(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20221128BHJP
H01J 37/05 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01J37/05
(21)【出願番号】P 2021526764
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2019059075
(87)【国際公開番号】W WO2020106427
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-07-15
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リハンスキー, アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア, フランク
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ションウー
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-059395(JP,A)
【文献】特表2015-509268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0218894(US,A1)
【文献】特表2002-525820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/05
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインチャンバと、
イオンビームを前記メインチャンバ内に導くための入口トンネルであって、前記メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルと、
前記メインチャンバから出ていく前記イオンビームを導くための出口トンネルであって、前記出口トンネルは、前記メインチャンバに接続され出口軸を画定
し、前記入口
軸と前記出口
軸は、
前記入口トンネルよりも下流側において交差して、両者の間に25度未満のビーム屈曲を画定する、出口トンネルと、
前記メインチャンバ内に配置され、前記入口トンネルと前記出口トンネルとの間にビーム経路を画定する電極アセンブリと、
を備える装置であって、
前記電極アセンブリは、
前記ビーム屈曲の外側に対応する前記ビーム経路の第1の側に配置される
第1の電極と、
前記ビーム屈曲の内側に対応する前記ビーム経路の第2の側に配置される複数の
第2の電極とを備え、前記複数の
第2の電極は、少なくとも3つの電極を備える、装置。
【請求項2】
前記電極アセンブリが1つだけの
第1の電極を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記
第1の電極
は、前記第1の側から前記第2の側へ向かう方向の厚さが、前記ビーム経路に沿った方向の寸法よりも薄くされている、請求項1
または2に記載の装置。
【請求項4】
前記電極アセンブリ
の各電極が
、前記ビーム経路の前記第2の側に相当する前記出口トンネル
の内面を、前記メインチャンバ内に延長した面の一方の側であって、前記入口トンネルに近い一方の側のみに配置され
ている、請求項1
から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記
第1の電極は、前記
延長した面から第1の距離に配置され、前記複数の
第2の電極のうちの
最も下流側の電極は、前記
延長した面から、前記第1の距離に満たな
い第2の距離に配置され
ている、請求項
4に記載の装置。
【請求項6】
前記入口トンネルは
、前記
ビーム経路の前記第2の側に相当する部分が、前記
ビーム経路の前記第1の側に相当する部分よりもさらに広い範囲まで前記メインチャンバ内に延び
ている、請求項1
から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の装置を用いる、イオンビームの制御方法であって、
第1の電位にあるイオンビームを
、前記入口トンネルを通じて前記メインチャンバ内に導くことと、
前記電極アセンブリを用いて、前記イオンビームを第2の電位まで加速しつつ、前記イオンビームを
、前記ビーム経路の前記第1の側の方向に偏向させることと、
