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特許71815282-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20221124BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221124BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20221124BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C12N9/02 ZNA
A01H1/00 A
A01H1/00 Z
C12Q1/6827 Z
C12N15/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018567505
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004514
(87)【国際公開番号】W WO2018147401
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017023294
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸澤 譲
(72)【発明者】
【氏名】武井 里美
(72)【発明者】
【氏名】大島 正弘
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 咲子
(72)【発明者】
【氏名】川田 元滋
(72)【発明者】
【氏名】関野 景介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明彦
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/090950(WO,A1)
【文献】特開2014-011967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法であって、
HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を、塩基性アミノ酸に変異させる工程を含み、
前記HSLタンパク質が、配列番号:4、20又は22に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示す、天然のアミノ酸配列からなるタンパク質であり、かつ
前記塩基性アミノ酸が、ヒスチジン、リジン又はアルギニンである、
製造方法。
【請求項2】
4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)植物細胞において、HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を、塩基性アミノ酸に変異させる工程と、
(II)工程(I)においてアミノ酸変異が導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、を含み、
前記HSLタンパク質が、配列番号:4、20又は22に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示す、天然のアミノ酸配列からなるタンパク質であり、かつ
前記塩基性アミノ酸が、ヒスチジン、リジン又はアルギニンである、
製造方法。
【請求項3】
前記HSLタンパク質において、前記140位又は該部位に対応するアミノ酸の他、下記(A)に記載のアミノ酸変異を更に導入する、請求項1又は2に記載の方法
(A)HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸をフェニルアラニンに変異させる。
【請求項4】
前記4-HPPD阻害剤が、テフリルトリオン又はスルコトリオンである、請求項1~のうちのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法であって、被検植物のHSL遺伝子における配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出し、該ヌクレオチドが塩基性アミノ酸をコードしている場合に、該被検植物は4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を有すると判定し、
前記HSL遺伝子が、配列番号:4、20又は22に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示す、天然のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、かつ
前記塩基性アミノ酸が、ヒスチジン、リジン又はアルギニンである、
方法。
【請求項6】
植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法であって、被検植物のHSL遺伝子における
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸をコードするヌクレオチドと、
(ii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸をコードするヌクレオチドとを検出し
(i)に記載のヌクレオチドが塩基性アミノ酸をコードし、かつ、
(ii)に記載のヌクレオチドがフェニルアラニンをコードしている場合に、前記被検植物は4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を有すると判定し、
前記HSL遺伝子が、配列番号:4、20又は22に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示す、天然のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、かつ
前記塩基性アミノ酸が、ヒスチジン、リジン又はアルギニンである、
方法。
【請求項7】
前記4-HPPD阻害剤が、テフリルトリオン又はスルコトリオンである、請求項5又は6に記載の判定方法。
【請求項8】
4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法であって、
(a)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有する植物品種と任意の品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を、請求項6又は7に記載の方法により判定する工程、及び
(c)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有すると判定された個体を選抜する工程、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法に関する。さらに、本発明は、該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法に関する。また、本発明は、植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法、及び該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、スルコトリオン、メソトリオン及びテンボトリオン等の除草剤成分が開発され、実用化されている。これら除草剤はいずれも、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(4-HPPD)の機能を阻害する薬剤(4-HPPD阻害剤)であり、この酵素の機能を阻害することにより、図1に示すように、カロテノイド合成系を間接的に阻害し、葉緑素の崩壊を引き起こすことによって、植物を白化、枯死に至らせる。これら阻害剤については、食用品種に対する安全性は十分に確認されているため、イネの栽培等において急速に普及しつつある。
【0003】
一方、品種によっては、4-HPPD阻害剤に弱いものもあり、場合によっては枯死に至る可能性があることが報告されている。そのため、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を高めることができる方法や、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性を確実に識別できる方法の開発が求められている。
【0004】
この点に関し、本発明者らは従前、イネが持つ、2価鉄イオン及び2-オキソグルタル酸に依存する酸化酵素(2-オキソグルタル酸依存的ジオキシゲナーゼ)をコードする遺伝子(4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase inhibitor sensitive gene No.1(HIS1))及びその相同遺伝子(HSL1遺伝子)が、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性に寄与していることを見出している。また、かかる遺伝子を利用することによって、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性が高められた植物体を作出できることも明らかにし、さらには、イネのHIS1遺伝子と高い相同性を有する遺伝子は、オオムギ、ソルガム、トウモロコシ等においても存在していていることを明らかにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2012/090950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法、及び該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イネのHIS1タンパク質は、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化することによって、該阻害剤を分解する活性を有していることを確認した。しかしながら、その一方で、それと極めて高い相同性を示すOsHSL1タンパク質(配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)は、その触媒活性が僅かなものであるということを見出した。
【0008】
そこで、この新たな知見に基づき、本発明者らは、HIS1タンパク質とOsHSL1タンパク質とにおける僅かなアミノ酸配列における相違が、前記触媒活性に寄与していると想定した。そして、OsHSL1タンパク質において、これら触媒活性に寄与していると想定される部位におけるアミノ酸残基を、HIS1タンパク質のそれに置換した変異体を作製し、それら変異体における前記触媒活性を評価した。
【0009】
その結果、OsHSL1タンパク質の140位のフェニルアラニンをヒスチジン等の塩基性アミノ酸に置換することによって、前記触媒活性は向上することが明らかになった。また、他の種におけるHIS1相同タンパク質(ZmHSL2タンパク質及びSbHSL1タンパク質)においても、OsHSL1タンパク質の140位に対応するアミノ酸を塩基性アミノ酸に変異させることによって、前記触媒活性は向上することを見出した。さらに、前記140位をヒスチジンに置換したOsHSL1タンパク質を発現させた、シロイヌナズナ及び4-HPPD阻害剤感受性品種のイネにおいて、その4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、より詳しくは、以下のものである。
<1> 2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法であって、HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を、塩基性アミノ酸に変異させる工程を含む、製造方法。
<2> 4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)植物細胞において、HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を、塩基性アミノ酸に変異させる工程と、
(II)工程(I)においてアミノ酸変異が導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、
を含む製造方法。
<3> 前記塩基性アミノ酸が、ヒスチジン、リジン又はアルギニンである、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法であって、被検植物のHSL遺伝子における配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出し、該ヌクレオチドが塩基性アミノ酸をコードしている場合に、該被検植物は4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を有すると判定する方法。
<5> 4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法であって、
(a)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有する植物品種と任意の品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を、<4>に記載の方法により判定する工程、及び
