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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】窒化物半導体積層物
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20221122BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20221122BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20221122BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C30B29/38 D
H01L21/205
C23C16/34
C30B25/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021003264
(22)【出願日】2021-01-13
(62)【分割の表示】P 2017117658の分割
【原出願日】2017-06-15
(65)【公開番号】P2021063007
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-273398(JP,A)
【文献】特開2016-128381(JP,A)
【文献】特開2013-177275(JP,A)
【文献】特開2016-062937(JP,A)
【文献】特開2012-089678(JP,A)
【文献】特開2011-243644(JP,A)
【文献】特開2015-106627(JP,A)
【文献】特開2010-245252(JP,A)
【文献】特表2010-509177(JP,A)
【文献】H. Okumura, et al.,Growth diagram of N-face GaN (0001) grown at high rate by plasma-assisted molecular beam epitaxy,Appl. Phys. Lett.,2014年01月08日,Vol. 104,012111-1-5,https://doi.org/10.1063/1.4861746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
H01L 21/205
C23C 16/34
C30B 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に設けられ、1250℃以上の温度での耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層と、
前記基板の前記表面側に設けられ、窒化ガリウムからなる半導体層と、
を有し、
前記半導体層中のOの濃度は、1×1017at/cm未満であり、
前記半導体層中のCの濃度は、1×1016at/cm未満である
窒化物半導体積層物。
【請求項2】
1250℃以上の温度で加熱したときの前記保護層の熱分解速度は、前記基板の前記裏面の熱分解速度よりも低い
請求項1に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項3】
前記半導体層中のOの濃度は、1×1016at/cm未満である
請求項1又は2に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項4】
前記半導体層中のOの濃度は、5×1015at/cm未満である
請求項3に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項5】
前記半導体層中のCの濃度は、5×1015at/cm未満である
請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項6】
前記半導体層中のBおよびFeの各濃度は、1×1015at/cm未満である
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項7】
前記保護層は、さらに前記基板の側面側に設けられる
請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項8】
前記保護層は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素からなる
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項9】
前記保護層は、アモルファスまたは多結晶からなり、
前記保護層の厚さは、20nm以上1000nm以下である
請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【請求項10】
前記保護層は、単結晶からなり、
前記保護層の厚さは、20nm以上800nm以下である
請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物半導体積層物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体積層物、半導体装置、窒化物半導体積層物の製造方法、窒化物半導体自立基板の製造方法および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体積層物、窒化物半導体自立基板、半導体装置等を製造する際に、所定の基板上にIII族窒化物半導体からなる半導体層を気相成長法によりエピタキシャル成長させることがある(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S. Keller et al.: JOURNAL OF APPLIED PHYSICS Vol.102, 083546 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、窒化物半導体積層物、窒化物半導体自立基板および半導体装置をそれぞれ高純度に製造することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に設けられ、耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層と、
前記基板の前記表面側に設けられ、III族窒化物半導体からなる半導体層と、
を有し、
前記半導体層中のOの濃度は、1×1017at/cm未満である窒化物半導体積層物、およびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、窒化物半導体積層物、窒化物半導体自立基板および半導体装置をそれぞれ高純度に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層物の製造方法または窒化物半導体自立基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3】(a)および(b)は、第1実施形態の保護層形成工程での基板の載置状態を示す断面図である。
図4】保護層形成工程後の基板を示す断面図である。
図5】気相成長装置の概略構成図であり、反応容器内で結晶成長ステップを実行中の様子を示している。
図6】気相成長装置の概略構成図であり、反応容器の炉口を開放させた状態を示している。
図7】スライス工程を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層物の製造方法または半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
図11】(a)は、イオン注入工程を示す断面図であり、(b)は、活性化アニール工程を示す断面図である。
図12】本発明の第2実施形態の変形例に係る半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<発明者の得た知見>
窒化物半導体積層物、窒化物半導体自立基板または半導体装置を製造する際に、III族窒化物半導体からなる基板の窒素(N)極性面からなる表面上に、半導体層を形成することがある。N極性面上に半導体層をエピタキシャル成長させる場合では、III族元素極性面上に半導体層をエピタキシャル成長させる場合よりも、半導体層中に酸素(O)等の不純物が混入し易い傾向にある。このため、従来では、非特許文献1等のように、1200℃以上の成長温度で半導体層を成長させていた。
【0009】
しかしながら、上記のような高い成長温度で基板のN極性面からなる表面上に半導体層を成長させると、以下のような現象が生じる可能性があった。
【0010】
高い成長温度で半導体層を成長させると、基板のIII族元素極性面からなる裏面が熱分解し、当該裏面からIII族元素が激しく蒸発してしまう(例えば、1μm/hr以上)。基板の裏面からIII族元素が蒸発すると、高濃度のIII族元素の蒸気が基板の表面に回りこみ、III族元素の液滴(ドロップレット)が基板の表面上に付着する。このようなIII族元素の液滴が基板の表面に付着すると、該基板上への半導体層の成長を阻害することとなる。その結果、半導体層の表面の少なくとも一部が荒れてしまう可能性がある。
【0011】
また、基板の裏面からIII族元素が蒸発すると、基板の裏面中に含まれていた不純物(シリコン(Si)等)が基板の表面に回り込み、半導体層中に不純物が混入してしまう可能性がある。そのため、高純度な半導体層を成長させることが困難となる。
【0012】
また、高い成長温度で半導体層を成長させると、気相成長装置の反応容器を構成する石英またはボロン(B)を含む部材を起因として、半導体層中にSi、OまたはB等が混入してしまう可能性がある。この理由からも、高純度な半導体層を成長させることが困難となる。
【0013】
このように、高い成長温度で基板のN極性面からなる表面上に半導体層を成長させた場合には、上記現象に起因して、窒化物半導体積層物、窒化物半導体自立基板または半導体装置をそれぞれ高純度に製造することが困難となっていた。
【0014】
本発明は、発明者が見出した上記新規課題に基づくものである。
【0015】
<本発明の第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(1)窒化物半導体積層物
まず、図1を用い、本実施形態に係る窒化物半導体積層物(以下、「積層物」ともいう)1について説明する。図1は、本実施形態に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の積層物1は、例えば、後述の窒化物半導体自立基板(以下、「自立基板」ともいう)2を製造する際のインゴット(中間体)として構成されている。具体的には、積層物1は、例えば、基板(下地基板)10と、保護層(熱分解抑制層)20と、半導体層(エピタキシャル成長層)30と、を有している。
【0018】
(基板)
基板10は、後述の半導体層30をホモエピタキシャル成長させる下地基板(種結晶基板)として機能するよう構成されている。具体的には、基板10は、III族窒化物半導体からなる窒化物半導体自立基板からなり、本実施形態では、例えば、窒化ガリウム(GaN)自立基板である。なお、以下において、基板10の上面(上側主面、第1主面)を「表面11」とし、基板10の上面と反対側の下面(下側主面、第2主面)を「裏面12」とし、基板10の上面と下面とを繋ぎ、これらに垂直な面を「側面13」とする。
【0019】
また、本実施形態では、基板10の表面11は、(000-1)面(-c面)、すなわちN極性面である。基板10の表面11は、例えば、鏡面である。言い換えれば、基板10の表面11は、その上に半導体層30をエピタキシャル成長させることが可能な、いわゆるエピレディ面である。具体的には、基板10の表面11の二乗平均平方根粗さ(RMS)は、例えば、10nm以下、好ましくは1nm以下である。なお、ここでいう「RMS」は、原子間力顕微鏡(AFM)にて20μm角エリアを測定した際のRMSを意味している。
【0020】
なお、基板10を構成するGaN結晶は、下地基板100の表面102に対して所定のオフ角を有していてもよい。「オフ角」とは、基板10の表面11の法線方向と、基板10を構成する主軸方向(主面に最も近い低指数面の法線方向)と、のなす角をいう。具体的には、基板10のオフ角を、例えば、0°以上5°以下としてもよい。
【0021】
また、基板10の表面11における転位密度(平均転位密度)は、例えば、1×10cm-2以下、好ましくは1×10cm-2以下である。基板10の表面11における転位密度が1×10cm-2超であると、基板10上に形成する半導体層30の転位密度が高くなり、半導体層30から結晶品質が良好な自立基板2が得られない可能性がある。これに対し、基板10の表面11における転位密度を1×10cm-2以下とすることにより、基板10上に形成する半導体層30の転位密度を低くし、半導体層30から結晶品質が良好な自立基板2を得ることができる。さらに、基板10の表面11における転位密度を1×10cm-2以下とすることにより、半導体層30から結晶品質が良好な自立基板2を安定的に得ることができる。なお、基板10の表面における転位密度は低ければ低いほどよいため、その下限値については限定されるものではないが、現在の技術レベルでは、基板10の表面11における転位密度の下限値は、例えば、1×10cm-2程度である。
【0022】
一方で、本実施形態では、基板10の裏面12は、(0001)面(+c面)、すなわちIII族元素極性面(ここでは、Ga極性面)である。基板10の裏面12は、例えば、ランダムな凹凸を有する粗面、いわゆるラップ面である。つまり、基板10の裏面12の表面粗さは、基板10の表面11の表面粗さよりも大きい。具体的には、基板10の裏面12のRMSを、例えば、0.5μm以上5μm以下とする。なお、基板10の裏面12は、表面11と同様にエピレディ面であってもよい。
【0023】
また、基板10の厚さは、基板10の直径に依存するが、例えば、300μm以上2mm以下とする。典型的には、基板10の直径が2インチ(50.8mm)の場合には基板10の厚さは300~600μmとし、基板10の直径が4インチ(100mm)の場合には基板10の厚さは600~1200μmとし、基板10の直径が6インチ(150mm)の場合には基板10の厚さは1000~2000μmとする。ここでは、例えば、基板10の直径は2インチとし、基板10の厚さは400μmとする。