前記電極アセンブリを用いて、前記イオンビームを第3の電位まで減速しつつ、前記イオンビームを
、前記ビーム経路の前記第2の側の方向に偏向させることであって、前記イオンビームは、
前記出口トンネルを通じて前記
メインチャンバから出る
、偏向させることと、
を含む、イオンビームの制御方法。
【請求項8】
前記第3の電位は、前記第1の電位を下回る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオンビームは、リボンイオンビームを含
む、請求項
7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記イオンビームを前
記出口トンネルに沿って基板まで導くことをさらに
含む、請求項
7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記
メインチャンバ内で、前記基板からスパッタリングされた粒子を遮断することをさらに含み、前記スパッタリングされた粒子は、前記電極アセンブリに衝突しない、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
イオンビームを生成するイオン源と、
前記イオンビームを制御するため、前記イオン源の下流に配置された静電フィルタと、
を備えるイオン注入装置であって、前記静電フィルタは、
メインチャンバと、
前記イオンビームを前記メインチャンバ内に導くための入口トンネルであって、前記メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルと、
前記メインチャンバから出ていく前記イオンビームを導くための出口トンネルであって、前記出口トンネルは、前記メインチャンバに接続され出口軸を画定
し、前記入口
軸と前記出口
軸は、
前記入口トンネルよりも下流側において交差して、両者の間に25度未満のビーム屈曲を画定する、出口トンネルと、
前記メインチャンバ内に配置され、前記入口トンネルと前記出口トンネルとの間にビーム経路を画定する電極アセンブリであって、前記
ビーム屈曲の内側に対応する側の前記出口トンネルの内面を、前記メインチャンバ内に延長した面の一方の側であって、前記入口トンネルに近い一方の側のみに配置され
ている、電極アセンブリとを備える、イオン注入装置。
【請求項13】
前記電極アセンブリは、
前記ビーム屈曲の外側に対応する前記ビーム経路の第1の側に配置された
第1の電極と、
前記ビーム屈曲の内側に対応する前記ビーム経路の第2の側に配置された複数の
第2の電極とを備える、請求項
12に記載のイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は概して、基板への注入を行うための装置および技術に関し、より具体的には、イオンビーム用に改良されたエネルギーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] イオン注入は、衝突によってドーパントまたは不純物を基板に導入する処理である。半導体製造において、ドーパントは電気的、光学的、または機械的特性を変えるために導入される。
【0003】
[0003] イオン注入システムは、イオン源と一連のビームライン構成要素とを備えうる。イオン源は、イオンが生成されるチャンバを含むことができる。イオン源は、チャンバの近くに配置された電源および抽出電極アセンブリも備えうる。ビームライン構成要素は、例えば、質量分析器、第1の加速または減速ステージ、コリメータ、および、第2の加速または減速ステージを含んでもよい。光ビームを操作するための一連の光学レンズと同じように、ビームライン構成要素は、特定の核種、形状、エネルギー、および/または他の性質を有するイオンまたはイオンビームをフィルタにかけ、集束させ、かつ操作することができる。イオンビームは、ビームライン構成要素を通過し、プラテンまたはクランプ上に取り付けられた基板に向かって方向付けられうる。基板は、ロプラットとも称される装置によって、1つまたは複数の次元で動かされうる(例えば、平行移動、回転、および傾斜)。
【0004】
[0004] 多くのイオン注入装置では、下流の静電モジュールは、イオンビームエネルギー、イオンビーム形状、およびイオンビームサイズを制御するための静電レンズおよび静電フィルタとして機能しうる。静電モジュールは、イオンビームの伝播方向を変えながら、最終エネルギーまでイオンビームを加速または減速することができる。イオンビームの方向を変えることによって、エネルギー中性粒子を遮蔽し、その結果、十分に画定されたエネルギーを有する最終的なビームとなる。