(c)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有すると判定された個体を選抜する工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸(以下、単に「140位のアミノ酸」とも称する)を塩基性アミノ酸に変異させることによって、該タンパク質の、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性を高めることができる。
【0012】
特に、4-HPPD阻害剤がベンゾビシクロン(以下「BBC」とも称する)及びその加水分解体(以下「ベンゾビシクロン加水分解体」又は「BBC-OH」とも称する)である場合には、前記140位の他、更に204位若しくは298位、又は該部位に対応するアミノ酸を、各々他のアミノ酸に置換することによって、当該阻害剤を酸化する触媒活性をより高めることができる。
【0013】
そして、このような2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法を利用することにより、本発明においては、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体を製造することも可能となる。
【0014】
さらに、上述のとおり、HSLタンパク質において、140位のアミノ酸が前記触媒活性に影響するアミノ酸であることを見出したことに基づき、本発明によれば、被検植物のHSL遺伝子における140位のアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出することによって、該被検植物の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定することもできる。また、本発明によれば、該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法も、提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チロシン代謝経路及びカロテノイド生合成経路と、4-HPPD阻害剤との概要と関連を示す図である。
図2】HIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質の、ベンゾビシクロン加水分解体(BBC-OH)分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。図中の三角は、BBC-OHの分解物に由来するピークであることを示す。
図3】HIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質の、テフリルトリオン分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。図中の三角は、テフリルトリオン分解物に由来するピークであることを示す。
図4】HIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質の、スルコトリオン分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。図中の三角は、スルコトリオン分解物に由来するピークであることを示す。
図5】タンパク質の三次元結晶構造が解かれているシロイヌナズナのアントシアニジン合成酵素(図中右側のパネル参照)を鋳型として作製した、HIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質における、基質結合部位として予測されたアミノ酸残基及び周辺の基質ポケットと予想されたアミノ酸残基を示す、三次元構造モデル図である。
図6】OsHSL1タンパク質変異体(F140H及びF298Lの二点変異体、F140H及びL204Fの2点変異体、F140Hの単一変異体)の、BBC-OH分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。
図7】OsHSL1タンパク質変異体(L204F及びF298Lの2点変異体、F298Lの単一変異体)の、BBC-OH分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。
図8】OsHSL1タンパク質変異体(F140H及びF298Lの2点変異体、F140H及びL204Fの2点変異体、L204F及びF298Lの2点変異体)の、スルコトリオンの分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すスペクトルである。
図9】HIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質の各種変異体に関し、各種4-HPPD阻害剤の分解活性を、高速液体クロマトグラフィーによって解析した結果を示すグラフである。図中、「HIS1」はHIS1タンパク質の各種4-HPPD阻害剤分解活性を示し、「HSL1 140H」はOsHSL1タンパク質の1点変異体(F140H)のそれらを示し、「HSL1 140H 204F」はOsHSL1タンパク質の2点変異体(F140H及びL204F)のそれらを示し、「HSL1 140H 298L」はOsHSL1タンパク質の2点変異体(F140H及びF298L)のそれらを示し、「HSL1 140H 204F 298L」はOsHSL1タンパク質の3点変異体(F140H、L204F及びF298L)のそれらを示し、「HSL1 140H 204F 229T 298L」はOsHSL1タンパク質の4点変異体(F140H、L204F、S229T及びF298L)のそれらを示し、「HSL1 118I 140H 204F 229T 298L」はOsHSL1タンパク質の5点変異体(V118I、F140H、L204F、S229T及びF298L)のそれらを示す。また、図中縦軸は、HIS1タンパク質の4-HPPD阻害剤分解活性の値を各々100とした際の相対値を示す。
図10】ベンゾビシクロン(BBC)0.05μM又は0.06μM含有寒天培地にて、OsHSL1タンパク質変異体(V118I、F140H、L204F、S229T及びF298Lの5点変異体、F140H、L204F、S229T及びF298Lの4点変異体、F140H、又は、L204F及びF298Lの3点変異体)を発現させたシロイヌナズナの生育状況を観察した結果を示す写真である。図中、右側二つのプレートにおける各右下1/4の領域は形質転換していないシロイヌナズナの生育状況を観察した結果を示す。また、矢印は、緑色を呈した個体を示す。
図11】BBC含有MS培地にて、ベンゾビシクロン感受性イネ やまだわら、OsHSL1タンパク質の野生型を発現させたやまだわら(図中「HSL1(野生型)組換え体」)及びOsHSL1タンパク質の変異体(F140Hの1点変異体)を発現させたやまだわら(図中「mHSL1(F140H)組換え体」)の生育状況を観察した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法>
本発明は、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法であって、HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を、塩基性アミノ酸に変異させる工程を含む、製造方法を、提供する。
【0017】
本発明における「4-HPPD阻害剤」とは、4-HPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ、酵素番号;1.13.11.27,1.14.2.2)の機能を阻害する薬剤(4-HPPD阻害剤)を意味する。4-HPPD阻害剤は、図1に示すように、4-HPPDの機能を阻害することにより、カロテノイド合成系を間接的に阻害し、葉緑素の崩壊を引き起こして植物を白化させ、枯死に至らせる。
【0018】
本発明における「4-HPPD阻害剤」は、(1)シクロヘキサンジオン系、(2)ピラゾール系、(3)ビシクロ系、(4)イソオキサゾール系に分類される(「農薬からアグロバイオギュレーター-病害虫雑草制御の現状と将来」、日本、シーエムシー出版、2009年12月 参照)。
(1)シクロヘキサジオン系としては、例えば、テフリルトリオン(Tefuryltrione,CAS登録番号:473278-76-1)、スルコトリオン(Sulcotrione,CAS登録番号:99105-77-8)、メソトリオン(Mesotrione,CAS登録番号:104206-82-8)、テンボトリオン(Tembotrione,CAS登録番号:335104-84-2)、ランコトリオン(Lancotrione,CAS登録番号:1486617-21-3)、2-[2-ニトロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-シクロヘキサン-1,3ジオン(2-[2-nitro-4-(trifluoromethyl)benzoyl]cyclohexane-1,3-dione)(Nitisinone,NTBC,CAS登録番号:104206-65-7)が挙げられる。
(2)ピラゾール系としては、例えば、ピラゾレート(Pyrazolynate,CAS登録番号:58011-68-0)、ベンゾフェナップ(Benzofenap,CAS登録番号:82692-44-2)、ピラゾキシフェン(Pyrazoxyfen,CAS登録番号:71561-11-0)、トプラメゾン(Topramezone,CAS登録番号:210631-68-8)、ピラスルホトール(Pyrasulfotole,CAS登録番号:365400-11-9)が挙げられる。
(3)ビシクロ系としては、例えば、ベンゾビシクロン(Benzobicyclon,BBC,CAS登録番号:156963-66-5)、ベンゾビシクロン加水分解体(Benzobicyclon hydrolysate,BBC-OH,CAS登録番号:126656-88-0)、ビシクロピロン(Bicyclopyrone,CAS登録番号:352010-68-5)が挙げられる。
(4)イソオキサゾール系としては、例えば、イソキサフルトール(Isoxaflutole,CAS登録番号:141112-29-0)が挙げられる。
【0019】
本発明の対象となる4-HPPD阻害剤としては、ベンゾビシクロン(BBC)又はその加水分解体(ベンゾビシクロン加水分解体、BBC-OH)、テフリルトリオン、スルコトリオン、メソトリオン、テンボトリオン、ランコトリオン、ビシクロピロン、NTBCといったシクロヘキサンジオン系、ビシクロ系の4-HPPD阻害剤が好ましく、BBC、BBC-OH、テフリルトリオン、スルコトリオン、メソトリオン、テンボトリオンがさらに好ましく、BBC、BBC-OH、テフリルトリオンがより好ましく、BBC、BBC-OHが特に好ましい。
【0020】
なお、任意の化合物が4-HPPD阻害活性を有するかは、4-HPPD酵素が促進する4-ヒドロキシフェニルピルビン酸からホモゲンチジン酸の生成が、当該化合物の存在下抑制されるかどうかを解析することによって判定することができる(例えば、Schulz,A.Ort,O.Beyer,P.Kleinig,H.(1993),FEBS Lett.,318,162-166、Secor,J.(1994),Plant Physiol.,106,1429-1433の記載 参照)。
【0021】
本発明における「触媒活性」とは、下記反応式において示すように、2-オキソグルタル酸(下記反応式における「2OG」)依存的に、基質とする4-HPPD阻害剤(下記反応式における「R」)の酸化反応を触媒する活性を意味する。
R+2OG+O→RO+コハク酸+CO
なお、この反応においては、2OGの脱炭酸によるコハク酸と二酸化炭素の生成を伴う。
【0022】
本発明において前記触媒活性が高められる対象となるHSLタンパク質は、HIS1タンパク質(典型的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)と高い相同性を有するタンパク質(HSLタンパク質)を意味する。高い相同性とは、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上(例えば、85%、90%、95%、97%、99%以上)の配列の相同性である。配列の相同性は、BLASTP(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264-2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)に基づいている。BLASTPによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0023】
