(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20221125BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20221125BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20221125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221125BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20221125BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221125BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221125BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221125BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20221125BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20221125BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K31/7105
A61K31/711
A61K39/395 N
A61K48/00
A61P19/08
A61P3/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P43/00 111
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
C07K16/18
C12N15/115 Z
(21)【出願番号】P 2020532511
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029502
(87)【国際公開番号】W WO2020022499
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018141252
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構 老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 老化機構・制御研究拠点 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉森 保
(72)【発明者】
【氏名】中村 修平
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0041175(US,A1)
【文献】PLOS ONE,2018年02月07日,13(2),e0183229
【文献】MEDCHEM NEWS,2012年08月,No.3,14-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/7088
A61K 31/7105
A61K 31/711
A61K 48/00
A61K 39/395
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rubicon遺伝子の機能を抑制する、下記(a)から(d)のいずれかに記載の分子を有効成分とする、対象における代謝性骨疾患もしくはその症状、ストレス耐性の低下、臓器の
線維化、神経変性疾患もしくはその症状、運動機能不全、または目の変性の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合する二重鎖RNAもしくはアンチセンスRNA、またはこれらRNAをコードするDNA
(b)Rubiconタンパク質に結合する核酸アプタマー
(c)Rubiconタンパク質に結合する抗体
(d)Rubicon遺伝子もしくはその発現制御領域のDNA配列またはRubicon遺伝子の転写産物のRNA配列を編集する部位特異的ヌクレアーゼ
【請求項2】
Rubicon遺伝子の機能を抑制する、下記(a)から(d)のいずれかに記載の分子を有効成分とする、対象における骨粗鬆症、骨量もしくは骨密度・骨体積/骨組織体積比の低下、骨形態の変化、パーキンソン病、アルツハイマー病、ポリグルタミン病、または筋萎縮性側索硬化症(ALS)の予防、改善、もしくは治療のための組成物。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合する二重鎖RNAもしくはアンチセンスRNA、またはこれらRNAをコードするDNA
(b)Rubiconタンパク質に結合する核酸アプタマー
(c)Rubiconタンパク質に結合する抗体
(d)Rubicon遺伝子もしくはその発現制御領域のDNA配列またはRubicon遺伝子の転写産物のRNA配列を編集する部位特異的ヌクレアーゼ
【請求項3】
対象が脊椎動物である、請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rubiconを標的とした、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物に関する。また、本発明は、被検化合物が、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性の評価方法に関する。さらに、本発明は、老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査する方法、および当該検査に用いられる分子に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロオートファジー(以降、単に、「オートファジー」と称する)は、オートファゴソームと呼ばれる二重膜構造が細胞質材料を隔離してリソソームと融合し、それらの内容物が分解される、進化的に保存された細胞内メンブレントラフィック過程である。当初、オートファジーは、バルク分解システムとして説明されていたが、凝集蛋白質、脂質、損傷オルガネラ、そして進入細菌も選択的に標的とすることが明らかになった。標的を幅広く分解することにより、オートファジーは細胞恒常性を維持する。その結果、オートファジーの機能障害は、がんや神経変性疾患、そして代謝障害を含む多くのヒトの疾患に関与してきた。
【0003】
最近の証拠は、オートファジーが動物の老化にも関わっていることを示している。多くの種において、オートファジー活性は老化に伴い低下する(非特許文献1~3)。C.elegansの研究は、インスリン/IGF-1シグナル伝達の軽度の減少、カロリー制限、生殖細胞系列の除去、ミトコンドリア呼吸の減少、そしてTORシグナル伝達の減少を含む、複数の保存された長命経路の発見へと導いた。重要な点は、こうした介入の全てがオートファジーを活性化させ、この活性化したオートファジーに依存するように動物の寿命を延ばすことである。そして、このことはオートファジーが多くの長命経路の収束性機構であることを示唆している(非特許文献4、5)。
【0004】
しかしながら、このようなオートファジー活性と老化との関係が、どのような機構により成立しているのかは、いまだその詳細が明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chang, J. T. et al., Elife 6, 18459 (2017).
【文献】Uddin, M. N. et al., Age (Dordr) 34, 75-85 (2012).
【文献】Donati, A. et al., J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56, B375-383 (2001)
【文献】Toth, M. L. et al. Autophagy 4, 330-338 (2008)
【文献】Madeo, F. et al, J Clin Invest 125, 85-93 (2015)
【文献】Matsunaga, K. et al., Nature cell biology 11, 385-396 (2009)
【文献】Zhong, Y. et al., Nat Cell Biol 11, 468-476 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、オートファジー活性と老化との関係の基礎となる分子を同定することにある。また、本発明は、当該分子を標的として、老化の抑制、加齢性の疾患や症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長を行うことを目的とする。さらなる、本発明の目的は、当該分子を標的として、老化の程度、加齢性の疾患や症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクの検査を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまでに、オートファゴソーム-リソソーム融合過程を阻害する、オートファジーの負の制御因子であるRubicon(Run domain Beclin-1 interacting and cysteine-rich containing protein)を同定している(非特許文献6、7)。そこで、本発明者らは、Rubiconが、オートファジー活性と老化との関係を基礎づける機序に関与しているか否かの検証を行った。
【0008】
その結果、Rubiconの発現が、ワームおよびマウスの組織において老化に伴い増加することを見出した。これは、Rubiconが年齢依存的に増加することでオートファジーが経時的に弱まり、それにより動物の健康寿命が短縮されることを示唆する。この考えは、Rubiconのノックダウンにより、ワームおよびハエの寿命が延び、複数の年齢関連表現型が改善されたことからも裏付けられた。組織特異的な実験より、ニューロンにおけるRubiconのノックダウンが、寿命に最も大きな効果を持つことも判明した。さらに、Rubiconノックアウトマウスにおいては、共に主要な年齢発症表現型である腎臓の間質性線維症とα-シヌクレインの脳内蓄積とが減少した。また、Rubiconの発現は、カロリー制限を含む複数の寿命延長条件によって、ワームおよびマウスの双方において抑制された。
【0009】
さらに、本発明者は、多数の寿命パラダイムに関わる収束転写因子であるMML-1/Mondoの下流において、Rubiconが作用することを見出した。また、エピスタシス解析により、2つの主要なオートファジーの負の制御因子であるmTORおよびRubiconが、互いに部分的に独立して寿命を制御するということを明らかにした。
【0010】
以上から、本発明者は、Rubiconが、オートファジー活性の抑制を介した老化の鍵となる分子であり、Rubiconを標的として、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長を行うことや、老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0012】
[1]Rubicon遺伝子の機能を抑制する分子を有効成分とする、対象における老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物。
【0013】
[2]Rubicon遺伝子の機能を抑制する分子が、下記(a)~(c)のいずれか1に記載の分子である、[1]に記載の組成物
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA
(b)Rubiconタンパク質に結合するRNAまたはDNA
(c)Rubiconタンパク質に結合する抗体
[3]加齢性の疾患もしくは症状が、代謝性骨疾患もしくはその症状、ストレス耐性の低下、または臓器の線維化である、[1]または[2]に記載の組成物。
【0014】
[4]対象が脊椎動物である、[1]から[3]のいずれかに記載の組成物。
【0015】
[5]被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および
被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、
を含み、
被検化合物が、前記Rubiconタンパク質と結合する場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
【0016】
[6]被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubicon遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内におけるRubicon遺伝子の発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物を接触させない場合と比較して、被検化合物がRubicon遺伝子の発現を減少させる場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
【0017】
[7]被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubicon遺伝子のプロモータ-領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物を接触させない場合と比較して、被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を減少させる場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
【0018】
[8]対象における老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査する方法であって、
被検試料におけるRubicon遺伝子の発現産物を検出する工程を含み、
Rubicon遺伝子の発現産物の量が対照と比較して高い場合に、老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクが高いと評価される方法。
【0019】
[9]加齢性の疾患もしくは症状が、代謝性骨疾患もしくはその症状、ストレス耐性の低下、または臓器の線維化である、[5]から[8]のいずれかに記載の方法。
【0020】
[10]対象が脊椎動物である、[5]から[9]のいずれかに記載の方法。
【0021】
[11][8]から[10]のいずれかに記載の方法において、Rubicon遺伝子の発現産物を検出するための組成物であって、下記(a)または(b)を含む組成物。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Rubicon遺伝子の機能を抑制することにより、オートファジーの活性化を介して、老化の抑制、加齢性の疾患や症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長が可能となる。特に、単一の遺伝子の機能を抑制するだけで、代謝性骨疾患の原因となる骨密度や骨体積/骨組織体積比の低下および骨形態の変化の改善、神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質の減少、目の変性の減少、および運動機能の低下の改善、ストレス耐性の向上、臓器の線維化の軽減、寿命の延長などの多様な効果をもたらすことができたことは、極めて驚くべきことである。また、本発明によれば、Rubicon遺伝子の発現産物を検出することにより、老化の程度、上記疾患や症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】C.elegansのRubiconが、オートファジーを調節することによって寿命を制御することを示す図である。(i)L4段階の前腸の写真である。各RNAiを示した。GFP::LGG-1で標識されたオートファゴソーム(白抜き矢印)は、CeRubiconのノックダウンにおいてより豊富であったが、bec-1/Beclin 1の同時ノックダウンによって増加が止まった。スケールバーは20μmである。(ii)各ノックダウン条件下での前腸におけるGFP::LGG-1の点を定量化したグラフである。値は、標本平均±標準誤差を表す(n=3)。P値(**P<0.01)は、Tukey検定を用いた一元配置分散分析により、対照に対して決定した。
【
図1B】(i)対照またはCeRubicon RNAiに供されたMAH215(mCherry::GFP::LGG-1)株における腸の代表的な写真である。オートファジーフラックスは、CeRubiconのノックダウンによって増加する。CeRubiconのノックダウンによって、オートファゴソーム(AP、GFP+ mCherry+、白抜き矢印で示す)およびオートリソソーム(AL、GFP- mCherry+、白抜きマゼンタの矢印で示す)の両方が増加する。(ii)各条件におけるAPおよびALを定量化したグラフである。P値(***P<0.001、****P<0.0001)は、t検定によって決定した。スケールバーは10μmである。
【
図1C】(i)全蛍光が1日目と比較して7日目で増加することを示している、CeRubicon::EGFPを発現するトランスジェニックワームの写真である。スケールバーは50μmである。(ii)野生型ワームにおける1日目および7日目のCeRubicon発現を示すqRT-PCR分析のグラフである。3つの独立した実験からの標本平均±標準誤差が示されており、野生型N2の1日目のサンプルに対して規格化されている。P値(***P<0.001)は、t検定によって決定した。
