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  • 特許-酸化亜鉛鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/02 20060101AFI20221129BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20221129BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20221129BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20221129BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221129BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20221129BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20221129BHJP
   C02F 11/12 20190101ALI20221129BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C22B19/02 ZAB
C22B7/02 B
C22B1/02
C22B3/46
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
B09B3/40
B09B3/70
C02F11/12
C02F1/70 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018082315
(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公開番号】P2019189898
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】越野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘志
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160496(JP,A)
【文献】特開2014-084509(JP,A)
【文献】特開2001-064736(JP,A)
【文献】特開平07-097638(JP,A)
【文献】特開2015-124388(JP,A)
【文献】特開2014-214316(JP,A)
【文献】特開2001-276773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 1/00-61/00
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-10/00
C01F 1/70-1/78
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
還元焙焼工程と、
湿式処理工程と、
脱水工程と、
乾燥加熱工程と、
排水処理工程と、
排水澱物処理工程と、を含んでなり、
前記還元焙焼工程においては、カドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得て、
前記湿式処理工程においては、前記還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストを、洗浄液でレパルプ洗浄して、該粗酸化亜鉛ダストに含有されているカドミウムを洗浄液側に分配することにより粗酸化亜鉛ケーキスラリーを得て、カドミウムを含有する洗浄後液を排出し、
前記脱水工程においては、前記湿式処理工程で得た前記粗酸化亜鉛ケーキスラリーを、粗酸化亜鉛ケーキと、第1の脱水ろ液と、に分離し、
前記乾燥加熱工程においては、前記脱水工程で得た前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して、酸化亜鉛鉱と、排ガスと、に分離し、
前記排水処理工程においては、前記湿式処理工程から排出された前記洗浄後液を、pH10以上12以下の条件で行う中和処理を含む排水処理に処し、該排水処理後の前記洗浄後液を、排水澱物スラリーと、排水処理後液と、に分離し、
前記排水澱物処理工程においては、前記排水澱物スラリーを、更に排水澱物と、第2の脱水ろ液と、に分離し、
前記脱水工程から排出される前記第1の脱水ろ液は、前記湿式処理工程に繰返し、
