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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】調光積層体および複層ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20221128BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20221128BHJP
   E06B 3/66 20060101ALI20221128BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C03C27/12 L
C03C27/06 101J
E06B3/66 E
E06B9/24 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018521763
(86)(22)【出願日】2017-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2017021192
(87)【国際公開番号】W WO2017213191
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2016114526
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(73)【特許権者】
【識別番号】507090421
【氏名又は名称】エージーシー フラット グラス ノース アメリカ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AGC FLAT GLASS NORTH AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】11175 Cicero Dr. Suite 400, Alpharetta, GA 30022, U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】516170945
【氏名又は名称】エージーシー ヴィドロ ド ブラジル リミターダ
【氏名又は名称原語表記】AGC Vidros do Brasil Ltda.
【住所又は居所原語表記】Estrada Municipal Doutor Jaime Eduardo Ribeiro Pereira, n 500, Jardim Vista Alegre, Guaratingueta, Sao Paulo, CEP 12523-671, Brasil
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】中村 茂
(72)【発明者】
【氏名】平松 徹也
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-14784(JP,A)
【文献】特許第5684113(JP,B2)
【文献】特開昭63-298224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/12
B32B7/02
B32B17/06-17/10
E06B3/66-3/677
E06B5/00
G02F1/15-1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる1枚の調光基板と、前記調光基板の2枚の前記第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、前記第1透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、
前記2枚の第1透明基板のうち他方の第1透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、前記第3透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が20×10-7/℃以下であり、
前記第1透明基板のアルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で0.1%以下であり、
前記第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数は、45×10-7/℃以下であり、
前記第2透明基板及び前記第3透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数は、60×10-7/℃以上100×10-7/℃以下であり、
前記第1透明基板の厚さは0.1~2.0mmであり、
前記第2透明基板及び前記第3透明基板の厚さは3.0~12.0mmであり、
前記2枚の第1透明基板の厚さの差は、1mm以下であり、
前記第2透明基板および前記第3透明基板の厚さの差は、1mm以下である、調光積層体。
【請求項2】
2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる調光基板が少なくとも2枚以上積層されてなる調光基板ユニットと、前記調光基板ユニットの外側に位置する2枚の前記第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、前記第1透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、
前記調光基板ユニットの外側に位置する2枚の前記第1透明基板のうち他方の第1透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、前記第3透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が20×10-7/℃以下であり、
前記第1透明基板のアルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で0.1%以下であり、
前記第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数は、45×10-7/℃以下であり、
前記第2透明基板及び前記第3透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数は、60×10-7/℃以上100×10-7/℃以下であり、
前記第1透明基板の厚さは0.1~2.0mmであり、
前記第2透明基板及び前記第3透明基板の厚さは3.0~12.0mmであり、
前記2枚の第1透明基板の厚さの差は、1mm以下であり、
前記第2透明基板および前記第3透明基板の厚さの差は、1mm以下である、調光積層体。
【請求項3】
前記第3透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が等しい、請求項1又は2に記載の調光積層体。
【請求項4】
前記接着層は、いずれもシート状部材であり、厚さは0.1~2.0mmである、請求項1から3のいずれか1項に記載の調光積層体。
