(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】単結晶シリコンインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20221129BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2019230418
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 栄一郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151385(JP,A)
【文献】特開2000-247788(JP,A)
【文献】国際公開第00/52235(WO,A1)
【文献】特開2010-280531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインチャンバ内に位置する石英ルツボ内にシリコン原料を充填する工程と、前記シリコン原料を加熱し溶融させて、前記石英ルツボ内にシリコン融液を形成する工程と、前記シリコン融液から単結晶シリコンインゴットを引き上げる工程と、前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離して、前記メインチャンバ内を上昇させて、前記メインチャンバの上方のプルチャンバに収容する工程と、前記プルチャンバから前記単結晶シリコンインゴットを取り出す工程と、をくり返し行うことにより、同一の石英ルツボを用いて複数本の単結晶シリコンインゴットを引き上げるCZ法による単結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後、前記石英ルツボ内に残留する前記シリコン融液に磁場を印加する磁場印加工程を備えることを特徴とする単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後、前記プルチャンバに収容するまでの期間では、少なくとも前記磁場印加工程を実施する、請求項1に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記磁場は、前記シリコン融液に対して水平の磁場分布を形成する水平磁場、又は、前記シリコン融液に対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場のいずれかである、請求項1又は2に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項4】
前記磁場は、前記シリコン融液に対して水平の磁場分布を形成する水平磁場であり、その磁場強度が1000G以上5000G以下である、請求項3に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
前記磁場は、前記シリコン融液に対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場であり、その磁場強度が300G以上1500G以下である、請求項3に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後において、前記石英ルツボの回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー(Czochralski,CZ)法による単結晶シリコンインゴットの製造方法に関し、特に、同一の石英ルツボを用いて複数本の単結晶シリコンインゴットを連続的に製造する、いわゆるマルチプリング法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンインゴットの代表的な製造方法として、チョクラルスキー法(CZ法)を挙げることができる。CZ法による単結晶シリコンインゴットの製造では、石英ルツボ内に多結晶シリコンなどのシリコン原料を充填し、チャンバ内でシリコン原料を加熱し溶融させてシリコン融液とする。次に、種結晶を石英ルツボ内のシリコン融液に接触させて、種結晶及び石英ルツボを所定の方向に回転させながら種結晶を徐々に上昇させることにより、種結晶の下方に単結晶シリコンインゴットを育成する。
【0003】
このCZ法の応用として、マルチプリング法が知られている。マルチプリング法では、1本目の単結晶シリコンインゴットを引き上げた後、同一の石英ルツボ内にシリコン原料を追加供給して溶融させ、得られたシリコン融液から2本目の単結晶シリコンインゴットの引き上げを行う。このような原料供給工程と引上げ工程とを繰り返すことにより、一つの石英ルツボから複数本の単結晶シリコンインゴットを製造する。マルチプリング法によれば、インゴット1本当たりの石英ルツボの原価コストを低減することができる。また、チャンバを解体して石英ルツボを交換する頻度を低減できるため、操業効率を向上させることができる。
