状部として形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の排気システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記初期排気動作中に、前記希釈ガス導入バルブをさらに開くことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項5】
前記排ガスは、EUV露光装置から排出される排ガスであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項6】
主バルブが配置された排気ラインを流れる排ガスに含まれる水素ガスを不活性ガスで爆発下限界以下の濃度まで希釈して排気する方法であって、
前記主バルブが閉じられると、前記排気ラインを流れる排ガスをバッファタンクの接線方向に導入して、該バッファタンク内に排ガスの旋回流を形成しつつ、前記バッファタンクの下部から前記排ガスに含まれる水素ガスよりも重いガスを排出する初期排気動作を実行し、
前記初期排気動作を所定時間実行した後で、前記バッファタンクにパージラインを介して供給されるパージガスの流量に応じて、前記バッファタンクの上部から前記水素ガスを排出する水素排気動作を実行することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記初期排気動作は、
前記排気ラインから分岐する入口ラインに配置される入口バルブと、前記バッファタンクの下部に連結された出口ラインに配置された第1出口バルブと、を開く動作であり、
前記水素排気動作は、前記入口バルブおよび前記第1出口バルブを閉じて、前記入口ラインを前記出口ラインに連結するバイパスラインに配置されたバイパスバルブと、前記バッファタンクの上部から前記バイパスラインまたは前記出口ラインまで延びる水素排出ラインに配置された第2出口バルブと、前記出口ラインに連結された希釈ガスラインに配置された希釈ガス導入バルブと、を開く動作であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記初期排気動作中に、前記希釈ガス導入バルブをさらに開くことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記排ガスは、EUV露光装置から排出される排ガスであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを爆発下限界以下の濃度になるまで希釈して大気放出する排気システムおよび排気方法に関し、特に、大量の水素ガスを処理する排ガス処理装置が停止したときに、水素ガスを爆発下限界以下の濃度になるまで緊急的に希釈して大気放出するための排気システムおよび排気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、高いエネルギー効率を有する一方で、利用時に温室効果ガス(例えば、二酸化炭素)を排出しないという利点を有するため、様々な工業分野(例えば、石油精製、半導体製造、金属製造、ガラス製造、および食品製造など)で広く利用されている。さらに、今後は、石油などの化石燃料に代わる主要なエネルギー源として水素を使用する所謂「水素エネルギー社会」が構築されていく可能性もある。大量の水素ガスが消費される水素エネルギー社会を実現するためには、水素ガス製造プラント、水素ガス貯蔵所、および水素ガス充填所などの水素ガス関連設備が多数必要となる。
【0003】
さらに、近年、13.5nmの短波長でウエハなどの基板の露光処理を実行するEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)露光装置が実用化されようとしている。EUV露光装置は超精密機器であり、特に光学系への異物の進入によって性能が急激に低下する。EUV露光装置はEUVを発生させる光源部と、光源部で発生させたEUVで基板の露光を行う露光部から構成されており、光源部ではターゲットへのレーザー照射によって生成するスズ(Sn)の酸化物が、露光部では感光性物質(レジスト)から脱離する有機物質が、それぞれ代表的な汚染源として知られている。
【0004】
これらへの汚染対策として、水素ガスを用いる方法がある。光源部では水素ガスを数百L/分使用してスズの酸化物をガス状の水素化物として除去し、また露光部では同じく水素ガスを数十L/分使用して有機物質をガス化させて除去する。使用された水素ガスは大半が未反応ではあるが、除去された汚染物質のキャリアとして装置から排出される。したがって、EUV露光装置からは数百L/分という大量の水素ガスを含む排ガスが排出されることになる。
【0005】
EUV露光装置から排出される排ガスを処理するための装置として、火炎に排ガスを接触させて燃焼処理する燃焼式排ガス処理装置が検討されている。EUV露光装置から排出される排ガスには大量の水素ガスが含まれているため、別途燃料を供給することなく、支燃性ガス(例えば、空気などの酸素含有ガス)を供給するだけで排ガスを燃焼処理できる。そのため、EUV露光装置の下流側に、燃焼式排ガス処理装置を配置して、水素ガスを低コストで燃焼処理することが期待されている。
【0006】
このように様々な技術分野で利用されている水素ガスは、反応性に富む物質であり、単位質量あたりの熱量が大きいという特徴も有している。そのため、水素製造プラント、水素ガス充填所、および燃焼式排ガス処理装置などの大量の水素ガスを取り扱う設備に不具合が発生して、大量の水素ガスが大気放出されると、大規模な火災が発生することが懸念される。例えば、大量の水素ガスを含む排ガスを燃焼処理している排ガス処理装置で失火などの不具合が発生して停止すると、大量の水素ガスが燃焼処理されずにそのまま大気放出されてしまう。この場合、空気中の酸素と混合された水素ガスが発火し、排ガス処理装置が設置される工場に火災が発生するおそれがある。
【0007】
そこで、大量の水素ガスを取り扱う設備に不具合が発生したときに、水素ガスを爆発下限界(燃焼下限界とも称される)以下の濃度まで希釈ガス(例えば、窒素ガスなどの不活性ガス)で希釈してから大気放出する排気システムが従来から用いられている。本明細書では、排気システムで処理されるべき水素ガスを含むガスを「排ガス」と総称する。水素ガスは、それ自体に毒性がないため、その濃度を爆発下限界以下まで低減すれば、安全に大気放出することができる。
【0008】
