(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】窒化物結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20221124BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20221124BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2019032386
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2018142906
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
(72)【発明者】
【氏名】今野 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070405(JP,A)
【文献】特表2015-531739(JP,A)
【文献】特開2007-277077(JP,A)
【文献】特開2011-068984(JP,A)
【文献】特開2007-153664(JP,A)
【文献】特開2011-026181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 - 35/00
C23C 16/00 - 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In
xAl
yGa
1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶であって、
前記結晶中のBの濃度が1×10
15at/cm
3未満であり、
前記結晶中のOおよびCの各濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、いずれも1×10
15at/cm
3未満である窒化物結晶。
【請求項2】
前記結晶中のSiおよびFeの各濃度がいずれも1×10
15at/cm
3未満である請求項1に記載の窒化物結晶。
【請求項3】
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
6Ωcm以上である請求項2に記載の窒化物結晶。
【請求項4】
前記結晶中のSi濃度が1×10
15at/cm
3未満であり、Fe濃度が1×10
16at/cm
3以上である請求項1に記載の窒化物結晶。
【請求項5】
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
7Ωcm以上である請求項4に記載の窒化物結晶。
【請求項6】
前記結晶中のFe濃度が1×10
15at/cm
3未満であり、SiまたはGeあるいはそれらの合計濃度が1×10
15at/cm
3以上である請求項1に記載の窒化物結晶。
【請求項7】
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
2Ωcm以下である請求項6に記載の窒化物結晶。
【請求項8】
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
2Ωcm以下である請求項2に記載の窒化物結晶。
【請求項9】
前記結晶中のMg濃度が1×10
17at/cm
3以上である請求項6に記載の窒化物結晶。
【請求項10】
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
2Ωcm以下である請求項9に記載の窒化物結晶。
【請求項11】
前記結晶中のOおよびCの各濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、いずれも5×10
14at/cm
3未満である請求項1~10のいずれか1項に記載の窒化物結晶。
【請求項12】
前記結晶中のO濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において5×10
14at/cm
3未満であり、
前記結晶中のC濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において1×10
14at/cm
3未満である請求項1~10のいずれか1項に記載の窒化物結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子や高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する際、例えば窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物の結晶が用いられる場合がある(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-104693号公報
【文献】特開2007-153664号公報
【文献】特開2005-39248号公報
【文献】特開2018-070405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述の結晶の品質を高め、この結晶を用いて作製される半導体デバイスの性能を向上させ、製造歩留まりを良好にすることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶であって、
前記結晶中のBの濃度が1×1015at/cm3未満であり、
前記結晶中のOおよびCの各濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、いずれも1×1015at/cm3未満である窒化物結晶が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、III族窒化物の結晶の品質を高め、この結晶を用いて作製される半導体デバイスの性能を向上させ、製造歩留まりを良好にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)はGaN基板10の平面図を、(b)はGaN基板10の側面図を示す図である。
【
図2】気相成長装置200の概略構成図であり、反応容器203内で結晶成長ステップを実行中の様子を示している。
【
図3】気相成長装置200の概略構成図であり、反応容器203の炉口221を開放させた状態を示している。
【
図4】(a)は種結晶基板20上にGaN結晶膜21を厚く成長させた様子を示す図であり、(b)は厚く成長させたGaN結晶膜21をスライスすることで複数のGaN基板10を取得する様子を示す図である。
【
図5】GaN結晶の電気抵抗率の評価結果を示す図である。
【
図6】(a)は高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを不実施とした場合におけるGaN結晶中の酸素濃度の主面内分布の評価結果を示す図であり、(b)は高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを不実施とした場合におけるGaN結晶中の炭素濃度の主面内分布の評価結果を示す図である。
【
図7】(a)は高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを実施した場合におけるGaN結晶中の酸素濃度の主面内分布の評価結果を示す図であり、(b)は高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを実施とした場合におけるGaN結晶中の炭素濃度の主面内分布の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<発明者が得た知見>
本願発明者は、先に特願2016-210939号を出願している。そして、その公開公報である特許文献4において、InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶であって、結晶に含まれるシリコン(Si)、ボロン(B)および鉄(Fe)の各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、また、酸素(O)および炭素(C)の各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満であるような、極めて純度の高いIII族窒化物結晶、および、その製造方法をそれぞれ開示している。
【0009】
Si、B、Fe、OおよびCのいずれもが極めて低濃度であるというこの高純度結晶は、特許文献1~3に代表される先行技術文献には開示されていない新規な結晶であるといえる。また、この高純度結晶は、特許文献1~3に開示されている結晶成長の手法、すなわち、原料ガスやキャリアガスとして純度の高いガスを用いる手法や、AlN等の物質により結晶成長炉の内壁をコーティングする手法を単に組み合わせることによっては実現困難であることが、発明者の研究によって分かっている。発明者の研究によれば、上述の高純度結晶は、結晶成長前の炉内において、少なくとも特許文献4に開示した高温ベークステップを実施し、かつ、各種の処理条件を最適化することによって、初めて実現できるものであることが分かっている。
【0010】
上述の高純度結晶の不純物濃度は、出願当時の代表的な不純物分析技術であるSIMS(二次イオン質量分析法)では検出困難なほどに低濃度ではあるが、本願発明者は、この結晶についての更なる改良の余地を模索すべく、ラスター変化法を用いた高感度SIMS測定をこの結晶に対して行った。測定の結果、発明者は、高温ベークステップを実施することによって不純物濃度を上述の通り低減させることは可能であるものの、処理条件によっては、O濃度が例えば4.5×1015at/cm3に達したり、C濃度が例えば3.5×1015at/cm3に達したりする場合があることを把握するに至った。また、OおよびCの各濃度の低減効果が、例えば、基板の主面の中心付近のみにおいて得られる限定的なものとなる傾向を把握するに至った。
【0011】
そして本願発明者は、結晶中に取り込まれるOやCのさらなる低減を新規課題とし、その解決手法について鋭意検討を行った。その結果、高温ベークステップの処理雰囲気中に酸素(O2)ガス等の酸化剤をごく僅かに添加する酸化シーケンスと、処理雰囲気中に塩化水素(HCl)ガス等のエッチングガスを所定量添加するエッチングシーケンスと、を交互に繰り返し実施することによって、結晶中に取り込まれるOやCをさらに低減させることが可能となるという新たな作用効果を発見した。
【0012】
また本願発明者は、鋭意研究の結果、高温ベークステップにおいて上述の手法を用いることにより、OおよびCの各濃度を低減させる上述の効果を、結晶の主面の60%以上という広い領域で得られるようになるという新たな作用効果を発見した。具体的には、GaN基板のもととなるGaN結晶を成長させる前に、結晶成長炉(反応容器)の内部で、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返し実施する高温ベークステップを後述する所定の条件下で行うことにより、GaN結晶中のOおよびCの各濃度を、GaN結晶の主面の60%以上の領域においていずれも1×1015at/cm3未満とすることが可能となることを発見した。なお、後述するように、上述の高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを不実施とする場合、OおよびCの各濃度を低減させる上述の効果は、結晶の主面の中心付近のみにおいて得られる限定的なものとなる。
【0013】
また本願発明者は、鋭意研究の結果、GaN結晶中の不純物濃度を上述のように低減させることにより、その硬さ(硬度)を、従来のGaN結晶では得られないほどの大きな硬さとすることが可能になる、との知見を得るにも至った。
【0014】
また本願発明者は、鋭意研究の結果、高温ベークステップにおいて上述の手法を用いることにより、GaN基板の硬度を高める上述の効果を、結晶の主面の60%以上という広い領域で得られるようになるという新たな作用効果を発見した。具体的には、GaN基板のもととなるGaN結晶を成長させる際、反応容器の内部で、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返し実施する高温ベークステップを後述する所定の条件下で行うことにより、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定される硬さを、GaN結晶の主面の60%以上の領域において、22.0GPaを超える硬さとすることが可能となることを発見した。
【0015】
ここで本明細書において「結晶の硬さが大きい」とは、「結晶が塑性変形し難い」ことを意味している。GaN結晶のインゴットを加工して基板を作製する際、結晶の内部には、元から存在している残留応力に加え、スライサーや研磨定盤等の加工冶具から加わる力に基づく応力が新たに発生することになる。これらが合成されてなる応力に対して結晶の硬さが小さいと、結晶内に元から存在していた転位に滑り運動が生じたり、結晶内に新たな転位が発生したり、増殖した転位にさらなる滑り運動が生じたりしやすくなる。これらの結果、結晶が塑性変形してしまい、それがさらに進展することで、結晶に微細な亀裂(クラック)が入ったり、結晶が割れたりしやすくなる。このような課題は、基板の作製時だけでなく、基板を元に半導体デバイスを作製する際、例えば、ダイシング加工を行う際にも同様に生じ得る。
【0016】
本願の結晶は、従来のGaN結晶では得られないほどの大きな硬さを有することから、上述の課題が生じにくいという優れた利点を有する。なお、結晶の硬さは、ビッカース試験やナノインデンテーション法等の公知の手法を用いて測定することが可能である。とりわけ、先端径の小さな圧子を用いるナノインデンテーション法は、硬さに関して安定した測定結果を得られる点で有利である。
【0017】
以下に態様を例示する本願の結晶は、発明者が得たこれらの知見に基づいて初めてなされたものである。
