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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】人工気象装置及び人工気象システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20221128BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G7/00 601C
A01G7/00 601Z
A01G9/24 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022006991
(22)【出願日】2022-01-20
【審査請求日】2022-03-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年11月24日~11月26日東京ビックサイトにて展示
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年9月17日ウェブサイトに動画掲載
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度戦略的プロジェクト研究推進事業委託事業「民間事業者等の種苗開発を支える『スマート育種システム』の開発」、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)「育種ビッグデータの整備および情報解析技術を活用した高度育種システムの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594156020
【氏名又は名称】エスペックミック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】520368459
【氏名又は名称】一般財団法人アグリオープンイノベーション機構
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100137947
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貴文
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙治
(72)【発明者】
【氏名】永田 優育
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博紀
(72)【発明者】
【氏名】米丸 淳一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 洋二郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】李 鋒
(72)【発明者】
【氏名】水野 信之
(72)【発明者】
【氏名】山下 寛人
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
(72)【発明者】
【氏名】松山 知樹
(72)【発明者】
【氏名】坂下 亨男
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 徳人
(72)【発明者】
【氏名】山田 クリス 孝介
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047340(JP,A)
【文献】特開2007-071758(JP,A)
【文献】特開2011-097852(JP,A)
【文献】特開2020-115312(JP,A)
【文献】特開2014-128253(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培が可能な内部空間を有する試験室と、
前記試験室に光を照射するLED光源と、
前記試験室の温度及び湿度を調整する空調部と、
前記LED光源及び前記空調部を制御する制御部と、
前記試験室を撮像するRGBカメラ、深度カメラ、及び赤外線カメラと、を備え、
前記制御部は、前記LED光源が前記試験室に照射する光の波長のデータを含む環境データに基づき前記空調部及び前記LED光源を制御し、
前記RGBカメラ、前記深度カメラ、及び前記赤外線カメラは、互いに異なる角度から試験室を撮像することで撮像対象の植物を立体的に確認可能であり、
前記RGBカメラ、前記深度カメラ、及び前記赤外線カメラによる撮像結果に基づき、前記試験室内の植物の状態を判定する状態判定部をさらに備える、
植物育成用の人工気象装置。
【請求項2】
前記LED光源が交換可能である、
請求項1に記載の人工気象装置。
【請求項3】
前記環境データは、屋外に配置された観測器によって取得された実測値から生成される、
請求項1または2に記載の人工気象装置。
【請求項4】
前記環境データは、前記観測器によって直前に取得された実測値から生成される、
請求項3に記載の人工気象装置。
【請求項5】
前記試験室内の状態、及び前記試験室内の植物の状態の少なくとも一方を検知するセンサと、