従来の排気システムは、例えば、大量の水素ガスを含む排ガスを緊急的に受け入れるバッファタンクと、バッファタンクに接続された排気ラインと、排気ラインに配置された流量調整器(例えば、オリフィス、ニードルバルブ、またはマスフローコントローラーなど)とを含んでいる。大量の水素ガスを取り扱う設備に不具合が発生すると、大量の水素ガスを含む排ガスをバッファタンクに導入し、さらに、バッファタンクに貯められた排ガスを、流量調整器を用いて所定の流量に制限しつつ排気ラインに排出する。さらに、排気ラインを流れる排ガスに、希釈ガスを混合して、これにより、排ガスに含まれる水素ガスの濃度を爆発下限界以下まで低減してから大気放出する。希釈ガスとして窒素ガスなどの低廉な不活性ガスを用いれば、大量の水素ガスを比較的低コストで安全に大気放出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-47550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、排気ラインにおける排ガスの流量を流量調整器で制限しつつ、バッファタンクに大量の排ガスを導入すると、バッファタンク内の排ガスの圧力が増加してしまう。この場合、バッファタンクの上流側に配置された装置に過大な背圧が作用してしまうおそれがある。例えば、バッファタンクの上流側に配置されたEUV露光装置のドライポンプに過大な背圧がかかり、該ドライポンプを停止させてしまう。ドライポンプが停止すると、EUV露光装置の光源部および露光部に大気が侵入し、光源部および露光部が汚染されることがある。この場合、EUV露光装置が長時間停止してしまう。
【0011】
バッファタンク内の排ガスの圧力の上昇を抑制する対策の一例は、バッファタンクに導入される排ガスの流量に対して十分な大きさを有する巨大なバッファタンクを用意することである。しかしながら、装置のフットプリントの減少が常に求められる産業界の現状を考慮すると、巨大なバッファタンクを排気システムに設けるのは困難である。
【0012】
バッファタンク内の排ガスの圧力の上昇を抑制する対策の他の例は、流量調整器を省略して、バッファタンクから排出される排ガスの流量をバッファタンクに導入される排ガスの流量と一致させることである。しかしながら、この場合、排ガスに含まれる水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈する希釈ガスの流量も増加してしまう。すなわち、水素ガスを処理するために大量の希釈ガスが必要となり、その結果、水素ガスの処理コストの上昇が懸念される。
【0013】
そこで、本発明は、バッファタンク内の排ガスの圧力の上昇を防止しつつ、大量の希釈ガスを必要とせずに水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈することが可能な排気システムおよび排気方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者らは、排ガスに含まれる大量の水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈可能な排気システムについて鋭意研究した結果、以下の知見を得て、本発明を完成するに至った。すなわち、水素ガス、および水素ガスよりも重いガス(例えば、窒素ガス)を含む混合ガスを円筒形状部を有するバッファタンクの上部で、かつ該バッファタンクの内周面の接線方向に向けて導入すると、水素ガスはバッファタンクの上部に滞留し、水素ガスよりも重いガスのみがバッファタンクの下部に向かって移動(拡散)するということを見いだした。さらに、本件発明者らは、バッファタンク内の排ガスを排出する2つの排出ラインを、該バッファタンクの下部と上部にそれぞれ設け、各排出ラインに設けられたバルブの開閉動作を適宜に制御することで、バッファタンクから水素ガスと、水素ガスよりも重いガスとを選択的に排出できることを見いだした。
【0015】
上記知見に鑑み、一態様では、水素ガスを含む排ガスが流れる排気ラインに接続される排気システムであって、前記排気ラインから分岐し、入口バルブが配置された入口ラインと、前記入口ラインに連結され、円筒形状部を有するバッファタンクと、前記バッファタンクの下部に連結され、第1出口バルブが配置された出口ラインと、前記入口ラインを前記出口ラインに連結し、バイパスバルブが配置されたバイパスラインと、前記バッファタンクの上部から前記パイパスラインまたは前記出口ラインまで延び、第2出口バルブが配置された水素排出ラインと、前記バッファタンクにパージガスを供給するパージラインと、前記出口ラインに連結され、希釈ガス導入バルブが配置された希釈ガスラインと、前記入口バルブ、前記第1出口バルブ、前記第2出口バルブ、前記バイパスバルブ、および前記希釈ガス導入バルブの動作を制御する制御装置と、を備え、前記バイパスラインは、前記入口ラインで前記入口バルブの上流側に設けられた分岐点から延びて、前記第1出口バルブの下流側に設けられた連結点で前記出口ラインに連結され、前記入口ラインは、前記バッファタンクの接線方向に前記排ガスを導入するように、前記円筒形状部の上部に連結され、前記制御装置は、前記排気ラインに配置された主バルブが閉じられると、前記入口バルブ、および前記第1出口バルブを少なくとも開く、初期排気動作を実行し、前記初期排気動作を所定時間実行した後で、前記入口バルブおよび前記第1出口バルブを閉じて、前記バイパスバルブ、前記第2出口バルブ、および前記希釈ガス導入バルブを開く水素排気動作を実行することを特徴とする排気システムが提供される。
【0016】
一態様では、前記バッファタンクの内周面には、螺旋状に延びる案内板が配置されている。
一態様では、前記バッファタンクの円筒形状部は、その上端から下端に向かって徐々に大きくなる直径を有する円錐台形状部として形成されている。
一態様では、前記制御部は、前記初期排気動作中に、前記希釈ガス導入バルブをさらに開く。
一態様では、前記排ガスは、EUV露光装置から排出される排ガスである。
【0017】
一態様では、主バルブが配置された排気ラインを流れる排ガスに含まれる水素ガスを不活性ガスで爆発下限界以下の濃度まで希釈して排気する方法であって、前記主バルブが閉じられると、前記排気ラインを流れる排ガスをバッファタンクの接線方向に導入して、該バッファタンク内に排ガスの旋回流を形成しつつ、前記バッファタンクの下部から前記排ガスに含まれる水素ガスよりも重いガスを排出する初期排気動作を実行し、前記初期排気動作を所定時間実行した後で、前記バッファタンクにパージラインを介して供給されるパージガスの流量に応じて、前記バッファタンクの上部から前記水素ガスを排出する水素排気動作を実行することを特徴とする方法が提供される。
【0018】
一態様では、前記初期排気動作は、前記排気ラインから分岐する入口ラインに配置される入口バルブと、前記バッファタンクの下部に連結された出口ラインに配置された第1出口バルブと、を開く動作であり、前記水素排気動作は、前記入口バルブおよび前記第1出口バルブを閉じて、前記入口ラインを前記出口ラインに連結するバイパスラインに配置されたバイパスバルブと、前記バッファタンクの上部から前記バイパスラインまたは前記出口ラインまで延びる水素排出ラインに配置された第2出口バルブと、前記出口ラインに連結された希釈ガスラインに配置された希釈ガス導入バルブと、を開く動作である。
【0019】
一態様では、前記初期排気動作中に、前記希釈ガス導入バルブをさらに開く。