本発明にかかる「HSLタンパク質」の由来としては、植物であれば特に制限はなく、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ソルガムが挙げられる。より具体的に、イネ由来のHSLタンパク質としては、OsHSL1タンパク質(典型的には、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、OsHSL2タンパク質(典型的には、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。オオムギ由来のHSLタンパク質としては、HvHSL1タンパク質(典型的には、配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、HvHSL2タンパク質(典型的には、配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、HvHSL3タンパク質(典型的には、配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。コムギ由来のHSLタンパク質としては、TaHSL1タンパク質(典型的には、配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、TaHSL2タンパク質(典型的には、配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。トウモロコシ由来のHSLタンパク質としては、ZmHSL1タンパク質(典型的には、配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、ZmHSL2タンパク質(典型的には、配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。ソルガム由来のHSLタンパク質としては、SbHSL1タンパク質(典型的には、配列番号:22に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。しかしながら、本発明にかかるHSLタンパク質は、これらに特定されるものではない。また、自然界において(すなわち、非人工的に)ヌクレオチド配列が変異することにより、タンパク質のアミノ酸配列も変化が生じ得る。したがって、本発明においては、その対象に、上記典型的なアミノ酸配列を有するもののみならず、このような天然の変異体も含まれることにつき、理解されたし。
【0024】
また、前記触媒活性を高めるため、前述のHSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸が置換される「塩基性アミノ酸」としては、例えば、ヒスチジン、リジン、アルギニンが挙げられ、前記触媒活性をより高め易いという観点から、ヒスチジンであることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明においては、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を塩基性アミノ酸に変異させる以外に、他の部位のアミノ酸に変異を導入してもよい。かかる「変異」は、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又はそれに対応する部位以外において、HSLタンパク質の1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されることを意味し、ここで「複数」とは、特に制限はないが、通常2~40個、好ましくは2~30個、より好ましくは2~20個、さらに好ましくは2~10個(例えば、2~8個、2~4個、2~2個)である。
【0026】
他の部位に導入される変異としては、特に制限はないが、BBC又はBBC-OHを酸化する触媒活性がより高まり易いという観点から、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸、及び、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の298位又は該部位に対応するアミノ酸のうちの少なくとも1のアミノ酸が、各々他のアミノ酸に置換されることが好ましく、当該2部位が各々他のアミノ酸に置換されていることがより好ましい。また、かかる「他のアミノ酸」としても特に制限はないが、同観点から、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸は、フェニルアラニンに置換されることが好ましく、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の298位又は該部位に対応するアミノ酸は、ロイシンに置換されることが好ましい。
【0027】
なお、本発明において、「対応する部位」とは、アミノ酸配列解析ソフトウェア(GENETYX-MAC、Sequencher等)、BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)、CLUSTALW(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)を利用し、配列番号:4に記載のアミノ酸配列と、他のHSLタンパク質のアミノ酸配列とを整列させた際に、配列番号:4に記載のアミノ酸配列における140位等と同列になる部位のことである。
【0028】
また、HSLタンパク質における変異導入は、アミノ酸配列レベルでの変異導入法によっても、またヌクレオチド配列レベルでの変異導入法によっても行なうことができる。
【0029】
アミノ酸配列レベルでの変異導入法としては、所望の部位に変異を導入したHSLタンパク質のアミノ酸配列に基づき、市販のペプチド合成機等を用い、かかる変異体を化学的に合成する方法が挙げられる。
【0030】
また、ヌクレオチド配列レベルでの変異導入としては、例えば、部位特異的変異誘発法、ゲノム編集法、所望の部位に変異を導入したHSLタンパク質をコードするヌクレオチド配列情報に基づくDNAの化学的合成法が挙げられる。そして、かかる変異導入法により調製したヌクレオチドに基づき、生物学的合成系又は無細胞タンパク質合成系を利用して、140位を塩基性アミノ酸に置換したHSLタンパク質等を得ることができる。
【0031】
生物学的合成系としては、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等の細胞が挙げられ、かかる細胞に、前記HSLタンパク質等をコードするヌクレオチドを該細胞において発現させることが可能なカセット(プラスミドベクター等)を導入することによって、当該タンパク質等を調製することができる。
【0032】
また、無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽由来、大腸菌由来、ウサギ網状赤血球由来、昆虫細胞由来の合成系が挙げられ、かかる合成系(細胞抽出液等)に、前記HSLタンパク質等をコードするヌクレオチドを該合成系において発現させることが可能なカセット(プラスミドベクター等)を添加することによって、当該タンパク質等を調製することができる。
【0033】
なお、かかる合成系においては、後述の実施例において示すとおり、前記触媒活性を有するHSLタンパク質を調製し易いという観点から、コムギ胚芽由来の無細胞タンパク質合成系が好ましい。またHSLタンパク質の前記触媒活性への影響を抑えるという観点から、還元剤としてTris(2-carboxyethyl)phosphine(TCEP)を用いる合成系が好ましい。
【0034】
また、上述の変異導入によって、前記触媒活性が高められたかどうかは、例えば、後述の実施例に示すとおり、変異を導入したHSLタンパク質、2価鉄イオン、2-オキソグルタル酸及び酸素の存在下で、4-HPPD阻害剤を処理した後、高速液体クロマトグラフィー解析にて、直接4-HPPD阻害剤の酸化物、又はその酸化を経て生じる生成物(分解物)の量を測定し、変異を導入する前のHSLタンパク質における量と比較することで評価することができる。さらに、上記反応式に示すとおり、かかる反応によっては、4-HPPD阻害剤の酸化物のみならず、同時にコハク酸も生じる。したがって、変異を導入したHSLタンパク質存在下において生成されたコハク酸の量を測定し、変異を導入する前のHSLタンパク質のそれと比較することによっても、前記触媒活性が高められたかどうかを、判定することができる。
【0035】
<4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法>
上述のとおり、HSLタンパク質の140位を塩基性アミノ酸に置換することによって、4-HPPD阻害剤を酸化し、分解する活性を高め、ひいては後述の実施例に示すとおり、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性も当該タンパク質を発現させた植物において向上させることができる。
【0036】
したがって、本発明は、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)植物細胞において、HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸を塩基性アミノ酸に変異させる工程と、
(II)工程(I)においてアミノ酸変異が導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、を含む製造方法をも、提供することができる。
【0037】
本発明の方法によって4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められる植物体としては特に制限はなく、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、ソルガム、トウモロコシ、クリーピングベントグラス等のイネ科植物、シロイヌナズナ等のアブラナ科植物、トマト等のナス科植物、ダイズ、アルファルファ、ミヤコグサ等のマメ科植物、ワタ等のアオイ科植物、テンサイ等のアカザ科植物が挙げられる。これら植物において、特に、4-HPPD阻害剤に感受性の品種が、本発明の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を高める適用対象として好ましい。4-HPPD阻害剤に感受性のイネ品種としては、例えば、やまだわら(関東239号)、ハバタキ、タカナリ、モミロマン、ミズホチカラ、ルリアオバ、おどろきもち、兵庫牛若丸、カサラスが挙げられるが、これらに制限されない。
【0038】
本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。さらに、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス、未熟胚、花粉等が含まれる。
【0039】
そして、植物細胞において、HSLタンパク質における、140位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に変異させる方法としては、ゲノム編集が挙げられる。かかるゲノム編集においては、例えば、ZFNs(米国特許6265196号、8524500号、7888121号、欧州特許1720995号)、TALENs(米国特許8470973号、米国特許8586363号)、ヌクレアーゼドメインが融合されたPPR(pentatricopeptiderepeat)(Nakamura et al.,Plant Cell Physiol 53:1171-1179(2012))等の融合タンパク質や、CRISPR-Cas9(米国特許8697359号、国際公開2013/176772号)、CRISPR-Cpf1(Zetsche B.et al.,Cell,163(3):759-71,(2015))やTarget-AID(K.Nishida et al.,Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems, Science,DOI:10.1126/science.aaf8729,(2016))等のガイドRNAとタンパク質の複合体を用いることにより、当業者であれば、植物細胞において140位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に置換させることができる。
【0040】
また、植物細胞において、HSLタンパク質における、140位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に変異させる他の方法として、遺伝子組換え法が挙げられる。かかる方法においては、140位のアミノ酸が塩基性アミノ酸に置換されたHSLタンパク質をコードするヌクレオチドを、植物細胞に導入し、該細胞のゲノム上のHSL遺伝子と該ヌクレオチドとの間で相同組換えが生じることにより、前記細胞において140位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に置換させることができる(所謂、ジーンターゲッティング)。なお、当業者であれば、前記ヌクレオドは、例えば、上述の「ヌクレオチド配列レベルでの変異導入」に記載の方法により適宜調製することができる。また、該ヌクレオチドの植物細胞への導入は、例えば、後述の植物の再生方法に記載の方法を用いて適宜行なうことができる。
【0041】
また、当然のことながら、上述のとおり、本発明の植物体の製造方法においても、140位又は該部位に対応するアミノ酸のみならず、他の部位のアミノ酸に変異を導入してもよい。かかる他の部位における変異としては、例えば、BBC又はBBC-OHに対する抵抗性がより高まり易いという観点から、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸、及び、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の298位又は該部位に対応するアミノ酸のうちの少なくとも1のアミノ酸が、各々他のアミノ酸に置換されることが好ましく、当該2部位が各々他のアミノ酸に置換されていることがより好ましい。また、かかる「他のアミノ酸」としても特に制限はないが、同観点から、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位又は該部位に対応するアミノ酸は、フェニルアラニンに置換されることが好ましく、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の298位又は該部位に対応するアミノ酸は、ロイシンに置換されることが好ましい。
