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特許7181860ポリウレタンを含む研磨層とその研磨層の改質方法,研磨パッド及び研磨方法
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  • 特許-ポリウレタンを含む研磨層とその研磨層の改質方法,研磨パッド及び研磨方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ポリウレタンを含む研磨層とその研磨層の改質方法,研磨パッド及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20221124BHJP
   B24B 37/12 20120101ALI20221124BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20221124BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B24B37/24 C
B24B37/24 E
B24B37/12 D
C08G18/65 005
H01L21/304 622F
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019517573
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017200
(87)【国際公開番号】W WO2018207670
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017095378
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】大下 梓紗
(72)【発明者】
【氏名】竹越 穣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充
(72)【発明者】
【氏名】岡本 知大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋哉
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-036909(JP,A)
【文献】KAUSAR, A. et al.,An investigation on new high performance Schiff base polyurethanes,High Performance Polymers,2012年,Vol. 24, No. 2,p. 125-134
【文献】SIMIONESCU, C. I. et al.,Urethanic compounds with Schiff base structure,Mat Res Innovat,2001年,Vol. 4,p. 161-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
B24B 37/12
C08G 18/00-18/87
H01L 21/304
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シッフ塩基を有するポリウレタンを含み、
前記シッフ塩基を有するポリウレタンは、(A)シッフ塩基含有鎖伸長剤を含む鎖伸長 剤と、(B)高分子ジオールと、(C)有機ジイソシアネートと、を少なくとも含むモノ マー原料の反応物である、研磨層。
【請求項6】
前記シッフ塩基を有するポリウレタンは熱可塑性ポリウレタンであり、前記成形体は、押出成形体,射出成形体,ブロー成形体,またはカレンダー成形体である、請求項5に記載の研磨層。
【請求項9】
前記シッフ塩基を起点として変換された、前記カルボン酸基を有するポリウレタンの成形体を含み、被研磨物を研磨するための研磨面における、 H3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下である請求項8に記載の研磨層。
【請求項10】
不織布と、前記不織布に含浸付与された前記シッフ塩基を有するポリウレタンと、を含む請求項1~4の何れか1項に記載の研磨層。
【請求項11】
前記シッフ塩基を有するポリウレタンは、前記シッフ塩基を有するポリウレタンを有機溶剤に溶解させたポリウレタン有機溶剤溶液から、湿式凝固または乾式凝固された、ポリウレタンである、請求項10に記載の研磨層。
【請求項12】
請求項10または11に記載の研磨層を準備する工程と、
前記シッフ塩基を、アルデヒド基,水酸基,及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種 の官能基に変換する後処理工程と、を備える、研磨層の改質方法。
【請求項13】
請求項12に記載の研磨層の改質方法により得られた、前記シッフ塩基を起点として変換された、アルデヒド基,水酸基,及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、前記不織布に含浸付与されたポリウレタンを含む、研磨層。
【請求項14】
請求項11に記載の研磨層を準備する工程と、
前記シッフ塩基を、カルボン酸基に変換する後処理工程と、を備える、研磨層の改質方 法。
【請求項15】
請求項14に記載の研磨層の改質方法により得られた、前記シッフ塩基を起点として変換された、カルボン酸基を有する、前記不織布に含浸付与されたポリウレタンを含む、研磨層。
【請求項16】
被研磨物を研磨するための研磨面における、 H3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下である請求項15に記載の研磨層。
【請求項18】
請求項17に記載の研磨パッドを研磨装置の定盤上に固定する工程と、
前記研磨パッドの前記研磨層の研磨面に対面するように被研磨物を研磨装置のホルダに保持させる工程と、前記研磨面と前記被研磨物との間に酸性の研磨スラリーを供給しながら、前記研磨パッドと前記被研磨物とを相対的に摺動させることにより前記被研磨物を研磨する工程と、を備えることを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンを含む研磨層とその研磨層の改質方法,研磨パッド及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、鎖伸長剤と高分子ジオールと有機ジイソシアネートとを含む原料を反応させることにより製造される。例えば、下記特許文献1は、機械的強度に優れるとともに、優れた熱安定性を備える熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造できるポリウレタン樹脂の原料成分として用いられる、アミド基含有ジオールからなる鎖伸長剤を開示する。
【0003】
ところで、半導体ウェハを鏡面加工したり、半導体基板上に回路を形成する工程において酸化膜等の絶縁膜や導電体膜を有する被研磨物の表面を平坦化したりするために用いられる研磨方法として、CMPが知られている。CMPは被研磨物の表面に砥粒および反応液を含むスラリーを供給しながら研磨パッドで被研磨物を高精度に研磨する方法である。ポリウレタンは、CMPに用いられる研磨パッドの研磨層の素材として用いられている。
【0004】
近年、半導体基板上に形成される回路の高集積化および多層配線化の進展に伴い、CMPには研磨速度の向上や、より高い平坦性が求められている。このような要求を満たすべく、スラリー中の砥粒と研磨層との親和性を高めることによって研磨速度を上げるために、ポリウレタンの表面のゼータ電位を調整することが提案されている。例えば、下記特許文献2は、研磨パッドを研磨装置に取り付けて、研磨装置を立ち上げた使用の初期段階におけるドレッシング処理による、研磨パッドの表面の目立て処理をする準備工程(ブレークイン(立ち上げ))に要する時間を短縮化する研磨パッドを開示する。具体的には、被研磨物に圧接される研磨面を有し、研磨面のうねりが、周期5mm~200mmであって、最大振幅40μm以下である研磨パッドを開示する。また、特許文献2は、研磨パッドの研磨面のゼータ電位が-50mv以上0mv未満である場合には、研磨面に対するスラリー中の負の砥粒との反発が抑制されることにより、研磨パッドの研磨面と砥粒とのなじみが良好となってブレークイン時間の短縮が図られることを開示している。
【0005】
また、下記特許文献3は、研磨パッド表面への研磨屑付着を抑制することにより被研磨物表面のスクラッチやディフェクトの発生を低減させて、製品の歩留まりを向上させ、かつ、高い平坦性と適度な研磨速度が得られる研磨パッドを開示する。具体的には、被研磨物と相対する研磨面のゼータ電位が-55mvより小さく-100mv以上である研磨パッドを開示する。
【0006】
また、下記特許文献4は、CMPにおいて、低負荷で絶縁層に欠陥を生じさせずに研磨できる、定盤に固定して研磨に使用する研磨パッドを開示する。具体的には、研磨パッドの被研磨物に接する面の少なくとも一部に、室温における引張弾性率が0.2GPa以上で、かつ被研磨物と研磨パッドとの間に供給されるスラリーのpH領域におけるゼータ電位が+0.1~+30mVである材質を用いた研磨パッドを開示する。また、比較例として、pH3~5の酸性のスラリーを使用してCMPを行う場合にゼータ電位が-8.5mVである研磨パッドを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-213866号公報
【文献】国際公開2008-029725号パンフレット
【文献】特開2013-018056号公報
【文献】特開2005-294661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリウレタンのシッフ塩基を起点として、研磨層に種々の官能基を保持させることにより、研磨特性を改良できる、研磨層とその研磨層の改質方法,研磨パッド及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、シッフ塩基を有するポリウレタンを含む、研磨層である。シッフ塩基を有するポリウレタンは、(A)シッフ塩基含有鎖伸長剤を含む鎖伸長剤と、(B)高分子ジオールと、(C)有機ジイソシアネートと、を少なくとも含むモノマー原料の反応物である
【0010】
シッフ塩基含有鎖伸長剤としては、下記一般式(1):
R1-N=C-R2・・・(1)
(式(1)中、R1はアルキル基,アルケニル基,ヒドロキシフェニル基,アミノフェニル基,ヒドロキシベンジルイミノ基,アミノベンジルイミノ基,またはそれらを含有する基であり、R2は、R1がアルキル基またはアルケニル基を含有する基のときにはジヒドロキシフェニル基を含有する基、R1がヒドロキシフェニル基またはアミノフェニル基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基,R1がヒドロキシベンジルイミノ基またはアミノベンジルイミノ基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基であり、R1及びR2はそれぞれ置換基を有してもよい)で表されるシッフ塩基含有ジオールが挙げられる。また、その具体例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタン,2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノプロパン,N,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミン,2-サリチリデンアミノフェノール,4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオール及び3-〔{4-[(3-ヒドロキシ-プロピルイミノ)-メチル)-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール等が挙げられる。
【0011】