【
図1D】CeRubiconによって付与された寿命は、(i)bec-1/Beclin 1または(ii)unc-51/ULK1の同時ノックダウンによって消滅した。統計分析としてログランク検定を行った。
【
図1E】(i)qRT-PCRにより、トランスジェニックワームにおいてCeRubiconの発現が増加することを確認した結果を示すグラフである。(ii)CeRubiconの過剰発現により、野生型ワームの寿命は短くなったことを示すグラフである。
【
図2A】全身におけるRubiconのノックダウンが、年齢に依存した表現型を改善することを示す図である。体壁筋中でpolyQ35::YFPを発現するトランスジェニックワームにおいては、5日目の段階でpolyQ封入体(白抜き矢印)が年齢に依存して蓄積していた。CeRubiconのノックダウンによって封入体の蓄積が減少し、bec-1の同時ノックダウンによって表現型が元に戻った。各RNAiを示した。スケールバーは50μmである。
【
図2B】(i)
図2Aにおけるワーム1匹当たりのpolyQ封入物の数を示すグラフである。各実験で20匹超のワームを分析し、実験を3回繰り返した。P値(*P<0.05、**P<0.01)は、t検定によって決定した。(ii)5日目においてマルチワームトラッキング分析から算出された運動速度を示すグラフである。CeRubiconのノックダウンワームは、高い運動量を維持する。P値(*P<0.05)は、t検定によって決定した。(iii)CeRubiconのノックダウンによる、オートファジー依存的な酸化ストレス耐性の増加を示すグラフである。2時間に渡る4.4mMのH
2O
2処理の後、指定のRNAiに供された野生型1日目のワームの生存を示すグラフである。P値(**P<0.01)は、t検定によって決定した。
【
図2C】dRubiconの全体は、雌ハエの寿命を大きく延長することを示すグラフである。
【
図2D】(i)複眼の変性は、対照と比較して、膨張polyQ蛋白質MJDtr-Q78s(gmr-GAL4>MJDtr-Q78sハエ)を発現するハエのdRubiconノックダウン(dRubicon-IR)によって弱まったことを示す写真である。白抜き矢印は壊死した個眼を示す。スケールバーは100μmである。(ii)(i)のgmr-GAL4>MJDtr-Q78sハエにおける壊死した個眼の数を定量化したグラフである。各遺伝子型について20個超の眼を分析した。P値(***P<0.001)は、t検定によって決定した。
【
図2E】(i)腎臓におけるRubicon蛋白質レベルが、2ヶ月齢のマウスと比較して、20ヶ月齢のマウスで上昇したことを示すウェスタンブロッティング像である。WTマウスおよびRubicon KO(KO)マウスからのウェスタンブロッティングにより、Rubiconの特定のバンドが示される。(ii)(i)に示すウエスタンブロッティングを定量化したグラフである。
【
図2F】(i)20ヶ月齢でのマウスの腎臓におけるLC-3およびp62を示すウエスタンブロッティング像である。(ii)コラーゲンI陽性領域が、WTと比較してRubiconノックアウト(Rubicon KO)腎臓において減少したことを示す20ヶ月齢の腎臓の免疫組織化学画像である。P値(*P<0.05)は、t検定によって決定した。スケールバーは100μmである。
【
図2G】(i)
図2F(ii)におけるコラーゲンI陽性領域を定量化したグラフである。値は標本平均±標本平均の標準誤差(WT:n=5;Rubicon KO:n=6)を表す。P値(*P<0.05)は、t検定によって決定した。(ii)20ヶ月齢での腎臓における複数の線維症マーカー(TGF-b1、Col1a1)のqRT-PCR分析の結果を示すグラフである。値は標本平均±標本平均の標準誤差(WT:n=5;Rubicon KO:n=6)を表す。P値(*P<0.05)は、t検定によって決定した。
【
図3A】ニューロンのRubiconレベルの低下により、老化が遅延することを示す図である。(i)ニューロンCeRubiconノックダウンにより、ワームの寿命が効率的に延びたことを示すグラフである。(ii)dRubiconのニューロンノックダウンにより、雌ハエの寿命が延びたことを示すグラフである。dRubicon-IRのトランスジーン発現は、汎ニューロンelav-GAL4ドライバーによって誘導された。
【
図3B】(i)dRubiconのニューロンノックダウンにより、雌ハエの脳におけるケニオン細胞層内のPolyQ(MJDtrQ78w)封入体が減少したことを示す写真である。スケールバーは10μmである。(ii)(i)におけるPolyQ強度を定量化したグラフである。5匹の動物からのケニオン細胞層の両側層10枚を分析した。P値(***P<0.001)は、t検定によって決定した。(iii)ニューロンにおけるdRubiconのノックダウンにより、雌ハエでのpolyQ発現による運動機能障害が改善されたことを示すグラフである。運動機能はクライミングアッセイによって評価した。データは標本平均±標準誤差を表す。Tukeyの検定を用いた二元配置分散分析(elav_MJDtrQ78w対elav_MJDtrQ78w/Rubicon-IR)によりP値(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.0001)を決定した。
【
図3C】(i)マウスへの注入10カ月後のリン酸化α-Synを含むレビー小体およびレビー神経突起状封入体(開いた矢じり)を示す写真である。それらは、Rubiconノックアウト(Rubiconflox/flox:Nestin-Cre)マウスにおいて、対照(Rubiconflox/+:Nestin-Cre)と比較して、数が少なくなっていた。スケールバーは500μmである。(ii)リン酸化α-Syn陽性シグナルの数が少ない(100未満)、中程度(100~200)、または多い(200超)マウスの割合を示すグラフである。カイ二乗検定(Rubiconflox/+:Nestin-Cre、n=7;Rubiconflox/flox:Nestin-Cre、n=6)によりP値(*P<0.05)を決定した。
【
図4A】Rubiconが、複数の寿命延長条件によってダウンレギュレートされることを示す図である。(i)daf-2(e1370)、eat-2(ad465)、およびglp-1(e2141)を含む複数の長命株におけるCeRubicon発現を示すqRT-PCR分析のグラフである。3つの独立した実験からの標本平均±標本平均の標準誤差が示されており、野生型N2の1日目のサンプルに対して規格化されている。高温(25℃)に2日間晒すことにより、生殖細胞系列を持たないglp-1の表現型を誘導した。P値(*P<0.05、**P<0.01)は、Tukeyの検定を用いた一元配置分散分析によって決定した。(ii)9ヶ月間のカロリー制限(CR)を行った場合、自由(AL)摂食と比較して、腎臓におけるRubicon蛋白質レベルが低下したことを示すウエスタンブロッティング像である。
【
図4B】(i)指定のRNAi処理に供された指定の株のワームにおいてCeRubicon発現が生じたことを示すqRT-PCR分析のグラフである。mml-1またはmxl-2がRNAiによってノックダウンされると、glp-1生殖細胞系列を持たないワームにおけるCeRubiconの抑制は消滅した。野生型N2の1日目のサンプルに対して、3つの独立した実験からの標本平均±標準誤差が示されている。P値(***P<0.001)は、Tukeyの検定を用いた一元配置分散分析によって決定した。(ii)野生型(N2)およびmml-1 OE(mml-1過剰発現株)におけるCeRubiconを示すqRT-PCR分析のグラフである。野生型N2の1日目のサンプルに対して、3つの独立した実験からの標本平均±標本平均の標準誤差が示されている。P値(*P<0.05)は、t検定によって決定した。
【
図4C】(i)MondoA siRNAノックダウンがRPE-1細胞におけるRubicon蛋白質レベルを有意に増加させたことを示すウエスタンブロッティング像である。(ii)Po-Sで正規化したRubiconの相対値を示すグラフである(左)。指定のsiRNAを用いたノックダウン後のMondoA発現を示すqRT-PCR分析のグラフである(右)。値は、siLucの対照に対する3つの独立した実験からの標本平均±標準誤差を示す。P値(****P<0.0001)はt検定によって決定した。
【
図4D】CeRubiconおよびlet-363/mTORの二重ノックダウンを行うと、個々をノックダウンする場合と比較して、さらに寿命が延びたことを示すグラフである。
【
図5A】C.elegansのRubicon相同体(Y56A3A.16)が、ヒトKIAA00226(Rubicon)、ヒトKIAA0226L、およびショウジョウバエRubicon(CG12772)と類似していることを示す、ClustalW解析によって生成された系統樹である。
【
図5B】(i)オートファジーフラックスが、CeRubiconのノックダウンによって増加することを示した、対照またはCeRubicon RNAiに供されたMAH215(mCherry::GFP::LGG-1)株の咽頭筋の代表的な写真である。CeRubiconのノックダウンによって、オートファゴソーム(AP、GFP+ mCherry+、白抜き白色矢印で示す)およびオートリソソーム(AL、GFP- mCherry+、白抜きマゼンタの矢印で示す)の両方が増加する。スケールバーは20μmである。(ii)各条件におけるAPおよびALを定量化したグラフである。P値(**P<0.01)は、t検定によって決定した。
【
図5C】(i)CeRubiconのノックダウンによって寿命は延長したが、atg-18の同時ノックダウンによって寿命は消滅したことを示すグラフである。(ii)RNAiによるCeRubiconおよびatg-18のノックダウン効率を示すqRT-PCR分析のグラフである。対照RNAiを有する野生型N2に対する、3つの独立した実験からの標本平均±標本平均の標準誤差を示す。
【
図6A】Rubiconノックダウンによる年齢に関連した変化を示す、マルチワームトラッキング分析のスナップショットである。指定のRNAi処理の下、個々のワームのトラックおよび速度を可視化した。
【
図6B】(i)CeRubiconのノックダウンでは、咽頭ポンピング速度は変化しないことを示すグラフである。(ii)熱ストレス耐性アッセイの結果を示すグラフである。CeRubiconのノックダウンは耐性を変化させないことが判明した。
【
図6C】(i)dRubiconがノックダウンによって大きくダウンレギュレートされたことを示すqRT-PCR分析のグラフである。P値(****P<0.0001)は、t検定によって決定した(WT:n=3;Rubicon-IR:n=4)。(ii)雄ハエにおけるdRubiconのノックダウンの個体数統計分析のグラフである。
【
図6D】(i)脳のKC層におけるオートファジーフラックスアッセイの結果を示す写真とグラフである。dRubiconノックダウンがオートファゴソーム(AP、白色矢印)およびオートリソソーム(AL、赤色矢印)を増加させたことを示す。値は標本平均±標本平均の標準誤差を表す。P値(**P<0.01)は、t検定によって決定した(対照についてはn=6、dRUb-IR1についてはn=8)。スケールバーは10μmである。(ii)Rubicon蛋白質レベルが、マウス肝臓では老化に伴い増加(2ヶ月対20ヶ月)したことを示すウエスタンブロッティング像である。
【
図7A】Rubiconの組織特異的役割による寿命制御への寄与を示す図である。(i)筋肉(NR350)、(ii)皮下組織(NR222)および(iii)腸(VP303)といった複数の組織特異的なRNAi感受性株を用いた個体数統計分析のグラフを示した。腸および皮下組織のCeRubiconノックダウンはわずかではあるが有意に寿命を延長した。
【
図7B】(i)CeRubiconのニューロンノックダウンによって付与される寿命が、ニューロンatg-18ノックダウンによって消滅することを示すグラフである。(ii)雄ハエにおけるニューロンdRubiconノックダウンの個体数統計分析のグラフである。
【
図8A】CeRubiconのノックダウンと複数の長命経路との間のエピスタティックな関係を示すグラフである。CeRubiconのノックダウンを行っても、(i)eat-2(カロリー制限)、(ii)isp-1(ミトコンドリア機能障害)、(iii)daf-2(インスリン/IGF-1シグナル伝達の低下)および(iv)glp-1(生殖細胞系列寿命)の寿命がさらに延長することはない。
【
図8B】(i)6カ月間のカロリー制限により、腎臓におけるRubicon蛋白質レベルが低下することを示すウェスタンブロッティング像である。(ii)CeRubicon発現のqRT-PCR分析を示すグラフである。mml-1およびmxl-2をノックダウンしても、CeRubicon発現は野生型(N2)レベルに戻らない。
【
図8C】(i)CeRubiconをノックダウンしても、mTORの直接の標的である蛍光体S6キナーゼのレベルは変化しないことを示すウェスタンブロッティング像である。(ii)CeRubiconがTORノックダウンによって変化しないことを示す、CeRubicon発現のqRT-PCR分析のグラフである。
【
図9A】(i)Rubicon欠損マウスの大腿骨のCT像である。スケールバーは、500μmを示す。(ii)Rubicon欠損マウスの大腿骨の骨密度(BMD)、骨体積/骨組織体積比(BV/TV)、および骨塩量(BMC)を示すグラフである。野生型(WT)はN=6であり、ノックアウトマウス(KO)はN=5である。
【
図9B】(i)Rubicon欠損マウスにおける破骨細胞の分化をTRAP染色で検出した写真である。スケールバーは、200μmを示す。(ii)TRAP陽性細胞数を測定した結果を示すグラフである。
【
図9C】(i)Rubicon欠損マウスにおける破骨細胞の骨吸収機能をピットフォーメーションアッセイで評価した。(i)はTRAP染色像であり、(ii)はウェルにおける相対吸収領域の割合を示すグラフである。
【
図9D】Rubicon欠損マウスにおける骨芽細胞の分化能を評価した。(i)はALP染色像であり、(ii)はウェルにおけるALP染色領域の割合を示すグラフである。
【
図9E】Rubicon欠損マウスにおける骨芽細胞のミネラル化能を評価した結果を示す。(i)はアリザリン染色像であり、(ii)はウェルにおけるアリザリン染色領域の割合を示すグラフである。
【
図10】Rubicon欠損マウスの骨芽細胞におけるオートファジーの亢進をLC3fluxアッセイで確認した結果を示すグラフおよび電気泳動像である。
【
図11A】Rubicon欠損マウスにおける骨密度の増加のオートファジー依存性を評価した結果を示す。(i)はRubicon欠損マウス、Atg5欠損マウス、およびRubicon/Atg5欠損マウスにおける骨形態をCT解析した結果を示す写真である。(ii)は各マウスにおける骨密度を示すグラフである。
【
図11B】Rubicon欠損骨粗鬆症モデルにおけつ骨密度と骨体積/骨組織体積比を評価した結果を示す。(i)は大腿骨全体のCT像、(ii)は骨梁のCT像、(iii)は骨密度と骨体積/骨組織体積比を示すグラフである。
【
図12A】Rubicon欠損マウスの骨芽細胞におけるオートファジーとNotchシグナル経路との関係を評価するため、Notch下流の転写因子と造骨性転写因子のmRNAの発現を検出した結果を示すグラフである。
【
図12B】Rubicon欠損マウスの骨芽細胞におけるNotchの分解を検出した結果を示す電気泳動像とグラフである。
【
図13A】Rubicon欠損マウスにおける骨芽細胞にNICDを過剰発現させ、その分化能をALP染色で評価した結果を示す。(i)はALP染色像であり、(ii)はウェルにおけるALP染色領域の割合を示すグラフである。
【
図13B】免疫沈降法によりNICDとLC3の結合を検出した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<老化の抑制などのための組成物>
本発明は、Rubicon遺伝子の機能を抑制する分子を有効成分とする、対象における老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物を提供する。
【0025】
本発明における「Rubicon」は、オートファゴソーム-リソソーム融合過程を阻害する、オートファジーの負の制御因子である(非特許文献6、7)。本発明におけるRubiconは、その由来する生物を特に問わない(
図5Aを参照のこと)。例えば、本発明の組成物がヒトを対象とする場合においては、ヒトのRubiconが標的となる。ヒトのRubiconタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:2に、該タンパク質をコードするcDNAの典型的な塩基配列を配列番号:1に示す(データベース登録番号:NM_014687.3)。また、対応するマウス、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線虫の各Rubiconタンパク質の典型的なアミノ酸配列を、順に配列番号:3~7にに示す。
【0026】
なお、Rubiconの配列には、個体差や変異が生じうる。従って、本発明におけるRubiconタンパク質には、配列番号:2~7のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、機能的に同等なタンパク質が含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、20アミノ酸以内(例えば、10アミノ酸以内、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。また、「機能的に同等」とは、オートファジーを負に制御する機能を有することを意味する(非特許文献6、7)。
