(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221129BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20221129BHJP
C11D 1/34 20060101ALI20221129BHJP
C11D 1/06 20060101ALI20221129BHJP
C11D 1/29 20060101ALI20221129BHJP
C11D 3/33 20060101ALI20221129BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L21/304 647B
H01L21/304 622Q
C11D17/08
C11D1/34
C11D1/06
C11D1/29
C11D3/33
C11D3/20
(21)【出願番号】P 2019548182
(86)(22)【出願日】2018-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2018037429
(87)【国際公開番号】W WO2019073931
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017196812
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017204135
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 憲
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】竹下 寛
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/025373(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076034(WO,A1)
【文献】特表2016-536392(JP,A)
【文献】特開2012-074678(JP,A)
【文献】国際公開第2007/072727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 17/08
C11D 1/34
C11D 1/06
C11D 1/29
C11D 3/33
C11D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤(A)及びキレート剤(C)を含む洗浄液であって、
pHが8以上であり、
前記界面活性剤(A)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含
み、
コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面の洗浄に用いる、洗浄液。
【請求項2】
界面活性剤(A)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を含む、請求項1に記載の洗浄液。
【請求項3】
更に、pH調整剤(D)を含む、請求項1又は2に記載の洗浄液。
【請求項4】
酸化剤(B)及びキレート剤(C)を含む洗浄液であって、
pHが8以上であ
り、
更に、pH調整剤(D)を含み、
コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面の洗浄に用いる、洗浄液。
【請求項5】
酸化剤(B)の含有率が、0.00001質量%~0.8質量%である、請求項
4に記載の洗浄液。
【請求項6】
キレート剤(C)が、アミノ酸及びポリカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項7】
アミノ酸が、セリン及びアスパラギン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
6に記載の洗浄液。
【請求項8】
ポリカルボン酸が、酒石酸を含む、請求項
6に記載の洗浄液。
【請求項9】
キレート剤(C)とpH調整剤(D)との質量比が、1:1.5~1:8である、請求項
3~8のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項10】
化学的機械的研磨後洗浄又はポストエッチ洗浄に用いる、請求項1~9のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する洗浄方法。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハは、シリコン基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下、「CMP」と略す場合がある。)工程によって表面の平坦化処理を行い、平坦になった面の上に新たな層を積み重ねていくことで製造される。半導体ウェハの微細加工は、各層において精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性は非常に高い。
【0003】
半導体ウェハは、銅若しくは銅合金を有する配線とバリアメタルからなる配線とを有する配線層、並びに、トランジスタとその配線層とを電気的に接続するコンタクトプラグを有するコンタクトプラグ層を有し、それぞれ同様の工程で配線層又はコンタクトプラグ層を基板上に形成し、同様にCMPによって平坦化される。
【0004】
CMP工程後の半導体ウェハ表面には、CMP工程で使用された研磨剤に由来するコロイダルシリカ等の砥粒や防食剤由来の有機残渣等が多量に存在することから、これらを除去するために、CMP工程後の半導体ウェハは、洗浄工程に供される。
【0005】
半導体集積回路は、日々性能向上が求められており、積極的に開発が進められている。性能向上の1つの道筋として、トランジスタ、コンタクトプラグ及び配線構造の微細化が挙げられる。性能向上を実現させるために、各層において新たな金属が適用されている。
【0006】
配線層において、銅イオンが絶縁膜層に拡散してしまうことを防ぐため、Ta/TaN(タンタル/窒化タンタル)がバリアメタルとして銅配線層の外側に使用されていたが、銅配線の微細化に伴い、Ta/TaN層も薄くする必要性がでてきた。しかしながら、Ta/TaN層を薄くすると、銅イオン拡散のバリア性に問題が出るため、この層を薄くすることには限界がある。そのバリア性を補うために、コバルト、ルテニウム及びそれらの合金が、候補材料として検討されている。コバルトやルテニウムをTa/TaNと併用することで、バリアメタル層を更に薄くすることが可能となり、配線構造の更なる微細化が実現できる。
【0007】
また、コンタクトプラグ層において、従来用いられていた銅、タングステン又はタングステン合金を配線又はコンタクトプラグの材料として用いると、微細化に伴う抵抗値の増加による信号遅延が問題となる。そのため、電子の平均自由工程が短いコバルト又はコバルト合金からなる配線又はコンタクトプラグが導入され始めている。同時に、コバルト又はコバルト合金が露出している面を洗浄するための様々な洗浄液が提案され始めている。
【0008】
半導体ウェハの洗浄に使用する洗浄液として、例えば、特許文献1~7に記載の洗浄液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特表2008-528762号公報
