(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】銅精鉱処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20221129BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20221129BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C22B15/00
C22B1/00 101
C22B1/02
(21)【出願番号】P 2018203812
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純一
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸弘
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭32-010001(JP,B1)
【文献】特開2014-198655(JP,A)
【文献】特開2015-183217(JP,A)
【文献】特開2001-259603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Chalcopyriteを主体とする銅精鉱を不活性雰囲気の下で熱処理することにより、前記熱処理後に得られる精鉱中の含銅鉱物に含まれる銅割合を増加させると同時に砒素を分離した砒素含有量が低減された精鉱とする銅精鉱処理方法において、
前記熱処理後、得られた精鉱を粉砕、選鉱することにより、鉄含有量及び硫黄含有量が低減された精鉱を得て、
前記熱処理前の銅精鉱中の
砒素含有量が1.2重量%以下、
硫黄含有量が33.2重量%以下であり、
前記熱処理後、得られた鉄含有量及び硫黄含有量が低減された精鉱中の砒素含有量が0.1重量%
未満、硫黄含有量が
15.7重量%以上、16.6重量%以下であり、
前記熱処理が、ロータリーキルンを用いて行なわれることを特徴とする銅精鉱処理方法。
【請求項2】
前記熱処理の熱処理温度が、600℃以上、1000℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅精鉱処理方法。
【請求項3】
前記不活性雰囲気が、窒素、アルゴンのいずれか、又は両者からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅精鉱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬に関する技術である。さらに詳しくは、熱処理による銅精鉱の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬においては、自熔炉などの熔錬炉にて銅精鉱を酸化溶融させ、銅と鉄の酸素に対する親和力の差を利用し、銅精鉱中に含有される鉄分を優先的に酸化させて銅と分離する。そして酸化した鉄は硅石などと共にスラグ化して系外に排出する。また、鉛や砒素といった有害元素の積極的な分離は図られてはおらず、スラグ中に固定して系外に排出するか、あるいはダストとして回収して、自熔炉や転炉にて繰り返し処理することが多い。
【0003】
しかしながら、銅の世界的な需要増に伴って、Bornite(Cu5FeS4)など銅の含有量の高い鉱物を主成分とする銅精鉱は不足し、現在では多くの銅精鉱が銅と鉄が等モルで含まれるChalcopyrite(黄銅鉱:CuFeS2)を主成分としている。
このChalcopyriteはBorniteと比べて、鉱物中の鉄の比率が高いことから、Chalcopyrite主体の銅精鉱を原料とした場合は、Bornite主体の銅精鉱を原料とした場合に比べ、特許文献1、段落0012、反応式(1)に示されるように、スラグ(主成分がFeO・SiO2)の生成量が非常に多くなる。また、Chalcopyriteは銅に対する硫黄の割合も高いため、硫酸の生成量も増加することになる。そのため、銅の増産を図ろうとすると、硫酸プラント増強が必要となり、スラグ生成量も増加してしまうという問題も生じてくる。
【0004】
更に、特許文献2には、乾式製錬法がChalcopyrite(CuFeS2)からの銅回収処理に適用されていることが記載されているが、今後、見込まれる鉱石の低品位化(銅品位の低下と、砒素や硫黄などの不純物品位の増加)によって、乾式製錬法でのChalcopyrite(CuFeS2)からの銅回収処理が困難になって行くものと予想されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-155260号公報
【文献】特開2017-14555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでChalcopyrite(黄銅鉱)を酸化性雰囲気、かつ高温で熱処理してBornite(CuFeS2)とPyrrhotite(FeS)に分解させることが可能であることは公知の事実である。即ち、Chalcopyriteを主体とする銅精鉱に酸素共存下で熱分解処理を行った後に、再度選鉱処理を行うことによりBorniteを主体とする精鉱を得、上記問題点を解決することが理論上は可能である。
【0007】
