(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20221129BHJP
C01G 55/00 20060101ALI20221129BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01C7/00 324
C01G55/00
H05B3/14 B
(21)【出願番号】P 2019023866
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小沢 誠
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】幕田 富士雄
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-067478(JP,A)
【文献】特開2008-294326(JP,A)
【文献】特開2018-092730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
C01G 55/00
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含有せず、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、アルミナとシリカの混合酸化物粉末と、を含み、
前記ガラス粉末は、SiO
2とB
2O
3とRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種類以上のアルカリ土類元素を示す)を含み、前記SiO
2と前記B
2O
3と前記ROとの含有量の合計を100質量部とした場合に、前記SiO
2を10質量部以上50質量部以下、前記B
2O
3を8質量部以上30質量部以下、前記ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有し、
前記アルミナとシリカの混合酸化物粉末は、比表面積が60m
2/g以上300m
2/g以下であり、
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、前記アルミナとシリカの混合酸化物粉末を1質量部以上12質量部以下の割合で含む厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記酸化ルテニウム粉末は、
X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径をD1、比表面積から算出した比表面積径をD2とした際、
25nm≦D1≦80nm、25nm≦D2≦114nmであり、かつ0.70≦D1/D2≦1.00を満たす請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラス粉末とのうち、前記酸化ルテニウム粉末の割合が5質量%以上50質量%以下である請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
前記ガラス粉末は、50%体積累計粒度が5μm以下である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物を、有機ビヒクル中に分散した厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物を含有する厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを印刷して焼成することによって形成されている。厚膜抵抗体用ペーストに用いる厚膜抵抗体用組成物としては、導電粒子である酸化ルテニウムを代表とするルテニウム系導電粒子と、ガラス粉末と、を主な成分としたものが広く用いられている。
【0003】
ルテニウム系導電粒子と、ガラス粉末とを含む組成物が厚膜抵抗体の原料として広く用いられる理由としては、空気中での焼成ができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づける事が可能であることに加え、広い領域の抵抗値の厚膜抵抗体が形成可能であること等が挙げられる。
【0004】
ルテニウム系導電粒子とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を作製した場合、その配合比によって抵抗値が変わる。ルテニウム系導電粒子の配合比を多くすると抵抗値が下がり、ルテニウム系導電粒子の配合比を少なくすると抵抗値が上がる。このことを利用して、厚膜抵抗体では、ルテニウム系導電粒子とガラス粉末の配合比を調整して所望する抵抗値を出現させている。
【0005】
厚膜抵抗体の原料組成物に特に使用されているルテニウム系導電粒子としては、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO2)や、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)が挙げられる。これらはいずれも金属的な導電性を示す酸化物である。
【0006】
厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末には、一般的に厚膜抵抗体用ペーストの焼成温度よりも低い軟化点のガラスが用いられており、酸化鉛(PbO)を含むガラスが用いられていた。その理由としては、酸化鉛(PbO)はガラスの軟化点を下げる効果があり、その含有率を変えることによって広範囲に渡り軟化点を変えることや、比較的化学的な耐久性が高いガラスが作れること、絶縁性が高く耐圧に優れていること等が挙げられる。
【0007】
ルテニウム系導電粒子とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物では、低い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を多く、ガラス粉末を少なく配合し、高い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を少なく、ガラス粉末を多く配合して抵抗値を調整している。ルテニウム系導電粒子を多く配合する低い抵抗値領域の厚膜抵抗体では抵抗温度係数がプラスに大きくなりやすく、ルテニウム系導電粒子の配合が少ない、高い抵抗値領域の厚膜抵抗体では抵抗温度係数がマイナスになりやすい特徴がある。
【0008】
抵抗温度係数は温度変化による抵抗値の変化を表したもので、厚膜抵抗体の重要な特性の一つである。抵抗温度係数は調整剤と呼ばれる主に金属酸化物を組成物に加えることで調整が可能である。抵抗温度係数をマイナスに調整することは比較的容易であり、調整剤としてはマンガン酸化物、ニオブ酸化物、チタン酸化物等が挙げられる。しかし、抵抗温度係数をプラスに調整することは困難であり、マイナスの抵抗温度係数を有する厚膜抵抗体用組成物の抵抗温度係数を0付近に調整することは実質上行えない。したがって、抵抗温度係数がマイナスになりやすい抵抗値が高い領域では、抵抗温度係数がプラスに大きくなる導電粒子とガラスの組み合わせが望ましい。
【0009】
ルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)は酸化ルテニウム(RuO2)よりも比抵抗が高く、厚膜抵抗体の抵抗温度係数が高くなる特徴がある。このため抵抗値の高い領域では導電粒子としてルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)が使用されてきた。
