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特許7183765硫酸ニッケル溶液の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】硫酸ニッケル溶液の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/10 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
C01G53/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018237864
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100519
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 人士
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067483(JP,A)
【文献】特開2014-144877(JP,A)
【文献】特開昭60-075536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00;49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、
浸出槽にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る第1溶解工程と、
浸出調整槽に前記一次硫酸ニッケル溶液を投入すると共に新たにニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で新たに投入されたニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る第2溶解工程を含む
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項2】
前記浸出槽における前記一次硫酸ニッケル溶液のフリー硫酸濃度を60~80g/Lとする
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項3】
前記浸出槽における前記一次硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度を40~110g/Lとする
ことを特徴とする請求項1または2記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項4】
前記浸出調整槽における前記硫酸ニッケル溶液のpH値(25℃換算)を0.5~3とする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項5】
前記第1溶解工程におけるニッケルブリケットの供給速度を、37~47kg/h/mとし、前記第2溶解工程におけるニッケルブリケットの供給速度を、18~28kg/h/mとする
ことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項6】
前記第2溶解工程における硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHを測定し、該ニッケル濃度と該pHに基づいて前記第1溶解工程における硫酸及び水の供給量を制御する
ことを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項7】
ニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る浸出槽と、
前記一次硫酸ニッケル溶液と新たにニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で前記ニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る浸出調整槽を具備する
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶液の製造装置。
【請求項8】
前記浸出調整槽における硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHを測定する測定手段と、
前記浸出調整槽の硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHに基づいて前記浸出槽に供給する硫酸及び水の供給量を制御する制御手段を具備する
ことを特徴とする請求項7記載の硫酸ニッケル溶液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケル溶液の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0003】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。