【0004】
特許文献1には、マルチプリング法によって2本以上の単結晶シリコンインゴットを引き上げる際に、固液界面における温度勾配Gに対する引上げ速度Vの比V/Gを適正に制御することによって、2本以上の単結晶シリコンインゴットが各々所望の結晶品質を有するようにすることが記載されている。また、特許文献1には、各回の引上げを、磁場を印加しながら行うことによって、ルツボ内のシリコン融液の対流を制御し、シリコン融液の対流が安定していて結晶成長界面形状が良好な状態で単結晶を育成することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マルチプリング法を用いたCZ法においては、同一の石英ルツボを使い続けるため、石英ルツボの内表面の荒れに起因する単結晶の有転位化の問題がある。すなわち、使用前の石英ルツボは、全体的に二酸化ケイ素(SiO2)のアモルファス構造を有するものの、単結晶の育成の過程で、石英ルツボの内表面には、高温のシリコン融液に晒されることによってクリストバライトと呼ばれる結晶化層が局所的に生成する。クリストバライトは石英ルツボの内表面から剥がれ易く、シリコン融液に対して難溶性である。そのため、単結晶の育成中に、石英ルツボ内表面に生成したクリストバライトが一部剥離してシリコン融液へ導入されると、育成中の単結晶シリコンインゴットの固液界面に到達し、単結晶の有転位化を引き起こす。単結晶シリコンインゴットの転位が発生した部分は製品にできないため、歩留まりが低下する。
【0007】
特許文献1では、マルチプリング法を用いたCZ法において、空孔(Vacancy)が優勢なV領域、格子間シリコン(Interstitial Silicon)が優勢なI領域、及びその中間に位置する無欠陥領域N(Neutral)領域といった結晶品質を制御することに着目している。しかしながら、石英ルツボの内表面の荒れに起因する単結晶の有転位化の問題には全く着目しておらず、この問題は解消されていなかった。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、マルチプリング法を用いたCZ法において、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することで、単結晶シリコンインゴットの有転位化を抑制し、以って歩留まりを向上することが可能な、単結晶シリコンインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を進め、以下の知見を得た。すなわち、マルチプリング法で複数回の引上げを行った後の石英ルツボの内表面を評価したところ、内表面の荒れた領域(クリストバライト化した領域及びクリストバライトが剥離して凹んだ領域)の割合は、石英ルツボの上端面から離れるほど大きくなっていた。つまり、石英ルツボの内表面のうち、上端近傍の領域よりもルツボ底部に近い領域ほど荒れた領域の割合が大きいことが判明した。これは、石英ルツボの底部付近の内表面は、毎回の引上げ後に残留したシリコン融液に常に晒されているためであると思われる。
【0010】
そこで本発明者は、単結晶の育成(毎回の引上げ)中ではなく、毎回の引上げ後に残留したシリコン融液の状態を制御することによって、石英ルツボの底部付近の内表面における荒れを抑制したいとの着想を得た。具体的には、本発明者は、引き上げた単結晶シリコンインゴットをシリコン融液から切り離した後、石英ルツボ内に残留した前記シリコン融液に磁場を印加して残留したシリコン融液の対流を抑制することによって、石英ルツボの内表面とシリコン融液との反応を抑制することができることを見出した。さらに好ましくは、単結晶シリコンインゴットをシリコン融液から切り離した後、石英ルツボの回転速度を低めに設定してシリコン融液の対流を抑制することによって、石英ルツボの内表面とシリコン融液との反応をさらに抑制することができることを見出した。
【0011】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)メインチャンバ内に位置する石英ルツボ内にシリコン原料を充填する工程と、前記シリコン原料を加熱し溶融させて、前記石英ルツボ内にシリコン融液を形成する工程と、前記シリコン融液から単結晶シリコンインゴットを引き上げる工程と、前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離して、前記メインチャンバ内を上昇させて、前記メインチャンバの上方のプルチャンバに収容する工程と、前記プルチャンバから前記単結晶シリコンインゴットを取り出す工程と、をくり返し行うことにより、同一の石英ルツボを用いて複数本の単結晶シリコンインゴットを引き上げるCZ法による単結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後、前記石英ルツボ内に残留する前記シリコン融液に磁場を印加する磁場印加工程を備えることを特徴とする単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0012】
