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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】白金族元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20221125BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/24 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020510806
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011856
(87)【国際公開番号】W WO2019188708
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018059470
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 一法
(72)【発明者】
【氏名】中井 章人
(72)【発明者】
【氏名】川喜田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】小山田 重蔵
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-55331(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132740(WO,A1)
【文献】KAJIWARA, Takafumi et al.,Recovery of Palladium in Highly-Viscous Polymer Solution Using Precipitation of Water-Soluble Polyme,Proceedings of ISEC2017,2017年,p.119-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00~3/46,11/00,
Scopus,
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素が吸着した水溶性高分子から白金族元素を回収する方法であって、
0.25~31.50重量%の塩酸を含有する塩酸水溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液と、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子とをチオ尿素の存在下で、1.5時間以上混合する混合工程とを備え、
前記混合工程における混合液中の、前記チオ尿素の含有割合を0.5~20.0重量%、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を16~72重量%として混合を行う白金族元素の回収方法。
【請求項2】
前記混合工程における混合液中の、前記塩酸の含有割合を1.0~16.0重量%とする請求項1に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体である請求項1または2に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項4】
前記アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体が、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の単独重合体、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む2種以上の単量体の共重合体である請求項3に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項5】
前記白金族元素が、パラジウムである請求項1~4のいずれかに記載の白金族元素の回収方法。
【請求項6】
前記白金族元素が、ニトリルゴムの水素化反応に用いた白金族元素含有触媒に由来の白金族元素である、請求項1~5のいずれかに記載の白金族元素の回収方法。
【請求項7】
前記混合工程が、前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液と、前記チオ尿素とを予め混合することで、チオ尿素を含有する塩酸水溶液を得た後に、該チオ尿素を含有する塩酸水溶液に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加して混合する工程である請求項1~6のいずれかに記載の白金族元素の回収方法。
【請求項8】
前記チオ尿素を含有する塩酸水溶液中における、前記チオ尿素の含有割合が、1.0~35.0重量%である請求項7に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項9】
前記混合工程において、前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加する際に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を固体の状態で添加する請求項1~8のいずれかに記載の白金族元素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素が吸着した水溶性高分子から、白金族元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素-炭素二重結合を水素化した水素化ニトリルゴム(水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ベルト、ホース、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
このような水素化ニトリルゴムは、たとえば、次の製造プロセスにより、製造される。すなわち、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体や、共役ジエン単量体を含む単量体混合物を乳化重合し、乳化重合により得られるニトリルゴムのラテックスを凝固・乾燥し、次いで、凝固・乾燥により得られたニトリルゴムを水溶性有機溶媒に溶解することで、ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得て、これに水素化触媒としての白金族元素含有触媒を添加し、水素化することにより製造される。
【0004】
一方で、このような製造方法により製造される水素化ニトリルゴムには、水素化触媒としての白金族元素含有触媒を用いるものであり、このような白金族元素含有触媒に含まれる白金族元素は高価であることから、その回収および再利用が望まれている。
【0005】
このような白金族元素を回収する技術として、たとえば、特許文献1や特許文献2には、アセチル化キトサン誘導体や、イミノジ酢酸またはジアルキルアミンが結合されてなるセルロースを吸着剤として用いるとともに、この吸着剤から白金族元素を脱離することで、白金族元素を回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-247981号公報
