(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】シリコン試料の炭素濃度評価方法およびこの方法に使用される評価装置、シリコンウェーハ製造工程の評価方法、シリコンウェーハの製造方法ならびにシリコン単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20221129BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01N21/3563
H01L21/66 N
(21)【出願番号】P 2019239538
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】稲田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】梅野 繁
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-243353(JP,A)
【文献】特開2009-162667(JP,A)
【文献】特開平8-105716(JP,A)
【文献】特開2012-220212(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1786657(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0194356(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/958
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルと置換型炭素Csを実質的に含まず評価対象シリコン試料とは厚さが異なる参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルとの差スペクトルを得ること、および
得られた差スペクトルを用いて置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めること、
を含み、
前記評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルは、評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを補正した、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルであり、
前記評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルは、補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正が行われたスペクトルである、シリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項2】
補正情報取得用シリコン試料の厚さを機械加工およびエッチング処理からなる群から選択される厚さ低減処理によって薄くした後に赤外吸収スペクトルを取得することを複数回繰り返すことを更に含み、
前記相関情報は、補正情報取得用シリコン試料の厚さの変更と赤外吸収スペクトル形状の変化との相関を示す情報である、請求項1に記載のシリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項3】
前記相関情報は、ローレンツ関数によって作成された厚さ関数である、請求項1または2に記載のシリコン試料の炭素濃度測定方法。
【請求項4】
前記相関情報は、正規分布関数によって作成された厚さ関数である、請求項1または2に記載のシリコン試料の炭素濃度測定方法。
【請求項5】
前記差スペクトルを得るために用いられる評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルおよび参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルの少なくとも一方は、波数シフト補正が行われたスペクトルである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコン試料の炭素濃度測定方法。
【請求項6】
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により評価すること、および
前記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、
を含む、シリコンウェーハ製造工程の評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載の評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および
前記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、前記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に該シリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
シリコン単結晶インゴットを育成すること、
前記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により評価すること、
前記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、
決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、
を含む、シリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法に用いられる評価装置であって、
前記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
前記参照シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
前記差スペクトルを算出する手段と、
を含み、
前記差スペクトルを算出する手段は、
前記補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、前記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルに対して、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正を行う評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン試料の炭素濃度評価方法およびこの方法に使用される評価装置、シリコンウェーハ製造工程の評価方法、シリコンウェーハの製造方法ならびにシリコン単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリコン試料の不純物の評価方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体基板として使用されるシリコンウェーハには、デバイス特性の低下を引き起こす不純物汚染を低減することが望まれる。近年、シリコンウェーハに含まれる不純物として炭素が注目され、シリコンウェーハの炭素汚染を低減することが検討されている。特許文献1でも、不純物として置換型炭素が挙げられている(特許文献1の請求項5参照)。
【0005】
炭素汚染低減のためには、シリコン試料の炭素濃度を評価し、評価結果に基づき、シリコンウェーハの製造工程やシリコンウェーハを切り出すシリコン単結晶インゴットの製造工程を、製造工程で混入する炭素を低減するように管理することが望ましい。
【0006】