【0042】
本発明において、アミノ酸変異が導入された植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0043】
例えば、イネにおいて、再生植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta,S.K.In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.)pp66-74,1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al.Plant Physiol.100,1503-1507,1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al.Bio/technology,9:957-962,1991)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al.Plant J.6:271-282,1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。
【0044】
また、オオムギに関する再生植物体を作出する手法としては、Tingayら(Tingay S.et al.Plant J.11:1369-1376,1997)、Murrayら(Murray F et al.Plant Cell Report 22:397-402,2004)、およびTravallaら(Travalla S et al.Plant Cell Report 23:780-789,2005)に記載された方法を挙げることができる。
【0045】
また、コムギに関する再生植物体を作出する手法としては、例えば、「小川泰一、日本農薬学会誌、2010年、35巻、2号、160~164ページ」に記載された方法を挙げることができる。
【0046】
また、トウモロコシに関する再生植物体を作出する手法としては、例えば、「Ishida Y.ら、Nat Protoc.、2007年、2巻、7号、1614~1621ページ」、「Hiei Y.ら、Front Plant Sci.、2014年、11月7日;5:628.doi:10.3389/fpls.2014.00628.eCollection 2014.」、「樋江井ら、育種学研究、2000年、205~213ページ」に記載された方法を挙げることができる。
【0047】
ソルガム植物体を再生させる方法としては、例えば、アグロバクテリウム法やパーティクルガン法により、未熟胚やカルスに遺伝子導入して植物体を再生させる方法、超音波によって遺伝子導入した花粉を用いて受粉する方法が好適に用いられる(J.A.Able et al.,In Vitro Cell.Dev.Biol.37:341-348,2001、A.M.Casas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11212-11216,1993、V.Girijashankar et al.,Plant Cell Rep 24:513-522,2005、J.M.JEOUNG et al.,Hereditas 137:20-28,2002、V Girijashankar et al.,Plant Cell Rep 24(9):513-522,2005、Zuo-yu Zhao et al., Plant Molecular Biology 44:789-798,2000、S.Gurel et al.,Plant Cell Rep 28(3):429-444,2009、ZY Zhao,Methods Mol Biol, 343:233-244,2006、AK Shrawat and H Lorz,Plant Biotechnol J,4(6):575-603,2006、D Syamala and P Devi Indian J Exp Biol,41(12):1482-1486,2003、Z Gao et al.,Plant Biotechnol J,3(6):591-599,2005)。
【0048】
さらに、シロイヌナズナであれば、Akamaら(Akama et al.Plant Cell Reports 12:7-11,1992)の方法が挙げられ、本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0049】
また、その他の植物であっても、Tabeiら(田部井豊 編、「形質転換プロトコール[植物編]」、株式会社化学同人、2012年9月20日出版)に記載の方法を用い、形質転換及び植物体への再生を行なうことができる。
【0050】
一旦、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0051】
また、かかる方法により、植物体の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められたか否かは、例えば、後述の実施例に記載するように、前述の変異を植物に導入することにより、作出した植物において前記抵抗性が高められたか否かを検定することにより判定することができる。すなわち、変異導入前の植物が白化する4-HPPD阻害剤の濃度(例えば、シロイヌナズナ(A.thaliana:エコタイプColumbia)を用いる場合においては、0.05μM以上)にて、前述のアミノ酸変異を導入した植物体を白化せずに生育できれば、該植物体は前記抵抗性が高められたと判定できる。
【0052】
以上、本発明の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の植物体の製造方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【0053】
後述の実施例において示すとおり、上述の遺伝子組換え法において、相同組換えが生じなくとも(例えば、上記ヌクレオチドが、上記植物細胞のゲノム中にランダムに挿入されても)、該ヌクレオチドを植物細胞に導入することにより、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体を製造することができる。
【0054】
したがって、本発明は、
4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)140位のアミノ酸が塩基性アミノ酸に置換されたHSLタンパク質をコードするヌクレオチドを、植物細胞に導入する工程と、
(II)工程(I)において前記ヌクレオチドが導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、
を含む製造方法をも、提供することができる。
【0055】
上述のとおり、当業者であれば、適宜公知の手法を用い、前記ヌクレオチドを調製し、該ヌクレオチドを植物細胞に導入し、また該植物細胞から植物体を得ることができる。また、上述のとおり、この遺伝子組換え法を用いた製造方法においても、140位又は該部位に対応するアミノ酸のみならず、他の部位のアミノ酸に変異を導入してもよい。
【0056】
さらに、かかる方法においては、後述の実施例6のように、前記ヌクレオチドが由来とする植物と前記細胞が由来とするそれとが、同種〈例えば、共にイネ)の関係であってもよく、また後述の実施例5のように、前記ヌクレオチドが由来とする植物と前記細胞が由来とするそれとが、異種〈例えば、前者がイネ由来であり、後者がシロイヌナズナ由来)の関係であってもよい。
【0057】
<植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性の判定方法>
後述の実施例に示すとおり、HSLタンパク質の140位のアミノ酸は、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性に大きく寄与する。したがって、本発明は、植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法であって、被検植物のHSL遺伝子における配列番号:4に記載のアミノ酸配列の140位又は該部位に対応するアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出し、該ヌクレオチドが塩基性アミノ酸をコードしている場合に、該被検植物は4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を有すると判定する方法をも、提供する。
【0058】
本発明の判定方法における、被験植物からのヌクレオチドの調製は、常法、例えば、CTAB法を用いて行うことができる。ヌクレオチドを調製するための植物としては、成長した植物体のみならず、種子や幼植物体を用いることもできる。
【0059】
また、このようにして得られたヌクレオチドが、HSL遺伝子において、配列番号:4に記載の140位のアミノ酸をコードしているか否かは、シークエンシングを行なうことにより検出することができる。さらに、このような直接的なヌクレオチド配列の決定以外に、種々の方法により間接的に解析することができる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用したRFLP法やPCR-RFLP法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法が挙げられる。
【0060】
<本発明の植物を育種する方法>
本発明は、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法を提供する。かかる育種方法は、(a)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有する植物品種と任意の品種とを交配させる工程、(b)工程(a)における交配により得られた個体における、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を、前述の<植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性の判定方法>により判定する工程、及び(c)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有すると判定された個体を選抜する工程、を含む方法である。
【0061】
4-HPPD阻害剤に対し抵抗性の植物品種と交配させる「任意の植物品種」としては、例えば、4-HPPD阻害剤感受性品種、4-HPPD阻害剤抵抗性品種と4-HPPD阻害剤感受性品種との交配により得られた個体が挙げられるが、これらに制限されない。
【0062】
本発明の育種方法を利用すれば、4-HPPD阻害剤抵抗性又は感受性の品種を、種子や幼植物の段階で選抜することが可能となり、当該形質を有する品種の育成を、短期間で行うことが可能となる。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0064】
後述の実施例において示すとおり、4-HPPD阻害剤としてBBC又はBBC-OHを基質とする場合には、140位を塩基性アミノ酸に置換しなくとも、HSLタンパク質の204位及び/又は298位を、各々他のアミノ酸に置換(例えは、204位においてはフェニルアラニンに置換、298位においてはロイシンに置換)することによっても、前記薬剤を酸化する触媒活性を高めることができる。また、HSLタンパク質の204位及び298位を、各々他のアミノ酸に置換(例えは、204位においてはフェニルアラニンに置換、298位においてはロイシンに置換)することによって、BBC及びBBC-OHのみならず、スルコトリオン、メソトリオン、テンボトリオンを酸化する触媒活性を高めることができる。
【0065】
したがって、本発明は、以下を提供するものでもある。
<6> 2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法であって、HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位若しくはそれに対応する部位、及び/又は、298位若しくはそれに対応する部位のアミノ酸を、各々他のアミノ酸に変異させる工程を含む、製造方法。
<7> 4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)植物細胞において、HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位若しくはそれに対応する部位、及び/又は、298位若しくはそれに対応する部位のアミノ酸を、各々他のアミノ酸に変異させる工程と、
(II)工程(I)においてアミノ酸変異が導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、を含む製造方法。
<8> 植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法であって、被検植物のHSL遺伝子における配列番号:4に記載の204位若しくはそれに対応する部位、及び/又は、298位若しくはそれに対応する部位のアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出し、該ヌクレオチドが、204位又はそれに対応する部位においてはフェニルアラニン、及び/又は、298位又はそれに対応する部位においてはロイシンをコードしている場合に、該被検植物は4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を有すると判定する方法。
