(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】摩擦部材、下張り材用摩擦材組成物及び下張り材
(51)【国際特許分類】
F16D 69/02 20060101AFI20221129BHJP
F16D 69/04 20060101ALI20221129BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16D69/02 F
F16D69/04 A
C09K3/14 520F
(21)【出願番号】P 2020559660
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046012
(87)【国際公開番号】W WO2020121504
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】光本 真理
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162385(JP,A)
【文献】特開2017-186469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上張り材、下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材であって、
前記下張り材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、
且つ、前記下張り材が、平均粒子径(D
50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなるものである、摩擦部材。
【請求項2】
前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D
50)が8~60μmの炭素質粒子(A)であり、且つ、別の少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D
50)が7μm以下の炭素質粒子(B)である、請求項1に記載の摩擦部材。
【請求項3】
前記炭素質粒子(A)の配合量が、前記下張り材100質量部に対して、1~11質量部であり、前記炭素質粒子(B)の配合量が、前記下張り材100質量部に対して、0.1~10質量部である、請求
項2に記載の摩擦部材。
【請求項4】
前記2種以上の炭素質粒子が、黒鉛である、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦部材。
【請求項5】
銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、平均粒子径(D
50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなる、下張り材用摩擦材組成物。
【請求項6】
前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D
50)が8~60μmの炭素質粒子(A)であり、且つ、別の少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D
50)が7μm以下の炭素質粒子(B)である、請求項5に記載の下張り材用摩擦材組成物。
【請求項7】
前記炭素質粒子(A)の配合量が、前記下張り材用摩擦材組成物100質量部に対して、1~11質量部であり、前記炭素質粒子(B)の配合量が、前記下張り材用摩擦材組成物100質量部に対して、0.1~10質量部である、請求項6に記載の下張り材用摩擦材組成物。
【請求項8】
前記2種以上の炭素質粒子が、黒鉛である、請求項5~7のいずれか1項に記載の下張り材用摩擦材組成物。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の下張り材用摩擦材組成物を成形してなる下張り材。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか1項に記載の下張り材用摩擦材組成物を製造する方法であって、
平均粒子径(D
50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合する、下張り材用摩擦材組成物の製造方法。
【請求項11】
銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、炭素質粒子を含有し、該炭素質粒子が、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線において、2つ以上のピークを有するものである、下張り材用摩擦材組成物。
【請求項12】
前記2つ以上のピークが、8~60μmの範囲に極大を有する第1のピークと、7μm以下の範囲に極大を有する第2のピークと、を含むものである、請求項11に記載の下張り材用摩擦材組成物。
【請求項13】
前記炭素質粒子が、黒鉛である、請求項11又は12に記載の下張り材用摩擦材組成物。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載の下張り材用摩擦材組成物を成形してなる下張り材。
【請求項15】
上張り材、請求項14に記載の下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦部材、下張り材用摩擦材組成物、下張り材用摩擦材組成物の製造方法、及び下張り材に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車、四輪自動車等に取り付けられている制動用の摩擦部材であるディスクブレーキパッドとして、鉄等の金属からなるバックプレートの一方の面に下張り材を介して上張り材が固着された摩擦部材が用いられている。
ディスクブレーキパッドは、使用時における水分の付着等に起因する錆の発生を抑制するために、バックプレート及び摩擦材の側面に塗料を塗装して用いられている。
ディスクブレーキパッドの塗装方法の一つに粉体塗装法がある。粉体塗装法は、ディスクブレーキパッドを帯電させ、粉体塗料を表面に電気的に付着させた後、焼き付け炉で加熱し、粉体塗料を溶融させてディスクブレーキパッドの表面に塗膜を形成する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、摩擦材に使用される銅が、ブレーキの摩耗粉として飛散し、河川、湖、海洋等を汚染することが示唆されており、国内及び諸外国において、摩擦材における銅の使用量を制限する動きが高まっている。しかしながら、銅は摩擦材を構成する素材の中でも導電性が高いものであり、銅の使用を制限すると、ディスクブレーキパッドの導電性が低下する。導電性の低下は、粉体塗装時における塗料の静電付着量の減少を招き、その結果、塗装の造膜量が減少して耐食性を備えた良好な塗膜を得ることが難しくなる。
