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特許7183211パルプ製造工程水系のカルシウム系スケール防止剤及びスケール防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】パルプ製造工程水系のカルシウム系スケール防止剤及びスケール防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/10 20060101AFI20221128BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20221128BHJP
   C02F 5/14 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C02F5/10 620B
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
C02F5/00 620B
C02F5/14 B
C02F5/14 C
C02F5/14 D
C02F5/14 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020031928
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133313
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2020-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一也
(72)【発明者】
【氏名】田口 千草
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】原 賢一
【審判官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-017191(JP,A)
【文献】特開昭63-194799(JP,A)
【文献】特開昭63-137799(JP,A)
【文献】特開昭60-034798(JP,A)
【文献】特開平09-094598(JP,A)
【文献】特開2009-28618(JP,A)
【文献】特開2009-240929(JP,A)
【文献】国際公開第2007/080811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体であって、
(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位との合計100モル部に対する(メタ)アクリル酸由来構成単位の割合が93~99モル部であり、(メタ)アクリル酸エチル由来構成単位の割合が1~7モル部であり、
重量平均分子量が、1000以上2500以下である共重合体を含有する、パルプ製造工程水系におけるカルシウム系スケール防止剤。
【請求項2】
さらにホスホン酸化合物を含有する請求項1のカルシウム系スケール防止剤。
【請求項3】
前記ホスホン酸化合物が2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンホスホン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2のカルシウム系スケール防止剤。
【請求項4】
前記ホスホン酸化合物を[共重合体]:[ホスホン酸化合物]の重量比で100:0~10:90含有する請求項2又は3のカルシウム系スケール防止剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のスケール防止剤を、処理対象のパルプ製造工程水系に添加する、パルプ製造工程水系におけるカルシウム系スケール防止方法。
【請求項6】
前記水系は、pH9以上、カルシウム硬度が100mg/L以上である、請求項5のパルプ製造工程水系におけるカルシウム系スケール防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水系、冷却水系、温水系、ボイラ水系、洗浄水系、工程水系、排水系等におけるカルシウム系スケール防止剤及びスケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スケールは、水中に溶解又は懸濁している物質が、固体表面に析出又は沈殿して固化したものである。スケールの種類は水系によって異なり、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛などがある。
【0003】
スケールは、ボイラ、冷却水系の機器、ゴミ焼却場、鉄鋼集塵水系の機器、排煙脱硫装置、海水淡水化装置などの多くの装置において、熱交換面、配管、器壁などに付着し、熱交換率低下、装置の破損、ポンプ圧上昇、流量低下、生産量の低下、運転操業の中断、エネルギーの浪費などの種々の障害を引き起こす。高温、高アルカリ条件下では、スケールが発生しやすく、スケールの除去が容易ではない。
【0004】
このために、操業を停止させることなく、連続的にスケール付着を防止することが望まれている。特に、カルシウム系スケールは、効率的な熱伝導や流体の流動を妨げるため、効果的にカルシウム系スケールの付着を防止できるスケール防止剤が求められている。
【0005】
カルシウム系スケールに対するスケール防止剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸が汎用されている。
【0006】
