(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221124BHJP
C08L 71/08 20060101ALI20221124BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221124BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221124BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L71/08
C08K7/14
C08K3/22
C08L27/18
(21)【出願番号】P 2018246912
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592060237
【氏名又は名称】株式会社鈴裕化学
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】神原 武志
(72)【発明者】
【氏名】在田 知央
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 洋章
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-145256(JP,A)
【文献】特開昭48-49832(JP,A)
【文献】特開昭51-117737(JP,A)
【文献】特開2017-128681(JP,A)
【文献】特開2019-77857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)と、該ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、
テトラブロモビスフェノール化合物とハロゲン化アルキル化合物とから得られる縮重合物であって、かつ下記の一般式(1)で示される臭素系難燃剤(B)1~80重量部と、ガラス繊維(C)10~100重量部と、アンチモン系難燃助剤(D)1~30重量部と、を含んでなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1は、C1~C6のアルキレン基、-S-、又は-SO
2-を示す。R
2は、C2~C4のアルキレン基を示す。nは、平均値として1以上であり、臭素系難燃剤(B)の標準ポリスチレン換算における重量平均分子量が572以上となる数を示す。)
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6、ポリアミド46、又はポリアミド66であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
アンチモン系難燃助剤(D)が三酸化アンチモンであることを特徴とする請求項
1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、滴下防止剤(E)を、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、0.1~10重量部含むことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
滴下防止剤(E)が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項
4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物で形成された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性が優れるとともに、複数回の高温加工による流動性の上昇が抑制されたポリアミド樹脂組成物に関する。より詳細には300℃程度の高温加工条件下において、複数回の高温加工を実施しても、樹脂組成物の流動性の著しい上昇が抑制されるポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、高い機械的安定性、および良好な加工性のために、自動車用部品や、電気・電子部品の分野で重要な役割を担うプラスチック材料である一方で、特に自動車用部品や、電気・電子部品といった分野おいて、ポリアミド樹脂には高い難燃性が求められる。そのためポリアミド樹脂には難燃剤を添加し、難燃性を付与する場合が多い。
【0003】
ポリアミド樹脂へ添加する難燃剤としては、塩素系難燃剤や臭素系難燃剤といったハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、および窒素系難燃剤等のノンハロゲン難燃剤が挙げられるが、特に臭素系難燃剤は、アンチモン系の難燃助剤を組み合わせた場合に、少ない添加量で高い難燃性を示すことが知られている。そのため臭素系難燃剤はポリアミド樹脂に良く使用され、特に、臭素化ポリスチレン(特許文献1、特許文献2)、デカブロモジフェニルエーテル(特許文献3)、臭素化スチレン-無水マレイン酸重合体(特許文献4)、臭素化架橋芳香族重合体(特許文献5)等の臭素系難燃剤が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭51-47044号公報
【文献】特開平4-175371号公報
【文献】特開昭47-7134号公報
【文献】特開平3-168246号公報
【文献】特開昭63-317552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリアミド樹脂組成物は、一般的に、その機械物性向上のために、無機強化剤、特にガラス繊維を配合する場合が多い。しかしながら、特許文献1~5に示した臭素系難燃剤とガラス繊維を含む樹脂組成物は、高温加工を複数回実施した場合、樹脂の流動性が著しく上昇してしまうことが分かっている。樹脂の流動性の急激な変化は、加工条件の制御を困難にするだけでなく、成形品のバリの発生等につながってしまう。
【0006】
