(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ペリクル、ペリクル付フォトマスク、露光方法、半導体の製造方法及び液晶ディスプレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20221124BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20221124BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20221124BHJP
G03F 1/62 20120101ALI20221124BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J133/00
C09J133/06
G03F1/62
(21)【出願番号】P 2017134609
(22)【出願日】2017-07-10
【審査請求日】2019-07-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2016137076
(32)【優先日】2016-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
(72)【発明者】
【氏名】堀越 淳
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】関根 裕
【審判官】亀ヶ谷 明久
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534904号公報(JP,A)
【文献】特開2011-107468号公報(JP,A)
【文献】特開2017-90718号公報(JP,A)
【文献】特開2017-90719号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
G03F 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形枠状のペリクルフレームと、前記ペリクルフレームの上端面に配置されたペリクル膜と、前記ペリクルフレームの下端面に設けられた粘着剤とを少なくとも備え、
但し、ペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面に付着した粘着剤層と、を備え 前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化剤との反応生成物を含み、前記粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を含み、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.0以上6.0以下である、ペリクル;及びペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面に付着した粘着剤層と、を備え、前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化剤との反応生成物を含み、前記粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0.9質量%以下である、ペリクルを除くペリクルであって、
前記粘着剤は前記ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って形成されており、前記粘着剤の剥離強度が、ペリクルの一つの長辺を把持して剥離することにより測定される値から得られ、1.20~
3.27N/cm
2であり、前記粘着剤の剥離強度と引張強度の比が、0.10以上で0.33以下であり、
前記粘着剤はアクリル酸アルキルエステル共重合体又はメタクリル酸アルキルエステル共重合体と、エポキシ化合物又はイソシアネート化合物との硬化物を含み、
前記アクリル酸アルキルエステル共重合体又はメタクリル酸アルキルエステル共重合体が、アクリル酸アルキルエステルモノマー単位又はメタクリル酸アルキルエステルモノマー単位と、エポキシ基又はイソシアネート基と反応性のあるモノマー単位とを含む、ペリクル。
【請求項2】
前記粘着剤が前記引張強度の測定において破断したときの伸び率であるストロークが、660%以下である請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記アクリル酸アルキルエステル共重合体又はメタクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記アクリル酸アルキルエステルモノマー単位又はメタクリル酸アルキルエステルモノマー単位を90~99質量%と、エポキシ基又はイソシアネート基と反応性のある前記モノマー単位を1~10質量%とを含み、前記粘着剤が
、シラン化合物、又
はビニル系モノマーの単独重合体もしくは共重合体からなる相溶性セグメントと、
含フッ素系化合物もしくは含シリコーン系化合物からなる非相溶性セグメントのブロック共重合体である表面改質剤を含まない請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか
1項に記載のペリクルをフォトマスクに貼付けたペリクル付フォトマスク。
【請求項5】
請求項4に記載のペリクル付フォトマスクを用いて露光することを特徴とする露光方法。
【請求項6】