【0018】
<本発明の第1実施形態>
(1)GaN基板の構成
本実施形態における結晶は、一例として、GaNの単結晶(以下、GaN結晶、或いは、GaN単結晶とも称する)からなる平板状(円板状)の基板(ウエハ)10として構成されている。
図1(a)、
図1(b)に基板10の平面図、側面図をそれぞれ示す。基板10は、例えば、レーザダイオード、LED、高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する際に好適に用いられるが、直径Dが25mm未満となると半導体デバイスの生産性が低下しやすくなることから、それ以上の直径、例えば2インチ(5.08cm)以上の直径とするのが好ましい。また、厚さTが250μm未満となると基板10の機械的強度が低下し、この基板を用いたデバイス構造の結晶成長時や、その後のデバイスプロセス中に割れやすくなる等、自立状態の維持が困難となることから、それ以上の厚さとするのが好ましい。但し、ここに示した寸法はあくまで一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0019】
基板10は、例えば、GaN単結晶からなる種結晶基板上に、ハイドライド気相成長法(以下、HVPE法)を用いてGaN単結晶をエピタキシャル成長させ、この厚く成長させた結晶インゴットをスライスして自立化させる工程を経ることにより取得することができる。あるいは、特許文献2に記載のような異種基板上のGaN層を下地層として用い、ナノマスク等を介してGaN層を厚く成長したものを異種基板から剥離し、異種基板側のファセット成長した結晶を除去することで基板10を取得しても良い。
【0020】
本実施形態における基板10は、比較的高い絶縁性、すなわち、比較的大きな電気抵抗率を有する半絶縁性基板として構成されている。基板10を構成するGaN結晶の電気抵抗率は、例えば20℃以上300℃以下の温度条件下において、1×106Ωcm以上の大きさを維持するようになっており、また、300℃を超え400℃以下の温度条件下において、1×105Ωcm以上の大きさを維持するようになっている。GaN結晶の電気抵抗率の上限については特に制限はないが、1×1010Ωcm程度の大きさが例示される。本実施形態のGaN結晶がこのような大きな電気抵抗率を有するのは、結晶中に含まれる各種不純物の濃度が極めて小さいこと、具体的には、結晶に含まれるシリコン(Si)、ボロン(B)、鉄(Fe)、酸素(O)および炭素(C)の各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満となっていることによる。なお、これらの不純物濃度は、いずれも、現在利用されている代表的なSIMS分析の測定限界(検出下限値)を下回るものである。また、OやCの濃度は、高感度で知られるラスター変化法を用いたSIMS分析を行っても具体的に把握することが困難なほどである。なお、ラスター変化法とは、SIMSによる深さプロファイル分析の途中でラスタースキャンの面積を変える等し、試料中に含まれる元素とSIMS装置由来のバックグランドレベルとの区別を行い、試料に含まれる元素濃度の正味量を正確に求める手法である。
【0021】
また、上述したGaN結晶中のOおよびCの各濃度は、結晶の主面、すなわち、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては70%以上の領域において、1×1015at/cm3未満となっている。なお、結晶中のOおよびCの各濃度は、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては70%以上の領域において、いずれも5×1014at/cm3未満となる場合がある。また、結晶中のC濃度は、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては70%以上の領域において、1×1014at/cm3未満となる場合もある。
【0022】
なお、基板10を構成するGaN結晶の硬さは、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定すると、22GPaを超えている。この硬さは、従来のGaN結晶では得られないほどの大きな硬さであり、結晶中の不純物濃度が極めて低いことによって、具体的には、B、Fe、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であることによって得られたものと考えられる。なお本明細書におけるナノインデーテーション法による硬さ測定は、W. C. Oliver and G. M. Pharr, J. Mater. Res. 7, 1564 (1992)に記載の方法を用いて行った。
【0023】
また、基板10を構成するGaN結晶の硬さは、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定すると、結晶の主面、すなわち、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては70%以上の領域において、22.0GPaを超えている。なお、上述の硬さは、基板10の主面の60%以上の領域において22.5GPaを超える場合もあり、さらには、23.2Gpaを超える場合もある。ここで述べた硬さの面内分布は、上述したように、OおよびCの各濃度の低減効果が、基板10の主面の60%以上の領域にわたって広く得られていることによるものと考えられる。
【0024】
なお、本実施形態のGaN結晶は、後述するようにHVPE法を用いて成長させたものであり、ナトリウム(Na)やリチウム(Li)等のアルカリ金属をフラックスとして用いるフラックス法を用いて成長させたものではない。そのため、本実施形態のGaN結晶は、NaやLi等のアルカリ金属元素を実質的に含んでいない。発明者は、Si,B,Fe,O,C以外の不純物元素に関してもSIMS測定(深さ方向分析)を行っているが、本実施形態のGaN結晶中には、ヒ素(As)、塩素(Cl)、リン(P)、フッ素(F)、Na、Li、カリウム(K)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびニッケル(Ni)のうち、いずれの元素も検出されていないこと、すなわち、これらの不純物元素の濃度は検出下限値未満であることを付記しておく。なお、SIMS測定における各元素の現在の検出下限値は、以下の通りである。
【0025】
As:5×1012at/cm3、Cl:1×1014at/cm3、P:2×1015at/cm3、F:4×1013at/cm3、Na:5×1011at/cm3、Li:5×1011at/cm3、K:2×1012at/cm3、Sn:1×1013at/cm3、Ti:1×1012at/cm3、Mn:5×1012at/cm3、Cr:7×1013at/cm3、Mo:1×1015at/cm3、W:3×1016at/cm3、Ni:1×1014at/cm3。
【0026】
上述したような極めて低い不純物濃度は、従来の結晶成長手法、例えば、上述の文献1~3に開示されているような手法によっては実現困難であることが、発明者の鋭意研究により分かっている。
【0027】
文献1には、GaN結晶中へのOおよびSiの混入抑制には、原料ガスやキャリアガスとしてOおよびSiを含むガス用いず、また、結晶成長容器内の内壁をOおよびSiのいずれをも含まない材料で被覆する方法があることが開示されている。また、GaN結晶中へのCの抑制には、炉内部材として炭素製の部材を用いず、また、原料ガスやキャリアガスとしてCを含有するガスを用いない方法があることが開示されている。
【0028】
また文献2には、HVPE法において原料ガスやキャリアガスをGa融液に長時間接触させてガス中の不純物をGa融液に捕獲させること、種結晶基板上に不純物の捕獲効果を有する微細孔が多数形成された金属ナノマスクを予め形成すること、不純物を取り込みやすいファセット面での成長期間を短縮して不純物の取り込みが行われにくい面での成長へ早期移行すること、という手法を組み合わせることで、GaN結晶中の不純物濃度を低減させることが可能である旨が開示されている。
【0029】
また文献3には、原料ガスやキャリアガスとして純度の高いガスを用いる方法や、炉内の部材表面をAlN等でコーティングする手法が開示されており、炉内の部材表面をコーティングすれば、GaN結晶中へのSiやOの取り込みを低減できる旨が開示されている。
【0030】
しかしながら、これらの文献は、Si、B、Fe、OおよびCのいずれもが極めて低濃度であるという上述の高純度結晶を実現するものではない。後述する実施例で説明するサンプル8,12,17と他のサンプルとを比較すると分かるように、これらの文献に開示されている結晶手法を単純に組み合わせただけでは、Si、B、Fe、OおよびCのいずれもが極めて低濃度であるという高純度結晶を実現することは困難である。これらのサンプルを比較すると、結晶に含まれるSi、BおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、また、OおよびCの各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満であるような高純度結晶を実現するには、少なくとも、結晶成長ステップの前に、炉内において高温ベークステップを実施し、かつ、その処理条件を適正に選択することが必要であることが分かる。
【0031】
加えて、本願発明の結晶のように、Si、B、Feだけでなく、OおよびCの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満とするには、また、OおよびCの各濃度の低減効果を、結晶の主面の60%以上の領域において広く得るには、上述の文献4に開示されているような上述の高温ベークステップでは足りず、この手法に対して、更なる改良を加える必要がある。具体的には、高温ベークステップにおいて、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを、所定の条件下で、交互に繰り返し行う必要がある。以下に、その処理手順および処理条件について詳しく説明する。
【0032】
(2)GaN基板の製造方法
以下、本実施形態における基板10の製造方法について、具体的に説明する。
【0033】
まず、GaN結晶の成長に用いるHVPE装置200の構成について、
図2を参照しながら詳しく説明する。HVPE装置200は、例えば円筒状に構成された反応容器203を備えている。反応容器203は、その外側の大気や後述のグローブボックス220内の気体が内部に入り込まないよう、密閉構造となっている。反応容器203の内部には、結晶成長が行われる反応室201が形成されている。反応室201内には、GaN単結晶からなる種結晶基板20を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。また、サセプタ208は、内部ヒータ210を内包している。内部ヒータ210の温度は、後述のゾーンヒータ207とは別個に制御可能なように構成されている。さらに、サセプタ208は、その上流側および周囲が遮熱壁211により覆われている。遮熱壁211が設けられることにより、後述のノズル249a~249cから供給されるガス以外のガスが、種結晶基板20に供給されなくなる。
【0034】
反応容器203は、円筒状に形成されたSUS等からなる金属フランジ219を介して、グローブボックス220に接続されている。グローブボックス220も、その内部に大気が混入しないように気密構造となっている。グローブボックス220の内部に設けられた交換室202は、高純度窒素(以下、単にN
2ガスとも称する)により連続的にパージされており、酸素および水分濃度が低い値となるように維持されている。グローブボックス220は、透明なアクリル製の壁と、この壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックスは、真空引き機構とN
2パージ機構とを備えており、その内部の大気をN
2ガスにより置換することで、グローブボックス220内に酸素を含む大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となるように構成されている。反応容器203から結晶基板を出し入れする際には、
図3に示すように、金属フランジ219の開口部、すなわち、炉口221を開放して行う。これにより、後述の高温ベークステップを行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の表面が再度汚染されてしまうことや、これらの部材の表面に大気や上述した各種不純物を含むガスが付着してしまうことを防止することができる。ここでいう不純物には、大気に由来するO
2、水分(H
2O)等や、人体等に由来するC、O、水素(H)を含む有機物、Na、K等や、結晶成長工程やデバイス製造工程等で用いられるガス等に由来するAs、Cl、P、F等や、炉内の金属部材等に由来するFe、Sn、Ti、Mn、Cr、Mo、W、Ni等のうち、少なくともいずれかを含んでいる。
【0035】
反応容器203の一端には、後述するガス生成器233a内へHClガスを供給するガス供給管232a、反応室201内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232b、反応室201内へ高温ベークおよび通常ベーク用のHClガスを供給するガス供給管232c、および、反応室201内へ窒素(N2)ガスを供給するガス供給管232dがそれぞれ接続されている。なお、ガス供給管232a~232cは、HClガスやNH3ガスに加えて、キャリアガスとしての水素(H2)ガスおよびN2ガスを供給可能なようにも構成されている。また、ガス供給管232a~232cは、これらのガスに加えて、微量の酸素(O2)ガスを供給可能なようにも構成されている。ガス供給管232a~232cは、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を、これらガスの種別毎にそれぞれ備えており、各種ガスの流量制御や供給開始/停止を、ガス種別毎に個別に行えるように構成されている。また、ガス供給管232dも、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を備えている。ガス供給管232dから供給されるN2ガスは、反応室201内における遮熱壁211の上流側および周囲をパージすることで、これらの部分の雰囲気の清浄度を維持するために用いられる。