しかしながら、従来技術の方法では、温度と適正酸素分圧の制御が難しく、安定的に多量の銅精鉱を処理するためには多大の開発要素が残されている。さらに、この処理を行うことによって多量のSO2ガスが生じ、大型の硫酸プラントの建造費用が必要となること、さらに生成した硫酸の運搬費用高や販路確保の困難さという問題が生じることになるために、工業的には利用可能な製法ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の一観点に係る銅精鉱処理方法は、Chalcopyriteを主体とする銅精鉱を不活性雰囲気下で、ロータリーキルンを用いて熱処理することを特徴とする銅精鉱処理方法であって、熱処理温度が600℃以上1000℃以下、不活性雰囲気が窒素、及び/又はアルゴンの銅精鉱処理方法であり、さらに熱処理した精鉱を粉砕、選鉱する銅精鉱処理方法である。
【0009】
このような本発明の第1の発明は、Chalcopyriteを主体とする銅精鉱を不活性雰囲気の下で熱処理することにより、前記熱処理後に得られる精鉱中の含銅鉱物に含まれる銅割合を増加させると同時に砒素を分離した砒素含有量が低減された精鉱とする銅精鉱処理方法において、前記熱処理後、得られた精鉱を粉砕、選鉱することにより、鉄含有量及び硫黄含有量が低減された精鉱を得て、前記熱処理前の銅精鉱中の砒素含有量が1.2重量%以下、硫黄含有量が33.2重量%以下であり、前記熱処理後、得られた鉄含有量及び硫黄含有量が低減された精鉱中の砒素含有量が0.1重量%未満、硫黄含有量が15.7重量%以上、16.6重量%以下であり、前記熱処理が、ロータリーキルンを用いて行なわれることを特徴とする銅精鉱処理方法である。
【0010】
本発明の第2の発明は、第1の発明における熱処理の熱処理温度が、600℃以上、1000℃以下であることを特徴とする銅精鉱処理方法である。
【0011】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明における不活性雰囲気が、窒素、アルゴンのいずれか、又は両者からなることを特徴とする銅精鉱処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Chalcopyrite(黄銅鉱)を主体とする銅精鉱を、不活性雰囲気下で、原料の銅精鉱に回転攪拌を付与しながら熱処理を行うことにより、含銅鉱物中の銅割合を増加すると同時に砒素を分離した砒素の含有量が低減された精鉱を得る銅精鉱改質方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、銅製錬において使用するChalcopyriteを主体とする銅精鉱を、不活性雰囲気下で熱処理を行うことにより、含銅鉱物中の銅割合を増加すると同時に砒素を分離して砒素含有量が低減された精鉱を得る銅精鉱改質方法である。また本発明において、銅精鉱の熱処理にはロータリーキルンを用いることが必須条件である。
【0014】
通常、銅製錬においては、銅精鉱を自熔炉等の製錬炉内で溶融するとともに、銅と鉄の酸素に対する親和力の差を利用して、硫化物として存在する鉄を優先的に酸素と反応させて酸化物とし、珪石などのフラックスとともにスラグとして安定化させることで、銅の硫化物を主体とするマットと分離させる。この鉄の酸化反応を利用することで銅の濃縮を図っている。
更に鉄と結合していた硫黄は、やはり酸素と結合してSO2或いはSO3といったガスとなるが、このガスはダストを除去した後に処理されて、硫酸や石膏として回収される。
【0015】
またスラグに関しては、スラグの生成量が多いと、炉内に占めるスラグの体積比が増えることになり、同一熔錬炉内でマット生成量を増加させようとする場合に不利になる。さらに、これらのスラグや硫酸は銅製造工程における副産物であり、販売されて利益となることも多いものの、その価値は銅価格と比して著しく低い。したがって、銅をできるだけ多く生産しようとする場合には、熔錬炉における処理量に上限がある限り、銅精鉱中に含まれる銅の比率が高いほうが有利である。
【0016】
しかしながら、前述のとおり、銅の含有量の高い鉱物を主成分とする鉱石は慢性的に不足し、多くの鉱石が銅と鉄が等モルで含まれ、銅と硫黄が1:2のモル比で含まれるChalcopyriteが主成分となっている。
このChalcopyriteを含む鉱石は、粉砕された後に浮遊選鉱を行うことにより、脈石成分が除去されて銅分が濃縮したChalcopyriteを主体とする銅精鉱となるが、このChalcopyriteを主体とした銅精鉱に熱処理を行うことにより、Borniteと鉄硫化物(FeS2-x)に分解した後、再度粉砕されて選鉱処理を行うことで、製錬に有利なBorniteを濃縮させた精鉱を得ることができれば、上記問題点を解決することが可能となる。
【0017】
前述のように、酸化雰囲気下で熱処理を行うことによりChalcopyriteのBorniteへの分解は可能であるが、酸素により硫黄が硫化されてSO2ガス或いはSO3ガスが発生するために、大規模なガス処理プラントが必要となる。一方、硫黄を酸化させない不活性雰囲気下での熱処理に関しても報告例があり、Borniteへの分解は可能であることが一般的に知られている。
しかしながら、ChalcopyriteからのBorniteへの熱分解を工業的に行うには、温度、雰囲気等の詳細な条件は不明であり、熱分解後に粉砕して再度選鉱するというプロセスについては考えられていなかった。
【0018】
一方で砒素は615℃程度の昇華点を持ち、雰囲気や温度等を調整すれば気化させて鉱石中から分離、除去が可能である。
