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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】液晶組成物及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/46 20060101AFI20221129BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20221129BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20221129BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20221129BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20221129BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20221129BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20221129BHJP
   C09K 19/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C09K19/46
C09K19/34
C09K19/54 B
C09K19/20
G02F1/13 500
C09K19/18
C09K19/30
C09K19/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018006437
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2019123822
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】谷口 士朗
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和則
(72)【発明者】
【氏名】大石 晴己
(72)【発明者】
【氏名】栗沢 和樹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-001705(JP,A)
【文献】特開2015-001704(JP,A)
【文献】特許第5825543(JP,B2)
【文献】特許第5594442(JP,B2)
【文献】特開2004-083568(JP,A)
【文献】特開2013-056878(JP,A)
【文献】特開2008-189604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/00-19/60
G02F 1/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電的に正の第一成分、
誘電的に中性の第二成分、
キラルピッチ長の温度依存性が互いに異なる少なくとも二種の光学活性物質を含有する第三成分を含有し、
第一成分として一般式(1-1)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
第一成分として一般式(1-2)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
第二成分として一般式(2-1)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶組成物であって、
前記コレステリック液晶組成物100質量%における前記一般式(1-1)及び前記一般式(1-2)で表される化合物の含有量が50~70質量%であって、
前記コレステリック液晶組成物100質量%における前記一般式(2-1)で表される化合物の含有量が20~40質量%であって
前記コレステリック液晶組成物100質量%における前記第三成分の含有量が6質量%以下であって、
前記一般式(1-1)で表される化合物として、一般式(1-1-a)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
前記一般式(1-1)で表される化合物として、一般式(1-1-b)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
前記一般式(1-2)で表される化合物として、一般式(1-2-c)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
前記一般式(2-1)で表される化合物として、一般式(2-1-a)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
前記一般式(2-1)で表される化合物として、一般式(2-1-c)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
前記第三成分として、式(3-1)で表される化合物及び式(3-2)で表される化合物の組み合わせ、又は、式(3-2)で表される化合物及び式(3-4)で表される化合物の組み合わせを含有するコレステリック液晶組成物。

・第一成分及び第二成分
【化1】
(R、R、R及びRは相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、
環Aは1,4―シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表し、
~Yは相互に独立して水素原子又はフッ素原子を表すが、
~Y11は相互に独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表し、
