IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図1
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図2
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図3
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図4
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図5
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図6
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図7
  • 特許-ガラス溶解炉、及びガラス製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ガラス溶解炉、及びガラス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/167 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
C03B5/167
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019155575
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021031355
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 俊明
(72)【発明者】
【氏名】内田 一樹
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-063503(JP,A)
【文献】特開2006-028014(JP,A)
【文献】特開2011-068556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00-5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にガラス原料が供給される溶解槽と、
該溶解槽の内部に平面視で互いに離間するように設けられて、前記ガラス原料を通電して溶解し、溶融ガラスを得る複数の通電電極と、
前記溶解槽の内部における平面視にて前記通電電極によって通電される通電領域の外側の領域に設けられ、前記溶解槽の外部から電力が供給されない検出用電極と、
前記検出用電極の電圧を検出する電圧検出部と
前記検出用電極を非接地状態と接地状態とに切り替える接地切替部と、
を備えるガラス溶解炉。
【請求項2】
前記溶解槽が平面視にて槽内領域を形成する内壁を備え、
前記検出用電極が、平面視にて前記通電領域より前記内壁に近い位置に設置されている請求項に記載のガラス溶解炉。
【請求項3】
前記溶解槽が、前記ガラス原料が投入される投入部を前記内壁に備え、
前記検出用電極が、前記通電領域より前記投入部に近い位置に設置されている
請求項に記載のガラス溶解炉。
【請求項4】
前記検出用電極が互いに異なる位置に複数設けられている請求項1からのいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項5】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が前記底部に配置されている
請求項1からのいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項6】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が前記側壁部に配置されている
請求項1からのいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項7】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が、前記底部と前記側壁部の双方に配置されている
請求項1からのいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項8】
前記溶解槽が、前記溶融ガラスを取り出す取出部を備え、
該溶解槽の内部に常時接地される通常接地電極を備え、
前記通常接地電極が、平面視において、前記通電領域の外側の領域であって前記通電領域より前記取出部に近い位置に配置されている
請求項1からのいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項9】
