(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】透光性材料からなる封止用のリッド
(51)【国際特許分類】
H01L 23/02 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
H01L23/02 J
H01L23/02 F
H01L23/02 C
(21)【出願番号】P 2020500467
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2019004772
(87)【国際公開番号】W WO2019159858
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018023249
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】草森 裕之
(72)【発明者】
【氏名】島田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】入部 剛史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 徳行
(72)【発明者】
【氏名】田中 克尚
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-127474(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0164631(US,A1)
【文献】特開平9-36690(JP,A)
【文献】特開2008-147234(JP,A)
【文献】特開平7-249750(JP,A)
【文献】特開2004-146392(JP,A)
【文献】特開2008-311456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を収容するパッケージ本体に接合され、気密封止されたパッケージを製造するための封止用リッドにおいて、
可視光、紫外光、赤外光の少なくともいずれかを透過可能な透光性材料からなるリッド本体を備え、
前記リッド本体は、前記パッケージ本体と接合する面に、リッド本体の外周形状に対応した枠状の接合領域を含み、
前記リッド本体の前記接合領域上に複数片の共晶合金からなるろう材が融着されてなることを特徴とする封止用リッド。
【請求項2】
複数片のろう材が、接合領域上に連続的に融着され枠形状を形成している請求項1記載の封止用リッド。
【請求項3】
複数片のろう材のうち、少なくとも一つのろう材の任意断面の材料組織が、共晶組織と任意的に含まれる円相当径5μm以下の単一相とからなる材料組織である請求項1又は請求項2記載の封止用リッド。
【請求項4】
複数片のろう材のうち、少なくとも一つのろう材の投影形状が略円形である請求項1~請求項3のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項5】
複数片のろう材のうち、少なくとも一つのろう材について、下記式で定義される形状指数(I
s)が0.9以上2.5以下である請求項1~請求項4のいずれかに記載の封止用リッド。
【数1】
【請求項6】
リッド本体を構成する透光性材料は、ガラス、水晶、サファイア、シリコン、ゲルマニウムのいずれかよりなる請求項1~請求項5のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項7】
共晶合金からなるろう材は、Au系共晶ろう材である請求項1~請求項6のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項8】
共晶合金からなるろう材は、Au-Snろう材である請求項1~請求項7のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項9】
リッド本体表面の少なくとも一部に、金属からなる少なくとも1層のメタライズ膜を有し、前記メタライズ膜の上にろう材が融着されてなる請求項1~請求項8のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項10】
メタライズ膜は、ろう材が融着される面にAu又はPtの少なくともいずれかからなる第1の金属層を有する請求項9記載の封止用リッド。
【請求項11】
メタライズ膜は、リッド本体の表面上にMg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ta、W、Re、Os、Irの少なくともいずれかからなる第2の金属層を有する請求項9又は
請求項10記載の封止用リッド。
【請求項12】
メタライズ膜を構成する金属元素がろう材内部へ拡散することで形成される拡散領域の幅が、2μm以下である請求項9~請求項11のいずれか1項に記載の封止用リッド。
【請求項13】
リッド本体は、片面もしくは両面に透過率又は反射率を上昇させる機能膜を有する請求項1~請求項12のいずれかに記載の封止用リッド。
【請求項14】
パッケージ本体に封止用リッドを接合する工程を含む気密封止方法において、
前記封止用リッドとして請求項1~請求項13のいずれかに記載の封止用リッドを接合する気密封止方法。
【請求項15】
請求項1~請求項13のいずれかに記載の封止用リッドが接合されたパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED等の光学素子を収容するパッケージの蓋材であり、光を透過する材料からなる封止用リッドに関する。詳しくは、パッケージに接合して気密封止するためのろう材を備えるリッド本体からなる封止用のリッドであって、封止作業時に割れ等の損傷が発生し難いものに関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)等の発光素子や受光素子である光学素子が、照明、センサー、光通信、殺菌等の分野で広く利用されている。かかる光学素子を上記の各種装置に利用する際には、光学素子を大気から保護するために気密封止されたパッケージとしている。このパッケージは、光学素子を収容する容器状のパッケージ本体に、蓋体となるリッドを接合して気密性を確保することで作製される。
【0003】
光学素子のパッケージ化においては、その本来の機能を利用するため、光(可視光、赤外光、紫外光等)を透過できるリッドを使用することが前提となる。このような光透過性のある光学素子のパッケージとして、例えば、特許文献1では、ガラス窓を有する金属キャップ(リッド)を、パッケージ本体に接合したパッケージがある。この先行技術では、リッドの一部を光透過のためにガラス窓とし、パッケージ本体との接合部分を金属枠としている。そして、リッドとパッケージ本体との接合部位は金属であり、当該部位をシームウエルドで接合して気密性を確保する。
