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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】グルタチオンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20221124BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20221124BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C12P21/02 G ZNA
C12N15/52 Z
C12N9/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018122027
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020000072
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「耐熱性酵素を用いたL-システイン製造技術の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】志賀 岳希
(72)【発明者】
【氏名】井村 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩切 亮
(72)【発明者】
【氏名】本田 孝祐
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-005699(JP,A)
【文献】国際公開第2004/046383(WO,A1)
【文献】特開平10-215864(JP,A)
【文献】特開2000-343073(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017631(WO,A1)
【文献】特開昭58-020188(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136620(WO,A1)
【文献】tll0322 [Thermosynechococcus vestitus BP-1],GenBank,2016年10月07日,BAC07874.1
【文献】glutathione synthetase [Thermosynechococcus vestitus BP-1],GenBank,2016年10月07日,BAC08460.1
【文献】バイオサイエンスとインダストリー,2018年03月10日,Vol.76, No.2,pp.158-159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/
C12N 15/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非好熱性菌に配列番号1のアミノ酸配列からなるγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドを発現させる工程と、該ポリペプチドを含む培養液を60~80℃で加熱処理して粗酵素液を得る工程と、該粗酵素液をL-グルタミン酸とL-システインに60~75℃で作用させ、γ-グルタミルシステインを生成させる工程を含む、γ-グルタミルシステインの製造方法。
【請求項2】
非好熱性菌に配列番号1のアミノ酸配列からなるγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しγ-グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドを発現させる工程と、該ポリペプチドを含む培養液を60~80℃で加熱処理して粗酵素液を得る工程と、該酵素液をL-グルタミン酸とL-システインに60~75℃で作用させてγ-グルタミルシステインを生成させる工程と、次いで、非好熱性菌に配列番号2又は3のアミノ酸配列からなるグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号2又は3のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチドを発現させる工程と、該ポリペプチドを含む培養液を60~80℃で加熱処理して粗酵素液を得る工程と、該酵素液をグリシンとγ-グルタミルシステインに55~65℃で作用させて、グルタチオンを生成させる工程を含む、グルタチオンの製造方法。
【請求項3】
非好熱性菌に配列番号2又は3のアミノ酸配列からなるグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号2又は3のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチドを発現させる工程と、該ポリペプチドを含む培養液を60~80℃で加熱処理して粗酵素液を得る工程と、該粗酵素液をグリシンとγ-グルタミルシステインに55~65℃で作用させて、グルタチオンを生成させる工程を含む、グルタチオンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(γ―グルタミル―L―システイニルグリシン)は、L―システイン、L―グルタミン酸、及びグリシンからなるトリペプチドであり、ヒトだけでなく、広く動植物、微生物などに存在し、解毒作用、抗酸化作用など生体にとって重要な化合物となっている。
【0003】
