(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】アルミニウム箔、アルミニウム箔の製造方法、集電体、リチウムイオンキャパシタ、および、リチウムイオンバッテリー
(51)【国際特許分類】
C23F 17/00 20060101AFI20221128BHJP
C23C 8/12 20060101ALI20221128BHJP
C23C 22/56 20060101ALI20221128BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20221128BHJP
C23G 1/22 20060101ALI20221128BHJP
C25F 3/04 20060101ALI20221128BHJP
C25F 3/14 20060101ALI20221128BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20221128BHJP
H01G 11/70 20130101ALI20221128BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C23F17/00
C23C8/12
C23C22/56
C23C22/78
C23G1/22
C25F3/04 Z
C25F3/14
H01G11/06
H01G11/70
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2021511317
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010221
(87)【国際公開番号】W WO2020203085
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019067485
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019177082
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】澤田 宏和
(72)【発明者】
【氏名】東海林 雅俊
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062046(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/018164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 17/00
C23C 8/12
C23C 22/56
C23C 22/78
C23G 1/22
C25F 3/04
C25F 3/14
H01G 11/06
H01G 11/70
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有するアルミニウム箔であって、
前記アルミニウム箔は、表面に酸化膜を有し、
前記酸化膜はアルミニウムに対する酸素の元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物を有し、
前記金属間化合物の密度が500個/mm
2以上であり、
前記酸化膜の表面の水接触角が20°~80°であるアルミニウム箔。
【請求項2】
前記金属間化合物の円相当直径が1μm以下である請求項1に記載のアルミニウム箔。
【請求項3】
前記酸化膜が酸化アルミニウムを70質量%以上含む請求項1または2に記載のアルミニウム箔。
【請求項4】
前記貫通孔の平均開口径が0.1μm~100μmである請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム箔。
【請求項5】
平均開口径が0.1μm~100μmの貫通していない凹部を有し、
前記凹部の占有率が1%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム箔。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム箔を用いた集電体。
【請求項7】
請求項
6に記載の集電体を用いたリチウムイオンキャパシタ。
【請求項8】
請求項
6に記載の集電体を用いたリチウムイオンバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔、および、このアルミニウム箔の製造方法、ならびに、このアルミニウム箔を用いた集電体、リチウムイオンキャパシタ、および、リチウムイオンバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器や、ハイブリッド自動車、電気自動車等の開発に伴い、その電源としての蓄電デバイス、特に、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタの需要が増大している。
【0003】
このような蓄電デバイスの正極または負極に用いられる電極用集電体(以下、単に「集電体」という。)としては、アルミニウム板を用いることが知られている。また、このアルミニウム板からなる集電体の表面に、電極材料として活物質や活性炭などを塗布され、正極または負極の電極として用いることが知られている。
【0004】
大容量の次世代二次電池では、電極材料の材質に応じて、容量確保を目的に、予め多量にLi(リチウム)イオンを電極にドーピングすることが行われる。Liイオンのドーピング方法は、電池セル内にLi金属を入れ、電池セル内での溶解を促すことで、過剰なLiイオンを電極に行きわたらせる方法が公知である。電極材料は元々Liイオンを透過するポーラスな材料である。一方、電極材料の支持体となり、かつ充放電時の電気の出し入れ用の導電板の役目を持つ集電体は通常、金属箔が使用され、電気は通すがイオンは通さない。そのため、電池セル内の電極材料の隅々までLiイオンを行きわたらせるためには、金属箔にLiイオンを通過させるための多数の貫通孔を設けた貫通箔が用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の少なくとも一方の主面に積層された酸化膜とを有し、酸化膜の密度が2.7~4.1g/cm3であり、厚みが5nm以下である電極用アルミニウム部材が記載されている。この電極用アルミニウム部材は厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するアルミニウム板であって、複数の貫通孔の平均開口径が0.1μm以上100μm以下であり、複数の貫通孔の平均開口率が2%以上40%以下であり、複数の貫通孔のうち、開口径が5μm以下の貫通孔の割合が40%以下であり、複数の貫通孔のうち、開口径が40μm以上の貫通孔の割合が40%以下であり、複数の貫通孔のうち、貫通孔の面積S1と、貫通孔の長軸を直径とした円の面積S0との比S1/S0が、0.1以上1以下である貫通孔の割合が50%以上であるアルミニウム板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/062046号
【文献】国際公開第2017/018462号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、アルミニウムからなる集電体は、表面が酸化されやすく、大気にさらされると酸化してしまうため、常時、酸化膜を有する。酸化膜は絶縁性が高いため、集電体の表面に厚い酸化膜が存在すると電気抵抗が増大してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、表面の酸化膜による電気抵抗を低くすることができるアルミニウム箔、アルミニウム箔の製造方法、集電体、リチウムイオンキャパシタ、および、リチウムイオンバッテリーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって課題を解決する。
【0011】
[1] 厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有するアルミニウム箔であって、
アルミニウム箔は、表面に酸化膜を有し、
酸化膜はアルミニウムに対する酸素の元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物を有し、
金属間化合物の密度が500個/mm2以上であるアルミニウム箔。