【0004】
また、特許文献2では、透光性ガラス平板をリッドとし、これを半導体チップ(発光素子)が収容されたパッケージ本体に接着剤で接合して製造される発光素子パッケージが記載されている。この先行技術では、リッド全体を透光性ガラスで構成しており、リッドとパッケージ本体とが異種材料となることを考慮してそれらの接合に接着剤が適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-145610号公報
【文献】特開2007-242642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した光学素子のパッケージに関し、特許文献1のガラス窓付きのリッドを使用するパッケージは、金属枠という光が透過しない部分があるため、素子からの光利用効率において劣る面がある。また、特許文献1のリッドは、ガラス窓と金属枠という個別の異種材料からなる部材を使用するため、部品点数が多くなり構造も複雑化する。そのため、製造効率やコスト面で不利となり、パッケージの小型化にも対応し難くなる。
【0007】
特許文献1のパッケージにおける上記の問題点を考慮すると、特許文献2のようなリッド全体をガラス等の透光性材料で構成することは、光学素子の効率的利用の観点から好適である。しかし、特許文献2のパッケージにおいては、リッドの接合・封止に接着剤が使用されている。接着剤のような樹脂材料・有機材料は、経年劣化、特に紫外線による劣化が懸念され、パッケージの長期信頼性が損なわれるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、光学素子を収容するパッケージを封止するための蓋材となるリッドであって、これまで実用化されていないものを提供する。具体的には、ガラス窓と金属枠とを複合化する部材と異なり、光学素子の利用効率を確保できるものとする。また、パッケージ本体との接合に際して効果的な気密封止が可能であり、劣化なく長期間安定した接合部を形成できる封止用リッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光学素子の発光・受光による光の利用効率を重視したとき、金属枠のような透光性の無い部位はリッドには不要である。そして、リッド全体を透光性材料で構成することが好ましいといえる。一方、リッド全体をガラスのような透光性材料で構成した場合、セラミックスで構成されることが多いパッケージ本体との接合性を考慮する必要がある。ここで要求される接合性とは、リッドとパッケージ本体とを強固に接合できることを含むことは当然である。本発明のリッドには、これに加えて、リッドを構成する透光性材料へ過大な影響を与えることなく接合できることが求められる。何故ならば、ガラス等の透光性材料は、靭性に乏しい脆性材料が多く、熱応力等により破損するおそれがあるからである。
【0010】
本発明者等は、鋭意検討を行い、リッド本体をガラス等の透光性材料で構成すると共に、パッケージ本体との封止接合のための接合材料として共晶合金からなるろう材を適用し、このろう材を適切に配置して融着することとした。このようにして構成される封止用リッドは、上記課題を解決することができるとして本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明は、光学素子を収容するパッケージ本体に接合され、気密封止されたパッケージを製造するための封止用リッドにおいて、可視光、紫外光、赤外光の少なくともいずれかを透過可能な透光性材料からなるリッド本体を備え、前記リッド本体は、前記パッケージ本体と接合する面に、リッド本体の外周形状に対応した枠状の接合領域を含み、前記リッド本体の前記接合領域上に複数片の共晶合金からなるろう材が融着されてなることを特徴とする封止用リッドである。
【0012】
本発明において、リッド本体を透光性材料として単一の素材で構成するのは、パッケージ内の光学素子の光の利用効率を最大限に高めるためである。一方、パッケージに接合するための接合材料として、共晶合金のろう材を適用するのは、共晶合金はその合金組成を共晶組成近傍に設定することで比較的融点を低下させることができるからである。
【0013】
また、共晶合金からなるろう材は、リッド本体に固定(融着)する際の方法・条件を適切に設定することで、融着後の材料組織や形状を制御することができる。この材料組織と形状の制御は、本発明において重要な要素であり後に詳述することとする。
【0014】
以下、本発明に係る封止用のリッドについて詳細に説明する。上記の通り、本発明のリッドは、透光性材料からなるリッド本体と、封止の際の接合材料となるろう材とで構成される。
【0015】
A.リッド本体
A-1.リッド本体の構成材料・形状等
上記のとおり、本発明は、リッド全面を透光性材料とすることによって光学素子の発光・受光の機能を最大限に利用できるようにしている。この透光性材料とは、可視光、紫外光、赤外光の少なくともいずれかを透過できる材料である。透過可能な光の波長については特に限定されることはない。また、光の透過の程度(透過率)についても特に限定されない。この透光性材料の具体的な範囲として、ガラス、水晶、サファイア、シリコン、ゲルマニウムのいずれかが好ましい。また、ガラスに関しては、一般にガラスと称され透光性を有する材料を示すが、石英ガラス(合成ガラスを含む)、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
【0016】
リッド本体の形状、寸法については特に限定はない。リッドの形状や寸法は、光学素子を適用するパッケージの用途・仕様によって決定される。リッドの形状としては、平面形状として、矩形(正方形、長方形)又は円形の板状のものが挙げられる。また、リッド本体の断面形状についても特に限定されることない。両面が平坦な板状としても良いが、両面又は一方の面に凹凸を付与しても良い。凹凸を付与されたドーム型やレンズ型のリッド本体は、内部容積を高める目的や集光又は光の発散を目的として利用されることがある。
【0017】
A-2.接合領域
リッド本体は、パッケージ本体との接合面に、リッド本体の外周形状に対応した枠状の接合領域を含む。接合領域とは、気密封止の際に、その一部又は全部がろう材を介してパッケージ本体に接触し接合される部位である。接合領域は、リッド本体の外周形状に対応する枠状の領域である。
図1(a)(b)のようにリッド本体の外周形状が矩形であれば矩形の枠となり、