【文献】日本国特表2010-515246号公報
【文献】日本国特表2013-533631号公報
【文献】日本国特表2015-512959号公報
【文献】日本国特開2016-21573号公報
【文献】日本国特開2012-74678号公報
【文献】国際公開第2007/72727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、銅とコバルトや銅とルテニウムが接している状態では、それぞれのイオン化傾向が異なることから、電池効果によって卑な金属が酸化・溶解され、腐食が引き起こされる。この腐食は、Galvanic腐食と呼ばれ、銅とコバルトの組み合わせではコバルトが酸化・溶解され、銅とルテニウムでは銅が酸化・溶解される。従来、バリアメタルに用いていたTa/TaNも銅に比べて卑な金属であったが、Taは、表面に不動態である酸化膜を形成することから、Glavanic腐食は起こらず、課題となっていなかった。しかしながら、先端世代のデバイスでは配線が細くなっていることから、これまで課題とならなかったような微細な腐食であっても深刻な動作不良を起こしてしまう危険性があり、Galvanic腐食は、その動作不良の危険性を著しく引き上げてしまう。
また、CMP工程後やエッチング工程後の半導体ウェハの表面には、金属から溶出した誘導体等の微量金属分も残渣として存在しており、これらの残渣については、キレート剤等で溶解して除去することができる。しかしながら、このキレート剤が、半導体ウェハの表面の金属に対して腐食や酸化劣化を引き起こすことがあった。この残渣成分や、腐食や酸化劣化のメカニズムは、半導体ウェハの表面に露出している金属種によって異なる。
特許文献1~5では、洗浄対象としてコバルトが挙げられているものの、後述する特定の界面活性剤について開示されておらず、後述する特定の界面活性剤をコバルト又はコバルト合金の腐食抑制の目的として使用することも開示されていない。
【0011】
また、特許文献1~5では、洗浄対象としてコバルトが挙げられているものの、酸化剤について開示されておらず、酸化剤をコバルト又はコバルト合金の腐食抑制の目的として使用することも開示されていない。
【0012】
更に、特許文献6では、洗浄対象としてコバルトが挙げられており、後述する特定の界面活性剤について開示されているものの、pHを8以上にすることについて開示されておらず、pHを8以上にすることについてコバルト又はコバルト合金の腐食抑制の目的とすることも開示されていない。
【0013】
そして、特許文献7では、洗浄対象としてコバルトが挙げられており、酸化剤について開示されているものの、pHを8以上にすることについて開示されておらず、pHを8以上にすることについてコバルト又はコバルト合金の腐食抑制の目的とすることも開示されていない。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を有する洗浄液を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を有する洗浄液を用いた半導体ウェハの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従前、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄に用いる界面活性剤は、ゼータ電位の制御を目的として用いられてきた。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、後述する特定の界面活性剤が、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を十分発揮できることを見出した。
【0016】
また、従前、酸化剤は、金属を酸化させ、金属の腐食を引き起こす原因と考えられていた。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、酸化剤によりコバルト又はコバルトを含む化合物表面に酸化膜が形成され、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食防止に有効に働くことを見出し、さらに、酸化剤を含む洗浄液が、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を十分発揮できることを見出した。
【0017】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]界面活性剤(A)及びキレート剤(C)を含む洗浄液であって、
pHが8以上であり、
前記界面活性剤(A)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、洗浄液。
[2]界面活性剤(A)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を含む、[1]に記載の洗浄液。
[3]酸化剤(B)及びキレート剤(C)を含む洗浄液であって、
pHが8以上である、洗浄液。
[4]酸化剤(B)の含有率が、0.00001質量%~0.8質量%である、[3]に記載の洗浄液。
[5]キレート剤(C)が、アミノ酸及びポリカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1に記載の洗浄液。
[6]アミノ酸が、セリン及びアスパラギン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[5]に記載の洗浄液。
[7]ポリカルボン酸が、酒石酸を含む、[5]に記載の洗浄液。
[8]更に、pH調整剤(D)を含む、[1]~[7]のいずれか1に記載の洗浄液。
[9]キレート剤(C)とpH調整剤(D)との質量比が、1:1.5~1:8である、[8]に記載の洗浄液。
[10]化学的機械的研磨後洗浄又はポストエッチ洗浄に用いる、[1]~[9]のいずれか1に記載の洗浄液。
[11]コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面の洗浄に用いる、[1]~[10]のいずれか1に記載の洗浄液。
[12][1]~[10]のいずれか1に記載の洗浄液の、コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している半導体ウェハの洗浄への使用。
[13][1]~[11]のいずれか1に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する洗浄方法。
[14][1]~[11]のいずれか1に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む半導体ウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の洗浄液は、CMP工程後やエッチング工程後の半導体ウェハの洗浄工程において、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を有する。本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄やポストエッチ洗浄の洗浄効果を有する本発明の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄するため、半導体デバイスの動作不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例2-1~2-9及び比較例2-1におけるpHに対するエッチレートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0021】