近年、使用済み樹脂組成物の再利用が注目されるようになり、使用済み樹脂組成物を再び原料に混ぜ、再度加工成形する手法がとられている。この際に、再利用する使用済み樹脂組成物において、加工条件の安定化、バリの抑制などの観点から、使用済み樹脂組成物の流動性が安定している方がより好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂、特定の臭素系難燃剤、ガラス繊維、難燃助剤、そして、好ましくは滴下防止剤を含んでなるポリアミド樹脂組成物が300℃程度の温度条件下で複数回の混練加工を実施しても、流動性の変化が小さい組成物となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、ポリアミド樹脂(A)と、該ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、下記の一般式(1)で示される臭素系難燃剤(B)1~80重量部と、ガラス繊維(C)10~100重量部と、アンチモン系難燃助剤(D)1~30重量部と、を含んでなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1は、C1~C6のアルキレン基、-S-、又は-SO
2-を示す。R
2は、C2~C4のアルキレン基を示す。nは、平均値として1以上であり、臭素系難燃剤(B)の標準ポリスチレン換算における重量平均分子量が572以上となる数を示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、加熱加工成型の履歴を受けた後も樹脂の流動性変動が小さいという効果を奏する。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は上記の通り流動性変動が小さいため、バリのリサイクル性が向上し、樹脂生産性の向上や廃棄物の低減が可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド、ヘキサメチレンテレフタルアミド、テトラメチレンイソフタルアミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド、メタキシリレンアジパミド等の芳香族成分を含む芳香族ポリアミド、混合ポリアミド等が挙げられる。特に薄肉成形品において良好な耐熱性、難燃性および成形性が得られる点で、ポリアミド6、ポリアミド46、又はポリアミド66が好ましく、更にはポリアミド66がより好ましい。
【0011】
本発明で用いられる臭素系難燃剤(B)は、上記一般式(1)で示されるものであり、特に限定するものではないが、例えば、テトラブロモビスフェノール化合物とハロゲン化アルキル化合物とから得られる縮重合物が挙げられる。
【0012】
本臭素系難燃剤(B)については、特に限定するものではないが、例えば、テトラブロモビスフェノールFと二塩化エタンから得られる重合物、テトラブロモビスフェノールAと二塩化エタンから得られる重合物、テトラブロモビスフェノールFと1,3-ジクロロプロパンから得られる重合物、テトラブロモビスフェノールAと1,3-ジクロロプロパンから得られる重合物、テトラブロモビスフェノールFと1,4-ジクロロブタンから得られる重合物、又はテトラブロモビスフェノールAと1,4-ジクロロブタンから得られる重合物等が挙げられる。これらのうち、樹脂組成物のリサイクル性が優れる点で、特に上記一般式(1)においてR1がC3のイソプロピリデン基であることが好ましく、R2がC2~C4のアルキレン基が好ましい。
【0013】
また、樹脂の流動性安定効果の観点からは、臭素系難燃剤(B)についてはテトラブロモビスフェノールAと1,4-ジクロロブタンから得られる重合物が好ましく、すなわち、上記一般式(1)においてR1がC3のイソプロピリデン基であることが好ましく、R2がC4のアルキレン基であることがより好ましい。
また、上記一般式(1)におけるnは、平均値として1以上であり、一般式(1)で示される臭素系難燃剤の標準ポリスチレン換算における重量平均分子量が572以上になる数であることを特徴とする。
【0014】
上記一般式(1)で示される臭素系難燃剤の分子量は、より高い耐熱性を示すことを考えると、標準ポリスチレン換算における重量平均分子量が2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。
臭素系難燃剤(B)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、1~80重量部であることを特徴とするが、樹脂の機械特性の観点から、好ましくは10~60重量部である。
【0015】
本発明で用いられる無機強化剤(C)としては、特に限定するものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、セラミックス繊維、タルク、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク等の無機強化剤が挙げられる。これらのうち、樹脂の機械特性の観点から、ガラス繊維が好ましい。
無機強化剤(C)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、10~100重量部であることを特徴とするが、樹脂の機械特性の観点から、好ましくは15~80重量部である。
【0016】
本発明で用いられるアンチモン系難燃助剤(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、樹脂の難燃性の観点から、三酸化アンチモンが好ましい。アンチモン系難燃助剤(D)の配合量はポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、1~30重量部であることを特徴とするが、樹脂の難燃性の観点から、好ましくは10~20重量部である。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物については、さらに滴下防止剤(E)が含まれていても良い。滴下防止剤(E)は、樹脂の燃焼時に樹脂のドリップを抑制するものであり、特に限定するものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素滴下防止剤が挙げられる。