図1(c)のように外周形状が円形であれば円形の枠(リング)となる。但し、接合領域の形状は、リッド本体の外周形状と完全一致する必要はない。
図1(b)のように、接合領域の四隅について面取りされた形状としても良い。更に、外周形状に対応する枠状の領域とは、外枠又は内枠の少なくともいずれかがリッド本体の外周形状に沿っていれば良い。
図1(d)のように、外枠がリッド本体の外周形状に沿った矩形である一方、内枠を円形とした接合領域とすることができる。接合領域の幅は、特に限定されることはない。接合領域の幅は、接合するパッケージ本体の寸法、例えば、容器状のパッケージ本体の開口部端面の幅等を考慮して任意に設定される。一般的には、リッド本体の長辺、直径の寸法に対して、1/20以上1/8以下の幅で設定される。接合領域の幅は、前記の範囲内であれば一様であることを要しない。
【0018】
B.共晶合金からなるろう材
B-1.ろう材の構成元素及び組成
共晶合金とは、2種以上の元素からなる合金であって、共晶反応を発現することができる合金である。共晶反応とは、溶融状態(液相)から、合金の構成元素に由来した固体成分(固相)を同時に晶出させる反応である。上記したように、共晶合金は、共晶組成(共晶点)において比較的低い融点を示すことから、ろう材をリッド本体に融着する段階とリッドをパッケージ本体に接合する段階の双方において、リッド本体に与える熱影響・熱応力を比較的低減することができる。
【0019】
本発明で共晶合金からなるろう材として適用されるろう材として、Au系共晶ろう材が挙げられる。好ましいAu系共晶ろう材としては、Auを50%以上含む共晶合金からなるろう材である。このようなAu系共晶ろう材の例としては、Au-Snろう材、Au-Geろう材、Au-Ga-Inろう材、Au-Sbろう材、Au-Siろう材、Au-Gaろう材、Au-Inろう材が挙げられる。これらのろう材は、比較的融点が低いことに加えて、接合強度や化学的安定性に優れ、パッケージの気密性を長期間保持することができる。そして、これらのろう材は、接着剤と異なり紫外線による劣化もなく耐久性に優れる。これらの中で特に好ましいろう材は、Au-Snろう材である。
【0020】
また、ろう材となる共晶合金の好ましい組成としては、共晶組成となる組成(質量%)に対して各構成元素の全ての濃度が±2%の範囲内にあるものが好ましい。ろう材の融点を抑制することと、微細な共晶組織を発現させて粗大な固相の析出を抑制するためである。具体的には、上述した特に好ましいろう材である、Au-Snろう材、Au-Geろう材、Au-Ga-Inろう材に関しては、Au-Snろう材では、Sn濃度が19質量%以上23質量%以下(残部Au)とし、Au-Geろう材では、Ge濃度が10質量%以上14質量%以下(残部Au)とし、Au-Ga-Inろう材ではGa濃度が8質量%以上12質量%以下とし、In濃度が6質量%以上10質量%以下としたもの(残部Au)を適用することが好ましい。
【0021】
B-2.ろう材の固定の態様
本発明では、リッド本体の接合領域の範囲内に共晶合金からなるろう材が融着によって固定される。接合領域上に融着されたろう材は、パッケージの封止の際に再度溶融し、パッケージ本体の開口縁端部との接触により接合領域内で濡れ広がるようになっている。そして、パッケージ本体の開口縁端面とリッド本体とを接合し、パッケージ内部を気密封止する。融着とは、溶融させたろう材をリッド本体に接触させた後に凝固し、ろう材とリッド本体とを面接触した状態で接合し固定する態様である。リッド本体にろう材を融着するとき、固体のろう材をリッド本体に載置し、加熱して溶融させても良いが、溶融状態のろう材をリッド本体に供給しても良い。ろう材の融着についての好ましい工程については、後述する。
【0022】
本発明では、共晶合金からなるろう材を、接合領域上に複数片融着する。ろう材とリッド本体との界面における残留応力を分断し、ろう材融着時及びパッケージ封止時におけるリッド本体の割れを防止するためである。ろう材とガラス等の光透過材料との間には熱膨張・熱収縮の挙動に差異があるので、ろう材を融着するときに接合界面に残留応力が発生する。残留応力は、ろう材の接合面積が大きくなることで増大する。残留応力が過大となると、ろう材融着段階でリッド本体に割れ等の破損が生じるおそれがある。例えば、融着するろう材について、リッド本体の接合領域と略等しい枠形状の1片のろう材を適用すると、接合面積が大きいため、ろう材の凝固時にリッド本体に割れが生じ易いことが確認されている(後述の実施形態参照)。
【0023】
そこで、本発明は、融着するろう材を複数片とすることで、残留応力を分断及び低減する。残留応力の低減は、上記した共晶合金からなるろう材の適用による熱応力の低減と協同して融着時のリッド本体の破損を抑制することとしている。
【0024】
本発明において、複数片のろう材を配置する態様としては、接合領域上に小塊状のろう材を連続的に融着し、外観上(概観上)で枠形状とすることが好ましい。より具体的な態様としては
図2のように、球状、点状のろう材を接合領域の形状に沿って整列配置する配置がある。この例では、
図2上段に、一列のろう材が枠状に整列配置したものが記載されているが、
図2下段の図のように、複数の列で枠状にろう材を整列配置していても良い。また、連続配置とは、ろう材を相互に接触させて融着する場合に限定されない。連続配置とは、ろう材を離隔させつつ枠状に融着する場合を含む、後述のとおりこのような形式の方が好ましい。本発明において、このように複数片のろう材を融着するとき、ろう材の個数及び個々のろう材の寸法(体積)は特に限定されない。封止時の濡れ広がりによってリッド本体の接合領域を全周にわたって覆うことができる量のろう材が分散して融着されていれば良い。ろう材に関しては、その寸法や個数よりも、その断面組織や形状の方がリッド本体の破損や封止時の品質に影響を及ぼす。
【0025】
B-3.ろう材の材料組織
上記したとおり、本発明で共晶合金のろう材が適用されるのは、共晶合金は微細な共晶組織を発現させることができるからである。ろう材の材料組織を微細共晶組織にして粗大な固相を排除することで、安定した封止が可能となる。
【0026】
この点について詳細に説明する。粗大な固相は、封止の際にろう材を再溶融し凝固させたとき、透光性材料からなるリッド本体の破損の要因となりうる。粗大な固相は融点が高い場合があり、封止の際のろう付時に溶け残る可能性がある。その場合、封止後に形成される接合部の厚さが不均一となって、気密性に影響を及ぼす可能性がある。また、粗大な固相の存在により、ろう材の融点が局部的に上昇し、当該部位において過度に熱応力が発生するおそれや接合界面における応力分布の不均一性が発生するおそれがある。靭性の低いガラス等の透光性材料にとって、熱応力による影響は大きいため、封止の際にクラックや割れが発生するおそれがある。そのため、本発明では、リッド本体に融着されたろう材の材料組織として、微細組織であることが好ましいとする。