請求項4に記載のペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する液晶ディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際に、ゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造あるいは液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0003】
一般に、ペリクルは、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜を配置し、風乾して接着する(特許文献1)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤で接着する(特許文献2)。さらに、ペリクルフレームの下端面にはフォトマスクに接着するためのポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層、及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)から構成される。
【0004】
直接フォトマスクに接する粘着剤には、露光中にマスクからペリクルを落とさないようにする粘着力とともに、ペリクル剥離後の残渣低減が求められている。基本的にペリクルは半永久的に使用できるものであるが、ペリクル貼付後のマスクの異常やペリクルの異常が発見された場合、ペリクルは剥がされ、マスクを再洗浄あるいは再加工した後、再度ペリクルが貼り直される事がある。この際、マスクの再生を容易に行えるようにペリクル剥離後の残渣が少ない粘着剤が求められている。
【0005】
近年、半導体の微細化が進み、露光光源の短波長化が行われてきた。露光技術が開発された当初、主流であった水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、現在はKrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)、EUV(13.5nm)などに移行しつつある。このように露光の短波長化が進むと、マスクの平坦度が露光描写精度に大きな影響を与えるようになった。そのため、ペリクルを剥離する際、マスクに歪みを生じさせず、容易にマスクを再生できるように更なる粘着剤の低残渣が求められている。
【0006】
これまでに残渣を低減する技術として、粘着剤中に表面改質剤等を添加するといった試み(特許文献3、特許文献4)がなされている。また、残渣を低減する技術として、凝集破断強度が20g/mm2以上である粘着剤層を有する大型ペリクルが開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭58-219023号公報
【文献】特開昭60-83032号公報
【文献】特許第5638693号公報
【文献】特開2016-18008号公報
【文献】特開2006-146085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着剤中に表面改質剤等を添加して残渣を低減することに関して、露光工程の微細化によりペリクルからのアウトガスの低減が求められている近年、粘着剤にガス発生要因となりうる化合物を添加することは好ましくなく、また添加した化合物がマスクに付着、残留する懸念もある。また、粘着剤層の凝集破断強度を高めて残渣を低減することに関して、本発明者が、半導体用ペリクルについて異なるいくつかの種類の粘着剤の検討を行った結果、粘着剤の主剤の違いにより凝集破壊強度は大きく異なり、凝集破断強度が高い粘着剤が必ずしも良好な結果に結びつかなかった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。即ち、表面改質剤等の化合物の添加等をすることなく、ペリクル剥離後の残渣が少ない粘着剤、ペリクル、及び低残渣のペリクル用粘着剤の選択方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、粘着剤の引張強度、剥離強度が特定の値であれば、低残渣性でペリクル用粘着剤として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の一つの態様では、剥離強度と引張強度の比が、0.10以上で0.33以下であるペリクル用粘着剤を提供できる。
本発明の別の態様では、ペリクルフレームと、前記ペリクルフレームの上端面に張設されたペリクル膜と、前記ペリクルフレームの下端面に付着された前記ペリクル用粘着剤とを少なくとも備えるペリクルを提供できる。
本発明の他の態様では、粘着剤の引張強度と剥離強度を測定して、剥離強度と引張強度の比が0.10以上で0.33以下である粘着剤をペリクル用粘着剤として選択する工程を少なくとも含むペリクル用粘着剤の選択方法を提供できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アウトガスやマスクへの残留を懸念される表面改質剤等の添加化合物を含まずに、ペリクル剥離後の残渣が少なくすることができるため、ペリクル用粘着剤として好適である。したがって、マスクの再生が容易となり、マスクに歪みを生じさせない。さらに、ペリクルからのアウトガスも低減することができる。また、新規粘着剤を選定する際には、残渣評価として、マスク貼付後数か月保管し剥離して残渣を観察するが、本発明の選択方法では、短期間で低残渣性の粘着剤を選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明によるペリクルの具体例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ペリクルは、ペリクルフレームと、ペリクルフレームの上端面に張設されたペリクル膜と、ペリクルフレームの下端面に付着されたペリクル用粘着剤とを少なくとも備え、必要に応じて、粘着剤の下端面に粘着剤を保護するための離型層(セパレータ)を剥離可能に備えてもよい。