(洗浄液)
本発明の一態様に係る洗浄液は、界面活性剤(A)及びキレート剤(C)を含む。また、本発明の他の態様に係る洗浄液は、酸化剤(B)及びキレート剤(C)を含む。以下、各成分について詳述する。
【0022】
(界面活性剤(A))
界面活性剤(A)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である。界面活性剤(A)は、これらの界面活性剤の中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を界面活性剤として用いることで、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、半導体ウェハ上の残渣を低減することができる。
【0024】
界面活性剤(A)におけるアルキル基は、疎水性であり、半導体ウェハの表面に配向する。リン酸、酢酸、スルホン酸で表される官能基はコバルト又はコバルトを含む化合物に配位可能であることから、この界面活性剤が半導体ウェハ表面に露出しているコバルト又はコバルトを含む化合物に配位し、防食剤として作用することでコバルト又はコバルトを含む化合物表面で腐食が抑制される。一方、オキシアルキレン基は、親水性であり、半導体ウェハ表面には配向されず、水との親和性を示す。そのため、本発明における界面活性剤は、コバルト又はコバルトを含む化合物に対して防食効果を示すが、洗浄工程後のリンス工程にてウェハ表面に残らず洗い流すことができ、これにより十分な洗浄効果が発揮できていると考えられる。
【0025】
界面活性剤(A)におけるアルキル基としては、炭素数8以上のアルキル基が好ましく、直鎖であっても分岐があっても環が含まれてもよい。
アルキル基の炭素数は、8~24が好ましく、8~20がより好ましく、12~18が更に好ましい。アルキル基の炭素数が8以上であると、界面活性剤の疎水性が増し、半導体ウェハの表面上に吸着しやすくなる。アルキル基の炭素数が24以下であると、洗浄工程後のリンス工程にて、界面活性剤の除去を容易に行うことができる。
【0026】
界面活性剤(A)におけるリン酸基、酢酸基、スルホン酸基のうち、コバルトへの配位作用や防食効果が強いことから、リン酸基、スルホン酸基が好ましく、界面活性剤自体の製造が容易であることから、リン酸基がより好ましい。
【0027】
界面活性剤(A)におけるオキシアルキレン基としては、エチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基が好ましい。エチレンオキサイド基もプロピレンオキサイド基も、親水性を示すことから、コバルト又はコバルトを含む化合物への作用は小さく、界面活性剤が有する防食性能への影響は小さい。親水性が高いことから、エチレンオキサイド基が特に好ましい。
【0028】
界面活性剤(A)におけるオキシアルキレン基の繰り返し数としては、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、2~10が更に好ましい。繰り返し数が小さいと界面活性剤の疎水性が強くなり、半導体デバイスウェハ表面への吸着作用が強くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は強くなる。繰り返し数が大きいと界面活性剤の親水性が強くなり、半導体デバイスウェハ表面への吸着作用が弱くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は弱くなる。このような状況を勘案し、繰り返し数を適宜設定すればよい。
【0029】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸は、具体的には、下記式(1)~下記式(3)で表される。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
(式(1)で表される化合物)
式(1)において、Rは、炭素数8以上のアルキル基であり、直鎖であっても分岐があっても二重結合があっても環が含まれてもよい。
式(1)において、Rのアルキル基の炭素数は、8~24が好ましく、8~20がより好ましく、12~18が更に好ましい。式(1)において、Rのアルキル基の炭素数が8以上であると、界面活性剤の疎水性が増し、半導体基板の表面上に吸着しやすくなる。また、式(1)において、Rのアルキル基の炭素数が24以下であると、洗浄工程後のリンス工程にて、界面活性剤の除去を容易に行うことができる。
【0034】
式(1)において、Xは、酢酸基(-CH2COOH)、リン酸基又はスルホン酸基である。
式(1)において、Xは、コバルトへの配位作用や防食効果が強いことから、リン酸基、スルホン酸基が好ましく、界面活性剤自体の製造が容易であることから、リン酸基がより好ましい。
【0035】
式(1)において、Yは、エチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基である。エチレンオキサイド基もプロピレンオキサイド基も、親水性を示すことから、コバルト又はコバルトを含む化合物への作用は小さく、界面活性剤が有する防食性能への影響は小さい。尚、Yの端部の酸素原子は、Xと結合する。
式(1)において、Yは、親水性が高いことから、エチレンオキサイド基が好ましい。
【0036】
式(1)において、nは、1以上の整数である。
式(1)において、nは、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、2~10が更に好ましい。nが小さいと界面活性剤の疎水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が強くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は強くなる。nが大きいと界面活性剤の親水性が強くなり、導体ウェハ表面への吸着作用が弱くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は弱くなる。このような状況を勘案し、nを適宜設定すればよい。
【0037】
(式(2)で表される化合物)
式(2)において、R1及びR2は、炭素数8以上のアルキル基であり、直鎖であっても分岐があっても二重結合があっても環が含まれてもよく、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
式(2)において、R1及びR2のアルキル基の炭素数は、8~24が好ましく、8~20がより好ましく、12~18が更に好ましい。式(2)において、R1及びR2のアルキル基の炭素数が8以上であると、界面活性剤の疎水性が増し、半導体基板の表面上に吸着しやすくなる。また、式(2)において、R1及びR2のアルキル基の炭素数が24以下であると、洗浄工程後のリンス工程にて、界面活性剤の除去を容易に行うことができる。
【0038】
式(2)において、Xは、リン酸基又はスルホン酸基である。