内部にガラス原料が供給される溶解槽と、
該溶解槽の内部に平面視で互いに離間するように設けられて、前記ガラス原料を通電して溶解し、溶融ガラスを得る複数の通電電極と、
前記溶解槽の内部における平面視にて前記通電電極によって通電される通電領域の外側の領域に設けられ、前記溶解槽の外部から電力が供給されない検出用電極と、
前記検出用電極の電圧を検出する電圧検出部と
を備え
前記溶解槽が、前記溶融ガラスを取り出す取出部を備え、
該溶解槽の内部に常時接地される通常接地電極を備え、
前記通常接地電極が、平面視において、前記通電領域の外側の領域であって前記通電領域より前記取出部に近い位置に配置されている
ガラス溶解炉。
【請求項10】
前記溶解槽が平面視にて槽内領域を形成する内壁を備え、
前記検出用電極が、平面視にて前記通電領域より前記内壁に近い位置に設置されている請求項に記載のガラス溶解炉。
【請求項11】
前記溶解槽が、前記ガラス原料が投入される投入部を前記内壁に備え、
前記検出用電極が、前記通電領域より前記投入部に近い位置に設置されている
請求項10に記載のガラス溶解炉。
【請求項12】
前記検出用電極が互いに異なる位置に複数設けられている請求項から11のいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項13】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が前記底部に配置されている
請求項から12のいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項14】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が前記側壁部に配置されている
請求項から12のいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項15】
前記溶解槽が底部と側壁部とを備え、
前記複数の通電電極が、前記底部と前記側壁部の双方に配置されている
請求項から12のいずれか一項に記載のガラス溶解炉。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のガラス溶解炉を用いたガラス製造方法であって、
前記溶解槽に前記ガラス原料を供給し、前記複数の通電電極に電流を流して前記ガラス原料を溶解する溶解工程と、
前記溶解槽より下流に設けられた成形炉で、前記溶融ガラスを成形する成形工程と、
前記成形炉より下流に設けられた徐冷炉で、成形されたガラスを徐冷する徐冷工程と
を含み、
前記溶解工程中に、
前記検出用電極の電圧を検出する電圧検出工程と、
前記検出した電圧が低下したら前記検出用電極を接地する接地切替工程と、
を含むガラス製造方法。
【請求項17】
前記溶解工程中に、前記電圧検出工程が検出した各電圧を比較する比較工程を含む、請求項16に記載のガラス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶解炉、及びガラス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス原料を溶解する方法の一つとして、溶解槽内に互いに対向する一対の電極を挿入して、通電する方法がある。電極間に交流電圧を加えて通電すると、ジュール熱が発生するため、ガラス原料は加熱されて温度が上昇し、ガラス原料を溶解できる。ガラス原料の電気加熱は、溶解槽内に電極を有するガラス溶解炉を用いて行われる。
【0003】
たとえば特許文献1には、溶解槽の底部に設けた複数の通電電極に電圧を印加して通電することによって、ガラス原料を溶解するガラス溶解炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-300318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、たとえば、溶解槽内部の部材破損又は部材劣化等により、溶解槽内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性が低下すると、溶解槽内部から溶解槽外部への漏れ電流が増加する。該漏れ電流により、漏れ電流が発生した周辺が発熱し、溶解槽内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の浸食が促進される。その結果、ガラスに混入する不純物が増加するおそれがある。そのため、溶解槽内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性を把握することが求められている。
【0006】