【0027】
また、BLASTP 2.8.0+(Altschul S.F. et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997)、Altschul S.F. et al., FEBS J. 272:5101-5109 (2005))のデフォルト設定での比較(Maxスコア)において、異なる種間におけるRubiconの同一性(同一アミノ酸割合)および類似性(類似アミノ酸割合)は、マウスとヒトの間で、それぞれ85%と89%(Gaps 2%)、ヒトとニワトリの間で、それぞれ73%と81%(Gaps 2%)、ニワトリとゼブラフィッシュの間で、それぞれ56%と66%(Gaps 10%)、ゼブラフィッシュとショウジョウバエの間で、それぞれ39%と57%(Gaps 6%)、ショウジョウバエと線虫の間で、それぞれ29%と47%(Gaps 6%)であった。従って、上記以外の種におけるRubiconのアミノ酸配列は、上記種のいずれかのRubiconのアミノ酸配列との間で、通常、同一性が25%以上(例えば、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上)であり、類似性が45%以上(例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上)であると考えられる。従って、本発明におけるRubiconタンパク質には、配列番号:2~7のいずれかに記載のアミノ酸配列と上記の同一性または類似性のアミノ酸配列を有し、機能的に同等なタンパク質が含まれる。ここで「機能的に同等」とは、オートファジーを負に制御する機能を有することを意味する(非特許文献6、7)。
【0028】
本発明における「老化」とは、加齢とともに生物の個体に起こる変化を意味する。個体は、老化によって様々な疾患や症状を発症しうる。本発明の対象とする「加齢性の疾患または症状」としては、Rubiconによるオートファジーの負の制御に起因する限り、特に制限はない。例えば、骨粗鬆症などの代謝性骨疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、ポリグルタミン病(例えば、ハンチントン病、脊髄小脳変性症)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患、臓器の線維化(例えば、腎臓の線維化、心筋の線維化)、運動機能不全(例えば、筋力低下、持久力低下、反応時間延長、運動速度の低下、巧緻性低下、深部感覚低下、バランス能力低下)、認知機能の低下(例えば、記憶障害、失語、失行、失認、遂行機能障害)、骨量や骨密度・骨体積/骨組織体積比の低下、骨形態の変化、目の変性、ストレス耐性の低下などが挙げられるが、これらに制限されない。また、本発明における「寿命」とは、生物が生まれてから死ぬまでの時間を意味する。日常的、継続的な医療、介護に依存しないで、自分の心身で生命を維持し、自立した生活ができる生存期間を、特に「健康寿命」と称するが、本発明における「寿命の延長」には、健康寿命の延長による寿命の延長が含まれる。
【0029】
実際、本実施例において、Rubicon遺伝子の機能を抑制することにより、寿命が延長されることが認められているが、併せて、代謝性骨疾患の原因となる骨量や骨密度・骨体積/骨組織体積比の低下および骨形態の変化の改善、神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質の減少、目の変性の減少、および運動機能の低下の改善、ストレス耐性の向上、臓器の線維化の軽減など、多くの加齢性の疾患や症状の抑制効果も認められている。
【0030】
本発明における「遺伝子の機能の抑制」は、その機序が、遺伝子の発現の抑制(例えば、転写の抑制、翻訳の抑制)であっても、遺伝子の翻訳産物(タンパク質)の活性の抑制であってもよい。
【0031】
「Rubicon遺伝子の機能を抑制する分子」としては、例えば、Rubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA、Rubiconタンパク質に結合するRNAまたはDNA、Rubiconタンパク質に結合する抗体や低分子化合物、およびRubicon遺伝子やその発現制御領域のDNAの塩基配列あるいはRubicon遺伝子の転写産物のRNA配列を編集する部位特異的ヌクレアーゼなどが挙げられる。
【0032】
本発明における「Rubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA」の一つの態様は、Rubiconタンパク質をコードする遺伝子の転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)または該dsRNAをコードするDNAである。
【0033】
本発明に用いるdsRNAとしては、siRNA、shRNA(short haipin RNA)、またはmiRNAが好ましい。siRNAは、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる2本鎖RNAである。また、shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとがスぺーサー配列を配置した1本鎖のRNAであり、細胞内などでセンスRNAとアンチセンスRNAとの間で水素結合が生じ、スぺーサー配列がヘアピン構造となるもので、該ヘアピン構造が細胞内で切断されることにより、siRNAとなり得るものを意味する。miRNAは、一般的には、1本鎖RNAの形態を意味するが、具体的な実施形態としては、2本鎖RNAの形態を採用することができる。
【0034】
dsRNAは、標的遺伝子の発現を抑制することができ、かつ、毒性を示さなければ、その鎖長に特に制限はないが、通常、15~50塩基対であり、好適には15~35塩基対であり、さらに好適には20~25塩基対である。より鎖長を長くすることにより、mRNAとの親和性を高め、オフターゲット効果を減少させることができる。
【0035】
dsRNAまたは該dsRNAをコードするDNAは、標的遺伝子の塩基配列と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0036】
dsRNAは、Rubicon遺伝子の配列情報(例えば、配列番号:1)を基に、例えば、それぞれの鎖を化学合成して調製することが可能である。dsRNAをコードするDNAは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)のいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスDNAと、該mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスDNAを含み、該アンチセンスDNAおよび該センスDNAより、それぞれアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させることができる。これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作製することもできる。
【0037】
dsRNAの発現システムをベクターなどに保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNAとセンスRNAを発現させる場合がある。同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成においては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入する。
【0038】
また、異なる鎖上に対向するように、アンチセンスDNAとセンスDNAとを逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNAが備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNAとセンスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備える。この場合には、センスRNAとアンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3’末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類は異なっていることが好ましい。
【0039】
また、異なるベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成においては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットとをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させる。
【0040】
本発明における「Rubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA」の他の態様としては、Rubicon遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAまたは該RNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)が挙げられる。
【0041】
アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制するが(平島および井上,「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,319-347 (1993))、本発明で用いられるアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、いずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。
【0042】
アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAの配列は、Rubiconの転写産物と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有する。標的遺伝子の発現を抑制することができ、かつ、毒性を示さなければ、その鎖長に特に制限はない。アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAの長さは、通常、10~50塩基であり、好ましくは、12~30塩基である。製造コストは増大するが、より鎖長を長くすることにより、mRNAとの親和性を高め、オフターゲット効果を減少させうる。
【0043】
アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、Rubicon遺伝子の配列情報を基に、例えば、化学合成により調製することが可能である。
【0044】
なお、本発明における「Rubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA」の、さらなる他の態様としては、Rubicon遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNA、または該RNAをコードするDNAを挙げることができる。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35巻、2191ページ)。本発明においては、いずれの形態のリボザイムも利用することができる。
【0045】
本発明における「Rubiconタンパク質に結合するRNAまたはDNA」は、典型的には、核酸アプタマーである。核酸アプタマーとしては、生体内における安定性が高いという観点から、DNAが好ましい。
【0046】
核酸アプタマーは、構造的特徴として、少なくとも1つのループ構造、デオキシグアノシン(グアノシン、グアノシンアナログを含む)を多く包含する一次構造、または、デオキシグアノシンが4量体クラスター構造(いわゆる「Gカルテット構造」)を含んでいてもよい。また、核酸アプタマーは、2本鎖からなる核酸および1本鎖からなる核酸のいずれでもよいが、1本鎖からなる核酸が好ましい。
【0047】
核酸アプタマーの長さは、Rubiconタンパク質に特異的に結合することができる塩基数を有していれば、特に制限はないが、通常、10~100塩基、好ましくは、15~70塩基、より好ましくは20~50塩基である。製造コストは増大するが、より鎖長を長いものを使用することも可能である。
【0048】
本発明に用いる核酸アプタマーは、当業者であれば、公知の手法を適宜選択して製造することができる。公知の手法としては、例えば、インビトロセレクション法(SELEX法)(Tuerk C. & Gold L., Science. 3;249(4968):505-510 (1990)、Green R. et al., Methods Compan Methods Enzymol. 2:75-86 (1991)、Gold L. et al., Annu Rev Biochem 64:763-97 (1995)、Uphoff K.W. et al.,, Curr. Opin. Struct. Biol. 6:281-288 (1996))が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物の有効成分として用いられる核酸分子においては、生体内における安定性向上、標的(mRNAやタンパク質)との親和性増強、あるいはオフターゲット効果の抑制などの観点から、適宜、その一部または全部において修飾型核酸を用いてもよい。例えば、アンチセンス核酸においては、必要に応じて、両端のみに修飾型核酸を用いたギャップマーを利用することもできる。二重鎖RNAにおいても、例えば、一方の鎖をギャップマーとしてヘテロ二重鎖RNAとすることもできる。
【0050】
核酸の化学修飾には、例えば、リン酸部の修飾、糖部の修飾、および塩基部の修飾が含まれる。このような修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2’-O-メチル化、2’-MOE化、2’-AP化、2’-フルオロ化などが挙げられる。また、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2’-O-メチル化核酸、2’-MOE(2’-O-メトキシエチル)化核酸、2’-AP(2’-O-アミノプロピル)化核酸、2’-フルオロ化核酸、2’F‐アラビノ核酸(2'-F-ANA)、BNA(架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid)といった修飾核酸の利用も可能である。
【0051】
BNAとしては、例えば、LNA(ロックド核酸(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2’,4’-BNA)とも称されるα-L-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNAまたはβ-D-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNA、ENAとも称されるエチレンオキシ(4’-(CH2)2-O-2’)BNA、β-D-チオ(4’-CH2-S-2’)BNA、アミノオキシ(4’-CH2-O-N(R3)-2’)BNA、2’,4’-BNANCとも称されるオキシアミノ(4’-CH2-N(R3)-O-2’)BNA、2’,4’-BNACOC、3’アミノ-2’,4’-BNAなどが挙げられる。
【0052】
核酸の化学修飾については、例えば、文献(例えば、小比賀聡ら,日本薬理誌,148,100~104 (2016)、井上貴雄,Drug Delivery System 31―1, 10~22 (2016))や特許公報(例えば、特開平10-304889号公報、国際公開第2005/021570号、特開平10-195098号公報、特表2002-521310号公報、国際公開第2007/143315号、国際公開第2008/043753号、国際公開第2008/029619号、国際公開第2008/049085号)を参照のこと。
【0053】
本発明において用いられる「Rubiconタンパク質に結合する抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。また、「抗体」には、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスが含まれる。抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、Rubiconタンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0054】
抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495 (1975))や組換えDNA法(例えば、P.J.Delves, Antibody Production:Essential Techniques, (1997)、WILEY、P.Shepherd & C.Dean Monoclonal Antibodies, OXFORD UNIVERSITY PRESS (2000)、Vandamme A.M. et al., Eur.J.Biochem. 192:767-775 (1990))によって作製することができる。