一態様では、前記排ガスは、EUV露光装置から排出される排ガスである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、初期排気動作中にバッファタンクに導入される排ガスに含まれる水素ガスは、該バッファタンクの上部に滞留し、バッファタンクの下部からは水素ガスよりも重たいガス(例えば、窒素ガス)が排出される。一方で、バッファタンクの上部に溜められた水素ガスは、初期排気動作の後で実行される水素排気動作で、パージラインから供給されたパージガスの流量に応じて水素排出ラインを介して出口ラインに排出される。したがって、希釈ラインから供給される希釈ガスの流量は、パージガスの流量に相当する水素ガスを爆発下限界以下の濃度に希釈するのに十分な量であればよく、その結果、希釈ガスの量を大幅に低減することができる。
さらに、本発明によれば、バッファタンクから排出される排ガスの流れを妨げる機器を出口ラインに設ける必要がないので、バッファタンクの上流側に設けられた機器に過大な背圧がかかることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態に係る排気システムを示す模式図である。
図2図2(a)は、入口ラインとバッファタンクの本体との接続部分の概略断面図であり、図2(b)は、バッファタンクに形成された排ガスの旋回流を示す模式図である。
図3図3は、シミュレーションで用いられた排気システムのバッファタンクを示す模式図である。
図4図4は、シミュレーション開始から5秒経過後のバッファタンク内の水素ガス濃度分布を表すシミュレーション結果を示す図である。
図5図5は、シミュレーション開始から25秒経過後のバッファタンク内の水素ガス濃度分布を表すシミュレーション結果を示す図である。
図6図6(a)は、シミュレーション開始から所定の遅延時間が経過するまでの間にバッファタンクから出口ラインに排出された排ガスに含まれる水素濃度の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフであり、図6(b)は、所定の遅延時間に到達してから20秒が経過するまでの間にバッファタンクから出口ラインに排出された排ガスに含まれる水素濃度の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフである。
図7図7(a)は、シミュレーション開始から所定の遅延時間が経過するまでの間にバッファタンク内の排ガスの圧力の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフであり、図7(b)は、所定の遅延時間に到達してから20秒が経過するまでの間にバッファタンク内の排ガスの圧力の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフである。
図8図8は、排ガス処理装置の正常運転時における排気システムの複数のバルブの開閉状態を示す図である。
図9図9は、第1排気動作中の排気システムの複数のバルブの開閉状態を示す図である。
図10図10は、第2排気動作中の排気システムの複数のバルブの開閉状態を示す図である。
図11図11は、第3排気動作中の排気システムの複数のバルブの開閉状態を示す図である。
図12図12(a)は、バッファタンクの変形例を示す模式図であり、図12(b)は、バッファタンクの他の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係る排気システムを示す模式図である。この排気システム1は、排ガスに含まれる大量の水素ガスを爆発下限界(4%)以下の濃度に希釈して大気放出するシステムである。図1に示す例では、排気システム1は、EUV露光装置50から排出された排ガスを処理する排ガス処理装置52が停止したときに、該排ガスに含まれる大量の水素ガスを大気に放出可能な爆発下限界以下の濃度に希釈する緊急排気システムとして機能する。しかしながら、本発明は、図1に示す例に限定されない。例えば、排気システム1を、水素ガス製造プラント、水素ガス貯蔵所、および水素ガス充填所などの大量の水素ガスを取り扱う設備に設けてもよい。この場合、設備から大量の水素ガスを排出する際に、排気システム1を用いて、水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈してから大気放出する。
【0023】
図1に示すように、EUV露光装置50には、水素ガスとベースガス(窒素ガス)とが供給される。ベースガスは、水素ガスよりも重い(すなわち、水素ガスよりも大きな比重を有する)ガスであり、本実施形態では、窒素ガスである。EUV露光装置50は、EUVを発生させる光源部(図示せず)と、光源部で発生させたEUVでウエハなどの基板の露光を行う露光部(図示せず)とを有しており、これら光源部と露光部に水素ガスとベースガスの混合ガスがそれぞれ供給される。
【0024】
光源部に供給される混合ガスには、例えば、数百L/分の流量を有する水素ガスが含まれており、該水素ガスは、光源部で発生したスズの酸化物をガス状の水素化物として除去するために利用される。露光部に供給される混合ガスには、例えば、数十L/分の流量を有する水素ガスが含まれており、該水素ガスは、露光部で発生した有機物質をガス化して除去するために利用される。EUV露光装置50の光源部と露光部とに供給された水素ガスは、その大半が未反応であり、したがって、EUV露光装置50から排出される排ガスには、大量の水素ガスが含まれる。
【0025】
さらに、EUV露光装置50は、光源部と露光部とを真空に排気する複数のドライポンプ51を備えている。これらドライポンプ51にも、ポンプパージガスとして窒素ガスが供給される。ドライポンプ51によってEUV露光装置50から排出された水素ガスおよび窒素ガス(ベースガスおよびポンプパージガス)を含む排ガスは、EUV露光装置50から排気ライン55を通って排ガス処理装置52に送られる。排気ライン55は、EUV露光装置50から排ガス処理装置52まで延びている。
【0026】
排ガス処理装置52は、燃焼式排ガス処理装置であるのが好ましい。EUV露光装置50から排出される排ガスには大量の水素ガスが含まれている。そのため、燃焼式排ガス処理装置は、別途燃料を供給することなく、支燃性ガス(例えば、空気などの酸素含有ガス)を供給するだけで水素ガスを燃焼処理できる。本実施形態では、排ガス処理装置52の下流側には、湿式スクラバーが設けられており、排ガス処理装置52で水素ガスが除去された排ガスは、湿式スクラバーに送られる。一実施形態では、排ガス処理装置52から排出された排ガスを、湿式スクラバーなどの他の装置に送らずに、そのまま大気放出してもよい。
【0027】
排ガス処理装置52に失火などの不具合が発生して停止すると、排ガス処理装置52は、直ちにEUV露光装置50に異常信号を送信する。異常信号を受け取ったEUV露光装置50は、所定の遅延時間経過後(例えば、異常信号を受け取ってから5秒経過後)に、光源部および露光部への水素ガスおよびベースガス(窒素ガス)の供給を遮断する。所定の遅延時間は、例えば、光源部に配置された光源、および露光部内の基板を保護するために設定される時間であり、EUV露光装置50の制御部(図示せず)に予め記憶されている。したがって、排ガス処理装置52が停止しても、所定の遅延時間が経過するまで、大量の水素ガスを含む排ガスがEUV露光装置50から排気ライン55に排出される。