【0005】
[0005] 公知の静電モジュールは、例えば、ペアで配置された7つの上下の電極など、複数の電極ペアを採用してもよく、電極はそこを通って進行するイオンビームを抑制して誘導する。ロッド/電極電位は、イオンビームを減速し、偏向させ、イオンビームを集束させるような電場を、静電モジュールに作り出すように設定される。
【0006】
[0006] 静電モジュールのいくつかの構成では、基板に当たる前に最終的なビームエネルギーで出て行く前に、静電モジュールのメインチャンバ内でイオンビームを偏向、減速、および集束させるために、5つまたは7つの電極ペアなど、所与の数の電極を使用することができる。電極を適切な動作順序に維持するために、定期的なメンテナンスを実行して、メインチャンバならびに電極を洗浄し、フレークなどの破片、または静電モジュールの使用中に蓄積する他の材料を除去することができる。例えば、基板からの材料は、注入中に再スパッタリングされ、静電モジュール内の電極の表面または他の表面上に戻されることがある。そのような材料は、材料のフレーキングやその他の浸食が進むような状態で電極上に蓄積することがあり、浸食された材料は部分的に、原子レベル、微視的または巨視的な粒子または破片として基板上に運ばれることがある。
【0007】
[0007] これらの留意事項および他の留意事項に関連して、本開示が提供される。
【発明の概要】
【0008】
[0008] 一実施形態では、装置が提供される。装置は、メインチャンバ、入口トンネル、メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネル、および、メインチャンバに接続され出口軸を画定する出口トンネルを含みうる。入口トンネルと出口トンネルは、両者の間に25度未満のビーム屈曲を画定しうる。装置は、メインチャンバ内に配置され、入口トンネルと出口トンネルとの間にビーム経路を画定する電極アセンブリを含んでもよい。電極アセンブリは、ビーム経路の第1の側に配置される下方電極と、ビーム経路の第2の側に配置される複数の電極とを含んでもよく、複数の電極は少なくとも3つの電極を含む。
【0009】
[0009] さらなる実施形態では、イオンビームを制御する方法が提示される。方法は、第1の電位にあるイオンビームを、第1のビーム軌道に沿ってチャンバ内に導くことを含んでもよい。方法は、第1の方向にイオンビームを偏向させる一方で、第2の電位までイオンビームを加速させることと、第1の方向と反対の第2の方向にイオンビームを偏向させる一方で、第3の電位までイオンビームを減速させることとを含んでもよい。したがって、イオンビームは、第1のビーム軌道とは異なる第2のビーム軌道に沿ってチャンバから出てもよい。
【0010】
[0010] 別の実施形態では、イオン注入装置は、イオンビームを生成するイオン源と、イオンビームを制御するためイオン源の下流に配置された静電フィルタとを含みうる。静電フィルタは、入口トンネルを含んでもよく、入口トンネルは、静電フィルタのメインチャンバ内に延びる入口軸を有する。静電フィルタは、メインチャンバに接続され、出口軸を画定する出口トンネルを含んでもよく、入口トンネルおよび出口トンネルは、両者の間に25度未満のビーム屈曲を画定する。イオン注入装置は、メインチャンバ内に配置され、入口トンネルと出口トンネルとの間にビーム経路を画定する電極アセンブリを含んでもよく、電極アセンブリは、出口トンネルの下側に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態による、イオン注入システムを実証する例示的な実施形態を示す。
【
図2】本開示の実施形態による、静電フィルタの例示的な実施形態を断面で示す。
【
図3A】本開示の例示的な実施形態による、インビームを輸送するための、ある動作モードでの静電フィルタを示す。
【
図3B】本開示の例示的な実施形態による、インビームを輸送するための、
図3Aとは異なる動作モードでの静電フィルタを示す。
【
図4A】本開示の実施形態による、ある動作モード下での例示的な静電フィルタにおける静電位および高エネルギー中性粒子の分布のシミュレーションを示す。
【
図4B】本開示のさらなる実施形態による、
図4Aとは異なる動作モード下での例示的な静電フィルタにおける静電位および高エネルギー中性粒子の分布のシミュレーションを示す。
