(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】高濃度鉱石スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
C22B23/00 101
(21)【出願番号】P 2018161351
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153922(JP,A)
【文献】特開2014-037632(JP,A)
【文献】特開平11-124640(JP,A)
【文献】特開2012-031446(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102918171(CN,A)
【文献】特開2019-214778(JP,A)
【文献】特開2019-049033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素品位2.0~8.0%で且つ低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを
、フィードウェル及びこれに斜め上方から接続する鉱石スラリー供給管を介してシックナーに装入することで高温加圧酸浸出工程の原料となる高濃度に濃縮された高濃度鉱石スラリーを製造する方法であって、該ニッケル酸化鉱石1トン当たり凝集剤80~130gが添加されるように、該凝集剤を濃度0.18~0.30質量%で含有する凝集剤溶液
を、該フィードウェル及び該鉱石スラリー供給管の2か所で該鉱石スラリー
に添加する際の添加量を調整することを特徴とする高濃度鉱石スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記鉱石スラリーはスラリー濃度が10~30質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の高濃度鉱石スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記凝集剤は高分子系凝集剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高濃度鉱石スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記凝集剤溶液は前記凝集剤を水で希釈することで調製することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の高濃度鉱石スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー濃度が高められた高濃度鉱石スラリーの製造方法に関し、特に、低品位ニッケル酸化鉱石からニッケル等の有価金属を回収する湿式製錬プロセスの高温加圧酸浸出処理工程において処理される高濃度鉱石スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラテライト型のニッケル鉱床に一般的に含まれるリモナイト鉱等の低品位ニッケル酸化鉱石から、ニッケル、コバルト等の有価金属を一連の湿式処理により回収する湿式製錬プロセスとして、高温加圧下で鉱石スラリーを酸浸出処理する高温加圧酸浸出法が知られている。この方法は、乾燥や焙焼等の乾式処理工程を含まないためエネルギーコストを抑えることができるうえ、原料鉱石中に高品位で含有される鉄をヘマタイトとして固定できるため余分な酸やその中和のための薬剤の使用量を抑えることができるので経済的に優れている。上記高温加圧酸浸出法によって低品位ニッケル酸化鉱石から浸出されたニッケル等の有価金属を含む溶液は、不純物が除去された後、硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することにより硫化処理される。これにより、ニッケル等の有価金属は、それを高品位で含む混合硫化物の形態で回収することができる。
【0003】
上記高温加圧酸浸出法は、具体的には低品位ニッケル酸化鉱石を湿式分級して粒度の揃った該鉱石を含むスラリーを得た後、濃縮により所定のスラリー濃度を有する鉱石スラリーを得る鉱石スラリー調製工程と、上記鉱石スラリーに高温加圧下で硫酸を添加することで、ニッケル、コバルト等の有価金属を浸出して浸出スラリーを得る高温加圧酸浸出工程と、上記浸出スラリーに石灰石等の中和剤を添加することで遊離硫酸や不純物金属を予備中和し、予備中和スラリーを得る予備中和工程と、上記予備中和スラリーを浸出残渣スラリーと粗硫酸ニッケル溶液とに固液分離する固液分離工程と、上記粗硫酸ニッケル溶液に石灰石等の中和剤を添加することで不純物金属から中和澱物を生成し、これを除去して中和終