【0004】
銅を含まない摩擦材において良好な塗膜を得る手段として、摩擦材組成物に特定の黒鉛を含有させる、あるいは黒鉛量を増量することで摩擦材の導電性を高める方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、摩擦材中の黒鉛を増量すると、黒鉛が有する潤滑作用が高まりすぎ、摩擦係数が低下する問題が生じるため、黒鉛の増量による導電性の向上には限界がある。
【0005】
また、摩擦材表面の導電性を高める方法として、塗装工程前に、粉体塗装面の一部又は全部に炭素系粒子分散液を塗布する塗装前処理工程を追加する摩擦材の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-166574号公報
【文献】国際公開2014/147807号
【文献】特開2018-146106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3の方法によると、摩擦材組成物中の黒鉛の含有量を増量しなくても、粉体塗装時における塗料の静電付着量が十分であり、塗料の造膜が良好であるディスクブレーキパッドを提供することができる。しかしながら、ディスクブレーキパッドの生産性の観点からは、より簡便な方法で、良好な摩擦性能を有しながらも、導電性を高め、粉体塗装性を向上させる技術が望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、上張り材、下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材であって、下張り材が銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満である組成においても、良好な摩擦性能を有しながら、粉体塗装性に優れる摩擦部材、該摩擦部材に用いられる下張り材用摩擦材組成物及びその製造方法、並びに下張り材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の本発明によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[15]に関する。
[1]上張り材、下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材であって、
前記下張り材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、
且つ、前記下張り材が、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなるものである、摩擦部材。
[2]前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D50)が8~60μmの炭素質粒子(A)であり、且つ、別の少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D50)が7μm以下の炭素質粒子(B)である、上記[1]に記載の摩擦部材。
[3]前記炭素質粒子(A)の配合量が、前記下張り材100質量部に対して、1~11質量部であり、前記炭素質粒子(B)の配合量が、前記下張り材100質量部に対して、0.1~10質量部である、上記[1]又は[2]に記載の摩擦部材。
[4]前記2種以上の炭素質粒子が、黒鉛である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の摩擦部材。
[5]銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなる、下張り材用摩擦材組成物。
[6]前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D50)が8~60μmの炭素質粒子(A)であり、且つ、別の少なくとも1種の炭素質粒子が、平均粒子径(D50)が7μm以下の炭素質粒子(B)である、上記[5]に記載の下張り材用摩擦材組成物。
[7]前記炭素質粒子(A)の配合量が、前記下張り材用摩擦材組成物100質量部に対して、1~11質量部であり、前記炭素質粒子(B)の配合量が、前記下張り材用摩擦材組成物100質量部に対して、0.1~10質量部である、上記[6]に記載の下張り材用摩擦材組成物。
[8]前記2種以上の炭素質粒子が、黒鉛である、上記[5]~[7]のいずれかに記載の下張り材用摩擦材組成物。
[9]上記[5]~[8]のいずれかに記載の下張り材用摩擦材組成物を成形してなる下張り材。
[10]上記[5]~[8]のいずれかに記載の下張り材用摩擦材組成物を製造する方法であって、
平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合する、下張り材用摩擦材組成物の製造方法。
[11]銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、炭素質粒子を含有し、該炭素質粒子が、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線において、2つ以上のピークを有するものである、下張り材用摩擦材組成物。
[12]前記2つ以上のピークが、8~60μmの範囲に極大を有する第1のピークと、7μm以下の範囲に極大を有する第2のピークと、を含むものである、上記[11]に記載の下張り材用摩擦材組成物。
[13]前記炭素質粒子が、黒鉛である、上記[11]又は[12]に記載の下張り材用摩擦材組成物。
[14]上記[11]~[13]のいずれかに記載の下張り材用摩擦材組成物を成形してなる下張り材。
[15]上張り材、上記[14]に記載の下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、上張り材、下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材であって、下張り材が銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満である組成においても、良好な摩擦性能を有しながら、粉体塗装性に優れる摩擦部材、該摩擦部材に用いられる下張り材用摩擦材組成物及びその製造方法、並びに下張り材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ディスクブレーキパッドを示す模式図(上面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。さらに、本明細書において、下張り材又は下張り材用摩擦材組成物中の各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、下張り材又は下張り材用摩擦材組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有量を意味する。