は、単結合、-COO-又は-CH2CH2-を表し、
a、b及びcは相互に独立して0又は1を表す。)

・一般式(1-1-a)で表される化合物及び一般式(1-1-b)で表される化合物
【化2】
(R は炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表す。)

・一般式(1-2-c)で表される化合物
【化3】
(R は炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表す。)

・一般式(2-1-a)で表される化合物及び一般式(2-1-c)で表される化合物
【化4】
(R 及びR は相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表す。)

・式(3-1)で表される化合物及び式(3-2)で表される化合物の組み合わせ
【化5】

・式(3-2)で表される化合物及び式(3-4)で表される化合物の組み合わせ
【化6】
【請求項2】
第二成分として、更に一般式(2-2)で表される化合物を1種又は2種以上含有する請求項1に記載のコレステリック液晶組成物。
【化7】
(R及びRは相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、
環B及びCは相互に独立して1,4-シクロへキシレン基又は水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレン基を表し、
は、単結合、-COO-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-FC=CF-又は-C=N-N=C-を表し、
dは1、2又は3を表すが、
複数存在する場合の環B及びZは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
【請求項3】
第一成分として、更に一般式(1-3)で表される化合物を1種又は2種以上含有する請求項1又は2に記載のコレステリック液晶組成物。
【化8】
(Rは炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、
12~Y23は相互に独立して水素原子又はフッ素原子を表し、
はフッ素原子、塩素原子、-CN、-NCS、-CF又は-OCFを表し、
及びZは相互に独立して単結合、-CHCH-、-COO-、-OCO-、-CHO-、-OCH-、-CFO-、-OCF-又は-C≡C-を表す。)
【請求項4】
一般式(1-2)で表される化合物として、一般式(1-2-a)及び一般式(1-2-b)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する請求項1~いずれか1項に記載のコレステリック液晶組成物。
【化9】
(Rは請求項1に記載のRと同じ意味を表す。)
【請求項5】
0~50℃の範囲におけるキラルピッチ長の温度変化が、-1nm/℃以上+1nm/℃以下である請求項1~いずれか1項に記載のコレステリック液晶組成物。
【請求項6】
請求項1~いずれか1項に記載のコレステリック液晶組成物を用いる液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は表示素子用材料として有用なコレステリック液晶組成物及びこれを用いた表示装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶組成物に光学活性化合物を添加することにより液晶相にねじれ配向を付与したコレステリック(カイラルネマチック)液晶組成物を用いた液晶表示素子は、双安定性を有することから特に低消費電力を要求される電子書籍、電子値札、プレゼンテーションパネル等に用いられる。コレステリック液晶における双安定性は、パルス電圧の印加によりプレーナ状態とフォーカルコニック状態に切り換えることによって達成され、プレーナ及びフォーカルコニックの各状態はパルス電圧後も維持されることから、当該双安定性についてメモリー性と呼ぶこともある。
【0003】
コレステリック液晶を用いた液晶表示素子は、コレステリックの螺旋軸が基板に対して垂直な状態(プレーナ状態)において、キラルピッチに依存した特異的な選択反射波長を示す。選択反射波長(λ)は、液晶組成物の平均屈折率(n)とキラルピッチ(P)の積により決まるため、液晶組成物の屈折率を固定した場合には、キラル化合物の濃度を調整してキラルピッチPを調整することにより所望の選択反射波長を得ることができる。この時の選択反射光の半値幅(Δλ)は、液晶の屈折率異方性(Δn=ne―no)とキラルピッチの積に比例するが、明るい表示のためにはある程度広い半値幅が必要となるため、Δnの大きい液晶組成物を用いなければならない。この場合、液晶組成物の平均屈折率も大きくなるため、所望のλに調整するためには更にキラルを添加してPを短くする必要があるが、キラル化合物の添加量が増えすぎると、ホスト液晶の液晶温度範囲の悪化、粘性の増大、といった問題が発生する。即ち、コレステリック液晶の設計には、キラルピッチを誘起する液晶ねじれ力が高く、かつホスト液晶への影響が少ないキラル化合物が必要であり、そういった化合物との相溶性に優れ且つΔnの高いホスト液晶組成物が求められる。さらには、液晶表示素子として低電圧駆動を可能とする十分大きな誘電率異方性(Δε)、低温環境下においても析出等が発生しない良好な保存性が求められる。例えば特許文献1にはこういった課題を解決するために幾つかのコレステリック液晶組成物が開示されている。
【0004】