【文献】特開2010-179208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2の技術においては、その実施例の開示からも明らかなように、塩酸水溶液中に含まれる白金族元素を、吸着剤に吸着させることを前提とした技術(吸着剤として、塩酸水溶液中で用いられるものを使用することを前提とする技術)であり、また、上記特許文献1,2の技術においては、吸着剤から白金族元素を脱離させた後、吸着剤を再利用した際に、白金族元素の吸着効率が低下してしまう(たとえば、特許文献1では再利用後の吸着効率が70%程度、特許文献2では再利用後の吸着効率が95%程度)という課題があった。さらには、上記特許文献1,2の技術においては、白金族元素を脱離させた吸着剤自体の回収効率について何ら記載されておらず、ましてや、白金族元素を脱離させた吸着剤自体の回収効率を向上させることについて、何らの知見が示されていないものであった。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、白金族元素が吸着した水溶性高分子から、高い回収率で白金族元素を回収でき、しかも、白金族元素を回収した後の水溶性高分子を、白金族元素を吸着させる用途に好適に再利用できる、白金族元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、白金族元素が吸着した水溶性高分子から白金族元素を回収する際に、所定の濃度の塩酸水溶液を予め準備し、このような塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とをチオ尿素の存在下で所定時間混合すること、さらには、この際における、混合液中の、チオ尿素の含有割合および白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を特定の範囲とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、白金族元素が吸着した水溶性高分子から白金族元素を回収する方法であって、0.25~31.50重量%の塩酸を含有する塩酸水溶液を準備する準備工程と、前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液と、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子とをチオ尿素の存在下で、1.5時間以上混合する混合工程とを備え、前記混合工程における混合液中の、前記チオ尿素の含有割合を0.5~20.0重量%、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を16~72重量%として混合を行う白金族元素の回収方法が提供される。
【0011】
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記混合工程における混合液中の、前記塩酸の含有割合を1.0~16.0重量%とすることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記水溶性高分子が、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体であることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体が、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の単独重合体、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む2種以上の単量体の共重合体であることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記白金族元素が、パラジウムであることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記白金族元素が、ニトリルゴムの水素化反応に用いた白金族元素含有触媒に由来の白金族元素であることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記混合工程が、前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液と、前記チオ尿素とを予め混合することで、チオ尿素を含有する塩酸水溶液を得た後に、該チオ尿素を含有する塩酸水溶液に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加して混合する工程であることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記チオ尿素を含有する塩酸水溶液中における、前記チオ尿素の含有割合が、1.0~35.0重量%であることが好ましい。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記混合工程において、前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加する際に、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子を固体の状態で添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白金族元素が吸着した水溶性高分子から、高い回収率で白金族元素を回収でき、しかも、白金族元素を回収した後の水溶性高分子を、白金族元素を吸着させる用途に好適に再利用できる、白金族元素の回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の白金族元素の回収方法は、
白金族元素が吸着した水溶性高分子から白金族元素を回収する方法であって、
0.25~31.50重量%の塩酸を含有する塩酸水溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程において準備した前記塩酸水溶液と、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子とをチオ尿素の存在下で、1.5時間以上混合する混合工程とを備え、
前記混合工程における混合液中の、前記チオ尿素の含有割合を0.5~20.0重量%、前記白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を16~72重量%として混合を行うものである。
【0014】
<白金族元素>
まず、本発明の回収方法において、回収の対象となる白金族元素について説明する。
本発明の回収方法において、回収の対象となる白金族元素としては、特に限定されないが、ニトリルゴムなどの共役ジエン系ゴム中に含まれる炭素-炭素二重結合を水素化することで、水素化ニトリルゴムなどの水素化共役ジエン系ゴムを得る際に用いられる、白金族元素含有触媒に由来の白金族元素などが挙げられる。このような共役ジエン系ゴムの水素化反応の一例として、ニトリルゴムの水素化反応を例示して、以下、説明する。
【0015】
ニトリルゴムとしては、たとえば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と、共役ジエン単量体とを少なくとも含む単量体混合物を共重合することにより得られる共重合体が挙げられる。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。また、共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が挙げられる。
【0016】
ニトリルゴム中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~50重量%、さらに好ましくは15~50重量%である。また、ニトリルゴム中における、共役ジエン単量体単位(水素化反応により、水素化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは40~95重量%、より好ましくは50~90重量%、さらに好ましくは50~85重量%である。
【0017】
また、ニトリルゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体および共役ジエン単量体に加えて、これらと共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような共重合可能な他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体;マレイン酸モノn-ブチル、フマル酸モノn-ブチルなどのα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体;エチレン;α-オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体;フッ素含有ビニル単量体;共重合性老化防止剤;などが挙げられる。
【0018】