また、本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0013】
[摩擦部材]
本実施形態の摩擦部材は、
上張り材、下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材であって、
前記下張り材が、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、
且つ、前記下張り材が、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなるものである、摩擦部材である。
【0014】
図1及び
図2を参照しながら本実施形態の摩擦部材の構成を説明すると、本実施形態の摩擦部材4は、上張り材1、下張り材2及びバックプレート3をこの順に有する。
ここで、上張り材1は、摩擦部材4の摩擦面となる摩擦材であり、下張り材2は、摩擦部材4の摩擦面となる上張り材1とバックプレート3との間に介在し、剪断強度及び耐クラック性向上を目的とした層のことである。但し、本実施形態の摩擦部材は、
図1及び
図2の構成に限定されるものではなく、例えば、バックプレート3と下張り材2との間に、バックプレート3の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層を介在させた摩擦部材であってもよく、前記バックプレート3において、前記下張り材2を有する側とは反対側にシムを有する摩擦部材であってもよい。シムは摩擦部材の制振性向上のために用いられるスペーサーである。
以下、本実施形態の摩擦部材を構成する各部材について説明する。
【0015】
<下張り材>
本実施形態の摩擦部材が有する下張り材は、
銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなるものである。
本実施形態の摩擦部材が有する下張り材は、上記炭素質粒子を含有することによって、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満である組成においても、優れた摩擦性能を有しながらも、良好な粉体塗装が可能となる。その原因については定かではないが、次にように考えられる。
黒鉛に代表される炭素質粒子はそれ自体が導電体であるため、その粒子径が大きい程、導電パスは形成され易くなる。一方、炭素質粒子の粒子サイズが大きくなる程、形成される導電パスは局所的なものとなり、摩擦材全体としての導電性の均質性は十分ではなくなる傾向にある。これに対して、本実施形態の摩擦部材が有する下張り材においては、相対的に大きいサイズの炭素質粒子を高頻度で含有することで導電パスを適切に形成しつつ、該炭素質粒子よりも相対的に小さいサイズの炭素質粒子を高頻度で含有させることによって、摩擦材全体の導電性を均質に保ちながら向上させることができ、これによって、多量の黒鉛を添加せずとも良好な粉体塗装が可能になったものと推測される。
【0016】
(炭素質粒子)
配合する炭素質粒子の種類の数は、平均粒子径(D50)が異なる2種以上であればよく、2種であることが好ましい。但し、所望する性能に応じて、3種以上であってもよく、4種以上であってもよく、また、6種以下であってもよく、5種以下であってもよい。
本実施形態において、炭素質粒子の平均粒子径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、炭素質粒子の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒子径とすることで測定することができる。測定サンプルは、イオン交換水に添加した炭素質粒子を50~300Wの超音波によって1~10分間分散処理させたものを使用することができる。炭素質粒子の分散性を高めるため、界面活性剤(例えば東京化成工業株式会社製「Tween-20」)をイオン交換水100質量%に対して0.5~5質量%添加することができる。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、株式会社堀場製作所製「LA-950」等を使用することができる
【0017】
前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子は、平均粒子径(D50)が8~60μmである炭素質粒子(A)であることが好ましい。炭素質粒子(A)の平均粒子径(D50)は、下張り材の耐摩耗性向上の観点からは、10~55μmが好ましく、20~50μmがより好ましく、30~45μmがさらに好ましい。また、炭素質粒子(A)の平均粒子径(D50)は、導電性付与の観点からは、8~45μmが好ましく、9~30μmがより好ましく、10~25μmがさらに好ましい。
【0018】
また、前記2種以上の炭素質粒子のうち、少なくとも1種の炭素質粒子は、平均粒子径(D50)が7μm以下である炭素質粒子(B)であることが好ましい。炭素質粒子(B)の平均粒子径(D50)は、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、4μm以下が特に好ましい。炭素質粒子(B)の平均粒子径(D50)は、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0019】
前記2種以上の炭素質粒子として、炭素質粒子(A)と炭素質粒子(B)とを配合することが好ましい。そのとき、炭素質粒子(A)の平均粒子径(D50)と、炭素質粒子(B)の平均粒子径(D50)との差は、下張り材への導電性付与の観点から、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよい。
また上記の差は、炭素質粒子の下張り材内での偏析防止の観点から、50μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。
【0020】