また、シッフ塩基を有するポリウレタンは、シッフ塩基を側鎖に有するポリウレタンであることが好ましい。このようなポリウレタンは、シッフ塩基を起点としてアルデヒド基,カルボン酸基(カルボキシ基とも称する),水酸基,及びアミノ基等を有するように修飾されることができる。
【0012】
シッフ塩基を有するポリウレタンは、シッフ塩基含有鎖伸長剤に由来する単位と、シッフ塩基含有鎖伸長剤以外のシッフ塩基非含有鎖伸長剤に由来する単位と、高分子ジオールに由来する単位と、有機ジイソシアネートに由来する単位とを少なくとも含む。また、連続溶融重合により連続生産可能であり、シート成形性にも優れる点から熱可塑性ポリウレタンがとくに好ましい。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、シッフ塩基を有するポリウレタンを含む研磨層を準備する工程と、酸処理、酸化処理、または水和処理等の後処理により、シッフ塩基をアルデヒド基,カルボン酸基,水酸基,及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種の官能基に変換する後処理工程と、を備えるポリウレタンを含む研磨層の改質方法である。このようなポリウレタンを含む研磨層の改質方法によれば、研磨層の成形後に表面特性を改質することができる。
【0014】
また、本発明の他の一局面は、アルデヒド基,カルボン酸基,水酸基,及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリウレタンの成形体を含む研磨層である。また、研磨層は、カルボン酸基を有し、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下であることがアルカリ性のスラリーだけでなく、酸性のスラリーにおいても、砥粒に対して高い親和性を示す点から好ましい。また、上記ポリウレタンの製造に用いられる高分子ジオール単位の数平均分子量は450~3000であることが、親水性等の要求特性も満たすことができる点から好ましい。
【0015】
また、研磨層の素材として用いられるポリウレタンは、非発泡体であることが、研磨特性が変動しにくく安定した研磨が実現できる点から好ましい。
【0016】
また、研磨層としては、ポリウレタン成形体を含む成形体タイプであっても、不織布と、不織布に含浸付与されたポリウレタンとを含む不織布タイプであってもよい。
【0017】
また、研磨層は、50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が50~1200MPaで、且つ、水との接触角が80度以下であることが研磨均一性及び研磨安定性にも優れる点から好ましい。
【0018】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの研磨層を含む研磨パッドである。
【0019】
また、本発明の他の一局面は、カルボン酸基を有し、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下である、ポリウレタンの成形体を含む研磨層を備える研磨パッドを研磨装置の定盤上に固定する工程と、研磨層の研磨面に対面するように被研磨物を研磨装置のホルダに保持させる工程と、研磨面と被研磨物との間に酸性のスラリーを供給しながら、研磨パッドと被研磨物とを相対的に摺動させることにより被研磨物を研磨する工程と、を備える研磨方法である。このような方法によれば、酸性のスラリーを用いてCMPを行う場合であっても、スラリー中の砥粒との親和性を高めることにより高い研磨速度と研磨均一性を維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る研磨層用ポリウレタンによれば、ポリウレタンのシッフ塩基を起点として、研磨層に種々の官能基を保持させることができる。このようなポリウレタンを研磨層として用いた場合には、表面特性の改質により、研磨特性を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンに由来する単位を含むポリウレタンをカルボン酸基を有するポリウレタンに改質する過程を説明する説明図である。
図2図2は、ポリウレタンに導入されたカルボン酸基の解離を説明する説明図である。
図3図3は、ポリウレタンに導入されたアルデヒド基を水和させて水酸基を有するポリウレタンに改質する過程を説明する説明図である。
図4図4は、ポリウレタンに保持されるシッフ塩基を酸処理により加水分解することにより、ポリウレタンにアミノ基を保持させる過程を説明する説明図である。
図5図5は、実施形態の研磨パッドを用いた研磨方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[シッフ塩基含有鎖伸長剤]
本実施形態のポリウレタン製造原料として用いられるシッフ塩基含有鎖伸長剤は、シッフ塩基を有するジオールまたはジアミンまたはそれらの誘導体である。具体的には、例えば、下記一般式(1):
R1-N=C-R2・・・(1)
(式(1)中、R1はアルキル基,アルケニル基,ヒドロキシフェニル基,アミノフェニル基,ヒドロキシベンジルイミノ基,アミノベンジルイミノ基,またはそれらを含有する基であり、R2は、R1がアルキル基またはアルケニル基を含有する基のときにはジヒドロキシフェニル基を含有する基、R1がヒドロキシフェニル基またはアミノフェニル基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基,R1がヒドロキシベンジルイミノ基またはアミノベンジルイミノ基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基であり、R1及びR2はそれぞれ置換基を有してもよい)
で表されるシッフ塩基を含有する少なくとも2つ以上の水酸基を有するシッフ塩基含有ジオール、少なくとも2つ以上のアミノ基を有するシッフ塩基含有ジアミン、またはそれらの誘導体を例示することができる。なお、誘導体としては、例えば、水酸基を酸化させてカルボキシル基化した化合物が挙げられる。
【0023】
一般式(1)におけるR1のアルキル基としては、メチル,エチル,プロピル,iso-プロピル,n-ブチル,iso-ブチル,sec-ブチル,tert-ブチル,ペンチル,iso-ペンチル,sec-ペンチル,ヘキシル,ヘプチル,n-オクチル,イソオクチル,2-エチルヘキシル,ノニル,デシル,イソデシル,ドデシル,テトラデシル,ヘキサデシル,オクタデシル等の炭素数1~18のアルキル基が挙げられる。これらの中では、炭素数2~8のアルキル基が反応性や、結晶性を維持する点から好ましい。
【0024】
また、R1のアルケニル基としては、例えば、ビニル,アリル,メタリル,イソプロペニル,1-プロペニル,2-プロペニル,2-メチル-1-プロペニル,ブテニル,ペンテニル,ヘキセニル,ヘプチニル,オクテニル,ノネニル,デセニル,ウンデセニル,ドデセニル,テトラデセニル,ヘキサデセニル,オクタデセニルなどの炭素数2~18のアルケニル基が挙げられる。
【0025】
また、R2は、R1の種類によって選択される基であり、具体的には、R1がアルキル基またはアルケニルを含有する基のときにはジヒドロキシフェニル基を含有する基、R1がヒドロキシフェニル基またはアミノフェニル基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基,R1がヒドロキシベンジルイミノ基またはアミノベンジルイミノ基を含有する基であるときにはヒドロキシフェニル基を含有する基である。
【0026】
このようなシッフ塩基含有ジオールとしては、例えば、下記式(2)で示される2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタン、下記式(3)で示される2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノプロパン、下記式(4)で示されるN,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミン、下記式(5)で示される2-サリチリデンアミノフェノール、下記式(6)で示される4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオール、下記式(7)で示される3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール等が挙げられる。
【0027】
【化1】
【0028】
【化2】
【0029】
【化3】
【0030】
【化4】
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
このような鎖伸長剤は、例えば、モノヒドロキシベンズアルデヒド又はジヒドロキシベンズアルデヒドとN-アルキレンアミンとの反応や、N-アミノアルキレンアルコールとモノベンズアルデヒド又はフタルジアルデヒドとの反応により、得ることができる。
【0034】
モノヒドロキシベンズアルデヒドの具体例としては、3-ヒドロキシベンズアルデヒドが挙げられる。また、ジヒドロキシベンズアルデヒドの具体例としては、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドが挙げられる。また、N-アルキレンアミンの具体例としては、N-ブチルアミン,N-プロピルアミン、N-アミルアミンが挙げられる。また、N-アミノアルキレンアルコールの具体例としては、3-アミノ-1-プロパノールが挙げられる。また、モノベンズアルデヒドの具体例としては、ベンズアルデヒド、3-フェニルプロピオンアルデヒドが挙げられる。また、フタルジアルデヒドの具体例としては、テレフタルアルデヒドが挙げられる。
【0035】
N-アルキレンアミンと、モノヒドロキシベンズアルデヒド又はジヒドロキシベンズアルデヒドとの反応の一例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドとN-ブチルアミンとの反応により2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンを合成する下記式(8)に示す反応スキームが挙げられる。
【0036】
【化7】
【0037】
また、N-アルキレンアミンとモノヒドロキシベンズアルデヒド又はジヒドロキシベンズアルデヒドとの反応の別の例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドとN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミンとの反応により4-[(3-ジメチルアミノ-ポロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールを合成する下記式(9)に示す反応スキームが挙げられる。
【0038】
【化8】
【0039】
また、N-アミノアルキレンアルコールと、モノベンズアルデヒド又はフタルジアルデヒドとの反応の一例としては、例えば、3-アミノ-1-プロパノールとテレフタルアルデヒドとの反応により3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールを得る下記式(10)に示す反応スキームが挙げられる。
【0040】
【化9】
【0041】
なお、上記各反応は、例えば、次のように行われる。所定の溶媒にN-アルキレンアミンとモノヒドロキシベンズアルデヒド又はジヒドロキシベンズアルデヒドとを、またはN-アミノアルキレンアルコールとモノベンズアルデヒド又はフタルジアルデヒドとを溶解させ、さらに、トリエチルアミン等の塩基触媒を添加する。そして、その溶液を所定の温度で撹拌しながら、反応が完了するまで所定の時間保持することにより反応を進行させる。
【0042】
溶媒は、N-アルキレンアミンと、モノヒドロキシベンズアルデヒド又はジヒドロキシベンズアルデヒドとを、またはN-アミノアルキレンアルコールとモノベンズアルデヒド又はフタルジアルデヒドとを溶解させるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、酢酸エチルやジクロロメタン等が挙げられる。溶媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、塩基触媒の具体例としては、トリエチルアミンやピリジンが挙げられる。