ニトリルゴムの水素化反応は、通常、白金族元素含有触媒を用いて行われる。ニトリルゴムの水素化反応は、乳化重合により得られるニトリルゴムのラテックスに対し、ラテックス状態のまま行うこともできるし、あるいは、乳化重合により得られるニトリルゴムのラテックスを、凝固・乾燥して固形状のニトリルゴムを得て、得られたニトリルゴムを、水溶性有機溶媒に溶解して、重合体溶液の状態で行うこともできる。これらのなかでも、触媒活性等の観点より、得られたニトリルゴムを、水溶性有機溶媒に溶解して、重合体溶液の状態で行うことが好ましい。
【0019】
ニトリルゴムのラテックスの凝固・乾燥は、公知の方法により行えばよいが、凝固して得られるクラムと塩基性水溶液とを接触させる処理工程を設けることにより、得られるニトリルゴムをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定される重合体溶液のpHが7を超えるように改質することが好ましい。THFに溶解して測定される重合体溶液のpHは、好ましくは7.2~12、より好ましくは7.5~11.5、最も好ましくは8~11の範囲である。このクラムと塩基性水溶液との接触処理により、溶液系水素化を速やかに進行させることが可能となる。
【0020】
水素化反応を行う際の重合体溶液中における、ニトリルゴムの濃度は、好ましくは1~70重量%、より好ましくは1~40重量%、特に好ましくは2~20重量%である。水溶性有機溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。これらの有機溶媒の中でもケトン類が好ましく用いられ、アセトンが特に好適に用いられる。
【0021】
水素化反応を行う際には、水素化触媒として、白金族元素含有触媒が用いられる。白金族元素含有触媒としては、白金族元素、すなわち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金を含有する触媒であればよく、特に限定されないが、触媒活性や入手容易性の観点からパラジウム化合物、ロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
【0022】
パラジウム化合物は、通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態は塩や錯塩である。
【0023】
パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、シアン化パラジウム、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラシアノパラジウム酸カリウムなどが挙げられる。
【0024】
これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、へキサクロロパラジウム酸アンモニウムが好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
【0025】
ロジウム化合物としては、たとえば、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウム、酸化ロジウム、三水酸化ロジウムなどが挙げられる。
【0026】
白金族元素含有触媒としては、上述したパラジウム化合物やロジウム化合物をそのまま使用してもよいし、あるいは、上述したパラジウム化合物やロジウム化合物などの触媒成分を担体に担持させて、担持型触媒として使用してもよい。
【0027】
担持型触媒を形成するための担体としては、一般的に金属触媒の担体として用いられているものであればよいが、具体的には、炭素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウムなどを含有する無機化合物が好ましく、その中でも、パラジウム化合物やロジウム化合物などの触媒成分の吸着効率がより高まるという観点より、担体の特性として、平均粒子径が1μm~200μm、比表面積が200~2000m/gであるものを使用するのが好ましい。
【0028】
このような担体は、活性炭、活性白土、タルク、クレー、アルミナゲル、シリカ、けいそう土、合成ゼオライトなど公知の触媒用担体の中から適宜に選択する。担体への触媒成分の担持方法としては、たとえば、含浸法、コーティング法、噴霧法、沈殿法などが挙げられる。触媒成分の担持量は、触媒と担体との合計量に対する触媒成分の割合で通常0.5~80重量%、好ましくは1~50重量%、より好ましくは2~30重量%である。触媒成分を担持した担体は、反応器の種類や反応形式などに応じて、たとえば、球状、円柱状、多角柱状、ハニカム状などに成形することができる。
【0029】
また、パラジウム化合物やロジウム化合物などの白金族元素の塩を担体に担持させずに、白金族元素含有触媒としてそのまま使用する場合においては、これらの化合物を安定させるための安定化剤を併用することが好ましい。安定化剤を、パラジウム化合物やロジウム化合物などの白金族元素含有触媒を溶解または分散させた媒体中に存在させることにより、ニトリルゴムを高水素添加率で水素化することができる。
【0030】
このような安定化剤としては、たとえば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアルキルビニルエーテルなどの側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体;ポリアクリル酸のナトリウム、ポリアクリル酸カリウムなどのポリアクリル酸の金属塩;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリエーテル;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;ゼラチン、アルブミンなどの天然高分子;などが挙げられる。これらの中でも、側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体、またはポリエーテルが好ましい。側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体の中では、ポリビニルピロリドン、ポリアルキルビニルエーテルが好ましく、ポリメチルビニルエーテルがより好ましい。
【0031】
また、水素化反応に際しては、還元剤を併用してもよく、還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、酢酸ヒドラジン、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン塩酸塩等のヒドラジン類、またはヒドラジンを遊離する化合物などが挙げられる。
【0032】
水素化反応の温度は、通常0~200℃、好ましくは5~150℃、より好ましくは10~100℃である。水素化反応の温度を上記範囲とすることにより、副反応を抑えながら、反応速度を十分なものとすることができる。
【0033】
水素化反応を行う際における、水素の圧力は、通常、0.1~20MPaであり、好ましくは0.1~15MPa、より好ましくは0.1~10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分~50時間である。なお、水素ガスは、先ず窒素などの不活性ガスで反応系を置換し、さらに水素で置換した後に加圧することが好ましい。
【0034】
そして、白金族元素含有触媒として、担持型触媒を使用した場合には、濾過や遠心分離などにより担持型触媒を分離することにより、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得ることができる。
【0035】
<白金族元素が吸着した水溶性高分子>
次いで、本発明の回収方法において用いる、白金族元素が吸着した水溶性高分子について説明する。
本発明の回収方法において用いる、白金族元素が吸着した水溶性高分子としては、特に限定されないが、たとえば、上記のような白金族元素含有触媒を使用してニトリルゴムの水素化を行った際に得られる、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液から、白金族元素含有触媒に由来の白金族元素を、その回収や再利用のために、水溶性高分子に吸着させたものが好適に挙げられる。
【0036】