【0010】
このように従来の厚膜抵抗体用組成物は、導電粒子およびガラスの両方に鉛成分を含有している。しかしながら、鉛成分は人体への影響および公害の点から望ましくなく、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の開発が強く求められている。
【0011】
そこで従来から、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物がいくつか提案されている(特許文献1~4)。
【0012】
特許文献1には、少なくとも実質的に鉛を含まないガラス組成物及び実質的に鉛を含まない所定の平均粒径の導電材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストが開示されている。そして、導電材料としてルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウムが挙げられている。
【0013】
特許文献1によれば、使用する導電材料の粒径を所定の範囲とし、反応相を除いた導電材料の実質的な粒径を確保することで所望の効果を得るとしている。
【0014】
特許文献2では、ガラス組成物に、導電性を与えるための金属元素を含む第1の導電性材料をあらかじめ溶解させてガラス材料を得る工程と、前記ガラス材料と、前記金属元素を含む第2の導電性材料と、ビヒクルとを混練する工程とを備えており、前記ガラス組成物及び前記第1及び第2の導電性材料は鉛を含まないことを特徴とする抵抗体ペーストの製造方法が提案されている。そして、第1、第2の導電性材料としてRuO2等が挙げられている。
【0015】
特許文献3では、(a)ルテニウム系導電性材料と(b)所定の組成の鉛およびカドミウムを含まないガラス組成物とのベース固形物を含有し、(a)および(b)の全てが有機媒体中に分散されていることを特徴とする厚膜ペースト組成物が提案されている。そして、ルテニウム系導電性材料としてルテニウム酸ビスマスが挙げられている。
【0016】
特許文献4では、鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4~0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSi2Al2O8結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物が提案されている。特許文献4によれば、ガラスの塩基度がルテニウム複合酸化物の塩基度に近いことで、ルテニウム複合酸化物の分解抑制効果が大きいとされている。また、ガラス中に所定の結晶相を析出させることによって導電ネットワークを形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2005-129806号公報
【文献】特開2003-7517号公報
【文献】特開平8-253342号公報
【文献】特開2007-103594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、抵抗温度係数の改善ができているとはいえなかった。また、粒径の大きい導電粒子を用いると形成された抵抗体の電流ノイズが大きく、良好な負荷特性が得られないという問題があった。
【0019】
特許文献2に開示された技術ではガラス中に溶解する酸化ルテニウムの量は製造条件によって変動が大きく、抵抗値や抵抗温度係数の特性が安定しないという問題があった。
【0020】
特許文献3に開示された厚膜ペースト組成物では抵抗温度係数がマイナスに大きくなり、抵抗温度係数を0に近づけることはできなかった。
【0021】
特許文献4では、導電粒子としてルテニウム複合酸化物を用いることを前提としており、ルテニウム複合酸化物よりも工業的に簡便に得られる酸化ルテニウムについては具体的には検討されていなかった。また、抵抗体の抵抗温度係数に及ぼすガラス組成の影響については検討されていなかった。
【0022】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、抵抗温度係数とノイズ特性に優れた鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため本発明は、
鉛成分を含有せず、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、アルミナとシリカの混合酸化物粉末と、を含み、
前記ガラス粉末は、SiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種類以上のアルカリ土類元素を示す)を含み、前記SiO2と前記B2O3と前記ROとの含有量の合計を100質量部とした場合に、前記SiO2を10質量部以上50質量部以下、前記B2O3を8質量部以上30質量部以下、前記ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有し、
前記アルミナとシリカの混合酸化物粉末は、比表面積が60m2/g以上300m2/g以下であり、
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、前記アルミナとシリカの混合酸化物粉末を1質量部以上12質量部以下の割合で含む厚膜抵抗体用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一側面によれば、抵抗温度係数とノイズ特性に優れた鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
[厚膜抵抗体用組成物]
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含有せず、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、アルミナとシリカの混合酸化物粉末と、を含む。
ガラス粉末は、SiO2とB2O3とROを含むことができる。なお、ROのうちのRはCa、Sr、Baから選択される1種類以上のアルカリ土類元素を示す。ガラス粉末は、SiO2とB2O3とROとの含有量の合計を100質量部とした場合に、SiO2を10質量部以上50質量部以下、B2O3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有することが好ましい。
アルミナとシリカの混合酸化物粉末は、比表面積を60m2/g以上300m2/g以下のアルミナとシリカの混合酸化物粉末とすることができる。
そして、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、アルミナとシリカの混合酸化物粉末を1質量部以上12質量部以下の割合で含むことができる。
【0026】
本発明の発明者らは、抵抗温度係数とノイズ特性に優れた鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物とするべく鋭意検討を行った。その結果、酸化ルテニウム粉末と、所定の成分を含有するガラス粉末と、所定の比表面積のアルミナとシリカの混合酸化物粉末とを所定の割合で含む厚膜抵抗体用組成物とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ電流ノイズを低く抑えられることを見出し本発明を完成させた。
【0027】