本発明の一態様は、シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルと置換型炭素Csを実質的に含まず評価対象シリコン試料とは厚さが異なる参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルとの差スペクトルを得ること、および
得られた差スペクトルを用いて置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めること、
を含み、
上記評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルは、評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを補正した、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルであり、
上記評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルは、補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正が行われたスペクトルである、シリコン試料の炭素濃度評価方法(以下、単に「炭素濃度評価方法」または「評価方法」とも記載する。)、
に関する。
【0008】
一形態では、上記炭素濃度評価方法は、補正情報取得用シリコン試料の厚さを機械加工およびエッチング処理からなる群から選択される厚さ低減処理によって薄くした後に赤外吸収スペクトルを取得することを複数回繰り返すことを更に含むことができ、上記相関情報は、補正情報取得用シリコン試料の厚さの変更と赤外吸収スペクトル形状の変化との相関を示す情報であることができる。
【0009】
一形態では、上記相関情報は、ローレンツ関数によって作成された厚さ関数であることができる。
【0010】
一形態では、上記相関情報は、正規分布関数によって作成された厚さ関数であることができる。
【0011】
一形態では、上記差スペクトルを得るために用いられる評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルおよび参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルの少なくとも一方は、波数シフト補正が行われたスペクトルであることができる。
【0012】
本発明の更なる態様は、
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を上記評価方法により評価すること、および
上記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、
を含む、シリコンウェーハ製造工程の評価方法(以下、「製造工程評価方法」とも記載する。)、
に関する。
【0013】
本発明の更なる態様は、
上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および
上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法、
に関する。
【0014】
本発明の更なる態様は、
シリコン単結晶インゴットを育成すること、
上記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、上記炭素濃度評価方法により評価すること、
上記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、
決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、
を含む、シリコン単結晶インゴットの製造方法、
に関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、
上記炭素濃度評価方法に用いられる評価装置であって、
上記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
上記参照シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
上記差スペクトルを算出する手段と、
を含み、
上記差スペクトルを算出する手段は、
上記補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、上記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルに対して、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正を行う評価装置、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】フーリエ変換型赤外分光光度計の構成の一例を示す。
【
図2】同一シリコン試料の厚さの変更による赤外吸収スペクトル形状の変化を示すグラフである。
【
図3】
図2に示されているスペクトルを正規化した後、各試料厚さの正規化後スペクトルと基準厚さの正規化後スペクトルとの差を示すグラフである。
【
図4】試料厚さ2100μmについて、実測値とフィッティング値とを比較した結果を示す。
【
図6】試料厚さ2100μmについて、実測値とフィッティング値とを比較した結果を示す。
【
図8】厚さ補正なしで取得された差スペクトルを示す。
【
図9】ローレンツ関数を用いた厚さ補正を行い取得された差スペクトルを示す。
【
図10】
図9に示す差スペクトルについて、厚さ補正の有無でズレ量を比較した結果を示す。
【
図11】
図9に示す差スペクトルについて、厚さ補正の有無でS/N比を比較した結果を示す。
【
図12】正規分布関数を用いた厚さ補正を行い取得された差スペクトルを示す。
【
図13】
図12に示す差スペクトルについて、厚さ補正の有無でズレ量を比較した結果を示す。
【
図14】
図12に示す差スペクトルについて、厚さ補正の有無でS/N比を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[シリコン試料の炭素濃度評価方法]
本発明の一態様は、評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルと置換型炭素Csを実質的に含まず評価対象シリコン試料とは厚さが異なる参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルとの差スペクトルを得ること、および得られた差スペクトルを用いて置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めることを含み、上記評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルは、評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを補正した、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルであり、上記評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルは、補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正が行われたスペクトルである、シリコン試料の炭素濃度評価方法に関する。
【0019】
上記炭素濃度評価方法は、評価対象シリコン試料の炭素濃度を、差スペクトルを用いて求める。