特許文献1には、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのモル比が25:75~95:5である共重合体が記載されている。特許文献2には、クラフトパルプの製造工程において、蒸解釜に供給する白液または黒液にポリマレイン酸またはその塩を添加する方法が記載されている。特許文献3には、化学パルプ化プロセスにおけるカルシウム塩スケールの形成抑制を改良する方法として、ホスホン酸誘導体塩を蒸解釜に添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭50-86489号公報
【文献】特公平2-53551号公報
【文献】特表2004-532945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3に記載の組成物では、カルシウム系スケールの付着を十分に防止することができない。本発明は、水系におけるカルシウム系スケールの付着を効果的に防止するスケール防止剤及びスケール防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体を含有するスケール防止剤を用いることによって、スケールの中でもカルシウム系スケールの付着を効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次を要旨とする。
[1] (メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体を含有する、水系におけるカルシウム系スケール防止剤。
[2] (メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位との合計100モル部に対する(メタ)アクリル酸由来構成単位の割合が70~99モル部であり、(メタ)アクリル酸エチル由来構成単位の割合が1~30モル部である、[1]の水系におけるカルシウム系スケール防止剤。
[3] 前記共重合体の重量平均分子量が、500以上100,000未満である、[1]又は[2]の水系におけるカルシウム系スケール防止剤。
[4] さらにホスホン酸化合物を含有する[1]~[3]のいずれかのカルシウム系スケール防止剤。
[5] 前記ホスホン酸化合物が2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンホスホン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である[4]のカルシウム系スケール防止剤。
[6] 前記ホスホン酸化合物を[共重合体]:[ホスホン酸化合物]の重量比で100:0~10:90含有する[4]又は[5]のカルシウム系スケール防止剤。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のスケール防止剤を、処理対象の水系に添加する、水系におけるカルシウム系スケール防止方法。
[8] 前記水系は、pH9以上、カルシウム硬度が100mg/L以上である、[7]の水系におけるカルシウム系スケール防止方法。
【発明の効果】
【0011】
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチルは、それぞれスケール防止用ポリマーの単量体成分として知られている。本発明者らは、その他にも知られている多種類のモノマーの膨大な組合せの中でも、(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体が、水系のスケール防止、特にパルプ製造工程水のカルシウム系スケールの防止に対して、従来のポリマーに比べて優れた効果を奏することを新たに見出した。
【0012】
本発明によれば、熱交換面、配管、器壁などに対するカルシウム系スケール付着が極めて効果的に防止される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。
【0014】
<スケール防止剤>
本発明のスケール防止剤は、(メタ)アクリル酸(アクリル酸及び/又はメタクリル酸)由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体を含有する。
【0015】
カルシウム系スケールに対するスケール防止剤としては、従来よりポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸が汎用されている。これらのポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸は、スケール成分の析出を防止する作用を有するが、パルプ製造工程など水系の過飽和度が非常に高い場合は、スケール成分の析出を抑制することが難しく、配管や熱交換器などの壁面にカルシウム系スケールが付着する。
【0016】
本発明で用いる(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体は、水系に添加された場合、アクリル酸由来の構成単位が炭酸カルシウム粒子に吸着し、該(メタ)アクリル酸由来構成単位を介して炭酸カルシウム粒子に吸着した共重合体中の(メタ)アクリル酸エチル由来構成単位が分散基として働き、析出したスケール成分を効果的に分散する。これにより、配管や熱交換器などの壁面に対するカルシウム系スケールの付着を効果的に防止することができる。
【0017】
<共重合体>