【請求項5】
2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる1枚の調光基板と、前記調光基板の2枚の前記第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、前記第1透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、
前記第2透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、前記第3透明基板と前記第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下であり、
前記2枚の第1透明基板の厚さの合計と前記第3透明基板の厚さの差は、1.1mm以下である、調光積層体。
【請求項6】
2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる調光基板が少なくとも2枚以上積層されてなる調光基板ユニットと、前記調光基板ユニットの外側に位置する2枚の前記第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、前記第1透明基板と前記第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、
前記第2透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、前記第3透明基板と前記第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下であり、
全ての記第1透明基板の厚さの合計と前記第3透明基板の厚さの差は、1.1mm以下である、調光積層体。
【請求項7】
前記第1透明基板のアルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で3%以下である、請求項5又は6に記載の調光積層体。
【請求項8】
前記第3透明基板と前記第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が等しい、請求項5から7のいずれか1項に記載の調光積層体。
【請求項9】
前記第2透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数が、前記第1透明基板および前記第3透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数よりも大きい、請求項8に記載の調光積層体。
【請求項10】
2枚の前記第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下である、請求項1から9のいずれか1項に記載の調光積層体。
【請求項11】
2枚の前記第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数が等しい、請求項1から10のいずれか1項に記載の調光積層体。
【請求項12】
2枚のガラス板がスペーサを介して隔置され、かつ2枚の前記ガラス板の周縁部がシール材によって封止されてなる複層ガラスにおいて、
2枚の前記ガラス板のうち、少なくとも1枚のガラス板が、請求項1から11のいずれか1項に記載の調光積層体である、複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光積層体および複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的制御によって光の透過状態を制御する調光機能材料を備えた調光積層体(調光装置又は調光ガラスとも称される。)が知られている。このような調光積層体は、光の透過状態を制御することにより、利用者の視野を遮蔽したり開放したり赤外線の流入を制御したりすることができるので、室内の間仕切り材、又は外窓等の建材として用いられている。
【0003】
調光積層体に用いられる調光機能材料としては、特許文献1の如く、エレクトロクロミック機能材料を使用したものが知られており、このエレクトロクロミック機能材料はガラス層上に配置される。また、特許文献1には、ガラス層からエレクトロクロミック機能材料中へのアルカリ、例えばナトリウム拡散を最小にするために、ガラス層としてソーダ石灰ガラスを使用せず、アルカリ酸化物含有量の少ないガラスを使用している。
【0004】
以下、特許文献1に開示された調光機能を有する物品について説明する。
【0005】
特許文献1の物品は、50×10-7/℃以下の熱膨張係数および4mm以下の厚さを有するガラス層、ガラス層上に配置されたエレクトロクロミック機能材料、ガラス層より大きい厚さを有する基板、および基板と、ガラス層またはエレクトロクロミック機能材料のいずれかとの間に配置されたラミネート層を有する。
【0006】
また、ガラス層として、10質量%以下のアルカリ酸化物含有量を有し、0.5mmから4mmまでの厚さを有する透明ガラス層が使用されること、ラミネート層として、ポリビニルブチラールが使用されること、基板として、ソーダ石灰ガラスが使用されることが特許文献1に開示されている。
【0007】
つまり、特許文献1には、エレクトロクロミック機能材料へのアルカリ成分のマイグレーション(migration)を防止するためのガラス層として、無アルカリガラスを使用すること、無アルカリガラスの強度を補強する基板として、ソーダ石灰ガラスを使用すること、および無アルカリガラスとソーダ石灰ガラスとをポリビニルブチラールによって接着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特許第5684113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の物品の製造方法は、一例として、通常の合わせガラスの製造方法と同様にオートクレーブ工程と称される熱処理工程を有する。すなわち、特許文献1の物品は、2枚の基板である無アルカリガラスとソーダ石灰ガラスとの間にポリビニルブチラールを挟み込み、これをローラーの間に流して予備接着を行い、その後、オートクレーブ釜に入れて、例えば120~150℃、1~1.5MPaで加熱し圧着することにより製造される。
【0010】