特開2009-162667号公報(特許文献1)にも、差スペクトルを用いる方法が開示されている(特開2009-162667号公報の請求項1参照)。本発明者らは、差スペクトルを用いる方法を更に改良すべく鋭意検討を重ねた結果、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について、評価対象試料とも参照シリコン試料とも異なる他のシリコン試料(補正情報取得用シリコン試料)から求めた情報に基づき補正を行うことを含む上記の新たな評価方法を見出した。この新たな評価方法によれば、評価対象シリコン試料の厚さと参照シリコン試料との厚さに違いがあっても、S/N比の高い差スペクトルを得ることが可能になるため、差スペクトルを用いる評価方法により得られる評価結果の信頼性を高めることができる。
【0020】
以下、上記炭素濃度評価方法について、更に詳細に説明する。本発明および本明細書において、特記しない限り、「炭素濃度」とは、置換型炭素Csの濃度をいうものとする。
【0021】
<評価対象シリコン試料>
上記炭素濃度評価方法の評価対象とされるシリコン試料は、例えば、シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料であることができる。例えば、シリコン単結晶インゴットからウェーハ形状に切り出した試料、またはこの試料から更に一部を切り出して得た試料を、評価に付すことができる。また、評価対象シリコン試料は、半導体基板として用いられる各種シリコンウェーハ(例えば、ポリッシュドウェーハ、エピタキシャルウェーハ等)であることもできる。また、上記シリコンウェーハは、シリコンウェーハに通常行われる各種加工処理(例えば、研磨、エッチング、洗浄等)が付されたシリコンウェーハであることもできる。シリコン試料は、n型シリコンであってもp型シリコンであってもよい。また、シリコン試料の抵抗率は特に限定されないが、フリーキャリアの影響を考慮すると、1Ωcm以上(例えば1~100000Ωcm)であることが好ましい。
【0022】
評価対象シリコン試料の厚さは、例えば1900~2100μmの範囲であることができる。評価対象シリコン試料は、参照シリコン試料とは厚さが異なるシリコン試料である。評価対象シリコン試料の厚さは、一形態では参照シリコン試料の厚さより厚く、他の一形態では参照シリコン試料の厚さより薄い。厚さの差は、例えば、30~150μmの範囲であることができるが、この範囲を上回ってもよく、下回ってもよい。本発明者らが検討を重ねる中で、シリコン試料の厚さによって赤外吸収スペクトルのスペクトル形状が変化することが判明した。本発明者らは、この厚さによるスペクトル形状の変化が、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さに違いがある場合に差スペクトルのS/N比を低下させる原因になると考えた。そして更に鋭意検討を重ねた結果、評価対象シリコン試料とも参照シリコン試料とも異なる他のシリコン試料を用いて、スペクトル形状と試料厚さとの相関情報を取得し、この相関情報に基づき補正を行うことにより、差スペクトルのS/N比を高めることが可能になることを新たに見出した。これにより、例えば、厚さの違いによる影響を低減または排除するために評価対象シリコン試料の厚さを変えずとも、参照シリコン試料と厚さが異なる評価対象シリコン試料について、差スペクトルを用いて、信頼性の高い炭素濃度評価結果を得ることが可能になる。かかる補正のための相関情報について、詳細は後述する。
【0023】
<参照シリコン試料>
上記炭素濃度評価方法は、評価対象シリコン試料の炭素濃度を、差スペクトルを用いて求める。差スペクトルを得るためには、評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルに加えて参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルを要する。参照シリコン試料は、評価対象シリコン試料とは厚さが異なるシリコン試料である。参照シリコン試料の厚さは、例えば1900~2100μmの範囲であることができる。一形態では、参照シリコン試料の厚さは、JEITA規格(EM-3503)で規定されている2000μm±10μmであることができる。
【0024】
また、参照シリコン試料は、置換型炭素Csを実質的に含まないシリコン試料である。置換型炭素Csを実質的に含まないことは、例えば、放射化分析において炭素が検出されないことによって確認することができる。放射化分析による炭素の検出下限は、一例として、2×1014atoms/cm3であることができる。炭素の検出下限が2×1014atoms/cm3の放射化分析によってシリコン試料を分析して炭素が検出されない場合、そのシリコン試料の炭素濃度は2×1014atoms/cm3未満であると確認できる。なお放射化分析では、置換型炭素とその他の炭素とは区別されない。したがって、放射化分析に関して記載する炭素濃度は、置換型炭素Csの濃度に限定されない。参照シリコン試料のその他の詳細については、評価対象シリコン試料に関する先の記載を参照できる。
【0025】
赤外吸収スペクトルは、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)による測定によって得ることができる。FT-IRにより評価対象シリコン試料を測定して得られる赤外吸収スペクトルも、FT-IRにより参照シリコン試料を測定して得られる赤外吸収スペクトルも、シリコンのフォノン吸収によるバックグラウンド成分を含む。具体的には、シリコンのフォノン吸収によるバックグラウンド成分の赤外吸収は、565~645cm-1の波数範囲にある。そのため、FT-IRにより評価対象シリコン試料を測定して得られる赤外吸収スペクトルでは、上記バックグラウンド成分の赤外吸収が、605cm-1付近の波数にピークを有する置換型炭素Csの赤外吸収と重なる。ただし、シリコンのフォノン吸収によるバックグラウンド成分を含む参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルを用いて得られる差スペクトルでは、このバックグラウンド成分の赤外吸収が置換型炭素Csのピークにおける吸光度値に与える影響を低減または排除することができる。差スペクトルの取得について、詳細は後述する。
【0026】
<FT-IRによる赤外吸収スペクトルの取得>
FT-IRによる各種シリコン試料の測定は、市販のフーリエ変換型赤外分光光度計または公知の構成のフーリエ変換型赤外分光光度計を用いて、公知の方法によって行うことができる。
図1に、フーリエ変換型赤外分光光度計の構成の一例を示す。フーリエ変換型赤外分光光度計200は、干渉計205、移動鏡206、固定鏡207、半透鏡208、光源210、試料室220、検出器230、A/D変換器(Analog-to-digital converter)240、コンピュータ250を含む。光源210および干渉計205により生成された干渉光が試料室220を通過して検出器230に到達して信号強度が検出されて電気信号となり、A/D変換器240において上記電気信号がデジタル変換され、コンピュータ250を用いてフーリエ変換等の計算処理が実施される。得られる情報は、波数領域における吸光度値(赤外吸収強度)の分布(赤外吸収スペクトル)として出力される。試料室220では、例えば、シリコン試料の表面に対して、ブリュースター角ではない入射角で干渉光を照射することができ、例えば垂直に干渉光を照射することができる。ここで「垂直」とは、完全な垂直のみに限定されず±30°程度の誤差を含む範囲も包含する意味で用いるものとする。
【0027】
<相関情報>
以下、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正を行うための相関情報について説明する。
【0028】
(補正情報取得用シリコン試料)
補正情報取得用シリコン試料は、差スペクトルを得るための評価対象シリコン試料および参照シリコン試料とは異なるシリコン試料である。補正情報取得用シリコン試料の詳細については、評価対象シリコン試料に関する先の記載を参照できる。
【0029】
(相関情報の作成)