グルタチオンの製造方法として、酵母を用いた発酵により、酵母にグルタチオンを産生させる方法(特許文献1)、L―システイン、L―グルタミン酸、及びグリシンをグルタチオン産生能を有する微生物が産生するγ ― グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素を用いて合成する酵素法などが知られている(特許文献2)。
【0004】
また、微生物を合成反応の反応系として用い、目的とする有機化合物を微生物が備えている代謝経路を利用して製造する方法ある。この方法をより効率よく有機化合物を合成するために、生きた微生物の代謝経路を改変するのではなく、複数の代謝酵素を予めモジュ―ル化し、これらを任意に組み合わせることによって物質生産に特化した合成経路を人工的に構築する人工代謝システムも知られている(特許文献3)。この人工代謝システムでは、複数の酵素を用いるため、酵素の安定性が重要である。そのため、耐熱性酵素を用いることが行われている。また、複数の酵素を使うため、酵素の精製にコストがかかるといった問題もあるが、耐熱性酵素を使用することで、精製コストを下げることができる。
【0005】
耐熱性のγ―グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素としては、45℃での反応による活性を有する酵素は知られている(非特許文献1)。また、超好熱性アーキアSulfolobus solfataricusの細胞抽出液より酸化型グルタチオンが検出されたとの報告(非特許文献2)があったが、本発明者らが分析したところ、本菌、その類縁種であるS. achidolacdarius、及び、好熱性細菌Thermus thermophilusの細胞抽出液からは培地成分からの持ち込み量を上回るグルタチオンは検出されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8―70884号公報
【文献】特開昭60―27396号公報
【文献】WO2016/136620
【非特許文献】
【0007】
【文献】Zhang et al., 2017, J. Biotech
【文献】Heinemann J et al., 2014, Biochim Biophys Acta.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人工代謝システムを利用することで、有機合成では、製造が困難であった有機化合物を製造することができる可能性があり、耐熱性を有するγ―グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素を用いることで、効率よく、グルタチオンを製造することができる。したがって、本願は、耐熱性を有するγ―グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素を見出し、新規なグルタチオンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、新規の耐熱性を有するγ―グルタミルシステイン合成酵素及びグルタチオン合成酵素を提供し、それら酵素を使用したグルタチオンの製造方法を提供する。

好熱性ラン藻類であるThermosynechococcus elongatusより、グルタチオン合成酵素を同定した。さらに、機能未知の遺伝子より、γ―グルタミルシステイン合成酵素活性を有する遺伝子も同定した。
【0010】
本発明は、以下のような発明である。
(1)L―グルタミン酸とL―システインに、配列番号1のアミノ酸配列からなるγ―グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しγ―グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドを作用させて、γ―グルタミルシステインを生成させる工程を含む、γ―グルタミルシステインの製造方法、
(2)L―グルタミン酸とL―システインに、配列番号1のアミノ酸配列からなるγ―グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しγ―グルタミルシステイン合成酵素活性を有するポリペプチドを作用させて、γ―グルタミルシステインを生成させる工程、次いで、グリシンとγ―グルタミルシステインに、配列番号2又は3のアミノ酸配列からなるグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号2又は3のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチドを作用させて、グルタチオンを生成させる工程を含む、グルタチオンの製造方法。
(3)グリシンとγ―グルタミルシステインに、配列番号2又は3のアミノ酸配列からなるグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号2又は3のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有しグルタチオン合成酵素活性を有するポリペプチドを作用させて、グルタチオンを生成させる工程を含む、グルタチオンの製造方法。

【発明の効果】
【0011】
65℃という高温域に最適温度を持つ耐熱性酵素により、L―グルタミン酸、L―システインからのγ-GC製造ならびにグリシンとγ-GCからのグルタチオン製造、更にはL―グルタミン酸、L―システインおよびグリシンからのグルタチオン製造を、過去の事例(45℃)を遥かに上回る高温で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】生成されたγ-GCの量を基に比活性を算出した結果(温度)