そこで、本発明者は鋭意検討を行い、銅製錬において原料となるChalcopyriteを主体とする精鉱において、不活性雰囲気下で熱処理することにより精鉱内の含銅鉱物中の銅割合を増加させると同時に砒素を分離し、さらにその熱処理した精鉱を粉砕して、再度選鉱することにより砒素、鉄、及び硫黄成分の含有量が低減された銅精鉱を得ることを特徴とする精鉱処理方法を見出した。さらに、その際にロータリーキルンを用いることで、精鉱の熱処理を効率的、かつ安価に熱処理可能であることを見出して本発明に至った。そして本発明により改質された精鉱を使用することにより、製錬工程から生ずるスラグ量を低減することが出来ると同時に、不純物である砒素の処理負荷を軽減することが可能である。
【0019】
すなわち、Chalcopyriteを主体とする銅精鉱を好ましくは600℃から1000℃の範囲で、かつ不活性雰囲気中で熱処理を行うと、高温域においてはBorniteが安定な鉱物種であることから、以下の反応式(1)によって分解が生じる。
また、一部のChalcopyriteは、S゜共存下で、corellite(CuS)とpyrite(FeS2)を生成することもある(式(2)参照)。
この場合は、鉄と硫黄の除去がより進むために、さらに有利に働くこととなる。
【0020】
【0021】
そして、精鉱中の砒素に関しては分解反応によって砒素が気化して精鉱中の砒素含有量を著しく減少させることができる。
すなわち砒素の昇華点は文献より多少の差はあるものの615℃程度であり、不活性雰囲気の中で600℃以上に加熱することによって酸化することなく、砒素単体として気化して精鉱中からの分離を示唆している。
なお、ここで空気など酸素を含む雰囲気で銅精鉱を焙焼してはいけない。酸素が存在する雰囲気で銅鉱石を熱処理すると砒素が酸化して、非常に毒性が強い亜ヒ酸(As2O3)が発生してしまうからである。
【0022】
熱処理温度に関しては、鉱石の種類により多少の差は生じるものの、本発明者の実験により600℃未満では反応が進みづらいことが判明している。また、900℃前後であればほとんどの鉱石でBornite生成反応が進むことから、熱エネルギーの節約の観点から600℃以上、1000℃以下で行うことが好ましい。
処理時間に関しては、処理炉や処理方式で異なるため、一元的に決めることは困難であるが、本発明において、Chalcopyriteを主体とする銅精鉱を不活性雰囲気下で熱処理を行う際、処理装置としては試料を回転させることで撹拌可能な熱処理装置である「ロータリーキルン」を用いる。
このロータリーキルンは回転させながら熱を加えるため、粉体状の精鉱がガスと効率良く接触できるため、焙焼を短時間で行え、また均一な焙焼ができて組成や成分のばらつきの小さい処理が可能である。すなわちロータリーキルンでは固体の粉末の表面において気体が流動するため効率的に熱が伝わるとともに鉱石から発生したガスを流しだすため、非常に効率的に焙焼でき、かつ砒素を含む発生ガスと精鉱を容易に分離できるのである。このため組成や成分が均一な精鉱を製造できるのである。
【0023】
またロータリーキルンは、精鉱の投入、回収が容易であり作業性に優れる。このためほとんど自動制御での処理が可能であり、処理コストを大きく低減できる。さらにロータリーキルンは連続式であってよく、バッチ式であってもよい。目的に合わせて適宜選定すればよい。連続式は生産性に優れる。一方、バッチ式は雰囲気制御や温度制御を高い精度で行うことができ、高品質の精鉱を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例、比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
まず熱処理を行うために使用した銅精鉱は砒素、硫黄が表1に示す割合で含まれるものを用いた。
そして熱処理を行う装置は、ロータリーキルン、又は箱型電気炉を用いた。そして熱処理時に使用したガスは窒素、アルゴン、及び空気を用い、その熱処理温度は500℃~990℃で行った。なお、熱処理時間は全ての試料において4時間とした。
試験前後の試料についてはICP発光分光分析装置を用いて砒素と硫黄の含有量(重量%、以下「%」と表記する)の分析を行った。
詳細な試験条件と熱処理後の分析結果を表2に示す。
【0025】
【0026】
(実施例1から実施例10)
表2に示す熱処理条件により実施例1から実施例10に係る試料を作製し、熱処理後の砒素及び硫黄含有量の分析を行なった。
その結果を表2に併せて示す。
【0027】
(比較例1から比較例6)
上記実施例と同様に、表2に示す熱処理条件により比較例1から比較例6に係る試料を作製し、熱処理後の砒素及び硫黄の含有量を分析した。
その結果を表2に併せて示す。
【0028】
【0029】
以上結果から、本発明の範囲に含まれる、ロータリーキルンを使用した実施例1~10は良好な結果が得られている。すなわち、全ての試料において砒素は0.1重量%未満であり、硫黄は17重量%未満であり、精鉱中の砒素と硫黄の含有量が大きく減少していることが分かる。このように精鉱中の砒素、硫黄が減少したため、鉱石中の銅含有量は10重量%以上増加したことを確認している。
一方、本発明の範囲から外れる、流動焙焼炉や箱型電気炉を使用した比較例1~6は好ましくない結果となっている。すなわち、砒素含有量は最も低いものでも0.4重量%あり、硫黄含有量は低くても25.6重量%であった。また比較例1、2については熱処理中に亜ヒ酸が発生してしまった。
以上のように本発明の範囲に含まれる実施例において良好な結果が得られた理由はロータリーキルンによって効率的に焙焼できたためだと言える。