[2] 金属間化合物の円相当直径が1μm以下である[1]に記載のアルミニウム箔。
[3] 酸化膜が酸化アルミニウムを70質量%以上含む[1]または[2]に記載のアルミニウム箔。
[4] 酸化膜の表面の接触角が20°~80°である[1]~[3]のいずれかに記載のアルミニウム箔。
[5] 貫通孔の平均開口径が0.1μm~100μmである[1]~[4]のいずれかに記載のアルミニウム箔。
[6] 平均開口径が0.1μm~100μmの貫通していない凹部を有し、
凹部の占有率が1%以上である[1]~[5]のいずれかに記載のアルミニウム箔。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のアルミニウム箔を製造するアルミニウム箔の製造方法であって、
アルミニウム基材に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
アルミニウム基材をアルカリ性水溶液に接触させて最表層を溶解するアルカリ処理工程と、
前記アルカリ処理工程後の前記アルミニウム基材を酸性水溶液に接触させて、前記アルミニウム基材の表面に酸化膜を形成する酸処理工程と、を有するアルミニウム箔の製造方法。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載のアルミニウム箔を用いた集電体。
[9] [8]に記載の集電体を用いたリチウムイオンキャパシタ。
[10] [8]に記載の集電体を用いたリチウムイオンバッテリー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面の酸化膜による電気抵抗を低くすることができるアルミニウム箔、アルミニウム箔の製造方法、集電体、リチウムイオンキャパシタ、および、リチウムイオンバッテリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のアルミニウム箔の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明のアルミニウム箔の好適な製造方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図4】本発明のアルミニウム箔の好適な製造方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】本発明のアルミニウム箔の好適な製造方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】本発明のアルミニウム箔の好適な製造方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】抵抗の測定を行う装置を模式的に示す図である。
【
図8】実施例1のアルミニウム箔のSEM画像である。
【
図9】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図10】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図11】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図12】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図13】比較例3のアルミニウム箔のSEM画像である。
【
図14】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図15】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【
図16】深さと元素組成比との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[アルミニウム箔]
本発明のアルミニウム箔は、
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有するアルミニウム箔であって、
アルミニウム箔は、表面に酸化膜を有し、
酸化膜はアルミニウムに対する酸素の元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物を有し、
金属間化合物の密度が500個/mm
2以上であるアルミニウム箔である。
次に、本発明のアルミニウム箔の構成について、
図1および
図2を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明のアルミニウム箔の好適な実施態様の一例を示す模式的な断面図である。
図2は、
図1に示すアルミニウム箔の上面図である。
図1に示すように、アルミニウム箔10は、アルミニウム基材3の両主面(最大面)それぞれに酸化膜14が形成されている。酸化膜は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等のアルミニウム酸化物を含有するアルミニウム酸化皮膜である。また、アルミニウム箔10は、アルミニウム基材3および酸化膜14を厚み方向に貫通する複数の貫通孔5を有する。すなわち、アルミニウム箔10は、厚み方向に貫通する貫通孔を有するアルミニウム基材3と、厚み方向に貫通する貫通孔を有する酸化膜14とを積層した構成を有する。
【0017】
なお、
図1に示す例においては、酸化膜14は、アルミニウム基材3の両主面に形成される構成としたが、これに限定はされず、一方の主面のみに形成される構成であってもよい。
【0018】
本発明のアルミニウム箔は、集電体として用いられ、表面に活物質(電極材料)を塗布されて蓄電デバイスの正極または負極として用いられる。
アルミニウム箔が、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有することで、集電体として用いる場合に、リチウムイオンの移動を容易にすることができる。また、多数の貫通孔を有することで、活物質との密着性を向上することができる。
【0019】
ここで、
図2に示すように、本発明において、酸化膜14は、膜中に分散された粒状の金属間化合物16を多数有している。この金属間化合物16はアルミニウムに対する酸素の元素比率O/Alが2以上4以下である。また、金属間化合物16の密度は500個/mm
2以上である。
【0020】
前述のとおり、アルミニウムは酸化され易く、大気にさらされると酸化してしまうため、常時、酸化膜を有する。酸化膜は絶縁性が高いため、アルミニウム基材の表面に厚い酸化膜が存在すると、アルミニウム基材と活物質との間の電気抵抗が増大するおそれがあるという問題があった。
【0021】
また、酸化膜の厚みを薄くすることで電気抵抗を低減することが考えられるが、酸化膜の薄膜化による電気抵抗の低減にも限界があり、電気抵抗をさらに低減することは難しいという問題があった。
【0022】
これに対して本発明のアルミニウム箔は、酸化膜14が、膜中に分散された粒状の金属間化合物を多数有している。金属間化合物はアルミニウムに対する酸素の元素比率O/Alが2以上4以下である。また、金属間化合物の密度は500個/mm2以上である。
本発明者の検討によれば、元素比率O/Alが2以上4以下の金属間化合物は、酸化膜において絶縁性を低下させる起点となることがわかった。絶縁性を低下させる起点となる金属間化合物を500個/mm2以上の密度で有することで、酸化膜の絶縁性を低下させて、酸化膜の電気抵抗を低下させることができる。
なお、元素比率O/Alが2以上4以下の金属間化合物を500個/mm2以上の密度で有する酸化膜を形成する方法については後に詳述する。
【0023】
ここで、本発明における金属間化合物とは、アルミニウム元素(Al)と、Fe、Si、Mn、Mg、Ti、B等から選択される少なくとも1種とを含む化合物である。具体的には、金属間化合物としては、Al3Fe、Al6Fe、αAlFeSi、AlFeMnSi、Mg2Si、TiB2が挙げられる。このうち、Alを含む金属間化合物は、Alを含むので、表面にアルミの自然酸化皮膜が形成される。
そのため、Alを含む金属間化合物の表層は酸素元素(O)を含む。
【0024】
なお、本発明のアルミニウム箔は、金属間化合物表面の酸化膜が、元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜を有する金属間化合物を500個/mm2以上の密度で有していれば、最表層の酸化膜が元素比率O/Alが2以上4以下以外の金属間化合物を有していてもよい。すなわち、最表層の酸化膜が元素比率O/Alが2未満、あるいは4超の金属間化合物を有していてもよい。