本実施形態の摩擦部材が有する下張り材においては、炭素質粒子として、炭素質粒子(A)及び炭素質粒子(B)以外の炭素質粒子も配合してもよいが、配合しなくてもよい。
【0021】
下張り材中における炭素質粒子(A)の配合量は、下張り材100質量部に対して、1~11質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、3~9質量部がさらに好ましい。
下張り材中における炭素質粒子(B)の配合量は、下張り材100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.3~7質量部がより好ましく、0.5~5質量部がさらに好ましい。
下張り材中における炭素質粒子の合計配合量は、下張り材100質量部に対して、3~11.5質量部が好ましく、5~11質量部がより好ましく、7~10.5質量部がさらに好ましく、7.5~10質量部が特に好ましい。
【0022】
本実施形態において、炭素質粒子としては、例えば、カーボンブラック、コークス、黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、易黒鉛、難黒鉛等が挙げられ、これらの中でも、耐摩耗性及び導電性に優れるという観点から、黒鉛であることが好ましい。
黒鉛の種類は特に限定されず、人造黒鉛であってもよく、天然黒鉛であってもよく、人造黒鉛と天然黒鉛とを併用してもよい。
炭素質粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、板状、柱状、鱗片状、繊維状、不定形状、ストラクチャー構造を有するもの等が挙げられ、これらのうちの1つの形状を有する炭素質粒子と、上記1つの形状とは異なる形状を有する炭素質粒子とを混合して用いてもよい。これらの中でも、炭素質粒子の形状は、導電性付与の観点から、球状、不定形状、繊維状が好ましい。
【0023】
本実施形態の摩擦部材が有する下張り材は、さらに、結合材、有機充填材、炭素質粒子以外の無機充填材(以下、単に「無機充填材」ともいう)及び繊維基材からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0024】
(結合材)
結合材は、炭素質粒子、有機充填材、無機充填材、繊維基材等を結合して一体化し、所定の形状と強度を与える機能を有する。
結合材としては特に制限はなく、下張り材に通常用いられる結合材を用いることができる。
結合剤としては、例えば、熱硬化性樹脂が好適に用いられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。フェノール樹脂は、未変性フェノール樹脂であってもよく、変性フェノール樹脂、エラストマー分散フェノール樹脂等であってもよく、変性フェノール樹脂としては、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等が挙げられる。エラストマー分散フェノール樹脂としては、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中でも、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えるという観点から、未変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂が好ましい。
結合材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
下張り材中における結合材の含有量は、下張り材100質量部に対して、5~30質量部が好ましく、7~25質量部がより好ましく、9~20質量部がさらに好ましく、10~15質量部が特に好ましい。結合材の含有量を上記範囲とすることで、下張り材の強度を保ち、弾性率が高くなることによる鳴き等の制振性悪化をより抑制できる。
【0026】
(有機充填材)
有機充填材は、制振性、耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤としての機能を発現し得るものである。ここで、本実施形態おいて、有機充填材は繊維形状のもの(例えば後述の有機繊維)を含まない。有機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
有機充填材としては、カシューパーティクル、ゴム、メラミンダスト等の有機充填材を含有していてもよい。これらの中でも、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性を良好にする観点並びに鳴きを抑制する観点から、カシューパーティクル、ゴムが好ましい。カシューパーティクル及びゴムは併用してもよいし、カシューパーティクルをゴムで被覆したものを用いてもよい。
有機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
カシューパーティクルは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られ、一般的に、カシューダストと称されることもある。
カシューパーティクルは、一般的に、硬化反応に使用する硬化剤の種類に応じて、茶系、茶黒系、黒系等に分類される。カシューパーティクルは、分子量等を調整することで、耐熱性及び音振性、さらに相手材であるロータへの被膜形成性等を制御し易くすることが可能である。
カシューパーティクルの平均粒子径は、分散性の観点から、850μm以下が好ましく、750μm以下がより好ましく、600μm以下がさらに好ましい。カシューパーティクルの平均粒子径の下限値に特に制限はなく、200μm以上であってもよく、300μm以上であってもよく、400μm以上であってもよい。
【0029】
下張り材がカシューパーティクルを含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましく、2~5質量部がさらに好ましい。カシューパーティクルの含有量が上記下限値以上であると、下張り材に適度な柔軟性を付与することができるため、音振性を改善できる傾向にあり、上記上限値以下であると、耐熱性及び耐クラック性の低下を抑制できる傾向にある。
【0030】
ゴムとしては、下張り材に通常用いられるゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム、合成ゴム等が挙げられる。合成ゴムとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、タイヤトレッドゴムの粉砕粉等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、柔軟性及び製造コストのバランスの観点から、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、タイヤトレッドゴムの粉砕粉が好ましい。