【0044】
反応温度は、反応が速やかに進行し、高い収率で目的物が得られる温度であればとくに限定されないが、例えば25~50℃程度で反応させることが好ましい。また、反応温度は一定温度であっても、段階的または連続的に昇降温してもよい。
【0045】
そして、反応完了後、反応により得られた反応液から、反応物を析出させ、再結晶などの結晶化処理により分離して粗結晶として吸引濾過して回収する。そして、回収後の粗結晶を適切な溶媒で洗浄した後、乾燥することにより、目的物が取り出される。
【0046】
このようにして得られるシッフ塩基含有ジオールの示差走査熱量測定(DSC)測定による融点は、例えば、-30~200℃、さらには、-20~190℃程度であるものが、ポリウレタンの製造に適している点から好ましい。例えば、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンの融点は151℃、4-[(3-ジメチルアミノ-ポロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールの融点は146℃、3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールの融点は155℃、N,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミンの融点は127℃、2-サリチリデンアミノフェノールの融点は185℃である。
【0047】
また、このようにして得られるシッフ塩基含有ジオールの昇温速度10℃/分、窒素気流下での熱重量分析による5%熱重量減少温度としては、80℃以上、さらには、90℃以上であることが好ましい。例えば、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンの5%熱重量減少温度は163℃、4-[(3-ジメチルアミノ-ポロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールの5%熱重量減少温度は169℃、N,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミンの5%熱重量減少温度は233℃、3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールの5%熱重量減少温度は228℃である。
【0048】
シッフ塩基含有鎖伸長剤は、各種ポリウレタンの製造原料である鎖伸長剤として好ましく用いられる。ポリウレタンとしては、熱可塑性ポリウレタンであっても、熱硬化性ポリウレタンであってもよい。研磨パッドの研磨層として用いる場合には熱可塑性ポリウレタンであることがシート成形性の点から好ましい。シッフ塩基含有鎖伸長剤を用いて得られたポリウレタンは、後述するように、酸処理、酸化処理、または水和処理等の後処理することにより、シッフ塩基を起点として種々の官能基をポリウレタンに保持させることができる。このようなポリウレタンは、親水性や電気的特性等の改質が求められるポリウレタンの各種用途に好ましく用いられる。
【0049】
[熱可塑性ポリウレタン]
以下、シッフ塩基含有鎖伸長剤を製造原料として用いて製造される、シッフ塩基を有するポリウレタンの一例として、熱可塑性ポリウレタンについて代表例として詳しく説明する。
【0050】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタンは、シッフ塩基含有鎖伸長剤を含む鎖伸長剤と、高分子ジオールと、有機ジイソシアネートとを少なくとも含む原料を重合させることにより得られる。
【0051】
シッフ塩基含有鎖伸長剤の具体例としては、上述した、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタン、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノプロパン、N,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミン、2-サリチリデンアミノフェノール,4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオール,または3-〔{4-[(3-ヒドロキシ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール等のシッフ塩基含有ジオールやシッフ塩基含有ジアミンまたはそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、反応性や、遊離物の特性、結晶性を維持しやすい点から2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンが特に好ましい。
【0052】
また、シッフ塩基含有鎖伸長剤を含む鎖伸長剤には、シッフ塩基を含まないシッフ塩基非含有鎖伸長剤を組み合わせて用いてもよい。シッフ塩基非含有鎖伸長剤としては、ポリウレタンの製造に従来用いられている、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下のシッフ塩基を有しない低分子化合物が挙げられる。その具体例としては、例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,1,2-プロパンジオール,1,3-プロパンジオール,2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,2,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,ネオペンチルグリコール,1,6-ヘキサンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4-シクロヘキサンジオール,シクロヘキサンジメタノール(1,4-シクロヘキサンジメタノール等),ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート,1,9-ノナンジオール,m-キシリレングリコール,p-キシリレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール等のジオール類;エチレンジアミン,トリメチレンジアミン,テトラメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン,オクタメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,デカメチレンジアミン,ウンデカメチレンジアミン,ドデカメチレンジアミン,2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン,2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン,3-メチルペンタメチレンジアミン,1,2-シクロヘキサンジアミン,1,3-シクロヘキサンジアミン,1,4-シクロヘキサンジアミン,1,2-ジアミノプロパン,ヒドラジン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジン,o-フェニレンジアミン,m-フェニレンジアミン,p-フェニレンジアミン,トリレンジアミン,キシレンジアミン,アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジド,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル,4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル,1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン,1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン,1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン,3,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン,3,4-ジアミノジフェニルスルフォン,3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン,4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン),3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド,2,6-ジアミノトルエン,2,4-ジアミノクロロベンゼン,1,2-ジアミノアントラキノン,1,4-ジアミノアントラキノン,3,3’-ジアミノベンゾフェノン,3,4-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノビベンジル,2,2’-ジアミノ-1,1’-ビナフタレン,1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン,1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン,1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン等の1,n-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン(nは3~10),1,2-ビス[2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ]エタン,9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン,4,4’-ジアミノベンズアニリド等のジアミン類が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0053】
シッフ塩基非含有鎖伸長剤を用いる場合のシッフ塩基含有鎖伸長剤とシッフ塩基非含有鎖伸長剤との合計量に対する、シッフ塩基含有鎖伸長剤の割合(モル%)は目的に応じて適宜選択される。具体的には、例えば、5~95モル%、さらには10~90モル%であることが好ましい。シッフ塩基含有鎖伸長剤の含有割合が低すぎる場合には後述する改質効果が小さくなる傾向がある。
【0054】
高分子ジオールの具体例としては、例えば、ポリエーテルジオール,ポリエステルジオール,ポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、ポリエーテルジオールやポリエステルジオールが好ましい。また、高分子ジオールの数平均分子量としては、450~3000、さらには500~2700、とくには500~2400であることが剛性,硬度,親水性等の要求特性を維持した研磨層が得られやすい点から好ましい。なお、高分子ジオールの数平均分子量は、JISK1557に準拠して測定された水酸基価に基づいて算出された数平均分子量を意味する。
【0055】
ポリエーテルジオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレングリコール),グリセリンベースポリアルキレンエーテルグリコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、ポリエチレングリコール,ポリテトラメチレングリコール、とくにはポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0056】
また、ポリエステルジオールは、例えば、ジカルボン酸またはそのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体と低分子ジオールとを直接エステル化反応またはエステル交換反応させることにより得られる。
【0057】