式(2)において、Xは、コバルトへの配位作用や防食効果が強く、界面活性剤自体の製造が容易であることから、リン酸基が好ましい。
【0039】
式(2)において、Yは、エチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基であり、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。エチレンオキサイド基もプロピレンオキサイド基も、親水性を示すことから、コバルト又はコバルトを含む化合物への作用は小さく、界面活性剤が有する防食性能への影響は小さい。尚、Yの端部の酸素原子は、Xと結合する。
式(2)において、Yは、親水性が高いことから、エチレンオキサイド基が好ましい。
【0040】
式(2)において、n1及びn2は、1以上の整数であり、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
式(2)において、n1及びn2は、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、2~10が更に好ましい。n1及びn2が小さいと界面活性剤の疎水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が強くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は強くなる。n1及びn2が大きいと界面活性剤の親水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が弱くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は弱くなる。このような状況を勘案し、n1及びn2を適宜設定すればよい。
【0041】
式(3)において、R1、R2及びR3は、炭素数8以上のアルキル基であり、直鎖であっても分岐があっても二重結合があっても環が含まれてもよく、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
式(3)において、R1、R2及びR3のアルキル基の炭素数は、8~24が好ましく、8~20がより好ましく、12~18が更に好ましい。式(3)において、R1、R2及びR3のアルキル基の炭素数が8以上であると、界面活性剤の疎水性が増し、半導体基板の表面上に吸着しやすくなる。また、式(3)において、R1、R2及びR3のアルキル基の炭素数が24以下であると、洗浄工程後のリンス工程にて、界面活性剤の除去を容易に行うことができる。
【0042】
式(3)において、Xは、リン酸基である。
式(3)において、Xは、コバルトへの配位作用や防食効果が強く、界面活性剤自体の製造が容易であることから、リン酸基が好ましい。
【0043】
式(3)において、Yは、エチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基であり、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。エチレンオキサイド基もプロピレンオキサイド基も、親水性を示すことから、コバルト又はコバルトを含む化合物への作用は小さく、界面活性剤が有する防食性能への影響は小さい。尚、Yの端部の酸素原子は、Xと結合する。
式(3)において、Yは、親水性が高いことから、エチレンオキサイド基が好ましい。
【0044】
式(3)において、n1、n2及びn3は、1以上の整数であり、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
式(3)において、n1、n2及びn3は、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、2~10が更に好ましい。n1、n2及びn3が小さいと界面活性剤の疎水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が強くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は強くなる。n1、n2及びn3が大きいと界面活性剤の親水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が弱くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は弱くなる。このような状況を勘案し、n1、n2及びn3を適宜設定すればよい。
【0045】
(界面活性剤(A)含有率)
洗浄液中の界面活性剤(A)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.00001質量%~2質量%が好ましく、0.00005質量%~0.2質量%がより好ましく、0.0001質量%~0.05質量%が更に好ましく、0.0005質量%~0.01質量%が特に好ましい。洗浄液中の界面活性剤(A)の含有率が0.00001質量%以上であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の防食効果に優れる。また、洗浄液中の界面活性剤(A)の含有率が2質量%以下であると、洗浄液の泡立ちを抑制でき、洗浄後の洗浄液の水洗除去が容易である。
【0046】
(酸化剤(B))
洗浄液が酸化剤(B)を含むことで、コバルト又はコバルトを含む化合物の表面に酸化膜が形成され不動態となり、洗浄液中の成分によって引き起こされる溶解・腐食が抑制される。その結果、酸化剤(B)を含む本発明の洗浄液は、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄液としての洗浄効果を有する。
【0047】
酸化剤(B)としては、コバルト又はコバルトを含む化合物に代表される金属の表面を酸化できるものであればよく、例えば、過酸化水素、オゾン、硝酸、亜硝酸、過硫酸、重クロム酸、過マンガン酸、それらの塩等が挙げられる。これらの酸化剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸化剤(B)の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物以外の金属への溶解や表面粗さ増大のダメージが低いことから、過酸化水素、オゾンが好ましく、CMP工程での汎用性が高いことから、過酸化水素がより好ましい。
【0048】
洗浄液中の酸化剤(B)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.000001質量%~10質量%が好ましく、0.000005質量%~3質量%がより好ましく、0.00001質量%~0.8質量%が更に好ましく、0.0005質量%~0.3質量%が特に好ましい。洗浄液中の酸化剤(B)の含有率が0.00001質量%以上であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の防食効果に優れる。また、洗浄液中の酸化剤(B)の含有率が10質量%以下であると、酸化剤(B)の分解ガスの発生を抑制でき、洗浄後の洗浄液の水洗除去が容易である。
【0049】
本発明の洗浄液は、酸化剤(B)が経時的に分解することを勘案し、酸化剤(B)を除く洗浄液を調製し、使用直前に前記含有率になるように酸化剤(B)を配合してもよい。
【0050】
(キレート剤(C))