コレステリック液晶のキラルピッチ長はキラル化合物の種類や添加濃度に依存し、P=1/(β・c)で表すことができる。ここで、cはコレステリック液晶組成物におけるキラル化合物の濃度、βはキラル化合物が液晶組成物をねじる力であり、Helical Twisting Power (HTP)と呼ばれ、式HTP=n/(λ×0.01×c)を用いて算出することができる。ここで、nは液晶組成物の平均屈折率である。このHTPをもちいて液晶組成物に所望のピッチを与えることができる。
【0005】
キラル化合物は一般的に液晶相の温度範囲を狭め、粘度を増大させる。さらに、キラル化合物を添加することにより発生したキラルピッチ長は温度依存性を有することが知られている。例えば、不斉炭素を有するキラル化合物である式(Chiral-1)で表される化合物は、一般的な液晶組成物に添加した際に、室温から高温へ変化するに従ってピッチ長が増大し、その変化はホストとなる液晶組成物によっても大きく異なるという特徴を示す。
【0006】
【化1】
【0007】
コレステリック液晶が有するこのキラルピッチの温度依存性により、コレステリック液晶組成物は、素子として駆動する際の環境温度の変化により選択反射波長λがシフトして色味が変化してしまうという欠点を有している。即ち、キラル化合物とホスト液晶組成物は、ホスト液晶組成物の物性や安定性への影響、それを用いる環境温度を考慮して、かかる欠点がなるべく発生しないように選択しなければならない。しかしながら、コレステリック液晶組成物に求められる諸特性、即ち、大きい誘電率異方性、広い動作温度範囲、低温下における安定性、所望の選択反射波長、外光等に対する高い信頼性等の複数の要求を満たしながら、こういった欠点を解決できる具体的なホスト液晶組成物は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-275463号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高い誘電率異方性(Δε)及び屈折率異方性(Δn)を有し、コレステリック液晶温度範囲が広く、低温下において安定であり、更に熱や光等の外部刺激に対して高い信頼性を有し、選択反射波長の温度変化が小さいコレステリック液晶組成物を提供することにある。また、更にこのようなコレステリック液晶を用いて、温度に対する色味変化が小さく、十分な明るさを有し、動作温度範囲が広く、低い駆動電圧及び高い信頼性を有する液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、誘電的に正の第一成分、誘電的に中性の第二成分、キラルピッチ長の温度依存性が互いに異なる少なくとも二種の光学活性物質を含有する第三成分を含有し、第一成分として一般式(1-1)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、第一成分として一般式(1-2)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、第二成分として一般式(2-1)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0011】
【化2】
【0012】
(R、R、R及びRは相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、環Aは1,4―シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表し、Y~Yは相互に独立して水素原子又はフッ素原子を表すが、Y~Y11は相互に独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表し、Zは、単結合、-COO-又は-CH2CH2-を表し、a、b及びcは相互に独立して0又は1を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明により、複数の物性値の両立という観点において、従来のコレステリック液晶よりも優れた特性を有するコレステリック液晶組成物が提供される。すなわち、選択反射波長の温度変化、誘電率異方性(Δε)及び屈折率異方性(Δn)、コレステリック液晶温度範囲、低温安定性、熱や光など外部刺激に対する安定性、等において、より優れた物性値を具備したコレステリック液晶組成物の提供が可能となる。また、本発明の液晶組成物は、特に0℃から50℃の実用温度領域においてキラルピッチが殆ど変化しないため、キラルピッチに依存する選択反射波長も同様に変化しない。これにより、従来要求されていたコレステリック液晶表示素子の諸特性を満足しつつ、更に反射状態の色味が実質的に変化しない高品位のコレステリック液晶表示素子が提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
液晶化合物が「誘電的に正」とは当該化合物のΔεが+3.0以上であることを意味し、「誘電的に中性」とは当該化合物のΔεが-1.5~+1.5であることを意味する。各化合物のΔεは、ある液晶組成物に各化合物を一定量添加した際に得られるΔεの値から外挿して求めることができる。なお、本発明における「%」は特に断りが無い限り質量%を意味する。
【0016】
本発明の液晶組成物は、第一成分として誘電的に正の化合物を含有する。一般式(1-1)及び一般式(1-2)で表される化合物の好ましい含有量は40~80%であり、より好ましくは45~75%であり、特に好ましくは50~70%である。一般式(1-1)で表される化合物は大きいΔεと中程度のΔnを有し、一般式(1-2)で表される化合物は大きいΔεと高いΔnを有するが、これらを併用することで液晶温度範囲や低温安定性等を維持しながら、組成物に非常に大きいΔεとΔnを付与できる。
【0017】
また、更にΔε及びΔnを上昇せしめる目的で、一般式(1-3)で表される化合物を添加してもよい。
【0018】
【化3】
【0019】