しかしながら、無アルカリガラスとソーダ石灰ガラス(以下、ソーダライムガラスという)とは、熱膨張係数が異なるため、製造後の物品には反りが発生するという問題があった。これにより、特許文献1の物品は、反射映像に歪みが生じるため、見栄えが悪いという問題があった。また、特許文献1の物品を、複層ガラスを構成するガラス板に適用した場合には、複層ガラスの中空層の厚さが、ガラス板の反りにより狭くなることに起因して断熱性能や遮熱性能が低下し、更には、中空層への透湿を抑制するシール材の密着性不良も発生させるという問題があった。なお、無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は、50×10-7/℃以下であり、これに対してソーダライムガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は、一般的に80~100×10-7/℃である。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、熱膨張係数の異なる複数の基板を積層して構成された調光積層体であっても、製造時に生じる反りを低減することができる調光積層体、およびその調光積層体を使用した複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、本発明の目的を達成するために、2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる1枚の調光基板と、調光基板の2枚の第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、第1透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、2枚の第1透明基板のうち他方の第1透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、第3透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が20×10-7/℃以下である調光積層体を提供する。
【0013】
本発明の一態様は、本発明の目的を達成するために、2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる調光基板が少なくとも2枚以上積層されてなる調光基板ユニットと、調光基板ユニットの外側に位置する2枚の第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、第1透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、調光基板ユニットの外側に位置する2枚の第1透明基板のうち他方の第1透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、第3透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が20×10-7/℃以下である調光積層体を提供する。
【0014】
本発明の一態様は、第3透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が等しいことが好ましい。また、このとき、本発明の一態様は、第3透明基板および第2透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数が、第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数よりも大きいことが好ましい。
【0015】
本発明の他の態様は、本発明の目的を達成するために、2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる1枚の調光基板と、調光基板の2枚の第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、第1透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、第2透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、第3透明基板と第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下である調光積層体を提供する。
【0016】
本発明の一態様は、本発明の目的を達成するために、2枚の第1透明基板の間に調光機能材料が設けられてなる調光基板が少なくとも2枚以上積層されてなる調光基板ユニットと、調光基板ユニットの外側に位置する2枚の第1透明基板のうち一方の第1透明基板に接着層を介して接着された第2透明基板と、を備えた調光積層体であって、第1透明基板と第2透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体において、第2透明基板に接着層を介して第3透明基板が接着され、第3透明基板と第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下である調光積層体を提供する。
【0017】
本発明の一態様は、第3透明基板と第1透明基板との50~350℃での平均熱膨張係数が等しいことが好ましい。また、このとき、本発明の一態様は、第2透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数が、第1透明基板および第3透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数よりも大きいことが好ましい。
【0018】
本発明の一態様は、2枚の第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下が好ましい。
【0019】
本発明の一態様は、2枚の第1透明基板の50~350℃での平均熱膨張係数が等しいことが好ましい。
【0020】
本発明の一態様は、第1透明基板のアルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で3%以下が好ましい。
【0021】
本発明の一態様は、本発明の目的を達成するために、2枚のガラス板がスペーサを介して隔置され、かつ2枚のガラス板の周縁部がシール材によって封止されてなる複層ガラスにおいて、2枚のガラス板のうち、少なくとも1枚のガラス板が、本発明の一態様の調光積層体である複層ガラスを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱膨張係数の異なる複数の基板を積層して構成された調光積層体であっても、製造時に生じる反りを低減することができる調光積層体、およびその調光積層体を使用した複層ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態に係る調光積層体の要部断面図である。
図2図2は、2枚の調光基板からなる調光基板ユニットを有する調光積層体の要部断面図である。
図3図3は、第2実施形態に係る調光積層体の要部断面図である。
図4図4は、2枚の調光基板からなる調光基板ユニットを有する調光積層体の要部断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係る調光積層体が適用された複層ガラスの要部断面図である。
図6図6は、第2実施形態に係る調光積層体が適用された複層ガラスの要部断面図である。
図7図7は、比較例と実施例との積層体を用いて反り量を測定した集計表図である。
図8図8(A)~(D)は、比較例と実施例との積層体の構成を模式的に示した説明図である。