本発明は、溶解槽内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下を把握できるガラス溶解炉、及びガラス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるガラス溶解炉は、内部にガラス原料が供給される溶解槽と、該溶解槽の内部に平面視で互いに離間するように設けられて、前記ガラス原料を通電して溶解し、溶融ガラスを得る複数の通電電極と、前記溶解槽の内部における平面視にて前記通電電極によって通電される通電領域の外側の領域に設けられ、前記溶解槽の外部から電力が供給されない検出用電極と、前記検出用電極の電圧を検出する電圧検出部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス溶解炉、及びガラス製造方法は、溶解槽内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下を把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る第一実施形態におけるガラス溶解炉の平面図である。
図2図1におけるII-II線断面図である。
図3】本発明に係る実施形態におけるガラスの製造工程を示すフロー図である。
図4】本発明に係る実施形態における溶解工程中の電圧検出工程及び比較工程を示すフロー図である。
図5】本発明に係る実施形態における検出用電極で検出した電圧(対地電位)の時間変化を示すグラフである。
図6】本発明に係る実施形態における溶解工程中の電圧検出工程及び接地切替工程を示すフロー図である。
図7】本発明に係る第二実施形態におけるガラス溶解炉の平面図である。
図8図7におけるVIII-VIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る各種実施形態について、図面を用いて説明する。
【0011】
「第一実施形態」
本発明に係るガラス溶解炉の第一実施形態について、図1図2を参照して説明する。
【0012】
まず、ガラス溶解炉の構造について説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態のガラス溶解炉10は、内部にガラス原料が供給される溶解槽20と、複数の通電電極30と、検出用電極40と、電圧検出部50と、通常接地電極60と、接地切替部70と、溶解槽20の上方を覆う上部構造物80とを備える。図1は、上部構造物80を透視したガラス溶解炉10の平面図を示す。
【0014】
ガラス溶解炉10は、上部構造物80にバーナー(不図示)を備えており、バーナー燃焼、及び通電電極30に電圧を印加することによって、溶解槽20内部に供給されたガラス原料を溶解する。溶解槽20は、底部21と側壁部22とを備え、内部に供給されたガラス原料を溶解して得られた溶融ガラスGを保持する。溶解槽20は、X軸方向上流側(図1及び図2の右側)に投入部23とX軸方向下流側(図1及び図2の左側)に取出部24を有する。溶解槽20において、ガラス原料は投入部23から投入され、溶解された溶融ガラスGは取出部24から取り出される。
【0015】
図1の平面視において、溶解槽20は、溶融ガラスGの流れ方向(X軸方向)に沿って配置される側壁部22の内壁22a、及びX軸方向に対して垂直なY軸方向に沿って配置される側壁部22の内壁22aで四方を囲むことによって、矩形の槽内領域25を形成する。該槽内領域25は、該平面視において、X軸方向を長辺、Y軸方向を短辺とする矩形を形成する。
【0016】
底部21又は側壁部22は、電鋳レンガと絶縁部材とを含み、底部21又は側壁部22の内側に電鋳レンガ、外側に絶縁部材が設けられてよい。また、底部21又は側壁部22は、絶縁部材を含み、底部21又は側壁部22の内側及び外側に絶縁部材が設けられてもよい。電鋳レンガ又は絶縁部材は、底部21及び側壁部22から溶解槽20外部への電流の漏れを防いでいる。電鋳レンガは、焼成レンガに比べて、高温で溶解した溶融ガラスGに対して耐食性を有するため、泡、砂利が発生しにくく、溶解した溶融ガラスGを汚染しにくい、という優れた特性を有する。電鋳レンガとしては、AZS系電鋳レンガ、ジルコニア系電鋳レンガ、又はアルミナ系電鋳レンガが挙げられる。絶縁部材は、デンスジルコンレンガ、ジルコン質レンガ、又はムライト質レンガ等の焼結レンガが用いられる。また、絶縁部材は、ヘミサル、雲母板等の電気抵抗が高い耐火材料が用いられてもよい。
【0017】