【0036】
ガス供給管232cから供給されるHClガス、および、ガス供給管232a~232cから供給されるH2ガスは、後述する高温ベークステップのエッチングシーケンスおよび通常ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の部材の表面を清浄化させるクリーニングガスとして、また、これらの表面を不純物の放出確率が少ない面へと改質する改質ガスとして作用する。また、ガス供給管232a~232cから供給される微量のO2ガスは、後述する高温ベークステップの酸化シーケンスにおいて、上述の清浄化や改質のそれぞれを促進させるガスとして作用する。この促進の理由は定かではないが、後述する高温ベーク処理の雰囲気中に微量のO2ガスを添加することで、炉内部品に付着した有機物がH2OやCO2等の揮発成分となって取れやすくなること等によるもの、と推察される。なお、ガス供給管232a~232cから供給されるN2ガスは、各ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の所望の個所が適正にクリーニング等されるよう、ノズル249a~249cの先端から噴出するHClガス、H2ガス、O2ガスの吹き出し流速を適切に調整するように作用する。
【0037】
ガス供給管232aから導入されるHClガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、Ga原料と反応することでGaのハロゲン化物であるGaClガス、すなわち、Ga原料ガスを生成する反応ガスとして作用する。また、ガス供給管232bから供給されるNH3ガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、GaClガスと反応することでGaの窒化物であるGaNを種結晶基板20上に成長させる窒化剤、すなわち、N原料ガスとして作用する。以下、GaClガス、NH3ガスを原料ガスと総称する場合もある。なお、ガス供給管232a~232cから供給されるH2ガスやN2ガスは、後述する結晶成長ステップにおいて、ノズル249a~249cの先端から噴出する原料ガスの吹き出し流速を適切に調整し、原料ガスを種結晶基板20に向わせるように作用する。
【0038】
ガス供給管232aの下流側には、上述したように、Ga原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成されたGaClガスを、サセプタ208上に保持された種結晶基板20の主面に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスを、サセプタ208上に保持された種結晶基板20の主面に向けて供給するノズル249b,249cが設けられている。ノズル249a~249cは、それぞれ、遮熱壁211の上流側を貫通するように構成されている。
【0039】
なお、ガス供給管232cは、HClガス、H2ガス、N2ガスの他、ドーパントガスとして、例えば、フェロセン(Fe(C5H5)2、略称:Cp2Fe)ガスや三塩化鉄(FeCl3)等のFe含有ガスや、シラン(SiH4)ガスやジクロロシラン(SiH2Cl2)等のSi含有ガスや、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Mg(C5H5)2、略称:Cp2Mg)ガス等のMg含有ガスを供給することが可能なようにも構成されている。
【0040】
反応容器203の他端に設けられた金属フランジ219には、反応室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、圧力調整器としてのAPCバルブ244、および、ポンプ231が、上流側から順に設けられている。なお、APCバルブ244およびポンプ231に代えて、圧力調整機構を含むブロアを用いることも可能である。
【0041】
反応容器203の外周には、反応室201内を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が設けられている。ゾーンヒータ207は、上流側のガス生成器233aを含む部分と、下流側のサセプタ208を含む部分の、少なくとも2つのヒータからなっており、各ヒータはそれぞれが個別に室温~1200℃の範囲での温度調整ができるよう、それぞれが温度センサと温度調整器と(いずれも図示しない)を有している。
【0042】
種結晶基板20を保持するサセプタ208は、上述したように、ゾーンヒータ207とは別に、少なくとも室温~1600℃の範囲での温度調整ができるよう、内部ヒータ210、温度センサ209および温度調整器(図示しない)をそれぞれ備えている。また、サセプタ208の上流側および周囲は、上述したように、遮熱壁211により囲われている。遮熱壁211のうち、少なくともサセプタ208に向いた面の表面(内周面)は、後述するように、不純物を発生しない限定した部材を用いる必要があるが、それ以外の面(外周面)に関しては、1600℃以上の温度に耐える部材であれば、使用する部材に関する限定はなない。断熱壁211のうち、少なくとも内周面を除いた部分は、例えば、カーボンや炭化珪素(SiC)、炭化タンタル(TaC)等の耐熱性の高い非金属材料や、MoやW等の耐熱性の高い金属材料から構成することができ、また、板状のリフレクタを積層した構造とすることができる。このような構成を用いることで、サセプタ208の温度を1600℃とした場合においても、遮熱壁211の外部の温度を1200℃以下に抑制することができる。この温度は石英の軟化点以下であるため、本構成においては、反応容器203、ガス生成器233a、ガス供給管232a~232dの上流側の部分を構成する各部材として、石英を用いることが可能となる。
【0043】
反応室201内において、後述する結晶成長ステップを実施する際に900℃以上に加熱される領域であって、種結晶基板20へ供給されるガスが接触する可能性がある領域(高温反応領域)201aを構成する部材の表面は、少なくとも1600℃以上の耐熱性を有し、また、石英(SiO2)およびBをそれぞれ含まない材料により構成されている。具体的には、遮熱壁211のサセプタ208よりも上流側の内壁、ノズル249a~249cに関しては遮熱壁211の内側に貫通した部分、および、遮熱壁211の外側の部分に関しても結晶成長ステップ実施の際に900℃以上に加熱される部分、サセプタ208の表面等は、アルミナ(Al2O3)、SiC、グラファイト、TaC、パイロリティックグラファイト等の耐熱性材料により構成されている。なお、領域201aには含まれないが、内部ヒータ210周囲の部分も、少なくとも1600℃以上の耐熱性が要求されることは言うまでもない。領域201a等を構成する部材にこのような高い耐熱性が要求されるのは、後述するように、結晶成長ステップの実施前に高温ベークステップを実施するためである。
【0044】
HVPE装置200が備える各部材、例えば、ガス供給管232a~232dが備える各種バルブや流量制御器、ポンプ231、APCバルブ244、ゾーンヒータ207、内部ヒータ210、温度センサ209等は、コンピュータとして構成されたコントローラ280にそれぞれ接続されている。
【0045】
続いて、上述のHVPE装置200を用い、種結晶基板20上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させる処理の一例について、
図2を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0046】
(高温ベークステップ)
本ステップは、HVPE装置200のメンテナンスやガス生成器233a内へのGa原料の投入等を行うことで、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。本ステップを行う前に、反応室201および交換室の202の気密が確保されていることを確認する。気密が確認された後、反応室201内および交換室202内をN2ガスでそれぞれ置換してから、反応容器203内を所定の雰囲気とした状態で、反応室201を構成する各種部材の表面を加熱処理する。この処理は、反応容器203内への種結晶基板20の搬入を行っていない状態で、また、ガス生成器233a内へのGa原料の投入を行っている状態で実施する。
【0047】
本ステップでは、ゾーンヒータ207の温度を結晶成長ステップと同程度の温度に調整する。具体的には、ガス生成器233aを含む上流側のヒータの温度は700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータの温度は1000~1200℃の温度に設定する。更に、内部ヒータ210の温度は1500℃以上の所定の温度に設定する。後述するように、結晶成長プロセスでは内部ヒータ210はオフであるか1200℃以下の温度に設定するため、高温反応領域201aの温度は900℃以上1200℃未満となる。一方、高温ベークステップにおいては、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、高温反応領域201aの温度が1000~1500℃以上となり、種結晶基板20が載置されるサセプタ208の近傍が1500℃以上の高温になるとともに、それ以外の位置に関しても、それぞれの位置において、結晶成長ステップ中の温度よりも少なくとも100℃以上高くなる。高温反応領域201aの中で、結晶成長ステップの実施中において、温度が最も低い900℃となる部位、具体的には、遮熱壁211の内側におけるノズル249a~249cの上流側の部位は、付着している不純物ガスが最も除去されにくい部分である。この部分の温度が少なくとも1000℃以上の温度となるように、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、成長させるGaN結晶における不純物の低減効果が充分得られるようになるのである。内部ヒータ210の温度を1500℃未満の温度とした場合、高温反応領域201a内のいずれかの点における温度を充分に高めることができず、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、GaN結晶における不純物の低減効果が得られにくくなる。
【0048】
このステップにおける内部ヒータ210の温度の上限は、遮熱壁211の能力に依存する。遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えない範囲に抑制できる限りにおいては、内部ヒータ210の温度を高くすればするほど、反応室201内の清浄化および改質処理の効果が得られやすくなる。遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えてしまった場合には、HVPE装置200のメンテナンス頻度やコストが増加する場合がある。
【0049】
また、本ステップでは、ゾーンヒータ207および内部ヒータ210の温度がそれぞれ上述した所定の温度に到達した後、ガス供給管232a,232bのそれぞれから、例えば3~5slm程度の流量でH2ガスを供給する。また、ガス供給管232cから、例えば3~5slm程度の流量でN2ガスを供給するとともに、例えば0.005~0.25slm程度の流量のO2ガスを供給するシーケンス(酸化シーケンス)と、例えば0.3~4slm程度の流量でHClガスを供給するとともに、例えば1~5slm程度の流量でH2ガスを供給するシーケンス(エッチングシーケンス)と、を交互に繰り返す。また、ガス供給管232dから、例えば10slm程度の流量でN2ガスを供給する。エッチングシーケンスおよび酸化シーケンスの実施時間は、それぞれ、1分から15分程度の長さとするのが好ましい。本ステップでは、これらのシーケンスを交互に行うサイクルを所定回数繰り返しながら、反応室201内のベーキングを実施する。サイクルを繰り返す際、最後に実施するシーケンスはエッチングシーケンスとするのが好ましい。なお、H2ガス、HClガス、O2ガスの供給を上述のタイミングで、すなわち、反応室201内を昇温してから開始することにより、後述する清浄化や改質処理に寄与することなく無駄に流れるだけとなってしまうガスの量を削減し、結晶成長の処理コストを低減させることが可能となる。
【0050】
また、本ステップは、ポンプ231を作動させた状態で行い、その際、APCバルブ244の開度を調整することで、反応容器203内の圧力を、例えば0.5気圧以上2気圧以下の圧力に維持する。本ステップを、反応容器203内の排気中に行うことで、反応容器203内からの不純物の除去、すなわち、反応容器203内の清浄化を効率的に行うことが可能となる。なお、反応容器203内の圧力が0.5気圧未満となると、後述する清浄化および改質処理の効果が得られにくくなる。また、反応容器203内の圧力が2気圧を超えると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。
【0051】
また、本ステップのエッチングシーケンスでは、反応容器203内におけるHClガスのH2ガスに対する分圧比率(HClの分圧/H2の分圧)を、例えば1/50~1/2の大きさに設定する。この分圧比率が1/50より小さくなると、反応容器203内における清浄化および改質処理の効果がそれぞれ得られにくくなる。また、上述の分圧比率が1/2より大きくなると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。
【0052】