【0028】
さらに、EUV露光装置50への水素ガスと窒素ガスとの供給が遮断されても、EUV露光装置50および排気ライン55には、大量の水素ガスを含む排ガスが残留している。所定の遅延時間が経過するまでEUV露光装置50から排出される排ガス、および所定の遅延時間経過後にEUV露光装置50および排気ライン55に残留する排ガスをそのまま大気放出すると、EUV露光装置50が配置される工場に火災が発生するおそれがある。そのため、排ガス処理装置52が停止すると、排気ライン55を流れる排ガスを排気システム1に導入して、該排ガスに含まれる大量の水素ガスを大気に放出可能な爆発下限界以下の濃度に希釈する。以下、排気システム1の具体的な構成について説明する。
【0029】
図1に示す排気システム1は、排気ライン55の途中から分岐する入口ライン2と、入口ライン2の末端に連結されるバッファタンク5と、バッファタンク5の下部に連結される出口ライン7と、入口ライン2を出口ライン7に連結するバイパスライン10と、バッファタンク5の上部から延びる水素排出ライン15と、出口ライン7に連結される希釈ガスライン17と、を備える。入口ライン2は、分岐点P1で排気ライン55から分岐し、バッファタンク5の上部に連結される。排気ライン55には、主バルブ57が配置されており、分岐点P1は、排気ライン55で主バルブ57の上流側に設けられる。排ガス処理装置52が稼働している間は、主バルブ57は開かれており、EUV露光装置50から排出される排ガスは、排気ライン55を通って排ガス処理装置52に送られる。
【0030】
入口ライン2には入口バルブ11が配置され、出口ライン7には第1出口バルブ12が配置される。出口ライン7は、バッファタンク5の下部から上記湿式スクラバーまで延びている。一実施形態では、出口ライン7の末端を大気に開放して、出口ライン7を通ったガスを大気放出してもよい。バイパスライン10は、入口ライン2で入口バルブ11の上流側に配置された分岐点P2から延びて、第1出口バルブ12の下流側に設けられた連結点P3で出口ライン7に連結される。バイパスライン10には、バイパスバルブ18が配置されている。
【0031】
排気システム1は、バッファタンク5にパージガスを供給するためのパージライン21をさらに備えている。本実施形態では、パージガスは、EUV露光装置50に供給されるベースガスと同じ窒素ガスである。図1に示すパージライン21は、入口ライン2に設けられた連結点P4で入口ライン2に連結されており、この連結点P4は、入口ライン2で入口バルブ11の下流側に位置している。本実施形態では、パージガスは、パージライン21から入口ライン2を介してバッファタンク5に常に供給されており、バッファタンク5は、パージガスによって満たされている。
【0032】
図1に示すバッファタンク5は、円筒形状を有する本体5aと、本体5aの上部開口を塞ぐ上蓋5bと、本体5aの下部開口を塞ぐ下蓋5cとから構成される。本体5aは、バッファタンク5の円筒形状部であり、上蓋5bは上に凸のドーム形状を有し、下蓋5cは下に凸のドーム形状を有する。一実施形態では、上蓋5および下蓋5は平板形状であってもよい。本実施形態では、上蓋5および下蓋5cは溶接などで本体5aの上端および下端に固定されている。一実施形態では、上蓋5および下蓋5cを、本体5aと一体に形成してもよい。出口ライン7は、バッファタンク5の下部から延びる。本実施形態では、出口ライン7は、バッファタンク5の最下端部、すなわち、下蓋5cの中央部から延びている。
【0033】
水素排出ライン15は、バッファタンク5の上部からバイパスライン10まで延びる。本実施形態では、水素排出ライン15は、バッファタンク5の最上端部、すなわち、上蓋5の中央部からバイパスライン10に設けられた連結点P5まで延びている。連結点P5は、バイパスライン10でバイパスバルブ18の下流側に設けられる。水素排出ライン15には、第2出口バルブ16が配置されている。一実施形態では、水素排出ライン15は、出口ライン7で第1出口バルブ12の下流側に連結されてもよい。
【0034】
希釈ライン17は、連結点P3の下流側に設けられた連結点P6で出口ライン7に連結される。希釈ライン17には、希釈ガス導入バルブ19が配置されており、希釈ガス導入バルブ19を開くと、希釈ライン17を流れる希釈ガスが出口ライン7に導入される。本実施形態では、希釈ガスも、比較的低廉な不活性ガスである窒素ガスである。
【0035】
排気システム1は、入口バルブ11、第1出口バルブ12、第2出口バルブ16、バイパスバルブ18、および希釈ガス導入バルブ19に接続された制御装置25をさらに備えている。制御装置25は、これらバルブ11,12,16,18,19の開閉動作を独立して制御可能に構成される。本実施形態では、制御装置25は排気ライン55に配置された主バルブ57にも接続されており、主バルブ57の開閉動作も制御可能である。一実施形態では、制御装置25は、主バルブ57の開信号および/または閉信号を受信可能に構成されていてもよい。この場合、主バルブ57の開閉動作は、制御装置25とは別の制御装置(例えば、排ガス処理装置52の制御装置)によって制御される。
【0036】
さらに、制御装置25は、排ガス処理装置52にも接続されており、排ガス処理装置52から発せられる異常信号を受信可能に構成される。排ガス処理装置52は、例えば、失火などの不具合が発生して停止したときに異常信号を生成し、この異常信号を制御装置25に送信する。
【0037】
図2(a)は、入口ライン2とバッファタンク5の本体(円筒形状部)5aとの接続部分の概略断面図であり、図2(b)は、バッファタンク5に形成された排ガスの旋回流を示す模式図である。図2(a)に示すように、入口ライン2は、本体5aの内周面の接線方向に向けて排ガスを導入するように、バッファタンク5の本体(円筒形状部)5aの上部に連結される。排ガスをバッファタンク5の本体5aの接線方向に導入すると、図2(b)に示すように、バッファタンク5の本体5aの内部には、該本体5aの内周面に沿った排ガスの旋回流が形成される。
【0038】
本件発明者らは、排ガスに含まれる大量の水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈可能な排気システムについて鋭意研究した結果、以下の知見を得た。すなわち、排ガスをバッファタンク5の接線方向に向けて導入し、バッファタンク5内に排ガスの旋回流を形成させると、排ガスに含まれる水素ガスは、バッファタンク5の上部に滞留する一方で、水素ガスよりも重い残りのガス(本実施形態では、ベースガスおよびポンプパージガスとして用いられる窒素ガス)がバッファタンク5の下部に向けて移動(拡散)することを見いだした。以下では、この知見について詳細に説明する。
【0039】
