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特許7182007保護層形成用組成物、層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法
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  • 特許-保護層形成用組成物、層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】保護層形成用組成物、層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20221124BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H01L21/312 A
G03F7/11 502
G03F7/11 503
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021535339
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028783
(87)【国際公開番号】W WO2021020361
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019140023
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高桑 英希
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 和人
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-302208(JP,A)
【文献】特開平02-113254(JP,A)
【文献】特開平05-011405(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175220(WO,A1)
【文献】特開2006-093667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312
G03F 7/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂と、重量平均分子量が140以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物と、水とを含有し、前記化合物の含有量が、保護層形成用組成物の総量に対し、0.01~5質量%である保護層形成用組成物。
【請求項2】
水溶性樹脂と、重量平均分子量が100以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物と、水とを含有し、前記複数のオキシアルキレン構造がオキシエチレン構造を含み、前記化合物の含有量が、保護層形成用組成物の総量に対し、0.01~5質量%である保護層形成用組成物。
【請求項3】
水溶性樹脂と、重量平均分子量が140以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物と、水とを含有し、前記複数のオキシアルキレン構造がオキシプロピレン構造を含む、保護層形成用組成物。
【請求項4】
前記化合物が、水酸基を1つ以上有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項5】
前記化合物が有する水酸基の数が2~8である、
請求項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項6】
前記化合物の重量平均分子量が1600以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項7】
前記化合物として、下記式(OA-1)で表される化合物を含有する、
請求項1~のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物;
【化1】
式(OA-1)において、
a1は、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表し、
a2は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
a3は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
mは、2~50の整数を表し、
nは、mが付された構成単位ごとに独立して1~20の整数を表し、
pは、0または1を表す;
【化2】
式(OA-2)において、
b1は、qが付された構成単位ごとに独立して、炭素数1~20のアルキレン基を表し、
qは、1~25の整数を表し、
rは、0または1を表す。
【請求項8】
式(OA-1)において、mが10以下である、
請求項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項9】
式(OA-1)において、mが15~40である、
請求項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項10】
式(OA-1)において、nが10以下である、
請求項のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項11】
前記複数のオキシアルキレン構造が、オキシエチレン構造およびオキシプロピレン構造の少なくとも1種を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項12】
前記化合物の含有量が、前記水溶性樹脂の含有量に対し1~30質量%である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項13】
前記化合物の分子量Mallに対するオキシアルキレン鎖の合計の式量Moaの割合Moa/Mallが、%表示で50%以上である、
請求項1~12のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項14】
前記化合物の沸点が200℃以上である、
請求項1~13のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項15】
前記水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび水溶性多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
請求項1~14のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項16】
前記水溶性樹脂として、高分子量樹脂と、前記高分子量樹脂の重量平均分子量よりも小さい重量平均分子量を有する低分子量樹脂とを含み、
前記低分子量樹脂の重量平均分子量が、前記高分子量樹脂の重量平均分子量の半分以下である、
請求項1~15のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物。
【請求項17】
前記高分子量樹脂の含有量が、全水溶性樹脂に対し30質量%以下である、
請求項16に記載の保護層形成用組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物からなる層状膜。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物から形成された保護層。
【請求項20】
基板と、有機層と、請求項19に記載の保護層とを順に含む積層体。
【請求項21】
さらに保護層上に感光層を含む、
請求項20に記載の積層体。
【請求項22】
有機層と、前記有機層を保護する保護層と、前記保護層上の感光層を順に含む積層体を形成するためのキットであって、
請求項1~17のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物と、前記感光層を形成するための感光層形成用組成物とを含むキット。
【請求項23】
請求項1~17のいずれか1項に記載の保護層形成用組成物から形成した保護層を利用して有機層をパターニングすることを含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層形成用組成物、層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体を用いた電子デバイス(有機半導体デバイス)が広く用いられている。有機半導体デバイスは、従来のシリコンなどの無機半導体を用いた電子デバイスと比べて簡単なプロセスにより製造できるというメリットがある。さらに、有機半導体は、その分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能である。また、材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体では成し得なかったような機能や素子を実現することが可能になると考えられている。有機半導体は、例えば、有機太陽電池、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、有機光ディテクター、有機電界効果トランジスタ、有機電界発光素子、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子等の電子機器に応用される可能性がある。
【0003】
有機半導体層のような有機層の主なパターニング方法は、例えば印刷法とリソグラフィ法があるが、微細加工の観点からは、リソグラフィ法が有利である。
【0004】
例えば、特許文献1には、有機半導体層のパターニング方法であって、有機半導体層、水溶性樹脂層および感光層を含む積層体を基板上に形成し、感光層をフォトリソグラフィ法によりパターニングし、その後、パターニングされた感光層をマスクとして水溶性樹脂層および有機半導体層をドライエッチングし、次いで水溶性樹脂層を除去する方法が記載されている。ここで、上記水溶性樹脂層は、パターニングの際に使用される薬液(例えば、感光層を現像するための現像液)から有機半導体層を保護する保護層として機能することにより、有機半導体層のダメージを低減する役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-044810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の水溶性樹脂層(保護層)では、エッチング後に保護層にクラックが生じやすく、さらに、保護層の除去後に有機層上に残渣が生じやすいという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、リソグラフィ法による有機層のパターニングにおいて、有機層のエッチング後における保護層のクラック、および、保護層の除去後における有機層上の残渣を抑制できる保護層形成用組成物の提供を目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記保護層形成用組成物を応用した層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、水溶性樹脂を含有する保護層を形成するための組成物に、所定の分子量で複数のオキシアルキレン構造(-OR-:ここでRはアルキレン基を表す。)を有する化合物を添加することにより、解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
水溶性樹脂と、重量平均分子量が100以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物と、水とを含有する保護層形成用組成物。
<2>
上記化合物が、水酸基を1つ以上有する、
<1>に記載の保護層形成用組成物。
<3>
上記化合物が有する水酸基の数が2~8である、
<2>に記載の保護層形成用組成物。
<4>
上記化合物の重量平均分子量が1600以下である、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<5>
上記化合物として、下記式(OA-1)で表される化合物を含有する、
<1>~<4>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物;
【化1】
式(OA-1)において、
a1は、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表し、
a2は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
a3は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
mは、2~50の整数を表し、
nは、mが付された構成単位ごとに独立して1~20の整数を表し、
pは、0または1を表す;
【化2】
式(OA-2)において、
b1は、qが付された構成単位ごとに独立して、炭素数1~20のアルキレン基を表し、
qは、1~25の整数を表し、
rは、0または1を表す。
<6>
式(OA-1)において、mが10以下である、
<5>に記載の保護層形成用組成物。
<7>
式(OA-1)において、mが15~40である、
<5>に記載の保護層形成用組成物。
<8>
式(OA-1)において、nが10以下である、
<5>~<7>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<9>
上記複数のオキシアルキレン構造が、オキシエチレン構造およびオキシプロピレン構造の少なくとも1種を含む、
<1>~<8>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<10>
上記化合物の含有量が、水溶性樹脂の含有量に対し1~30質量%である、
<1>~<9>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<11>
上記化合物の分子量Mallに対するオキシアルキレン鎖の合計の式量Moaの割合Moa/Mallが、%表示で50%以上である、
<1>~<10>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<12>
上記化合物の沸点が200℃以上である、
<1>~<11>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<13>
水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび水溶性多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
<1>~<12>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<14>
水溶性樹脂として、高分子量樹脂と、高分子量樹脂の重量平均分子量よりも小さい重量平均分子量を有する低分子量樹脂とを含み、
低分子量樹脂の重量平均分子量が、高分子量樹脂の重量平均分子量の半分以下である、
<1>~<13>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物。
<15>
高分子量樹脂の含有量が、全水溶性樹脂に対し30質量%以下である、
<14>に記載の保護層形成用組成物。
<16>
<1>~<15>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物からなる層状膜。
<17>
<1>~<15>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物から形成された保護層。
<18>
基板と、有機層と、<17>に記載の保護層とを順に含む積層体。
<19>
さらに保護層上に感光層を含む、
<18>に記載の積層体。
<20>
有機層と、有機層を保護する保護層と、保護層上の感光層を順に含む積層体を形成するためのキットであって、
<1>~<15>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物と、感光層を形成するための感光層形成用組成物とを含むキット。
<21>
<1>~<15>のいずれか1つに記載の保護層形成用組成物から形成した保護層を利用して有機層をパターニングすることを含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保護層形成用組成物により、リソグラフィ法による有機層のパターニングにおいて、有機層のエッチング後における保護層のクラック、および、保護層の除去後における有機層上の残渣を抑制できる。そして、本発明の保護層形成用組成物により、これを応用した層状膜、保護層、積層体および半導体デバイスの製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】保護層形成用組成物を応用した積層体の加工過程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明する。各構成要素は、便宜上、この代表的な実施形態に基づいて説明されるが、本発明は、そのような実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、その工程の所期の作用が達成できる限りにおいて、他の工程と明確に区別できない工程も含む意味である。
【0015】
本明細書における基(原子団)の表記について、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に、置換基を有するものをも包含する意味である。例えば、単に「アルキル基」と記載した場合には、これは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)、および、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)の両方を包含する意味である。また、単に「アルキル基」と記載した場合には、これは、鎖状でも環状でもよく、鎖状の場合には、直鎖でも分岐でもよい意味である。これらのことは、「アルケニル基」、「アルキレン基」および「アルケニレン基」等の他の基についても同義とする。
【0016】
本明細書において「露光」とは、特に断らない限り、光を用いた描画のみならず、電子線、イオンビーム等の粒子線を用いた描画も含む意味である。描画に用いられるエネルギー線としては、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光)およびX線などの活性光線、ならびに、電子線およびイオン線などの粒子線が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「光」には、特に断らない限り、紫外、近紫外、遠紫外、可視、赤外等の領域の波長の光や、電磁波だけでなく、放射線も含まれる。放射線には、例えばマイクロ波、電子線、極端紫外線(EUV)、X線が含まれる。また248nmエキシマレーザー、193nmエキシマレーザー、172nmエキシマレーザーなどのレーザー光も用いることができる。これらの光は、光学フィルターを通したモノクロ光(単一波長光)を用いてもよいし、複数の波長を含む光(複合光)でもよい。
【0018】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の両方、または、いずれかを意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の両方、または、いずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」および「メタクリロイル」の両方、または、いずれかを意味する。
【0019】
本明細書において、組成物中の固形分は、溶剤を除く他の成分を意味し、組成物中の固形分の含有量(濃度)は、特に述べない限り、その組成物の総質量に対する、溶剤を除く他の成分の質量百分率によって表される。
【0020】
本明細書において、特に述べない限り、温度は23℃、気圧は101325Pa(1気圧)である。
【0021】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、特に述べない限り、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC測定)に従い、ポリスチレン換算値として示される。この重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、例えば、HLC-8220(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてガードカラムHZ-L、TSKgel Super HZM-M、TSKgel Super HZ4000、TSKgel Super HZ3000およびTSKgel Super HZ2000(東ソー(株)製)を用いることによって求めることができる。また、特に述べない限り、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて測定したものとする。また、特に述べない限り、GPC測定における検出には、UV線(紫外線)の波長254nm検出器を使用したものとする。
【0022】
本明細書において、積層体を構成する各層の位置関係について、「上」または「下」と記載したときには、注目している複数の層のうち基準となる層の上側または下側に他の層があればよい。すなわち、基準となる層と上記他の層の間に、さらに第3の層や要素が介在していてもよく、基準となる層と上記他の層は接している必要はない。また、特に断らない限り、基材に対し層が積み重なっていく方向を「上」と称し、または、感光層がある場合には、基材から感光層へ向かう方向を「上」と称し、その反対方向を「下」と称する。なお、このような上下方向の設定は、本明細書中における便宜のためであり、実際の態様においては、本明細書における「上」方向は、鉛直上向きと異なることもありうる。
【0023】
<保護層形成用組成物>
本発明の保護層形成用組成物は、水溶性樹脂と、重量平均分子量が100以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物(以下、「特定親水性化合物」ともいう。)と、水とを含有する。また、保護層形成用組成物は必要に応じて他の成分を含んでもよい。本発明の保護層形成用組成物は、後述する積層体に含まれる保護層の形成に使用される。
【0024】
本発明では、保護層形成用組成物が特定親水性化合物を含有することにより、リソグラフィ法による有機層のパターニングにおいて、有機層のエッチング後における保護層のクラック、および、保護層の除去後における有機層上の残渣を抑制できる。
【0025】
