(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】鉱石スラリー移送処理プラント、及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20221129BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B1/00
(21)【出願番号】P 2019047576
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真伍
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133209(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048927(WO,A1)
【文献】特開2011-225908(JP,A)
【文献】特開2018-147007(JP,A)
【文献】特開昭63-139817(JP,A)
【文献】特開昭63-146110(JP,A)
【文献】特開2005-322762(JP,A)
【文献】特開2019-214010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化して得られる鉱石スラリーを高圧酸浸出設備に移送する鉱石スラリー移送処理プラントであって、
調整される鉱石スラリーを貯蔵する貯蔵タンクと、
前記鉱石スラリーが流れる上流側から下流側へと順に、第1のアイソレーションバルブと、移送ポンプと、第2のアイソレーションバルブとが設けられ、前記貯蔵タンクから供給される該鉱石スラリーを前記高圧酸浸出設備に移送する移送配管と、
を有する移送設備を2系列備え、
各系列の前記移送設備における前記移送配管は、本配管と、予備配管とより構成され、それぞれが前記貯蔵タンクに接続されており、
前記2系列の移送設備の間において、前記予備配管同士が、前記移送ポンプより下流側の位置で、系列連結配管により連結されている
鉱石スラリー移送処理プラント。
【請求項2】
前記系列連結配管は、各系列の前記移送設備における前記予備配管に、前記移送ポンプより下流側の位置であって、かつ、前記第2のアイソレーションバルブより上流側の位置で接続されている
請求項1に記載の鉱石スラリー移送処理プラント。
【請求項3】
各系列の前記移送設備における前記貯蔵タンクにはそれぞれ、前記鉱石スラリーを調整する調整タンクが接続されており、
各系列の前記調整タンクにて調整された前記鉱石スラリーは、相互の系列の前記移送設備における前記貯蔵タンクに供給可能となっている
請求項1又は2に記載の鉱石スラリー移送処理プラント。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法であって、
正常操業時には、各系列の前記移送設備において、前記貯蔵タンクから供給される前記鉱石スラリーを前記移送配管における前記本配管を通じて前記高圧酸浸出設備に移送し、
前記2系列の移送設備のいずれか一の系列に異常が発生した場合には、他の系列の前記移送設備において、前記移送配管の前記本配管を通じた前記鉱石スラリーの移送を維持したまま、前記予備配管から前記系列連結配管を介して、該一の系列の前記予備配管を通じて前記高圧酸浸出設備に前記鉱石スラリーを移送する
鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法。
【請求項5】
前記2系列の移送設備のいずれか一の系列の前記貯蔵タンクに異常が発生した場合、
前記一の系列の移送設備では、
前記本配管に設けられた前記第1のアイソレーションバルブ及び前記第2のアイソレーションバルブを閉状態とするとともに、前記予備配管に設けられた前記第2のアイソレーションバルブを開状態として、
前記系列連結配管を介して前記他の系列の移送設備から供給される前記鉱石スラリーを、前記予備配管を通じて前記高圧酸浸出設備に移送する
請求項4に記載の鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法。
【請求項6】
前記第1のアイソレーションバルブ及び前記第2のアイソレーションバルブのバルブ操作は、水を噴射して水洗した後に行う
請求項4又は5に記載の鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて使用される鉱石スラリー移送処理プラント及びその運転方法に関するものであり、特に、高い稼働率を維持することができるプラント及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法の一つとして、硫酸を用いた高圧酸浸出(High Pressure Acid Leach:HPAL)プロセスが知られている。このプロセスは、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬法である乾式製錬プロセスと異なり、高温下での酸化鉱石の還元や乾燥の工程がなく一貫して湿式工程で処理するため、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、ニッケル品位が50質量%~60質量%程度にまで濃縮されたニッケルとコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケルコバルト混合硫化物」とも称する)を得ることができ、ニッケルを高純度に精製できるという特徴がある。
【0003】
原料のニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出してニッケルを製品として回収する湿式製錬プロセスは、一般的には
図1に示すフローが実行される(各工程については後述する)。