前記排水処理工程から排出される前記排水澱物スラリーは、前記湿式処理工程には繰返さずに、前記排水澱物処理工程において処理し、
前記排水澱物処理工程から排出される前記排水澱物は、前記乾燥加熱工程に繰返し、
前記排水澱物処理工程から排出される前記第2の脱水ろ液は、該排水澱物処理工程に繰返すことによって、
前記湿式処理工程において行うレパルプ洗浄時に、前記洗浄液のpHを7以下に維持する、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記排水処理工程において行う前記排水処理が、
前記洗浄後液に金属亜鉛粉末を添加することで、セメンテーション反応により該洗浄後液中のカドミウム及び鉛を除去し、セメンテーション残渣とセメンテーション後液を得る、セメンテーション段階と、
前記セメンテーション後液に中和剤を添加して、pHを10以上12以下に調整することにより中和澱物を生成せしめ、中和後スラリーを得る中和段階と、
前記中和後スラリーに硫化剤を添加して、酸化還元電位を-200mV以上0mV以下(Ag/AgCl電極基準)に調整することにより、金属硫化物を生成し、前記排水処理後のスラリーとして前記中和澱物と該金属硫化物とを含むスラリーを得る硫化段階と、により構成されている請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項3】
前記粗酸化亜鉛原料が亜鉛含有鉄鋼ダストである、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。より詳しくは、不純物としてカドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料から、還元焙焼を含む処理を経て、カドミウム含有率の低い酸化亜鉛鉱を得る、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、鉄鋼業等のプラントから排出された二次原料としての粗酸化亜鉛原料から不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。
【0003】
酸化亜鉛鉱は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダスト等の粗酸化亜鉛原料から還元焙焼処理を経て得ることができる。資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。しかし、一方で特にこのような鉄鋼ダスト等の粗酸化亜鉛原料には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。
【0004】
最終製品である亜鉛地金における上記の不純物の濃度は当然に極めて低いものであることが求められ、必然的に中間製品である酸化亜鉛鉱にも上記の不純物の濃度は低いものであることが求められる。一般的な基準として、亜鉛製錬の原材料となる酸化亜鉛鉱におけるカドミウムの含有率としては、0.2重量%未満であることが求められる。そこで、上記のような鉄鋼業由来の粗酸化亜鉛を原料とする場合も含めて、酸化亜鉛鉱の製造工程においては、例えば、主に水溶性の塩類の形態で存在している塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物を、水洗処理によって除去する湿式処理が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、粗酸化亜鉛から酸化亜鉛鉱を製造する製造ライン内において、それぞれpH値を異なる値に最適化した2種の処理液を用いて、2段階に分けて湿式処理を行うことにより、粗酸化亜鉛中に含有されるハロゲン成分及びカドミウムを効率良く除去することのできる方法が開示されている。
【0006】
尚、図2は、従来の一般的な酸化亜鉛鉱の製造プロセスの工程フロー図であるが、同図に示す通り、従来、酸化亜鉛鉱の製造プロセス中の湿式処理工程においては、粗酸化亜鉛ダストの他、排水澱物スラリー、排ガスダストスラリー、各所の洗浄液や回収物等、酸化亜鉛鉱の製造プロセス内の各所から発生する液及び固体の全てを集約して受入れて、沈降分離処理を行っていた。このことは、特許文献1に開示されている上記方法においても同様であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-084509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて各工程において取扱われる各種のスラリーを構成する固体中のカドミウム含有率はそれぞれ大きく異なる。例えば、還元焙焼工程S10を経て得られる粗酸化亜鉛ダスト(図2参照)のカドミウム含有率は比較的高く、排水処理工程S50において分離回収された排水澱物スラリー(図2参照)のカドミウム含有率は比較的低い。還元焙焼工程S10では、カドミウムは亜鉛と同じ挙動を取り、一方で、排水処理工程S50では、中和処理等により、ごく微量のカドミウムを除去しているに過ぎないからである。
