(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】決定方法、決定装置、露光装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20221129BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20221129BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20221129BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G02B26/08 E
G06N99/00 180
(21)【出願番号】P 2021510607
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014038
(87)【国際公開番号】W WO2020202265
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥平 陽介
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529090(JP,A)
【文献】特開2008-153663(JP,A)
【文献】特表2011-503835(JP,A)
【文献】特開2012-212884(JP,A)
【文献】特表2018-521382(JP,A)
【文献】国際公開第2019/014345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G02B 26/08
G06N 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、前記複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の中の、いずれにすべきかを決定する決定方法であって、
前記複数のピクセルのそれぞれにおける前記状態を、イジングモデルの複数のビットの複数の状態に対応させ、前記目標像と前記形成像の合致度を評価する評価関数を前記複数のビットの関数として設定する設定段階と、
前記評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる前記複数のビットの状態に基づいて、前記複数のピクセルのそれぞれについて、前記複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定段階と
を備える決定方法。
【請求項2】
前記複数のピクセルそれぞれの取り得る状態が第1の光の状態を生じる第1状態と、前記第1の光の状態とは異なる第2の光の状態を生じる第2状態の2通りである請求項1に記載の決定方法。
【請求項3】
前記複数のピクセルそれぞれの取り得る状態が、それぞれ互いに異なる第1の光の状態から第nの光の状態を生じる、第1状態から第n状態のn通りである請求項1に記載の決定方法。
【請求項4】
前記設定段階において、前記結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、量子アニーリングにおける前記複数のビットの間の結合定数に相当する物理量と各ビットに作用する外場に相当する物理量を決定し、
前記決定段階で前記イジングマシンとして前記量子アニーリングに特化した計算機を用いる請求項1から3のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項5】
前記設定段階において、前記結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、シミュレーテッドアニーリングにおける前記複数のビットの間の積に掛ける係数と各ビットに掛ける係数に相当する量を決定し、
前記決定段階で前記イジングマシンとして前記シミュレーテッドアニーリングに特化した計算機を用いる請求項1から3のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項6】
前記評価関数は、強度分布で表現された前記目標像及び単一ピクセル像を用いて設定される請求項1から5のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項7】
前記評価関数は、部分コヒーレント結像時の強度分布で表現された前記目標像及び、部分コヒーレント結像による複数のコヒーレントモードに対応した単一ピクセル像を用いて設定される請求項6に記載の決定方法。
【請求項8】
前記評価関数は、振幅分布で表現された前記目標像及び単一ピクセル像を用いて設定される請求項1から5のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項9】
前記設定段階において、前記複数のビットのn次の相互作用を(n-k)次で表す補助ビットを用いる(ただし、nおよびkは正の整数で、n>kである)請求項1から7のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項10】