本発明の実施形態に係るスケール防止剤に含まれる共重合体における各単量体由来構成単位の割合は、(メタ)アクリル酸由来構成単位((メタ)アクリル酸単位)と(メタ)アクリル酸エチル由来構成単位((メタ)アクリル酸エチル単位)との合計を100モル部とした場合、(メタ)アクリル酸単位が70~99モル部であり、(メタ)アクリル酸エチル単位が1~30モル部であることが好ましく、(メタ)アクリル酸単位が90~99モル部であり、(メタ)アクリル酸エチル単位が1~10モル部であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸単位が93~99モル部であり、(メタ)アクリル酸エチル単位が1~7モル部であることがさらに好ましい。ただし、これに限定されない。
【0018】
本発明で用いる共重合体は、(メタ)アクリル酸由来構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来を構成単位とを含むものであるが、さらに他の1種又は2種以上の単量体由来の構成単位を含んでいてもよい。他の単量体由来構成単位の割合は、全構成単位100モル%中において30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であることが好ましい。
【0019】
(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エチル以外の単量体由来構成単位は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体中に1種単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれてもよい。なお、(メタ)アクリル酸単量体と(メタ)アクリル酸エチル単量体以外の単量体が(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルを構成単位とする共重合体中に2種以上含まれる場合は、その2種以上の任意の単量体は、(メタ)アクリル酸単量体もしくは(メタ)アクリル酸エチル単量体と共重合してもよいし、2種以上の任意の単量体同士で共重合してもよい。
【0020】
(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチル以外の単量体としては、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルと共重合し得るものであれば任意の単量体でよく、例えば、重合性不飽和カルボン酸単量体、重合性不飽和スルホン酸単量体、重合性不飽和ノニオン性単量体、芳香族不飽和単量体等が挙げられ、好ましくは重合性不飽和カルボン酸単量体、もしくは重合性不飽和スルホン酸単量体などが例示される。
【0021】
重合性不飽和カルボン酸単量体の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸などを挙げることができる。重合性不飽和カルボン酸は、重合性不飽和カルボン酸以外の単量体と共重合してもよいし、種類の異なる重合性不飽和カルボン酸同士が重合してもよい。種類の異なる重合性不飽和カルボン酸同士が重合するとは、例えば、マレイン酸とイタコン酸等の不飽和ジカルボン酸とが重合することをいう。
【0022】
重合性不飽和スルホン酸単量体の具体例としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、メタクリル酸4-スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート及びそれらの金属塩等が挙げられる。
【0023】
重合性不飽和スルホン酸単量体は、重合性不飽和カルボン酸と共重合してもよいし、重合性不飽和カルボン酸単量体及び重合性不飽和スルホン酸単量体以外の単量体と共重合してもよいし、種類の異なる重合性不飽和スルホン酸単量体同士が重合してもよい。種類の異なる重合性不飽和スルホン酸単量体同士が重合するとは、例えば、ビニルスルホン酸と(メタ)アリルスルホン酸とが重合することをいう。
【0024】
重合性不飽和ノニオン性単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-メチルアセトアミド、N-ビニルオキサゾリドン等のN-ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等の窒素含有ノニオン性不飽和単量体;3-(メタ)アリルオキシ-1,2-ジヒドロキシプロパン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有不飽和単量体;3-(メタ)アリルオキシ-1,2-ジヒドロキシプロパンにエチレンオキサイドを1~200モル程度付加させた化合物(3-(メタ)アリルオキシ-1,2-ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン)、(メタ)アリルアルコールにエチレンオキサイドを1~100モル程度付加させた化合物等のポリオキシエチレン基含有不飽和単量体等が挙げられる。重合性不飽和ノニオン性単量体は、重合性不飽和カルボン酸と共重合してもよいし、重合性不飽和カルボン酸単量体及び重合性不飽和ノニオン性単量体以外の単量体と共重合してもよいし、種類の異なる重合性不飽和ノニオン性単量体同士が重合してもよい。種類の異なる重合性不飽和ノニオン性単量体同士が重合するとは、例えば、(メタ)アクリル酸メチルとN-ビニルピロリドンとが重合することをいう。
【0025】
芳香族不飽和単量体の具体例としては、例えば、スチレン等が挙げられる。共重合体中で、芳香族不飽和単量体は、重合性不飽和カルボン酸と共重合してもよいし、重合性不飽和カルボン酸単量体及び芳香族不飽和単量体以外の単量体と共重合してもよいし、種類の異なる芳香族不飽和単量体同士が重合してもよい。
【0026】
<共重合体の分子量>