液を得る中和工程と、上記中和終液に微加圧した状態で硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで亜鉛から亜鉛硫化物を生成し、これを除去して脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、上記脱亜鉛終液に加圧した状態で硫化水素ガス等の硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトをニッケルコバルト混合硫化物として回収する硫化工程と、上記ニッケルコバルト混合硫化物の回収の際に排出される製錬廃液及び上記固液分離工程で排出される濃縮浸出残渣スラリーを中和により無害化する最終中和工程とを含んでいる。
【0004】
上記の高温加圧酸浸出工程では、処理される鉱石スラリーの固形分濃度(スラリー濃度とも称する)が低すぎると、得られる浸出スラリー中のニッケル、コバルト等の有価金属濃度が低くなる。その結果、次工程以降でのニッケル、コバルト等の有価金属回収率が低下するうえ、設備を増設等しない限り単位時間当たりに処理できる鉱石の処理量が減るので生産量が低下する。更に、硫酸や中和剤の使用量が増加するので生産コストが高くなる。そこで、上記鉱石スラリー調製工程で調製された鉱石スラリーは、上記高温加圧酸浸出工程で処理する前にシックナーに導入し、更に凝集剤を添加して重力沈降により濃縮を行うことにより、鉱石スラリーの固形分濃度を高めることが行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、粒度が調整された鉱石を含む鉱石スラリーをシックナーに装入して濃縮する際、該鉱石スラリーに添加する凝集剤の分子量と希釈剤による希釈率を規定すると共に、該凝集剤の添加量及び鉱石スラリーの濃縮後の温度を規定することによって、鉱石スラリーの濃度と粘度を調整する技術が開示されている。これにより後工程の浸出工程において鉱石スラリーの移送不良の問題を防止でき、また、高い操業効率を維持できると記載されている。
【0006】
ところで、上記の原料鉱石中にはシリカ(SiO)等の珪素成分が含まれていることがあり、これが鉱石スラリーの沈降性に影響を及ぼすと考えられている。そのため、原料鉱石のロットが異なると珪素品位も異なるためシックナーから得られる濃縮鉱石スラリーの固形分濃度が変動することがあった。そこで特許文献2では、シックニング能力が互いに異なる2基のシックナーを並列に接続し、各シックナーから得られる鉱石スラリーの混合比率を調整することで、珪素品位が変動しても鉱石スラリーの固形分濃度を安定化させる技術が開示されている。また、特許文献3には、シックニング能力が互いに異なる2基のシックナーを直列に接続することで、段階的に鉱石スラリーの固形分濃度を高めてスラリー濃度を安定化させる技術が開示されている。
【0007】
また、従来は組成の異なる複数種類の低品位ニッケル酸化鉱石をブレンドすることで、原料鉱石の組成を適宜調整することが行われていた。これにより、高温加圧酸浸出工程におけるニッケル等の有価金属の浸出率を高めると共に不純物を所定の濃度以下に抑えることができ、結果的に硫酸や中和剤の使用量を低減することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-153922号公報
【文献】特開2014-037632号公報
【文献】特開2015-086457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように鉱石スラリーの固形分濃度を高めるために用いるシックナーは、装入する原料鉱石の組成、シックナーに添加する凝集剤の種類や量などによりシックニング挙動が変動することがあった。また、上記原料鉱石のうち特に珪素は鉱石スラリー中でコロイド状の形態になって固形分の沈降性を悪化させることがあった。そのため、従来は原料として使用する鉱石の種類やその珪素品位、それらのブレンド比率等に応じて、過去のデータや作業者の経験則に基づいて凝集剤の種類や添加量を都度調整し、目的とする固形分濃度に調整することが行われていた。そのため、作業者によってシックナーから抜き出される濃縮鉱石スラリーの固形分濃度にばらつきが生ずることがあった。
【0010】
また、上記特許文献2や3に開示されているように、互いに種類の異なるシックナー設備を複数基用いることである程度スラリー濃度の調整を行うことができるが、この場合はそれらのシックニング能力が異なるため、スラリー濃度の調整が難しく、結果的に高温加圧酸浸出工程において浸出処理が不安定になることがあった。近年は資源の有効活用の観点から珪素品位の高い鉱石も原料として使用することが多くなっており、原料鉱石中の珪素品位がある程度変動しても、適量の凝集剤を添加することにより鉱石スラリーの固形分濃度を安定的に高めることが可能な高濃度鉱石スラリーの製造方法が求められていた。