【0031】
下張り材がゴムを含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましく、2~5質量部がさらに好ましい。ゴムの含有量が上記範囲であると、下張り材の弾性率が高くなること、及び鳴き等の制振性が悪化することを避けることができる傾向にあり、また、耐熱性の悪化及び熱履歴による強度低下を避けることができる傾向にある。
【0032】
下張り材が有機充填材を含有する場合、その合計含有量は、下張り材100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~10質量部がより好ましく、5~8質量部がさらに好ましい。有機充填材の合計含有量が上記範囲であると、下張り材の弾性率が高くなること、並びに鳴き等の制振性の悪化及び耐摩耗性の悪化を避けることができる傾向にあり、また、耐熱性の悪化及び熱履歴による強度低下を避けることができる傾向にある。
【0033】
(無機充填材)
無機充填材は、下張り材の耐熱性、耐摩耗性、摩擦係数の安定性等の悪化を避けるための摩擦調整剤としての機能を発現し得るものである。ここで、本実施形態においては、無機充填材は繊維形状のもの(例えば後述の無機繊維)を含まない。
無機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
無機充填材としては特に制限はなく、下張り材に通常用いられる無機充填材を用いることができる。無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化ビスマス、硫化亜鉛等の金属硫化物;チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩;マイカ、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、バーミキュライト、硫酸カルシウム、粒状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト、クロマイト、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、四酸化三鉄、酸化亜鉛、α-アルミナ、γ-アルミナ;鉄粉末、鋳鉄粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、スズ粉末、亜鉛粉末、及び上記金属のうちの少なくとも1つの金属を含有する合金粉末等の金属粉末などが挙げられる。これらの中でも、水酸化カルシウム、硫酸バリウムが好ましい。
【0035】
下張り材が水酸化カルシウムを含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、0.2~7質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~3質量部がさらに好ましい。
下張り材が硫酸バリウムを含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、10~60質量部が好ましく、30~55質量部がより好ましく、40~50質量部がさらに好ましい。
下張り材が無機充填材を含有する場合、その合計含有量は、下張り材100質量部に対して、20~65質量部が好ましく、30~60質量部がより好ましく、45~55質量部がさらに好ましい。
【0036】
(繊維基材)
下張り材は、さらに、繊維基材を含有することが好ましい。
繊維基材は、下張り材において補強作用を示すものである。
繊維基材としては、有機繊維、無機繊維が挙げられる。
繊維基材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
-有機繊維-
有機繊維とは、有機物を主成分とする繊維状の材料である。
有機繊維としては、麻、木綿、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、アラミド繊維が好ましい。
下張り材が有機繊維を含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましく、2~5質量部がさらに好ましい。有機繊維の含有量が上記下限値以上であると、良好なせん断強度、耐クラック性及び耐摩耗性が発現する傾向にあり、上記上限値以下であると、下張り材中の有機繊維と他材料の偏在によるせん断強度及び耐クラック性の悪化を効果的に抑制することができる。
【0038】
-無機繊維-
無機繊維とは、金属及び金属合金以外の無機物を主成分とする繊維状の材料であり、下張り材の機械強度及び耐摩耗性を向上する効果を発現し得るものである。
無機繊維としては、鉱物繊維、ガラス繊維、繊維状ウォラストナイト、金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、シリカアルミナ繊維、耐炎化繊維等が挙げられる。これらの中でも、鉱物繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0039】
鉱物繊維は、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維である。鉱物繊維としては、例えば、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、FeO、Na2O等を含有する鉱物繊維、又はこれら化合物を1種もしくは2種以上含有する鉱物繊維等が挙げられる。鉱物繊維としては、アルミニウム元素を含む鉱物繊維が好ましく、Al2O3を含有する鉱物繊維がより好ましく、Al2O3とSiO2とを含有する鉱物繊維がさらに好ましい。
鉱物繊維の平均繊維長は、せん断強度の低下を抑制する観点から、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、340μm以下がさらに好ましい。また、鉱物繊維の平均繊維長は、例えば、100μm以上であってもよく、120μm以上であってもよい。
鉱物繊維の平均繊維径(直径)に特に制限はないが、通常、1~20μmであり、2~15μmであってもよい。
【0040】