ポリエステルジオールを製造するためのジカルボン酸またはそのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。シュウ酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸,ドデカンジカルボン酸,2-メチルコハク酸,2-メチルアジピン酸,3-メチルアジピン酸,3-メチルペンタン二酸,2-メチルオクタン二酸,3,8-ジメチルデカン二酸,3,7-ジメチルデカン二酸等の炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸;トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14~48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)およびこれらの水素添加物(水添ダイマー酸)等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸,イソフタル酸,オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ダイマー酸および水添ダイマー酸の具体例としては、例えば、ユニケマ社製商品名「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
また、ポリエステルジオールを製造するための低分子ジオールの具体例としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。エチレングリコール,1,3-プロパンジオール,1,2-プロパンジオール,2-メチル-1,3-プロパンジオール,1,4-ブタンジオール,ネオペンチルグリコール,1,5-ペンタンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,7-ヘプタンジオール,1,8-オクタンジオール,2-メチル-1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール,シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、炭素数6~12、さらには炭素数8~10、とくには炭素数9のジオールが好ましい。
【0059】
ポリカーボネートジオールとしては、低分子ジオールと、ジアルキルカーボネート,アルキレンカーボネート,ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応により得られるものが挙げられる。ポリカーボネートジオールを製造するための低分子ジオールとしては先に例示した低分子ジオールが挙げられる。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート等が挙げられる。また、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネート等が挙げられる。ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0060】
また、有機ジイソシアネートとしては、従来ポリウレタンの製造に用いられている有機ジイソシアネートであれば特に限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、エチレンジイソシアネート,テトラメチレンジイソシアネート,ペンタメチレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート,2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート,ドデカメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,イソプロピリデンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート),シクロヘキシルメタンジイソシアネート,メチルシクロヘキサンジイソシアネート,4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート,リジンジイソシアネート,2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート,ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート,ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート,2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート,シクロヘキシレンジイソシアネート,メチルシクロヘキシレンジイソシアネート,ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロへキセンなどの脂肪族又は脂環式ジイソシアネート;2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,m-フェニレンジイソシアネート,p-フェニレンジイソシアネート,m-キシリレンジイソシアネート,p-キシリレンジイソシアネート,1,5-ナフチレンジイソシアネート,4,4’-ジイソシアナトビフェニル,3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル,3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン,クロロフェニレン-2,4-ジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、得られる研磨層の耐摩耗性に優れる点から4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートがとくに好ましい。
【0061】
熱可塑性ポリウレタンは、上述したシッフ塩基含有鎖伸長剤を含む鎖伸長剤と、高分子ジオールと、有機ジイソシアネートとを少なくとも含む原料を用い、公知のプレポリマー法またはワンショット法を用いたウレタン化反応により得られる。好ましくは、実質的に溶剤の不存在下で、上述した各成分を所定の比率で配合して単軸又は多軸スクリュー型押出機を用いて溶融混合しながら連続溶融重合する方法によって得られる。
【0062】
各成分の配合割合は目的とする特性に応じて適宜調整される。例えば、高分子ジオールと鎖伸長剤とに含まれる活性水素原子1モルに対して、有機ジイソシアネートに含まれるイソシアネート基が0.95~1.3モル、さらには0.96~1.10モル、とくには0.97~1.05モルとなる割合で配合することが好ましい。有機ジイソシアネートに含まれるイソシアネート基の割合が低すぎる場合には熱可塑性ポリウレタンの機械的強度および耐摩耗性が低下して、研磨層の寿命が短くなる傾向がある。また、イソシアネート基の割合が高すぎる場合には、熱可塑性ポリウレタンの生産性、保存安定性が低下し、研磨層の製造が困難になる傾向がある。
【0063】
連続溶融重合することにより得られた熱可塑性ポリウレタンは、例えば、ペレット化された後、押出成形法,射出成形法,ブロー成形法,カレンダー成形法などの各種の成形法によりシート状の成形体に成形される。とくには、Tダイを用いた押出成形によれば厚さの均一なシート状の成形体が得られる点から好ましい。
【0064】
また、熱可塑性ポリウレタンは、必要に応じて、架橋剤,充填剤,架橋促進剤,架橋助剤,軟化剤,粘着付与剤,老化防止剤,発泡剤,加工助剤,密着性付与剤,無機充填剤,有機フィラー,結晶核剤,耐熱安定剤,耐候安定剤,帯電防止剤,着色剤,滑剤,難燃剤,難燃助剤(酸化アンチモンなど),ブルーミング防止剤,離型剤,増粘剤,酸化防止剤,導電剤等の添加剤を含有してもよい。熱可塑性ポリウレタンの添加剤の含有割合は特に限定されないが、50質量%以下、さらには20質量%以下、とくには5質量%以下であることが好ましい。
【0065】
本実施形態のポリウレタンは、シッフ塩基を有するポリウレタンである。ポリウレタンの有するシッフ塩基を用いることにより、バラエティに富んだ特性を有するようにポリウレタンを改質することができる。具体的には、シッフ塩基を有するポリウレタンは、酸処理、酸化処理、または水和処理等の後処理による改質処理により、シッフ塩基を起点にしてアルデヒド基,カルボン酸基,水酸基,アミノ基を保持させ、それらの官能基をさらに変換することもできる。その結果、表面電気特性や、親水性等のバラエティに富んだ表面改質が可能になる。次にこの改質処理について詳しく説明する。
【0066】
ポリウレタンに導入されたシッフ塩基を酸性条件で処理した場合、ポリウレタンの表面のシッフ塩基は加水分解されて、アルデヒドとアミンに分解する。また、シッフ塩基含有鎖伸長剤の種類を適宜選択することにより、ポリウレタンの表面にはアルデヒド基を残して、アミノ化合物を遊離させても、ポリウレタンの表面にはアミノ基を残して、アルデヒド化合物を遊離させてもよい。
【0067】
例えば、図1(a)に示すように、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンをシッフ塩基含有鎖伸長剤として用いてポリウレタン鎖PU中にシッフ塩基を保持させたポリウレタンの場合、酸処理することにより、図1(b)に示すようにシッフ塩基が加水分解されてアミノ基とアルデヒド基とに分解されて、ブチルアミンが遊離する。その結果、ポリウレタンにはアルデヒド基が残される。そして、ポリウレタンのアルデヒド基を酸化することにより、図1(c)に示すようにカルボン酸基を有するポリウレタンが得られる。
【0068】
シッフ塩基をアミノ基とアルデヒド基に分解するための酸処理の条件は特に限定されないが、その具体例としては、例えば、塩酸,酢酸,硫酸や希硫酸,硝酸,またそれらの酸性溶液のような酸性溶液に接触させる条件が挙げられる。これらの中では、ウレタン結合の分解を抑制する点から、塩酸や希硫酸を用いることが好ましい。加水分解による改質処理により、アルデヒド基を有するポリウレタンが得られる。そして、アルデヒド基を有するポリウレタンを、酸化剤を添加した溶液中で酸化処理することにより、カルボン酸基を有するポリウレタンが得られる。酸化剤の具体例としては、例えば、硝酸カリウム、次亜塩素酸、ハロゲン、過マンガン酸塩、硝酸セリウムアンモニウム、クロム酸、過酸化水素水等の過酸化物、TEMPO試薬、ルテニウム酸、などが挙げられる。これらの中では、25~50℃程度での安定した酸化力とポリウレタンの劣化を抑制する点から過酸化水素水がとくに好ましい。
【0069】
ポリウレタンのカルボン酸基は、図2に示すように、酸性領域を含む、カルボン酸基をイオン化させるpHの水溶液に接したときにはカルボン酸基が-COOとH+に解離する。そして、この表面の-COOによりポリウレタンの表面に負の電位を付与する。このような負の電位は、後述する研磨パッドの研磨層としての用途においては、酸性領域におけるゼータ電位を低下させて、酸性のスラリー中の砥粒との親和性を向上させる。
【0070】
また、例えば、図3に示すように、2,4-ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンをシッフ塩基含有鎖伸長剤として用いてシッフ塩基を保持させたポリウレタンの場合、シッフ塩基を酸処理して加水分解により切断させることにより、側鎖のアルデヒド基とブチルアミンとに分解されて、ブチルアミンが遊離する。そして、アルデヒド基を有するポリウレタンのアルデヒド基を水和させることにより、水酸基を有するポリウレタンが得られる。水和の手段は特に限定されないが、例えば、酸処理に用いる酸性溶液の溶媒を水とすることによりアルデヒド基を保持させた後、水に接触させることにより水和させる方法、またはアルデヒド基を還元剤で水酸基へ還元させる方法が挙げられる。
【0071】
水酸基を有するポリウレタンの水酸基は、ポリウレタンの表面の親水性を高めることにより濡れ性を向上させる。また、水酸基を有するポリウレタンの水酸基を酸化することにより、カルボン酸基を有するポリウレタンが得られる。水酸基を有するポリウレタンの水酸基を酸化するための酸化剤の具体例としては、例えば、硝酸カリウム、次亜塩素酸、ハロゲン、過マンガン酸塩、硝酸セリウムアンモニウム、クロム酸、過酸化水素水等の過酸化物、TEMPO試薬、ルテニウム酸、などが挙げられる。これらの中では、25~50℃程度での安定した酸化力とポリウレタンの劣化を抑制する点から過酸化水素水がとくに好ましい。