【0011】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、原料鉱石としての低品位ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに高温加圧酸浸出処理を施してニッケル、コバルト等の有価金属を回収する湿式製錬プロセスにおいて、該原料鉱石中の珪素品位がある程度変動しても、該高温加圧酸浸出処理で処理する鉱石スラリーの固形分濃度を安定的に高めることが可能な高濃度鉱石スラリーの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る高濃度鉱石スラリーの製造方法は、珪素品位2.0~8.0%で且つ低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを、フィードウェル及びこれに斜め上方から接続する鉱石スラリー供給管を介してシックナーに装入することで高温加圧酸浸出工程の原料となる高濃度に濃縮された高濃度鉱石スラリーを製造する方法であって、該ニッケル酸化鉱石1トン当たり凝集剤80~130gが添加されるように、該凝集剤を濃度0.18~0.30質量%で含有する凝集剤溶液を、該フィードウェル及び該鉱石スラリー供給管の2か所で該鉱石スラリーに添加する際の添加量を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原料鉱石中の珪素品位がある程度変動しても、固形分濃度の高い濃縮鉱石スラリーを安定的に製造することができる。これにより、原料鉱石に含まれる有価金属の回収率を高めることができるうえ、硫酸や中和剤の消費量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法を含んだ低品位ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの工程図である。
【
図2】本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法において好適に使用されるシックナーの縦断面図である。
【
図3】本発明の高濃度鉱石スラリーの製造方法の実施例において、固体鉱石の1トン当たりの凝集剤の添加量を様々に変えたときに得た濃縮鉱石スラリーの固形分濃度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法を含んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す湿式製錬プロセスは、原料としてのニッケル酸化鉱石に対して篩別等の前処理を行って所定の粒度にすると共に水を加えてスラリーの形態に調製する鉱石スラリー調製工程S1と、該鉱石スラリー調製工程S1で調製された鉱石スラリーに硫酸を添加して高温加圧下で浸出処理を施す高温加圧酸浸出工程S2と、該高温加圧酸浸出工程S2で得た浸出スラリーに中和剤を添加してpHを所定範囲に調整する予備中和工程S3と、該予備中和工程S3でpH調整された浸出スラリーを多段洗浄することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む粗硫酸ニッケル溶液を浸出残渣スラリーから分離する固液分離工程S4と、該粗硫酸ニッケル溶液にpH調整剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S5と、該中和終液に微加圧の状態で硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含む脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程S6と、該脱亜鉛終液に上記微加圧よりも圧力の高い加圧状態で硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成した後、固液分離により該混合硫化物を回収する硫化工程S7と、該硫化工程S7から排出される貧液及び該固液分離工程S4から排出される浸出残渣スラリーに溶存する金属を除去(無害化とも称する)する最終中和工程S8とを有している。以下、これら工程の各々について説明する。
【0016】
(1)鉱石スラリー調製工程
鉱石スラリー調製工程S1では、原料としてのニッケル酸化鉱石を例えばシェイクアウトマシン、ドラムウォッシャーなどで段階的に分級した後、1~2mm程度の目開きを有するバイブレーティングスクリーンで分級して所定の粒度を有する鉱石を作製する。上記分級では、粉砕した鉱石を適量の水と共に湿式スクリーンに導入する湿式分級を用いる。これにより、所定の粒度を有する鉱石を鉱石スラリーの形態で篩下側に回収することができる。