本発明の洗浄液は、金属イオンや金属錯体の除去性に優れることから、界面活性剤(A)または酸化剤(B)に加え、更に、キレート剤(C)を含む。
キレート剤(C)は、アミノ基、カルボキシル基、ホスホニウム基又は硫黄原子等を有し、金属イオンと配位できる化合物であればよいが、金属イオンや金属錯体の除去性、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、アミノ酸、ポリカルボン酸が好ましい。
【0051】
アミノ基を有するキレート剤(C)としては、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等のアルカノールアミン類及びそれらの誘導体;アルキルアミン等のモノアミン類及びそれらの誘導体;エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン等のジアミン類及びそれらの誘導体;多官能アミン類及びそれらの誘導体;グリシン、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジンなどのアミノ酸類及びそれらの誘導体;エチレンジアミン四酢酸、プロピレンジアミン四酢酸等のアミノポリカルボン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらのアミノ基を有するキレート剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアミノ基を有するキレート剤(C)の中でも、金属イオンや金属錯体の除去性、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジン、グリシン、エチレンジアミン四酢酸が好ましく、セリン、アスパラギン酸がより好ましい。
【0052】
カルボキシル基を有するキレート剤(C)としては、例えば、酢酸等のモノカルボン酸類及びそれらの誘導体;シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸等のジカルボン酸類及びそれらの誘導体;クエン酸等のトリカルボン酸類及びそれらの誘導体;グリシン、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジン等のアミノ酸類及びそれらの誘導体;エチレンジアミン四酢酸、プロピレンジアミン四酢酸等のアミノポリカルボン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらのカルボキシル基を有するキレート剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基を有するキレート剤(C)の中でも、金属イオンや金属錯体の除去性、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸の誘導体、クエン酸の誘導体、リンゴ酸の誘導体、シュウ酸の誘導体が好ましく、酒石酸、クエン酸がより好ましい。
【0053】
ホスホニウム基を有するキレート剤(C)としては、例えば、トリフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらのホスホニウム基を有するキレート剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのホスホニウム基を有するキレート剤(C)の中でも、金属イオンや金属錯体の除去性、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、トリフェニルホスフィン及びその誘導体が好ましい。
【0054】
硫黄原子を有するキレート剤(C)としては、例えば、システイン、メタンチオール、エタンチオール、チオフェノール、グルタチオン等のチオール類及びそれらの誘導体;メチオニン、ジメチルスルフィド等のチオエーテル類及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
(キレート剤(C)含有率)
洗浄液中のキレート剤(C)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~5質量%が好ましく、0.002質量%~3質量%がより好ましく、0.005質量%~0.5質量%が更に好ましく、0.01質量%~0.1質量%が特に好ましい。洗浄液中のキレート剤(C)の含有率が0.001質量%以上であると、金属イオンや金属錯体の除去性に優れる。また、洗浄液中のキレート剤(C)の含有率が5質量%以下であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れる。
【0056】
(pH調整剤(D))
本発明の洗浄液は、pHを調整することでコバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を制御できることから、更に、pH調整剤(D)を含むことが好ましい。
【0057】
pH調整剤(D)としては、例えば、酸、アルカリ、それらの塩等が挙げられる。pH調整剤(D)の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食の制御に優れることから、酸、アルカリ、それらの塩が好ましく、アルカリ、アルカリの塩がより好ましい。
【0058】
酸としては、例えば、無機酸、有機酸等が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、無機酸、有機酸が好ましく、有機酸がより好ましい。
【0059】
無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらの無機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機酸の中でも、半導体デバイスウェハへのダメージが少ないことから、硫酸、リン酸が好ましく、リン酸がより好ましい。
【0060】
有機酸としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホニウム基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を制御できることから、アミノ基、カルボキシル基を有する有機化合物が好ましく、カルボキシル基を有する有機化合物がより好ましい。
【0061】
アルカリとしては、例えば、無機アルカリ、有機アルカリ等が挙げられる。これらのアルカリは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリの中でも、アルカリ自体の製造が容易であることから、無機アルカリ、有機アルカリが好ましく、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドがより好ましく、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが更に好ましい。
【0062】
(pH調整剤(D)含有率)
洗浄液中のpH調整剤(D)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~50質量%が好ましく、0.005質量%~20質量%がより好ましく、0.02質量%~2質量%が更に好ましく、0.05質量%~0.5質量%が特に好ましい。洗浄液中のpH調整剤(D)の含有率が0.001質量%以上であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れる。また、洗浄液中のpH調整剤(D)の含有率が50質量%以下であると、pH調整剤自身の残留を抑制することができる。