<9> 4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法であって、
(a)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有する植物品種と任意の品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を、<8>に記載の方法により判定する工程、及び
(c)4-HPPD阻害剤に対して抵抗性を有すると判定された個体を選抜する工程、を含む方法。
【0066】
一方、4-HPPD阻害剤としてテフリルトリオンを基質とする場合には、後述の実施例において示すとおり、HSLタンパク質の204位及び/又は298位を、各々他のアミノ酸に置換(例えは、204位においてはフェニルアラニンに置換、298位においてはロイシンに置換)することによって、前記薬剤を酸化する触媒活性を低減させることができる。
【0067】
したがって、本発明は、以下も提供するものである。
<10> 2-オキソグルタル酸依存的にテフリルトリオンを酸化する触媒活性が低減したHSLタンパク質の製造方法であって、HSLタンパク質において、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位若しくはそれに対応する部位、及び/又は、298位若しくはそれに対応する部位のアミノ酸を、各々他のアミノ酸に変異させる工程を含む、製造方法。
<11> ベンゾビシクロン、ベンゾビシクロン加水分解体又はスルコトリオンに対する抵抗性が低減した植物体の製造方法であって、
(I)植物細胞において、HSLタンパク質における、配列番号:4に記載のアミノ酸配列の204位若しくはそれに対応する部位、及び/又は、298位若しくはそれに対応する部位のアミノ酸を、各々他のアミノ酸に変異させる工程と、
(II)工程(I)においてアミノ酸変異が導入された植物細胞から、植物体を再生する工程と、を含む製造方法。
【実施例
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
本発明者らは、従前、イネが持つ遺伝子(HIS1)及びその相同遺伝子(HSL1遺伝子)が、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性に寄与していることを見出している。また、かかる遺伝子を利用することによって、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性が高められた植物体を作出できることも明らかにし、さらには、イネのHIS1遺伝子と高い相同性を有する遺伝子は、オオムギ、ソルガム、トウモロコシ等においても存在していていることを見出している(特許文献1)。
【0070】
また、HIS1及びOsHSL1は、アミノ酸モチーフ検索より、2価鉄イオン及び2-オキソグルタル酸に依存する酸化酵素、2-オキソグルタル酸依存的ジオキシゲナーゼ(2-oxoglutarate dependent dioxygenas、2OGDs)であると、本発明者らによって推定されている。2OGDは、非ヘム鉄イオンを含有するタンパク質で、植物においては細胞質に局在する可溶性タンパク質である。2OGDは、2-オキソグルタル酸(2OG)と酸素分子を補助基質(co-substrate)として必要とし、二価鉄イオンを補因子として必要とする。2OGDは、下記に示すとおり、基質(下記反応式における「R」)の酸化を触媒し、この触媒は2OGの脱炭酸によるコハク酸と二酸化炭素の生成を伴う。
R+2OG+O→RO+コハク酸+CO
【0071】
個々の2OGDの触媒中心は二本鎖βヘリックス構造をとり、保存された配列モチーフ His-Xaa-Asp/Glu-(Xaa)n-His(配列番号:23)を持つ。このモチーフは二価鉄イオンと結合し、触媒三残基(catalytic triad)を形成する。2OGDsはバクテリア、動物、植物に至るまで見られ、DNA修飾、コラーゲン合成、抗生物質生産、植物ホルモン合成、ストレス応答など機能も多岐にわたる。遺伝子情報の探索より、イネから114種、シロイヌナズナから130種が存在すると予想された(Kawai et al. Evolution and diversity of the 2-oxoglutarate-dependent dioxygenase superfamily in plants. The Plant Journal vol.78 pp.328-343, 2014)。
【0072】
<実施例1>
HIS1タンパク質及びその相同タンパク質(OsHSL1タンパク質)の4-HPPD阻害剤分解活性についての評価
そこで今回、本発明者らは、HIS1及びその相同タンパク質を、後述のコムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成法にて合成し、それらの除草剤(4-HPPD阻害剤)分解活性を先ず評価した。
【0073】
なお、最初は、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成法ではなく、大腸菌のタンパク質発現系(pET系、pCold系等)によって、HIS1タンパク質等の合成を試みた。しかしながら、pET系、pCold系等のいずれも不溶性のHIS1タンパク質しか生産できず、可溶化したタンパク質についても活性は回復できなかった。そのため、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系によりHIS1タンパク質の合成を行い、可溶性のHIS1タンパク質を得た。
【0074】
そして、この無細胞タンパク質合成系により調製したHIS1タンパク質を用い、後述の方法にて、2価鉄イオン、2-オキソグルタル酸、及び分子状酸素の存在下で、4-HPPD阻害剤の分解反応を試験管内で検証した。
【0075】
ここで、市販のコムギ胚芽抽出液では還元剤にdithiothreitol(DTT)が用いられ、タンパク質合成反応液にもDTTが含まれているが、2価鉄イオン及びその安定化剤であるアスコルビン酸の共存下では、このDTTがラジカル化合物を発生し、HIS1タンパク質の酵素反応に副次的な影響を及ぼすことを、液体クロマトグラフィーにより事前に確認した。そのため、本実施例においては、DTTに代わりTris(2-carboxyethyl)phosphine(TCEP)を還元剤とする未報告のタンパク質合成反応系を新たに構築し、HIS1タンパク質等の合成を行い、それらの4-HPPD阻害剤分解活性について検証した。分解活性はタンパク質と4-HPPD阻害剤の反応液を高速液体クロマトグラフィー(移動相;0.5%酢酸水:アセトニトリル=65:35、流量;1ml/1分、送液;アイソクラクティック、カラム;CAPCELL PAK ADME S5)により解析した。
【0076】
その結果、図2~4に示すとおり、HIS1タンパク質においては、ベンゾビシクロン加水分解体(BBC-OH)、テフリルトリオン及びスルコトリオン、いずれの4-HPPD阻害剤に対しても高い分解活性を有していることが確認された。
【0077】
なお、ベンゾビシクロン(BBC)は、所謂プロドラッグの形態であり、土壌中の水溶性を抑制し、植物の根系周辺で水酸化を受けて主に加水分解体(BBC-OH)の形態にて吸収されて薬効を生ずるものと理解されている。したがって、BBC-OHが実際の植物内での有効成分となるため、本実施例の評価対象としてBBC-OHを用いた。
【0078】
また、図には示さないが、HIS1タンパク質を用い、BBC-OHの修飾反応を検証した結果、反応物が安定に得られた。その結果、2価鉄イオン及び2-オキソグルタル酸の存在下でのみ、BBC-OHの修飾が確認された。さらに、HIS1タンパク質によるBBC-OH、テフリルトリオン及びスルコトリオンの修飾体を質量分析にて解析した結果、いずれの4-HPPD阻害剤も酸素原子が一つ付加した産物に変換されていることが確認された。
【0079】
その一方で、OsHSL1タンパク質は、HIS1タンパク質とアミノ酸配列レベルにて高い相同性を持つものの、図2及び3に示すとおり、BBC-OH及びスルコトリオンに対する分解活性はほとんど認められなかった。なお、図4に示すとおり、テフリルトリオンに対しては、HIS1タンパク質より劣るものの、分解活性を有していることが明らかになった。
【0080】
<実施例2>
HIS1タンパク質における4-HPPD阻害剤分解活性に関与するアミノ酸残基の推定
そこで、本発明者らは、この新たな知見に基づき、HIS1タンパク質とOsHSL1タンパク質とにおける僅かなアミノ酸配列における相違が、4-HPPD阻害剤の分解活性に寄与していると想定した。そして、HIS1タンパク質において、以下に示す方法にて、4-HPPD阻害剤分解活性に関与するアミノ酸残基を推定した。
【0081】
先ず、HIS1タンパク質の三次元構造の予測を行う目的で、結晶構造解析を試みた。しかしながら、精製タンパク質が極めて不安定で容易に不溶化してしまうため断念した。
【0082】
代わりに、タンパク質結晶構造が解かれている2価鉄イオン及び2-オキソグルタル酸に依存する酸化酵素の中で、HIS1に最も配列類似性が高いシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の酵素 アントシアニジン合成酵素(Anthocyanidin synthase)を鋳型としてHIS1の構造モデルを作製した。方法は次のとおりである。
【0083】
先ず、シロイヌナズナのアントシアニジン合成酵素のアミノ酸配列と、イネHIS1タンパク質及びOsHSL1タンパク質のそれらとを、ソフトウエア ClustalW(Thompson et al.CLUSTAL W:improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting,position-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acids Research vol.22 pp.4673-4680,1994)によって解析し、アラインメントを作製した。アミノ酸配列におけるシロイヌナズナのアントシアニジン合成酵素との相同性は、HIS1との間では28.5%、OsHSL1との間では28.8%であった。続いて、シロイヌナズナアントシアニジン合成酵素のタンパク質三次元結晶構造を報告した論文(Wilmouth et al.Structure and mechanism of anthocyanidin synthase from Arabidopsis thaliana.Structure vol.10 pp.93-103,2002)の情報に基づき、タンパク質構造の公共データバンクであるProtein Data Bank(http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)より、シロイヌナズナアントシアニジン合成酵素タンパク質の構造として登録されたアクセッション番号1GP6を選択した。この1GP6を鋳型としてソフトウェアSWISS-MODEL(Biasini et al.SWISS-MODEL:modelling protein tertiary and quaternary structure using evolutionary information.Nucleic Acids Research vol.42 (W1)pp.W252-W258,2014.)を利用し、HIS1及びOsHSL1の三次元構造モデルを作製した。
【0084】
その結果、2価鉄イオンが配位するアミノ酸残基が3種のタンパク質に共通して保存されていることを確認し、この残基を他のアミノ酸に置換するとHIS1の酵素活性が消失することを確認した。
【0085】
さらに、アントシアニジン合成酵素タンパク質の三次元結晶構造を報告した論文(Wilmouth et al.Structure and mechanism of anthocyanidin synthase from Arabidopsis thaliana.Structure vol.10 pp.93-103,2002)で基質結合部位として予測されたアミノ酸残基及び周辺の基質ポケットと予想されたアミノ酸残基について、SWISS-MODELで作製した三次元構造モデルに基づき(図5 参照)、二次構造、すなわちαヘリックス、βシート構造を中心に比較を行い、HIS1とOsHSL1とで異なるアミノ酸残基を選択した。
【0086】
すなわち、基質ポケットに露出していると予想したHIS1タンパク質のアミノ酸残基のうち、119番目イソロイシンがOsHSL1では118番目バリンに、141番目ヒスチジンがOsHSL1では140番目フェニルアラニンに、205番目フェニルアラニンがOsHSL1では204番目ロイシンに、229番目トレオニンがOsHSL1では230番目セリンに、299番目ロイシンがOsHSL1では298番目フェニルアラニンに、それぞれ置換されている可能性を見出した。
【0087】
<実施例3>
OsHSL1タンパク質変異体の作製、及びそれら変異体の4-HPPD阻害剤分解活性についての評価
そこで、かかる可能性を検証すべく、OsHSL1タンパク質においてHIS1タンパク質と相違しているアミノ酸残基を、適宜HIS1のそれに置換することによって、当該タンパク質にHIS1型の酵素活性が付与できるかにつき、以下に示す方法にて分析を進めた。
【0088】
<変異導入用プライマーの設計>
先ず、OsHSL1タンパク質の118番目、140番目、204番目、229番目及び298番目のいずれかのアミノ酸残基を、HIS1タンパク質のそれに、部位特異的変異法によって置換すべく、該方法に用いる変異導入用プライマーを、以下の例示のとおり、設計した。