評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正を行うための相関情報は、赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関関係を示す情報である。かかる情報を得るためには、一形態では、同じシリコン試料(単一シリコン試料)の厚さを薄くした後に赤外吸収スペクトルを取得することを複数回繰り返すことができる。この場合、補正情報取得用シリコン試料の数は1つであり、1つのシリコン試料に対して、研磨加工、研削加工等の機械加工、エッチング処理等の厚さ低減処理の1つまたは2つ以上を行って厚さを薄くすることと赤外吸収スペクトルの取得とを複数回繰り返すことができる。また、他の一形態では、同じシリコン材料から切り出された厚さが異なる複数のシリコン試料について、それぞれ赤外吸収スペクトルを取得することもできる。この場合、補正情報取得用シリコン試料の数は2つ以上である。上記のいずれの形態においても、異なる厚さについて複数の赤外吸収スペクトルを取得する際、少なくとも、参照シリコン試料の厚さと同じ厚さについて赤外吸収スペクトルを取得する。ここで参照シリコン試料の厚さを「基準厚さ」とすると、異なる厚さで取得された複数の赤外吸収スペクトルについて基準厚さでのスペクトルとの差を取ると、例えば後述する
図3に示されているように、基準厚さでのスペクトルに対して、厚さに応じてスペクトルの形状に変化が見られる。この変化を厚さの関数で表すことにより、基準厚さ(即ち評価対象シリコン試料の厚さ)との厚さの違いに起因するスペクトル形状の変化を補正可能な相関情報を作成することができる。かかる相関情報の作成のためには、厚さの異なる試料のスペクトル形状を精度よく比較するために、各厚さについて取得された赤外吸収スペクトルを、610cm
-1に強い吸収ピークを持つシリコンの2フォノン格子振動帯の吸収ピークを基準に正規化した後の正規化後スペクトルを用いることが好ましい。より好ましくは、最大強度になる波数610cm
-1での吸光度と、最小強度である波数aでの吸光度との差によってスペクトルの正規化を行うことができる。波数aは、例えば650~700cm
-1の範囲であることができる。
【0030】
補正のための相関情報は、一形態では、厚さ関数であることができる。本発明および本明細書において、「厚さ関数」とは、厚さを項に含む関数をいう。厚さ関数は、例えば、「(補正量)=(係数)×(厚さ)+(切片)」で示される一次関数であることができる。
【0031】
厚さ関数は、一形態では、ローレンツ関数によって作成することができる。より詳しくは、厚さ関数は、ローレンツ関数によるフィッティングによって得ることができる。ローレンツ関数f(x)は、下記式Aで表すことができる。式A中、xは波数、x0は最大ピーク位置、ωはピークの半値幅である。ローレンツ関数による厚さ関数の作成の一例については、後述の実施例を参照できる。
【0032】
【0033】
また、一形態では、厚さ関数は、正規分布関数によって作成することができる。より詳しくは、厚さ関数は、正規分布関数によるフィッティングによって得ることができる。正規分布関数f(x)は、下記式Bで表すことができる。式B中、xは波数、μは最大ピーク位置、σはピークの標準偏差である。正規分布関数による厚さ関数の作成の一例については、後述の実施例を参照できる。
【0034】
【0035】
<評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトル>
評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルに対して、例えば正規化した後に補正を行うことができる。正規化については、相関情報の作成における正規化に関する先の記載を参照できる。例えば、正規化後スペクトルから厚さ関数により算出される補正量を差し引き、補正量を差し引いた後のスペクトルを正規化前のスペクトルに戻すことによって、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルを得ることができる。
【0036】
<差スペクトル>
評価対象シリコン試料の炭素濃度評価を行うための差スペクトルは、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルと参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルとの差スペクトルである。測定対象シリコン試料の赤外吸収スペクトル取得時と参照シリコン試料の赤外吸収スペクトル取得時の装置条件や試料条件の相違に起因して生じ得る差スペクトルのベースライン変動を抑制する観点からは、差スペクトルは、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルおよび参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルの一方または両方に、波数シフト補正を行った後に取得することが好ましい。波数シフト補正については、例えば特開2009-162667号公報(特許文献1)を参照でき、より詳しくは同公報の段落0023~0034および実施例の記載を参照できる。
【0037】
また、以下に波数シフト補正の具体的態様について説明する。ただし、本発明は、かかる具体的態様に限定されるものではない。
【0038】
参照シリコン試料をFT-IRによって測定して得られたスペクトルについて、波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式を作成する。モデル式の一形態について、以下に説明する。
【0039】
参照シリコン試料をFT-IRによって測定して得られた赤外吸収分光データは、例えば下記式1で表される。参照シリコン試料の赤外吸収分光データは、例えばコンピュータ250(
図1参照)に記憶される。
【0040】
【0041】
式1中、xkは波数、AR(xk)は波数xkでの吸光度値である。
【0042】
また、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルの赤外吸収分光データは、例えば下記式2で表される。評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルの赤外吸収分光データは、例えばコンピュータ250(
図1参照)に記憶される。
【0043】
【0044】
式2中、AS(xk)は波数xkでの吸光度値である。
【0045】
波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式は、例えば、下記式3-1である。
【数5】
【0046】
式3-1中、
AP(xk):波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式
a1:上記の2つのスペクトルの振幅誤差を補正する差係数
a2:波数シフト補正のためのシフト量[cm-1]
a3:0次ベースラインオフセット
a4:1次ベースラインオフセット
である。モデル式AP(xk)は、具体的には、参照シリコン試料をFT-IRによって測定して得られたスペクトルAR(xk)を評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルAS(xk)に近づけるためのものであり、より具体的には、差スペクトルの算出に伴うシリコン単結晶の格子振動による630cm-1付近の歪みを抑圧するためのものである。このためには、モデル式は、波数シフト補正のためのシフト量a2を含んでいればよく、上記式3-1や下記式3-2に限定されない。
【0047】
または、波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式は、例えば、下記式3-2である。
【0048】
【0049】