【0063】
洗浄液のpHは、8以上であり、8~14が好ましく、9~13がより好ましく、10~12が更に好ましい。洗浄液のpHがアルカリ性であると、ヒドロキシル基が豊富に存在するため、CMP工程で使用された研磨剤に由来するコロイダルシリカと半導体ウェハの表面とが共に負に帯電し、電気的な斥力が働き、コロイダルシリカの除去が行いやすくなる。
【0064】
界面活性剤(A)とキレート剤(C)との質量比は、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性と防食剤の除去性とを両立できることから、1:1.5~1:50が好ましく、1:2~1:40がより好ましい。
【0065】
界面活性剤(A)とpH調整剤(D)との質量比は、界面活性剤(A)が溶液中で完全に溶解し、機能を発現するための十分量が存在することから、1:5~1:200が好ましく、1:10~1:100がより好ましい。
【0066】
キレート剤(C)と酸化剤(B)との質量比は、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性と防食剤の除去性とを両立できることから、1:0.01~1:50が好ましく、1:0.03~1:20がより好ましい。
【0067】
pH調整剤(D)と酸化剤(B)との質量比は、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性と防食剤の除去性とを両立できることから、1:0.05~1:200が好ましく、1:0.1~1:100がより好ましい。
【0068】
キレート剤(C)とpH調整剤(D)との質量比は、金属イオンや金属錯体の除去をしつつ、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性及び研磨粒子の除去性を確保できるpHに誘導することができることから、1:1.2~1:10が好ましく、1:1.5~1:8がより好ましい。
【0069】
(他の成分)
本発明の洗浄液は、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、更に、防食剤を含むことが好ましい。
防食剤としては、例えば、イミダゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール等の複素環を有する化合物及びそれらの誘導体;ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の金属に配位することのできる水溶性高分子及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの防食剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの防食剤の中でも、洗浄後のリンス性に優れることから、イミダゾール、ポリエチレングリコール、イミダゾールの誘導体、ポリエチレングリコールの誘導体が好ましい。
【0070】
本発明の界面活性剤(A)を含む洗浄液は、コバルト又はコバルトを含む化合物の低腐食性に優れることから、更に、脱酸素剤や還元剤を含むことが好ましい。
脱酸素剤、還元剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、没食子酸、没食子酸メチル、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、それらの誘導体等が挙げられる。これらの脱酸素剤、還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの脱酸素剤、還元剤の中でも、取り扱い性に優れることから、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸の誘導体、D-アスコルビン酸の誘導体が好ましい。
また、性能を損なわない範囲において、過酸化水素、オゾン、酸素等の酸化剤を含有してもよい。
【0071】
本発明の酸化剤(B)を含む洗浄液は、洗浄液中で酸化還元反応が起こってしまうことから、脱酸素剤や還元剤を含まないことが好ましい。
脱酸素剤、還元剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、没食子酸、没食子酸メチル、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、それらの誘導体等が挙げられる。
【0072】
本発明の洗浄液は、その性能を損なわない範囲において、前述の成分以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、水素、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア等の溶存ガス、あるいは、フッ素、フッ化アンモニウム、バッファードフッ酸等のドライエッチング後に強固に付着したポリマー等の除去が期待できるエッチング促進剤等が挙げられる。
【0073】
(溶媒)
本発明の洗浄液の溶媒は、水が好ましい。また、溶媒として、エタノール等の水以外の成分を含んでもよい。
【0074】
(洗浄液の製造方法)
本発明の洗浄液の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、洗浄液の各成分を混合することで製造することができる。通常、溶媒である水に、水以外の成分を混合することで製造される。
【0075】
混合順序は、反応や沈殿物が発生する等の特段の事情がない限り特に限定されず、洗浄液の各成分のうち一部の成分を予め混合し、その後、残りの成分を混合してもよく、一度にすべての成分を混合してもよい。また、輸送や保管のコストを抑制するために、高濃度の洗浄液を調製し、使用直前に適切な含有率になるように溶媒で希釈してもよい。
【0076】
(半導体ウェハの洗浄方法)
本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、本発明の洗浄液を用いて、半導体ウェハのコバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面を洗浄する方法である。
【0077】
本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、CMP工程後又はエッチング工程後で、半導体ウェハのコバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面に好適に用いられる。コバルト又はコバルトを含む化合物は、半導体デバイスの性能を損なわない範囲において、不純物を含んでいてもよい。
【0078】
CMP工程とは、半導体ウェハの表面を機械的に加工し、平坦化するプロセスのことをいう。通常、CMP工程では、専用の装置を用い、半導体ウェハの裏面をプラテンと呼ばれる治具に吸着させ、半導体ウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に研磨粒子を含む研磨剤を垂れ流し、半導体ウェハの表面を研磨する。