【0004】
この湿式製錬プロセスにおける鉱石スラリー調整工程では、ニッケル酸化鉱石を湿式にて粉砕、篩別することによって、所定の粒度に調整された鉱石スラリーを得て、その鉱石スラリーを次工程である高圧酸浸出工程へ供給する。
【0005】
ここで、鉱石スラリー調整工程の処理において何らかのトラブルが発生した場合、鉱石スラリーの供給が滞ることになるため、高圧酸浸出工程での処理において硫酸添加を停止させる必要があった。
【0006】
例えば、特許文献1には、高圧酸浸出工程を除く他工程において比較的小規模なトラブルが発生した場合に、高圧酸浸出工程での処理が運転停止に追い込まれることを防止するための方法が提案されている。具体的に、特許文献1に記載の方法は、高圧酸浸出工程以外の工程で使用する設備におけるトラブル発生時間が所定時間を越えない場合には、高圧酸浸出設備の降温、降圧、再立ち上げを行うことなく浸出スラリーを高圧酸浸出設備内で自己循環させることを特徴とするものである。
【0007】
また、特許文献2には、同一プロセスの系列を複数備えたプラントにおいて、所定の工程における処理設備同士を配管で連結させることにより、一連の工程上での所定の工程における設備にトラブル等が発生した場合でも、操業効率の低下を最小とする技術が開示されており、実操業上大変有効な技術である。具体的に、特許文献2には、ユーティリティー、硫化水素、凝集剤、中和剤等の供給設備でのトラブルに対して、設備同士を配管で連結させてトラブルの発生している系列に供給することで、稼働率を向上させる方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの先行文献には、重大なトラブルが発生しやすい鉱石スラリー調整工程でのトラブルに対する解決方法についての開示や示唆はない。また、系列あたり100%の稼働率を確保するのは、困難である。なお、鉱石スラリー調整工程での重大なトラブルとは、例えば、鉱石スラリー貯蔵タンクの撹拌機やその電動機が故障する等して、復旧に長時間を要するトラブルが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-31341号公報
【文献】特開2011-225908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、鉱石スラリーを調整する工程での処理にトラブル等が発生した場合でも、その後の工程である高圧酸浸出工程での稼働を維持することができ、効率的に湿式製錬プロセスを実行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して得られる鉱石スラリーを高圧酸浸出設備に移送する鉱石スラリー移送処理プラントであって、調整される鉱石スラリーを貯蔵する貯蔵タンクと、前記鉱石スラリーが流れる上流側から下流側へと順に、第1のアイソレーションバルブと、移送ポンプと、第2のアイソレーションバルブとが設けられ、前記貯蔵タンクから供給される該鉱石スラリーを前記高圧酸浸出設備に移送する移送配管と、を有する移送設備を2系列備え、各系列の前記移送設備における前記移送配管は、本配管と、予備配管とより構成され、それぞれが前記貯蔵タンクに接続されており、前記2系列の移送設備の間において、前記予備配管同士が、前記移送ポンプより下流側の位置で、系列連結配管により連結されている、鉱石スラリー移送処理プラントである。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記系列連結配管は、各系列の前記移送設備における前記予備配管に、前記移送ポンプより下流側の位置であって、かつ、前記第2のアイソレーションバルブより上流側の位置で接続されている、鉱石スラリー移送処理プラントである。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、各系列の前記移送設備における前記貯蔵タンクにはそれぞれ、前記鉱石スラリーを調整する調整タンクが接続されており、各系列の前記調整タンクにて調整された前記鉱石スラリーは、相互の系列の前記移送設備における前記貯蔵タンクに供給可能となっている、鉱石スラリー移送処理プラントである。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法であって、正常操業時には、各系列の前記移送設備において、前記貯蔵タンクから供給される前記鉱石スラリーを、前記移送配管における前記本配管を通じて前記高圧酸浸出設備に移送し、前記2系列の移送設備のいずれか一の系列に異常が発生した場合には、他の系列の前記移送設備において、前記移送配管の前記本配管を通じた前記鉱石スラリーの移送を維持したまま、前記予備配管から前記系列連結配管を介して、該一の系列の前記予備配管を通じて前記高圧酸浸出設備に前記鉱石スラリーを移送する、鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記2系列の移送設備のいずれか一の系列の前記貯蔵タンクに異常が発生した場合、前記一の系列の移送設備では、前記本配管に設けられた前記第1のアイソレーションバルブ及び前記第2のアイソレーションバルブを閉状態とするとともに、前記予備配管に設けられた前記第2のアイソレーションバルブを開状態として、前記系列連結配管を介して前記他の系列の移送設備から供給される前記鉱石スラリーを、前記予備配管を通じて前記高圧酸浸出設備に移送する、鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記第1のアイソレーションバルブ及び前記第2のアイソレーションバルブのバルブ操作は、水を噴射して水洗した後に行う、鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉱石スラリーを調整する工程での処理にトラブル等が発生した場合でも、その後の工程である高圧酸浸出工程での処理の稼働を維持することができ、効率的に湿式製錬プロセスを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