前記センサによる検知結果を記憶する記憶部と、をさらに備える、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の人工気象装置。
【請求項6】
請求項3に記載の人工気象装置と、屋外に配置された前記観測器と、を備える人工気象システムであって、
前記人工気象装置は、前記観測器と通信する受信部をさらに備え、
前記観測器は、前記人工気象装置に前記環境データを送信する送信部をさらに備える、
人工気象システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光源を用いた植物の育種をはじめとした各種栽培試験研究に用いられる人工気象装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培室を有し、栽培室内の育成環境を疑似的に作り出して育成結果を評価することなどで、植物の新品種を開発するための人工気象装置がある。特許文献1には、気象制御装置によって栽培室内の気象条件を調整することで、特定農地に設置された気象データ観測装置により測定されたデータや気象機関のデータベース情報に応じて、所望の気象事件を模倣した環境を作り出す模擬環境装置等が開示されている。特許文献2には、栽培ユニットの内部の環境を、植物の種別に応じて定められる制御モデル情報と指定栽培条件に応じて成長度合いを制御する成長度合い制御情報とに応じて調整する植物栽培システム等が開示されている。特許文献3には、LEDからの光を蕎麦に照射してスプラウトを育成する方法であって、育成する蕎麦の品種又は育成状態に応じて、LEDから照射される光質、デューティ比、パルス周波数、明暗周期等を調整するスプラウト育成方法が開示されている。特許文献4には、限定スペース内において温度、湿度、風量、光量等の気象条件をユーザの希望通りに設定可能な人工気象ブースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-047340号公報
【文献】特開2013-172700号公報
【文献】特開2005-151850号公報
【文献】特開平7-194255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような、栽培試験を行うための人工光源を用いた従来の人工気象装置では、自然環境に近い光環境を再現するため、メタルハライドランプ、キセノンランプ、または高圧ナトリウムランプなどを光源として使用することが多かった。このような人工光源を用いた人工気象装置では、光源にあわせて装置で必要となる環境データを入力し、試験室の温度、湿度、及び炭酸ガス濃度等を設定し制御している。メタルハライドランプなどを使用した従来の人工気象装置は、ランプ出力が高い光量を得るためには、1kwまたは2kwなどの多大な電力が必要となり、さらに温度制御に必要な冷房負荷も大きいため、使用する電力量が大きくなりランニングコストが高くなってしまっていた。また、メタルハライドランプなどは、光量を調光することは電子安定器により可能だが、光質が変化してしまうため、最大光量の40~100%の範囲での調光が限界であり、かつ調光することで、ランプ寿命が定格の半分程度に短くなってしまっていた。これに対し、特許文献3ではLED光源を利用しているものの、単一のLED光源では設定可能な光に限界があった。
【0005】
また、従来の装置では、試験室の光、温度、湿度、及び炭酸ガス濃度などの環境設定は、人工気象装置に設けられた調節器等で設定することはできるものの、任意の地域の自然の環境条件などをリアルタイムに再現するなどが不可能であった。
【0006】
また、試験対象の植物の生育予測には、栽培時の環境データと、栽培しながら観測された生育を表す種々の数値データが必要である。しかし、従来の装置では、環境データ及び育成データを、装置外に設けられたサーバに非接触で蓄積することが不可能であった。
【0007】
また、AI技術を利用して、植物の生育に適した環境を選定したり、気候変動シナリオによる将来の気象条件の再現を行って、最適環境の検証データ及び未来の作物環境応答データを取得、評価したりすることが不可能であった。
【0008】
本発明は、上記いずれかの課題を解決する人工気象装置を提供することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る人工気象装置は、植物育成用の装置であって、植物の栽培が可能な内部空間を有する試験室と、試験室に光を照射するLED光源と、試験室の温度及び湿度を調整する空調部と、LED光源及び空調部を制御する制御部と、を備え、制御部は、LED光源が試験室に照射する光の波長のデータを含む環境データに基づき空調部及びLED光源を制御する。
【0010】
このような人工気象装置では、メタルハライドランプなどに替わる光源としてLED光源を採用し、LED光源を制御する際に、LED光源が試験室に照射する光の波長のデータを含む環境データを用いている。これにより、試験室内に、より高精度な自然環境を再現可能となる。また、LED光源を採用することで調光範囲を0~100%の範囲に広げることができるとともに、光の波長まで制御可能としていることにより、高精度な自然環境を再現した試験を可能にすると同時に試験の幅を広げることができるため、特定の環境に適した植物の選定を効率的に行うことができる。また、特定の植物の栽培に適した気象条件を調査することなどができる。また、また、当該人工気象装置ではこのように高精度な自然環境を再現した試験が可能となるため、気象変動などに対しても頑健で安定した生産性を達成できる優良品種を迅速に提供することなどが可能となる。