【0089】
1) OsHSL1 118番目のバリン残基をイソロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 V118I)
OsHSL1 118番目のバリン残基をイソロイシン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
V118IFW:5’-CGACGGCAAGAACTTCCAGattGAAGGGTATGGAACTGAC-3’(配列番号:24)
V118IRV:5’-GTCAGTTCCATACCCTTCaatCTGGAAGTTCTTGCCGTCG-3’(配列番号:25)
プライマーV118IFWの20番目から22番目のatt(イソロイシン、Iに相当するコドン)及びプライマーV118IRVの19番目から21番目のaat(イソロイシン、Iに相当するコドンattの相補配列)は、野生型OsHSL1のGTG(バリン、V)よりデザインした。コドンGTGをATTにすることにより118番目のバリン残基がイソロイシン残基へ置換される。
【0090】
2) OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換(HSL1 F140H)
OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
F140toH141FW:5’-GGTCTGATCGGCTGcatCTCAGAGTTGAACCC-3’(配列番号:26)
F140toH141RV:5’-GGGTTCAACTCTGAGatgCAGCCGATCAGACC-3’(配列番号:27)
プライマーF140toH141FWの15番目から17番目のcat(ヒスチジン、Hに相当するコドン)及びプライマーF140toH141RVの16番目から18番目のatg(ヒスチジン、Hに相当するコドンcatの相補配列)は、野生型OsHSL1のTTT(フェニルアラニン、F)よりデザインした。コドンTTTをCATにすることにより140番目のフェニルアラニン残基がヒスチジン残基へ置換される。
【0091】
3) OsHSL1 204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換(HSL1 L204F)
OsHSL1 204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
L204toF205FW:5’-CAACAAAGCTCCTGCAtttGCAAGATTCAACTACTACCC-3’(配列番号:28)
L204toF205RV:5’-GGGTAGTAGTTGAATCTTGCaaaTGCAGGAGCTTTGTTG-3’(配列番号:29)
プライマーL204toF205FWの17番目から19番目のttt(フェニルアラニン、Fに相当するコドン)及びプライマーF140toH141RVの21番目から22番目のaaa(フェニルアラニン、Fに相当するコドンtttの相補配列)は、野生型OsHSL1のCTT(ロイシン、L)よりデザインした。コドンCTTをTTTにすることにより204番目のロイシン残基がフェニルアラニン残基へ置換される。
【0092】
4) OsHSL1 229番目のセリン残基をトレオニン残基にアミノ酸置換(HSL1 S204T)
OsHSL1 229番目のセリン残基をトレオニン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
S229TFW:5’-CCTCACTCCGACGGCaccCTCTTTACGATTCTTC-3’(配列番号:30)
S229TRV:5’-GAAGAATCGTAAAGAGggtGCCGTCGGAGTGAGG-3’(配列番号:31)
プライマーS229TFWの16番目から18番目のacc(トレオニン、Tに相当するコドン)及びプライマーS229TRVの17番目から19番目のggt(トレオニン、Tに相当するコドンaccの相補配列)は、野生型OsHSL1のTCC(セリン、S)よりデザインした。コドンTCCをACCにすることにより229番目のセリン残基がトレオニン残基へ置換される。
【0093】
5) OsHSL1 298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 F298L)
OsHSL1 298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
F298toL299FW:5’-GGATCTCACTGGCCATGttaTACAGTGTGAATGATGAG-3’(配列番号:32)
F298toL299RV:5’-CTCATCATTCACACTGTAtaaCATGGCCAGTGAGATCC-3’(配列番号:33)
プライマーF298toL299FWの18番目から20番目のtta(ロイシン、Lに相当するコドン)、及びプライマーF298toL299RVの19番目から21番目のtaa(ロイシン、Lに相当するコドンttaの相補配列)は、野生型OsHSL1のTTT(フェニルアラニン、F)よりデザインした。コドンTTTをTTAにすることにより298番目のフェニルアラニン残基がロイシン残基へ置換される。
【0094】
<変異導入DNAの調製>
次に、上記のとおり、変異を導入して設計したプライマー及びQuikChange II Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent社製)を用い、部位特異的変異をOsHSL1タンパク質に導入した。
【0095】
すなわち先ず、OsHSL1タンパク質をコードするcDNAがクローン化してあるプラスミド AK241948/pFLC1(農業生物資源研究所GeneBankより分譲)を鋳型として、上記変異導入用プライマーセットを用いてinverse PCRを行い、前記cDNAに変異を導入したPCR産物を得た。
【0096】
具体的には、PCR反応の組成は、キット付属バッファー 5μl、キット付属 dNTP mix 1μl、キット付属pfu DNAポリメラーゼ 1μl(2.5units)、Fw及びRvプライマー各1μl(125ng)、鋳型プラスミドDNA 1μl(10ng)と蒸留水40μlを混合してなる。そして、この50μlの反応液を、PCR反応装置(宝酒造社製、TaKaRa PCR ThermalCycler TP350型)を用いて、95℃で30秒間保持した後、95℃で30秒間、55℃で1分、68℃で4.5分の反応を16サイクル繰り返した後4℃に冷却することにより、前記PCR産物を調製した。
【0097】
次いで、増幅したPCR産物にキット付属のDpnI 1μl(10 units)を添加し、37℃で1時間保持した。この反応により変異の導入されていない鋳型プラスミドを切断した。
【0098】
前記反応終了後、DpnI処理済みPCR産物 1μlをキット付属の大腸菌コンピテントセルの形質転換を行い、出現した薬剤耐性コロニーより変異導入プラスミドを調製した。
【0099】
そして、作製した変異導入型OsHSL1タンパク質は、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成法により調製した(Kanno et al.Structure-Based in Vitro Engineering of the Anthranilate Synthase, a Metabolic Key Enzyme in the Plant Tryptophan Pathway.Plant Physiology vol.138 pp.2260-2268,2005)。
【0100】
なお、反応後、反応液をSDS-polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)に供した。そして、泳動後、CBB染色し、所望の分子量のタンパク質が合成されていることの確認を行った。
【0101】
<多重変異導入>
また、OsHSL1タンパク質の118番目、140番目、204番目、229番目及び298番目のいずれかにおける複数のアミノ酸残基を、上記と同様の方法にて、以下に示すとおり、HIS1タンパク質のそれらに置換した。
【0102】
6) OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換(HSL1 F140H L204F)
OsHSL1 204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(L204F)を鋳型として、上記プライマーF140toH141FW及びF140toH141RVを用いて140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0103】
7) OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 F140H F298L)
OsHSL1 298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(F298L)を鋳型として、上記プライマーF140toH141FW及びF140toH141RVを用いて140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0104】
8) OsHSL1 204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、さらに298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 L204F F298L)
298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(F298L)を鋳型として、上記プライマーL204toF205FW及びL204toF205RVを用いて204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0105】
9) OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、さらに298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 F140H L204F F298L)
OsHSL1 204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、さらに298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(L204F F298L)を鋳型として、上記プライマーF140toH141FW及びF140toH141RVを用いて140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0106】
10) OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、229番目のセリン残基をトレオニン残基に、さらに298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 F140H L204F S229T F298L)
OsHSL1 140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(F140H L204F F298L)を鋳型として、上記プライマーS229TFW及びS229TRVを用いて229番目のセリン残基をトレオニン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0107】
11) OsHSL1 118番目のバリン残基をイソロイシン残基に、140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、229番目のセリン残基をトレオニン残基に、さらに298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL1 V118I F140H L204F S229T F298L)
140番目のフェニルアラニン残基をヒスチジン残基に、204番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、229番目のセリン残基をトレオニン残基に、298番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換したプラスミドpFLC1-HSL1(F140H L204F S229T F298L)を鋳型として、上記プライマーV118IFW及びV118IRVを用いて118番目のバリン残基をイソロイシン残基にアミノ酸置換するように変異導入を行った。
【0108】
<実施例4>
HSL1タンパク質(OsHSL1タンパク質を除く)変異体の作製、及びそれら変異体の4-HPPD阻害剤分解活性についての評価
また、OsHSL1を除くイネ由来のHSLタンパク質群、及びイネ以外の種における、HIS1に相同性を示すHSLタンパク質群についても、4-HPPD阻害剤分解活性について評価すべく、以下の示す方法にて、これらタンパク質も調製した。
【0109】
(HSLタンパク質の無細胞発現用コンストラクトの作製)