最初に、本件発明者らは、図1に示す排気システム1を模したシミュレーションを行った。図3は、シミュレーションで用いられた排気システムのバッファタンクを示す模式図である。図3において、図1に示す排気システム1の構成要素と同一または対応する構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。本シミュレーションでは、EUV露光装置50から排出される排ガスをバッファタンク5の本体5aの接線方向に導入したときのバッファタンク5内の水素ガスの濃度分布を解析した。さらに、このシミュレーションでは、バッファタンク5の下部から出口ライン7に排出された排ガスに含まれる水素ガスの濃度、およびバッファタンク5内の排ガスの圧力変化も解析された。
【0040】
本シミュレーションの条件は、以下の通りである。
(1)バッファタンク5の容積:800L
(2)バッファタンク5の本体5aの高さ(鉛直方向の長さ):1350mm
(3)入口ライン2に導入される排ガスの流量:
(a)0-5[sec]→810[slm]
(b)5-25[sec]→250[slm]
(4)排ガスに含まれる水素ガスの流量:
(a)0-5[sec]→560[slm]
(b)5-25[sec]→172.8[slm]
(5)排ガスに含まれる窒素ガスの流量:
(a)0-5[sec]→250[slm]
(b)5-25[sec]→77.2[slm]
(6)パージガス(窒素ガス)の流量:2[slm]
(7)希釈ガスの流量:600[slm]
(8)出口ライン7の末端:大気開放
出口ライン7の末端が大気開放されるため、排ガスが導入される前のバッファタンク5内のガスの圧力は、大気圧である。
【0041】
上述したように、排ガス処理装置52の異常信号を受信したEUV露光装置50は、異常信号を受信してから所定の遅延時間経過後に光源部および露光部への水素ガスとベースガス(窒素ガス)の供給を遮断する。本シミュレーションでは、所定の遅延時間を5秒に設定した。したがって、シミュレーションを開始してから5秒(遅延時間)が経過するまでの間は、バッファタンク5に導入される排ガスに含まれる水素ガスの流量は、EUV露光装置50に供給される水素ガスの流量と同一であり、本シミュレーションでは、560[slm(標準L/分)]に設定された(上記シミュレーション条件(4)の(a)参照)。
【0042】
さらに、所定の遅延時間が経過して、EUV露光装置50への水素ガスとベースガスの供給が遮断されても、EUV露光装置50と排気ライン55には、大量の水素ガスを含む該ガスが残留している。本シミュレーションでは、所定の遅延時間経過後から20秒が経過するまでの間(すなわち、シミュレーション開始を起点とした場合に5秒から25秒の間)にバッファタンク5に導入される水素ガスの流量を172.8[slm]に設定した(上記シミュレーション条件(4)の(b)参照)。本シミュレーションでは、シミュレーション開始から25秒が経過したときに、EUV露光装置50と排気ライン55に残留する排ガスに含まれる水素ガスが完全にバッファタンク5に導入されると仮定している。
【0043】
シミュレーションを開始してから5秒(遅延時間)が経過するまでの間にバッファタンク5に導入される排ガスに含まれる窒素ガスの流量は、EUV露光装置50に供給される窒素ガスの流量と、ドライポンプ51にポンプパージガスとして供給される窒素ガスの流量の合計値である。本シミュレーションでは、この窒素ガスの流量を250[slm]に設定した(上記シミュレーション条件(5)の(a)参照)。所定の遅延時間が経過すると、EUV露光装置50への窒素ガスの供給が遮断されるので、排ガスに含まれる窒素ガスの流量は、ドライポンプ51にポンプパージガスとして供給される窒素ガスの流量と同一である。本シミュレーションでは、この窒素ガスの流量を77.2[slm]に設定した(上記シミュレーション条件(5)の(b)参照)。
【0044】
さらに、入口ライン2には、パージライン21からパージガスが常に供給され、このパージガスもバッファタンク5に導入される。本シミュレーションでは、パージガスを窒素ガスに設定し、該パージガスの流量を2[slm]に設定した。
【0045】
図4は、シミュレーション開始から5秒経過直後(すなわち、所定の遅延時間経過直後)のバッファタンク5内の水素ガス濃度分布を表すシミュレーション結果を示す図であり、図5は、シミュレーション開始から25秒経過後のバッファタンク5内の水素ガス濃度分布を表すシミュレーション結果を示す図である。図5に示すシミュレーション結果は、EUV露光装置50と排気ライン55に残留する水素ガスが完全にバッファタンク5に導入された直後の水素ガス濃度分布を表す。
【0046】
図4および図5に示すシミュレーション結果から、バッファタンク5の上部ほど水素ガスの濃度が高まり、バッファタンク5の下部に向かって、水素ガスの濃度が低下することがわかった。図5に示すシミュレーション結果から明らかなように、シミュレーション開始から25秒経過後でも、バッファタンク5の下部における水素ガスの濃度は、ほぼ0である。これらシミュレーション結果は、大量の水素ガスを含む排ガスをバッファタンク5の接線方向に導入すると、水素ガスのほとんどはバッファタンク5の上部に滞留し、窒素ガスのみがバッファタンク5の下部に向かって移動(拡散)することを示している。ただし、シミュレーション開始からの時間が経過するにつれて、水素ガスは、バッファタンク5の上部から下部に向けて徐々に拡散していくことがわかった。
【0047】
図6(a)は、シミュレーション開始から所定の遅延時間(5秒)が経過するまでの間にバッファタンク5から出口ライン7に排出された排ガスに含まれる水素濃度の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフであり、図6(b)は、所定の遅延時間に到達してから20秒が経過するまでの間にバッファタンク5から出口ライン7に排出された排ガスに含まれる水素濃度の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフである。図6(a)および図6(b)において、縦軸は水素ガス濃度を表し、横軸は時間を表す。図6(b)において、横軸の原点(すなわち、0[s])は、シミュレーションの開始を起点とすると5秒経過後の時間に相当する。したがって、図6(b)のグラフにおいて、横軸の目盛り20[s]は、シミュレーションの開始を起点とすると25秒経過後の時間に相当する。
【0048】
図6(a)に示すシミュレーション結果は、シミュレーション開始から1秒が経過したときに、水素ガスの濃度が1.17888E-39[%]のピーク値(最大値)をとることを示している。しかしながら、1.17888E-39[%]という水素ガスの濃度はほぼ0であり、シミュレーションには、解析誤差などが含まれることを考慮すると、出口ライン7を流れる排ガスには、水素ガスが含まれないと考えるのが妥当である。
【0049】