以下の説明では、最表層の酸化膜中の元素比率O/Alが2以上4以下の金属間化合物を金属間化合物Aとし、同様に最表層の酸化膜中の元素比率O/Alが2未満、あるいは4超の金属間化合物を金属間化合物Bとする。また、金属間化合物Aと金属間化合物Bとを区別する必要がない場合にはまとめて金属間化合物ともいう。
【0025】
また、酸化膜が酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とし、水和物を含有しない場合は、酸化膜の金属間化合物以外の部分における元素比率O/Alは2未満であり、1.3~1.5程度である。
【0026】
アルミニウム箔の電気抵抗をより低くできる等の観点から、金属間化合物Aの表層の酸化膜の元素比率O/Alの平均値は、2以上4以下であるのが好ましく、2.5以上3.5以下であるのがさらに好ましい。
【0027】
なお、金属間化合物の最表層の元素比率O/Alは、以下のようにして測定する。
金属間化合物(金属間化合物Aおよび金属間化合物B)は、酸化膜の表面を高分解能走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察した際に、酸化膜の金属間化合物以外の部分と区別して視認することができる(
図8および
図13参照)。
したがって、まず、酸化膜の表面から、高分解能走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて酸化膜の表面を倍率5000倍で撮影し、得られたSEM写真において、金属間化合物を少なくとも20個抽出する。
次に、抽出した金属間化合物の位置で、最表面から深さ方向に、電界放射型オージェ電子分光分析(FE-AES)を用いて元素分析を行う。深さ方向の分析は、測定とスパッタリングによる表面削除を繰り返すことで行う。FE-AESによる深さ方向の元素分布の結果(
図9等参照)から、最表層における元素比率O/Alを求める。
【0028】
アルミニウム箔の電気抵抗をより低くできる等の観点から、金属間化合物Aの密度は、1000個/mm2~300000個/mm2が好ましく、5000個/mm2~200000個/mm2がより好ましい。
【0029】
なお、金属間化合物Aの密度は、以下のようにして測定する。
まず、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミニウム箔の表面を真上から倍率5000倍で撮影し、得られたSEM写真の1.2mm×1.2mmの視野(5箇所)について、金属間化合物を抽出する。
次に、FE-AESを用いた元素分析によって抽出した各金属間化合物の元素比率O/Alを求める。元素比率O/Alが2以上4以下の金属間化合物Aの数を計数して、視野内の金属間化合物Aの数と、視野の面積(幾何学的面積)とから数密度を算出して、5箇所の視野の平均値を密度として算出する。
【0030】
ここで、金属間化合物Aの円相当直径は1μm以下とするのが好ましい。円相当直径が1μm以下の金属間化合物は、アルミニウム箔の表面に表出しやすい。小さい金属間化合物がアルミニウム箔の表面に表出すると、金属間化合物の体積に対する表面積が大きくなる。その結果、局所的に水分子が吸着しやすくなると考えられ、酸化された金属間化合物の元素比率O/Alが2以上になりやすい。
【0031】
なお、金属間化合物Aの円相当直径は、上述のようにして元素比率O/Alを測定した金属間化合物Aを少なくとも20個抽出し、画像解析ソフト等で金属間化合物Aの酸化膜表面における面積を求め、この面積から円相当直径を求めて、これらの平均値を円相当直径として算出する。
【0032】
最表層の酸化膜は、酸化アルミニウム(Al2O3)を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%~100質量%含むことがより好ましく、90質量%~100質量%含むことがさらに好ましい。
酸化膜中の非水和物の酸化アルミニウム(Al2O3)の含有量を70質量%以上とすることで、酸化膜の密度を高くすることができるため、経時によって酸化膜が厚くなることを抑制できる。従って、酸化膜が厚くなって電気抵抗が増加することを抑制できる点で好ましい。
【0033】
なお、酸化膜中の酸化アルミニウム(Al2O3)の割合は、以下のように酸化膜の膜密度を測定して算出することができる。
酸化膜の膜密度は、株式会社神戸製鋼所製、高分解能RBS分析装置 HRBS500(High Resolution Rutherford Backscattering Spectrometry;HR-RBS)を使用して測定する。エネルギー450keVのHe+イオンを試料面(電極用アルミニウム部材の酸化膜の表面)の法線に対し62.5度で試料に入射させ、散乱されたHe+イオンを散乱角55度の位置で偏向磁場型エネルギー分析器により検出して面密度を得る。得られた面密度(atoms/cm2)から質量面密度(g/cm2)に換算し、この値と透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した膜厚から酸化膜の密度(g/cm3)を算出する。
アルミニウムの酸化皮膜は、非水和物の酸化アルミニウム、及び水和物の酸化アルミニウム(1水和物と3水和物が存在)し、それぞれ密度が異なることから、水和物の密度を便宜的に1水和物と3水和物の平均とし、非水和物の密度との加重平均が、上記で求めた密度と考え、そこから非水和物酸化アルミニウムの割合を求める。
【0034】
電気抵抗を低減する観点から、酸化膜の厚みは5nm以下とするのが好ましく、4.5nm以下がより好ましく、4nm以下がさらに好ましい。
【0035】
貫通孔の平均開口径は、0.1μm以上100μm未満であることが好ましく、1μm超80μm以下がより好ましく、3μm超40μm以下がさらに好ましく、5μm以上30μm以下が特に好ましい。
貫通孔の平均開口径を上記範囲とすることで、アルミニウム箔に活物質等を塗布する際に抜け等が発生するのを防止でき、また、塗布した活物質との密着性を向上できる。また、アルミニウム箔が多数の貫通孔を有するものとした場合でも、十分な引張強度を有するものとすることができる。
【0036】
なお、貫通孔の平均開口径は、アルミニウム箔の一方の面から、高分解能走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いてアルミニウム箔の表面を倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真において、周囲が環状に連なっている貫通孔を少なくとも20個抽出し、その開口径を読み取って、これらの平均値を平均開口径として算出する。
また、開口径は、貫通孔部分の端部間の距離の最大値を測定した。すなわち、貫通孔の開口部の形状は略円形状に限定はされないので、開口部の形状が非円形状の場合には、貫通孔部分の端部間の距離の最大値を開口径とする。従って、例えば、2以上の貫通孔が一体化したような形状の貫通孔の場合にも、これを1つの貫通孔とみなし、貫通孔部分の端部間の距離の最大値を開口径とする。
【0037】
また、貫通孔の平均開口率は、0.5%~30%であるのが好ましく、1%~30%がより好ましく、2%~20%がさらに好ましく、3%~10%が特に好ましい。
貫通孔の平均開口率を上記範囲とすることで、アルミニウム箔に活物質を塗布する際に抜け等が発生するのを防止でき、また、塗布した活物質との密着性を向上できる。また、アルミニウム箔が多数の貫通孔を有するものとした場合でも、十分な引張強度を有するものとすることができる。
【0038】
なお、貫通孔の平均開口率は、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミニウム箔の表面を真上から倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真の30mm×30mmの視野(5箇所)について、画像解析ソフト等で2値化して貫通孔部分と非貫通孔部分を観察し、貫通孔の開口面積の合計と視野の面積(幾何学的面積)との比率(開口面積/幾何学的面積)から算出し、各視野(5箇所)における平均値を平均開口率として算出した。
【0039】
また、アルミニウム箔は、表面(酸化膜)に、平均開口径が0.1μm~100μmの貫通していない凹部を有するのが好ましい。また、アルミニウム箔の表面における、凹部の占有率(面積率)は1%以上であるのが好ましい。