図2】生成されたγ-GCの量を基に比活性を算出した結果(pH)
図3】生成したγ-GCと残存L‐システインの量
図4】生成されたグルタチオンの量を基に比活性を算出した結果(温度)
図5】生成されたグルタチオンの量を基に比活性を算出した結果(pH)
図6】生成したグルタチオンとγ-GC、残存L‐システインの量
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、L―グルタミン酸とL―システイン、グリシンを基質とし、好熱菌由来のγ―グルタミルシステイン合成酵素、好熱菌由来のグルタチオン合成酵素により、グルタチオン生成させる、グルタチオンの製造方法に関する。
【0014】
本願では、γ―グルタミルシステイン合成酵素をγ―GCL、グルタチオン合成酵素をGSHS、グルタチオンをGSH、酸化型グルタチオンをGSSGと略して記載する場合がある。
【0015】
本発明のγ―GCLは、アデノシン三リン酸(ATP)存在下で、L―システインを基質とし、L―グルタミン酸と結合させ、γ―グルタミルシステイン(γ―Glu―Cys)を生成する反応を触媒する活性を有する酵素である。
【0016】
本発明のGSHSは、アデノシン三リン酸(ATP)存在下でγ―グルタミルシステインを基質とし、グリシンと結合させ、γ―グルタミル―L―システイニルグリシン(γ―Glu―Cys―Gly:グルタチオン)を生成する反応を触媒する活性を有する酵素である。
【0017】
本発明の好熱菌とは、50℃以上、特に60~110℃において、変性することなく、活性を保持できる酵素を発現する菌である。また、本発明でのγ―GCL及びGSHSでは、好熱菌由来のものでも良いが、50℃以上で酵素が変性しなければ、好熱菌由来の酵素でなくても良い。
【0018】
本発明のγ―GCLは、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列番号1に対して少なくとも90%以上、又は少なくとも95%以上配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、γ―GCL活性を有するポリペプチドである。
【0019】
本発明のGSHSは、配列番号2又は3のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列番号2又は3に対して少なくとも90%以上、又は少なくとも95%以上配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、GSHS活性を有するポリペプチドである。
【0020】
本発明のγ―GCL及びGSHSは、前段までのアミノ酸配列を有し、さらに、好熱性ラン藻類であるThermosynechococcus elongatusを由来とするものを用いることができる。
【0021】
本発明で使用されるγ―GCL及びGSHSを取得する方法は特に限定されない。例えば、遺伝子工学の手法を用いて得る場合は、目的の酵素をコードする遺伝子を適当なベクターに挿入し、組換えベクターを構築する。当該組換えベクターを酵素生産可能な宿主細胞に形質転換し、酵素を発現製造することができる。本発明では、複数の酵素を用いるため、簡便に形質転換可能な、DH5α、MG1655株等の大腸菌、Pseudomonas属などのグラム陰性菌、Corynebacterium属やBacillus属、Rhodococcus属などのグラム陽性菌が適している。具体的には、γ―GCL及びGSHSはThermosynechococcus elongatus等のゲノムDNAよりPCR増幅した当該遺伝子を、例えば、pET21aに連結し、T7プロモーター制御下で発現させる。Thermosynechococcus elongatus等のゲノムDNAは、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター、国立環境研究所、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)、公益財団法人かずさDNA研究所などから入手可能である。また、使用するDNAは、配列番号1~3のアミノ酸配列情報から合成したDNAでも使用可能であり、合成DNAとはアミノ酸配列を大腸菌のコドン使用頻度に合わせて設計したDNA配列である。これらのDNAから、当概遺伝子を前述のように調製した発現ベクターをNovagen社製 BL21 (DE3) pLysS等の大腸菌に形質転換する。または、相同組み換えやトランスポゾンによるDNA断片を挿入してもよい。形質転換方法は、一般的な方法で良い。
【0022】
