(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】核酸塩基構造を有する上限臨界溶液温度型温度応答性高分子
(51)【国際特許分類】
C08F 220/56 20060101AFI20221128BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20221128BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C08F220/56
A61K8/81
A61K47/32
(21)【出願番号】P 2018158426
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】大塚 千恵
(72)【発明者】
【氏名】内山 聖一
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-044378(JP,A)
【文献】特表2017-536444(JP,A)
【文献】特表2015-517114(JP,A)
【文献】特開平08-134146(JP,A)
【文献】国際公開第92/007884(WO,A1)
【文献】Shin-ichi KONDO et al.,Chem. Pharm. Bull.,Mechanochemical Solid-State Polymerization(X): The Influence of Copolymer Structure in Copolymeric Prodrugs on the Nature of Drug Release,Vol.48,Pages 1882-1885
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
A61K 8/81
A61K47/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰返し単位及び下記式(II)で表される繰返し単位からなる共重合体。
【化1】
(式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を表し、R
2は、
下記式(III)で表される官能基を表し、Xは、酸素原子又はNR
3を表し、R
3は、水素原子、C1~C5アルキル基、C6~C10アリール基又はC7~C12アラルキル基を表す。)
【化2】
(式(II)中、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。)
【化3】
(式(III)中、Yは、単結合又は2価の連結基を表す。)
【請求項2】
式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位のモル比[(I):(II)]が、50:50~5:95の範囲である請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
共重合体が、ランダム共重合体である請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
共重合体が、フリーラジカル重合で合成された共重合体である請求項1~3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
共重合体が、RAFT重合で合成された共重合体である請求項1~3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項6】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.01~2.0の範囲である請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項7】
式(III)中のYの2価の連結基が、C1~C3アルキレン基である請求項
1~6のいずれかに記載の共重合体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の共重合体を含む皮膚外用剤又は化粧料用基剤。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれかに記載の共重合体を含むドラッグデリバリーシステム用キャリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な温度応答性高分子に関し、より詳細には、化粧料、皮膚外用剤等の基剤、ドラッグデリバリーシステムのキャリア等として有用な核酸塩基構造を有する上限臨界溶液温度型温度応答性高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料は、なめらかなのに密着する、化粧もちが良いのに落としやすいなど、しばしば真逆の性能を併せもつことが要求される。例えば、フィルムマスカラに用いられる高分子重合体について、水では落ちないがお湯では落ちる等、ある特定の刺激に応答して機能を発現することが求められている。
【0003】
上記刺激としては、温度のほか、pH、光等が知られているが、温度によって構造変化を起こす温度応答性重合体として、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が周知であり、ポリ(N-アクリロイルグリシンアミド)等についての報告(例えば、非特許文献1参照)等もある。かかる温度応答性重合体について化粧料への配合検討が行われてきた。
【0004】
一方、核酸塩基構造を有するモノマーである6-アクリロイルメチルウラシルのホモポリマーが、上限臨界溶液温度型の温度応答性高分子であることが知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
また、下記式で表される側鎖に核酸塩基を導入したポリマーゲルが、水中で低温収縮、高温膨潤を繰り返すことが知られている(特許文献1及び非特許文献3参照)。
【0006】
【0007】
他方、化粧料や皮膚外用剤を使用する際には、効果の持続時間や使用目的を考慮して、一定時間後に洗い流す必要がある場合が多いが、洗顔を行うために適した水の温度については、様々な意見がある。例えば、肌温度よりも少し高い40℃前後のお湯を用いる洗顔を行うと、毛穴が開いて化粧料等をよく落とすことができるため、汚れ落ちという点では優れているが、必要以上に皮脂や水分が肌から失われるおそれがあるとされている。それに対して冷水による洗顔は、毛穴をひきしめることができるが、毛穴に化粧料等が詰まった状態のままになるおそれもあるとされている。また、熱帯地域、寒冷地域、水中等特殊な環境においても化粧料や皮膚外用剤を維持又は容易に落とすことが必要な場合があり、化粧料や皮膚外用剤として使用される基剤となる材料は、幅広い温度範囲において対応できることも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Howard C. H., Norman W. S., Polymer Letters Vol. 2 (1964)
【文献】Aoki, T. et al., Polymer J., 1999, 31, 1185-1188
【文献】Aoki, T. et al., Proceed. Intern. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater., 1996, 23, 767-768