式3-2中、AP(xk)、a1、a2、a3およびa4は式3-1について上記した通りである。a5はピーク強度、a6はピーク中心の波数、a7は半値幅、L(xk,a6,a7)は正規化したローレンツ型ピークシェープである。ローレンツ型ピークシェープは次式で表される。
【0050】
【0051】
次いで、波数領域Qについて、上記評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルから上記モデル式を差し引いた残差二乗和を定義する。残差二乗和は、例えば下記式4を用いて定義できる。
【0052】
【0053】
式4中、Dは、参照シリコン試料をFT-IRにより測定して得られた赤外吸収スペクトルを波数シフト補正したスペクトルを、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルから差し引いた残差二乗和である。
【0054】
式4中、波数領域Qは、xkについての和を求める波数領域である。赤外吸収スペクトルにおいて、置換型炭素Csのピークは605cm-1付近の波数に現れるため、波数領域Qは、605cm-1の近傍の範囲に設定することができ、例えば565~645cm-1の範囲に設定することができる。
一形態では、波数領域Qの下限を、589cm-1以上に設定することができ、好ましくは589cm-1に設定することができる。
波数領域Qの下限を、589cm-1以上に設定することは、以下の理由から好ましい。
FT-IRにより得られる赤外吸収スペクトルにおいて、置換型炭素Csのピークは、605cm-1付近の波数に現れる。一方、格子間酸素Oiのピークは、置換型炭素Csのピークの比較的近傍の560cm-1付近の波数に現れる。格子間酸素を含む評価対象シリコン試料について差スペクトルを得るための波数シフト量を求める際、最小二乗法によるフィッティングが格子間酸素のピークの影響を低減または排除できればフィッティングの精度を高めることができる。この点に関し、残差二乗和を定義する際の波数領域の下限を589cm-1以上に設定すれば、格子間酸素Oiのピークがフィッティングの精度に与える影響を低減または排除することができる。
評価対象シリコン試料の格子間酸素Oiの濃度(Oi濃度)は、特に限定されるものではないが、例えば、10.0×1014atoms/cm3以上(例えば10.0×1014~30.0×1017atoms/cm3)であることができる。本発明および本明細書におけるOi濃度は、旧ASTMF121-79にしたがい、FT-IRにより測定される値とする。
また、参照シリコン試料の格子間酸素Oiの濃度(Oi濃度)も特に限定されるものではないが、例えば、10.0×1014atoms/cm3以上(例えば10.0×1014~30.0×1017atoms/cm3)であることができる。参照シリコン試料のOi濃度は、評価対象シリコン試料と同程度であってもよく、同程度でなくてもよい。
波数領域Qの上限は、例えば645cm-1以下に設定することができ、640~645cm-1の範囲に設定することが好ましい。
波数領域Qは、一形態では、589~645cm-1の範囲内に設定することができる。この場合、波数領域Qは、一形態では589~645cm-1の範囲の全領域に設定することができ、他の一形態では589~645cm-1の範囲の一部領域に設定することができる。一部領域に設定する場合には、置換型炭素Csのピークの左右の領域に設定することが好ましく、例えば589~590cm-1の範囲の全領域である第一波数領域と620~645cm-1の範囲の全領域である第二波数領域とからなる波数領域Qを設定することができる。または、例えば589~591cm-1の範囲の全領域である第一波数領域と620~645cm-1の範囲の全領域である第二波数領域とからなる波数領域Qを設定することができる。
また、他の一形態では、波数領域Qは、589~640cm-1の範囲内に設定することができる。この場合、波数領域Qは、一形態では589~640cm-1の範囲の全領域に設定することができ、他の一形態では589~640cm-1の範囲の一部領域に設定することができる。一部領域に設定する場合には、置換型炭素Csのピークの左右の領域に設定することが好ましく、例えば589~591cm-1の範囲の全領域である第一波数領域と625~640cm-1の範囲の全領域である第二波数領域とからなる波数領域Qを設定することができる。または、例えば589~590cm-1の範囲の全領域である第一波数領域と625~640cm-1の範囲の全領域である第二波数領域とからなる波数領域Qを設定することができる。
【0055】
式3-1に含まれる補正のための係数a1、a2、a3、a4は、例えば、公知の最小二乗法を用い、残差二乗和を極小化する次の条件(下記式5-1)から算出することができる。
【0056】
【0057】
式3-2に含まれる補正のための係数a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、例えば、公知の最小二乗法を用い、残差二乗和を極小化する次の条件(下記式5-2)から算出することができる。
【0058】
【0059】
補正のための係数を決定する手段としては、線形最小二乗法、非線形最小二乗法等の公知の最小二乗法を適宜用いることができる。このように、差スペクトルを取得するための2つの赤外吸収分光データに基づいて、補正のための係数a1、a2、a3、a4を決定することができる。こうして、上記残差二乗和を極小化する波数シフト量を最小二乗法により求めることができる。
【0060】
こうして求められた波数シフト量を上記モデル式の上記シフト量として、上記モデル式から、参照シリコン試料をFT-IRによって測定して得られた赤外吸収スペクトルに対して波数シフト補正を行うことができる。例えば、上記式3-1に、決定された係数a1、a2、a3、a4を代入した式として、波数シフト補正されたスペクトルを表す式を得ることができる。または、例えば、上記式3-2に、決定された係数a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7を代入した式として、波数シフト補正されたスペクトルを表す式を得ることができる。
【0061】
評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めるための差スペクトルは、例えば、上記で決定された係数a1、a2、a3、a4の値や係数a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7の値を用い、下記式6で表される差スペクトルとして得られる。
【0062】
【0063】
上記では、フィッティングを行い差スペクトルを取得する例について説明した。他の例としては、評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルに応じて、参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルに係数を掛けたうえで、「(差スペクトル)=(評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトル)-K×(参照シリコン試料の赤外吸収スペクトル)」により、差スペクトルを取得する例を挙げることもできる。ここで、評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルとは、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルである。また、評価対象シリコン試料の赤外吸収スペクトルおよび参照シリコン試料の赤外吸収スペクトルの一方または両方が、波数シフト補正が行われたスペクトルであることもできる点は、先の例と同様である。Kは、換算係数であり、例えば、「(評価対象シリコン試料の厚さ)/(参照シリコン試料の厚さ)」として算出される値であることができる。