【0027】
具体的には、接合領域に融着された複数のろう材のうち、少なくとも1つのろう材の任意断面の材料組織が、共晶組織と任意的に含まれる円相当径5μm以下の単一相とからなる材料組織であることが好ましい。本発明において、共晶組織とは、一般的な共晶組織と同義であり、微細な複数の固相が周期的・複合的に入り組んだ材料組織の一形態である。本発明のろう材の材料組織においては、周期的で微細な構造を有する共晶組織が必須的に発現するが、かかる共晶組織とは別に生成・成長する単一相が発現する可能性を含んでいる。単一相とは、共晶組織を構成する固相と対比したとき、粗大化及び/又は異形化した固相である。単一相は、共晶組織を構成する固相と外観上で区別されるものである。単一相は、組成においては共晶組織を構成する固相と相違するとは限らず、同一又は近似することもある。
【0028】
本発明者等の検討では、ろう材中に円相当径で5μmを超える粗大な単一相が存在する場合、封止の際に溶け残りが発生し、リッド本体の損傷や気密性低下に繋がるおそれがある。また、単一相の存在は、任意的なものである。本発明で特に好ましいろう材の材料組織は、実質的に単一相を含まない共晶組織のみで構成されている材料組織である。尚、単一相が複数観察される場合、それらの円相当径の平均が5μmであることを要する。また、リッド本体に融着された全てのろう材において、単一相の円相当径が5μmであることが好ましい。
【0029】
本発明のリッド本体に融着されたろう材の材料組織の具体例として、共晶組成近傍のAu-Snろう材を例に説明する。共晶組成近傍のAu-Snろう材においては、δ相(Au-37.6質量%Sn)とζ´相(Au-10.8質量%Sn)の2種の固相が析出する。共晶組織は、微細なδ相と微細なζ´相とで構成され、それらが周期的に入り組んだ材料組織を示す。一方、この組成のAu-Snろう材で発生する単一相は、δ相又はζ´相であり、組成は共晶組織を構成する各固相と同じである。δ相とζ´相が単一相として別々に析出することもある。この単一相は、形状及びサイズにおいて共晶組織を構成するδ相及びζ´相と相違する。単一相は、塊状、島状等の共晶組織とは異なる外観を示し、そのサイズも粗大となっている。ろう材の融着の条件によって単一相は粗大化し、円相当径5μmを超える場合もある。以上のように、共晶組成近傍のAu-Snろう材においては、析出する固相はδ相とζ´相なので、δ相及びζ´相とからなる共晶組織と、任意的に円相当径5μm以下のδ相又はζ´相を含む材料組織が好ましい。
【0030】
リッド本体上の接合領域に複数のろう材が融着されている本発明では、不作為に選択したろう材の任意断面で上記した材料組織を示すことが好ましい。好ましくは、全てのろう材の任意の複数の断面で上記材料組織を示すことが好ましい。
【0031】
B-4.ろう材の形状(形状指数)
上述のとおり、リッド本体の接合領域に融着されるろう材の寸法・形状は、特に限定されない。但し、本発明者等の検討によれば、ろう材をリッド本体に融着する段階及び封止のためにろう材を再溶融・凝固する段階において、リッド本体にクラックや割れ等の損傷をより高いレベルで抑制する条件として、ろう材に好適な形状があることが確認されている。
【0032】
具体的には、リッド本体に融着されたろう材が、下記式で定義される形状指数(I
s)が0.9以上2.5以下の範囲となっていることが好ましい。
【数1】
【0033】
上記の形状指数(Is)は、ろう材の体積(V)とリッド本体とろう材との接合面積(A)との関係において、ある程度の体積のろう材を適切な接合面積(接触面積)をもって融着させることが要求されることを示唆している。つまり、ろう材の体積との関係で接合面積が過剰である場合、溶融状態のろう材が凝固する際の熱応力が比較的大きくなる。靭性の低い透光性材料にとって、熱応力により受ける影響は大きく、加えて、ろう材やパッケージ本体を構成する金属やセラミックスとの膨張・収縮係数の差異もあることから、この場合には割れ等の損傷が生じやすくなる。
【0034】
このように、形状指数(Is)によるろう材のパラメータ化は、ろう材の融着時とリッド本体とパッケージ本体との接合時におけるリッドの割れ防止のためのものである。そして、本発明者等によれば、Isが2.5を超える場合、リッドにクラック等の損傷が生じ得る。一方、Isが0.9未満となるとき、このような場合はろう材の接合面積が少なすぎることを示す。この場合、リッド本体の損傷は生じ難いが、リッド本体に対するろう材の密着力に乏しくなる。そのため、取扱い時のろう材の脱落のおそれがある他、パッケージ本体との接合時のろう材の位置ズレ、接合不良が生じる可能性もある。本発明は、以上の理由により、形状指数(Is)の好適範囲を0.9以上2.5以下と設定する。この形状指数(Is)は、リッド本体上のろう材の少なくとも1つのろう材が上記範囲であることが好ましいが、リッド上のろう材の形状指数(Is)の平均値が上記範囲であることがより好ましく、全てのろう材が具備することが更に好ましい。
【0035】
ろう材の形状は、垂直方向における投影形状が略円形となるものが好ましい。ろう材の好ましい形状の具体的態様としては、球形状、半球形状の他、2つ以上の球が重なった形状等が挙げられる。
図3は、ろう材の形状・寸法と形状指数(I
s)との関係の一例を説明する図である。この例示は、同一体積の複数のろう材の中心部部分での断面図を示し、リッド本体との接合面積の変化と形状指数(I
s)との関連を説明している。更に、
図4は、融着後のろう材の形状の一例である。
図3及び
図4で例示されているように、ろう材の形状は、球形状、半球形状の他、2つの球が重なった形状が適用できる。
【0036】
本発明でリッド本体に融着されるろう材について、以上説明した材料組織に関する好適条件(共晶組織と微細な単一相)と形状・寸法に関する好適条件(形状指数(Is))は、いずれか一方を具備しても良いが、双方を具備しても良い。融着方法・条件を調整することで、材料組織と形状指数の双方の条件を具備させることができる。
【0037】
C.本発明に係る封止用のリッドのその他の構成
本発明に係る封止用のリッドは、ガラス等の透光性材料からなるリッド本体と、リッド本体に融着された共晶合金からなるろう材とからなることを必須の構成とするが、付加的な構成としてリッド本体の一方又は双方の表面に形成されるメタライズ膜、機能膜等が挙げられる。
【0038】
C-1.メタライズ膜