【0024】
(保護層)
保護層20は、少なくとも基板10の裏面12側に設けられ、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い材料により構成されている。ここでいう「耐熱性」とは、所定の温度に加熱された際の熱分解(昇華)に対する耐性のことを意味している。本実施形態では、例えば、1250℃以上の温度で加熱したときの保護層20の熱分解速度が、基板10の裏面12の熱分解速度よりも低くなっている。このような保護層20を少なくとも基板10の裏面12側に設けることにより、後述の半導体層成長工程S160において、基板10の裏面12の熱分解を抑制し、基板10の裏面12からのGa蒸気の発生を抑制することができる。
【0025】
なお、保護層20は、上記耐熱性に加え、後述の半導体層成長工程S160における雰囲気に対する耐食性が基板10よりも高い材料により構成されていてもよい。ここでいう「半導体層成長工程S160における雰囲気」とは、特に、水素(H)を含む雰囲気、すなわち、キャリアガスとしての水素(H)ガスや、窒化剤としてのアンモニア(NH)ガスなどを含む雰囲気のことを意味している。また、ここでいう「半導体層成長工程S160における雰囲気に対する耐腐食性」とは、該雰囲気によってエッチング(腐食)されることに対する耐性のことを意味している。つまり、半導体層成長工程S160における雰囲気下での保護層20のエッチング速度が、基板10のエッチング速度よりも低くなっていてもよい。これにより、半導体層成長工程S160において、基板10上に半導体層30を安定的に成長させることができる。
【0026】
本実施形態では、保護層20は、さらに基板10の側面13側にも設けられている。これにより、後述の半導体層成長工程S160において、基板10の側面13の熱分解を抑制し、基板10の側面13からのGa蒸気の発生を抑制することができる。
【0027】
なお、図1などでは、基板10の側面13を、模式的に表面11および裏面12のそれぞれに対して垂直に記載しているが、基板10の側面13は、例えば、べべリングされた斜めの面で構成されていたり、または複数の斜めの面を組み合わせて構成されていたりしてもよい。
【0028】
具体的な保護層20を構成する材料としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、または窒化ホウ素(BN)が挙げられる。保護層20がこのような材料からなっていることにより、基板10よりも高い耐熱性や高い耐腐食性を得ることができる。ここでは、保護層20を構成する材料は、例えば、AlNとする。
【0029】
また、保護層20は、例えば、アモルファスまたは多結晶からなっている。例えば、保護層20がAlNである場合には、堆積温度を600℃以下としたときに、保護層20は、アモルファスとして形成され、堆積温度を600℃以上800℃以下としたときに、保護層20は、多結晶として形成されることとなる。
【0030】
本実施形態では、保護層20がアモルファスまたは多結晶からなっていることで、保護層20内の結晶方位がランダム、すなわち劈開方向がランダムとなっている。これにより、保護層20において特定の劈開方向へのクラックの発生を抑制することができる。また、たとえ保護層20内に内部応力が発生したとしても、劈開性が低いため、内部応力を等方的に分散させることができる。これらの結果、保護層20を割れ難くすることができる。
【0031】
なお、保護層20は、単結晶からなっていてもよい。すなわち、保護層20は、基板10の裏面12側にエピタキシャル成長していてもよい。例えば、保護層20がAlNである場合には、堆積(成長温度)を800℃以上としたときに、保護層20は、単結晶となる。これにより、保護層20と基板10との密着性を向上させ、基板10の裏面12の熱分解を確実に回避することができる。
【0032】
また、本実施形態では、保護層20の厚さは、例えば、20nm以上1000nm以下、好ましくは50nm以上800nm以下とする。保護層20の厚さが20nm未満であると、基板10の裏面12および側面13に対する保護層20の被覆性が低下する。このため、後述の半導体層成長工程S160において基板10の温度を1250℃以上とした際に、保護層20の被覆欠陥部を介して基板10の裏面10および側面13のうち少なくともいずれか一方が熱分解されてしまう可能性がある。これに対し、保護層20の厚さを20nm以上とすることにより、保護層20を、基板10の裏面12および側面13に対して被覆欠陥部の生成を抑制しつつ被覆させることができる。これにより、半導体層成長工程S160において基板10の温度を1250℃以上とした際であっても、保護層20を介した基板10の裏面12および側面13の熱分解を抑制することができる。さらに、保護層20の厚さを50nm以上とすることにより、基板10の裏面12および側面13の熱分解を安定的に抑制することができる。一方で、保護層20の厚さが1000nm超であると、保護層20と基板10との線膨張係数差によって熱応力が生じ、保護層20がアモルファスまたは多結晶である場合であっても、基板10または保護層20にクラックが生じてしまう可能性がある。これに対し、保護層20の厚さを1000nm以下とすることにより、保護層20と基板10との間での過大な熱応力の発生を抑制することができる。これにより、保護層20がアモルファスまたは多結晶である場合に、基板10または保護層20におけるクラックの発生を抑制することができる。さらに、保護層20の厚さを800nm以下とすることにより、熱応力に起因した基板10または保護層20におけるクラックの発生を確実に抑制することができる。なお、保護層20が単結晶からなる場合には、クラックが生じる可能性がある保護層20の厚さは800nm超であり、クラックの発生を確実に抑制することができる保護層20の厚さは500nm以下である。
【0033】
なお、基板10の裏面12および側面13のそれぞれの熱分解速度の違いに応じて、基板10の裏面12側に設けられる保護層20の厚さと、基板10の側面13側に設けられる保護層20の厚さとを異ならせてもよい。例えば、基板10の裏面12の熱分解速度が側面13の熱分解速度よりも高い場合には、基板10の裏面12側に設けられる保護層20の厚さを、基板10の側面13側に設けられる保護層20の厚さよりも厚くしてもよい。これにより、熱分解速度が高い基板10の裏面12を熱分解され難くすることができる。一方で、基板10の側面13の熱分解速度が裏面12の熱分解速度よりも高い場合には、基板10の側面13側に設けられる保護層20の厚さを、基板10の裏面12側に設けられる保護層20の厚さよりも厚くしてもよい。これにより、熱分解速度が高い基板10の側面13を熱分解され難くすることができる。
【0034】
(半導体層)
半導体層30は、基板10の表面11側に設けられ、所定の厚さに切り出すことで、後述の自立基板2を得ることができるように構成されている。本実施形態では、半導体層30は、III族窒化物半導体からなり、具体的には、例えば、基板10と同様にGaNからなっている。また、半導体層30は、基板10の表面11上に直接設けられ(接し)、基板10の表面11上にホモエピタキシャル成長することで単結晶として形成されている。半導体層30の表面は、基板10の表面11と同様に、(000-1)面(-c面)、すなわちN極性面となっている。
【0035】
本実施形態では、半導体層30は、基板10の表面11上にN極性面で成長することにより、基板10の表面11から垂直な方向に離れるにしたがって基板10よりも拡径するように設けられている。言い換えれば、半導体層30は、逆円錐台状となっている。これにより、基板10よりも大径の自立基板2を半導体層30から得ることができる。
【0036】
また、本実施形態では、基板10の少なくとも裏面12側からのGa蒸気の発生を保護層20により抑制することで、半導体層30の表面を平滑にすることができる。具体的には、半導体層30の表面のRMSは、例えば、基板10の表面11と同等となり、例えば、10nm以下、好ましくは1nm以下となる。
【0037】
なお、半導体層30の表面における転位密度は、例えば、基板10の表面11における転位密度と同等となり、1×10個/cm以下となる。
【0038】
また、本実施形態では、後述の製造方法により、反応室201のうち少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化および改質する高温ベークステップを行った後に、1250℃以上の成長温度で不純物の混入を抑制しつつ成長させることで、半導体層30は、非常に高純度な結晶層となっている。
【0039】
具体的には、半導体層30中の酸素(O)の濃度は、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満である。これにより、半導体層30中の自由電子濃度をn型不純物(ドナー)としてのSiおよびゲルマニウム(Ge)の合計濃度により容易に制御し、半導体層30中の自由電子濃度をSiおよびGeの合計濃度とほぼ等しくすることができる。
【0040】
また、半導体層30中の炭素(C)の濃度は、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満である。半導体層30中でn型不純物を補償するCの濃度を低くすることにより、半導体層30中の自由電子濃度をn型不純物の濃度により容易に制御することができる。
【0041】
本実施形態では、半導体層30中のSiおよびGeの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満である。これにより、半導体層30中の自由電子濃度を所定値未満とすることができ、半導体層30の絶縁性を高くすることができる。その結果、半導体層30から得られる自立基板2を半絶縁性基板とすることができる。具体的には、20℃以上200℃以下の温度条件下での自立基板2の電気抵抗率を1×10Ω・cm以上とすることができる。
【0042】
また、半導体層30中のボロン(B)および鉄(Fe)の各濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。なお、これらの不純物濃度は、いずれも、現在利用可能な二次イオン質量分析法(SIMS)等の合理的な分析手段の計測限界(検出下限値)を下回るものであり、現時点では、結晶中に含まれる各種不純物の濃度を具体的に提示することが困難なほどである。
【0043】
また、半導体層30中の上記の不純物以外の不純物の濃度も低くなっている。具体的には、例えば、ヒ素(As)、塩素(Cl)、リン(P)、フッ素(F)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびニッケル(Ni)のうち、いずれの元素の濃度も、SIMS測定における検出下限値未満である。
【0044】
なお、SIMS測定における各元素の現在の検出下限値は、以下の通りである。
As:5×1012at/cm、Cl:1×1014at/cm、P:2×1015at/cm、F:4×1013at/cm、Na:5×1011at/cm、K:2×1012at/cm、Sn:1×1013at/cm、Ti:1×1012at/cm、Mn:5×1012at/cm、Cr:7×1013at/cm、Mo:1×1015at/cm、W:3×1016at/cm、Ni:1×1014at/cm
【0045】
また、本実施形態では、保護層20により半導体層30の長時間に亘った安定的な成長が可能となることにより、半導体層30の厚さを大きく(厚く)することができる。具体的には、半導体層30の厚さは、例えば、100μm超、好ましくは1000μm以上とすることができる。
【0046】
(2)窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体自立基板の製造方法
次に、図1図6を用い、本実施形態に係る窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体自立基板の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係る窒化物半導体積層物の製造方法または窒化物半導体自立基板の製造方法を示すフローチャートである。
なお、ステップを「S」と略している。図3(a)および(b)は、本実施形態の保護層形成工程での基板の載置状態を示す断面図である。図4は、保護層形成工程後の基板を示す断面図である。図5は、気相成長装置の概略構成図であり、反応容器内で結晶成長ステップを実行中の様子を示している。図6は、気相成長装置の概略構成図であり、反応容器の炉口を開放させた状態を示している。図7は、スライス工程を示す断面図である。
【0047】
本実施形態では、以下に示すS120~S180を実施することで、積層物1および窒化物半導体自立基板2を製造する例について説明する。
【0048】
(S120:基板用意工程)
まず、III族窒化物半導体からなる基板10を用意する。具体的には、基板10として、例えば、GaN自立基板を用意する。このとき、基板10の表面11をN極性面とし、基板10の裏面12をGa極性面とする。
【0049】
(S140:保護層形成工程)
次に、少なくとも基板10の裏面12側に、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い保護層20を形成する。本実施形態では、例えば、基板10の裏面12側だけでなく、基板10の側面13側にも、保護層20を形成する。
【0050】
例えば、スパッタ法、後述のハイドライド気相成長(HVPE)法、または有機金属気相成長(MOVPE)法等により、保護層20を形成する。
【0051】