ペリクルフレームは、ペリクルを貼付けるフォトマスクの形状に対応し、一般的には四角形枠状(長方形枠状又は正方形枠状)である。
ペリクルフレームの材質に特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄系合金、セラミックス、セラミックス金属複合材料、炭素鋼、工具鋼、ステンレス鋼、炭素繊維複合材料等が挙げられる。なかでも、強度、剛性、軽量、加工性、コスト等の点からアルミニウム及びアルミニウム合金をはじめとした金属製のものが好ましい。
【0013】
ペリクルフレームは、陽極酸化処理、メッキ処理、ポリマーコーティング、塗装等が施されていてもよく、必要に応じて処理がなされることについて特に制限はない。
ペリクルフレームの表面は、黒色系の色調となっていることが好ましい。このようにすれば、ペリクルフレームでの露光光の反射を抑えられ、かつ、異物検査においても異物の検出がし易く有利なペリクルを得ることができる。このようなペリクルフレームは、例えば、アルミニウム合金製のペリクルフレームに黒色アルマイト処理を施すことによって得られる。
【0014】
ペリクルフレームには、気圧調整孔を設けてもよい。気圧調整孔を設けることで、ペリクルとフォトマスクで形成された閉空間の内外の気圧差をなくし、ペリクル膜の膨らみや凹みを防止することができる。
気圧調整孔には、除塵用フィルターを取り付けることが好ましい。このようにすることで、気圧調整孔からペリクルとフォトマスクとの閉空間内に外から異物が侵入するのを防ぐことができる。
【0015】
また、ペリクルフレームの内側面には、ペリクルとフォトマスクとの閉空間内に存在する異物を捕捉するために粘着剤を塗布してもよい。
【0016】
ペリクル用粘着剤は、ペリクルをフォトマスクに貼付けるために、ペリクルフレームの下端面に設けられる。一般的には、粘着剤は、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ又はそれ以下の幅に形成される。
このようなペリクル用粘着剤のなかでも、本発明のペリクル用粘着剤は、剥離強度と引張強度の比(剥離強度/引張強度)が0.10以上で0.33以下である。粘着剤の剥離強度と引張強度の比が0.33以下であれば、フォトマスクからペリクルを剥がす際の残渣を少なくすることができる。また、この値は、定量的に評価することが可能であるため、従来のように、新規粘着剤を選定する際に、残渣評価として、マスク貼付後数か月保管し剥離して残渣を観察する必要がなく、短期間で低残渣性の粘着剤を選定することができる。
【0017】
粘着剤の引張強度は、オートグラフによる引張試験を実施すること測定できる。粘着剤引張試験のJIS規格が無いため、以下の点を修正してエラストマーの引張試験JIS K 6251:2010(ISO 37:2005)を準用する。13mm×20mmの短冊状の型に硬化前の粘着剤を厚み1mmになるよう流し込み、風乾後、加熱して硬化させる。長さ20mmになるようにオートグラフの治具にセットし、300mm/minの一定速度で引っ張り、粘着剤が破断した際の応力を引張強度(N/cm2)とする。また、上記引張試験において、粘着剤が破断したときの粘着剤の伸び率をストローク(%)とする。
【0018】
粘着剤の剥離強度は、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ幅で厚さ0.3mmに設けた粘着剤にフォトマスクに貼付けて測定する。フォトマスクに、評価対象となる粘着剤を介してペリクルフレームを貼り付け、粘着剤とマスク間のエアーが抜けるまで放置する。剥離装置を使用し、ペリクルの長辺一片を把持して一定速度で引っ張り、ペリクルがフォトマスクから完全に剥離するまでの負荷荷重を測定し、その最高荷重(N)を剥離面積(cm2)で除した値を剥離強度(N/cm2)とする。ここで、フォトマスクは、一般に、石英基板上にCrの遮光膜でパターンが形成されたものであり、ペリクルは、遮光膜上に設置される場合が多い。そのため、フォトマスクの代わりに、Cr処理した石英基板を用いてもよい。
【0019】
ペリクル用粘着剤は、引張試験において粘着剤が破断したときの粘着剤の伸び率であるストロークが660%以下であることが好ましい。ストロークが660%以下であれば、フォトマスクからペリクルを剥がす際の残渣をより少なくすることができることを見出した。また、粘着剤には、緩衝材やシーリング材としての役割もあり、ある程度の柔軟性も求められるため、ストロークは200%以上であることが好ましい。
【0020】
ペリクル用粘着剤の剥離強度は、1.20N/cm2以上であることが好ましい。1.20N/cm2未満の場合、ペリクルをマスクに貼り付けた際にエアーが発生しやすく、長期間安定してマスク上に保持しておくことも困難となる場合がある。剥離強度が小さいと、剥離強度/引張強度の値も小さくなる傾向があり、実質的に剥離強度/引張強度の値は0.10以上であることが好ましい。剥離強度の上限は、使用するペリクル用粘着剤の組成によって変動し、特に限定されないが、剥離時の作業性の点から好ましくは30N/cm2である。
剥離強度は、ペリクルを、6インチのCr処理をした石英基板に、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ幅で厚さ0.3mmに設けた粘着剤を介して圧力4.8gf/mm2、30秒で貼付け、1日間室温(23±3℃)で放置し、石英基板に粘着剤をなじませた後、ロードセル付き剥離装置によりペリクルの1つの長辺を把持して速度0.1mm/sで、ペリクルをCr処理をした石英基板から完全に剥離し、最高荷重を剥離面積で除して剥離強度を算出できる。