本願発明で必要な酵素は、DH5α、MG1655株等の大腸菌、Pseudomonas属などのグラム陰性菌、Corynebacterium属やBacillus属、Rhodococcus属などのグラム陽性菌などから選択した菌類に、γ―GCL及びGSHSに発現させて得ることができる。γ―GCL及びGSHSを同時に得ても良い。本段落で使用する菌類は、後述のように、宿主由来のタンパク質を容易に除去するため、好熱性菌である必要はない。必要な酵素をすべて同時に発現させても良いが、通常は、発現効率等から、実施例記載のように、複数の大腸菌等に分けて、γ―GCL及びGSHSを得ることもできる。本発明では、好熱菌由来の酵素を大腸菌等で発現させて得るため、大腸菌等の宿主由来のタンパク質を容易に除去することができる。例えば、大腸菌で発現後、高温、60℃~80℃で熱処理をすることで、大腸菌由来のタンパク質は変性するが、目的の酵素は、好熱菌由来の酵素であるため、熱変性しない。このように、熱処理で変性したタンパク質を除去することで、必要な粗酵素液を容易に得ることができる。熱処理は、培養後の菌体を直接熱処理しても良い。又は、菌体抽出液を熱処理しても良い。抽出方法は、特に制限なく選択できる。菌体を超音波破砕等により破砕後、抽出した液を熱処理してもよい。 具体的には、例えば、組換え大腸菌の湿菌体を200mg wet cells/mlとなるように50mM HEPES-NaOH (pH8.0)に懸濁し、懸濁液を超音波破砕処理に供することにより菌体を破砕、無細胞抽出液を得る。無細胞抽出液に対し、70℃、30分間の熱処理を施し、宿主由来タンパク質の変性操作を行う。遠心分離により細胞残さと変性タンパク質を取り取り除くことで、上清を粗酵素液として、グルタチオンの製造に用いることができる。
【0023】
本発明によるグルタチオンの製造方法は、L-システインとL-グルタミン酸とを前述のγ―GCLにより、ATP存在下で作用させて、γ―グルタミルシステインを生成する工程、γ―グルタミルシステインとグリシンとを前述のGSHSにより、ATP存在下でグルタチオンを生成する工程を含むものである。
【0024】
γ―GCL及びGSHSによる酵素反応は、適当なpHに調整された溶媒を含む一般的な反応液中で行うことができる。基質の濃度(L―システイン、L―グルタミン酸、グリシンの合計濃度)は、一般的な濃度で反応できる。L―システインとL―グルタミン酸、グリシンの量比は、特に制限がなく選択できる。通常は、L―システイン、L―グルタミン酸、及びグリシンは、等量でよい。溶媒としては、HEPES、TAPS、CHESなどの緩衝液を用いることができる。特に好ましい緩衝液は、TAPSバッファーを使用する。反応のpHは、pH6~10、より好ましくはpH8~9である。γ―GCL反応温度は、60℃~75℃、より好ましくは65℃以上とする。反応時間は、適宜調整できるが、10分~120分とすることができる。
【0025】
本発明のグルタチオンは、γ―GCLにより、γ―グルタミルシステイン(γ―GC)を生成後、GSHSにより、γ―GCとグリシンにより、グルタチオンを生成する反応を別々に行っても良いし、γ―GCの生成とグルタチオンの生成を同時に行っても良い。別々に行う場合は、γ―GCLの反応は、段落番号0024の条件で行う。GSHSの反応も段落0024の条件で行うこともできるが、温度を55~65℃とすることで、より効率的にグルタチオンを生成することができる。
【0026】
各酵素の濃度は、粗酵素液の調整により異なり、一般的な方法で適宜調整して良い。γ―GCLとGSHSとの濃度比も、適宜調整でき制限はない。
【0027】
その他、反応に必要なものは、ATP、塩化マグネシウム等であり、一般な条件で使用することができる。
【実施例
【0028】
以下に本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の方法に限定されない。
【実施例1】
【0029】
(粗酵素液の調整)
組換え大腸菌の湿菌体を200 mg wet cells/mlとなるように50 mM HEPES-NaOH (pH8.0)に懸濁した。懸濁液を超音波破砕処理に供することにより菌体を破砕、無細胞抽出液を得た。無細胞抽出液に対し、60℃、30分間の熱処理を施し、宿主由来タンパク質の変性操作を行った。遠心分離により細胞残さと変性タンパク質を取り除いた上清を粗酵素液として活性測定に用いた。

・使用酵素遺伝子、菌株、培養
Thermosynechococcus elongatus由来のγ-glutamylcystein ligase(γ-GCL)及びglutathione synthetase(GSHS)は配列番号1及び2に対応する合成DNAをpET21aに連結し、T7プロモーター制御下で発現させた。この遺伝子発現ベクターは全てNovagen社製 Rosetta 2 (DE3) pLysSに導入した。Rosetta2 (DE3) pLysSでは100 mg/lのアンピシリンと34 mg/lのクロラムフェニコールをLuria-Bertani培地に添加し、37℃で好気的に培養した。対数増殖後期に培養液に0.2 mM IPTGの添加し、目的酵素遺伝子の誘導を行った。
【0030】
γ―GC,グルタチオンの濃度は、Steeleらの報告(Steele et al., 2012, Analytical Biochemistry)に準じた手法で測定した。具体的には以下の通りである。
【0031】
・誘導体化
酵素反応後のサンプルならびにスタンダード(L‐システイン、γ-GC、GSH各100 μMの混合液)各160 μlに1 mM TCEP(Tris(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride)を加え、35℃で5分間加温した。続いて200μlのBorate buffer(0.1 M Borate buffer(pH9.3)with 1 mM EDTA)と60μlのABD-F(1 mg/ml 4-Fluoro-7-aminosulfonylbenzofurazan in Borate buffer)を添加し、35℃で10分間加温した。100μlの2M HClを加えて反応を停止させた後、遠心分離し、取得した遠心上清をグルタチオンの測定に用いた。
【0032】
・高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定条件