水素化ニトリルゴムから、白金族元素含有触媒に由来の白金族元素を、その回収や再利用のために、水溶性高分子に吸着させるための具体的な方法としては、たとえば、上記のような白金族元素含有触媒を使用してニトリルゴムの水素化を行った際に得られる、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に対し、水溶性高分子の水溶液を添加し、次いで、これを撹拌する方法が挙げられる。そして、このような方法によれば、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加し、これを撹拌することで、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に含まれる、白金族元素に水溶性高分子が配位し、白金族元素が水溶性高分子に取り込まれ、その一方で、水溶性高分子が、水溶性有機溶媒の影響により脱水和することで、水溶性高分子を、白金族元素が吸着した状態で析出させることができ、これにより白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから適切に分離させることが可能となる。また、この際においては、析出物として、白金族元素が吸着した水溶性高分子が得られることとなる。
【0037】
本発明で用いる水溶性高分子としては、水溶性を有し、水に可溶な高分子であればよく、特に限定されない。このような水溶性高分子としては、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体(「アミノ基含有メタクリレート系重合体および/またはアミノ基含有アクリレート系重合体」の意味。以下、同様。)、カルボキシキル基含有(メタ)アクリレート系重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリレート系重合体、リン酸基含有(メタ)アクリレート系重合体などの変性基含有(メタ)アクリレート系重合体;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体;などが挙げられるが、これらの中でも、白金族元素との親和性が高く、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果がより高いという観点より、変性基含有(メタ)アクリレート系重合体が好ましく、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体がより好ましい。また、水溶性高分子に白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を取り込ませた後、水溶性高分子を適切に析出させるという観点より、水溶性高分子としては、電気的に中性な水溶性高分子(すなわち、カチオン化やアニオン化がされてない水溶性高分子)であることが好ましく、特に、電気的に中性なアミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体(すなわち、カチオン化やアニオン化がされてないアミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体)が特に好ましい。
【0038】
アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル単位を主成分とする重合体であって、少なくとも一部にアミノ基を含有する重合体であればよく、特に限定されない。アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体は、たとえば、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体、二種以上のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体、一種以上のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体と、これと共重合可能な一種以上の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0039】
アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-t-ブチルアミノエチルアクリレート、N,N-t-ブチルアミノエチルメタクリレート、N,N-モノメチルアミノエチルアクリレート、N,N-モノメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等のN-アミノアルキル(メタ)アクリルアミド;などが挙げられる。アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらのなかでも、アミノアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)が特に好ましい。
【0040】
また、共重合可能な単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等の不飽和カルボン酸;2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等の水酸基含有ビニル;スチレン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;塩化ビニル、ジビニルエーテル、メチルビニルケトン、N-ビニルアセトアミド、クロロプレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、アリルメルカプタン等が挙げられる。共重合可能な単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0041】
アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体中における、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果をより高めるという観点より、好ましくは30~100重量%、より好ましくは50~100重量%、特に好ましくは70~100重量%である。
【0042】
本発明で用いる水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果をより高めるという観点より、好ましくは1,000~1,500,000、より好ましくは5,000~1,200,000、さらに好ましくは10,000~1,000,000、さらにより好ましくは20,000~1,000,000、さらに一層好ましくは100,000~1,000,000、特に好ましくは300,000~1,000,000、最も好ましくは600,000~1,000,000である。水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法を用いて、標準ポリスチレンあるいは標準ポリエチレングリコール換算にて求めることができる。
【0043】
水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加する際における、水溶液中の水溶性高分子の濃度は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離をより効率的に行うという観点より、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~30重量%、さらに好ましくは5~20重量%である。
【0044】
また、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加する際における、水溶性高分子の水溶液の添加量は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離をより効率的に行うという観点より、水素化ニトリルゴム100重量部に対する、水溶性高分子の添加量が0.1~50重量部となる量が好ましく、0.5~40重量部となる量がより好ましく、1~30重量部となる量がさらに好ましく、1~5重量部となる量が特に好ましい。
【0045】
