(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物、及び有機無機複合ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
C08L 33/26 20060101AFI20221129BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20221129BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20221129BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08L33/26
C08F2/44 A
C08F220/56
C08K9/04
(21)【出願番号】P 2018098759
(22)【出願日】2018-05-23
【審査請求日】2021-03-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】武久 敢
(72)【発明者】
【氏名】神崎 満幸
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176006(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046127(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158349(WO,A1)
【文献】特開2017-105154(JP,A)
【文献】特開2006-028446(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164003(WO,A1)
【文献】特開2011-153174(JP,A)
【文献】特開2009-149759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 2/00-2/60
C08F 6/00-246/00
C08F 251/00-283/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機モノマー、ホスホン酸変性ヘクトライト、水、及び揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm
2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm
2・hr・60℃・1atm以下)である低揮発性溶媒を含有する有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物であって、水と前記低揮発性溶媒との質量比(水/低揮発性溶媒)が60/40~20/80であり、
前記水溶性有機モノマーが、多官能モノマー、及び、前記多官能モノマー以外の(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーを含むものであり、前記水溶性有機モノマー中の多官能モノマーが、0.01~0.5質量%であることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項2】
請求項
1記載の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物の反応物であることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項3】
JIS K6251:2010に準拠して測定される破断強度が、0.3MPa以上である請求項
2記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物、及び有機無機複合ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルとは、液体と固体の中間の性質を有するものであり、水などの溶媒中に有機高分子などの物質が三次元網目を構成して、安定な状態となっているものである。特に、溶媒が水であるものは、ヒドロゲルと呼んでおり、医療、食品,スポーツ関連などの機能材料としての用途開発が行われてきた。特に均一な透明性、強靱な力学物性、吸水性、生体適合性等を持たせるために、様々な材料との複合化や、架橋構造の工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目の中に水が包含されている有機無機複合ヒドロゲルに係る発明が記載されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の有機無機複合ヒドロゲルによれば、95%以上の光透過性、乾燥質量に対して10倍以上の吸水性、及び10倍以上の延伸ができることが記載されている。
【0004】
しかしながら、該ヒドロゲルは、大気開放条件下で水が蒸散することにより、最終的に脆い材料へと変化する問題があった。これに対し、水溶性有機高分子、水膨潤性粘土鉱物及び低揮発性媒体を含む有機無機複合高分子ゲルが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、該高分子ゲルは基材密着性が不十分である上、製造工程が複雑であり、各種用途への適用が困難であった。
【0005】
そこで、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の力学物性を安定して保持できるヒドロゲルが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-158634号公報
【文献】特開2006-28446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の各種物性に優れる有機無機複合ヒドロゲルが得られる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、水溶性有機モノマー、ホスホン酸変性ヘクトライト、水、及び低揮発性溶媒を含有する特定の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物を使用することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、水溶性有機モノマー、ホスホン酸変性ヘクトライト、水、及び揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm2・hr・60℃・1atm以下)である低揮発性溶媒を含有する有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物であって、水と前記低揮発性溶媒との質量比(水/低揮発性溶媒)が60/40~20/80であることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、保存安定性に優れ、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の各種物性に優れた有機無機ヒドロゲルを得られることから、土木工事現場等の各種工業用途へ適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、水溶性有機モノマー、ホスホン酸変性ヘクトライト、水、及び揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm2・hr・60℃・1atm以下)である低揮発性溶媒を含有するものであって、水と低揮発性溶媒との質量比(水/低揮発性溶媒)が60/40~20/80であるものである。