【0079】
エッチング工程とは、リソグラフィ工程で形成したレジストをマスクとして、対象の薄膜をパターン状に除去し、半導体ウェハ上に所望の形状を形成するプロセスのことをいう。エッチング工程で形成される形状としては、例えば、配線パターン、配線と配線とを電気的に接続するビアホール、素子間の分離を行うトレンチ(溝)等が挙げられる。通常、エッチング工程は、フルオロカーボン等の反応性のガスを用いた反応性イオンエッチングと呼ばれる方式で行われる。
【0080】
ポストエッチ洗浄とは、エッチング工程で生じた残渣を半導体ウェハから除去する工程である。ポストエッチ洗浄工程では、レジスト残渣、ガス由来フッ素ポリマー、絶縁膜、配線金属複合物等の除去対象を、洗浄液を用いて半導体ウェハから脱離させる。
【0081】
(洗浄対象)
洗浄対象となる半導体ウェハとしては、例えば、半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体等の各種半導体ウェハが挙げられる。
【0082】
より好適な洗浄対象は、トランジスタと配線層とを電気的に接続する役割を担うコバルト又はコバルトを含む化合物のコンタクトプラグを有する半導体ウェハの表面と、コバルト又はコバルトを含む化合物の配線層を有する半導体ウェハの表面である。
【0083】
また、本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、疎水性の強い低誘電率絶縁材料に対しても洗浄効果が高いため、低誘電率絶縁材料を有する半導体ウェハに対しても好適に用いられる。
【0084】
低誘電率材料としては、例えば、Polyimide、BCB(Benzocyclobutene)、Flare(商品名、Honeywell社)、SiLK(商品名、Dow Chemical社)等の有機ポリマー材料;FSG(Fluorinated silicate glass)等の無機ポリマー材料;BLACK DIAMOND(商品名、Applied Materials社)、Aurora(商品名、日本ASM社)等のSiOC系材料等が挙げられる。
【0085】
(CMP工程)
CMP工程では、研磨剤を用いて、半導体ウェハを研磨パッドに擦り付けて、研磨が行われる。
研磨剤としては、例えば、コロイダルシリカ(SiO2)、フュームドシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、セリア(CeO2)等の研磨粒子が挙げられる。これらの研磨粒子は、半導体ウェハの微粒子汚染の主因となるが、本発明の洗浄液は、半導体ウェハに付着した微粒子を除去して洗浄液に分散させると共に再付着を防止する作用を有しているため、微粒子汚染の除去に対して高い効果を示す。
【0086】
研磨剤には、研磨粒子以外にも、酸化剤、分散剤等の添加剤が含まれることがある。特に、コバルト又はコバルトを含む化合物を有する半導体ウェハにおけるCMPは、コバルト又はコバルトを含む化合物が腐食しやすいため、防食剤が含まれることが多い。
【0087】
CMPの研磨剤の防食剤としては、防食効果の高いアゾール系防食剤が好適に用いられる。より具体的には、へテロ原子が窒素原子のみの複素環を含むものとして、ジアゾール系、トリアゾール系、テトラゾール系;窒素原子と酸素原子の複素環を含むものとして、オキサゾール系、イソオキサゾール系、オキサジアゾール系;窒素原子と硫黄原子の複素環を含むものとして、チアゾール系、イソチアゾール系、チアジアゾール系等が挙げられる。
【0088】
本発明の洗浄液は、このような防食剤を含む研磨剤で研磨した後の半導体ウェハに適用すると、これらの防食剤に由来した汚染を極めて効果的に除去できる点で優れる。即ち、研磨剤中にこれらの防食剤が存在すると、コバルト又はコバルトを含む化合物の表面の腐食を抑制する反面、研磨時に溶出したコバルトイオンと反応し、多量の不溶性析出物を生じる。本発明の洗浄液は、このような不溶性析出物を効率的に溶解除去することができ、スループットの向上が可能である。
【0089】
(洗浄条件)
本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、本発明の洗浄液を半導体ウェハに直接接触させる方法とすることが好ましい。本発明の洗浄液中の各成分の濃度は、洗浄対象となる半導体ウェハの種類に合わせて選択すればよい。
【0090】
洗浄液を半導体ウェハに直接接触させる方法としては、例えば、洗浄槽に本発明の洗浄液を満たして半導体ウェハを浸漬させるディップ式;ノズルから半導体ウェハ上に本発明の洗浄液を流しながら半導体ウェハを高速回転させるスピン式;半導体ウェハに本発明の洗浄液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。また、このような洗浄を行うための装置としては、例えば、カセットに収容された複数枚の半導体ウェハを同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の半導体ウェハをホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等が挙げられる。
これらの洗浄液を半導体ウェハに直接接触させる方法の中でも、短時間でより効率的な汚染除去ができることから、スピン式、スプレー式が好ましい。この場合、洗浄を行うための装置は、洗浄時間の短縮、本発明の洗浄液の使用の削減ができることから、枚葉式洗浄装置が好ましい。
【0091】
本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、半導体ウェハに付着した微粒子による汚染の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮ができることから、物理力による洗浄が好ましく、洗浄ブラシを使用したスクラブ洗浄、周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄がより好ましく、CMP工程後の洗浄により好適であることから、樹脂製ブラシを使用したスクラブ洗浄が更に好ましい。
樹脂製ブラシの材質は、特に限定されないが、樹脂製ブラシ自体の製造が容易であることから、PVA(ポリビニルアルコール)、PVF(ポリビニルホルマール)が好ましい。
【0092】
本発明の半導体ウェハの洗浄方法における洗浄温度は、室温でもよく、半導体デバイスの性能を損なわない範囲で30~70℃に加温してもよい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0094】
(原料)
界面活性剤(A-1):RA-600(商品名、東邦化学工業株式会社製、アルキル鎖長6~10、エチレンオキサイド鎖4、リン酸エステル系界面活性剤)
界面活性剤(A-2):EHD-400(商品名、日本乳化剤株式会社製、アルキル鎖長8、エチレンオキサイド鎖2、リン酸エステル系界面活性剤)
界面活性剤(A-3):フォスファノールML-240(商品名、東邦化学工業株式会社製、アルキル鎖長12、エチレンオキサイド鎖4、リン酸エステル系界面活性剤)
界面活性剤(A-4):フォスファノールRB-410(商品名、東邦化学工業株式会社製、アルキル鎖長18(不飽和)、エチレンオキサイド鎖4、リン酸エステル系界面活性剤)
界面活性剤(A-5):AKYPO RLM-100(商品名、日光ケミカルズ社製、アルキル鎖12、エチレンオキサイド鎖10、カルボン酸系界面活性剤)