また、本ステップの酸化シーケンスでは、反応容器203内におけるO2ガスのH2ガス、N2ガスに対する分圧比率(O2の分圧/H2+N2の合計分圧)を、例えば1/103~50/103の大きさに設定する。すなわち、反応容器203内へ供給するO2ガスの流量を、反応容器203内へ供給する他のガス(H2ガス、N2ガス)の合計流量の0.1~5%の範囲内の大きさとする。この分圧比率が1/103より小さくなると、反応容器203内における清浄化の促進効果および改質処理の促進効果のそれぞれが得られにくくなる。また、上述の分圧比率が50/103より大きくなると、後述する結晶成長ステップにおいて反応容器203内に残留するO成分が増加する等し、種結晶基板20上に成長させるGaN結晶のO濃度が増加する場合がある。
【0053】
なお、これらの分圧制御は、ガス供給管232a~232cに設けられた流量制御器の流量調整により行うことができる。
【0054】
本ステップにおいて、酸化およびエッチングシーケンスの実施時間をそれぞれ1分とする場合、これらを交互に行うサイクルを例えば20回以上行う。または、酸化およびエッチングシーケンスの実施時間をそれぞれ15分とする場合、これらを交互に行うサイクルを例えば2回以上実施する。それらの結果、反応室201のうち、少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化し、これらの表面に付着していた異物を除去することができる。そして、これら部材の表面を、後述する結晶成長ステップにおける温度よりも100℃以上高温に保つことで、これらの表面からの不純物ガスの放出を促進し、結晶成長ステップにおける温度、圧力条件下において、Si、B、Fe、OおよびC等の不純物の放出が生じにくい面(アウトガスが発生しにくい面)へと改質することが可能となる。なお、本ステップでは、酸化およびエッチングの各シーケンスの実施時間の合計を、30分以上とするのが好ましく、60分以上とするのがより好ましく、120分以上とするのがさらに好ましい。また、サイクルの繰り返し回数は、2回以上とするのが好ましく、4回以上とするのがより好ましく、8回以上とするのがさらに好ましい。各シーケンスの実施時間が合計30分未満となる場合や、サイクルの繰り返し回数数が2回未満となる場合には、ここで述べた清浄化および改質処理の効果が不充分となる場合がある。また、本ステップの実施時間の合計が300分を超えると、高温反応領域201aを構成する部材のダメージが過剰となる。
【0055】
なお、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、反応容器203内へのNH3ガスの供給は不実施とする。本ステップにおいて反応容器203内へNH3ガスを供給すると、上述の清浄化および改質処理の効果、特に改質処理の効果が得られにくくなる。
【0056】
また、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、HClガスの代わりに塩素(Cl2)ガスを供給するようにしてもよい。この場合においても、上述の清浄化および改質処理の効果がそれぞれ同様に得られるようになる。
【0057】
また、反応容器203内へO2ガスを供給する際は、O2ガスの代わりに水蒸気(H2Oガス)、一酸化炭素(CO)ガス等の酸化剤(O含有ガス)を供給するようにしてもよい。これらの場合においても、上述の清浄化の促進効果および改質処理の促進効果のそれぞれが同様に得られるようになる。
【0058】
また、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、ガス供給管232a~232cからキャリアガスとしてN2ガスを添加してもよい。N2ガスの添加によりノズル249a~249cからのガスの吹き出し流速を調整することで、上述の清浄化および改質処理が不完全な部分が生じるのを防ぐことができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを供給するようにしてもよい。
【0059】
上述の清浄化および改質処理が完了したら、ゾーンヒータ207の出力を低下させ、反応容器203内を例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内への種結晶基板20の搬入等が可能となる温度へと降温させる。また、反応容器203内へのH2ガス、HClガスの供給を停止し、N2ガスでパージする。反応容器203内のパージが完了したら、反応容器203内へのN2ガスの供給を維持しつつ、反応容器203内の圧力が大気圧、或いは、大気圧よりも僅かに高い圧力になるように、APCバルブ244の開度を調整する。
【0060】
(通常ベークステップ)
上述の高温ベークステップは、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。しかしながら、結晶成長ステップを行う際には、通常、その前後を含めて、反応室201内や交換室202内が大気に暴露されることはないので、高温ベークステップは不要となる。但し、結晶成長ステップを行うことで、ノズル249a~249cの表面、サセプタ208の表面、遮熱壁211の内壁等に、GaNの多結晶が付着する。GaNの多結晶が残留した状態で次の結晶成長ステップを実施すると、多結晶から分離する等して飛散したGaN多結晶粉やGa液滴等が種結晶基板20に付着し、良好な結晶成長を阻害する原因となる。このため、結晶成長ステップの後には、上述のGaN多結晶を除去する目的で通常ベークステップを実施する。通常ベークステップの処理手順、処理条件は、内部ヒータ210をオフの状態とし、サセプタ208付近の温度を1000~1200℃の温度とし、高温ベークステップのエッチングシーケンスと同様とし、30~120分程度のベークを行う。通常ベークステップを行うことにより、反応室201内からGaN多結晶を除去することができる。
【0061】
(結晶成長ステップ)
高温ベークステップあるいは通常ベークステップを実施した後、反応容器203内の降温およびパージが完了したら、
図3に示すように、反応容器203の炉口221を開放し、サセプタ208上に種結晶基板20を載置する。炉口221は、大気から隔離されており、N
2ガスで連続的にパージされたグローブボックス220に接続されている。グローブボックス220は、上述したように、透明なアクリル製の壁と、壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックス内部の大気をN
2ガスに置換することで、グローブボックス220内に大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となる。このような機構を用いて種結晶基板20の載置作業を行うことで、高温ベークステップを行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の再汚染や、これら部材への不純物ガスの再付着を防止することができる。なお、サセプタ208上に載置する種結晶基板20の表面、すなわち、ノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)は、例えば、GaN結晶の(0001)面、すなわち、+c面(Ga極性面)となるようにする。
【0062】
反応室201内への種結晶基板20の搬入が完了したら、炉口221を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのH
2ガス、或いは、H
2ガスおよびN
2ガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH
3ガスの供給を開始し、種結晶基板20の表面に対してGaClガスおよびNH
3ガスをそれぞれ供給する。これにより、
図4(a)に断面図を示すように、種結晶基板20の表面上にGaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶膜21が形成される。
【0063】
なお、本ステップでは、種結晶基板20を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種結晶基板20の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNH3ガスの供給を開始するのが好ましい。また、GaN結晶膜21の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0064】
本ステップでは、ゾーンヒータ207の温度は、ガス生成器233aを含む上流側のヒータでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータでは例えば1000~1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208の温度は1000~1200℃の所定の結晶成長温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ210はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000~1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータ210を用いた温度制御を実施しても構わない。
【0065】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
【0066】
また、種結晶基板20の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスを供給する際は、ガス供給管232a~232cのそれぞれから、キャリアガスとしてのN2ガスを添加してもよい。N2ガスを添加してノズル249a~249cから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種結晶基板20の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを供給するようにしてもよい。
【0067】
(搬出ステップ)
種結晶基板20上へ所望の厚さのGaN結晶膜21を成長させたら、反応室201内へNH3ガス、N2ガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、反応室201内へのHClガス、H2ガスの供給、ゾーンヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNH3ガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(表面にGaN結晶膜21が形成された種結晶基板20)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から、グローブボックス220およびパスボックスを介して、搬出する。
【0068】
(スライスステップ)
その後、搬出した結晶インゴットを例えば成長面に平行にスライスすることにより、
図4(b)に示すように、1枚以上の基板10を得ることができる。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。その後、基板10の表面(+c面)に所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、基板10の裏面(-c面)はラップ面あるいはミラー面とする。
【0069】
なお、上述の高温ベークステップ、通常ベークステップ、結晶成長ステップおよび搬出ステップの実行順序は、次の通り実施するのが好ましい。すなわち、nを1以上の整数とした場合、例えば、反応室201内や交換室202内が大気に暴露→高温ベークステップ→結晶成長ステップ→搬出ステップ→(通常ベークステップ→結晶成長ステップ→搬出ステップ)×nという順序で実施するのが好ましい。
【0070】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0071】
(a)結晶成長ステップを実施する前に、上述の処理条件下で、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返しながら高温ベークステップを実施することで、本実施形態で得られるGaN結晶中のSi、B、Fe、OおよびCの各濃度は、いずれも、1×1015at/cm3未満という極めて小さな値となる。
【0072】
なお、Si、BおよびFeの不純物濃度は、実際の各不純物の濃度の測定値ではなく、代表的な不純物分析技術であるSIMS測定における、現在の検出下限値を示したものである。すなわち、各不純物の実際の濃度を、現在の技術では検出することができないほど低くすることができたということである。
【0073】
また、ラスター変化法によるO濃度の検出下限は5×1014at/cm3であり、C濃度の検出下限は1×1014at/cm3である。発明者は、本実施形態の処理条件を上述の範囲内で適正化させた場合、例えば、酸化およびエッチングの各シーケンスの実施時間を合計60分以上としたり、サイクルの繰り返し回数を4回以上としたりした場合には、GaN結晶中のSi,BおよびFeの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満としつつ、さらに、OおよびCの各濃度をともに5×1014at/cm3未満とすることが可能となることを確認済である。また、発明者は、本実施形態の処理条件を上述の範囲内でさらに適正化させた場合、例えば、酸化およびエッチングの各シーケンスの実施時間を合計120分以上としたり、サイクルの繰り返し回数を8回以上としたりした場合には、GaN結晶中のSi,BおよびFeの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満としつつ、さらに、O濃度を5×1014at/cm3未満とし、C濃度を1×1014at/cm3未満とすることが可能となることを確認済である。
【0074】