【0009】
図2に示す、従来の酸化亜鉛鉱の製造プロセスの湿式処理工程S20においては、通常、pHが6~7である、還元焙焼工程S10を経て得られる粗酸化亜鉛ダストを洗浄液でレパルプ洗浄した粗酸化亜鉛ダストスラリーに対して、排水処理工程S50において分離回収されたpH10~12程度の比較的pHが高い排水澱物スラリーが混合されたスラリーを処理している。しかしながら、混合物中における粗酸化亜鉛ダストスラリーの割合が格段に大きいため、湿式処理工程で取り扱われるスラリーのpHは、常にpH8未満に保たれている。
【0010】
しかし、ごくまれに、還元焙焼工程S10が、トラブルにより緊急停止したとき等、スラリー量のバランスが崩れて、湿式処理工程に処されるスラリーのpHが8以上に急上昇する事態が発生してしまうことがあった。この場合には、粗酸化亜鉛ダスト中のカドミウムは水酸化物を生成するので、洗浄液側に分配させることができなくなり、酸化亜鉛鉱のカドミウム含有率が急激に増加して、要求される製品品位を維持できなくなってしまうことがあるという問題があった。一例として、従来の酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、最終製品である酸化亜鉛鉱のカドミウム含有率が急激に増加したときに記録した、湿式処理工程を行う沈降分離槽の処理液のpHと、乾燥加熱工程を経た酸化亜鉛鉱のCd含有率の推移を図3に示した。
【0011】
本発明は、不純物としてカドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料から酸化亜鉛鉱を得る酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、湿式処理工程に処されるスラリーのpHの急変動を防止して、より安定的にカドミウムの除去を行い、酸化亜鉛鉱の製品品位の安定性を高めることができる、酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、酸化亜鉛鉱の製造プロセス内の各工程において取扱っている各種スラリーを構成する固体分のカドミウム含有率の違いと、各種スラリーのpHの違い、即ち、工程内のカドミウムバランスに着目して鋭意検討を重ねた結果、pHの高い排水処理澱物スラリーと、カドミウム含有率が比較的高い粗酸化亜鉛ダストとを混合せずに、pHの高い排水処理澱物スラリーのみを別途の工程において処理する方法を確立し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 酸化亜鉛鉱の製造方法であって、還元焙焼工程と、湿式処理工程と、脱水工程と、乾燥加熱工程と、排水処理工程と、排水澱物処理工程と、を含んでなり、前記還元焙焼工程においては、カドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得て、前記湿式処理工程においては、前記還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストを、洗浄液でレパルプ洗浄して、該粗酸化亜鉛ダストに含有されているカドミウムを洗浄液側に分配することにより粗酸化亜鉛ケーキスラリーを得て、カドミウムを含有する洗浄後液を排出し、前記脱水工程においては、前記湿式処理工程で得た前記粗酸化亜鉛ケーキスラリーを、粗酸化亜鉛ケーキと、第1の脱水ろ液と、に分離し、前記乾燥加熱工程においては、前記脱水工程で得た前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して、酸化亜鉛鉱と、排ガスと、に分離し、前記排水処理工程においては、前記湿式処理工程から排出された前記洗浄後液を、pH10以上12以下の条件で行う中和処理を含む排水処理に処し、該排水処理後の前記洗浄後液を、排水澱物スラリーと、排水処理後液と、に分離し、前記排水澱物処理工程においては、前記排水澱物スラリーを、更に排水澱物と、第2の脱水ろ液と、に分離し、前記脱水工程から排出される前記第1の脱水ろ液は、前記湿式処理工程に繰返し、前記排水澱物処理工程から排出される前記排水澱物は、前記乾燥加熱工程に繰返す、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0014】
