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特許7184076カーボンナノチューブ分散液、二次電池電極用スラリー、二次電池電極用スラリーの製造方法、二次電池用電極および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、二次電池電極用スラリー、二次電池電極用スラリーの製造方法、二次電池用電極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/02 20060101AFI20221129BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221129BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08J3/02 C
C08K3/04
C08L25/08
H01B1/24 A
H01B13/00 Z
H01M4/02 Z
H01M4/04 A
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020507796
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011241
(87)【国際公開番号】W WO2019181869
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018056993
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】菅原 慎介
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208190(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056488(WO,A1)
【文献】特開2014-218393(JP,A)
【文献】特開2015-195143(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157061(WO,A1)
【文献】特開2014-203804(JP,A)
【文献】特開2013-8485(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/02
C08K 3/04
C08L 25/08
H01B 1/24
H01B 13/00
H01M 4/02
H01M 4/04
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、バインダーと、分散媒とを含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記バインダーが、芳香族ビニル単量体単位と、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位とを含有する重合体(A)を含み、
前記カーボンナノチューブ分散液の全固形分に対する前記バインダーの割合が30質量%以下であり、且つ、
前記カーボンナノチューブ分散液を1週間放置する前後での、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下で測定した該カーボンナノチューブ分散液の粘度変化率が50%以上300%以下であり、
前記重合体(A)が、前記炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を、20質量%以上50質量%以下含む、カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記重合体(A)が、前記芳香族ビニル単量体単位を、30質量%以上60質量%以下含む、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記重合体(A)のヨウ素価が、50mg/100mg以下である、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記重合体(A)の重量平均分子量が、1,000以上500,000以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
電極活物質と、請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液とを含む、二次電池電極用スラリー。
【請求項6】
請求項に記載の二次電池電極用スラリーの製造方法であって、
前記カーボンナノチューブと、前記バインダーと、前記分散媒とを混合してカーボンナノチューブ分散液を得る第一の工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液と前記電極活物質とを混合する第二の工程と、
を含む、二次電池電極用スラリーの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の二次電池電極用スラリーを用いて形成した電極合材層を備える、二次電池用電極。
【請求項8】
請求項に記載の二次電池用電極を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液ならびにそれを用いた二次電池電極用スラリー、二次電池電極用スラリーの製造方法、二次電池用電極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)は、平面状のグラファイト(グラフェンシート)を丸めた円筒状の構造を有している。そのナノ構造の特異性に起因してカーボンナノチューブは様々な特性を示す。特に銅の1000倍以上の高い電流密度耐性、銅の約10倍の高い熱伝導性、及び鋼鉄の約20倍の引っ張り強度といった特性において、カーボンナノチューブは優れており、様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
かかるカーボンナノチューブではあるが、凝集しやすい性質を有しているため、分散させないと上記に記載した本来持ち合わせている性能を十分に発揮させることができない。また、一般的に、カーボンナノチューブは単独では分散しにくいことから、水や有機溶媒等に分散させて、カーボンナノチューブ分散液として使用される。
【0004】
例えば特許文献1では、カーボンナノチューブに対して塩基性櫛形分散剤を用いることにより、カーボンナノチューブを安定かつ均一に分散させた分散液の製造方法が提供されている。また、特許文献2では、アミン価をもつ高分子分散剤を用い、特定の大きさのビーズを用いたビーズ分散を行うことにより、カーボンナノチューブを良好に分散させ、分散後の保存安定性が良好であり、高濃度であってもカーボンナノチューブを良好に分散できるカーボンナノチューブの分散方法が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-056136号公報
【文献】特開2007-169120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のカーボンナノチューブ分散液(以下、「CNT分散液」と称することがある。)は、その用途によってはカーボンナノチューブの分散性が不十分であることから、改良の余地があった。具体的には、例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池の電極を作製するためのスラリーであって、CNT、バインダーおよび分散液を含むCNT分散液と、電極活物質とを含む電極作製用スラリーに用いられるCNT分散液において、CNTの分散性を高めることが求められていた。
そこで、本発明は、カーボンナノチューブの分散性が優れることによって、各種用途に有用なカーボンナノチューブ分散液を提供することを目的とする。
また、本発明は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の作製に好適な二次電池電極用スラリーを提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記二次電池電極用スラリーを効率的に製造できる、二次電池電極用スラリーの製造方法を提供する。
更に、本発明は、二次電池の電池特性を向上させ得る二次電池用電極および電池特性に優れる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、特定の重合体を含むバインダーを特定量含むと共に、所定の条件下において特定の粘度変化率を示すカーボンナノチューブ分散液が、カーボンナノチューブの分散性に優れていることを見出した。更に、該カーボンナノチューブ分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いれば、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブを導電材として利用して、二次電池用電極や二次電池を作製できることを見出した。そして、本発明者らは、上記知見に基づき本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、バインダーと、分散媒とを含有するカーボンナノチューブ分散液であって、前記バインダーが、芳香族ビニル単量体単位と、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位とを含有する重合体(A)を含み、前記カーボンナノチューブ分散液の全固形分に対する前記バインダーの割合が30質量%以下であり、且つ、前記カーボンナノチューブ分散液を1週間放置する前後での、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下で測定した該カーボンナノチューブ分散液の粘度変化率が50%以上300%以下であることを特徴とする。このように、特定の重合体を含むバインダーを特定量含み、且つ、所定の条件下において特定の粘度変化率を示すカーボンナノチューブ分散液とすれば、カーボンナノチューブの分散性に優れるため、各種用途に有用なカーボンナノチューブ分散液として提供することができる。
【0009】