【0064】
<炭素濃度の評価>
上記炭素濃度評価方法では、以上のように得られた差スペクトルを用いて置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から、評価対象シリコン試料の炭素濃度を求める。置換型炭素Csのピークは605cm-1付近の波数に現れる。したがって、605cm-1付近で最も吸光度値が大きい位置をピーク位置と決定することができる。差スペクトルを用いて評価対象元素固有のピーク位置の吸光度値から評価対象元素の濃度を求める手法は公知である。例えば、上記で得られた差スペクトルそのものにおける置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から、評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めることができる。または、Csピーク位置の特定の精度を高めるために、差スペクトルを、最小二乗法等の公知の方法によりフィッティングして得られたフィッティング後の差スペクトルにおける置換型炭素Csのピーク位置の吸光度値から、評価対象シリコン試料の炭素濃度を求めることもできる。
【0065】
[評価装置]
また、本発明の一態様によれば、
上記炭素濃度評価方法に用いられる評価装置であって、
上記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
上記参照シリコン試料を測定して得られたスペクトルを記憶する手段と、
上記差スペクトルを算出する手段と、
を含み、
上記差スペクトルを算出する手段は、
上記補正情報取得用シリコン試料について取得された赤外吸収スペクトルのスペクトル形状と試料厚さとの相関情報によって、上記評価対象シリコン試料を測定して得られたスペクトルに対して、評価対象シリコン試料と参照シリコン試料との厚さの差について補正を行う評価装置、
も提供される。上記の差スペクトルを算出する手段は、算出した差スペクトルを出力する機能を更に備えることができる。
【0066】
また、上記の差スペクトルを算出する手段は、先に記載した波数シフト補正を行うために、
上記参照シリコン試料を測定して得られたスペクトルについて、波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式を作成すること、
波数領域Qについて、評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルから上記モデル式を差し引いた残差二乗和を定義すること、
上記残差二乗和を極小化する波数シフト量を最小二乗法により求めること、
上記求められた波数シフト量を上記モデル式の上記シフト量として、上記モデル式により、参照シリコン試料を測定して得られたスペクトルに波数シフト補正を行うこと、および
評価対象シリコン試料の厚さ補正済スペクトルと参照シリコン試料の波数シフト補正済スペクトルとの差スペクトルを得ること、
を行うこともできる。
【0067】
上記各種手段における各種データ処理は、コンピュータプログラムを用いて自動的に実施することができる。例えば、コンピュータ250(
図1)においてコンピュータプログラムを実行することにより、自動的に実施することができる。
【0068】
[シリコンウェーハ製造工程の評価方法およびシリコンウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を上記炭素濃度評価方法により評価すること、および、上記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、を含むシリコンウェーハ製造工程の評価方法に関する。
【0069】
また、本発明の一態様は、上記シリコンウェーハ製造工程の評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、を含むシリコンウェーハの製造方法に関する。
【0070】
上記製造工程評価方法における評価対象のシリコンウェーハ製造工程は、製品シリコンウェーハを製造する一部の工程または全部の工程であることができる。製品シリコンウェーハの製造工程は、一般に、シリコン単結晶インゴットからのウェーハの切り出し(スライシング)、研磨やエッチング等の表面処理、洗浄工程、更にウェーハの用途に応じて必要により行われる後工程(エピタキシャル層形成等)を含む。これらの各工程および各処理はいずれも公知である。
【0071】
シリコンウェーハの製造工程では、製造工程で用いられる部材とシリコンウェーハとの接触等により、シリコンウェーハに炭素汚染が発生し得る。評価対象の製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を評価して炭素汚染の程度を把握することにより、評価対象のシリコンウェーハ製造工程に起因して製品シリコンウェーハに炭素汚染が発生する傾向を把握することができる。即ち、評価対象の製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度が高いほど、評価対象の製造工程において炭素汚染が発生し易い傾向があると判定することができる。したがって、例えば、あらかじめ炭素濃度の許容レベルを設定しておき、評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハについて求められた炭素濃度が許容レベルを超えたならば、評価対象の製造工程を、炭素汚染発生傾向が高く製品シリコンウェーハの製造工程としては使用不可と判定することができる。そのように判定された評価対象のシリコンウェーハ製造工程は、炭素汚染低減処理を施した後に製品シリコンウェーハの製造に用いることが好ましい。この点の詳細は、更に後述する。
【0072】
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度は、本発明の一態様にかかる上記炭素濃度評価方法によって求められる。上記炭素濃度評価方法の詳細は、先に詳述した通りである。炭素濃度評価に付すシリコンウェーハは、評価対象のシリコンウェーハ製造工程で製造された少なくとも1枚のシリコンウェーハであり、2枚以上のシリコンウェーハであってもよい。2枚以上のシリコンウェーハの炭素濃度を求めた場合には、例えば、求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、評価対象のシリコンウェーハ製造工程の評価のために用いることができる。また、シリコンウェーハは、ウェーハ形状のまま炭素濃度評価に付してもよく、その一部を切り出して炭素濃度評価に付してもよい。1枚のシリコンウェーハから2つ以上の試料を切り出して炭素濃度評価に付す場合、2つ以上の試料について求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、そのシリコンウェーハの炭素濃度として決定することができる。
【0073】
上記シリコンウェーハの製造方法の一態様では、上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行い、評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程においてシリコンウェーハを製造する。これにより、炭素汚染レベルが低い高品質なシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することが可能となる。また、上記シリコンウェーハの製造方法の他の一態様では、上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行い、評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程においてシリコンウェーハを製造する。これにより、製造工程に起因する炭素汚染を低減することができるため、炭素汚染レベルが低い高品質なシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することが可能となる。上記の許容レベルは、製品ウェーハに求められる品質に応じて適宜設定することができる。また、炭素汚染低減処理とは、シリコンウェーハ製造工程に含まれる部材の交換、洗浄等を挙げることができる。一例として、シリコンウェーハの製造工程においてシリコンウェーハを載置する部材であるサセプタとしてSiC製サセプタを用いる場合、繰り返し使用されたサセプタの劣化により、サセプタとの接触部分が炭素汚染されることが起こり得る。このような場合には、例えばサセプタを交換することによりサセプタ起因の炭素汚染を低減することができる。