【
図5A】本開示の他の実施形態による、ある動作モード下での例示的な静電フィルタにおけるスパッタリングされた粒子の分布のシミュレーションを示す。
【
図5B】本開示の他の実施形態による、
図5Aとは異なる動作モード下での例示的な静電フィルタにおけるスパッタリングされた粒子の分布のシミュレーションを示す。
【
図6】本開示のさらなる実施形態による、1つの動作モード下での例示的な静電フィルタにおける負の粒子分布のシミュレーションを示す。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態による、例示的な処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0018] 図面は、必ずしも縮尺どおりではない。図面は、単なる表現であり、本開示の特定のパラメータを表すことを意図しない。図面は、本開示の例示的な実施形態を示すことを意図しており、したがって、範囲を限定するものと見做されない。図面では、同様の番号が同様の要素を表す。
【0013】
[0019] ここで、本開示によるシステムおよび方法を、システムおよび方法の実施形態が示された添付の図面を参照しながら、以下でより完全に説明する。システムおよび方法は、多くの異なる形態で具現化されてよく、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと見做されない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が一貫した完全なものであり、システムおよび方法の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0014】
[0020] 便宜上および明確にするために、「最上部(top)」、「底部(bottom)」、「上方(upper)」、「下方(lower)」、「垂直方向(vertical)」、「水平方向(horizontal)」、「横方向(lateral)」、および「縦方向(longitudinal)」といった用語は、本明細書では、図に見られるように、これらの構成要素およびこれらを構成する部分の相対的な配置および配向を説明するために使用される。専門用語には、具体的に言及された単語、その派生語、および、同様の重要度の単語が含まれる。
【0015】
[0021] 本明細書で使用されているように、「a」または「an」という単語に続いて、単数形で列挙される要素または動作は、同様に複数の要素または動作を含む可能性があるものとして、理解される。さらに、本開示の「一実施形態(one embodiment)」への言及は、列挙された特徴も組み込む追加的な実施形態の存在を除外するものとして解釈されることを意図しない。
【0016】
[0022] 本明細書で提供されるのは、例えば、静電フィルタとして機能する静電モジュールの動作および信頼性を改善するための手法である。例示的な実施形態では、静電フィルタは、静電モジュールのメインチャンバ内の電極アセンブリの新しい配置を含む新しいアーキテクチャを有することが開示される。
【0017】
[0023] ここで
図1を参照すると、システム10を示す例示的な実施形態が示されており、システム10は、本開示によるイオン注入システムのために使用されてもよい。システム10は、他の構成要素のうち、リボンイオンビームまたはスポットビームなどのイオンビーム18を生成するためのイオン源14と、一連のビームライン構成要素とを含む。イオン源14は、ガス流24を受け取るためのチャンバを備えることが可能であり、イオンを生成する。イオン源14は、上記チャンバの近くに配置された電源および抽出電極アセンブリも備えてもよい。イオン源14から静電フィルタ40に延びるビームラインは、上流ビームライン12とみなすことができる。いくつかの非限定的な実施形態では、上流ビームラインのビームライン構成要素16は、例えば、質量分析器34、第1の加速または減速ステージ36、および静電フィルタ40の上流に配置されたコリメータ38を含むことができ、この静電フィルタは、イオンビーム18を減速および/または加速することができる。
【0018】