図9図9(A)~(B)は、積層体の反り測定位置を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明に係る調光積層体および複層ガラスの好ましい実施形態を説明する。本明細書中で、数値範囲を“ ~ ”を用いて表す場合は、“ ~ ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0025】
〔第1実施形態に係る調光積層体10〕
図1は、第1実施形態に係る調光積層体10の要部断面図である。
【0026】
同図に示す調光積層体10は、2枚の第1透明基板12、14の間に調光機能材料16が設けられてなる1枚の調光基板18と、調光基板18の2枚の第1透明基板12、14のうち一方の第1透明基板12に接着層20を介して接着された第2透明基板22と、を備えた調光積層体10であって、第1透明基板12、14と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体10において、2枚の第1透明基板12、14のうち他方の第1透明基板14に接着層24を介して第3透明基板26が接着され、第3透明基板26と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が等しい。
【0027】
第1透明基板12、14としては、無アルカリガラスが適用される。この無アルカリガラスは、一例としてその厚さが0.1~2.0mmであり、0.5mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよく、1.0mm以上であってもよい。また、1.7mm以下であってもよく、1.5mm以下であってもよく、1.3mm以下であってもよい。また、その50~350℃での平均熱膨張係数は、50×10-7/℃以下が好ましく、45×10-7/℃以下がより好ましく、40×10-7/℃以下がさらに好ましく、38×10-7/℃以下が特に好ましい。また、その50~350℃での平均熱膨張係数は、30×10-7/℃以上であってよく、32×10-7/℃以上であってよく、35×10-7/℃以上であってよい。また、第1透明基板12、14の50~350℃での平均熱膨張係数の差は、10×10-7/℃以下が好ましく、5×10-7/℃以下がより好ましく、1×10-7/℃以下がさらに好ましく、50~350℃での平均熱膨張係数が等しいことが最も好ましい。更にまた、アルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で3%以下が好ましい。これにより、第1透明基板12、14から調光機能材料16へのアルカリ成分のマイグレーションを好適に抑制することができる。アルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。本発明において、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、例えば0.1%以下である。ここで、ガラスの平均熱膨張係数は、例えばアルカリ金属酸化物の含有量を変えることにより調整することができ、アルカリ金属酸化物の含有量を少なくすることにより平均熱膨張係数を小さくすることができる。なお、本願明細書で言う「厚さ」とは、JIS(日本工業規格)R3202:2011で規定されている、許容差を有する厚さである。
【0028】
調光機能材料16としては、エレクトロクロミック機能材料を例示するが、これに限定されるものではない。つまり、調光機能材料16としては、光学的性質を可逆的に可変できる材料であればよく、2枚の第1透明基板12、14のうち少なくとも一方の透明基板にコーティングすることが可能な薄膜や2枚の第1透明基板12、14の間に配置可能な固体やゲル状体であってもよい。また、調光機能材料16としては、SPD(Suspended Particle Device)、液晶、高分子分散型液晶、フォトクロミック、サーモクロミックが例示される。2枚の第1透明基板12、14によって調光機能材料16を外部から保護することによって、1枚の調光基板18が構成される。
【0029】
図2には、2枚の調光基板18を積層してなる調光基板ユニット19を有する調光積層体10の他の態様が示されている。
【0030】
図2に示す調光積層体10は、2枚の第1透明基板12、14の間に調光機能材料16が設けられてなる調光基板18が2枚積層されてなる調光基板ユニット19と、調光基板ユニット19の外側に位置する2枚の第1透明基板12、14のうち一方の第1透明基板12に接着層20を介して接着された第2透明基板22と、を備えた調光積層体10であって、第1透明基板12、14と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体10において、調光基板ユニット19の外側に位置する2枚の第1透明基板12、14のうち他方の第1透明基板14に接着層24を介して第3透明基板26が接着され、第3透明基板26と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が等しいものである。また、2枚の調光基板18は、対向する内側の第1透明基板12と第1透明基板14とが接着層24を介して接着されている。なお、調光基板18の枚数は2枚に限定されず3枚以上であってもよい。調光基板18を複数枚備えることにより、調光制御の分解能を細分化することができる。
【0031】
図1に戻り、第2透明基板22は、調光基板18の補強板として機能する。第2透明基板22としては、ソーダライムガラスが適用される。このソーダライムガラスは、一例としてその厚さが1.0~12.0mmである。厚さは、2.0mm以上であってもよく、3.0mm以上であってもよく、3.5mm以上であってもよい。また、厚さは、10.0mm以下であってもよく、8.0mm以下であってもよく、6.0mm以下であってもよく、5.0mm以下であってもよい。また、ソーダライムガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は、60~100×10-7/℃が好ましい。50~350℃での平均熱膨張係数は、70×10-7/℃以上であってもよく、80×10-7/℃以上であってもよい。また、50~350℃での平均熱膨張係数は、95×10-7/℃以下であってもよく、90×10-7/℃以下であってもよい。ここで、50~350℃での平均熱膨張係数は、JIS R3102:1995に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて50~350℃の温度範囲で測定される。
【0032】
接着層20としては、ポリビニルブチラール(PVB:polyvinyl butyral)製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)製、又は熱可塑性ポリウレタン(TPU:Thermoplastic Polyurethane)製等の例えばシート状部材を適用することができる。接着層20の厚さは、一例として0.1~2.0mmである。接着層20の厚さは、0.5mm以上であってもよく、0.7mm以上であってもよい。また、接着層20の厚さは、1.5mm以下であってもよい。これらの接着層20を適用することにより、調光基板18の第1透明基板12と第2透明基板22とを、予備圧着後にオートクレーブ工程にて接着することができる。