【0017】
このようにして得た鉱石スラリーは、一般にスラリー濃度が10~30質量%であり、そのまま後段の高温加圧酸浸出工程S2で処理するとニッケル等の有価金属の回収率が低下するうえ、単位時間当たりに処理できる鉱石の量が減るので生産性が低下する。更に、高温加圧酸浸出工程S2以降の工程において、反応効率を高めるために硫酸や中和剤等の添加剤を過剰に添加する必要が生ずるので、生産コストが高くなる。
【0018】
そこで、上記鉱石スラリーをシックナーに導入して重力沈降により鉱石スラリーを濃縮し、これにより製造した高濃度鉱石スラリーを次工程の高温加圧酸浸出工程S2で処理する。但し、濃縮鉱石スラリーの固形分濃度が高くなりすぎると粘度も高くなり、次工程の高温加圧酸浸出処理を行う圧力容器に該高濃度鉱石スラリーを供給するポンプの送液能力が低下したり、該圧力容器への送液配管が閉塞したりするおそれがある。このような問題が生じないようにするため、上記シックナーでは高濃度鉱石スラリーの固形分濃度の上限値を好適には50質量%未満、より好適には47質量%以下の範囲内でできるだけ高くすることが好ましい。
【0019】
この鉱石スラリー調製工程S1で処理されるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般に0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。このニッケル酸化鉱石は、鉄の含有量が10~50質量%であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しており、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。鉱石スラリー調製工程S1の原料には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する例えば深海底に賦存するマンガン瘤等の酸化鉱石が用いられることがある。いずれの場合においても、後段の高温加圧酸浸出工程S2において処理される鉱石スラリーの段階では該鉱石スラリーに含まれる原料鉱石は珪素品位が2.0~8.0%である。
【0020】
(2)高温加圧酸浸出工程
高温加圧酸浸出工程S2では、上記鉱石スラリー調製工程S1で調製された鉱石スラリーをオートクレーブと称する圧力容器に硫酸と共に装入し、該鉱石スラリーに対して攪拌しながら3~4.5MPaG、220~280℃程度の高温高圧条件下で高温加圧酸浸出処理を施す。これにより、浸出反応及び高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われ、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーが生成される。
【0021】
上記オートクレーブに装入する硫酸の添加量には特に限定はないが、硫酸使用量が過度に多くならないように、上記原料の鉱石に含まれる回収対象である有価金属のニッケルやコバルトが効率的に浸出される程度に経済的に添加するのが好ましい。なお、高温加圧酸浸出工程S2では、生成したヘマタイトを含む浸出残渣が後工程の固液分離工程S4においてろ過性を低下させることがないように、浸出液のpHを0.1~1.0に調整することが好ましい。
【0022】
(3)予備中和工程
予備中和工程S3では、上記高温加圧酸浸出工程S2にて生成された浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。すなわち、上記高温加圧酸浸出工程S2は、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸が添加されるため、オートクレーブから抜き出される浸出スラリーにはフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、以下遊離硫酸ともいう)が含まれている。そこで、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄の際に効率よく洗浄が行われるように、浸出スラリーのpHを好ましくは2.0~4.0程度の範囲内に調整する。
【0023】
この浸出スラリーのpHが2.0より低いと、後工程の装置の接液部の腐食対策にかなりのコストがかかるので好ましくない。逆に浸出スラリーのpHが4.0より高いと、浸出スラリー中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で析出して残渣として沈殿し、洗浄効率を低下させるおそれがあるので好ましくない。上記のpHの調整方法としては特に限定はないが、例えば炭酸カルシウム等の中和剤をスラリーの形態で添加することによって好適に調整することができる。