(2)前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後、前記プルチャンバに収容するまでの期間では、少なくとも前記磁場印加工程を実施する、上記(1)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0013】
(3)前記磁場は、前記シリコン融液に対して水平の磁場分布を形成する水平磁場、又は、前記シリコン融液に対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場のいずれかである、上記(1)又は(2)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0014】
(4)前記磁場は、前記シリコン融液に対して水平の磁場分布を形成する水平磁場であり、その磁場強度が1000G以上5000G以下である、上記(3)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0015】
(5)前記磁場は、前記シリコン融液に対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場であり、その磁場強度が300G以上1500G以下である、上記(3)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0016】
(6)前記単結晶シリコンインゴットを前記シリコン融液から切り離した後において、前記石英ルツボの回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下とする、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の単結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、マルチプリング法を用いたCZ法において、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することで、単結晶シリコンインゴットの有転位化を抑制し、以って歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態において用いられるシリコン単結晶引上げ装置100の構成を模式的に示す、引上げ軸Xに沿った断面図である。
【
図2】(A)~(H)は、マルチプリング法の各工程を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における単結晶シリコンインゴットの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】実施例における面荒れ率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(シリコン単結晶引上げ装置)
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態において用いられるシリコン単結晶引上げ装置100の構成について説明する。
【0020】
シリコン単結晶引上げ装置100は、メインチャンバ10、プルチャンバ11、ルツボ16、シャフト18、シャフト駆動機構20、筒状の熱遮蔽体22、筒状のヒータ24、筒状の断熱体26、シードチャック28、引上げワイヤ30、ワイヤ昇降機構32、及び一対の電磁石34を有する。
【0021】
メインチャンバ10は、内部にルツボ16が収容される有底円筒形状のチャンバである。プルチャンバ11は、メインチャンバ10と同一の中心軸を有し、メインチャンバ10の上方に設けられる、メインチャンバ10よりも小径の円筒形状のチャンバである。メインチャンバ10とプルチャンバ11との間にはゲートバルブ12が設けられ、このゲートバルブ12の開閉により、メインチャンバ10及びプルチャンバ11内の空間は、互いに連通・遮断される。プルチャンバ11の上部には、Arガスなどの不活性ガスをメインチャンバ10内に導入するガス導入口13が設けられる。また、メインチャンバ10の底部には、図示しない真空ポンプの駆動によりメインチャンバ10内の気体を吸引して排出するガス排出口14が設けられる。
【0022】
ルツボ16は、メインチャンバ10の中心部に配置され、シリコン融液Mを収容する。ルツボ16は、石英ルツボ16Aと黒鉛ルツボ16Bの二重構造を有する。石英ルツボ16Aは、シリコン融液Mを内面で直接支持する。黒鉛ルツボ16Bは、石英ルツボ16Aの外側で石英ルツボ16Aを支持する。