【0011】
上記人工気象装置では、LED光源を交換可能とすることが好ましい。このような人工気象装置によれば、単一のLED光源では困難であった高精度の自然環境を再現することができる。
【0012】
上記人工気象装置では、環境データが、屋外に配置された観測器によって取得された実測値から生成されることが好ましい。このような人工気象装置によれば、世界中の任意の地点の気象条件を再現することができる。
【0013】
上記人工気象装置では、環境データが、観測器によって直前に取得された実測値から生成される態様にすることができる。このような人工気象装置によれば、世界中の任意の地点の気象条件をリアルタイムに再現可能となる。
【0014】
上記人工気象装置では、試験室を撮像する複数の撮像部をさらに有する構成とすることが好ましい。さらに、複数の撮像部による撮像結果に基づき、試験室内の植物の状態を判定する状態判定部をさらに備える構成とすることが好ましい。このような人工気象装置によれば、試験室内の植物の状態を自動的に判定可能となるため、特定の環境に適した植物の選定をより効率的に行うことができる。また、特定の植物の栽培に適した気象条件を、より効率的に調査することなどができる。
【0015】
上記人工気象装置では、試験室内の状態、及び試験室内の植物の状態の少なくとも一方を検知するセンサと、センサによる検知結果を記憶する記憶部と、をさらに備える構成とすることが好ましい。このような人工気象装置によれば、試験室内の状態を示す環境数値データ、及びカメラで撮像した画像データ等をサーバ等に自律的に蓄積させることができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る人工気象システムは、上記人工気象装置と、屋外に配置された観測器と、を備え、人工気象装置は、観測器と通信する受信部をさらに備え、観測器は、人工気象装置に環境データを送信する送信部をさらに備える構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一形態の人工気象装置によれば、例えば、育種選抜において、遺伝的に異なる複数の品種の表現型の差を観測し、品種の能力を最大化する環境を明らかにすることなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る人工気象システムの概念図である。
図2】実施形態に係る人工気象システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。
【0020】
本実施形態の人工気象システムは、試験室内に配置された植物を栽培する環境を環境データに基づいて試験室内に作り出し、植物の育成を観測できる植物育成用のシステムである。
【0021】
図1は、本実施形態の人工気象システム1の概念図である。図1に示されるように、人工気象システム1は、PC(Personal Computer)10、複数の人工気象装置30、及び観測器40を含んで構成される。人工気象システム1では、屋外に配置された観測器40による実測値から生成された環境データを、PC10を介して人工気象装置30に与え、人工気象装置30の内部に設けられた試験室に所定の環境を作り出す。試験室内にはカメラ及びセンサ等が配置され、画像データ及びセンサによる検知結果をPC10にフィードバックして、環境制御を実行することなどができる。
【0022】
図2は、本実施形態の人工気象システム1の具体的な構成を示す図である。図2に示されるように、人工気象システム1は、PC10、制御盤20、複数の人工気象装置30、観測器40、及びサーバ50を含んで構成される。制御盤20は、人工気象装置30の機能の一部であってもよいし、人工気象装置30とは独立した装置であってもよい。サーバ50は、PC10とは別に設けてもよいし、PC10と兼用してもよい。すなわち、サーバ50はPC10の一部であってもよい。図2には2つの人工気象装置30を示しているが、人工気象システム1に含まれる人工気象装置30の数は任意に変更可能である。
【0023】
観測器40は、人工気象装置30で再現したい屋外等の任意の地点に配置され、人工気象装置30で再現するための気象データを測定し取得する。観測された気象データは、日長、光質、温度、湿度、炭酸ガス濃度、及び風速といった気象条件のデータを単位時間ごとに示したものである。日長及び光質は、日照時間を含むがそれだけでなく、各時間における明るさ、照射される光の波長の組み合わせ及び強さなどを含む。観測器40は、測定することで取得された気象データを、図示しない送信部によってPC10に送信する。送信部による気象データの送信は、観測器40からPC10に送信可能な態様であれば有線通信でも無線通信でも構わないし、インターネットを介してもその他のネットワークを介しても構わない。観測器40は、必ずしも直接PC10に気象データを送信しなくても構わない。例えば、観測器40は気象データをサーバ等に送信して記憶させ、その後PC10がこの気象データを受信するような態様であっても構わない。観測器40で気象データが観測された直後に、当該気象データを環境データとして用いるよう人工気象装置30を動作させると、観測器40が配置された場所の環境をリアルタイムで実現可能となる。