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
生体親和性が高く、温度応答性がある材料は、化粧料、医薬品等への応用が期待される。生体親和性を有する構造として核酸塩基構造に注目し、温度応答性として上限臨界溶液温度に注目して材料を探索したところ、非特許文献2に記載のウラシル構造を有するホモポリマーが見いだされたが、再現性よく文献記載の性能を有するポリマーが得られないという問題があることが判明した。
本発明の課題は、化粧料、皮膚外用剤の基剤、ドラッグデリバリーシステムのキャリア等として使用するために適した生体親和性が期待でき、かつ上限臨界溶液温度を有する高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、側鎖に核酸塩基構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体由来の繰返し単位と(メタ)アクリルアミド由来の繰返し単位からなる2元の共重合体とすることにより、再現性よく上限臨界溶液温度を有する高分子を提供でき、側鎖に核酸塩基構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体由来の繰返し単位と(メタ)アクリルアミド由来の繰返し単位の構成比を変えることで、上限臨界溶液温度を調整できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の事項により特定されるとおりのものである。
(1)下記式(I)で表される繰返し単位及び下記式(II)で表される繰返し単位からなる共重合体。
【化2】
(式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を表し、R
2は、核酸塩基構造を有する官能基を表し、Xは、酸素原子又はNR
3を表し、R
3は、水素原子、C1~C5アルキル基、C6~C10アリール基又はC7~C12アラルキル基を表す。)
【化3】
(式(II)中、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。)
(2)式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位のモル比[(I):(II)]が、50:50~5:95の範囲である(1)に記載の共重合体。
(3)共重合体が、ランダム共重合体である(1)又は(2)に記載の共重合体。
(4)共重合体が、フリーラジカル重合で合成された共重合体である(1)~(3)のいずれかに記載の共重合体。
(5)共重合体が、RAFT重合で合成された共重合体である(1)~(3)のいずれかに記載の共重合体。
(6)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.01~2.0の範囲である(1)又は(2)に記載の共重合体。
(7)式(I)中、R
2の核酸塩基構造が、ウラシルを含む構造である(1)~(6)のいずれかに記載の共重合体。
(8)式(I)中、R
2が、下記式(III)で表される官能基である(1)~(7)のいずれかに記載の共重合体。
【化4】
(式(III)中、Yは、単結合又は2価の連結基を表す。)
(9)式(III)中のYの2価の連結基が、C1~C3アルキレン基である(8)に記載の共重合体。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載の共重合体を含む皮膚外用剤又は化粧料用基剤。
(11)(1)~(9)のいずれかに記載の共重合体を含むドラッグデリバリーシステム用キャリア。
【発明の効果】
【0013】
本発明の共重合体は、上限臨界溶液温度を有することから、化粧料又は皮膚外用剤に用いた場合に、水や汗によっては落ちない(溶解しない)が、温水で容易に落とす(溶解させる)ことが可能となる。
また、本発明の共重合体が生理学的条件下で温度を制御することで可逆的に溶解及び不溶化し(相転移)、これに伴ってコアセルベートが消失したり形成したりするという特性を、薬物の放出及び保持の制御に応用することで、必要なときに必要なだけ薬物を投与しようというインテリジェント化製剤(インテリジェントDDS)に好適に用いることができる。
さらに、上限臨界溶液温度は、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位のモル比を変えることにより調整することができる。
【0014】
さらに、本発明の共重合体として、フリーラジカル重合に代えてリビングラジカル重合によって、中でもRAFT重合によって合成されたランダム共重合体を用いる場合、本発明の重合体を含む水溶液の温度応答の感度が高くなる、すなわち単位温度当たりの共重合体を含む水溶液の透過率変化が大きくなることから、化粧料等が特定の狭範囲の温度で容易に溶解することにより洗浄効果が顕著に高くなったり、薬物放出の制御が容易になったりする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】DMSO中でフリーラジカル重合によって合成された6-アクリロイルメチルウラシルから誘導される繰返し単位とアクリルアミドから誘導される繰返し単位のモル比が、14.8:85.2であるランダム共重合体、9.9:90.1であるランダム共重合体、4.8:95.2であるランダム共重合体の0.1w/v%水溶液の波長670nmにおける光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをそれぞれプロットしたグラフを示す。
【
図2】DMSO中フリーラジカル重合により合成された6-アクリロイルメチルウラシルから誘導される繰返し単位とアクリルアミドから誘導される繰返し単位のモル比が9.9:90.1であるランダム共重合体の0.1w/v%水溶液、0.5w/v%水溶液の波長670nmにおける光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをそれぞれプロットしたグラフを示す。
【
図3】6-アクリロイルメチルウラシルとアクリルアミドのモノマー比7.5:92.5で、DMSO中、可逆的付加開裂連鎖移動重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization:RAFT重合)及びフリーラジカル重合により合成されたランダム共重合体(6-アクリロイルメチルウラシルから誘導される繰返し単位とアクリルアミドから誘導される繰返し単位のモル比:8.0:92.0(RAFT重合で合成した共重合体)、7.1:92.9(フリーラジカル重合で合成した共重合体))の0.5w/v%水溶液の波長670nmにおける光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをそれぞれプロットしたグラフを示す。
【
図4】DMSO中でRAFT重合により合成された6-アクリロイルメチルウラシルから誘導される繰返し単位:アクリルアミドから誘導される繰返し単位のモル比が、8.0:92.0であるのランダム共重合体の0.5w/v%水溶液と、該水溶液をフィルターろ過したものを波長670nmにおける光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをそれぞれプロットしたグラフを示す。
【