ここで、本発明のカーボンナノチューブ分散液において、前記重合体(A)は、前記芳香族ビニル単量体単位を、30質量%以上60質量%以下含むことが好ましい。重合体(A)おける芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、N-メチル-2-メチルピロリドン(NMP)などの有機溶媒に対する溶解性が確保される。そのため、カーボンナノチューブ分散液中でカーボンナノチューブを良好に分散させることができる。そしてその結果、カーボンナノチューブ分散液の粘度を安定させることができる。更に、本発明のカーボンナノチューブ分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池用電極を作製した際に、電極の柔軟性を向上させることができる。
なお、本発明において、芳香族ビニル単量体単位などの繰り返し単位の含有割合は、H-NMRなどの各磁気共鳴(NMR法)を用いて測定することができる。
【0010】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液において、前記重合体(A)は、前記炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を、20質量%以上50質量%以下含むことが好ましい。重合体(A)中の炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位の含有割合が上記範囲内であれば、バインダーのNMPなどの有機溶媒に対する溶解性が確保されるため、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができる。そして、その結果、カーボンナノチューブ分散液の粘度をより安定させることができる。更に、本発明のカーボンナノチューブ分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池用電極を作製した際に、電極の柔軟性をより向上させることができる。
【0011】
更に、本発明のカーボンナノチューブ分散液において、前記重合体(A)のヨウ素価が、50mg/100mg以下であることが好ましい。重合体(A)のヨウ素価が上記上限値以下であれば、カーボンナノチューブ分散液中でカーボンナノチューブの良好な分散性を確保して、カーボンナノチューブ分散液の粘度を安定させることができる。そして、本発明のカーボンナノチューブ分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製された二次電池用電極を備える二次電池において、バインダーの電解液に対する膨潤率を低くすることができる。そして、バインダーの電解液に対する膨潤率が低くなることで、バインダーの耐電解液性は良好となり、電極構造を保持することができる。これにより、リチウムイオン二次電池の抵抗を低下させ、結果として、二次電池の寿命特性を向上させることができる。
【0012】
ここで、本発明のカーボンナノチューブ分散液において、重合体(A)の重量平均分子量は、1,000以上500,000以下であることが好ましい。重合体(A)の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、本発明のカーボンナノチューブ分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製した二次電池用電極において、電極剥離強度を向上させることができる。加えて、該二次電池用電極を備える二次電池において、バインダーの電解液に対する膨潤率を低くすることができる。そのため、結果として、二次電池の寿命特性を向上させることができる。一方、重合体(A)の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、バインダーのNMPなどの有機溶媒に対する溶解性がより確保されるため、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができる。そして、結果として、CNT分散液の粘度を安定させることができる。
【0013】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池電極用スラリーは、電極活物質と、上述したいずれかのカーボンナノチューブ分散液とを含むことを特徴とする。このように、上述したカーボンナノチューブ分散液を用いれば、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブを導電材として利用して、導電材の分散性に優れた二次電池電極用スラリーを提供することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池電極用スラリーの製造方法は、上記二次電池電極用スラリーの製造方法であって、前記カーボンナノチューブと、前記バインダーと、前記分散媒とを混合してカーボンナノチューブ分散液を得る第一の工程と、前記カーボンナノチューブ分散液と前記電極活物質とを混合する第二の工程と、を含むことを特徴とする。このように、カーボンナノチューブと、バインダーと、分散媒とを混合してカーボンナノチューブ分散液を得る第一の工程と、カーボンナノチューブ分散液と電極活物質とを混合する第二の工程と、を含む方法とすることで、二次電池電極用スラリーを効率的に製造することができる。
【0015】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用電極は、上述した二次電池電極用スラリーを用いて形成した電極合材層を備えることを特徴とする。このように、上述した二次電池電極用スラリーを用いれば、電極合合材層を良好に形成できるため、該二次電池用電極を備えた二次電池の電池特性を向上させることができる。
【0016】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池は、上述した二次電池用電極を備えることを特徴とする。このように、上述した二次電池用電極を用いれば、導電材としてのカーボンナノチューブの優れた分散性によって、電池特性に優れた二次電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れたカーボンナノチューブの分散性により、各種用途に有用なカーボンナノチューブ分散液を提供することができる。
また、本発明によれば、上述のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブを導電材として利用して、導電材の分散性に優れた二次電池電極用スラリーを提供することができる。
更に、本発明によれば、上記二次電池電極用スラリーを効率的に製造する方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、上述の二次電池電極用スラリーを用いることで、二次電池の電池特性を向上させ得る二次電池用電極、および電池特性に優れる二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、特定の重合体を含むバインダーを特定量含むと共に、所定の条件下において特定の粘度変化率を示すものである。
そして、本発明の二次電池電極用スラリーは、本発明のカーボンナノチューブ分散液を含むものであり、例えば、二次電池用電極を作製する際に用いることができる。更には、該二次電池用電極を用いて二次電池を作製することができる。
【0019】
(カーボンナノチューブ分散液)
ここで、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、バインダーと、分散媒とを含有するCNT分散液であって、該バインダーが、芳香族ビニル単量体単位と、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位とを含有する重合体(A)を含み、該CNT分散液の全固形分に対する該バインダーの割合が30質量%以下であり、且つ、該CNT分散液を1週間放置する前後での、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下で測定した該CNT分散液の粘度変化率が50%以上300%以下である。
【0020】
<カーボンナノチューブ>
そして、CNT分散液に含まれるCNTは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0021】
ここで、CNTの平均直径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましい。CNTの平均直径が上記下限値以上であれば、CNT分散液中でのCNTの凝集を抑制することができる。一方、CNTの平均直径が上記上限値以下であれば、CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製される二次電池において、電極の柔軟性を向上させることができる。
なお、CNTの平均直径は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径を測定して求めることができる。
【0022】
また、CNTの平均長さは、0.1μm以上であることが好ましく、1cm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。CNTの平均長さが上記範囲内であれば、CNTの凝集を抑制することができる。
なお、CNTの平均長さは、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の長さを測定して求めることができる。
【0023】
そして、CNTの比表面積は、50m/g以上であることが好ましく、70m/g以上であることがより好ましく、100m/g以上であることが更に好ましく、また、400m/g以下であることが好ましく、350m/g以下であることがより好ましく、300m/g以下であることが更に好ましい。CNTの比表面積が上記範囲内であれば、CNT分散液中でCNTの良好な分散性を確保して、CNT分散液の粘度を安定させることができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0024】
ここで、CNT分散液中のCNTの含有割合は、特に限定さるものではなく、CNT分散液の用途に応じて適宜調整すればよい。
【0025】
本発明において用いられるCNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて合成したものを使用することができる。
【0026】
<バインダー>
本発明において、バインダーは、芳香族ビニル単量体単位および炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有する重合体(A)を含み、任意に、重合体(B)および/またはその他の成分を含み得る。
