(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】スピーカ装置、スピーカ係数決定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20221124BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/40 310
(21)【出願番号】P 2018166380
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】杉本 岳大
(72)【発明者】
【氏名】久保 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 一穂
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514424(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0329480(US,A1)
【文献】特表2016-516349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
H04R 1/20-1/40
3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカユニットを有するスピーカ装置であって、
前記複数のスピーカユニットと、
係数を記憶する記憶部と、
前記スピーカユニットと同数のチャンネル信号生成部と、を備え、
前記チャンネル信号生成部はそれぞれ、入力されたオーディオ信号の各周波数成分に前記係数を乗じてチャンネル信号を生成して前記スピーカユニットに出力し、
前記係数は、該係数と前記スピーカユニットの指向周波数特性とから求まる指向指数が所定の範囲内に収まるように決定され
、当該スピーカ装置としての初期性能を規定する初期値との差を成分とするベクトルのノルムを最小とする値であることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
複数のスピーカユニットを有するスピーカ装置であって、
前記複数のスピーカユニットと、
係数を記憶する記憶部と、
前記スピーカユニットと同数のチャンネル信号生成部と、を備え、
前記チャンネル信号生成部はそれぞれ、入力されたオーディオ信号の各周波数成分に前記係数を乗じてチャンネル信号を生成して前記スピーカユニットに出力し、
前記係数は、該係数と前記スピーカユニットの指向周波数特性とから求まる指向指数が所定の範囲内に収まるように決定され、隣接する周波数成分に与えられる前記係数の比は、所定の範囲内に収まることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のスピーカ装置であって、
前記係数は、前記隣接する周波数成分に与えられる前記係数の差の絶対値を成分とするベクトルのノルムが最小となる値であることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のスピーカ装置であって、
当該スピーカ装置を自由音場に設置した場合に、i番目のスピーカユニットにおいて周波数f
kの成分に乗じる第1係数をa
i,k、i番目のスピーカユニットの指向周波数特性をu
i(f
k,φ,θ)とし、当該スピーカ装置を拡散音場に設置した場合に、i番目のスピーカユニットにおいて周波数f
kの成分に乗じる第2係数をb
i,k、拡散音場の室内音響特性を考慮したi番目のスピーカユニットの指向周波数特性をv
i(f
k,φ,θ)とした場合、(φ,θ)=(0,π/2)はスピーカの主軸方向の極座標表示に該当し、
【数1】
を満たす第2係数b
i,kを前記係数とすることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項5】
請求項
4に記載のスピーカ装置であって、
【数2】
を満たすb
i,kを前記係数とすることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のスピーカ装置であって、
前記係数は、あらかじめ用意された複数パターンの係数のセットから選択されることを特徴とす
るスピーカ装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のスピーカ装置に対し、前記係数を決定して出力することを特徴とするスピーカ係数決定装置。
【請求項8】
コンピュータを、請求項
7に記載のスピーカ係数決定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカユニットを有するスピーカ装置、スピーカ装置用の係数を決定するスピーカ係数決定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカの指向周波数特性(より一般的には、周波数別の放射パターン)は、再生音の品質に大きく関わる音響特性である。なぜなら、設置された拡散音場の音響特性による再生音への影響は、スピーカの指向周波数特性によって大きく変化するためである。特に、スピーカを用いて厳密なオーディオ信号の音質評価を実施する場合は、その指向周波数特性が評価結果を左右するため、静特性・動特性やひずみ特性と並んで、実用的な範囲に収まっていることが期待される数値である。微小な音質変化を評価するためのITU-R勧告(非特許文献1参照)においても、指向指数(directivity index)(非特許文献2,3参照)の許容範囲が規定されていることから、制御されるべきスピーカの音響特性の一要素と考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Recommendation ITU-R BS.1116-3、2015