【0012】
前記水溶性有機モノマーとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマー、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
【0013】
なお、本発明において、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドとメタアクリルアミドの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイルオキシ」とは、アクリロイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルモノマー」とは、アクリルモノマーとメタクリルモノマーの一方又は両方をいう。
【0014】
前記(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0015】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
前記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、溶解性及び得られる有機無機複合ヒドロゲルの基材付着性及び力学物性の観点から、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーを用いることが好ましく、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリンを用いることがより好ましく、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリンを用いることがさらに好ましく、重合が進行しやすい観点から、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。
【0018】
また、有機無機複合ヒドロゲルの破断強度等の力学物性がより向上することから、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーを併用することが好ましく、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドを併用することがより好ましい。
【0019】
前記多官能モノマーの使用量は、有機無機複合ヒドロゲルの密着性及び破断強度等の力学物性の観点から、原料モノマー中、0.01~0.5質量%の範囲が好ましく、0.03~0.3質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
なお、上述の水溶性有機モノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、重合体の原料モノマーとして、必要に応じて、上記水溶性有機モノマー以外のモノマーを併用してもよい。
【0022】
前記ホスホン酸変性ヘクトライトは、上記水溶性有機モノマーの重合体とともに三次元網目構造を形成し、有機無機複合ヒドロゲルの構成要素となる。
【0023】
前記ホスホン酸変性ヘクトライトとしては、例えば、ピロリン酸変性ヘクトライト、エチドロン酸変性ヘクトライト、アレンドロン酸変性ヘクトライト、メチレンジホスホン酸変性ヘクトライト、フィチン酸変性ヘクトライト等を用いることができる。これらのホスホン酸変性ヘクトライトは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記分散液は、前記ホスホン酸変性ヘクトライトを使用することで、保存安定性に優れたものとなるが、保存安定性を損なわない範囲において、その他の水膨潤性粘土鉱物を含有することもできる。
【0025】
前記低揮発性溶媒としては、揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm2・hr・60℃・1atm以下)であるものが用いられるが、好ましくは0.05g以下、より好ましくは0.01g以下のものが用いられる。具体的には、水と混和しやすい溶媒が好ましいことからグリセリン(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、ジグリセリン(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、エチレングリコール(0.01g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、プロピレングリコール(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、ポリエチレングリコール(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)等の多価アルコールが好ましく、グリセリン、ジグリセリンがより好ましい。これらの低揮発性溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの低揮発性溶媒は、本発明の有機無機複合ヒドロゲルに均一に含まれることが望ましい。
【0026】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の水溶性有機モノマーの含有量は、1~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。水溶性有機モノマーの含有量が1質量%以上であると、力学物性に優れるヒドロゲルを得ることができることから好ましい。一方、水溶性有機モノマーの含有量が50質量%以下であると、組成物の調製が容易にできることから好ましい。
【0027】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中のホスホン酸変性ヘクトライトの含有量は、得られるヒドロゲルの力学物性がより向上することから、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。一方、組成物の粘度上昇をより抑制できることから、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の水と前記低揮発性溶媒との質量比(水/低揮発性溶媒)は、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の各種物性に優れる有機無機ヒドロゲルが得られることから、60/40~20/80であることが重要であり、50/50~30/70であることが好ましい。
【0029】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、例えば、前記水溶性有機モノマー、前記ホスホン酸変性ヘクトライト、水及び低揮発性溶媒を混合することにより、容易に得ることができる。
【0030】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法としては、簡便に三次元網目構造を有する有機無機複合ヒドロゲルが得られることから、前記有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物と、重合開始剤と、重合促進剤とを含む分散液中で、水溶性有機モノマーを重合させる方法が好ましい。得られた水溶性有機モノマーの重合体はホスホン酸変性ヘクトライトとともに三次元網目構造を形成し、有機無機複合ヒドロゲルの構成要素となる。