この理由は定かではないが、次のとおりと考えられる。複数のオキシアルキレン構造を有する化合物において、例えばジエチレングリコールのように分子量が小さいものは常温(23℃程度)で液体であり、これを樹脂に混合すれば、樹脂が軟質化すると予想できる。一方、例えばポリエチレングリコールのように比較的分子量が大きい化合物は、一般に樹脂の可塑剤として使用できることが既に知られている。したがって、保護層形成用組成物が特定親水性化合物を含むことで、この組成物を用いて形成した保護層が軟質化すると推定される。その結果、保護層が下地の段差に追従しやすくなり、さらには保護層中の応力が緩和されやすくなることで、保護層でのクラック発生が抑制されると考えられる。また、特定親水性化合物の重量平均分子量は2000未満であり、これは水溶性樹脂の重量平均分子量に比べて小さい。したがって、特定親水性化合物は、水溶性樹脂に比べて、保護層形成用組成物中を移動しやすい材料であると言える。これにより、保護層形成用組成物を有機層上に塗布した際に、特定親水性化合物が、水溶性樹脂よりも有機層の親水性部位に速やかに吸着すると推定される。その結果、有機層と水溶性樹脂との吸着点が減少し、有機層上に形成した保護層が除去されやすくなることで、有機層上の残渣が抑制されると考えられる。
【0026】
以下、本発明の保護層形成用組成物の各成分について、詳しく説明する。
【0027】
<<水溶性樹脂>>
水溶性樹脂とは、23℃における水100gに対して1g以上溶解する樹脂をいう。そして、水溶性樹脂は、23℃における水100gに対して5g以上溶解する樹脂であることが好ましく、10g以上溶解する樹脂であることがより好ましく、30g以上溶解する樹脂であることがさらに好ましい。溶解量の上限は特にないが、100g程度であることが実際的である。
【0028】
水溶性樹脂は、親水性基を含む樹脂が好ましく、親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、イミド基などが例示される。
【0029】
水溶性樹脂としては、具体的には、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、水溶性多糖類(水溶性のセルロース(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピルメチルセルロース等)、プルラン又はプルラン誘導体、デンプン(ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン等)、キトサン、シクロデキストリン)、ポリエチレンオキシド、ポリエチルオキサゾリン、メチロールメラミン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、スチレン/マレイン酸半エステル等を挙げることができる。また、これらの中から、2種以上を選択して使用してもよく、共重合体として使用してもよい。本発明において、保護層形成用組成物は、これらの樹脂の中でも、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、水溶性多糖類、プルランおよびプルラン誘導体からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよび水溶性多糖類からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性多糖類は、特にセルロースであることが好ましく、ヒドロキシエチルセルロースであることがより好ましい。
【0030】
具体的には、本発明では、保護層形成用組成物に含まれる水溶性樹脂が、式(P1-1)~式(P4-1)のいずれかで表される繰返し単位を含む樹脂であることが好ましい。
【0031】
【化3】
【0032】
式(P1-1)~(P4-1)中、RP1は水素原子又はメチル基を表し、RP2は水素原子又はメチル基を表し、RP3は(CHCHO)maH、CHCOONa又は水素原子を表し、maは1または2を表す。
【0033】
〔式(P1-1)で表される繰返し単位を含む樹脂〕
式(P1-1)中、RP1は水素原子が好ましい。
式(P1-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P1-1)で表される繰返し単位とは異なる繰返し単位をさらに含んでもよい。式(P1-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P1-1)で表される繰返し単位を、樹脂の全質量に対して65質量%~90質量%含むことが好ましく、70質量%~88質量%含むことがより好ましい。
【0034】
式(P1-1)で表される繰返し単位を含む樹脂としては、下記式(P1-2)で表される2つの繰返し単位を含む樹脂が挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
式(P1-2)中、RP11はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、RP12は置換基を表し、np1およびnp2は質量基準での分子中の繰り返し単位の構成比率を表す。
式(P1-2)中、RP11は式(P1-1)におけるRP1と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0037】
式(P1-2)中、RP12としては-L-Tで表される基が挙げられる。Lは単結合又は後述する連結基Lである。Tは置換基であり、後述する置換基Tの例が挙げられる。なかでも、RP12としてはアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、又はアリールアルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)等の炭化水素基が好ましい。これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基は、本発明の効果を奏する範囲で、さらに置換基Tで規定される基を有していてもよい。
【0038】
式(P1-2)中、np1およびnp2は質量基準での分子中の繰り返し単位の構成比率を表し、それぞれ独立に、10質量%以上100質量%未満である。ただしnp1+np2が100質量%を超えることはない。np1+np2が100質量%未満である場合とは、水溶性樹脂が、その他の繰返し単位を含むコポリマーであることを意味する。
【0039】
〔式(P2-1)で表される繰返し単位を含む樹脂〕
式(P2-1)中、RP2は水素原子が好ましい。
式(P2-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P2-1)で表される繰返し単位とは異なる繰返し単位をさらに含んでもよい。式(P2-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P2-1)で表される繰返し単位を、樹脂の全質量に対して50質量%~98質量%含むことが好ましく、70質量%~98質量%含むことがより好ましい。
【0040】
式(P2-1)で表される繰返し単位を含む樹脂としては、下記式(P2-2)で表される2つの繰返し単位を含む樹脂が挙げられる。
【0041】
【化5】
【0042】
式(P2-2)中、RP21はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、RP22は置換基を表し、mp1およびmp2は質量基準での分子中の繰り返し単位の構成比率を表す。
式(P2-2)中、RP21は式(P2-1)におけるRP2と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0043】
式(P2-2)中、RP22としては-L-Tで表される基が挙げられる。Lは単結合又は後述する連結基Lである。Tは置換基であり、後述する置換基Tの例が挙げられる。なかでも、RP22としてはアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、又はアリールアルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)等の炭化水素基が好ましい。これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基は、本発明の効果を奏する範囲で、さらに置換基Tで規定される基を有していてもよい。
【0044】
式(P2-2)中、mp1およびmp2は質量基準での分子中の構成比率を表し、それぞれ独立に、10質量%以上100質量%未満である。ただしmp1+mp2が100質量%を超えることはない。mp1+mp2が100質量%未満である場合とは、水溶性樹脂が、その他の繰返し単位を含むコポリマーであることを意味する。
【0045】
〔式(P3-1)で表される繰返し単位を含む樹脂〕
式(P3-1)中、RP3は水素原子が好ましい。
式(P3-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P3-1)で表される繰返し単位とは異なる繰返し単位をさらに含んでもよい。式(P3-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P3-1)で表される繰返し単位を、樹脂の全質量に対して10質量%~90質量%含むことが好ましく、30質量%~80質量%含むことがより好ましい。
【0046】
また、式(P3-1)に記載された水酸基は適宜置換基T又はそれと連結基Lを組み合わせた基で置換されていてもよい。置換基Tは複数あるとき互いに結合して、あるいは連結基Lを介して又は介さずに式中の環と結合して環を形成していてもよい。
【0047】
〔式(P4-1)で表される繰返し単位を含む樹脂〕
式(P4-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P4-1)で表される繰返し単位とは異なる繰返し単位をさらに含んでもよい。式(P4-1)で表される繰返し単位を含む樹脂は、式(P4-1)で表される繰返し単位を、樹脂の全質量に対して8質量%~95質量%含むことが好ましく、20質量%~88質量%含むことがより好ましい。
【0048】
また、式(P4-1)に記載された水酸基は適宜置換基T又はそれと連結基Lを組み合わせた基で置換されていてもよい。置換基Tは複数あるとき互いに結合して、あるいは連結基Lを介して又は介さずに式中の環と結合して環を形成していてもよい。
【0049】
置換基Tとしては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~21が好ましく、7~15がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、水酸基、アミノ基(炭素数0~24が好ましく、0~12がより好ましく、0~6がさらに好ましい)、チオール基、カルボキシ基、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アルコキシル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アシルオキシ基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリーロイル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アリーロイルオキシ基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、カルバモイル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、スルファモイル基(炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~3がさらに好ましい)、スルホ基、アルキルスルホニル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アリールスルホニル基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロアリール基(炭素数1~12が好ましく、1~8がより好ましく、2~5がさらに好ましく、5員環又は6員環を含むことが好ましい)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、オキソ基(=O)、イミノ基(=NR)、アルキリデン基(=C(R)などが挙げられる。Rは水素原子又はアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)であり、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。各置換基に含まれるアルキル部位、アルケニル部位、およびアルキニル部位は鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。上記置換基Tが置換基を取りうる基である場合にはさらに置換基Tを有してもよい。例えば、アルキル基はハロゲン化アルキル基となってもよいし、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、アミノアルキル基やカルボキシアルキル基になっていてもよい。置換基がカルボキシ基やアミノ基などの塩を形成しうる基の場合、その基が塩を形成していてもよい。
【0050】
連結基Lとしては、アルキレン基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニレン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、(オリゴ)オキシアルキレン基(1つの繰返し単位中のアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい;繰返し数は1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい)、アリーレン基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、チオカルボニル基、-NR-、およびそれらの組み合わせにかかる連結基が挙げられる。アルキレン基は置換基Tを有していてもよい。例えば、アルキレン基が水酸基を有していてもよい。連結基Lに含まれる原子数は水素原子を除いて1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい。連結原子数は連結に関与する原子団のうち最短の道程に位置する原子数を意味する。例えば、-CH-(C=O)-O-だと、連結に関与する原子は6個であり、水素原子を除いても4個である。一方連結に関与する最短の原子は-C-C-O-であり、3つとなる。この連結原子数として、1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。なお、上記アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、(オリゴ)オキシアルキレン基は、鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。連結基が-NR-などの塩を形成しうる基の場合、その基が塩を形成していてもよい。
【0051】
また、水溶性樹脂としては市販品を用いてもよく、市販品としては、第一工業製薬(株)製 ピッツコールシリーズ(K-30、K-50、K-80、K-90、V-7154など)、BASF社製LUVITECシリーズ(VA64P、VA6535Pなど)、日本酢ビ・ポバール(株)製PXP-05、JL-05E、JP-03、JP-04、AMPS、アルドリッチ社製Nanoclay等が挙げられる。
これらの中でも、ピッツコールK-90、PXP-05又はピッツコールV-7154を用いることが好ましく、ピッツコールV-7154を用いることがより好ましい。
【0052】
水溶性樹脂については、国際公開第2016/175220号に記載の樹脂を引用し、そのような樹脂も本明細書に組み込まれる。
【0053】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、水溶性樹脂の種類に応じて適宜選択される。本明細書において、水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、GPC測定によるポリエーテルオキサイド換算値とする。特に、水溶性樹脂がポリビニルアルコール(PVA)である場合には、重量平均分子量は、10,000~100,000であることが好ましい。この数値範囲の上限は、80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましい。また、この数値範囲の下限は、13,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましい。水溶性樹脂がポリビニルピロリドン(PVP)である場合には、重量平均分子量は、20,000~2,000,000であることが好ましい。この数値範囲の上限は、1,800,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましい。また、この数値範囲の下限は、30,000以上であることが好ましく、40,000以上であることがより好ましい。水溶性樹脂が水溶性多糖類である場合には、重量平均分子量は、50,000~2,000,000であることが好ましい。この数値範囲の上限は、1,500,000以下であることが好ましく、1,300,000以下であることがより好ましい。また、この数値範囲の下限は、70,000以上であることが好ましく、90,000以上であることがより好ましい。
【0054】
水溶性樹脂の分子量分散度(重量平均分子量/数平均分子量、単に「分散度」ともいう。)は、1.0~5.0が好ましく、2.0~4.0がより好ましい。
【0055】
さらに、本発明において、保護層形成用組成物は、水溶性樹脂として、高分子量樹脂(例えば、重量平均分子量が10,000以上の水溶性樹脂)と、この高分子量樹脂の重量平均分子量よりも小さい重量平均分子量を有する低分子量樹脂とを含み、かつ、低分子量樹脂の重量平均分子量が、高分子量樹脂の重量平均分子量の半分以下であることが好ましい。これにより、低分子量樹脂が除去液(特に水)に速やかに溶出し、低分子量樹脂が溶出した部分を起点にして高分子量樹脂も除去されやすくなるため、保護層除去後の保護層の残渣がより低減する効果が得られる。また、保護層形成用組成物を使用して保護層を形成する際に、保護層にクラックが発生することを抑制できる。
【0056】
本発明において、保護層形成用組成物が上記高分子量樹脂および上記低分子量樹脂を含むか否かは、例えば、保護層形成用組成物または水溶性樹脂全体の分子量分布を測定した際に、ピークトップ(極大値)が2つ以上確認できるか否かに基づいて判断できる。
【0057】
高分子量樹脂の重量平均分子量は、20,000以上であることが好ましく、45,000以上であることが好ましい。また、高分子量樹脂の重量平均分子量は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下でもよい。高分子量樹脂に対する低分子量樹脂の分子量比(=低分子量樹脂の重量平均分子量/高分子量樹脂の重量平均分子量)は、0.4以下であることが好ましい。この分子量比の上限は、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。また、上記分子量比の下限は、特に制限されないが、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であってもよい。
【0058】
また、本発明で使用する水溶性樹脂全体の分子量分布において、2つ以上のピークトップが存在し、この2つ以上のピークトップのうち、1つのピークトップに対応する分子量が、他の1つのピークトップに対応する分子量の半分以下であることも好ましい。これにより、低分子量樹脂の重量平均分子量が高分子量樹脂の重量平均分子量の半分以下である場合と同様の効果が得られる。上記のような分子量分布を有する水溶性樹脂は、例えば、上記高分子量樹脂および上記低分子量樹脂を混合することにより得られる。分子量分布中に複数のピークが確認される場合には、それらピークトップの中から2つ1組のピークトップを選択し、少なくとも1組のピークトップについて、一方のピークトップに対応する分子量が、他方のピークトップに対応する分子量の半分以下であればよい。
【0059】
上記ピークトップが対応する分子量(ピークトップ分子量)のうち大きい方は、20,000以上であることが好ましく、45,000以上であることが好ましい。また、上記ピークトップ分子量の大きい方は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下でもよい。上記ピークトップ分子量の大きい方に対する小さい方の分子量比(=ピークトップ分子量の小さい方/ピークトップ分子量の大きい方)は、0.4以下であることが好ましい。この分子量比の上限は、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。また、上記分子量比の下限は、特に制限されないが、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であってもよい。
【0060】
高分子量樹脂の重量平均分子量と低分子量樹脂の重量平均分子量の差(水溶性樹脂全体の分子量分布をとった場合には、ピーク間の分子量距離)は、高分子量樹脂としてPVAを含む場合には、10,000~80,000であることが好ましく、20,000~60,000であることがより好ましい。高分子量樹脂としてPVPを含む場合には、上記差は、50,000~1,500,000であることが好ましく、100,000~1,200,000であることがより好ましい。高分子量樹脂として水溶性多糖類を含む場合には、上記差は、50,000~1,500,000であることが好ましく、100,000~1,200,000であることがより好ましい。
【0061】
特に、本発明において、水溶性樹脂は、高分子量樹脂として、重量平均分子量が20,000以上であるPVAを含むことが好ましい。この場合、重量平均分子量は、30,000以上であることがより好ましく、40,000以上であることがさらに好ましい。また、本発明において、水溶性樹脂は、高分子量樹脂として、重量平均分子量が300,000以上であるPVPを含むことも好ましい。この場合、重量平均分子量は、400,000以上であることがより好ましく、500,000以上であることがさらに好ましい。さらに、本発明において、水溶性樹脂は、高分子量樹脂として、重量平均分子量が300,000以上である水溶性多糖類を含むことも好ましい。この場合、重量平均分子量は、400,000以上であることがより好ましく、500,000以上であることがさらに好ましい。
【0062】