【0055】
Rubiconタンパク質に結合する抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が含まれる。抗体を治療薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体が望ましい。
【0056】
「キメラ抗体」は、ある種の抗体の可変領域とそれとは異種の抗体の定常領域とを連結した抗体である。キメラ抗体は、例えば、抗原をマウスに免疫し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する抗体可変部(可変領域)を切り出して、ヒト骨髄由来の抗体定常部(定常領域)遺伝子と結合し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより取得することができる(例えば、特開平8-280387号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報)。
【0057】
「ヒト化抗体」は、非ヒト由来の抗体の抗原結合部位(CDR)の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体であり、その作製方法は、公知である(例えば、EP239400、EP125023、WO90/07861、WO96/02576を参照)。
【0058】
「ヒト抗体」は、すべての領域がヒト由来の抗体である。ヒト抗体の作製においては、免疫することで、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を利用することが可能である。ヒト抗体の作製手法は、公知である(例えば、Jakobovits, A. et al., Nature 362, 255-258 (1993、LONBERG, N. & HUSZAR, D., INTERN. REV. IMMUNOL., 13, 65-93 (1995)、Marks J.D. et al., J Mol Biol. 5;222(3):581-97 (1991)、Mendez M.J. et al., Nat Genet. 15(2):146-156 (1997)、Tomizuka K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. Jan 18;97(2):722-727 (2000)、特開平10-146194号公報、特開平10-155492号公報、特許2938569号公報、特開平11-206387号公報、特表平8-509612号公報、特表平11-505107号公報)。
【0059】
本発明において用いられる「Rubicon遺伝子やその発現制御領域のDNAの塩基配列あるいはRubicon遺伝子の転写産物のRNA配列を編集する部位特異的ヌクレアーゼ」としては、部位特異的に核酸を編集できるものであれば制限はないが、Casタンパク質を構成要素とするCRISPR-Cas系が好ましい。CRISPR-Cas系としては、例えば、CRISPR-Cas9、CRISPR-Cpf1(Cas12a)、CRISPR-Cas12b、CRISPR-CasX(Cas12e)、CRISPR-Cas14などを利用することができる。部位特異的ヌクレアーゼとしては、その他、TALENs、ZFNs、あるいはPPR(塩基修飾酵素と融合した形態)などの人工ヌクレアーゼを利用することもできる。
【0060】
本発明において用いられる「Rubiconタンパク質に結合する低分子化合物」は、公知の化合物であっても、後述の本発明の評価方法やスクリーニング方法で同定される化合物であってもよい。
【0061】
本発明の組成物は、医薬組成物、飲食品(動物用飼料を含む)、あるいは研究目的(例えば、インビトロやインビボの実験)に用いられる試薬の形態であり得る。
【0062】
医薬組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、注射剤、坐剤、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤などとして、非経口的または経口的に使用することができる。これら製剤化においては、薬理学上許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤などと適宜組み合わせることができる。また、リポソーム送達系などの形態で調製することもできる。
【0063】
本発明の医薬組成物の投与形態としては特に制限はなく、例えば、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与および筋肉内投与、輸液による投与、直接投与(例えば、患部への局所投与)などが挙げられる。
【0064】
本発明の医薬組成物は、医療上の有用な特性を増進する補助部分と結合してもよい。代表的な有用な特性としては、例えば、標的領域(例えば、患部)に対する化合物の送達を促進すること、標的領域において化合物の治療濃度を持続させること、化合物の薬物動態特性や薬力学的特性を改変すること、または化合物の治療指数または安全性プロフィールを改善することなどが挙げられる。
【0065】
標的領域への送達用の分子としては、例えば、標的領域が脳の場合には、脳関門透過物質が挙げられる。脳関門透過物質としては、例えば、抗トランスフェリン受容体抗体(例えば、国際公開第2016/208695号公報)や狂犬病ウィルス由来の29アミノ酸からなる糖タンパク質(Kumar P. et al., Nature. 2007 5;448(7149):39-43 (2007)参照)が知られている。その他、腎臓や肝臓などの標的領域に応じて、公知の送達用の分子を用いることができる。
【0066】
また、本発明の医薬組成物は、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長に用いられる他の組成物と併用してもよい。
【0067】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、食品添加物、あるいは動物用飼料であり得る。飲食品は、上記のような組成物として摂取することができる他、種々の飲食品として摂取することもできる。飲食品の具体例としては、食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリンなどの油分を含む製品;スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料などの液状食品;飯類、麺類、パン類などの炭水化物含有食品;ハム、ソーセージなどの畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛などの水産加工食品;漬物などの野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルトなどの半固形状食品;みそ、発酵飲料などの発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓などの各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープなどのレトルト製品;インスタントスープ,インスタントみそ汁などのインスタント食品や電子レンジ対応食品などが挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。
【0068】
飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。当該飲食品においては、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、または治療、または寿命の延長に有効な1種もしくは2種以上の成分を添加してもよい。また、他の機能を発揮する成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0069】
本発明の組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができる。ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象とすることができる。動物は、好ましくは脊椎動物であり、例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどの哺乳類、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒルなどの鳥類などが挙げられるが、これらに制限されない。研究目的であれば、様々な実験用生物であってもよい。
【0070】
本発明の組成物を投与または摂取する場合、その投与または摂取の量は、組成物の種類(医薬品、飲食品など)、対象の種類、年齢、体重、症状、健康状態などに応じて、適宜選択される。また、本発明の組成物の投与量(有効成分換算量)は、有効成分の種類に応じても異なるが、例えば、有効成分がRNAまたはDNAである場合には、通常、0.1μg~10mg/kg体重であり、有効成分が抗体である場合には、通常、1~10mg/kg体重である。また、1日あたりの投与または摂取の回数としても、特に制限はなく、前記のような様々な要因を考慮して、適宜選択することができる。有効成分がRubicon遺伝子の転写産物に結合するRNAをコードするDNAである場合には、適切な量のRNAが発現するように、発現構築物を作製して投与すればよい。
【0071】
本発明は、このように、本発明の組成物を対象に投与する、または摂取させることを特徴とする、対象における老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長の方法をも提供する。
【0072】
本発明の組成物(医薬品、飲食品、試薬など)またはその説明書は、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長に用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで「製品または説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。上記表示においては、本発明の組成物の作用機序についての情報を含むことができる。このような機序としては、例えば、Rubicon遺伝子の機能の抑制によるオートファジーの促進などが挙げられる。
【0073】
<被検化合物が老化を抑制する活性などを有する蓋然性の評価>
-Rubiconタンパク質への結合を指標とする方法-
後述の実施例において示す通り、Rubicon遺伝子の機能を抑制することにより、代謝性骨疾患の原因となる骨量や骨密度・骨体積/骨組織体積比の低下および骨形態の変化の改善、神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質の減少、目の変性の減少、および運動機能の低下の改善、ストレス耐性の向上、臓器の線維化の軽減などの様々な加齢性の疾患もしくは症状が改善し、寿命が延長することが判明した。従って、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物の開発のための一つのステップとして、Rubiconタンパク質に結合する化合物を同定することは有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、(a)被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および(b)被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、を含む方法を、本発明の評価方法の第一の態様として提供する。
【0074】
本発明の評価方法の対象とする「被検化合物」としては特に制限はなく、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、ポリヌクレオチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液および培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物、または動物から採取した抽出物などが挙げられる。被検化合物は、Rubiconタンパク質の立体構造を基にしたin silicoでのデザインを基に合成したものであってもよい。
【0075】
本発明の評価方法において使用する「Rubiconタンパク質」は、ヒトタンパク質の場合は、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質やその部分ペプチドが挙げられる。Rubiconタンパク質は、前記天然型のタンパク質やその部分ペプチドに加え、必要に応じて、その改変体や修飾体などを用いることができる。例えば、検出や精製を容易にするために、他の蛋白質(例えば、アルカリフォスファターゼ(SEAP)、β-ガラクトシダーゼなどの酵素、緑色蛍光蛋白質(GFP)などの蛍光蛋白質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)などのタグ)との融合蛋白質を用いることができる。被検化合物とRubiconタンパク質との「接触」は、当該評価系への被検化合物の添加などにより行うことができる。
【0076】
「被検化合物とRubiconタンパク質との結合の検出」には、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、固定したRubiconタンパク質に、これら被検化合物を接触させ、Rubiconタンパク質に結合する化合物を同定する方法が挙げられる。被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する手段としては、様々な公知の手段を利用することができるが、好適な手段の一例として、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーが挙げられる。
【0077】
被検化合物が合成低分子化合物ライブラリーである場合には、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループット法(Wrighton N.C. et al., Science. 26;273(5274) 458-464 (1996)、Verdine, G.L. Nature 384 11-13 (1996)、Hogan J.C., Jr Directed combinatorial chemistry. Nature. 384:17-19 (1996))を利用することができる。また、被検化合物がポリヌクレオチドライブラリーである場合には、例えば、前述のインビトロセレクション法を、被検化合物が遺伝子ライブラリーである場合には、例えば、Rubiconタンパク質をベイトタンパク質として発現させて利用する酵母ツーハイブリッドシステムを、それぞれ利用することができる。
【0078】
以上の結果、被検化合物がRubiconタンパク質に結合する場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される。
【0079】
-Rubicon遺伝子の発現量の減少を指標とする方法-
後述の実施例において示す通り、Rubicon遺伝子の発現が年齢依存的にアップレギュレートされ、これが様々な加齢性の疾患や症状の発症の起因となることが示唆された。従って、老化の抑制、加齢性の疾患もしくは症状の予防、改善、もしくは治療、または寿命の延長のための組成物の開発のための一つのステップとして、Rubicon遺伝子の発現量を減少させる化合物を同定することが有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、(a)Rubicon遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および(b)該細胞内におけるRubicon遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を、本発明の評価グ方法の第二の態様として提供する。
【0080】
第二の態様において用いる「被検化合物」については、第一の態様と同様である。検出の対象となる「Rubicon遺伝子」としては、その由来する生物を特に問わないが、ヒトを対象とする組成物の開発においては、ヒトのRubicon遺伝子が好適である。ヒト遺伝子としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子)を対象とすることができる。また、「Rubicon遺伝子を発現する細胞」としては、ヒト細胞であれば、例えば、RPE-1細胞、HEK293細胞、HeLa細胞などが挙げられるが、これらに制限されない。Rubicon遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、例えば、前記細胞の培養液への被検化合物の添加などにより行うことができる。
【0081】
「Rubicon遺伝子の発現の検出」には、公知の手法を用いることができる。「遺伝子の発現の検出」は、転写レベル(mRNAレベル)で検出してもよく、翻訳レベル(タンパク質レベル)で検出してもよい。転写レベルで検出する方法としては、例えば、RT-PCR、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、ドットブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法などが挙げられる。また、翻訳レベルで検出する方法としては、例えば、ウェスタンブロット法、放射免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、イムノクロマトグラフィー、免疫組織化学的染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラテックス凝集法、質量分析法(MS)などが挙げられる。