【0027】
[重合体(A)]
重合体(A)は、芳香族ビニル単量体単位と、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位とを含有することを必要とし、任意に、芳香族ビニル単量体単位および炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位以外の、その他の単量体単位を更に含有する。
【0028】
-芳香族ビニル単量体単位-
本発明において、芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体由来の繰り返し単位である。ここで、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
そして、重合体(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、重合体(A)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。重合体(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、バインダーのNMPなどの有機溶媒に対する溶解性が確保されるため、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができる。そして、その結果、CNT分散液の粘度を安定させることができる。一方、重合体(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池用電極を作製した際に、電極の柔軟性が向上する。
【0030】
-炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位-
本発明において、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位とは、一般式:-C2n-(但し、nは4以上の整数)で表わされるアルキレン構造で構成される繰り返し単位である。
【0031】
ここで、重合体(A)への炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)、(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、該共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)炭素数4以上の1-オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体の製造が容易であり、好ましい。
【0032】
また、上述の共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン単量体が挙げられる。中でも、共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエンが好ましい。即ち、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。なお、共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
また、炭素数4以上の1-オレフィン単量体としては、例えば、1-ブテン、1-ヘキセンなどが挙げられる。
これらは、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
そして、重合体(A)中の炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位の含有割合は、重合体(A)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、20質量%以上であることが好ましく、23質量以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。重合体(A)中の炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位の含有割合が上記下限値以上であれば、CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池用電極を作製した際に、電極の柔軟性が向上する。一方、重合体(A)中の炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位の含有割合が上記上限値以下であれば、バインダーのNMPなどの分散媒に対する溶解性がより確保されるため、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができる。そして、その結果、CNT分散液の粘度を安定させることができる。
【0034】
-その他の単量体単位-
重合体(A)に含まれ得るその他の単量体単位としては、例えば、ニトリル基本含有単量体単位、親水性基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位などが挙げられる。
【0035】
-ニトリル基含有単量体単位-
本発明において、ニトリル基含有単量体単位とは、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位である。
ここで、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。
これらは1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
そして、重合体(A)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合は、重合体(A)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、13質量%以上であることがより好ましく、また、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。重合体(A)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用バインダーを用いて作製した二次電池用電極において、電極剥離強度を向上させることができる。一方、重合体(A)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製された二次電池用電極を備える二次電池において、バインダーの電解液に対する膨潤率を低くすることができ、その結果、二次電池の寿命特性を向上させることができる。
【0037】
-親水性基含有単量体単位-
本発明において、親水性基含有単量体単位とは、親水性基含有単量体単位由来の繰り返し単位である。
ここで、親水性基含有単量体単位を形成し得る親水性基含有単量体としては、親水性基を有する重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、親水性基含有単量体としては、酸性基含有単量体単位、水酸基含有単量体単位およびこれらの塩などを有する単量体が挙げられる。酸性基含有単量体単位としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。
【0038】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノリル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0039】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0040】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0041】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH=CR-COO-(C2qO)-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Rは水素またはメチル基を表す。)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
これらは1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
そして、重合体(A)中の親水性基含有単量体単位の含有割合は、重合体(A)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。重合体(A)中の親水性基含有単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製した二次電池用電極において、電極剥離強度を向上させることができる。一方、重合体(A)中の親水性基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池を作製した際に、二次電池の電池抵抗を低減することができる。
【0043】
-(メタ)アクリル酸エステル単量体単位-
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位である。
ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート(「アクリル酸-2-エチルヘキシル」ともいう 。)、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
これらは1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
そして、重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、重合体(A)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に 、好ましくは20質量%以下である。勿論、重合体(A)は、その他の単量体単位を非含有であってもよい。即ち、重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、実質的に0質量%であってもよい 。
【0045】
-ヨウ素価-