図1に示すように、石英ルツボ16Aの上端は黒鉛ルツボ16Bの上端よりも高くなっており、すなわち、石英ルツボ16Aの上端部は黒鉛ルツボ16Bの上端から突出している。
【0023】
シャフト18は、メインチャンバ10の底部を鉛直方向に貫通して、ルツボ16を上端で支持する。そして、シャフト駆動機構20は、シャフト18を介してルツボ16を回転させつつ昇降させる。
【0024】
熱遮蔽体22は、ルツボ16の上方に、シリコン融液Mから引き上げられる単結晶シリコンインゴットIを囲むように設けられる。具体的には、熱遮蔽体22は、逆円錐台形状のシールド本体22Aと、このシールド本体22Aの下端部から引上げ軸X側(内側)に向かって水平方向に延設された内側フランジ部22Bと、シールド本体22Aの上端部からチャンバ側(外側)に向かって水平方向に延設された外側フランジ部22Cとを有し、外側フランジ部22Cは断熱体26に固定されている。この熱遮蔽体22は、育成中のインゴットIに対する、シリコン融液M、ヒータ24、及びルツボ16の側壁からの高温の輻射熱の入射量を調整したり、結晶成長界面近傍の熱の拡散量を調整するものであり、単結晶シリコンインゴットIの中心部および外周部における引上げ軸X方向の温度勾配を制御する役割を担っている。
【0025】
筒状のヒータ24は、メインチャンバ10内でルツボ16を囲うように位置する。ヒータ24は、カーボンを素材とする抵抗加熱式ヒータであり、ルツボ16内に投入されるシリコン原料を溶融してシリコン融液Mを形成し、さらに、形成したシリコン融液Mを維持するための加熱を行う。
【0026】
筒状の断熱体26は、熱遮蔽体22の上端よりも下方で、ヒータ24の外周面とは離間して、メインチャンバ10の内側面に沿って設けられる。断熱体26は、チャンバ10内の特に熱遮蔽体22よりも下方の領域に保熱効果を付与し、ルツボ16内のシリコン融液Mを維持しやすくする機能を有する。
【0027】
ルツボ16の上方には、種結晶Sを保持するシードチャック28を下端で保持する引上げワイヤ30がシャフト18と同軸上に配置され、ワイヤ昇降機構32が、引上げワイヤ30をシャフト18と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させつつ昇降させる。
【0028】
一対の電磁石34は、メインチャンバ10の外側でルツボ16を包含する高さ範囲に、引上げ軸Xに対して左右対称に位置する。この一対の電磁石34のコイルに電流を流すことによって、シリコン融液Mに対して水平の磁場分布を形成する水平磁場を発生させることができる。なお、磁場強度はコイルに流す電流の大きさによって制御できる。
【0029】
図1では、水平磁場を発生させる一対の電磁石34を示したが、これに代えて、シリコン融液Mに対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場を発生させる電磁石を配置してもよい。カスプ磁場を発生させる電磁石の配置は、定法による。
【0030】
(マルチプリング法による単結晶シリコンインゴットの製造方法)
本発明の一実施形態による単結晶シリコンインゴットの製造方法は、上記で説明したシリコン単結晶引上げ装置100を用いて好適に実施することができる。ここで、
図2及び
図3を参照しつつ、本発明の一実施形態による単結晶シリコンインゴットの製造方法を説明する。
【0031】
[ステップS1:原料充填工程]
まず、
図2(A)に示すように、メインチャンバ10内に位置する石英ルツボ16A内に多結晶シリコンナゲットなどのシリコン原料Nを充填する。この時、ゲートバルブ12は開となり、メインチャンバ10及びプルチャンバ11内は減圧下でArガス等の不活性ガス雰囲気に維持される。また、ルツボ16は、シリコン原料が熱遮蔽体22に接触しないようにメインチャンバ10内の下方に位置する。
【0032】
[ステップS2:原料溶融工程]
次に、
図2(B)に示すように、ルツボ16内のシリコン原料をヒータ24で加熱し溶融させて、石英ルツボ16A内にシリコン融液Mを形成する。その後、ルツボ16を引き上げ開始位置まで上昇させる。この「原料溶融工程」は、ヒータ24による加熱を開始した時点から、ルツボの上昇が完了した時点までの期間と定義する。
【0033】
[ステップS3:着液工程]
次いで、ワイヤ昇降機構32によって引上げワイヤ30を下降させて、種結晶Sをシリコン融液Mに着液する。
【0034】
[ステップS4~S7:結晶育成工程]
次に、