本実施形態で得られるGaN結晶は、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶、例えば、文献1~3に開示された手法により得られるGaN結晶に比べ、欠陥密度、転位密度、が大幅に小さくなる等、極めて良好な結晶品質を有することになる。
【0075】
また、本実施形態で得られるGaN結晶は、厚膜成長時やスライス加工の際において、割れ(クラック)が生じにくい結晶となる。これは、従来よりも不純物濃度が低減することにより、GaN結晶の硬さが増し、インゴット成長時の結晶の塑性変形が抑制されたことに起因するものと考えられる。結晶の硬さの測定方法としては、例えば、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法が適切である。
【0076】
本法によりGaN結晶の硬さを調べたところ、結晶がB、Fe、OおよびCのうち少なくともいずれか1種を1×1015at/cm3以上の濃度で含む場合には、結晶の硬さは22GPaを超えることはなく、例えば、19.7GPa~21.8Gpaの範囲内の硬さとなることを確認済である。
【0077】
これに対し、本実施形態のように、GaN結晶中のB、Fe、OおよびCの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満とした場合には、結晶の硬さが22.0GPaを超え、例えば、22.5GPaといった大きな値となることを確認済である。また、GaN結晶中のBおよびFeの濃度をともに1×1015at/cm3未満としつつ、さらに、OおよびCの各濃度をともに5×1014at/cm3未満とした場合には、結晶の硬さが22.5GPaを超え、例えば、23.2GPaといった非常に大きな値となることを確認済である。また、GaN結晶中のBおよびFeの濃度をともに1×1015at/cm3未満としつつ、さらに、O濃度を5×1014at/cm3未満とし、C濃度を1×1014at/cm3未満とした場合には、GaN結晶の硬さが23.2GPaを超え、例えば、25.5GPaといった極めて大きな値となることを確認済である。なお、Siについては、例えば1×1015at/cm3~1×1019at/cm3の濃度範囲で添加したとしても、GaN結晶の硬さに顕著な影響を与えないことを、後述する実験において確認済である。
【0078】
以上のことから、本実施形態のGaN結晶をスライスすることで得られた基板10を用いて半導体デバイスを作製する場合、不純物をより多く含む従来のGaN結晶からなる基板を用いる場合に比べ、不純物の拡散が抑制される効果により、デバイスの特性を向上させたり、寿命を延ばしたりすることが可能となる。さらには、GaN結晶の硬さを増すことにより、インゴットを成長させる際における割れの発生、および、インゴットをスライスする際における割れの発生を、それぞれ抑制することが可能となる。結果として、インゴットおよび基板10の生産を、それぞれ高い歩留まりで実施することが可能となる。
【0079】
(b)結晶成長ステップを実施する前に、上述の処理条件下で、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返しながら高温ベークステップを実施することにより、本実施形態で得られるGaN結晶中のOおよびCの各濃度を、GaN結晶の主面、すなわち、GaN基板の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、それぞれ1×1015at/cm3未満とすることが可能となる。
【0080】
これは、高温ベークステップを上述の手法および上述の条件下で行うことにより、結晶成長ステップの実施中に反応容器203内の部材から発生するアウトガスの量を、著しく低減することができたためと推察される。なお、高温ベークステップにおける処理条件を上述の範囲内で適正に選択することにより、結晶中のOおよびCの各濃度を、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、いずれも5×1014at/cm3未満とすることが可能となる。また、結晶中のC濃度を、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、1×1014at/cm3未満とすることが可能となる。
【0081】
なお、後述するように、高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを不実施とする場合、処理温度を1600℃程度に設定したとしても、OおよびCの各濃度の低減効果は、基板の主面の中心付近のみにおいて得られる限定的なものとなる。すなわち、本実施形態のように、GaN結晶中のOおよびCの各濃度を、GaN結晶の主面の60%以上の領域において、いずれも1×1015at/cm3未満とすることは不可能となる。
【0082】
(c)本実施形態で得られるGaN結晶は、上述したように高純度であることから、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×106Ωcm以上という高い絶縁性を有している。なお、GaN結晶がSiやOといったドナー不純物を多く含む場合、この結晶の絶縁性を高めるには、例えば特表2007-534580号公報に開示されているような、結晶中にMn、Fe、コバルト(Co)、Ni、銅(Cu)等のドナー補償用の不純物(以下、補償用不純物と称する)を添加する手法が知られている。但し、この手法では、補償用不純物の添加によりGaN結晶の品質が劣化し、結晶の硬さが低下するという課題がある。例えば、GaN結晶中に補償用不純物を添加すると、この結晶をスライスすることで得られる基板に割れが発生しやすくなる。また、基板上に形成された積層構造中に補償用不純物が拡散することで、この基板を用いて作製された半導体デバイスの特性が低下しやすくなる。これに対し、本実施形態のGaN結晶では、補償用不純物を添加することなく高い絶縁性を得られることから、従来手法では問題となりやすい結晶性劣化の課題を回避することが可能となる。
【0083】
なお、ここで述べた絶縁性に関する優れた特性は、GaN結晶の主面、すなわち、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、広く得られる。これは、OおよびCの各濃度が、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、いずれも1×1015at/cm3未満となっていることによるもの、と考えられる。
【0084】
(d)本実施形態で得られるGaN結晶の絶縁性は、結晶中への補償用不純物の添加によって得られる絶縁性に比べ、温度依存性が低く、安定したものとなる。というのも、SiやOを例えば1×1017at/cm3以上の濃度で含むGaN結晶に対し、それらの濃度を上回る濃度でFeを添加すれば、本実施形態のGaN結晶に近い絶縁性を付与することは一見可能とも考えられる。しかしながら、補償用不純物として用いられるFeの準位は0.6eV程度と比較的浅いことから、Feの添加により得られた絶縁性は、本実施形態のGaN結晶が有する絶縁性に比べ、温度上昇等に伴って低下しやすいという特性がある。これに対し、本実施形態によれば、補償用不純物の添加を行うことなく絶縁性を実現できることから、従来手法で問題となりやすい温度依存性増加の課題を回避することが可能となる。本実施形態で得られるGaN結晶は、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×106Ωcm以上というだけでなく、300℃を超え400℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×105Ωcm以上という高い絶縁性を有している。
【0085】
なお、ここで述べた温度依存性に関する優れた特性は、GaN結晶の主面、すなわち、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、広く得られる。これは、OおよびCの各濃度が、基板10の主面の60%以上の領域において、場合によっては主面の70%以上の領域において、いずれも1×1015at/cm3未満となっていることによるもの、と考えられる。
【0086】
(e)本実施形態で得られるGaN結晶は、上述したように高純度であることから、Siイオンの打込みによりこの結晶をn型半導体化させたり、Mgイオンの打込みによりこの結晶をp型半導体化させたりする場合、イオンの打込み量を少なく抑えることが可能となる。すなわち、本実施形態のGaN結晶は、イオンの打込みによる結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与することが可能となる点で、Fe等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、本実施形態のGaN結晶は、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて小さいことから、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点でも、不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。
【0087】
(f)反応室201内において、少なくとも上述の高温反応領域201aを構成する部材を、例えば、SiC、グラファイト等のO非含有の耐熱性材料により構成した場合、種結晶基板20上に成長させるGaN結晶中のO濃度をさらに低減させることが可能となる。これにより、GaN結晶の品質をさらに向上させ、また、絶縁性をさらに向上させることが可能となる。
【0088】
(g)反応室201内において、少なくとも上述の高温反応領域201aを構成する部材を、例えば、アルミナ等のC非含有の耐熱性材料により構成した場合、種結晶基板20上に成長させるGaN結晶中のC濃度をさらに低減させることが可能となる。これにより、GaN結晶の品質をさらに向上させることが可能となる。
【0089】
<本発明の第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0090】
本実施形態におけるGaN結晶は、結晶中のSi、B、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満である点は第1実施形態と同様であるが、Fe濃度が1×1016at/cm3以上と比較的大きくなっている点が第1実施形態と異なる。本実施形態におけるGaN結晶は、Feをこのような濃度で含むことにより、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×107Ωcm以上という、第1実施形態のGaN結晶よりも大きな絶縁性を有する。なお、Fe濃度としては、例えば1×1016at/cm3以上1×1019at/cm3以下の大きさとすることができる。この場合、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率は、例えば1×107Ωcm以上5×1010Ωcm以下の大きさとなる。なお、OおよびCの各濃度のGaN結晶の主面内における分布は、いずれも、第1実施形態で述べた基板10におけるそれらと同様の傾向を示す。絶縁性やその温度依存性に関する主面内分布についても同様である。
【0091】
GaN結晶中へのFeの添加は、上述の結晶成長ステップにおいて、原料ガス(GaClガス+NH3ガス)と同時に、ガス供給管232cから、例えばCp2Feガス等のFe含有ガスを種結晶基板20に対して供給することにより行うことができる。反応容器203内におけるFe含有ガスのIII族原料ガスに対する分圧比率(Fe含有ガスの分圧/GaClガスの合計分圧)は、例えば1/106~1/100の大きさとすることができる。ドーパントガスを用いる場合、GaN結晶の厚さ方向全域にわたり均一にFeを添加することができ、また、後述するイオン注入に比べて、結晶表面のダメージを回避しやすくなる点で有利である。
【0092】
なお、Cp2Feガスに代えて、FeCl3ガスを用いてもよい。FeCl3ガスは、例えば、ガス供給管232cの途中800℃程度の高温域に金属鉄を設置し、ここにHClガス等を流すことにより発生することができる。Cp2Feガスの代わりにFeCl3ガスを用いる場合、Cp2Feガスに含まれるC成分の結晶中への取り込み、すなわち、GaN結晶におけるC濃度の増加を回避しやすくなる点で有利である。
【0093】
また、GaN結晶中へのFeの添加は、第1実施形態と同様の手法で基板10を取得した後、この基板10に対してFeイオンを打ち込むことにより行うこともできる。イオン打ち込みを用いる場合、Cp2Feガスに含まれるC成分の結晶中への取り込み、すなわち、GaN結晶におけるC濃度の増加を回避しやすくなる点で有利である。
【0094】
本実施形態で得られるGaN結晶は、結晶中のSi、B、OおよびCの各濃度が、第1実施形態のGaN結晶と同様に極めて小さいことから、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、良好な品質を有する。また、本実施形態によれば、GaN結晶中におけるFeの濃度を上述のように高めることで、その絶縁性を第1実施形態のGaN結晶よりも高めることが可能となる。
【0095】
<本発明の第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0096】
本実施形態におけるGaN結晶は、結晶中のB、Fe、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満である点は第1実施形態と同様であるが、Si濃度が1×1015at/cm3以上となっている点が第1実施形態と異なる。本実施形態におけるGaN結晶は、Siをこのような濃度で含むことにより、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm以下という導電性を有し、いわゆるn型半導体結晶として機能する。なお、Si濃度としては、例えば1×1015at/cm3以上5×1019at/cm3以下の大きさとすることができる。この場合、20℃以上300℃以下の温度条件下でのn型のキャリア濃度は例えば1×1015個/cm3以上5×1019個/cm3以下となり、同温度条件下での電気抵抗率は例えば1×10-4Ωcm以上100Ωcm以下となる。なお、OおよびCの各濃度のGaN結晶の主面内における分布は、いずれも、第1実施形態で述べた基板10におけるそれらと同様の傾向を示す。n型半導体としての導電性やその温度依存性に関する主面内分布についても同様である。
