(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】非水電解質電池用バインダー、それを用いたバインダー水溶液およびスラリー組成物、並びに非水電解質電池用電極および非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221128BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221128BHJP
C08F 261/04 20060101ALI20221128BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F261/04
C08F8/00
(21)【出願番号】P 2019559614
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045227
(87)【国際公開番号】W WO2019117056
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017238852
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/133034(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/200003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/13
C08F 261/04
C08F 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体の中和塩を含んでなり、
前記中和塩が前記共重合体と多価金属を含む塩基性物質
およびアルカリ金属を含む塩基性物質との中和塩であ
り、
前記多価金属が、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、非水電解質電池用バインダー。
【請求項2】
多価金属が
マグネシウムまたはカルシウムである、請求項
1に記載の非水電解質電池用バインダー。
【請求項3】
非水電解質電池用バインダーにおける多価金属原子の含有量が、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対して0.5当量未満である、請求項1
または2に記載の非水電解質電池用バインダー。
【請求項4】
非水電解質電池用バインダーにおける、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比が1以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー。
【請求項5】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体がグラフト共重合体である、請求項1~
4のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダーおよび水を含んでなる、非水電解質電池用バインダー水溶液。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー、活物質および水を含んでなる、非水電解質電池用スラリー組成物。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダーおよび活物質を含んでなる層を備える集電体からなる非水電解質電池用電極。
【請求項9】
請求項
8に記載の非水電解質電池用電極を有する非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用バインダー、それを用いたバインダー水溶液およびスラリー組成物、並びに非水電解質電池用電極および非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、パッド型情報端末機器などの携帯端末の普及が著しい。携帯端末にはより快適な携帯性が求められ、小型化、薄型化、軽量化および高性能化が急速に進むに伴い、形態端末に用いられる電池にも、小型化、薄型化、軽量化および高性能化が要求されている。このような携帯端末の電源に用いられる二次電池として、リチウムイオン二次電池が多用されている。リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池は、セパレータを介して正極と負極を設置し、LiPF6、LiBF4、LiTFSI(リチウム(ビストリフルオロメチルスルホニルイミド))、LiFSI(リチウム(ビスフルオロスルホニルイミド))のようなリチウム塩をエチレンカーボネート等の有機液体に溶解させた電解液と共に容器内に収納した構造を有する。
【0003】
非水電解質電池を構成する負極および正極は、通常、バインダーおよび増粘剤を水または溶剤に溶解または分散させ、これに活物質や導電助剤(導電付与剤)などを混合して得られる電極用スラリー(以下、単に「スラリー」ということがある)を集電体に塗布した後、水または溶剤を乾燥することにより混合層として結着させて形成される。
【0004】
近年、環境への負荷低減や製造装置の簡便性の観点から、電極用スラリーとして、溶剤ではなく水を用いたスラリーへの関心が高まっており、特に負極の製造においては、水媒体を用いるスラリーへの移行が急速に進んでいる。このような水媒体用のバインダーとしては、最も工業的に用いられているスチレン-ブタジエンゴム(SBR)などのジエン系ゴムに増粘剤としてカルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC-Na)を添加した系(例えば、特許文献1)をはじめ、ポリアクリル酸などのアクリル系バインダー(例えば、特許文献2および3)、ポリアミド/イミド系のバインダー(例えば、特許文献4および5)、ポリビニルアルコール系バインダー(例えば、特許文献6および7)など種々のタイプのバインダーが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-13693公報
【文献】特開2002-260667公報
【文献】特開2003-282061公報
【文献】特開2001-68115公報
【文献】特開2015-65164公報
【文献】特開平11-250915公報
【文献】特開2017-59527公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来用いられているSBR/CMC-Na添加系のバインダーは、充放電時に発生する熱に対して弱く、容量維持率が低いという問題に加え、2液系であるために保存安定性が低く、スラリー作製工程が煩雑であるといった製造上の課題がある。また、上記特許文献2~5に開示されるようなアクリル系バインダーおよびポリアミド/イミド系バインダーでは、柔軟性が乏しく電極が割れやすいうえに電気抵抗が高いという問題が十分に解消されていない。さらに、ポリビニルアルコール系バインダーは、活物質が凝集し易いためスラリー安定性が低くなる傾向にあり、安定性を高めるためにセルロース誘導体のような水溶性高分子を併用した場合であっても、電気抵抗が高く、非水電解質電池の電極に用いるバインダーとして十分に満足のいくものではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、スラリー安定性に優れ、かつ、非水電解質電池の電極に用いた場合に低抵抗化を実現できる非水電解質電池用バインダーを提供し、非水電解質電池における電池の高容量化(低抵抗化、高効率化)、電池寿命(サイクル特性)および充電速度(レート特性)等の電池特性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体の中和塩を含んでなり、前記中和塩が前記共重合体と多価金属を含む塩基性物質との中和塩である、非水電解質電池用バインダー。
[2]前記中和塩が、前記共重合体と、多価金属を含む塩基性物質およびアルカリ金属を含む塩基性物質との中和塩である、前記[1]に記載の非水電解質電池用バインダー。
[3]多価金属が二価金属である、前記[1]または[2]に記載の非水電解質電池用バインダー。