図2(C)に示すように、シリコン融液Mから単結晶シリコンインゴットIを引き上げる。具体的には、ルツボ16および引上げワイヤ30を所定の方向に回転させながら、引上げワイヤ30を上方に引き上げ、種結晶Sの下方に単結晶シリコンインゴットIを育成する。なお、インゴットIの育成が進行するにつれて、シリコン融液Mの量は減少するが、ルツボ16を上昇させて、融液面のレベルを維持する。本明細書において「結晶育成工程」は、引上げワイヤ30の上昇を開始した時点から、インゴットIの育成が完了した時点(インゴットIをシリコン融液Mから切り離す時点)までの期間と定義する。
【0035】
結晶育成工程では、まず単結晶を無転位化するためダッシュ法によるシード絞り(ネッキング)を行い、ネック部Inを形成する(ステップS4)。次に、必要な直径のインゴットを得るためにショルダー部Isを育成し(ステップS5)、シリコン単結晶が所望の直径になったところで直径を一定にしてボディ部Ibを育成する(ステップS6)。直胴部Ibを所定の長さまで育成した後、無転位の状態で単結晶をシリコン融液Mから切り離すためにテール絞りを行い、テール部Itを形成する(ステップS7)。
【0036】
[ステップS8:メインチャンバ内でのインゴット上昇工程]
次に、
図2(D)に示すように、引き上げた単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離して、メインチャンバ10内を上昇させて、メインチャンバ10の上方のプルチャンバ11に収容する。本明細書において、「メインチャンバ内でのインゴット上昇工程」は、単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した時点から、単結晶シリコンインゴットIの全体がプルチャンバ11内に移動し、ゲートバルブ12が閉になった時点までの期間と定義する。当該工程での引上げ速度は、求められる結晶の品質特性に応じて適宜決定される。
【0037】
[ステップS9:プルチャンバ内での冷却工程]
次に、単結晶シリコンインゴットIは、ゲートバルブ12が閉となったプルチャンバ11内で、好ましくは500℃以下の取出し温度になるまで放置され、冷却される。
【0038】
[ステップS10:インゴット取出し工程]
次に、冷却した単結晶シリコンインゴットIをプルチャンバ11内から取り出す。具体的には、ゲートバルブ12は閉としたまま、プルチャンバ11が昇降旋回して、インゴットIがプルチャンバ11内を加工し、搬送台車に積載される。以上の工程を経て、1本の単結晶シリコンインゴットIが製造される。
【0039】
[ステップS11:マルチプリング法による引上げ]
本実施形態は、同一の石英ルツボ16Aを用いて複数本の単結晶シリコンインゴットIを引き上げるマルチプリング法に関する。そのため、1本目の単結晶シリコンインゴットIを取り出した後は、次の引上げを行うべく、再びステップS1に戻り、
図2(E),(F),(G),(H)に示すように、再びステップS1~S10までの工程を行い、2本目の単結晶シリコンインゴットIを製造する。これをくり返すことによって、n本の単結晶シリコンインゴットIを製造する。nは特に限定されない。ステップS11で次の引上げを行わない場合には、同一の石英ルツボ16Aによる操業を終了し、ルツボの交換を行う。
【0040】
なお、本実施形態では、1回目から(n-1)回目の結晶育成工程(S4~S7)が終了した後、次回の結晶育成工程を行うために必要となる新たなシリコン原料の充填工程(S1)を行うまでの間、石英ルツボ16A内のシリコン融液Mを維持する必要がある。よって、1回目から(n-1)回目のメインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)、プルチャンバ内での冷却工程(S9)、及びインゴット取出し工程(S10)では、ヒータ24を停止することなく、シリコン融液Mの加熱を継続する。さらに、2回目からn回目の原料充填工程(S1)でも、ヒータ24を停止することなく、シリコン融液Mの加熱を継続する。
【0041】
[磁場の印加]
本実施形態では、原料溶融工程S2の終了後、一対の電磁石34のコイルに電流を流して、シリコン融液Mに水平磁場を印加することが好ましい。この状態で、着液工程S3から結晶育成工程S4~S7までを行うことにより、単結晶の育成中にシリコン融液Mの熱対流が抑制され、融液表面近傍温度(結晶成長固液界面の温度)の経時変動が低減されるので、転位や欠陥の発生が抑制された単結晶シリコンインゴットを容易に得ることができる。結晶育成工程における水平磁場の強度は、特に限定されないが、磁場中心が通るルツボ中心位置での測定値で2000G以上5000G以下とすることが好ましい。結晶育成工程における水平磁場の強度が2000G未満の場合、固液界面近傍のシリコン融液Mの対流を制御することが困難となり、5000G超えの磁場は磁場発生装置の制約上、発生させることが困難である。
【0042】
[インゴット切り離し後の磁場印加工程]