(Rは炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、Y12~Y23は相互に独立して水素原子又はフッ素原子を表し、Xはフッ素原子、塩素原子、-CN、-NCS、-CF又は-OCFを表し、Z及びZは相互に独立して単結合、-CHCH-、-COO-、-OCO-、-CHO-、-OCH-、-CFO-、-OCF-又は-C≡C-を表す。)
その場合、一般式(1-3)の化合物の好ましい含有量は8%以上であり、より好ましくは12%以上である。第一成分の好ましい含有量の合計は、45~80%であり、より好ましくは50~75%であり、最も好ましくは55~65%である。一般式(1-1)、式(1-2)及び式(1-3)で表される化合物として好ましい例は以下の一般式(1-1-a)~(1-1-d)、一般式(1-2-a)~(1-2-d)、及び一般式(1-3-a)~(1-3-e)で表される化合物である。
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、Rは式(1-1)におけるRと同じ意味を表し、Rは式(1-1)におけるRと同じ意味を表し、Rは式(1-3)におけるRと同じ意味を表す。)
本発明の液晶組成物は、第二成分として誘電的に中性の化合物を含有する。一般式(2-1)で表される化合物の好ましい含有量は、15~45%であり、より好ましくは20~40%であり、特に好ましくは25~35%である。一般式(2-1)で表される化合物は、液晶組成物の粘性や液晶相上限温度を調節しつつ、高いΔnを組成物に付与できるだけでなく、上記第一成分とは極めて良好な溶解性を示す。
【0023】
一般式(2-1)におけるY~Y11が水素原子の化合物を多く用いると組成物の粘性を低く抑えることができ、少なくとも一つがメチル基又はフッ素原子で置換された化合物を用いると、液晶相の安定性をより高めることができる。
【0024】
一般式(2-1)で表される化合物の好ましい含有量は40~80%であり、より好ましくは45~75%であり、特に好ましくは50~70%である。一般式(2-1)で表される化合物は大きいΔεと中程度のΔnを有し、一般式(1-2)で表される化合物は大きいΔεと高いΔnを有するが、これらを併用することで液晶温度範囲や低温安定性等を維持しながら、組成物に非常に大きいΔεとΔnを付与できる。
【0025】
一般式(2-1)で表される化合物として好ましい例は以下の一般式(2-1-a)~(2-1-e)である。
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、Rは式(2-1)におけるRと同じ意味を表し、Rは式(2-1)におけるRと同じ意味を表す。)
また、第二成分として粘性の低減や液晶温度範囲の拡大させる目的で一般式(2-2)で表される化合物を添加してもよい。
【0028】
【化7】
【0029】
(R及びRは相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、環B及びCは相互に独立して1,4-シクロへキシレン基又は水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレン基を表し、Zは、単結合、-COO-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-FC=CF-又は-C=N-N=C-を表し、dは1、2又は3を表すが、複数存在する場合の環B及びZは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
一般式(2-2)で表される化合物として好ましい例は以下の一般式(2-2-a)~(2-2-k)である。
【0030】
【化8】
【0031】
(式中、Rは式(2-2)におけるRと同じ意味を表し、Rは式(2-2)におけるRと同じ意味を表す。)
一般式(2-2)で表される化合物のより好ましい例は、式(2-2-a)、式(2-2-b)、式(2-2-c)または式(2-2-d)で表される化合物であり、特に式(2-2-a)及び/又は(2-2-d)においてRがアルケニル基である化合物群から選ばれる化合物を含有することが特に好ましい。
一般式(2-2)で表される化合物の好ましい含有量は3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、特に好ましくは7%以上である。
【0032】
第二成分の好ましい含有量の合計は、18~52%であり、より好ましくは25~45%であり、特に好ましくは32~42%である。
【0033】
一般式(2-1)及び一般式(2-2)で表される化合物の好ましい含有量の合計は、18~52%であり、より好ましくは25~45%であり、特に好ましくは32~42%である。
【0034】
本発明の液晶組成物は、第三成分としてキラルピッチ長の温度依存性が互いに異なる少なくとも二種の光学活性物質(キラル化合物)を含有する。これら化合物は、液晶表示素子の常用温度、すなわち好ましくは0~50℃の範囲において、一方は正のキラルピッチ温度依存性を有し、他方は負のキラルピッチ温度依存性を有することが好ましい。第三成分の含有量の合計は、意図する選択反射波長によって異なるが、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下が特に好ましい。好ましい下限量は特に制限されないが、液晶ねじれ力が著しく大きい場合、組成物における第三成分の添加量が微量となってしまい、僅かな混合比のずれにより選択反射波長やその温度依存性がずれてしまう場合がある。製造設備の秤量精度などにも影響されるが、第三成分が概ね0.1%以上の濃度であれば製造スケールに関わらず高い精度で組成物を製造することができる。
【0035】
キラル化合物としては、一般式(3)で表される化合物を1種又は2種以上含有することが好ましい。
【0036】
【化9】
【0037】