[0024] 例示的な実施形態では、ビームライン構成要素16は、イオンまたはイオンビーム18をフィルタ処理し、集束させ、操作して、これらが特定の核種、形状、エネルギー、および/または他の性質を有するようにすることができる。ビームライン構成要素16を通過するイオンビーム18は、処理チャンバ46内のプラテンまたはクランプ上に取り付けられた基板15に向けることができる。基板は、1つまたは複数の次元で動かされうる(例えば、平行移動、回転、および傾斜)。
【0019】
[0025] 静電フィルタ40は、イオンビーム18の偏向、減速、および焦点を独立して制御するよう構成されたビームライン構成要素である。一実施形態では、静電フィルタ40は、垂直静電エネルギーフィルタ(VEEF)または静電フィルタ(EF)である。以下でより詳細に説明するように、静電フィルタ40は、少なくとも1つの電極構成を画定する電極アセンブリとして配置されてもよい。電極構成は、静電フィルタ40を通してイオンビーム18を処理するために、ビームラインに沿って直列に配置された複数の電極を含んでもよい。いくつかの実施形態では、静電フィルタは、イオンビーム18の上方に配置された少なくとも1つの上方電極と、イオンビーム18の下方に配置された一組の下方電極と、を含みうる。少なくとも1つの上方電極と下方電極の組との間の電位差はまた、中心光線軌道(CRT;central ray trajectory)に沿った様々な点でイオンビームを偏向させるため、中心イオンビーム軌道に沿って変更可能である。システム10はさらに、電極電圧アセンブリ50として示された電極電圧源、並びに静電フィルタ40に連結された入口トンネル52を含んでもよく、チューナ電圧アセンブリの動作は後述される。
【0020】
[0026]
図1にさらに示されるように、システム10は、静電フィルタ40のすぐ上流に配置されるか、または静電フィルタ40の上流部分を形成して、イオンビーム18を静電フィルタ40に案内する入口トンネル52を含んでもよい。システム10はさらに、静電フィルタ40のメインチャンバのすぐ下流に配置されるか、または静電フィルタ40の一部を形成する出口トンネル124を含んでもよい。以下の実施形態において開示されるように、入口トンネル52、出口トンネル124、および静電フィルタ40内の電極は、システム10の動作を改善するために、新しい構成で配置されてもよい。
【0021】
[0027] 本開示の実施形態によれば、静電フィルタ40は、比較的低いビーム電流から高いビーム電流まで、比較的低いビームエネルギーから高いビームエネルギーまで、広範囲の条件にわたって、ビームライン動作のために配置されてもよい。後述する種々の実施形態によれば、静電フィルタ40は、入口トンネルと出口トンネルとが整列され、両者の間に25度以下のビーム屈曲を画定するように配置されてもよい。この低ビーム屈曲配置は、多くの既知のビームライン設計との適合を容易にする。
【0022】
[0028]
図2を参照すると、静電フィルタ40の1つの変形例の構造が示されている。
図2には、静電フィルタ40、入口トンネル52、および
出口トンネル124の側断面図が示されている。図示されるように、静電フィルタ40は、静電フィルタ40の上方を延び、静電フィルタ40を部分的に包むメインチャンバ102を含む。静電フィルタ40は、電極110、電極112、電極114、および電極116を含む、電極アセンブリ108を含む。
図2に示すように、複数の電極は、非対称構成で配置される。例えば、
図2に示す具体的な実施形態では、電極アセンブリ108は、電極110として示される、1つだけの上方電極を備える。いくつかの実施形態では、上方電極は、
図2に示されるように、細長い断面を有してもよい。
【0023】
[0029] 細長い断面を設けることにより、上方電極を垂直方向に沿って比較的薄くすることができ、基板からの見通し線の外に保持することができる。同時に、一般的に水平方向に沿った延びていることによって、過度に高い電圧を必要とすることなく、上方電極は入射ビームを曲げることができる。加えて、細長い断面は、静電応力を最小化するために、図示のように丸い角を有してもよい。
【0024】
[0030]
図2にさらに示されるように、電極アセンブリ108は、出口トンネル124のちょうど下側に配置される。電極アセンブリ108はさらに、電極110を意味する「上方電極」が出口トンネル124の十分下に配置されるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、電極アセンブリの上方電極は、出口トンネル124の下方の第1の距離に配置され、複数の下方電極の最後の電極(電極116参照)は、
出口トンネル