前記評価関数が、前記複数のピクセルの状態とは関係なく選ぶことができる複数のビットの関数でもある請求項1から8のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項11】
空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、前記複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の中の、いずれにすべきかを決定する決定装置であって、
前記複数のピクセルのそれぞれにおける前記状態を、イジングモデルの複数のビットの複数の状態に対応させ、前記目標像と前記形成像の合致度を評価する評価関数を前記複数のビットの関数として設定する設定部と、
前記評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる前記複数のビットの状態に基づいて、前記複数のピクセルのそれぞれについて、前記複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定部と
を備える決定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の決定装置と、
前記空間光変調素子の前記複数のピクセルのそれぞれを、決定された前記状態に制御する制御部と
を備える露光装置。
【請求項13】
空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、前記複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の中の、いずれにすべきかを決定するコンピュータのプログラムであって、前記コンピュータに、
前記複数のピクセルのそれぞれにおける前記状態を、イジングモデルの複数のビットの複数の状態に対応させ、前記目標像と前記形成像の合致度を評価する評価関数を前記複数のビットの関数として設定する設定段階と、
前記評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる前記複数のビットの状態に基づいて、前記複数のピクセルのそれぞれについて、前記複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定段階と
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、決定方法、決定装置、露光装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子アニーリングに特化した計算を行う装置が開発され、使用できる環境が整いつつある。量子アニーリングは巡回セールスマン問題などの組み合わせの最適化問題を解くことに有用であるが、適用できることが知られている最適化問題はまだ少なく、量子アニーリングに特化した計算を行う装置が十分に利用されているとはいえない(非特許文献1)。
[先行技術文献]
[非特許文献]
[非特許文献1]Edward Farhiら著、A Quantum Adiabatic Evolution Algorithm Applied to Random Instances of an NP-Complete Problem、 Science 20 April 2001, Vol. 292, Issue 5516, 472-475頁
【発明の概要】
【0003】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の中の、いずれにすべきかを決定する決定方法が提供される。決定方法は、複数のピクセルのそれぞれにおける状態を、イジングモデルの複数のビットの複数の状態に対応させ、目標像と形成像の合致度を評価する評価関数を複数のビットの関数として設定する設定段階を有してよい。決定方法は、評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる複数のビットの状態に基づいて、複数のピクセルのそれぞれについて、複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定段階を有してよい。
【0004】
複数のピクセルそれぞれの取り得る状態が第1の光の状態を生じる第1状態と、第1状態とは異なる第2の光の状態を生じる第2状態の2通りであってもよい。前記複数のピクセルそれぞれの取り得る状態が、それぞれ互いに異なる第1の光の状態から第nの光の状態を生じる、第1状態から第n状態のn通りであってもよい。設定段階において、結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、量子アニーリングにおける複数のビットの間の結合定数に相当する物理量と各ビットに作用する外場に相当する物理量を決定してよい。決定段階でイジングマシンとして量子アニーリングに特化した計算機を用いてよい。
【0005】
設定段階において、結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、シミュレーテッドアニーリングにおける複数のビットの間の積に掛ける係数と各ビットに掛ける係数に相当する量を決定してよい。決定段階でイジングマシンとしてシミュレーテッドアニーリングに特化した計算機を用いてよい。