このため、携帯機器用の小型二次電池や、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池について、正極材料のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0004】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。
【0005】
リチウムニッケル複合酸化物を製造するプロセスにおいて、ニッケル原料は主に硫酸ニッケルが用いられる。硫酸ニッケルは、原料であるニッケルを硫酸で溶解して硫酸ニッケル溶液の形態にするのが一般的である。従って、硫酸ニッケル溶液を大量に、いかに低コストで用意するかがリチウムニッケル複合酸化物を製造する上で大きな課題となっている。
【0006】
特許文献1には、ニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケルを製造する方法が開示されている。この方法は、ニッケル粉を焼結したブリケットを硫酸で溶解して硫酸ニッケル溶液を得るものであるが、これを実際の工場に適用した場合、バッチ処理であるため、原料投入、溶解、液抜きなどのサイクルを繰り返す必要がある。プロセスは単純である一方、溶解していない時間も存在するため、装置あたりの処理量が小さいという問題があった。
【0007】
とくに問題となるのがニッケルの溶解速度である。特許文献1にあるように、フリー硫酸が低濃度である環境ではニッケルの溶解速度が遅く、単純な連続溶解槽では、未溶解のニッケルブリケットが蓄積していくばかりで、高濃度のニッケル溶液が得られない。槽を大きくして滞留時間をかせぐと、ある程度の濃度には到達するものの、処理量を得るために大きなスペース、装置が必要となり、初期投資が膨らむことで、連続化のメリットがなくなってしまう。
【0008】
さらに、温度を上げて溶解することから、溶解槽がバッチごとに高温、常温環境を繰り返すこととなり、熱衝撃とそれにともなう装置劣化を考慮しなければならない。具体的には、点検頻度の増加や、予防保全で装置を交換するなど、ランニング費用の面でも好ましいプロセスとは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-67483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、硫酸ニッケルの装置あたりの処理量を増大させるとともに、装置寿命を延ばせる硫酸ニッケル溶液の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、浸出槽にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る第1溶解工程と、浸出調整槽に前記一次硫酸ニッケル溶液を投入すると共に新たにニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で新たに投入されたニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る第2溶解工程を含むことを特徴とする。
第2発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、第1発明において、前記浸出槽における前記一次硫酸ニッケル溶液のフリー硫酸濃度を60~80g/Lとすることを特徴とする。
第3発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記浸出槽における前記一次硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度を40~110g/Lとすることを特徴とする。
第4発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記浸出調整槽における前記硫酸ニッケル溶液のpH値(25℃換算)を0.5~3とすることを特徴とする。
第5発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、第1,第2,第3発明または第4発明において、前記第1溶解工程におけるニッケルブリケットの供給速度を、37~47kg/h/mとし、前記第2溶解工程におけるニッケルブリケットの供給速度を、18~28kg/h/mとすることを特徴とする。
第6発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、第1,第2,第3,第4発明または第5発明において、前記第2溶解工程における硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHを測定し、該ニッケル濃度と該pHに基づいて前記第1溶解工程における硫酸及び水の供給量を制御することを特徴とする。
第7発明の硫酸ニッケル溶液の製造装置は、ニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る浸出槽と、前記一次硫酸ニッケル溶液と新たにニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で前記ニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る浸出調整槽を具備することを特徴とする。