【0024】
(4)固液分離工程
固液分離工程S4では、直列に連結した複数基のシックナーに上記予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーと洗浄液とを互いに向流になるように連続的に導入し、向流洗浄法(CCD法)により浸出スラリーを多段洗浄しながら、凝集剤を用いて重力沈降分離を行うのが好ましい。これにより浸出残渣が除去され、ニッケル及びコバルトのほか亜鉛等の不純物元素を含む粗硫酸ニッケル溶液が得られる。シックナーから抜き出された浸出残渣スラリーは、後述する最終中和工程S8において中和処理を施すことで重金属の除去処理を行った後、テーリングダムに移送される。なお、上記洗浄液にはpH1.0~3.0程度の水溶液を用いることが好ましく、後工程の硫化工程S7から排出される貧液を繰り返して利用するのが好ましい。
【0025】
(5)中和工程
中和工程S5では、上記固液分離工程S4において浸出残渣から分離された粗硫酸ニッケル溶液に炭酸カルシウム等のpH調整剤を添加してpH調整することで遊離硫酸を中和する。その際、不純物元素を含む中和澱物が生成する。この中和澱物を固液分離により除去することで、ニッケル及びコバルトのほか、主に亜鉛からなる不純物元素を含むニッケル回収用母液の元となる中和終液が得られる。この中和工程S5では、中和終液のpHが4.0以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように上記pH調整を行うのが好ましく、これにより上記粗硫酸ニッケル溶液中に残留する主に3価の鉄イオンやアルミニウムイオンを中和澱物として除去できる。
【0026】
(6)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S6では、反応槽内に上記中和工程S5で得た中和終液を装入し、微加圧状態を維持しながら該反応槽内の中和終液に対して硫化水素ガスなどの硫化剤を吹き込むことにより硫化処理を施す。これにより、ニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化して亜鉛硫化物を生成させることができる。この亜鉛硫化物を分離除去することで、ニッケル及びコバルトを含む硫酸溶液からなる脱亜鉛終液(ニッケル回収用母液)が得られる。
【0027】
(7)硫化工程
硫化工程S7では、上記脱亜鉛工程S6の反応槽とは別の混合硫化物生成用反応槽に上記脱亜鉛工程S6で得た脱亜鉛終液を装入し、上記微加圧よりも圧力の高い加圧状態を維持しながらこの混合硫化物生成用反応槽内の脱亜鉛終液に対して硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込む。これにより、硫化反応が生じるので、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)が生成する。生成したニッケルコバルト混合硫化物はろ過などの固液分離により回収することができ、その際、液相側に貧液が排出される。なお、この硫化工程S7で処理される脱亜鉛終液にはFe、Al、Mn等の不純物金属イオンが各々数g/L程度含まれている場合があるが、これら不純物成分はニッケル及びコバルトに比べて硫化物としての安定性が低く、よって上記ニッケルコバルト混合硫化物にはほとんど含有されない。
【0028】
(8)最終中和工程
最終中和工程S8では、上記硫化工程S7から排出される鉄、アルミニウム、マンガン等の不純物金属イオン及び未反応のNiイオンを含む貧液と上記の固液分離工程S4から排出される重金属を含む浸出残渣スラリーとに対して中和処理を施す。これにより、排出基準を満たすまで上記の金属イオンや重金属を除去することができる。上記中和処理は、石灰石を中和剤として用いた第1の中和処理と、消石灰を中和剤として用いた第2の中和処理とからなる2段階で中和処理を行うのが好ましく、これにより上記金属イオンの濃度を1mg/Lまで効率的かつ効果的に除去することができる。
【0029】
次に、上記の鉱石スラリー調製工程S1で行われる本発明の実施形態に係る高濃度鉱石スラリーの製造方法について詳細に説明する。この本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法は、重力沈降により固液分離を行うシックナーが用いられ、該シックナーに導入する鉱石スラリーに対して所定の濃度に調製した凝集剤を所定量添加するものであり、これにより当該凝集剤による微細粒子の凝集効果を最大限に発揮させて効率よく高濃度鉱石スラリーを製造することができる。