高分子量樹脂と低分子量樹脂の好ましい組み合わせは、例えば下記のとおりである。水溶性樹脂は、下記の組み合わせの1つの要件を満たすのみでもよいが、2つ以上の組み合わせの要件を同時に満たす態様でもよい。
・重量平均分子量Mwが30,000~100,000のPVA(高分子量樹脂)と、Mwが10,000~40,000のPVA(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000のPVP(高分子量樹脂)と、Mwが30,000~600,000のPVP(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000の水溶性多糖類(高分子量樹脂)と、Mwが50,000~600,000の水溶性多糖類(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000のPVP(高分子量樹脂)と、Mwが10,000~100,000のPVA(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000の水溶性多糖類(高分子量樹脂)と、Mwが10,000~100,000のPVA(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000のPVP(高分子量樹脂)と、Mwが50,000~600,000の水溶性多糖類(低分子量樹脂)の組み合わせ。
・Mwが500,000~1,500,000の水溶性多糖類(高分子量樹脂)と、Mwが30,000~600,000のPVP(低分子量樹脂)の組み合わせ。
【0063】
高分子量樹脂の含有量は、全水溶性樹脂に対し50質量%以下であることが好ましい。この数値範囲の上限は、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0064】
一方、水溶性樹脂は、低分子量樹脂を実質的に含まない態様でもよい。本発明において、「低分子量樹脂を実質的に含まない」とは、低分子量樹脂の含有量が、全水溶性樹脂に対し3質量%以下であることを意味する。この態様において、低分子量樹脂の含有量は、全水溶性樹脂に対し1質量%以下であることが好ましい。
【0065】
保護層形成用組成物中の全水溶性樹脂の含有量は、必要に応じて適宜調節すればよく、保護層形成用組成物の総量に対し、5~15質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、6質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましい。また、保護層形成用組成物中の全水溶性樹脂の含有量は、固形分中、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。下限としては、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。
【0066】
保護層形成用組成物において、水溶性樹脂は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0067】
<<複数のオキシアルキレン構造を有する化合物(特定親水性化合物)>>
本発明の保護層形成用組成物が含有する特定親水性化合物は、上記のとおり、重量平均分子量が100以上2000未満でありかつ複数のオキシアルキレン構造を有する化合物である。特定親水性化合物は、複数のオキシアルキレン構造を有することにより親水性を示し、この親水性により他の有機材料の親水性部位に吸着しやすい性質を有する。本発明において、「オキシアルキレン構造」は、1つの酸素原子と1つのアルキレン基とからなる2価の基(-OR-:ここでRはアルキレン基を表す。)を意味する。アルキレン基は、側鎖に置換基を有していてもよく、無置換でもよく、好ましくは無置換である。
【0068】
特定親水性化合物の分子量の上限は、1600以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、800以下であることがさらに好ましく、400以下であることが特に好ましい。特定親水性化合物の分子量が上記上限以下にあることで、保護層形成用組成物中で特定親水性化合物がより移動しやすくなるなどの効果がある。また、特定親水性化合物の分子量の下限は、110以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、130以上であることがさらに好ましく、140以上であることが特に好ましい。特定親水性化合物の分子量が上記下限以上にあることで、特定親水性化合物がより揮発しにくくなるなどの効果がある。
【0069】
特定親水性化合物は、常温(23℃程度)において液体であっても固体であってもよく、液体であることが好ましい。特定親水性化合物が液体であることにより、保護層がより軟質化しやすくなる。
【0070】
特定親水性化合物の沸点は、200℃以上であることが好ましい。これにより、特定親水性化合物がより揮発しにくくなり、保護層の乾燥工程や有機半導体の製造工程などで実施されるような加熱処理を実施しても、本発明の効果が損なわれない。特定親水性化合物の沸点の下限は、210℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましい。また、特定親水性化合物の沸点の上限は、特定親水性化合物が揮発しなければよいため、特に限定されないが、400℃以下であることが実際的である。
【0071】
特定親水性化合物において、オキシアルキレン構造中のアルキレン鎖の炭素数は、2~20であることが好ましい。この範囲の上限は、10以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。より具体的には、オキシアルキレン構造は、オキシエチレン構造(-OC-)およびオキシプロピレン構造(-OC-)の少なくとも1種であることが好ましく、オキシエチレン構造であることがより好ましい。また、オキシアルキレン構造は、上述した置換基Tを末端以外の側鎖に有していてもよく、有していなくてもよい。オキシアルキレン構造は、その末端以外の側鎖に置換基を有していないことが好ましい。特定親水性化合物において、複数のオキシアルキレン構造は、互いに連続していてもよく、離れていてもよい。
【0072】
特定親水性化合物は、少なくとも1つの水酸基を有することが好ましく、1~20個の水酸基を有することが好ましい。特定親水性化合物が水酸基を有することにより、特定親水性化合物の親水性がより高くなる。さらに、特定親水性化合物が有する水酸基の数の上限は、10個以下であることが好ましく、8個以下であることがより好ましく、6個以下であることがさらに好ましい。また、この下限は、2個でも、3個でも、4個でもよい。
【0073】
特定親水性化合物において、その分子量Mallに対するオキシアルキレン鎖の合計の式量Moaの割合Moa/Mallは、%表示で50%以上であることが好ましい。この範囲の下限は、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。この範囲の上限は、100%未満であることが実際的である。割合Moa/Mallは、特定親水性化合物の集合物における重量平均分子量Mw、および平均付加モル数mavが既知である場合には、割合Moa/Mallは、[繰り返し単位の式量×mav]/Mw×100(%)で代用してもよい。
【0074】
「オキシアルキレン鎖」は、オキシアルキレン構造のうち、置換基を含めない部分構造を意味する。具体的には、1つのオキシアルキレン鎖は、1つの酸素原子、この酸素原子に結合しかつアルキレン基の主鎖を構成する炭素原子、および、この炭素原子に結合する水素原子からなり、1つのオキシアルキレン鎖の式量は、これらの原子の原子量の総和により求めることができる。
【0075】
例えば、下記のex-1の化合物例では、OL-1およびOL-2の部分がそれぞれオキシアルキレン鎖(オキシエチレン鎖)である。したがって、1つのオキシアルキレン鎖の式量は44(=16+12×2+1×4)であり、オキシアルキレン鎖の合計の式量は88(=44×2)であり、割合Moa/Mallは%表示で83%(=88÷106×100)である。
【0076】
オキシアルキレン鎖の合計の式量Moaの算出においては、原子を重複してカウントせず、アルキレン基が分岐している場合には、炭素数が最も多くなるようにオキシアルキレン鎖を設定する。また、オキシアルキレン鎖に置換基が結合しているとみなせる場合には、そのオキシアルキレン鎖の式量には、その置換基の式量を含めない。そして、その置換基にオキシアルキレン鎖が含まれるか否かを別途検討し、オキシアルキレン鎖が含まれていれば、その式量もオキシアルキレン鎖の合計の式量に加える。この式量の導出を、置換基がなくなるか、置換基にオキシアルキレン鎖が含まれなくなるまで繰り返す。
【0077】
例えば、下記のex-2の化合物例では、OL-3からOL-7の部分がそれぞれオキシアルキレン鎖、特に、OL-3およびOL-4がオキシプロピレン鎖であり、OL-5からOL-7がオキシエチレン鎖である。OL-3およびOL-4は置換基(それぞれメチル基および水酸基)を有するとみなせるため、この置換基を除いて、OL-3の式量は58(=16+12×3+1×6)であり、OL-4の式量は57(=16+12×3+1×5)である。OL-5からOL-7の式量はそれぞれ44である。したがって、オキシアルキレン鎖の合計の式量は247(=58+57+44×3)であり、割合Moa/Mallは%表示で88%(=247÷280×100)である。
【0078】
例えば、下記のex-3の化合物例では、OL-8からOL-13の部分がそれぞれオキシアルキレン鎖、特に、OL-8、OL-9およびOL-13がオキシプロピレン鎖であり、OL-10からOL-12がオキシエチレン鎖である。OL-13は、OL-9に結合する置換基に含まれるオキシアルキレン鎖と言える。OL-8およびOL-13の式量は59(=16+12×3+1×7)である。OL-9は置換基を有するとみなせるため、この置換基を除いて、OL-9の式量は57(=16+12×3+1×5)である。OL-10からOL-12の式量はそれぞれ44である。したがって、オキシアルキレン鎖の合計の式量は307(=59×2+57+44×3)であり、割合Moa/Mallは%表示で95%(=307÷322×100)である。
【0079】
例えば、下記のex-4の化合物例(ポリエチレングリコール)では、mが付された繰り返し単位がオキシアルキレン鎖となる。割合Moa/Mallは、具体的な構造が既知である場合には、ex-1からex-3の場合と同様に、実際のオキシアルキレン鎖の合計の式量と分子量から算出できる。重量平均分子量Mwおよび平均付加モル数mavが分かっている場合には、割合Moa/Mallは、[44×mav]/Mw×100で代用してもよい。
【0080】
【化6】
【0081】
さらに、本発明の保護層形成用組成物は、特定親水性化合物として、下記式(OA-1)で表される化合物を含むことも好ましい。
【0082】
【化7】
【0083】
式(OA-1)において、
a1は、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表し、
a2は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
a3は、nが付された構成単位ごとに独立して、水素原子または下記式(OA-2)で表される1価の有機基を表し、
mは、2~50の整数を表し、
nは、mが付された構成単位ごとに独立して1~20の整数を表し、
pは、0または1を表す;
【0084】
【化8】
【0085】
式(OA-2)において、
b1は、qが付された構成単位ごとに独立して、炭素数1~20のアルキレン基を表し、
qは、1~25の整数を表し、
rは、0または1を表す。
【0086】
式(OA-1)において、Ra1は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。ここで、アルキル基は、メチル基、エチル機、n-プロピル基およびn-ブチル基のいずれかであることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。Ra1がアルキル基である場合には、アルキル基は、例えば上記した置換基Tのような置換基を有することもでき、無置換でもよい。
【0087】
特定親水性化合物の分子量が比較的小さい態様では、mの上限は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。mの下限は3でもよく、4でもよい。この場合、nは、mが付された構成単位ごとに独立して、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。nの下限は2でもよく、3でもよい。pは1であることが好ましい。一方、特定親水性化合物の分子量が比較的大きい態様では、mの上限は、45以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、35以下であることがさらに好ましい。mの下限は11以上であることが好ましく、15以上または20以上でもよい。この場合においても、nは、mが付された構成単位ごとに独立して、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。nの下限は2でもよく、3でもよい。pは1であることが好ましい。
【0088】
式(OA-2)において、Rb1は、qが付された構成単位ごとに独立して、炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましい。ここで、アルキレン基は、例えばメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基およびn-ブチレン基のいずれかであることが好ましく、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましく、エチレン基であることがさらに好ましい。Rb1がアルキレン基である場合には、アルキレン基は、例えば上記した置換基Tのような置換基を有することもでき、置換基として、さらにオキシアルキレン構造を有する基を有することもできる。また、Rb1がアルキレン基である場合には、アルキレン基は、無置換でもよい。
【0089】
特定親水性化合物の分子量が比較的小さい態様では、qの上限は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。qの下限は1でもよく、2でもよい。rは1であることが好ましい。一方、特定親水性化合物の分子量が比較的大きい態様では、qの上限は、23以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。qの下限は6以上であることが好ましく、8以上または10以上でもよい。rは1であることが好ましい。
【0090】
したがって、式(OA-2)で表される1価の有機基は、例えば、-OCH、-(OCH)OCH、-(OCHOCH、-(OCHOCH、-OC、-(OC)OC、-(OCOC、-(OCOC、-OC、-(OC)OC、-(OCOC、および-(OCOCなど、末端がアルコキシ基となる基や、-OCHOH、-(OCHOH、-(OCHOH、-(OCHOH、-OCOH、-(OCOH、-(OCOH、-(OCOH、-OCOH、-(OCOH、-(OCOH、および-(OCOHなど、末端が水酸基となる基である。
【0091】
本発明の保護層形成用組成物は、特定親水性化合物として、下記式(OA-3)で表される化合物を含むことも好ましい。特に、下記式(OA-3)は、下記式(OA-1)において、Ra2およびRa3がすべて水素原子である場合に相当する。
【0092】
【化9】
【0093】
式(OA-3)において、Ra1、m、nおよびpは、それぞれ式(OA-1)におけるRa1、m、nおよびpと同義である。
【0094】
さらに、本発明において、特定親水性化合物は、式(OA-3)においてRa1=H、n=2およびp=1を満たす化合物、つまり、オリゴエチレングリコールまたはポリエチレングリコールであることが特に好ましい。さらにこの場合、mは2~10であることが好ましく、2~6であることがより好ましく、2~4であることがさらに好ましい。また、特定親水性化合物は、式(OA-3)においてRa1=H、n=3およびp=1を満たす化合物、つまり、オリゴプロピレングリコールまたはポリプロピレングリコールであることも特に好ましい。さらにこの場合、mは2~10であることが好ましく、2~6であることがより好ましく、2~4であることがさらに好ましい。
【0095】
式(OA-1)または式(OA-3)で表される特定親水性化合物の好ましい態様は下記のとおりである。下記式において、mが付された式はポリエチレングリコールを表し、mはオキシエチレン構造の繰り返し数(平均付加モル数)を表す。mの好ましい範囲は2~10である。
【0096】
【化10】
【0097】
本発明の保護層形成用組成物において、特定親水性化合物の含有量は、保護層形成用組成物の総量に対し、0.01~5質量%であることが好ましい。特定親水性化合物の含有量が上記範囲であることにより、保護層のクラックおよび残渣の抑制という本発明の効果がより向上する。特定親水性化合物の含有量の上限は、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以下であることが特に好ましい。また、特定親水性化合物の含有量の下限は、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。また、特定親水性化合物の含有量は、水溶性樹脂の含有量に対し、0.1~50質量%であることが好ましい。特定親水性化合物の含有量が上記範囲であることにより、保護層のクラックおよび残渣の抑制という本発明の効果がより向上する。特定親水性化合物の含有量の上限は、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。また、特定親水性化合物の含有量の下限は、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。
【0098】
本発明の保護層形成用組成物において、特定親水性化合物は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0099】
<<溶剤>>
保護層形成用組成物に使用する溶剤は、上記のとおり、少なくとも水を含む。また、溶剤は、水以外の他の溶剤として水溶性溶剤を含むことができる。また、保護層形成用組成物は、水溶性溶剤を含まない(すなわち、保護層形成用組成物中の溶剤が水のみである)態様でもよい。
【0100】
保護層形成用組成物に添加する水溶性溶剤は、23℃における水への溶解度が1g以上の有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤の23℃における水への溶解度は10g以上がより好ましく、30g以上がさらに好ましい。このような水溶性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;ホルムアミド等のアミド系溶剤等が挙げられる。
【0101】
水および他の溶剤を含む溶剤全体の含有量は、保護層形成用組成物の総量に対し、80~95質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、83質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。つまり、本発明の保護層形成用組成物の固形分濃度は、5~20質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、17質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0102】
保護層形成用組成物中の水の含有量は、保護層形成用組成物の総量に対し、80~95質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、83質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。また、保護層形成用組成物中の水の含有量は、溶剤全体の含有量に対し、80~100質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、98質量%以下でも、95質量%以下でもよい。また、この数値範囲の下限は、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0103】
保護層形成用組成物中の水溶性溶剤の含有量は、溶剤全体の含有量に対し、0~10質量%であることが好ましい。この数値範囲の上限は、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。また、この数値範囲の下限は、0質量%超でもよい。
【0104】
<<他の成分>>
本発明において、保護層形成用組成物は、他の成分として、水溶性溶剤(アルコールなど)に溶解可能な樹脂、アセチレン基を含む界面活性剤、他の界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、および、遮光剤を含むことができる。
【0105】
〔水溶性溶剤に溶解可能な樹脂〕
水溶性溶剤に溶解可能な樹脂とは、23℃における水溶性溶剤100gに対して1g以上溶解する樹脂をいう。そして、水溶性樹脂は、23℃における水溶性溶剤100gに対して5g以上溶解する樹脂であることが好ましく、10g以上溶解する樹脂であることがより好ましく、20g以上溶解する樹脂であることがさらに好ましい。溶解量の上限は特にないが、30g程度であることが実際的である。
【0106】
水溶性溶剤に溶解可能な樹脂は、水溶性溶剤であるアルコールに溶解可能なアルコール溶解性樹脂であることが好ましく、ポリビニルアセタールであることがより好ましい。
【0107】
〔アセチレン基を含む界面活性剤〕
保護層形成用組成物が、アセチレン基を含む界面活性剤を含むことにより、残渣の発生をより抑制することができる。
【0108】
アセチレン基を含む界面活性剤における、分子内のアセチレン基の数は、特に制限されないが、1~10個が好ましく、1~5個がより好ましく、1~3個がさらに好ましく、1~2個が一層好ましい。
【0109】
アセチレン基を含む界面活性剤の分子量は比較的小さいことが好ましく、2,000以下であることが好ましく、1,500以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。下限値は特にないが、200以上であることが好ましい。
【0110】
-式(9)で表される化合物-
アセチレン基を含む界面活性剤は下記式(9)で表される化合物であることが好ましい。
【0111】
【化11】
【0112】