【0006】
評価関数は、強度分布で表現された目標像及び単一ピクセル像を用いて設定されてよい。評価関数は、コヒーレント結像・インコヒーレント結像または部分コヒーレント結像時の強度分布で表現された目標像及び、部分コヒーレント結像による複数のコヒーレントモードに対応した単一ピクセル像を用いて設定されてよい。
【0007】
評価関数は、振幅分布で表現された目標像及び単一ピクセル像を用いて設定されてよい。
【0008】
設定段階において、複数のビットのn次の相互作用を(n-1)次で表す補助ビットを用いてよい。評価関数が、複数のピクセルの状態とは関係なく選ぶことができる複数のビットの関数でもあってよい。
【0009】
本発明の第二の形態においては、空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の中の、いずれにすべきかを決定する決定装置が提供される。決定装置は、複数のピクセルのそれぞれにおける状態を、イジングモデルの複数のビットの複数の状態に対応させ、目標像と形成像の合致度を評価する評価関数を複数のビットの関数として設定する設定部を有してよい。決定装置は、評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる複数のビットの状態に基づいて、複数のピクセルのそれぞれについて、複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定部を有してよい。
【0010】
上記決定装置と、空間光変調素子の複数のピクセルのそれぞれを、決定された状態に制御する制御部とを備える露光装置が提供されてよい。
【0011】
空間的に互いに異なる位置に配置された複数のピクセルを有する空間光変調素子に照明された光の反射光、透過光、および、仮想的に複数の微小領域に分割した前記複数の微小領域を前記複数のピクセルとみなしたマスクに照射された光の透過光、の少なくともいずれかを結像することにより得られる形成像により、対象物に目標とする条件を満たす像である目標像を形成するために、複数のピクセルそれぞれを、複数通りの状態の、いずれにすべきかを決定するコンピュータのプログラムが提供される。コンピュータに、複数のピクセルのそれぞれにおける状態を、イジングモデルの複数の状態に対応させ、目標像と形成像の合致度を評価する評価関数を複数のビットの関数として設定する設定段階を実行させてよい。コンピュータに、評価関数をイジングマシンで評価した結果に含まれる複数のビットの状態に基づいて、複数のピクセルのそれぞれについて、複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する決定段階とを実行させてよい。
【0012】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかる露光装置を模式的に示す。
【
図4】本実施形態における決定方法のフローチャートである。
【
図6】空間光変調素子のマイクロミラーの状態と形成像との関係を示す模式図である。
【
図8】第1実施形態の変形例を説明するための概念図である。
【
図11】他の反射型の空間光変調素子111を模式的に示す。
【
図12】第1から第5実施形態の他の変形例を示す模式図である。
【
図13】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ1200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態にかかる露光装置100を模式的に示す。露光装置100は、対象物の一例であるウエハ10に、形成像を形成することでフォトリソグラフィにおける露光を行う。露光装置100は、光源102と、第1の光学系104と、反射鏡106と、空間光変調素子110と、制御部130と、第2の光学系150と、決定装置200とを有する。
【0016】
光源102は露光に用いられる光を出力する。光の波長は特に限定されないが、例えばKrFの248nm、EUVの13.5nm等である。第1の光学系104は光源102からの光を、コリメートするなど、予め定められた光束に調整する。なお、図では簡略化のために第1の光学系104はレンズ1枚で表されているが、複数のレンズや他の光学素子が用いられてよい。反射鏡106は、第1の光学系104からの光を反射して、当該光の主線方向を空間光変調素子110に向ける。
【0017】
制御部130は空間光変調素子110を制御する。これにより、空間光変調素子110は、反射鏡106からの光の少なくとも一部を第2の光学系150に入力する。
【0018】
第2の光学系150は空間光変調素子110から入力された光をウエハ10に結像する。第2の光学系150が簡略化して図示されていることは第1の光学系104と同様である。ステージ152はウエハ10を保持する。
【0019】
決定装置200は、空間光変調素子110をどのように制御するかという制御情報を決定し、制御部130に出力する。
【0020】
図2は、空間光変調素子110を模式的に示す。空間光変調素子110は、基板112上において空間的に互いに異なる位置に配された複数のマイクロミラー114、116を有する。複数のマイクロミラー114,116は、基板112の面方向に格子状に並んでいる。