【0024】
PC10は、図示しない受信部によって観測器40から送信される気象データを受信する。PC10は、受信した気象データに基づいて環境データを生成する。PC10は、人工気象装置30の試験室31で作り出す気象条件を示す環境データを制御盤20に出力する。環境データは、例えばcsvデータ等である。PC10から制御盤20を介して人工気象装置30に与えられる環境データは、観測器40で観測された気象データと同様に、日長、光質、温度、湿度、炭酸ガス濃度、及び風速といった、気象条件のデータを単位時間ごとに示すデータである。気象データと環境データとは同一のデータ形式であってもよいが、人工気象装置30で用いられる環境データは、気象データに基づいて、データの間引き、補完、またはその他の方法で加工されたデータであってもよい。
【0025】
PC10は、観測器40で取得された気象データ以外のデータを環境データとして制御盤20に出力してもよい。このような環境データは、例えば、観測器40による観測とは別の方法で観測されたデータに基づいて生成されてもよいし、ユーザが試験を行いたい気象条件を用いて任意に生成されてもよい。例えば、ユーザがPC10を操作してプログラムを実行し、日の出および日の入の時刻を任意に変更し、温度を任意の範囲でカスタマイズすることも可能であり、観測器40が配置されていない地域の気象や気候変動シナリオを再現することも可能である。
【0026】
なお、PC10に代えて、サーバ及びPC端末を用いてもよいし、タブレット機器または携帯機器を用いてもよい。
【0027】
制御盤20は、制御対象となる人工気象装置30にそれぞれ対応したプログラム設定器21、及び制御部22を含む。人工気象システム1に含まれる人工気象装置30の数に応じて、プログラム設定器21及び制御部22が設けられる。ただし、ひとつのプログラム設定器21及び制御部22がすべての人工気象装置30を制御してもよい。
【0028】
プログラム設定器21は、人工気象装置30で用いる環境データを設定することができる。プログラム設定器21は、PC10から与えられた環境データを人工気象装置30で用いるよう設定されてもよいし、複数の環境データを記憶してどの環境データを用いるかユーザにより決定可能にしてもよい。また、プログラム設定器21は、ユーザによって入力される環境データを受け付け、この環境データを人工気象装置30で用いるよう設定してもよい。また、プログラム設定器21は、人工気象装置30で発生した不具合等をユーザに知らせる機能を有していてもよい。プログラム設定器21は、例えば、タッチパネル、またはキーボード及び表示装置などの入出力装置を有する。
【0029】
制御部22は、与えられた環境データに基づいて所定の気象条件を人工気象装置30の試験室31内に作り出すため、人工気象装置30を制御する。具体的には、制御部22は、人工気象装置30のLED光源34、送風部35、及び調温調湿部36を制御し、試験室31内の気象条件を環境データに示される状態にする。また、制御部22は、撮像部33による画像の取得を制御することができる。
【0030】
人工気象装置30は、試験室31内に植物を栽培するための気象条件を作り出すための装置であって、試験室31、撮像部33、LED光源34、送風部35、調温調湿部36、及びセンサ38を含んで構成される。
【0031】
試験室31は、植物の栽培が可能な内部空間を有する。試験室31は、開閉扉32を有する。
【0032】
撮像部33は、試験室31の内部に配置され、試験室31の内部に配置された植物を撮像し、撮像結果として画像を取得する。撮像部33は、画像として静止画または動画を取得する。撮像部33は試験室31内の植物を立体的に確認可能にし、かつ種々の視覚的情報を取得するため、RGBカメラ、深度カメラ、赤外線カメラなどの複数のカメラを含む。植物を立体的に確認可能にするため、異なる角度から試験室31内部を撮像する複数のカメラを含む構成とすることが好ましい。撮像部33は、取得した画像をサーバ50に送信して記憶部52に記憶させる。撮像部33で撮像された画像は、異なる角度で撮像された画像であるため、画像処理が施されることで撮像対象を立体的に認識可能となる。これにより、人工気象装置30では試験室31内の植物の葉の表面積を求めることなどが可能である。
【0033】
LED光源34は、人工気象装置30の上部分に配置され、試験室31に対して天井側から光を照射する。LED光源34は、制御部22によって照射する光の波長及び強さを制御される。LED光源34は、人工気象装置30の外側から交換可能であり、試験室31に作り出す気象条件に応じて適宜交換される。LED光源34は、機能性成分量の向上やバイオマスの増大など、対象作物や対象形質に応じて選定される。
【0034】
送風部35は、試験室31に風を送る。送風部35は、制御部22によって送風される風の方向及び強さを制御される。
【0035】