[4]非水電解質電池用バインダーにおける多価金属原子の含有量が、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対して0.5当量未満である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー。
[5]非水電解質電池用バインダーにおける、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比が1以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー。
[6]ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体がグラフト共重合体である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダーおよび水を含んでなる、非水電解質電池用バインダー水溶液。
[8]前記[1]~[6]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダー、活物質および水を含んでなる、非水電解質電池用スラリー組成物。
[9]前記[1]~[6]のいずれかに記載の非水電解質電池用バインダーおよび活物質を含んでなる層を備える集電体からなる非水電解質電池用電極。
[10]前記[9]に記載の非水電解質電池用電極を有する非水電解質電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スラリー安定性に優れ、かつ、非水電解質電池の電極に用いた場合に低抵抗化を実現できる非水電解質電池用バインダーを提供することができ、これを用いて、非水電解質電池における電池特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
本発明の非水電解質電池用バインダー(以下、「本発明のバインダー」ともいう)は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体の中和塩を含んでなる。本発明において、共重合体の中和塩とは、エチレン性不飽和カルボン酸から生成するカルボニル酸の活性水素が、塩基性物質と反応して塩を形成し中和物として存在するものをいう。なお、本発明のバインダーは、主に前記中和塩から構成されるものであるが、共重合体の中和塩は、通常、複数の共重合体の存在下で塩基性物質と反応させることにより得られるため、本発明のバインダーには中和塩を形成せずに存在する共重合体も含まれ得る。
【0012】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体を用いることにより、従来のアクリル系バインダーやポリビニルアルコール系バインダーと比較して、電極の柔軟性を高めることができ、電極の長期使用において活物質が膨張と収縮を繰り返す場合であっても割れ難く、改善した耐久性を有する電極を得ることができる。本発明において、エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、入手性、重合性、生成物の安定性等の観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびマレイン酸が好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明において、共重合体中のビニルアルコールに対するエチレン性不飽和カルボン酸の含有量(エチレン性不飽和カルボン酸変性量)は、0.1~60モル%であることが好ましく、1~50モル%であることがより好ましく、5~35モル%であることがさらに好ましい。ビニルアルコールに対するエチレン性不飽和カルボン酸の含有量が前記範囲内であると、水に溶解する高分子量体としての親水性、水溶性、金属やイオンへの親和性が良好となる。また、非水電解質電池の電極に用いた場合に、電極に適度な靭性を付与し、電気抵抗を低くすることができるという利点もある。なお、エチレン性不飽和カルボン酸の含有量(変性量)は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)によって定量することができる。
【0014】
本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体の共重合形態は特に限定されず、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。規則的にビニルアルコールが配列することにより接着性を向上させることができるため、共重合形態としてはブロック共重合体またはグラフト共重合体が好ましく、高い接着性を保持したまま適度な柔軟性を得ることができるため、グラフト共重合体がより好ましい。また、製造が容易であり、工業的生産性に優れる点においても、グラフト共重合体が有利である。
【0015】
本発明において、上記共重合体は、ポリビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸を出発原料として、従来公知の方法により製造することができる。例えば、アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合などいずれの重合開始方法を用いてもよく、また、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、分散重合またはエマルジョン重合などいずれの方法を採用してもよい。
【0016】
本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体の平均分子量は、数平均分子量で5,000~250,000であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることがさらに好ましく、200,000以下であることがより好ましく、150,000以下であることがさらに好ましい。数平均分子量が上記下限値以上であると、良好な機械的強度を有するバインダーを得ることができる。また、数平均分子量が上記上限以下であると、スラリー組成物とした場合の粘度安定性が向上し、スラリーの凝集が生じ難く、スラリー組成物の取扱性に優れる。なお、本発明における共重合体の数平均分子量は、標準物質としてポリエチレンオキシドおよびポリエチレングリコールを用い、カラムとして水系カラムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を意味する。
【0017】
本発明のバインダーにおいて前記共重合体の中和塩は、前記共重合体と、多価金属を含む塩基性物質との中和塩である。前記共重合体を構成するエチレン性不飽和カルボン酸のカルボキシル基が多価金属により架橋された構造をとることにより、スラリー組成物とした場合に、バインダーを構成するポリマーの水酸基およびカルボン酸の水素結合による凝集が緩和され、スラリーの安定性を図ることができる。また、本発明のバインダーを水溶液とした場合に、架橋により粘度が増加し、凝集を抑制することによりスラリー安定性を向上させることができるという利点もある。
【0018】
本発明において、多価金属とは価数が二価以上の金属を意味し、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の周期表第2族の金属、アルミニウムなどが挙げられる。中でも、水への溶解性もしくは電気的安定性の観点から、多価金属は二価金属が好ましく、マグネシウムおよびカルシウムがより好ましい。本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体の中和塩を形成するために用い得る多価金属を含む塩基性物質としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸アルミニウムなどの酢酸塩;塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウムなどの塩化物等が挙げられる。中でも水への溶解性の観点から、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムが好ましい。多価金属を含む塩基性物質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明のバインダーにおいて、多価金属原子の含有量は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対して0.5当量未満であることが好ましい。