水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加して、撹拌を行う際における、攪拌方法としては、特に限定されないが、たとえば、攪拌機を用いた方法や振とう器を用いた方法などが挙げられる。また、撹拌を行う際における、攪拌の条件も、特に限定されず、攪拌温度は、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃であり、また、攪拌速度は、好ましくは1~500rpm、より好ましくは5~100rpmである。混合時間は1.5時間以上であり、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、上限は特に限定されないが、24時間以下であり、混合時間をこのような範囲とすることにより、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離を、高い効率にて行うことができる。
【0046】
<白金族元素が吸着した水溶性高分子からの白金族元素の回収>
そして、本発明の白金族元素の回収方法は、上述した白金族元素が吸着した水溶性高分子から、白金族元素を回収する方法である。具体的には、本発明の白金族元素の回収方法においては、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とを、チオ尿素の存在下において、混合するものであり、これにより、白金族元素が吸着した水溶性高分子から、白金族元素を回収するものである。
【0047】
ここで、本発明においては、このような塩酸およびチオ尿素を用いた白金族元素の回収方法において、予め、塩酸濃度を0.25~31.50重量%に調整した塩酸水溶液を準備し、このような濃度に調整された塩酸水溶液中に、白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加するものである。特に、本発明者等が検討を行ったところ、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とを互いに混ぜ合わせる時点(すなわち、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とを接触させる時点)における、塩酸水溶液中における塩酸濃度が高すぎると、白金族元素を回収した後の水溶性高分子が劣化してしまい、これにより、白金族元素を吸着させる用途に再利用した際における、白金族元素の吸着率が低下してしまうという問題があることを見出したものである。
【0048】
そして、本発明によれば、このような状況において、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とを互いに混ぜ合わせる時点(すなわち、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とが接触させる時点)における、塩酸水溶液の濃度を0.25~31.50重量%に制御することにより、このような問題を有効に解決できることを見出したものである。特に、本発明者等の知見によると、水素化反応後の水素化ニトリルゴムを水溶性有機溶媒溶液として得た場合には、水素化に用いた白金族元素含有触媒に由来の白金族元素の分離は、水溶性有機溶媒中で行われるため、酸性雰囲気とされることはなく、そのため、このような用途に用いられる水溶性高分子は、塩酸による影響を受けやすい傾向にあるものであることを見出したものであり、これに対し、本発明によれば、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とを互いに混ぜ合わせる時点(すなわち、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とが接触させる時点)における、塩酸水溶液の濃度を上記範囲に制御することにより、このような問題を有効に解決できることを見出したものである。そのため、本発明によれば、吸着剤として、水素化ニトリルゴムの水素化に用いた白金族元素含有触媒に由来の白金族元素の吸着に好適に用いられる水溶性高分子を用いた場合、とりわけ、吸着剤として、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体を用いた場合に、このような塩酸水溶液とを互いに混ぜ合わせる時点(すなわち、白金族元素が吸着した水溶性高分子と、塩酸水溶液とが接触させる時点)における、塩酸水溶液の濃度の影響が大きくなる傾向にあるものであり、そのため、吸着剤として、水溶性高分子を用いた場合、とりわけ、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体を用いた場合に、本発明の作用効果が顕著になるものである。
【0049】
本発明の白金族元素の回収方法において、予め準備する塩酸水溶液中における、塩酸濃度は0.25~31.50重量%であり、好ましくは10.0~20.0重量%、より好ましくは14.0~17.5重量%である。塩酸水溶液中における、塩酸濃度が高すぎると、白金族元素を回収した後の水溶性高分子を、白金族元素を吸着させる用途に再利用した際における回収効率が低下してしまう。一方、塩酸水溶液中における、塩酸濃度が低すぎると、白金族元素が吸着した水溶性高分子からの、白金族元素の回収効率が低下してしまう。
【0050】
なお、塩酸水溶液中に、白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加する際には、白金族元素が吸着した水溶性高分子は、固体の状態で添加してもよいし、あるいは、水溶液の状態で添加してもよいが、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、混合液中における、塩酸濃度を制御し易いという観点より、白金族元素が吸着した水溶性高分子は、固体の状態で添加することが好ましい。なお、この際においては、水溶性高分子は、実質的に固体状態であるといえるものであればよく、若干量の水分(たとえば、1重量%以下程度の水分)が含まれていてもよい。
【0051】
また、本発明の白金族元素の回収方法においては、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合するものであるが、これらを混合している際における、混合液中における、チオ尿素の含有割合を0.5~20.0重量%とするものであり、好ましくは3.0~18.0重量%、より好ましくは5.0~17.0重量%である。混合液中における、チオ尿素の含有割合が少なすぎると、白金族元素が吸着した水溶性高分子からの、白金族元素の回収効率が低下してしまう。一方、チオ尿素の含有割合が多すぎると、水溶性高分子中に硫黄が取り込まれてしまい、水溶性高分子を吸着剤として再利用した際に、吸着の対象となる水素化ニトリルゴムなどの共役ジエン系ゴムに硫黄が混入し、これにより、乾燥工程の熱などにより架橋が進行してしまったり、最終的に得られる水素化ニトリルゴムなどの水素化共役ジエン系ゴムに意図しない硫黄が含まれることで、架橋の制御が困難となる場合がある。
【0052】
なお、本発明の白金族元素の回収方法においては、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合するものであればよく、チオ尿素の添加時期としては、特に限定されないが、(1)塩酸水溶液中に、チオ尿素を予め添加しておき、チオ尿素を含有する塩酸水溶液に、白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加して混合する方法、(2)塩酸水溶液に、白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加する際に、チオ尿素をそのまま、あるいは水溶液の状態にて添加して混合する方法、(3)塩酸水溶液に、白金族元素が吸着した水溶性高分子を添加して混合を開始した後に、チオ尿素をそのまま、あるいは水溶液の状態にて添加して、混合を継続する方法、などが挙げられる。これらの中でも、操作性の観点より、上記(1)の方法が好ましい。この際における、チオ尿素を含有する塩酸水溶液中における、チオ尿素の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは1.0~35.0重量%、より好ましくは2.0~25.0重量%、さらに好ましくは5.0~10.0重量%である。
【0053】