以下、実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0028】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、上述のように鉛成分を含有しない。鉛成分を含まない厚膜抵抗体用組成物とは、鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
(酸化ルテニウム粉末)
鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物では、抵抗温度係数がプラスに大きい導電粒子であるルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)を用いることができないため、抵抗温度係数がプラスになりやすい導電粉末とガラスの組み合わせが重要となる。
【0029】
既述の様に、添加剤を用いても抵抗温度係数をプラスに調整することは困難である。このため、抵抗温度係数がマイナスになり過ぎてしまうと0付近、例えば±100ppm/℃以内に調整することが困難である。しかし、抵抗温度係数がプラスであればその値が高くても調整剤等の添加剤で抵抗温度係数を0付近に調整することが可能である。
【0030】
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の導電物としては、厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗値が安定な酸化ルテニウム粉末を用いることが好ましい。
【0031】
酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを主成分として含有する厚膜抵抗体の導電機構は、抵抗温度係数がプラスである酸化ルテニウム粉末の金属的な導電と、抵抗温度係数がマイナスである、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応相による半導体的な導電の組み合わせによると考えられる。このため、酸化ルテニウム粉末の割合が多い低抵抗値領域では抵抗温度係数がプラスになり易く、酸化ルテニウム粉末の割合が少ない高抵抗値領域では抵抗温度係数がマイナスになり易い。
【0032】
そこで、本発明の発明者は酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体についてさらに検討を行った。そして、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を作製した場合、用いる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径は、得られる厚膜抵抗体の面積抵抗値や抵抗温度係数に対して一定の影響を与えることを見出した。
【0033】
上記知見に基づき、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる酸化ルテニウム粉末は、結晶子径D1、比表面積径D2、及び結晶子径と比表面積との比D1/D2を所定の範囲とすることが好ましい。係る酸化ルテニウム粉末用いることで、厚膜抵抗体とした場合に、抵抗温度係数を0近傍、もしくはプラスに特に容易に制御することができる。
【0034】
通常、厚膜抵抗体に用いられる酸化ルテニウム粉末の一次粒子の粒径は小さいので、結晶子も小さくなり、完全にBraggの条件を満たす結晶格子が減り、X線を照射した際の回折線プロファイルが広がる。格子歪が無いとみなした場合、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、(110)面での回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとすると以下の式(A)として示したScherrerの式から結晶子径を測定、算出できる。なお、(110)面での回折線プロファイルの広がりβを算出するに当っては、例えばKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正し、Kα1による回折ピークの半価幅を用いることができる。
【0035】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(A)
式(A)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
【0036】
酸化ルテニウム(RuO2)粉末は、一次粒子をほぼ単結晶とみなすことができる場合、X線回折法によって測定された結晶子径が一次粒子の粒径とほぼ等しくなる。このため、結晶子径D1は、一次粒子の粒径ということもできる。ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO2)では、回折ピークのうち、結晶構造の(110)、(101)、(211)、(301)、(321)面の回折ピークが比較的大きい。ただし、結晶子径D1を算出する場合には、相対強度が最も大きく、測定に適した(110)面のピークを用いることが好ましい。
【0037】
そして、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末については、X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が、25nm≦D1≦80nmであることが好ましい。
【0038】
一方、酸化ルテニウム粉末の粒径が細かくなると、比表面積は大きくなる。そして、酸化ルテニウム粉末の粒径をD2(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(B)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0039】
D2(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(B)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cm3として、式(B)によって算出した比表面積径を25nm以上114nm以下とすることが好ましい。すなわち、比表面積から算出した比表面積径をD2とした場合、酸化ルテニウム粉末は、25nm≦D2≦114nmであることが好ましい。
【0040】
酸化ルテニウム粉末の結晶子径D1を25nm以上とすることで、厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることをより確実に抑制できる。また、酸化ルテニウム粉末の結晶子径D1を80nm以下とすることで耐電圧特性を高めることが可能になる。
【0041】
また、比表面積径D2を25nm以上とすることによって、酸化ルテニウム粉末を用いて厚膜抵抗体を製造するために酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含有する厚膜抵抗体用ペースト焼成する際、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行することを抑制できる。酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応相は、抵抗温度係数がマイナスとなる。このため、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行し、係る反応相の割合が増えることを特に抑制することで、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることをより確実に抑制できる。