ここで、本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子の当量とは、該エチレン性不飽和カルボン酸単位1モルに対する多価金属原子のモル量を表す。多価金属原子の含有量が0.5当量未満であると、必要以上の粘度上昇を抑制することができ、バインダーとしての取扱性がよくなり、電極の作製がしやすくなる。また、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体における接着効果は、分散した活物質を巻き込んだ状態でポリマーが凝集することにより高い接着性を示すと考えられ、共重合体と架橋構造を形成する多価金属原子の量が多過ぎると、形成された架橋によりポリマーの凝集力が抑制され、接着力が低下する傾向にあるが、0.5当量未満であれば高い接着性を実現し得る。したがって、多価金属原子の含有量は、エチレン性不飽和カルボン酸単位に対して0.4当量以下であることが好ましい。また、アルカリ残留の少ない水溶性の共重合体塩を得ることができ、当該バインダーを用いた電極の接着性も向上できるため、多価金属原子の含有量は、エチレン性不飽和カルボン酸単位に対して0.05当量以上であることが好ましく、0.08当量以上であることがより好ましい。
【0020】
また、本発明のバインダー中の多価金属原子の含有量は、用いる共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量、用いる多価金属の種類、およびエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子の量等により適宜決定されるものであって、特に限定されるものではないが、バインダーの総質量(固形分)に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~8質量%であることがより好ましく、0.1~5質量%であることがさらに好ましい。多価金属原子の含有量が上記範囲にあると、高い接着性およびスラリー安定性を実現し得る。なお、固形分とは、バインダーを構成する成分から溶媒を除いた成分を意味する。また、バインダー中の多価金属原子の含有量は、後述の実施例に記載される方法により測定することができる。
【0021】
本発明のバインダーにおいて前記共重合体の中和塩は、前記共重合体と、多価金属を含む塩基性物質およびアルカリ金属を含む塩基性物質との中和塩であることが好ましい。共重合体の中和塩が、多価金属に加えてアルカリ金属から構成されることにより、接着性およびスラリー安定性を向上させることができるとともに、多価金属が共重合体と形成する架橋構造によって金属イオン(電子)の導電パスが形成されることにより、電気抵抗を下げ、効率の高い電池を得ることができる。また、水への高い溶解性を確保することができ、増粘剤を用いずに適度な粘度に調整することが可能になる。
【0022】
本発明において用い得るアルカリ金属を含む塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;リン酸三ナトリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩等が挙げられる。アルカリ金属を含む塩基性物質は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、水への溶解性、入手性の観点から水酸化リチウムおよび水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
本発明のバインダーにおいて、アルカリ金属原子の含有量は、バインダーの用途等により適宜選択することができるが、通常、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対し0.1~0.9当量であることが好ましく、より好ましくは0.3~0.8当量である。ここで、本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対するアルカリ金属原子の当量とは、該エチレン性不飽和カルボン酸単位1モルに対するアルカリ金属原子のモル量を表す。アルカリ金属原子の含有量が上記範囲内であると、当該バインダー組成物を用いた電極の高い接着性が確保でき、電気抵抗を低く抑えることができる。
【0024】
本発明のバインダーにおいて、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比(中和度)は、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.9以下であり、さらに好ましくは0.8以下である。本発明において、上記多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比は、バインダーを構成するエチレン性不飽和カルボン酸から生成するカルボニル酸の活性水素が多価金属を含む塩基性物質およびアルカリ金属を含む塩基性物質と過不足なく反応して塩を形成し中和物となる場合に1となる。一方、多価金属原子およびアルカリ金属原子の量がエチレン性不飽和カルボン酸単位に対して過剰量であると、合計当量比は1を超える。エチレン性不飽和カルボン酸単位に対する多価金属原子およびアルカリ金属の合計当量比が上記上限以下であると、バインダーに高い接着性を付与することができ、かかるバインダーを用いて作製する電極は、集電体に対するバインダーの親和力が高くなって剥離し難くなるため、剥離による電池性能の低下が生じ難くなる。これは、多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比が上記上限以下であると、バインダー中に含まれる実質的に全ての多価金属原子およびアルカリ金属原子が上記共重合体と塩を形成するため、バインダー中に遊離した金属や中和塩の形成に使われなかった金属を含む塩基性物質が滑剤のような働きをすることにより接着性を低下させるのを防ぐことができるためであると考えられる。また、多価金属原子とアルカリ金属原子の合計当量比の下限は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.3以上である。合計当量比が上記下限以上であると、酸性度が低く電解液の分解を抑制し得るという利点がある。
【0025】
また、本発明のバインダー中の多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計含有量は、用いる共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量、用いる金属の種類、およびエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する金属原子の量等により適宜決定されるものであって、特に限定されるものではないが、バインダーの総質量(固形分)に対して、0.02~40質量%であることが好ましく、0.1~28質量%であることがより好ましく、0.2~15質量%であることがさらに好ましい。多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計含有量が上記範囲にあると、高い接着性およびスラリー安定性を実現し得る。なお、バインダー中のアルカリ金属の含有量は、後述の実施例に記載される方法により測定することができる。
【0026】
本発明のバインダーにおいては、特に、多価金属原子およびアルカリ金属原子のエチレン性不飽和カルボン酸単位に対する合計当量比が上記範囲にあり、かつ、多価金属原子の含有量が先に記載した所定の範囲にある場合に、多価金属により形成される架橋構造により高いスラリー安定性を維持したまま、高い接着性および低抵抗性を確保することができる。
【0027】
本発明のバインダーにおける上記多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比は、エチレン性不飽和カルボン酸から生成するカルボニル酸の活性水素が多価金属を含む塩基性物質およびアルカリ金属を含む塩基性物質と過不足なく反応して塩を形成し中和物となる場合、すなわち、中和点で1となる。中和点は塩基による適定、赤外線スペクトル、NMRスペクトルなどの方法を用いて決定することができるが、簡便かつ正確に測定するには、塩基による滴定を行うことが好ましい。具体的な滴定の方法としては、特に限定されるものではないが、イオン交換水等の不純物の少ない水に溶解して、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質により、中和を行うことによって実施できる。中和点の指示薬としては、特に限定するものではないが、塩基によりpH指示するフェノールフタレインなどの指示薬を使用することが出来る。