凹部を有することにより、表面積が増加し、活物質層と密着する面積が増加することで、密着性がより向上する。
【0040】
密着性の観点から、凹部の平均開口径は、0.1μm~100μmが好ましく、1μm~50μmがより好ましく、2μm~30μmがさらに好ましい。
なお、凹部の平均開口径は、アルミニウム箔の一方の面から、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミニウム箔の表面を真上から倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真において、周囲が環状に連なっている凹凸構造の凹部(ピット)を少なくとも20個抽出し、その最大径を読み取って開口径とし、これらの平均値を平均開口径として算出した。最大径とは、凹部の開口部を構成する一の縁部間の直線距離のうち最大の値とする。例えば、凹部が円形である場合は直径をいい、凹部が楕円形である場合は長径をいい、凹部が複数の円が重なりあった形状である場合は、一の円の縁部と他の円の縁部との直線距離のうち最大値をいう。
【0041】
また、密着性の観点から、凹部の占有率は、1%以上であるのが好ましく、2%~5%であるのがより好ましく、5%~10%であるのがより好ましい。
なお、凹部の占有率は、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミニウム箔の表面を真上から倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真の30mm×30mmの視野(5箇所)について、画像解析ソフト等で2値化して凹部部分と非凹部部分を観察し、凹部の開口面積の合計と視野の面積(幾何学的面積)との比率(開口面積/幾何学的面積)を算出し、各視野(5箇所)における平均値を占有率として算出した。
【0042】
また、アルミニウム箔の表面、すなわち、酸化膜の表面の水接触角が20°~80°であるのが好ましい。
集電体として用いられるアルミニウム箔は、表面に電極材料を塗布されて電極として用いられる。通常、電極材料は水系の溶媒をスラリー状にして集電体に塗布される。水系の電極材料を塗布した際に、電極材料がはじかれることを抑制して塗布性を向上ために、表面に親水化処理を行って親水性にすること(すなわち、水接触角を小さくすること)が行われている(例えば、国際公開第2011/089722号)。
【0043】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、アルミニウム箔の表面の水接触角が小さすぎると、すなわち、水分との親和性が高いと、空気中の水分を吸着しやすくなるため、酸化膜に水分が供給されやすくなる。酸化膜に水分が供給されると、酸化膜が成長しやすくなるため、その結果、経時によって電気抵抗が悪化しやすくなることがわかった。
【0044】
これに対して、アルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角を20°以上とすることで、水分の吸着による酸化膜の成長を抑制し、経時による電気抵抗の悪化を抑制することができる。アルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角は40°以上が好ましく、50°以上がさらに好ましい。
【0045】
また、アルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角が高すぎると、水系の電極材料を塗布した際に、表面ではじかれて均一な塗布が出来ない不具合が生じるおそれがある。これに対して、アルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角を80°以下とすることで、電極材料の塗布性を向上できる。アルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角は70°以下が好ましい。
【0046】
水接触角は、空中で水滴を付着させて、水接触角を求める液滴法によって測定される。水接触角の測定方法は、静的接触角がよく、静的接触角の測定方法の場合、液滴法を用いることができる。
一例として、水接触角の測定には、「JIS R 3257:1999 基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に記載されている静滴法を使用することができる。水接触角は、例えば、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学株式会社)によって測定できる。
【0047】
<アルミニウム基材>
アルミニウム箔の母材となるアルミニウム基材は、特に限定はされず、例えば、JIS規格H4000に記載されている合金番号1N30、3003等の公知のアルミニウム基材を用いることができる。金属間化合物を多く含むアルミニウムのほうが好ましいが、本願はアルミニウム材に限定されない。なお、アルミニウム基材は、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板である。
【0048】
アルミニウム基材の表面に形成される酸化膜中の、元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物Aの密度を500個/mm2以上とするために、アルミニウム基材は、金属間化合物を500個/mm2以上有することが好ましく、1000個/mm2以上200000個/mm2以下有することがより好ましく、3000個/mm2以上300000個/mm2以下有することがさらに好ましい。
【0049】
アルミニウム基材に含まれる、元素比率O/Alが2以上4以下の金属間化合物の円相当直径は1μm以下が好ましい。
【0050】
アルミニウム基材の厚みとしては、限定はないが、5μm~100μmが好ましく、10μm~30μmがより好ましい。
【0051】
[アルミニウム箔の製造方法]
次に、本発明のアルミニウム箔の製造方法について説明する。
本発明のアルミニウム箔の製造方法は、
貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
皮膜形成工程後のアルミニウム基材をアルカリ性水溶液に接触させて最表面を溶解するアルカリ処理工程と、
アルカリ処理工程後のアルミニウム基材を酸性水溶液に接触させて、アルミニウム基材の表面の残渣を除去するとともに、その後出来る自然酸化皮膜が非水和物になるようにする酸処理工程と、を有するアルミニウム箔の製造方法である。
【0052】
酸処理工程により、アルミニウム基材表面の大部分は元素比率O/Alが1から2の酸化アルミニウムを主体とする皮膜が形成されつつ、金属間化合物の表面には、元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜が形成される。また、酸処理工程の際、酸性水溶液として、硝酸を含む酸性水溶液を用いることで、アルミ基材表面の大部分の元素比率O/Alが1から2の酸化アルミニウムを主体とする皮膜が形成されつつ、金属間化合物の表面には、元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜を好適に形成できる。
【0053】
また、アルカリ処理工程は酸処理工程の前に不要な皮膜や油分等を除去し、アルミニウム基材を露出させて、酸化膜の形成を容易にする。
【0054】
また、貫通孔形成工程は、電解を用いる方法、機械的に孔を形成する方法等、公知の方法を適用できる。
【0055】
また、アルカリ処理工程、酸処理工程、および、貫通孔形成工程それぞれの工程終了後には水洗処理を行う水洗工程を有するのが好ましい。
また、各工程後の水洗処理の後には、乾燥処理を行う乾燥工程を有するのが好ましい。
ここで、酸処理工程の後の水洗工程後の乾燥工程は、アルミニウム基材に200超℃350℃以下の高温の風を使って行うことが好ましい。酸処理工程後の乾燥工程をこの条件で行うことで、アルミニウム基材の大部分の酸化膜の元素比率O/Alが1以上2未満になり、金属間化合物の表面には元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜を形成しやすくなり好ましい。
【0056】
以下、
図1に示す貫通孔を有するアルミニウム箔を例にして、アルミニウム箔の製造方法の各工程を
図3~
図6を用いて説明した後に、各工程について詳述する。
【0057】
図3~