また、重合体(A)のヨウ素価は、50mg/100mg以下であることが好ましく、40mg/100mg以下であることがより好ましく、20mg/100mg以下であることが更に好ましい。重合体(A)のヨウ素価が上記上限値以下であれば、CNT分散液中でのCNTの良好な分散性を確保することで、CNT分散液の粘度を安定させることができる。そして、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製された二次電池用電極を備える二次電池において、バインダーの電解液に対する膨潤率を低くすることができ、その結果、二次電池の寿命特性を向上させることができる。
なお、ヨウ素価は、JIS K6235(2006)に準じて求めることができる。
【0046】
-重量平均分子量-
そして、重合体(A)の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることが更に好ましく、また、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。重合体(A)の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて作製した二次電池用電極において、電極剥離強度を向上させることができる。加えて、該二次電池用電極を備えた二次電池において、バインダーの電解液に対する膨潤率を低減して、二次電池の寿命特性を向上させることができる。一方、重合体(A)の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、バインダーのNMPなどの有機溶媒に対する溶解性が確保されるため、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができ、その結果、CNT分散液の粘度を安定させることができる。
なお、重合体(A)の「重量平均分子量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定する。
【0047】
-重合体(A)の製造方法-
重合体(A)の製造方法は特に限定されず、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、任意に分子量調整剤や停止剤の存在下において、重合することによって製造することができる。
【0048】
そして、重合体(A)の重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
【0049】
また、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤、分子量調整剤および停止剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。なお、上記単量体組成物を重合して得られる、重合体(A)と重合溶媒とを含む溶液は、そのままバインダーとして使用してもよいし、溶媒置換や任意のその他の成分の添加などを行った後にバインダーとして使用してもよい。
また、CNT分散液の全固形分100質量%中、重合体(A)の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。
【0050】
[重合体(B)]
そして、バインダー中に含み得る重合体(B)としては、重合体(A)に該当しないものであれば種類は特に限定されない。例えば、CNT分散液を二次電池電極用スラリーの調製に用いる場合には、重合体(B)として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)などのフッ素含有重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)などを用いることができる。
これらの重合体(B)は、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、CNT分散液中の全バインダーに対する重合体(B)の割合は、固形分換算で40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。CNT分散液中の重合体(B)の割合が上記上限値以下であれば、CNT分散液中でのCNTの良好な分散性が確保されるため、CNT分散液の粘度を安定させることができる。また、CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池用電極を作製した際に、電極の柔軟性を向上させることができる。
【0052】
[その他の成分]
更に、バインダーは、上述した重合体(B)に加え、バインダーに配合し得る既知の任意の成分を、その他の成分として、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0053】
<バインダーの調製>
そして、バインダーの調製方法は、特に限定されることなく、例えば、上述した単量体組成物を重合して得た重合体(A)の水分散液を、任意に、重合体(B)および/またはその他の成分と混合して調製することができる。
【0054】
<分散媒>
また、CNT分散液中に含まれる分散媒としては、特に限定されず、例えば、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素化脂肪族炭化水素;芳酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N-メチル-2-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。これらの中でもNMPが好ましい。
これらの分散媒は、1種類を単独で、または、2種類以上を混合して混合溶媒として用いることができる。
【0055】
<導電材>
CNT分散液中には、その他の導電材が含まれていてもよい。ここで、その他の導電材としては、CNT以外の導電材であればよく、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に粉砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。
これらは1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
<全固形分濃度>
そして、CNT分散液中の全固形分濃度は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることが更に好ましい。CNT分散液中の全固形分濃度が上記下限値以上であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池用スラリーを用いて二次電池を作製した際に、電池抵抗を低減することができる。一方、CNT分散液中の全固形分濃度が上記上限値以下であれば、CNT分散液中でのCNTの良好な分散性を確保して、CNT分散液の粘度を安定させることができる。また、CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池を作製した際に、二次電池の電池抵抗を低減することができる。
【0057】
<カーボンナノチューブ分散液の全固形分に対するバインダーの割合>
また、CNT分散液の全固形分に対するバインダーの割合は、30質量%以下であることが必要であり、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、また、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。CNT分散液の全固形分に対するバインダーの割合が上記下限値以上であれば、CNT分散液中でCNTを良好に分散させることができ、その結果、CNT分散液の粘度を安定させることができる。一方、CNT分散液の全固形分に対するバインダーの割合が上記上限値以下であれば、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて二次電池を作製した際に、二次電池の電池抵抗を低減することができる。
【0058】
<粘度変化率>
そして、CNT分散液は、該CNT分散液を1週間放置する前後での、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下での粘度変化率が、50%以上であることが必要であり、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、また、300%以下であることが必要であり、250%以下であることが好ましく、200%以下であることがより好ましい。CNT分散液の粘度変化率が上記範囲内であれば、該CNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いて電極合材層を形成した際に、電極合材層中で良好な導電パスを形成することができる。そして、結果として、二次電池における電池抵抗を低減することができる。ここで、放置前のCNT分散液の粘度は、通常、1mPa・s以上200,000mPa・s以下であり、好ましくは100,000mPa・s以下である。
なお、CNT分散液の粘度変化率は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0059】
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
ここで、本発明のCNT分散液は、上述した各成分を分散媒に分散させて混合することにより調製することができる。具体的な混合方法としては、特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの既知の混合機を用いることができ、中でも、ビーズミル、ホモジナイザー、フィルミックスを使用することが好ましい。
【0060】
<カーボンナノチューブ分散液の用途>
本発明のCNT分散液は、CNT分散液中でのCNTの分散性に優れている。従って、該CNT分散液は各種用途に好適に用いることができる。
以下では、一例として、本発明のCNT分散液を用いた二次電池電極用スラリーと、該二次電池電極用スラリーを用いた二次電池用電極および二次電池について説明するが、本発明のCNT分散液の用途は、以下に示すものに限定されるものではない。
【0061】
(二次電池電極用スラリー)
本発明の二次電池電極用スラリーは、電極活物質と、上述したCNT分散液とを含む。即ち、本発明の二次電池電極用スラリーは、少なくとも電極活性物質と、CNTと、上述した重合体(A)と、分散媒とを含有する。本発明の二次電池電極用スラリーは、上述したCNT分散液を含んでいるので、CNTが良好に分散されている。従って、本発明の二次電池電極用スラリーを用いれば、CNT分散液中のカーボンナノチューブを導電材として利用して、導電材の分散性に優れた二次電池用電極用スラリーを提供することができる。
【0062】