【0042】
ただし、酸化ルテニウム粉末の比表面積径が過度に大きくなりすぎると、導電粒子である酸化ルテニウムの粒子同士の接触点が少なくなることから、導電経路が少なくなって電流ノイズ等の電気特性について十分な特性を得られない恐れがある。このため、比表面積径D2は114nm以下であることが好ましい。
【0043】
そして、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末は既述の様に結晶子径D1と、比表面積径D2との比であるD1/D2が所定の範囲であることが好ましい。特にD1/D2が0.70≦D1/D2≦1.00を満たすことが好ましい。
【0044】
結晶子径D1と比表面積径D2との比であるD1/D2を0.70以上とすることで酸化ルテニウムの結晶性を高めることができる。ただし、D1/D2が1.00を超える場合は粗大粒子と微細な粒子が混在することになる。このため、上述のようにD1/D2を0.70以上1.00以下とすることで、係る酸化ルテニウムを含む厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを特に抑制できる。
【0045】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いられる酸化ルテニウム粉末としては、鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末を用いる。鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末とは、鉛成分を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0046】
次に、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いられる酸化ルテニウム粉末の製造方法の一構成例について説明する。
【0047】
なお、以下の酸化ルテニウム粉末の製造方法により、既述の酸化ルテニウム粉末を製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0048】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は特に限定されるものではなく、既述の酸化ルテニウム粉末を製造できる方法であれば良い。
【0049】
酸化ルテニウム粉末の製造方法としては、例えば湿式で合成された酸化ルテニウム水和物を熱処理することによって製造する方法が望ましい。係る製造方法では、その合成方法や熱処理の条件等によって比表面積径や結晶子径を変化させることができる。
【0050】
すなわち、酸化ルテニウム粉末の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。 湿式法により酸化ルテニウム水和物を合成する酸化ルテニウム水和物生成工程。
溶液中の、酸化ルテニウム水和物を分離回収する酸化ルテニウム水和物回収工程。
酸化ルテニウム水和物を乾燥する乾燥工程。
酸化ルテニウム水和物を熱処理する熱処理工程。
【0051】
なお、従来一般的に用いられていた粒径の大きい酸化ルテニウムを製造した後、該酸化ルテニウムを粉砕する酸化ルテニウム粉末の製造方法は、粒径が小さくなりにくく、粒径のばらつきも大きいため本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末の製造方法には適していない。
【0052】
酸化ルテニウム水和物生成工程において、酸化ルテニウム水和物を合成する方法は特に限定されないが、例えばルテニウム含有水溶液において、酸化ルテニウム水和物を析出、沈殿させる方法が挙げられる。具体的には、例えばK2RuO4水溶液にエタノールを加えて酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法や、RuCl3水溶液をKOH等で中和して酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法等が挙げられる。
【0053】
そして、上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程と、乾燥工程とで、酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、必要に応じて洗浄した後、乾燥することで酸化ルテニウム水和物の粉末を得ることができる。
【0054】
熱処理工程の条件は特に限定されないが、例えば酸化ルテニウム水和物粉末は、酸化雰囲気下で400℃以上の温度で熱処理することで結晶水がとれ、結晶性の高い酸化ルテニウム粉末とすることができる。ここで酸化雰囲気とは、酸素を10容積%以上含む気体であり、例えば空気を使用することができる。
【0055】
酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する際の温度は、上述のように400℃以上とすることで、特に結晶性に優れた酸化ルテニウム(RuO2)粉末を得ることができ好ましい。熱処理温度の上限値は特に限定されないが、過度に高温にすると得られる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が大きくなり過ぎたり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuO3やRuO4)となって揮発する割合が高くなる場合がある。このため、例えば1000℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0056】
特に、酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する温度は、500℃以上1000℃以下であることがより好ましい。
【0057】
既述のように、酸化ルテニウム水和物を製造する際の合成条件や、熱処理の条件等により、得られる酸化ルテニウム粉末の比表面積径や、結晶性を変化させることができる。このため、例えば予備試験等を行っておき、所望の結晶子径、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末が得られるように条件を選択することが好ましい。
【0058】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は、上述の工程以外にも任意の工程を有することもできる。
【0059】
上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程で酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、乾燥工程で乾燥した後、熱処理工程の前に、得られた酸化ルテニウム水和物を機械的に解砕して、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を得ることもできる(解砕工程)。
【0060】
そして、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を、熱処理工程に供し、酸化雰囲気下、400℃以上の温度で熱処理されることで、上述の通り結晶水がとれ、酸化ルテニウム粉末の結晶性を高めることができる。上述のように解砕工程を実施することで、熱処理工程に供する酸化ルテニウム水和物粉末について、凝集の程度を抑制、低減することができる。そして、解砕した酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理することで熱処理による粗大粒子や連結粒子の生成を抑制することができる。このため、解砕工程での条件を選択することでも、所望の結晶子径や、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末を得ることができる。