【0097】
本実施形態のGaN結晶においては、結晶中のSi濃度とn型のキャリア濃度は、ほぼ等しい値であった。このことは、Si以外のキャリアの起源となる不純物(n型キャリアを補償するFeやC、あるいは、ドナーとなるO等)の実際の濃度が極めて小さく、これらの不純物は、本実施形態でのSi濃度の最小値1×1015at/cm3と比較して、無視できる程度にしかGaN結晶中に含まれていないということを示している。すなわち、SIMS測定によっては、B、Fe、OおよびC濃度は1015at/cm3台未満、それ以外の不純物に関しても検出下限値未満の濃度であるとしか示せないものの、結晶中のSi濃度とn型のキャリア濃度とは、ほぼ等しい値であったという結果は、これらの不純物の実際の濃度は1014at/cm3台かそれ未満であるということを示している。
【0098】
GaN結晶中へのSiの添加は、上述の結晶成長ステップにおいて、原料ガス(GaClガス+NH3ガス)と同時に、SiH4ガスやSiH2Cl2等のSi含有ガスを種結晶基板20に対して供給することにより行うことができる。反応容器203内におけるSi含有ガスのIII族原料ガスに対する分圧比率(Si含有ガスの分圧/GaClガスの合計分圧)は、例えば1/108~1/103の大きさとすることができる。また、GaN結晶中へのSiの添加は、第1実施形態と同様の手法で基板10を取得した後、この基板10に対してSiイオンを打込むことにより行うこともできる。
【0099】
本実施形態で得られるGaN結晶は、結晶中のB、Fe、OおよびCの各濃度が、第1実施形態のGaN結晶と同様に極めて小さいことから、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、良好な品質を有することになる。また、本実施形態によれば、GaN結晶中におけるFe等の不純物濃度が上述のように小さいことから、Siの添加量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(n型半導体特性)を付与することが可能となる。すなわち、本実施形態のGaN結晶は、Siの添加による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できる点で、FeやC等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、本実施形態のGaN結晶は、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて小さいことから、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点で、不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、n型ドーパントとして、Siに変えてGeを用いたり、SiおよびGeの両方を用いたりした場合にも、同様の効果が得られることを確認している。
【0100】
<本発明第3の実施形態の変形例>
上述の第3の実施形態において、結晶成長ステップに際して供給するSi含有ガスの量を更に減らすことで、n型のキャリア濃度を1×1014~1×1015at/cm3とすることも可能である。ただしこの場合には、結晶中のSi濃度を測定することは不可能なため、現時点では、Si濃度としては1×1015at/cm3未満であるとしか言えない。また、n型ドーパントとして、Siに代えてGeを用いたり、SiおよびGeの両方を用いたりすることも可能である。
【0101】
<本発明の第4実施形態>
続いて、本発明の第4実施形態について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0102】
本実施形態におけるGaN結晶は、結晶中のSi、B、Fe、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満である点は第1実施形態と同様であるが、Mgをさらに含み、その濃度が3×1018at/cm3以上となっている点が第1実施形態と異なる。本実施形態におけるGaN結晶は、Mgをこのような濃度で含むことにより、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm未満という導電性を有し、いわゆるp型半導体結晶として機能する。なお、Mg濃度としては、例えば1×1017at/cm3以上5×1020at/cm3以下の大きさとすることができる。この場合、20℃以上300℃以下の温度条件下でのp型のキャリア濃度は例えば5×1015個/cm3以上5×1018個/cm3以下となり、同温度条件下での電気抵抗率は例えば0.5Ωcm以上100Ωcm以下となる。なお、OおよびCの各濃度のGaN結晶の主面における分布は、いずれも、第1実施形態で述べた基板10におけるそれらと実質的に同様の傾向を示す。p型半導体としての導電性やその温度依存性に関する主面内分布についても同様である。
【0103】
GaN結晶中へのMgの添加は、上述の結晶成長ステップにおいて、原料ガス(GaClガス+NH3ガス)と同時に、Cp2Mgガス等のMg含有ガスを種結晶基板20に対して供給することにより行うことができる。反応容器203内におけるMg含有ガスのIII族原料ガスに対する分圧比率(Mg含有ガスの分圧/GaClガスの合計分圧)は、例えば1/105~1/102の大きさとすることができる。また、GaN結晶中へのMgの添加は、Cp2Mgガス等に代えて、窒化マグネシウム(Mg3N2)や金属Mgを含むガスを用いてもよい。これらのガスは、例えば、ガス供給管232cの途中800℃程度の高温域にMg3N2や金属Mgを設置することで、これらの物質の蒸気を発生することができる。また、GaN結晶中へのMgの添加は、第1実施形態と同様の手法で基板10を取得した後、この基板10に対してMgイオンを打込むことにより行うこともできる。第2実施形態と同様、ドーパントガスを用いる場合、GaN結晶の厚さ方向全域にわたり均一にMgを添加することができ、また、イオン注入による結晶表面のダメージが回避しやすくなる点で有利である。また、イオン打込みを用いる場合、Cp2Mgガスに含まれるC成分の結晶中への取り込み、すなわち、GaN結晶におけるC濃度の増加を回避しやすくなる点で有利である。
【0104】
本実施形態で得られるGaN結晶は、結晶中のSi、B、Fe、OおよびCの各濃度が、第1実施形態のGaN結晶と同様に極めて小さいことから、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、良好な品質を有することになる。また、本実施形態によれば、GaN結晶中におけるSi、O等の不純物濃度が上述のように小さいことから、Mgの添加量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(p型半導体特性)を付与することが可能となる。すなわち、本実施形態のGaN結晶は、Mgの添加による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できる点で、SiやO等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、本実施形態のGaN結晶は、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて小さいことから、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点で、不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。
【0105】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0106】
(a)本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶を成長させる際においても、好適に適用可能である。
【0107】
(b)本発明の結晶成長ステップは、上述の実施形態で示した手法に限らず、さらに以下の手法を組み合わせて用いることも可能である。
【0108】
例えば、ガス生成器の寸法や形状を最適化させることにより、HClガスがGa融液上に滞在(接触)する時間を長く(例えば1分以上)確保し、GaClガス中に含まれる不純物濃度をさらに低減させるようにしてもよい。また例えば、不純物の捕獲効果を有する微細孔が多数形成された窒化チタン(TiN)等からなるナノマスクを種結晶基板上に形成しておき、その上にGaN結晶を成長させるようにしてもよい。また例えば、種結晶基板上での結晶成長を進行させる際、不純物の取り込みが行われやすいc面以外のファセットでの成長期間を短縮させるようにしてもよい。このように種結晶基板上にファセット成長を行った場合には、GaN層を厚く成長し、これを種結晶基板から剥離し、異種基板側のファセット成長した結晶を除去することで基板10を取得するのが好ましい。
【0109】
第1~第4実施形態で示した手法によれば、それ単体でGaN結晶中の不純物濃度を大幅に低減できることは上述した通りであるが、ここに述べた補助的な手法をさらに組み合わせて用いることで、結晶中の不純物濃度をより確実に低減させることが可能となる。ただし、高温ベークステップを行わず、これらの補助的な手法を組み合わせて用いるだけでは、上述の実施形態で示した各種効果を得ることは不可能である。上述の実施形態で示した各種効果を得るには、少なくとも、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す高温ベークステップを、上述した所定の条件下で行うことが必須となる。
【0110】
(c)本発明により得られるGaN結晶は、基板として構成されている場合に限らず、半導体デバイスの一部を構成する結晶層であってもよい。
【0111】
例えば、第1、第2の実施形態で示した半絶縁性結晶からなる半絶縁層、第3実施形態で示したn型半導体結晶からなるn型半導体層、および、第4実施形態で示したp型半導体結晶からなるp型半導体層のうち、いずれかの層を任意に組み合わせて積層(接合)させることで、種々の半導体デバイスを作製することができる。
【0112】
具体的には、上述のp型半導体層とn型半導体層との接合面(pn接合面)を含む積層構造を作製することで、この積層構造を、pn接合ダイオードとして機能させることができる。また、上述のp型半導体層およびn型半導体層のうちいずれかと、金属からなる金属層と、の接合面(ショットキー接合面)を含む積層構造を作製することにより、この積層構造を、ショットキーバリアダイオードとして機能させることもできる。なお、p型半導体層やn型半導体層を形成する際には、上述したように、ドーピングガスを用いて結晶中にSiやMgを添加してもよく、また、半絶縁層に対するSiやMgのイオン打ち込みを行うようにしてもよい。また、上述の各実施形態で示した半絶縁層、n型半導体層、p型半導体層に対して、FeまたはCをイオン打ち込みすることにより、これらの層を、基板上に形成された素子間の絶縁を行う素子分離層(絶縁層)として機能させることもできる。
【0113】
本発明により得られるGaN結晶を用いて半導体デバイスを製造した場合、この結晶が有する極めて低い不純物濃度により、半導体デバイスの特性を著しく向上させることが可能となる。また、極めて低い不純物濃度が、結晶の主面の60%以上の領域において、場合によっては70%以上の領域において広く実現されていることから、半導体デバイスの製造歩留まりを著しく良好なものとすることが可能となる。
【実施例】
【0114】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0115】
(電気抵抗率の温度依存性)
サンプル1~7として、
図2に示すHVPE装置を用い、GaN単結晶からなる種結晶基板上にGaN単結晶を2mmの厚さで成長させた。
【0116】
不純物除去の効果を確認するために、全てのサンプル成長前に、反応室201と交換室202とを大気解放した。サンプル1~5を作製する際は、結晶成長ステップの実施前に、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す高温ベークステップを実施した。高温ベークステップにおける温度条件は、サンプル1~5の順に、1600℃、1500℃、1500℃、1400℃、1100℃とした。圧力条件は全て1気圧とした。O2ガスの分圧は、上述の第1実施形態に記載の処理条件範囲内の所定の条件であって、サンプル1~5を通して共通の条件とした。他の処理条件は、上述の第1実施形態に記載の処理条件範囲内の条件であって、サンプル1~5を通して共通の処理条件とした。
【0117】
サンプル6,7を作製する際は、結晶成長ステップを実施する前に、上述の高温ベークステップを不実施とした。他の処理条件は、サンプル1~5を作製する際と共通の処理条件とした。
【0118】
サンプル1~7のいずれにおいても、成長したGaN結晶は鏡面で成長したものの、1500℃以上の高温ベークを行わなかったサンプル4~7では、結晶に若干のクラックが生じていた。1500℃以上の高温ベークを実施したサンプル1~3に関しては、GaN結晶にクラックは生じていなかった。
【0119】
サンプル1,3~5を作製する際の結晶成長ステップでは、種結晶基板上に成長させるGaN結晶中へのFeの添加は行わなかった。一方、サンプル2,6,7を作製する際の結晶成長ステップでは、種結晶基板上に成長させるGaN結晶中へFeを添加した。サンプル2,6,7におけるGaN結晶中のFe濃度は、順に、1×1016at/cm3、1×1019at/cm3、1×1018at/cm3とした。他の処理条件は、上述の第1実施形態に記載の処理条件範囲内の条件であって、サンプル1~7を通して共通の処理条件とした。