ここで、保護層形成工程S140において、基板10の表面11がサセプタの表面に接するように、基板10をサセプタ上に載置すると、基板10の表面11に損傷が生じる可能性がある。基板10の表面11に損傷が生じると、後述の半導体層成長工程S160において、半導体層30に欠陥が生じてしまう可能性がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、図3(a)に示すように、例えば、リング状スペーサ310を、基板10の表面11の周縁を囲むように基板10の表面11とサセプタ208との間に介在させつつ、基板10の表面11がサセプタ208の表面と対向するように、基板10をサセプタ208上に載置する。これにより、基板10の表面11とサセプタ208との間に空隙310aを形成することができる。その結果、基板10の表面11がサセプタ208に接触することを抑制することができ、基板10の表面11の損傷を抑制することができる。また、リング状スペーサ310を基板10の表面11の周縁を囲むように設けることで、基板10の表面11に対して成膜ガスが供給されないようにすることができ、本工程での基板10の表面11側への保護層20の形成を抑制することができる。このようにして、リング状スペーサ310により基板10の表面11を保護することができる。
なお、この場合、リング状スペーサ310は、外径が基板10の外径と略同一であり、内径が基板10の外径よりも1~10mm程度小さいものが好ましい。すなわち、リング状スペーサ310の、基板10の径方向の幅は0.5~5.0mm程度とすることが好ましい。またリング状スペーサ310の高さ(厚さ)は、0.5~2mm程度とすることが好ましい。
【0053】
または、本実施形態では、図3(b)に示すように、例えば、スペーサ底部320bと、スペーサ凸部320pと、を有する板状スペーサ320を用いてもよい。スペーサ底部320bは、円板状に構成されている。また、スペーサ凸部320pは、スペーサ底部320bの表面11の周縁を囲むようにスペーサ底部320bから突出して設けられている。板状スペーサ320を用いて基板10を載置する際には、スペーサ凸部320pを基板10の表面11の周縁に当接させて、基板10の表面11をスペーサ底部320bに対向させる。そして、板状スペーサ320を基板10の表面11とサセプタ208との間に介在させつつ、基板10をサセプタ208上に載置する。これにより、基板10の表面11とスペーサ底部320bとの間に空隙320aを形成することができる。その結果、リング状スペーサ310と同様に、板状スペーサ320により基板10の表面11を保護することができる。また、サセプタ208のポケット208p内に汚れ(パーティクル等)が生じる場合があるため、このような場合に板状スペーサ320を用いることで、ポケット208p内の汚れをスペーサ底部320bで塞ぐことができる。その結果、汚れが基板10の表面11に付着することを抑制することができる。なお、この場合、リング状スペーサ310と同様に、板状スペーサ320は、外径が基板10の外径と略同一であり、板状スペーサ320の、基板10の径方向の幅は0.5~5.0mm程度とすることが好ましい。また板状スペーサ320の高さ(厚さ)は、0.5~2mm程度とすることが好ましい。
【0054】
なお、このとき、平坦なサセプタ208上にリング状スペーサ310または板状スペーサ320を介して基板10を載置することで、基板10の裏面12だけでなく側面13も露出した状態とすることができる。これにより、基板10の表面11を保護しつつ、基板10の裏面12だけでなく側面13にも保護層20を形成することができる。
【0055】
このような方法により、図4に示すように、基板10の裏面12側および側面13側に、保護層20が形成される。
【0056】
このとき、保護層20の厚さを、例えば、20nm以上1000nm以下、好ましくは、50nm以上800nm以下とする。
【0057】
また、このとき、粗面である基板10の裏面12側に保護層20を直接形成することで、保護層20をアモルファスまたは多結晶とすることができる。これにより、上述のように、保護層20を割れ難くすることができる。
【0058】
なお、このとき、例えば、保護層20がAlNである場合には、保護層20の堆積温度(成長温度)を300℃以上600℃以下とすることで、保護層20をアモルファスとすることができる。一方で、保護層20の堆積温度を600℃以上800℃以下とすることで、保護層20を多結晶とすることができる。なお、保護層20の成長温度を800℃以上1500℃以下とすることにより、保護層20を単結晶とすることができる。なお、保護層20の成長温度を1000℃以下とするほうが、ステップ2での基板10の熱分解等を抑制することができるため、好ましい。
【0059】
(S160:半導体層形成工程)
次に、1250℃以上の成長温度に加熱された基板10に対してIII族元素含有ガスおよび窒化剤を供給することで、基板10の表面11側に、III族窒化物半導体からなる半導体層30をエピタキシャル成長させる。ここでは、例えば、基板10と同じGaNからなる半導体層30を成長させる。
【0060】
本実施形態では、例えば、以下の方法により、高純度の半導体層30を成長させる。
【0061】
まず、図5および図6を参照し、GaN結晶の成長に用いるHVPE装置200の構成について説明する。HVPE装置200は、例えば円筒状に構成された反応容器203を備えている。反応容器203は、その外側の大気や後述のグローブボックス220内の気体が内部に入り込まないよう、密閉構造となっている。反応容器203の内部には、結晶成長が行われる反応室201が形成されている。反応室201内には、基板10を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。また、サセプタ208は、内部ヒータ210を内包している。内部ヒータ210の温度は、後述のゾーンヒータ207とは別個に制御可能なように構成されている。さらに、サセプタ208は、その上流側および周囲が遮熱壁211により覆われている。遮熱壁211が設けられることにより、後述のノズル249a~249cから供給されるガス以外のガスが、基板10に供給されなくなる。
【0062】
反応容器203は、円筒状に形成されたSUS等からなる金属フランジ219を介して、グローブボックス220に接続されている。グローブボックス220も、その内部に大気が混入しないように気密構造となっている。グローブボックス220の内部に設けられた交換室202は、高純度窒素(以下、単にNガスとも称する)により連続的にパージされており、酸素および水分濃度が低い値となるように維持されている。グローブボックス220は、透明なアクリル製の壁と、この壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックスは、真空引き機構とNパージ機構とを備えており、その内部の大気をNガスにより置換することで、グローブボックス220内に酸素を含む大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となるように構成されている。反応容器203から結晶基板を出し入れする際には、図6に示すように、金属フランジ219の開口部、すなわち、炉口221を開放して行う。これにより、後述の高温ベーク工程を行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の表面が再度汚染されてしまうことや、これらの部材の表面に大気や上述した各種不純物を含むガスが付着してしまうことを防止することができる。
【0063】
反応容器203の一端には、後述するガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、反応室201内へアンモニア(NH)ガスを供給するガス供給管232b、反応室201内へ高温ベークおよび通常ベーク用のHClガスを供給するガス供給管232c、および、反応室201内へ窒素(N)ガスを供給するガス供給管232dがそれぞれ接続されている。なお、ガス供給管232a~232cは、HClガスやNHガスに加えて、キャリアガスとしての水素(H)ガスおよびNガスを供給可能なようにも構成されている。ガス供給管232a~232cは、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を、これらガスの種別毎にそれぞれ備えており、各種ガスの流量制御や供給開始/停止を、ガス種別毎に個別に行えるように構成されている。また、ガス供給管232dも、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を備えている。ガス供給管232dから供給されるNガスは、反応室201内における遮熱壁211の上流側および周囲をパージすることで、これらの部分の雰囲気の清浄度を維持するために用いられる。
【0064】
ガス供給管232cから供給されるHClガス、および、ガス供給管232a~232cから供給されるHガスは、後述する高温ベークステップおよび通常ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の部材の表面を清浄化させるクリーニングガスとして、また、これらの表面を不純物の放出確率が少ない面へと改質する改質ガスとして作用する。ガス供給管232a~232cから供給されるNガスは、各ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の所望の個所が適正にクリーニング等されるよう、ノズル249a~249cの先端から噴出するHClガスやHガスの吹き出し流速を適切に調整するように作用する。
【0065】
ガス供給管232aから導入されるHClガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、Ga原料と反応することでGaのハロゲン化物であるGaClガス、すなわち、Ga原料ガスを生成する反応ガスとして作用する。また、ガス供給管232bから供給されるNHガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、GaClガスと反応することでGaの窒化物であるGaNを基板10上に成長させる窒化剤、すなわち、N原料ガスとして作用する。以下、GaClガス、NHガスを原料ガスと総称する場合もある。なお、ガス供給管232a~232cから供給されるHガスやNガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、ノズル249a~249cの先端から噴出する原料ガスの吹き出し流速を適切に調整し、原料ガスを基板10に向わせるように作用する。
【0066】
ガス供給管232aの下流側には、上述したように、Ga原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成されたGaClガスを、サセプタ208上に保持された基板10の主面に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスを、サセプタ208上に保持された基板10の主面に向けて供給するノズル249b,249cが設けられている。
ノズル249a~249cは、それぞれ、遮熱壁211の上流側を貫通するように構成されている。
【0067】
なお、ガス供給管232cは、HClガス、Hガス、Nガスの他、ドーパントガスとして、例えば、フェロセン(Fe(C、略称:CpFe)ガスや三塩化鉄(FeCl)等のFe含有ガスや、シラン(SiH)ガスやジクロロシラン(SiHCl)等のSi含有ガスや、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Mg(C、略称:CpMg)ガス等のMg含有ガスを供給することが可能なようにも構成されている。
【0068】
反応容器203の他端に設けられた金属フランジ219には、反応室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、圧力調整器としてのAPCバルブ244、および、ポンプ231が、上流側から順に設けられている。なお、APCバルブ244およびポンプ231に代えて、圧力調整機構を含むブロアを用いることも可能である。
【0069】
反応容器203の外周には、反応室201内を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が設けられている。ゾーンヒータ207は、上流側のガス生成器233aを含む部分と、下流側のサセプタ208を含む部分の、少なくとも2つのヒータからなっており、各ヒータはそれぞれが個別に室温~1200℃の範囲での温度調整ができるよう、それぞれが温度センサと温度調整器と(いずれも図示しない)を有している。
【0070】
また、基板10を保持するサセプタ208は、上述したように、ゾーンヒータ207とは別に、少なくとも室温~1600℃の範囲での温度調整ができるよう、内部ヒータ210、温度センサ209および温度調整器(図示しない)をそれぞれ備えている。また、サセプタ208の上流側および周囲は、上述したように、遮熱壁211により囲われている。遮熱壁211のうち、少なくともサセプタ208に向いた面の表面(内周面)は、後述するように、不純物を発生しない限定した部材を用いる必要があるが、それ以外の面(外周面)に関しては、1600℃以上の温度に耐える部材であれば、使用する部材に関する限定はなない。遮熱壁211のうち、少なくとも内周面を除いた部分は、例えば、カーボンや炭化珪素(SiC)等の耐熱性の高い非金属材料や、MoやW等の耐熱性の高い金属材料から構成することができ、また、板状のリフレクタを積層した構造とすることができる。このような構成を用いることで、サセプタ208の温度を1600℃とした場合においても、遮熱壁211の外部の温度を1200℃以下に抑制することができる。この温度は石英の軟化点以下であるため、本構成においては、反応容器203、ガス生成器233a、ガス供給管232a~232dの上流側の部分を構成する各部材として、石英を用いることが可能となる。
【0071】
なお、反応室201内において、後述する結晶成長ステップを実施する際に900℃以上に加熱される領域であって、基板10へ供給されるガスが接触する可能性がある領域(高温反応領域)201aを構成する部材の表面は、少なくとも1600℃以上の耐熱性を有し、また、石英(SiO)およびBをそれぞれ含まない材料により構成されている。