【0061】
なお、解砕工程での解砕条件は特に限定されるものではなく、目的とする酸化ルテニウム粉末が得られるように、予備試験等を行い任意に選択できる。
【0062】
また、酸化ルテニウム粉末の製造方法は、熱処理工程後に、得られた酸化ルテニウム粉末を、分級することもできる(分級工程)。このように分級工程を実施することで、所望の比表面積径の酸化ルテニウム粉末を選択的に回収することができる。
(ガラス粉末)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含まないガラス粉末を含有することができる。なお、鉛成分を含まないガラスとは、鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0063】
鉛成分を含有しない厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末では、骨格となるSiO2以外の金属酸化物を配合することによって焼成時の流動性を調整することができる。SiO2以外の金属酸化物としては、B2O3及びRO(RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す)を用いることができる。なお、ROについて、Rが2種類以上の場合とは、CaO、SrO、及びBaOから選択された2種類以上を含むことを意味する。
【0064】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラス粉末では、ガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの含有量の合計を100質量部とした場合にSiO2を10質量部以上50質量部以下、B2O3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含むことが好ましい。本発明の発明者の検討によれば、係る割合で各成分を含有するガラス粉末を用いることで、厚膜抵抗体とした場合に抵抗温度係数がマイナスになりにくくすることができる。
【0065】
ガラス粉末のガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、SiO2の含有割合を50質量部以下とすることで流動性を十分に高めることができる。また、後述するように、SiO2の含有割合を50質量部以下とし、アルミナとシリカの混合酸化物粉末と組み合わせて用いることで、得られる厚膜抵抗体の電気特性を向上させ、抵抗温度係数がマイナス側にシフトすることを特に抑制できる。ただし、SiO2の含有割合が10質量部より小さいとガラスになり難くなる場合があるため、SiO2を10質量部以上50質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0066】
また、B2O3を8質量部以上とすることで、流動性を十分に高めることができ、30質量部以下とすることで耐候性を高めることができる。さらに、後述するように、B2O3をの含有割合を30質量部以下とし、アルミナとシリカの混合酸化物粉末と組み合わせて用いることで、得られる厚膜抵抗体の電気特性を向上させ、抵抗温度係数がマイナス側にシフトすることを特に抑制できる。
【0067】
ROの含有割合を40質量部以上とすることで、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを十分に抑制できる。なお、係る効果は後述するアルミナとシリカの混合酸化物粉末と組み合わせて用いることで特に顕著となり、得られる厚膜抵抗体の電気特性を向上させることもできる。またROの含有割合を65質量部以下とすることで、結晶化を抑制し、ガラスを形成し易くすることができる。
【0068】
本発明の発明者の検討によれば、酸化ルテニウム粉末と、各成分を上述の割合で含有するガラス粉末と、後述するアルミナとシリカの混合酸化物粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物とすることで、抵抗温度係数が0に近い厚膜抵抗体を得ることが可能になる。また、既述の所定の結晶子径、比表面積径を有する酸化ルテニウム粉末と組み合わせた厚膜抵抗体用組成物とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体の抵抗温度係数を特に0に近くすることができるため好ましい。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物では、該厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体について、従来は困難であった面積抵抗値が80kΩより高い抵抗域においても、抵抗温度係数を0に近くすることが可能であり、特に高い効果を発揮できる。
【0069】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれるガラス粉末の組成は、既述のSiO2とB2O3とROに加えて、ガラスの耐候性や焼成時の流動性を調整する目的で他の成分を含有することもできる。任意の添加成分の例としては、Al2O3、ZrO2、TiO2、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等が挙げられ、これらの化合物から選択された1種類以上をガラスに添加することもできる。
【0070】
Al2O3はガラスの分相を抑制しやすく、ZrO2、TiO2はガラスの耐候性を向上させる働きがある。また、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等はガラスの流動性を高める働きがある。
【0071】
ガラス粉末の焼成時の流動性に影響する尺度として軟化点がある。一般に、厚膜抵抗体を製造する際の、厚膜抵抗体用組成物を焼成する温度は800℃以上900℃以下である。
【0072】
このように、厚膜抵抗体を製造する際の厚膜抵抗体用組成物の焼成温度が800℃以上900℃以下の場合、本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末の軟化点は、600℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。
【0073】
ここで、軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で、10℃/minで昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度である。
【0074】
ガラス粉末は、一般的に、所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする配合にあわせて混合し、得られた混合物を溶融し急冷後、粉砕することによって製造できる。溶融温度は特に限定されるものではないが例えば1400℃前後とすることができる。また、急冷の方法についても特に限定されないが、溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流すことにより行うことができる。