【文献】IEC 60268-5:2003、「Loudspeakers」
【文献】JIS C 5532:1994、「音響システム用スピーカ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、市販されているスピーカの仕様に指向周波数特性が明示されることは少ない。一般的にスピーカにおける指向周波数特性の制御は、静特性やダイナックレンジへの影響を伴うため、トレードオフの関係になりやすい。したがって、実用的な観点からスピーカ音響特性に優先順位をつけるとすれば、静特性や音質が上位にくることが一般的である。一方で、拡散音場の音響特性の影響は結果的に周波数特性・時間軸特性に大きく影響を及ぼす要素であり、設置された拡散音場に合わせて指向周波数特性を考慮した音響調整が可能なスピーカ装置が必要である。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、各スピーカユニットの指向周波数特性に合わせてオーディオ信号の周波数成分を配分することで、スピーカ装置全体の指向周波数特性を制御することが可能なスピーカ装置、該スピーカ装置用の係数を決定するスピーカ係数決定装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るスピーカ装置は、複数のスピーカユニットを有するスピーカ装置であって、前記複数のスピーカユニットと、係数を記憶する記憶部と、前記スピーカユニットと同数のチャンネル信号生成部と、を備え、前記チャンネル信号生成部はそれぞれ、入力されたオーディオ信号の各周波数成分に係数を乗じてチャンネル信号を生成して前記スピーカユニットに出力し、前記係数は、該係数と前記スピーカユニットの指向周波数特性とから求まる指向指数が所定の範囲内に収まるように決定され、当該スピーカ装置としての初期性能を規定する初期値との差を成分とするベクトルのノルムを最小とする値であることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るスピーカ装置は、複数のスピーカユニットを有するスピーカ装置であって、前記複数のスピーカユニットと、係数を記憶する記憶部と、前記スピーカユニットと同数のチャンネル信号生成部と、を備え、前記チャンネル信号生成部はそれぞれ、入力されたオーディオ信号の各周波数成分に係数を乗じてチャンネル信号を生成して前記スピーカユニットに出力し、前記係数は、該係数と前記スピーカユニットの指向周波数特性とから求まる指向指数が所定の範囲内に収まるように決定され、隣接する周波数成分に与えられる前記係数の比は、所定の範囲内に収まることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係るスピーカ装置において、前記係数は、前記隣接する周波数成分に与えられる前記係数の差の絶対値を成分とするベクトルのノルムが最小となる値であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係るスピーカ装置において、前記係数は、周波数成分ごとに、当該スピーカ装置の自由音場における主軸上の音圧と拡散音場における主軸上の音圧との差が閾値以下となる値であることを特徴とする。すなわち、当該スピーカ装置を自由音場に設置した場合に、i番目のスピーカユニットにおいて周波数f
kの成分に乗じる第1係数をa
i,k、i番目のスピーカユニットの指向周波数特性をu
i(f
k,φ,θ)とし、当該スピーカ装置を拡散音場に設置した場合に、i番目のスピーカユニットにおいて周波数f
kの成分に乗じる第2係数をb
i,k、拡散音場の室内音響特性を考慮したi番目のスピーカユニットの指向周波数特性をv
i(f
k,φ,θ)とした場合、
【数1】
を満たすb
i,kを前記係数とする。ここで、(φ,θ)=(0,π/2)はスピーカの主軸方向の極座標表示に該当する。
【0012】
さらに、本発明に係るスピーカ装置において、前記係数は、周波数成分ごとに、自由音場における主軸上の音圧を変化させないことを特徴とする。すなわち、
【数2】
を満たすb