【0120】
そして、サンプル1~7の各GaN結晶について、電気抵抗率の温度依存性を評価した。
図5にその評価結果を示す。
図5の横軸は電気抵抗測定時のGaN結晶の温度(℃)を、縦軸はGaN結晶の電気抵抗率(Ωcm)をそれぞれ示す。図中◇、*、△、□、○、●、■は、順に、サンプル1~7の評価結果を示している。
【0121】
図5によれば、サンプル1~5同士を比較した場合、高温ベークステップの温度条件を1500℃以上の温度に設定したサンプル(例えばサンプル1~3)の方が、高温ベークステップの温度条件を1500℃未満の温度に設定したサンプル(例えばサンプル4,5)よりも、あらゆる温度条件下において、高い電気抵抗率を示すこと、すなわち、高い絶縁性を示すことが分かる。具体的には、サンプル1~3においては、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
6Ωcm以上であるのに対し、他のサンプルにおいては、同温度条件下での電気抵抗率が1×10
6Ωcm未満であることが分かる。また、サンプル1~3においては、300℃を超え400℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×10
5Ωcm以上であるのに対し、他のサンプルにおいては、同温度条件下での電気抵抗率が1×10
5Ωcm未満であることが分かる。これらは、高温ベーク時の温度条件を上述の条件に設定することで、GaN結晶中の各種不純物の濃度をそれぞれ低減できたためと考えられる。
【0122】
また、サンプル2,3を比較した場合、Feの添加を行ったサンプル2の方が、Feの添加を不実施としたサンプル3よりも、高い絶縁性を示すことが分かる。すなわち、高温ベークステップの温度を同程度に設定する場合には、GaN結晶中に1×1016at/cm3以上の濃度でFeを添加することで、絶縁性をさらに高めることが可能であることが分かる。言い換えれば、Feの添加を行うことで、高温ベーク時の温度条件を高めた場合と同様の効果が得られることが分かる。発明者は、追加の実験で、GaN結晶中のSi、B、OおよびCの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満としつつ、Fe濃度を1×1016at/cm3以上1×1019at/cm3以下の所定の濃度とした場合、20℃以上300℃以下の温度条件下でのGaN結晶の電気抵抗率が、例えば1×108Ωcm以上5×1010Ωcm以下の範囲内の大きさにまで高まることを確認済である。
【0123】
また、サンプル1~5と、サンプル6,7と、を比較した場合、酸化シーケンスを含む高温ベークステップを実施したサンプル1~5の方が、高温ベークステップを不実施としたサンプル6,7よりも、電気抵抗率が温度上昇に伴って低下しにくいこと、すなわち、絶縁性に関する温度依存性が小さいことが分かる。サンプル6,7のように、1×1017at/cm3以上の濃度でFeを添加することにより低温条件下での絶縁性を高めたとしても、温度上昇に伴って絶縁性の低下が生じやすくなる理由は、上述した通りである。一方で、高温ベーク時の温度条件を1500℃以上にしたサンプル1~3では、サンプル6,7と同程度或いはそれを上回る絶縁性を発揮するとともに、その温度依存性は低く、極めて安定したものとなる。
【0124】
なお、一度大気解放した後に、その後は結晶成長と結晶成長との間に大気解放は行わずに、結晶成長→通常ベーク→結晶成長→通常ベーク・・・・・・、と連続して繰り返し結晶成長を行い、上記と同様の30~50回の結晶成長と電気特性測定とを行ったところ、上記とほぼ同じ結果が得られた。すなわち、一度高温ベークを行った場合には、大気解放しない限り、その後に成長したGaN結晶は全て高い電気抵抗率を示し続け、一方、大気解放後に高温ベークを実施しなかった場合には、結晶成長と通常ベークとを何度繰り返しても電気抵抗率は低いままであった。Feドープ時の挙動も、高温ドープを行わない場合には、絶縁性を高めるためには高濃度のFeドープが必要であり、その場合には電気抵抗率が比較的大きな温度依存性を示すことが分かった。一方、1500℃以上の高温ベークを行ったサンプル1~3では、サンプル6,7と同程度或いはそれを上回る絶縁性を発揮するとともに、その温度依存性は低く、極めて安定したものとなることが分かった。
【0125】
(不純物濃度のベーク温度および雰囲気依存性)
続いて、サンプル8~16として、
図2に示すHVPE装置を用い、直径2インチ(5.08cm)の種結晶基板上に、GaN単結晶を5mmの厚さで成長させた。不純物除去の効果を確認するために、全てのサンプルの成長前に、反応室と交換室とを大気解放した。
【0126】
サンプル8~11を作製する際は、結晶成長ステップの実施前に、酸化シーケンスを行うことなくエッチングシーケンスのみを行う高温ベークステップを実施し、その後、反応室内を大気解放することなく、種結晶基板上にGaN単結晶を成長させた。高温ベークステップにおける温度条件は、サンプル8~11の順に、1100℃、1400℃、1500℃、1600℃とした。圧力条件は全て1気圧とした。
【0127】
サンプル12~16を作製する際は、結晶成長ステップの実施前に、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す上述の高温ベークステップを実施し、その後、反応室内を大気解放することなく、種結晶基板上にGaN単結晶を成長させた。高温ベークステップにおける温度条件は、サンプル12~16の順に、1100℃、1400℃、1500℃、1550℃、1600℃とした。圧力条件は全て1気圧とした。O2ガスの分圧は、上述の第1実施形態に記載の処理条件範囲内の所定の条件であって、サンプル12~16を通して共通の処理条件とした。
【0128】
また、サンプル17として、反応容器の内壁や反応室内部の部材の表面をpBN(パイロリティックボロンナイトライド)でコーティングしたHVPE装置を用い、種結晶基板上にGaN単結晶を成長させた。サンプル17を作製する際は、結晶成長ステップを実施する前に、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す上述の高温ベークステップを不実施とした。
【0129】
サンプル8~17を作製する際の結晶成長ステップでは、GaN結晶中へのFe等の不純物の添加は行わなかった。他の処理条件は、上述の第1実施形態に記載の処理条件範囲内の条件であって、サンプル8~17を通して共通の処理条件とした。
【0130】
結晶成長が終了した後、サンプル8~17の各GaN結晶について、SIMSを用いて含有不純物濃度を評価した。表1~表3にそれらの結果をそれぞれ示す。表1~表3の右端側に、SIMSで採用した測定方法(深さプロファイ或いはラスタ変化)、および、検出下限値を順に示す。いずれの表においても、DLは、測定結果が検出下限を下回ったことを示す。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
表1、表2に示すように、高温ベーク時の温度条件を1100℃としたサンプル8,12や、高温ベーク時の温度条件を1400℃としたサンプル9,13では、BおよびFeの各濃度をそれぞれ低減できてはいるものの、Si濃度が2×1017at/cm3に達したり、O濃度が5×1016at/cm3に達したり、C濃度が5×1016at/cm3に達したりしていた。1500℃以上の高温ベークを行わなかったこれらのサンプルでは、GaN結晶の成長面は鏡面となっていたものの、不純物混入の影響により、結晶に若干のクラックが生じていた。
【0135】
また、表1、表2に示すように、サンプル17のGaN結晶では、反応室内の部材の表面をpBNでコートしたことから、サンプルSiおよびFeの各濃度をそれぞれ低減できているものの、Bが2×1016at/cm3の濃度で混入していた。また、サンプル17では、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す上述の高温ベークステップを実施していないことから、OおよびCの各濃度が、それぞれ1×1016at/cm3にまで達していた。なお、サンプル17では、GaN結晶の成長面は鏡面となっていたものの、Bが混入した等の影響により、GaN結晶に多数のクラックが生じていた。
【0136】
これらのことから、Si、B、Fe、OおよびCのいずれもが低濃度であるような高純度結晶、例えば、Si、BおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、また、OおよびCの各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満であるような高純度結晶は、特許文献1~3に開示されている結晶成長の手法、すなわち、原料ガスやキャリアガスとして純度の高いガスを用いる手法や、結晶成長炉の内壁をコーティングする手法を単に組み合わせることによっては、実現不可能であることが分かる。
【0137】
また表1,2によれば、高温ベーク時の温度条件を高くするほど、GaN結晶中の不純物濃度が低下する傾向にあることが分かる。1500℃以上の高温ベークを行ったサンプル10,11,14~16に関しては、不純物濃度の減少の影響か、GaN結晶にクラックは生じていなかった。
【0138】
ただし、高温ベークステップにおいて、酸化シーケンスを行うことなく、エッチングシーケンスのみを行ったサンプル10,11では、Si、BおよびFeの各濃度がそれぞれ検出下限値未満(1×1015at/cm3未満)であるものの、OおよびCの各濃度がそれぞれ1×1015at/cm3を超えていた。これに対し、高温ベークステップにおいて、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返したサンプル14~16では、Si、B、O、CおよびFeの各濃度がいずれも検出下限値未満(1×1015at/cm3未満)となっていた。
【0139】
これらのことから、Si、B、Fe、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であるような高純度結晶を成長させるには、高温ベークステップにおいて、温度条件を1500℃以上に設定することが必要なだけでなく、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返す必要があることが分かる。
【0140】
追加の実験として、種結晶基板上に成長させるGaN結晶の厚さを8mmにまで増加させた。その結果、不純物濃度の影響がより顕著に表れた。具体的には、B、Fe、OおよびCの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満となるような処理手順・処理条件を採用した場合、すなわち、サンプル14~16を作製する際と同様の処理手順・処理条件で成長させた高純度結晶には、いずれもクラックがみられなかった。先端径が数10nmであるダイヤモンド圧子を用い、最大荷重を1mN以上50mN以下の範囲内の所定の大きさとして測定したナノインデンテーション法によるこれらの結晶の硬さは、いずれも22.0GPaを超えていた。
【0141】
これに対し、B、Fe、OおよびCの各濃度のうち少なくともいずれかの濃度が1×1015at/cm3を超えるような処理手順・処理条件を採用した場合、すなわち、サンプル8~13、17を作製する際と同様の処理手順、処理条件で成長させた高純度結晶には、程度の差こそあれ、クラックが発生していた。これは、不純物濃度が高くなることで結晶が劣化し、結晶の硬さが低下したためと考えられる。先端径が数10nmであるダイヤモンド圧子を用い、最大荷重を1mN以上50mN以下の範囲内の所定の大きさとして測定したナノインデンテーション法によるこれらの結晶の硬さは、いずれも21.8GPa以下であった。
【0142】
なお、B、Fe、OおよびCの各濃度をいずれも1×1015at/cm3未満とすれば、Siを1×1015at/cm3~1×1019at/cm3の範囲の濃度で添加した場合であっても、GaN結晶の硬さに顕著な影響を与えないこと、すなわち、クラックの発生を抑制できることも確認できた。先端径が数10nmである圧子を用い、最大荷重を1mN以上50mN以下の範囲内の所定の大きさとして測定したナノインデンテーション法によるこれらの結晶の硬さは、いずれも22.0GPaを超えていた。
【0143】
なお、一度大気解放した後に、その後は結晶成長と結晶成長との間に大気解放は行わずに、結晶成長→通常ベーク→結晶成長→通常ベーク・・・・・・、と連続して繰り返し結晶成長を行い、上記と同様の30~50回の結晶成長と電気特性測定とを行ったところ、上記とほぼ同じ結果が得られた。すなわち、一度高温ベークを行った場合には、大気解放しない限り、その後に成長したGaN結晶は全て検出下限値未満の不純物濃度を維持し、一方、大気解放後に高温ベークを実施しなかった場合には、結晶成長と通常ベークとを何度繰り返しても不純物濃度が検出下限値未満となることはなかった。
【0144】
(不純物濃度の基板面内分布)
上述したサンプル8~16について、種結晶基板上に成長させたGaN単結晶(基板)の主面におけるO濃度、C濃度の面内分布をそれぞれ評価した。具体的には、サンプル8~16の各結晶の主面内における複数の位置(中心、中心から±10mm離れた位置、中心から±20mm離れた位置の計5か所)で、ラスター変化法を用い、O濃度、C濃度をそれぞれ測定した。種結晶基板の直径は、上述したように2インチ(5.08cm)である。
【0145】
O濃度の測定結果を
図6(a)および
図7(a)に、C濃度の測定結果を
図6(b)および
図7(b)にそれぞれ示す。
図6(a)、
図7(a)に示すバラツキ(%)とは、主面内の5か所で測定したO濃度のうち、最大のO濃度をO
MAX[at/cm