(1)の発明においては、酸化亜鉛鉱の製造において、pHの高い排水澱物スラリーと、カドミウム含有率が比較的高い粗酸化亜鉛ダストを混合せずに、pHの高い排水処理澱物スラリーのみを別途処理することとしている。これにより、(1)の発明は、湿式処理工程に処されるスラリーのpHの急変動を防止して、より安定的にカドミウムの除去を行い、酸化亜鉛鉱の製品品位の安定性を高めることができる。又、従来の酸化亜鉛鉱の製造設備において、湿式処理工程及び脱水工程を実施するための沈降分離装置や固液分離装置等は、複数の装置群がそれぞれ並列に並べられたものであった。これに対し、本発明においては、その複数の装置群の一部を排水澱物スラリー専用に切替えることで実施可能であり、新規の設備コストは配管工事のみで済ますことが可能である。又、特許文献1に記載の方法による場合のような厳密なpH管理に基づく各処理液の複雑な運転管理も不要である。
【0015】
(2) 前記排水処理工程において行う前記排水処理が、前記洗浄後液に金属亜鉛粉末を添加することで、セメンテーション反応により該洗浄後液中のカドミウム及び鉛を除去し、セメンテーション残渣とセメンテーション後液を得る、セメンテーション段階と、前記セメンテーション後液に中和剤を添加して、pHを10以上12以下に調整することにより中和澱物を生成せしめ、中和後スラリーを得る中和段階と、前記中和後スラリーに硫化剤を添加して、酸化還元電位を-200mV以上0mV以下(Ag/AgCl電極基準)に調整することにより、金属硫化物を生成し、前記排水処理後のスラリーとして前記中和澱物と該金属硫化物とを含むスラリーを得る硫化段階と、により構成されている(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0016】
(2)の発明によれば、洗浄後液からのカドミウムの除去を、より効率的に行うことができる。
【0017】
(3) 前記粗酸化亜鉛原料が亜鉛含有鉄鋼ダストである、(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0018】
(3)の発明によれば、粗酸化亜鉛原料として、一般に0.7~1.0%程度の割合でカドミウムが含有されている鉄鋼ダストを用いた場合においても、酸化亜鉛鉱のカドミウムの含有量を十分に低い含有率とすることができる。
【0019】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法を行う酸化亜鉛鉱の製造設備であって、前記還元焙焼工程を行う還元焙焼装置と、前記湿式処理工程を行う湿式処理装置と、前記脱水工程を行う脱水装置と、前記乾燥加熱工程を行う乾燥加熱装置と、前記排水処理工程を行う排水処理装置と、前記排水処理工程で前記排水処理後の前記洗浄後液から分離された前記排水澱物スラリーを、前記排水澱物と、前記第2の脱水ろ液と、に分離する処理を行う、排水澱物処理装置と、を備え、前記排水澱物処理装置から前記乾燥加熱装置へ、前記排水澱物を搬送可能な搬送路が設けられている、酸化亜鉛鉱の製造設備。
【0020】
(4)の発明によれば、以下において詳細を説明する通り、既存の酸化亜鉛鉱の製造設備の大部分をそのまま活用しつつ、(1)から(3)のいずれかの発明の奏する上記効果を、実質的な追加コストの負担なく享受することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、不純物としてカドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料から酸化亜鉛鉱を得るプロセスにおいて、湿式処理工程に処されるスラリーのpHの急変動を防止して、より安定的にカドミウムの除去を行い、酸化亜鉛鉱の製品品位の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法を用いた、酸化亜鉛鉱の製造プロセスの工程フロー図である。
図2】従来の酸化亜鉛鉱の製造プロセスの工程フロー図である。
図3】従来の酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、酸化亜鉛鉱のカドミウム含有率が急激に増加したときの、沈降分離槽pHと製品中Cd含有率の推移を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施態様について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0024】
<酸化亜鉛鉱製造のプロセス>