【0031】
前記重合開始剤としては、特に制限されないが、水溶性の過酸化物、水溶性のアゾ化合物等が挙げられる。
【0032】
前記水溶性の過酸化物としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、t-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0033】
前記水溶性のアゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、前記ホスホン酸変性ヘクトライトとの相互作用の観点から、水溶性の過酸化物を用いることが好ましく、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを用いることがより好ましく、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いることがさらに好ましい。
【0035】
なお、前記重合開始剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記分散液中の前記水溶性有機モノマーに対する前記重合開始剤のモル比(重合開始剤/水溶性有機モノマー)は、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02~0.1であり、さらに好ましくは0.04~0.1である。
【0037】
前記分散液中の重合開始剤の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましい。重合開始剤の含有量が0.1質量%以上であると、空気雰囲気下でも有機モノマーの重合が可能となることから好ましい。一方、重合開始剤の含有量が10質量%以下であると、分散液が重合前に凝集せずに使用することができて、取扱性が向上することから好ましい。
【0038】
前記重合促進剤としては、例えば、3級アミン化合物、チオ硫酸塩、アスコルビン酸類等が挙げられる。
【0039】
前記3級アミン化合物としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、3-ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0040】
前記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0041】
前記アスコルビン酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウムが挙げられる。
【0042】
これらのうち、前記ホスホン酸変性ヘクトライトとの親和性及び相互作用の観点から、3級アミン化合物を用いることが好ましく、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0043】
なお、前記重合促進剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
重合促進剤を用いる場合における前記分散液中の重合促進剤の含有量は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。重合促進剤の含有量が0.01質量%以上であると、得られるヒドロゲルの有機モノマーの合成を効率よく促進できることから好ましい。一方、重合促進剤の含有量が1質量%以下であると、分散液が重合前に凝集せずに使用することができて、取扱性が向上することから好ましい。
【0045】
前記分散液は、必要に応じて、上記以外のその他の有機溶媒、有機架橋剤、防腐剤、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。
【0046】
前記その他の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等のアルコール化合物;エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル化合物;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物などが挙げられる。
【0047】
これらの中でも、前記ホスホン酸変性ヘクトライトの分散性の観点から、アルコール化合物を用いることが好ましく、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールを用いることがより好ましく、メタノール、エタノールを用いることがさらに好ましい。
【0048】
なお、これらのその他の有機溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
合わせて用いてもよい。
【0049】
前記分散液の調製方法としては、例えば、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物、前記重合開始剤、前記重合促進剤等を一括で混合する方法;有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物と、前記重合開始剤を含有する溶液と、前記重合促進剤を含有する溶液を別の分散液又は溶液として調製し、使用直前に混合する多液混合方法等が挙げられるが、分散性、保存安定性、粘度制御等の観点から、多液混合方法が好ましい。
【0050】
前記重合開始剤を含有する溶液としては、例えば、前記重合開始剤と水とを混合した水溶液等が挙げられる。
【0051】
前記重合促進剤を含有する溶液としては、例えば、前記重合促進剤と前記低揮発性溶媒とを混合した溶液等が挙げられる。
【0052】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、前記分散液中で、前記水溶性有機モノマーを重合させることにより得られるが、重合方法については、特に制限されず、公知の方法によって行うことができる。具体的には、加熱や紫外線照射によるラジカル重合、レドックス反応を利用したラジカル重合等が挙げられる。
【0053】
重合温度としては、10~80℃であることが好ましく、20~80℃であることがより好ましい。重合温度が10℃以上であると、ラジカル反応が連鎖的に進行できることから好ましい。一方、重合温度が80℃以下であると、分散液中に含まれる水が沸騰せずに重合できることから好ましい。
【0054】
重合時間としては、前記重合開始剤や前記重合促進剤の種類によって異なるが、数十秒~24時間の間で実施される。特に、加熱やレドックスを利用するラジカル重合の場合は、1~24時間であることが好ましく、5~24時間であることがより好ましい。重合時間が1時間以上であると、前記水膨潤性粘土鉱物と前記水溶性有機モノマーの重合物が三次元網目を形成できることから好ましい。一方、重合反応は24時間以内にほぼ完了するので、重合時間は24時間以下が好ましい。
【0055】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、コンクリート構造体用充填材等の工業材料として有用であり、コンクリート構造体にかかる水圧によって破壊または剥離しないことから、JIS K6251:2010に準拠して測定される破断強度が、0.3MPa以上であることが好ましい。