<電極活物質>
本発明の二次電池電極用スラリー中に含まれる電極活物質は、二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば、二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムイオン二次電池用の電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0063】
[正極活物質]
具体的には、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(CoMnNi)O2)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li2MnO3-LiNiO2系固溶体、Li1+xMn2-x4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.54等の既知の正極活物質が挙げられる。
【0064】
[負極活物質]
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0065】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0066】
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0067】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0068】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0069】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。
【0070】
そして、電極活物質に対するCNT分散液の量は、電極活物質100質量部に対し、CNT分散液を固形分換算で0.01質量部以上3.0質量部以下であることが好ましい。
【0071】
<その他の成分>
二次電池電極用スラリー中に含み得るその他の成分としては、特に限定することなく、バインダー、導電助剤、補強材、レベリング剤、濡れ剤、粘度調整剤などが挙げられる。これらは、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
<二次電池電極用スラリーの調製>
本発明の二次電池電極用スラリーは、電極活物質と、任意のその他の成分とを、CNT分散液と混合することにより調製することができる。その際、混合方法および使用する混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、CNT分散液の調製で使用したものを用いることができる。混合順序としては、各成分を一括投入してもよいし、段階的に投入し混合してもよい。導電材の分散性を向上させるために、先に導電材とバインダーを混合しCNT分散液を調整し、その後、電極活物質を投入して混合する方法がより好ましい。
ここで、一例として、本発明の二次電池電極用スラリーの製造方法について以下に説明するが、本発明の二次電池電極用スラリーの製造方法は、以下の一例に限定されるものではない。
【0073】
[二次電池電極用スラリーの製造方法]
本発明の二次電池電極用スラリーの製造方法は、上述した二次電池電極用スラリーの製造方法であって、CNTと、バインダーと、分散媒とを混合してカーボンナノチューブ分散液を得る第一の工程と、CNT分散液と電極活物質とを混合する第二の工程とを含むものである。なお、本発明の二次電池電極用スラリーの製造方法において用いるCNT、バインダーおよび分散媒としては、上述したCNT分散液および二次電池電極用スラリーにおいて説明したものを用いることができ、それらの好適な存在比は、上述したCNTおよび二次電池電極用スラリー中の各成分の好適な存在比と同じである。なお、第一の工程および第二の工程において、各成分の混合は、既知の方法により行えばよい。
【0074】
(二次電池用電極)
本発明の二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は、上述した二次電池電極用スラリーを用いて形成されている。即ち、電極合材層には、少なくとも電極活物質と、CNTと、重合体(A)とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上述した二次電池電極用スラリー中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、二次電池電極用スラリー中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0075】
そして、本発明の二次電池用電極では、本発明のCNT分散液を含む二次電池電極用スラリーを用いているため、導電材を良好に分散させて、均一性の高い電極合材層を集電体上に良好に形成することができる。従って、該二次電池用電極を使用すれば、導電材の凝集に起因した電荷の集中および副反応の発生を抑制して、電池抵抗が低減した二次電池が得られる。
【0076】
<二次電池用電極の作製>
本発明の二次電池用電極は、例えば、本発明の二次電池電極用スラリーを集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された二次電池電極用スラリーを乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て作製される。
【0077】
[塗布工程]
上記二次電池電極用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、二次電池電極用スラリーを集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上の二次電池電極用スラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定し得る。
【0078】
ここで、二次電池電極用スラリーを塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
[乾燥工程]
集電体上の二次電池電極用スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の二次電池電極用スラリーを乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える二次電池用電極を得ることができる。
【0080】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0081】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極および負極の少なくとも一方として本発明の二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を備えているので、電池抵抗が低減しており、また、寿命特性が向上されている。
なお、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を正極として用いたものであることが好ましい。また、以下では、一例として二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0082】
<電極>
ここで、本発明の二次電池に使用し得る、上述した二次電池用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した二次電池用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0083】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すことから、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましく、LiPFが特に好ましい。なお、支持電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向がある。そのため、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0084】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれら有機溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いことから、カーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の支持電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5~15質量%することが好ましく、2~13質量%とすることがより好ましく、5~10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加することができる。
【0085】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0086】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0087】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、重合体における各単量体単位の割合は、通常、重合体の重合に用いる単量体組成物中における、各単量体単位を形成しうる単量体の比率(仕込み比)に一致する。
実施例および比較例において、各種物性は以下の方法を使用して測定または評価した。
【0088】
<ヨウ素価>
重合体のヨウ素価は、JIS K6235;2006に準拠して求めた。
【0089】
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。具体的には、ポリスチレンによって標準物質で検量線を作成することにより、標準物質換算値としての重量平均分子量を算出した。また、重量平均分子量の分布は、10,000未満の場合には2桁目を四捨五入し、10,000以上の場合には3桁目を四捨五入することで評価した。
なお、測定条件は、以下のとおりである。
<<測定条件>>
測定装置は、以下のとおり。
カラム:TSKgel α-M×2本(φ7.8mmI.D.×30cm×2本 東ソー社製)
溶離液:ジメチルホルムアミド(50mM臭化リチウム、10mMリン酸)
流速:0.5mL/min.