式中、R91およびR92は、それぞれ独立に、炭素数3~15のアルキル基、炭素数6~15の芳香族炭化水素基、又は、炭素数4~15の芳香族ヘテロアリール基である。芳香族ヘテロアリール基の炭素数は、1~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。芳香族ヘテロ環は5員環又は6員環が好ましい。芳香族ヘテロアリール基が含むヘテロ原子は窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が好ましい。
91およびR92は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよく、置換基としては上述の置換基Tが挙げられる。
【0113】
-式(91)で表される化合物-
式(9)で表される化合物としては、下記式(91)で表される化合物であることが好ましい。
【0114】
【化12】
【0115】
93~R96は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基であり、n9は1~6の整数であり、m9はn9の2倍の整数であり、n10は1~6の整数であり、m10はn10の2倍の整数であり、l9およびl10は、それぞれ独立に、0以上12以下の数である。
93~R96は炭化水素基であるが、なかでもアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基は直鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。R93~R96は本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。また、R93~R96は互いに結合して、又は上述の連結基Lを介して環を形成していてもよい。置換基Tは、複数あるときは互いに結合して、あるいは下記連結基Lを介して又は介さずに式中の炭化水素基と結合して環を形成していてもよい。
93およびR94はアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)であることが好ましい。なかでもメチル基が好ましい。
95およびR96はアルキル基(炭素数1~12が好ましく、2~6がより好ましく、3~6がさらに好ましい)であることが好ましい。なかでも、-(Cn1198 m11)-R97が好ましい。R95、R96はとくにイソブチル基であることが好ましい。
【0116】
n11は1~6の整数であり、1~3の整数が好ましい。m11はn11の2倍の数である。
97およびR98は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)であることが好ましい。
n9は1~6の整数であり、1~3の整数が好ましい。m9はn9の2倍の整数である。
n10は1~6の整数であり、1~3の整数が好ましい。m10はn10の2倍の整数である。
l9およびl10は、それぞれ独立に、0~12の数である。ただし、l9+l10は0~12の数であることが好ましく、0~8の数であることがより好ましく、0~6の数がさらに好ましく、0を超え6未満の数が一層好ましく、0を超え3以下の数がより一層好ましい。なお、l9、l10については、式(91)の化合物がその数において異なる化合物の混合物となる場合があり、そのときはl9およびl10の数、あるいはl9+l10が、小数点以下が含まれた数であってもよい。
【0117】
-式(92)で表される化合物-
式(91)で表される化合物は、下記式(92)で表される化合物であることが好ましい。
【0118】
【化13】
【0119】
93、R94、R97~R100は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基であり、l11およびl12は、それぞれ独立に、0以上12以下の数である。
93、R94、R97~R100はなかでもアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基は鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。R93、R94、R97~R100は本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。また、R93、R94、R97~R100は互いに結合して、又は連結基Lを介して環を形成していてもよい。置換基Tは、複数あるときは互いに結合して、あるいは連結基Lを介して又は介さずに式中の炭化水素基と結合して環を形成していてもよい。
93、R94、R97~R100は、それぞれ独立に、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)であることが好ましい。なかでもメチル基が好ましい。
l11+l12は0~12の数であることが好ましく、0~8の数であることがより好ましく、0~6の数がさらに好ましく、0を超え6未満の数が一層好ましく、0を超え5以下の数がより一層好ましく、0を超え4以下の数がさらに一層好ましく、0を超え3以下の数であってもよく、0を超え1以下の数であってもよい。なお、l11、l12は、式(92)の化合物がその数において異なる化合物の混合物となる場合があり、そのときはl11およびl12の数、あるいはl11+l12が、小数点以下が含まれた数であってもよい。
【0120】
アセチレン基を含む界面活性剤としては、サーフィノール(Surfynol)104シリーズ(商品名、日信化学工業株式会社)、アセチレノール(Acetyrenol)E00、同E40、同E13T、同60(いずれも商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられ、中でも、サーフィノール104シリーズ、アセチレノールE00、同E40、同E13Tが好ましく、アセチレノールE40、同E13Tがより好ましい。なお、サーフィノール104シリーズとアセチレノールE00とは同一構造の界面活性剤である。
【0121】
〔他の界面活性剤〕
保護層形成用組成物は、塗布性を向上させる等の目的のため、上記アセチレン基を含む界面活性剤以外の、他の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0122】
他の界面活性剤としては、保護層形成用組成物の表面張力を低下させるものであれば、ノニオン系、アニオン系、両性フッ素系など、どのようなものでもかまわない。
【0123】
他の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンステアレート等のポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンアルキルエステル類、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート等のモノグリセリドアルキルエステル類等、フッ素あるいはケイ素を含むオリゴマー等のノニオン系界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ペンチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ヘキシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、オクチルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のアルキルスルホン酸塩類、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類等の、アニオン系界面活性剤;ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のアルキルベタイン類、アミノ酸類等の、両性界面活性剤が使用可能である。
【0124】
保護層形成用組成物が、アセチレン基を含む界面活性剤と、他の界面活性剤とを含む場合には、アセチレン基を含む界面活性剤と他の界面活性剤との総量で、界面活性剤の添加量は、保護層形成用組成物の全質量に対し、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.07~15質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%である。これらの界面活性剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0125】
また、本発明では他の界面活性剤を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、他の界面活性剤の含有量が、アセチレン基を含む界面活性剤の含有量の5質量%以下であることをいい、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0126】
保護層形成用組成物において、他の界面活性剤の含有量は、保護層形成用組成物の全質量に対し、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.07質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、上限値は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。このような他の界面活性剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0127】
他の界面活性剤の、23℃における、0.1質量%水溶液の表面張力は45mN/m以下であることが好ましく、40mN/m以下であることがより好ましく、35mN/m以下であることがさらに好ましい。下限としては、5mN/m以上であることが好ましく、10mN/m以上であることがより好ましく、15mN/m以上であることがさらに好ましい。界面活性剤の表面張力は選択される他の界面活性剤の種類により適宜選択されればよい。
【0128】
〔防腐剤および防カビ剤〕
保護層形成用組成物が防腐剤および防カビ剤を含有することにより、保護層形成用組成物の品質をより長期にわたって維持することができる。
【0129】
防腐剤および防カビ剤としては、抗菌又は防カビ作用を含む添加剤であって、水溶性又は水分散性である有機化合物から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。このような添加剤としては、有機系の防腐剤および防カビ剤、無機系の防腐剤および防カビ剤、天然系の防腐剤および防カビ剤等を挙げることができる。例えば防腐剤および防カビ剤は(株)東レリサーチセンター発刊の「抗菌・防カビ技術」に記載されているものを用いることができる。
【0130】
本発明において、保護層に防腐剤および防カビ剤を配合することにより、長期室温保管後の溶液内部の微生物増殖による組成物の品質低下をより抑制でき、その結果、塗布欠陥増加をより抑止することができる。
【0131】
防腐剤および防カビ剤としては、フェノールエーテル系化合物、イミダゾール系化合物、スルホン系化合物、N・ハロアルキルチオ化合物、アニリド系化合物、ピロール系化合物、第四級アンモニウム塩、アルシン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾイソチアゾリン系化合物、イソチアゾリン系化合物などが挙げられる。具体的には、例えば、メチルイソチアゾリノン、2(4チオシアノメチル)ベンズイミダゾール、1,2ベンゾチアゾロン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-フルオロジクロロメチルチオ-フタルイミド、2,3,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N-トリクロロメチルチオ-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシイミド、8-キノリン酸銅、ビス(トリブチル錫)オキシド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、10,10'-オキシビスフェノキシアルシン、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォン)ピリジン、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、N,N-ジメチル-N'-(フルオロジクロロメチルチオ)-N’-フェニルスルファミド、ポリ-(ヘキサメチレンビグアニド)ハイドロクロライド、ジチオ-2-2'-ビス、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン、2-(ジクロロ-フルオロメチル)スルファニルイソインドール-1,3-ジオン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、メチルスルホニルテトラクロロピリジン、ヘキサヒドロ-1,3-トリス-(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、p-クロロ-m-キシレノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、メチルフェノール、二酢酸ナトリウム、ジヨードメチルパラトリルスルホン等が挙げられる。
【0132】
本発明において、保護層形成用組成物中のカビの発生を抑制する観点から、保護層形成用組成物は防カビ剤を含有することが好ましい。特に、防カビ剤は、上記した化合物のなかでも、イソチアゾリノン系化合物、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、メチルスルホニルテトラクロロピリジン、2-(ジクロロ-フルオロメチル)スルファニルイソインドール-1,3-ジオン、二酢酸ナトリウムおよびジヨードメチルパラトリルスルホンの少なくとも1種を含むことが好ましく、イソチアゾリン系化合物を含むことがより好ましく、メチルイソチアゾリノンを含むことがさらに好ましい。
【0133】
天然系抗菌剤又は防カビ剤としては、カニやエビの甲殻等に含まれるキチンを加水分解して得られる塩基性多糖類のキトサンがある。アミノ酸の両側に金属を複合させたアミノメタルから成る日鉱の「ホロンキラービースセラ(商品名)」が好ましい。
【0134】
保護層形成用組成物における防腐剤および防カビ剤の含有量は、保護層形成用組成物の全質量に対し、0.005~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.05~2質量%であることがさらに好ましく、0.1~1質量%であることが一層好ましい。防腐剤および防カビ剤としては、1種を用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種が組み合わせて用いられる場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。防腐剤および防カビ剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0135】
〔遮光剤〕
保護層形成用組成物は遮光剤を含むことが好ましい。遮光剤を配合することにより、有機層などへの光によるダメージ等の影響がより抑制される。
【0136】
遮光剤としては、例えば公知の着色剤等を用いることができ、有機又は無機の顔料又は染料が挙げられ、無機顔料が好ましく挙げられ、中でもカーボンブラック、酸化チタン、窒化チタン等がより好ましく挙げられる。
【0137】
遮光剤の含有量は、保護層形成用組成物の全質量に対し、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは5~25質量%である。遮光剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0138】
<積層体>
本発明の保護層形成用組成物は、上記のとおり、基板(以下「基材」ともいう。)、有機層および保護層をこの順に含む積層体、または、基板、有機層、保護層および感光層をこの順に含む積層体の形成に利用される。そして、積層体は、積層体に含まれる有機層のパターニングに用いることができる。
【0139】
図1は、積層体の加工過程を模式的に示す概略断面図である。積層体について、図1(a)に示した例のように、基材4の上に有機層3(例えば、有機半導体層)が配設されている。さらに、有機層3を保護する保護層2が接する形でその表面に配設されている。有機層3と保護層2の間には他の層が設けられていてもよいが、有機層を適切に保護する観点からは、有機層3と保護層2とが直接接していることが好ましい。また、この保護層の上にフォトレジストとして機能する感光層1が配置されている。感光層1と保護層2とは直接接していてもよいし、感光層1と保護層2との間に他の層が設けられていてもよい。
【0140】
図1(b)には、感光層1の一部を露光現像した状態の一例が示されている。例えば、所定のマスク等を用いる等の方法により感光層1を部分的に露光し、露光後に有機溶剤等の現像液を用いて現像することにより、除去部5における感光層1が除去され、露光現像後の感光層1aが形成される。このとき、保護層2は現像液により除去されにくいため残存し、有機層3は残存した上記保護層2によって現像液によるダメージから保護される。
【0141】
図1(c)には、保護層2と有機層3の一部を除去した状態の一例が示されている。例えば、ドライエッチング処理等により、現像後の感光層(レジスト)1aのない除去部5における保護層2と有機層3とを除去することにより、保護層2および有機層3に除去部5aが形成される。このようにして、除去部5aにおいて有機層3を取り除くことができる。すなわち、有機層3のパターニングを行うことができる。
【0142】
図1(d)には、上記パターニング後に、感光層1aおよび保護層2を除去した状態の一例が示されている。例えば、上記図1(c)に示した状態の積層体における感光層1aおよび保護層2を、水を含む剥離液で洗浄する等により、加工後の有機層3a上の感光層1aおよび保護層2が除去される。
【0143】
以上のとおり、基材、有機層、保護層および感光層をこの順に含む積層体を用いて、有機層3に所望のパターンを形成し、かつ感光層1および保護層2を除去することができる。これらの工程の詳細は後述する。
【0144】
<<基材>>
積層体に使用される基材としては、例えば、シリコン、石英、セラミック、ガラス、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムなどの種々の材料により形成された基材が挙げられ、用途に応じていかなる基材を選択してもよい。例えば、フレキシブルな素子に用いる場合にはフレキシブルな材料により形成された基材を用いることができる。また、基材は複数の材料により形成された複合基材や、複数の材料が積層された積層基材であってもよい。また、基材の形状も特に限定されず、用途に応じて選択すればよく、例えば、板状の基材が挙げられる。基板の厚さ等についても、特に限定されない。
【0145】
<<有機層>>
有機層は、有機材料を含む層である。具体的な有機材料は、有機層の用途や機能に応じて、適宜選択される。有機層の想定される機能としては、例えば、半導体特性、発光特性、光電変換特性、光吸収特性、電気絶縁性、強誘電性、透明性、絶縁性などが挙げられる。積層体において、有機層は基材よりも上に含まれていればよく、基材と有機層とが接していてもよいし、有機層と基材との間に別の層がさらに含まれていてもよい。
【0146】
有機層の厚さは、特に制限されず、用いられる電子デバイスの種類などにより異なるが、好ましくは1nm~50μm、より好ましくは1nm~5μm、さらに好ましくは1nm~500nmである。
以下では、特に、有機層が有機半導体層である例について詳しく説明する。有機半導体層は、半導体の特性を示す有機材料を含む層である。
【0147】
有機半導体層は、有機半導体を含む有機層であり、有機半導体は、半導体の特性を示す有機化合物である。有機半導体には、無機化合物からなる半導体の場合と同様に、ホール(正孔)をキャリアとして伝導するp型半導体と、電子をキャリアとして伝導するn型半導体がある。有機半導体層中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。用途にもよるが、一般にキャリア移動度は高い方がよく、10-7cm/Vs以上であることが好ましく、10-6cm/Vs以上であることがより好ましく、10-5cm/Vs以上であることがさらに好ましい。キャリア移動度は、電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法の測定値に基づいて求めることができる。
【0148】
有機半導体層に使用し得るp型有機半導体としては、ホール輸送性を有する材料であれば、いかなる材料を用いてもよい。p型有機半導体は、好ましくは、p型π共役高分子、縮合多環化合物、トリアリールアミン化合物、ヘテロ5員環化合物、フタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物、カーボンナノチューブ、およびグラフェンのいずれかである。また、p型有機半導体として、これらの化合物のうち複数種の化合物を組み合わせて使用してもよい。p型有機半導体は、より好ましくは、p型π共役高分子、縮合多環化合物、トリアリールアミン化合物、ヘテロ5員環化合物、フタロシアニン化合物、およびポルフィリン化合物の少なくとも1種であり、さらに好ましくは、p型π共役高分子および縮合多環化合物の少なくとも1種である。
【0149】
p型π共役高分子は、例えば、置換または無置換のポリチオフェン(例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)など)、ポリセレノフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェンビニレン、ポリアニリンなどである。縮合多環化合物は、例えば、置換または無置換のアントラセン、テトラセン、ペンタセン、アントラジチオフェン、ヘキサベンゾコロネンなどである。
【0150】
トリアリールアミン化合物は、例えば、m-MTDATA(4,4’,4’’-Tris[(3-methylphenyl)phenylamino]triphenylamine)、2-TNATA(4,4’,4’’-Tris[2-naphthyl(phenyl)amino]triphenylamine)、NPD(N,N’-Di(1-naphthyl)-N,N’-diphenyl-(1,1’-biphenyl)-4,4’-diamine)、TPD(N,N’-Diphenyl-N,N’-di(m-tolyl)benzidine)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CBP(4,4’-bis(9-carbazolyl)-2,2’-biphenyl)などである。
【0151】