【0075】
ガラスの粉砕にはボールミル、遊星ミル、ビーズミルなど用いることができるが、粒度分布をシャープにするには湿式粉砕が望ましい。
【0076】
ガラス粉末の粒径も限定されないが、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定したガラス粉末の50%体積累計粒度は5μm以下が好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末の粒度が大きすぎると厚膜抵抗体の抵抗値ばらつきの増大や負荷特性が低下する原因となる。一方、ガラス粉末の粒度を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがあることから、ガラス粉末の50%体積累計粒度は0.1μm以上が好ましい。
(アルミナとシリカの混合酸化物粉末)
厚膜抵抗体用組成物には、電流ノイズなどの電気特性の向上を目的としてTiO2等の酸化物を添加することが知られている。例えば、TiO2を添加した厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体は、電流ノイズなどの電気特性は向上するが、抵抗温度係数はマイナス側にシフトし、0ppm/℃を維持できず、-100ppm/℃よりも低い値になることがある。
【0077】
また、先に述べたようにAl2O3は添加剤として添加する場合、ガラスの分相現象の発生を抑制しやすい。しかし、添加することで分相現象の発生の抑制という効果は得られるものの、安定性に欠け、電流ノイズなどの電気特性悪化を招く場合がある。
【0078】
一方、本発明の発明者の検討によれば、酸化ルテニウム粉末、および前述のガラス粉末を含む厚膜抵抗体用組成物にアルミナとシリカの混合酸化物粉末を添加することで、ガラスの分相現象の発生を抑制しつつ、抵抗温度係数がマイナスにシフトしにくく、しかも電流ノイズなどの電気特性が向上した厚膜抵抗体が得られる。アルミナとシリカの混合酸化物粉末の添加による電気特性の向上は、本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物に用いることができる既述のガラス粉末の組成の範囲で発現される。ガラス粉末に含まれるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、SiO2の含有割合を50質量部よりも多くすると、アルミナとシリカの混合酸化物粉末を添加しても電気特性の向上は期待できないほか、抵抗温度係数がマイナス側にシフトすることがある。また、ガラス粉末に含まれるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、B2O3の含有割合を30質量部よりも多くすると、アルミナとシリカの混合酸化物を添加しても電気特性の向上は期待できないほか、抵抗温度係数がマイナス側にシフトすることがある。さらに、ガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、ROの含有割合を40質量部未満とすると、アルミナとシリカの混合酸化物を添加しても電気特性の向上は期待できないほか、抵抗温度係数がマイナス側にシフトすることがある。
【0079】
すなわち、本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物では、特定の組成範囲のガラスと、アルミナとシリカの混合酸化物を組み合わせることで、焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数電気特性を-100ppm/℃以上の値を維持しながら電流ノイズなどの電気特性を向上できる。
【0080】
本実施形態のアルミナとシリカの混合酸化物は、比表面積が60m2/g以上300m2/g以下であることが重要である。比表面積を60m2/g以上とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体の電気特性を向上させることができる。また、比表面積を300m2/g以下とすることで、厚膜抵抗体用組成物をペーストとした際の粘度が過度に高くなることを抑制し、かつ粘度を安定させることができる。
【0081】
アルミナとシリカの混合酸化物粉末の配合割合は、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、1質量部以上12質量部以下とすることが好ましい。1質量部以上とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを抑制し、電流ノイズなどの電気特性の向上効果を十分に発揮することができる。また、アルミナとシリカの混合酸化物粉末の配合割合を上述のように12質量部以下とすることで、電気特性を高めることができる。
【0082】
なお、電気特性の一例である電流ノイズは、単位がデシベルであることから、低いことが望ましく、ノイズ特性が向上とあるのは、電流ノイズがマイナス側にシフトすることであり、ノイズ特性が低下とは電流ノイズがプラス側にシフトすることである。
(厚膜抵抗体用組成物の組成について)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合比は特に限定されるものではない。例えば、所望する抵抗値等によって、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合比率は変えることができる。また、それに応じてアルミナとシリカの混合酸化物粉末の比率を選択することができる。例えば、質量比で、酸化ルテニウム粉末:ガラス粉末=5:95以上50:50以下の範囲とすることが好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0083】
これは、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との合計を100質量%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の割合を5質量%以上とすることで、得られる厚膜抵抗体の抵抗値を抑制することができるからである。
【0084】
また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との合計を100質量%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の割合を50質量%以下とすることで、得られる厚膜抵抗体の強度を十分に高くすることができ、脆くなることを特に確実に防ぐことができるからである。
【0085】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物中の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合割合は、質量比で酸化ルテニウム粉末:ガラス粉末=5:95以上40:60以下の範囲であることがより好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0086】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、必要に応じて任意の成分をさらに含有することもできる。