HIS1及びOsHSL1を除くイネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ソルガム(Sorghum biocolor)、トウモロコシ(Zea mays)由来のHIS1相同遺伝子(HSL遺伝子)の翻訳領域(イネ由来のOsHSL2遺伝子については、配列番号:5に記載のヌクレオチド配列。オオムギ由来のHvHSL1遺伝子については、配列番号:7に記載のヌクレオチド配列。オオムギ由来のHvHSL2遺伝子については、配列番号:9に記載のヌクレオチド配列。オオムギ由来のHvHSL3遺伝子については、配列番号:11に記載のヌクレオチド配列。コムギ由来のTaHSL1遺伝子については、配列番号:13に記載のヌクレオチド配列。コムギ由来のTaHSL2遺伝子については、配列番号:15に記載のヌクレオチド配列。トウモロコシ由来のZmHSL1については、配列番号:17に記載のヌクレオチド配列。トウモロコシ由来のZmHSL2については、配列番号:19に記載のヌクレオチド配列。ソルガム由来のSbHSL1については、配列番号:21に記載のヌクレオチド配列)の上流にSpeI認識配列、下流にSalI認識配列を付与した人工合成DNAの調製を、Eurofins Genomicsに委託した。得られた人工合成DNAを、制限酵素SpeI及びSalI処理に供し、目的遺伝子を単離した。得られた遺伝子は、同様の制限酵素処理を施した無細胞翻訳用プラスミドベクターpYT08へ導入し、無細胞発現用コンストラクトpYT08-OsHSL2,TaHSL1,TaHSL2,HvHSL1,HvHSL2,HvHSL3,SbHSL1,ZmHSL1,ZmHSL2を作製した。
【0110】
<ZmHSL2及びSbHSL1への変異導入>
さらに、イネ由来のOsHSL2、トウモロコシ由来のZmHSL2及びソルガム由来のSbHSL1に関しては、HIS1型のアミノ酸残基を導入した変異導入タンパク質を作製し、その4-HPPD阻害剤修飾活性を検証した。
【0111】
具体的には、上述のとおり、HIS1とOsHSL1の比較よりHIS1 141番目ヒスチジンと299番目ロイシンがBBC-OH修飾活性に関与していると推定された。ZmHSL2及びSbHSL1は、HIS1の299番目ロイシンに相当するアミノ酸がHIS1と同じで、もう一方(HIS1 141番目ヒスチジンに相当)はHIS1とは異なる残基を持つ。そこで、ZmHSL2及びSbHSL1についてHIS1 141番目相当の残基にヒスチジンを変異導入し、その活性を検証した。一方、OsHSL2は、HIS1の140番目ロイシンに相当するアミノ酸がHIS1と同じで、HIS1の299番目ロイシンに相当するアミノ酸はHIS1とは異なる残基を持つ。そこで、OsHSL2についてHIS1 299番目相当の残基にロイシンを変異導入し、その活性を検証した。
【0112】
(変異導入用プライマー)
1) OsHSL2 301番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換(HSL2 F301L)
上記実施例3と同様にして、OsHSL2 301番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドン又はそのアンチコドンを示す。
Os2_F301L_Fw:5’-ttgTATGCGGTCGATGGGGAGAAG-3’(配列番号:34)
Os2_F301L_Rv:5’-CATGGCTACCGACATCCTCTCAC-3’(配列番号:35)
プライマーOs2_F301L_Fwの1番目から3番目のttg(ロイシン、Lに相当するコドン)は、野生型OsHSL2のTTC(フェニルアラニン、F)よりデザインした。コドンTTCをTTGにすることにより301番目のフェニルアラニン残基がロイシン残基へ置換される。
【0113】
2) ZmHSL2 140番目のグルタミン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換(ZmHSL2 Q140H)
上記実施例3と同様にして、ZmHSL2 140番目のグルタミン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドンを示す。
Zm2_Q140H_Fw:5’-catCTAAAGGTCGAGCCAGAGG-3’(配列番号:36)
Zm2_Q140H_Rv:5’-CAACCTGTCATTCCAGTCCAAGATG-3’(配列番号:37)。
【0114】
3) SbHSL1 140番目のグルタミン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換(SbHSL1 Q140H)
上記実施例3と同様にして、SbHSL1 140番目のグルタミン残基をヒスチジン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドンを示す。
Sb1_Q140H_Fw:5’-catCTGAAGGTTGAGCCGGAGG-3’(配列番号:38)
Sb1_Q140H_Rv:5’- GAGTCTGTCGCTCCAGTCGAGAATG-3’(配列番号:39)
4) ZmHSL2 205番目のチロシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換(ZmHSL2 Y205F)
上記実施例3と同様にして、ZmHSL2 205番目のチロシン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記のとおりである。なお、小文字は変異導入コドンを示す。
Zm2_Y205F_Fw:5’-tttGCCCGCTTCAACTACTAC-3’(配列番号:40)
Zm2_Y205F_Rv:5’-GGCTTGGGGACTTGCTC-3’(配列番号:41)。
【0115】
(変異導入DNAの調製)
部位特異的変異は変異を導入して設計したプライマーを用いたinverse PCRによって導入した。前述のとおりにして作製したpYT08-ZmHSL2ベクターを鋳型として、上記変異導入用プライマーセットを用いてinverse PCRを行い、変異を導入したPCR産物を得た。
【0116】
PCR反応の組成は、1×PCR buffer for KOD plus neo(東洋紡社製)、0.2mM dNTPs、1.5mM MgSO、0.02units/μl KOD plus neo(東洋紡社製)、0.3μM Fw及びRvプライマー、1ng 鋳型DNAからなり、それを、PCR反応装置(宝酒造社製、TaKaRa PCR ThermalCycler TP350型)を用いて、94℃で2分間保持した後、98℃で10秒間、68℃で2分15秒間の反応を5サイクル繰り返した後4℃に冷却することによって、PCR産物を調製した。
【0117】
増幅したPCR産物20μlにDpnI(20units/μl)(Bio rab社製)1μlを添加し、37℃で1時間保持した。この反応により変異の導入されていない鋳型プラスミドを切断した。
【0118】
上記反応終了後、DpnI処理済みPCR産物1μlをT4 polynucleotide kinase(10units/μl)0.5μl、Ligation high 2.5μl(東洋紡社製)、MilliQ 3.5μlと混合し、16℃で1時間保持した。以上の反応により変異が導入されたPCR産物がSelf-ligationすることにより環状化し、変異導入プラスミドを構築した。
【0119】
(コムギ胚芽無細胞システムによるタンパク質合成)
先ず、以下の手順にてPCRによる転写鋳型のDNAの合成を行った。作製したプラスミドはpYT08_Fw2プライマー:5’-CGCATCAGGCAGGAAATATTTAGGTGAC-3’(配列番号:42)とpYT08_Rvプライマー:5’-GGAGAAAGGCGGACAGGTATCCGGTAAG-3’(配列番号:43)を用いたPCRによるin vitro転写反応の鋳型準備に使用した。PCR反応の組成は1×ExTaq buffer、2mM dNTPs、0.025units/μl KOD plus neo(東洋紡社製)、0.2μM Fw及びRvプライマー、1ng 鋳型DNAとし、PCR反応装置(宝酒造社製、TaKaRa PCR ThermalCycler TP350型)を用いて、94℃で2分間保持した後、98℃で10秒間、68℃で2分15秒間の反応を5サイクル繰り返した後4℃に冷却した。
【0120】
次に、得られたPCR産物を鋳型として転写反応を行い、mRNAを合成した。得られたPCR産物を直接鋳型として用いてmRNAを合成(転写)した。すなわち、PCR産物を、転写反応液[80mM HEPES-KOH(pH7.8)、16mM Mg(OAc)、10mM spermidine、10mM DTT、3mM NTP、1unit/μl RNasin RNase inhibitor(Promega社製)、1unit/μl SP6 RNA polymerase(Promega社製)]に1/10量添加した。37℃で2時間反応後、エタノール沈殿、70%エタノール洗浄を行い、適当量の滅菌水に溶解した。260nmの吸光度を測定してRNA量を算出した。
【0121】
次いで、得られたmRNAを鋳型として、コムギ胚芽抽出液を用いた透析法によるタンパク質合成を行った。すなわち、50μlのコムギ胚芽無細胞タンパク質合成液を入れた透析カップに上記mRNA(約30-35μg)を添加し、1ウェルあたり650μlの基質液を入れた24穴プレートに上記透析カップを浸漬し、16℃で48時間インキュベートした。反応後、反応液0.5μlを1×loading buffer 10μlと混合し熱変性(95°C,5min)を行い、12% polyacrylamide gelを用いたSDS-PAGEに供した。そして、泳動後、CBB染色し、所望の分子量のタンパク質が合成されていることの確認を行った。
【0122】
そして、以上のとおり実施例1~4にて得られた合成タンパク質を、以下のとおりにして各量を見積もった上で、4-HPPD阻害剤分解活性の分析を行った。
【0123】
(液体シンチレーションカウンターを用いた合成タンパク質量の見積もり)
合成反応液に[14C]-Leucineを添加し無細胞タンパク質合成を行い、合成タンパク質に取り込まれた14Cカウントを測定することで合成タンパク質量の見積もりを行った。すなわち、50μlのコムギ胚芽無細胞タンパク質合成液を入れた透析カップにmRNA、さらに[14C]-Leucine(PerkinElmer社製)を内外液に1/100量添加し、1ウェルあたり650μlの基質液を入れた24穴プレートに上記透析カップを浸漬し、16℃で48時間インキュベートした。反応終了後、反応液5μlを濾紙 3MM CHR(GE Healthcare社製)にスポットし、TCA沈殿、エタノール洗浄を行い、クリアゾル(nacalai tesque社製)に浸け、液体シンチレーションカウンターによって合成タンパク質に取り込まれた14Cカウントを測定、合成タンパク質に含まれる全14Cカウントを算出した(A)。さらに反応液中に含まれる総14Cを濾紙にスポットし同様に14Cカウントを測定(B)し、これらの値から合成タンパク質への[14C]Leuの取り込み率(B/A)を算出した(C)。これをタンパク質のアミノ酸配列中に含まれるLeu数(D)で除することで合成タンパク質アミノ酸配列中の特定の1残基の取り込み率(C/D)を算出し(E)、これに反応液中のアミノ酸含有量(F)、そして合成タンパク質の分子量(G)を乗することで合成タンパク質量(F×E×G)を算出した。
【0124】
(酵素調製)
合成量の見積と同条件で[14C]-Leucineを添加せずに無細胞タンパク質合成を行い、この翻訳反応液のタンパク質濃度を上記の見積により推定した。翻訳反応液100μlをillustra MicroSpin G-25 coulmn(GE Healthcare社製)を用いて翻訳基本Buffer(30mM HEPES-KOH(pH=7.8),100mM KOAc)にBuffer交換を行った。バッファー交換前後の溶液量を測定し、見積もったタンパク質濃度を補正した。
【0125】
(酵素解析法)
250mM HEPES-KOH(pH7.0)に、0.25mM FeCl、1.5mM アスコルビン酸、1.5mM 2-オキソグルタル酸、0.75mM基質を含む混合液を40%、合成した酵素タンパク質を含む翻訳反応液を60%の割合で混合して酵素反応液を調製した。30℃で3時間インキュベートして、酵素反応液と等量の100% メタノールを添加し、十分に混合した後に氷上で5分静置した。これを遠心分離(20,400g、20分、4℃)し、上清をコスモナイスフィルターW(0.45μm)(ナカライテスク社製)に通し、高速液体クロマトグラフィーのサンプルとした。酵素反応前後の基質及び生成物の解析は、高速液体クロマトグラフィー装置_ELITE LaChrom L-2000シリーズ(日立社製)にカラム_Pro C18(150×4.6mm I.D.)(YMC社製)を装填して行った。流速は1mL/min、カラム温度は40℃にて、溶媒条件は、アセトニトリル:水(1%酢酸)=55:45又は50:50(BBC-OH)、アセトニトリル:水(1%酢酸)=45:55(Sulcotrione)、アセトニトリル:水(1%酢酸)=45:55(Mesotrione)、アセトニトリル:水(1%酢酸)=55:45又は50:50(Tefryltrone)、アセトニトリル:水(1%酢酸)=55:45又は50:50(Tembotrione)でそれぞれ溶出を行い、化合物は、紫外波長_286nmで検出した。
【0126】
以上の方法にて、HIS1タンパク質及びその相同タンパク質(HSLタンパク質)、並びにそれらの変異導入体について、4-HPPD阻害剤分解活性を評価した結果を、表1~6に示す。また代表的な結果を図6~8に示す。さらに、HSL1タンパク質の変異導入体に関する結果をグラフとしてまとめたものを、図9に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