ヘテロ5員環化合物は、例えば、置換または無置換のオリゴチオフェン、TTF(Tetrathiafulvalene)などである。
【0152】
フタロシアニン化合物は、各種中心金属を有する置換または無置換のフタロシアニン、ナフタロシアニン、アントラシアニン、テトラピラジノポルフィラジンなどである。ポルフィリン化合物は、各種中心金属を有する置換または無置換のポルフィリンである。また、カーボンナノチューブは、半導体ポリマーが表面に修飾されたカーボンナノチューブでもよい。
【0153】
有機半導体層に使用し得るn型有機半導体としては、電子輸送性を有する材料であれば、いかなる材料を用いてもよい。n型有機半導体は、好ましくは、フラーレン化合物、電子欠乏性フタロシアニン化合物、縮環多環化合物(ナフタレンテトラカルボニル化合物、ペリレンテトラカルボニル化合物など)、TCNQ化合物(テトラシアノキノジメタン化合物)、ポリチオフェン系化合物、ベンジジン系化合物、カルバゾール系化合物、フェナントロリン系化合物、ピリジンフェニル配位子イリジウム系化合物、キノリノール配位子アルムニウム系化合物、n型π共役高分子、およびグラフェンのいずれかである。また、n型有機半導体として、これらの化合物のうち複数種の化合物を組み合わせて使用してもよい。n型有機半導体は、より好ましくは、フラーレン化合物、電子欠乏性フタロシアニン化合物、縮環多環化合物、およびn型π共役高分子の少なくとも1種であり、特に好ましくは、フラーレン化合物、縮環多環化合物およびn型π共役高分子の少なくとも1種である。
【0154】
フラーレン化合物とは、置換または無置換のフラーレンを意味し、フラーレンとしてはC60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C96、C116、C180、C240、C540などで表されるフラーレンのいずれでもよい。フラーレン化合物は、好ましくは、置換または無置換のC60、C70、C86フラーレンであり、特に好ましくは、PCBM([6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製など)およびその類縁体(例えば、C60部分をC70、C86等に置換したもの、置換基のベンゼン環を他の芳香環またはヘテロ環に置換したもの、メチルエステルをn-ブチルエステル、i-ブチルエステル等に置換したもの)である。
【0155】
電子欠乏性フタロシアニン化合物とは、電子求引性基が4つ以上結合しかつ各種中心金属を有する置換または無置換のフタロシアニン、ナフタロシアニン、アントラシアニン、テトラピラジノポルフィラジンなどである。電子欠乏性フタロシアニン化合物は、例えば、フッ素化フタロシアニン(F16MPc)、および塩素化フタロシアニン(Cl16MPc)などである。ここで、Mは中心金属を、Pcはフタロシアニンを表す。
【0156】
ナフタレンテトラカルボニル化合物としてはいかなるものでもよいが、好ましくはナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ナフタレンビスイミド化合物(NTCDI)、ペリノン顔料(Pigment Orange 43、Pigment Red 194など)である。
【0157】
ペリレンテトラカルボニル化合物としてはいかなるものでもよいが、好ましくはペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ペリレンビスイミド化合物(PTCDI)、ベンゾイミダゾール縮環体(PV)である。
【0158】
TCNQ化合物とは、置換または無置換のTCNQおよび、TCNQのベンゼン環部分を別の芳香環やヘテロ環に置き換えたものである。TCNQ化合物は、例えば、TCNQ、TCNAQ(テトラシアノアントラキノジメタン)、TCN3T(2,2’-((2E,2’’E)-3’,4’-Alkyl substituted-5H,5’’H-[2,2’:5’,2’’-terthiophene]-5,5’’-diylidene)dimalononitrile derivatives)などである。
【0159】
ポリチオフェン系化合物とは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等のポリチオフェン構造を有する化合物である。ポリチオフェン系化合物は、例えば、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS)からなる複合物)などである。
【0160】
ベンジジン系化合物とは、分子内にベンジジン構造を有する化合物である。ベンジジン系化合物は、例えば、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(TPD)、N,N’-ジ-[(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル]-1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(NPD)などである。
【0161】
カルバゾール系化合物とは、分子内にカルバゾール環構造を有する化合物である。カルバゾール系化合物は、例えば、4,4’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(CBP)などである。
【0162】
フェナントロリン系化合物とは、分子内にフェナントロリン環構造を有する化合物であり、例えば、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)などである。
【0163】
ピリジンフェニル配位子イリジウム系化合物とは、フェニルピリジン構造を配位子とするイリジウム錯体構造を有する化合物である。ピリジンフェニル配位子イリジウム系化合物は、例えば、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジルフェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(FIrpic)、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム(III)(Ir(ppy))などである。
【0164】
キノリノール配位子アルムニウム系化合物とは、キノリノール構造を配位子とするアルミニウム錯体構造を有する化合物であり、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウムなどである。
【0165】
n型有機半導体材料の特に好ましい例を以下に示す。なお、式中のRとしては、いかなるものでも構わないが、水素原子、置換または無置換で分岐または直鎖のアルキル基(好ましくは炭素数1~18、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~8のもの)、置換または無置換のアリール基(好ましくは炭素数6~30、より好ましくは6~20、さらに好ましくは6~14のもの)のいずれかであることが好ましい。構造式中のMeはメチル基を表し、Mは金属原子を表す。
【0166】
【化14】
【0167】
【化15】
【0168】
有機半導体層に含まれる有機半導体は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。また、有機半導体層は、p型の層とn型の層の積層または混合層でもよい。
【0169】
有機層の形成方法は、気相法でも液相法でもよい。気相法の場合には、蒸着法(真空蒸着法、分子線エピタキシー法など)、スパッタリング法、およびイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法や、プラズマ重合法などの化学気相成長(CVD)法が使用でき、特に蒸着法が好ましい。
【0170】
一方、液相法の場合には、有機材料は、通常、溶剤中に配合され、有機層を形成する組成物(有機層形成用組成物)とされる。そして、この組成物を基材上に供給し乾燥して、有機層が形成される。供給方法としては、塗布が好ましい。供給方法の例としては、スリットコート法、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア-ブロジェット(Langmuir-Blodgett)(LB)法、エッジキャスト法(詳細は、特許第6179930号公報)などを挙げることができる。キャスト法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることがさらに好ましい。このようなプロセスにより、表面が平滑で大面積の有機層を低コストで生産することが可能となる。
【0171】
また、有機層形成用組成物に使用する溶剤としては、有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1-メチルナフタレン、1,2-ジクロロベンゼン等の炭化水素系溶剤;例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤;例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶剤;例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、1-メチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等の極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。有機層形成用組成物における有機材料の割合は、好ましくは1~95質量%、より好ましくは5~90質量%であり、これにより任意の厚さの膜を形成できる。
【0172】
また、有機層形成用組成物には、樹脂バインダーを配合してもよい。この場合、膜を形成する材料とバインダー樹脂とを前述の適当な溶剤に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマーなどを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の光伝導性ポリマーまたは導電性ポリマーよりなる樹脂バインダーが好ましい。
【0173】
樹脂バインダーを配合する場合、その配合量は、有機層中、好ましくは0.1~30質量%で用いられる。樹脂バインダーは、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0174】
有機層は、用途によっては単独および種々の有機材料や添加剤を添加した混合溶液を用いた、複数の材料種からなるブレンド膜でもよい。例えば、光電変換層を作製する場合、複数種の半導体材料を使用した混合溶液を用いることなどができる。
【0175】
また、成膜の際、基材を加熱または冷却してもよく、基材の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基材の温度としては特に制限はないが、好ましくは-200℃~400℃、より好ましくは-100℃~300℃、さらに好ましくは0℃~200℃である。
【0176】
形成された有機層は、後処理により特性を調整することができる。例えば、加熱処理や蒸気化した溶剤に暴露することにより膜のモルホロジーや膜中での分子のパッキングを変化させることで特性を向上させることが可能である。また、酸化性または還元性のガスや溶剤、物質などに曝す、あるいはこれらの手法を併用することで酸化あるいは還元反応を起こし、膜中でのキャリア密度などを調整することができる。
【0177】
<<保護層>>
保護層は、保護層形成用組成物から形成された層である。具体的には、保護層は、例えば有機層などの下地に保護層形成用組成物を適用して、保護層形成用組成物からなる層状膜を形成し、その後、この層状膜を乾燥させることによって形成することができる。保護層形成用組成物からなる層状膜は、層状で乾燥前の本発明の保護層形成用組成物を意味する。
【0178】
保護層形成用組成物の適用方法としては、塗布が好ましい。適用方法の例としては、スリットコート法、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア-ブロジェット(Langmuir-Blodgett)(LB)法などを挙げることができる。キャスト法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることがさらに好ましい。このようなプロセスにより、表面が平滑で大面積の保護層を低コストで生産することが可能となる。
【0179】
保護層形成用組成物の塗布膜を乾燥させる際には、基材を加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば50~200℃の範囲から適宜選択される。
【0180】
また、保護層形成用組成物は、あらかじめ仮支持体上に上記付与方法等によって付与して形成した塗膜を、適用対象(例えば、有機層)上に転写する方法により形成することもできる。転写方法に関しては、特開2006-023696号公報の段落0023、0036~0051、特開2006-047592号公報の段落0096~0108等の記載を参酌することができる。
【0181】
保護層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましく、2.0μm以上が一層好ましい。保護層の厚さの上限値としては、10μm以下が好ましく、5.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましい。
【0182】
保護層は、現像液に対する溶解量が23℃において10nm/s以下の層であることが好ましく、1nm/sg/L以下の層であることがより好ましい。上記溶解量の下限は特に限定されず、0nm/s以上であればよい。
【0183】
保護層は、剥離液を用いた除去に供せられる。剥離液を用いた保護層の除去方法については後述する。
【0184】
剥離液としては、水、水と水溶性溶剤との混合物、水溶性溶剤等が挙げられ、水又は水と水溶性溶剤との混合物であることが好ましい。水溶性溶剤としては、保護層形成用組成物に添加する水溶性溶剤と同様である。
【0185】
上記剥離液の全質量に対する水の含有量は、90~100質量%であることが好ましく、95~100質量%であることが好ましい。また、上記剥離液は水のみからなる剥離液であってもよい。
【0186】
また、剥離液は、保護層の除去性を向上するため、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては公知の化合物を用いることができるが、ノニオン系界面活性剤が好ましく挙げられる。
【0187】
<<感光層>>
感光層は現像液を用いた現像に供せられる層である。上記現像は、ネガ型現像であることが好ましい。感光層としては、本技術分野で使用される公知の感光層(例えば、フォトレジスト層)を適宜利用することができる。積層体において、感光層は、ネガ型感光層であっても、ポジ型感光層であってもよい。
【0188】
感光層は、その露光部が有機溶剤を含む現像液に対して難溶であることが好ましい。難溶とは、露光部が現像液に溶けにくいことをいう。露光部における感光層の現像液に対する溶解速度は、未露光部における感光層の現像液に対する溶解速度よりも小さくなる(難溶となる)ことが好ましい。具体的には、波長365nm(i線)、波長248nm(KrF線)および波長193nm(ArF線)の少なくとも1つの波長の光を50mJ/cm以上の照射量で露光することによって極性が変化し、sp値(溶解度パラメータ)が19.0(MPa)1/2未満の溶剤に対して難溶となることが好ましく、18.5(MPa)1/2以下の溶剤に対して難溶となることがより好ましく、18.0(MPa)1/2以下の溶剤に対して難溶となることがさらに好ましい。
【0189】
溶解度パラメーター(sp値)は、沖津法によって求められる値〔単位:(MPa)1/2〕である。沖津法は、従来周知のsp値の算出方法の一つであり、例えば、日本接着学会誌Vol.29、No.6(1993年)249~259頁に詳述されている方法である。
【0190】
さらに、波長365nm(i線)、波長248nm(KrF線)および波長193nm(ArF線)の少なくとも1つの波長の光を50~250mJ/cmの照射量で露光することによって、上記のとおり極性が変化することがより好ましい。
【0191】
感光層は、i線の照射に対して感光能を有することが好ましい。感光能とは、活性光線および放射線の少なくとも一方の照射(i線の照射に対して感光能を有する場合は、i線の照射)により、有機溶剤(好ましくは、酢酸ブチル)に対する溶解速度が変化することをいう。
【0192】
感光層としては、酸の作用により現像液に対する溶解速度が変化する樹脂(以下、「感光層用特定樹脂」ともいう。)を含む感光層が挙げられる。
感光層用特定樹脂における溶解速度の変化は、溶解速度の低下であることが好ましい。
感光層用特定樹脂の、溶解速度が変化する前の、sp値が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤への溶解速度は、40nm/秒以上であることがより好ましい。
感光層用特定樹脂の、溶解速度が変化した後の、sp値が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤への溶解速度は、1nm/秒未満であることがより好ましい。
感光層用特定樹脂は、また、溶解速度が変化する前には、sp値(溶解度パラメータ)が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤に可溶であり、かつ、溶解速度が変化した後には、sp値が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤に難溶である樹脂であることが好ましい。
【0193】
ここで、「sp値(溶解度パラメータ)が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤に可溶」とは、化合物(樹脂)の溶液を基材上に塗布し、100℃で1分間加熱することによって形成される化合物(樹脂)の塗膜(厚さ1μm)の、23℃における現像液に対して浸漬した際の溶解速度が、20nm/秒以上であることをいい、「sp値が18.0(MPa)1/2以下の有機溶剤に難溶」とは、化合物(樹脂)の溶液を基材上に塗布し、100℃で1分間加熱することによって形成される化合物(樹脂)の塗膜(厚さ1μm)の、23℃における現像液に対する溶解速度が、10nm/秒未満であることをいう。
【0194】
感光層としては、例えば、感光層用特定樹脂および光酸発生剤を含む感光層、重合性化合物および光重合開始剤等を含む感光層等が挙げられる。
また、感光層は、高い保存安定性と微細なパターン形成性を両立する観点からは、化学増幅型感光層であることが好ましい。
【0195】
以下、感光層用特定樹脂および光酸発生剤を含む感光層の例について説明する。
【0196】
〔感光層用特定樹脂〕
感光層用特定樹脂は、アクリル系重合体であることが好ましい。
「アクリル系重合体」は、付加重合型の樹脂であり、(メタ)アクリル酸又はそのエステルに由来する繰返し単位を含む重合体であり、(メタ)アクリル酸又はそのエステルに由来する繰返し単位以外の繰返し単位、例えば、スチレン類に由来する繰返し単位やビニル化合物に由来する繰返し単位等を含んでいてもよい。アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸又はそのエステルに由来する繰返し単位を、重合体における全繰返し単位に対し、50モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、(メタ)アクリル酸又はそのエステルに由来する繰返し単位のみからなる重合体であることが特に好ましい。
【0197】
感光層用特定樹脂としては、酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位を有する樹脂が好ましく挙げられる上記酸基が酸分解性基により保護された構造としては、カルボキシ基が酸分解性基により保護された構造、フェノール性水酸基が酸分解性基により保護された構造等が挙げられる。
【0198】
また、酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位としては、(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位におけるカルボキシ基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位、p-ヒドロキシスチレン、α-メチル-p-ヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類に由来するモノマー単位におけるフェノール性水酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位等が挙げられる。
【0199】
酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位としては、アセタール構造を含む繰返し単位等が挙げられ、側鎖に環状エーテルエステル構造を含む繰返し単位が好ましい。環状エーテルエステル構造としては、環状エーテル構造における酸素原子とエステル結合における酸素原子とが同一の炭素原子に結合し、アセタール構造を形成していることが好ましい。
【0200】
また、酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位としては、下記式(1)で表される繰返し単位が好ましい。
以下、「式(1)で表される繰返し単位」等を、「繰返し単位(1)」等ともいう。
【0201】
【化16】
【0202】
式(1)中、Rは水素原子又はアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)を表し、Lはカルボニル基又はフェニレン基を表し、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
式(1)中、Lは、カルボニル基又はフェニレン基を表し、カルボニル基であることが好ましい。
式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R~Rにおけるアルキル基は、Rと同義であり、好ましい態様も同様である。また、R~Rのうち、1つ以上が水素原子であることが好ましく、R~Rの全てが水素原子であることがより好ましい。
【0203】
繰返し単位(1)としては、下記式(1-A)で表される繰返し単位、又は、下記式(1-B)で表される繰返し単位が好ましい。
【0204】
【化17】
【0205】
繰返し単位(1)を形成するために用いられるラジカル重合性単量体は、市販のものを用いてもよいし、公知の方法で合成したものを用いることもできる。例えば、(メタ)アクリル酸を酸触媒の存在下でジヒドロフラン化合物と反応させることにより合成することができる。あるいは、前駆体モノマーと重合した後に、カルボキシ基又はフェノール性水酸基をジヒドロフラン化合物と反応させることによっても形成することができる。