124の下方の第2の距離(第1の距離未満)に配置される。この構成は、上方電極を、出口トンネル124に最も近い下方電極よりもさらに下方に配置し、後述するように、汚染をさらに低減するのに役立っている。
【0025】
[0031] 様々な実施形態では、入口トンネル52は、非対称構造を有するように構成されてもよく、ここで、入口トンネル52の下部は、
図2に図示されるように、上部よりもさらに広がってメインチャンバ102内に延びる。この構成は、メインチャンバ102の入口側により近い電極110の配置を可能にし、この配置は、後述する静電フィルタ40を通してイオンビームを成形および輸送する際に有利となりうる。
【0026】
[0032]
図3A~
図3Bは、静電フィルタ140として示される静電フィルタ40の1つの変形例の動作を示す。動作は、2つの異なる動作モードについて示され、
図3Aでは、静電フィルタ140は、比較的低いビームエネルギーのために動作されるが、
図3Bでは、静電フィルタ140は、比較的高いビームエネルギーで動作される。静電フィルタ140はさらに、メインチャンバ102に隣接して配置され、出口トンネル124を包含するプラズマフラッドガン122を含む。プラズマフラッドガン122は、既知のプラズマフラッドガンの原理に従って動作するように構成することができる。
【0027】
[0033]
図3Aは、低エネルギーリンイオンビームの輸送のシミュレーションを示し、イオンビーム142は3kVの最終ビームエネルギーを有する。このシミュレーション、および後続の図に従う他のシミュレーションでは、入口トンネル52は、下側が上側よりもメインチャンバ102内にさらに延びる非対称構造で配置される。シミュレーションを目的として、下側は丸みを帯びた突出部(実線)を有するように示されているが、実際の実施形態では、下側は、破線で示されているように丸みを帯びた遠位端53を呈してもよい。
【0028】
[0034] 特に、
図3Aのシミュレーションでは、イオンビーム142は、初期イオンポテンシャル28kVで静電フィルタ140のメインチャンバ102に導かれ、静電フィルタ140で処理された後、最終イオンエネルギー3kVで基板126に導かれる。イオンビーム142は、入口トンネル52を通って第1のビーム軌道に沿ってメインチャンバ102内に導かれ、このシミュレーションにおいて水平(X-Y平面)に対して約20度の角度を形成する。イオンビーム142は、
図3Aに示されるように、水平に沿ったような第1のビーム軌道とは異なる第2のビーム軌道に沿ってメインチャンバ102から出る。したがって、低ビーム屈曲は、第1の軌道と第2の軌道との間で画定され、この場合、20度のビーム屈曲である。この構成により、静電フィルタ140を、コリメータ38および基板15などのビームライン構成要素の相対的配置が、静電フィルタを介して処理されるときに、ビーム軌道における比較的小さな偏差を要求するビームライン内に挿入することができる。
【0029】
[0035]
図3Aにさらに示されるように、イオンビーム142は、メインチャンバ102に入った後、第1の方向(左または上方へ)に偏向され、その後、メインチャンバから出る前に、第2の方向(右または下方へ)に偏向される。
【0030】
[0036]
図3Bのシミュレーションでは、イオンビーム142はヒ素(As+)イオンビームであり、初期電位60kVで静電フィルタ140のメインチャンバ102に導かれ、静電フィルタ140で処理された後、最終電位60kVで基板126に導かれる。イオンビーム142は、入口トンネル52を通して、第1のビーム軌道に沿ってメインチャンバ102内に導かれ、第2のビーム軌道は、
図3Aの場合と同様である。これらのシミュレーションでは共に、32mAの電流が静電フィルタ140を通って基板126に運ばれる。
【0031】
[0037]
図4Aおよび
図4Bは、それぞれ、
図3Aおよび
図3Bの動作条件に対応する静電位および高エネルギー中立軌道(energetic neutral trajectories)のシミュレーションを示す。
図4Aにおいて、チャンバ壁120および出口トンネル124、ならびに電極116は、接地電位に設定され、一方、電極110、電極112、および電極114は、負電位に設定される。
図4Bにおいて、チャンバ壁120および出口トンネル124は、接地電位に設定され、一方、電極110、電極112、電極114、および電極116は、負電位に設定される。
【0032】