具体的には、遮熱壁211のサセプタ208よりも上流側の内壁、ノズル249a~249cに関しては遮熱壁211の内側に貫通した部分、および、遮熱壁211の外側の部分に関しても結晶成長ステップ実施の際に900℃以上に加熱される部分、サセプタ208の表面等は、アルミナ(Al)、SiC、グラファイト、パイロリティックグラファイト等の耐熱性材料により構成されている。なお、領域201aには含まれないが、内部ヒータ210周囲の部分も、少なくとも1600℃以上の耐熱性が要求されることは言うまでもない。なお、領域201a等を構成する部材にこのような高い耐熱性が要求されるのは、後述するように、結晶成長ステップの実施前に高温ベークステップを実施するためである。
【0072】
HVPE装置200が備える各部材、例えば、ガス供給管232a~232dが備える各種バルブや流量制御器、ポンプ231、APCバルブ244、ゾーンヒータ207、内部ヒータ210、温度センサ209等は、コンピュータとして構成されたコントローラ280にそれぞれ接続されている。
【0073】
続いて、上述のHVPE装置200を用い、基板10上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させる処理の一例について、図5および図6を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0074】
(高温ベークステップ)
本ステップは、HVPE装置200のメンテナンスやガス生成器233a内へのGa原料の投入等を行うことで、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。本ステップを行う前に、反応室201および交換室の202の気密が確保されていることを確認する。気密が確認された後、反応室201内および交換室202内をNガスでそれぞれ置換し、これら室内を酸素および水分が低い状態としてから、反応容器203内を所定の雰囲気とした状態で、反応室201を構成する各種部材の表面を加熱処理する。この処理は、反応容器203内への基板10の搬入を行っていない状態で、また、ガス生成器233a内へのGa原料の投入を行っている状態で実施する。
【0075】
本ステップでは、ゾーンヒータ207の温度を結晶成長ステップと同程度の温度に調整する。具体的には、ガス生成器233aを含む上流側のヒータの温度は700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータの温度は1000~1200℃の温度に設定する。更に、内部ヒータ210の温度は1500℃以上の所定の温度に設定する。後述するように、結晶成長プロセスでは内部ヒータ210は1250℃以上1400℃以下の温度に設定するため、高温反応領域201aの温度は900℃以上1400℃以下となる。一方、高温ベークステップにおいては、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、高温反応領域201aの温度が1000~1500℃以上となり、基板10が載置されるサセプタ208の近傍が1500℃以上の高温になるとともに、それ以外の位置に関しても、それぞれの位置において、結晶成長ステップ中の温度よりも少なくとも100℃以上高くなる。高温反応領域201aの中で、結晶成長ステップの実施中において、温度が最も低い900℃となる部位、具体的には、遮熱壁211の内側におけるノズル249a~249cの上流側の部位は、付着している不純物ガスが最も除去されにくい部分である。この部分の温度が少なくとも1000℃以上の温度となるように、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、成長させるGaN結晶における不純物の低減効果が充分得られるようになるのである。内部ヒータ210の温度を1500℃未満の温度とした場合、高温反応領域201a内のいずれかの点における温度を充分に高めることができず、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、GaN結晶における不純物の低減効果が得られにくくなる。
【0076】
このステップにおける内部ヒータ210の温度の上限は、遮熱壁211の能力に依存する。すなわち、遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えない範囲に抑制できる限りにおいては、内部ヒータ210の温度を高くすればするほど、後述する清浄化および改質処理の効果が得られやすくなる。遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えてしまった場合には、HVPE装置200のメンテナンス頻度やコストが増加する場合がある。
【0077】
また、本ステップでは、ゾーンヒータ207および内部ヒータ210の温度がそれぞれ上述した所定の温度に到達した後、ガス供給管232a,232bのそれぞれから、例えば3slm程度の流量でHガスを供給する。また、ガス供給管232cから、例えば2slm程度の流量でHClガスを供給するとともに、例えば1slm程度の流量でHガスを供給する。また、ガス供給管232dから、例えば10slm程度の流量でNガスを供給する。そして、この状態を所定時間維持することで、反応室201内のベーキングを実施する。HガスやHClガスの供給を上述のタイミングで、すなわち、反応室201内を昇温してから開始することにより、後述する清浄化や改質処理に寄与することなく無駄に流れるだけとなってしまうガスの量を削減し、結晶成長の処理コストを低減させることが可能となる。
【0078】
また、本ステップは、ポンプ231を作動させた状態で行い、その際、APCバルブ244の開度を調整することで、反応容器203内の圧力を、例えば0.5気圧以上2気圧以下の圧力に維持する。本ステップを、反応容器203内の排気中に行うことで、反応容器203内からの不純物の除去、すなわち、反応容器203内の清浄化を効率的に行うことが可能となる。なお、反応容器203内の圧力が0.5気圧未満となると、後述する清浄化および改質処理の効果が得られにくくなる。また、反応容器203内の圧力が2気圧を超えると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。
【0079】
また、本ステップでは、反応容器203内におけるHClガスのHガスに対する分圧比率(HClの分圧/Hの分圧)を、例えば1/50~1/2の大きさに設定する。上述の分圧比率が1/50より小さくなると、後述する清浄化および改質処理の効果が得られにくくなる。また、上述の分圧比率が1/2より大きくなると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。なお、この分圧制御は、ガス供給管232a~232cに設けられた流量制御器の流量調整により行うことができる。
【0080】
本ステップを例えば30分以上300分以下の時間実施することで、反応室201のうち、少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化し、これらの表面に付着していた異物を除去することができる。そして、これら部材の表面を、後述する結晶成長ステップにおける温度よりも100℃以上高温に保つことで、これらの表面からの不純物ガスの放出を促進し、結晶成長ステップにおける温度、圧力条件下において、Si、B、Fe、OおよびC等の不純物の放出が生じにくい面へと改質することが可能となる。なお、本ステップの実施時間が30分未満となると、ここで述べた清浄化および改質処理の効果が不充分となる場合がある。また、本ステップの実施時間が300分を超えると、高温反応領域201aを構成する部材のダメージが過剰となる。
【0081】
なお、反応容器203内へHガス、HClガスを供給する際は、反応容器203内へのNHガスの供給は不実施とする。本ステップにおいて反応容器203内へNHガスを供給すると、上述の清浄化および改質処理の効果、特に改質処理の効果が得られにくくなる。
【0082】
また、反応容器203内へHガス、HClガスを供給する際は、HClガスの代わりに塩素(Cl)ガスのようなハロゲン系ガスを供給するようにしてもよい。この場合においても、上述の清浄化および改質処理の効果が同様に得られるようになる。
【0083】
また、反応容器203内へHガス、HClガスを供給する際は、ガス供給管232a~232cからキャリアガスとしてNガスを添加してもよい。Nガスの添加によりノズル249a~249cからのガスの吹き出し流速を調整することで、上述の清浄化および改質処理が不完全な部分が生じるのを防ぐことができる。なお、Nガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを供給するようにしてもよい。
【0084】
上述の清浄化および改質処理が完了したら、ゾーンヒータ207の出力を低下させ、反応容器203内を例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内への基板10の搬入等が可能となる温度へと降温させる。また、反応容器203内へのHガス、HClガスの供給を停止し、Nガスでパージする。反応容器203内のパージが完了したら、反応容器203内へのNガスの供給を維持しつつ、反応容器203内の圧力が大気圧、或いは、大気圧よりも僅かに高い圧力になるように、APCバルブ244の開度を調整する。
【0085】
(通常ベークステップ)
上述の高温ベークステップは、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。しかしながら、結晶成長ステップを行う際には、通常、その前後を含めて、反応室201内や交換室202内が大気に暴露されることはないので、高温ベークステップは不要となる。但し、結晶成長ステップを行うことで、ノズル249a~249cの表面、サセプタ208の表面、遮熱壁211の内壁等に、GaNの多結晶が付着する。GaNの多結晶が残留した状態で次の結晶成長ステップを実施すると、多結晶から分離する等して飛散したGaN多結晶粉やGa液滴等が基板10に付着し、良好な結晶成長を阻害する原因となる。このため、結晶成長ステップの後には、上述のGaN多結晶を除去する目的で通常ベークステップを実施する。通常ベークステップの処理手順、処理条件は、内部ヒータ210をオフの状態とし、サセプタ208付近の温度を結晶成長ステップと同じ温度とする点以外は、高温ベークステップにおけるそれらと同様とすることができる。通常ベークステップを行うことにより、反応室201内からGaN多結晶を除去することができる。
【0086】
(結晶成長ステップ)
高温ベークステップあるいは通常ベークステップを実施した後、反応容器203内の降温およびパージが完了したら、図6に示すように、反応容器203の炉口221を開放し、サセプタ208上に基板10を載置する。炉口221は、大気から隔離されており、Nガスで連続的にパージされたグローブボックス220に接続されている。グローブボックス220は、上述したように、透明なアクリル製の壁と、壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックス内部の大気をNガスに置換することで、グローブボックス220内に大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となる。このような機構を用いて基板10の載置作業を行うことで、高温ベークステップを行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の再汚染や、これら部材への不純物ガスの再付着を防止することができる。
なお、サセプタ208上に載置する基板10の表面、すなわち、ノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)は、上述のように、例えば、GaN結晶の(000-1)面、すなわち、-c面(N極性面)となるようにする。
【0087】
反応室201内への基板10の搬入が完了したら、炉口221を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのHガス、或いは、HガスおよびNガスの供給を開始する。
【0088】
なお、本ステップでは、基板10を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、基板10の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、ガス供給管232bから反応室201内へのNHガスの供給を開始するのが好ましい。また、半導体層30の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0089】
そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232aからのHClガスの供給を開始し、基板10の表面に対してGaClガスを供給する。
【0090】
これにより、図1に示すように、基板10の表面11上にGaN結晶がホモエピタキシャル成長し、半導体層30が形成される。
【0091】
このとき、基板10のN極性面からなる表面11上に半導体層30をエピタキシャル成長させることで、半導体層30をN極性面で(-c軸方向に)成長させることができる。
これにより、基板10の表面11から垂直な方向に離れるにしたがって基板10よりも拡径するように半導体層30を成長させることができる。
【0092】
また、このとき、保護層20により基板10の少なくとも裏面12の熱分解を抑制することができ、基板10の裏面12からのGa蒸気に起因して基板10の表面11にGaの液滴が付着することを抑制することができる。これにより、半導体層30の表面を平滑にすることができる。具体的には、上述のように、半導体層30のRMSを、例えば、10nm以下、好ましくは1nm以下とすることができる。
【0093】
また、このとき、基板10の少なくとも裏面12側に保護層20が設けられている状態で半導体層30を成長させることで、仮に保護層20を設けない場合に基板10の裏面12が熱分解し始める臨界温度を超える温度で、半導体層30を成長させることができる。
具体的には、半導体層30の成長温度を、例えば、1250℃以上1400℃以下とすることができる。これにより、半導体層30への不純物の混入を抑制し、半導体層30を高純度に成長させることができる。
【0094】