【0206】
また、酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位としては、下記式(2)で表される繰返し単位も好ましく挙げられる。
【0207】
【化18】
【0208】
式(2)中、Aは、水素原子又は酸の作用により脱離する基を表す。酸の作用により脱離する基としては、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アルコキシアルキル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリールオキシアルキル基(総炭素数7~40が好ましく、7~30がより好ましく、7~20がさらに好ましい)、アルコキシカルボニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリールオキシカルボニル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)が好ましい。Aはさらに置換基を有していてもよく、置換基として上記置換基Tの例が挙げられる。
式(2)中、R10は置換基を表し、置換基Tの例が挙げられる。Rは式(1)におけるRと同義の基を表す。
式(2)中、nxは、0~3の整数を表す。
【0209】
酸の作用によって脱離する基としては、特開2008-197480号公報の段落番号0039~0049に記載の化合物のうち、酸によって脱離する基を含む繰返し単位も好ましく、また、特開2012-159830号公報(特許第5191567号)の段落番号0052~0056に記載の化合物も好ましく、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0210】
繰返し単位(2)の具体的な例を以下に示すが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0211】
【化19】
【0212】
【化20】
【0213】
感光層用特定樹脂に含まれる、酸基が酸分解性基により保護された構造を有する繰返し単位(好ましくは、繰返し単位(1)又は繰返し単位(2))の含有量は、5~80モル%が好ましく、10~70モル%がより好ましく、10~60モル%がさらに好ましい。アクリル系重合体は、繰返し単位(1)又は繰返し単位(2)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上用いる場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0214】
感光層用特定樹脂は、架橋性基を含む繰返し単位を含有してもよい。架橋性基の詳細については、特開2011-209692号公報の段落番号0032~0046の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
感光層用特定樹脂は、架橋性基を含む繰返し単位(繰返し単位(3))を含む態様も好ましいが、架橋性基を含む繰返し単位(3)を実質的に含まない構成とすることが好ましい。このような構成とすることにより、パターニング後に、感光層をより効果的に除去することが可能になる。ここで、実質的に含まないとは、例えば、感光層用特定樹脂の全繰返し単位の3モル%以下をいい、好ましくは1モル%以下をいう。
【0215】
感光層用特定樹脂は、その他の繰返し単位(繰返し単位(4))を含有してもよい。繰返し単位(4)を形成するために用いられるラジカル重合性単量体としては、例えば、特開2004-264623号公報の段落番号0021~0024に記載の化合物を挙げることができる。繰返し単位(4)の好ましい例としては、水酸基含有不飽和カルボン酸エステル、脂環構造含有不飽和カルボン酸エステル、スチレン、および、N置換マレイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰返し単位が挙げられる。これらの中でも、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メチルシクロヘキシルのよう脂環構造含有の(メタ)アクリル酸エステル類、又は、スチレンのような疎水性のモノマーが好ましい。
【0216】
感光層用特定樹脂が繰返し単位(4)を含む場合において、感光層用特定樹脂を構成する全モノマー単位中、繰返し単位(4)を形成するモノマー単位の含有率は、1~60モル%であることが好ましく、5~50モル%であることがより好ましく、5~40モル%であることがさらに好ましい。感光層用特定樹脂は、そのモノマー単位中に、繰返し単位(4)を1種単独でまたは2種以上の組み合わせで含有することができる。2種以上の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0217】
感光層用特定樹脂の合成法については様々な方法が知られているが、一例を挙げると、少なくとも繰返し単位(1)、繰返し単位(2)等を形成するために用いられるラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体混合物を、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を用いて重合することにより合成することができる。
感光層用特定樹脂としては、不飽和多価カルボン酸無水物類を共重合させた前駆共重合体中の酸無水物基に、2,3-ジヒドロフランを、酸触媒の不存在下、室温(25℃)~100℃程度の温度で付加させることにより得られる共重合体も好ましい。
以下の樹脂も感光層用特定樹脂の好ましい例として挙げられる。
BzMA/THFMA/t-BuMA(モル比:20~60:35~65:5~30)
BzMA/THFAA/t-BuMA(モル比:20~60:35~65:5~30)
BzMA/THPMA/t-BuMA(モル比:20~60:35~65:5~30)
BzMA/PEES/t-BuMA(モル比:20~60:35~65:5~30)
BzMAは、ベンジルメタクリレートであり、THFMAは、テトラヒドロフラン-2-イル メタクリレートであり、t-BuMAは、t-ブチルメタクリレートであり、THFAAは、テトラヒドロフラン-2-イル アクリレートであり、THPMAは、テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル メタクリレートであり、PEESは、p-エトキシエトキシスチレンである。
【0218】
また、ポジ型現像に用いられる感光層用特定樹脂としては、特開2013-011678号公報に記載のものが例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0219】
現像時のパターン形成性を良好とする観点から、感光層用特定樹脂の含有量は、感光層の全質量に対し、20~99質量%であることが好ましく、40~99質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることがさらに好ましい。
また、感光層用特定樹脂の含有量は、感光層に含まれる樹脂成分の全質量に対し、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
感光層用特定樹脂は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0220】
感光層用特定樹脂の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上がより好ましく、35,000以上がさらに好ましい。上限値としては、特に定めるものでは無いが、100,000以下であることが好ましく、70,000以下としてもよく、50,000以下としてもよい。
また、感光層用特定樹脂に含まれる重量平均分子量1,000以下の成分の量が、感光層用特定樹脂の全質量に対し、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
感光層用特定樹脂の分子量分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.0~4.0が好ましく、1.1~2.5がより好ましい。
【0221】
〔光酸発生剤〕
感光層は、光酸発生剤をさらに含むことが好ましい。光酸発生剤は、波長365nmにおいて100mJ/cmの露光量で感光層が露光されると80モル%以上分解する光酸発生剤であることが好ましい。
【0222】
光酸発生剤の分解度は、以下の方法によって求めることができる。下記感光層形成用組成物の詳細については後述する。
感光層形成用組成物を用い、シリコンウェハ基板上に感光層を形成し、100℃で1分間加熱し、加熱後に上記感光層を波長365nmの光を用いて100mJ/cmの露光量で露光する。加熱後の感光層の厚さは700nmとする。その後、上記感光層が形成された上記シリコンウェハ基板を、メタノール/テトラヒドロフラン(THF)=50/50(質量比)溶液に超音波を当てながら10分浸漬させる。上記浸漬後に、上記溶液に抽出された抽出物をHPLC(高速液体クロマトグラフィ)を用いて分析することで光酸発生剤の分解率を以下の式より算出する。
分解率(%)=分解物量(モル)/露光前の感光層に含まれる光酸発生剤量(モル)×100
光酸発生剤としては、波長365nmにおいて、100mJ/cmの露光量で感光層を露光したときに、85モル%以上分解するものであることが好ましい。
【0223】
-オキシムスルホネート化合物-
光酸発生剤は、オキシムスルホネート基を含む化合物(以下、単に「オキシムスルホネート化合物」ともいう)であることが好ましい。
オキシムスルホネート化合物は、オキシムスルホネート基を有していれば特に制限はないが、下記式(OS-1)、後述する式(OS-103)、式(OS-104)、又は、式(OS-105)で表されるオキシムスルホネート化合物であることが好ましい。
【0224】
【化21】
【0225】
式(OS-1)中、Xは、アルキル基、アルコキシル基、又は、ハロゲン原子を表す。Xが複数存在する場合は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記Xにおけるアルキル基およびアルコキシル基は、置換基を有していてもよい。上記Xにおけるアルキル基としては、炭素数1~4の、直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましい。上記Xにおけるアルコキシル基としては、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状アルコキシル基が好ましい。上記Xにおけるハロゲン原子としては、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。
式(OS-1)中、m3は、0~3の整数を表し、0又は1が好ましい。m3が2又は3であるとき、複数のXは同一でも異なっていてもよい。
式(OS-1)中、R34は、アルキル基又はアリール基を表し、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルコキシル基、Wで置換されていてもよいフェニル基、Wで置換されていてもよいナフチル基又はWで置換されていてもよいアントラニル基であることが好ましい。Wは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基又は炭素数1~5のハロゲン化アルコキシル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基を表す。
【0226】
式(OS-1)中、m3が3であり、Xがメチル基であり、Xの置換位置がオルト位であり、R34が炭素数1~10の直鎖状アルキル基、7,7-ジメチル-2-オキソノルボルニルメチル基、又は、p-トリル基である化合物が特に好ましい。
【0227】
式(OS-1)で表されるオキシムスルホネート化合物の具体例としては、特開2011-209692号公報の段落番号0064~0068、特開2015-194674号公報の段落番号0158~0167に記載された以下の化合物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0228】
【化22】
【0229】
式(OS-103)~式(OS-105)中、Rs1はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、複数存在する場合のあるRs2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子を表し、複数存在する場合のあるRs6はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、スルホン酸基、アミノスルホニル基又はアルコキシスルホニル基を表し、XsはO又はSを表し、nsは1又は2を表し、msは0~6の整数を表す。
式(OS-103)~式(OS-105)中、Rs1で表されるアルキル基(炭素数1~30が好ましい)、アリール基(炭素数6~30が好ましい)又はヘテロアリール基(炭素数4~30が好ましい)は、置換基Tを有していてもよい。
【0230】
式(OS-103)~式(OS-105)中、Rs2は、水素原子、アルキル基(炭素数1~12が好ましい)又はアリール基(炭素数6~30が好ましい)であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。化合物中に2以上存在する場合のあるRs2のうち、1つ又は2つがアルキル基、アリール基又はハロゲン原子であることが好ましく、1つがアルキル基、アリール基又はハロゲン原子であることがより好ましく、1つがアルキル基であり、かつ残りが水素原子であることが特に好ましい。Rs2で表されるアルキル基又はアリール基は、置換基Tを有していてもよい。
式(OS-103)、式(OS-104)、又は、式(OS-105)中、XsはO又はSを表し、Oであることが好ましい。上記式(OS-103)~(OS-105)において、Xsを環員として含む環は、5員環又は6員環である。
【0231】
式(OS-103)~式(OS-105)中、nsは1又は2を表し、XsがOである場合、nsは1であることが好ましく、また、XsがSである場合、nsは2であることが好ましい。
式(OS-103)~式(OS-105)中、Rs6で表されるアルキル基(炭素数1~30が好ましい)およびアルキルオキシ基(炭素数1~30が好ましい)は、置換基を有していてもよい。
式(OS-103)~式(OS-105)中、msは0~6の整数を表し、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
【0232】
また、上記式(OS-103)で表される化合物は、下記式(OS-106)、式(OS-110)又は式(OS-111)で表される化合物であることが特に好ましく、上記式(OS-104)で表される化合物は、下記式(OS-107)で表される化合物であることが特に好ましく、上記式(OS-105)で表される化合物は、下記式(OS-108)又は式(OS-109)で表される化合物であることが特に好ましい。
【化23】
【0233】
式(OS-106)~式(OS-111)中、Rt1はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、Rt7は、水素原子又は臭素原子を表し、Rt8は水素原子、炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子、クロロメチル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基、メトキシメチル基、フェニル基又はクロロフェニル基を表し、Rt9は水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はメトキシ基を表し、Rt2は水素原子又はメチル基を表す。
式(OS-106)~式(OS-111)中、Rt7は、水素原子又は臭素原子を表し、水素原子であることが好ましい。
【0234】
式(OS-106)~式(OS-111)中、Rt8は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子、クロロメチル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基、メトキシメチル基、フェニル基又はクロロフェニル基を表し、炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0235】
式(OS-106)~式(OS-111)中、Rt9は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はメトキシ基を表し、水素原子であることが好ましい。
t2は、水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
また、上記オキシムスルホネート化合物において、オキシムの立体構造(E,Z)については、いずれか一方であっても、混合物であってもよい。
上記式(OS-103)~式(OS-105)で表されるオキシムスルホネート化合物の具体例としては、特開2011-209692号公報の段落番号0088~0095、特開2015-194674号公報の段落番号0168~0194に記載の化合物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0236】
オキシムスルホネート基を少なくとも1つを含むオキシムスルホネート化合物の好適な他の態様としては、下記式(OS-101)、式(OS-102)で表される化合物が挙げられる。
【0237】
【化24】
【0238】
式(OS-101)又は式(OS-102)中、Ru9は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホ基、シアノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。Ru9がシアノ基又はアリール基である態様がより好ましく、Ru9がシアノ基、フェニル基又はナフチル基である態様がさらに好ましい。
式(OS-101)又は式(OS-102)中、Ru2aは、アルキル基又はアリール基を表す。
式(OS-101)又は式(OS-102)中、Xuは、-O-、-S-、-NH-、-NRu5-、-CH-、-CRu6H-又はCRu6u7-を表し、Ru5~Ru7はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表す。
【0239】
式(OS-101)又は式(OS-102)中、Ru1~Ru4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミド基、スルホ基、シアノ基又はアリール基を表す。Ru1~Ru4のうちの2つがそれぞれ互いに結合して環を形成してもよい。このとき、環が縮環してベンゼン環ともに縮合環を形成していてもよい。Ru1~Ru4としては、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基が好ましく、また、Ru1~Ru4のうちの少なくとも2つが互いに結合してアリール基を形成する態様も好ましい。中でも、Ru1~Ru4がいずれも水素原子である態様が好ましい。上記した置換基は、いずれも、さらに置換基を有していてもよい。
【0240】
上記式(OS-101)で表される化合物は、式(OS-102)で表される化合物であることがより好ましい。
また、上記オキシムスルホネート化合物において、オキシムやベンゾチアゾール環の立体構造(E,Z等)についてはそれぞれ、いずれか一方であっても、混合物であってもよい。
式(OS-101)で表される化合物の具体例としては、特開2011-209692号公報の段落番号0102~0106、特開2015-194674号公報の段落番号0195~0207に記載の化合物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
上記化合物の中でも、b-9、b-16、b-31、b-33が好ましい。
市販品としては、WPAG-336(富士フイルム和光純薬(株)製)、WPAG-443(富士フイルム和光純薬(株)製)、MBZ-101(みどり化学(株)製)等を挙げることができる。
【0241】
活性光線に感応する光酸発生剤として1,2-キノンジアジド化合物を含まないものが好ましい。その理由は、1,2-キノンジアジド化合物は、逐次型光化学反応によりカルボキシ基を生成するが、その量子収率は1以下であり、オキシムスルホネート化合物に比べて感度が低いためである。
これに対して、オキシムスルホネート化合物は、活性光線に感応して生成する酸が保護された酸基の脱保護に対して触媒として作用するので、1個の光量子の作用で生成した酸が、多数の脱保護反応に寄与し、量子収率は1を超え、例えば、10の数乗のような大きい値となり、いわゆる化学増幅の結果として、高感度が得られると推測される。
また、オキシムスルホネート化合物は、広がりのあるπ共役系を有しているため、長波長側にまで吸収を有しており、遠紫外線(DUV)、ArF線、KrF線、i線のみならず、g線においても非常に高い感度を示す。
【0242】
感光層における酸分解性基としてテトラヒドロフラニル基を用いることにより、アセタール又はケタールに比べ同等又はそれ以上の酸分解性を得ることができる。これにより、より短時間のポストベークで確実に酸分解性基を消費することができる。さらに、光酸発生剤であるオキシムスルホネート化合物を組み合わせて用いることで、スルホン酸発生速度が上がるため、酸の生成が促進され、樹脂の酸分解性基の分解が促進される。また、オキシムスルホネート化合物が分解することで得られる酸は、分子の小さいスルホン酸であることから、硬化膜中での拡散性も高く、より高感度化することができる。
【0243】
光酸発生剤は、感光層の全質量に対して、0.1~20質量%使用することが好ましく、0.5~18質量%使用することがより好ましく、0.5~10質量%使用することがさらに好ましく、0.5~3質量%使用することが一層好ましく、0.5~1.2質量%使用することがより一層好ましい。
光酸発生剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0244】
〔塩基性化合物〕
感光層は、後述する感光層形成用組成物の液保存安定性の観点から、塩基性化合物を含むことが好ましい。
【0245】
塩基性化合物としては、公知の化学増幅レジストで用いられるものの中から任意に選択して使用することができる。例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ヘテロ環式アミン、第四級アンモニウムヒドロキシド、および、カルボン酸の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0246】