本発明の適用対象である酸化亜鉛鉱の製造プロセスは、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生した鉄鋼ダスト等の粗酸化亜鉛原料から、亜鉛を回収し、不純物を分離除去して、酸化亜鉛鉱を製造するプロセスである。酸化亜鉛鉱は、ISP(Imperial Smelting Process)法や電解法等による亜鉛製錬所における、亜鉛地金の原料として用いられ、最終的に亜鉛地金として販売される。
【0025】
本発明が適用対象として想定する酸化亜鉛鉱の製造プロセスは、ウェルツ法とも呼ばれる還元焙焼工程を有し、鉄鋼ダスト等の粗酸化亜鉛原料に含まれる亜鉛を還元揮発させて選択的に回収する工程を含むプロセスである。
【0026】
そして、本発明が適用対象として想定する酸化亜鉛鉱の製造プロセスは、図1及び図2の工程フロー図に示す通り、粗酸化亜鉛原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程S10、粗酸化亜鉛ダストを洗浄して、カドミウム等の水溶性不純物を洗浄液側に分配する湿式処理工程S20、湿式処理工程S20で分離回収された粗酸化亜鉛ケーキスラリーを、粗酸化亜鉛ケーキと、脱水ろ液(第1の脱水ろ液)とに分離する脱水工程S30、粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40、湿式処理工程S20から排出された不純物を含有する洗浄後液を、排水澱物スラリーと、不純物を所定濃度以下にまで除去した排水処理後液と、に分離する排水処理工程S50、及び、乾燥加熱工程から排出された排ガス中のダストを回収する排ガス処理工程S70、を備える全体プロセスである。そして、本発明の実施にあたっては、排水澱物スラリーを、更に、排水澱物と、脱水ろ液(第2の脱水ろ液)と、に分離する、排水澱物処理工程S60が新たな工程として加わることとなる(図1参照)。
【0027】
従来、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、排水処理工程S50から排出される不純物を含有する排水澱物スラリーは、図2に示すように、湿式処理工程S20に繰り返して処理されていた。これに対して、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、図1に示す通り、pHが高い上記の排水澱物スラリーを、湿式処理工程S20には繰り返さず、排水処理工程S50の下流工程として新たに設けた排水澱物処理工程S60において処理するように、不純物を含有するスラリーの処理にかかる工程フローを変更した点を特徴とする。
【0028】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S10は、鉄鋼ダスト等、カドミウムを含有する粗酸化亜鉛原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る工程である。鉄鋼ダスト等の粗酸化亜鉛原料から粗酸化亜鉛ダストを回収する還元焙焼工程を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)等の還元焙焼装置による還元焙焼法を採用するのが一般的である。以下、還元焙焼工程に投入する原料鉱として、鉄鋼ダストを用いる場合について説明する。
【0029】
鉄鋼ダストは、供給元においてペレット状に成形されているものが多いが、必要に応じて予め大きさ5~10mm程度の球状ペレットに成形され、石炭、コークス等の炭素質還元剤と石灰石等とともにRRKに連続的に装入される。鉄鋼ダストの組成は、概ね、亜鉛が20~35重量%、鉛が1~3重量%、鉄が10~35重量%、フッ素が約0.5重量%、カドミウムが約0.1重量%(いずれも乾燥量基準)である。
【0030】
RRKの内部は、排出端側からの重油バーナーによる燃焼と装入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1100~1200℃程度にコントロールされている。このRRK内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。
【0031】
粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛ダストとして回収される。この粗酸化亜鉛ダストの組成は、概ね、亜鉛が45~55重量%、鉛が4~8重量%、塩素が10~13重量%、フッ素が約0.5重量%、カドミウムが0.1~0.5重量%(いずれも乾燥量基準)である。一方、揮発せずにRRKの内部に残ったクリンカーは、キルン排出端より回収される。クリンカーには還元された鉄分が多く含有されるため、一部は、還元鉄ペレットと称する製品として鉄鋼メーカーに鉄原料としてリサイクルされる。