さらに、このとき、反応室201のうち少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化および改質する高温ベークステップを行った後に、1250℃以上の成長温度で半導体層30を成長させることで、非常に高純度な半導体層30を成長させることができる。具体的には、上述のように、半導体層30中のOの濃度や、半導体層30中のCの濃度を、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることができる。また、半導体層30中のBおよびFeの各濃度を、例えば、1×1015at/cm未満とすることができる。なお、本実施形態では、Siのドーピングを行わないため、半導体層30中のSiの濃度を、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることができる。その他の不純物の濃度も上述のように低くすることができる。
【0095】
また、このとき、基板10の裏面12側だけでなく側面13側にも保護層20を設けた状態で半導体層30を成長させることで、基板10の側面13の熱分解を抑制し、基板10の側面13からのGa蒸気の発生を抑制することができる。これにより、基板10の側面13からのGa蒸気の発生に起因して、拡大成長中の半導体層30の側面にGaの液滴が付着することを抑制することができる。
【0096】
また、このとき、基板10の少なくとも裏面12側に保護層20を設けた状態で半導体層30を成長させることで、半導体層30を長時間に亘って安定的に成長させることができる。これにより、半導体層30の厚さを大きくすることができる。具体的には、上述のように、半導体層30の厚さを、例えば、100μm超、好ましくは1000μm以上とすることができる。
【0097】
なお、本ステップの詳細な温度設定としては、ゾーンヒータ207の温度は、ガス生成器233aを含む上流側のヒータでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータでは例えば1000℃以上1200℃以下の温度に設定するのが好ましい。また、内部ヒータ210は、1250℃以上1400℃以下の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208の温度は1250℃以上1400℃以下の所定の成長温度に調整される。
【0098】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NHガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
【0099】
また、基板10の表面に対してGaClガスおよびNHガスを供給する際は、ガス供給管232a~232cのそれぞれから、キャリアガスとしてのNガスを添加してもよい。Nガスを添加してノズル249a~249cから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、基板10の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、Nガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを供給するようにしてもよい。
【0100】
(搬出ステップ)
基板10上へ所望の厚さの半導体層30を成長させたら、反応室201内へNHガス、Nガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、反応室201内へのHClガス、Hガスの供給、ゾーンヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNHガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をNガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内から、半導体層30を形成した基板10(すなわち積層物1)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、積層物1を反応室201内から、グローブボックス220およびパスボックスを介して、搬出する。
【0101】
以上により、本実施形態の積層物1が製造される。
【0102】
(S180:スライス工程)
積層物1を搬出したら、図7に示すように、積層物1のうちの半導体層30を例えば成長面に平行にスライスすることにより、1枚以上の自立基板2を作製する。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。このとき、拡大成長させた半導体層30をスライスすることにより、基板10よりも大径の自立基板2を得ることができる。
【0103】
その後、自立基板2の表面(-c面、N極性面)に所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、自立基板2の裏面(+c面、Ga極性面)はラップ面あるいはミラー面とする。
【0104】
以上により、本実施形態の自立基板2が製造される。
【0105】
なお、上述の高温ベークステップ、通常ベークステップ、結晶成長ステップおよび搬出ステップの実行順序は、次の通り実施するのが好ましい。すなわち、nを1以上の整数とした場合、例えば、反応室201内や交換室202内が大気に暴露→高温ベークステップ→結晶成長ステップ→搬出ステップ→(通常ベークステップ→結晶成長ステップ→搬出ステップ)×nという順序で実施するのが好ましい。
【0106】
なお、自立基板2の切り出し後に残った、少なくとも裏面12側に保護層20が設けられた基板10を、再度利用して、基板10の表面11側に半導体層30を再成長させてもよい。これにより、自立基板2の製造コストを低減することができる。
【0107】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0108】
(a)III族窒化物半導体からなる基板10のうち、III族元素極性面からなる裏面12側に、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い保護層20を形成することで、1250℃以上の成長温度において基板10のN極性面からなる表面11側に半導体層30を成長させる際に、基板10の少なくとも裏面12の熱分解を抑制することができ、基板10の裏面12からのIII族元素の蒸気の発生を抑制することができる。これにより、基板10の裏面12からのIII族元素の蒸気の発生に起因して、基板10の表面11にIII族元素の液滴が付着することを抑制することができる。その結果、成長温度が1250℃以上であっても、半導体層30の表面を平滑にすることができる。
【0109】
また、基板10の裏面12からのIII族元素の蒸気の発生を抑制することで、拡大成長中の半導体層30の側面にIII族元素の液滴が付着することを抑制することができる。その結果、半導体層30の径方向の成長が阻害されることを抑制し、半導体層30を安定的に拡大成長させることができる。
【0110】
また、保護層20により基板10の裏面12の熱分解を抑制することで、半導体層30の成長中に、基板10の裏面12中に含まれていた不純物が基板10の表面11に回り込むことを抑制することができる。すなわち、基板10の裏面12由来の不純物が半導体層30中に混入することを抑制することができる。
【0111】
また、1250℃以上の非常に高温の成長温度での半導体層30の安定的な成長が可能となることで、半導体層30をN極性面で成長させたとしても、半導体層30への不純物の混入を抑制し、半導体層30を高純度に成長させることができる。具体的には、半導体層30中のOの濃度や、半導体層30中のCの濃度を、例えば、多くとも1×1017at/cm未満とすることができる。
【0112】
このように、本実施形態では、積層物1および自立基板2をそれぞれ高純度に製造することができる。
【0113】
(b)本実施形態では、半導体層30をエピタキシャル成長させる工程の前に、半導体層30をエピタキシャル成長させる反応容器203内のうち少なくとも成長温度に加熱される領域であって、基板10が搬入される領域とは仕切られておらず、基板10に供給されるガスが接触する高温反応領域201aの温度を1500℃以上の温度に加熱しつつ、反応容器203内への窒化剤の供給を不実施とし、反応容器203内へのHガスおよびハロゲン系ガスの供給を実施することで、高温反応領域201aを構成する部材の表面を清浄化および改質させる高温ベークステップを実施する。その後、1250℃以上の成長温度で半導体層30を成長させることで、非常に高純度な半導体層30を成長させることができる。具体的には、半導体層30中のOの濃度や、半導体層30中のCの濃度を、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることができる。
【0114】
(c)半導体層30中のOの濃度を、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることで、半導体層30中のSiまたはGe等の制御が容易なn型不純物の濃度によって半導体層30中の自由電子濃度を制御することができる。
【0115】
ここで、従来の気相成長装置等を用いてIII族窒化物半導体からなる半導体層をN極性面で成長させると、気相成長装置を構成する部材等に起因して、Oが半導体層中に意図せずに混入する可能性がある。III族窒化物半導体中のOは、自由電子を生成するn型不純物(ドナー)となる。このようにn型不純物となるOが半導体層中に意図せずに混入した状態では、半導体層中の自由電子濃度を制御することは困難である。
【0116】
これに対し、本実施形態では、上述の製造方法により、添加量の制御が比較的難しいOの濃度を極限まで低下させることで、半導体層30中のn型不純物の添加量を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度により決定することができる。これにより、半導体層30中の自由電子濃度を、SiおよびGeの合計濃度とほぼ等しくすることができる。
【0117】
例えば、本実施形態のように、半導体層30中のSiおよびGeの各濃度を、例えば、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることで、半導体層30中の自由電子濃度を所定値未満とすることができ、半導体層30の絶縁性を高くすることができる。その結果、半導体層30から得られる自立基板20を半絶縁性基板とすることができる。
【0118】
(d)半導体層30中のCの濃度を、例えば、1×1017at/cm未満、好ましくは1×1016at/cm未満、より好ましくは5×1015at/cm未満とすることで、半導体層30中のn型不純物の濃度のみによって半導体層30中の自由電子濃度を制御することができる。
【0119】
ここで、従来の気相成長装置等を用いた上述の場合では、Cも半導体層中に意図せずに混入する可能性がある。III族窒化物半導体中のCは、p型不純物(アクセプタ)となり、n型不純物を補償することとなる。このようにn型不純物を補償するCが半導体層中に意図せずに混入した状態では、半導体層中の自由電子濃度を制御することは困難である。
【0120】
これに対し、本実施形態では、上述の製造方法により、n型不純物を補償するCの濃度を極限まで低下させることで、半導体層30中のn型不純物の濃度のみによって半導体層30中の自由電子濃度を容易に制御することができる。すなわち、半導体層30中の自由電子濃度を、n型不純物の濃度とほぼ等しくすることができる。
【0121】
(e)本実施形態で得られる自立基板2は、上述したように高純度であることから、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10Ωcm以上という高い絶縁性を有している。なお、GaN結晶がSiやOといったドナー不純物を多く含む場合、この結晶の絶縁性を高めるには、例えば、結晶中にMn、Fe、コバルト(Co)、Ni、銅(Cu)等の補償用不純物を添加する場合がある。しかしながら、この場合では、補償用不純物の添加によりGaN結晶の品質が劣化しやすくなる可能性がある。例えば、GaN結晶中に補償用不純物を添加すると、この結晶をスライスすることで得られる自立基板に割れが発生しやすくなる。また、基板上に形成された積層構造中に補償用不純物が拡散することで、この基板を用いて作製された半導体デバイスの特性が低下しやすくなる。これに対し、本実施形態の自立基板2では、補償用不純物を添加することなく高い絶縁性を得られることから、従来手法では問題となりやすい結晶性劣化の課題を回避することが可能となる。
【0122】
(f)本実施形態で得られる自立基板2の絶縁性は、結晶中への補償用不純物の添加によって得られる絶縁性に比べ、温度依存性が低く、安定したものとなる。というのも、SiやOを例えば1×1017at/cm以上の濃度で含むGaN結晶に対し、それらの濃度を上回る濃度でFeを添加すれば、本実施形態のGaN結晶に近い絶縁性を付与することは一見可能とも考えられる。しかしながら、補償用不純物として用いられるFeの準位は0.6eV程度と比較的浅いことから、Feの添加により得られた絶縁性は、本実施形態のGaN結晶が有する絶縁性に比べ、温度上昇等に伴って低下しやすいという特性がある。これに対し、本実施形態によれば、補償用不純物の添加を行うことなく絶縁性を実現できることから、従来手法で問題となりやすい温度依存性増加の課題を回避することが可能となる。
【0123】
(g)反応容器203内のうち少なくとも上述の高温反応領域201aを構成する部材として、少なくともその表面が石英非含有およびB非含有の材料からなる部材を用いることで、半導体層30中に意図せずに、Si、OおよびBが混入することを抑制することができる。その結果、非常に高純度な半導体層30を成長させることができる。
【0124】
例えば、反応容器203内のうち少なくとも上述の高温反応領域201aを構成する部材を、例えば、SiC、グラファイト等のO非含有の耐熱性材料により構成した場合、基板10上に成長させるGaN結晶中のO濃度をさらに低減させることが可能となる。これにより、GaN結晶の品質をさらに向上させ、また、絶縁性をさらに向上させることが可能となる。
【0125】