【0033】
第3透明基板26としては、第2透明基板22と同様にソーダライムガラスが適用される。このソーダライムガラスの厚さも一例として1.0~12.0mmである。厚さは、2.0mm以上であってもよく、3.0mm以上であってもよく、3.5mm以上であってもよい。また、厚さは、10.0mm以下であってもよく、8.0mm以下であってもよく、6.0mm以下であってもよく、5.0mm以下であってもよい。また、その50~350℃での平均熱膨張係数も60~100×10-7/℃である。50~350℃での平均熱膨張係数は、70×10-7/℃以上であってもよく、80×10-7/℃以上であってもよい。また、50~350℃での平均熱膨張係数は、95×10-7/℃以下であってもよく、90×10-7/℃以下であってもよい。
【0034】
接着層24としては、接着層20と同様にポリビニルブチラール製、エチレン-酢酸ビニル共重合体製、又は熱可塑性ポリウレタン製等の例えばシート状部材を適用することができる。接着層24の厚さも、一例として0.1~2.0mmである。これらの接着層24を適用することにより、調光基板18の第1透明基板14と第3透明基板26とを、予備圧着後にオートクレーブ工程にて接着することができる。これによって、実施形態の調光積層体10が製造される。なお、調光基板18への第2透明基板22と第3透明基板26との予備圧着は同時に行い、オートクレーブ工程にて接着し、調光積層体10を製造することが好ましい。
【0035】
なお、調光積層体10の製造工程には、オートクレーブ工程の前工程に、予備圧着工程を有する。この予備圧着工程では、接着層20、24による接着前の調光積層体10をラバーバッグに入れ、ラバーバッグ内を減圧系に接続し、80~130℃の加熱温度で所定時間、数百mmHg減圧した環境下で保持することで予備圧着を行う。この予備圧着工程の終了後、ラバーバッグ内の気圧を外気圧に戻し、オートクレーブ工程を実施する。接着層20、24の素材が、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の場合には、ラバーバッグによる予備圧着工程のみで調光積層体10を製造することもできる。また、50~130℃に加熱された調光積層体18を上下のニッパロールの間に通して加圧し予備圧着してもよい。
【0036】
上記の如く構成される第1実施形態の調光積層体10において、予備圧着工程又はオートクレーブ工程(例えば、加熱温度:120~150℃、圧力:1~1.5MPa、時間:10分)で接着されることにより生じる変形は、すなわち、調光積層体10の反りは、調光基板18の両側面に配置される第2透明基板22と第3透明基板26との熱膨張係数の差に支配される。
【0037】
ここで、特許文献1の物品は、両側面に配置された無アルカリガラスとソーダライムガラスとの熱膨張係数が大きく異なる。つまり、無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は50×10-7/℃以下であり、ソーダライムガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は80~100×10-7/℃であるので、少なくとも30×10-7/℃の差が生じている。このため、製造後の物品に反りが発生する。具体的には、ソーダライムガラスの熱膨張量が無アルカリガラスの熱膨張量よりも大きいため、ソーダライムガラスの無アルカリガラスと対向しない面が凹状となるような円弧状の反りが発生する。
【0038】
これに対する第1実施形態の調光積層体10は、両側面に配置される第2透明基板22と第3透明基板26との50~350℃での平均熱膨張係数は等しく、熱膨張量が同量となるので、調光積層体10の反りが抑制される。
【0039】
したがって、第1実施形態の調光積層体10によれば、熱膨張係数の異なる第1透明基板12、14と第2透明基板22とに、第3透明基板26を積層して構成された調光積層体10とすることによって、製造時に生じる反りを大幅に低減することができる。
【0040】
また、第1実施形態の調光積層体10では、第1透明基板12および第1透明基板14の厚さの差が1mm以下が好ましい。これにより、調光積層体10の反りが抑制される。第1透明基板12および第1透明基板14の厚さの差は、0.5mm以下がより好ましく、0.1mm以下がさらに好ましい。また、第2透明基板22および第3透明基板26の厚さの差は、1mm以下が好ましい。これにより、調光積層体10の反りが抑制される。第2透明基板22および第3透明基板26の厚さの差は、0.5mm以下がより好ましく、0.1mm以下がさらに好ましい。
【0041】
また、第1実施形態の調光積層体10では、両側面に配置される第2透明基板22と第3透明基板26との50~350℃での平均熱膨張係数は等しく、第2透明基板22および第3透明基板26の熱膨張係数が第1透明基板12、14よりも大きく、かつ調光積層体10の反りが抑制されるため、調光基板18に圧縮応力が発生しやすく、調光積層体10の使用時の熱割れを抑制することができる。
【0042】
第1実施形態の調光積層体10では、50~350℃での平均熱膨張係数の等しい第2透明基板22と第3透明基板26とを適用したが、これに限定されるものではなく、第2透明基板22と第3透明基板26との50~350℃での平均熱膨張係数の差が20×10-7/℃以下であればよい。これにより、特許文献1の物品と比較して、製造時に生じる調光積層体10の反りを低減できるので、歪みのない反射映像を得ることができる。また、後述するように、複層ガラスを構成する2枚のガラス板のうち、少なくとも一方のガラス板に第1実施形態の調光積層体10を適用した場合でも(図5参照)、調光積層体10の反りが低減されているため、複層ガラスが有する断熱性能や遮熱性能に影響を与えず、かつ、中空層への透湿を抑制するシール材の密着性不良も防止することができる。なお、第2透明基板22と第3透明基板26との50~350℃での平均熱膨張係数の差は、10×10-7/℃以下が好ましく、5×10-7/℃以下がより好ましく、2×10-7/℃以下がさらに好ましく、1×10-7/℃以下が特に好ましい。
【0043】
〔第2実施形態に係る調光積層体30〕
図3は、第2実施形態の調光積層体30の要部断面図である。第2実施形態の調光積層体30を説明する際に、図1で示した第1実施形態の調光積層体10と同一の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0044】
調光積層体30は、2枚の第1透明基板12、14の間に調光機能材料16が設けられてなる1枚の調光基板18と、調光基板18の2枚の第1透明基板12、14のうち一方の第1透明基板12に接着層20を介して接着された第2透明基板22と、を備えた調光積層体30であって、第1透明基板12、14と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体30において、第2透明基板22に接着層24を介して第3透明基板32が接着され、第3透明基板32と第1透明基板12、14との50~350℃での平均熱膨張係数が等しいものである。