【0032】
<湿式処理工程>
湿式処理工程S20は、粗酸化亜鉛ダストを、湿式処理装置により、洗浄液でレパルプ洗浄することにより、粗酸化亜鉛ダストに含有される水溶性不純物であるカドミウム、塩素、フッ素を洗浄液側に分配させて、沈降分離(図1に示す「第1の沈降分離」)することで、粗酸化亜鉛ケーキスラリーを得る工程である。尚、広義の「湿式工程」には、下記の脱水工程S30も含まれるが、本発明においては、各工程における作用効果の説明の便宜上、これらを別途の工程として説明しているものである。この湿式処理工程S20において排出される、カドミウム、塩素、フッ素を含有する洗浄後液は、後述の排水処理工程S50に流送される。
【0033】
ここで、粗酸化亜鉛ダスト中に含有されるカドミウムは、主にCdO、塩素は、主にZnCl、フッ素は、ZnFの化合物形態で存在すると推定される。これらの不純物は、それぞれ、下記の(式1)~(式3)の反応式に従って、粗酸化亜鉛ダストから洗浄液中に溶出する。
【0034】
[式1]
CdO+HSO→CdSO+H
【0035】
[式2]
ZnCl→Zn2++2Cl
【0036】
[式3]
ZnF→Zn2++2F
【0037】
カドミウムの溶出は、上記(式1)に示したように酸への溶解反応になるが、このとき、洗浄液のpHが8以上になると、下記(式4)に示したように、カドミウムは固体(粗酸化亜鉛ダスト)中に残留して除去されない。よって、湿式処理工程S20において行うレパルプ洗浄時に、洗浄液のpHは6~7程度に維持される必要がある。
【0038】
[式4]
CdO+HO→Cd(OH)
【0039】
又、ZnClとZnFは水溶性であるが、塩素とフッ素の一部は、難溶性のPbClやPbFClの形態でも存在する。そこで、塩素とフッ素の洗浄液中への溶出を促進するために、(式5)、(式6)のように、NaCO等の非カルシウム系アルカリを添加することも行われる。
【0040】
[式5]
PbCl+NaCO→PbCO+2NaCl
【0041】
[式6]
PbFCl+NaCO→PbCO+NaF+NaCl
【0042】
このようにしてレパルプ洗浄された後のスラリーは、上述の沈降分離(第1の沈降分離)によって、上澄み液と濃縮スラリーとに分離される。この上澄み液が洗浄後液であり、この濃縮スラリーが粗酸化亜鉛ケーキスラリーである。尚、この沈降分離を行う沈降分離装置については特に限定は無く、一般的なシックナーによって行うことができる。
【0043】
<脱水工程>
脱水工程S30は、湿式処理工程S20において分離回収された粗酸化亜鉛ケーキスラリーを、更に、脱水装置による固液分離処理(図1に示す「第1の固液分離」)により、粗酸化亜鉛ケーキと、脱水ろ液と、に分離する工程である。尚、本明細書においては、脱水工程S30において、粗酸化亜鉛ケーキスラリーから分離される脱水ろ液を、後述の排水澱物処理工程S60において排出される脱水ろ液(第2の脱水ろ液)と、区別して、特に「第1の脱水ろ液」と称するものとする。
【0044】
ここで、粗酸化亜鉛ケーキ中に残留するカドミウム、塩素、フッ素等の水溶性不純物の含有率を少しでも低下させるには、粗酸化亜鉛ケーキの水分率は低い方が好ましい。又、次工程である乾燥加熱工程S40でのエネルギー削減、生産性向上のためにも、粗酸化亜鉛ケーキの水分率は低い方が好ましい。実際には、粗酸化亜鉛ケーキの水分率は、工業的に実施可能な範囲で、20~30重量%程度の範囲となるように管理される。この固液分離処理を行う脱水装置についても、特に限定は無く、例えば、連続式真空ろ過機、具体的にはドラムフィルターやダイレクトフィルター等公知の固液分離装置を適宜使用することができる。
【0045】
又、この粗酸化亜鉛ケーキの組成は、概ね、亜鉛が61~68重量%、鉛が7~10重量%、塩素が0.3~0.9重量%、フッ素が0.2~0.4重量%、カドミウムが0.1~0.2重量%(いずれも乾燥量基準)である。そして、このような粗酸化亜鉛ケーキが次工程の乾燥加熱工程S40に投入される。
【0046】
一方、脱水工程S30において、粗酸化亜鉛ケーキスラリーから分離された脱水ろ液(図1に示す「第1の脱水ろ液」)は、図2に示す従来プロセスの場合と同様に、湿式処理工程S20に繰返される。
【0047】
<乾燥加熱工程>
乾燥加熱工程S40は、脱水工程S30で得られた粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の乾燥加熱装置に装入して焼成する工程である。この焼成により、粗酸化亜鉛ケーキを、塩素及びフッ素含有率が更に低減された酸化亜鉛鉱とすることができる。上記焼成時の加熱温度については、DRKより排出されるときの酸化亜鉛焼鉱の温度が1100℃以上1150℃以下となるように維持管理することが好ましい。