【0028】
本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体と多価金属を含む塩基性物質、および必要に応じてアルカリ金属を含む塩基性物質との中和塩は、公知の方法に従って上記共重合体と塩基性物質とを反応させることにより得られるが、水の存在下に反応を実施し、中和物を水溶液として得る方法が簡便であって好ましい。
【0029】
本発明において、前記バインダーは、必要に応じて、さらに増粘剤や界面活性剤等の当該分野で従来用いられている添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、種々のアルコール類、ポリエーテル類、セルロース類、でんぷんなどの多糖類を含み得る。特に、ポリビニルアルコールおよび/またはその変性物を含むことにより、カルボキシル基によるバインダーの凝集性と集電極との親和性が高まり接着性が向上する効果が期待できる。また、異なるポリマーを混合することで、見かけ上、分子量分布がブロードとなり、さらにポリマーの結晶性が低下するために柔軟性が向上する効果が期待できる。加えて、単独ポリマーでの凝集を、異種ポリマーとの分子間相互作用により抑制することで、スラリー安定性を向上する効果が期待できる。このため、これらを含むことは有利である。
【0030】
本発明のバインダーがポリビニルアルコールを含む場合、ポリビニルアルコールのけん化度は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。けん化度が上記範囲にあると、バインダー中に含まれる金属による加水分解を受けにくく、安定性を保持できるため好ましい。
【0031】
本発明のバインダーがポリビニルアルコールを含む場合、バインダー中に含まれるポリビニルアルコールの量は、バインダーの総質量に対して、好ましくは40質量%以下であり、より好ましく30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。ポリビニルアルコールの含有量が上記上限以下であると、低抵抗性を確保して、高い充放電効率を実現し得る。
【0032】
本発明のバインダーは、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体と多価金属を含む塩基性物質、および必要に応じてアルカリ金属を含む塩基性物質との中和塩からなっていてもよいが、上述したような添加剤等の上記中和塩、および存在する場合には前記中和塩を形成せずに存在する上記共重合体とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含む場合、その他の成分の含有量は、バインダーの総質量に対して合計で、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0033】
本発明のバインダーは、通常、上述のバインダーと水とからなるバインダー水溶液として使用される。したがって、本発明は、本発明のバインダーおよび水を含んでなる非水電解質電池用バインダー水溶液を対象とする。
【0034】
本発明のバインダー水溶液におけるバインダーの含有量は、その用途、所望する粘度等に応じて適宜決定すればよく、例えば、バインダー水溶液の総質量に対して1~50質量%であってよく、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%である。言い換えると、本発明のバインダー水溶液における水の含有量は、バインダー水溶液の総質量に対して、例えば50~99質量%であってよく、好ましくは70~97質量%であり、より好ましくは80~95質量%である。バインダーまたは水の含有量が上記範囲であると、適度な粘度の水溶液として取扱性が良好となる。
【0035】
さらに、本発明のバインダーは、上述のバインダーに加えて水および活物質を含有するスラリー組成物として用いることもできる。したがって、本発明は、本発明のバインダー、水および活物質を含んでなる非水電解質電池用スラリー組成物も対象とする。
【0036】
本発明のスラリー組成物におけるバインダーの含有量は、スラリー組成物中に含まれる活物質の総質量を100とした場合に、通常、0.1~15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%である。バインダーの含有量が上記範囲にあると、適度な粘度のスラリー組成物となり、集電体に塗布した際の層厚を所望する範囲に制御し易く、また、放電容量の低下を抑制することができる。
【0037】
また、本発明のスラリー組成物における水の量は、スラリー組成物中に含まれる活物質の総質量を100とした場合に、通常、30~150質量%であることが好ましく、より好ましくは70~120質量%である。
【0038】
本発明において、バインダーを溶解するための溶媒として、水に代えて、または、水に加えて、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類、N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドンなどの環状アミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などを使用することもできるが、安全性および環境保全等の観点からは、溶媒として少なくとも水を含むことが好ましい。
【0039】
また、本発明のスラリー組成物においては、上記溶媒に加えて、例えば、常圧における沸点が100℃以上300℃以下の有機溶媒等を併用してもよい。そのような有機溶媒としては、具体的に例えば、n-ドデカンなどの炭化水素類;2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノールなどのアルコール類;γ-ブチロラクトン、乳酸メチルなどのエステル類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド・スルホン類などの有機分散媒等が挙げられる。これらの有機溶媒を含む場合、その含有量は溶媒全体の20質量%以下となる範囲であることが好ましい。
【0040】
本発明のスラリー組成物を、非水電解質電池の負極を作製するために用いる場合、負極活物質として、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;Sn、Si;SiOx、SnOx、LiTiOxで表される複合金属酸化物やその他の金属酸化物やリチウム金属、リチウム合金などのリチウム系金属;TiS2、LiTiS2などの金属化合物などが例示される。
【0041】
また、非水電解質電池の正極を作製するために用いる場合、正極活物質としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)、ピロリン酸鉄(Li2FeP2O7)、コバルト酸リチウム複合酸化物(LiCoO2)、スピネル型マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMn2O4)、マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMnO2)、ニッケル酸リチウム複合酸化物(LiNiO2)、ニオブ酸リチウム複合酸化物(LiNbO2)、鉄酸リチウム複合酸化物(LiFeO2)、マグネシウム酸リチウム複合酸化物(LiMgO2)、カルシウム酸リチウム複合酸化物(LiCaO2)、銅酸リチウム複合酸化物(LiCuO2)、亜鉛酸リチウム複合酸化物(LiZnO2)、モリブデン酸リチウム複合酸化物(LiMoO2)、タンタル酸リチウム複合酸化物(LiTaO2)、タングステン酸リチウム複合酸化物(LiWO2)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)、Li過剰系ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LixNiACoBMnCO2固溶体)、酸化マンガンニッケル(LiNi0.5Mn1.5O4)、酸化マンガン(MnO2)、バナジウム系酸化物、硫黄系酸化物、シリケート系酸化物などが例示される。