鉱物繊維は、人体有害性の観点から、生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成が、アルカリ酸化物及びアルカリ土類酸化物の総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びバリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、且つ、(a)短期吸入暴露による生体内耐久試験で、長さが20μm超の繊維の半減期が10日未満であること、(b)短期気管内注入による生体内耐久試験で、長さが20μm超の繊維の半減期が40日未満であること、(c)腹腔内投与試験で有意な発ガン性が無いこと、又は、(d)長期吸入暴露試験で発ガン性と結びつく病理所見又は腫瘍形成が無いこと、のいずれかを満たす繊維((EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外)参照)を示す。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO(-K2O-Na2O)系繊維等が挙げられ、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、FeO、K2O及びNa2O等から選択される少なくとも2種を任意の組み合わせで含有する鉱物繊維が挙げられる。
【0041】
下張り材が鉱物繊維を含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、5~30質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましく、13~20質量部がさらに好ましい。
下張り材がガラス繊維を含有する場合、その含有量は、下張り材100質量部に対して、1~25質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましく、7~15質量部がさらに好ましい。
下張り材が無機繊維を含有する場合、その合計含有量は、下張り材100質量部に対して、10~50質量部が好ましく、15~40質量部がより好ましく、20~30質量部がさらに好ましい。無機繊維の合計含有量が上記範囲であると、より一層下張り材の機械強度及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0042】
(その他の材料)
下張り材は、上記各成分のみからなるものであってもよく、必要に応じて、上記各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0043】
(銅含有量)
下張り材は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、0.2質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。銅の含有量が上記範囲であると、環境中に摩耗粉として放出されても、河川等の汚染を引き起こさないものとすることができる。なお、銅の含有量は、繊維状、粉末状等の銅、銅合金及び銅化合物に含まれる銅元素(Cu)の、下張り材全体における含有量を示す。
【0044】
(鉄含有量)
下張り材は、鉄系金属を含有しないことが好ましいが、鉄系金属を含有する場合には、下張り材中における鉄系金属の含有量は、鉄元素として0.5質量%未満が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がさらに好ましい。鉄の含有量が上記範囲であると、耐錆性を良好なものとすることができ、バックプレートとの接着界面での発錆による耐久性低下を抑制できる。
【0045】
(アスベスト含有量)
下張り材は、NAO(Non-Asbestos-Organic)材に分類されるものであり、いわゆるノンアスベスト摩擦材(アスベストを含有しない摩擦材、又は含有する場合であってもアスベストの含有量が極微量の摩擦材)である。下張り材はアスベストを含有しないことが好ましいが、アスベストを含有する場合には、下張り材中におけるアスベストの含有量は、0.2質量%以下が好ましい。
【0046】
下張り材の厚みは、1mm以上が好ましく、1~5mmがより好ましく、1~4mmがさらに好ましい。下張り材の厚みが1mm以上であると、上張り材とバックプレート間の断熱効果が高くなり、バックプレートのクラック及び割れを効果的に抑制することができる。
【0047】
下張り材は、後述する本実施形態の下張り材用摩擦材組成物を用いて製造することができる。
【0048】
<上張り材>
上張り材は、上張り材用摩擦材組成物を成形してなるものであり、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材である。上張り材用摩擦材組成物としては、特に制限はなく、公知の上張り材用摩擦材組成物を利用することができる。具体的には、有機充填材、無機充填材、繊維基材及び結合材を含有し、銅を含まないか、又は銅を含んでいても該銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満である上張り材用摩擦材組成物を用いることが好ましい。有機充填材、無機充填材、繊維基材及び結合材については、下張り材において説明したものと同様のものを使用することができる。
【0049】
<バックプレート>
バックプレートは、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属、繊維強化プラスチック等を用いることができる。バックプレートとしては、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0050】
<摩擦部材の製造方法>
本実施形態の摩擦部材は、例えば、上張り材用摩擦材組成物と下張り材用摩擦材組成物をそれぞれ別々に、レーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機を用いて混合し、混合後の上張り材用摩擦材組成物と下張り材用摩擦材組成物とを成形金型にて一体で予備成形し、バックプレートの一方の面に、下張り材用予備成形体及び上張り材用予備成形体を重ね合わせ、例えば、成形温度130~160℃、成形圧力20~50MPaの条件で2~10分間で成形し、得られた成形物を、例えば、150~250℃で2~10時間熱処理することで製造される。また、必要に応じて、塗装、スコーチ処理、研磨処理を行ってもよい。上記工程の中で、予備成形工程を省略して混合物を直接熱成形してもよい。
【0051】