第8発明の硫酸ニッケル溶液の製造装置は、第7発明において、前記浸出調整槽における硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHを測定する測定手段と、前記浸出調整槽の硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度とpHに基づいて前記浸出槽に供給する硫酸及び水の供給量を制御する制御手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、浸出槽(1槽目)を高フリー硫酸濃度として、多くのニッケルブリケットを溶解すると共に、浸出調整槽(2槽目)では浸出槽において余剰であったフリー硫酸だけで少量のニッケルブリケットを溶解して目的濃度のニッケル溶液を得ることができる。つまり、浸出調整槽にはニッケル濃度を上げて、フリー硫酸濃度を下げるという濃度調整槽的な役割を持たせており、浸出槽には硫酸と水を供給することで、滞留時間を大きくすることなく、また、装置を無駄に大きくすることなく、連続溶解を実現できる。このため装置あたりの処理量を増大させるとともに、バッチ処理の場合の熱衝撃をなくして、装置寿命を延ばすことができる。
第2発明によれば、短時間に多くのニッケルを溶解することができ、浸出槽1におけるフリー硫酸量が増え、ニッケルブリケットの溶解を促進させることができる。
第3発明によれば、目的濃度のニッケル溶液となり、かつその後の工程で硫酸ニッケルの一部が再結晶化して配管閉塞を起こすこともない。
第4発明によれば、フリー硫酸濃度とニッケルブリケットの槽内滞留量が妥当なものとなる。
第5発明によれば、溶解速度の大きい浸出槽と小さい浸出調整槽が、この供給比であると各槽内のニッケルブリケット滞留量を均等にできる。
第6発明によれば、第2溶解工程の結果に基づいて第1溶解工程を制御するので、安定して所定濃度のニッケル溶液を得ることができ、後工程のリチウムニッケル複合酸化物を製造するプロセスにおいて合理的な原料を得ることができる。
第7発明によれば、浸出槽(1槽目)を高フリー硫酸濃度として、多くのニッケルブリケットを溶解すると共に、浸出調整槽(2槽目)では浸出槽において余剰であったフリー硫酸だけで少量のニッケルブリケットを溶解して目的濃度のニッケル溶液を得る操業が可能となる。そのため、浸出調整槽にはニッケル濃度を上げて、フリー硫酸濃度を下げるという濃度調整槽的な役割を果たさせ、浸出槽には硫酸と水を供給することで、滞留時間を大きくすることなく、また、装置を無駄に大きくすることなく連続溶解を実現できる。このため装置あたりの処理量を増大させるとともに、バッチ処理の場合の熱衝撃をなくして、装置寿命を延ばすことができる。
第8発明によれば、第2溶解工程の結果に基づいて第1溶解工程を制御するので、安定して所定濃度のニッケル溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る硫酸ニッケル溶液の製造方法を示す工程図である。
図2】本発明の一実施形態に係る製造装置の説明図である。
図3図2に示す製造装置に適用したプロセス制御系の説明図である。
図4図4のプロセス制御を実行した結果を示すグラフであり、(A)図は浸出槽1の結果を示し、(B)図は浸出調整槽2の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下の順序で図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0015】
(製造方法)
本発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法を図1に基づき説明する。
本発明の製造方法は、第1溶解工程Iと第2溶解工程IIとからなり、これら各工程I、IIを連続操業することを特徴とする。
第1溶解工程Iは、浸出槽1にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る工程である。第2溶解工程IIは、浸出調整槽2に前記一次硫酸ニッケル溶液を投入すると共に新たにニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で新たに投入されたニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る工程である。
【0016】
本発明の製造方法では、第1溶解工程I用の溶解槽と第2溶解工程II用の溶解槽が2段直列につないで用いられる。そして、1槽目の浸出槽1を高フリー硫酸濃度として、多くのニッケルブリケットを溶解すると共に、2槽目の浸出調整槽2では浸出槽1において余剰であったフリー硫酸だけで少量のニッケルブリケットを溶解して目的濃度のニッケル溶液を得ることに特徴がある。
つまり、浸出調整槽2にはニッケル濃度を上げて、フリー硫酸濃度を下げるという濃度調整槽的な役割を持たせている。このため、硫酸と水は浸出槽1にだけ供給することで、滞留時間を大きくすることなく、また、装置を無駄に大きくすることなく、ニッケルを連続溶解することができるようにしている。