調温調湿部36は、試験室31の温度及び湿度を調整する。調温調湿部36は、制御部22によって制御されることで、試験室31内の温度及び湿度を所望の状態にするよう作動する。
【0036】
なお、送風部35及び調温調湿部36をまとめて空調部37と称する。送風部35と調温調湿部36とは一体であってもよいし、調温機能と調湿機能とが異なる構成で実現される構成であってもよい。
【0037】
センサ38は、種々のセンサの組み合わせであって、試験室31内の光の波長及び強さ、温度、湿度、炭酸ガス濃度、及び風速を測定し、測定結果をサーバ50に送信して記憶部52に記憶させる。PC10または制御部22は、センサ38の測定結果に基づいて試験室31内の光の波長及び強さ、温度、湿度、炭酸ガス濃度、及び風速を調整するフィードバック制御を行ってもよい。このようなフィードバック制御は、人工気象装置30単体で行われてもよい。この場合、LED光源34及び空調部37がフィードバック制御で作動する。
【0038】
なお、撮像部33及びセンサ38は、いずれか一方のみが配置された構成であってもよい。また、センサ38は、試験室31内の光の波長及び強さ、温度、湿度、炭酸ガス濃度、及び風速の一部のみを測定する構成としてもよい。
【0039】
サーバ50は、人工気象装置30及びPC10と有線または無線で通信可能であって、ネットワークを構築する。サーバ50は、状態判定部51及び記憶部52を含んで構成される。
【0040】
記憶部52は、人工気象装置30の撮像部33及びセンサ38で取得された、画像のデータ及び測定結果の環境数値データを記憶する。記憶部52で記憶されたこれらのデータは、PC10等で確認することができる。なお、サーバ50には人工気象システム1の一部であるPC10からのみでなく、他のPCからもアクセス可能であり、PC10以外のPCも記憶部52に記憶された各種データを確認することができる。例えば、人工気象システム1とは別のPCから記憶部52のデータを確認して、試験対象の植物の低温・低日照における生育不良、高温・多湿における徒長状態、または花芽形成が起こる相転換時期などを、遠隔地から環境データとともに検知することなどが可能である。
【0041】
状態判定部51は、人工気象装置30の撮像部33及びセンサ38で取得された、画像のデータ及び測定結果のデータに基づいて、試験室31の植物の状態を判定することができる。状態判定部51は、例えば、サーバ50に記憶された画像データに対して画像処理を施し、撮像対象の植物の生育状態及び病気の状態などを判定する。状態判定部51は、PC10で所定のプログラムを実行することで実現されるソフトウェアである。状態判定部51は、PC10に含まれてもよい。
【0042】
本実施形態の人工気象システム1によれば、撮像部33及びセンサ38で測定されたデータから取得される環境データと各種生育データから、生育予測や形質予測のモデルを構築することが可能である。ノンパラメトリックなDVR法による生育予測などに適用できる。
【0043】
また、本実施形態の人工気象システム1では、様々な地域環境や、将来的に予測される気象条件を用いた作物の環境応答を観察することができる。
【0044】
また、実際の地域における栽培では、土壌微生物の影響も存在する。肥料を含む培養土と現地土壌とを比較することにより、再現環境でしか観察されない土壌微生物の作用を確認することができる。
【0045】
また、本実施形態の人工気象システム1は、再現環境下における農薬の効能評価、または微生物資材の有効性検証等にも使用することが可能である。
【0046】
さらに、これまでは研究者などが文献や経験上で知りえた情報で任意に環境条件を設定し、プログラミングを行うことが必要であったが、本実施形態の人工気象システム1を利用することで、観測器40により取得されたリアルタイムの気象データ、またはインターネットから取得された過去の気象データを用いることが容易となる。これにより、複雑なプログラミングを行うことなく、任意の栽培環境を1年中再現することなどが可能となる。
【0047】
また、従来の品種開発では、交配から品種作成までに10年以上の歳月を要する場合があった。本実施形態の人工気象システム1によれば、品種の評価を加速するとともに、自然環境を利用した場合は年1回しか行えなかった栽培と選抜を年複数回に増加させることができ、品種の作出期間を著しく短縮することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…人工気象システム
10…PC
20…制御盤
21…プログラム設定器
22…制御部
30…人工気象装置
31…試験室
32…開閉扉
33…撮像部
34…LED光源
35…送風部
36…調温調湿部
37…空調部
38…センサ
40…観測器
50…サーバ
51…状態判定部
52…記憶部
【要約】
【課題】高精度な自然環境の再現が可能な人工気象装置を提供する。
【解決手段】植物育成用の人工気象装置は、植物の栽培が可能な内部空間を有する試験室と、試験室に光を照射するLED光源と、試験室の温度及び湿度を調整する空調部と、LED光源及び空調部を制御する制御部と、を備える。制御部は、LED光源が試験室に照射する光の波長のデータを含む環境データに基づき空調部及びLED光源を制御する。
【選択図】図2
図1
図2