また、本発明の白金族元素の回収方法においては、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、混合液中における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を、16~72重量%とするものであり、好ましくは20~65重量%、より好ましくは20~55重量%、さらに好ましくは30~50重量%である。混合液中における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合が少なすぎると、白金族元素を回収した後の水溶性高分子の回収率(すなわち、再利用に供することのできる水溶性高分子の割合)が低下してしまう。一方、混合液中における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合が多すぎると、白金族元素が吸着した水溶性高分子からの、白金族元素の回収効率が低下してしまう。
【0054】
なお、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、混合液中における塩酸濃度(すなわち、白金族元素が吸着した水溶性高分子およびチオ尿素を添加した後の混合液中における塩酸濃度)は、特に限定されないが、好ましくは1.0~16.0重量%であり、より好ましくは5.0~14.0重量%、さらに好ましくは6.0~9.0重量%である。混合液中における塩酸濃度を上記範囲とすることにより、白金族元素が吸着した水溶性高分子からの、白金族元素の回収効率をより適切に高めるこができる。
【0055】
また、本発明の白金族元素の回収方法において、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、混合時間は、1.5時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは2~4時間である。混合時間が短すぎると、白金族元素が吸着した水溶性高分子からの、白金族元素の回収効率が低下してしまう。一方、混合時間が長すぎると、プロセス全体のサイクルタイムが長くなり生産性が低下してしまう。
【0056】
塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、混合温度は、特に限定されないが、好ましくは5~90℃、より好ましくは10~30℃である。白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、これらの混合方法は、たとえば、攪拌機を用いた方法や振とう器を用いた方法などが挙げられる。
【0057】
そして、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合させた後、得られた混合液に、水溶性高分子に対して溶解性を示さない有機溶媒を添加することで、水溶性高分子を析出させ、ろ過などの方法により、混合液から水溶性高分子を分離させる。また、水溶性高分子から脱離した白金族元素については、焼却などにより、混合液から回収することできる。一方、析出させた水溶性高分子は、ニトリルゴムなどの共役ジエン系ゴム中に含まれる炭素-炭素二重結合を水素化する際に用いられる、白金族元素含有触媒に由来の白金族元素を吸着させる吸着剤として、再利用することができる。水溶性高分子に対して溶解性を示さない有機溶媒としては、特に限定されず、使用する水溶性高分子の種類に応じて選択すればよいが、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられ、これらの有機溶媒の中でもケトン類が好ましく用いられ、アセトンが特に好適に用いられる。
【0058】
特に、本発明の回収方法においては、上述した所定の濃度の塩酸水溶液を予め準備し、このような予め準備した塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、特定の濃度のチオ尿素の存在下で混合するものであるため、白金族元素が吸着した水溶性高分子の劣化を抑制しながら、白金族元素の回収を行うことができるものであり、これにより、高い回収率での白金族元素の回収を実現しつつ、白金族元素を回収した後の水溶性高分子については、高い吸着率を維持した状態にて回収することができ、そのため、白金族元素を吸着させる用途に好適に再利用することができるものである。加えて、本発明の回収方法においては、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際に、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を16~72重量%として混合を行うため、これにより、白金族元素を脱離させた後の水溶性高分子を高い回収率で回収することができるものであり、このような観点からも、白金族元素を吸着させる用途に好適に再利用することができるものである。
【実施例
【0059】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。
【0060】
<製造例1>
(水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の製造)
反応器に、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル37部、およびt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に仕込んだ。次いで、反応器内部を窒素で置換した後、ブタジエン63部を添加し、反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、および硫酸第一鉄0.01部を添加した。次いで、反応器を10℃に保ったまま内容物を16時間攪拌した。その後、反応器内へ10重量%のハイドロキノン水溶液を添加して重合反応を停止させた後、重合反応液から未反応の単量体を除去することで、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体のラテックスを得た。重合転化率は90%であった。
【0061】
次いで、上記とは別の反応器に、塩化カルシウム(凝固剤)3部を溶解した凝固水300部を入れ、これを50℃で攪拌しながら、上記にて得られたラテックスを凝固水中へ滴下した。そして、ここへ水酸化カリウム水溶液を加えてpHを11.5に保ちながら重合体クラムを析出させた後、凝固水から重合体クラムを分取して水洗後、50℃で減圧乾燥した。次いで、得られた重合体クラムをアセトンに溶解することで、重合体含量が15重量%のアセトン溶液を調製した。
【0062】
そして、得られたアクリロニトリル-ブタジエン共重合体のアセトン溶液にシリカ担持型パラジウム(Pd)触媒(Pd量は「Pd金属/アクリロニトリル-ブタジエン共重合体」の比で1000重量ppm)を加えて、これを攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流すことで溶存酸素を除去した。次いで、系内を2回水素ガスで置換後、5MPaの水素を加圧し、内容物を50℃に加温して6時間攪拌することで、水素化反応を行った。
【0063】
水素化反応終了後、反応系を室温に冷却し、系内の水素を窒素で置換した。そして、水素化反応により得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液について、濾過を行うことで、シリカ担持型パラジウム触媒を回収し、ろ過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液を得た。
【0064】
上記にて得られた、ろ過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液のうち一部を採取し、これを10倍量の水中に投入して、共重合体を析出させ、得られた共重合体を真空乾燥機で24時間乾燥することで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は151重量ppmであった。また、JIS K6235に準じてヨウ素価を測定したところ、ヨウ素価は、7.6であった。
【0065】
<製造例2>
(水溶性高分子の製造)