i,kを前記係数とすることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係るスピーカ装置において、前記係数は、あらかじめ用意された複数パターンの係数のセットから選択されることを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るスピーカ係数決定装置は、上記スピーカ装置に対し、前記係数を決定して出力することを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記スピーカ係数決定装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のスピーカユニットを備えるスピーカ装置全体の指向周波数特性を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置におけるチャンネル信号生成部の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るスピーカ係数決定装置における係数決定方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の構成例を示す。スピーカ装置1は、複数(N個)のスピーカユニット10と、スピーカユニット10と同数(N個)のチャンネル信号生成部11と、記憶部12とを備える。
【0020】
スピーカ装置1は、入力したオーディオ信号s(t)をN分配して各チャンネル信号生成部11に出力し、各チャンネル信号生成部11は分配されたオーディオ信号に規定の信号処理を施してチャンネル信号を生成し、各スピーカユニット10に出力する。記憶部12は係数を記憶する。係数は、後述するように、該係数とスピーカユニット10の指向周波数特性とから求まる指向指数が所定の範囲内に収まるように決定される。
【0021】
図2に、チャンネル信号生成部11の構成例を示す。
図2ではi(1≦i≦N)番目のスピーカユニット10-iに対応するiチャンネル信号を生成するチャンネル信号生成部11-iを示している。
図2に示すように、チャンネル信号生成部11は、周波数分解部111と、乗算部112と、再合成部113とを備える。
【0022】
周波数分解部111は、入力されたオーディオ信号s(t)を周波数分解し、分解したn個の周波数成分をそれぞれ乗算部112に出力する。周波数分解には、フーリエ変換、バンドパスフィルタ、1/3オクターブバンドのピンクノイズなど、様々な手法を用いることができる。
【0023】
乗算部112は、周波数分解部111により分解された周波数成分に、それぞれ記憶部12に記憶されている係数を乗じて増減させた信号を再合成部113に出力する。
【0024】
再合成部113は、乗算部112から入力された信号を再合成してiチャンネル信号ci(t)に変換し、i番目のスピーカユニット10-iに出力する。
【0025】
一例としてオーディオ信号s(t)のk(1≦k≦n)番目の周波数fkの成分を時間信号sfk(t)で表すと、i番目のスピーカユニット10-iに対応するiチャンネル信号ci(t)は、周波数成分の個数をn、i番目のスピーカユニット10-iに対して入力されるオーディオ信号s(t)の周波数fkの成分に乗じる係数をai,kとすると、式(1)で表される。なお、ai,k=1でスピーカ装置1としての初期性能・初期値が与えられるものとする。
【0026】
【0027】
スピーカユニット10-iは、チャンネル信号生成部11-iにより生成されたiチャンネル信号ci(t)を入力し、iチャンネル信号ci(t)によって振動板などを駆動することにより、音を出力する。
【0028】
指向周波数特性保持部3は、あらかじめ測定した、各スピーカユニット10の主軸上の周波数特性を保持する。
【0029】
スピーカ係数決定装置2は、目標とする指向指数を入力するとともに、指向周波数特性保持部3から各スピーカユニット10の指向周波数特性を入力する。スピーカ係数決定装置2は、係数と各スピーカユニット10の指向周波数特性とから求まるスピーカ装置1の指向指数が所定の範囲内に収まるように係数を決定し、決定した係数を記憶部12に出力する。
【0030】
ここで、指向指数とは、スピーカ基準軸上の選ばれた一点で測った音の強さと、そのスピーカと同じ音響出力を放射する点音源が、自由音場の同一測定位置で再生すると思われる音の強さのとの比であり、単位はdBで表される。指向指数の目標値は、非特許文献1によれば、周波数500Hzから10kHzにおいて、6dB以上かつ12dB以下と規定されている。
【0031】
非特許文献3によれば、指向指数DIは、式(2)で示すように、スピーカ装置1の主軸方向の一点の音圧(感度)の2乗s
0と、球面上に均等に分散した角度ごとの音圧の2乗の平均値s
mとの比の値の、底を10とする対数に10を乗じた数値で定義される。
【数4】
【0032】
また、非特許文献3によれば、指向指数DIを式(3)により定義してもよい。ここで、Laxは自由音場条件において主軸上で測定し、1mに換算した音圧レベルであり、Lpは拡散音場条件において測定した音圧レベルである。また、Tは残響室の残響時間であり、T0は基準残響時間で1秒であり、Vは残響室容積であり、V0は基準容積で1m3である。
【0033】
【0034】
i番目のスピーカユニット10-iの指向周波数特性uiを、fkを周波数、φを方位角、θを仰角としてui(fk,φ,θ)と表すと、i番目のスピーカユニット10-iから放射される音波の周波数fkの成分pi(fk,φ,θ,t)は、式(4)で表される。なお、以降の議論はすべて距離1mの条件で行うものとする。
【0035】
【0036】
したがって、スピーカ装置1全体から放射される音波の周波数fkの成分p^(fk,φ,θ,t)は、式(4)を用いて式(5)で表される。なお、周波数fkは周波数ビンだけでなく、任意の幅を有する周波数帯域として取り扱うことも可能である。