図6は、アルミニウム箔の製造方法の好適な実施態様の一例を示す模式的な断面図である。
アルミニウム箔の製造方法は、
図3~
図6に示すように、アルミニウム基材1の両方の主面に対して皮膜形成処理を施し、水酸化アルミニウム等の皮膜2を形成する皮膜形成工程(
図3および
図4)と、皮膜形成工程の後に電解溶解処理を施して貫通孔5を形成し、貫通孔を有するアルミニウム基材3および貫通孔を有する皮膜4を形成する貫通孔形成工程(
図4および
図5)と、貫通孔形成工程の後に、貫通孔を有する皮膜4を含む最表層を溶解して除去するアルカリ処理工程工程(
図5および
図6)と、アルカリ処理工程の後に、酸処理を行い、貫通孔を有するアルミニウム基材3の両方の主面に酸化膜を形成する酸処理工程(
図6および
図1)と、を有する製造方法である。
【0058】
〔貫通孔形成工程〕
貫通孔形成工程は、アルミニウム基材に貫通孔を形成する工程である。
貫通孔形成工程における貫通孔の形成方法には特に制限はなく、パンチング加工等の機械的な方法、あるいは、電解溶解処理等の電気化学的な方法が利用可能である。
平均開口径が0.1μm~100μmの貫通孔を容易に形成できる点で、電解溶解処理による貫通孔の形成方法が好適である。
【0059】
電解溶解処理を行う貫通孔形成工程は、あらかじめ不均質な皮膜を形成する皮膜形成工程の後に、アルミニウム基材を陽極として、第3の酸性水溶液で電解処理(電解溶解処理)を施し、アルミニウム基材および水酸化アルミニウム皮膜に貫通孔を形成する工程である。皮膜の種類は電解処理中に溶解し貫通しやすい場所と、しにくい場所の差を形成出来れば特に限定はない。
【0060】
<電解溶解処理>
上記電解溶解処理は特に限定されず、直流または交流を用い、酸性溶液(第2の酸性水溶液)を電解液に用いることができる。中でも、硝酸、塩酸の少なくとも1以上の酸を用いて電気化学処理を行うのが好ましく、これらの酸に加えて硫酸、燐酸、シュウ酸の少なくとも1以上の混酸を用いて電気化学的処理を行うのが更に好ましい。
【0061】
本発明においては、電解液である酸性溶液としては、上記酸のほかに、米国特許第4,671,859号、同第4,661,219号、同第4,618,405号、同第4,600,482号、同第4,566,960号、同第4,566,958号、同第4,566,959号、同第4,416,972号、同第4,374,710号、同第4,336,113号、同第4,184,932号の各明細書等に記載されている電解液を用いることもできる。
【0062】
酸性溶液の濃度は0.1~2.5質量%であるのが好ましく、0.2~2.0質量%であるのが特に好ましい。また、酸性溶液の液温は20~80℃であるのが好ましく、30~60℃であるのがより好ましい。
【0063】
また、上記酸を主体とする水溶液は、濃度1~100g/Lの酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物または塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の硫酸イオンを有する硫酸化合物少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。
また、上記酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、酸の濃度0.1~2質量%の水溶液にアルミニウムイオンが1~100g/Lとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。
【0064】
電気化学的溶解処理には、主に直流電流が用いられるが、交流電流を使用する場合にはその交流電源波は特に限定されず、サイン波、矩形波、台形波、三角波等が用いられ、中でも、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。
【0065】
(硝酸電解)
本発明においては、硝酸を主体とする電解液を用いた電気化学的溶解処理(以下、「硝酸溶解処理」とも略す。)により、容易に、平均開口径が0.1μm~100μmの貫通孔を形成することができる。
ここで、硝酸溶解処理は、貫通孔形成の溶解ポイントを制御しやすい理由から、直流電流を用い、平均電流密度を5A/dm2以上とし、かつ、電気量を50C/dm2以上とする条件で施す電解処理であるであるのが好ましい。なお、平均電流密度は100A/dm2以下であるのが好ましく、電気量は10000C/dm2以下であるのが好ましい。
また、硝酸電解における電解液の濃度や温度は特に限定されず、高濃度、例えば、硝酸濃度15~35質量%の硝酸電解液を用いて30~60℃で電解を行ったり、硝酸濃度0.7~2質量%の硝酸電解液を用いて高温、例えば、80℃以上で電解を行うことができる。
また、上記硝酸電解液に濃度0.1~50質量%の硫酸、シュウ酸、燐酸の少なくとも1つを混ぜた電解液を用いて電解を行うことができる。
【0066】
(塩酸電解)
本発明においては、塩酸を主体とする電解液を用いた電気化学的溶解処理(以下、「塩酸溶解処理」とも略す。)によっても、容易に、平均開口径が0.1μm~100μmの貫通孔を形成することができる。
ここで、塩酸溶解処理は、貫通孔形成の溶解ポイントを制御しやすい理由から、直流電流を用い、平均電流密度を5A/dm2以上とし、かつ、電気量を50C/dm2以上とする条件で施す電解処理であるであるのが好ましい。なお、平均電流密度は100A/dm2以下であるのが好ましく、電気量は10000C/dm2以下であるのが好ましい。
また、塩酸電解における電解液の濃度や温度は特に限定されず、高濃度、例えば、塩酸濃度10~35質量%の塩酸電解液を用いて30~60℃で電解を行ったり、塩酸濃度0.7~2質量%の塩酸電解液を用いて高温、例えば、80℃以上で電解を行うことができる。
また、上記塩酸電解液に濃度0.1~50質量%の硫酸、シュウ酸、燐酸の少なくとも1つを混ぜた電解液を用いて電解を行うことができる。
【0067】
〔アルカリ処理工程〕
アルカリ処理工程は、アルカリ性水溶液を用いた化学的溶解処理を行ってアルミニウム基材の最表層を溶解(除去)する工程である。また、電解処理で貫通孔を形成した場合に表面に残る残渣や皮膜を一旦除去する。その際、アルミニウム基材の表層の金属間化合物は、アルカリ性水溶液に対する溶解速度が、アルミニウム素地よりも遅いため、処理条件を適宜選択することで、金属間化合物をアルミニウム基材の表層に若干浮き出た状態で表面に残すことができる。
上記アルカリ処理工程は、例えば、後述するアルカリエッチング処理を施すことによりアルミニウム基材の最表層を溶解(除去)することができる。
【0068】
<アルカリエッチング処理>
アルカリエッチング処理は、アルミニウム基材をアルカリ性水溶液に接触させることにより、表層を溶解させる処理である。
【0069】
アルカリ性水溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0070】
アルカリ性水溶液の濃度は、0.1~50質量%であるのが好ましく、0.2~10質量%であるのがより好ましい。アルカリ性水溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01~10質量%であるのが好ましく、0.1~3質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は10~90℃であるのが好ましい。処理時間は1~120秒であるのが好ましい。
【0071】
アルミニウム基材をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム基材をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム基材をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム基材の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0072】
〔酸処理工程〕
酸処理工程は、アルミニウム基材を酸性水溶液(第1の酸性水溶液)に接触させて、アルミニウム基材の表面ないし裏面に、元素比率O/Alが1以上2未満の酸化膜を形成し、金属間化合物の表面には元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜を形成する工程である。