図5】DMSO/水=8/2(v/v)中、フリーラジカル重合により合成された6-アクリロイルメチルウラシルから誘導される繰返し単位とアクリルアミドから誘導される繰返し単位のモル比が14.3:85.7であるランダム共重合体、8.7:91.3であるランダム共重合体、6.8:93.2であるランダム共重合体、3.3:96.7であるランダム共重合体の0.5w/v%水溶液の波長670nmにおける光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをそれぞれプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の共重合体は、式(I)で表される核酸塩基構造を側鎖に有する繰返し単位と式(II)で表される(メタ)アクリルアミドから誘導される繰返し単位からなる2元の共重合体である。
【0017】
式(I)中、R2は、核酸塩基構造を有する官能基を表す。核酸塩基構造を有する官能基とは、Xに連結できる結合部位を有し、さらに官能基内に核酸塩基骨格を含む官能基を意味する。
ここで、核酸塩基とは、RNA及びDNAを構成するアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)以外にも、これらと構造的に関連している複素環部分を有し、化学的に部分変更された修飾された核酸塩基も含むものとする。修飾された核酸塩基として、例えば、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、N-6メチルアデニン、O-6メチルグアニン、2-プロピルアデニン、2-プロピルグアニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、2-チオシトシン、5-ハロウラシル、5-ハロシトシン、5-(1-プロピニル)ウラシル、5-(1-プロピニル)シトシン、6-アゾウラシル、6-アゾシトシン、6-アゾチミン、5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロアデニン、8-アミノアデニン、8-チオールアデニン、8-アルキルチオアデニン、8-ヒドロキシアデニン、8-ハログアニン、8-アミノグアニン、8-チオールグアニン、8-アルキルチオグアニン、5-ハロウラシル、5-ブロモウラシル、5-トリフルオロメチルウラシル、5-ハロシトシン、5-ブロモシトシン、5-トリフルオロメチルシトシン、7-メチルグアニン、7-メチルアデニン、2-フルオロアデニン、2-アミノアデニン、8-アザグアニン、8-アザアデニン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、3-デアザグアニン、3-デアザアデニン等を挙げることができる。
【0018】
上記した核酸塩基骨格を含む官能基として、例えば、下記式(III)で表される官能基を挙げることができる。
【0019】
【0020】
式(III)中、Yは、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基として、例えば、-О-、-S(О)n-(n=0、1、2)、-NR4-(R4は、C1~C5アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)、C1~C5アルキレン基、1,4-フェニレン基、-ОCH2CH2-、-CH2ОCH2CH2-等が挙げられ、中でも、C1~C3アルキレン基を好ましく挙げることができる。
【0021】
式(I)中、Xは酸素原子又はNR3を表す。R3は、水素原子、C1~C5アルキル基、C6~C10アリール基、C7~C12アラルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、1-ナフチル基、ベンジル基、1-ナフチルメチル基等を挙げることができる。
【0022】
式(I)で表される繰返し単位として、例えば、下記式に挙げる繰返し単位を挙げることができる。なお、式(I)で表される繰返し単位及び式(II)で表される繰返し単位は、それぞれ1種単独で、又は2種以上を混合して本発明の共重合体の繰返し単位とすることができる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
本発明の共重合体において、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位のモル比[(I):(II)]は、特に制限されないが、上限臨界溶液温度を0℃以上100℃以下にするために、50:50~5:95の範囲にするのが好ましく、30:70~5:95の範囲にするのがさらに好ましく、20:80~5:95の範囲にするのがより一層好ましい。
【0027】
本発明の共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよいが、官能基の均一分散性という点からランダム共重合体が好ましい。
【0028】
本発明の共重合体の合成方法としては、下記式(IV)及び下記式(V)で表される単量体を用いて本発明の共重合体を得ることができる方法であれば特に制限されないが、好ましい態様の一つであるランダム共重合体を下記式で表される単量体から簡便に得ることのできる合成方法として、ラジカルを反応中心としてポリマー鎖を伸張していくラジカル反応を挙げることができ、具体的には、幅広い分子量分布を有するポリマーが得られるフリーラジカル重合による合成方法や、ラジカル重合の簡便性と汎用性を保ちつつ、分子構造の制御を可能にするリビングラジカル重合による合成方法、なかでも、分子量分布(Mw/Mn)がより小さい共重合体を製造できる原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization :ATRP重合)や、RAFT重合による合成方法を挙げることができる。中でも、金属触媒を必要としない、という点からRAFT重合がより好ましい。
【0029】
【0030】
式(IV)中、R11は、式(I)中のR1と同じ意味を表し、R21は、式(I)中のR2と同じ構造の官能基又は得られた共重合体の主鎖に影響を及ぼすことなく式(I)中のR2と同じ構造に誘導可能な官能基を表し、X1は、式(I)中のXと同じ意味を表す。
式(V)中、R41は、式(II)中のR4と同じ意味を表し、R51及びR52は、それぞれ独立に水素原子又は得られた共重合体の主鎖に影響を及ぼすことなく脱離させることができる官能基を表す。該R2と同じ構造に誘導可能な官能基として、核酸塩基構造中の窒素原子又は酸素原子上の水素原子を脱着可能な保護基で置換した官能基等を挙げることができる。また、R51及びR52の該脱離させることができる官能基として、アミドの窒素原子上の水素原子を置換できる官能基であって、酸、塩基等で脱離可能な官能基等を挙げることができ、例えば、トリメチルシリル基等を挙げることができる。
ラジカル重合で本発明の共重合体を合成する場合には、R21が式(I)中のR2と同じ官能基の式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体を、R51及びR52が水素原子である(メタ)アクリルアミドを単量体として用いることができる。
【0031】
式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体として、[化6]~[化8]に示した、(メタ)アクリル酸誘導体由来の繰返し単位に誘導可能な(メタ)アクリル酸誘導体等を挙げることができ、式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体として、メタアクリルアミド、アクリルアミド、N,N-ビス(トリメチルシリル)アクリルアミド、N,N-ビス(トリメチルシリル)メタアクリルアミド等を挙げることができる。