【0042】
本発明においては、前記スラリー組成物は、必要に応じてさらに増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、特に限定されるものではなく当該分野で公知の増粘剤を用いることができ、例えば、種々のアルコール類、不飽和カルボン酸類およびその変性物、α-オレフィン-マレイン酸類およびその変性物、セルロース類、でんぷんなどの多糖類等が挙げられる。
【0043】
本発明のスラリー組成物が増粘剤を含む場合、その含有量は、スラリー組成物中に含まれる活物質の総質量を100とした場合に、0.1~4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。増粘剤の含有量が上記範囲内にあると、スラリー組成物に適度な粘度を付与することができるとともに、集電体に塗布した際の層厚を所望する範囲に制御し易く、また、放電容量の低下を抑制することができる。
【0044】
また、スラリー組成物は、必要に応じてさらに導電助剤を含有していてもよい。導電助剤としては、例えば、金属粉、導電性ポリマー、アセチレンブラックなどが挙げられる。スラリー組成物が導電助剤を含む場合、その含有量は、スラリー組成物に含まれる活物質の総質量を100とした場合に、通常、0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.8~7質量%である。
【0045】
本発明のバインダーは、非水電解質電池の電極に用いた場合に低抵抗化を実現できるため、非水電解質電池用電極の構成材料として適している。したがって、本発明は、本発明のバインダーおよび活物質を含んでなる層を備える集電体からなる非水電解質電池用電極も対象とする。本発明の非水電解質電池用電極は、例えば、本発明のバインダー、活物質および水を含むスラリー組成物を集電体に塗布した後、水等の溶媒を乾燥などの方法で除去させることにより本発明のバインダーおよび活物質を含んでなる層(以下、「混合層」ともいう)を集電体に決着させることにより作製することができる。
【0046】
本発明の非水電解質電池用電極を構成する集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の非水電解質電池負極用スラリーの効果が最もよく現れることから、負極用集電体としては銅を用いることが好ましい。これは、本発明のバインダーと銅箔との親和性が高く、高い接着性を有した負極を作製できるためである。負極用集電体の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001~0.5mm程度のシート状であることが好ましい。
【0048】
また、本発明の非水電解質電池負極用スラリーの効果が最もよく現れることから、正極用集電体としてはアルミニウムを用いることが好ましい。これは、本発明のバインダーとアルミニウム箔との親和性が高く、高い接着性を有した正極を作製できるためである。正極用集電体の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001~0.5mm程度のシート状であることが好ましい。
【0049】
スラリー組成物を集電体へ塗布する方法は、特に制限されず、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの方法を用いることができる。塗布量も特に制限されないが、溶媒または分散媒を乾燥などの方法によって除去した後に形成されるバインダーおよび活物質を含む混合層の厚みが、好ましくは0.005~5mm、より好ましくは0.01~2mmとなる量とするのがよい。
【0050】
スラリー組成物に含まれる水などの溶媒を除去するための乾燥方法は特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による通気乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、電子線などの照射線乾燥などが挙げられる。乾燥条件は、応力が集中することによって混合層に亀裂が入ったり、混合層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲となる中で、できるだけ早く溶媒を除去できるように調整することが好ましい。さらに、電極の活物質の密度を高めるために、乾燥後の集電体をプレスすることも有効である。プレス方法としては、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。
【0051】
さらに、本発明には、上記電極を有する非水電解質電池も包含される。非水電解質電池には、通常、負極、正極および電解液が含まれる。本発明の非水電解質電池としては、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、リチウム硫黄電池、全固体電池等が挙げられる。
【0052】
正極に本発明のバインダーを用いる場合、負極として、リチウムイオン二次電池等の非水電解質電池に通常用いられる負極を特に制限なく採用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、Si系酸化物などが挙げられる。また、負極活物質と、先に記載した導電助剤と、SBR、NBR、アクリルゴム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーとを、水や上述した常圧における沸点が100℃以上300℃以下の溶媒などに混合して調製した負極用スラリーを、例えば、銅箔等の負極集電体に塗布した後、乾燥等により溶媒を除去して負極とすることができる。
【0053】
また、負極に本発明のバインダーを用いる場合、正極として、リチウムイオン二次電池等の非水電解質電池に通常用いられる正極を特に制限なく採用することができる。例えば、正極活物質としては、TiS2、TiS3、非晶質MoS3、Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13などの遷移金属酸化物やLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4などのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。また、正極活物質と、先に記載した導電助剤と、SBR、NBR、アクリルゴム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーとを、水や上述した沸点が100℃以上300℃以下の溶媒などに混合して調製した正極用スラリーを、例えば、アルミニウム等の正極集電体に塗布した後、乾燥等により溶媒を除去して正極とすることができる。
【0054】
また、正極および負極が、いずれも本発明のバインダーを含む電極であってもよい。
【0055】
また、本発明の非水電解質電池には、電解質を溶媒に溶解させた電解液を使用することができる。電解液は、通常のリチウムイオン二次電池等の非水電解質電池に用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを適宜選択すればよい。具体的な電解質としては、例えば、従来公知のリチウム塩がいずれも使用でき、例えばLiClO4、LiBF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、CF3SO3Li、CH3SO3Li、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2N、低級脂肪族カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0056】