界面活性剤(A’-1):レオコールTDA-400-75(商品名、ライオン株式会社製、ノニオン性界面活性剤、アルキル鎖12、エチレンオキサイド鎖40)
界面活性剤(A’-2):PEG6000(商品名、東京化成工業株式会社製、ポリエチレングリコール、平均分子量7300~9300)
界面活性剤(A’-3):ベンゾトリアゾール(東京化成工業株式会社製)
界面活性剤(A’-4):ポリアクリル酸5000(商品名、アルドリッチ社製、ポリアクリル酸、分子量約45万)
界面活性剤(A’-5):ドデシルベンゼンスルホン酸(ライオン株式会社製)
酸化剤(B-1):35質量%過酸化水素水(東京化成工業株式会社製)
pH調整剤(D-1):テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製)
pH調整剤(D-2):プロパノールアミン(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(C1-1):L-セリン(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(C1-2):L-アスパラギン酸(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(C1-3):グリシン(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(C2-1):L-(+)-酒石酸(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(C2-2):クエン酸(三菱ケミカル株式会社製)
【0095】
(pH測定)
実施例及び比較例で得られた洗浄液を、25℃の恒温槽中で、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、pH計(機種名「D-24」、株式会社堀場製作所製)により、pHを測定した。
【0096】
(エッチレート測定)
実施例及び比較例で得られた洗浄液中に、コバルト膜を成膜したシリコン基板(20mm×20mm)を25℃で30分間浸漬させた。浸漬後、シリコン基板を取り出し、ICP発光分析装置(機種名「SPS1700HVR」、Seiko Instruments社製)により、浸漬後の洗浄液中のコバルト濃度を測定した。測定したコバルト濃度から、30分間でエッチングされたコバルト膜の厚さを算出し、エッチレートを得た。
【0097】
(エッチレートの評価)
実施例及び比較例のエッチレートを、以下の基準により評価した。
A:エッチレートが0.10nm/分未満
B:エッチレートが0.10nm/分以上0.15nm/分未満
C:エッチレートが0.15nm/分以上
【0098】
(接触角測定)
コバルト膜を成膜したシリコン基板(10mm×50mm)を、0.1質量%クエン酸(三菱ケミカル株式会社製)に1分間浸漬させ、次いで、1質量%ベンゾトリアゾール水溶液(東京化成工業株式会社製)に10秒間浸漬させ、次いで、実施例及び比較例で得られた洗浄液中に2分間浸漬させ、超純水で30秒間すすぎ、エアブローで乾燥させた。得られたシリコン基板に、超純水約3.0μLを滴下し、接触角計(機種名「DM700」、協和界面科学株式会社製)を用いて、シリコン基板と超純水の液滴との接触角を測定した。測定は5回行い、それらの5回の平均値を接触角とした。
【0099】
(接触角の評価)
実施例及び比較例の接触角を、以下の基準により評価した。
A:接触角が40°未満
B:接触角が40°以上48°未満
C:接触角が48°以上
【0100】
[実施例1-1]
洗浄液100質量%中、界面活性剤(A-1)が0.001質量%、キレート剤(C1-1)が0.019質量%、キレート剤(C2-1)が0.013質量%、pH調整剤(D-1)が0.063質量%、残部が水となるよう、各成分を混合し、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表1に示す。
【0101】
[実施例1-2~1-7、比較例1-1~1-19]
各成分の種類・含有率を表1に示すものとした以外は、実施例1-1と同様に操作を行い、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表1に示す。
【0102】
【0103】
表1から分かるように、界面活性剤を含まない比較例1-1~1-3で得られた洗浄液及び界面活性剤(A)とは異なる界面活性剤を含む比較例1-4~1-13で得られた洗浄液と比較して、界面活性剤(A)を含む実施例1-1~1-7で得られた洗浄液は、コバルトに対する防食性に優れた。また、pHが8未満である比較例1-14~1-15で得られた洗浄液と比較して、pHが8以上である実施例1-1~1-7で得られた洗浄液は、コバルトに対する防食性に優れた。更に、キレート剤(C)を含まない比較例1-16~1-19で得られた洗浄液と比較して、キレート剤(C)を含む実施例1-1~1-7で得られた洗浄液は、洗浄性に優れた。
【0104】
[実施例2-1]
洗浄液100質量%中、酸化剤(B-1)が0.001質量%(キレート剤(C1-2)が0.013質量%、キレート剤(C2-1)が0.006質量%、pH調整剤(D-1)が0.063質量%、残部が水となるよう、各成分を混合し、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表2、
図1に示す。
【0105】
[実施例2-2~2-9、比較例2-1~2-4]
各成分の種類・含有率を表2に示すものとした以外は、実施例2-1と同様に操作を行い、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表2、
図1に示す。
【0106】
【0107】
表2から分かるように、酸化剤(B)を含まない比較例2-1で得られた洗浄液と比較して、酸化剤(B)を含む実施例2-1~2-9で得られた洗浄液は、コバルトに対する防食性に優れた。また、pHが8未満である比較例2-2~2-3で得られた洗浄液と比較して、pHが8以上である実施例2-1~2-9で得られた洗浄液は、コバルトに対する防食性に優れた。更に、キレート剤(C)を含まない比較例2-4で得られた洗浄液と比較して、キレート剤(C)を含む実施例2-1~2-9で得られた洗浄液は、洗浄性に優れた。
また、
図1のpHに対するエッチレートの関係からも、酸化剤(B)を含まない比較例2-1で得られた洗浄液と比較して、酸化剤(B)を含む実施例2-1~2-9で得られた洗浄液は、コバルトに対する防食性に優れることが分かる。
【0108】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年10月10日出願の日本特許出願(特願2017-196812)及び2017年10月23日出願の日本特許出願(特願2017-204135)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の洗浄液は、CMP工程後の半導体ウェハの洗浄工程において、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制しつつ、CMP後洗浄液としての洗浄効果を有するため、半導体デバイスやディスプレイデバイス等の製造工程における半導体ウェハの洗浄処理技術として、工業的に非常に有用である。