例えば、反応容器203内のうち少なくとも上述の高温反応領域201aを構成する部材を、例えば、アルミナ等のC非含有の耐熱性材料により構成した場合、基板10上に成長させるGaN結晶中のC濃度をさらに低減させることが可能となる。これにより、GaN結晶の品質をさらに向上させることが可能となる。
【0126】
(h)基板10の裏面12側だけでなく側面13側にも保護層20を設けた状態で半導体層30を成長させることで、基板10の側面13の熱分解を抑制し、基板10の側面13からのGa蒸気の発生を抑制することができる。ここで、基板10の側面13に保護層20が設けられていない場合、基板10の側面13からのGa蒸気の発生によって、拡大成長中の半導体層30の側面にGaの液滴が付着する可能性がある。基板10の側面13は、拡大成長中の半導体層30の側面に近いため、このような現象が生じ易い。そのため、半導体層30の径方向の成長が阻害されてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、基板10の裏面12側だけでなく側面13側にも保護層20を設けた状態で半導体層30を成長させることで、基板10の側面13からのGa蒸気の発生に起因して、拡大成長中の半導体層30の側面にGaの液滴が付着することを抑制することができる。その結果、半導体層30の径方向の成長が阻害されることを抑制し、半導体層30を安定的に拡大成長させることができる。
【0127】
(4)本実施形態の変形例
本実施形態の構成は、上述の第1実施形態の構成に限定されず、以下に示す変形例のように変更することができる。
【0128】
(変形例1)
変形例1では、N極性面で成長させた半導体層30がFeを含む点が上述の実施形態と異なる。すなわち、半導体層30中のOおよびCの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、半導体層30中のSiおよびGeの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、半導体層30中のBの濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。一方で、半導体層30中のFeの濃度は、例えば、1×1017at/cm以上である。
【0129】
半導体層30から得られる自立基板2では、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率は、例えば、1×10Ω・cm以上となる。
【0130】
変形例1によれば、N極性面で成長させた半導体層30中において、n型不純物としてのSiやO等の濃度を低くすることにより、Feの添加量を少なく抑えたとしても、半導体層30の絶縁性を向上させることができる。
【0131】
(変形例2)
変形例2では、N極性面で成長させた半導体層30がn型半導体層である点が上述の実施形態と異なる。すなわち、半導体層30中のOおよびCの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、半導体層30中のBおよびFeの各濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。一方で、半導体層30中のSiの濃度は、例えば、1×1018at/cm以上である。なお、Siに代えて、またはSiに加えて、Geが添加されていてもよい。
【0132】
半導体層30から得られる自立基板2では、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率は、例えば、100Ω・cm以下となる。
【0133】
変形例2によれば、N極性面で成長させた半導体層30中において、n型不純物としてのSiを補償するCやFe等の濃度を低くすることにより、Siの添加量を少なく抑えたとしても、半導体層30中に所望の濃度の自由電子を生じさせ、半導体層30に所望の導電性を付与することができる。
【0134】
(変形例3)
変形例3では、N極性面で成長させた半導体層30がp型半導体層である点が上述の実施形態と異なる。すなわち、半導体層30中のOおよびCの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、半導体層30中のSiおよびGeの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、半導体層30中のBおよびFeの濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。一方で、半導体層30中のMgの濃度は、例えば、3×1018at/cm以上である。
【0135】
半導体層30中のホール濃度は、例えば、2×1017at/cm以上となる。
【0136】
変形例3によれば、N極性面で成長させた半導体層30中において、n型不純物としてのSiやO等の濃度を低くすることにより、Mgの添加量を少なく抑えたとしても、半導体層30中に所望の濃度のホールを生じさせることができる。
【0137】
<本発明の第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態は、積層物1から半導体装置3を得る点が上述の第1実施形態と異なる。以下、上述の第1実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
【0138】
(1)窒化物半導体積層物
まず、図8を用い、本実施形態に係る積層物1について説明する。図8は、本実施形態に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。
【0139】
図1に示すように、本実施形態の積層物1は、例えば、後述のショットキーバリアダイオード(SBD)としての半導体装置3を製造する際の中間体として構成されている。具体的には、積層物1は、例えば、基板10と、保護層20と、半導体層30と、を有している。
【0140】
(基板)
本実施形態では、基板10は、例えば、n型不純物を含むn型GaN自立基板として構成されている。基板10中のn型不純物としては、例えば、SiまたはGeが挙げられる。基板10中のn型不純物の濃度は、例えば、1.0×1018at/cm以上1.0×1019at/cm以下である。
【0141】
なお、基板10の表面11は、第1実施形態と同様に、N極性面であり、基板10の裏面12は、Ga極性面である。
【0142】
(保護層)
保護層20は、少なくとも基板10の裏面12側に設けられ、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い材料により構成されている。本実施形態においても、保護層20は、例えば、基板10の裏面12側だけでなく、基板10の側面13側にも設けられている。
【0143】
(半導体層)
本実施形態では、基板10のN極性面からなる表面11上に設けられた半導体層30は、例えば、下地n型半導体層31と、ドリフト層32と、を有している。
【0144】
(下地n型半導体層)
下地n型半導体層31は、基板10の結晶性を引き継いでドリフト層32を安定的にエピタキシャル成長させるバッファ層として、基板10の表面11に接するよう設けられている。
【0145】
また、下地n型半導体層31は、n型不純物を含み、n型不純物以外の不純物を少なくしたn型GaN層として構成されている。すなわち、下地n型半導体層31中のOおよびCの各濃度は、例えば、1×1017at/cm未満である。また、下地n型半導体層31中のBおよびFeの各濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。一方で、下地n型半導体層31中のSiの濃度は、例えば、1.0×1018at/cm以上1.0×1019at/cm以下である。なお、Siに代えて、またはSiに加えて、Geが添加されていてもよい。
【0146】
下地n型半導体層31の厚さは、後述のドリフト層32の厚さよりも薄く、例えば、0.1μm以上3μm以下である。
【0147】
(ドリフト層)
ドリフト層32は、下地n型半導体層31上に設けられ、低濃度のn型不純物を含み、n型不純物以外の不純物を少なくしたn型GaN層として構成されている。すなわち、ドリフト層32中のOおよびCの各濃度は、例えば、1×1016at/cm未満、好ましくは5×1015at/cm未満である。また、ドリフト層32中のBおよびFeの各濃度は、例えば、1×1015at/cm未満である。一方で、ドリフト層32中のSiの濃度は、基板10および下地n型半導体層31のそれぞれのSiの濃度よりも低く、例えば、1.0×1014at/cm以上5.0×1016at/cm以下である。ドリフト層32中のSiの濃度を1.0×1014at/cm以上とすることにより、半導体装置3のオン抵抗を低減することができる。一方で、ドリフト層32のSiの濃度を5.0×1016at/cm以下とすることにより、半導体装置3の所定の耐圧を確保することができる。なお、Siに代えて、またはSiに加えて、Geが添加されていてもよい。
【0148】
ドリフト層32は、半導体装置3の耐圧を向上させるため、例えば、下地n型半導体層31よりも厚く設けられている。具体的には、ドリフト層32の厚さは、例えば、3μm以上100μm以下である。ドリフト層32の厚さを3μm以上とすることにより、半導体装置3の所定の耐圧を確保することができる。一方で、ドリフト層32の厚さを100μm以下とすることにより、半導体装置3のオン抵抗を低減することができる。
【0149】
なお、下地n型半導体層31およびドリフト層32のそれぞれの厚さが上述の範囲内である場合には、図8に示すように、積層物1のうち半導体層30の径の拡大は、実際上で観察することができない。第1実施形態のように半導体層30を長時間成長させる場合には、図1に示すように半導体層30の径の拡大が見られるが、本実施形態では、半導体層30の厚さが小さいため、上述の半導体層30の径の拡大が見られない。
【0150】
なお、ドリフト層32は、例えば、不純物がイオン注入される被注入領域(符号不図示)を有している。
【0151】
(2)半導体装置
次に、図9を用い、本実施形態に係る半導体装置3について説明する。図9は、本実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【0152】
図9に示すように、本実施形態の半導体装置3は、上述の積層物1を用いて製造されたSBDとして構成され、例えば、基板10と、下地n型半導体層31と、ドリフト層32と、絶縁膜40と、p型電極(アノード)52と、n型電極(カソード)54と、を有している。
【0153】
本実施形態のドリフト層32は、例えば、その表面側の少なくとも一部に、不純物がイオン注入される不純物注入領域(不純物領域、p型領域)35を有している。本実施形態の不純物注入領域35は、例えば、p型不純物がイオン注入されることにより形成されている。p型不純物としては、例えば、Mgが挙げられる。不純物注入領域35中のp型不純物の濃度の最大値は、例えば、1×1017at/cm以上1×1020at/cm以下であり、ドリフト層32の表面からの不純物注入領域35の深さは、例えば、50nm以上300nm以下である。
【0154】
本実施形態の不純物注入領域35は、例えば、平面視でリング状に設けられ、いわゆるガードリングとして構成されている。このように、ドリフト層32がガードリングとしての不純物注入領域35を有していることにより、p型電極52周辺の電界集中を抑制することができる。その結果、半導体装置3の耐圧を向上させることができる。
【0155】
p型電極52は、ドリフト層32の表面に接するように設けられている。p型電極52は、ドリフト層32とショットキー障壁を形成するよう構成され、例えば、Pd、Pd/Ni、またはNi/Auからなっている。また、p型電極52は、平面視で該p型電極52の外周部がドリフト層32中の不純物注入領域35と重なるよう配置されている。
【0156】
n型電極54は、基板10の裏面12側に設けられている。n型電極54は、基板10に対してオーミック接触するよう構成され、例えば、Ti/Alからなっている。
【0157】
なお、半導体装置3の状態では、保護層20は除去されている。
【0158】
(3)半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法
次に、図8図11を用い、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法について説明する。図10は、本実施形態に係る窒化物半導体積層物の製造方法または半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。図11(a)は、イオン注入工程を示す断面図であり、(b)は、活性化アニール工程を示す断面図である。なお、図11(a)および(b)は、積層物1の一部を示している。
【0159】
本実施形態では、以下に示すS120~S200を実施することで、積層物1および半導体装置3を製造する例について説明する。
【0160】
(S120~S140)
第1実施形態と同様に、基板用意工程S120および保護層形成工程S140を実施する。保護層形成工程S140により、少なくとも基板10のGa極性面からなる裏面12側に、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い保護層20を形成する。本実施形態においても、例えば、基板10の裏面12側だけでなく、基板10の側面13側にも、保護層20を形成する。
【0161】
(S160:半導体層形成工程)
次に、第1実施形態と同様に、反応室201のうち少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化および改質する高温ベークステップを行った後に、1250℃以上の成長温度に加熱された基板10に対してGaClガスおよびNHガスを供給することで、基板10のN極性面からなる表面11側に、GaNからなる半導体層30をエピタキシャル成長させる。
【0162】
このとき、本実施形態では、半導体層30として、例えば、下地n型半導体層31と、ドリフト層32とをこの順で成長させる。
【0163】