試料濃度:約0.5g/L(固形分濃度)
注入量:200μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製HLC-8320 GPC RI検出器)
検出器条件:RI:Pol(+),Res(1.0s)
分子量マーカー:東ソー社製 標準ポリスチレンキットPStQuick K
【0090】
<粘度変化率>
各実施例および比較例1~7で調製したカーボンナノチューブ分散液と、比較例8で調製したアセチレンブラック分散液とのそれぞれの粘度変化率を求めるために、次の操作を行った。
即ち、レオメーター(Anton Paar社製「MCR302」)を用いて、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下で、上記各カーボンナノチューブ分散液と、上記アセチレンブラック分散液について、それぞれ調製直後の粘度を測定し、得られた粘度をη0とした。次に、これらカーボンナノチューブ分散液およびアセチレンブラック分散液を密封状態とし、25℃で1週間(168時間)放置した。それから、1週間放置後の各カーボンナノチューブ分散液と、アセチレンブラック分散液とのそれぞれの粘度について、1週間放置する前と同じ条件下で測定し、得られた粘度をη1とした。η0およびη1から粘度変化率Δη=(η1/η0)×100を算出した。
粘度変化率が100%に近いほど、カーボンナノチューブの分散性が高くなる。そのため、正極内部に良好な導電パスを形成させることができ、電池抵抗値を低減することができる。
【0091】
<耐電解液性>
バインダーの耐電解液性は、バインダーの電解液に対する膨潤率を測定することによって評価した。
具体的には、バインダー含有NMP溶液を、乾燥後の厚みが100μmになるようにテフロン(登録商標)シャーレに流し込み、120℃で5時間以上加熱乾燥させ、バインダーフィルムを作製した。得られたバインダーフィルムを16mmφに打ち抜いて、重量を測定した(重量を「A」とする)。非水電解液20mlに上述のバインダーフィルムを浸漬させ、60℃で72時間保存した。非水電解液は、電解質としての濃度1MのLiPFと、溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(質量比)にビニレンカーボネート(VC)を2体積%添加したものとの混合液を用いた。
その後、バインダーフィルムを取り出し、バインダーフィルムの表面に付着した非水電解液を十分にふき取った後、重量を測定した(重量を「B」とする)。そして、重量AおよびBから、膨潤率[=(B/A)×100(%)]を求めた。
バインダーの電解液に対する膨潤率が低いほど、バインダーの耐電解液性は良好となり、電極構造を保持することができる。そのため、リチウムイオン二次電池の抵抗が低下し、寿命特性が向上する。
A:膨潤率が300%未満
B:膨潤率が300%以上400%未満
C:膨潤率が400%以上500%未満
D:膨潤率が500%以上
【0092】
<NMP溶解性>
バインダーのNMPに対する溶解性(以下、「NMP溶解性」ともいう。)は、バインダーのNMPに対する不溶分率(以下、「NMP不溶分率」という。)を測定することによって評価した。
具体的には、バインダー含有NMP溶液を、乾燥後の厚みが100μmになるようにテフロンシャーレに流し込み、120℃で5時間以上加熱乾燥させ、バインダーフィルムを作製した。得られたバインダーフィルムを16mmφに打ち抜いて、重量を測定した(重量を「A」とする)。NMP溶液20mlに上述のように打ち抜いたバインダーフィルムを浸漬させ、60℃で72時間保存した。それから、保存後のNMP溶液を80メッシュの篩(篩の重量を「B」とする)で濾過してから篩を乾燥し、乾燥後の篩の重量を測定した(重量を「C」とする)。重量A、BおよびCより、NMP不溶分率[={(C-B)/A}×100(%)]を求めた。
NMP不溶分率が低いほど、NMP溶解性が高いことを示す。
A:不溶分率が10%未満
B:不溶分率が10%以上30%未満
C:不溶分率が30%以上50%未満
D:不溶分率が50%以上
【0093】
<電極剥離強度>
正極合材層を形成したロールプレス後の正極を、幅1.0cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とした。そして、試験片の正極合材層側の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープはJIS Z1522に規定されるものを用いた。その後、セロハンテープを試験台に固定した状態で試験片を一端側から300mm/分の速度で他端側に向けて引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、応力の平均値を求めて、これをピール強度(N/m)とし、以下の基準で評価した。
ピール強度が大きいほど集電体に対する正極合材層の密着性が優れており、電極剥離強度が大きいことを示す。
A:ピール強度が10N/m以上
B:ピール強度が5N/m以上10N/m未満
C:ピール強度が3N/m以上5N/m未満
D:ピール強度が3N/m未満
【0094】
<電極の柔軟性>
作製した正極をSUS(Steel Use Stainless)製の円柱に正極合材層が外側になるように巻き付け、クラック発生の有無を確認した。電極の柔軟性は、クラックの発生した円柱の最大直径に応じて下記のように判定した。
クラックの発生した円柱の最大直径が小さいほど、電極の柔軟性に優れることを示す。
A:1.5mm以下
B:1.5mmを超え3mm以下
C:3mmを超え5mm以下
D:5mmを超える
【0095】
<電池抵抗>
作製したリチウムイオン二次電池を0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電した後、4.2Vで充電電流が0.02Cになるまで定電圧充電を行った。続いて、0.2Cで電池電圧が3.87V(SOC 50%)になるまで定電流放電を行った後、0.2C、0.5C、1.0C、2.0C、2.5C、3.0Cにて、それぞれ30秒放電後の電圧変化量を測定した。そして、各放電流および測定した電圧変化量をプロットし、その傾きを抵抗値(Ω)とした。算出した抵抗値を、以下の基準で評価した。
抵抗値が低いほど、リチウムイオン二次電池の電池抵抗が低いことを示す。
A:抵抗値が4Ω未満
B:抵抗値が4Ω以上5Ω未満
C:抵抗値が5Ω以上6Ω未満
D:抵抗値が6Ω以上
【0096】
<寿命特性>
作製したリチウムイオン二次電池について、45℃環境下で、1Cの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、1Cの定電流で電池電圧が3Vになるまで放電する操作を100回繰り返した。そして、1回目の放電容量(放電容量を「A」とする)に対する100回目の放電容量(放電容量を「B」とする)から充放電容量保持率[=(B)/(A)×100(%)]を求め、以下の基準に従い評価した。