前述のとおり、アルミニウム基材表面の大部分に、元素比率O/Alが1以上2未満の酸化皮膜を形成し、500個/mm2以上存在する金属間化合物の表面には、元素比率O/Alが2以上4以下であるを酸化膜を形成することで、この金属間化合物を起点として酸化膜の絶縁性を低下させて、酸化膜の電気抵抗を低下させることができる。
【0073】
酸処理工程において、酸性水溶液でアルミニウム基材の表面を洗い流すことで、アルカリ処理工程に伴って形成された残渣を除去するとともに、アルミニウム基材の表面に形成される自然酸化皮膜を酸化アルミニウムを主体とした不動態皮膜にすることができる。
ここで、アルミニウム基材が含有している、アルミニウムとFeあるいはSi等からなる金属間化合物は、アルミニウム元素を含有していることから、酸化膜が形成される。その際、前述のとおり、アルカリ処理工程によって、金属間化合物がアルミニウム基材の表層に若干浮き出た状態となっているため、金属間化合物の体積に対して表出している面積の割合が大きくなる。その結果、金属間化合物の表面に形成される酸化膜は、酸素OとアルミニウムAlの元素比=O/Alが大きくなることがわかった。これは、金属間化合物の表面積が大きいことで、全面均一な酸化アルミニウムの不動態にはならず、たとえば、局所的に水分子が吸着しやすくなったためと考えられる。そのため、元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物Aを500個/mm2以上有する酸化膜を形成することができる。
【0074】
酸処理工程において用いる酸性水溶液(第1の酸性水溶液)としては、硝酸、硫酸、燐酸、シュウ酸、あるいは、これらの2以上の混酸を用いることが好ましく、硝酸を含む酸性水溶液を用いることがより好ましい。
酸性水溶液の濃度は0.01~10質量%であるのが好ましく、0.1~5質量%であるのが特に好ましい。また、酸性水溶液の液温は25~70℃であるのが好ましく、30~55℃であるのがより好ましい。
【0075】
また、アルミニウム基材を酸性水溶液に接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。スプレー法はアルミ表面の液置換が容易なため好ましい。
【0076】
浸せき法は、アルミニウム基材を上述した酸性溶液に浸せきさせる処理である。浸せき処理の際にかくはんを行うと、ムラのない処理が行われるため、好ましい。
浸せき処理の時間は、15秒以上であるのが好ましく、30秒以上であるのがより好ましく、40秒以上であるのが更に好ましい。
【0077】
〔水洗工程〕
前述のとおり、本発明においては、上述したアルカリ処理工程、酸処理工程、および、貫通孔形成工程それぞれの工程終了後には水洗処理を行う水洗工程を有するのが好ましい。水洗には、純水、井水、水道水等を用いることができる。処理液の次工程への持ち込みを防ぐためにニップ装置を用いてもよい。
【0078】
〔乾燥工程〕
前述のとおり、各工程後の水洗工程の後には、乾燥処理を行う乾燥工程を有するのが好ましい。
乾燥の方法には限定はなく、エアナイフ等により水分を吹き飛ばす方法、加熱による方法等の公知の乾燥方法が適宜利用可能である。また、複数の乾燥方法を行なってもよい。
【0079】
ここで、酸処理工程の後にアルミニウム基材を水洗する水洗工程を有するのが好ましく、酸処理工程後の水洗工程の後に、乾燥工程を有するのが好ましい。その際、乾燥工程は、アルミニウム基材表面に200超℃350℃以下の熱風を当てて加熱する工程であるのが好ましい。
酸処理工程でアルミニウム基材の表面に酸化膜を形成した後に、アルミニウム基材(酸化膜)の表面に残存する酸性水溶液を除去するために水洗工程を行い、さらに、水洗工程で付着した水膜を除去する乾燥工程において、アルミニウム基材を200超℃350℃以下に加熱することで、アルミニウム基材表面には、元素比率O/Alが1以上2未満の酸化膜を形成し、金属間化合物の表面には、元素比率O/Alが2以上4以下である酸化膜を好適に形成することができる。
【0080】
酸処理工程後の乾燥工程における加熱温度は熱風温度が、180℃~350℃が好ましく、240℃~300℃がより好ましい。また、乾燥時間は、1~30秒が好ましく、3~10秒がより好ましい。
【0081】
ここで、本発明の製造方法において作製されるアルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角は、貫通孔の形成方法の影響を受ける。そのため、作製後(酸処理工程後)のアルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角に応じて、水接触角を調整する工程を実施してもよい。なお、作製後(酸処理工程後)のアルミニウム箔の表面(酸化膜の表面)の水接触角が20°~80°の場合には、酸化膜の形成後(酸処理工程後)に、親水化処理を施さないのが好ましい。また、アルミニウム箔の作製後、電極材料を塗布するまでの間に親水化処理を施さないのが好ましい。
【0082】
[集電体]
上述のとおり、本発明のアルミニウム箔は、蓄電デバイス用集電体(以下、「集電体」ともいう)として利用可能である。
集電体は、アルミニウム箔が厚み方向に複数の貫通孔を有していることにより、例えば、リチウムイオンキャパシタに用いた場合においては短時間でのリチウムのプレドープが可能となり、リチウムをより均一に分散させることが可能となる。また、活物質層や活性炭との密着性が良好となり、サイクル特性や出力特性、塗布適性等の生産性に優れる蓄電デバイスを作製することができる。
また、本発明のアルミニウム箔を用いる集電体は、酸化膜の電気抵抗が低いので活物質層との間の電気抵抗が低くなり、効率の良い蓄電デバイスを作製することができる。
【0083】
<活物質層>
活物質層としては特に限定はなく、従来の蓄電デバイスにおいて用いられる公知の活物質層が利用可能である。
具体的には、アルミニウム箔を正極の集電体として用いる場合の、活物質および活物質層に含有していてもよい導電材、結着剤、溶媒等については、特開2012-216513号公報の[0077]~[0088]段落に記載された材料を適宜採用することができ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
また、アルミニウム箔を負極の集電体として用いる場合の、活物質については、特開2012-216513号公報の[0089]段落に記載された材料を適宜採用することができ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0084】
[蓄電デバイス]
本発明のアルミニウム箔を集電体として利用する電極は、リチウムイオンバッテリー、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの正極あるいは負極として用いることができる。
ここで、蓄電デバイス(特に、二次電池)の具体的な構成や適用される用途については、特開2012-216513号公報の[0090]~[0123]段落に記載された材料や用途を適宜採用することができ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0085】
[正極]
本発明のアルミニウム箔を集電体として用いた正極は、アルミニウム箔を正極に用いた正極集電体と、正極集電体の表面に形成される正極活物質を含む層(正極活物質層)とを有する正極である。
ここで、上記正極活物質や、上記正極活物質層に含有していてもよい導電材、結着剤、溶媒等については、特開2012-216513号公報の[0077]~[0088]段落に記載された材料を適宜採用することができ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0086】
[負極]
本発明のアルミニウム箔を集電体として用いた負極は、アルミニウム箔を負極に用いた負極集電体と、負極集電体の表面に形成される負極活物質を含む層とを有する負極である。
ここで、上記負極活物質については、特開2012-216513号公報の[0089]段落に記載された材料を適宜採用することができ、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0087】
[その他の用途]
本発明のアルミニウム箔は、電解コンデンサ用の集電体としても用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0089】
[実施例1、2および比較例1~3]
<アルミニウム基材の準備>