下地n型半導体層31を成長させる際、GaClガスおよびNHガスを供給すると同時に、SiHガスやSiHCl等のSi含有ガスを基板10に対して供給することにより、下地n型半導体層31中にSiをドーピングする。反応容器203内におけるGaClガスに対するSi含有ガスの分圧比率(Si含有ガスの分圧/GaClガスの分圧)は、例えば1/1×10~1/1000とすることができる。これにより、下地n型半導体層31中のSiの濃度が、例えば、1.0×1018at/cm以上1.0×1019at/cm以下となる。
【0164】
また、ドリフト層32を成長させる際、下地n型半導体層31を成長させる際と同様に、Si含有ガスを基板10に対して供給することにより、ドリフト層32中にSiをドーピングする。反応容器203内におけるGaClガスに対するSi含有ガスの分圧比率(Si含有ガスの分圧/GaClガスの分圧)は、例えば1/1×10~1/2×10とすることができる。これにより、ドリフト層32中のSiの濃度が、例えば、1.0×1014at/cm以上5.0×1016at/cm以下となる。
【0165】
以上により、本実施形態の積層物1が製造される。
【0166】
(S200:半導体装置作製工程)
次に、積層物1を用い、以下のように半導体装置3を作製する。
【0167】
(イオン注入ステップ)
ドリフト層32の表面を覆うように、例えば、スパッタ法により、シリコン窒化膜(SiNx膜)またはAlN膜からなる表面側キャップ層60を形成する。これにより、ドリフト層32へのイオン注入の際に、ドリフト層32へのダメージを抑制することができる。なお、このとき、表面側キャップ層60の厚さを、例えば、20nm以上50nm以下とする。
【0168】
表面側キャップ層60を形成したら、表面側キャップ層60上に所定のレジストパターン70を形成する。このとき、レジストパターン70において、平面視でドリフト層32の被注入領域の位置に開口(符号不図示)を形成する。なお、本実施形態では、レジストパターン70の開口を例えば平面視でリング状とする。
【0169】
レジストパターン70を形成したら、図11(a)に示すように、ドリフト層32のN極性面からなる表面のうち、レジストパターン70の開口に露出した部分(ドリフト層32の被注入領域)に対して、p型不純物をイオン注入する。これにより、ドリフト層32中(ドリフト層32の表面側の少なくとも一部)に、p型不純物を含む不純物注入領域35を形成する。なお、本実施形態では、不純物注入領域35は、平面視でリング状のガードリングとなる。
【0170】
このとき、p型不純物として、例えば、Mgをイオン注入する。また、このとき、p型不純物をイオン注入する際の加速電圧を、例えば、10keV以上100keV以下とし、ドーズ量を、例えば、1×1012cm-2以上1×1015cm-2以下とする。これにより、不純物注入領域35中のp型不純物濃度の最大値は、例えば、1×1017at/cm以上1×1020at/cm以下となり、ドリフト層32の表面からの不純物注入領域35の深さは、例えば、50nm以上300nm以下となる。
【0171】
なお、このとき、半導体層成長工程S160で用いた保護層20が基板10の少なくとも裏面12側に設けられた状態を維持する。
【0172】
p型不純物のイオン注入が完了したら、レジストパターン70を除去する。
【0173】
(活性化アニールステップ)
次に、図11(b)に示すように、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、積層物1に対して少なくとも赤外線を照射し、積層物1をアニールする。これにより、イオン注入ステップにおいて半導体層30が受けた結晶ダメージを回復させ、不純物注入領域35中のp型不純物を結晶格子中に組み込んで(電気的に)活性化させる。
【0174】
このとき、アニール処理は、例えば、開始温度からアニール温度までの昇温を3~30秒の範囲内の時間で行い、アニール温度での保持を20秒~3分の範囲内の時間行い、その後、アニール温度から停止温度までの降温を1~10分の範囲内の時間で行うといった処理手順、処理条件で行う。停止温度および開始温度を、それぞれ、例えば500~800℃の範囲内の温度とする。アニール温度を、例えば1100℃以上1250℃以下の範囲内の温度とする。アニール処理の不活性ガス雰囲気を、Nガス、またはArガス等の希ガスを含む雰囲気とし、その圧力を、例えば100~250kPaの範囲内の圧力とする。
【0175】
また、このとき、基板10の表面11側に表面側キャップ層60が設けられた状態で、積層物1をアニールする。これにより、活性化アニールステップにおいて、ドリフト層32の表面の熱分解を抑制することができる。
【0176】
また、このとき、半導体層成長工程S160で用いた保護層20が基板10の少なくとも裏面12側に設けられた状態で、積層物1をアニールする。これにより、半導体層成長工程S160と同様に、保護層20により基板10の裏面12の熱分解を抑制することができる。
【0177】
アニール処理が完了したら、所定の溶媒で表面側キャップ層60および保護層20を除去する。
【0178】
(p型電極形成ステップ)
次に、半導体層30の表面11を覆うように、例えばスパッタ法によりPd/Ni膜を形成し、フォトリソグラフィによりPd/Ni膜を所定の形状にパターニングする。これにより、平面視でp型電極52の外周部が不純物注入領域35と重なるように、p型電極52を形成する。
【0179】
(n型電極形成ステップ)
次に、基板10の裏面12側に、例えばスパッタ法によりTi/Al膜を形成し、フォトリソグラフィによりTi/Al膜を所定の形状にパターニングする。これにより、基板10の裏面12側に、n型電極54を形成する。
【0180】
(オーミックアロイ工程)
次に、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、積層物1に対して少なくとも赤外線を照射し、積層物1をアニールする。これにより、p型電極52およびn型電極54のそれぞれを構成する各金属膜の密着性を向上させるとともに、ドリフト層32に対するp型電極52の接触抵抗、および基板10に対するn型電極54の接触抵抗を低減させる。
【0181】
その後、積層物1をダイシングし、所定の大きさのチップに切り分ける。チップサイズは、典型的には、0.3mm角以上20mm角以下であり、1枚の積層物1から数個以上数万個以下のチップを取得することができる。
【0182】
以上により、図9に示すように、本実施形態の半導体装置3が製造される。半導体装置3では、ドリフト層32の表面側にガードリングとしての不純物注入領域35が形成されていることで、p型電極52周辺の電界集中を抑制することができる。その結果、半導体装置3の耐圧を向上させることができる。
【0183】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0184】
(a)III族窒化物半導体からなる基板10のうち、III族元素極性面からなる裏面12側に、耐熱性が基板10の裏面12よりも高い保護層20を形成することで、1250℃以上の成長温度において基板10のN極性面からなる表面11側に半導体装置3の機能層としての半導体層30を成長させる際に、基板10の裏面12からのGa蒸気の発生に起因して、基板10の表面11にGaの液滴が付着することを抑制することができる。
これにより、成長温度が1250℃以上であっても、半導体層30の表面を平滑にすることができる。その結果、半導体装置3の耐圧を向上させることができる。
【0185】
また、1250℃以上の非常に高温の成長温度での半導体層30の安定的な成長が可能となることで、半導体層30をN極性面で成長させたとしても、半導体層30への不純物の混入を抑制し、半導体層30を高純度に成長させることができる。具体的には、半導体層30中のOの濃度や、半導体層30中のCの濃度を、例えば、多くとも1×1017at/cm未満とすることができる。これにより、半導体層30の自由キャリアの濃度を容易に制御することができる。
【0186】
このように、本実施形態では、積層物1および半導体装置3をそれぞれ高純度に製造することができる。
【0187】
(b)基板10の熱的に安定なN極性面からなる表面11側に不純物をイオン注入することで、活性化アニールステップにおいてアニール温度を1100℃以上とした際であっても、基板10の表面11の熱分解を抑制することができる。これにより、基板のIII族元素極性面側に不純物をイオン注入する場合よりも、アニール温度を高くしたり、アニール時間を長くしたりすることができる。その結果、イオン注入した不純物を確実に活性化させることができる。
【0188】
(c)イオン注入される半導体層30中のO、SiおよびC等の不純物の濃度が極めて低いことから、Mg等のp型不純物の注入量を少なく抑えたとしても、不純物注入領域35中のホール濃度を容易に制御することができ、不純物注入領域35に所望の導電性(p型半導体特性)を付与することが可能となる。つまり、O、SiおよびC等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて、Mg等の不純物のイオン注入による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与することができる。さらには、上記不純物を多く含む場合に比べて、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低いことにより、キャリアの移動度低下を回避することができる。
【0189】
(d)活性化アニールステップでは、半導体層成長工程S160で用いた保護層20が基板10の少なくとも裏面12側に設けられた状態で、積層物1をアニールする。つまり、半導体層成長工程S160で用いた保護層20を、活性化アニールステップでの裏面側キャップ層として兼用する。これにより、半導体層成長工程S160と同様に、活性化アニールステップにおいて、保護層20により基板10の裏面12の熱分解を抑制することができる。また、活性化アニールステップでの裏面側キャップ層の形成工程が不要となることで、製造工程を短縮化することができる。これにより、半導体装置3の品質を向上させつつ、半導体装置3の生産性を向上させることができる。
【0190】
(5)本実施形態の変形例
本実施形態の構成は、上述の第2実施形態の構成に限定されず、以下に示す変形例のように変更することができる。
【0191】
図12は、本実施形態の変形例に係る半導体装置を示す断面図である。
図12に示す変形例にように、半導体装置3は、いわゆるジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードとして構成されていてもよい。
【0192】
本変形例では、p型不純物を含む不純物注入領域35のパターンが上述の実施形態の不純物注入領域35のパターンと異なっている。すなわち、本変形例の不純物注入領域35のうち外周部よりも内側の領域の一部は、平面視でp型電極52と重なるよう配置されている。具体的には、不純物注入領域35は、例えば、平面視で所定の間隔で同心円状に配置された複数の円環状パターン(符号不図示)を有している。これにより、ドリフト層32とp型電極52とが直接接合するショットキー接合部(符号不図示)と、p型不純物を含む不純物注入領域35を介してドリフト層32とp型電極52とが接合するpn接合部(符号不図示)とが形成されている。なお、不純物注入領域35は、ストライプ状等の他のパターンを有していても良い。
【0193】
本変形例によれば、p型不純物を含む不純物注入領域35を介したpn接合部において空乏層を形成することができる。これにより、半導体装置3の順方向の特性を、上述の実施形態のようなSBDの特性とほぼ同等としつつ、半導体装置3の逆方向の耐圧をSBDの耐圧よりも向上させることができる。
【0194】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0195】
上述の実施形態では、基板10がGaN自立基板からなる場合について説明したが、基板は、III族窒化物半導体からなっていれば、GaNに限られない。すなわち、基板は、AlInGa1-x-yN(0≦x+y≦1,0≦x≦1,0≦y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていればよい。なお、基板がAlNからなる場合、保護層は、AlN以外とし、例えば、AlまたはBNとすることが好ましい。
【0196】
上述の実施形態では、半導体層30がGaNからなる場合について説明したが、半導体層は、III族窒化物半導体からなっていれば、GaNに限られない。すなわち、半導体層は、AlInGa1-x-yN(0≦x+y≦1,0≦x≦1,0≦y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていればよい。
【0197】
上述の実施形態では、半導体層30は、基板10と同じ材料(GaN)からなる場合について説明したが、半導体層は、上記したIII族窒化物半導体からなっていれば、基板と異なる材料からなっていてもよい。
【0198】
上述の実施形態では、保護層20が基板10の裏面12側だけでなく側面13側にも設けられている場合について説明したが、保護層は、基板の裏面側のみに設けられていてもよい。
【0199】
上述の実施形態では、ステップ2において、リング状スペーサ310や板状スペーサ320を介して基板10をサセプタ208上に載置する場合について説明したが、基板10の表面11側を保護できれば、リング状スペーサ310や板状スペーサ320を用いなくてもよい。例えば、サセプタ208のポケット208p内に、基板10の表面11の面積よりも少し小さい面積を有する溝部を形成しておき、基板10の表面11側が当該溝部を覆うように基板10をサセプタ208上に載置してもよい。これにより、基板10の表面11側を保護することができる。
【0200】
上述の第2実施形態では、不純物注入領域35がp型不純物をイオン注入することにより形成される場合について説明したが、不純物注入領域は、n型不純物、またはその他の不純物をイオン注入することにより形成されてもよい。
【実施例
【0201】
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
【0202】
(1)窒化物半導体積層物の製造
以下の窒化物半導体積層物のサンプルを、それぞれ所定数、製造した。
(実施例)
基板:GaN
基板の表面:N極性面