本発明ではリッド本体のろう材が融着される面の表面の少なくとも一部に、金属からなる少なくとも1層のメタライズ膜を備え、このメタライズ膜の上にろう材が融着されたものが好ましい。メタライズ膜は、主に、リッド本体に対するろう材の密着性向上を意図して適用される。ろう材は金属(共晶合金)であり、ガラス等の透光性材料と異種材料であるので、組成によってはリッド本体との密着性に乏しく固定できない場合がある。そこで、金属からなるメタライズ膜を適用することで、ろう材の密着性を確保してリッド本体からの脱落等を防止することができる。メタライズ膜は、単層構造又は多層構造をとることができる。メタライズ膜の具体的な構成は、その機能に応じて数種の金属層が想定されている。
【0039】
C-1-1.ろう材融着面に形成される第1の金属層
メタライズ膜の機能としては、ろう材のリッド本体に対する密着性改善が挙げられる。そのためのメタライズ膜として、ろう材が融着される面に、Au又はPtの少なくともいずれかからなる第1の金属層を形成するのが好ましい。Au又はPtは、上述した各種具体例のろう材に対する密着性が良好だからである。この第1の金属膜も単層又は多層とすることができ、Au又はPtのいずれかのみで構成しても良く、双方を積層(Au/Pt、Pt/Au)させても良い。この第1の金属膜は、薄すぎると下地が露出して密着性が低下することがある。一方、厚すぎると接合時にろう材と反応することで、接合不良や接合強度低下を起こすことがある。そこで、第1の金属膜の膜厚は、0.01μm以上1μm以下とすることが好ましい。
【0040】
C-1-2.リッド本体表面に形成される第2の金属層
上述したAu、Ptで構成されるろう材融着面に形成される第1の金属膜は、リッド本体を構成する透光性材料に対して密着性に乏しい場合がある。そこで、ろう材が融着される第1の金属膜とリッド本体との密着性を向上させるメタライズ膜として、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ta、W、Re、Os、Irの少なくともいずれかよりなる第2の金属膜を形成することが好ましい。これらの金属は、透光性材料及びAu、Ptの双方に対する密着性が良好なので、ろう材をリッド本体に好適に固定することができる。特に、Cr、Tiは活性の高い金属であるため、リッド本体表面との密着性が高いメタライズ膜を形成できる。また、Niは保護性能に優れ、下地の酸化・変質を抑制するメタライズ膜を形成できる。よって、好ましくは、Cr、Ti、Niの少なくともいずれかからなる第2の金属層を有するメタライズ膜を形成することが好ましい。
【0041】
第2の金属層の具体的且つ好適な構成としては、活性が高いCr又はTiのいずれかよりなる金属層を密着層として形成し、その上に、Niからなる金属層を保護層として形成する(Cr/Ni、Ti/Ni)。Cr又はTiは密着性が高いが、高活性故に外気による酸化や変質が懸念される。密着層の上にNiによる保護層を形成することで、下地となる密着層の酸化等を防止する。第2の金属層は、このような密着層と保護層とで構成された金属層が特に好ましい。この構成の第2の金属層では、密着層の膜厚を0.04μm以上0.1μm以下とすることが好ましく、保護層の膜厚を、0.1μm以上2μm以下とすることが好ましい。
【0042】
以上説明したメタライズ膜に関しては、ろう材融着面となる第1の金属層(Au、Pt)と、リッド本体表面側の第2の金属層(Cr、Ti、Ni)の双方が形成されたものが好ましい。但し、第2の金属層における保護層の構成金属として、Ptも有効である。そこで、Cr又はTiからなる密着層を形成し、Ptからなる保護層を形成したメタライズ膜(Cr/Pt、Ti/Pt)も適用できる。この場合、保護層であるPtは、第1の金属層としても作用できるので、このPtからなる保護層の表面にろう材を融着しても良い。また、更にAuの金属を形成しても良い。
【0043】
以上説明したメタライズ膜となる第1、第2の金属膜は、スパッタリング法、めっき法、蒸着法等の公知の薄膜形成技術を単独又は組み合わせて形成することができる。また、メタライズ膜は、リッド本体に対して広範囲に形成しても良いが、光の透過量を増やすために必要な部位に限定しても良い。例えば、メタライズ膜をリッド本体の外形に対応させた枠状にして、これをリッド本体の接合領域としても良い。
【0044】
C-1-3.メタライズ膜による拡散領域
本発明に係る封止用のリッドにおいてメタライズ膜を採用するとき、ろう材はメタライズ膜に接触した状態でリッド本体に融着されることとなる。このとき、ろう材とメタライズ膜との界面において、メタライズ膜を構成する金属元素がろう材中に拡散する可能性がある。本発明においては、このろう材中へ拡散する金属元素量を最低限にすることが好ましい。具体的には、拡散によってろう材内に形成され得る拡散領域の幅が2μm以下であることが好ましい。ろう材内部に金属元素の過度の拡散が生じた場合、界面付近におけるろう材の組成変動や化合物生成が生じている可能性がある。ろう材の組成変動や化合物生成は、融点の変化や、接合強度の低下や、リークの原因となる可能性がある。従って、過度の拡散がない状態が好ましい。この拡散領域の幅とは、融着界面付近のろう材内部について、メタライズ膜の構成金属であってろう材の構成金属ではない金属(Pt、Ni等が対象となることが多い)の有無を適宜の分析手段により測定することができる。拡散領域の幅は、1μm以下がより好ましい。拡散領域の幅の下限は、低いほど好ましいが好ましくは0.001μmとする。
【0045】
C-2.透過率等調整のための機能膜
上記のメタライズ膜のほか、本発明のリッド本体には表面と裏面の一方又は双方について、特定波長の透過率又は反射率を上昇させる目的で、機能膜を形成することができる。この機能膜の具体的な材質としては、MgF2が挙げられる。例えば波長250nm~400nmの紫外線の透過率を上昇させたい場合には,膜厚は60~100nmとすることが望ましい。
【0046】
D.本発明に係る封止用のリッドの製造方法
次に本発明に係る封止用のリッドの製造方法について説明する。本発明のリッドは、透光性材料のリッド本体に1片又は複数片の共晶合金からなるろう材を融着することで製造できる。
【0047】
そして、本発明においては、共晶合金の利点を活かしつつ、好適な接合性を有する封止用リッドとするため、融着後のろう材の材料組織や形状・寸法を好適することが意図されている。以下、ろう材の材料組織や形状・寸法を好適にしつつ、リッド本体にろう材を融着する方法を中心に説明する。
【0048】
ろう材を融着するリッド本体としては、透光性材料を予め所望の形状、寸法に成型して用意する。また、リッドは微小な部材であることから、複数のリッドを形成することができる大判の板材を対象としても良い。この場合、ろう材融着後、個別的にリッドを切り出して製品とすることができる。また、メタライズ膜を形成する場合には、予め、ろう材融着前にメタライズ膜となる金属膜を形成しておく。