【0045】
第3透明基板32は、第1透明基板12、14と同様に無アルカリガラスが適用される。この無アルカリガラスは、一例としてその厚さが0.1~4.0mmであるが、この厚さに限定されるものではない。無アルカリガラスの厚さは、0.5mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよく、1.0mm以上であってもよい。また、1.7mm以下であってもよく、1.5mm以下であってもよく、1.3mm以下であってもよい。また、無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は、50×10-7/℃以下が好ましく、45×10-7/℃以下がより好ましく、40×10-7/℃以下がさらに好ましく、38×10-7/℃以下が特に好ましい。また、無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は、30×10-7/℃以上であってよく、32×10-7/℃以上であってよく、35×10-7/℃以上であってよい。
【0046】
前述したように、調光積層体30の熱膨張による反りは、第2透明基板22の両側面に配置される第1透明基板12、14と第3透明基板32との熱膨張係数の差に支配される。
【0047】
第2実施形態の調光積層体30は、第2透明基板22の両側面に配置された第1透明基板12、14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数は等しく、熱膨張量が同量となるので、調光積層体30の反りが抑制される。
【0048】
したがって、第2実施形態の調光積層体30によれば、熱膨張係数の異なる第1透明基板12、14と第2透明基板22とに、第3透明基板32を積層して構成された調光積層体30とすることによって、製造時に生じる反りを大幅に低減することができる。
【0049】
また、第2実施形態の調光積層体30では、第1透明基板12および第1透明基板14の厚さの合計(調光基板18が2枚以上の場合は全ての第1透明基板12および第1透明基板14の厚さの合計)と第3透明基板32の厚さとの差が1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.1mm以下がさらに好ましい。これにより、調光積層体30の反りが抑制される。
【0050】
また、第2実施形態の調光積層体30では、第2透明基板22の両側面に配置される第1透明基板12、14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数は等しく、第2透明基板22の熱膨張係数が第1透明基板12,14および第3透明基板32の熱膨張係数よりも大きく、かつ調光積層体30の反りが抑制されるため、調光基板18に圧縮応力が発生しやすく、調光積層体30の使用時の熱割れを抑制することができる。
【0051】
第2実施形態の調光積層体30では、50~350℃での平均熱膨張係数の等しい第1透明基板12、14と第3透明基板32とを適用したが、これに限定されるものではなく、第1透明基板12、14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下であればよい。ここで、第1透明基板12、14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数の差が10×10-7/℃以下とは、第1透明基板12と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数の差、および第1透明基板14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数の差が、ともに10×10-7/℃以下であることを意味する。これにより、特許文献1の物品と比較して、製造時に生じる調光積層体30の反りを低減できるので、歪みのない反射映像を得ることができる。また、後述するように、複層ガラスを構成する2枚のガラス板のうち、少なくとも一方のガラス板に第2実施形態の調光積層体30を適用した場合でも(図6参照)、調光積層体30の反りが低減されているため、複層ガラスが有する断熱性能や遮熱性能に影響を与えず、かつ、中空層への透湿を抑制するシール材の密着性不良も防止することができる。なお、第1透明基板12、14と第3透明基板32との50~350℃での平均熱膨張係数の差は、5×10-7/℃以下がより好ましく、2×10-7/℃以下がさらに好ましく、1×10-7/℃以下が特に好ましい。
【0052】
図4には、2枚の調光基板18を積層してなる調光基板ユニット19を有する調光積層体30の他の態様が示されている。
【0053】
図4に示す調光積層体30は、2枚の第1透明基板12、14の間に調光機能材料16が設けられてなる調光基板18が2枚積層されてなる調光基板ユニット19と、調光基板ユニット19の外側に位置する2枚の第1透明基板12、14のうち一方の第1透明基板12に接着層20を介して接着された第2透明基板22と、を備えた調光積層体30であって、第1透明基板12、14と第2透明基板22との50~350℃での平均熱膨張係数が異なる調光積層体30において、第2透明基板22に接着層24を介して第3透明基板32が接着され、第3透明基板32と第1透明基板12、14との50~350℃での平均熱膨張係数が等しいものである。
【0054】
〔複層ガラス40、50〕
図5は、第1実施形態に係る調光積層体10が適用された複層ガラス40の要部断面図であり、図6は、第2実施形態に係る調光積層体30が適用された複層ガラス50の要部断面図である。図5および図6に示した複層ガラス40、50の主要部の構成は同一なので、同一の符号を付して説明する。また、複層ガラス50については、括弧の中に符号を付して説明する。
【0055】
複層ガラス40(50)は、矩形状に構成された調光積層体10(30)、ガラス板42、および枠状のスペーサ44を有する。調光積層体10(30)とガラス板42とは、スペーサ44によって隔置され、調光積層体10(30)とガラス板42との間に中空層46が形成される。スペーサ44は、その両側面44Aがブチル系シーリング材等の一次シール材48によって、調光積層体10(30)とガラス板42とに接着される。
【0056】
ここで、図5に示した調光積層体10の場合には、調光積層体10の第3透明基板26が一次シール材48を介してスペーサ44に接着され、図6に示した調光積層体30の場合には、調光積層体30の第1透明基板14が一次シール材48を介してスペーサ44に接着される。調光積層体30の場合には、第3透明基板32を、一次シール材48を介してスペーサ44に接着してもよいが、第3透明基板32を外側に向けて配置する図6の形態が調光基板18を保護する観点から好ましい。