【0082】
以上の結果、被検化合物を接触させない場合と比較して、被検化合物がRubicon遺伝子の発現を減少させる場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される。
【0083】
Rubicon遺伝子の発現の減少は、例えば、ウェスタンブロット法を用いた場合においては、被検化合物存在下で検出されるRubiconタンパク質の量(例えば、Rubiconタンパク質に由来するバンドの強さ)と、被検化合物非存在下で検出されるRubiconタンパク質の量(対照値)とを比較することにより評価することができる。すなわち、被検化合物存在下におけるRubiconタンパク質の量が被検化合物非存在下の量と比較して低い場合(例えば、対照値の80%以下、50%以下、30%以下、10%以下の場合)には、該被検化合物が、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価することができる。前記発現の検出において、ウェスタンブロット法以外の方法を用いる場合も同様に、被検化合物非存在下における前記発現量を対照値として用いて評価することができる。
【0084】
-レポーター系-
被検化合物がRubicon遺伝子の発現レベルを減少させるか否かの評価は、レポーター遺伝子を用いた系で行うこともできる。すなわち、本発明は、被検化合物が、対象における老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、(a)Rubicon遺伝子のプロモータ-領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および(b)該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を、本発明の評価方法の第三の態様として提供する。
【0085】
「Rubicon遺伝子のプロモータ-領域」は、Rubicon遺伝子の転写を制御する領域であり、転写因子が結合することのできるRubicon遺伝子のコーディング領域の上流領域を意味する。「Rubicon遺伝子のプロモータ-領域」は、当業者であれば、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列またはその一部をプローブとしたゲノムDNAライブラリーのスクリーニングにより取得することができる。取得したゲノムDNAの下流にレポーター遺伝子を結合したベクターを調製して、適当な細胞内に導入した場合に、当該レポーター遺伝子の発現を誘導することができれば、当該ゲノムDNAを、Rubicon遺伝子のプロモータ-領域として同定することができる。
【0086】
「レポーター遺伝子」としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子を挙げることができる。
【0087】
ここで、Rubicon遺伝子のプロモータ-領域の下流にレポーター遺伝子が「機能的に結合した」とは、Rubicon遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、Rubicon遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。
【0088】
なお、「Rubicon遺伝子」、「被検化合物」、および「接触」は、前記第二の態様と同様である。第三の態様において使用する「細胞」としては、当該レポーター系を導入した場合に、Rubicon遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導される細胞であればよく、例えば、RPE-1細胞、HEK293細胞、HeLa細胞などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0089】
レポーター遺伝子の発現は、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により検出することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現を検出することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による化学発光を検出することにより、また、GUSである場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるグルクロンの発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現を検出することができる。
【0090】
以上の結果、被検化合物を接触させない場合と比較して、被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を減少させる場合、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価される。
【0091】
レポーター遺伝子の発現の減少は、例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合においては、被検化合物存在下で検出される化学発光の強度と、被検化合物非存在下で検出される化学発光の強度(対照値)とを比較することにより評価することができる。すなわち、被検化合物存在下における発光強度が被検化合物非存在下における発光強度と比較して低い場合(例えば、対照値の80%以下、50%以下、30%以下、10%以下の場合)には、該被検化合物が、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する蓋然性があると評価することができる。前記発現の検出において、ルシフェラーゼ遺伝子以外のレポーター遺伝子を用いる場合も同様に、被検化合物非存在下で検出される前記発現量を対照値として用いて評価することができる。
【0092】
以上、本発明の評価方法について説明したが、複数の被検化合物に対して、本発明の評価方法を実施して、上記のRubiconタンパク質への結合、Rubicon遺伝子の発現の減少、あるいはレポーター遺伝子の発現の減少を指標に化合物を選択すれば、老化を抑制する活性、加齢性の疾患もしくは症状を予防、改善、もしくは治療する活性、または寿命を延長する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。従って、本発明は、このようなスクリーニング方法をも提供する。
【0093】
本発明の評価方法やスクリーニング方法によって同定された化合物については、さらに、細胞におけるオートファジーの促進活性を評価したり、動物実験や臨床試験において、実際に、上記活性を有するか否かを検証することが好ましい。動物実験としては、例えば、後述の実施例において示すように、加齢性の疾患や症状のモデル動物における当該疾患や症状の改善(例えば、代謝性骨疾患の原因となる骨量や骨密度・骨体積/骨組織体積比の低下および骨形態の変化の改善、神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質の減少、目の変性の減少、および運動機能の低下の改善、ストレス耐性の向上、臓器の線維化の軽減など)あるいは寿命の延長などが挙げられる。
【0094】
<老化の程度などの検査>
後述の実施例において示す通り、Rubicon遺伝子の発現が年齢依存的にアップレギュレートされ、これが様々な加齢性の疾患や症状の発症や寿命の短縮の起因となることが示唆された。従って、Rubicon遺伝子の発現量を指標に、老化の程度、加齢性の疾患や症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査することが可能である。すなわち、本発明は、対象における老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査する方法であって、被検試料におけるRubicon遺伝子の発現産物を検出する工程を含み、Rubicon遺伝子の発現産物の量が対照と比較して高い場合に、老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクが高いと評価される方法を提供する。本発明の検査方法は、医師や獣医師などによる診断のための情報を提供する方法、あるいは医師や獣医師などによる診断を補助する方法と表現することもできる。
【0095】
本発明の検査方法は、ヒトを含む動物を対象とすることができる。ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象とすることができる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどの哺乳類、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒルなどの鳥類などが挙げられるが、これらに制限されない。研究目的であれば、様々な実験用生物であってもよい。
【0096】
本発明の検査方法における「被検試料」は、老化の程度、加齢性の疾患もしくは症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクを検査する対象から分離された生物学的試料である。生物学的試料は、Rubicon遺伝子の発現産物(転写産物および/または翻訳産物)を含む限り、特に制限はないが、例えば、肝臓や腎臓の細胞などが挙げられる。
【0097】
「Rubicon遺伝子の発現産物の検出」には、公知の手法を用いることができる。「遺伝子の発現産物の検出」は、転写産物(mRNA)を対象に検出してもよく、翻訳産物(タンパク質)を対象に検出してもよい。転写産物を対象に検出する方法としては、例えば、RT-PCR、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、ドットブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法などが挙げられる。また、翻訳産物を対象に検出する方法としては、例えば、ウェスタンブロット法、放射免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、イムノクロマトグラフィー、免疫組織化学的染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラテックス凝集法、質量分析法(MS)などが挙げられる。
【0098】
こうしてRubicon遺伝子の発現産物を検出した結果、被検試料中のRubicon遺伝子の発現産物の量が対照と比較して高い場合、対象が、老化の程度、加齢性の疾患または症状の発症のリスク、または寿命の短縮のリスクが高いと評価される。ここで「発症リスク」には、発症の有無に関するリスクのみならず、発症の早期化のリスクが含まれる。対照としては、例えば、老化していない個体や加齢性の疾患または症状を発症していない個体から分離した試料におけるRubicon遺伝子の発現産物の量を利用することができる。
【0099】
また、本発明は、上記方法において、Rubicon遺伝子の発現産物を検出するための組成物であって、下記(a)または(b)を含む組成物を提供する。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
上記オリゴヌクレオチドプライマー(以下、単に「プライマー」と称する)は、RubiconをコードするcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:1)に基づき、Rubicon遺伝子の転写産物以外の転写産物が極力増幅されないように設計すればよい。このようなプライマー設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。プライマーの長さは、通常15~50塩基長、好ましくは15~30塩基長であるが、手法および目的によってはこれより長くてもよい。
【0100】
上記オリゴヌクレオチドプローブ(以下、単に「プローブ」と称する)は、RubiconをコードするcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:1)に基づき、Rubicon遺伝子の転写産物以外の転写産物に極力結合しないように設計すればよい。このようなプローブ設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。プローブの長さは、通常、15~200塩基長、好ましくは15~100塩基長、さらに好ましくは15~50塩基長であるが、手法および目的によってはこれより長くてもよい。また、プライマーおよびプローブは、適宜標識して用いることができる。
【0101】
プライマーおよびプローブは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理などによって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。また、プライマーおよびプローブは、天然のヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA))のみから構成されていてもよいが、必要に応じて、一部または全部において、上記した化学修飾された核酸を用いてもよい。また、プライマーおよびプローブは、適宜標識して用いることができる。
【0102】
Rubiconタンパク質に結合する抗体は、直接法により、Rubiconタンパク質を検出する場合、通常、標識物質を結合させた抗体が用いられる。一方、間接法により、Rubiconタンパク質を検出する場合、Rubiconタンパク質に結合する抗体には標識物質を結合させず、標識物質が結合した二次抗体などを利用して検出することができる。ここで「二次抗体」とは、Rubiconタンパク質に結合する抗体に対して反応性を示す抗体である。例えば、Rubiconタンパク質に結合する抗体をマウス抗体として調製した場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、Rubiconタンパク質に結合する抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0103】
標識物質としては、検出可能であれば、特に制限はないが、例えば、125I、131I、3H、14C、32P、33P、35Sなどの放射性同位元素、アルカリホスファターゼ(ALP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)などの蛍光タンパク質、アビジン、ビオチン、金属粒子、ラテックスなどが挙げられる。
【0104】
本発明の組成物においては、有効成分としての上記分子の他、必要に応じて、滅菌水や生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、試薬として許容される他の成分を含むことができる。
【0105】
また、当該組成物は、当該検査に必要な他の標品と組み合わせてキットとすることもできる。他の標品としては、例えば、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液などが挙げられる。また、標識されていない抗体を標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインAなど)を標識化したものを、キットに含めることができる。さらに、キットには、その使用説明書を含めることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
[材料と方法]
(1)C.elegansの飼育条件と株
線虫は、特記しない限り、大腸菌株OP50を有する線虫飼育培地(NGM)寒天プレート上において、標準的な技術を用いて20℃で培養した。本実施例では、以下のワーム株を使用した。
【0108】
N2(WT); DA2123, adIs2122[lgg-1p::GFP::lgg-1+rol-6(su1006)] ; AM140, rmIs132[unc-54p::Q35::YFP]; TU3401, sid-1(pk3321) V; uIs69[pCFJ90(myo-2p::mCherry)+unc-119p::sid-1]; VP303, rde-1(ne219) V; kbIs7[nhx-2p::rde-1+rol-6(su1006)]. NR350, rde-1(ne219) V; kzIs20[hlh-1p::rde-1+sur-5p::NLS::GFP]; NR222, rde-1(ne219) V; kzIs9[(pKK1260) lin-26p::NLS::GFP+(pKK1253) lin-26p::rde-1+rol-6(su1006)]; CB1370, daf-2(e1370)III; DA465, eat-2(ad465) II; CB4037, glp-1(e2141ts)III; OP198, unc-119(ed3) III; wgIs198[mml-1::TY1::EGFP::3xFLAG(92C12)+unc-119(+)]; MQ887, isp-1(qm150)IV; MAH215, sqIs11[lgg-1p::mCherry::GFP::lgg-1+rol-6].