なお、式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体及び式(IV)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体は、それぞれ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
前記フリーラジカル重合による合成方法として、式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体とをモノマーとして用いて共重合させるための重合温度にて十分にラジカルを発生させる重合開始剤と、重合反応に適した溶媒とを用いる、従来公知の方法を挙げることができ、合成された共重合体の反応溶液には未反応のモノマー等の夾雑物が共存しているので、精製処理をさらに行うことにより、本発明の共重合体を調製することが好ましい。
【0033】
上記RAFT重合による合成方法として、式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体とをモノマーとして用いて共重合させるための重合温度にて十分にラジカルを発生させる重合開始剤と、重合反応に適した溶媒と、さらに末端活性ラジカルの反応性を制御して擬似リビング的に重合を進行させるための、RAFT剤とを用いる、従来公知の方法を挙げることができる。
【0034】
本発明の共重合体の式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体のモノマー仕込みモル比[(IV):(V)]としては、50:50~5:95の範囲が好ましく、30:70~5:95の範囲がより好ましく、20:80~5:95の範囲が最も好ましい。
【0035】
前記重合開始剤として、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物系重合開始剤;等を挙げることができる。
【0036】
前記重合反応に適した溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等を挙げることができ、これらを1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができ、中でもDMSO-水の組合せを好ましく挙げることができ、その混合比[DMSO/水(v/v)]として、50/50~95/5の範囲が好ましく、70/30~95/5の範囲がさらに好ましく、80/20~90/10の範囲が最も好ましい。
【0037】
前記RAFT剤として、O-エチル-S-(1-フェニルエチル)ジチオカーボネート、O-エチル-S-(2-プロポキシエチル)ジチオカーボネート、O-エチル-S-(1-シアノ-1-メチルエチル)ジチオカーボネート等のジチオカーボネート類、ジチオプロピオン酸シアノエチル、ジチオプロピオン酸ベンジル、ジチオ安息香酸ベンジル、ジチオ安息香酸アセトキシエチル等のジチオエステル類、S-ベンジル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-1-ピロールカルボジチオエート等のジチオカルバメート類、ジベンジルトリチオカーボネート、シアノメチルドデシルトリチオカーボネート(cyanomethyl dodecyl trithiocarbonate:CMDT)等のトリチオカーボネート類等を挙げることができる。
【0038】
RAFT重合における、モノマーの総モル数を1とした場合のRAFT剤の配合モル数として、好ましくは0.0001~0.01、より好ましくは0.0002~0.005、さらに好ましくは0.0003~0.003を挙げることができる。
【0039】
本発明における共重合体のフリーラジカル重合による具体的な調製方法として、式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体、式(IV)で表されるアクリル酸誘導体をDMSOに溶解し、得られた溶液を脱気して開始溶液とし、AIBN等の開始剤を加えて、50~70℃にて5~30時間反応させる方法や、各割合の式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体とを脱酸素水に添加し、過硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウムに硫酸第一鉄アンモニウム溶液等の開始剤を加えて、窒素気流中、40℃にて10分間重合させ、重合反応物は、反応停止後、すぐにメタノール又は水に落として沈殿させ、得られた沈殿物を、洗浄、乾燥後、式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体の割合に応じてDMSO又は水に溶解し、メタノールに再沈殿させて精製する方法等を挙げることができる。
【0040】
本発明における共重合体のRAFT重合による具体的な調製方法として、式(IV)で表される(メタ)アクリル酸誘導体と式(V)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体をDMSOに溶解し、CMDT等のRAFT剤を加えて脱気して開始溶液とし、AIBN等の開始剤を開始溶液に添加し、60~80℃にて2~7時間反応させた後、室温まで冷却し、冷却された反応溶液をメタノールに注ぎ、析出した共重合体を30~50℃で12~48時間程度乾燥する方法等を挙げることができる。
いずれの重合法においても、保護基等の修飾をしたモノマーを用いて共重合体を調製した場合には、さらに、保護基等の修飾基を除去する操作を行うことにより、目的とする本発明の共重合体を得ることができる。
【0041】
本発明における共重合体の重量平均分子量(Mw)としては、フリーラジカル重合による共重合体の場合、8,000~200,000を挙げることができ、15,000~175,000が好ましく、20,000~150,000がより好ましく、30,000~120,000がさらに好ましく、RAFT重合による共重合体の場合、8,000~200,000を挙げることができ、15,000~100,000が好ましく、30,000~90,000がより好ましい。上記重量平均分子量の算出方法として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、標準物質(例えば、プルラン標準試料)を用いて検量線を作成の上、算出する方法を挙げることができる。
【0042】
本発明における共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)として、1.01~5.0が好ましく、1.01~4.5がより好ましく、さらに1.01~2.0がより好ましい。さらに、フリーラジカル重合による共重合体の場合、1.5~4.5を好適に挙げることができ、またRAFT重合による共重合体の場合、1.01~2.0をそれぞれ好適に例示することができる。
【0043】
本発明の共重合体の用途は、その温度特性を活かせる使用場面であれば特に制限されないが、例えば、化粧料若しくは皮膚外用剤の基剤、ドラッグデリバリーシステムのキャリア、再生医療等の分野における細胞培養支持体基材の材料等を好適に挙げることができる。