図6(b)に示すシミュレーション結果は、シミュレーション開始から23秒経過後に、水素ガスの濃度が徐々に上昇し始め、シミュレーション開始から25秒経過後に、水素ガスの濃度が6.37069E-13[%]の最大値をとることを示している。しかしながら、6.37069E-13[%]という水素ガスの濃度もほぼ0であり、シミュレーションには、解析誤差などが含まれることを考慮すると、出口ライン7を流れる排ガスには、水素ガスが含まれないと考えるのが妥当である。
【0050】
驚くべきことに、図4乃至図6(b)に示すシミュレーション結果は、大量の水素ガスを含む排ガスをバッファタンク5の接線方向に導入することで、水素ガスがバッファタンク5の上部に滞留し、水素ガスよりも重い窒素ガスのみがバッファタンク5の下部に向かって移動することを示している。本件発明者らは、シミュレーションによって得られた知見を確認するために、図1に示す排気システム1と同一の構成を有する実験用排気システムを実際に作成し、該実験用排気システムに上記シミュレーション条件と同一の条件を適用して、出口ライン7を流れる排ガス中の水素ガス濃度を測定する実験を行った。
【0051】
図1に仮想線(点線)で示すように、実験用排気システムは、出口ライン7を流れる排ガス中の水素ガスの濃度を測定するためのサンプルポートSPを有している。サンプルポートSPを介して、出口ライン7を流れる排ガスのサンプルを取り出すことができる。実験では、サンプルポートSPから排ガスのサンプルを採取し、このサンプル中の水素ガス濃度を水素ガス濃度測定器で測定した。実験で用いられた水素ガス濃度測定器の検出下限界は、0.1%である。
【0052】
この実験でも、バッファタンク5に排ガスを導入してから25秒経過するまでの間に、水素ガス濃度測定器は、水素ガスを検知できなかった。したがって、実験用排気システムを用いて実際に排ガスをバッファタンク5に導入する実験でも、バッファタンク5から出口ライン7に排出される排ガスに水素ガスが含まれないことが確認された。この実験結果は、上記シミュレーション結果が正しいことを裏付けている。
【0053】
排ガスをバッファタンク5の接線方向に導入すると、水素ガスのほとんどはバッファタンク5の上部に滞留し、窒素ガスのみがバッファタンク5の下部に向かって移動するという現象は、以下の理由に基づいて生じるものと推察される。
(1)窒素ガスは水素ガスよりも重い(すなわち、窒素ガスは、水素ガスよりも大きな比重を有する)ので、窒素ガスが充填されたバッファタンク5内の水素ガスの浮力は、排ガスに含まれる窒素ガスの浮力よりも大きい。
(2)水素ガスと窒素ガスとを含む排ガスを、バッファタンク5の接線方向に導入して、排ガスの旋回流を形成すると、水素ガスの浮力と窒素ガスの浮力との差に起因して、窒素ガスが水素ガスよりも先にバッファタンク5の下部に向かって移動(拡散)する。
(3)その結果、バッファタンク5内での水素ガスの鉛直方向下向きの拡散が妨げられる。
【0054】
従来から、流体(例えば、空気などの気体)に含まれる粉体を該流体から分離する装置としてサイクロン分離機が知られている。サイクロン分離機では、粉体が含まれる流体の旋回流をタンク内で形成し、流体よりも重たい粉体をタンクの内周面に押し付けることで、該粉体を流体から分離する。すなわち、サイクロン分離機では、流体に作用する遠心力と粉体に作用する遠心力との差を利用して、流体から粉体を分離している。
【0055】
上記サイクロン分離機の原理は、上記知見とは対照的である。すなわち、サイクロン分離機の原理にしたがえば、水素ガスよりも重たい窒素ガスがバッファタンク5の内周面に押し付けられて、バッファタンク5内での窒素ガスの拡散が妨げられるべきである。しかしながら、上記シミュレーションおよび実験では、窒素ガスよりも軽い水素ガスがバッファタンク5の上部に滞留する一方で、窒素ガスが優先的にバッファタンク5の下方に向けて拡散している。本件発明者らが見いだした上記知見は、サイクロン分離機の原理とは正反対であり、未だ報告されていない新規な知見である。
【0056】
図7(a)は、シミュレーション開始から所定の遅延時間(5秒)が経過するまでの間にバッファタンク5内の排ガスの圧力の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフであり、図7(b)は、所定の遅延時間に到達してから20秒が経過するまでの間にバッファタンク5内の排ガスの圧力の変化を表すシミュレーション結果を示すグラフである。図7(a)および図7(b)において、縦軸は排ガスの圧力を表し、横軸は時間を表す。図7(b)において、横軸の原点(すなわち、時間0[s])は、シミュレーションの開始を起点とすると5秒経過後の時間に相当する。したがって、図7(b)のグラフにおいて、横軸の目盛り20[s]は、シミュレーションの開始を起点とすると25秒経過後の時間に相当する。さらに、図7(a)および図7(b)の縦軸の目盛りは絶対圧で表されていることに注意すべきである。そのため、図7(a)および図7(b)において、大気圧を点線で示し、シミュレーションで解析された排ガスの圧力はゲージ圧に換算している。
【0057】
図7(a)に示すように、シミュレーション開始から0.01秒経過後に、バッファタンク5内の排ガスの圧力は、1139[PaG]まで上昇し、その後、189[PaG]の圧力で安定した。シミュレーション開始直後の圧力ピークは、バッファタンク5内に810[slm]の流量を有する排ガスが突然導入されたことに起因する。図7(b)に示すシミュレーション結果は、バッファタンク5内の排ガスの圧力が97[PaG]で安定することを示している。このように、図7(a)および図7(b)に示すシミュレーション結果は、バッファタンク5内の排ガスの圧力の上昇は非常に小さいことを示している。
【0058】
上述した実験用排気システム1を用いた実験でも、バッファタンク5内の排ガスの圧力はほぼ上昇しなかった。したがって、出口ライン7にバッファタンク5からの排ガスの円滑な排出を妨げる機器(例えば、流量調整器)を設けなければ、バッファタンク5の上流側に配置された機器(例えば、EUV露光装置50のドライポンプ51)に過度の背圧がかからないことがわかった。
【0059】
次に、図8乃至図11を参照して、図1に示す排気システム1を用いて大量の水素ガスを希釈して大気放出する方法を説明する。本方法は、バッファタンク5の接線方向に導入された排ガスに含まれる水素ガスがバッファタンク5の上部に滞留する一方で、水素ガスよりも重い窒素ガスはバッファタンク5の下部に移動(拡散)するという上記知見に基づいている。さらに、本方法では、バッファタンク5の下部と上部にそれぞれ設けられた出口ライン7および水素排出ライン15を用いて、バッファタンク5内の水素ガスと窒素ガスとを選択的に排出する。より具体的には、制御装置25が、出口ライン7および水素排出ライン15にそれぞれ設けられた第1出口バルブおよび第2出口バルブ16を含む排気システム1の複数のバルブの開閉動作を適宜に制御することで、バッファタンク5から水素ガスと、水素ガスよりも重い窒素ガスとを選択的に排出する。
【0060】