【0072】
また、例えば、図4の例に示すように、3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールをシッフ塩基含有鎖伸長剤として用いてシッフ塩基を保持させたポリウレタンの場合、シッフ塩基を酸処理することにより、シッフ塩基が加水分解して、ポリウレタンの側鎖に保持される第1級アミンと、遊離するテレフタルアルデヒドに分解される。このようにしてアミノ基を有するポリウレタンが得られる。アミノ基を有するポリウレタンのアミノ基は、正の電位の付与や架橋点を生成させることに用いられる。
【0073】
[研磨パッド]
上述したような本実施形態のポリウレタンは、上述した特性を活かして、非発泡体または発泡体のポリウレタン成形体を研磨層として備える研磨パッドや、不織布の内部空隙にポリウレタンを含ませた不織布タイプの研磨層、注型発泡硬化することによって製造されるポリウレタン発泡体を主体とする研磨層等、種々のタイプの研磨層のポリウレタン材料として用いられる。また、ポリウレタンとしては熱可塑性ポリウレタンでも熱硬化性ポリウレタンであってもよい。以下、本実施形態のポリウレタンを用いた、研磨パッドの特性や形態について詳しく説明する。
【0074】
(カルボン酸基を有するポリウレタンを用いた研磨層の特性)
例えば、CMPに用いられるスラリーとしては、酸性のスラリーやアルカリ性のスラリーがある。酸性のスラリーとアルカリ性のスラリーとは、研磨の目的に応じて選択されたり、多段の研磨プロセスを行う場合にそれらを併用したりして用いられる。アルカリ性のスラリーに含まれる砥粒は、通常、負のゼータ電位を有する。アルカリ性のスラリーを使用した場合にゼータ電位が負になる研磨層を用いた場合、研磨層のゼータ電位を負に保つことができ、それにより、研磨層に研磨屑が付着しにくくなってスクラッチやディフェクトの発生が低減する効果が発現されると思われる。しかしながら、アルカリ性においてゼータ電位が負になる研磨層の場合、酸性のスラリーを用いた場合には、ゼータ電位が正になることが多かった。
【0075】
酸性のスラリー中の砥粒はゼータ電位が正になるものが多い。一方、例えば、シリコンウェハの表面のゼータ電位は酸性において通常負になる。この場合、シリコンウェハの表面の負電荷と、酸性のスラリー中の砥粒の正電荷が引き付けられるために、互いの親和性が高いと思われる。さらに一方、一般的なポリウレタンのゼータ電位は酸性領域のとくにpH3より低いpH領域においては、ゼータ電位が正になり、pH3付近で等電点になって0に近づき、pHが高いアルカリ領域で負になる傾向がある。
【0076】
酸性領域においてゼータ電位が負になる基材を、酸性のスラリー中のゼータ電位が正になる砥粒を用いて、酸性領域においてゼータ電位が正になるポリウレタンの研磨層で研磨した場合、ゼータ電位が正の研磨層とゼータ電位が正の砥粒とが反発しあって親和性に乏しくなると思われる。従って、酸性領域においてゼータ電位が負になる基材を酸性のスラリーを用いて研磨する場合には、酸性領域でゼータ電位がより負になる研磨層を用いることが好ましいと思われる。本件発明者らは、このような場合には、負のゼータ電位を示す基材と負のゼータ電位を示す研磨層との間に、正のゼータ電位を示すスラリーが介在することになり、砥粒が基材及び研磨層の両方に対して高い親和性を示すことにより、研磨速度が向上すると考えた。
【0077】
本実施形態の研磨層の素材として用いられる第1の例のポリウレタンは、カルボン酸基を有するポリウレタンである。表面にカルボン酸基を有するポリウレタンを素材として用いた研磨層は、酸性のスラリーと接したときに表面のカルボン酸基が-COO-に解離することにより表面のゼータ電位をpH3.0において-1.0mV以下になるような研磨層を実現できる。pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下である場合、酸性領域において正のゼータ電位を示す砥粒と高い親和性を示す。そして、酸性領域において負のゼータ電位を示す基材と負のゼータ電位を示す本例の研磨層との間に、正のゼータ電位を示す砥粒が介在することにより、砥粒が基材及び研磨層の両方に対して高い親和性を示すために、高い研磨速度を実現することができる。
【0078】
カルボン酸基を有するポリウレタンを素材として用いた研磨層のpH3.0におけるゼータ電位は-1.0~-40mV、さらには-2.0~-30mV、とくには-3.0~-27mV、ことには-5.0~-20mVであることが好ましい。研磨層のpH3.0におけるゼータ電位が高すぎる場合には、研磨スラリーと研磨層が電気的に反発するために親和性が低くなる。一方、pH3.0におけるゼータ電位が低すぎる場合には研磨面に保持されるスラリーが多くなりすぎて被研磨面のスクラッチが増加しやすくなることがある。ここでゼータ電位とは、物質が液体と接したときに、物質の表面電荷に応じて、対イオンによって電気二重層表面(滑り面)に生じる電位である。本実施形態においては、ゼータ電位は、電気泳動光散乱装置(ELS-Z、大塚電子(株)製)を使用し、pH3.0にHCl水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックス(大塚電子(株)製)を用いて測定されたゼータ電位である。
【0079】
また、カルボン酸基を有するポリウレタンを素材として用いた研磨層のpH4.0におけるゼータ電位は、-1.0mV以下、さらには-5.5~-40mV、とくには-7.5~-30mV、ことには-10.0~-30mVであることが、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下の研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0080】
(水酸基を有するポリウレタンを用いた研磨層の特性)
CMPに用いられるスラリーは、通常、水等の水系媒体を用いた水系の分散液である。そのために、CMPに用いられる研磨パッドのスラリーに接触する研磨層の表面の親水性が高ければ高いほど、スラリーとの親和性も高くなる。
【0081】
本実施形態の表面に水酸基を有するポリウレタンを素材として用いた研磨層は、水系の分散液であるスラリーと接したときに表面の水酸基が親水性を高めることにより、高い研磨速度を実現することができる。
【0082】
(アミノ基を有するポリウレタンを用いた研磨層の特性)
本実施形態の表面にアミノ基を有するポリウレタンを素材として用いた研磨層によれば、塩基性領域においてもゼータ電位が正になる研磨層を提供することが出来る。正のゼータ電位を示す研磨層と、負のゼータ電位を示すスラリーの間に高い親和性が発現することにより、研磨速度が向上すると考えられる点から、塩基性領域でゼータ電位がより正になる研磨層を用いることが好ましいと思われる。
【0083】
(各研磨層を製造するためのポリウレタンに共通する好ましい特性)
上述のように例示された各ポリウレタンとしては、50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が50~1200MPa、さらには100~1100MPa、とくには200~1000MPaであることが好ましい。ポリウレタンの50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が低すぎる場合には研磨層が柔らかくなりすぎて研磨速度が低下し、高すぎる場合には被研磨物の被研磨面にスクラッチが増加する傾向がある。
【0084】
また、各ポリウレタンとしては、イソシアネート基に由来する窒素原子の含有率としては、4.5~7.6質量%、さらには5.0~7.4質量%、とくには5.2~7.3質量%であることが50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が50~1200MPaである熱可塑性ポリウレタンが得られやすくなる点から好ましい。
【0085】
また、各ポリウレタンとしては、水との接触角が80度以下、さらには78度以下、とくには76度以下、ことには74度以下であることが好ましい。ポリウレタンの水との接触角が大きすぎる場合には、研磨層の研磨面の親水性が低下することによりスクラッチが増加する傾向がある。
【0086】
(研磨層の形態)
本実施形態のポリウレタンは、非発泡体または発泡体のポリウレタン成形体を研磨層として備える研磨パッド,不織布の内部空隙にポリウレタンを含ませた不織布タイプの研磨層、注型発泡硬化することによって製造されるポリウレタン発泡体を主体とする研磨層等、種々のタイプの研磨層のポリウレタン材料として用いられる。また、ポリウレタンとしては熱可塑性ポリウレタンでも熱硬化性ポリウレタンであってもよい。これらの中では、連続溶融重合により連続生産可能であり、シート成形性にも優れる点からは、熱可塑性ポリウレタン成形体の研磨層が好ましい。また、研磨特性が変動しにくく安定した研磨が実現できる点から非発泡体の熱可塑性ポリウレタン成形体の研磨層がとくに好ましい。例えば、注型発泡硬化することによって製造されるポリウレタン発泡体を用いた研磨層の場合には、発泡構造がばらつくことにより、平坦性や平坦化効率等の研磨特性が変動しやすくなる傾向があり、また、平坦性を向上させるための高硬度化が難しくなる傾向がある。
【0087】
ポリウレタン成形体の場合、発泡体であっても非発泡体であってもよいが、高い剛性と材料の均質さにより、研磨特性が変動しにくく安定した研磨が実現できる点から非発泡体であることが好ましい。例えば、注型発泡硬化することによって製造される発泡ポリウレタンの成形体を用いた場合には、発泡構造がばらつくことにより、平坦性や平坦化効率等の研磨特性が変動しやすくなる傾向があり、また、平坦性を向上させるための高硬度化が難しくなる傾向がある。また、ポリウレタン成形体としては、連続溶融重合により連続生産可能であり、シート成形性にも優れる点から熱可塑性ポリウレタンの成形体がとくに好ましい。
【0088】
ポリウレタン成形体の場合、成形体の密度としては、1.0g/cm以上、さらには1.1g/cm以上、とくには、1.2g/cm以上であることが好ましい。ポリウレタン成形体の密度が低すぎる場合には、研磨層が柔らかくなり過ぎてローカル平坦性が低下する傾向がある。
【0089】
一方、不織布タイプの研磨層は、溶液重合により製造されたポリウレタン溶液、または溶融重合により製造されたポリウレタンをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶剤に溶解させたポリウレタン溶液を不織布に含浸し、湿式凝固または乾式凝固により不織布の内部空隙にポリウレタンを含有させるような方法により製造される。
【0090】
不織布タイプの研磨層の製造に用いられる不織布としては、不織布タイプの研磨層に従来から用いられているものが特に限定なく用いられる。好ましくは、繊度1~10dtexのポリエステル系樹脂を主成分とする繊維の不織布が挙げられる。
【0091】
不織布タイプの研磨層の場合、その密度としては、0.30g/cm以上、さらには0.40g/cm以上であることが好ましい。ポリウレタン成形体の密度が低すぎる場合には、研磨層が柔らかくなり過ぎてローカル平坦性が低下する傾向がある。また、ポリウレタンの含有率は10~50質量%程度であることが好ましい。
【0092】
(研磨層の表面加工)
研磨層は、例えば、ポリウレタンのシート状の成形体や不織布タイプの成形体を切削,スライス,打ち抜き加工等により寸法、形状、厚さ等を調整することにより研磨層に仕上げられる。研磨層の厚さは特に限定されないが、0.3~5mm、さらには1.7~2.8mm、とくには2.0~2.5mmであることが生産や取り扱いのしやすさ、研磨性能の安定性から好ましい。
【0093】
また、各研磨層の硬度としては、JIS-D硬度で60以上、さらには、65以上であることが好ましい。JIS-D硬度が低すぎる場合には、被研磨面への研磨パッドの追従性が高くなってローカル平坦性が低下する傾向がある。