本発明の共重合体を、化粧料成分又は皮膚外用剤の基剤として用いた場合、化粧料又は皮膚外用剤のその他の成分としては、化粧料又は皮膚外用剤に一般に用いられる成分、例えば、アルコール類、保湿剤、ゲル化剤、粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、pH調整剤、美肌用成分、香料、水等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0044】
上記アルコール類として、例えばエタノール、イソプロパノール等の低級アルコールや、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール等の多価アルコールや、ソルビトール、マルトース、キシリトール、マルチトール等の糖アルコールや、コレステロール、シトステロール、フィトステロール、ラノステロール等のステロール類等を挙げることができる。上記保湿剤として、例えば、尿素、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ピロリドンカルボン酸塩等を挙げることができる。
【0045】
前記ゲル化剤として、皮膚外用剤又は化粧料に一般に用いられる水性ゲル化剤又は油性ゲル化剤であれば特に制限されず、例えば、水性ゲル化剤として、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、キャロブガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード(マルメロ等由来の)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ等由来の)、アルゲコロイド、トラントガム、ローカストビーンガム等の植物系高分子や、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子や、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子や、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子や、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系高分子や、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子や、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系高分子や、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系ゲル化剤増粘剤等を挙げることができ、油性ゲル化剤として、アルミニウムステアレート、マグネシウムステアレート、ジンクミリステート等の金属石鹸や、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-ジ-n-ブチルアミド等のアミノ酸誘導体や、デキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル、デキストリン2-エチルヘキサン酸パルミチン酸混合エステル等のデキストリン誘導体や、脂肪酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステルや、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体や、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー等の有機変性粘土鉱物等を挙げることができる。
【0046】
前記粉体として、例えば、無機粉体、有機粉体、金属石鹸粉末、有色顔料、パール顔料、金属粉末、タール色素、天然色素等を挙げることができ、その粒子形状(球状、針状、板状等)や、粒子径(煙霧状、微粒子、顔料級等)や、粒子構造(多孔質、無孔質等)を問わない。これらの粉体はそのまま使用してもよいが、2種以上の粉体を複合化したものを用いてもよく、油剤、シリコーン化合物、フッ素化合物等で表面処理を施してもよい。
【0047】
前記紫外線吸収剤として、例えば、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤や、アントラニル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤や、サリチル酸メチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤や、パラメトキシケイ皮酸オクチル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤や、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤や、ウロカニン酸エチル等のウロカニン酸系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0048】
前記防腐剤や抗菌剤として、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、サリチル酸、フェノール、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、イソプロピルメチルフェノール等を挙げることができる。前記酸化防止剤として、例えば、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができる。
【0049】
前記pH調整剤として、例えば、乳酸、乳酸塩、クエン酸、クエン酸塩、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等を挙げることができる。
【0050】
前記美肌用成分として、例えば、アルブチン、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤や、ロイヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等の細胞賦活剤・肌荒れ改善剤や、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β-ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、α-ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ-オリザノール等の血行促進剤や、酸化亜鉛、タンニン酸等の皮膚収斂剤や、イオウ、チアントロール等の抗脂漏剤等を挙げることができる。
【0051】
本発明における共重合体の上限臨界溶液温度の決定方法として、例えば、本発明のおける共重合体を0.5w/v%の割合で水に溶解した溶液を冷却し、次いで冷却した該溶液の温度を1分あたり0.3~2.0℃のいずれかの割合で上昇させ、該組成物溶液の光透過率を0.5℃毎に測定した場合に、1)得られた透過率-温度曲線において、透過率の変化している直線部分と、清澄状態の水溶液の透過率(100%)を表す水平線又は昇温して透過率が変化した後に一定となる水平線の交点の温度を、上限臨界溶液温度として決定する方法や、2)得られた透過率-温度曲線において、透過率が急激に上昇した温度を、急激に溶解度が上昇する温度として決定する方法を挙げることができる。上記溶液の温度の上昇速度の割合は、上記溶液の透過率の変化の大小に合わせて適宜決定することができる。