(R及びRは相互に独立して炭素原子数1~7個のアルキル基、炭素原子数1~7個のアルコキシ基又は炭素原子数2~7個のアルケニル基を表し、環D、E、F、Gは相互に独立して1,4―シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表し、Z及びZは相互に独立して単結合又は-COO-を表し、e及びfは相互に独立して0又は1を表す。)
一般式(3)で表される化合物として好ましい例は以下の式(3-1)~(3-4)で表される化合物である。
【0038】
【化10】
【0039】
式(3-1)及び式(3-2)で表される化合物は一般的にキラルピッチ長の温度依存性は負である。式(3-3)及び式(3-4)で表される化合物は一般的にキラルピッチ長の温度依存性は正である。また、式(3-1)及び式(3-3)で表される化合物は右旋性物質であり、式(3-2)及び式(3-4)で表される化合物は左旋性物質である。本発明における好適なキラル化合物の組み合わせは下表により与えられる。右旋性、左旋性は要求される表示素子の仕様にあわせて適宜選択することができるが、異なる選択反射波長に調整されたコレステリック液晶領域を隣接させる場合には、混色を避ける目的でそれぞれの旋光性を逆にしておくことが好ましい。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明のコレステリック液晶組成物における好ましい物性値について記載する。なお、Δn及びΔεについてはキラル化合物を添加する前のホスト液晶組成物の値である。
【0042】
好ましいΔnの範囲は0.10~0.40であり、より好ましくは0.15~0.35であり、特に好ましくは0.20~0.30である。
【0043】
好ましいΔεの範囲は10~50であり、より好ましくは15~45であり、特に好ましくは20~40である。
【0044】
好ましいTniの範囲は60~120℃であり、より好ましくは70~110℃であり、特に好ましくは80~110℃である。
【0045】
フロー粘性は小さいほど好ましくその下限は特に制限されないが、100mPa・s以下であれば実用上十分な応答速度を達成できる。
【0046】
本発明のコレステリック液晶組成物には、必要に応じて更に添加剤を含むことができる。例えば、外部刺激に対する安定性を高める目的でUV吸収剤や酸化防止剤、HALS等を添加することができ、構造は特に制限されないが、一般的に液晶組成物への添加が公知である種々の化合物、例えばベンゾトリアゾール系UV吸収剤やヒンダードフェノール系参加防止剤を用いることができる。また、更には、コレステリック液晶相の固定化を目的とした種々の重合性化合物を含むこともできる。この場合、重合性化合物は、硬化前の段階では液晶性を示す物質であることが好ましい。これを紫外線照射、あるいは加熱等によって重合、硬化して、流動性が無く外力によって配向形態に変化を生じない状態に変化した層にすることもできる。
【実施例
【0047】
実施例1に記載のコレステリック液晶を調整し、各種物性値及び選択反射波長の温度依存性を測定した。
【0048】
以下の実施例及び比較例の組成物は各化合物を表中の割合で含有し、含有量は「質量%」で記載した。実施例において化合物の記載について以下の略号を用いる。
(環構造)
【0049】
【化11】
【0050】
特に断りがない限り、トランス体を表す。
(側鎖構造及び連結構造)
【0051】
【表2】
【0052】
(物性値)
透明点(℃):組成物が等方相へ転移する温度(Tni)
融点(℃) :組成物が固相等からコレステリック相へ復元する温度
Δn :ホスト液晶組成物の25℃、589nmにおける屈折率異方性
Δε :ホスト液晶組成物の25℃、1kHzにおける誘電率異方性
η(mPa・s):キラル添加後の20℃におけるフロー粘性
Vth(V) :ホスト液晶組成物の25℃におけるTNセルでの閾値電圧
実施例1及び比較例1の組成物を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
各組成物の物性値を以下に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例1のコレステリック液晶組成物は、比較例1のコレステリック液晶組成物と比較して、融点が低く(=液晶温度範囲が広く)、粘性(η)が小さく、より低電圧駆動が可能であり、更にセル選択反射波長の温度依存性が小さく、表示素子用コレステリック材料としてより適していることがわかる。ここで、実施例1及び比較例1のコレステリック液晶組成物をガラスセルに注入して0℃から50℃に温度を変化させてその色味変化を目視で観察したところ、実施例1の組成物を注入したセルは変化がなかったのに対し、比較例1の組成物を注入したセルは温度上昇に伴い色味が変化した。さらに、実施例1と比較例1の組成物で低温保存安定性を比較したところ、比較例1の組成物は-20℃で48時間後に析出が見られたのに対し、実施例1の組成物は240時間経過時点でも液晶相を維持しており、保存安定性にも優れることがわかった。
【0057】
実施例1と同様に、下記のホスト液晶組成物A及びBを調製し、物性値を測定した。また、それらホスト液晶組成物100質量部に対し、キラル化合物として式(3-1)表される化合物を1.6質量部及び式(3-3)で表される化合物を2.0質量部添加して、25℃の選択反射波長が540nm程度になるようコレステリック液晶組成物を調製した。
【0058】
【表5】
【0059】
ホスト液晶組成物Aを用いた実施例2及びホスト液晶組成物Bを用いた実施例3は、実施例1と同様に、液晶温度範囲が広く、粘性が低く、低電圧駆動が可能であり、選択反射波長の温度依存性が小さく(1nm/℃以下)、低温保存安定性に優れ、セル化した際に色目の温度変化が極めて小さいコレステリック液晶表示素子が得られた。