(2)プラスミド構築およびトランスジェネシス
CeRubicon:EGFP翻訳融合構築物については、CeRubicon 4kb内在性プロモーターに加えてコーディング配列を、EGFPタグを含むpDC4ベクターにクローニングした。構築物のマイクロインジェクションを、共注入マーカーmyo-2p::mCherryとともに実施し、CeRubicon::EGFPを生成させた。
【0109】
(3)マウス
CAG-CreマウスおよびNestin-Creマウスは、ジャクソン研究所および宮崎純一博士の研究所(大阪大学)からそれぞれ入手した。CAG-CreマウスをRubiconfloxマウス(Tanaka, S. et al., Hepatology 64, 1994-2014 (2016))と交配させて、全体Rubicon欠失マウスを作製した。作製したRubicon-アレルを有するマウスをC57BL/6J野生型株に5回戻し交配した後、Rubicon+/-マウスとの間でインタークロスさせてRubicon-/-マウスおよび野生型対照を作製した。Nestin-CreマウスをRubiconfloxマウスと交配させて、脳内で特異的にRubiconのホモ接合欠損を有するマウスを作製した。本実施例で使用した全てのマウスは、カロリー制限マウスを除いて、C57BL/6Jバックグラウンドで維持した。これらの実験では、Turturroら(Turturro, A. et al., J Gerontol a-Biol 54, B492-B501 (1999))によって開発された成人発症の40%カロリー制限プロトコルを用いた。雌のBDF1マウスをケージ内で個別に飼育した。CRプロトコルは、9ヶ月齢まで継続した。水は自由に与えた。
【0110】
(4)ハエストックおよび培養条件
ハエは、標準的なコーンミール-寒天-酵母ベースの培地において、25℃で飼育した。UAS-MJDtr-Q27(#8149)、UAS-MJDtr-Q78s(#8150、眼変性用)、UAS-MJDtr-Q78w(#8141)、UAS-GFP-IR(#9330)、UAS-dRubicon(CG12772)-IR(#43276)、UAS-GFP-mCherry-Atg8a(#37749)、da-GAL4(#55849)およびelav-GAL4c155(#458)を有するハエを、Bloomington Stock Centerから得た。gmr-GAL4を有するトランスジェニックハエ系統がこれまでに報告されている(Yamaguchi, M. et al., Oncogene 18, 6767-6775 (1999))。
【0111】
(5)個体数統計分析
ワームについては、RNAiプレート上で4~6時間の産卵から同期した卵を得た。1日目の成体から、寿命試験をプレート当たり15~20匹の密度でセットアップし、20℃で行った。ワームは一日おきに新しいプレートに移した。生存率も1日おきにカウントした。全てのRNAi寿命は、卵から実施した。死亡は、プラチナワイヤーで刺激した後、一切の動きがないものとして記録した。内部からの孵化や外陰部の破裂、またはプレートから這い上がったワームは除外した。TOR RNAi実験では、成体よりノックダウンを行った。Mantel-Coxログランク法を用いて、Excel(Microsoft)で統計的解析を行った。実験用ハエを標準培地で飼育し、誕生後48時間交配させた後、CO2麻酔を用いて選別した。麻酔することなく、2~3日ごとにバイアルを新鮮な食べ物に交換し、すべてのハエが死ぬまで死亡を記録した。
【0112】
(6)RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、標的遺伝子に対してdsRNAを産生するベクターL4440により形質転換されたHT115(DE3)細菌を供給することによって実施した。同調した卵を、IPTGおよびアンピシリンを含む指定のRNAiプレート上に置いた。RNAiクローンは、Ahringer氏またはVidal氏のRNAiライブラリーから得た。let-363/TOR RNAiクローンは、Hansen博士(Sanford-Burnham Medical Research Institute)より供与された。二重ノックダウン実験では、各RNAiに対して同量の細菌を混合し、プレートに播種する。空ベクター(L4440)およびルシフェラーゼ(L4440::Luc)RNAiを非標的対照として用いた。
【0113】
(7)RNA抽出およびqRT-PCR
TRIzol(Invitrogen社)またはQIAZOL(Qiagen社)中で、ワーム、ハエ、およびマウスの組織サンプルを採取した。RNeasyキット(QIAGEN社)を用いて全RNAを抽出した。iScript(Bio-Rad社)またはPrimeScript RT試薬キット(タカラ社)を用いてcDNAを生成した。qRT-PCRは、ViiA7 Real-Time PCR System(Applied Biosystems社)上でPower SYBR Green(Applied Biosystems社)を用いて、またはCFX96 Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad社)上でKAPA SYBR Fast qPCRキット(KAPA Biosystems社)を用いて行った。各反応につき、4回のテクニカルレプリケートを行った。ama-1(ワーム)、Rpl32(ハエ)、18s rRNA(マウス)およびGAPDH(ヒト)を内部対照として用いた。
【0114】
(8)マルチワームトラッキング分析
13cm×10cmの寒天充填プレートを、等しい面積を有する4つの領域に分割した。動物が領域間を移動するのを防ぐために、各領域を、C.elegansの嫌悪刺激であるグリセロールで囲んだ。ある実験群からのワームを4つの領域のうちの1つに配置し、多数の実験群を同時に試験した。マルチワームトラッカーの適合バージョン(Swierczek, N. A. et al, Nat Methods 8, 592-598 (2011))を用いて、C.elegansの寒天プレート上の運動を記録した。運動を10分間記録し、Choreography(マルチワームトラッカーソフトウェアの一部)とカスタム作成スクリプトを使用して記録を分析した後、データを整理し、要約した。動物のトラックは、記録中、最後の2分間における各フレームの重心位置の時系列として収集した。トラッカーによる動物の認識を安定させるために、最初の8分間は無視した。Choreographyフィルター(シャドーレスおよび-t10)を用いて画像のアーティファクトを回避した。個体の速度は、一連の重心間の距離の合計をトラックの継続時間で割ったものとして算出した。実験群は、動物のトラックの長さで重み付けした標本平均およびその標準誤差を用いて要約した。
【0115】
(9)クライミングアッセイ
クライミングアッセイは、公表されているプロトコル(Suzuki, M. et al., Human molecular genetics 24, 6675-6686 (2015))にわずかな改変を加えたものに従って行った。10~20匹のハエを、麻酔なしの円錐形ガラス管(長さ15cm;直径2.5cm)に入れた。ハエを管の底まで落としてから10秒後、各鉛直領域のハエの数を数え、以下のように点数をつけた。点数0(0~2cm)、1(2~3.9cm)、2(4~5.9cm)、3(6~7.9cm)、4(8~9.9cm)、5(10~15cm)。3つの試験を20秒間隔で各群に対して行い、クライミングの点数を以下のようにして算出した。各スコアにハエの数を乗じたものをハエの総数で割り、3つの試験の平均点を算出した。結果は、3~9回の独立した実験で得られた点数の標本平均±標準誤差として表した。
【0116】
(10)顕微鏡使用および定量化
オートファジー活性をモニタするために、L4段階のGFP::LGG-1およびmCherry::GFP::LGG-1動物を0.1%アジ化ナトリウムで麻酔し、オリンパスFV1000共焦点顕微鏡を用いて画像を取得した。これらの画像を用いて、前腸領域または咽頭領域のGFPおよび/またはmCherry punctaを計数し、定量化した。CeRubicon::EGFPおよびQ35::YFPワームについては、氷冷した空のプレート上に整列したワーム全体の蛍光画像を、DP80 CCDカメラを備えた実体顕微鏡SZX16(オリンパス)で撮影し、ワーム当たりのpolyQ凝集物の数を勘定した。
【0117】
(11)ハエの眼の撮像
CCDカメラ(DP22、オリンパス)を備えた立体顕微鏡モデルSZX16(オリンパス)を用いて、1日齢の成体雌ハエの光学顕微鏡画像を撮影した。1つの複眼に対する壊死した個眼の数を各遺伝子型についてカウントした。
【0118】
(12)ハエのオートファジーフラックス
摂食状態を一致させるために、da-GAL4ドライバーの下で、且つ、dRubicon-IRが存在するまたは存在しない状況下で、GFP-mCherry-Atg8aを発現する4日齢のハエを、0.75%寒天により15時間飢餓状態にし、4時間再摂取させた。脳を解剖し、PBS中の4%ホルマリン内に固定し、80%グリセロールで一晩インキュベートし、次いで、DAPI フルオロマウント-G(SouthernBiotech社)で封入した。共焦点顕微鏡(ライカ社TCS SP8)によりKC層の蛍光画像を撮影し、150~200個の細胞を含む25×50μmの関心領域中のGFPおよび/またはmCherry punctaの数をカウントした。3つのオーバーラップしない画像を各KC層の定量化に使用した。
【0119】
(13)ストレス耐性アッセイ
1日目の成体ワームを、酸化ストレス(空のプレート中4.4mMのH2O2)または熱ストレス(35℃)にそれぞれ3時間または7時間さらし、生存したワームをカウントした。各条件につき30匹のワームを使用し、実験を3回繰り返した。
【0120】
(14)ウェスタンブロッティング
ホモジナイザーを用いて、ワームまたはマウスの組織を溶解緩衝液(50mM Tris/HCl[pH7.4]、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%NP-40、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤カクテル[Roche社])中で溶解した。遠心分離した後、得られた上澄みを蛋白質定量化およびウエスタンブロッティングに供した。ワームおよびマウス組織の蛋白質溶解物をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離してPVDF膜に転写し、次いでこれをブロックして特異的な一次抗体と共にインキュベートした。マウス組織のウエスタンブロッティングに使用した一次抗体および希釈物は以下の通りである。
【0121】
Rubicon(Cell Signaling Technology社、#8465,1:500)、LC3(Cell Signaling Technology社、#2755,1:1000)、p62(株式会社医学生物学研究所、PM045,1: 1000)、ホスホp70 S6キナーゼ(Thr398)(Cell Signaling社、#9209,1:500)、およびβ-アクチン(Sigma Aldrich社、A5316,1,8000)。
【0122】
(15)免疫組織化学
ハエについては、成体の雌の脳(羽化から3日後)を解剖し、PBS中の4%ホルマリン内に固定し、PBS/T(PBS中0.5%Triton X-100)中の50%ブロックエース(大日本住友製薬株式会社)でブロックし、抗HA抗体(3F10,1:500、Sigma社)と共にインキュベートした後、HAタグでMJDtrQ78蛋白質を染色した。免疫染色をAlexa488標識抗ラット抗体で視覚化し、核をDAPIで染色した。ケニオン細胞層(KC層)の画像を、共焦点顕微鏡(LSM780、Zeiss社)を使用して撮影した。HA染色のシグナル強度を、ImageJ 1.51sソフトウェアを用いて定量化した。5匹の動物からの両側KC層10枚を、各群について分析した。マウスでは、コラーゲンIの免疫組織化学染色をパラフィン包埋切片上で行った。0.01mmol/Lクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中、120℃で10分間オートクレーブすることによる抗原回収の後、切片をPBS中の3%BSAで60分間ブロックした。ブロックした切片を、一次抗体である抗コラーゲンI(abcam社、ab34710,1:400)と共に4℃で一晩インキュベートし、室温で30分間インキュベートした後、HRP-ジアミノベンジジン化合物(株式会社ニチレイ)を用いて検出を行った。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0123】
(16)組換えα-synフィブリルの注入および検出
フィブリルの注入およびその検出は、これまでに報告されている(Luk, K. C. et al., Science 338, 949-953 (2012)、Watanabe, Y. et al., Autophagy 13, 133-148 (2017))。
【0124】
具体的には、脳内注入の前に、調製済みフィブリルを滅菌PBSで希釈して超音波処理した。8~10週齢のマウスを抱水クロラール(250mg/kg、腹腔内)で麻酔し、両半球に組換えα-Synフィブリル(1mg/mlの1μl)を定位的に注入した(座標:ブレグマに対して+0.2mm、正中線から+2.0mm)。出生後10ヵ月の動物を供した。CM3050Sクライオスタット(Leica Biosystems社)を用いて、フィブリル注入領域を含む凍結脳切片を得た。切片を、マウスモノクローナル抗体pSyn#64(希釈、1:1000、和光純薬工業株式会社)と、続いてAlexa Fluor 488標識二次抗体(希釈液、1:1000、Invitrogen社)と共にインキュベートし、検出を行った。Biorevo BZ-9000(株式会社キーエンス)で画像を取得し、定量化した。