【0017】
本明細書でいうフリー硫酸とは、浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸を意味する。なお、フリー硫酸は遊離硫酸とも称される。
【0018】
(製造装置)
本発明に係る硫酸ニッケル溶液の製造装置は、図2に示すように、浸出槽1と浸出調整槽2の2個の溶解槽を直列に連結した構成である。
浸出槽1は、ニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得るための溶解槽である。そして、ニッケルブリケットを投入するためのパイプ13とこれに介装された計量バルブV3、硫酸を投入するためのパイプ11とこれに介装されたバルブV1、水を投入するためのパイプ12とこれに介装されたバルブV2を備えている。また、浸出槽1内の液を加温するための蒸気導入パイプ15を備えている。
【0019】
浸出調整槽2は、浸出槽1内の一次硫酸ニッケル溶液と新たなニッケルブリケットを投入し、一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸でニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得るための溶解槽である。
浸出調整槽2と前記浸出槽1との間には、浸出槽1内のフリー硫酸を多く含む硫酸ニッケル溶液を浸出調整槽2に導入するための送液パイプ21が接続され、この送液パイプ21にはポンプP1が介装されている。また、浸出調整槽2には、新たなニッケルブリケットを投入するためのパイプ24とこれに介装された計量バルブV4、浸出調整槽2内の液を加温するための蒸気導入パイプ25を備えている。
【0020】
浸出調整槽2には、得られた硫酸ニッケル溶液を系外に取り出すための送液パイプ31とこれに介装したポンプP2を備えている。送液パイプ31には熱交換器32が介装されている。この熱交換器32は、浸出調整槽2の液温が設定値(例えば後述する80℃)を超えないようにするため用いられている。
【0021】
つぎに、上記装置各部の機能と役割を図2を参酌しながら詳細に説明する。
(浸出槽1)
ニッケルブリケットの硫酸溶解は、まず、浸出槽1にニッケルブリケット、硫酸、および水を連続的に供給することにより行われる。槽内では以下の反応式により、水素を発生しながら、金属ニッケルが溶解していくこととなる。
Ni+HSO→NiSO+H・・・(式1)
供給する硫酸の量は、1槽目の浸出槽1に続く2槽目の浸出調整槽2の必要分も含まれるため、式1に記載されるニッケルと硫酸のモル比よりも多い量が供給されることとなる。浸出槽1においては、これが高フリー硫酸濃度維持する要因となり、大きな溶解速度を維持することが可能となる。
【0022】
溶解速度には温度による効果も大きいので、蒸気をパイプ15から供給して槽内温度を60~90℃に、好ましくは80℃に調整する。具体的には、槽内の測定温度に蒸気供給のオンオフスイッチを設定し、例えば78℃でオン、80℃でオフというようにしておくとよい。
【0023】
浸出槽1は、短時間に多くのニッケルを溶解することを目的とする。そのためには、浸出槽1に供給される硫酸量を多くすることが好ましい。硫酸量を多くすることで浸出槽1におけるフリー硫酸量が増え、ニッケルブリケットの溶解を促進させることができる。
ここで、浸出槽1における一次硫酸ニッケル溶液の硫酸濃度は60~80g/Lとすることが好ましい。硫酸濃度が60g/L以下であるとニッケルブリケットの溶解速度が遅くなる。また、硫酸濃度が80g/L以上であると、次の浸出調整槽2において、フリー硫酸の処理が困難となる。硫酸濃度が60~80g/Lの範囲内にあれば、浸出槽1内で短時間に多くのニッケルを溶解することができ、浸出調整槽2のフリー硫酸の処理に困ることもない。
【0024】
また、浸出槽1における一次硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度は40~110g/Lとすることが好ましい。ニッケル濃度が40g/L以下であると最終的に得られるニッケル溶液の濃度も高くすることができず、非効率的である。また、110g/L以上であると最終的に得られるニッケル溶液の濃度が高くなりすぎて、後工程での硫酸ニッケルの一部が再結晶化して配管閉塞を起こす場合がある。ニッケル濃度が40~110g/Lの範囲内であれば、目的濃度のニッケル溶液が得られ、かつその後の工程で硫酸ニッケルの一部が再結晶化して配管閉塞を起こすという欠点を避けることができる。ニッケル濃度のより好ましい範囲は60~100g/Lであり、この場合は上記効果がより得やすくとなる。
【0025】
(浸出調整槽2)
浸出調整槽2においては、浸出槽1から供給されるフリー硫酸を含んだ一次硫酸ニッケル溶液に、さらに新たなニッケルブリケットをパイプ24から供給することで、ニッケル濃度の増大とフリー硫酸濃度の低減を図る。フリー硫酸がゼロでは溶解速度が極小化してしまうため、ある程度の溶解速度が確保可能な程度のフリー硫酸濃度が必要である。