【0094】
各研磨層の研磨面には、研削加工やレーザー加工により、同心円状の所定のパターンで溝や穴のような凹部が形成されることが好ましい。このような凹部は、研磨面にスラリーを均一かつ充分に供給するとともに、スクラッチ発生の原因となる研磨屑の排出や、研磨層の吸着によるウェハ破損の防止に役立つ。例えば同心円状に溝を形成する場合、溝間の間隔としては、1.0~50mm、さらには1.5~30mm、とくには2.0~15mm程度であることが好ましい。また、溝の幅としては、0.1~3.0mm、さらには0.2~2.0mm程度であることが好ましい。また、溝の深さとしては、0.2~1.8mm、さらには0.4~1.5mm程度であることが好ましい。また、溝の断面形状としては、例えば、長方形,台形,三角形,半円形等の形状が目的に応じて適宜選択される。
【0095】
研磨パッドは、上述したポリウレタンからなる研磨層のみからなるものであっても、必要に応じて研磨層の研磨面ではない側の面にクッション層を積層した積層体であってもよい。クッション層としては、研磨層の硬度より低い硬度を有する層であることが好ましい。クッション層の硬度が研磨層の硬度よりも低い場合には、被研磨面の局所的な凹凸には硬質の研磨層が追従し、被研磨基材全体の反りやうねりに対してはクッション層が追従するためにグローバル平坦性とローカル平坦性とのバランスに優れた研磨が可能になる。
【0096】
クッション層として用いられる素材の具体例としては、不織布にポリウレタンを含浸させた複合体(例えば、「Suba400」(ニッタ・ハース(株)製));天然ゴム,ニトリルゴム,ポリブタジエンゴム,シリコーンゴム等のゴム;ポリエステル系熱可塑性エラストマー,ポリアミド系熱可塑性エラストマー,フッ素系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;発泡プラスチック;ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、クッション層として好ましい柔軟性が得られやすい点から、発泡構造を有するポリウレタンがとくに好ましい。
【0097】
クッション層の厚さは特に限定されないが、例えば0.5~5mm程度であることが好ましい。クッション層が薄すぎる場合には、被研磨面の全体の反りやうねりに対する追従効果が低下してグローバル平坦性が低下する傾向がある。一方、クッション層が厚すぎる場合には、研磨パッド全体が柔らかくなって安定した研磨が難しくなる傾向がある。研磨層にクッション層を積層する場合には、研磨パッドの厚みが0.3~5mm程度であることが好ましい。
【0098】
[研磨方法]
次に、上述したような研磨パッドを用いたCMPの一実施形態について説明する。
【0099】
CMPにおいては、例えば、図5に示す円形の回転定盤2と、スラリー供給ノズル3と、キャリア4と、パッドコンディショナー6とを備えたCMP装置10が用いられる。回転定盤2の表面に上述した研磨層を備えた研磨パッド1を両面テープ等により貼付ける。
また、キャリア4は被研磨物5を支持する。
【0100】
CMP装置10においては、回転定盤2は図略のモータにより矢印に示す方向に回転する。また、キャリア4は、回転定盤2の面内において、図略のモータにより例えば矢印に示す方向に回転する。パッドコンディショナー6も回転定盤2の面内において、図略のモータにより例えば矢印に示す方向に回転する。
【0101】
はじめに、回転定盤2に固定されて回転する研磨パッド1の研磨面に蒸留水を流しながらに、例えば、ダイアモンド粒子をニッケル電着等により担体表面に固定したCMP用のパッドコンディショナー6を押し当てて、研磨パッド1の研磨面のコンディショニングを行う。コンディショニングにより、研磨面を被研磨面の研磨に好適な表面粗さに調整する。次に、回転する研磨パッド1の研磨面にスラリー供給ノズル3からスラリー7が供給される。またCMPを行うに際し、必要に応じ、スラリーと共に、潤滑油、冷却剤などを併用してもよい。
【0102】
ここで、スラリーは、例えば、水やオイル等の液状媒体;シリカ,アルミナ,酸化セリウム,酸化ジルコニウム,炭化ケイ素等の砥粒;塩基,酸,界面活性剤,過酸化水素水等の酸化剤,還元剤,キレート剤等を含有しているCMPに用いられる酸性のスラリーが好ましく用いられる。なお、スラリーには、酸性のスラリー、アルカリ性のスラリー、中性近傍のスラリーがあるが、上述した第1の例の研磨層を用いる場合には、とくには、pH2.0~7.0、とくには、pH3.0~6.0の酸性のスラリーを用いてCMPを行うときにもスラリーとの高い親和性を維持することができる点から好ましい。なお、スラリー中に酸化剤が含有される場合には、研磨前に表面にアルデヒド基またはヒドロキシル基を有する研磨層であっても、スラリー中の酸化剤によりカルボン酸基に酸化されるために、研磨時においては、研磨層の表面のゼータ電位を負にすることができる。
【0103】
そして、研磨層の研磨面にスラリー7が満遍なく行き渡った研磨パッド1に、キャリア4に固定されて回転する被研磨物5を押し当てる。そして、所定の平坦度が得られるまで、研磨処理が続けられる。研磨時に作用させる押し付け力や回転定盤2とキャリア4との相対運動の速度を調整することにより、仕上がり品質が影響を受ける。
【0104】
研磨条件は特に限定されないが、効率的に研磨を行うためには、回転定盤とキャリアのそれぞれの回転速度は300rpm以下の低回転が好ましく、被研磨物にかける圧力は、研磨後に傷が発生しないように150kPa以下とすることが好ましい。研磨している間、研磨面には、スラリーをポンプ等で連続的に供給することが好ましい。スラリーの供給量は特に限定されないが、研磨面が常にスラリーで覆われるように供給することが好ましい。
【0105】
そして、研磨終了後の被研磨物を流水でよく洗浄した後、スピンドライヤ等を用いて被研磨物に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。このように、被研磨面をスラリーで研磨することによって、被研磨面全面にわたって平滑な面を得ることができる。
【0106】
このような本実施形態のCMPは、各種半導体装置、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の製造プロセスにおける研磨に好ましく用いられる。研磨対象の例としては、半導体基板上に形成された酸化膜等の絶縁膜の他、銅,アルミニウム,タングステン等の配線用金属膜;タンタル、チタン、窒化タンタル、窒化チタン等のバリアメタル膜、特には、酸化膜等の絶縁膜を研磨するのに好ましく用いられる。金属膜として配線パターンやダミーパターン等のパターンが形成されたものを研磨することも可能である。パターンにおけるライン間のピッチは、製品により異なるが、通常は50nm~100μm程度である。
【実施例
【0107】
本発明に係るシッフ塩基含有鎖伸長剤,ポリウレタン、研磨層、改質方法及び研磨方法の一例を実施例により説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例により何ら限定して解釈されるものではない。
【0108】
[製造例1]
(2,4 -ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタンの合成)
シッフ塩基含有鎖伸長剤として用いられるシッフ塩基含有ジオールとして、2,4 -ジヒドロキシベンゼン-1-イミノブタン(DBIB)の合成について説明する。
【0109】
DBIBの合成は、上述した式(8)に示したスキームに従い、次のように行った。
【0110】
210mLの酢酸エチルを収容した300mLのナスフラスコに、N-ブチルアミン 6.44g(88mmol)と、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド 11.0g(80mmol)とを溶解させ、さらに、トリエチルアミン12.3mL(88mmol)を添加した。そして、オイルバスにより40℃に維持したまま1時間攪拌することにより、上記スキームの反応を進行させた。そして、反応完了後、酢酸エチル溶液中に析出した結晶を吸引濾過した後、酢酸エチルで2回洗浄した。そして、洗浄後の結晶を70℃で7時間真空乾燥することにより、12.5gのDBIBを得た。収率は81%であった。
【0111】
なお、反応の進行は展開溶媒として酢酸エチルを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により各Rf値におけるスポットの変化をトレースすることによりモニターした。UV吸収がなくニンヒドリン試薬で紫色呈色したRf値0のスポットはブチルアミン、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で黄色呈色したRf値0.50のスポットはDBIB、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で呈色しなかったRf値0.68のスポットは2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、をそれぞれ示す。
【0112】
また、得られた結晶は、1H-NMR(400MHz、溶媒:d6-DMSO、基準:TMS)の次のピークにより、DBIBと同定した。δ(ppm):0.89-0.93(CH3, t)、1.29-1.38(CH2, m)、1.53-1.60(CH2, m)、3.47-3.50(CH2, t)、6.11(CH, s)、6.20-6.23(CH, d)、7.13-7.15(CH, d)、8.32(CH, s)、9.98(OH, s)、14.0(OH, S)
【0113】
また、得られた結晶の熱分解温度を、示差熱天秤(リガク製、商品名:TG8120)を用いて、約3.6mgの試料を窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で30℃から500℃まで昇温して測定した。熱分解温度は163℃であった。
【0114】
[製造例2]
(4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールの合成)
シッフ塩基含有鎖伸長剤として用いられるシッフ塩基含有ジオールとして、4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールの合成について説明する。
【0115】
4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールの合成は、上述した式(9)に示したスキームに従い、次のように行った。
【0116】
160mLの酢酸エチルを収容した300mLのナスフラスコに、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン 2.25g(22mmol)と、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド 2.76g(20mmol)とを溶解させ、さらに、トリエチルアミン3.06mL(22mmol)を添加した。そして、オイルバスにより40℃に維持したまま1時間攪拌することにより、上記スキームの反応を進行させた。そして、反応完了後、酢酸エチル溶媒を減圧留去し、メタノールを展開溶媒としてカラムクロマトグラフィーにより精製した。そして、得られた生成物を70℃で7時間真空乾燥することにより、3.25gの4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールを得た。収率は73%であった。
【0117】
なお、反応の進行は展開溶媒としてメタノールを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により各Rf値におけるスポットの変化をトレースすることによりモニターした。UV吸収なくニンヒドリン試薬で紫色呈色したRf値0.03のスポットはN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で黄色呈色したRf値0.21のスポットは4-[(3-ジメチルアミノ-ポロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオール、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で呈色しなかったRf値0.80のスポットは2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、をそれぞれ示す。