【0048】
<排水処理工程>
排水処理工程S50は、湿式処理工程S20から排出されたカドミウム等の水溶性不純物を含有する洗浄後液を、撹拌機付きの反応槽等の排水処理装置を用いて、少なくとも、pH10以上12以下の条件で行う中和処理を含む排水処理を行い、当該排水処理後の洗浄後液を、更に、沈降分離(図1に示す「第2の沈降分離」)により、排水澱物スラリーと、排水処理後液と、に分離する工程である。
【0049】
尚、湿式処理工程S20から排出された上記の洗浄後液には、粗酸化亜鉛ダストから分離された塩素の他、カドミウム、鉛等の重金属が含有されており、その組成は、概ね、塩化物イオンが10~30g/L、亜鉛が0.7~3g/L、カドミウムが0.2~0.5g/L、鉛が0.02~0.1g/Lである。
【0050】
排水処理工程S50における、排水処理は、少なくとも、上記の中和処理を含む工程であればよいが、セメンテーション段階、中和段階、硫化段階の3つの段階により構成される排水処理であることが、より好ましい。以下、洗浄後液について上記3段階からなる構成の排水処理を行う場合について、説明する。
【0051】
上記3段階からなる構成の排水処理を行う場合、先ず、セメンテーション段階において、洗浄後液に金属亜鉛粉末を添加することで、下記(式7)に示したようなセメンテーション反応により、洗浄後液中のカドミウム及び鉛が除去される。そして、セメンテーション反応により除去されたカドミウムと鉛を含むセメンテーション残渣とセメンテーション後液を得る処理が行われる。このセメンテーション残渣は、カドミウム製錬工程へと払出される。又、このセメンテーション反応後液には、なお微量のカドミウムと鉛が含有されており、その組成は、概ね、カドミウムが2~20mg/L、鉛が0.5~5mg/Lであり、pH6~7である。
【0052】
[式7]
Cd2++Zn→Cd+Zn2+
【0053】
次に、セメンテーション反応後液は、次の中和段階に送られる。この中和段階においては、セメンテーション段階において得たセメンテーション後液に対して、上記の中和処理が行われる。中和処理は、具体的には、中和剤を添加して、pH10以上12以下に調整することにより中和澱物を生成せしめ、中和後スラリーを得る処理である。
【0054】
中和段階の中和反応槽は、消石灰スラリーが均一に混合され、尚且つ、セメンテーション反応後液の滞留時間を十分に保持するために、例えば、撹拌機付きの反応槽が、直列に3槽配置されている装置を好ましく用いることができる。この場合、第3の反応槽のpHが10以上12以下となるように、第1の反応槽に消石灰スラリーが添加される。
【0055】
続く硫化段階においては、中和段階において得た中和後スラリーに硫化剤を添加して、酸化還元電位を-200mV以上、0mV以下(Ag/AgCl電極基準)に調整することにより金属硫化物を生成せしめ、中和澱物と金属硫化物を含む排水澱物スラリーを得る処理が行われる。この処理は、例えば、上記の中和段階の処理を行う複数の反応槽のうち最下流側の第3の反応槽に25質量%の水硫化ソーダ水溶液を添加することにより行うことができる。この場合は、例えば既存の3槽連結型の反応槽をそのまま活用することによる本発明の製造方法の実施も十分に可能である。
【0056】
以上の3段階の排水処理を経た排水処理後のスラリーは、沈降分離(図1に示す「第2の沈降分離」)に処され、分離回収された上澄み液が、排水処理後液として、さらなる処理工程に送液される。この排水中和処理により、排水処理後液中のカドミウムの含有量は、0.001~0.01mg/Lにまで低減される。又、同液中の鉛の含有量は、0.003~0.03mg/Lにまで低減される。
【0057】
上記の沈降分離(第2の沈降分離)により分離回収された排水澱物スラリーは、本発明の製造方法においては、排水処理工程S50の次工程として行われる排水澱物処理工程S60に送液される。
【0058】