[0038] 中性線束(neutral flux)146および中性線束148はそれぞれ、イオンビーム142またはイオンビーム144の初期ビームエネルギーに匹敵するエネルギーを有する、メインチャンバ102に入る高エネルギー中性粒子の経路を表す。示されるように、高エネルギー中性粒子は、変動する静電位によって生成される電場に影響されないので、高エネルギー中性粒子は、直線軌道を移動し、出口トンネル124の上部、ならびに電極の一部によって遮断される。
【0033】
[0039] 次に
図5Aおよび
図5Bを参照すると、それぞれ
図3Aおよび
図3Bの条件下で、基板126から放出されるスパッタリングされた材料130およびスパッタリングされた材料132の二次元空間分布をシミュレートするシミュレーションのペアが示されている。スパッタリングされた材料は、基板126に最初に配置された材料を表し、基板126にイオンを注入するために使用される入射イオンビームは、基板126の表面上またはその近傍に位置するある量の材料を再スパッタリングしうる。特に
図5Aを参照すると、入射イオンビームは、3keVのエネルギーを有するリンイオンビームであるのに対し、
図5Bでは、入射イオンビームは、60keVのエネルギーを有する砒素イオンビームである。
【0034】
[0040]
図5Aのシミュレーションは、プラズマフラッドガン122と基板126との間に配置された下流領域128の至る所に再スパッタリングされた材料が存在することを示している。加えて、プラズマフラッドガン122によって画定される出口トンネル124は、再スパッタリングされた粒子で充満し、粒子が基板126から静電フィルタ140のメインチャンバ102に向かって戻ることを示している。
【0035】
[0041]
図5Aにさらに示されるように、再スパッタリングされた粒子のシミュレーションは、出口トンネル124と整列したメインチャンバ102内に密なプルームを形成し、再スパッタリングされた粒子の大部分は、出口トンネルの上方のメインチャンバ102の最上部に留まる。次いで、スパッタリングされた粒子のプルームは、メインチャンバ102のチャンバ壁120の様々な位置に付着しうる。このシミュレーションでは、再スパッタリングされた粒子が電極アセンブリ108の電極に付着することは全くない。したがって、
図5Aの構成は、電極アセンブリ108の電極上に、少なくとも基板126からの直接の再スパッタリングによって、再スパッタリングされた材料が蓄積する可能性は低い。
【0036】
[0042]
図5Bのシミュレーションは、プラズマフラッドガン122と基板126との間に配置された下流領域128の至る所に再スパッタリングされた材料が存在することを示している。加えて、プラズマフラッドガン122によって画定される出口トンネル124は、再スパッタリングされた粒子で充満し、粒子が基板126から静電フィルタ140のメインチャンバ102に向かって戻ることを示している。
【0037】
[0043]
図5Bにさらに示されるように、再スパッタリングされた粒子のシミュレーションは、出口トンネル124と整列したメインチャンバ102内に密なプルームを形成し、再スパッタリングされた粒子の大部分は、出口トンネルの上方のメインチャンバ102の最上部に留まる。次いで、スパッタリングされた粒子のプルームは、メインチャンバ102のチャンバ壁120の様々な位置に付着しうる。このシミュレーションでは、再スパッタリングされた粒子が電極アセンブリ108の電極に付着することは全くない。したがって、
図5Bの構成は、電極アセンブリ108の電極上に、少なくとも基板126からの直接の再スパッタリングによって、再スパッタリングされた材料が蓄積する可能性は低い。
【0038】
[0044] 次に
図6を参照すると、
図3Aの静電フィルタ40の変形例のさらなるシミュレーションが示されている。具体的には、
図6は、電極アセンブリ108の電極から離れる負に帯電した粒子の軌道を示す。負に帯電した粒子の軌道は、所定の電極から離れる傾向があり、異なる電極に印加される個々の電圧に応じて複雑なパターンを形成する。注目すべきことに、いずれの負に帯電した粒子軌道も、電極アセンブリ108の電極の位置に関する出口トンネル124の幾何学的形状によってもたらされる遮蔽のために、基板126には至らない。
【0039】
[0045] さらに、静電フィルタ140を減速モードで動作させ、正イオンビームを初期エネルギーからより低い最終エネルギーに減速させると、正粒子軌道が電極アセンブリ108によって生成される。
【0040】