保護層:AlN
保護層の形成方法:HVPE法
保護層の厚さ:300nm
保護層の形成箇所:基板の裏面側および側面側
半導体層:GaN
半導体層の製造装置:上述の実施形態のHVPE装置
半導体層の厚さ:1000μm
半導体層の成長温度:1250℃(比較例)
基板:GaN
基板の表面:N極性面
保護層:なし
半導体層:GaN
半導体層の製造装置:従来のHVPE装置
半導体層の厚さ:1000μm
半導体層の成長温度:1250℃
(2)評価
半導体層を成長した後の半導体層の表面状態を光学顕微鏡等で観察した。また、SIMSにより、半導体層の組成分析を行った。
【0203】
(3)結果
(比較例)
比較例の積層物では、半導体層の表面が荒れていた。比較例では、1250℃で半導体層を成長する際に、基板の裏面の熱分解に起因して発生したGa蒸気が基板の表面に回りこみ、Gaの液滴が基板の表面に付着したと考えられる。このため、基板上への半導体層の成長が阻害され、半導体層の表面が荒れてしまったと考えられる。
【0204】
また、比較例の積層物では、半導体層の外周形状が歪んでいた。比較例では、基板の裏面からのGa蒸気の発生に起因して、拡大成長中の半導体層の側面にGaの液滴が付着したと考えられる。このため、半導体層の径方向の成長が阻害され、半導体層の外周形状が歪んでしまったと考えられる。
【0205】
また、比較例の積層物では、半導体層中の不純物の濃度が下記のとおりであった。
O:3.5×1018at/cm
C:2.3×1017at/cm
Si:4.2×1017at/cm
B:1.7×1016at/cm
Fe:1.9×1016at/cm
比較例では、1250℃で半導体層を成長する際に、基板の裏面の熱分解によって、基板の裏面中に含まれていた不純物が基板の表面に回りこみ、半導体層中に不純物が混入してしまったと考えられる。また、比較例では、1250℃で半導体層を成長する際に、HVPE装置の反応容器等を構成する部材を起因として、半導体層中に不純物が混入してしまったと考えられる。これらの結果、半導体層中の不純物の濃度が高かったと考えられる。
【0206】
(実施例)
これに対し、実施例の積層物では、半導体層の表面が平滑であり、鏡面の状態であった。実施例では、基板のGa極性面からなる裏面側に保護層を形成することで、1250℃で半導体層を成長する際に、基板の裏面の熱分解を抑制することができ、基板の裏面からのGa蒸気の発生を抑制することができることを確認した。これにより、基板の裏面からのGa蒸気の発生に起因して、基板の表面にGaの液滴が付着することを抑制することができることを確認した。その結果、成長温度が1250℃以上であっても、半導体層の表面を平滑にすることができることを確認した。
【0207】
また、実施例の積層物では、半導体層が拡大成長し、半導体層は逆円錐台状となっていた。実施例では、基板の裏面からのGa蒸気の発生を抑制することで、拡大成長中の半導体層の側面にGaの液滴が付着することを抑制することができることを確認した。これにより、半導体層の径方向の成長が阻害されることを抑制し、半導体層を安定的に拡大成長させることができることを確認した。
【0208】
また、実施例の積層物では、半導体層中の不純物の濃度が下記のとおりであった。
O:7.2×1015at/cm
C:3.6×1015at/cm
Si:4.3×1015at/cm
B:1×1015at/cm未満(SIMS検出下限値未満)
Fe:1×1015at/cm未満(SIMS検出下限値未満)
実施例では、1250℃で半導体層を成長する際に、1250℃以上の非常に高温の成長温度での半導体層の安定的な成長が可能となること、半導体層をN極性面で成長させたとしても、半導体層への不純物の混入を抑制し、半導体層を高純度に成長させることができることを確認した。また、実施例では、上述の実施形態のHVPE装置を用い、高温ベークステップ実施後に半導体層を成長させることで、非常に高純度な半導体層を成長させることができることを確認した。
【0209】
このように、実施例によれば、窒化物半導体積層物を高純度に製造することができることを確認した。
【0210】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0211】
(付記1)
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に設けられ、耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層と、
前記基板の前記表面側に設けられ、III族窒化物半導体からなる半導体層と、
を有し、
前記半導体層中のOの濃度は、1×1017at/cm未満である
窒化物半導体積層物。
【0212】
(付記2)
前記半導体層中のOの濃度は、1×1016at/cm未満である
付記1に記載の窒化物半導体積層物。
【0213】
(付記3)
前記半導体層中のOの濃度は、5×1015at/cm未満である
付記1に記載の窒化物半導体積層物。
【0214】
(付記4)
前記半導体層中のCの濃度は、1×1017at/cm未満である
付記1~3のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0215】
(付記5)
前記半導体層中のCの濃度は、1×1016at/cm未満である
付記4に記載の窒化物半導体積層物。
【0216】
(付記6)
前記半導体層中のCの濃度は、5×1015at/cm未満である
付記4に記載の窒化物半導体積層物。
【0217】
(付記7)
前記半導体層中のBおよびFeの各濃度は、1×1015at/cm未満である
付記1~6のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0218】
(付記8)
1250℃以上の温度で加熱したときの前記保護層の熱分解速度は、前記基板の前記裏面の熱分解速度よりも低い
付記1~7のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0219】
(付記9)
前記保護層は、さらに前記基板の前記側面側に設けられる
付記1~8のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0220】
(付記10)
前記保護層の厚さは、20nm以上1000nm以下である
付記1~9のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0221】
(付記11)
前記保護層は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素からなる
付記1~10のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0222】
(付記12)
前記保護層は、アモルファスまたは多結晶からなる
付記1~11のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0223】
(付記13)
前記保護層は、単結晶からなる
付記1~11のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物。
【0224】
(付記14)
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、
前記基板の前記表面側に設けられ、III族窒化物半導体からなる半導体層と、
を有し、
前記半導体層中のOの濃度は、1×1017at/cm未満である
半導体装置。
【0225】
(付記15)
前記半導体層中のOの濃度は、1×1016at/cm未満である
付記14に記載の半導体装置。
【0226】
(付記16)
前記半導体層中のOの濃度は、5×1015at/cm未満である
付記14に記載の半導体装置。
【0227】
(付記17)
前記半導体層中のCの濃度は、1×1017at/cm未満である
付記14~16のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0228】
(付記18)
前記半導体層中のCの濃度は、1×1016at/cm未満である
付記17に記載の半導体装置。
【0229】
(付記19)
前記半導体層中のCの濃度は、5×1015at/cm未満である
付記17に記載の半導体装置。
【0230】
(付記20)
前記半導体層中のBおよびFeの各濃度は、1×1015at/cm未満である
付記14~19のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0231】
(付記21)
前記半導体層は、不純物の被注入領域を有する
付記14~20のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0232】
(付記22)
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板を準備する工程と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に、耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層を形成する工程
1250℃以上の成長温度に加熱された前記基板に対してIII族元素含有ガスおよび窒化剤を供給することで、前記基板の前記表面側に、III族窒化物半導体からなる半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記半導体層中のOの濃度を1×1017at/cm未満とする
窒化物半導体積層物の製造方法。
【0233】
(付記23)
前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程の前に、前記半導体層をエピタキシャル成長させる反応容器内のうち少なくとも前記成長温度に加熱される領域であって、前記基板が搬入される領域とは仕切られておらず、前記基板に供給されるガスが接触する高温反応領域の温度を1500℃以上の温度に加熱しつつ、前記反応容器内への前記窒化剤の供給を不実施とし、前記反応容器内への水素ガスおよびハロゲン系ガスの供給を実施することで、前記高温反応領域を構成する部材の表面を清浄化および改質させる高温ベーク工程を実施する
付記22に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0234】
(付記24)
前記高温反応領域を構成する部材として、少なくともその表面が石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いる
付記23に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0235】
(付記25)
前記高温反応領域を構成する部材として、少なくともその表面がアルミナ、炭化ケイ素、およびグラファイトのうち少なくともいずれかからなる部材を用いる
付記24に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0236】
(付記26)
前記高温ベーク工程では、前記反応容器内の圧力を、0.5気圧以上2気圧以下の圧力に維持する。また好ましくは、前記高温ベーク工程では、前記反応容器内のうち少なくとも前記高温反応領域の温度を1500℃以上の温度に維持する。また好ましくは、前記高温ベーク工程では、前記反応容器内を排気しながら行う。また好ましくは、前記高温ベーク処理を30分以上実施する
付記23~25のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0237】
(付記27)
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板を準備する工程と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に、耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層を形成する工程
1250℃以上の成長温度に加熱された前記基板に対してIII族元素含有ガスおよび窒化剤を供給することで、前記基板の前記表面側に、III族窒化物半導体からなる半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記窒化物半導体層を切り出して窒化物半導体自立基板を作製する工程と、
を有し、
前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記半導体層中のOの濃度を1×1017at/cm未満とする
窒化物半導体自立基板の製造方法。
【0238】
(付記28)
窒素極性面からなる表面と、前記表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板を準備する工程と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に、耐熱性が前記基板の前記裏面よりも高い保護層を形成する工程
1250℃以上の成長温度に加熱された前記基板に対してIII族元素含有ガスおよび窒化剤を供給することで、前記基板の前記表面側に、III族窒化物半導体からなる半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記半導体層中のOの濃度を1×1017at/cm未満とする
半導体装置の製造方法。
【0239】
(付記29)
前記半導体層中に不純物をイオン注入する工程と、
前記基板を加熱し、前記半導体層中の前記不純物を活性化させる工程と、
を有し、
前記不純物を活性化させる工程は、前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程で用いた前記保護層が前記基板の少なくとも前記裏面側に設けられた状態で実施する
付記28に記載の半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0240】
1 窒化物半導体積層物(積層物)
2 窒化物半導体自立基板(自立基板)
3 半導体装置
10 基板
20 保護層
30 半導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12