【0049】
ろう材の融着は、リッド本体の上で固体状のろう材を溶融・凝固させることで可能である。但し、ろう材の形状(形状指数(Is))を考慮し、形状が良好なろう材を融着することが好ましい。固体状のろう材について、形状指数を好適にする融着方法としては、予め製造した所定サイズの小塊状、粒状のろう材を、リッド本体上に複数載置して加熱する方法がある。粒状ろう材の載置の際には、治具等により個々のろう材を位置決め固定し、この状態でろう材を加熱することで、球状、半球上のろう材を融着することができる。このときのろう材のサイズは、直径0.05mm以上0.25mm以下とするのが好ましい。
【0050】
但し、より好ましいろう材の融着方法は、溶融状態のろう材をリッド本体に付着させて、凝固させる方法である。本発明では、ろう材の材料組織として、微細な共晶組織を主体とし粗大な単一相の無い材料組織が好ましいとする。微細な共晶組織の形成のためには、ろう材組成の調整に加えて、ろう材を溶融状態から急冷することが好ましい。このろう材の急冷のためには、溶融したろう材をリッド本体に付着し、雰囲気及びリッド本体による冷却を利用することが好ましい。
【0051】
溶融状態のろう材をリッド本体に付着させることは、ろう材の寸法・形状を調整する上でも好適である。溶融状態であれば、その液量を調整することで融着させるろう材の体積を好適に調整できる。また、溶融したろう材を付着させるときの運動エネルギーによって、リッド本体に衝突するときの形状や接合面積を変化することができる。これにより、ろう材の形状指数(Is)の調整ができる。
【0052】
溶融状態のろう材をリッド本体に供給して融着する方法としては、予め溶融したろう材を液滴状にして付勢手段によりリッド本体に付着させる方法がある。この方法では、液滴状の溶融ろう材が、リッド本体に付着すると同時に急冷され、瞬時に融着が完了する。そして、この方法によれば、リッド本体に供給する液滴状の溶融ろう材の体積や速度を制御することで、融着時のろう材の形状指数や接合面積を調整することができる。
【0053】
また、この方法においては、リッド本体を常温のままにしていても、ろう材を融着することができる。液滴化したろう材の体積はリッド本体の体積に対して極めて小さいので、ろう材はリッド本体と接触したときに瞬時に冷却され凝固するからである。融着時にリッド本体を冷却しても良いが、過度に低温にしてろう材を融着すると、ろう材との温度差による熱衝撃によってリッド本体が損傷するおそれがある。尚、液滴化したろう材を融着するときのリッド本体の温度はろう材融点よりも100℃以下の温度にすることが好ましい。融着されたろう材の材料組織(共晶組織)の微細化に必要な冷却速度を得るためである。
【0054】
本発明のリッドの製造に際し、リッド本体にろう材を融着する方法は上記の方法に限定されない。例えば、ガスを吐出可能なキャピラリー先端にろう材球を取り付け、ろう材をレーザーで溶かしてガスでリッド本体に吹き付けることで、ろう材を融着することができる。また、棒状・ワイヤ状のろう材を先端からレーザーで溶かし、同時にガスでリッド本体に吹き付けることも、ろう材を融着することができる。これらの方法でも、溶融状態のろう材をリッド本体に融着することができるので良好な形状・寸法のろう材を融着できる。また、これらの方法でも、リッド本体が常温でもろう材を融着することができる。
【0055】
以上のように溶融状態のろう材をリッド本体に付着させることで、ろう材が急冷凝固し融着がなされる。この手法では、通常、リッド本体の接合領域に複数のろう材を融着させるので、溶融したろう材の吐出・供給を連続して融着する。これにより本発明に係る封止用リッドとすることができる。
【発明の効果】
【0056】
以上説明したように、本発明に係る封止用リッドは、光学素子を利用するパッケージのリッドとして有用なものである。本発明は、リッド全面をガラス等の透光性材料で構成することにより、パッケージ内の光学素子の光利用効率を良好にする。そして、気密封止のための接合材料として共晶合金のろう材を適用する。このろう材は、強固な気密封止に有効であり、耐久性に優れ紫外線等による劣化もない。そして、ろう材の材料組織及び/又は形状・寸法を適切に制御することで、リッド本体にダメージを与えることなく融着され封止作業時も有用に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本発明に係るリッド本体に含まれる接合領域の例を示す図。
【
図2】本発明に係るリッド本体に融着された複数片のろう材の配列を例示する図。
【
図3】リッド本体に融着されたろう材の形状・寸法と形状指数(I
s)との関係を例示する図。
【
図4】リッド本体に融着されたろう材の形状(半球形状、2段形状)を例示する図。
【
図5】ろう材を融着させるためのろう材吐出装置(プロセスa)の構成を説明する図。
【
図6】ろう材吐出装置(プロセスa)によるろう材の融着位置を説明する図。
【
図7】ろう材吐出装置(プロセスa)によって融着されたろう材の外観を示す図。
【
図8】プロセスbによってボール状ろう材を融着した後のろう材の外観を示す図。
【
図9】プロセスaによって融着されたろう材(No.A4)の材料組織を示す図。
【
図10】プロセスbによって融着されたろう材の材料組織を示す図。
【
図11】プロセスcによって融着されたプリフォームろう材(No.C2)の材料組織を示す図。織を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、透光性材料である石英ガラスでリッド本体を製作し、このリッド本体に共晶合金のろう材であるAu-Snろう材を各種の方法で融着して封止用のリッドを製造した。そして、製造したリッドについてパッケージ本体との接合試験を行って、リッド本体の損傷の有無を評価し、更に、封止試験を行って気密性の確認を行った。
【0059】
本実施形態で使用したリッド本体は、石英ガラス又はホウケイ酸ガラスからなる平板(3.4mm×3.4mm 厚さ0.3mm)である。本実施形態では、このガラス製のリッド本体表面の枠状領域(外寸:3.2mm×3.2mm、内寸:2.5mm×2.5mm)にメタライズ膜を形成した。
メタライズ膜は、リッド本体表面からCr(60nm)/Ni(200nm)/Au(100nm)の順序で各金属の薄膜を形成した。また、一部の実施例では、Ti(60nm)/Pt(200nm)/Au(100nm)の順序で形成したメタライズ膜も適用した。
【0060】
上記のようにして用意したガラス製のリッド本体にろう材を融着した。ろう材は、Au-22質量%Snろう材を適用した。本実施形態では、下記のプロセスa~cの3種の異なる態様でろう材をリッド本体に融着し、リッドを製造した。