【0118】
また、得られた結晶は、1H-NMR(400MHz、溶媒:d6-DMSO、基準:TMS)の次のピークにより、4-[(3-ジメチルアミノ-プロピルイミノ)-メチル]-ベンゼン-1,3-ジオールと同定した。δ(ppm):1.67-1.75(CH3, m)、2.16-2.22(CH2, m)、2.24-2.26(CH2, m)、3.49-3.52(CH2, t)、6.12(CH, s)、6.21-6.24(CH, d)、7.15-7.17(CH, d)、8.32(CH, s)、13.9(OH, S)
【0119】
また、得られた結晶の熱分解温度を、示差熱天秤(リガク製、商品名:TG8120)を用いて、約1.3mgの試料を窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で30℃から500℃まで昇温して測定した。熱分解温度は169℃であった。
【0120】
[実施例1]
数平均分子量850のポリテトラメチレングリコール(PTG850)、製造例1で得られたDBIB、1,5-ペンタンジオール(PD)、および4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、PTG850:DBIB:PD:MDIの質量比が23.6:7.2:15.5:53.6(DBIBとPDのモル比が20/80)となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行ってシッフ塩基を有する熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU1)を製造した。
【0121】
(シッフ塩基を有するポリウレタンの成形シートの作成及び成形シートの表面改質)
熱プレス機を用いて、テフロン(登録商標)シートに挟んだPU1のペレット(5~14g)を200~230℃でプレスして成形することにより厚さ0.3~0.5mmのシッフ塩基を有するポリウレタンの成形シートを成形した。そして、シッフ塩基を有するポリウレタンの成形シートをpH1.75の40℃の希硫酸(10質量%)水溶液中に4日間浸漬して酸処理することにより、図1に示すように成形シートのポリウレタンに保持されたシッフ塩基を切断してブチルアミンを遊離させて、成形シートにアルデヒド基を保持させた。なお、アルデヒド基を有するポリウレタンの成形シートのシッフ塩基の切断率は次のようにして確認した。
【0122】
シッフ塩基の切断により遊離したブチルアミンによって中和された希硫酸を、0.05MのKOH水溶液で中和滴定し、定量した。また、希硫酸水溶液の蒸発による濃度変化を補正するために、同条件の希硫酸水溶液のみについても、同様にバックグラウンド(BG)として中和滴定した。そして、下記式(11)及び(12)により、遊離したブチルアミンの量を算出することにより表層のシッフ塩基の切断率を算出した。成形シートの表層のシッフ塩基の酸処理による切断率は約20%であった。
【0123】
残存希硫酸量[mol]={KOH濃度5×10-5[mol/ml]×滴定量A[mL]×(0.05 KMnO4のfactor)×希釈率)[wt%]×(採取量)[wt%]}÷2(H2SO4の価数)・・・(11)
遊離アミン量[mol]= 減少希硫酸量(=(BG-sample入り))×2・・・(12)
【0124】
そして、ポリウレタンに保持されたアルデヒド基を酸化することにより、カルボン酸基を有する成形シートを得た。具体的には、アルデヒド基を有するポリウレタンの成形シートを、2MのNaOH水溶液によりpH9.0に調整した5.0wt%の過酸化水素水中に浸漬させてポリウレタンに保持されたアルデヒド基を酸化した。このようにして、カルボン酸基を有するポリウレタンの成形シートを得た。そして、ポリウレタンに保持されたアルデヒド基の酸化のために消費された過酸化水素の量を反応溶液中の過酸化水素の残存量を定量することにより求めて酸化率とした。具体的には、反応後の過酸化水素水を0.02MKMnO水溶液(factor=0.999)で中和滴定した。また、過酸化水素の分解による減少量の影響を補正するために、2MのNaOH水溶液によりpH9.0に調整した5.0wt%の過酸化水素水についても、同様にバックグラウンド(BG)として中和滴定した。そして、過酸化水素の残存量を下記式(13)により求めた。そして、酸化により減少した過酸化水素の濃度の割合を求め、酸化率とした。成形シートの表層のアルデヒド基の酸化率は約90%であった。
【0125】
残存H2O2[g]=(0.02M KMnO4 1mLと反応するH2O2量)[g/mL]×(滴定量A)[mL]×(0.02M KMnO4のfactor)×(希釈率)[wt%]×(採取量)[wt%]・・・(13)
【0126】
そして、カルボン酸基を有するポリウレタンの成形シートの特性を次のようにして評価した。
【0127】
(ゼータ電位の測定)
30mm×60mmに切り出したカルボン酸基を有するポリウレタンの成形シートの表面を洗浄した。そして、電気泳動光散乱装置(ELS-Z、大塚電子(株)製)を使用し、平板測定用セルにサンプルを取り付け、pH3.0、及びpH4.0にHCl水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックス(大塚電子(株)製)を用いて測定した。同様に、pH8.0にNaOH水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックスを用いても測定を行った。なお、代表例として実施例1のPU1の成形シートについて、酸処理の工程と酸化の工程とを省略したときの成形シートのゼータ電位も測定した。
【0128】
(スラリーに対する親和性(砥粒との親和性初期傾き))
カルボン酸基を有するポリウレタンの成形シートについてQ-Sense社製の分子間相互作用測定装置QCM-Dを用いて、スラリーとの親和性を評価した。サンプルはMicasa社製スピンコーターMS-A100を用いて、金センサー上にポリウレタン樹脂をコートしたものを使用した。pH=3.0, 3.5, 5.5, 9.0の条件で流速50μl/min、スラリー濃度1wt%(水溶液)、測定温度30℃の条件下で測定を行った。吸着時間と吸着量の関係を示すグラフにおいて吸着開始初期の傾きを算出し、スラリーとサンプルとの間における親和性の指標とした。
【0129】
(水に対する接触角)
熱プレス法により厚さ300μmのPU1のフィルムを作製した。そして、上述のように改質処理することにより、カルボン酸基を有するポリウレタンのフィルムを得た。
そして得られたフィルムを20℃、65%RHの条件下に3日間放置した後、協和界面科学(株)製DropMaster500を用いて水に対する接触角を測定した。
【0130】
(50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率)
幅5mm、長さ30mm、厚さ2mmのPU-1の射出成形シートを作製した。そして、上述のように改質処理することにより、カルボン酸基を有するポリウレタンの成形体を得た。そして、射出成形シートを50℃の水に3日間浸漬した。そして水から取り出した射出成形シートの表面の水を拭いた後、動的粘弾性測定装置(「DVEレオスペクトラー」、(株)レオロジー製)を使用して、50℃における動的粘弾性率を周波数11Hzで測定することにより、貯蔵弾性率を求めた。
【0131】
以上の結果を下記表1及び表2にまとめて示す。なお、表2は、実施例1のPU1の成形シートの酸処理及び酸化前と酸処理及び酸化後の各pHにおけるゼータ電位も示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
[実施例2]
数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール(PTG650)、DBIB、PD、およびMDIを、PTG650:DBIB:PD:MDIの質量比が20.9:14.1:11.4:53.6(DBIBとPDのモル比が40/60)になる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU2)を製造した。そして、PU1の代わりにPU2を用いた以外は同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0135】
[実施例3]
PTG850、DBIB、1,4-ブタンジオール(BD)、およびMDIを、PTG850:DBIB:BD:MDIの質量比が26.0:7.1:13.2:53.6(DBIBとBDのモル比が20/80)となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU3)を製造した。そして、PU1の代わりにPU3を用いた以外は同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0136】
[実施例4]
PTG850、N,N’-ビスサリチリデンエチレンジアミン(BSED)、BD、およびMDIを、PTG850:BSED:BD:MDIの質量比が10.4:17.7:13.9:58.1(BSEDとBDのモル比が30/70)となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU4)を製造した。そして、PU1の代わりにPU4を用いた以外は同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0137】
[比較例1]
PTG850、BD、メチルペンタンジオール(MPD)、およびMDIを、PTG850:BD:MPD:MDIの質量比が19.0:14.7:6.4:59.9となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU11)を製造した。そして、PU1の代わりにPU11を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU11はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0138】
[比較例2]
PTG850、BD、およびMDIを、PTG850:BD:MDIの質量比が46.7:7.4:45.9となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU12)を製造した。そして、PU1の代わりにPU12を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU12はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0139】
[比較例3]
数平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)、PTG850、BD、およびMDIを、PEG600:PTG850:BD:MDIの質量比が17.4:16.4:14.3:51.9となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU13)を製造した。そして、PU1の代わりにPU13を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU13はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0140】
[比較例4]
数平均分子量2000のポリカーボネートジオール(PCD2000)、BD、PD、およびMDIを、PCD2000:BD:PD:MDIの質量比が19.5:5.0:17.4:58.1となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU14)を製造した。そして、PU1の代わりにPU14を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU14はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0141】