円相当直径1μm以下の金属間化合物を含むアルミニウム基材A1およびA2、ならびに、円相当直径1μm以下の金属間化合物を含まないアルミニウム基材Bを準備した。
【0090】
アルミニウム基材A1は、Al純度99.90%のアルミニウム地金を溶解し、Feを2%添加したアルミニウムをDC(Direct Chill)鋳造法で鋳造後、熱間圧延と冷間圧延で最終板厚20μmに仕上げたアルミニウム基材である。強度を調整するため、冷間圧延の途中で、板厚2mmのときに熱処理を行った。
【0091】
アルミニウム基材A2は、Al純度99.90%のアルミニウム地金を溶解し、Feを0.5%添加したアルミニウムを連続鋳造法で鋳造後、冷間圧延で最終板厚20μmに仕上げたアルミニウム基材である。強度を調整するため、冷間圧延の途中で、板厚2mmのときに熱処理を行った。
【0092】
アルミニウム基材Bは、Al純度99.90%のアルミニウム地金をDC鋳造法で鋳造後、アルミニウム基材A1と同様の方法で、熱間圧延と冷間圧延で最終板厚20μmに仕上げたアルミニウム基材である。
【0093】
各アルミニウム基材について、以下に示す貫通孔形成処理1および/または貫通孔形成処理2を施して、貫通孔を形成した。
【0094】
<貫通孔形成処理1>
(a-1)不均質皮膜形成工程
前処理として液中にアルミイオンを含む酸性溶液で電解し、厚み1μm以上の水酸化アルミニウムを析出させた。これが不均質皮膜となる。
【0095】
(b-1)電解溶解処理(貫通孔形成工程)
次いで、50℃に保温した電解液(硝酸濃度2%、硫酸濃度2%、アルミニウム濃度1%)を用いて、アルミニウム基材を陽極として、電解処理を施し、アルミニウム基材及び水酸化アルミニウム皮膜に貫通孔を形成した。なお、電解処理は、直流電源で行った。電流密度は、開口率が約4%になるように調整した。
貫通孔の形成後、スプレーによる水洗を行なった。
【0096】
(c-1)アルカリ処理工程
次いで、電解溶解処理後のアルミニウム基材を、水酸化ナトリウム濃度10質量%、アルミニウムイオン濃度5質量%の水溶液(液温37℃)をスプレーで供給して残渣を除去した。
アルミニウム皮膜の除去後、スプレーによる水洗を行なった。
【0097】
(d-1)酸処理工程
次いで、アルカリ処理工程後のアルミニウム基材を、硝酸濃度10%、アルミニウムイオン濃度5質量%の水溶液(液温50℃)を5秒間スプレーしてアルミニウム基材の表面に酸化膜を形成した。
その後、スプレーによる水洗を行なった。
【0098】
(e-1)乾燥工程
次いで、酸化膜を形成し水洗を行なったアルミニウム基材の表面に残存した水分をエアナイフで除去し、さらに、乾燥温度300℃の熱風で加熱して乾燥させることにより、アルミニウム箔を作製した。
【0099】
なお、貫通孔形成処理1で形成される貫通孔は、概ね、開口率4.0%、平均孔径10μm、100個/mm2の密度で形成される。
【0100】
<貫通孔形成処理2>
表面に機械的に開口率10%、平均孔径250μmの貫通孔を形成した。この貫通孔形成処理2によって貫通孔を形成したアルミニウム基材には、その表面に自然酸化による酸化膜が形成される。
各実施例および比較例で用いたアルミニウム基材の種類および貫通孔形成処理の種類は表1に示すとおりである。
【0101】
[評価]
<初期抵抗値>
各実施例および比較例で作製したアルミニウム箔10の一方の表面に、水系溶媒にカーボン粒子を分散させた導電性材料「バニーハイト」をアプリケータで塗布し、130℃で15分間乾燥してカーボン層106を形成した。次に、
図7に示すように、カーボン層106を形成したアルミニウム箔100を、加圧式導電専用端子102と加圧式絶縁端子104で挟んで、抵抗測定機100(日置株式会社製 HIOKI3541)で抵抗を1サンプルN=7で測定した。
初期抵抗値は、20mΩ未満をA、20mΩ以上30mΩ未満をB、30mΩ以上35mΩ以未満をC、35mΩ以上をDと判定した。
【0102】
<強制経時抵抗評価>
各実施例および比較例で作製したアルミニウム箔を、温度30℃湿度80%環境で保管し、1週間後、2週間後、3週間後および4週間後の抵抗を上記の抵抗値測定方法でそれぞれ測定した。
強制経時抵抗は、4週間保持後の抵抗値が50mΩ以内であればA、3週間保持後で50mΩ以内4週間保持後で50mΩを超えればB、2週間保持後で50mΩ以内3週間保持後で50mΩを超えればC、2週間保持後で50mΩを超えていればDと判定した。
結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
以下に実施例1、比較例3の、貫通孔が形成されていない部分の表面(酸化膜の表面)を、FE-AES(日本電子株式会社製)を用い、SEM観察、および表面の酸化膜の最表面から深さ方向に向けて元素分布を行った結果を例示する。
【0105】
図8に実施例1のSEM画像の例を示す。
図8からわかるように、酸化膜は粒状の金属間化合物を多数有している。
図8中、金属間化合物をIMC1、IMC2と表示し、金属間化合物以外の部分をA11、A12と表示した。
【0106】
図8中の、IMC1、IMC2、A11およびA12の部分についてそれぞれ深さ方向に元素分析した結果を
図9~
図12に示す。
図9は、IMC1の部分を元素分析した結果である。この金属間化合物は円相当直径が3μm以上であった。
図10は、IMC2の部分を元素分析した結果である。この金属間化合物は円相当直径が1μm以下であった。
図11はAl1の部分を元素分析した結果である。
図12はAl2の部分を元素分析した結果である。
【0107】
図9~
図12からわかるように、いずれの位置においても酸化膜の厚みには大きな差がないことがわかる。
図9のIMC1の部分、
図11のAl1の部分および
図12のAl2の部分における最表層の元素比率O/Alは2以下であることがわかる。一方、
図10のIMC2の部分における最表層の元素比率O/Alは2以上4以下であることがわかる。すなわち、
図8に示すSEM画像の例においては、IMC1の部分は金属間化合物Bに相当し、IMC2の部分は金属間化合物Aに相当する。
このような元素分析を行って、金属間化合物Aの密度を上述の方法で求めたところ、110000個/mm
2であった。
【0108】
図13に比較例3のSEM画像の例を示す。
図13からわかるように、酸化膜は粒状の金属間化合物を有している。
図13中、金属間化合物をIMC3と表示し、金属間化合物以外の部分をA13、A14と表示した。
【0109】
図13中の、IMC3、A13およびA14の部分についてそれぞれ深さ方向に元素分析した結果を
図14~
図16に示す。
図14は、IMC3の部分を元素分析した結果である。この金属間化合物は円相当直径が1μm以上であった。
図15はAl3の部分を元素分析した結果である。
図16はAl4の部分を元素分析した結果である。
【0110】
図14~
図16からわかるように、いずれの位置においても酸化膜の厚みには大きな差がないことがわかる。
図14のIMC3の部分、
図15のAl3の部分および
図16のAl4の部分における最表層の元素比率O/Alはいずれも2以下であることがわかる。すなわち、
図13に示すSEM画像の例においては、IMC3の部分は金属間化合物Bに相当する。比較例3からは、最表層の元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物Aは観察できなかった。
元素分析の結果を表2に示す。
【0111】
【0112】
表1および表2から、元素比率O/Alが2以上4以下である金属間化合物Aを500個/mm2以上有する酸化膜を有する本発明のアルミニウム箔は、比較例と比べて、初期抵抗および経時抵抗が低いことがわかる。
【0113】
[比較例4および5]
国際公開第2017/018462号の実施例5および実施例11に記載の方法をそれぞれ用いてアルミニウム箔を作製した。
比較例4は小さい金属間化合物が少ないアルミニウム基材を使用した例であり、比較例5は、小さい金属間化合物を含むアルミニウム基材を使用した例である。
【0114】
[実施例3]
比較例4および5と略同じ貫通孔物性(平均開口径および平均開口率)とするために、貫通孔形成工程の処理条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム箔を作製した。
【0115】
[評価]