【0026】
フリー硫酸濃度は50g/L以下が好ましい。とくに好ましいのが、5g/Lである。フリー硫酸濃度が高ければ、溶解速度も速いため、2槽目におけるニッケルブリケット滞留量は少量にとどまる。一方、フリー硫酸濃度が小さくなると、溶解速度が遅くなるため、ニッケルブリケット滞留を増やすので、フリー硫酸濃度を上昇させることも必要となる。
このフリー硫酸濃度とニッケルブリケットの槽内滞留量を妥当なものとするため、プロセスパラメータであるpH値を0.5~3の間で設定することが好ましい。供給元の違いで、ニッケルブリケットの溶解速度には個体差はあるが、標準的なものでpH1程度が妥当な設定値と想定されている。
【0027】
浸出調整槽2におけるニッケル濃度は、槽内溶液の密度(または比重)の測定値から換算する。フリー硫酸濃度も槽内溶液密度(または比重)に影響するが、ニッケル濃度の方が影響として大きく、換算値の利用で問題はない。
硫酸ニッケルそのものの溶解度はさほど大きくなく、温度依存性を持っている。そして、溶解度以上の濃度となると、溶液中に結晶が析出し、配管閉塞などトラブルのもととなるため、目標のニッケル濃度は80~160g/L、好ましくは100~120g/Lとしている。これに対応する密度は1.2~1.4g/ccであり、これをプロセスパラメータとして設定し、浸出槽1へ供給する水の量を調節している。なお、密度と比重は単位が異なるが同じものなので、比重をプロセスパラメータとしてもよい。
【0028】
2槽目である浸出調整槽2には水の供給がないため、ブリケット溶解の反応熱がそのまま溶液の温度上昇につながることとなる。実際には発生する水素ガスに同伴する水蒸気や、水素濃度希釈のために槽内空間を流れる大流量の空気に同伴する水蒸気の気化熱が、温度を低下させる方に寄与するため、大きな温度上昇にはならないが、装置保護の観点から、熱交換器32を設置し、浸出調整槽2の液温が設定値(例えば80℃)を超えないようにしている。
【0029】
(プロセス制御)
前述した2段階のニッケル溶解方法において、安定的な操業を行うため、プロセス運転上のパラメータを、自動制御することが好ましい。
プロセス運転上のパラメータは、浸出槽1および浸出調整槽2へのニッケルブリケットの供給量、硫酸の供給量(浸出槽1のみ)、水の供給量(浸出槽1のみ)であり、目標とするのは得られる硫酸ニッケル溶液の高ニッケル濃度、低フリー硫酸濃度、そして所定の処理量である。
【0030】
図3に示すように浸出調整槽2には、溶解液のpH計測用のセンサS1およびニッケル濃度計測用のセンサS2が備えられている。センサS1は溶解液のpHを測定できるならどのようなセンサを用いてもよい。たとえば、電極浸漬型のpHセンサを用いるほか、溶液循環系統を形成してサンプリングしながら適宜のpHセンタで計測してもよい。センサS2はニッケル濃度を測定できるならどのようなセンサを用いてもよい。たとえば、硫酸ニッケル溶液の密度か比重を測定するもの、吸光光度法を用いたもの等を利用できる。
【0031】
本発明における制御手段は、浸出槽1に設けられた硫酸供給用のバルブV1、水供給用のバルブV2と前記センサS1,S2および制御部4により構成されている。
センサS1によって、計測されたpH値により制御部4内のPID制御部41により硫酸供給量を調整するバルブV1の開閉量が制御される。センサS2によって計測されたニッケル濃度により制御部4内のPID制御部42により水供給量を調整するバルブV2の開閉量が制御される。
【0032】
つぎに、図3に示す制御装置による制御方法を説明する。
図2に示す製造装置の安定運転中は浸出槽1および浸出調整槽2の槽内のニッケルブリケット滞留量が一定であることが見込まれるため、処理量に見合ったニッケルブリケット供給量が固定値として設定されることになる。溶解速度の大きい浸出槽1と、小さい浸出調整槽2では、当然ながら供給量に差をつけることとなるが、その比率は、各槽1,2内のニッケルブリケット滞留量を均等にすることが基準となる。具体的には浸出槽1では37~47kg/h/m、浸出調整槽2では18~28kg/h/mであることが好ましい。
【0033】
本発明の連続溶解は、硫酸濃度2段階連続溶解方式というべきものであるが、本方式において、安定して所定濃度のニッケル溶液を得るために、浸出調整槽2のニッケル溶液のニッケル濃度とpHを測定し、浸出槽1に供給される硫酸と水の制御を行うようにしている。
操業中のプロセス変動は不可避であるので、これにともない、硫酸と水の供給量の調節が必要となる。この場合、プロセス値への影響度合いから、浸出調整槽2のpH値(センサS1で計測される)で表わされるフリー硫酸濃度で硫酸供給量を、浸出調整槽2内のニッケル濃度(センサS2で計測される)で水の供給量を調節する。上記のように硫酸と水の供給量は浸出調整槽2のフリー硫酸濃度とニッケル濃度に依存して変動するが、それらの絶対量は槽容積に依存して決まることになる。
【0034】
上記のように、フリー硫酸濃度およびニッケル濃度は浸出調整槽2のプロセス値を測定し、これを基準に浸出槽1への供給流量が調整される。この制御は図3に示す制御装置4で実施されるが、浸出槽1の制御が浸出調整槽2での計測結果に反映されるには、時間遅れが存する。