図8は、排ガス処理装置52の正常運転時における排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態を示す図である。図8において、白抜きのバルブは、開いている状態のバルブを表し、黒塗りのバルブは、閉じている状態のバルブを表す。後述する図9乃至図11でも同様に、白抜きのバルブは、開いている状態のバルブを表し、黒塗りのバルブは、閉じている状態のバルブを表す。
【0061】
図8に示すように、排ガス処理装置52が正常運転している間は、排気ライン55に配置された主バルブ57が開いており、一方で、排気システム1の入口バルブ11およびバイパスバルブ18は閉じられている。したがって、EUV露光装置50から排出される排ガスは、排気ライン55を介して排ガス処理装置52に供給され、排気システム1には導入されない。
【0062】
排ガス処理装置52が正常運転されている間、排気システム1の出口ライン7に配置された第1出口バルブ12は開かれており、水素排出ライン15に配置された第2出口バルブ16は閉じられている。したがって、パージガスライン21から入口ライン2を介してバッファタンク5の上部に供給されたパージガス(窒素ガス)は、該バッファタンク5を満たし、さらに、バッファタンク5の下部から出口ライン7を介して湿式スクラバーに排出される。パージガスの流量は、図示しない流量調整器(例えば、ニードルバルブ、またはマスフローコントローラー)によって所定の流量に調整されている。さらに、排気システム1の希釈ライン17に配置された希釈ガス導入バルブ19は閉じられており、出口ライン7への希釈ガスの導入を阻止している。
【0063】
図9は、第1排気動作中の排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態を示す図である。第1排気動作は、排ガス処理装置52が停止してから上記所定の遅延時間が経過するまでの間に実行される排気動作である。第1排気動作中、EUV露光装置50の光源部と露光部とには、通常の流量で水素ガスおよびベースガスが供給される。したがって、第1排気動作中は、排気システム1の入口ライン2に導入される排ガスには、EUV露光装置50に通常供給される流量の水素ガスとベースガスとが含まれている。
【0064】
図9に示すように、排ガス処理装置52が停止すると、主バルブ57が閉じられる。排気システム1の制御装置25は、主バルブ57が閉じられるのと同時に、入口ライン2に配置された入口バルブ11と、出口ライン7に配置された第1出口バルブ12を開いて、EUV露光装置50から排出される排ガスを排気システム1の入口ライン2に導入する。なお、本実施形態では、排ガス処理装置52の通常運転時も、第1出口バルブ12は開かれているので、制御装置25は、第1出口バルブ12を開いた状態に維持する。
【0065】
制御装置25は、バイパスバルブ18を閉じた状態に維持する。入口ライン2に導入された排ガスは、バッファタンク5の円筒形状部5aの接線方向に導入され、該バッファタンク5内で旋回流を形成する。上述したように、排ガスに含まれる水素ガスはバッファタンク5の上部に滞留する一方で、水素ガスよりも重い窒素ガスはバッファタンク5の下部に向けて移動する。制御装置25は、第2出口バルブ16を閉じた状態に維持して、排ガスに含まれる水素ガスがバッファタンク5の上部から水素排出ライン15を介して出口ライン7に排出されるのを阻止する。一方で、制御装置25は、第1出口バルブ12を開いた状態に維持し、排ガスに含まれる窒素ガスをバッファタンク5の下部から出口ライン7に排出する。
【0066】
本実施形態では、制御装置25は、入口バルブ11および第1出口バルブ12を開くのと同時に、希釈ガス導入バルブ19も開き、希釈ガス(窒素ガス)を希釈ガスライン17から出口ライン7に導入する。これにより、万が一少量の水素ガスがバッファタンク5の下部から出口ライン7に流れ出しても、高い濃度を有する水素ガスが湿式スクラバーまで到達することが防止される。
【0067】
図10は、第2排気動作中の排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態を示す図である。第2排気動作は、上記所定の遅延時間が経過した後で実行される排気動作であり、EUV露光装置50および排気ライン55に残留する水素ガスをバッファタンク5に受け入れるための排気動作である。第2排気動作中の排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態は、第1排気動作中の排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態と同一である。
【0068】
上述したように、所定の遅延時間が経過すると、EUV露光装置50は、ドライポンプ51の運転を継続しつつ、光源部と露光部への水素ガスおよびベースガスの供給を遮断する。したがって、排気システム1の入口ライン2には、EUV露光装置50および排気ライン55に残留する排ガスと、ドライポンプ51に供給されるポンプパージガス(窒素ガス)とが導入される。以下では、所定の遅延時間が経過した後に、EUV露光装置50および排気ライン55に残留する排ガスを「残留排ガス」と称する。残留排ガスにも大量の水素ガスが含まれている。
【0069】
制御装置25は、残留排ガスがバッファタンク5に導入されるまで、入口バルブ11、第1出口バルブ12、および希釈ガス導入バルブ19を開いた状態に維持し、バイパスバルブ18および第2出口バルブ16を閉じた状態に維持する。第2排気動作は、全ての残留排ガスがバッファタンク5に導入されるまで継続される。第2排気動作を実行する時間(第2排気動作の継続時間)は、EUV露光装置50の光源部および露光部の体積、および該光源部および露光部からバッファタンク5まで延びる配管の体積の合計値と、ドライポンプ51に供給されるポンプパージガスの流量とに基づいて算出される。例えば、第2排気動作の継続時間は、上記合計値をポンプパージガスの流量で除算することで得られる。このようにして得られた時間に、1以上の数値である安全率を乗算するか、または所定の時間を加算することにより、第2排気動作の継続時間を補正するのが好ましい。
【0070】
本明細書において、排ガス処理装置52が停止してから、EUV露光装置50に供給された全ての水素ガスがバッファタンク5に導入されるまでの間に実行される排気システム1のバルブ開閉動作を、「初期排気動作」と称する。すなわち、初期排気動作は、図9に示す第1排気動作と、図10に示す第2排気動作とによって構成される。
【0071】
図11は、第3排気動作中の排気システム1の複数のバルブ11,12,16,18,19の開閉状態を示す図である。第3排気動作は、バッファタンク5の上部に滞留する水素ガスをその濃度が爆発下限界以下の濃度になるまで希釈して排気システム1から排出する動作である。本明細書では、この第3排気動作を、「水素排気動作」と称する。
【0072】
水素排気動作は、初期排気動作を所定時間継続した後に実行される。初期排気動作の継続時間は、上記第1排気動作が行われる時間(すなわち、所定の遅延時間)と、上記第2排気動作を実行する時間(すなわち、上記第2排気動作の継続時間)との合計値に相当する。