[比較例5]
PTG850、BD、MPD、およびMDIを、PTG850:BD:MPD:MDIの質量比が10.3:15.7:8.8:65.2となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU15)を製造した。そして、PU1の代わりにPU15を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU15はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0142】
[比較例6]
PEG600、BD、MPD、およびMDIを、PEG600:BD:MPD:MDIの質量比が10.8:15.3:8.6:65.3となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU16という)を製造した。そして、PU1の代わりにPU16を用いた以外は同様にして評価した。なお、PU16はシッフ塩基を有しないために、酸性下での処理や酸化処理をしても改質されない。結果を表1に示す。
【0143】
(研磨パッドの評価)
実施例1~4、及び比較例1~6で得られたポリウレタンPU1~PU4及びPU11~PU16を用いて研磨層を製造し、それらの研磨層からなる研磨パッドを評価した。
【0144】
[研磨性能]
PU1~PU4及びPU11~PU16のペレットを単軸押出成形機に供給し、T-ダイより押出すことにより、厚さ2.0mmのシートを成形した。そして、得られたシートの表面を研削して厚さ1.5mmの均一なシートとした後、幅1.0mm、深さ1.0mmの溝を6.5mm間隔で同心円状に形成し、直径が380mmの円形状の研磨パッドを作製した。そして、上述した「シッフ塩基を有するポリウレタンの成形シートの作成及び成形シートの表面改質」で行った処理条件と同様の条件で各研磨パッドを処理した。そして、得られた研磨パッドを(株)エム・エー・ティ製の研磨装置「MAT-BC15」に装着した。そして、(株)アライドマテリアル製のダイヤモンドドレッサー(#100-被覆率80%、直径19cm、質量1kg)を用い、蒸留水を150mL/分の速度で流しながら、ドレッサー回転数140rpm、プラテン回転数100rpm、1時間の条件でパッド表面のコンディショニングを行った。次に、スラリー原液を2倍に希釈して調整したpH4.0のスラリーを準備した。そして、プラテン回転数100rpm、ヘッド回転数99rpm、研磨圧力27.6kPaの条件において、120mL/分の速度でスラリーを研磨パッドの研磨面に供給しながら膜厚1000nmの酸化ケイ素膜を表面に有する直径4インチのシリコンウェハを60秒間研磨した。そして、60秒間の研磨後、研磨パッドのコンディショニングを30秒間行った。そして、別のシリコンウェハを再度研磨し、さらに、30秒間コンディショニングを行った。このようにして10枚のシリコンウェハを研磨した。
【0145】
そして、10枚目に研磨したシリコンウェハの研磨前および研磨後の酸化ケイ素膜の膜厚をウェハ面内で各49点測定し、各点における研磨速度を求めた。具体的には、49点の研磨速度の平均値を研磨速度とした。
【0146】
以上の結果を表3にまとめて示す。なお、PU1~PU4の研磨速度は、下記のように算出した推定値である。
(推定値算出方法)
PU11~PU16を含むポリウレタンの親和性初期傾きと砥粒との関係の既知のデータに基づいて、下記式(14)の近似式を算出した。そして、式(14)のXにPU1~PU4の実施例における親和性初期傾きを代入することにより、Y値である研磨速度の推定値を算出した。
Y=0.1658*X+368.36 ・・・(14)
【0147】
【表3】
【0148】
表3の結果から、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下の範囲である実施例1~4で得られた研磨パッドによれば、pH3.0の酸性のスラリーを用いても高い親和性が得られることがわかる。一方、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mVを超える比較例1~6で得られた研磨パッドは、高い親和性が得られなかった。また、表3から、親和性初期傾きが高くなるほど研磨速度が高くなることがわかる。
【0149】
[製造例3]
(3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールの合成)
シッフ塩基含有鎖伸長剤として用いられるシッフ塩基含有ジオールとして、3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールの合成について説明する。
【0150】
3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールの合成は、上述した式(10)に示したスキームに従い、次のように行った。
【0151】
100mLの酢酸エチルを収容した300mLのナスフラスコに、テレフタルアルデヒド 4.02g(30mmol)と、3-アミノ-1-プロパノール 6.75g(90mmol)とを溶解させ、さらに、トリエチルアミン12.5mL(90mmol)を添加した。そして、オイルバスにより40℃に維持したまま5時間攪拌することにより、上記スキームの反応を進行させた。そして、反応完了後、pH7.0に調整したNaCl水溶液にて洗浄した後、酢酸エチルを展開溶媒としてカラムクロマトグラフィーにより精製した。そして、得られた生成物を70℃で7時間真空乾燥することにより、4.93gの3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールを得た。収率は66%であった。
【0152】
なお、反応の進行は展開溶媒として酢酸エチルを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により各Rf値におけるスポットの変化をトレースすることによりモニターした。UV吸収なくニンヒドリン試薬で紫色呈色したRf値0のスポットは3-アミノ-1-プロパノール、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で赤紫色呈色したRf値0.20のスポットは3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール、UV吸収を示し、ニンヒドリン試薬で呈色しなかったRf値0.63のスポットはテレフタルアルデヒド、をそれぞれ示す。
【0153】
また、得られた結晶は、1H-NMR(400MHz、溶媒:d6-DMSO、基準:TMS)の次のピークにより、DBIBと同定した。δ(ppm):1.74-1.80(CH2, m)、3.46-3.50(CH2, t)、3.61-3.65(CH2, t)、4.47(CH, s)、7.87-7.89(CH, d)、8.38-8.46(CH, d)、10.1(OH, s)
【0154】
また、得られた結晶の熱分解温度を、示差熱天秤(リガク製、商品名:TG8120)を用いて、約1.7mgの試料を窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で30℃から500℃まで昇温して測定した。熱分解温度は228℃であった。
【0155】
[実施例5]
数平均分子量850のポリテトラメチレングリコール(PTG850)、製造例3で得られた3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール、1,4-ブタンジオール(BD)、および4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、PTG850:3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オール:BD:MDIの質量比が31.5:7.9:11.5:49.1(3-〔{4-[(3-ヒドロキシ- プロピルイミノ)-メチル]-ベンジリデン}-アミノ〕-プロパン-1-オールとBDのモル比が20/80)となる割合で用いて、定量ポンプにより同軸で回転する2軸押出機に連続的に供給して、連続溶融重合を行ってシッフ塩基を有する熱可塑性ポリウレタンを製造した。生成した熱可塑性ポリウレタンの溶融物をストランド状に水中に連続的に押出した後、ペレタイザーでペレット状に細断し、得られたペレットを80℃で20時間除湿乾燥することにより、熱可塑性ポリウレタン(PU5)を製造した。
【0156】
(シッフ塩基を有するポリウレタンの成形シートの作成及び成形シートの表面改質)
PU5を、熱プレス機を用いて、テフロンシートに挟んだペレット(5~14g)を200~230℃にてプレスして成形することにより厚さ0.3~0.5mmの成形シートを成形した。そして、得られた成形シートをpH1.75の50℃の希硫酸(10質量%)水溶液中に2日間浸漬して酸処理することにより、図4に示すように成形シート表層のシッフ塩基を切断してテレフタルアルデヒドを遊離させることにより、アミノ基を有するポリウレタンの成形シートを得た。
【0157】
そして、アミノ基を有するポリウレタンの成形シートの特性を次のようにして評価した。
(ゼータ電位の測定)
30mm×60mmに切り出した成形シートの表面を洗浄した。そして、電気泳動光散乱装置(ELS-Z、大塚電子(株)製)を使用し、平板測定用セルにサンプルを取り付け、pH3.0にHCl水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックス(大塚電子(株)製)を用いて測定した。同様に、pH5.0にHCl水溶液及びNaOH水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックスを用いても測定を行った。また同様に、pH8.0にNaOH水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックスを用いても測定を行った。なお、比較として、酸処理の工程を省略したときの成形シートのゼータ電位も測定した。
【0158】
以上の結果を表4に示す。
【0159】
【表4】
【0160】
図4に示すようにPU5を酸処理することにより、アミノ基を有するポリウレタンが得られる。表4に示すように、このようなアミノ基を有するポリウレタンは、各pHにおけるゼータ電位が高いものになる。このような表面にアミノ基を有するポリウレタンを含む研磨層を用いた場合、塩基性領域においても、ゼータ電位が負の砥粒に対して高い親和性を示す、ゼータ電位が正の研磨層が得られる点から好ましい。
【0161】
(シッフ塩基を有するポリウレタンを含有する不織布シートの作成及び不織布シートの表面改質)
実施例1と同様にして作製したペレットPU1を準備した。そして、ペレットPU1に、実施例1と同様の表面改質処理を実施することにより、カルボン酸を有するポリウレタンのペレットを作製した。このペレットをDMFに溶解させて、ポリウレタン溶液(濃度13質量%)を調製した。そして、ポリウレタン溶液を不織布にディップニップ処理することにより含浸付与し、凝固させることにより、シッフ塩基を有するポリウレタンを含有する不織布シートを製造した。なお、不織布は、ポリエステル系樹脂から成る不織布を用いた。このようにして得られた不織布シートは、ポリウレタンを20質量%含有し、見掛け密度が0.40g/cmであった。なお、比較のために、表面処理を実施しなかったPU1を用いて、同様にして不織布シートを製造した。
【0162】
そして、上述した方法と同様にして、不織布シートの各pHにおけるゼータ電位を測定した。
【0163】
以上の結果を下記表5に示す。
【0164】
【表5】
【符号の説明】
【0165】
1 研磨パッド
2 回転定盤
3 スラリー供給ノズル
4 キャリア
5 被研磨物
6 パッドコンディショナー
7 スラリー
10 CMP装置
図1
図2
図3
図4
図5