【0021】
ペリクル用粘着剤としては、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤を使用することができる。特に、アクリル系粘着剤は、所望の引張強度と剥離強度が得られやすく好適に使用できる。
【0022】
アクリル系粘着剤は、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の硬化物を含むものである。本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味するものであり、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、アクリル酸アルキルエステル共重合体又はメタクリル酸アルキルエステル共重合体を意味する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、全てのモノマー単位(繰り返し単位)に対して、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー単位成分を90~99質量%と、エポキシ基又はイソシアネート基と反応性のあるモノマー単位成分を1~10質量%と、を含むものを用いることができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー単位成分としては、好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、及び(メタ)アクリル酸イソノニル等のモノマー単位から選択することができる。
エポキシ基又はイソシアネート基と反応性のあるモノマー単位成分としては、好ましくは、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーや、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシアルキル基含有(メタ)アクリレート等のモノマー単位から選択することができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体としては、例えば、綜研化学株式会社から市販されているアクリル粘着剤(SKダインシリーズのSK-1425、SK-1495など)を使用することができる。また、粘着力や作業性から、SK-1495やSK-1473Hが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の硬化物を得るための硬化剤は、好ましくは、イソシアネート基を2個以上含むポリイソシアネート化合物を用いることができる。
イソシアネート化合物としては、好ましくはトリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、エポキシ基を2個以上含むポリエポキシ化合物等も用いることができる。
硬化物は、好ましくは80~200℃に加熱することにより得られる。
【0024】
ペリクル用粘着剤は、表面改質剤等を含むことを必要とせず、アウトガスやマスクへの残留を懸念される表面改質剤等の添加化合物を含まないことが好ましい。表面改質剤としては、特許第5638693号公報に記載のシラン化合物、特開2016-18008号公報に記載のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体からなる相溶性セグメントと、フッ素系化合物又は含シリコーン系化合物からなる非相溶性セグメントのブロック共重合体が挙げられる。
【0025】
ペリクル用粘着剤の引張強度、ストローク、剥離強度は、アクリル系粘着剤の例では、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化剤の種類および割合を適宜変更して硬化することにより調節することができる。アクリル系粘着剤を用いる場合は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量部に対して、0.01~1.0質量部の硬化剤を含有させて硬化することが好ましい。
【0026】
ペリクル膜の材質としては、特に制限はないが、露光光源の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えば、従来エキシマレーザー用に使用されている非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ(旭硝子社製商品名)、テフロン(登録商標)、AF(デュポン社製商品名)等が挙げられる。これらのポリマーは、ペリクル膜の作製時に必要に応じて溶媒に溶解して使用してもよく、例えばフッ素系溶媒などで適宜溶解し得る。
【0027】
ペリクル膜とペリクルフレームを接着する際は、ペリクルフレームにペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着してもよく、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等を用いて接着してもよい。
【0028】
また、離型層(セパレータ)の材質は、特に制限されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤を離型層(セパレータ)の表面に塗布してもよい。
【0029】
本発明によるペリクルの具体例の縦断面図を
図1に示す。ペリクル1は、ペリクルフレーム12の上端面に張設されたペリクル膜11と、ペリクルフレーム12の下端面に付着された、ペリクル1をフォトマスクに貼付けるための粘着剤13を備える。また、粘着剤13の下端面には、粘着剤13を保護するための離型層(セパレータ)14が剥離可能に設けられている。