【0052】
上記光透過率の測定方法として、上記組成物溶液中の光透過率の変化を測定するために適した波長の光を用いて測定する方法であれば特に制限されず、上記波長として、可視光域の波長が好ましく、具体的には、650~700nm、好ましくは660~680nmの波長を挙げることができる。光透過率を測定する際のセルホルダ内の温度の維持は、温度コントローラー等の温度制御装置を用いて行うことができる。
【0053】
本発明の共重合体における上限臨界溶液温度は、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位のモル比で調整することができ、式(I)で表さる繰返し単位のモル比を小さくすることにより、モル比がより大きい共重合体に比して、上限臨界溶液温度を低下させることができる。本発明における共重合体における上限臨界溶液温度は、化粧料や皮膚外用剤の使用態様や洗浄条件に適している範囲、ドラックデリバリーシステムにおける薬物を放出する条件に適している範囲又は細胞培養支持体基材で培養された細胞を剥離できる条件に適している範囲であれば特に限定されず、共重合体の上限臨界溶液温度として、10~70℃の範囲を挙げることができ、20~60℃の範囲が好ましく、30~50℃の範囲がさらに好ましく、中でも35~45℃の範囲が特に好ましい。
【0054】
さらに、RAFT重合による共重合体において、0.5w/v%水溶液における光透過率-温度カーブの微分曲線として、15d%T/dT以上、好ましくは30d%T/dT以上である場合を、好ましい態様として挙げることができる。かかる共重合体は、単位温度当たりの透過率変化が大きく、7℃以下、好ましくは5℃以下、さらに好ましくは3℃以下の狭い温度範囲で、溶液が溶解・凝集の変化を示す共重合体である。RAFT重合による共重合体において、単位温度当たり透過率変化が大きい理由としては、各ポリマー鎖のユニット比がそろっているため、わずかな温度変化により性状の変化が大きくなると考えられる。そのため、2種類以上のRAFT重合による共重合体を混合して用いた場合には、単位温度当たり透過率変化が小さくなるおそれがある。
【0055】
本発明の共重合体は、1種又は2種以上を化粧料や皮膚外用剤として使用されるが、本発明における化粧料として、化粧水、クリーム、乳液、美容液等の基礎化粧料や、シャンプー、リンス、トリートメント等の頭髪化粧料や、ファンデーション、チーク、アイライナー、アイシャドー、マスカラ、アイブロウ、フェイスパウダー等のメイクアップ化粧料や、日焼け止め化粧料等の下地化粧料(医薬部外品を含む)や、マニキュアを例示することができ、皮膚外用剤として、リニメント剤、ローション剤、軟膏剤等の外用医薬品等を例示することができる。
【0056】
本発明の共重合体の化粧料又は皮膚外用剤への配合割合としては、本発明の効果が奏される限り特に制限されないが、通常、化粧料又は皮膚外用剤全体に対して、0.01~80質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.1~20質量%がさらに好ましく、1種又は2種以上を適宜組み合わせて配合することもできる。
【0057】
本発明の共重合体を含有する化粧料や皮膚外用剤の形態として、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、固形状を例示することができる。
【0058】
本発明の共重合体は、上限臨界溶液温度型温度応答性高分子であることから、本発明の共重合体を薬物と組み合わせることで薬物放出剤を提供することができる。薬物放出剤は、本発明の共重合体をいわゆるドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアー(薬物の担持体)として用いるもので、本発明の共重合体と任意の薬物との組み合わせからなる。本発明の共重合体を用いた薬物放出剤は、本発明の共重合体が生理学的条件下で温度を制御することで可逆的に溶解及び不溶化し(相転移)、これに伴ってコアセルベートが消失したり形成したりするという特性を、薬物の放出及び保持の制御に応用したものである。本発明の共重合体を用いた薬物放出剤は、必要なときに必要なだけ薬物を投与しようというインテリジェント化製剤(インテリジェントDDS)に好適に用いられる。
【0059】
本発明の共重合体を用いた薬物放出剤において、本発明の共重合体に各種薬物(例えば、アドレアマイシン、タキソール等の各種の抗ガン剤等)を担持又は結合させる手段として、該共重合体の水性溶液を温度や濃度等の制御下で該共重合体と所望の薬物を接触させる方法が挙げられる。具体的には、本発明の共重合体と各種薬物を、少なくとも生理学的に許容される溶液中で共存させ、該共重合体の上限臨界溶液温度よりも低い温度にすることで、該共重合体に各種薬物を担持又は結合させることができる。次いで、該共重合体の上限臨界溶液温度よりも高い温度にすることで、薬物が担持された該共重合体から各種薬物を放出させることができる。
【0060】
また、本発明の共重合体を用いた薬物放出剤において、薬物を該共重合体に担持又は結合させる態様として、好ましくは上限臨界溶液温度よりも低い温度にすることで該共重合体から形成されるコアセルベート層の内部又は表面に、薬物を結合させる方法を挙げることができる。また、本発明の薬物放出剤は、薬物を該共重合体に担持又は結合させた状態で、さらにカプセル、スポンジ、ゲル、リポソーム等の基材に収容又は担持させる等、二次的な処理が施されていてもよい。この場合も、該共重合体の上限臨界溶液温度よりも高い温度にすることで、薬物放出剤の該共重合体によって形成されたコアセルベート層から各種薬物を放出させることができる。
【0061】
なお、本発明の共重合体を用いた薬物放出剤の投与形態も任意であり、その剤形により適宜選択される。例えば、経口剤、貼付剤、注射剤、点滴、坐剤等の剤形に応じて、経口投与、経皮投与、静脈内又は筋肉内投与、直腸投与等が挙げられる。
【0062】
本発明の共重合体を用いた薬物放出剤において、薬物の該共重合体に対する結合は、イオンコンプレックスや電荷移動錯体を利用した結合、生化学的親和性等を利用した結合が好ましい。本発明の共重合体に結合した薬物は、例えば、塩濃度制御、pH制御、阻害剤、基質等の制御、尿素、SDS等の変性剤の制御、有機溶媒、金属イオン等の制御、温度制御等の方法を適宜選定及び/又は組み合わせることにより結合強度を制御し、ひいては薬物放出速度等を制御することができる。また、種々のリガンドの該共重合体への固定化は、温度応答性の繰返し再現性を保持するには共有結合であることが好ましいが、イオンコンプレックスや電荷移動錯体を利用した結合、生化学的親和性等を利用した結合であってもよい。
【0063】
本発明の共重合体は、再生医療等の分野において、トリプシン、EDTAのようなタンパク質分解酵素や化学品による処理を経ずにシート状又は立体状に形成した細胞を低侵襲に回収する技術として、細胞培養支持体基材の材料に用いることもできる。具体的には、該共重合体を細胞培養支持体上に形成させた材料が挙げられる。そのような材料を用いた培養方法として、該支持体上で該共重合体の上限臨界溶液温度以下で細胞を培養し、該支持体を該上限臨界溶液温度以上にすることにより培養細胞を該支持体から剥離回収する方法等を挙げることができる。
【0064】