【0074】
[シリコン単結晶インゴットの製造方法]
本発明の一態様は、シリコン単結晶インゴットを育成すること、上記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、上記炭素濃度評価方法により評価すること、上記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、を含むシリコン単結晶インゴットの製造方法に関する。
【0075】
シリコン単結晶インゴットの育成は、CZ法(チョクラルスキー法)、FZ法(浮遊帯域溶融(Floating Zone)法)等の公知の方法により行うことができる。例えば、CZ法により育成されるシリコン単結晶インゴットには、原料ポリシリコンの混入炭素、育成中に発生するCOガス等に起因して、炭素が混入する可能性がある。このような混入炭素濃度を評価し、評価結果に基づき製造条件を決定することは、炭素の混入が抑制されたシリコン単結晶インゴットを製造するために好ましい。そのために混入炭素濃度を評価する方法として、本発明の一態様にかかる上記炭素濃度評価方法は好適である。
【0076】
シリコン単結晶インゴットから切り出されるシリコン試料の形状等の詳細については、上記炭素濃度評価方法の評価対象シリコン試料に関する先の記載を参照できる。炭素濃度評価に付されるシリコン試料の数は、少なくとも1つであり、2つ以上であってもよい。2つ以上のシリコン試料の炭素濃度を求めた場合には、例えば、求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、シリコン単結晶インゴットの製造条件決定のために用いることができる。例えば、得られた炭素濃度が、あらかじめ定めた許容レベルであった場合には、炭素濃度を評価したシリコン試料を切り出したシリコン単結晶インゴットを育成した際の製造条件においてシリコン単結晶インゴットを育成することにより、炭素汚染が少ないシリコン単結晶インゴットを製造することができる。他方、例えば、得られた炭素濃度が許容レベルを超えた場合には、炭素濃度を低減するための手段を採用して決定された製造条件の下でシリコン単結晶インゴットを育成することにより、炭素汚染が少ないシリコン単結晶インゴットを製造することが可能となる。炭素汚染を低減するための手段としては、例えば、CZ法については、下記手段(1)~(3)の1つ以上を採用することができる。また、例えば、FZ法については、下記手段(4)~(6)の1つ以上を採用することができる。
(1)原料ポリシリコンとしてより炭素混入の少ない高グレード品を使用すること。
(2)ポリシリコン融液へのCO溶解を抑制するために引き上げ速度および/または結晶引き上げ時のアルゴン(Ar)ガス流量を適切に調整すること。
(3)引き上げ装置に含まれる炭素製部材の設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
(4)シリコン原料として、より炭素混入の少ない高グレード品を使用すること。
(5)単結晶製造装置内に導入するガス流量を多くすることによって雰囲気ガスからの炭素の取り込みを抑制すること。
(6)単結晶製造装置に含まれる炭素含有材料製の部材の交換、部材の設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
【0077】
こうして本発明の一態様によれば、低炭素濃度のシリコン単結晶インゴットおよびシリコンウェーハを提供することができる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
以下に記載の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換型赤外分光光度計としてナノメトリクス社FT-IR QS-1200HP(試料表面への干渉光の入射角はブリュースター角ではない。)を用いて、透過法によって取得した。解析およびフィッティングは、市販の解析ソフトにより実施した。
以下に記載の厚さは、マイクロメーターにより測定した値である。
【0079】
1.各種シリコン試料の準備
異なる製造条件下でCZ法により育成された3つのシリコン単結晶インゴットA、B、Cからそれぞれウェーハを切り出し各種加工を施してポリッシュドウェーハ(ボロンドープp型シリコン、抵抗率:10~12Ωcm)を準備した。
インゴットAから準備したウェーハは、厚さ2100μmのウェーハであり、以下では「試料A」と呼ぶ。
インゴットBからは、1940~2100μmの範囲で厚さが異なる複数のウェーハを得た。インゴットBから得られたウェーハを、以下では「試料B」と呼ぶ。
インゴットCから準備したウェーハは、厚さ2000μmのウェーハであり、以下では「試料C」と呼ぶ。
試料A、BおよびCの各ウェーハについて、1枚のウェーハから2つの試料片を切り出し、1つは下記のFT-IRによる炭素濃度評価に付し、他の1つは放射化分析による炭素濃度測定に付した。試料AおよびBについては放射化分析において炭素が検出されたのに対し、試料Cについては放射化分析において炭素は検出されなかった。ここで行われた放射化分析の炭素の検出下限は、2×1014atoms/cm3である。
以下では、試料Aを補正情報取得用シリコン試料、試料Bを評価対象シリコン試料、試料Cを参照シリコン試料として使用した。
【0080】
2.FT-IRによる試料A(補正情報取得用シリコン試料)の赤外吸収スペクトル取得
FT-IRによって試料A(厚さ2100μm)の赤外吸収スペクトルを取得した。
その後、試料Aを20μmずつ研磨し、各厚さでの赤外吸収スペクトルを取得した。こうして取得された赤外吸収スペクトルを、
図2に示す。
図2中、下方に示したスペクトルは、上方に示したスペクトルの一部を拡大したものである。試料が薄くなるほど吸収ピークが小さくなり、スペクトル形状が変化することが確認された。
【0081】
3.ローレンツ関数を用いた相関情報の作成
次に、
図2に示されている各厚さのスペクトルについて、波数610cm
-1での吸光度と波数700cm
-1での吸光度との差でスペクトルの正規化を行い、厚さ2000μm(基準厚さ)のときの正規化後スペクトルを基準として、各厚さでの正規化後スペクトルとの差を取った。その結果を、
図3に示す。
図3に示されているように、厚さ2000μm(基準厚さ)のスペクトルに対して、各厚さでスペクトルの形状に違いが見られた。
こうして試料Aから得られた
図3の結果に対して、先の式A(ローレンツ関数)を使用してフィッティングを行い、推定値を求めた。詳しくは、フィッティングは、以下の式C1または式C2により行った。ここでは、波数が590cm
-1≦x<610cm
-1の範囲では式C1、波数が610cm
-1≦x<640cm
-1の範囲ではC2を用いたが、これに限定されるものではない。
【0082】
【0083】
【0084】
式中、y
1、y
2はフィッティング関数であり、a、b、c(c
2、c
3、c
4、c
5)は換算係数である。c、x
0、ωとしては、基準厚さからの厚さの差が最も大きい2100μmでの実測値(
図3の結果)から算出した値を用いた。