(メタ)アクリル酸由来構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来構成単位とを含有する共重合体の重量平均分子量は、500以上100,000未満であることが好ましく、1,000以上10,000以下がより好ましく、1,000以上6,500以下がさらに好ましく、1,000以上2,500以下が特に好ましい。(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルを構成単位とする共重合体の分子量が重量平均分子量で上記範囲内であると、スケール防止効果がより向上する。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC法)による標準ポリアクリル酸換算の値である。
【0027】
<共重合体の製造方法>
(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルを構成単位とする共重合体を製造する方法は、特に制限はなく、公知のラジカル重合法により共重合することができる。例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルとを水に溶解し、アゾ系、過酸化物系、レドックス系などの水溶性ラジカル重合開始剤を用い、重合温度50~100℃で、水溶液重合を行うことによって、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エチルを構成単位とする共重合体が得られる。
【0028】
[カルシウム系スケール防止剤における上記共重合以外の配合成分]
本発明のカルシウム系スケール防止剤は、上記共重合体以外の成分が配合(ブレンド)されてもよい。この共重合体以外の成分としては、ホスホン酸化合物、脂肪酸、ポリエチレングリコール、でんぷん、セルロース、リグニン、タンニンなどが例示され、中でもホスホン酸化合物が好適である。
【0029】
ホスホン酸化合物としては、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンホスホン酸、又はこれらの塩が例示されるが、これに限定されない。ブレンドするホスホン酸化合物は、1種、または2種以上であってよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エチル由来の構成単位とを含む共重合体と、ホスホン酸化合物とのブレンド比は、[共重合体]:[ホスホン酸化合物]の重量比で100:0~10:90(100:0超10:90以下)であることが好ましいが、これに限定されない。
【0031】
<スケール防止剤の使用形態>
本発明の実施形態に係るスケール防止剤は、単独で水系に添加されてもよく、他の水系用薬剤、例えば、亜鉛塩等の防食剤、マレイン酸系ポリマー、アクリル酸系ポリマー等のスケール防止剤、スライムコントロール剤等と共に水系に添加されてもよい。他の薬剤を併用する場合、本発明のスケール防止剤と、1液型の処理剤として用いてもよい。
【0032】
<併用できるスケール防止剤>
併用できるスケール防止剤としては、例えば、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、マレイン酸共重合物、マレイン酸/アクリル酸、マレイン酸/イソブチレン、マレイン酸/スルホン酸、アクリル酸/スルホン酸、アクリル酸/ノニオン基含有モノマーのコポリマー、アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマーのターポリマー等を挙げることができる。
【0033】
上記スケール防止剤におけるスルホン酸としては、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2―メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸4-スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸及びそれらの金属塩等が挙げられる。
【0034】
また、上記スケール防止剤におけるノニオン基含有モノマーとしては、例えば、アルキルアミド(C1~C5アルキルアミド)、ヒドロキシエチルメタクリレート、付加モル数1~30の(ポリ)エチレン/プロピレンオキサイドのモノ(メタ)アクリレート、付加モル数1~30のモノビニルエーテルエチレン/プロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0035】
<併用できる防食剤>
併用できる防食剤としては、例えば、亜鉛塩、ニッケル塩、モリブデン塩、タングステン塩、オキシカルボン酸塩、トリアゾール類、アミン類等を挙げることができる。
<併用できるスライムコントロール剤>
併用できるスライムコントロール剤としては、例えばアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、又はエチルアミノイソプロピルアミノメチルチアトリアジン、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸とスルホファミン酸の混合物等、酵素、殺菌剤、着色剤、香料、水溶性有機溶媒、及び消泡剤等を含むものであってもよい。
【0036】
上記のスケール防止剤、防食剤およびスライムコントロール剤は、それぞれ1種単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0037】
<スケール防止方法>
本発明のスケール防止方法では、本発明のスケール防止剤を処理対象の水系(例えば、パルプ製造工程水系)に添加し、スケール付着(スケール障害)を防止する。なお、本発明のスケール防止方法を適用する水系の運転条件には特に制限はない。水系のpHは9以上が好適である。水系のカルシウム硬度は100mg/L以上例えば100~2000mg/Lが好適である。