【0087】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物には、抵抗体の抵抗値や抵抗温度係数や負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を加えても良い。代表的な添加剤としてはNb2O5、Ta2O5、TiO2、CuO、MnO2、ZrO2、Al2O3、ZrSiO4等が挙げられる。これらの添加剤を加えた厚膜抵抗体用組成物とすることで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて、より優れた特性を有する厚膜抵抗体を作製することができる。添加する量は目的によって調整されるが、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、これらの添加物の添加量は合計で0質量部以上20質量部以下とすることが好ましい。
[厚膜抵抗体用ペースト]
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0088】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを有することができる。そして、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することができる。
【0089】
有機ビヒクルは特に制限はなく、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上の溶剤にエチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等から選択された1種類以上の樹脂を溶解した溶液を用いることができる。
【0090】
また、厚膜抵抗体用ペーストには、必要に応じて分散剤や可塑剤など加えることもできる。既述の厚膜抵抗体用組成物や、添加剤等を有機ビヒクルに分散させる際の分散方法も特に制限されないが、微細な粒子を分散させる3本ロールミルやビーズミル、遊星ミル等から選択された1種類以上の方法を用いることができる。有機ビヒクルの配合比率は印刷や塗布方法によって適宣調整されるが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部とした場合に、有機ビヒクルを20質量部以上200質量部以下となるように混練、調製することができる。
[厚膜抵抗体]
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物を含有することができる。
【0091】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成することもできる。
【0092】
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物や、厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造することができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は、上述のように既述の厚膜抵抗体用組成物を含むことができ、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、アルミナとシリカの混合酸化物粉末とを含むことができる。
【0093】
なお、既述のように、厚膜抵抗体用組成物では、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、5質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0094】
そして、本実施形態の厚膜抵抗体は、該厚膜抵抗体用組成物を用いて製造でき、得られる厚膜抵抗体内のガラス成分は、厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末に由来する。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は厚膜抵抗体用組成物と同様に、酸化ルテニウムと、ガラス成分とのうち、酸化ルテニウムの割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0095】
本実施形態の厚膜抵抗体の物性は特に限定されないが、従来は面積抵抗値が高い場合に、特に抵抗温度係数を0近傍にすることが困難であったところ、本実施形態の厚膜抵抗体によれば、面積抵抗値が高い場合でも抵抗温度係数を0に近くすることができ、特に高い効果を発揮できる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体の面積抵抗値は高いことが好ましく、例えば80kΩよりも高いことがより好ましい。
【実施例】
【0096】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例における評価方法について説明する。
1.酸化ルテニウム粉末の評価
以下の実験例で使用した酸化ルテニウム粉末a~酸化ルテニウム粉末dの結晶子径D1と比表面積径D2の評価結果を行った。評価結果を表1に示す。
(1)結晶子径
結晶子径はX線回折パターンのピークの広がりより算出できる。ここではX線回折によって得られたルチル型構造のピークをKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正したKα1のピークの広がりとして半価幅を測定し、Scherrerの式より算出した。
【0097】
具体的には、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、(110)面での回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとした場合に、以下の式(A)として示したScherrerの式から結晶子径を算出した。
【0098】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(A)
なお、式(A)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
(2)比表面積径
比表面積径は比表面積と密度より算出できる。比表面積は測定が簡単にできるBET1点法を用いた。比表面積径をD2(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(B)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0099】
D2(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(B)
計算を行う際、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cm3とした。
【0100】
【表1】
2.ガラス粉末の評価
以下の実験例で使用したガラス粉末の組成、及び以下の評価結果を表2に示す。
(1)軟化点、ガラス転移点
ガラス粉末の軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で毎分10℃で昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度とした。
【0101】
ガラス転移点は、ガラス粉末を再溶融して得られるロッド状の試料を熱機械分析法(TMA)にて大気中で毎分10℃昇温、加熱し、得られた熱膨張曲線の屈曲点を示す温度とした。
(2)50%体積累計粒度