充放電容量保持率が高いほど、寿命特性に優れることを示す。
A:充放電容量保持率が90%以上
B:充放電容量保持率が85%以上90%未満
C:充放電容量保持率が80%以上85%未満
D:充放電容量保持率が80%未満
【0097】
(実施例1)
<重合体(A)の調製>
反応器に、イオン交換水180部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(濃度10%)25部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン42部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル14部、カルボン酸基を有する単量体としてのメタクリル酸5部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン2部を、この順に投入した。次いで、反応器内部の気体を窒素で3回置換した後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン39部を投入した。10℃に保った反応器に、重合開始剤としてのクメンハイドロパーオキサイド0.1部を投入して重合反応を開始し、攪拌しながら重合反応を進行させた。単量体の重合体への転化率が85%になった時点で、停止剤としての2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)を作用させたのち、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、目的とする重合体の前駆体(粒子状重合体)の水分散液を得た。得られた重合体の前駆体の水分散液(全固形分:48g)を、撹拌機付きの1Lオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒としての酢酸パラジウム50mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させて、目的の重合体(A)を得た。得られた重合体(A)の単量体組成、ヨウ素価および重量平均分子量を表1に示す。
【0098】
<重合体(A)含有NMP溶液の調製>
上述のようにして得た重合体(A)の水分散液を、分散媒としてのNMPと混合し、混合液を得た。次いで、得られた混合液中に含まれる水を減圧下で全て蒸発させて、重合体(A)含有NMP溶液を得た。得られた重合体(A)含有NMP溶液を、バインダーとして使用した。バインダー(重合体(A))の耐電解液性およびNMP溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
カーボンナノチューブ(比表面積:150m/g)6.8部と、上記重合体(A)含有NMP溶液1.2部(固形分換算量)と、NMP92.0部とを、ディスパーを用いて攪拌し(3000rpm、10分)、その後、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用して、周速8m/sにて1時間混合することにより、固形分濃度が8.0質量%のカーボンナノチューブ分散液を調製した。このカーボンナノチューブ分散液について、レオメーター(Anton Paar社製「MCR302」)を使用して、温度25℃、せん断速度0.1(1/s)の条件下で粘度を測定したところ、粘度は500mPa・sであった。
得られたカーボンナノチューブ分散液について、粘度変化率を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<正極用スラリーの調製>
正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.32、平均粒子径:10μm)97.0部と、上述のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を固形分換算で1.0部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ社製、#7208)を2.0部と、分散媒としてのNMPとを添加し、プラネタリーミキサーにて攪拌して(60rpm、30分)正極用スラリーを調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用スラリーの粘度(JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計により測定。温度:25℃、回転数:60rpm)が4000~5000mPa・sの範囲内となるように調整した。
【0101】
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして得た正極用スラリーを、コンマコーターでアルミ箔の片面に乾燥後の目付量が20mg/cmになるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm(片面)の正極合材層と、アルミ箔とからなるシート状正極を作製した。なお、シート状正極の厚みは70μmであった。このシート状正極を幅4.6cm、長さ50cmに切断して、リチウムイオン二次電池用の正極とした。そして、得られた正極について、電極剥離強度と電極の柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
【0102】
<負極の作製>
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)90部とSiO(体積平均粒子径:10μm)10部との混合物と、結着材としてのスチレンブタジエン重合体1部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部と、分散媒としての適量の水とをプラネタリーミキサーにて撹拌し、負極用スラリーを調製した。
次に、集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。上述のようにして得た負極用スラリーを銅箔の片面に乾燥後の塗布量がそれぞれ10mg/cmになるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥した。その後、150℃で2時間加熱処理して、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.8g/cmの負極合材層(片面)と、銅箔とからなるシート状負極を作製した。そして、シート状負極を幅4.8cm、長さ52cmに切断して、リチウムイオン二次電池用の負極とした。