【0030】
具体的に説明すると、本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法において使用するシックナーには特に限定はなく、
図2に示すようなシックナー1を用いることができる。この
図2に示すシックナー1は、円筒状の直胴部2と、その下部に位置し、中心部に向かって次第に低くなる円錐状の底部3とからシックナー本体4が構成されており、その内部に上記底部3の傾斜面に沿って低速で回転するレーキ5が配置されている。
【0031】
このレーキ5の中心部から上方に向かって回転軸6が延在しており、その先端部にシックナー本体4の上部に設置されたモーター等の駆動部7が連結している。これにより、該駆動部7の回転駆動力が回転軸6を介してレーキ5に伝達される。上記直胴部2の上部には上澄み液がオーバーフローするオーバーフローライン8が設けられており、また、直胴部2の内側の同芯位置に円筒形状のフィードウェル9が設けられている。
【0032】
上記フィードウェル9は、その上端部と下端部との間にシックナー1の上澄み液の液面レベルが位置するように配置されており、また、その上部側面に、原料の鉱石スラリーの導入用の鉱石スラリー供給管10が斜め上方から接続している。これら鉱石スラリー供給管10及びフィードウェル9において別々に凝集剤を添加できるように、先端部が2本に分岐した添加剤供給管11がシックナー本体4の上方に設置されている。更に、上記シックナー本体4の底部中央には凹状に窪んだ回収部が設けられており、その側部から濃縮した高濃度鉱石スラリーを抜き出すスラリー抜出管12が延出している。このスラリー抜出管12にはスラリーポンプ13が設けられており、該高濃度鉱石スラリーを連続的に抜出せるようになっている。
【0033】
かかる構造により、原料鉱石スラリーは添加剤供給管11及びフィードウェル9において凝集剤と2段階で混合された後、該フィードウェル9の下端部から該シックナー本体4内に導入される。該シックナー本体4内に導入された原料鉱石スラリーは重力沈降により固液分離される。その際、該原料鉱石スラリーに含まれる粒子は、凝集剤の電荷中和作用と架橋吸着作用によって粗大フロックを形成するので沈降速度が速くなる。
【0034】
これにより、シックナー1に導入された原料鉱石スラリーは、該シックナー本体4内において上部の上澄み液相部と下部の沈降濃縮相部とに分離する。この沈降濃縮相部は、低速で回転するレーキ5によって一様な堆積状態が維持されながら底部3の中央にかき集められ、沈降濃縮された高濃度鉱石スラリーとしてスラリー抜出管12から抜き出される。なお、本発明の実施形態においては、シックナーの円筒状直胴部の高さをH、その直径をDとしたとき、それらの比H/Dが0.5より大きく、かつ、シックナーの円錐状底部の傾斜角θが25°より大きい、いわゆるディープコーンタイプのシックナーを用いるのが好ましい。
【0035】
本発明の実施形態の高濃度鉱石スラリーの製造方法においては、上記の添加剤供給管11及びフィードウェル9から供給される凝集剤は、水などの希釈液によってあらかじめ該凝集剤を濃度0.18~0.30質量%に希釈した凝集剤溶液を用いる。そして、上記シックナー1に供給される鉱石1トン当たり凝集剤が80~130gが添加されるように、上記凝集剤溶液のシックナー1への供給量を調整する。これにより、添加した凝集剤に最大限の凝集効果を発揮させることができ、固形分濃度の高い濃縮鉱石スラリーを効率よく製造することができる。
【0036】
この凝集剤溶液中の凝集剤の濃度が0.18質量%未満では薄すぎるためシックナー1に供給される凝集剤溶液及び原料鉱石スラリーの総液量が多くなりすぎ、シックナー本体4内での滞留時間が減少するので重力沈降が効率的に行われなくなる。また、凝集剤の添加設備を大型化する必要があるため好ましくない。逆に上記濃度が0.30質量%より高くなると、原料鉱石スラリーと凝集剤溶液の混合が不均一になって凝集剤の凝集効果が及ばない鉱石粒子の割合が増加するので好ましくない。
【0037】
また、鉱石1トン当たりの凝集剤の添加量が80g未満の場合、微細粒子の粗大フロックの生成が進みにくくなり、シックナー本体4内で鉱石スラリーの沈降濃縮が十分に進まなくなる。その結果、シックナー1の底部から抜き出される濃縮鉱石スラリーが所望の固形分濃度まで濃縮されなくなる。逆に、上記添加量が130gを超えると、微細粒子への凝集剤の過剰吸着による分散効果でフロックの粗大化が阻害されたり、凝集剤そのものによる粘度上昇が生じたりするため、この場合もシックナー1の底部から抜き出される濃縮鉱石スラリーが所望の固形分濃度まで濃縮されなくなる。
【0038】