このような電解質を溶解させる溶媒(電解液溶媒)は特に限定されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ-ブチルラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素化合物類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン類;3-メチル-2-オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類などが挙げられ、これらは単独もしくは二種以上混合して使用できる。ゲル状の電解液を用いるときは、ゲル化剤としてニトリル系重合体、アクリル系重合体、フッ素系重合体、アルキレンオキサイド系重合体などを加えることができる。
【0057】
本発明の非水電解質電池を製造する方法としては、特に限定はないが、例えば、次の製造方法が例示される。すなわち、負極と正極とを、ポリプロピレン多孔膜などのセパレータを介して重ね合わせ、電池形状に応じて巻くまたは折るなどして、電池容器に入れ、電解液を注入して封口する。電池の形状は、公知のコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型などいずれであってもよい。
【0058】
本発明の非水電解質電池は、接着性と電池特性の向上を両立させた電池であり、様々な用途に有用である。例えば、小型化、薄型化、軽量化、高性能化を要求される携帯端末に使用される電池としても非常に有用である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
<ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体の合成>
市販のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、28-98s)100gに電子線(30kGy)を照射した。次に、攪拌機、還流冷却管、窒素導入管および粒子の添加口を備えた反応器に、アクリル酸33.4g、メタノール466.6gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。ここに電子線を照射したポリビニルアルコールを100g添加し、撹拌して粒子が溶液中に分散した状態で300分間加熱還流してグラフト重合を行った。その後、ろ別して粒子を回収し、40℃で終夜真空乾燥することにより、目的の共重合体(数平均分子量:25100)を得た。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は7.3モル%であった。なお、共重合体の上記数平均分子量および変性量は、以下の条件に従い、ゲル浸透クロマトグラフィーにて測定した。
【0061】
<共重合体の数平均分子量の測定方法>
昭和電工株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「GPC-101」を用い、以下の条件に従い測定した。
測定条件
カラム:東ソー株式会社製水系カラム「TSKgel GMPWXL」を2本直列で接続
標準試料:ポリエチレンオキシドおよびポリエチレングリコール
溶媒および移動相:0.1mol/L硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7L/min、温度:25℃
検出器:RI
【0062】
<共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量の測定方法>
40℃減圧乾燥を12時間行った試料をD2Oに溶解し、3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを少量加えた試料を調製し測定に用いた。1H-NMR(日本電子株式会社製; LAMBDA 500)を用い、25℃で1H-NMR測定を行った。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.8~4.2ppm(積分値A)、カルボン酸の根元(CH-COOH)由来のピークは2.0~2.5ppm(積分値B)に帰属され、次式で変性量を算出した。
変性量(mol%)=(B/A)×100
【0063】
<ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体の中和塩の調製>
上記で得られたビニルアルコールとアクリル酸共重合体10質量%水溶液100gに水酸化リチウムを共重合体中のカルボン酸単位に対し0.5当量添加し、80℃、2時間加熱撹拌し、その後、室温まで冷却した。その後、酢酸マグネシウムをカルボン酸単位に対して0.1当量添加し、酢酸を留去しながら90℃で1時間加熱撹拌し、室温まで冷却してバインダー水溶液を得た。1H-NMRのカルボン酸の根元のプロトンシフトから、共重合体中のカルボン酸単位に対するマグネシウムおよびリチウムの合計当量比を中和度として算出すると、0.7であった。
【0064】
<中和度の算出方法>
80℃熱風乾燥を1時間行った試料をD2Oに溶解し、3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを少量加えた試料を調製し測定に用いた。1H-NMR(日本電子株式会社製; LAMBDA 500)を用い、25℃で1H-NMR測定を行った。カルボン酸の根元(CH-COOH)由来のピークは2.0~2.5ppmに帰属され、塩化に伴い高磁場シフトすることから、添加量に対するシフト値の検量線を作成し、この検量線を用いることで、中和度を算出した。
【0065】
<多価金属原子およびアルカリ金属原子の含有量の測定>
得られたバインダー水溶液中の多価金属およびアルカリ金属の含有量(バインダー水溶液の固形分に対する質量%)を、それぞれ以下の方法に従い測定した。結果を表1に示す。
Thermo Fisher Scientific製微量元素分析装置「iCAP6500」を用い、前処理として試料0.01gを三角フラスコに秤量後、硫酸1ml、硝酸5mlを加え加熱分解後、途中硝酸(10ml程度)を加え完全分解させ、50mlメスアップ(溶媒:水)を行い、RFパワー1150W、ポンプ流量50rpm、補助ガス流量0.5L/分、ネブライザーガス流量0.7L/分、クラーントガス流量12L/分の条件で測定した。
【0066】
<スラリー組成物の作製>
電極用スラリー組成物の作製は、負極用活物質として人造黒鉛(FSN-1、中国杉杉製)96質量部に対して、前記バインダーの10質量%水溶液を固形分として3質量部、および導電助剤(導電付与剤)としてSuper-P(ティムカル社製)を固形分として1質量部専用容器に投入し、遊星攪拌器(ARE-250、シンキー株式会社製)を用いて混練し、電極塗工用スラリー組成物を作製した。スラリー組成物中の活物質とバインダーの組成比は固形分として、黒鉛粉末:導電助剤:バインダー=96:1:3(質量比)である。
【0067】
<スラリー組成物の安定性(目視試験)>
得られたスラリー組成物の安定性を確認するため、スラリー組成物調製直後の粒子沈降の様子を目視で確認した。評価基準としては、3時間以上沈降が生じなかったスラリーを◎、3時間~30分で沈降が生じたスラリーを△、30分以内に沈降が生じたスラリーを×と判断した。結果を表1に示す。
【0068】
<スラリー組成物の安定性(沈降速度)>
また、得られたスラリー組成物の粒子沈降速度(nm/秒)を、日本ルフト製分散安定性分析装置「Lumisizer610」を用い、作製したスラリーをPC製2mmセルに入れ、回転速度600rpm、温度25℃、3時間、Light Factor4の条件にて測定し、透過率20%の時間に対する移動距離から沈降速度を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
<電池用負極の作製>
得られた前記スラリー組成物を、バーコーター(T101、松尾産業株式会社製)を用いて集電体の銅箔(CST8G、福田金属箔粉工業株式会社製)上に塗工し、80℃で30分間、熱風乾燥機で一次乾燥後、ロールプレス(宝泉株式会社製)を用いて圧延処理を行なった。次いで、電池用電極(φ14mm)として打ち抜き後、140℃で3時間減圧条件の二次乾燥によってコイン電池用電極(負極)を作製した。
【0070】
<剥離強度、靱性試験用電極の作製>
得られた前記スラリー組成物を、バーコーター(T101、松尾産業株式会社製)を用いて集電体の銅箔(CST8G、福田金属箔粉工業株式会社製)上に塗工し、80℃で30分間、熱風乾燥機で一次乾燥後、ロールプレス(宝泉株式会社製)を用いて圧延処理を行ない剥離強度および靱性試験用の電極(膜厚約35μm)を得た。
【0071】
<電極の剥離強度測定>