【0037】
【0038】
式(2)で定義される指向指数DIを用いる場合、周波数成分ごとの指向指数DIkを、JIS Z 8734:2000、「音響-音圧法による騒音源の音響パワーレベルの測定方法-残響室における精密測定法」で規定された規格に基づいて求めると、方位角と仰角を従属関係にある離散値とし、m番目の離散値をφm,θmとして、式(6)で表される。ただし、Mはφm,θmの個数であり、使用するパラメータ・変数は自由音場において取得されたものと仮定する。ui(fk,0,π/2)は、スピーカユニット10-iの主軸上の周波数特性である。
【0039】
【0040】
スピーカ係数決定装置2は、式(6)に示した、係数ai,kと各スピーカユニット10-iの指向周波数特性uiとから求まる指向指数DIkが、所定の範囲内に収まるように係数ai,kを決定する。一般に、式(6)を満たす係数ai,kの組み合わせはいくつも考えられるが、実用的にはスピーカユニット10の特性を損なう数値を選択することはできない。一般的に、初期値からの変化量が大きくなるほど、スピーカ装置に対する負担や音質劣化が増すことが想定されるため、できるかぎり係数の変化量を小さくすることが望ましい。そこで、式(7)に示すように、係数ai,kを、スピーカ装置1としての初期性能を規定する初期値(本実施形態では、「1」)以下の値とするのが好適である。式(7)から、調整は実質的に感度を減少させる調整のみが許容されることになる。また、隣接する周波数の係数比に実用的な制約を設ける目的で、係数ai,kを式(8)に示す制約を満たす値とするのが好適である。式(8)の制約を満たすことにより、非線形歪みが大きくなることを防止することができる。
【0041】
【0042】
式(7)(8)の条件のもとで所望の指向指数DIの実現に最適な係数ai,kの組み合わせを求める課題は、係数ai,kをN次元のベクトルと考えることで次の劣決定条件における最小化問題(9)(10)に帰着する。式(9)では、係数ai,kは、初期値との差を成分とするベクトルのノルムを最小とする値となる。式(10)では、係数ai,kは、隣接する周波数成分に与えられる係数の差の絶対値を成分とするベクトルのノルムが最小となる値となる。式(9)(10)の条件は、目的に応じて別の規定に変更することもできるとともに、式(9)(10)の一方だけを条件とすることもできる。
【0043】
【0044】
なお、係数ai,kのLpノルムはpがNの時、式(11)で定義される。
【0045】
【0046】
なお、スピーカ装置1又はスピーカ係数決定装置2として機能させるためにコンピュータを用いることも可能である。そのようなコンピュータは、スピーカ装置1又はスピーカ係数決定装置2の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、スピーカ係数決定装置2において、係数とスピーカユニット10の指向周波数特性とから求まるスピーカ装置1の指向指数DIが所定の範囲内に収まるように係数を決定し、スピーカ装置1において、入力されたオーディオ信号s(t)の各周波数成分に、スピーカ係数決定装置2で決定された係数を乗じてチャンネル信号を生成する。かかる構成により、本実施形態によれば、スピーカ装置1全体の指向周波数特性を制御することが可能となる。例えば、指向指数DIが所定の規格に収まるように、スピーカ装置1全体の指向周波数特性を調整することができる。また、係数を決定する際に制約を設けることで、スピーカ装置1が出力する音の品質が劣化することを防止できる。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置について説明する。本実施形態では、拡散音場での指向周波数特性を調整可能とする。
【0049】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の構成例を示す図である。スピーカ装置1aの構成は、第1の実施形態のスピーカ装置1と比較して、記憶部12が記憶する係数の値が異なる。
【0050】
指向周波数特性保持部3aは、あらかじめ測定した、スピーカ装置1aの自由音場での主軸上の周波数特性、及び拡散音場での主軸上の周波数特性を保持する。
【0051】
【0052】
すなわち、スピーカ係数決定装置2aは、周波数成分ごとに、スピーカ装置1aの自由音場における主軸上の音圧と拡散音場における主軸上の音圧との差が閾値以下となるように係数を決定する。
【0053】
【0054】
スピーカ係数決定装置2aは、上述した式(6)~(10)を満たす係数ai,kを決定した後に、式(12)を満たす係数bi,kを決定し、係数bi,kを記憶部12に出力する。本実施形態では、係数ai,kに関して式(7)(8)の制約を設けるとともに、係数bi,kに関しても同様に式(13)(14)の制約を設け、式(15)の最小化問題を解くことで係数bi,kが求まる。この時、式(10)と同様に式(16)の条件を係数bi,kに課してもよい。
【0055】
【0056】
さらに、式(17)の制約を設けてもよい。すなわち、この場合には、スピーカ係数決定装置2aは、周波数成分ごとに、スピーカ装置1aの自由音場における主軸上の音圧を変化させないように(音圧の変化が閾値以下となるように)係数を決定する。