【0035】
図3に示す制御系に通常のPID制御を適用した場合、制御にタイムラグが生じるため、単純なPID制御ではハンチングを起こし、安定操業できない。そこで本発明では、あらかじめ浸出槽1に供給される硫酸と水の供給量に上下限値を設定し、制御幅を設定することによりハンチングを抑えられるようにすることが好ましい。具体的には、目標濃度から計算される供給必要量にプラスマイナスの上下限を設定し、PID制御による調節流量が一定の幅内に収まるようにしておく。こうすることで、ニッケル濃度とフリー硫酸濃度を微小変動内に維持することが可能となり、最終的に貯液される製品の硫酸ニッケル溶液をほぼ一定濃度のものとすることができる。具体的には、平均的なマスバランスを考慮したフローシートの数値の+20%を上限、-20%を下限として設定する。これによりハンチングが小さくなり、得られる溶液の濃度変動を許容範囲におさめることができる。
【0036】
(本発明の利点)
従来技術である特許文献1に記載の硫酸ニッケル溶液製造方法はバッチ式であり、シンプルではあるものの、処理量に比較して装置が大型化し、熱衝撃により装置の劣化も速いものであった。これに対し、本発明の硫酸濃度2段階連続溶解方式は、同じ処理量を小型の装置で実現可能であり、熱衝撃もないので装置寿命の延長も図れる。
また、装置の小型化はメンテナンスを容易にできるので、運転コストを低下できる。
【0037】
本発明の製造装置を用いた製造方法では、運転の自由度が高いという利点もある。
たとえば、ニッケル濃度やフリー硫酸濃度も調節可能であり、プロセス変動に対応した濃度制御も可能である。運転実績を見ながら、処理量やブリケットの個体差に応じたフリー硫酸濃度を設定できるなどの柔軟性もあり、運転が容易という利点がある。
【実施例
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
実験は、図3の装置を模した机上シミュレーションで行った。
浸出槽1へのニッケルブリケット供給速度は、42kg/h/mであり、浸出調整槽2へのニッケルブリケット供給速度は、23kg/h/mとした。また、各槽1,2内のニッケルブリケット滞留を模擬し、あらかじめ適量のニッケルブリケットを投入しておいた。
【0040】
浸出槽1への硫酸の供給量は、浸出調整槽2内のpHに基づいて調整し、水の供給量は浸出調整槽2内のニッケル濃度によって調整した。
【0041】
図4の(A)図は浸出槽1のプロセスデータを示しており、(B)図は浸出調整槽2のプロセスデータを示している。
(B)図に示す、浸出調整槽2における比重とpHのそれぞれの計測値に基づいて、浸出槽1における硫酸流量と工水流量を調整したが、この制御は1次遅れであるため制御パラメータ(比重とpH)も制御結果(硫酸流量と工水流量)も波形を描いているが、それぞれの波形は規則正しいので、制御が適切に行われることを示している。
また、浸出槽1および浸出調整槽2における槽内溶液密度を示す比重も規則性のある波形で推移しているので、いずれの槽1,2にも適正なニッケル濃度を維持していると考えられる。なお、図4(A)において、硫酸流量と工水流量がやや右肩上りになっているのは、処理量と徐々に増加させたためであり、通常の操業では同じレベルで推移させることになる。
【0042】
本発明の製法と装置の効果をさらに説明する。ニッケルの溶解速度は、ニッケルとフリー硫酸の会合のしやすさと、その接触時間に依存するため、硫酸濃度を高めるか、もしくは槽を大きくして滞留時間を大きくすると、その処理量(ニッケル溶解量)を増大させることができる。しかし、浸出調整槽2のフリー硫酸濃度は上限があり、概ね60g/L程度のニッケル濃度上昇にとどまる。したがって、これ以上の溶解量を稼ぐには、装置を大型化して滞留時間を大きくするしか方法がない。ゆえに、硫酸による連続溶解を、硫酸濃度1種類、かつ溶解槽1槽でやろうとすると、かなり大型の設備にならざるを得ないことになる。
これに対し、本発明の2槽連続溶解方式では、一槽目で硫酸濃度を高めておけるので、各槽とも大きくすることなく硫酸連続溶解が可能となる。また、第2溶解工程の結果に基づいて第1溶解工程を制御するので、安定して所定濃度のニッケル溶液を得ることができ、後工程のリチウムニッケル複合酸化物を製造するプロセスにおいて合理的な原料を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の実行により、所定濃度の硫酸ニッケル溶液が得られるが、得られた硫酸ニッケル溶液はどのような用途にも利用できる。
電池材料等に用いられるニッケル酸リチウムを製造する場合は、処理量確保の観点から、硫酸ニッケル溶液中のニッケルは高濃度であり、フリー硫酸は低濃度であるほうが好ましいが、このような用途に本発明は最適である。
そして、本発明によれば、装置を無駄に大きくすることなく、必要な処理量が確保できる。
【符号の説明】
【0044】
1 浸出槽
2 浸出調整槽
4 制御部
11 パイプ
12 パイプ
13 パイプ
21 送液パイプ
V1 バルブ
V2 バルブ
V3 計量バルブ
S1 センサ
S2 センサ
P1 ポンプ
図1
図2
図3
図4