溶離液:超純水で0.1Mに希釈した酢酸を水酸化ナトリウムでpH 4.0に調整し、メタノールと86:14の容積比で混合した溶液
流速:0.8 ml/min
カラム:COSMOSIL Packed Column 5C18-AR-II 4.6ID x 250 mm
カラム温度:35℃
測定波長:UV 390 nm (励起波長:390 nm、蛍光波長:510 nm)
【実施例2】
【0033】
(γ-GCLの酵素活性評価)
・最適温度検討
表1の組成で酵素液を調製し、それを用いて、ATPを除く表2の組成で反応液を作製した。40、 45、 50、 55、 60、 65、 70、 75℃の各温度で2分間保温した後に、ATPを加えることで反応を開始させた。10分間反応させた後、等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成されたγ-GCをHPLCにて定量した。生成されたγ-GCの量を基に比活性を算出した結果を図1に示す。この結果より、γ-GCLの最適温度は65℃であることが明らかとなった。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
・最適pH検討
表1の組成で酵素液を調製し、それを用いて、ATPを除く表3の組成で反応液を作製した。図1より、γ-GCLの最適温度が65℃であったため、65℃で2分間保温した後、ATPを加えることで反応を開始させた。10分間反応させた後、等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成されたγ-GCをHPLCにて定量した。生成されたγ-GCの量を基に比活性を算出した結果を図2に示す。この結果より、γ-GCLの最適pHは9.0であり、特にTAPSをバッファーに用いると活性が高いことが明らかとなった。
【0037】
【表3】
【0038】
(γ-GCの生成)
表1の組成で酵素液を調製し、それらを用いて、ATPを除く表4の組成で反応液を作製した。65℃で2分間保温した後、ATPを加えることで反応を開始させた。1、3、5、10、20、30分後にサンプルを取得し、それぞれに等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成したγ-GCをHPLCにて定量した。その結果、反応開始30分後には1.2 1mMのγ-GCを確認できた。生成したγ-GCと残存L‐システインの量を図3に示す。
【0039】
【表4】
【実施例3】
【0040】
(GSHSの酵素活性評価)
・最適温度検討
表5の組成で酵素液を調製し、それを用いて、ATPを除く表6の組成で反応液を作製した。40、 45、 50、 55、 60、 65、 70、 75℃の各温度で2分間保温した後に、ATPを加えることで反応を開始させた。10分間反応させた後、等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成されたグルタチオンをHPLCにて定量した。生成されたグルタチオンの量を基に比活性を算出した結果を図4に示す。この結果より、GSHSの最適温度は55℃であるが、55~65℃まではほぼ同等の活性を示すことが明らかとなった。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
・最適pH検討
表5の組成で酵素液を調製し、それを用いて、ATPを除く表7の組成で反応液を作製した。図4より、GSHSの活性は最適温度の55℃から65℃までほぼ同等であったため、65℃で2分間保温した後、ATPを加えることで反応を開始させた。10分間反応させた後、等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成されたグルタチオンをHPLCにて定量した。生成されたグルタチオンの量を基に比活性を算出した結果を図5に示す。この結果より、GSHSの最適pHは9.0であり、特にTAPSをバッファーに用いると活性が高いことが明らかとなった。
【0044】
【表7】
【実施例4】
【0045】
(グルタチオン(GSH)の生成)
表1、表5の組成で酵素液を調製し、それらを用いて、ATPを除く表8の組成で反応液を作製した。65℃で2分間保温した後、ATPを加えることで反応を開始させた。1、3、5、10、20、30分後にサンプルを取得し、それぞれに等量のメタノールを加えて反応を停止させ、生成したグルタチオンをHPLCにて定量した。その結果、反応開始30分後には0.54 mMのグルタチオンを確認できた。生成したグルタチオンとγ-GC、残存L‐システインの量を図6に示す。これによると、反応開始10分後にγ-GCの濃度が最大となり、それ以降低下していた。これは、γ-GCLによるγ-GCの生産速度が、反応開始10分まではGSHSによるγ-GCの消費速度を上回った結果と考えられる。実際に、グルタチオンの生産量は一律に増加しており、GSHSによるグルタチオン生産が律速段階であったことが示唆される。
【0046】
【表8】
【0047】
以上から、本発明において、65℃という高温域に最適温度を持つ耐熱性酵素により、L‐グルタミン酸、L‐システインからのγ-GC製造ならびにグリシンとγ-GCからのグルタチオン製造、更にはL‐グルタミン酸、L‐システインおよびグリシンからのグルタチオン製造を、過去の事例(45℃)を遥かに上回る高温で行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
0007181712000001.app