【0125】
(17)細胞培養
RPE-1細胞を、6ウェル当たり5.0×104個の密度で播種した。1日後、ルシフェラーゼおよびMondoA(Santa Cruz社)に対し、20nMのsiRNAで細胞を処理した。48時間に渡るsiRNA処理の後、RPE1細胞をサンプル緩衝液中で溶解し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウエスタンブロッティングに供した。Rubiconの蛋白質レベルをウエスタンブロッティングによって定量化した。siRNA処理の1日前に、RPE-1細胞を、6ウェル当たり5.0×104個の密度で播種した。
【0126】
(18)統計分析
結果は、標本平均±標準誤差として示した。統計的検定は、GraphPad Prism(GraphPad Software社)またはExcel(Microsoft Office 2011)を用いたTukeyの検定またはt検定による一元または二元配置分散分析を通じて行った。
【0127】
(19)TRAP染色
骨髄細胞を24ウェルプレートに培養し、M-CSFとRANKLを添加することで破骨細胞へ誘導した。4% paraformaldehydeで5分間固定し蒸留水でwash後、50mM酒石酸含有緩衝液(Ph5.0)と発色気質を加え37℃で45分間反応させた。TRAP活性による染色はBZ-X700(Keyence)で検鏡観察した。
【0128】
(20)Pit formation assay
オステオアッセイプレート(Corning #3988)に骨髄細胞を培養し、M-CSFとRANKLを添加することで破骨細胞へ誘導。破骨細胞が骨基質を溶解することで吸収窩(Pit)が形成され、BZ-X700(Keyence)で検鏡観察した。
【0129】
(21)ALP染色
初代培養系では12ウェルプレート、培養細胞系では96ウェルプレートにおいて骨分化培地で5日間細胞培養した。骨分化培地はαMEM supplemented with 10% FBS, 50μg/ml L-ascorbate phosphate(Shigma), 10mM β-glycerophosphate(Shigma)で作成した。4% paraformaldehyde(in 0.1M cacodylate buffer ; pH 7.3)で30分固定し、Bromo-Chloro-Indolyl phosphate/Nitro Blue Tetrazolium Chlorideを添加し37℃で20分間染色後、BZ-X700(Keyence)で検鏡観察した。
【0130】
(22)アリザリン染色
初代培養系では12ウェルプレート、培養細胞系では96ウェルプレートにおいて骨分化培地で4週間細胞培養した。骨分化培地はαMEM supplemented with 10% FBS, 50μg/ml L-ascorbate phosphate(Shigma), 10mM β-glycerophosphate(Shigma)で作成した。骨分化培地は2日毎に培地交換し、4% paraformaldehyde(in 0.1M cacodylate buffer ; pH 7.3)で30分固定した。0.1M cacodylate buffer(pH 7.3)でwashし、Alizarin Red S(pH 4.0)で5分間染色後、蒸留水で再度washした。ウェルを乾燥させ、BZ-X700(Keyencne)で検鏡観察した。
【0131】
(23)Bone analysis
C57BL/6 バックグラウンドの12週齢のオスマウスを解析に使用した。ただし、骨粗鬆症モデルにおいては9週齢のメスマウスから卵巣を摘出し、4週間後に骨形態を計測した。骨形態はマウスの大腿骨遠位端をCTスキャンした(小・中型実験動物用3DマイクロX線CT/CosmoScan AX;Rigaku)。その後、3DマイクロCTデータをTRI/3D-BONソフトウェア(RATOC Systems)で解析し骨形態解析を行なった。
【0132】
[実施例]
(1)Rubiconによるオートファジーの調節を介した寿命の制御
C.elegansのRubicon相同体を探索し、Y56A3A.16が、ヒトRubicon(KIAA0226)、ヒトKIAA0226L(最近、Pacerと同定)(Cheng, X. et al., Mol Cell 65, 1029-1043 (2017))、およびショウジョウバエRubicon(dRubicon、CG12772)(Banreti, A. et al., Dev Cell 28, 56-69 (2014))との配列類似性を有することを見出した(
図5A)。
【0133】
哺乳類においては、Rubiconはオートファジーを阻害するが、Pacerはオートファジーを正常進行させるのに必要とされる。そこで、次に、これら2つの蛋白質のどちらが、よりY56A3A.16に機能的に類似しているかの検討を行った。Rubiconノックダウン哺乳類細胞においてこれまでに観察されたように(非特許文献6)、RNAiによるY56A3A.16のノックダウンにより、オートファゴソームマーカーであるGFP::LGG-1ドットの数が腸細胞において大きく増加した(
図1A(i),(b))。この増加は、自食小胞核形成において機能するbec-1/Beclin 1の同時ノックダウンによって完全に消滅した。この事実は、Y56A3A.16のノックダウンにより自食液胞が増加したことを示唆している(
図1A(i),(ii))。
【0134】
Y56A3A.16のノックダウンがオートファジー活性を増強するかブロックするかをさらに判別するために、タンデム蛍光LGG-1(mCherry::GFP::LGG-1)を発現する最近開発されたトランスジェニックワームを用いて、オートファジーフラックスをモニタした(非特許文献1)。Y56A3A.16のノックダウンにより、腸および咽頭筋におけるオートファゴソーム(AP)およびオートリソソーム(AL)の数が大きく増加することが認められた(
図1B(i),(ii)、
図5B(i),(ii))。これはオートファジーフラックスがノックダウンにより向上すること示している。ゼブラフィッシュとショウジョウバエにRubicon相同体が1つしかないという事実と合わせると(
図5A)(Banreti, A. et al., Dev Cell 28, 56-69 (2014))、この結果は、Y56A3A.16がRubiconの先祖相同体を表していることを意味する(従って、Y56A3A.16を「CeRubicon」と称する)。興味深いことに、CeRubicon::EGFPトランスジェニックワームおよびqRT-PCR分析を用いた遺伝子発現実験により、CeRubiconが若いワーム(1日目)と比較して古いワーム(7日目)においてアップレギュレートされるいることが判明した(
図1C(i),(ii))。これらの結果から、オートファジーの負の制御因子であるRubiconが年齢に依存して増加することが、オートファジーが年齢に依存して弱まる原因となり得るという仮説を導いた。そして、この考えの通り、RNAiによるCeRubiconのノックダウンは、野生型ワームの寿命を大きく延ばした(
図1D(i),(ii)、
図5C(i))。CeRubiconのノックダウンは、咽頭ポンピング速度を変化させず、RNAiを含む細菌が適切に取り込まれることを示している(
図6B(i))。Rubicon転写レベルは、これらの動物において正常レベルの約50%にまで低下した(
図5C(ii))。
【0135】
哺乳類細胞では、Rubiconはオートファジーとエンドサイトーシスの両方を抑制することが示されているが、オートファジー制御因子であるbec-1/Beclin 1、unc-51/ULK1、およびatg-18/ATG18をCeRubiconと共にRNAiによりノックダウンすると、寿命の増加は完全に消滅した(
図1D(i),(ii)、
図5C(i))。これは、CeRubiconのノックダウンによって付与された寿命の向上がオートファジー活性に依存することを示す。反対に、CeRubiconの過剰発現により野生型ワームの寿命が短くなった(
図1E(i),(ii))。
【0136】
以上の結果は、CeRubiconが、オートファジー活性を調節することによって、寿命を制御することを示唆する。
【0137】
(2)全身Rubiconノックダウンによる年齢に依存した表現型の改善
Rubiconのノックダウンが他の年齢発症表現型に影響を与えるか否かを検討した。体壁筋中でポリグルタミン(polyQ)-YFPを発現するワームは、polyQ融合蛋白質の年齢発症凝集を示す(Morley, J. F. et al., P Natl Acad Sci USA 99, 10417-104229 (2002))。CeRubiconのノックダウンは凝集のレベルを低下させたが、bec-1/Beclin 1の同時ノックダウンは減少を戻した。これはCeRubiconのノックダウンが、オートファジー依存的にpolyQ融合蛋白質の凝集を減少させることを示している(
図2A,
図2B(i))。
【0138】
運動量は年齢と共に低下し、速度は寿命とよく相関している(Hahm, J. H. et al., Nature Communications 6, doi:ARTN 8919)。マルチワームトラッキングシステムにより、個々のワームのトラックをモニタし、運動速度を計算することができた(Swierczek, N. A. et al., Nat Methods 8, 592-598 (2011))。この分析により、CeRubiconのノックダウンが、オートファジー依存的に運動量の年齢に依存した低下を減速させることが明らかになった(
図2B(ii)、
図6A)。
【0139】
多くの長命動物は、酸化ストレスおよび熱ストレスを含む複数のストレスに対する耐性を示すことが多い。我々は、CeRubiconのノックダウンにより、酸化ストレス耐性がオートファジー依存的に増加することを見出した(
図2B(iii))。他方、熱ストレス耐性は変化しない(
図6B(ii))。これは、CeRubiconのノックダウンがストレス耐性に関して異なる下流アウトプットを与えることを示す。
【0140】
C.elegansにおける発見を拡張するために、Rubiconノックダウンがハエの寿命も延長するか否かを検討した。その結果、ショウジョウバエRubicon(dRubicon)の全体ノックダウンは、脳内のオートファジーフラックスを大きく増加させ、雌特異的に寿命を延長した(
図2C、
図6C(i),(ii),D(i))。特にdRubiconのノックダウンにより、MJDtr-Q78(膨張グルタミン管を含むMJD/SCA3の短縮型)polyQ疾患モデル雌ハエにおける複眼の変性が改善された(
図2D(i),(ii))。mTORキナーゼ処理の阻害剤であるラパマイシンは、雄マウスよりも雌マウスで多く増加する。したがって、この観察は、動物の寿命に対するオートファジーの性的二型の寄与を反映している可能性がある。
【0141】
C.elegansと同様、腎臓および肝臓におけるRubicon蛋白質レベルが、高齢マウス(20ヶ月齢)において、若年マウス(2ヶ月)よりも高いことを見出した(
図2E(i),(ii)、
図6D(ii))。マウスにおける動物老化に関するRubiconの役割を理解するために、LC3-IIのレベルが高く、且つ、オートファジー基質p62のレベルが低い、つまり基礎的なオートファジーが活性化したRubicon全体ノックアウトマウスを開発した(
図2F(i))。進行性線維症は、腎臓老化の組織学的特徴である(Yamamoto, T. et al., Autophagy 12, 801-813 (2016))。Rubicon全体ノックアウトマウスにおいては、コラーゲンIの免疫組織化学によって決定されるように、年齢関連線維症が減少していた(
図2F(ii),
図2G(i))。この表現型は、線維性マーカーをコードするmRNAのqRT-PCR検出によって確認された(
図2G(ii))。要するに、Rubiconのノックダウンまたは欠失により、ワーム、ハエ、およびマウスにおける年齢関連表現型が改善された。
【0142】
(3)ニューロンにおけるRubiconレベルの低下による老化の遅延
どの組織のCeRubiconが、C.elegansの寿命制御を担っているかを検討した。CeRubiconのノックダウン用に、TU3401(ニューロン特異的、sid-1系を使用)(Calixto, A. et al., Nature Methods 7, 554-U102 (2010))、NR350(筋肉)、VP303(腸)、およびNR222(皮下組織)を含む組織特異的なRNAi感受性株を使用した(
図3A(i)、
図7A(i)~(iii))(Qadota, H. et al., Gene 400, 166-173 (2007))。神経細胞におけるCeRubiconのノックダウンが寿命を最も効率的に延ばした(
図3A(i))。一方、CeRubiconの皮下組織および腸ノックダウンがそれよりも低い程度ではあるが大きく寿命を延ばした(
図7A(i)~(iii))。神経細胞は、通常、RNAiノックダウンに耐性があるため、野生型ワームのCeRubiconのノックダウンによって付与される寿命延長は、皮下組織、腸、および他の未同定組織からの組み合わせ効果を反映している可能性がある(
図1D(i),(ii)、
図5C(i))。
【0143】
次に、CeRubiconのノックダウンによるニューロンのオートファジー作用の増加が、動物の寿命を延ばすのに十分であるか否かを検討した。その結果、神経細胞におけるCeRubiconのノックダウンによって付与された寿命向上は、atg-18/WIPIの同時ノックダウンによって完全に消滅した(