上記の凝集剤としては、高分子系凝集剤が好ましく、様々な分子量のものを用いることができるが、分子量数千~数万程度のものが好ましい。この凝集剤を前述したように希釈液で希釈した溶液の形態で鉱石スラリーと混合することによって鉱石粒子に良好に接触させることができ、その凝集効果を充分に発現することができる。上記の添加量の範囲内に調整するため、上記添加剤供給管11に添加剤流量計14を設置すると共に、上記原料鉱石供給管10に鉱石スラリー流量計15及び鉱石スラリー比重計16を設置する。
【0039】
これにより、鉱石スラリー流量計15及び鉱石スラリー比重計16から該鉱石スラリーに含まれる固体鉱石の単位時間当たりのシックナー1への供給量を計算し、得られた固体鉱石の供給量(トン/時間)に80~130gの範囲内の所定の値を積算することで凝集剤の必要添加量を求めることができる。この必要添加量を凝集剤溶液中の凝集剤の濃度で除算することでシックナー1への凝集剤溶液の必要供給量を求めることができる。このようにして求めた凝集剤溶液の必要供給量がシックナー1に実際に供給されているか否か、上記の添加剤流量計14で確認し、供給されていない場合は例えば添加剤供給管11に設けたバルブの開度を調整すればよい。
【0040】
なお、高温加圧浸出容器に装入する濃縮鉱石スラリーの固形分濃度は、前述したように50質量%を上限としてできるだけ高いことが好ましいため、得られた濃縮鉱石スラリーが50質量%を超過しうる場合は、例えば上記シックナー1よりシックニング能力の低いシックナーを該シックナー1と並列に接続することで適切な固形分濃度に調整できるようにしてもよい。
【0041】
以上、本発明の高濃度鉱石スラリーの製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や代替例を含みうるものである。すなわち、本発明の権利範囲は特許請求の範囲及びその均等の範囲に及ぶものである。次に、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
珪素品位5.0~5.5%(分析法:蛍光X線分析法)で且つ低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石(低珪素品位鉱石)を
図1に示す湿式製錬法の工程図に沿って処理した。その際、鉱石スラリー調製工程S1において、目開き1~2mmのスクリーンを用いて該ニッケル酸化鉱石を湿式分級し、得られた鉱石スラリーを、栗田工業株式会社製の凝集剤(型番:PN901)を水で薄めて濃度0.20質量%に調製した凝集剤溶液と共に
図2に示すようなシックナー1に装入した。そして、下記に示すように様々な条件で重力沈降による濃縮を行うことで、濃縮鉱石スラリーを製造した。
【0043】
すなわち、該シックナー1に供給する鉱石スラリーのスラリー濃度を10~30質量%の範囲内で変動させ、シックナー1から抜き出す濃縮鉱石スラリーの抜出量を50~200m3/時の範囲内で変動させ、固体鉱石1トン当りの凝集剤の添加量を60g/トンを超え180g/トン未満の範囲内で変動させた。その結果、濃縮鉱石スラリーの固形分濃度は44.0~49.5質量%まで変動したが、固体鉱石1トン当りの凝集剤の添加量を80~130g/トン未満の範囲内にすることで濃縮鉱石スラリーの固形分濃度を46.0~49.5質量%の範囲内に抑えることができた。
【0044】
[実施例2]
珪素品位5.0~5.5%のニッケル酸化鉱石に代えて珪素品位6.0~6.5%のニッケル酸化鉱石(高珪素品位鉱石)を用いた以外は上記実施例1と同様にして濃縮鉱石スラリーを製造した。その結果、濃縮鉱石スラリーの固形分濃度は37.5~49.2質量%まで変動したが、固体鉱石1トン当りの凝集剤の添加量を80~130g/トン未満の範囲内にすることで濃縮鉱石スラリーの固形分濃度を43.0~49.2質量%の範囲内に抑えることができた。
【0045】
なお、上記実施例2の結果を実施例1の結果と共に
図3に示す。このように、本発明の要件を満たす条件でシックナーを用いて重力沈降濃縮を行うことにより、濃縮鉱石スラリーの固形分濃度に影響を及ぼす珪素品位が変動する場合においても、濃縮鉱石スラリーの固形分濃度を安定的に高めることができることが分かる。
【符号の説明】
【0046】
S1 鉱石スラリー調製工程
S2 高温加圧酸浸出工程
S3 予備中和工程
S4 固液分離工程
S5 中和工程
S6 脱亜鉛工程
S7 硫化工程
S8 最終中和工程
1 シックナー
2 円筒状の直胴部
3 円錐状の底部
4 シックナー本体
5 レーキ
6 回転軸
7 駆動部
8 オーバーフローライン
9 フィードウェル
10 鉱石スラリー供給管
11 添加剤供給管
12 スラリー抜出管
13 スラリーポンプ
15 鉱石スラリー流量計
16 鉱石スラリー比重計
17 添加剤流量計