本実施形態の摩擦部材は、ディスクブレーキパッド用又はドラムブレーキライニング用として好適である。また、上張り材用摩擦材組成物と下張り材用摩擦材組成物を目的形状に成形、加工、貼り付け等の工程を施すことにより、クラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等の摩擦材としても使用することができる。
【0052】
[下張り材用摩擦材組成物]
本実施形態の下張り材用摩擦材組成物は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子を配合してなるものである。
本実施形態の下張り材用摩擦材組成物が含有する各成分についての説明は、硬化性樹脂等の化学状態変化を除き、上記した本実施形態の摩擦部材が有する下張り材が含有する成分についての説明と同じである。例えば、上記した下張り材中の各成分の含有量は、下張り材用摩擦材組成物中の各成分の含有量と読み替えることができる。
本実施形態の下張り材用摩擦材組成物は、平均粒子径(D50)が異なる2種以上の炭素質粒子、及び必要に応じて配合される上記各成分を配合して製造することができる。
【0053】
[第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物]
また、本発明は次の第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物も提供する。
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物は、銅を含有しないか、又は含有していても銅の含有量は銅元素として0.5質量%未満であり、且つ、炭素質粒子を含有し、該炭素質粒子が、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線において、2つ以上のピークを有するものである。
以下、第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物について詳細に説明する。
【0054】
<炭素質粒子>
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物が含有する炭素質粒子は、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線において、2つ以上のピークを有するものである。
なお、本実施形態において、炭素質粒子についての体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線は、例えば、以下の方法によって測定されるものである。
(1)炭素質粒子が粉末状である場合
上記した炭素質粒子の平均粒子径と同じ方法によって測定することができる。
(2)炭素質粒子が下張り材中に含有された状態である場合
下張り材を切削して形成した断面を、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法を用いて観察し、この500~3000倍の断面観察において任意に選び出した1000個の粒子径(円相当径)を測定し、横軸を粒子径、縦軸を粒子の存在比率としてプロットした体積基準の粒径分布曲線を得る。
すなわち、下張り材用摩擦材組成物中における炭素質粒子の粒径分布曲線を得るに当たっては、炭素質粒子を単離可能であれば上記(1)の方法に従って測定すればよく、単離できない場合は、上記(2)の方法に従って下張り材中に含有された状態として測定すればよい。
【0055】
炭素質粒子は、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線におけるピーク(以下、単に「ピーク」というときは、体積基準の頻度分布を示す粒径分布曲線におけるピークを意味する。)の数は、2つ以上であればよく、2つであることが好ましい。但し、所望する性能に応じて、3つ以上であってもよく、4つ以上であってもよく、また、6つ以下であってもよく、5つ以下であってもよい。
【0056】
炭素質粒子が有する2つ以上のピークのうちの任意のピーク(但し、最も小粒径側のピークを除く)を第1のピーク、該第1のピークよりも小粒径側に存在する任意のピークを第2のピークとしたとき、上記2つ以上のピークは、8~60μmの範囲に極大を有する第1のピークと、7μm以下の範囲に極大を有する第2のピークと、を含むものであることが好ましい。
【0057】
上記第1のピークの極大の範囲は、下張り材の耐摩耗性向上の観点からは、10~55μmが好ましく、20~50μmがより好ましく、30~45μmがさらに好ましい。また、導電性向上の観点からは、8~45μmが好ましく、9~30μmがより好ましく、10~25μmがさらに好ましい。
上記第2のピークの極大の範囲は、下張り材の耐摩耗性向上の観点からは、7μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、4μm以下が特に好ましい。また、第2のピークの極大の範囲は、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0058】
上記第1のピークの極大と、上記第2のピークの極大との差は、導電性向上の観点から、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよい。
また上記の差は、炭素質粒子の下張り材内での偏析防止の観点から、50μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。
上記第1のピークの体積頻度は、上記第2のピークの体積頻度よりも大きいことが好ましい。
【0059】
炭素質粒子が2つのみのピークを有するとき、その一方のピークは、上記した第1のピークの極大の範囲に極大を有し、その他方のピークは、上記した第2のピークの極大の範囲に極大を有することが好ましい。
炭素質粒子が3つ以上のピークを有するとき、少なくとも1つのピークは、上記した第1のピークの極大の範囲に極大を有し、且つ、別の少なくとも1つのピークは、上記した第2のピークの極大の範囲に極大を有することが好ましい。上記した第1のピークの極大の範囲及び上記した第2のピークの極大の範囲以外にピーク(以下、「第3以上のピーク」ともいう)を有していてもよいが、有していなくてもよい。炭素質粒子が第3以上のピークを有する場合においては、その体積頻度は、第1のピーク及び第2のピークよりも小さいことが好ましい。
【0060】
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物中における炭素質粒子の含有量は、第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物100質量部に対して、3~11.5質量部が好ましく、5~11質量部がより好ましく、7~10.5質量部がさらに好ましく、7.5~10質量部が特に好ましい。