図4に、厚さ2100μmでの実測値と推定値との比較を示す。実測値と推定値とがほぼ一致していることが確認できる。このときの換算係数a、bは、a=-0.000515877677241798、b=-0.00199696950155049となった。同じようにして各厚さでの実測値にフィッティングして換算係数aおよびbを決定したところ、表1に示すように式C1および式C2について各パラメータ値を得ることができ、
図5に示すように換算係数a、bを厚さ関数として得ることができた。
【0085】
【0086】
4.正規分布関数を用いた相関情報の作成
先に示した式B(正規分布関数)を使用してフィッティングを行った点以外、上記3と同様の方法で、厚さ関数を得た。詳しくは、フィッティングは、以下の式D1または式D2により行った。ここでは、波数が590cm-1≦x<610cm-1の範囲では式D1、波数が610cm-1≦x<640cm-1の範囲ではD2を用いたが、これに限定されるものではない。
【0087】
【0088】
【0089】
式中、y
3、y
4はフィッティング関数であり、a、b、c(c
7、c
8、c
9、c
10)は換算係数である。c、μ、σとしては、基準厚さからの厚さの差が最も大きい2100μmでの実測値(
図3の結果)から算出した値を用いた。
図6に、厚さ2100μmでの実測値と推定値との比較を示す。実測値と推定値とがほぼ一致していることが確認できる。このときの換算係数a、bは、a=-0.00585937630307596、b=-0.0236113383956379となった。同じようにして各厚さでの実測値にフィッティングして換算係数aおよびbを決定したところ、表2に示すように式D1および式D2について各パラメータ値を得ることができ、
図7に示すように換算係数a、bを厚さ関数として得ることができた。
【0090】
【0091】
5.FT-IRによる試料B(評価対象シリコン試料)および試料C(参照シリコン試料)の赤外吸収スペクトル取得
FT-IRによって試料Bおよび試料Cの赤外吸収スペクトルを取得した。
試料Bとしては、1940μm、1960μm、1980μm、2020μm、2040μm、2060μm、2080μm、2100μmの各厚さの試料を使用した。また、これら試料とは別に、対比のために、基準厚さと同じ厚さ2000μmの試料Bについても赤外吸収スペクトルを取得した。
【0092】
6.厚さ補正なしでの差スペクトルの取得(比較例)
試料C(参照シリコン試料)の上記5で得られたスペクトル(以下、「参照スペクトル」と記載する。)の赤外吸収分光データを、先に説明した下記式1により表す。
【0093】
【0094】
試料B(評価対象シリコン試料)の上記5で得られたスペクトル(以下、「試料スペクトル1」と記載する。)の赤外吸収分光データを、先に説明した下記式2により表す。
【0095】
【0096】
参照スペクトルについて、波数シフト補正のためのシフト量を含む補正参照スペクトルのモデル式を、先に説明した下記式3-2により作成した。
【数18】
【0097】
ここで、
AP(xk):波数シフト補正のためのシフト量を含むスペクトルのモデル式
a1:参照スペクトルと試料スペクトル1の振幅誤差を補正する差係数
a2:波数シフト補正のためのシフト量[cm-1]
a3:0次ベースラインオフセット
a4:1次ベースラインオフセット
a5:ピーク強度
a6:ピーク中心の波数
a7:半値幅
L(xk,a6,a7):先に示した式で表される正規化したローレンツ型ピークシェープ
【0098】
波数領域Qについて、上記試料スペクトル1から上記モデル式を差し引いた残差二乗和を、先に説明した下記式4を用いて定義した。
【0099】
【0100】
ここで、Dは、試料スペクトル1から参照スペクトルを波数シフト補正したスペクトルを差し引いた残差二乗和である。ここでは、波数領域Qを、589~590cm-1の範囲の全領域と620~645cm-1の範囲の全領域とからなる領域とした。
【0101】
ローレンツ型のピークシェイプに最小二乗法を用いてフィッティングする際に残差二乗和を極小化する係数a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7を、先に記載した下記式5-2から算出した。
【0102】
【0103】
上記により決定された係数a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7を、上記式3-2に代入した式として、参照スペクトルを波数シフト補正したスペクトルを表す式を得た。
【0104】
先に説明した下記式6により、試料スペクトル1と参照スペクトルを波数シフト補正したスペクトルとの差スペクトルを表す式を得た。
図8に、各厚さの試料Bについて、こうして得られた差スペクトルを示す。
【数21】
【0105】
7.ローレンツ関数を用いた厚さ補正ありでの差スペクトルの取得(実施例)
(1)試料B(評価対象シリコン試料)の上記5で得られたスペクトル(試料スペクトル1)について、波数610cm
-1での吸光度と波数700cm
-1での吸光度との差でスペクトルの正規化を行った。
(2)上記(1)で正規化したスペクトルから補正量を差し引いたスペクトルを作成した。補正量としては、波数が590cm
-1≦x<610cm
-1の範囲では換算係数aの厚さ関数から算出された値を使用し、波数が610cm
-1≦x<640cm
-1の範囲では換算係数bの厚さ関数から算出された値を使用した。
(3)上記(2)で作成したスペクトルを正規化前のスペクトルに戻した。こうして得られたスペクトルは、試料Bの厚さ補正済スペクトルであり、以下では「試料スペクトル2」と呼ぶ。
(4)試料スペクトル1に代えて試料スペクトル2を使用した点以外、上記5と同様の方法で差スペクトルを得た。
図9に、各厚さの試料Bについて、こうして得られた差スペクトルを示す。
【0106】
上記(4)で得られた各厚さの差スペクトルを、上記(4)で得られた厚さ2000μm(即ち参照シリコン試料と同じ厚さ)の差スペクトルと対比し、厚さ2000μmの差スペクトルからのズレ量を求め、各厚さについて、厚さ補正の有無でズレ量を比較した。結果を
図10に示す。
【0107】
ベースライン範囲(Csピーク領域である590~620cm
-1を除いた波数範囲)で差スペクトルの標準偏差σを算出し、「Csピークの高さ/σ」をS/N比として算出し、各厚さについて、厚さ補正の有無でS/N比を比較した。結果を
図11に示す。
【0108】
8.正規分布関数を用いた厚さ補正ありでの差スペクトルの取得(実施例)
厚さ関数として、上記4で正規分布関数を用いて得られた厚さ関数を使用した点以外、上記7と同様の方法で差スペクトルを得た。
図12に、各厚さの試料Bについて、こうして得られた差スペクトルを示す。
こうして得られた各厚さの差スペクトルについて、上記7と同様に厚さ2000μmの差スペクトルからのズレ量を求め、各厚さについて厚さ補正の有無でズレ量を比較した結果を
図13に示す。
また、こうして得られた各厚さの差スペクトルについて、上記7と同様にS/N比を算出し、各厚さについて、厚さ補正の有無でS/N比を比較した結果を
図14に示す。
【0109】
図10、
図11、
図13、
図14に示す結果から、上記3または4で得られた相関情報によって厚さ補正を行うことにより、参照シリコン試料と厚さが異なる評価対象試料について、厚さの違いによる影響を低減することができ、S/N比の高い差スペクトルを得ることが可能となったことが確認できる。
こうして得られた差スペクトルにおけるCsのピーク位置(波数:605cm
-1)での吸光度値から評価対象シリコン試料の炭素濃度を算出すれば、参照シリコン試料との厚さの違いの影響が低減された、信頼性の高い炭素濃度評価を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、シリコン単結晶インゴットおよびシリコンウェーハの技術分野において有用である。