図2では簡略化のために3×3の9個のマイクロミラーが示されているが、マイクロミラーの数は例えば1000×1000など、もっと多くてよい。
【0021】
複数のマイクロミラー114、116はそれぞれ、制御部130の制御により、独立して、第1状態と第2状態のいずれかをとることができる。第1状態は、基板112に対して傾いていない状態であって、
図2のマイクロミラー114で示されるように、入射された光を第2の光学系150に向けて反射する。これを第1の光の状態と呼ぶ。一方、第2状態は、基板112に対して傾いた状態であって、
図2のマイクロミラー116で示されるように、入射された光を第2の光学系150に向けては反射しない。すなわち、第2の光学系150とは異なる方向に反射する。これを第2の光の状態と呼ぶ。第2の光の状態は第1の光の状態とは異なっている。このような空間光変調素子110は反射型の光変換変調素子とも呼ばれる。
【0022】
計算の便宜上、i番目のマイクロミラー114の位置をxi、状態を数値ξiで表すことができる。例えば、第1状態をξi=1、第2状態をξi=0で表す。なお、個々のマイクロミラー114、116は、形成像を形成するためのピクセルであるともいえる。よって、マイクロミラー114のことをピクセルとも呼ぶ。
【0023】
図3は、決定装置200の機能ブロック図である。決定装置200は、設定部210と、格納部212と、決定部220と、イジングマシン230とを有する。
【0024】
設定部210は、ウエハ10に目標とする条件を満たす像である目標像と、空間光変調素子110に設定された光の反射光を結像することにより得られる形成像とを設定する。さらに、設定部210は、目標像と設定像とに基づいて、目標像と形成像との合致度を評価する評価関数を設定する。
【0025】
決定部220は、評価関数をイジングマシン230で評価した結果に含まれる複数のビットの状態を取得する。さらに、決定部220は、当該複数のビットの状態に基づいて、空間光変調素子110の複数のピクセルのそれぞれについて、複数通りの状態のいずれにすべきかを決定する。決定部220は、決定した状態を示す情報を制御部130に出力する。なお、出力先は制御部130に限られず格納部212に格納してもよいし、表示部に表示してもよい。
【0026】
イジングマシン230は、後述するイジングモデルについて、与えられた物理量で基底状態を計算する装置である。その場合に、量子アニーリングを用いる。アニーリングを用いているので、イジングマシン230はアニーリングマシンとも呼ばれる。量子アニーリングについては後述する。
【0027】
図4は、本実施形態における決定方法のフローチャートである。当フローチャートにおいて、まず、目標像が設定される(S101)。例えば、ユーザから画像データの入力を受け付けて、当該画像データに基づいて設定部210が目標像を設定する。
【0028】
図5は、目標像を説明する模式図である。ウエハ10に複数のダイ20を形成するために、ダイ20に対応する位置に形成しようとする像が目標像I
t(x)である。よって、目標像I
t(x)は、ダイ20のそれぞれに設定された座標軸における位置xの関数である。
図5において、目標像I
t(x)の一部30を拡大して模式的に示した。なお、本実施形態において、目標像I
t(x)は強度分布として設定される。
【0029】
図4のフローチャートにおいて、空間光変調素子110を用いた形成像が設定される(S103)。すなわち、空間光変調素子110のマイクロミラー114のそれぞれの状態をξ
iで表し、空間光変調素子110に照明された光の反射光を結像することにより得られる形成像を定式化する。例えば、ユーザから空間光変調素子110に関する情報を受けつけて、当該情報に基づいて設定部210が形成像を設定する。
【0030】
図6は、空間光変調素子110のマイクロミラー114の状態ξ
iと形成像122との関係を示す模式図である。
図6に示すように、形成像I(x)は、空間光変調素子110の複数のピクセルのそれぞれの状態ξ
iと、一つのピクセルの点像分布関数120(すなわち、単一ピクセル像)との畳み込み積分により表される。
【0031】
点像分布関数120のk次カーネルをφ
k(x)と表せば、形成像I(x)は下記数1のように定式化される。
【数1】
【0032】
高次のカーネルまで考慮することは、部分コヒーレント結像による複数のコヒーレントモードに対応した単一ピクセル像を用いることに対応する。これにより、ステップS101で目標像It(x)を強度分布として表現したことに対応して、形成像I(x)も強度分布として定式化されたことになる。なお、カーネルの情報は予め格納部212に格納されている。
【0033】
上記数1を展開して整理すると、下記数2のように表すことができる。
【0034】
【0035】
図4のフローチャートにおいて、評価関数を設定する(S105)。ここで、ステップS103で定式化した形成像I(x)により、ステップS101で設定した目標像I
t(x)を形成するべく、それらの合致度を評価する評価関数Hを設定する。評価関数Hの一例として、本実施形態では設定部210が下記数3に示される差分の二乗和を設定する。