【
図2】鉱石スラリー移送処理プラントの構成の一例を示す図である。
【
図3】鉱石スラリー移送処理プラントの構成図であり、一の系列の移送設備における貯蔵タンクに故障トラブルが発生した場合の運転の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
本発明に係る鉱石スラリー移送処理プラントは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル酸化鉱石を湿式にて粉砕、篩別することによってスラリー化して鉱石スラリーを調整する鉱石スラリー調整工程での処理に使用されるプラントである。
【0021】
ここで、鉱石スラリー移送処理プラントについての詳細説明に先立ち、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて概要を説明する。
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。工程図に示すように、湿式製錬プロセスは、子鉱石スラリーを調整する鉱石スラリー調整工程S1と、鉱石スラリーに対し浸出処理を施す高圧酸浸出工程S2と、得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程S3と、浸出液を中和して不純物を除去する中和工程S4と、中和終液に硫化処理を施してニッケルコバルト混合硫化物を得る硫化工程S5と、を有する。
【0022】
(1)鉱石スラリー調整工程
鉱石スラリー調整工程S1は、原料のニッケル酸化鉱石を湿式にて粉砕、篩別することによって、所定の粒度に調整した鉱石スラリーを得る工程である。
【0023】
ここで、ニッケル酸化鉱石としては、主に、リモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。
【0024】
鉱石スラリー調整工程S1での鉱石スラリーの調整は、例えばスラリー調整タンク内において行われる。調整タンクにて調整された鉱石スラリーは、貯蔵タンクに一時的に貯蔵され、その後所定の移送配管を通って、次工程の高圧酸浸出工程S2での処理が行われる設備(高圧酸浸出設備)へと移送される。鉱石スラリーの移送の制御について、後で詳述する。
【0025】
(2)高圧酸浸出工程
高圧酸浸出工程S2は、鉱石スラリーに硫酸を添加して220℃~280℃の温度下で、加圧しながら撹拌して、ニッケル及びコバルトを含有する浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する工程である。高圧酸浸出工程S2における処理は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を備えた高圧酸浸出設備にて行われる。
【0026】
より具体的には、高圧酸浸出工程S2では、原料スラリーを、加熱用耐圧容器(ヒータータンク)内で蒸気と混合することにより加熱し、続いて、加熱された原料スラリーを浸出用耐圧容器(オートクレーブ)内で蒸気等による高温高圧下で酸と混合することにより浸出し、浸出後には、減圧用耐圧容器(フラッシュベッセル)内で浸出後スラリーから水分を蒸気として分離回収することにより冷却する。
【0027】
(3)固液分離工程
固液分離工程S3は、高圧酸浸出工程S2での処理により生成した浸出スラリーに対して固液分離処理を施し、ニッケルやコバルト等を含む浸出液と、主としてヘマタイトを含む浸出残渣とを分離する工程である。固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤を用いてシックナー等の固液分離設備により行われる。なお、分離された浸出液は次工程の中和工程S4に移送され、一方で、浸出残渣はシックナーの底部から回収される。
【0028】
(4)中和工程
中和工程S4は、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和処理により、ニッケルやコバルト等の有価金属は中和後液に含まれ、鉄、アルミニウム等の不純物の大部分が中和澱物となる。中和剤としては、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等を用いることができ、浸出液の酸化を抑制しながらpHを1~4の範囲に調整することが好ましい。
【0029】
(5)硫化工程
硫化工程S5は、中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)と硫化後液とを得る工程である。具体的には、中和後液に対して硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、中和後液に含まれるニッケルやコバルトを硫化物の形態に硫化させる硫化反応を生じさせる。これにより、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの硫化物と、ニッケル濃度を低い水準で安定させた硫化後液(貧液)とを生成させる。なお、硫化処理により生成したニッケルコバルト混合硫化物のスラリーを沈降分離処理してニッケルコバルト混合硫化物をシックナー底部より分離回収する一方で、硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0030】
≪2.鉱石スラリー移送処理プラント≫