ところで、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおけるカドミウムバランスを考えた場合、粗酸化亜鉛原料からインプットされるカドミウムを100とすれば、そのほぼ全量が粗酸化亜鉛ダストに分配し、更にそのほぼ全量が洗浄後液に分配し、最終的にセメンテーション残渣に100が分配する。又、酸化亜鉛鉱への分配は約0、排ガスダストスラリーへの分配も約0であり、排水澱物スラリーとしての繰返し量が約10となる。上記の通り、排水澱物のカドミウム含有率は低く、カドミウム物量にして全体の約9%(10÷110×100=9%)程度であるが、排水澱物スラリーのpHは10~12と非常に高い。一方で、粗酸化亜鉛ダストのカドミウム含有率は高く、カドミウム物量にして全体の91%(100÷110×100=91%)である。よって、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、繰り返し分も含んだ全体の約9%のカドミウムを乾燥加熱工程S40を行うDRKで処理することになるが、これが100%となるリスクを排除することになる。尚、DRKにおいても、カドミウムの除去が可能である。これについては、重油バーナーの火炎の先端部等、局所的に高温にさらされる部分において、カドミウムの揮発除去が行われていると推定できる。
【0059】
<排水澱物処理工程>
排水澱物処理工程S60は、排水処理工程S50において得た排水澱物スラリーを、沈降分離及び固液分離を行う各排水澱物処理装置により、更に排水澱物と脱水ろ液とに分離する処理を行う工程である。尚、本明細書においては、この排水澱物処理工程S60において、排水澱物スラリーから分離される脱水ろ液を、脱水工程S30において排出される上述の脱水ろ液(第1の脱水ろ液)と、区別して、特に「第2の脱水ろ液」と称するものとする。
【0060】
排水澱物処理工程S60において、排水澱物スラリーは、沈降分離(図1に示す「第3の沈降分離」)により、濃縮スラリーと、上澄み液とに分離される。そして、この濃縮スラリーは、更に、固液分離(図1に示す「第2の固液分離」)により、排水澱物と第2の脱水ろ液とに分離される。
【0061】
排水澱物処理工程S60において、分離回収された排水澱物は、乾燥加熱工程S40に繰返される。具体的には、この排水澱物は、脱水工程S30から乾燥加熱工程S40への粗酸化亜鉛ケーキの運搬過程において、当該粗酸化亜鉛ケーキ内に少量ずつ連続的に補加される形で、乾燥加熱工程S40を行うDRKに装入される。
【0062】
又、排水澱物処理工程S60おいて排水澱物スラリーから分離された脱水ろ液(第2の脱水ろ液)は、当該排水澱物処理工程S60に繰返される。
【0063】
排水澱物処理工程S60における上記の第3の沈降分離は、基本的に、湿式処理工程S20における第1の沈降分離と同様の装置及び操作によって行うことができる。又、排水澱物処理工程S60における上記の第2の固液分離は、基本的に、脱水工程S30における第1の固液分離と同様の装置及び操作によって行うことができる。
【0064】
但し、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法を行う酸化亜鉛鉱の製造設備においては、排水澱物処理工程S60を行う排水澱物処理装置から乾燥加熱工程S40を行う乾燥加熱装置へ排水澱物を搬送可能な搬送路L2(図1参照)が設けられる。ただし、前述の通り、従来の酸化亜鉛鉱の製造設備において、湿式処理工程及び脱水工程を実施するための沈降分離装置や固液分離装置等は、複数の装置群がそれぞれ並列に並べられたものであり、本発明においては、その複数の装置群の一部を排水澱物スラリー専用に切替えることで実施可能である。よって、搬送路L2についても、従来の装置を流用することができる。又、脱水工程S30から排出される脱水ろ液(第1の脱水ろ液)を湿式処理工程S20に繰り返すために、これを搬送する搬送路L1(図1参照)についても、従来の通りの酸化亜鉛鉱の製造設備における配置と同様の配置の搬送路をそのまま使用することができる。
【0065】
<排ガス処理工程>
排ガス処理工程S70は、乾燥加熱工程S40においてDRKから排出された排ガスの固気分離処理を行う工程である。
【0066】
乾燥加熱工程S40を行うDRKに装入された粗酸化亜鉛ケーキ等の装入物は、約30mのロータリーキルン内において、順に造粒、乾燥、加熱、焼成されるが、造粒、乾燥の過程で飛散した装入物の粉塵、加熱、焼成の過程で揮発した酸化物やハロゲン化物等がダストとなる。DRKで発生する排ガスは、排ガス処理工程S70において、湿式の排ガス洗浄塔、湿式の電気集塵機(ミストコットレル)によって除塵され、水銀吸着材が充填された充填塔にて水銀が除去された後、ファン等の排風機を経由して煙突から放出される。
【0067】
この排ガス処理工程S70から排出される洗浄水は、従来プロセスと同様に、排ガスダストスラリーとして、湿式処理工程S20に繰返されて、粗酸化亜鉛ダストとともに処理される。
【符号の説明】
【0068】
S10 還元焙焼工程
S20 湿式処理工程
S30 脱水工程
S40 乾燥加熱工程
S50 排水処理工程
S60 排水澱物処理工程
S70 排ガス処理工程
L1、L2 搬送路
図1
図2
図3