さらに本実施形態では、単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した後、石英ルツボ16A内に残留したシリコン融液Mに水平磁場を印加する磁場印加工程を行うことが肝要である。すなわち、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)、プルチャンバ内での冷却工程(S9)、及びインゴット取出し工程(S10)の間のいずれかの期間で、当該磁場印加工程を行う。具体的には、磁場中心が残留したシリコン融液Mにかかるように水平磁場を印加する。これにより、残留したシリコン融液Mの対流を抑制し、石英ルツボ16Aの内表面とシリコン融液Mとの反応を抑制することができ、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することができる。その結果、次の結晶育成工程で製造される単結晶シリコンインゴットIの有転位化を抑制することができ、以って歩留まりを向上することができる。
【0043】
石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得る観点から、単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した後、プルチャンバ11に収容するまでの期間、すなわち、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)では、少なくとも磁場印加工程を実施することが好ましい。この場合、結晶育成工程(S4~S7)で印加している水平磁場を切ることなく、引き続きメインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)でも水平磁場を印加すればよい。
【0044】
プルチャンバ内での冷却工程(S9)での水平磁場の印加有無は特に限定されないが、石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得る観点からは、当該工程でも水平磁場を印加することが好ましい。
【0045】
インゴット取出し工程(S10)での水平磁場の印加有無は特に限定されない。石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得たい場合には、当該工程でも水平磁場を印加することができる。ただし、当該工程ではメインチャンバ10の近傍に搬送台車を位置させることから、作業の安全性を考慮して、当該工程では水平磁場の印加を行わないことが好ましい。
【0046】
磁場印加工程における水平磁場の強度は、特に限定されないが、石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果を十分に得る観点から、磁場中心が通るルツボ中心位置での測定値で1000G以上とすることが好ましく、2000G以上とすることがより好ましい。また、磁場発生装置の制約上、磁場印加工程における水平磁場の強度は、磁場中心が通るルツボ中心位置での測定値で5000G以下とすることが好ましい。
【0047】
以上では、水平磁場を印加する場合について説明したが、着液工程S3から結晶育成工程S4~S7までと、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)、プルチャンバ内での冷却工程(S9)、及びインゴット取出し工程(S10)の間のいずれかの期間で行う磁場印加工程で印加する磁場は、水平磁場に代えて、シリコン融液Mに対してカスプ型の磁場分布を形成するカスプ磁場であってもよい。
【0048】
すなわち、原料溶融工程S2の終了後、シリコン融液Mにカスプ磁場を印加してもよい。この状態で、着液工程S3から結晶育成工程S4~S7までを行うことにより、単結晶の育成中にシリコン融液Mの熱対流が抑制され、融液表面近傍温度(結晶成長固液界面の温度)の経時変動が低減されるので、転位や欠陥の発生が抑制された単結晶シリコンインゴットを容易に得ることができる。結晶育成工程におけるカスプ磁場の強度は、特に限定されないが、ルツボ壁を横切る位置での測定値で300G以上1500G以下とすることが好ましい。結晶育成工程におけるカスプ磁場の強度が300G未満の場合、固液界面近傍のシリコン融液Mの対流を制御することが困難となり、1500G超えの磁場は磁場発生装置の制約上、発生させることが困難である。
【0049】