上記と同様にして初期抵抗値および4週間強制経時後の抵抗値を測定した。また、上記と同様にしてFE-AESを用い、SEM観察、および表面の酸化膜の最表面から深さ方向に向けて元素分布を行い、金属間化合物Aの密度を求めた。また、酸化膜の膜厚について、初期値および4週間強制経時後の値を求めた。また、酸化膜の密度(初期値)についても求めた。
処理条件等を表3に示し、結果を表4に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
表3に示すとおり、比較例4および比較例5は、アルミニウム基材の種類、酸処理工程で用いる酸の種類、および、乾燥工程での温度が異なる。このような条件でアルミニウム箔を作製した比較例4および5は、表4に示すとおり、酸化膜に金属間化合物Aが観察されなかった。比較例4においては、金属間化合物の元素比率O/Alが最大で1.3であった。比較例5においては、金属間化合物の元素比率O/Alが最大で1.9であった。一方、実施例3においては、金属間化合物の元素比率O/Alは平均で3.0であった。
【0119】
表3および表4からわかるように、比較例4および5は初期の抵抗値は実施例3と同程度に低いが経時によって膜厚が厚くなると抵抗値が増加することがわかる。一方、本発明の実施例3は初期の酸化膜の膜厚が厚いが、経時での抵抗値の増加が少ないことが分かる。これはアルミニウム基材として小さい金属間化合物を多く含むアルミニウム基材を用い、かつ、酸化膜中の小さい金属間化合物の元素比率O/Alを所定範囲にすることで、この金属間化合物Aが、導通点になり、低抵抗を維持できるためである。
【0120】
[比較例6]
国際公開第2018/062046号の実施例1に記載の方法を用いてアルミニウム箔を作製した。
比較例6は小さい金属間化合物が多いアルミニウム基材を使用した例である。
【0121】
[実施例4]
比較例6と略同じ貫通孔物性(平均開口径および平均開口率)とするために、貫通孔形成工程の処理条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム箔を作製した。
【0122】
[評価]
上記と同様にして初期抵抗値、3週間強制経時後および8週間強制経時後の抵抗値を測定した。また、上記と同様にしてFE-AESを用い、SEM観察、および表面の酸化膜の最表面から深さ方向に向けて元素分布を行い、金属間化合物Aの密度を求めた。また、酸化膜の膜厚について、初期値、3週間強制経時後および8週間強制経時後の値を求めた。また、酸化膜の密度(初期値)についても求めた。
処理条件等を表5に示し、結果を表6に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
表5に示すとおり、比較例6は、アルミニウム基材の種類、酸処理工程で用いる酸の種類、および、乾燥工程での温度が異なる。このような条件でアルミニウム箔を作製した比較例6は、表6に示すとおり、酸化膜に金属間化合物Aが観察されなかった。比較例6においては、金属間化合物の元素比率O/Alが最大で1.8であった。一方、実施例4においては、金属間化合物の元素比率O/Alは平均で3.0であった。
【0126】
比較例6は、酸化膜の膜質を制御することで、経時での酸化膜の膜厚が厚くなるのを抑制して膜厚を薄く維持できるものの、長期の経時(8週間)では抵抗値の増加がみられる。一方、本発明の実施例4は、経時での酸化膜の膜厚の増加が比較例より大きいが、抵抗値は低く維持できることがわかる。これも、酸化膜中の小さい金属間化合物の元素比率O/Alを所定範囲にすることで、全体の酸化膜の厚みが厚くなっても、この金属間化合物Aが、導通点になり、低抵抗を維持できるためである。
【0127】
[実施例5]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、溶剤(MEK(メチルエチルケトン))で洗浄してアルミニウム箔を作製した。
【0128】
[実施例6]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、溶剤(MEK(メチルエチルケトン))で洗浄し、その後、未処理のアルミニウム箔(A1085材、未処理、未洗浄)で1週間梱包した。すなわち、実施例5と同様にして作製したアルミニウム箔を未処理のアルミニウム箔で1週間梱包した。
ここで、未処理アルミニウム箔で梱包して保存することは、未処理アルミニウム箔表面に残存する微量の圧延油がアルミニウム箔の表面に転写するため、水接触角が増加する。この点を利用し、実施例6,7,10はそれぞれ接触角が大きい例として作製した。
【0129】
[実施例7]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、未処理アルミニウム箔で1週間梱包した。
【0130】
[実施例8]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、コロナ処理を1回行い親水化してアルミニウム箔を作製した。コロナ処理は春日電機株式会社製の処理装置を用いた。コロナ処理の出力は600Wとした。
【0131】
[実施例9]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、コロナ処理を2回行い親水化してアルミニウム箔を作製した。
【0132】
[実施例10]
実施例2と同様にしてアルミニウム箔を作製した後、未処理アルミニウム箔で2週間梱包した。
【0133】
実施例2、5~10のアルミニウム箔について、水接触角を測定した。水接触角の測定は、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学株式会社)を使用し、「JISR3257:1999 基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に記載されている静滴法にしたがって行った。測定条件は、以下のとおりとした。
測定までの待ち時間 2000ms
作成液量 1.8μL
水接触角の測定結果を表7に示す。
【0134】
[評価]
<初期抵抗および強制経時抵抗>
実施例2、5~10のアルミニウム箔について、上記と同様にして初期抵抗、および、強制経時抵抗を測定し、同じ基準で評価した。なお、実施例6,7,10のように、未処理アルミニウムで梱包して保管する実施例については、梱包保管中の経時の影響を最小限にするため、低湿環境で所定の期間保管後、梱包から取り出し、初期抵抗および強制経時抵抗を測定した。
【0135】
<塗布性>
実施例2、5~10のアルミニウム箔について、初期抵抗の測定のため電極材料を塗布する際に、均一に塗布できるか目視で確認した。
結果を表7に示す。
【0136】
【0137】
表7から、表面の水接触角が80°を超えると塗布性が不均一になることがわかる。これは、表面が撥水性に近づくことで、水系の電極材料が、部分的にはじき、均一に塗布が出来なくなったものと考えられる。
ここで、未処理アルミニウム箔で梱包保管した実施例6および7はそれぞれ、同条件で作製した実施例2,5に対して、水接触角が大きくなっている。これは未処理アルミニウム箔で梱包保管したことで、未処理アルミニウム箔表面に残存する微量の圧延油がアルミニウム箔に転写して、それぞれ元の状態(梱包保管前)よりも水接触角が増加しているものである。また、実施例10は実施例8よりも長期間、梱包保管したものである。実施例10は、梱包保管期間が長いため、水接触角がさらに大きくなって、80°を超えている。その結果、実施例10は他の実施例と比較して塗布性が不均一になった。
【0138】
また、表7から表面の水接触角が20°未満だと初期抵抗および強制経時抵抗が悪化することがわかる。実施例8および9はコロナ処理を行うことで、表面を強制的に親水化したものである。上記のとおり、コロナ処理を行って水接触角を低下させると、抵抗が悪化することがわかる。
なお、実施例10は、塗布性が不均一であるため、電極材料とアルミニウム箔との接触状態が不十分となり、初期抵抗が実施例2に比べて悪化したものと考えられる。一方、実施例10の強制経時抵抗は、表面の水接触角が大きく撥水性に近いため、あまり悪化せず実施例2と同レベルであった。
以上より本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0139】
1 アルミニウム基材
2 水酸化アルミニウム皮膜
3 貫通孔を有するアルミニウム基材
4 貫通孔を有する水酸化アルミニウム皮膜
5 貫通孔
10 アルミニウム箔
14 酸化膜
16 金属間化合物
100 抵抗測定器
102 加圧式導電専用端子
104 加圧式絶縁端子
106 カーボン層