【0057】
【0058】
スピーカ係数決定装置2aは、上記の制約を満たす係数bi,kを決定し、チャンネル信号生成部11に出力する。チャンネル信号生成部11は、記憶部12に記憶された係数bi,kを用いて第1の実施形態と同様に、例えば式(18)に基づいてチャンネル信号を生成し、各スピーカユニット10に出力する。
【0059】
【0060】
図4は、スピーカ係数決定装置2aにおける係数決定方法の一例を示すフローチャートである。まず、スピーカ装置1aの自由音場での主軸上の周波数特性を取得するとともに(ステップS101)、拡散音場での主軸上の周波数特性を取得する(ステップS102)。これら周波数特性はスピーカ係数決定装置2aの内部に保持していてもよいし、外部から入力することによって取得してもよい。続いて、ステップS101で取得した、自由音場でのスピーカ装置1aの主軸上の周波数特性と、ステップS102で取得した、拡散音場でのスピーカ装置1aの主軸上の周波数特性とを比較し、予め定められた許容誤差の範囲に収まっている場合には(ステップS103-No)、係数決定処理を終了する。
【0061】
周波数特性の差が許容誤差の範囲を超えていた場合には(ステップS103-Yes)、チャンネル信号生成部11がオーディオ信号の各周波数成分に乗じる係数の制約条件を取得する(ステップS104)。そして、自由音場と拡散音場での周波数特性の差を減少させられるように係数を計算する(ステップS105)。
【0062】
そして、ステップS105により導出された係数が制約条件を満たしている場合には(ステップS106-Yes)、係数をチャンネル信号生成部11に入力し(ステップS107)、ステップS105により導出された係数が制約条件を満たしていない場合には(ステップS106-No)、制約条件を満たす係数が見つかるまで係数の計算を繰り返す。それらをスピーカユニットに入力するオーディオ信号に反映させることで、音響調整を完了する。
【0063】
なお、スピーカ装置1a又はスピーカ係数決定装置2aとして機能させるためにコンピュータを用いることも可能である。そのようなコンピュータは、スピーカ装置1a又はスピーカ係数決定装置2aの各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0064】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、スピーカ係数決定装置2aにおいて、係数と、スピーカユニット10の自由音場及び拡散音場の指向周波数特性とから求まるスピーカ装置1aの指向指数DIが所定の範囲内に収まるように係数を決定し、スピーカ装置1aにおいて、入力されたオーディオ信号s(t)の各周波数成分に、スピーカ係数決定装置2aで決定された係数を乗じてチャンネル信号を生成する。かかる構成により、本実施形態によれば、スピーカ装置1a全体の指向周波数特性を制御することが可能となる。例えば、指向指数DIが所定の規格に収まるように、スピーカ装置1a全体の拡散音場での主軸上の周波数特性を調整することができる。また、係数を決定する際に制約を設けることで、スピーカ装置1aが出力する音の品質が劣化することを防止できる。
【0065】
(変形例)
最後に、上述したスピーカ装置及びスピーカ係数決定装置の変形例について説明する。変形例においては、スピーカ装置に用いられる係数は、あらかじめ用意された複数パターンの係数のセットから選択される。
【0066】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置1及びスピーカ係数決定装置2の変形例を示す図である。スピーカ装置1bは、スピーカ係数決定装置2bにより決定された係数を用いてチャンネル信号を生成する。スピーカ係数決定装置2bは、パラメータ選択部21と、係数記憶部22とを備える。
【0067】
係数記憶部22は、汎用的ないくつかの対応可能な係数をあらかじめ記憶する。
図5では、周波数成分f
k(1≦k≦n)ごとに、N個の係数のセットをQパターン記憶している。
【0068】
パラメータ選択部21は、目標とする指向指数DIが入力され、該指向指数DIを満たす係数のセットを選択する。その際には、上述の制約をできるだけ満たす係数のセットを選択するのが好適である。パラメータ選択部21は、例えば
図5に示すようにパラメータセットa2
1,k,a2
2,k,・・・,a2
N,kを選択し、記憶部12に出力する。
【0069】
なお、スピーカ装置1bは、記憶部12に代えて係数記憶部22を備えてもよい。その場合には、スピーカ係数決定装置2bはパラメータ選択部21のみを備え、スピーカ装置1bに対し、Qパターンのうちのどの係数のセットを選択するかを指示する。スピーカ装置1bの係数記憶部22は、指示された係数のセットをチャンネル信号生成部11に出力する。
【0070】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1,1a,1b スピーカ装置
2,2a,2b スピーカ係数決定装置
3,3a 指向周波数特性保持部
10 スピーカユニット
11 チャンネル信号生成部
12 記憶部
21 パラメータ選択部
22 係数記憶部
111 周波数分解部
112 乗算部
113 再合成部