反応器に、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)10部、イオン交換水37部を仕込み、次いで、反応器内部を窒素で置換した後、反応器を75℃に加温して、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.35部を添加した。次いで、反応器を75℃に保ったまま内容物を1時間攪拌した。得られた高分子水溶液をアセトン中へ滴下し、重合体を析出させた後、アセトン中から重合体を分取してアセトン洗浄を行った後、50℃で減圧乾燥することにより固体状の水溶性高分子(ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート))を得た。得られた水溶性高分子について、GPC測定により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は650,000であった。そして、得られた水溶性高分子1部をイオン交換水10部に溶かして水溶性高分子の水溶液(水溶性高分子の濃度:9.1重量%)を得た。
【0066】
<参考例1>
(水溶性高分子を用いた、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離)
製造例1で得られた、ろ過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液を一部採取し、これをバイアルに移し、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の濃度が8重量%となるように、アセトンを添加して濃度調整を行った後、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体100部に対して、製造例2で得られた水溶性高分子の水溶液25部を添加した。次いで、振とう器(商品名「RECIPRO SHAKER SR-1」、タイテック社製)を使用して、25℃、100rpmの条件にて、24時間攪拌を行った。そして、24時間の撹拌により、水溶性高分子は固体となって沈降した。次いで、ろ過を行うことにより、パラジウムを吸着させた水溶性高分子を得た。そして、得られた固形状の水溶性高分子について、原子吸光測定により、水溶性高分子中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は543重量ppmであった。
【0067】
<実施例1>
(パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収)
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度16.6重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。得られたチオ尿素含有塩酸水溶液100部に、参考例1において得られた、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子100部投入し、次いで、振とう器(商品名「RECIPRO SHAKER SR-1」、タイテック社製)を使用して、25℃、120rpmの条件にて4時間撹拌を行った。その後、攪拌後の混合液を、等量以上のアセトンに投入し、振とう器(商品名「RECIPRO SHAKER SR-1」、タイテック社製)を使用して撹拌し、ろ過をすることで、水溶性高分子の沈殿物を得た。得られた固形状の水溶性高分子について、原子吸光測定により、水溶性高分子中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は16.4重量ppmまで減少していた。また、ろ過により、回収された水溶性高分子の沈殿物の量は、99.2部であり、水溶性高分子の回収率(水溶性高分子の回収率(重量%)=(回収された水溶性高分子の沈殿物の量÷チオ尿素含有塩酸水溶液中に投入した水溶性高分子の量)×100)は99.2重量%であった。
【0068】
(水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離)
そして、回収された水溶性高分子の沈殿物1部を、再度、イオン交換水10部に溶かして水溶性高分子の水溶液(水溶性高分子の濃度:9.1重量%)とし、上述した参考例1と同様にして、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離操作を行った。その結果、得られた固形状の水溶性高分子について、原子吸光測定により、水溶性高分子中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は528.1重量ppmであり、上記にて回収操作を経た、水溶性高分子によれば、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離操作に、好適に再利用できるものであった。
【0069】
そして、上記した「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を、同様にして、繰り返し2回行った(合計で3回)。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。なお、表1中、「水溶性高分子の回収率」は、その値が高いほど、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」を行った後における、水溶性高分子の回収量が多くなるため好ましい。実施例1においては、「水溶性高分子の回収率」は、1回目:99.2重量%、2回目:99.5重量%、3回目:99.1重量%と、いずれも高い水準であった。また、「水溶性高分子中のパラジウム残留量」は、その値が低いほど、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」を行った際における、回収効率が高いと判断できるため、好ましい。実施例1においては、「水溶性高分子中のパラジウム残留量」は、1回目:16.4重量ppm、2回目:17.3重量ppm、3回目:16.9重量ppmと、いずれも低く抑えられたものであった。さらに、表1中、「再利用後の水溶性高分子中におけるパラジウム吸着量」は、その値が高いほど、水溶性高分子を、「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」操作に再利用した際における、吸着効率が高いと判断できるため、好ましい。実施例1においては、「再利用後の水溶性高分子中におけるパラジウム吸着量」は、1回目:528.1重量ppm、2回目:525.3重量ppm、3回目:526.4重量ppmと、いずれも高く、吸着効率に優れたものであった。
【0070】
<実施例2>
塩酸濃度16.6重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部に対する、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子の投入量を50部に変更したこと、および、振とう器を使用した攪拌時間を2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0071】
<実施例3>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、およびチオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)を、イオン交換水にて希釈し、塩酸濃度30.9重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度30.9重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0072】
<実施例4>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度0.4重量%、チオ尿素濃度7.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度0.4重量%、チオ尿素濃度7.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0073】