図2は、鉱石スラリー移送処理プラントの構成の一例を示す図である。この鉱石スラリー移送処理プラント(以下、単に「プラント」ともいう)1は、調整される鉱石スラリーを貯蔵する貯蔵タンク11と、鉱石スラリーを高圧酸浸出設備2に移送する移送配管12と、を有する移送設備10を2系列備えている。なお、本明細書において、2系列に関しては第1の系列をA系列、第2の系列をB系列とし、第1の系列の移送設備10を符号「10A」とし、第2の系列の移送設備10を符号「10B」としてそれぞれ区別する。また、各系列の移送設備10A,10Bに備わる貯蔵タンク11については貯蔵タンク11a,11bとし、移送配管12については移送配管12a,12bとする。
【0031】
また、移送設備10における移送配管12は、本配管21(21a,21b)と、予備配管22(22a,22b)との2つにより構成されている。本配管21と予備配管22のそれぞれは、貯蔵タンク11に接続されている。
【0032】
そして、2系列の移送設備10A,10Bの間においては、予備配管22a,22b同士が、所定の位置で、系列連結配管30により連結されている。
【0033】
[移送設備]
移送設備10は、上述したようにA系列とB系列の2系列(10A,10B)により構成されている。移送設備10は、貯蔵タンク11と、移送配管12とを有しており、貯蔵タンク11よりも上流側の設備である調整タンク40(40a,40b)により調整された鉱石スラリーを、高圧酸浸出設備2(2A,2B)に移送する。
【0034】
なお、高圧酸浸出設備2は、湿式製錬プロセスにおいて鉱石スラリー調整工程S1の次の工程である高圧酸浸出工程S2での浸出処理に使用される設備(浸出反応槽)であり、鉱石スラリーを収容して高温高圧下で硫酸を添加することにより、鉱石中に含まれるニッケルやコバルトを酸浸出させるものである。
【0035】
(貯蔵タンク)
貯蔵タンク11は、原料のニッケル酸化鉱石を鉱石スラリーに調整する調整タンク40から供給される鉱石スラリーを収容し、一時的に貯蔵するタンクである。
【0036】
貯蔵タンク11には、例えば、撹拌軸と撹拌羽根とからなる撹拌装置が設けられており、収容した鉱石スラリーを撹拌しながら貯蔵する。このように鉱石スラリーを撹拌しながら貯蔵することで、スラリー中の鉱石の沈降等を抑えることができる。
【0037】
ここで、貯蔵タンク11においては、例えば撹拌装置の故障等のトラブルが発生することがある。このようなトラブルが生じた場合、その貯蔵タンクにて貯蔵された鉱石スラリーの、次工程である高圧酸浸出工程S2における処理(高圧酸浸出設備2)への供給は停止される。これにより、高圧酸浸出工程S2での浸出率の低下を防いでいる。一方で、鉱石スラリーの供給停止は、浸出効率を著しく低下させ、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス全体の操業効率を低下させる。
【0038】
(移送配管)
移送配管12は、貯蔵タンク11にて貯蔵された鉱石スラリーを、高圧酸浸出の処理を行う高圧酸浸出設備2に供給する流路である。移送配管12では、貯蔵タンク11に接続された末端(上流側)から高圧酸浸出設備2に接続された末端(下流側)へと、鉱石スラリーが流れて供給される。
【0039】
移送配管12には、その上流側から下流側へと順に、第1のアイソレーションバルブ61と、移送ポンプ62と、第2のアイソレーションバルブ63とが設けられている。移送配管12の上流側から下流側に向かって、これらの機器(バルブやポンプ)が順番に並んで設置されていれば、各機器の間の距離等や大きさは特に限定されない。
【0040】
なお、移送設備10A,10Bの移送配管12a,12bのそれぞれに、第1のアイソレーションバルブ61と、移送ポンプ62と、第2のアイソレーションバルブ63とが設けられており、同様に、第1のアイソレーションバルブ61a,61b、移送ポンプ62a,62b、第2のアイソレーションバルブ63a,63bとして符号を区別する。
【0041】
・アイソレーションバルブ
アイソレーションバルブ61,63は、移送配管12における鉱石スラリーの流通を制御するものであり、流通の可否を制御するON/OFFバルブにより構成できる。アイソレーションバルブ61,63では、バルブ操作によって「開(ON)状態」と「閉(OFF)状態」の形態をとり、「開状態」によって鉱石スラリーの流通を可にし、「閉状態」によって鉱石スラリーの流通を否にする。
【0042】
第1のアイソレーションバルブ61は、移送配管12の上流側に設けられており、鉱石スラリーの移送配管12内に流通を制御するように作用する。また、第2のアイソレーションバルブ63は、移送配管12の下流側に設けられており、移送配管12を流通してきた鉱石スラリーのその後の流通、すなわち高圧酸浸出設備2への移送を制御するように作用する。
【0043】
・移送ポンプ
移送ポンプ62は、例えば定量ポンプ等により構成される。移送ポンプ62は、移送配管12内に鉱石スラリーを引き込んで流入させ、また、流入させた鉱石スラリーをその移送配管12を通じて下流側へ移送する。
【0044】
移送ポンプ62は、第1のアイソレーションバルブ61と、第2のアイソレーションバルブ63の間に位置するように設けられている。
【0045】
ここで、移送配管12は、メインの流通ラインである本配管21と、バックアップの流通ラインである予備配管22とにより構成されている。本配管21は、正常動作時に使用するメインラインである。予備配管22は、本配管21の定期的な点検や交換等によって使用不可の状態のときに使用するバックアップラインである。このように、本配管21と予備配管22とを備えることにより、その移送設備10からの鉱石スラリーの移送停止を防ぎ、操業効率の低下を抑制することができる。
【0046】