【0061】
・プロセスa:このプロセスでは、予め溶融させたろう材を収容するろう材吐出装置を用いてろう材を融着してリッドを製造した。
図5は、このろう材吐出装置101の詳細な構造を示す。吐出装置101は、ろう材201を収容し、溶融状態が維持されるように温度制御されたタンク110、タンク110と連通するチャンバ111、チャンバ111内のろう材201を吐出するためのダイアフラム112及びアパーチャー113、ダイアフラム112を駆動する圧電素子アクチュエーター114を備える。
【0062】
この吐出装置101によるろう材の融着では、圧電素子アクチュエーター114をPCで制御・駆動することで、チャンバ111内のろう材201を一定量ノズルから吐出する。アパーチャー113の大きさと圧電素子アクチュエーター114の駆動量と変化速度の制御により、吐出されるろう材202の体積と飛行速度が調整できる。そして、XYZ方向に可動するステージにリッド本体をセットし、ステージを駆動することでリッド本体の上に連続的に枠状にろう材を融着することができる。
【0063】
本実施形態では、
図6に示すように、枠形状のメタライズ膜の中心位置に沿って連続的に列状にろう材を融着して枠状にした。本実施形態ではこのプロセスaにおいて、吐出する溶融金属液滴の大きさを球径換算でφ0.1mm又はφ0.125mmと設定すると共に、ろう材の飛行速度が、1.6m/秒以上に設定した。また、パッケージ本体に接合したときのろう材層の厚みが10~25μmとなるように、融着するろう材の個数を計算して、リッド本体に略均等間隔で配置した。尚、リッド本体をセットしたステージの温度は常温とした。
図7は、このプロセスaでろう材を融着して製造したリッドの外観の例である。
【0064】
・プロセスb:このプロセスでは、予め製造した小塊状(ボール状)の固体のろう材をリッド本体に融着した。本実施形態では、直径φ0.1mmのボール状ろう材を用意し、このろう材をリッド本体の枠状メタライズ膜に略等間隔で載置した。このとき、直径φ0.15mmの孔が枠状に穿孔されたカーボン製の治具をリッド本体に重ねて、治具の孔にボール状ろう材を順次挿入した。そして、リッド本体から治具がずれないように重ねた状態で、非酸化雰囲気の電気炉中で320℃で1分以上加熱してろう材を融着した。このプロセスbでは、プロセスaと同様にろう材が配置されたリッドを作製した。
図8は、プロセスbでろう材を融着して製造したリッドの外観の例である。
【0065】
・プロセスc:このプロセスでは、予め枠状に加工された1片のろう材をリッド本体に融着してリッドを製造した。このプロセスは、上記プロセスa、bに対する比較例となる。まず、Au-22質量%Snろう材を、矩形の枠形状(外寸:3.15mm×3.15mm 内寸:2.5mm×2.5mm、厚さ:15μm、25μm)に打ち抜き加工した。そして、このプリフォームされたろう材をリッド本体に載置し、非酸化雰囲気中305℃でリフローして融着した
【0066】
以上のプロセスa~cの方法に基づき、ガラス製リッド本体に各種形状・寸法のろう材を融着して封止用のリッドを製造した。封止用リッドは、それぞれ10個製造した。この融着工程後の封止用リッドについて、リッド本体の割れ・クラック等の損傷の有無を目視及び光学顕微鏡で確認し、10個中の良品個数を測定してその割合(良品率)で評価した。
【0067】
また、ろう材の任意断面の材料組織を観察した。組織観察は、プロセスa、bで製造したリッドに関しては、不作為にろう材を選定し、選定したろう材近傍でリッド本体を切断し樹脂埋め込みして、適宜に研磨をしてろう材の断面を露出させ観察を行った。また、プロセスcで製造したリッドに関しては、リッドを任意の箇所で切断し、樹脂埋め込みをし適宜に研磨してろう材断面の材料組織を観察した。
【0068】
材料組織観察においては、まず、ろう材全体の断面を観察して共晶組織及び単一相の有無を確認した後に、要部を拡大観察して単一相のサイズを測定した。本実施形態では、プロセスa~cで融着したろう材の全てにおいて共晶組織が観察された。そして、プロセスb、cでは、共晶組織を構成する固相よりも、明確に粗大となっている固相が観察された。単一相の円相当径は、SEM(加速電圧15kV)で取得した1500倍から2500倍の画像に基づき算出した。単一相が複数観察されたときは、それらの平均値を算出した。また、単一相と特定できる固相が明瞭に観察されない場合、即ち、実質的に共晶組織しか観察されなかったろう材に関しては、任意の部位の拡大画像を取得しランダムに5個の固相を抽出してそれらの円相当径を求め、全てが5μm以下であることを確認し、単一相の円相当径が5μm以下であると判定した。尚、円相当径とは、観察された単一相の面積と等しい面積の円の直径である。
【0069】
ろう材中へのメタライズ膜成分の拡散領域の幅の測定も行った。この測定は、断面観察に使用したサンプルをEPMA(電子線マイクロプローブ分析)により、ろう材とメタライズ膜との界面を観察しつつ元素分析を行った。EPMAの分析条件は、加速電圧20kV、測定倍率5000倍とした。この元素分析では、メタライズ膜内部からろう材内部に向かってライン分析した。そして、メタライズ膜内における金属成分(Ni、Pt)のカウント数を100%としつつ、ろう材側へ向かって減少する当該成分のカウント数を追跡し、当該成分のカウント数が10%以下となったポイントを拡散領域の端部とした。そして、界面から拡散領域端部までの距離を幅とした。
【0070】
更に、製造した各リッドについて、融着したろう材の形状指数(IS)を測定した。形状指数の測定にあたっては、プロセスa、bで製造したリッドのろう材については、製造後のリッドからろう材を剥離し、採取したろう材の質量及びろう材の密度と個数に基づいた体積の平均値をろう材1片分の体積(V)とした。また、ろう材の接合面積(A)は、ろう材を剥離した後のリッド本体を顕微鏡観察し、接合面の面積を測定し、平均値を求めた。一方、プロセスcで製造したリッドに関しては、融着前のろう材寸法から体積(V)を求めた。また、融着後のろう材の輪郭を測定し接合面積(A)を算出した。
【0071】
本実施形態で製造した各種の封止用リッドについて、その製造プロセスによるろう材の材料組織及び形状・寸法の観察・測定結果と、リッド本体の損傷の有無を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1から、プロセスaの吐出装置により球状のろう材を連続的に融着したリッドについては、リッド本体の損傷数は極僅かであった(No.A1~A9)。特に、No.A2~A8のリッドでは、融着後のろう材の形状指数が0.9~2.1となっており、製造した全てのリッドが良品であった(融着時良品率10/10)。一方、No.A1、A9のリッドは、融着後のろう材の形状指数が0.7、2.6であり、融着後のリッド本体の一部に損傷がみられた。