【0057】
また、調光積層体10(30)とガラス板42との間の端縁部の凹部43に、シリコーン系シーリング材、ポリサルファイド系シーリング材、ポリウレタン系シーリング材、ブチル系シーリング材等の二次シール材52が封着される。これによって、調光積層体10(30)とガラス板42とで挟まれる中空層46が封止される。
【0058】
スペーサ44は、中空のパイプ材によって構成され、スペーサ44の中空部44Bにはゼオライト等の乾燥材54が充填される。また、スペーサ44には、中空部44Bと中空層46とを連通する貫通孔44Cが形成され、これによって、中空層46の気体が乾燥材54によって乾燥される。また、中空層46には、機能性ガスである断熱性ガス(アルゴンガス、クリプトンガス等の不活性ガス)が予め封入されてもよい。断熱性ガスが予め封入されることにより、複層ガラス40(50)の断熱性が向上する。
【0059】
更に、ガラス板42および第3透明基板26(第1透明基板14)の中空層46側の面には、遮熱性や断熱性を向上させるための低放射膜であるLow-E(Low Emissivity)膜56がコーティングされてもよい。ガラス板42は、フロート法によって製造された所謂フロートガラスでもよく、網入りガラス等の防火ガラス又は合わせガラスであってもよい。
【0060】
複層ガラス40(50)を構成する2枚のガラス板のうち、少なくとも一方のガラス板に調光積層体10(30)を適用すると、複層ガラス40(50)に調光機能を備えさせることができ、かつ、調光積層体10(30)自身の反りが低減されているため、複層ガラス40(50)が有する断熱性能や遮熱性能に影響を与えず、かつ、中空層46への透湿を抑制する一次シール材48の密着性不良も防止することができる。なお、複層ガラス40(50)においては、ガラス板42に代えて調光積層体10(30)を適用してもよい。
【0061】
〔積層体の反りの試験結果〕
図7に示すデータ集計表は、比較例1、2、3、実施例1、2および比較例4、5、6、実施例3、4の合計で10体の積層体を用いて反り量を測定したデータを、積層体ごとに集計したものである。以下、10体の積層体を、図8の(A)~(D)に示した積層体100A~100Dに対応させてその構成を説明する。また、以下に説明するソーダライムガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は80~100×10-7/℃である。また、以下に説明の無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は30~40×10-7/℃である。
【0062】
<積層体の構成>
図8(A)で示す積層体100Aが比較例1、2の積層体に相当する。
【0063】
比較例1、2の積層体100Aは、厚さ4mmのソーダライムガラス102と厚さ1.1mmの無アルカリガラス104とを、ポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層106を介して積層し、これをオートクレーブチャンバにて加熱、加圧することにより製造された積層体である。比較例1、2の接着層106の厚さは、それぞれ0.76mm、3.05mmである。
【0064】
図8(B)で示す積層体100Bが比較例3の積層体に相当する。
【0065】
比較例3の積層体100Bは、厚さ1.1mmの2枚の無アルカリガラス108、110を、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層112を介して積層し、かつ、一方の無アルカリガラス108と厚さ4mmのソーダライムガラス114とを、厚さ3.05mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層116を介して積層し、これをオートクレーブチャンバにて加熱、加圧することにより製造された積層体である。比較例3の積層体100Bは、調光機能材料16は有していないが、調光機能材料16の代わりにポリビニルブチラール製の接着層112を使用し、接着層112を調光機能材料16と見立てて評価した。
【0066】
図8(C)で示す積層体100Cが実施例1の積層体に相当する。
【0067】
実施例1の積層体100Cは、厚さ1.1mmの2枚の無アルカリガラス(2枚の第1透明基板)118、120を、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層122を介して積層し、かつ、一方の無アルカリガラス118と厚さ4mmのソーダライムガラス(第2透明基板)124とを、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層126を介して積層し、かつ、他方の無アルカリガラス120と厚さ4mmのソーダライムガラス(第3透明基板)128とを、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層130を介して積層し、これをオートクレーブチャンバにて加熱、加圧することにより製造された積層体である。実施例1の積層体100Cは、調光機能材料16は有していないが、反り量は、第1実施形態の調光積層体10と略等価である。つまり、実施例1の積層体100Cは、調光機能材料16の代わりにポリビニルブチラール製の接着層122を使用し、接着層122を調光機能材料16と見立てて評価した。
【0068】
図8(D)で示す積層体100Dが実施例2の積層体に相当する。
【0069】
実施例2の積層体100Dは、厚さ1.1mmの2枚の無アルカリガラス(2枚の第1透明基板)132、134を、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層136を介して積層し、かつ、一方の無アルカリガラス132と厚さ4mmのソーダライムガラス(第2透明基板)138とを、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層140を介して積層し、かつ、ソーダライムガラス138と厚さ1.1mmの無アルカリガラス(第3透明基板)142とを、厚さ0.76mmのポリビニルブチラール(中間膜:PVB)製の接着層144を介して積層し、これをオートクレーブチャンバにて加熱、加圧することにより製造された積層体である。実施例2の積層体100Dは、調光機能材料16は有していないが、反り量は、第2実施形態の調光積層体30と略等価である。つまり、実施例2の積層体100Dは、調光機能材料16の代わりにポリビニルブチラール製の接着層136を使用し、接着層136を調光機能材料16と見立てて評価した。
【0070】
図8(A)で示す積層体100Aが比較例4、5、6の積層体に相当する。
【0071】
比較例4、5、6の積層体100Aは、厚さ4mmのソーダライムガラス102と厚さ1.1mmの無アルカリガラス104とを、エチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層146を介して積層し、これをラバーバッグに入れて加熱、減圧することにより製造された積層体である。比較例4、5、6の接着層146の厚さは、0.8、2.0、3.2mmである。