図7B(i))。これは、オートファジーのニューロン活性化が寿命を延ばすのに十分であることを示唆する。同様に、ショウジョウバエのRubiconのニューロン特異的ノックダウンもまた、雌ハエの寿命を延長する(
図3A(ii)、
図7B(ii))。さらに、Rubiconノックダウンは、雌の脳ニューロンにおいてpolyQ封入体を減少させ(
図3B(i),(ii))、polyQ細胞毒性によって加速される運動機能の年齢関連低下を和らげることを見出した(
図3B(iii))。
【0144】
オートファジーは、パーキンソン病を含む幾つかの老化に伴う神経変性障害に関与している。散発性および家族性のパーキンソン病では、影響を受けたニューロンはα-シヌクレイン(α-Syn)を含む封入体を発現する。上昇したこの蛋白質の量は、パーキンソン病を引き起こすのに十分である。α-Synが過剰発現し、且つ、ミスフォールドした凝集し易い形態は、オートファジーによって分解される。従って、ニューロンにおけるRubiconの欠失によるオートファジーの強制活性化が、脳におけるα-Synの凝集を防止するのに十分であるかどうかを検討した。この可能性を探るため、これまでに報告されているように(Luk, K. C. et al., Science 338, 949-953 (2012)、Watanabe, Y. et al., Autophagy 13, 133-148 (2017))、対照およびRubiconニューロン(Nestin-cre)ノックアウトマウスの線条体に予備形成したα-Synフィブリルを注入し、10ヶ月後、レビー小体およびレビー神経突起状α-Syn封入体の形成を比較した。注目すべきことに、リン酸化α-Syn陽性シグナルのレベルは、ニューロン特異的Rubiconノックアウトマウスにおいて大きく減少し(
図3C(i),(ii))、これはニューロンRubicon欠失がα-シヌクレイン病変の拡大を抑制したことを示唆している。これらの結果は、ニューロンのノックダウンは多数の生物における老化表現型を改善するのに十分であることを示唆する。
【0145】
(4)複数の寿命延長条件におけるRubiconのダウンレギュレーション
Rubiconの発現が、複数の寿命延長条件によって変更されるか否かを検討した。ワームでは、複数の異なる長命経路および対応する長命変異体がよく特徴づけられている。これらには、インスリン/IGF-1シグナル伝達(daf-2)、生殖細胞系列の除去(glp-1)、カロリー制限(eat-2)およびミトコンドリア機能障害(isp-1)の減少が含まれる(Kenyon, C. J. Nature 464, 504-512 (2010))。CeRubicon発現は、野生型と比較して、これらの長命ワームの全てにおいて抑制された(
図4A(i)、
図8B(ii))。さらに、9カ月間のカロリー制限を受けたマウスは、肝臓および腎臓におけるRubicon発現の低下を示した(
図4A(ii)、
図8B(i))。また、CeRubiconのノックダウンは、daf-2、glp-1、eat-2およびisp-1の寿命をそれ以上延長しないことを見出した(
図8A(i)~(iv))。この結果は、Rubiconが多数の寿命パラダイムの下流で制御され、これらの動物の寿命がRubicon発現の減少によって部分的に付与されることを示している。
【0146】
ワームにおいて、MML-1/Mondoは、多数の長命経路に必須の収束転写因子の1つとして同定されている(Nakamura, S. et al., Nat Commun 7, 10944 (2016)、Johnson, D. W. et al., Plos Genet 10 (2014))。特に、mml-1のノックダウンは、生殖細胞系列が欠損した長命glp-1動物のオートファジー活性および寿命を消滅させる。しかし、どのようにmml-1がオートファジーを制御するかは、完全には特徴付けられていない。そこで、CeRubiconの制御に、mml-1が関与するか否かを検討した。興味深いことに、他の長命動物においてCeRubiconが依然として大きく抑制されはいるが(
図8B(ii))、glp-1動物におけるCeRubiconの抑制は、mml-1またはそのヘテロ二量体パートナーであるmxl-2のノックダウン後に完全に戻った(
図4B(i))。さらに、緩やかな寿命の延長をもたらすmml-1の過剰発現(上記、Nakamura, S. et al.)は、野生型と比較してCeRubicon発現を減少させた(
図4B(ii))。また、Rubiconの転写レベルは変化しなかったものの、MML-1の哺乳動物相同体であるMondoAのノックダウンにより、哺乳類細胞におけるRubicon蛋白質レベルは上昇した(
図4C(i),(ii))。これらの結果は、Rubiconが、特に、生殖細胞系列寿命の文脈においてMML-1/MondoAの下流に制御されることを示しており、この制御は哺乳動物において保存されていると考えられる。
【0147】
栄養素センサーmTORは栄養素の欠乏に応じて不活性化される。またmTORの阻害はオートファジーを誘導し、多数の種の寿命を延長する(Kapahi, P. et al., Cell Metab 11, 453-465 (2010))。加えて、MML-1は、ロイシンセンサーlars-1を抑制することによってTOR活性を制御する(上記、Nakamura, S. et al.)。そこで、RubiconとmTOR経路との間の可能なクロストークを検討した。その結果、驚くべきことに、CeRubiconおよびlet-363/mTORの二重ノックダウンが、いずれか一方のみのノックダウンと比較して、さらに寿命を延長することが判明した(
図4D)。CeRubiconのノックダウンはTOR活性に影響を及ぼさないが、TORノックダウンはCeRubicon発現を変化させない(
図8C(i),(ii))。これらの結果は、オートファジーの2つの主要な負の制御因子であるTORおよびRubiconが、部分的に独立した下流機構を介して寿命に寄与することを示す。
【0148】
(5)Rubiconによるオートファジーを介した骨代謝の調節
全身のRubicon欠損マウスの大腿骨をCTで撮影したところ、Rubicon欠損マウスでは大腿骨の骨密度(BMD)、骨体積/骨組織体積比(BV/TV)、骨塩量(BMC)が有意に上昇した(
図9A)。そこで、破骨細胞と骨芽細胞の初代培養系を作成し、それぞれの分化能と機能を評価した。破骨細胞の分化はTRAP染色で評価し、Rubicon欠損破骨細胞では分化が亢進していた(
図9B)。また、破骨細胞の骨吸収機能をピットフォーメーションアッセイで評価したところ、Rubicon欠損骨芽細胞では骨吸収機能が亢進していた(
図9C)。次に、骨芽細胞の分化能とミネラル化機能を初代培養系及び培養細胞系で検討した。培養細胞系におけるRubicon欠損細胞は、Crisper-Cas9 systemで作成している。分化能をALP染色で評価したところ、Rubicon欠損骨芽細胞では分化能が優位に上昇していた(
図9D)。また、ミネラル化機能をアリザリン染色で評価したところ、Rubicon欠損骨芽細胞ではミネラル化機能が亢進していた(
図9E)。全身のRubicon KOマウスでは、破骨細胞と骨芽細胞はともに、分化能および機能が亢進しているが、Rubicon欠損マウスにおいては大腿骨の骨形態が増強していることから、骨芽細胞の機能がより重要であると推測された。また、Rubicon欠損骨芽細胞においてオートファジーが亢進しているかどうかをLC3fluxアッセイで確認した。その結果、Rubicon欠損骨芽細胞は、栄養条件下、飢餓条件下の両方においてLC3 fluxが亢進した(
図10)。
【0149】
骨芽細胞特異的マウス作成にあたり、Osterix-creマウスとRubicon
flox/floxマウスを掛け合わせ、Rubicon
flox/flox;Osterix-Creマウスを作成した。同時に、Osterix-creマウスを、Atg5
flox/floxマウスおよびRubicon
flox/flox;Atg5
flox/floxマウスとも掛け合わせ、骨芽細胞特異的Atg5欠損マウスとRubicon/Atg5欠損マウスを作成し、骨形態をCT解析した。その結果、骨芽細胞特異的Rubicon欠損マウスでは、骨密度が優位に増加した。一方で、骨芽細胞特異的Atg7欠損マウスでは、骨密度が低下すると報告されているが(Li, H. et al., Autophagy 14(10), 1726-1741 (2018))、本実験でも、Atg5欠損マウスでは優位に骨密度が低下した。加えて、Rubicon/Atg5欠損マウスでは、骨密度がAtg5欠損マウスと同等に低下した(
図11A)。この事実は、骨芽細胞特異的Rubicon欠損マウスにおける骨形成が、オートファジー依存的に起こっていることを示している。
【0150】
本実施例では、骨芽細胞特異的Rubicon欠損マウスが造骨性の変化を示したが、これが骨粗鬆症改善に寄与するのか骨粗鬆症モデルを作成して検討した。骨粗鬆症モデルとしては、両側卵巣を摘出して、4週間、女性ホルモンを枯渇させることによって作成した閉経後骨粗鬆症モデルを用いた。その結果、シャムマウスでは、骨粗鬆症が誘導され、骨密度が低下し、骨体積/骨組織体積比も低下したのに対して、Rubicon欠損マウスでは骨粗鬆症モデルにおいて骨密度と骨体積/骨組織体積比が優位に改善した(
図11B)。
【0151】
Rubicon欠損マウスにおいてオートファジー依存的に造骨性変化が認められ、Rubicon欠損骨芽細胞では、オートファジー、分化、及び造骨性機能が亢進していた。この事実から、骨芽細胞の分化にオートファジーが関与していることが示唆された。これまで骨芽細胞の分化には、wnt、BMP、あるいはNotchのシグナル経路が関与していることが知られているがZanotti, S. & Canalis, E. Molecular and Cellular Biology, 30(4), 886-896 (2010)、Muguruma, Y. et al.,Journal of Cellular Physiology, 232(9), 2569-2580 (2017))、本実施例では、Notchのシグナル経路に注目した。なぜなら、骨芽細胞特異的Notch2欠損マウス(Notchは1~4までアイソフォームがあり、骨芽細胞にはNotch2が高発現している)は、造骨性の変化を示し、骨芽細胞の分化と機能も亢進することや、Notchレセプターがオートファジー依存性に減少することが既に報告されていたからである(Yorgan, T. et al., Bone 87(C), 136-146 (2016)、Wu, X. et al., Nature Communications 7, 1-17 (2016)、Cao, Y. et al., Stem Cells and Development 24(22), 2660-2673 (2015))。既報において、骨芽細胞のNotch2欠損マウスが造骨性変化を示すメカニズムは以下のように報告されている。すなわち、Notch2レセプター欠損により核内移行するNICDが低下し、Notch下流の転写因子が抑制される。Notch下流のHesやHeyは、造骨性の転写因子であるRunx2やOsterixを負に制御しているため、HesやHeyが減少することによりRunx2やOsterixなどの造骨性転写因子が増加し、骨芽細胞の分化能と骨形成機能が亢進する。そこで、本発明者は、Rubicon欠損骨芽細胞では、亢進したオートファジーによりNotchレセプターの分解が促進することで、Notch下流のHesやHeyが減少し、さらにRunx2やOsterixが増加していると予想した。そこで、まず、Notch下流の転写因子と造骨性転写因子のmRNAの発現を確認したところ、Notch下流のHey1、HeyL、Hes1、Hes3、Hes7では、Rubicon欠損骨芽細胞でmRNAの発現が低下し、Runx2やOsteocalsinなど造骨性転写因子では、mRNAの発現が増加していることが判明した(
図12A)。さらに、Rubicon欠損骨芽細胞でNotch2とNICDが分解されているかを、ウェスタンブロッティングで観察したところ、リソソーム阻害によるNotch2とNICDのfluxがRubicon欠損骨芽細胞で増加し、Rubicon欠損細胞では、よりNotch2とNICDが分解されていることが示唆された(
図12B)。
【0152】
Rubicon欠損骨芽細胞では、NotchレセプターとNICDの分解が亢進していたが、Rubiconの下流でNICDが機能しているか不明であった。そこで、Rubicon欠損骨芽細胞にNICDを過剰発現させ、その分化能をALP染色で評価したところ、野生型骨芽細胞と同等に分化が抑制された。この事実から、Rubiconの下流でNICDが制御されていることが判明した(
図13A)。NICDには2箇所のLIRモチーフがあるため、オートファジーの基質になっている可能性が考えられた。そこで、Flagタグを付加したNICDを用い、免疫沈降法によりNICDとLC3の結合を確認した。Flagで免疫沈降して、LC3をイムノブロッティングにより検出した結果、LC3とNICDが直接結合していることが判明した(
図13B)。
【産業上の利用可能性】
【0153】
以上説明したように、本発明によれば、Rubiconを標的として、オートファジーの経時的な減弱に伴う老化を抑制し、加齢性の疾患または症状を幅広く、予防、改善、または治療することや寿命を延長することが可能となる。また、Rubiconを標的として、老化の程度、これら疾患または症状の発症のリスク、あるいは寿命の短縮のリスクを検査することも可能となる。従って、本発明は、特に、医療分野に大きく貢献しうるものである。
【配列表】