脂肪族アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、トリ-n-ペンチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミンなどが挙げられる。
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、ベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ジフェニルアミンなどが挙げられる。
ヘテロ環式アミンとしては、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、N-メチル-4-フェニルピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2-フェニルベンズイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、キノリン、8-オキシキノリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、プリン、ピロリジン、ピペリジン、シクロヘキシルモルホリノエチルチオウレア、ピペラジン、モルホリン、4-メチルモルホリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.3.0]-7-ウンデセンなどが挙げられる。
第四級アンモニウムヒドロキシドとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ-n-ヘキシルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
カルボン酸の第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウムベンゾエート、テトラ-n-ブチルアンモニウムアセテート、テトラ-n-ブチルアンモニウムベンゾエートなどが挙げられる。
【0247】
感光層が、塩基性化合物を含む場合、塩基性化合物の含有量は、感光層用特定樹脂100質量部に対して、0.001~1質量部であることが好ましく、0.002~0.5質量部であることがより好ましい。
【0248】
塩基性化合物は、1種単独の化合物であっても、複数種の化合物の組み合わせであってもよい。また、塩基性化合物は、複数種の化合物の組み合わせであることがより好ましく、2種の化合物の組み合わせであることがさらに好ましく、互いに異なる2種のヘテロ環式アミンの組み合わせであることが特に好ましい。塩基性化合物が複数種の化合物の組み合わせである場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0249】
〔界面活性剤〕
感光層は、後述する感光層形成用組成物の塗布性を向上する観点から、界面活性剤を含むことが好ましい。
【0250】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、又は、両性のいずれでも使用することができるが、好ましい界面活性剤はノニオン系界面活性剤である。
ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類、ポリオキシエチレン高級アルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレングリコールの高級脂肪酸ジエステル類、フッ素系、シリコーン系界面活性剤を挙げることができる。
【0251】
界面活性剤として、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤を含むことがより好ましい。
【0252】
これらのフッ素系界面活性剤、又は、シリコーン系界面活性剤として、例えば、特開昭62-036663号公報、特開昭61-226746号公報、特開昭61-226745号公報、特開昭62-170950号公報、特開昭63-034540号公報、特開平07-230165号公報、特開平08-062834号公報、特開平09-054432号公報、特開平09-005988号公報、特開2001-330953号公報の各公報に記載の界面活性剤を挙げることができ、市販の界面活性剤を用いることもできる。
【0253】
使用できる市販の界面活性剤として、例えば、エフトップEF301、EF303(以上、新秋田化成(株)製)、フロラードFC430、431(以上、住友スリーエム(株)製)、メガファックF171、F173、F176、F189、R08(以上、DIC(株)製)、サーフロンS-382、SC101、102、103、104、105、106(以上、AGCセイミケミカル(株)製)、PF-6320等のPolyFoxシリーズ(OMNOVA社製)などのフッ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を挙げることができる。また、ポリシロキサンポリマーKP-341(信越化学工業(株)製)も、シリコーン系界面活性剤として用いることができる。
【0254】
また、界面活性剤として、下記式(41)で表される繰返し単位Aおよび繰返し単位Bを含み、テトラヒドロフラン(THF)を溶剤とした場合のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000以上10,000以下である共重合体を好ましい例として挙げることができる。
【0255】
【化25】
【0256】
式(41)中、R41およびR43はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R42は炭素数1以上4以下の直鎖アルキレン基を表し、R44は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Lは炭素数3以上6以下のアルキレン基を表し、p4およびq4は重合比を表す質量百分率であり、p4は10質量%以上80質量%以下の数値を表し、q4は20質量%以上90質量%以下の数値を表し、r4は1以上18以下の整数を表し、n4は1以上10以下の整数を表す。
【0257】
式(41)中、Lは、下記式(42)で表される分岐アルキレン基であることが好ましい。式(42)におけるR45は、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、被塗布面に対する濡れ性の点で、炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、炭素数2又は3のアルキル基がより好ましい。
-CH-CH(R45)- (42)
【0258】
上記共重合体の重量平均分子量は、1,500以上5,000以下であることがより好ましい。
【0259】
感光層が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の添加量は、感光層用特定樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.01~1質量部であることがさらに好ましい。
界面活性剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0260】
〔その他の成分〕
感光層には、さらに、必要に応じて、酸化防止剤、可塑剤、熱ラジカル発生剤、熱酸発生剤、酸増殖剤、紫外線吸収剤、増粘剤、および、有機又は無機の沈殿防止剤などの公知の添加剤を、それぞれ、1種又は2種以上加えることができる。これらの詳細は、特開2011-209692号公報の段落番号0143~0148の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0261】
感光層の厚さは、解像力向上の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.75μm以上がさらに好ましく、0.8μm以上が特に好ましい。感光層の厚さの上限値としては、10μm以下が好ましく、5.0μm以下がより好ましく、2.0μm以下がさらに好ましい。
【0262】
感光層と保護層との厚さの合計は、0.2μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、20.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0263】
〔現像液〕
感光層は、現像液を用いた現像に供せられる。
現像液としては、有機溶剤を含む現像液が好ましい。
現像液の全質量に対する有機溶剤の含有量は、90~100質量%であることが好ましく、95~100質量%であることがより好ましい。また、現像液は有機溶剤のみからなる現像液であってもよい。
【0264】
現像液を用いた感光層の現像方法については後述する。
【0265】
-有機溶剤-
現像液に含まれる有機溶剤のsp値は、19MPa1/2未満であることが好ましく、18MPa1/2以下であることがより好ましい。
現像液に含まれる有機溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等の極性溶剤、および炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0266】
ケトン系溶剤としては、例えば、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、4-ヘプタノン、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、イソホロン、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。
【0267】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸ブチル、蟻酸プロピル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル等を挙げることができる。
【0268】
アミド系溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等を使用することができる。
【0269】
炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0270】
上記有機溶剤は、1種のみでも、2種以上用いてもよい。また、上記以外の有機溶剤と混合して使用してもよい。但し、現像液の全質量に対する水の含有量が10質量%未満であることが好ましく、実質的に水を含有しないことがより好ましい。ここでの実質的に水を含有しないとは、例えば、現像液の全質量に対する水の含有量が3質量%以下であることをいい、より好ましくは測定限界以下であることをいう。
すなわち、有機現像液に対する有機溶剤の使用量は、現像液の全量に対して、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0271】
特に、有機現像液は、ケトン系溶剤、エステル系溶剤およびアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の有機溶剤を含むことが好ましい。
また、有機現像液は、必要に応じて塩基性化合物を適当量含有していてもよい。塩基性化合物の例としては、上記の塩基性化合物の項で述べたものを挙げることができる。
【0272】
有機現像液の蒸気圧は、23℃において、5kPa以下であることが好ましく、3kPa以下がより好ましく、2kPa以下がさらに好ましい。有機現像液の蒸気圧を5kPa以下にすることにより、現像液の感光層上あるいは現像カップ内での蒸発が抑制され、感光層の面内における温度均一性が向上し、結果として現像後の感光層の寸法均一性が改善する。
【0273】
5kPa以下の蒸気圧を有する溶剤の具体的な例としては、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、蟻酸ブチル、蟻酸プロピル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル等のエステル系溶剤、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0274】
特に好ましい範囲である2kPa以下の蒸気圧を有する溶剤の具体的な例としては、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル等のエステル系溶剤、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0275】
-界面活性剤-
現像液は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、上記の保護層の項で述べた界面活性剤が好ましく用いられる。
現像液に界面活性剤を配合する場合、その配合量は現像液の全量に対して、通常0.001~5質量%であり、好ましくは0.005~2質量%であり、より好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0276】
〔感光層形成用組成物〕
感光層形成用組成物は、積層体に含まれる感光層の形成に用いられる組成物である。
積層体において、感光層は、例えば、感光層形成用組成物を保護層の上に適用し、乾燥させることによって形成することができる。適用方法としては、例えば、後述する保護層における保護層形成用組成物の適用方法についての記載を参酌できる。
【0277】
感光層形成用組成物は、上述の感光層に含まれる成分(例えば、感光層用特定樹脂、光酸発生剤、塩基性化合物、界面活性剤、および、その他の成分等)と、溶剤と、を含むことが好ましい。これらの感光層に含まれる成分は、溶剤に溶解又は分散していることが好ましく、溶解していることがより好ましい。
【0278】
感光層形成用組成物に含まれる成分の含有量は、上述した各成分の感光層の全質量に対する含有量を、感光層形成用組成物の固形分量に対する含有量に読み替えたものとすることが好ましい。
【0279】
-有機溶剤-
感光層形成用組成物に使用される有機溶剤としては、公知の有機溶剤を用いることができ、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エステル類、ケトン類、アミド類、ラクトン類等が例示できる。
【0280】
有機溶剤としては、例えば、
(1)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;
(2)エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類;
(3)エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
(4)プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;
(5)プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;
(6)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
(7)ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;
(8)ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
(9)ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;
(10)ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル等のジプロピレングリコールジアルキルエーテル類;
(11)ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
(12)乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸n-アミル、乳酸イソアミル等の乳酸エステル類;
(13)酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、酢酸イソアミル、酢酸n-ヘキシル、酢酸2-エチルヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n-ブチル、酪酸イソブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;
(14)ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸エチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、3-メチル-3-メトキシブチルブチレート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル等の他のエステル類;
(15)メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;
(16)N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;
(17)γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。
また、これらの有機溶剤にさらに必要に応じて、ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、イソホロン、カプロン酸、カプリル酸、1-オクタノール、1-ノナノール、ベンジルアルコール、アニソール、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の有機溶剤を添加することもできる。
【0281】
上記した有機溶剤のうち、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、又は、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類が好ましく、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、又は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0282】
感光層形成用組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の含有量は、感光層用特定樹脂100質量部当たり、1~3,000質量部であることが好ましく、5~2,000質量部であることがより好ましく、10~1,500質量部であることがさらに好ましい。
有機溶剤は、1種単独で使用されても、複数種の組み合わせで使用されてもよい。複数種の組み合わせの場合には、それらの合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0283】
<積層体形成用キット>
積層体形成用キットは、例えば、上述した保護層形成用組成物および感光層形成用組成物を含む。また、積層体形成用キットは、上述有機層形成用組成物をさらに含んでもよい。
【0284】
<積層体の製造方法と有機層のパターニング方法>
下記の(1)~(6)の工程は、有機層のパターニングに関する一連の作業工程である。積層体の製造方法は、下記工程(1)を少なくとも含む。また、有機層のパターニング方法は、下記工程(5)を少なくとも含む。
(1)基板上の有機層の上に保護層を形成する工程。
(2)保護層の上に感光層を形成する工程。
(3)感光層を露光する工程。
(4)有機溶剤を含む現像液を用いて感光層を現像しマスクパターンを作製する工程。
(5)非マスク部の保護層および有機層を除去する工程。
(6)剥離液を用いて保護層を除去する工程。
【0285】
<<(1)有機層の上に保護層を形成する工程>>
本実施形態の有機層のパターニング方法は、有機層の上に保護層を形成する工程を含む。通常は、基材の上に有機層を形成した後に、本工程を行う。この場合、保護層は、有機層の基材側の面と反対側の面に形成する。保護層は、有機層と直接接するように形成されることが好ましいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の層が間に設けられてもよい。他の層としては、フッ素系の下塗り層等が挙げられる。また、保護層は1層のみ設けられてもよいし、2層以上設けられてもよい。保護層は、上述のとおり、好ましくは、保護層形成用組成物を用いて形成される。
形成方法の詳細は、上述の積層体における保護層形成用組成物の適用方法を参照できる。
【0286】
<<(2)保護層の上に感光層を形成する工程>>
上記(1)の工程後、保護層の有機層側の面と反対側の上(好ましくは表面上)に、感光層を形成する。感光層は、上述のとおり、好ましくは、感光層形成用組成物を用いて形成される。形成方法の詳細は、上述の積層体における感光層形成用組成物の適用方法を参照できる。
【0287】
<<(3)感光層を露光する工程>>
(2)の工程で感光層を形成後、上記感光層を露光する。具体的には、例えば、感光層の少なくとも一部に活性光線を照射(露光)する。
上記露光は所定のパターンとなるように行うことが好ましい。また、露光はフォトマスクを介して行ってもよいし、所定のパターンを直接描画してもよい。
露光時の活性光線の波長としては、好ましくは180nm以上450nm以下の波長、より好ましくは365nm(i線)、248nm(KrF線)又は193nm(ArF線)の波長を有する活性光線を使用することができる。
【0288】
活性光線の光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、レーザ発生装置、発光ダイオード(LED)光源などを用いることができる。
光源として水銀灯を用いる場合には、g線(436nm)、i線(365nm)、h線(405nm)などの波長を有する活性光線を好ましく使用することができ、i線を用いることがより好ましい。
【0289】
光源としてレーザ発生装置を用いる場合には、固体(YAG)レーザでは343nm、355nmの波長を有する活性光線が好適に用いられ、エキシマレーザでは、193nm(ArF線)、248nm(KrF線)、351nm(Xe線)の波長を有する活性光線が好適に用いられ、さらに半導体レーザでは375nm、405nmの波長を有する活性光線が好適に用いられる。この中でも、安定性、コスト等の点から355nm、又は、405nmの波長を有する活性光線がより好ましい。レーザは、1回あるいは複数回に分けて、感光層に照射することができる。
【0290】
露光量は、40~120mJが好ましく、60~100mJがより好ましい。
レーザの1パルス当たりのエネルギー密度は、0.1mJ/cm以上10,000mJ/cm以下であることが好ましい。塗膜を十分に硬化させるには、0.3mJ/cm以上がより好ましく、0.5mJ/cm以上がさらに好ましい。アブレーション現象による感光層等の分解を抑制する観点からは、露光量を1,000mJ/cm以下とすることが好ましく、100mJ/cm以下がより好ましい。