上記基材の材質は、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の高分子化合物、あるいはセラミックス、金属等が挙げられる。なお、基材表面はオゾン処理、プラズマ処理、スパッタリング等の処理技術を用いて親水化を施されたものでもよい。形状は、ペトリディッシュに限定されることはなく、プレート、ファイバー、(多孔質)粒子、また、一般に細胞培養等に用いられる容器の形状(フラスコ等)を付与されていてもかまわない。
【0065】
本発明の共重合体の被覆量は、5~80μg/cm2、好ましくは6~40μg/cm2である。共重合体の被覆量が80μg/cm2を超過すると細胞は細胞培養支持体表面上に付着せず、逆に被覆量が5μg/cm2未満だと細胞は単層の状態で培養され組織状とならず、又は培養細胞を支持体から剥離回収するのも困難となる。このようなポリマー被覆量は、例えばフーリエ変換赤外分光計全反射法(FT-IR-ATR法)、被覆部若しくは非被覆部の染色や蛍光物質の染色による分析、及び接触角測定等による表面分析を単独あるいは併用して求めることができる。
【0066】
基材への本発明の共重合体の被覆は、化学的方法及び/又は物理的方法で行うことができる。化学的反応として、例えば、式(IV)及び式(V)で表されるモノマーを無溶媒で又は溶媒に溶解した溶液にして基材に塗布し、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理又はコロナ処理する方法等が挙げられる。さらに、基材に適当な反応性官能基を導入することにより、ラジカル又はイオン反応等によりグラフティングすることもできる。物理的な相互作用による方法として、例えば、本発明の共重合体を単独又は基材との相溶性の良いマトリックスを媒体とし、塗布、混練等の物理的吸着を用いる方法等が挙げられる。
【0067】
培養可能な細胞としては、特に限定されず、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞等の内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞等の表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞等の上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞等の神経細胞、軟骨細胞、骨細胞等が挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、分化が終了した細胞のいずれであってもよい。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。
【0068】
細胞を培養する際の培地としては、当技術分野において通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができる。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地及びRPMI1640培地等、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁に記載されているような基礎培地を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸等を加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。
【0069】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
[共重合体の平均分子量の測定]
共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて決定した。測定にはJASCO PU-2080ポンプ、JASCO RI-2031示差屈折検出器、JASCO 2060カラムオーブン(以上すべて日本分光社製)、Shodex GPC KD806-Mカラム(昭和電工製)を使用した。検量線はプルラン標準試料(昭和電工製)を用いて作成し、移動相にはLiBrを20mM添加したDMSOを用いた。
【0071】
[共重合体中の構成ユニット比の決定]
共重合体中のアクリルアミド(AAm)由来の繰返し単位と6-アクリロイルメチルウラシル(AU)由来の繰返し単位のモル比は、1HNMR測定により、AAm由来の繰返し単位中のアミド基のプロトン由来のピーク、AU由来の繰返し単位中のウラシル基上の窒素原子に結合しているプロトン由来のピークの積分比より決定した。NMR測定は核磁気共鳴分光装置Avance III HD 400MHz NMR(ブルカーダルトニクス社製)を用いて行った。
【実施例1】
【0072】
(フリーラジカル重合による本発明の共重合体の合成)
AAm205.4mg(2.89mmol)、AU100.0mg(0.51mmol)[AAm:AU(モル比)=85:15]、AIBN16.4mg(0.1mmol)とをDMSO(12mL)に溶解し、30分間アルゴンガスを吹き込むことにより溶存酸素を除いた。アルゴン雰囲気下で60℃にて24時間反応させた後、室温まで冷却した。冷却された反応溶液を250mLのメタノールに注ぎ、析出した共重合体をろ取した。得られた共重合体をさらに150mLのメタノールで洗浄した後、デシケータにて終夜乾燥し、共重合体271.2mgを得た。得られた共重合体について表1にまとめて示す。
【実施例2】
【0073】
AAmを217.5mg(3.06mmol)、AUを66.7mg(0.34mmol)[AAm:AU(モル比)=90:10]を用い、反応時間を18時間とする以外は実施例1と同様に反応を行い、共重合体262.5mgを得た。得られた共重合体について表1にまとめて示す。
【実施例3】
【0074】
AAmを229.59mg(3.23mmol)、AUを33.3mg(0.17mmol)[AAm:AU(モル比)=95:5]を用い、反応時間を18時間とする以外は実施例1と同様に反応を行い、共重合体237.4mgを得た。得られた共重合体について表1にまとめて示す。
【0075】
【実施例4】
【0076】
[フリーラジカル重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]
上記実施例1~3の共重合体について、水を溶媒として溶解し、0.1w/v%水溶液について0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、各共重合体の溶解性を、670nmにおける透過率の変化を測定することにより確認した。昇温又は降温の速度は、それぞれ1℃/minとし、測定温度に到達後直ちに測定を開始した。これ以降、温度応答の再現性は、同一サンプルに対して温度変化を繰り返す(1stCooling-1stHeating-2ndCooling-2ndHeating)ことで確認した。また、測定温度が15℃以下となる場合は、セルの結露を防ぐため、セルホルダにアルゴンガスを流しながら測定した。光透過率はJASCO-V650紫外可視吸光光度計(日本分光製)を用いて測定し、セルホルダ内の温度調整はJASCO ETC-717温度コントローラ(日本分光製)を用いて行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図1に示す。なお、上限臨界溶液温度は、得られた透過率-温度曲線において、透過率の変化している直線部分と、昇温して透過率が変化した後に一定となった水平線の交点とした。