【0061】
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物中における炭素質粒子としては黒鉛が好ましいが、上記した本実施形態の摩擦部材が有する下張り材が含有する炭素質粒子において挙げられたものであってもよい。
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物中における炭素質粒子の形状、その他の態様等は、上記した本実施形態の摩擦部材が有する下張り材が含有する炭素質粒子の説明と同様に説明される。
【0062】
第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物は、さらに、結合材、有機充填材、炭素質粒子以外の無機充填材及び繊維基材からなる群から選択される1種以上を配合してもよい。結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材についての説明は、上記した本実施形態の摩擦部材における説明と同様に説明される。
【0063】
[下張り材及び摩擦部材]
本発明は、上記した第2実施態様の下張り材用摩擦材組成物を成形してなる下張り材も提供する。さらに、本発明は、上張り材、上記下張り材及びバックプレートをこの順に有する摩擦部材をも提供する。
下張り材用摩擦材組成物の成形条件、摩擦部材を構成する各部材及び製造方法は、上記した本実施形態の摩擦部材における説明と同様に説明される。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限を受けるものではない。
各例で得られたディスクブレーキパッドは、以下の評価方法に従って評価した。
【0065】
[評価方法]
(1)粉体塗装性の評価
各例で作製したディスクブレーキパッドを、旭サナック株式会社製の静電粉体塗装装置「SFC-QTR100」を用いて粉体塗装した。塗装後のディスクブレーキパッドのバックプレート及び下張り材の造膜量(塗膜厚み)を以下の方法によって測定した。
(1-1)バックプレートの造膜量
バックプレートの造膜量は、株式会社ケツト化学研究所製のデュアルタイプ膜厚計「LZ-200J」を用いて塗膜厚みを計測し、以下の基準に基づき評価した。
A:塗膜厚みが20μm超え
B:塗膜厚みが10μm以上20μm以下
C:塗膜厚みが10μm未満
(1-2)下張り材の造膜量
下張り材の造膜量は、塗装後のディスクブレーキパッドを、
図1のA-Aの位置で切断し、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)を用いて切断面における塗膜厚みを計測し、以下の基準に基づき評価した。
A:塗膜厚みが15μm超え
B:塗膜厚みが5μm以上15μm以下
C:塗膜厚みが5μm未満
【0066】
(2)せん断強度及び発錆面積の測定(耐候性の評価)
塗装後のディスクブレーキパッドを5質量%塩水中に10分間浸漬した後、23℃で120分間空気中に放置し、70℃で30分間乾燥する工程を1サイクルとし、これを500サイクル及び750サイクル行った後、JISD 4415(2007年)に準拠して、せん断強度を測定すると共に、せん断面における発錆面積を測定し、断面積全体に対する発錆面積の比率を求めた。
【0067】
(3)摩擦係数の測定(摩擦特性の評価)
下張り材の摩擦性能は、各例で作製したディスクブレーキパッドを50%研磨し、下張り材が摺動面に露出した状態で評価した。
摩擦係数は、自動車技術会規格「JASO C406」に基づいて測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。摩擦係数が大きいほど、摩擦性能に優れることを示す。
【0068】
[ディスクブレーキパッドの作製]
実施例1~9及び比較例1~6
表1及び2に示す配合量に従って、上張り材用摩擦材組成物及び下張り材用摩擦材組成物それぞれについて各成分を配合し、別々にレーディゲミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲミキサーM20)で混合して、上張り材用摩擦材組成物及び下張り材用摩擦材組成物を得た。該上張り材用摩擦材組成物及び下張り材用摩擦材組成物を一体で成形プレス(王子機械工業株式会社製)にて予備成形した。得られた予備成形物を成形温度140~160℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で、成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて鋼板製のバックプレート(日立オートモティブシステムズ株式会社製)と共に加熱加圧成形した。得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行ってディスクブレーキパッドを得た。なお、実施例及び比較例で得たディスクブレーキパッドは、バックプレートの厚さ6mm、上張り材の厚さ7mm、下張り材の厚さ2mm、摩擦材投影面積52cm2である。なお、上記摩擦係数の測定に用いるディスクブレーキパッドは、上張り材の厚さ4mm、下張り材の厚さ4mmで作製し、上張り材を全て研磨し除去することで得た。
得られたディスクブレーキパッドを用いて、前記方法に従って各測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
表2に記載の炭素質粒子の詳細は以下の通りである。
・黒鉛1;平均粒子径(D50)40μm、人造黒鉛、形状:球状
・黒鉛2;平均粒子径(D50)10μm、人造黒鉛、形状:不定形状
・黒鉛3;平均粒子径(D50)4μm、天然黒鉛、形状:不定形状
・黒鉛4;平均粒子径(D50)2μm、人造黒鉛、形状:不定形状
【0072】
表2から、本実施形態の摩擦部材である実施例1~9は、良好な摩擦係数を有しつつ、バックプレート及び下張り材の造膜量が多く、粉体塗装性に優れていた。また、これにより得られたディスクブレーキパッドは、せん断強度が高く、発錆面積が小さく、耐候性に優れていた。
一方、1種のみの炭素質粒子を用いた比較例1~6のうち、炭素質粒子の配合量を4~8質量部とした比較例1、2及び4~6は、粉体塗装性及び耐候性に劣っていた。また、炭素質粒子の配合量を12質量部まで増量した比較例3は、粉体塗装性及び耐候性は良好であったが、摩擦係数が大幅に低下した。
【符号の説明】
【0073】
1 上張り材
2 下張り材
3 バックプレート
4 ディスクブレーキパッド