[0046] 様々な実施形態に従って、電極アセンブリ108の電極は、示されるデカルト座標系のX軸に沿って引き延ばされてもよい。したがって、電極は、X軸に沿って引き延ばされた断面を有するリボンビームを制御するのに有用となることがあり、リボンビームは、X軸に沿って幅が数十センチメートルであってよく、数センチメートル程度の高さを有してもよい。実施形態は、この状況に限定されない。
【0041】
[0047] ビーム経路の片側に1つの電極が配置され、ビーム経路の反対側に3つの電極が配置される、
図4A~
図3Cの電極の具体的な構成は、低~中程度の最終イオンビームエネルギーのイオンビームを処理するために特に適切となりうる。例えば、これらの構成は、50keV未満の動作に適していてもよく、比較的低い電圧および静電応力が電極上に存在してもよく、イオンビームを減速および誘導するために、より少ない電極(例えば、3つの電極だけ)を使用することができる。このより少ない数の電極は、よりコンパクトなメインチャンバ設計を可能にし、再スパッタリングされる基板材料から、また逆に、基板に衝突しうる望ましくない負に帯電した粒子の生成から、電極を「隠す」という点で、なお有効である。
【0042】
[0048] さらに、上記の実施形態は、ビーム経路の一方の側に3つの電極を有する構成を示すが、他の構成では、4つの電極、5つの電極、またはそれ以上をビーム経路の一方の側に配置することができる。加えて、上記の実施形態は、ビーム経路の反対側に1つだけの電極を示しているが、他の実施形態では、複数の電極がビーム経路の反対側に配置されてもよい。
【0043】
[0049] また、電極が60度、70度、80度、または90度などのより急角度のビーム屈曲、あるいは30度などのより緩やかなビーム屈曲を画定するように配置される構成が可能である。これらの他の構成では、メインチャンバの形状、電極の位置、および出口トンネルの位置の配置は、基板から再スパッタリングされた粒子が電極に衝突するのを防止または大幅に低減し、負に帯電した粒子が電極から出て基板に衝突するのを防止または低減するようなものとすることができる。
【0044】
[0050]
図7に、例示的な処理フロー700を示す。ブロック702では、イオンビームが、第1のエネルギーで静電フィルタのメインチャンバ内に向けられる。イオンビームは、入口トンネルを通って方向付けられてもよい。ブロック704では、イオンビームは、第2のエネルギーまで加速されながら、第1の方向に偏向されてもよい。ブロック706では、イオンビームは、第3のエネルギーまで減速されながら、第1の方向と反対の第2の方向に沿って偏向されてもよい。イオンビームの偏向は、電極が静電フィルタの下流に配置された基板からの見通し線に並ばないように位置決めされた電極を有する静電アセンブリを用いて行われうる。
【0045】
[0051] 上記に鑑みて、本明細書に開示される実施形態によって、少なくとも以下の利点が達成される。本実施形態は、フィルタ電極に発生した負に帯電した粒子が基板に衝突する能力を排除することによって、静電フィルタからの基板の直接汚染が低減されるという第1の利点を提供する。さらに、本実施形態によって提供される別の利点は、静電フィルタの電極上の基板から再スパッタリングされた材料の蓄積によって生じる間接的な基板汚染、さらなる汚染源が電極からのその後のスパッタリングまたはフレーキングに対して引き起こす間接的な基板汚染の排除である。さらなる利点は、静電フィルタの低ビーム屈曲構成であり、基板近傍の低ビーム屈曲アーキテクチャ用に設計されたイオン注入装置ビームラインに容易に組み込むことができる。
【0046】
[0052] 本開示の範囲は、本明細書に記載した具体的な実施形態に限定されるものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本開示に対する他の様々な実施形態および修正は、前述の説明および添付の図面から当業者には明らかであろう。このため、そのような上記以外の実施形態および変形例は、本開示の範囲に含まれるものである。さらに、本明細書では、本開示を、特定の目的のための特定の環境における特定の実装の状況で説明したが、当業者は、有用性がそれに限定されず、本開示は、任意の数の目的のために任意の数の環境において有益に実装されうることを認識するであろう。したがって、以下に記載される特許請求の範囲は、本明細書に記載される本開示のすべての範囲および主旨を考慮して解釈されるべきである。