【0077】
図1から明らかなとおり、実施例1~3の共重合体を含有する水溶液について、いずれも光透過率-温度曲線を描いた。また、上限臨界溶液温度の相違はあるものの、図示してはいないが、全ての共重合体含有水溶液において可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0078】
図1において、前記実施例1~3の共重合体の0.1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
実施例1の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は90℃以上であった。
実施例2の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は55℃であった。
実施例3の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は26℃であった。
【0079】
表1の各共重合体含有水溶液において、アクリルアミドのモノマー仕込み比が高くなるにつれて、昇温時の上限臨界溶液温度が低くなることが確認された。凝集の駆動力が、AUに由来する繰返し単位間の水素結合であり、これが減少していくためであると考えられる。
【実施例5】
【0080】
[共重合体含有水溶液濃度の違いによる上限臨界溶液温度の測定]
実施例2で得られた共重合体について、水溶液の濃度を0.5w/v%として、実施例4と同様に、温度による透過率の変化を測定した。その結果を
図2に示す。0.1w/v%水溶液の上限臨界溶液温度が、55℃であるのに対して、0.5w/v%水溶液の上限臨界溶液の温度は、68℃であった。
【0081】
図2から明らかなとおり、水溶液中の共重合体の濃度が高くなるほど、上限臨界溶液温度が高くなり、単位温度あたりの透過率変化が大きくなることがわかった。
【実施例6】
【0082】
(RAFT重合による共重合体の合成)
AAmを790.0mg(11.1mmol)、AUを176.5mg(0.9mmol)[AAm:AU(モル比)=92.5:7.5]、AIBNを0.7mg(0.0045mmol)及びCMDTを4.8mg(0.015mmol)をDMSO(6mL)に溶解し、30分間アルゴンガスを吹き込むことにより溶存酸素を除いた。アルゴン雰囲気下で70℃にて7時間反応させた後、室温まで冷却した。冷却された反応溶液を200mLのメタノールに注ぎ、析出した共重合体をろ取した。得られた共重合体をさらに150mLのメタノールで洗浄した後、デシケータにて終夜乾燥し、共重合体808.0mgを得た。
【0083】
得られた共重合体のMwは、61400であり、Mnは、40600であり、Mw/Mnは、1.51であった。また、AAm由来の繰返し単位とAU由来の繰返し単位のモル比は、92.0:8.0であった。
【実施例7】
【0084】
[RAFT重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]
実施例6で合成された共重合体について、水を溶媒として溶解し、0.5w/v%水溶液について0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、共重合体の溶解性を確認した。RAFT重合で合成した共重合体は、単位温度当たりの透過率変化が大きいため、昇温又は降温の速度を、それぞれ0.5℃/minとしたほかは、実施例4に記載されている方法で測定を行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図3に示す。
【実施例8】
【0085】
図3には、比較として、AAm由来の繰返し単位とAU由来の繰返し単位のモル比がほぼ同じであるフリーラジカル重合で合成された共重合体を、同じ濃度で実施例4と同様の方法で測定した結果も記載した。該フリーラジカル重合で合成された共重合体については、AAmを223.6g(3.145mmol)、AUを50.0mg(0.255mmol)[AAm:AU(モル比)=92.5:7.5]を用い、反応時間を18時間とする以外は実施例1と同様に反応を行い合成した。(Mw=39900、Mn=11800、Mw/Mn=3.39)また、AAm由来の繰返し単位とAU由来の繰返し単位のモル比は、92.9:7.1であった。
【0086】
図3から明らかなとおり、RAFT重合で合成した共重合体の水溶液の降温時の上限臨界溶液温度単位温度当たりの透過率変化の最大値は、36d%T/dTであり、フリーラジカル重合で合成した共重合体の水溶液における値7d%T/dTと比較して、単位温度当たりの透過率変化が顕著に大きかった。
【実施例9】
【0087】
実施例6で得られた共重合体の0.5w/v%の水溶液を、Millex-GVフィルター(孔径22μm、ミリポア社製)を用いてろ過した後、実施例7と同様の方法で測定を行った。その結果を、光透過率(縦軸)と温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図4に示す。
なお、比較のために実施例7の水溶液のろ過前の結果をあわせて記載した。
【0088】
図4から明らかなように、ろ過することにより、透過率が100%となり、しかも、若干ではあるが、ろ過前に比してろ過後の上限臨界溶液温度が、低温側にシフトすることがわかった。
【0089】
[実施例10~13]
反応溶媒を、DMSO/水=8/2(v/v)の割合で同量を用い、反応時間を20時間とする以外は、実施例1、2、8、3と同様に反応を行い、共重合体を得た。得られた共重合体について表2、表3にまとめて示す。
【0090】
【0091】
【0092】
0.5w/v%水溶液の温度による透過率の変化を実施例4と同様に測定した。その結果を
図5に示す。
反応溶媒をDMSO/水の混合溶媒とすることにより、高温時の透過率がほぼ100%となる共重合体水溶液が得られるようになった。上限臨界溶液温度の相違はあるものの、図示してはいないが、全ての共重合体含有水溶液において可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
図5において、前記実施例10~13の共重合体の0.5w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
実施例10の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は90℃以上であった。
実施例11の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は57℃であった。
実施例12の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は39℃であった。
実施例13の共重合体の昇温時の上限臨界溶液温度は21℃であった。
【0093】
表2、3の各共重合体含有水溶液において、アクリルアミドのモノマー仕込み比が高くなるにつれて、昇温時の上限臨界溶液温度が低くなることが確認された。凝集の駆動力が、AUに由来する繰返し単位間の水素結合であり、これが減少していくためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、化粧料、皮膚外用剤、ドラックデリバリーシステム又は再生医療の分野において非常に有用である。