集電極である銅箔から前記剥離強度試験用電極を剥離したときの強度を測定した。当該剥離強度は、50Nのロードセル(株式会社イマダ製)を用いて180°剥離強度を測定した。上記で得られた電池用塗工電極のスラリー塗布面とステンレス板とを両面テープ(ニチバン製両面テープ)を用いて貼り合わせ、180°剥離強度(剥離幅10mm、剥離速度100mm/分)を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
<電極の靱性試験>
電極の靭性の評価はJIS K5600-5-1(塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法))のタイプ1の試験装置を用いて行った。電極割れの確認を目視で行い、本試験での最大径2mmでも割れが生じなかった電極は、1.5mm、1.0mm、0.8mm、0.5mmのSUS棒(SUS304Wire ニラコ製)を用意し、電極巻き付け試験を行った。割れが生じなかった最小のSUS径を、下記表1に示す。
【0073】
<電池の作製>
上記で得られた電池用負極をアルゴンガス雰囲気下のグローブボックス(株式会社美和製作所製)に移送した。正極には金属リチウム箔(厚さ0.2mm、φ16mm)を用いた。また、セパレータとしてポリプロフィレン系(セルガード#2400、ポリポア株式会社製)を使用して、電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)のエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)にビニレンカーボネート(VC)を添加した混合溶媒系(1M-LiPF6、EC/EMC=3/7vol%、VC2重量%)を用いて注入し、コイン電池(2032タイプ)を作製した。
【0074】
<充放電特性試験>
作製したコイン電池について、市販充放電試験機(TOSCAT3100、東洋システム株式会社製)を用いて充放電試験を実施した。コイン電池を25℃の恒温槽に置き、充電はリチウム電位に対して0Vになるまで活物質量に対して0.1C(約0.5mA/cm2)の定電流充電を行い、さらにリチウム電位に対して0.02mAの電流まで0Vの定電圧充電を実施した。このときの容量を充電容量(mAh/g)とした。次いで、リチウム電位に対して0.1C(約0.5mA/cm2)の定電流放電を1.5Vまで行い、このときの容量を放電容量(mAh/g)とした。初期放電容量と充電容量差を不可逆容量、放電容量/充電容量の百分率を充放電効率とした。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例2)
水酸化リチウムおよび酢酸マグネシウムの添加量をカルボン酸単位に対して、それぞれ0.3当量としたこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
酢酸マグネシウムの代わりに酢酸カルシウムを加えたこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
実施例1で作製したビニルアルコールとアクリル酸共重合体10重量%水溶液100gに水酸化リチウムを重合体中のカルボン酸単位に対し0.2当量、水酸化ナトリウムを0.3当量、酢酸マグネシウムを0.1当量添加したこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例5)
アクリル酸を100g、メタノールを400g添加したこと以外は実施例1と同様にして、目的の共重合体を合成した。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は26.2モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例6)
市販のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、Elvanol 71-30)100gに電子線(30kGy)を照射した。次に、攪拌機、還流冷却管、窒素導入管および粒子の添加口を備えた反応器に、メタクリル酸25g、メタノール475gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。ここに電子線を照射したポリビニルアルコールを100g添加し、撹拌して粒子が溶液中に分散した状態で300分間加熱還流してグラフト重合を行った。その後、ろ別して粒子を回収し、40℃で終夜真空乾燥することにより、目的の共重合体を得た。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は7.0モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例7)
メタクリル酸を100g、メタノールを400g添加したこと以外は実施例5と同様にして、目的の共重合体を合成した。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は34.0モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例8)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、水370g、市販のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、M115)100gを仕込み、撹拌下95℃で加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、室温まで冷却した。得られた水溶液に0.5規定(N)の硫酸を添加してpHを3.0にした。ここに、撹拌下、アクリル酸9.9gを添加した後、該水溶液中に窒素をバブリングしながら70℃まで加温し、さらに70℃のまま30分間窒素をバブリングして窒素置換した。窒素置換後、該水溶液に過硫酸カリウム水溶液(濃度2.5質量%)80.7gを1.5時間かけて滴下した。全量添加後、75℃に昇温してさらに1時間撹拌した後、室温まで冷却した。得られた水溶液をPETフィルム上に流涎し、80℃で30分間熱風乾燥することでフィルムを作製した。当該フィルムを液体窒素で凍結した後、遠心粉砕機を用いて粉砕し、さらに40℃で終夜真空乾燥することにより、目的の共重合体を得た。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は6.0モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例9)
アクリル酸を20g、過硫酸カリウム水溶液(濃度2.5質量%)を150g添加したこと以外は実施例8と同様にして、目的の共重合体を合成した。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は12.0モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例10)
実施例9で作製したビニルアルコールとアクリル酸共重合体10重量%水溶液100gに、水酸化リチウムを共重合体中のカルボン酸単位に対し0.2当量、水酸化ナトリウムを0.3当量、酢酸マグネシウムを0.1当量添加したこと以外は、実施例9と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例11)
実施例9で作製したビニルアルコールとアクリル酸共重合体10重量%水溶液100gに、水酸化リチウムを共重合体中のカルボン酸単位に対し0.1当量、水酸化ナトリウムを0.2当量、酢酸マグネシウムを0.3当量添加したこと以外は、実施例9と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例12)
酢酸マグネシウムを酢酸カルシウムに変更したこと以外は実施例10と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例13)
攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル640g、メタノール240.4g、アクリル酸0.88gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。これとは別に、コモノマーの逐次添加溶液(以降ディレー溶液と表記する)としてアクリル酸のメタノール溶液(濃度20質量%)を調製し、30分間アルゴンをバブリングした。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.15gを添加し重合を開始した。重合反応の進行中は、調製したディレー溶液を系内に滴下することで、重合溶液におけるモノマー組成(酢酸ビニルとアクリル酸のモル比率)が一定となるようにした。60℃で210分間重合した後、冷却して重合を停止した。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、アクリル酸で変性されたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。次に、当該ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液にメタノールを追加して濃度を25質量%に調製したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400gに、20.4gの水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度18.0質量%)、メタノール79.6gを添加して、40℃でけん化を行った。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加後、数分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、40℃のまま60分間放置してけん化を進行させた。得られた粉砕ゲルをメタノールで繰り返し洗浄した後、40℃で終夜真空乾燥することにより、目的の共重合体を合成した。得られた共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸変性量は5.0モル%であった。この共重合体を用いて中和塩の調製を実施例1と同様の方法により行い、バインダー水溶液を調製した。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例14)
酢酸マグネシウムの量を、共重合体中のカルボン酸単位に対して0.5当量添加したこと以外は実施例9と同様にしてバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例15)
水酸化リチウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例16)
水酸化リチウムを添加しなかったこと以外は実施例2と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例17)
実施例1で作製したビニルアルコールとアクリル酸共重合体10重量%水溶液100gに、水酸化リチウムを添加せず、酢酸カルシウムを0.3当量添加したこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例2)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例5と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例3)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例6と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例4)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例7と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例5)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例8と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例6)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例9と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例7)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例13と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例8)
酢酸マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例10と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例9)
市販のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、28-98s)を用いて10質量%水溶液に調製し、バインダー水溶液として用いた。この水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例10)
酢酸マグネシウムを添加せず、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(セロゲンBSH-6、第一工業製薬株式会社製)を5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様の方法でバインダー水溶液の調製を行った。
得られたバインダー水溶液から、実施例1と同様の方法により非水電解質電池用スラリー組成物を調製し、スラリー組成物の安定性を評価した。また、実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。さらに、実施例1と同様の方法によって剥離強度試験用電極を作製し、剥離強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
本発明のバインダーを用いた実施例1~17では、非常に安定性に優れたスラリーを調製できることが明らかになった。また、架橋形態を形成できる多価金属を含有することで、電気抵抗が低くなり、93%以上の高い充放電効率を実現した。これに対し、多価金属塩を含まない比較例1~8では、高い充放電効率は示したものの、実施例と比較してスラリー安定性が十分ではなかった。また、増粘剤を用いて増粘させた比較例10では、接着性、スラリー安定性、充放電効率がともに低下し、単純な増粘効果だけでは、これらの物性や電池特性の向上を達成できないことが示された。また、共重合体中のカルボン酸単位に対する多価金属原子およびアルカリ金属原子の合計当量比が1以下である場合には、スラリー安定性および低抵抗性に加えて高い接着性も確保し得ることが確認された。
【0103】
<引張伸び試験>
実施例1および8、ならびに、比較例1で調製したバインダー水溶液(固形分10質量%)を、それぞれ、水平な台上に置いたテフロン基材(膜厚0.1mm、エスコ製)上に、乾燥時の膜厚が30μmとなるようバーコーター(T101、松尾産業株式会社製)を用いて塗工した。次いで、室温で1日風乾した後、テフロン基材を剥離し、引張伸び試験用の塗膜(フィルム)を得た。得られたフィルムを25℃、相対湿度45%の環境にて2日間放置した後、該フィルムの引張伸びを、以下の測定条件で測定した。結果を表2に示す。
【0104】
引張伸び測定条件
測定装置:オートグラフAG5000B、島津製作所社製
温度:25℃
湿度:45%RH
チャック間距離:70mm
試験速度:50mm/分
試験片:ダンベル型(試験部の幅10mm、JIS K 7162-1Bの試験片)
膜厚:30μm
【0105】
【0106】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体がグラフト共重合体である実施例1のバインダー水溶液から得られる塗膜は、高い引張伸びを示し、ブロック共重合体を用いた場合(実施例8)と比較して、高い接着性を保持しながら柔軟性も向上させ得ることが確認された。一方、多価金属塩を含まない場合(比較例1)では、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸共重合体がグラフト共重合体であっても柔軟性の向上は確認されなかった。