なお、表1~6における分解活性の5段階評価は、HPLCによって検出された基質由来のピーク面積における減少の程度を、HIS1タンパク質におけるそれを5とした場合の相対値に基づく。さらに、表1、5及び6において示すアミノ酸部位は、配列番号:4に記載したOsHSL1タンパク質における位置を示すものであり、表2、3及び4に関しては、当該位置に相当するアミノ酸を示すものと読み替えるものとする。また、表7において、OsHSL1タンパク質の各部位におけるアミノ酸と、その他のタンパク質において前記アミノ酸に対応する各アミノ酸と、各その他のタンパク質における該各アミノ酸の位置とを、示す。
【0134】
【表7】
【0135】
<OsHSL1タンパク質における変異導入>
OsHSL1タンパク質に関し、基質がBBC-OHの場合、表1及び図2に示すとおり、野生型のそれにおいては微弱な分解活性しか認められなかった。しかしながら、表1、図6及び図9に示すとおり、F140H変異の導入によって、その活性は大幅に上昇した。さらには、L204F変異の追加又はF298L変異の追加によって、BBC-OHの分解活性はより向上することが明らかになった。
【0136】
さらに、表1に示すとおり、F140H変異の導入には劣るものの、当該部位をヒスチジンと同じ塩基性アミノ酸であるリシンに置換しても、OsHSL1タンパク質のBBC-OHの分解活性は向上することが明らかになった。
【0137】
また、表1及び図7に示すとおり、F298L変異の導入によっても、F140H変異よりは劣るものの、OsHSL1タンパク質のBBC-OH分解活性は向上することが明らかになった。さらに、L204F変異の追加によって、その活性はより向上することが明らかになった。
【0138】
また、OsHSL1タンパク質に関し、基質がテフリルトリオンの場合、表5及び図3に示すとおり、HIS1タンパク質より劣るものの、野生型でも分解活性を有していることが認められた。さらに、表5に示すとおり、F140H変異の導入によって、その活性は向上し、HIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。一方、F298L変異導入では、OsHSL1タンパク質のテフリルトリオン分解活性が減少するものの、両変異(F140H及びF298L)を加えることによって、再びHIS1タンパク質並みに高いテフリルトリオン分解活性を奏することが明らかになった。
【0139】
さらに、表5に示すとおり、F140H変異の導入には劣るものの、当該部位をヒスチジンと同じ塩基性アミノ酸であるリシンに置換しても、OsHSL1タンパク質のテフリルトリオン分解活性は向上することが明らかになった。
【0140】
また、OsHSL1タンパク質に関し、基質がスルコトリオンの場合、表6及び図4に示すとおり、野生型のそれにおいては微弱な分解活性しか認められなかった。しかしながら、表6及び図9に示すとおり、F140H変異の導入によって、その活性は向上し、HIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。一方、図8及び図9に示すとおり、L204F変異の追加又はF298L変異の追加によって、そのスルコトリオンの分解活性は低減してしまうことも明らかになった。
【0141】
また、表6に示すとおり、F140H変異を導入せずとも、L204F変異及びF298L変異の導入によって、スルコトリオンの分解活性は向上することが明らかになった。さらに、図表には示さないが、メソトリオン及びテンボトリオンに関しても、この2点変異導入により、分解活性が向上することを見出している。
【0142】
さらに、表6に示すとおり、F140H変異の導入には劣るものの、当該部位をヒスチジンと同じ塩基性アミノ酸であるアルギニンに置換しても、OsHSL1タンパク質のスルコトリオン分解活性は向上することが明らかになった。
【0143】
また、OsHSL1タンパク質に関し、基質がメソトリオン又はテンボトリオンの場合、図表には示していないが、野生型のそれにおいては微弱な分解活性しか認められなかった。しかしながら、F140H変異の導入によって、それらの活性は向上し、共にHIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。
【0144】
<OsHSL2タンパク質における変異導入>
OsHSL2タンパク質に関し、基質がBBC-OHの場合、表2に示すとおり、野生型のそれにおいては微弱な分解活性しか認められなかった。しかしながら、F298L変異の導入によって、OsHSL2タンパク質のBBC-OH分解活性は向上することが明らかになった。
【0145】
<ZmHSL2タンパク質における変異導入>
ZmHSL2タンパク質に関し、基質がBBC-OHの場合、表3に示すとおり、HIS1タンパク質より劣るものの、野生型でも分解活性を有していることが認められた。さらに、Q140H変異の導入によって、その活性は向上し、HIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。また、Y204F変異を更に導入することによって、その活性はより向上することも明らかになった。
【0146】
また、図表には示していないが、ZmHSL2タンパク質に関し、基質がスルコトリオンの場合、Q140H変異の導入によって、その活性が向上することも見出している。
【0147】
<SbHSL1タンパク質における変異導入>
SbHSL1タンパク質に関し、基質がBBC-OHの場合、表4に示すとおり、HIS1タンパク質より劣るものの、野生型でも分解活性を有していることが認められた。さらに、Q140H変異の導入によって、その活性は向上し、HIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。
【0148】
以上説明したように、ベンゾビシクロンの加水分解体(BBC-OH)、テフリルトリオン、スルコトリオン、メソトリオン及びテンボトリオン、これらいずれの4-HPPD阻害剤を基質とした場合においても、140位のアミノ酸を塩基性アミノ酸、特にヒスチジンにすることによって、HSLタンパク質の分解活性は向上することが明らかになった。
【0149】
また、図9に示すとおり、BBC-OHを基質とした場合には、L204変異の追加又はF298変異の追加によって、その分解活性はより向上する一方で、テフリルトリオン、スルコトリオン又はメソトリオンを基質とした場合に、その分解活性は変わらない又は低減するということも明らかになった。
【0150】
さらに、F140、L204及びF298の3点に変異を導入すれば、BBC-OH、テフリルトリオン、スルコトリオン、メソトリオン及びテンボトリオンの分解活性はいずれも、HIS1タンパク質並みに高くなることが明らかになった。
【0151】
<実施例5>
植物体(シロイヌナズナ)における、OsHSL1変異体の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性の評価
上記インビトロの系において、ベンゾビシクロン加水分解体(BBC-OH)の分解活性が付与されたOsHSL1変異体(V118I、F140H、L204F、S229T及びF298Lの5点変異体、F140H、L204F、S229T及びF298Lの4点変異体、F140H、L204F及びF298Lの3点変異体)を、植物において発現させ、プロドラッグ形態であるベンゾビシクロン(BBC)に対する抵抗性が高められるかを、以下に示す方法にて評価した。
【0152】
すなわち先ず、上記同様に、各OsHSL1変異体をコードする遺伝子を調製した。そして、各遺伝子を35Sプロモーターの下流に繋ぎ、カナマイシン抵抗性遺伝子カセットとともに、バイナリ―ベクターにてクローニングした。このようにして得られたベクターを各々、フローラルディップ法にてシロイヌナズナ(コロンビア)に導入し、形質転換した。得られたT0種子をカナマイシン含有培地に播種し、耐性個体を取得した。そして、前記遺伝子が導入されたと判断される個体を選抜し、そこからT1種子を採種してBBC含有培地に播種し、それらの生育状況を観察した。得られた結果を図10に示す。
【0153】
図10に示した結果から明らかなとおり、いずれの変異体についても、非組換えのコントロール個体が白化する条件で、緑色を呈する個体の出現が認められた。より具体的には、BBCに対する明らかな抵抗性が、前記3点変異体を発現させたシロイヌナズナにおいては、3系統中1系統にて認められ、前記4点変異体を発現させたシロイヌナズナにおいては、4系統中1系統にて認められ、前記5点変異体を発現させたシロイヌナズナにおいては、4系統中3系統にて認められた。すなわち、4-HPPD阻害剤分解活性が付与されたOsHSL1変異体を、植物体に発現させることによって、該植物体の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高まることが確認された。
【0154】
また、F140Hの1点変異体又はF298Lの1点変異体を、シロイヌナズナにおいて発現させ、スルコトリオン(培地中の含有濃度:0.1μM)、メソトリオン(培地中の含有濃度:0.1μM)又はテンボトリオン(培地中の含有濃度:0.05μM)に対する抵抗性が高められるかを、上記同様に評価した。
【0155】
その結果、図表には示していないが、F140Hの1点変異体について、非組換えのコントロール個体(HSL1(野生型))が白化する条件で、緑色を呈する個体の出現が認められ、上述のインビトロの系同様に、当該変異の前記薬剤に対する抵抗性向上における有効性が確認された。一方、F298Lの1点変異体では、前記薬剤に対する抵抗性向上が認められなかった。
【0156】
<実施例6>
植物体(イネ)における、OsHSL1変異体の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性の評価
次に、イネを用いてF140H変異の有効性を確認した。すなわち、先ず、イネHSL1cDNA遺伝子の140番目のフェニルアラニンをヒスチジンに改変したmHSL1遺伝子を作成した。次いで、当該変異遺伝子又は変異を導入していないHSL1遺伝子を、それぞれ35Sプロモーターの下流に繋ぎ、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子発現カセットとともにバイナリ―ベクターにクローニングした、そして、これらベクターを各々、ベンゾビシクロン感受性品種「やまだわら」にアグロバクテリウム法で導入し、組換えイネを育成した。
【0157】
作出した組換えイネ(T1)種子及び原品種「やまだわら」の種子を供試して、0.25μM BBC含有のMS培地に無菌播種し、30℃明所で8日間育成した。得られた結果を図11に示す。
【0158】
図11に示した結果から明らかなように、非組換えのコントロール(原品種)及び改変無しのHSL1組換えイネが白化する条件にて、mHSL1組換えイネでは緑色を呈する個体が出現した(なお、ヘテロな集団なので、白化個体も出現するが、本実験では遺伝分離で生じるヌル個体は除去している)。
【0159】
このように、イネにおいても、mHSL1(F140H)遺伝子を過剰発現させることにより、BBC感受性品種にBBC耐性が付与されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0160】
以上説明したように、本発明によれば、HSLタンパク質において、140位を塩基性アミノ酸に変異させることによって、該タンパク質の、2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性を高めることができる。そして、このような2-オキソグルタル酸依存的に4-HPPD阻害剤を酸化する触媒活性が高められたHSLタンパク質の製造方法を利用することにより、本発明においては、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物体を製造することも可能となる。
【0161】
さらに、上述のとおり、HSLタンパク質において、140位のアミノ酸が前記触媒活性に影響するアミノ酸であることを見出したことに基づき、本発明によれば、被検植物のHSL遺伝子における140位のアミノ酸をコードするヌクレオチドを検出することによって、該被検植物の4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定することもできる。また、本発明によれば、該方法を利用した、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を育種する方法も、提供することが可能となる。
【0162】
したがって、本発明によって、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性が高められた植物を用いて栽培を行えば、栽培田や栽培畑の雑草防除を効率的に行うことができる。また、本発明の植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性を判定する方法は、例えば、輪作体系における前年作のこぼれ種の発芽リスク等の軽減に利用することができる。このように、本発明は、有用植物の収穫量の安定や増大に大きく貢献し得るものである。
【配列表フリーテキスト】
【0163】
配列番号:23
<223> 触媒三残基
<223> 2位のXaaはいかなるアミノ酸もとり得る。
<223> 3位のXaaはアスパラギン酸又はグルタミン酸である。
<223> 4位のXaaはいかなるアミノ酸もとり得る
配列番号:24~43
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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