ガラス粉末はすべて50%体積累計粒度が表2に示した値となるようにボールミルにて粉砕した。50%体積累計粒度は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定し、積算値50%での粒径を意味する。
【0102】
【表2】
3.アルミナとシリカの混合酸化物粉末の評価
以下の実験例ではアルミナとシリカの混合酸化物粉末(日本アエロジル株式会社製 AEROSIL MOX80)を用いた。
【0103】
表3に示すように、各実験例においては比表面積が異なる4種類のアルミナとシリカの混合酸化物粉末を配合し、用いた。
【0104】
各アルミナとシリカの混合酸化物粉末の比表面積はBET法で測定した。
4.厚膜抵抗体の評価
以下の実験例で作製した厚膜抵抗体について、膜厚、面積抵抗値、25℃から-55℃までの抵抗温度係数(COLD-TCR)、25℃から125℃までの抵抗温度係数(HOT-TCR)、電気特性の指標として電流ノイズを評価した。なお、表4中ではCOLD-TCRをC-TCR、HOT-TCRをH-TCRと記載している。
(1)膜厚
膜厚は、各実験例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、測定した値を平均することで算出した。
(2)面積抵抗値
面積抵抗値は、各実験例において同様にして作製した25個の厚膜抵抗体の抵抗値をデジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)で測定した値を平均することで算出した。
(3)抵抗温度係数
抵抗温度係数は、各実験例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体を-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してから抵抗値を測定し、各厚膜抵抗体の各温度での抵抗値をR-55、R25、R125とした。そして、各厚膜抵抗体について以下の式(C)、式(D)によってCOLD-TCRと、HOT-TCRとを計算し、5個の厚膜抵抗体の平均を各実験例の厚膜抵抗体の抵抗温度係数(COLD-TCR、HOT-TCR)とした。抵抗温度係数は0に近いことが望ましく、-100ppm/℃≦抵抗温度係数≦100ppm/℃であることが優れた抵抗体の目安とされている。
COLD―TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106 ・・・(C)
HOT―TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106 ・・・(D)
(4)電流ノイズ
各実験例の厚膜抵抗体の電気特性の指標として電流ノイズを測定した。電流ノイズはノイズ計(Quan-Tech製 型式:315c)を用い、1/10Wに相当する電圧を印加して測定した。厚膜抵抗体の電流ノイズは過負荷特性や信頼性と関連があり、値が低いほど抵抗体の電気特性が良好である。
【0105】
以下に各実験例での厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体の作成条件について説明する。実験例1~実験例12が実施例であり、実験例13~実験例27が比較例となる。
[実験例1]
(厚膜抵抗体用組成物の調製)
実験例1では、表3に示すように、酸化ルテニウム粉末aを20質量部と、ガラス粉末Aを80質量部とアルミナとシリカの混合酸化物粉末を5質量部とを混合し、厚膜抵抗体用組成物を調製した。なお、アルミナとシリカの混合酸化物粉末としては、表3に示すように、比表面積が60m2/gのものを用いた。また、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との比率は厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ100KΩとなるように調整した。
(厚膜抵抗体用ペーストの調製)
調製した厚膜抵抗体用組成物に含まれる酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との含有量の合計100質量部に対して、有機ビヒクルが43質量部となるように秤量し、有機ビヒクル中に3本ロールミルで分散させて厚膜抵抗体用ペーストを作製した。
(厚膜抵抗体の作製)
予めアルミナ基板に焼成して形成された1wt%Pd、99wt%Agの電極上に、作製した厚膜抵抗体用ペーストを印刷し、150℃で5分間乾燥した。次いで、ピーク温度を850℃、ピーク温度での保持時間を9分間、トータルの焼成時間が30分間となるように焼成し厚膜抵抗体を形成した。
【0106】
厚膜抵抗体のサイズは抵抗体幅を1.0mm、抵抗体長さ(電極間)を1.0mmとなるようにした。
【0107】
厚膜抵抗体の評価結果を表4に示す。
[実験例2~実験例27]
厚膜抵抗体用組成物を調製する際、酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、及びアルミナとシリカの混合酸化物粉末として、表3に示したものを用い、表3に示した配合割合となるように秤量、混合した点以外は実験例1と同様にして厚膜抵抗体用組成物を調製した。
【0108】
また、各実験例で作製した厚膜抵抗体用組成物を用いた点以外は実験例1と同様にして、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製し、厚膜抵抗体について評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0109】
なお、既述の様に各実験例で用いた酸化ルテニウム粉末の物性は表1に、ガラス粉末の配合、物性は表2にそれぞれ示している。アルミナとシリカの混合酸化物粉末については、表3に示した比表面積の物をそれぞれ用いている。例えば実験例2では比表面積が200m2/gのアルミナとシリカの混合酸化物粉末を1質量部、実験例4では比表面積が300m2/gのアルミナとシリカの混合酸化物粉末を5質量部それぞれ用いている。
【0110】
【0111】
【表4】
表4によれば、実験例1~実験例12は、抵抗温度係数が±100ppm/℃以内でしかも電流ノイズが-1以下となっており、厚膜抵抗体とした場合に、抵抗温度係数とノイズ特性に優れた鉛成分を含有しない抵抗体用組成物が得られていることを確認できた。
【0112】
これに対して、実験例13~実験例22の厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体では電流ノイズが3以上であり、良好な電気特性を有する厚膜抵抗体が得られないことが確認できた。
【0113】
また、実験例23、実験例24の厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体の電流ノイズは小さいが、抵抗温度係数がマイナスであり、±100ppm/℃以内にならなかった。すなわち実験例23、実験例24では抵抗温度係数について、特性が劣ることを確認できた。
【0114】
実験例25~実験例27ではアルミナとシリカの混合酸化物粉末を添加しなかったことから、抵抗温度係数、および電気ノイズ特性が共に劣ることを確認できた。
【0115】
以上、実施例、比較例の結果から、酸化ルテニウム粉末と、所定の組成のガラス粉末と、所定の比表面積のアルミナとシリカの混合酸化物粉末とを、所定の割合で含有する厚膜抵抗体用組成物を用いることで、従来は困難であった厚膜抵抗体の抵抗温度係数を±100ppm/℃以内に容易に調整できることを確認できた。さらには、係る厚膜抵抗体は電気特性、具体的にはノイズ特性にも優れることを確認できた。