【0074】
図9は、プロセスaにより溶融ろう材を融着した後のろう材(No.A4)の断面組織の例である。この実施形態のリッド本体に融着されたろう材は、ほぼ全体が微細な共晶組織で構成されていた。このプロセスaにより融着したろう材は、粗大な単一相を含む可能性はかなり低いと予測される。このプロセスaにより融着したろう材について、上記した測定基準に基づき単一相を特定したところ、その円相当径は常に5μm以下であった。
【0075】
プロセスbによってろう材を融着したリッドに関しては、ろう材の形状はプロセスaのろう材に類似しているものの、材料組織において相違が見られる。
図10は、プロセスbで融着したろう材(No.B2)の材料組織である。共晶組織に加えて、共晶組織に属さない単一相が生成していることが確認された。本実施形態では、Au-Snろう材を適用したので、この単一相はδ相又はζ´相と推定される。そして、表1の単一相の粒子径の測定結果から、プロセスbで製造したリッドのろう材には、共晶組織に加えて単一相が生成する傾向にあることがわかる。プロセスbのろう材の融着方法においては、ろう材を治具に挿入した状態でリッド全体を加熱する必要があり、冷却時間が長くなり単一相の生成そ成長が生じたと考察される。
【0076】
もっとも、プロセスbは、ろう材の形状制御は可能な方法である。No.B1、B2、B3のリッドでは、ろう材の形状指数を1.5~2.5とすることができた。そして、リッド本体に損傷はないので、パッケージの封止には利用可能であると考えられる。このプロセスbは、ボール状のボリュームの小さいろう材を複数融着させることは可能であるので、融着時のリッド本体の損傷は低減できる。
【0077】
これらのプロセスa、bの実施例に対して、プロセスcの枠形状にプリフォームされたろう材(No.C1、C2)は、融着時にガラス製リッド本体に割れを生じさせやすい傾向にあることが分かる。これらのろう材は、形状指数(IS)が4.6~5.8と大きくなっていた。形状指数(IS)が大きくなったのは、枠形状のプリフォームろう材は、接合面積が過大であることが要因である。ろう材とガラスとの間には熱膨張・熱収縮の挙動に関して差異があるため、接合面積が大きくなると、ろう材が凝固したときの残留応力も大きくなる。これら枠形状のろう材のように接合面積が大きいろう材は、この残留応力によって割れが比較的発生し易いと考えられる。
【0078】
また、これらの枠状プリフォームろう材の材料組織に関してみると、共晶組織のみからなる好適な材料組織の発現は難しいと考えられる。
図11は、No.C2のプリフォームろう材(ろう材厚さ25μm)を融着した後のろう材の断面組織である。このろう材においては、共晶組織が占める領域が少なく、円相当径で粒径5μmを超える粗大な単一相を多数呈する材料組織が観察された。このプロセスでは、ろう材の融着の際、リフローによりろう材と共にリッド本体も加熱される。そのため、ろう材が融点以上の温度である時間が長くなって冷却速度が遅くなり、単一相が析出し易かったためと考えられる。この枠形状のプリフォームろう材は、融着段階でリッド本体を破損させたので、以降の封止試験に供することはできないが、仮に割れが軽微で封止試験ができるようであったとしても、粗大な単一相が気密性に影響を及ぼす可能性があると考えられる。
【0079】
次に、ろう材融着後にリッド本体に顕著に損傷が発生しなかった、プロセスa、bで製造したリッド本体について、パッケージ本体を用いた封止試験を行った。この封止試験では、セラミック製のパッケージ本体(開口部の寸法(内寸):2.4mm×2.4mm 開口縁端面の厚さ0.8mm)を用意し、ここに各種の封止用リッドを接合した。パッケージの製造方法は、リッドをパッケージ本体に重ねて位置合わせした後、0.4MPaの荷重条件下でパッケージを305℃に加熱してろう材を再溶融させた。このとき、設定温度の保持時間を30秒とし、時間経過後速やかに加熱ストップ、冷却した。パッケージの封止後、ガラス製リッドにクラックの発生がないかを実体顕微鏡(20倍)で判定した。この評価においては、上記で行ったろう材の融着段階におけるリッド本体の数(10個)を母数とした。即ち、ろう材融着時にリッド本体に損傷が生じたものについては、封止試験を行うことなく不良品とした。そして、ろう材融着時に良品となったものについて、封止試験を行い良品率を評価した。
【0080】
更に、封止後のリッドにクラックが見られなかったパッケージについて気密性の評価を行い、リッドの製造段階(ろう材融着の段階)からパッケージ製造段階(封止段階)まで間における良品発生率を評価した。気密性の評価は、パッケージを120℃に保温したフロリナート液に浸漬し、パッケージ内からの気泡の発生の有無を目視で確認し、気密性を評価した。この気密性評価も、ろう材の融着段階におけるリッド本体の数が母数である。以上の封止試験の結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
封止時の良品率の結果から、プロセスaがプロセスbより優れていることが確認された。この結果は、プロセスbのろう材中で生成した5μm超の粗大な単一相に基づくものであると考えられる。プロセスbのろう材では、粗大単一相が生成したことでろう材内部に部分的な組成変動が生じ、それによる融点の偏差が発生し、封止の際に完全に溶融・流動しない領域が形成されたことが原因であると推測する。
【0083】
また、気密性の良品率においては、プロセスaがプロセスbより明らかに優れていることがわかる。この結果も、プロセスbにおける粗大な単一相の生成によると考えられる。粗大単一相によって生じた高融点の領域が、リークパス生成の原因になったためであると考えられる。従って、リッドの製造段階(ろう材の融着)とパッケージ製造段階(封止のためのろう材の再溶融・凝固)の双方において最大限に有効なリッドを製造するためには、ろう材の組成・形状の最適化と共に、材料組織を好適なものとすることが好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明に係る封止用リッドは、ガラス等の透光性材料で構成したこと、及び、封止のための接合材料として共晶合金からなるろう材を適用したことにより、それぞれの利点を発揮する。本発明では、光学素子を有するパッケージについて、有効な光利用効率を付与し、高い耐久性も与える。本発明は、LED等の発光素子や受光素子の光学素子を利用する各種装置の封止材料として好適である。