【0030】
本発明によれば、ペリクル用粘着剤の選択方法を提供でき、粘着剤の引張強度と剥離強度を測定して、剥離強度と引張強度の比が0.10以上で0.33以下である粘着剤をペリクル用粘着剤として選択する工程を少なくとも含む。新規粘着剤を選定する際には、残渣評価として、マスク貼付後数か月保管し剥離して残渣を観察するが、この選択方法では、短期間で低残渣性の粘着剤を選定することが可能となる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
はじめに、アルミ合金製のペリクルフレーム(外形サイズ149mm×115mm×3.15mm、フレーム幅2mm)をクリーンルームに搬入し、中性洗剤と純水により、十分に洗浄・乾燥させた。粘着剤は、アクリル粘着剤(綜研化学社製SKダイン1495)100質量部に、イソシアネート系硬化剤(綜研化学社製L-45)を0.09質量部添加し、混合して調製した。そして調製した粘着剤を自動ディスペンサ(岩下エンジニアリング社製)によって、ペリクルフレームの下端面全面に厚さ0.3mmで塗布した。その後、粘着剤が流動しなくなるまで風乾させた後、更に高周波誘導加熱装置によりペリクルフレームを150℃まで加熱し、粘着剤を硬化させた。
また、前記ペリクルフレーム上端面には、接着剤としてサイトップCTX-A(旭硝子株式会社製)を介して、ペリクル膜を貼付け、カッターにて外側の不要膜を切除しペリクルを完成させた。
完成したペリクル及び粘着剤について、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
[引張強度の測定]
調製した粘着剤を13mm×20mmの型に、厚み1mmになるよう流し込み、風乾させた後、150℃まで加熱してサンプルを作製した。長さ20mmになるようオートグラフAG-IS(島津製作所社製商品名)の測定器に設置し、300mm/minの速度で引っ張り、破断した際の引張強度を測定した。また、その際にストローク(%)も測定した。引張強度として、3個のサンプルを測定してそれらの平均値を用いた。
引張強度は引張荷重を断面積で除した値であるが、このときの断面積は、測定前のサンプルの断面積の値(本実施例では0.13cm2)を用いた。
【0033】
[剥離強度の測定]
実施例および比較例で作製したペリクルを6インチのCr処理をした石英基板に粘着剤を介して荷重5kgf(圧力4.8gf/mm2)、30秒で貼付け、1日間室温(23±3℃)で放置し、基板に粘着剤をなじませた。その後ロードセル付き剥離装置によりペリクルの1つの長辺を把持して速度0.1mm/sで、ペリクルをCr処理をした石英基板から完全に剥離し、最高荷重を剥離面積で除して剥離強度を算出した。
本実施例においては、粘着剤をペリクルフレームの下端面全面に塗布してあることから、剥離面積は10.4cm2とした。
【0034】
[残渣評価]
実施例および比較例で作製したペリクルを6インチのCr処理をした石英基板に粘着剤を介して荷重5kgf(圧力4.8gf/mm2)、30秒で貼付け、1日間室温(23±3℃)で放置し、基板に粘着剤をなじませた。その後ペリクルをロードセル付き剥離装置によりペリクルの長辺を把持して速度0.1mm/sで、ペリクルをCr処理をした石英基板から完全に剥離し、剥離後の石英基板上の残渣の状態を顕微鏡で確認した。各粘着剤の残渣量を「残渣面積」/「貼付面積」の百分率で評価した。
×:残渣量10%以上
○:残渣量5%以上10%未満
◎:残渣量0%以上5%未満
【0035】
[貼付性の評価]
実施例および比較例で作製したペリクルを6インチのCr処理をした石英基板に粘着剤を介して荷重5kgf(圧力4.8gf/mm2)、30秒で貼付け、1日間室温(23±3℃)で放置し、基板に粘着剤をなじませた。その後目視および顕微鏡で接着面を確認した。
○:異常なし
×:接着面にエアーの混入あり
【0036】
[耐久性の評価]
実施例および比較例で作製したペリクルを6インチのCr処理をした石英基板に粘着剤を介して荷重5kgf(圧力4.8gf/mm2)、30秒で貼付け、1日室温(23±3℃)で放置し、基板に粘着剤をなじませた。その後1か月50度加温後、接着面を目視および顕微鏡で確認した。
○:異常なし
×:接着面に粘着剤浮き上がりあり
【0037】
実施例2~11、比較例1~3
表1に示すように、粘着剤(SKダイン1495、SKダイン1473H、SKダイン1425)と硬化剤(L-45、Y-75)の種類と添加量を変化させて、粘着剤を混合、調製して、実施例1と同様にペリクルを作製した。
作製したペリクル及び粘着剤について、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
表1の結果から、剥離強度/引張強度の値を0.33以下とすれば、フォトマスクからペリクルを剥がす際の残渣の少なくすることができ、ペリクル用粘着剤として好適であることがわかる。また、ストロークが660%以下であれば、さらに残渣を少なくすることができ好適である。さらに、貼付性、耐久性の面からは剥離強度が1.20N/cm2以上であれば、ペリクル用粘着剤として十分に使用できることがわかる。
また、粘着剤の残渣性を引張強度、剥離強度、ストロークという定量可能なパラメータで評価することができるため、容易にペリクル用粘着剤として好適な低残渣性粘着剤を見出すことが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 ペリクル
11 ペリクル膜
12 ペリクルフレーム
13 粘着剤
14 離型層(セパレータ)