各通電電極30は、Z軸方向に延びる形状を有し、底部21を貫通するように配置される。各通電電極30の先端部は、溶融ガラスGに挿入されるように溶解槽20内に延びている。各通電電極30は導電体で構成され、底部21とは電気的に絶縁されている一方で、溶融ガラスGとは電気的に導通するように構成されている。通電電極30は、図1の平面視において、X軸方向に沿って槽内領域25の各長辺寄りに3対ずつ、計6対配置される。通電電極30の各対は、X軸方向に対向するように配置される。通電電極30の各対に、交流電圧を印加する電源100が、溶解槽20外部においてそれぞれ接続される。通電電極30に印加された交流電圧は、通電電極30を通じて溶融ガラスGに印加されるため、溶融ガラスGに電気が流れて、ジュール熱が発生し、溶融ガラスGが加熱される。
【0018】
複数の通電電極30は、溶解槽20の内部に互いに離間するように設けられており、通電領域200を画定する。図1に示すように、通電領域200は、隣り合う電極と共通接線を結んだ領域である。該通電領域200は、図1の平面視において、X軸方向を長辺、Y軸方向を短辺とする矩形の通電領域200を形成している。
【0019】
検出用電極40は、Z軸方向に延びる形状を有し、底部21を貫通するように配置される。検出用電極40の先端部は、溶融ガラスGに挿入されるように溶解槽20内に延びている。検出用電極40は導電体で構成され、底部21に対して電気的に絶縁されている一方で、溶融ガラスGとは導通するように構成されている。
【0020】
検出用電極40は、通電領域200の外側周辺であって、側壁部22の内側に8本設けられる。図1の平面視において、検出用電極40は、通電領域200のX軸方向上流側に2本、及びX軸方向に沿って槽内領域25の各長辺寄りに3本ずつ、計8本配置される。図1に示すように、各長辺側に沿って配置された3本の検出用電極40と3対の通電電極30とは、X軸方向に対して互いに同じピッチで配置される。
【0021】
検出用電極40と側壁部22との位置関係について説明する。図1に示すように、通電領域200の端と側壁部22の内壁22aとの距離がLaであるとき、検出用電極40は、側壁部22の内壁22aから距離がLbとなる位置に配置される。検出用電極40は、La>2Lbの関係を有する位置、すなわち通電領域200の端よりも内壁22aに近い位置に配置される。当該位置に検出用電極40を配置すれば、通電領域200の影響を受けずに、電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下による対地電位の変化を高感度に検知できる。
【0022】
検出用電極40は、溶解槽20外部において、電圧検出部50の第一端及び接地切替部70の第一端と接続されている。一方、溶解槽20外部において、電圧検出部50の第二端及び接地切替部70の第二端は、接地されている。したがって、検出用電極40には、電源100を含む外部からの電力が供給されないから、溶融ガラスGの対地電位を検出できる。
【0023】
電圧検出部50は、電圧検出部50の第一端と第二端との間の電圧を検出することによって、検出用電極40の対地電位を検出する。本実施形態では、電源100と同期する交流電圧を電圧検出部50によって検出しているが、直流電圧、電源100と異なる周波数の交流電圧、又は電源100と異なる位相の交流電圧を検出してもよく、検出される電圧の大きさや環境ノイズを考慮して、検出する電圧を選択すればよい。後で詳細を説明するように、検出用電極40及び電圧検出部50によって、溶解槽20内部の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下をモニタリングできる。
【0024】
接地切替部70は、手動又は自動によって、接地切替部70自身の第一端と第二端との電気的な接続状態の切り替えができる。接地切替部70の切り替えによって、接地切替部70は、検出用電極40の電位を、非接地状態又は接地状態に切り替えができる。接地切替部70としては、スイッチ、ブレーカー、可変抵抗、又はクリップ付配線が適用できる。後で詳細を説明するように、接地切替部70を用いて、非接地状態又は接地状態に切り替えることよって、モニタリング作業とメンテナンス作業とを実施できる。
【0025】
通常接地電極60は、Z軸方向に延びる形状を有し、底部21を貫通するように配置される。通常接地電極60は導電体で構成され、底部21に対して電気的に絶縁されている一方で、溶融ガラスGとは導通するように構成されている。通常接地電極60は、通電領域200の外側であって、側壁部22の内側に1本設けられる。図1の平面視において、通常接地電極60は、通電領域200のX軸方向下流側に1本配置される。溶解槽20外部において、通常接地電極60は常時接地されている。通常接地電極60によって、X軸方向下流側の対地電位を下げることによって、取出部24より下流側の装置に電気が流れることを防止している。
【0026】
本実施形態のガラス溶解炉10を用いたガラス製造方法について図3を参考に説明する。
【0027】