【0103】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上述のようにして得た正極と負極とを、セパレータ(厚さ15μmのポリプロピレン製の微多孔膜)を介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。そして、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。なお、圧縮後の捲回体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また、電解液[組成:濃度1.0MのLiPF溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(質量比)の混合溶媒にフルオロエチレンカーボネート5質量%を添加した混合溶液であり、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加]を準備した。
その後、圧縮した捲回体をアルミ製ラミネートケース内に3.2gの非水電解液とともに収容した。そして、負極の所定の箇所にニッケルリード線を接続し、正極の所定の箇所にアルミニウムリード線を接続したのち、上記ラミネートケースの開口部を熱で封口し、リチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池は、幅約35mm、高さ約50mm、厚さ約5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は750mAhであった。得られたリチウムイオン二次電池について、電池抵抗と寿命特性(充電電圧4.45V)を評価した。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例2~6)
重合体(A)中の繰り返し単位の割合が表1に示す割合となるように、重合体(A)を調製した。更に、実施例2では、水素化反応時の、水素化反応触媒としての酢酸パラジウムの量を40mgに変更し、ヨウ素価が表1に示す値となるように重合体(A)を調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例7~9)
重合体(A)の重量平均分子量が表1に示すものになるように、t-ドデシルメルカプタンの量を変更した。具体的には、実施例7では4部、実施例8では1.2部、実施例9では0.8部のt-ドデシルメルカプタンを使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例10)
カーボンナノチューブ分散液中の全固形分に対するバインダーの割合が表1に示す割合となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例11)
CNT分散液中の、全バインダー固形分に対するPVDFの割合が20質量%となるように、重合体(A)含有NMP溶液中にPVDFを加え、バインダーとした以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例1~5)
重合体(A)中の繰り返し単位の割合が表2に示す割合となるように、重合体(A)を調製した。また、比較例1では、水素化反応時の、水素化反応触媒としての酢酸パラジウムの量を20mgに変更し、ヨウ素価が表1に示す値となるように重合体(A)を調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0109】
(比較例6)
重合体(A)の繰り返し単位の割合が表2に示す割合となるように、重合体(A)を調製した。また、重合体(A)の重量平均分子量が表1に示すものとなるように、t-ドデシルメルカプタンの量を0.6部に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
(比較例7)
重合体(A)の繰り返し単位の割合が表2に示す割合となるように、重合体(A)を調製した。また、カーボンナノチューブ分散液中の全固形分に対するバインダーの割合が表1に示す割合となるように変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、カーボンナノチューブ分散液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
(比較例8)
カーボンナノチューブ分散液の調製において、カーボンナノチューブに代えて、アセチレンブラックを使用してアセチレンブラック分散液を調製した。そして、このアセチレンブラック分散液について、粘度変化率を測定した。結果を表2に示す。
そして、カーボンナノチューブ分散液に代えて、上記アセチレンブラック分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、重合体(A)含有NMP溶液、正極用スラリー、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
なお、以下に示す表1、表2中、
「CNT」は、カーボンナノチューブを示し、
「Ace.B」は、アセチレンブラックを示し、
「ST」は、スチレンを示し、
「(H-)BD」は、1,3-ブタジエン水素化物単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「MAA」は、メタアクリル酸を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
実施例および比較例より以下のことが分かる。
カーボンナノチューブ分散液の粘度変化率が本発明の範囲外である場合(比較例1~3、6)、カーボンナノチューブ分散液に含まれる重合体(A)が炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有しない場合(比較例4)、重合体(A)が芳香族ビニル単量体を含まない場合(比較例5)、カーボンナノチューブ分散液の全固形分に対するバインダーの割合が本発明の範囲外である場合(比較例7)、カーボンナノチューブに代えてアセチレンブラックを含む分散液である場合(比較例8)には、リチウムイオン二次電池の電池抵抗が増大し、寿命特性が低下することが分かる。
また、実施例より、重合体(A)中の繰り返し単位の種類や割合、ヨウ素価、重合体(A)の重量平均分子量を調製することにより、リチウムイオン二次電池の電池抵抗や寿命特性を更に向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性に優れることにより、各種用途に有用なカーボンナノチューブ分散液を提供することができる。
また、本発明によれば、二次電池の作製に好適に使用され得る二次電池電極用スラリーを提供することができる。
更に、本発明によれば、二次電池の電池特性を向上させ得る二次電池用電極と、電池抵抗や寿命特性などの電池特性に優れる二次電池を提供することができる。