【0072】
図8(C)で示す積層体100Cが実施例3の積層体に相当する。
【0073】
実施例3の積層体100Cは、厚さ1.1mmの2枚の無アルカリガラス(2枚の第1透明基板)118、120を、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層122を介して積層し、かつ、一方の無アルカリガラス118と厚さ4mmのソーダライムガラス(第2透明基板)124とを、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層126を介して積層し、かつ、他方の無アルカリガラス120と厚さ4mmのソーダライムガラス(第3透明基板)128とを、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層130を介して積層し、これをラバーバッグに入れて加熱、減圧することにより製造された積層体である。実施例3の積層体100Cは、調光機能材料16は有していないが、反り量は、第1実施形態の調光積層体10と略等価である。つまり、実施例3の積層体100Cは、調光機能材料16の代わりにエチレン-酢酸ビニル共重合体製の接着層122を使用し、接着層122を調光機能材料16と見立てて評価した。
【0074】
図8(D)で示す積層体100Dが実施例4の積層体に相当する。
【0075】
実施例4の積層体100Dは、厚さ1.1mmの2枚の無アルカリガラス(2枚の第1透明基板)132、134を、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層136を介して積層し、かつ、一方の無アルカリガラス132と厚さ4mmのソーダライムガラス(第2透明基板)138とを、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層140を介して積層し、かつ、ソーダライムガラス138と厚さ1.1mmの無アルカリガラス(第3透明基板)142とを、厚さ0.8mmのエチレン-酢酸ビニル共重合体(中間膜:EVA)製の接着層144を介して積層し、これをラバーバッグに入れて加熱、減圧することにより製造された積層体である。実施例4の積層体100Dは、調光機能材料16は有していないが、反り量は、第2実施形態の調光積層体30と略等価である。つまり、実施例4の積層体100Dは、調光機能材料16の代わりにエチレン-酢酸ビニル共重合体製の接着層136を使用し、接着層136を調光機能材料16と見立てて評価した。
【0076】
<積層体の反り測定箇所>
図9は、積層体100A~100Dの反り測定位置を説明した図であり、(A)は積層体100A~100Dの側面図、(B)は、積層体100A~100Dの平面図である。また、これらの積層体100A~100Dは、長辺aの長さが1335mmであり、短辺bの長さが825mmの矩形状のものである。測定位置としては、頂点C-D、A-C、A-B、B-D、B-C、A-Dを結ぶ辺Lに沿う位置とした。また、その位置の反り量をh(mm)とした場合の評価値として、本件の実験ではh≦3.0mmであることを設定した。また、積層体100A~100Dの反り量h(mm)は、JIS(日本工業規格)R3205:2005に準拠した測定方法で実施した。
【0077】
図7の実験結果によると、比較例1の積層体100Aに関しては、A-C(2.0mm)、B-D(2.0mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。比較例2の積層体100Aに関しては、A-C(1.0mm)、A-B(2.5mm)、B-D(1.0mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。比較例3の積層体100Bに関しては、A-C(1.5mm)、A-B(3.0mm)、B-D(1.0mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。
【0078】
一方、比較例4の積層体100Aに関しては、A-C(2.0mm)、B-D(2.5mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。比較例5の積層体100Aに関しては、A-C(3.0mm)、B-D(3.0mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。また、比較例6の積層体100Aに関しては、A-C(0.5mm)、B-D(1.0mm)の測定位置でh≦3.0mmを満たしたが、その他の測定位置ではh≦3.0mmを満たすことができなかった。
【0079】
これに対して、実施例1の積層体100Cは、全ての測定位置において反り量が0であった。また、実施例2の積層体100Dは、全ての測定位置において反り量h(mm)が0.5~1.5mmの範囲であり、h≦3.0mmを満たすことができた。また、実施例3の積層体100Cは、全ての測定位置において反り量h(mm)が0.0~0.5mmの範囲であり、h≦3.0mmを満たすことができた。また、実施例4の積層体100Dは、全ての測定位置において反り量h(mm)が1.0~1.5mmの範囲であり、h≦3.0mmを満たすことができた。
【0080】
以上の実験結果からも明らかなように、積層体100Cに相当する調光積層体10、および積層体100Dに相当する調光積層体30は、加熱処理の製造時に生じる反りを大幅に低減することができた。これにより、品質のよい調光積層体10、30を提供することができる。
【0081】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2016年6月8日出願の日本特許出願(特願2016-114526)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0082】
10…調光積層体、12、14…第1透明基板、16…調光機能材料、18…調光基板、19…調光基板ユニット、20…接着層、22…第2透明基板、24…接着層、26…第3透明基板、30…調光積層体、32…第3透明基板、40…複層ガラス、42…ガラス板、44…スペーサ、46…中空層、48…一次シール材、50…複層ガラス、52…二次シール材、54…乾燥材、56…Low-E膜、100A、100B、100C、100D…積層体、102…ソーダライムガラス、104…無アルカリガラス、106…接着層、108、110…無アルカリガラス、112…接着層、114…ソーダライムガラス、116…接着層、118、120…無アルカリガラス、122…接着層、124…ソーダライムガラス、126…接着層、128…ソーダライムガラス、130…接着層、132、134…無アルカリガラス、136…接着層、138…ソーダライムガラス、140…接着層、142…無アルカリガラス、144…接着層
図1
図2
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図6
図7
図8
図9