3]、最小のO濃度をO
MIN[at/cm
3]とし、また、5か所の平均のO濃度をO
AVE[at/cm
3]としたとき、{(O
MAX-O
MIN)/O
AVE/2}×100で算出される値である。
図6(b)、
図7(b)に示すバラツキについても同様に、主面内の5か所で測定したC濃度のうち、最大のC濃度をC
MAX[at/cm
3]、最小のC濃度をC
MIN[at/cm
3]とし、また、5か所の平均のC濃度をC
AVE[at/cm
3]としたとき、{(C
MAX-C
MIN)/C
AVE/2}×100で算出される値である。
【0146】
図6(a)、
図6(b)に示すように、高温ベークステップにおいて、ベーク温度を1500℃以下の温度とし、酸化シーケンスを行うことなく、エッチングシーケンスのみを行ったサンプル8~10では、主面のいずれの位置においても、結晶中のOおよびCの各濃度を1×10
15at/cm
3未満とすることは不可能であった。また、ベーク温度を1600℃とし、酸化シーケンスを行うことなく、エッチングシーケンスのみを行ったサンプル11では、中心から±10mmの範囲内の領域では結晶中のOおよびCの各濃度を1×10
15at/cm
3未満とすることができたものの、中心から±20mm離れた外周側の領域では1×10
15at/cm
3未満とすることはできなかった。すなわち、高温ベークステップにおいて、酸化シーケンスを行うことなく、エッチングシーケンスのみを行った場合には、結晶中のOおよびCの各濃度を、主面の60%以上の領域においていずれも1×10
15at/cm
3未満とすることは不可能であることが分かった。
【0147】
図7(a)、
図7(b)に示すように、高温ベークステップにおいて、ベーク温度を1100℃とし、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返したサンプル12では、結晶中のOおよびCの各濃度をそれぞれ1×10
15at/cm
3未満とすることは、主面のいずれの位置においても不可能であった。また、ベーク温度を1400℃とし、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返したサンプル13では、結晶中のC濃度を1×10
15at/cm
3未満とすることはできたものの、結晶中のO濃度を1×10
15at/cm
3未満とすることは、主面のいずれの位置においても不可能であった。すなわち、高温ベークステップにおいて、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返した場合であっても、ベーク温度を1400℃以下の温度とすると、結晶中のOおよびCの各濃度を主面の60%以上の領域においていずれも1×10
15at/cm
3未満とすることは不可能であることが分かった。これは、高温ベークステップにおいて酸化シーケンスを実施したことで、結晶成長ステップにおいて、反応容器内の部材からアウトガスをある程度抑制できたものの、高温ベークステップの実施温度が比較的低いため、不純物が残留しており、その影響を受けたことによるものと推察される。
【0148】
図7(a)、
図7(b)に示すように、高温ベークステップにおいて、ベーク温度を1500℃以上の温度とし、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返したサンプル14~16では、主面のいずれの位置においても、結晶中のOおよびCの各濃度がそれぞれ1×10
15at/cm
3未満となっていた。また、ベーク温度を1550℃以上としたサンプル15,16では、主面のいずれの位置においても、結晶中のO濃度が検出下限である5×10
14at/cm
3を下回っており、C濃度が検出下限である1×10
14at/cm
3を下回っていた。このように、高温ベークステップにおいて、ベーク温度を1500℃以上の温度とし、酸化シーケンスとエッチングシーケンスとを交互に繰り返すことにより、結晶中のOおよびCの各濃度を、主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、より好ましくは80%以上の領域において(本サンプルでは90%以上の領域)、いずれも1×10
15at/cm
3未満とすることが可能であることが分かった。これは、高温ベークステップを上述の手法、上述の条件下で行うことにより、結晶成長ステップにおいて、反応容器内の部材からのアウトガスが著しく低減されたためと考えられる。
【0149】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0150】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶であって、
前記結晶中のBが1×1015at/cm3未満であり、
前記結晶中のOおよびCの各濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、いずれも1×1015at/cm3未満である窒化物結晶が提供される。
【0151】
(付記2)
付記1に記載の結晶であって、好ましくは、
前記結晶中のSiおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満である。
【0152】
(付記3)
付記2に記載の結晶であって、好ましくは、
20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×106Ωcm以上である。
【0153】
(付記4)
付記1に記載の結晶であって、好ましくは、
前記結晶中のSi濃度が1×1015at/cm3未満であり、Fe濃度が1×1016at/cm3以上である。
【0154】
(付記5)
付記4に記載の結晶であり、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×107Ωcm以上である。
【0155】
(付記6)
付記1に記載の結晶であり、前記結晶中のFe濃度が1×1015at/cm3未満であり、SiまたはGeあるいはそれらの合計濃度が1×1015at/cm3以上である。好ましくは、SiまたはGeあるいはそれらの合計濃度が5×1019at/cm3以下である。
【0156】
(付記7)
付記6に記載の結晶であり、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm以下である。好ましくは、上述の温度条件下での電気抵抗率が1×10-4Ωcm以上である。また好ましくは、上述の温度条件下でのn型のキャリア濃度が1×1015個/cm3以上5×1019個/cm3以下である。
【0157】
(付記8)
付記2に記載の結晶であり、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm以下である。好ましくは、上述の温度条件下での電気抵抗率が1×10-4Ωcm以上である。また好ましくは、上述の温度条件下でのn型のキャリア濃度が1×1014個/cm3以上1×1015個/cm3未満である。
【0158】
(付記9)
付記2に記載の結晶であり、前記結晶中のMg濃度が1×1017at/cm3以上である。好ましくは、前記結晶中のMg濃度が5×1020at/cm3以下である。
【0159】
(付記10)
付記9に記載の結晶であり、20℃以上300℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm以下である。好ましくは、上述の温度条件下での電気抵抗率が0.5Ωcm以上100Ωcm以下である。好ましくは、上述の温度条件下でのp型のキャリア濃度が2×1017個/cm3以上5×1018個/cm3以下である。
【0160】
(付記11)
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶であって、
最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定される硬さが、前記結晶の主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、22.0GPaを超える窒化物結晶が提供される。
【0161】
(付記12)
付記11に記載の結晶であって、好ましくは、
最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定される硬さが、前記結晶の主面の60%以上の領域において22.5GPa以上である。
【0162】
(付記13)
付記11または12に記載の結晶であって、好ましくは、
最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション法により測定される硬さが、前記結晶の主面の60%以上の領域において23.2GPa以上である。
【0163】
(付記14)
付記1~13のいずれかに記載の結晶であって、好ましくは、
前記結晶中のOおよびCの各濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、いずれも5×1014at/cm3未満である。
【0164】
(付記15)
付記1~13のいずれかに記載の結晶であって、好ましくは、
前記結晶中のO濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、5×1014at/cm3未満であり、前記結晶中のC濃度が、前記結晶の主面の60%以上の領域において、好ましくは70%以上の領域において、1×1014at/cm3未満である。
【0165】
(付記16)
本発明の他の態様によれば、
付記2~5に記載の結晶からなる半絶縁層、付記6~8のいずれかに記載の結晶からなるn型半導体層、および、付記9または11に記載の結晶からなるp型半導体層のうち、少なくともいずれかの層を有する半導体デバイスが提供される。
【0166】
(付記17)
付記16に記載のデバイスであって、好ましくは、
前記p型半導体層と前記n型半導体層との接合面(pn接合面)を有し、pn接合ダイオードとして機能する。
【0167】
(付記18)
付記16に記載のデバイスであって、好ましくは、
前記p型半導体層および前記n型半導体層のうちいずれかと、金属からなる金属層と、の接合面(ショットキー接合面)を有し、ショットキーバリアダイオードとして機能する。
【0168】
(付記19)
付記16~18のいずれかに記載のデバイスであって、好ましくは、
前記半導体層に対してSi又はMgをイオン打ち込みすることにより所定の半導体特性が付与された層を有する。
【0169】
(付記20)
付記16~19のいずれかに記載のデバイスであって、好ましくは、
前記半導体層に対してFeまたはCをイオン打ち込みすることにより、素子間の絶縁を行う層を有する。
【0170】
(付記21)
本発明の他の態様によれば、
付記1~15のいずれかに記載の結晶からなり、250μm以上の厚さを有し、25mm以上の直径、好ましくは50mm以上の直径を有する平板状の窒化物結晶が提供される。
【0171】
(付記22)
本発明の他の態様によれば、
反応容器内に種結晶基板とIII族元素を含む原料とを搬入し、所定の結晶成長温度に加熱された前記種結晶基板に対して前記原料のハロゲン化物と窒化剤とを供給することで、前記種結晶基板上に前記III族元素の窒化物の結晶を成長させる結晶成長工程を有し、
前記結晶成長工程を行う前に、前記反応容器内のうち少なくとも前記結晶成長温度程度に加熱される領域であって、前記種結晶基板が搬入される領域とは仕切られておらず、前記種結晶基板に供給されるガスが接触する可能性のある高温反応領域の温度を1500℃以上の温度に加熱しつつ、前記反応容器内への前記窒化剤の供給を不実施とし、前記反応容器内への水素ガス、ハロゲン系ガス、および酸素含有ガスの供給を実施することで、前記高温反応領域を構成する部材の表面を清浄化および改質させる高温ベーク工程を実施する
窒化物結晶の製造方法が提供される。
【0172】
(付記23)
付記22に記載の方法であって、好ましくは、
前記高温反応領域を構成する部材として、少なくともその表面が石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いる。
【0173】
(付記24)
付記22又は23に記載の方法であって、好ましくは、
前記高温反応領域を構成する部材として、少なくともその表面がアルミナ、炭化珪素、グラファイト、炭化タンタルのうち少なくともいずれかからなる部材を用いる。
【0174】
(付記25)
付記22~24のいずれかに記載の方法であって、
前記高温ベーク工程では、前記反応容器内の圧力を、0.5気圧以上2気圧以下の圧力に維持する。また好ましくは、前記高温ベーク工程では、前記反応容器内のうち少なくとも前記高温反応領域の温度を1500℃以上の温度に維持する。また好ましくは、前記高温ベーク工程では、前記反応容器内を排気しながら行う。また好ましくは、前記高温ベーク処理を30分以上実施する。
【0175】
(付記26)
付記22~25のいずれかに記載の方法であって、
前記高温ベーク工程では、前記反応容器内へ酸素含有ガスおよび不活性ガスを供給する酸化シーケンスと、前記反応容器内へエッチングガスおよび水素ガスを供給するエッチングシーケンスと、を交互に繰り返す。
【0176】
(付記27)
付記26に記載の方法であって、
前記高温ベーク工程では、前記酸化シーケンスおよび前記エッチングシーケンスの実施時間の合計を30分以上(好ましくは60分以上、より好ましくは120分以上)とする。また、前記高温ベーク工程では、前記酸化シーケンスと前記エッチングシーケンスとを交互に行うサイクルを2回以上(好ましくは4回以上、より好ましくは8回以上)実施する。
【0177】
(付記28)
付記26または27に記載の方法であって、
前記酸化シーケンスでは、前記反応容器内における酸素含有ガスの分圧を、水素ガスおよびハロゲンガスを含む酸素含有ガス以外のガスの合計分圧の0.1%以上5%以下の範囲内の大きさとする。
【符号の説明】
【0178】
10 基板
20 種結晶基板
21 GaN結晶膜