【0056】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の力学物性に優れることから、各種工業材料に用いることができる。例えば、トンネル、道路、橋梁、軌道、ビル、護岸、上下水道等のコンクリート構造物の充填材として、また、それらの補修材として用いることができる。
【0057】
本発明のコンクリート構造体用充填材の製造方法としては、複雑形状部等にも容易に充填することができ、土木工事現場や建築工事現場等での作業性がより向上することから、前記分散液をコンクリート構造体の間隙又は表面上に注入し、間隙内又は表面上で前記有機無機複合ヒドロゲルを生成させる方法が好ましい。
【0058】
本発明のコンクリート構造体用充填材は、コンクリートとの親和性により毛細管現象で多孔質に入り密着する。また、湿潤面では、その高い吸水性から濃度勾配を平準化するように多孔質に入り密着すると考えられる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0060】
(実施例1)
平底ガラス容器に、純水40g、精製グリセリン63g、ホスホン酸変性合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトRDS」)4.8g、ジメチルアクリルアミド(以下、「DMAA」と略記する。)20g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを入れて、撹拌により均一透明な有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)を調製した。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)の外観は、均一な薄い白色であり、特に凝集物は見られなかった。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)を水温25℃恒温槽に保持した後の粘度をB型粘度計(東機産業株式会社製「VISCOMETER TV-20」)を用いて測定したところ、50mPa・sであった。
次いで、別の平底ガラス容器に精製グリセリン12.6g、テトラメチルエチレンジアミン(以下、「TEMED」と略記する。)80μLを入れて撹拌し、均一なTEMED溶液を調製した。
200mLのガラスビーカーに前記有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)を全量入れ、そこに過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」と略記する。)0.5gを入れて、溶解するまで撹拌した。さらに上記で調製したTEMED溶液を加えていき、均一に混合するまで撹拌を続け、分散液(1)を調製した。分散液(1)を調製後、直ちに厚さ5mmのガラス板を2mmのスペーサーを介して2枚合わせたものの2mmの隙間に流延し、室温でそのまま24時間静置して、厚さ2mmの有機無機複合ヒドロゲル(1)を製造した。24時間後に流延した液体の状態を確認したところ、均一で無色透明の有機無機複合ヒドロゲル(1)のシートを得た。
【0061】
[質量変化率の評価]
上記で作製した有機無機複合ヒドロゲル(1)のシートを25℃恒温室で1ヶ月間静置し、質量変化率(%)を測定した。
質量変化率(%)=(W2-W1)/W1×100(%)
W1:1ヶ月間静置前のシートの質量
W2:1ヶ月間静置後のシートの質量
【0062】
[有機無機複合ヒドロゲルの破断強度の評価]
上記で作製した有機無機複合ヒドロゲル(1)のシートを用いて、JIS K 6251:2010の試験方法に準じて、引張試験を実施し、破断強度を評価した。引張試験の試料は、JIS3号のダンベル形状とした。引張試験の条件は、引張試験機(オートグラフAG-10KNX、株式会社島津製作所製)を用いて、23℃、引張速度500mm/分として、試料が破断するまで延伸した。
【0063】
[モルタル-ゲル-モルタル構造体の作製]
モルタル平板(50mm×50mm×10mm)2枚を室温にて、あらかじめ24時間水に浸漬しておき、取り出した後に表面に付着した水滴を軽く拭き取った。この2枚のモルタル板を50mm×50mmの面同士が平行になるように並べて、その間に12mm幅のポリプロピレン製スペーサーを2個挿入した。2個のスペーサーの距離を12mm開け、ヒドロゲルを充填する空間を作製して、モルタル板とスペーサー全体をアルミテープで固定した。次いで、上記で調製した分散液(1)110gに上記で調製したTEMED水溶液を全量混合し、十分に撹拌した後、2枚のモルタル間に充填して24時間静置し、コンクリート構造体用充填材(1)、及びモルタル-ゲル-モルタル構造体(1)を得た。
【0064】
[湿潤面付着性の評価]
上記で得た構造体(1)を用いてJIS A 1439:2010建築用シーリング剤の試験方法に準じて、引張試験を実施し、破断強度により、湿潤面付着性を評価した。
【0065】
(実施例2)
実施例1で用いたN,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトアクリレート4EG-A」)0.05gに変更した以外は実施例1と同様にして、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(2)、分散液(2)、有機無機複合ヒドロゲル(2)のシート、コンクリート構造体用充填材(2)、及びモルタル-ゲル-モルタル構造体(2)を得た。有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(2)の粘度は200mPa・sであり、有機無機複合ヒドロゲル(2)のシートは均一で無色透明であった。
【0066】
(比較例1)
平底ガラス容器に、純水40mL、精製グリセリン63g、合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトRD」)4.8g、DMAA20g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを入れて、撹拌したところ、かなり高粘度となりラポナイトRDの分散がやや不均一な有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)の粘度は5000mPa・sであった。
実施例1の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)を、比較用有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、分散液(R1)、有機無機複合ヒドロゲル(R1)のシート、コンクリート構造体用充填材(R1)、及びモルタル-ゲル-モルタル構造体(R1)を得た。有機無機複合ヒドロゲルシート(R1)は不均一で白濁していた。
【0067】
実施例1~2及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
実施例1の本発明のコンクリート構造体用充填材は、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度に優れることが確認された。
【0070】
一方、比較例1はホスホン酸ヘクトライトの代わりに、合成ヘクトライトを用いた例であるが、ヒドロゲル前駆体を調製中に合成ヘクトライトの凝集が起こり、そのため均一な組成の有機無機複合ヒドロゲルを得ることが出来なかった。