ガラス原料を溶解槽20内に供給し、ガラス原料を加熱して溶解する(溶解工程:S1)。上部構造物80に貫通して設けられたバーナー(不図示)の火炎をガラス原料に向かって放射することによって、ガラス原料を上方から加熱する。バーナーの火炎によって加熱すると共に、複数の通電電極30に電圧を印加することによって通電し、ジュール熱を発生させ、ガラス原料を加熱する。
【0028】
ガラス原料を溶解して得られた溶融ガラスGは溶解槽20より下流において設けられた成形炉(不図示)で成形される(成形工程:S2)。成形されたガラスは、成形炉より下流に設けられた徐冷炉(不図示)で徐冷され(徐冷工程:S3)、ガラス製品となる。
【0029】
本実施形態のガラス溶解炉10における溶解槽20内部のモニタリング方法及びメンテナンス作業について詳しく説明する。
【0030】
モニタリング方法について、図4を参考に説明する。
溶解工程S1中において、各検出用電極40の電圧を検出する(電圧検出工程:S1a)。各接地切替部70を非接地状態に設定し、電圧検出部50によって、各検出用電極40の電圧が検出される。各検出用電極40と溶融ガラスGとは電気的に導通しているから、電圧検出部50が検出する電圧は、各検出用電極40が配置される位置の溶融ガラスGの対地電位に対応する。したがって、電圧検出部50をモニタリングすることによって、通電領域200の外側周辺の溶融ガラスGの電位状態をモニタリングできる。
【0031】
通常、底部21及び側壁部22は、電鋳レンガ又は絶縁部材によって、溶融ガラスGと溶解槽20外部とは電気的に絶縁されている。該絶縁によって、溶解槽20内で溶解している溶融ガラスGは、高い対地電位を有している。しかし、底部21及び側壁部22内側の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下が進むと、溶融ガラスGから溶解槽20外部へ向かって流れる漏れ電流が増加する。溶解槽20外部へ向う漏れ電流が増加すると、電気抵抗特性の低下した電鋳レンガ又は絶縁部材周辺の溶融ガラスGの対地電位が低くなる。したがって、電圧検出部50で各検出用電極40の電圧をモニタリングすれば、底部21及び側壁部22内側の電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下をモニタリングできる。
【0032】
溶解工程S1中において、電圧検出工程S1aに続き、電圧検出部50で検出した各電圧を比較する(比較工程:S1b)。本実施形態の場合、溶解槽20内部の異なる位置に複数の検出用電極40を設けているから、溶解槽20内部の異なる位置の対地電位を検出できる。異なる位置の対地電位を検出することによって、互いの対地電位を比較できるから、異常な対地電位を検出できると共に、対地電位が異常を示す位置を特定できる。対地電位が異常を示す位置を特定できれば、電気抵抗特性の低下した電鋳レンガ又は絶縁部材を特定できる。
【0033】
8本の検出用電極40で検出される電圧のうち、通電領域200のX軸方向上流側に配置される2本の検出用電極40によって検出される電圧は、他の位置に比べて検出される電圧が高い。したがって、該2本の検出用電極40で検出される電圧が、電鋳レンガ又は絶縁部材の電気抵抗特性の低下をより感度良くモニタリングできる。
【0034】
図5には、電圧検出部50でモニタリングした検出用電極40の対地電位波形の例が示され、横軸にモニタリングの時間、縦軸に電圧検出部50によって検出した電圧(対地電位)が示される。通常の対地電位Voは高い値となるが、絶縁劣化後において、対地電位は低下し、低い値となっていることがわかる。したがって、通常の対地電位Voより低い値にしきい値Vsを設定し、検出された対地電位としきい値Vsを比較し、対地電位がしきい値Vs以下となったことを検出すれば、電鋳レンガ又は絶縁部材の絶縁劣化が起こった瞬間を検出したことになる。たとえば、図5の場合、通常の対地電位Voより15%低い値にしきい値Vsを設定している。
【0035】
メンテナンス作業について、図6を参考に説明する。
溶解工程S1中において、検出用電極40の電圧を検出(電圧検出工程:S1c)し、電鋳レンガ又は絶縁部材の絶縁劣化を検出したら、対地電位が低下した位置の検出用電極40に接続される接地切替部70を接地状態に切り替えて、該検出用電極40周辺の対地電位を接地電位にする(接地切替工程:S1d)。対地電位を接地電位に落とせば、絶縁劣化した電鋳レンガ又は絶縁部材のさらなる浸食を抑制できる。さらに、対地電位を接地電位に落とせば、高電圧下でのメンテナンス作業を回避でき、簡便に側壁部22の修理を行うことができる。メンテナンス作業を行ったときは、作業終了後、接地切替部70を非接地状態に切り替えて、通常の溶解工程を実行する。
【0036】
「第二実施形態」