なお、A系列である移送設備10A、B系列である移送設備10Bのいずれにおいても、それぞれの移送配管12a,12bに、本配管21a,21b及び予備配管22a,22bが設けられている。
【0047】
[系列連結配管]
系列連結配管30は、2つの系列の移送設備10Aと移送設備10Bとの間を連結する配管である。系列連結配管30は、移送配管12aを構成する予備配管22aに一方の端部30e1を、移送配管12bを構成する予備配管22bに他方の端部30e2を接続させて、移送設備10Aと移送設備10Bとの間を連結する。
【0048】
詳しくは後述するが、この系列連結配管30は、2つの系列の移送設備10A,10Bを連結するとともに、この系列連結配管30を介した一方の系列の移送設備10(例えば10A)から他方の系列の移送設備10(例えば10B)への鉱石スラリーの供給を可能にする。また、この系列連結配管30を介した2系列の移送設備10A,10Bの相互での鉱石スラリーの供給は、各移送設備10A,10Bの予備配管22a,22bを利用したものであり、したがって、各移送設備10A,10Bにおいてバックアップラインである予備配管22a,22bが備えられていることにより奏する作用である。
【0049】
系列連結配管30は、各系列の移送設備10A,10Bの予備配管22a,22bと、移送ポンプ62a,62bが設けられた位置より下流側の位置で接続されている。これにより、一方の系列の移送設備10(例えば10A)から他方の系列の移送設備10(例えば10B)へ、系列連結配管30を介した鉱石スラリーの供給を実行するに際し、供給元の移送配管12(12a)における移送ポンプ62(62a)の作用によって有効に供給先の移送設備10(10B)に供給することができる。
【0050】
また、系列連結配管30は、上述のように移送ポンプ62a,62bが設けられた位置より下流側の位置であって、かつ、第2のアイソレーションバルブ63a,63bが設けられた位置より上流側の位置で接続されていることが好ましい。これにより、各移送設備10A,10Bの相互で系列連結配管30を介した鉱石スラリーの供給が行われたのち、供給先の移送設備10(例えば10B)の予備配管22(22b)を通じて高圧酸浸出設備2(2b)に鉱石スラリーを移送するに際して、第2のアイソレーションバルブ63(63b)によって移送の最終的な制御(ON/OFF)を行うことができる。
【0051】
[調整タンク]
調整タンク40は、鉱石スラリーを調整するタンクであり、湿式にて粉砕、篩別することによって、原料のニッケル酸化鉱石を所定の粒度からなる鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に調整する。調整タンク40にて調整された鉱石スラリーが、上述した移送設備10に供給され、その移送設備10を通じて高圧酸浸出設備2に移送されることになる。
【0052】
調整タンク40は、2系列の移送設備10A,10Bに対応するように系列ごとに設けられている。調整タンク40に関して、A系列である移送設備10Aに対応するものを調整タンク40Aとし、B系列である移送設備10Bに対応するものを調整タンク40Bとする。例えば、調整タンク40Aでは、そのタンク内で調整した鉱石スラリーを、供給配管41aを通じて移送設備10Aにおける貯蔵タンク11aに供給する。同様に、調整タンク40Bでは、そのタンク内で調整した鉱石スラリーを、供給配管41bを通じて移送設備10Bにおける貯蔵タンク11bに供給する。
【0053】
ここで、2系列ある調整タンク40(40A,40B)においては、供給配管41a,41b同士が連結配管42により連結されている。これにより、例えば、調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーを、連結配管42を介してB系列の移送設備10Bに供給することができる。また、調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーを、連結配管42を介してA系列の移送設備10Aに供給することができる。なお、図示しないが、調整タンク40A,40Bに接続された供給配管41a,41bと連結配管42との接続箇所にバルブを設ける等して、調整タンク40(40A,40B)からの鉱石スラリーの供給先を制御することができる。
【0054】
≪3.鉱石スラリー移送処理プラントの運転方法(鉱石スラリーの移送方法)≫
次に、上述した構成を備える鉱石スラリー移送処理プラント1の運転方法について説明する。
図1の工程図で示したように、鉱石スラリー調整工程S1にて調整された鉱石スラリーは、高圧酸浸出設備2に移送されて、高圧酸浸出工程S2における処理に付される。上述したように、鉱石スラリー調整工程S1にて調整された鉱石スラリーは、高圧酸浸出設備2(例えば耐圧容器からなるヒータータンクを含む)にポンプを介して装入される。
【0055】
[通常(正常)操業時における運転]
プラント1は、調整される鉱石スラリーを貯蔵する貯蔵タンク11と、鉱石スラリーを高圧酸浸出設備2に移送する移送配管12と、を有する移送設備10を2系列(10A,10B)備えている。また、移送設備10における移送配管12は、本配管21(21a,21b)と、予備配管22(22a,22b)との2つにより構成されている。
【0056】
図2を用いて通常操業時の運転の流れを説明する。通常操業時には、プラント1に備えられている移送設備10A,10Bのそれぞれにおいて、貯蔵タンク11a,11bに鉱石スラリーが貯蔵される。なお、貯蔵タンク11a,11bには、各系列の移送設備10A,10Bに対応して設けられている調整タンク40A,40Bからそれぞれ、調整された鉱石スラリーが供給される。
【0057】
そして、貯蔵タンク11a,11bに一定期間貯蔵された鉱石スラリーは、各系列において移送配管12a,12bを通って、高圧酸浸出設備2A,2Bに移送される。