<実施例5>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度15.4重量%、チオ尿素濃度32.0重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度15.4重量%、チオ尿素濃度32.0重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0074】
<実施例6>
塩酸濃度16.6重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部に対する、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子の投入量を25部に変更した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0075】
<実施例7>
塩酸濃度16.6重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部に対する、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子の投入量を185部に変更した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0076】
<比較例1>
参考例1において得られた、パラジウムを吸着させた水溶性高分子100部をイオン交換水77.65部に溶解し、水溶性高分子の水溶液を得た。得られた水溶性高分子の水溶液177.65部に、濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)18.9部、およびチオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)3.45部を添加した以外は、実施例1と同様にして、振とう器による混合等の操作を行うことで、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」を行った。そして、実施例1と同様に、このような「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0077】
<比較例2>
振とう器を使用した攪拌時間を1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0078】
<比較例3>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度32.3重量%、チオ尿素濃度6.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度32.3重量%、チオ尿素濃度6.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からのパラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からのパラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0079】
<比較例4>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度33.6重量%、チオ尿素濃度6.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度33.6重量%、チオ尿素濃度6.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0080】
<比較例5>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度0.2重量%、チオ尿素濃度7.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度0.2重量%、チオ尿素濃度7.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0081】
<比較例6>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度0.7重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度0.7重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0082】
<比較例7>
濃度12mol/Lの市販の塩酸水溶液(和光純薬社製、試薬特級)、チオ尿素(和光純薬社製、試薬特級)、およびイオン交換水を用いて、塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度0.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液を得た。そして、上記にて調製した塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度0.4重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0083】
<比較例8>
塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部に対する、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子の投入量を17部に変更した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0084】
<比較例9>
塩酸濃度16.9重量%、チオ尿素濃度6.9重量%のチオ尿素含有塩酸水溶液100部に対する、パラジウムを吸着させた固体状の水溶性高分子の投入量を300部に変更した以外は、実施例1と同様にして、「パラジウムを吸着させた水溶性高分子からの、パラジウムの回収」および「水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液からの、パラジウムの分離」の各操作を合計3回繰り返し行った。1回目、2回目、3回目における、各結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、0.25~31.50重量%の塩酸を含有する塩酸水溶液を予め準備し、予め準備した塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、混合液中における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合を16~72重量%、チオ尿素の含有割合を0.5~20.0重量%となるように、1.5時間以上混合することにより、水溶性高分子の回収率が高くなり、水溶性高分子中のパラジウム残留量が低く抑えられており、さらには、再利用後の水溶性高分子中におけるパラジウム吸着量を高くすることができ、良好な結果であった(実施例1~7)。
【0087】
一方、白金族元素が吸着した水溶性高分子を水溶液の状態とし、ここに、濃度12mol/L(濃度37重量%)の塩酸使用液を添加した場合や、予め調製する塩酸水溶液中における塩酸濃度が高すぎる場合には、水溶性高分子の劣化が起こり、再利用後の水溶性高分子中におけるパラジウム吸着量が低くなる結果となった(比較例1,3,4)。
また、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とをチオ尿素の存在下で混合する際における、混合時間が短すぎる場合や、予め調製する塩酸水溶液中における塩酸濃度が低すぎる場合、さらには、チオ尿素の濃度が低すぎる場合には、水溶性高分子中のパラジウム残留量が高くなり、水溶性高分子からのパラジウムの回収効率に劣る結果となった(比較例2,5,6,7)。
さらに、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合が低すぎる場合には、水溶性高分子の回収率が低くなる結果となった(比較例8)。
また、塩酸水溶液と、白金族元素が吸着した水溶性高分子とを、チオ尿素の存在下で混合する際における、白金族元素が吸着した水溶性高分子の含有割合が高すぎる場合には、水溶性高分子中のパラジウム残留量が高くなり、水溶性高分子からのパラジウムの回収効率に劣る結果となった(比較例9)。