さらに、単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した後、石英ルツボ16A内に残留したシリコン融液Mにカスプ磁場を印加する磁場印加工程を行うことが肝要である。すなわち、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)、プルチャンバ内での冷却工程(S9)、及びインゴット取出し工程(S10)の間のいずれかの期間で、当該磁場印加工程を行う。これにより、残留したシリコン融液Mの対流を抑制し、石英ルツボ16Aの内表面とシリコン融液Mとの反応を抑制することができ、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することができる。その結果、次の結晶育成工程で製造される単結晶シリコンインゴットIの有転位化を抑制することができ、以って歩留まりを向上することができる。ステップS8、S9、及びS10の各々における磁場印加の有無については、水平磁場の場合と同様である。
【0050】
磁場印加工程におけるカスプ磁場の強度は、特に限定されないが、石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果を十分に得る観点から、ルツボ壁を横切る位置での測定値で300G以上とすることが好ましい。また、磁場発生装置の制約上、冷却工程におけるカスプ磁場の強度は、ルツボ壁を横切る位置での測定値で1500G以下とすることが好ましい。
【0051】
なお、同一の石英ルツボ16Aを用いてn本の単結晶シリコンインゴットIを製造し、その後ルツボを交換する場合には、1回目から(n-1)回目のステップS8、S9、及びS10のうちのいずれかの期間内において磁場印加工程を行えばよいく、n回目のステップS8以降においては必ずしも磁場の印加を行う必要はない。磁場印加工程は、当該磁場印加工程の次の結晶育成工程における有転位化を抑制することが目的であり、n回目のステップS8の次には、同一の石英ルツボによる結晶育成工程は存在しないからである。
【0052】
[ルツボの回転]
単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した後において、ルツボの回転速度は、結晶育成工程より低くすることが好ましく、0.5rpm以上2.0rpm以下にすることが好ましい。ルツボの回転速度を2.0rpm以下とすることによって、残留したシリコン融液Mの対流を抑制し、石英ルツボ16Aの内表面とシリコン融液Mとの反応を抑制することができ、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することができる。その結果、次の結晶育成工程で製造される単結晶シリコンインゴットIの有転位化を抑制することができ、以って歩留まりを向上することができる。ルツボの回転速度が0.5rpm未満の場合、石英ルツボ16Aへのヒータ24からの熱負荷が均一になり難く、次回の引上げにおいて安定した結晶成長が困難となる。
【0053】
石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得る観点から、単結晶シリコンインゴットIをシリコン融液Mから切り離した後、プルチャンバ11に収容するまでの期間、すなわち、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程(S8)では、少なくとも上記のとおり、ルツボの回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下にすることが好ましい。
【0054】
プルチャンバ内での冷却工程(S9)におけるルツボの回転速度は特に限定されないが、石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得る観点からは、当該工程でもルツボの回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下にすることが好ましい。
【0055】
インゴット取出し工程(S10)におけるルツボの回転速度は特に限定されないが、石英ルツボの内表面の荒れを抑制する効果をより十分に得る観点からは、当該工程でもルツボの回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下にすることが好ましい。
【0056】
同一の石英ルツボ16Aを用いてn本の単結晶シリコンインゴットIを製造し、その後ルツボを交換する場合には、1回目から(n-1)回目のステップS8、S9、及びS10のうちのいずれかの期間内において上記のようにルツボの回転速度を設定すればよく、n回目のステップS8以降においては、ルツボの回転速度は特に限定されない。上記のとおりルツボの回転速度を設定するのは、次の結晶育成工程における有転位化を抑制することが目的であり、n回目のステップS8の次には、同一の石英ルツボによる結晶育成工程は存在しないからである。
【実施例】
【0057】
図1に示す構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いて、
図3に示す原料充填工程S1からインゴット取出し工程S10までを2回くり返すマルチプリング法による単結晶シリコンインゴットの製造を行った。