【0058】
具体的に、移送設備10Aでは、貯蔵タンク11aから鉱石スラリーを移送するにあたり、移送配管12aにおける本配管21aのバルブを「開」状態とし、予備配管22aのバルブを「閉」状態とする。なお。
図2中の黒塗りは「開」状態(ON状態)を示し、白塗りは「閉」状態(OFF状態)を示している。
【0059】
すなわち、本配管21aに設けられた第1のアイソレーションバルブ61aを「開」状態として鉱石スラリーを流通可能とする。また、本配管21aの移送ポンプ62aの運転をON状態として鉱石スラリーを下流側に移送可能とする。また、本配管21aの第2のアイソレーションバルブ63aを「開」状態として鉱石スラリーを流通可能とする。これにより、貯蔵タンク11aから本配管21aを通った鉱石スラリーの移送が可能となる。
【0060】
一方で、予備配管22aに設けられた第1のアイソレーションバルブ61aは「閉」状態として鉱石スラリーの流通を不可とする。また、予備配管22aの移送ポンプ62aの運転をOFF状態として鉱石スラリーの下流側への移送を不可とする。また、予備配管22aの第2のアイソレーションバルブ63aを「閉」状態として鉱石スラリーの流通を不可とする。これにより、貯蔵タンク11aから予備配管22aを通った鉱石スラリーの移送が不可能となる。なお、予備配管22は、上述したように、本配管21の定期的な点検や交換等によって使用不可の状態のときに使用するバックアップラインである。このように、本配管21と予備配管22とを備えることで、その移送設備10からの鉱石スラリーの移送停止を防ぎ、操業効率の低下を抑制することができる。
【0061】
同様に、移送設備10Bでは、貯蔵タンク11bから鉱石スラリーを移送するにあたり、移送配管12bにおける本配管21bのバルブを「開」状態とし、予備配管22bのバルブを「閉」状態とする。すなわち、本配管21bの第1のアイソレーションバルブ61bを「開」状態とし、移送ポンプ62bの運転をON状態とし、第2のアイソレーションバルブ63bを「開」状態として、貯蔵タンク11bから本配管21bを通った鉱石スラリーの移送を可能にする。一方で、予備配管22bの第1のアイソレーションバルブ61bは「閉」状態とし、移送ポンプ62bの運転をOFF状態とし、第2のアイソレーションバルブ63bを「閉」状態として、貯蔵タンク11bから予備配管22bを通った鉱石スラリーの移送が不可にする。
【0062】
このように、通常操業時においては、各移送設備10A,10Bにおいて、貯蔵タンク11a,11bから鉱石スラリーを、本配管21a,21bを流通させて、高圧酸浸出設備2へと移送させることができる。
【0063】
[トラブル発生時における運転]
さて、このような移送設備10では、貯蔵タンク11においては例えば撹拌装置の故障等のトラブルが発生することがある。従来、このようなトラブルが生じた場合、その故障した貯蔵タンクにて貯蔵された鉱石スラリーの、高圧酸浸出設備への移送は停止されていた。しかしながら、鉱石スラリーの移送停止は、その後の工程、つまり高圧酸浸出工程S2で処理される鉱石スラリー量の総量(操業プラント全体での処理量)を減らし、操業効率を低下させることになる。
【0064】
そこで、本発明に係るプラント1の運転方法では、2系列の移送設備10A,10Bのいずれか一の系列(例えば10B)に異常(例えば貯蔵タンク11bの故障)が発生した場合に、系列連結配管30を介して、他の系列(故障が生じていない系列(10A))を通じた鉱石スラリーの移送を可能にしている。
【0065】
より具体的に、
図3を用いてトラブル発生時の運転の流れを説明する。
図3は、
図2と同様の鉱石スラリー移送処理プラントの構成図であり、一の系列である移送設備10Bにおける貯蔵タンク11bに故障トラブルが発生した場合の運転の流れを説明するための図である。なお、
図3にて、貯蔵タンク11bの故障トラブルは「×」印を付けて示す。
【0066】
トラブル発生時には、先ず、故障トラブルが発生した貯蔵タンク11bを備える移送設備10Bにおいて、通常操業時に「開」状態となっていた本配管21bのバルブを「閉」状態にする。すなわち、本配管21bに設けられている第1のアイソレーションバルブ61bを「閉」状態とし、移送ポンプ62bの運転をOFF状態とし、第2のアイソレーションバルブ63bを「閉」状態とする。これにより、故障トラブルが生じて良好な貯蔵状態ではなかった鉱石スラリーが移送配管12bを通って高圧酸浸出設備2Bに移送されることを防ぐ。
【0067】
次に、故障トラブルが発生した貯蔵タンク11bを備える移送設備10Bにおいて、通常操業時に「閉」状態となっていた予備配管22bに設置のバルブのうち、鉱石スラリーが流れる最下流側になる第2のアイソレーションバルブ63bのみを「開」状態とする。これにより、後で詳述するが、トラブルが生じていない移送設備10Aから系列連結配管30を介して、移送設備10Bの予備配管22bの途中に鉱石スラリーを移送させることができ、そしてその予備配管22bを通して高圧酸浸出設備2Bに鉱石スラリーを移送することが可能となる。
【0068】
次に、故障トラブルが生じていない移送設備10Aにおいては、正常操業時での運転、すなわち移送配管12aの本配管21aを通じた鉱石スラリーの移送を維持させておく。つまり、その本配管21aにおける第1のアイソレーションバルブ61aを「開」状態に維持し、移送ポンプ62aの運転をON状態に維持し、第2のアイソレーションバルブ63aを「開」状態に維持して、本配管21aを通じた鉱石スラリーの移送を維持する。
【0069】