【0073】
水素排気動作では、制御装置25は、入口バルブ11および第1出口バルブ12を閉じて、バイパスバルブ18、第2出口バルブ16、および希釈ガス導入バルブ19を開く。本実施形態では、希釈ガス導入バルブ19は、初期排気動作中に既に開かれているので、制御装置25は、希釈ガス導入バルブ19を開いた状態に維持する。
【0074】
水素排気動作中、入口ライン2に導入される排ガスは、ドライポンプ51に供給されたポンプパージガスを含むが、該排ガスは入口ライン2からバイパスライン10を通って出口ライン7に排出される。したがって、バイパスバルブ18を開くことにより、ドライポンプ51に過度の背圧がかかることが防止される。
【0075】
入口バルブ11および第1出口バルブ12が閉じられた状態で第2出口バルブ16を開くと、パージガスライン21からバッファタンク5に供給されるパージガスの流量に応じた排ガスが、バッファタンク5の上部から水素排出ライン15およびバイパスライン10を通って出口ライン7に排出される。出口ライン7に排出された水素ガスは、希釈ガスライン17から導入された希釈ガスによって爆発下限界以下の濃度まで希釈される。
【0076】
希釈ガスライン17から導入される希釈ガスの流量は、パージガスの流量に応じて決定される。より具体的には、水素ガスがパージガスと同じ流量でバッファタンク5から排出されると仮定して、希釈ガスの流量を算出する。これにより、バッファタンク5から排出される水素ガスを確実に爆発下限界以下の濃度に希釈することができる。例えば、パージガスの流量が2L/分である場合、2L/分の流量を有する水素ガスがバッファタンク5から水素排出ライン15に排出されると仮定する。この場合、水素ガスの爆発下限界(4%)以下の濃度に希釈するための希釈ガスの流量は、50L/分である。
【0077】
排ガスをバッファタンクの接線方向に導入しない従来の排気システムの場合、排ガスに含まれる水素ガスは、窒素ガスとともにバッファタンク内に拡散する。すなわち、バッファタンクから排出される排ガスに含まれる水素ガスの濃度は、バッファタンクに導入される前の排ガスに含まれる水素ガスの濃度と同一である。さらに、従来の排気システムで、バッファタンクの上流側に配置された装置に過大な背圧が作用するのを防止するために、流量調整器を省略すると、バッファタンクから排出される排ガスの流量は、バッファタンクに導入される排ガスの流量と同一になる。この場合、希釈ガスの流量は、本実施形態における希釈ガスの流量よりも遙かに大きくなる。一例として、上記シミュレーション条件を参照すると、所定の遅延時間の間にバッファタンクに導入され、該バッファタンクから排出される水素ガスの流量は、560L/分である。この場合、水素ガスを爆発下限界以下の濃度まで希釈するためには、14,000L/分(14m/分)の流量を有する希釈ガスが必要となる。
【0078】
本実施形態によれば、排気システム1で要求される希釈ガスの流量(上記例では、50L/分)は、従来の排気システムで要求される希釈ガスの流量(上記例では、14,000L/分)よりも遙かに少ない。したがって、さらなる安全を図るために、水素ガスを爆発下限界よりも遙かに小さい濃度まで希釈しても、希釈ライン17から出口ライン7に供給される希釈ガスの流量が従来の排気システムで要求される希釈ガスの流量を超えることがない。例えば、水素ガスを爆発下限界の0.1倍(0.4%)の濃度に希釈する場合でも、パージガスの流量が2L/分であれば、要求される希釈ガスの流量は、500L/分である。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、排気システム1は、バッファタンク5から排出される排ガスの流れを妨げる機器(例えば、従来の排気システムに設けられている流量調整器)を出口ライン7に設ける必要がない。そのため、バッファタンク5に導入される排ガスによって、バッファタンク5内の圧力がほとんど上昇しないので、バッファタンク5の上流側に配置されるドライポンプ51に過度な背圧が作用しない。
【0080】
上述した実施形態では、制御装置25は、初期排気動作中に、入口バルブ11、第1出口バルブ12、および希釈ガス導入バルブ19を開くが、本発明は、この実施形態に限定されない。例えば、制御装置25は、初期排気動作中、入口バルブ11、および第1出口バルブ12のみを開き、希釈ガス導入バルブ19を閉じた状態に維持してもよい。すなわち、制御装置25は、初期排気動作中、少なくとも入口バルブ11、および第1出口バルブ12を開けばよい。水素ガスを含む排ガスを、バッファタンク5の接線方向に導入すると、バッファタンク5の下部からは窒素ガスのみが排出される。したがって、出口ライン7に希釈ガスを導入しなくても、湿式スクラバーに送られる水素ガスの濃度は、ほぼ0(すなわち、爆発下限界以下)である。
【0081】
図12(a)は、バッファタンク5の変形例を示す模式図であり、図12(b)は、バッファタンク5の他の変形例を示す模式図である。
【0082】
図12(a)に示すバッファタンク5は、本体5aの内周面に沿って螺旋状に延びる案内板6を有する。排ガスに含まれる水素ガスをバッファタンク5の上部に滞留させるためには、バッファタンク5内で排ガスの旋回流を形成させるのが重要である。そこで、図12(a)に示すように、バッファタンク5の内周面に螺旋状の案内板6を設けることにより、バッファタンク5内で排ガスの旋回流を生じさせやすくする。この構成により、初期排気動作中に排ガスに含まれる水素ガスが出口ライン7に排出されることを効果的に防止する。
【0083】
図12(b)に示すバッファタンク5の本体(円筒形状部)5aは、その直径が上端から下端に向かって徐々に増加する円錐台形状を有している。さらに、バッファタンク5は、上記案内板6を有している。本体5aが円錐台形状を有する場合、旋回流を形成する排ガスがバッファタンク5の下端まで到達する距離を増加させることができる。その結果、初期排気動作中に排ガスに含まれる水素ガスが出口ライン7に排出されることを効果的に防止することができる。一実施形態では、案内板6を省略してもよい。
【0084】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 排気システム
2 入口ライン
5 バッファタンク
6 案内板
7 出口ライン
10 バイパスライン
11 入口バルブ
12 第1出口バルブ
15 水素排出ライン
16 第2出口バルブ
17 希釈ライン
18 バイパスバルブ
19 希釈ガス導入バルブ
21 パージライン
25 制御装置
50 EUV露光装置
51 ドライポンプ
52 排ガス処理装置
55 排気ライン
57 主バルブ
図1
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図3
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