本発明に係るガラス溶解炉の第二実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。以下、第一実施形態と異なる点のみ説明する。
【0037】
本実施形態のガラス溶解炉10Aは、複数の通電電極31を備えている。通電電極31は、図7の平面視において、X軸方向に沿って槽内領域25の各長辺に3個ずつ、計6個配置される。各通電電極31は、第1の板面31a及び第2の板面31bを一対の板面とする板形状を有する。各通電電極31は導電体で構成される。各通電電極31は、第1の板面31aを、溶解槽20の側壁部22の内壁22aに合わせるように、溶解槽20内部に配置される。図7に示すように、槽内領域25の各長辺にそれぞれ配置された一対の通電電極31は、互いの第2の板面31bがY軸方向に対向するように配置される。なお、図8では、便宜上、一対の通電電極31は、X軸方向及びZ軸方向で互いにずらして配置されている。該一対の通電電極31は、X軸方向に沿って3対配置される。各通電電極31は、溶解槽20内部から溶解槽20外部に通ずる配線によって、電源100に接続される。通電電極31の各対に対し、該電源100がそれぞれ接続される。
【0038】
複数の通電電極31は、溶解槽20の内部に平面視で互いに離間するように設けられており、通電領域201を画定する。本構成の通電電極31の通電により、溶解槽20の広い範囲を加熱できる。図7に示すように、通電領域201は、X軸方向で最上流の一対の通電電極31の上流側における共通接線と、X軸方向で最下流の一対の通電電極31の下流側における共通接線と、側壁部22の内壁22aとを結んだ領域である。該通電領域201は、図7の平面視において、矩形の通電領域201を形成している。
【0039】
図7の平面視において、検出用電極41は、通電領域201のX軸方向上流側に2本配置される。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は前記実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更も含まれる。
【0041】
本実施形態では、通常接地電極60を設置したが、取出部24より下流側の装置に流れる電気が問題にならなければ、通常接地電極60を設置しなくてもよい。また、通常接地電極60に代えて、通常接地電極60の位置に検出用電極40、41を設けてよい。
【0042】
本実施形態では、バーナー加熱及び電気加熱により、ガラス原料の溶解を行っているが、該電気加熱単独でガラス原料の溶解を行ってもよい。
【0043】
本実施形態では、平面視において矩形の槽内領域25又は矩形の通電領域200、201を構成するものとしたが、X軸方向又はY軸方向どちらが長辺となってもよいし、正方形であってもよい。矩形以外の形状であってもよい。
【0044】
本実施形態では、通電電極、検出用電極及び通常接地電極について、特定の個数又は配置について説明したが、溶解工程を実行できるものであれば、どのような個数又は配置であってもよい。
【0045】
検出用電極40の径は、溶解工程に影響を与えないように構成するならより細く構成すればよいし、接地時に多くの電流を流すならより太く構成すればよい。
【0046】
本実施形態では、第一実施形態と第二実施形態とで違う通電電極を用いた形態を説明したが、一つの形態に通電電極30と通電電極31とを組み合わせて設置してもよい。なお、各通電電極30,31は、溶解槽20下部又は側部の空間を有効利用できるものであれば、どのような組み合わせで配置されていてもよい。
【0047】
本実施形態では、電圧検出部50又は接地切替部70を用いているが、ガラス溶解炉10に常時備え付けられてもよいし、必要な時だけ備え付けるものであってもよい。
【0048】
本実施形態で用いられるガラス原料の組成には特に制約がなく、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、混合アルカリ系ガラス、ホウケイ酸ガラス、又はその他のガラスのいずれであってもよい。また、製造されるガラス製品の用途は、建築用、車両用、フラットパネルディスプレイ用、又はその他の各種用途が挙げられる。
【符号の説明】
【0049】
10、10A:ガラス溶解炉
20:溶解槽
21:底部
22:側壁部
22a:内壁
23:投入部
24:取出部
25:槽内領域
30:通電電極
31:通電電極
31a:第1の板面
31b:第2の板面
40:検出用電極
41:検出用電極
50:電圧検出部
60:通常接地電極
70:接地切替部
80:上部構造物
100:電源
200:通電領域
201:通電領域
G:溶融ガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8