そして、そのような本配管21aを通じた鉱石スラリーの移送を維持したまま、移送配管12aを構成する予備配管22aに設けられたバルブの一部を「開」状態とする。具体的には、移送配管12aにおける予備配管22aに設けられたバルブのうち、上流側に位置する、第1のアイソレーションバルブ61aを「開」状態にするともに、移送ポンプ62aの運転をON状態にする。「開」状態に切り替える第1のアイソレーションバルブ61aと移送ポンプ62aとは、バックアップラインである予備配管22aに設けられたバルブであり、通常操業時に「閉」状態となっている。これにより、移送設備10Aにおいて、貯蔵タンク11aに貯蔵された鉱石スラリーの一部が、本配管21a内だけでなく、予備配管22a内にも流通するようになる。
【0070】
一方で、その移送設備10Aにおける予備配管22aに設けられたバルブのうち、最下流に存在する第2のアイソレーションバルブ63aについては、「閉」状態を維持しておく。これにより、予備配管22aにも流通するようになった鉱石スラリーは、その予備配管22a内でも第2のアイソレーションバルブ63までの流通にとどまる。
【0071】
ここで、プラント1は、2つの系列の移送設備10Aと移送設備10Bとの間を連結する配管であって、それぞれの系列の予備配管22a,22bに端部30e1,30e2を接続させて、移送設備10Aの移送配管12aと移送設備10Bの移送配管12bとの間を連結する系列連結配管30を備えている。また、その系列連結配管30は、予備配管22a,22bとの接続点を、移送ポンプ62a,62bより下流側の位置であって、かつ、第2のアイソレーションバルブ63a,63bより上流側の位置としている。
【0072】
そのため、移送設備10Aにおいて、バックアップラインである予備配管22aにおける第1のアイソレーションバルブ61aを「開」状態にし、また移送ポンプ62aのON状態にすると、貯蔵タンク11aに貯蔵された鉱石スラリーの一部が予備配管22aに流通したのち、系列連結配管30を介して、移送設備10B内に供給されるようになる。
【0073】
上述したように、移送設備10Bにおいては、本配管21bに設けられたバルブはすべて「閉」状態としているが、系列連結配管30が接続されている予備配管22bに設けられたバルブのうち、最下流側にある第2のアイソレーションバルブ63bのみ、「開」状態としている。このことから、移送設備10Aから系列連結配管30を介して供給された鉱石スラリーは、移送設備10B(移送設備10Bにおける予備配管22b)に入ったのちに、「開」状態にある第2のアイソレーションバルブ63bを通って、高圧酸浸出設備2Bに移送されるようになる。
【0074】
なお、移送設備10Bの予備配管22bに設けられた第1のアイソレーションバルブ61aは「閉」状態となっているため、系列連結配管30を介して移送設備10Bに供給された鉱石スラリーの、上流側(貯蔵タンク11bの方向)への逆流を防ぐことができる。
【0075】
このように、2つの系列のうちのいずれか一方の系列の移送設備10(10B)における貯蔵タンク11(11b)に故障が生じた場合には、故障が生じていない系列の移送設備10(10A)の予備配管22(22a)の並列使用(本配管21(21a)との並列使用)が始まり、その後、系列連結配管30を介して、貯蔵タンクに故障が生じている移送設備10(10B)内に鉱石スラリーが供給されるようになっている。
【0076】
これにより、故障が生じている系列に対応する高圧酸浸出設備2(2B)に鉱石スラリーが全く供給されなくなるという事態を防ぐことができ、高圧酸浸出工程S2での処理の稼働率が低下することを有効に防ぐことができる。そして、延いては、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの操業効率の低下を防ぐことができる。
【0077】
さて、各系列の調整タンク40A,40Bにて調整された鉱石スラリーについては、相互の系列の移送設備10A,10Bにおける貯蔵タンク11a,11bに供給可能となっている。すなわち、例えば、A系列にある調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーを、調整タンク40Aから貯蔵タンク11aに鉱石スラリーを供給する供給配管41aに接続された連結配管42を介し、B系列の供給配管41bを流通させて、移送設備10Bの貯蔵タンク11bに供給することができる。
【0078】
そこで、上述した例のように、移送設備10Bにおける貯蔵タンク11bに故障トラブルが生じた場合、調整タンク40からの鉱石スラリーの供給も併せて制御してもよい。具体的に説明すると、貯蔵タンク11bに故障トラブルが生じた場合、同系列であるB系列の調整タンク40Bは正常に作動していることから、その調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーを、連結配管42を介して、A系列の移送設備10Aにおける貯蔵タンク11aに供給するようにする。すると、貯蔵タンク11aには、調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーと、調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーとが貯蔵されることになる。
【0079】
上述したように、移送設備10Aにおいては、予備配管22aを通じた鉱石スラリーの移送が並列作動しており、つまり、移送設備10Aの予備配管22aを通り、その後系列連結配管30を介して移送設備10Bに対応する高圧酸浸出設備2Bに鉱石スラリーの一部が移送される。このとき、移送設備10Aの貯蔵タンク11aに、調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーと、調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーとが貯蔵されていることで、移送設備10Bにトラブルが生じている場合でも、高圧酸浸出設備2Aに移送する鉱石スラリーの移送量と、高圧酸浸出設備2Bに移送する鉱石スラリーの移送量との両方を、通常操業時の移送量とほぼ同一にすることができる。