【0058】
まず、石英ルツボ内にシリコン原料(多結晶シリコン塊)を充填し、これを加熱し溶融させて所定量のシリコン融液を形成した。その後、シリコン融液に水平磁場を印加して、着液工程から結晶育成工程を行い、単結晶引き上げ率が80%になった時点で単結晶シリコンインゴットをシリコン融液から切り離し、1本目の単結晶シリコンインゴット(直径200mm)を製造した。その際、磁場中心が通るルツボ中心位置での水平磁場の強度は3000Gとし、ルツボの回転速度は5.0rpmとした。
【0059】
1本目の単結晶シリコンインゴットをシリコン融液から切り離した後、メインチャンバ内を上昇させて、プルチャンバに収容した。このインゴット上昇工程の期間中、石英ルツボ内に残留したシリコン融液に、磁場中心が通るルツボ中心位置での水平磁場強度が表1に示すとおりとなるように、水平磁場を印加した。すなわち、比較例では、単結晶シリコンインゴットをシリコン融液から切り離した時点で水平磁場の印加を停止し、発明例1~5では、結晶育成工程に引き続きインゴット上昇工程においても、残留したシリコン融液に水平磁場を印加し、メインバルブが閉となった時点で水平磁場の印加を停止した。その後、プルチャンバ内で単結晶シリコンインゴットを350℃以下まで冷却した後、プルチャンバ内から取り出した。また、インゴット上昇工程以降において、比較例及び発明例5においては、表1に示すように結晶育成工程におけるルツボの回転速度5.0rpmを維持してルツボの回転を継続し、発明例1~4においては、表1に示すようにルツボの回転速度を結晶育成工程のそれよりも低く設定してルツボの回転を継続した。
【0060】
続いて、1本目の単結晶シリコンインゴットの育成時と同量のシリコン融液量となるように石英ルツボ内にシリコン原料を追加充填し、これを加熱し溶融させてシリコン融液を形成した。その後、ルツボの回転速度は5.0rpmに設定し、シリコン融液に水平磁場を印加して、着液工程から結晶育成工程を行い、2本目の単結晶シリコンインゴット(直径200mm)を製造した。その際、磁場中心が通るルツボ中心位置での水平磁場の強度は3000Gとした。
【0061】
2本目の単結晶シリコンインゴットを切り離した後は、磁場の印加を停止して、
図3のステップS8以降を行い、2本目の単結晶シリコンインゴットをプルチャンバ内から取り出した。
【0062】
(面荒れ率の評価)
上記工程の後、チャンバ内から石英ルツボを回収し、内表面を上端面からルツボ底部に向かって縦方向に順次観察し、上端面からの距離と面荒れ率との関係を求めた。ここで、上端面からの距離が50mmの位置における「面荒れ率」は、上端面からの距離が50mmの位置を中心として、縦50mm(上端面からの距離25~75mm)×横50mmの領域を観察し、当該領域の面積に対する、クリストバライト化した領域及びクリストバライトが剥離して凹んだ領域の合計の面積の比率として定義される。上端面からの距離が100mm、150mm、200mm、250mm、300mmの位置における面荒れ率も、これと同様に定義される。各水準における上端面からの距離と面荒れ率との関係を
図4に示し、上端面から300mmでの面荒れ率は表1にも記載した。
【0063】
【0064】
図4及び表1に示すように、メインチャンバ内でのインゴット上昇工程で磁場を印加した発明例1~5においては、当該工程で磁場を印加しなかった比較例よりも、面荒れ率が低減していた。特に、当該工程において、水平磁場強度を2000G以上とし、かつ、ルツボ回転速度を0.5rpm以上2.0rpm以下に設定した発明例2~4においては、面荒れ率を顕著に低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の単結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、マルチプリング法を用いたCZ法において、石英ルツボの内表面の荒れを抑制することで、単結晶シリコンインゴットの有転位化を抑制し、以って歩留まりを向上することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 シリコン単結晶引上げ装置
10 メインチャンバ
11 プルチャンバ
12 ゲートバルブ
13 ガス導入口
14 ガス排出口
16 ルツボ
16A 石英ルツボ
16B 黒鉛ルツボ
18 シャフト
20 シャフト駆動機構
22 熱遮蔽体
22A シールド本体
22B 内側フランジ部
22C 外側フランジ部
24 ヒータ
26 断熱体
28 シードチャック
30 引上げワイヤ
32 ワイヤ昇降機構
34 電磁石
S 種結晶
N シリコン原料
M シリコン融液
I 単結晶シリコンインゴット
In ネック部
Is ショルダー部
Ib ボディ部
It テール部
X 引上げ軸