【0291】
また、パルス幅は、0.1ナノ秒(以下、「ns」と称する)以上30,000ns以下であることが好ましい。アブレーション現象により色塗膜を分解させないようにするには、0.5ns以上がより好ましく、1ns以上が一層好ましい。スキャン露光の際に合わせ精度を向上させるには、1,000ns以下がより好ましく、50ns以下がさらに好ましい。
【0292】
光源としてレーザ発生装置を用いる場合、レーザの周波数は、1Hz以上50,000Hz以下が好ましく、10Hz以上1,000Hz以下がより好ましい。
さらに、露光処理時間を短くするには、レーザの周波数は、10Hz以上がより好ましく、100Hz以上がさらに好ましく、スキャン露光の際に合わせ精度を向上させるには、10,000Hz以下がより好ましく、1,000Hz以下がさらに好ましい。
レーザは、水銀灯と比べると焦点を絞ることが容易であり、また、露光工程でのパターン形成においてフォトマスクの使用を省略することができるという点でも好ましい。
【0293】
露光装置としては、特に制限はないが、市販されているものとしては、Callisto((株)ブイ・テクノロジー製)、AEGIS((株)ブイ・テクノロジー製)、DF2200G(大日本スクリーン製造(株)製)などを使用することが可能である。また上記以外の装置も好適に用いられる。
また、必要に応じて、長波長カットフィルタ、短波長カットフィルタ、バンドパスフィルタのような分光フィルタを通して、照射光量を調整することもできる。
また、上記露光の後、必要に応じて露光後加熱工程(PEB)を行ってもよい。
【0294】
<<(4)有機溶剤を含む現像液を用いて感光層を現像しマスクパターンを作製する工程>>
(3)の工程で、フォトマスクを介して感光層を露光した後、現像液を用いて感光層を現像する。
現像はネガ型が好ましい。現像液の詳細は、上述の感光層の説明において記載した通りである。
現像方法としては、例えば、現像液が満たされた槽中に基材を一定時間浸漬する方法(ディップ法)、基材表面に現像液を表面張力によって盛り上げて一定時間静止することで現像する方法(パドル法)、基材表面に現像液を噴霧する方法(スプレー法)、一定速度で回転している基材上に一定速度で現像液吐出ノズルをスキャンしながら現像液を吐出し続ける方法(ダイナミックディスペンス法)などを適用することができる。
【0295】
上記各種の現像方法が、現像装置の現像ノズルから現像液を感光層に向けて吐出する工程を含む場合、吐出される現像液の吐出圧(吐出される現像液の単位面積あたりの流速)は、好ましくは2mL/秒/mm以下、より好ましくは1.5mL/秒/mm以下、さらに好ましくは1mL/秒/mm以下である。吐出圧の下限は特に無いが、スループットを考慮すると0.2mL/秒/mm以上が好ましい。吐出される現像液の吐出圧を上記の範囲とすることにより、現像後のレジスト残渣に由来するパターンの欠陥を著しく低減することができる。
【0296】
このメカニズムの詳細は定かではないが、恐らくは、吐出圧を上記範囲とすることで、現像液が感光層に与える圧力が小さくなり、感光層上のレジストパターンが不用意に削られたり崩れたりすることが抑制されるためと考えられる。なお、現像液の吐出圧(mL/秒/mm)は、現像装置中の現像ノズル出口における値である。
現像液の吐出圧を調整する方法としては、例えば、ポンプなどで吐出圧を調整する方法や、加圧タンクからの供給で圧力を調整することで変える方法などを挙げることができる。
【0297】
また、有機溶剤を含む現像液を用いて現像する工程の後に、他の有機溶剤に置換しながら、現像を停止する工程を実施してもよい。
【0298】
<<(5)非マスク部の保護層および有機層を除去する工程>>
感光層を現像してマスクパターンを作製した後、エッチング処理にて少なくとも非マスク部の上記保護層および上記有機層を除去する。非マスク部とは、感光層を現像して形成されたマスクパターンによりマスクされていない領域(感光層が現像により取り除かれた領域)をいう。
【0299】
上記エッチング処理は複数の段階に分けて行われてもよい。例えば、上記保護層および上記有機層は、一度のエッチング処理により除去されてもよいし、保護層の少なくとも一部がエッチング処理により除去された後に、有機層(および、必要に応じて保護層の残部)がエッチング処理により除去されてもよい。
【0300】
また、上記エッチング処理はドライエッチング処理であってもウェットエッチング処理であってもよく、エッチングを複数回に分けてドライエッチング処理とウェットエッチング処理とを行う態様であってもよい。例えば、保護層の除去はドライエッチングによるものであってもウェットエッチングによるものであってもよい。
【0301】
上記保護層および上記有機層を除去する方法としては、例えば、上記保護層および上記有機層を一度のドライエッチング処理により除去する方法A、上記保護層の少なくとも一部をウェットエッチング処理により除去し、その後に上記有機層(および、必要に応じて上記保護層の残部)をドライエッチングにより除去する方法B等の方法が挙げられる。
【0302】
上記方法Aにおけるドライエッチング処理、上記方法Bにおけるウェットエッチング処理およびドライエッチング処理等は、公知のエッチング処理方法に従い行うことが可能である。
【0303】
以下、上記方法Aの一態様の詳細について説明する。上記方法Bの具体例としては、特開2014-098889号公報の記載等を参酌することができる。
【0304】
上記方法Aにおいて、具体的には、レジストパターンをエッチングマスク(マスクパターン)として、ドライエッチングを行うことにより、非マスク部の保護層および有機層を除去することができる。ドライエッチングの代表的な例としては、特開昭59-126506号公報、特開昭59-046628号公報、特開昭58-009108号公報、特開昭58-002809号公報、特開昭57-148706号公報、特開昭61-041102号公報に記載の方法がある。
【0305】
ドライエッチングとしては、形成される有機層のパターンの断面をより矩形に近く形成する観点や有機層へのダメージをより低減する観点から、以下の形態で行なうのが好ましい。
フッ素系ガスと酸素ガス(O)との混合ガスを用い、有機層が露出しない領域(深さ)までエッチングを行なう第1段階のエッチングと、この第1段階のエッチングの後に、窒素ガス(N)と酸素ガス(O)との混合ガスを用い、好ましくは有機層が露出する領域(深さ)付近までエッチングを行う第2段階のエッチングと、有機層が露出した後に行うオーバーエッチングとを含む形態が好ましい。以下、ドライエッチングの具体的手法、並びに第1段階のエッチング、第2段階のエッチング、およびオーバーエッチングについて説明する。
【0306】
ドライエッチングにおけるエッチング条件は、下記手法により、エッチング時間を算出しながら行うことが好ましい。
(A)第1段階のエッチングにおけるエッチングレート(nm/分)と、第2段階のエッチングにおけるエッチングレート(nm/分)とをそれぞれ算出する。
(B)第1段階のエッチングで所望の厚さをエッチングする時間と、第2段階のエッチングで所望の厚さをエッチングする時間とをそれぞれ算出する。
(C)上記(B)で算出したエッチング時間に従って第1段階のエッチングを実施する。
(D)上記(B)で算出したエッチング時間に従って第2段階のエッチングを実施する。あるいはエンドポイント検出でエッチング時間を決定し、決定したエッチング時間に従って第2段階のエッチングを実施してもよい。
(E)上記(C)、(D)の合計時間に対してオーバーエッチング時間を算出し、オーバーエッチングを実施する。
【0307】
上記第1段階のエッチングにおいて用いる混合ガスとしては、被エッチング膜である有機材料を矩形に加工する観点から、フッ素系ガスおよび酸素ガス(O)を含むことが好ましい。また、第1段階のエッチングにおいては、積層体が有機層が露出しない領域までエッチングされる。そのため、この段階では有機層はダメージを受けていないか、ダメージは軽微であると考えられる。
【0308】
また、上記第2段階のエッチングおよび上記オーバーエッチングにおいては、有機層のダメージ回避の観点から、窒素ガスおよび酸素ガスの混合ガスを用いてエッチング処理を行うことが好ましい。
【0309】
第1段階のエッチングにおけるエッチング量と、第2段階のエッチングにおけるエッチング量との比率は、第1段階のエッチングにおける有機層のパターンの断面における矩形性に優れるように決定することが重要である。
【0310】
全エッチング量(第1段階のエッチングにおけるエッチング量と第2段階のエッチングにおけるエッチング量との総和)中における、第2段階のエッチングにおけるエッチング量の比率は、0%より大きく50%以下であることが好ましく、10~20%がより好ましい。エッチング量とは、被エッチング膜の残存する膜厚とエッチング前の膜厚との差から算出される量のことをいう。
【0311】
また、エッチングは、オーバーエッチング処理を含むことが好ましい。オーバーエッチング処理は、オーバーエッチング比率を設定して行なうことが好ましい。オーバーエッチング比率は任意に設定できるが、フォトレジストのエッチング耐性と被エッチングパターン(有機層)の矩形性維持の点で、エッチング工程におけるエッチング処理時間全体の30%以下であることが好ましく、5~25%であることがより好ましく、10~15%であることが特に好ましい。
【0312】
<<(6)剥離液を用いて保護層を除去する工程>>
エッチング後、剥離液(例えば、水)を用いて保護層を除去する。剥離液の詳細は、上述の保護層の説明において記載した通りである。
【0313】
保護層を剥離液で除去する方法としては、例えば、スプレー式又はシャワー式の噴射ノズルからレジストパターンに剥離液を噴射して、保護層を除去する方法を挙げることができる。剥離液としては、純水を好ましく用いることができる。また、噴射ノズルとしては、その噴射範囲内に基材全体が包含される噴射ノズルや、可動式の噴射ノズルであってその可動範囲が基材全体を包含する噴射ノズルを挙げることができる。また別の態様として、機械的に保護層を剥離した後に、有機層上に残存する保護層の残渣を溶解除去する態様が挙げられる。
噴射ノズルが可動式の場合、保護層を除去する工程中に基材中心部から基材端部までを2回以上移動して剥離液を噴射することで、より効果的にレジストパターンを除去することができる。
保護層を除去した後、乾燥等の工程を行うことも好ましい。乾燥温度としては、80~120℃とすることが好ましい。
【0314】
<用途>
保護層形成用組成物を応用した積層体は、有機半導体を利用した半導体デバイス(電子デバイス)の製造に用いることができる。ここで、電子デバイスとは、半導体を含有し、かつ2つ以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、化学物質などにより制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場などを発生させるデバイスである。
【0315】
例としては、有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタ、有機電界発光素子、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子などが挙げられる。有機光電変換素子は光センサ用途、エネルギー変換用途(太陽電池)のいずれにも用いることができる。これらの中で、用途として好ましくは有機電界効果トランジスタ、有機光電変換素子、有機電界発光素子であり、より好ましくは有機電界効果トランジスタ、有機光電変換素子であり、特に好ましくは有機電界効果トランジスタである。
【実施例
【0316】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。実施例において、特に述べない限り、「部」および「%」は質量基準であり、各工程の環境温度(室温)は23℃である。
【0317】
<保護層形成用組成物の調製>
下記表1に示した配合比(質量部)となるように各原料を混合した。混合後、撹拌機(ホットマグネットスターラー、C-MAG HS4、IKA社製)を使用して、下記の撹拌条件の下、保護層形成用組成物をそれぞれ撹拌した。撹拌が終了した後、ステンレス プレッシャー フィルターホルダー(sartorius社製)に、孔径5μmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)メンブレンフィルター(デュラポア(Durapore)、Merck社製)を設置し、これを用いて2MPaで加圧しながら各組成物を濾過した。
<<撹拌条件>>
・雰囲気:大気
・撹拌時間:240分
・撹拌温度:50℃
・撹拌部材の回転速度:500rpm
【0318】
【表1】
【0319】
各原料の具体的な仕様は、下記のとおりである。
<原料>
<<水溶性樹脂>>
・PVA:クラレ社製PVA-205、Mw=24000。
・PVP:第一工業製薬社製ピッツコールK-90、Mw=1200000。
・HEC:富士フイルム和光純薬社製2-ヒドロキシエチルセルロース、Mw=720000。
【0320】
<<特定親水性化合物>>
下記構造を有するB-1~B-8の化合物を使用した。式中、mはオキシエチレン構造の平均付加モル数を表す。
・B-1:ジエチレングリコール(分子量=106。富士フイルム和光純薬社製)
・B-2:テトラエチレングリコール(分子量=194。富士フイルム和光純薬社製)
・B-3:ポリエチレングリコール1000(Mw=1000、平均付加モル数mは20である。富士フイルム和光純薬社製)
・B-4:ポリエチレングリコール1540(Mw=1540、平均付加モル数mは32である。富士フイルム和光純薬社製)
・B-5:ジプロピレングリコール(分子量=134。富士フイルム和光純薬社製)
・B-6:トリプロピレングリコール(分子量=192。富士フイルム和光純薬社製)
・B-7:下記構造の化合物(分子量=312)
・B-8:下記構造の化合物(分子量=244)
・B-9:テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量=208。富士フイルム和光純薬社製)
【0321】
【化26】
【0322】
<<比較例における親水性化合物>>
・C-1:エチレングリコール(分子量=62。富士フイルム和光純薬社製)
・C-2:1,3,5-アダマンタントリオール(分子量=184。富士フイルム和光純薬社製)
【0323】
【化27】
【0324】
<<界面活性剤>>
・E-1:アセチレノールE00(川研ファインケミカル社製)
・E-2:EMALEX710(日本エマルジョン社製)
【0325】
<<溶剤>>
・S-1:蒸留水
・S-2:メタノール(富士フイルム和光純薬社製)
【0326】
<評価>
本発明の保護層形成用組成物の効果を評価するため、有機層と、実施例および比較例の各保護層形成用組成物を用いて形成した保護層と、必要に応じて感光層とを含む積層体を形成し、有機層をエッチングした後における保護層のクラック抑制の効果、および、保護層を除去した後における有機層上の残渣抑制の効果を評価した。
【0327】
<<クラック抑制の評価>>
クラック抑制の評価は、ドライエッチングに晒された保護層表面を観察することにより行った。
【0328】
まず、次の方法により積層体を形成した。5cm四方のガラス基板上に、有機材料として有機半導体材料を含む下記組成の有機層形成用組成物をスピンコートし、80℃で10分間乾燥させることで、厚さ150nmの有機半導体層(有機層)を形成した。次いで、上記有機半導体層上に、実施例および比較例の各保護層形成用組成物をスピンコートし、80℃で1分間乾燥させることで、厚さ2μmの保護層を形成した。すなわち、ここで形成した積層体は、順にガラス基板、有機半導体層(厚さ150nm)および保護層(厚さ2μm)からなる構造を有する。
<<<有機層形成用組成物の成分>>>
・P3HT(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製) 10質量%
・PCBM(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製) 10質量%
・クロロホルム(富士フイルム和光純薬社製) 80質量%
【0329】
耐熱性のカプトン(登録商標)粘着テープを用いて積層体のガラス基板側を8インチウェハ(1インチは25.4mm)に貼り付け、下記条件にてドライエッチングを実施した。そして、光学顕微鏡を使用して2.6mm×3.8mmの視野(倍率5倍)で、エッチング後の積層体表面(最上層である保護層の表面)を基板上の全範囲にわたって観察し、表面に生じたクラックの数を計数した。「クラック」は、長さ1μm以上のひび割れを意味する。そして、そのクラック数に応じて下記の評価基準により、クラック抑制の効果を評価した。
<<<ドライエッチング条件>>>
・装置:日立ハイテクノロジーズ社製U621
・ソースパワー:1000W
・ウェハバイアス:0W
・ガス流量:酸素500scm、窒素50scm
・処理時間:20s
<<<評価基準>>>
・A:クラック数が0個(クラックが生じなかった)。
・B:クラック数が1個以上4個以下。
・C:クラック数が5個以上。
【0330】
<<残渣抑制の評価>>
残渣抑制の評価は、本発明の積層体を形成し、この積層体から保護層を除去する過程において、有機半導体層の表面状態を保護層の形成前と除去後で比較することにより行った。
【0331】
まず、クラック抑制評価の場合と同様に、ガラス基板上に、厚さ150nmの有機半導体層を形成した。ここで、有機半導体層の表面に対し、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)装置(ION-TOF社製TOF.SIMS5)を用いて、有機半導体材料由来のシグナル強度Iを測定した。有機半導体材料あるいは有機材料由来のシグナルは、その有機半導体材料あるいは有機材料に応じて適宜決められる。例えば、有機半導体材料がPCBMである場合には、有機半導体材料由来のシグナルとして、m/z=910のシグナルを使用することができる。本評価においても、m/z=910のシグナル強度を測定した。
【0332】
次に、クラック抑制評価の場合と同様に、上記有機半導体層上に厚さ2μmの保護層を形成した。さらに、上記保護層上に、下記組成の感光性樹脂組成物をスピンコートし、80℃で1分間乾燥させることで、厚さ2μmの感光層を形成した。すなわち、ここで形成した積層体は、順にガラス基板、有機半導体層(厚さ150nm)、保護層(厚さ2μm)および感光層(厚さ2μm)からなる構造を有する。
【0333】
この積層体に対し、nBA(酢酸n-ブチル)を用いた30秒間のパドル現像を2回実施して、感光層を除去した。その後、この積層体に対し、水を用いた30秒間のパドル現像を2回実施し、さらに水でシャワー洗浄を行って、保護層を除去した。これにより、ガラス基板上に有機半導体層が残った積層体が得られる。ここで、上記積層体表面(つまり、最上層である有機半導体層の表面)に対し、TOF-SIMS測定を再度実施し、有機半導体材料由来のシグナルIを測定した。
【0334】
そして、シグナルIに対するシグナルIの強度比を次の式で算出した。シグナル強度比が大きいほど、保護層除去後の有機半導体層の表面状態が、保護層形成前の有機半導体層の表面状態に近いことを示すことから、残渣の発生が抑制されているといえる。
シグナル強度比(%)=[I/I]×100
式中、Iは、保護層除去後の有機層表面における有機材料由来のシグナル強度を表し、Iは、保護層形成前の有機層表面における有機材料由来のシグナル強度を表す。
【0335】
<<<感光性樹脂組成物の成分>>>
・下記方法で合成された表に記載の感光性樹脂 25.09質量部
・下記の光酸発生剤X 0.26質量部
・下記の塩基性化合物Y 0.08質量部
・下記の界面活性剤B 0.08質量部
・PGMEA 74.50質量部
・・PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0336】
・感光性樹脂A-1の合成方法。
まず、BzMA(ベンジルメタクリレート、16.65g)、THFMA(メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、21.08g)、t-BuMA(t-ブチルメタクリレート、5.76g)、およびV-601(0.4663g、富士フイルム和光純薬社製)をPGMEA(32.62g)に溶解し、PGMEA溶液を調製した。次いで、窒素導入管および冷却管を取り付けた三口フラスコにPGMEA(32.62g)を入れ、86℃に昇温し、ここに、上記PGMEA溶液を2時間かけて滴下した。次いで、その溶液を2時間撹拌し、その後、反応を終了させた。反応終了後の溶液をヘプタン中に注入してポリマー成分を再沈させ、これにより生じた白色粉体を濾過により回収した。この結果、重量平均分子量Mwが45000の感光性樹脂A-1を得た。Mwが1000以下の成分の含有量は3質量%であった。
【0337】
・感光性樹脂A-2の合成方法。
まず、BzMA(16.65g)、THFAA(アクリル酸テトラヒドロフルフリル、19.19g)、t-BuMA(5.76g)、およびV-601(0.4663g)をPGMEA(32.62g)に溶解し、PGMEA溶液を調製した。次いで、窒素導入管および冷却管を取り付けた三口フラスコにPGMEA(32.62g)を入れ、86℃に昇温し、ここに、上記PGMEA溶液を2時間かけて滴下した。次いで、その溶液を2時間撹拌し、その後、反応を終了させた。反応終了後の溶液をヘプタン中に注入してポリマー成分を再沈させ、これにより生じた白色粉体を濾過により回収した。この結果、重量平均分子量Mwが45000の感光性樹脂A-2を得た。Mwが1000以下の成分の含有量は3質量%であった。
【0338】
・光酸発生剤X:下記構造(式中、R11はトリル基、R18はメチル基を表す。)を有する化合物。ダイトーケミックス社製。
【化28】
【0339】
・塩基性化合物Y:下記構造を有するチオ尿素誘導体。DSP五協フード&ケミカル社製。
【化29】
【0340】
・界面活性剤B:OMNOVA社製、PF-6320。
【0341】
<評価結果>
実施例および比較例の各結果を上記表1に示す。この結果から、本発明の保護層形成用組成物により、リソグラフィ法による有機層のパターニングにおいて、有機層のエッチング後における保護層のクラック、および、保護層の除去後における有機層上の残渣を抑制できることがわかった。
【0342】
さらに、各実施例に係る保護層形成用組成物から得られる保護層を含む積層体を利用して、有機半導体デバイスをそれぞれ作製した。いずれの有機半導体デバイスも、性能に問題はなかった。
【符号の説明】
【0343】
1 感光層
1a 露光現像後の感光層
2 保護層
3 有機層
3a 加工後の有機層
4 基材
5 現像後の感光層の除去部
5a エッチング後の積層体の除去部
図1