【0080】
すなわち、移送設備10Aの貯蔵タンク11aに、調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーと、調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーとが貯蔵されている状態においては、その貯蔵タンク11aに、通常操業時に貯蔵される鉱石スラリー量の2倍量の鉱石スラリーが貯蔵されていることを意味する。移送設備10Aにおいては、通常操業時と同様に、本配管21aを通った高圧酸浸出設備2Aへの鉱石スラリーの移送が継続されている。また一方で、予備配管22aも並列して鉱石スラリー流通可能な状態となり、系列連結配管30を介して、B系列の高圧酸浸出設備2Bに移送されるようになっている。そのため、貯蔵タンク11aにおいて通常のときの2倍量の鉱石スラリーが貯蔵されていれば、移送設備10Aの通常操業による高圧酸浸出設備2Aへの鉱石スラリーの移送量をその1/2、つまり通常操業時と同じ量とすることができ、一方で、移送設備10Aから系列連結配管30を介して移送設備10Bに対応する高圧酸浸出設備2Bへの鉱石スラリーの移送量もその1/2、つまり通常操業時と同じ量とすることができる。
【0081】
このように運転することで、故障が生じている系列に対応する高圧酸浸出設備2Bに対して鉱石スラリーの移送を可能にして、その高圧酸浸出設備2Bの操業停止の事態を防ぐことができるだけでなく、高圧酸浸出設備2Bに供給することができる鉱石スラリーの移送量についても、通常操業時と同じレベルとすることができる。これにより、高圧酸浸出工程S2での処理の稼働率の低下をより効果的に防ぐことができる。
【0082】
開状態、閉状態の制御の順序は、上述した説明の順に限られるものではない。操業を行いながら鉱石スラリーが意図しない箇所に移送されることを防ぎながら、例えば
図3に示すようなバルブの開閉状態に最終的に制御されるようにして、系列連結配管30を介して鉱石スラリーを移送することができればよい。
【0083】
また、移送設備10の移送配管12に設けられている第1のアイソレーションバルブ61、第2のアイソレーションバルブ63のバルブを操作するに際しては、水を噴射して水洗した後に行うことが好ましい。鉱石スラリーを流通させる移送配管12に設けられるバルブにおいては、鉱石スラリーの噛み込みが生じることがあり、噛み込みが発生するとバルブの動作不良が生じて、適切なバルブ制御を行うことができなくなる。
【0084】
特に、上述したように移送設備10において故障トラブルが生じた場合には、操業効率の低下を最小限にとどめるために、適切なバルブ操作が必要になる。そこで、第1のアイソレーションバルブ61、第2のアイソレーションバルブ63を操作するに際し、水を噴射した水洗を行った後に行うことで、スラリーの噛み込みによるバルブの動作不良を防ぐことができる。これにより、適切なバルブ操作を行うことができ、鉱石スラリーのより適切な移送を可能にする。
【0085】
なお、バルブ操作を行うに先立って水洗することに限られず、バルブ操作を行った後にそのバルブに水を噴射して水洗を行い、鉱石スラリーの噛み込みを予防するようにしてもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
図2に構成例を示すプラント(A系列及びB系列の2つの系列を有するプラント)1を用いて、鉱石スラリーの高圧酸浸出設備2への移送処理を行った。そして、プラント1のうちのB系列の移送設備10Bにおける貯蔵タンク11bの撹拌機やその電動機が故障して復旧に長時間を有するトラブルが発生したときに、以下の操作により操業を行った。
【0088】
具体的には、
図3に示すようにして、移送設備10A,10Bのそれぞれの移送配管12a,12bに設けられたバルブの制御を行い、系列連結配管30を介して、移送設備10Aから鉱石スラリーの一部をB系列の高圧酸浸出設備2Bに移送するようにした。
【0089】
また併せて、B系列に対応する調整タンク40Bにて調整した鉱石スラリーを、連結配管42を介して、移送設備10Aの貯蔵タンク11aに供給されるようにした。すなわち、故障トラブルが生じていない移送設備10Aの貯蔵タンク11aには、調整タンク40Aにて調整された鉱石スラリーと、調整タンク40Bにて調整された鉱石スラリーとが供給され貯蔵されるようにした。このときの貯蔵タンク11aにおける鉱石スラリーの貯蔵量、換言すると、貯蔵タンク11aから移送される鉱石スラリーの移送量は、通常時の2倍量となる。
【0090】
このような操業を、貯蔵タンク11bの補修作業が完了して復旧するまでの2週間実施した。そして、その期間における各系列に対応する高圧酸浸出設備2(2A,2B)での設備稼働率(流量負荷率)を計算したところ、通常操業時の100%にて操業を維持することができた。
【0091】
下記表1に、設備稼働率の実績を示す。なお、トラブル発生時に上述した運転を実施していない従来の状況での設備稼働率も比較として併せて示す。
【0092】
【符号の説明】
【0093】
1 鉱石スラリー移送処理プラント(プラント)
2,2A,2B 高圧酸浸出設備
10,10A,10B 移送設備
11,11a,11b 貯蔵タンク
12,12a,12b 移送配管
21,21a,21b 本配管
22,22a,22b 予備配管
30 系列連結配管
30e1,30e2 (系列連結配管の)端部
40,40A,40B 調整タンク
41a,41b 供給配管
42 連結配管
61,61a,61b 第1のアイソレーションバルブ
62,62a,62b 移送ポンプ
63,63a,63b 第2のアイソレーションバルブ