【0038】
水系に本発明のスケール防止剤を添加する場合、任意の濃度に調整した水溶液として添加することができる。その添加量は、特に制限はなく、添加する水系の水質に応じて適宜選択することができる。
【0039】
パルプ製造工程水系に対しては、スケール防止剤を1~100mg/L特に1~20mg/Lの添加量となるように添加することが好適である。
【実施例
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0041】
なお、以下の実施例及び比較例において各化合物の略号は次の通りである。
【0042】
AA:アクリル酸
EA:アクリル酸エチル
MA:マレイン酸
AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
HAPS:3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸
ホスホン酸A:2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、
ホスホン酸B:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸
【0043】
[共重合体1~5及び重合体1,2の製造]
<共重合体1の製造>
撹拌機及びコンデンサを備えたフラスコへ、水100gを仕込み、80℃に保持した。このフラスコへ、80重量%AA水溶液100g及び6重量%EA水溶液100gを混合した液(AA/EAのモル比は95/5)30重量%、過硫酸ナトリウム水溶液100gを、3時間かけて連続的に供給し、重合反応を行った。供給終了後、反応液をさらに80℃で2時間保持して反応させた。さらに、水酸化ナトリウム水溶液及び水を供給し、共重合体1を得た。共重合体1の重量平均分子量は、表1の通り1500であった。
【0044】
<共重合体2~5の製造>
表2に示す構成単位比及び重量平均分子量の共重合体が得られるように、AA、EA、AMPS、HAPSの使用量、その他の製造条件を変更したこと以外は、共重合体1の製造と同様に行って、表1に示す構成単位比及び重量平均分子量の共重合体2~5を製造した。
【0045】
<重合体1,2の製造>
MAのみ(重合体1)又はAAのみ(重合体2)を上記と同様にして重合させて表1に示す重量平均分子量の重合体1,2を製造した。
【0046】
[実施例1~4、比較例1~7]
スケール防止剤として以下のものを用い、下記のスケール付着試験を行った。
【0047】
実施例1:AA/EA共重合体1
実施例2:AA/EA共重合体2
実施例3:AA/EA共重合体3
実施例4:AA/EA共重合体1、ホスホン酸A及びホスホン酸Bを同重量比で混合したもの
比較例1:MA重合体1
比較例2:AA重合体2
比較例3:AA/AMPS共重合体4
比較例4:AA/HAPS共重合体5
比較例5:AA/HAPS共重合体5、ホスホン酸A及びホスホン酸Bを同重量比で混合したもの
比較例6:ホスホン酸A
比較例7:ホスホン酸B
【0048】
<スケール付着試験方法>
(1) 希釈水及びケーキ模擬水の調製
脱墨パルプ製造工程を想定し、50Lの容器に、純水を3100mL、2.5%メタケイ酸ナトリウム水溶液を51mL、2N塩酸を40mL、2.5%塩化カルシウム水溶液を740mL加えた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを6.5に調製し、これを希釈水とした。
【0049】
また、5Lの容器に、純水3200mL、2.5%炭酸水素ナトリウム水溶液610mL、及び2.5%メタケイ酸ナトリウム水溶液160mL加えると共に、上記各スケール防止を下記表2に示す濃度となるように添加した後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを11.0に調整し、ケーキ模擬水とした。
【0050】
この希釈水及びケーキ模擬水の水質を表2に示す。
【0051】
(2) スケール付着試験
100mLトールビーカーにSUS304製テストピース(50mm×15mm)を配置し、上記の希釈水とケーキ模擬水をそれぞれ40mL/min、10mL/minの速度で滴下した。次いで撹拌機としてアズワン製スターラーを用い、ビーカー内を40℃で6時間撹拌した後、滴下を止め試験を終了した。テストピースを取り出し、純水で水洗後、40℃乾燥機で12時間乾燥させ、スケール付着量(mg/cm)を計測した。
【0052】
カルシウム系スケール付着量が5mg/cm未満を◎、5mg/cm以上10mg/cm未満を○、10mg/cm以上を×とした。
【0053】
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
<結果・考察>
表1から明らかなように、共重合体1~3、または、共重合体1とホスホン酸Aとホスホン酸Bを組み合わせたものを含むスケール防止剤を用いた実施例1~4は、いずれもカルシウム系スケール付着量が5mg/cm未満(評価◎)であった。
【0057】
これに対し、重合体1~2、共重合体4~5を用いた比較例1~4では、カルシウム系スケール付着量が5~10mg/cmであった。また、共重合体5とホスホン酸Aとホスホン酸Bを組み合わせたもの又はホスホン酸AもしくはBを含むスケール防止剤を用いた比較例5~7では、カルシウム系スケール付着量が10mg/L以上であった。
【0058】
この結果より、実施例1~4で用いたスケール防止剤は、比較例1~7で用いたスケール防止剤と比較して、良好なスケール防止効果を示すことが認められた。