滴下防止剤(E)の配合量は、特に限定するものではないが、例えば、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、0.1~10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~5重量部である。
【0018】
本発明のポリアミド樹脂組成物については、特に限定するものではないが、例えば、自動車のエンジン部品や、コネクタ等の電気・電子部品等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0020】
参考例1
<臭素系難燃剤(B-1)の合成>
撹拌器、コンデンサーを装着した5Lのガラス製セパラブルフラスコに、テトラブロモビスフェノールA 500g(0.919mol)、1,4-ジクロロブタン 117g(0.921mol)、炭酸水素ナトリウム 185g(2.20mol)、N,N-ジメチルホルムアミド 2.17kgを、この順序にて室温中加えてから窒素気流中で混合下に130℃まで昇温させた。130℃にて17時間撹拌後、室温まで放冷させた。水を加えた後、析出した固体をろ過、洗浄し、さらに乾燥させて、重量平均分子量20000の白色固体(ポリマー)を収率98%で得た。このポリマーを以下、難燃剤(B-1)と記す。
【0021】
<難燃性の測定>
以下、難燃性の測定に用いた材料を以下に示す。
<ポリアミド樹脂(A)>
ポリアミド66:東レ(株)製、(商標名)アミラン。
<臭素系難燃剤(B)>
難燃剤B-1
臭素化ポリスチレン(以下、B-2と記す):Albemale製、(商標名)Saytex7010。
【0022】
<無機強化剤(C)>
ガラス繊維:日東紡(株)製チョップドストランド、(商標名)CSF3PE-455S。
<アンチモン系難燃助剤(D)>
三酸化アンチモン:(株)鈴裕化学製、(商標名)AT3CN。
<滴下防止剤(E)>
ポリテトラフルオロエチレン:三菱ケミカル(株)製、(商標名)メタンブレン。
【0023】
実施例1
まず、コンパウンディングによって相当するポリアミド樹脂組成物を調製した。この目的のために、上記の臭素系難燃剤(B-1)を用い、表1に記載の個々の成分を、二軸押出機(ZSK-26、Coperion製)の中で230~325の温度で混合し、ストランドとして排出し、ペレット化した。このペレットの一部を難燃性測定の試料として用い、残りを再度二軸押出機(ZSK-26、Coperion製)の中で230~325℃の温度で混合し、ストランドとして排出し、再度ペレット化した。続いて、同様の作業を繰返し実施し、混練1回目、混練2回目(すなわち、2回の加熱熱履歴を有する。以下同様)、混練3回目の計3サンプルを作製した。
【0024】
上記で得られた3サンプルのペレットについて、それぞれ、270~330℃の温度で成形加工して、難燃性試験のための標準試験片(縦126mm×横12mm×厚み1.5mm又は縦126mm×横12mm×厚み0.8mm)を得た。難燃性の指標としてUL94V法を実施した。難燃性が高い方からV-0、V-1、V-2、NGと示した。結果を表1に示した。
【0025】
比較例1
難燃剤として上記のエポキシ系難燃剤(B-2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って難燃性を評価した。結果を表1に示した。
【0026】
比較例2
難燃剤(B-2)、三酸化アンチモン(D)、及びテトラフルオロエチレン(E)を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って難燃性を評価した。結果を表1に示した。
【0027】
【0028】
実施例2
<流動性の測定>
コンパウンディングによって相当するポリアミド樹脂組成物を調製した。この目的のために、上記の臭素系難燃剤(B-1)を用い、表2に記載の個々の成分を、二軸押出機(ZSK-26、Coperion製)の中で230~325℃の温度で混合し、ストランドとして排出し、ペレット化した。このペレットの一部をMFR測定用の試料として用い、残りを再度二軸押出機(ZSK-26、Coperion製)の中で230~325℃の温度で混合し、ストランドとして排出し、再度ペレット化した。続いて、同様の作業を繰返し実施し、混練1回目、混練2回目(すなわち、2回の加熱熱履歴を有する。以下同様)、混練3回目、混練4回目の計4サンプルを作成した。
【0029】
上記の通り作製した4サンプルのペレットについて、それぞれ、メルトインデクサ―(TP-401、テスター産業(株)製)を使用して、JIS K 7210-1995に準拠(測定条件は温度300℃、荷重1.20kg、滞留時間6分の2条件)してメルトフローレート(流動性を表し、以下、MFRと記す。)を測定した。MFRの数値が高いほど樹脂の流動性に優れることを表す。結果を表2に示した。
【0030】
比較例3
難燃剤として上記のエポキシ系難燃剤(B-2)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行って流動性を評価した。結果を表2に示した。
【0031】
比較例4
難燃剤(B-2)、三酸化アンチモン(D)、及びテトラフルオロエチレン(E)を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って難燃性を評価した。結果を表1に示した。
【0032】
【0033】
表1から、本発明のポリアミド樹脂組成物は、臭素化ポリスチレンを用いたポリアミド樹脂組成物に比べて、高い難燃性を示すことが分かった。また、本発明のポリアミド樹脂組成物については、複数回の混練した場合でも、高い難燃性を維持することが可能であることが分かる。
表2から、本発明のポリアミド樹脂組成物は、臭素化ポリスチレンを用いたポリアミド樹脂組成物に比べ、複数回の混練した場合でも、各温度におけるMFR値の変化率が小さいことが分かる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃剤を添加していない樹脂組成物と同程度のMFR値の変化率であり、難燃剤成分の添加による樹脂組成物の物性低下がより小さいといえる。即ち、本発明のポリアミド樹脂組成物は、高温条件下で、流動度の変化が小さい組成物となることが分かる。