【0036】
【0037】
上記評価関数Hは、xについての積分がされるとξn(nはiまたはj)を変数とする高々4次の関数になる。ここで、ξnは0または1の2値のいずれかである。
【0038】
このことから、本願の発明者は、評価関数Hを最小にするξnの組み合わせを見つけるという問題が、2つの状態のいずれかをとり得る複数のビットからなる物理的な系の、評価関数Hに対応するエネルギーの最小値すなわち基底状態をとるときの各ビットの状態の組み合わせを見つける問題に帰着することを見出した。2つの状態のいずれかをとり得る複数のビットからなる物理的な系の一例として、イジングモデルがある。
【0039】
図7は、イジングモデル240の模式図である。イジングモデル240は、広義には、2つの量子化された状態のいずれかをとり得る、離散的に配された、複数のビットの集合である。イジングモデル240のハードウェアの例は、格子状の各点に配され、+1または-1のスピン状態σ
iのいずれかをとり得る複数の磁気素子である。i番目の磁気素子とj番目の磁気素子とは結合定数J
ijで相互作用する。隣接していない磁気素子間にも相互作用があってよい。また、i番目の磁気素子には外部磁場h
iが働く。
【0040】
図7には、
図2の空間光変調素子110の9個のマイクロミラー114、116に対応して、9個のビット242、244が描かれている。また、マイクロミラー114が第1状態「1」であることに対応して、ビット242がスピン状態「-1」である状態が示されている。同様に、マイクロミラー116が第2状態「0」であることに対応して、ビット244がスピン状態「+1」である状態が示されている。
【0041】
ここで、状態ξiから状態σiへは、σi=1-2ξiで変数変換できる。よって、上記数3の評価関数Hは下記数4の評価関数Hと等価であるといえる。
【0042】
【0043】
当該評価関数Hはイジングモデルにおけるハミルトニアンであるともいえる。上記変数変換は線形なので、下記数4の評価関数Hも、σiの高々4次の関数である。これにより、空間光変調素子110の複数のピクセルにおける第1状態と第2状態を、イジングモデルの複数のスピンのアップ(σi=+1)またはダウン(σi=-1)に対応させた評価関数Hが設定された。
【0044】
イジングモデル240では2次の相互作用までを扱うことが多い。よって、上記数4のように評価関数Hに3次以上の相互作用に対応する項がある場合には(S107:Yes)、補助ビットを利用して評価関数Hを高々2次になるように修正する(S109)。
【0045】
具体的には、2次の相互作用の項σiσjを補助ビットσijを用いて表す。ここで、2次の相互作用の項σiσjは論理積に関する要素を含むので、一旦、下記数5のように、σiを0と1のいずれかの値をとるqiに変換して、その真理値を考える。
【0046】
【0047】
下記表1は、q
i、q
jおよび補助ビットq
ijの真理値表である。
【表1】
【0048】
補助ビットqijはqiqjであるから、qiとqjの論理積となることが好ましい。そこで、論理積となる場合には値を変えず(すなわちゼロ)、論理積ではない場合には値が増える関数Hijを上記数4の評価関数Hに加える。そのようなHijの一例は、下記数6である。
【0049】
【0050】
このように決めた補助ビットおよび関数を用いて、評価関数Hは下記数7のように修正される。
【数7】
【0051】
これにより、論理積とならないqi、qj、qijの組み合わせに対応する解が選ばれる可能性を低くすることができる。ここでBは定数である。定数BはK'ijの値に基づいて定められてもよく、例えば、K'ijの最大値よりも大きいことが好ましい(例えばの10倍)。
【0052】
上記数7を展開してxに関する積分を実行して整理すると、評価関数Hは、下記数8のように表される。ここで、i'はiまたはijを示し、同様に、j'はjまたはijを示す。この場合に、設定部210は、格納部212に予め格納された積分計算のライブラリを読み出す等して、xの積分を行う。
【0053】
【0054】
これはイジングモデルにおけるハミルトニアンの各係数を計算したことに相当する(S111)。より具体的には、結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、複数のスピンの間の結合定数に相当する物理量Ji' j'と各スピンに作用する外場に相当する物理量hi'が計算されたことになる。なお数8において、σi'に依らない定数項は以降の計算に影響を与えないので省略した。
【0055】
決定部220は、上記数8で示された評価関数Hをイジングマシン230で評価する(S113)。より具体的には、イジングモデルにおいて評価関数Hに対応するエネルギーが最小値となる基底状態を、イジングマシン230で計算する(S113)。本実施形態ではイジングマシン230として量子アニーリングに特化した計算機を用いる。量子アニーリングに特化した計算機では、初期状態から基底状態への状態遷移が量子力学に裏付けられた物理現象として計算機内で現実に発現することで計算が実行される。
【0056】
量子アニーリングでは、イジングモデルの各スピンの状態を横磁場項の固有状態であるスピン+1とスピン-1の均等な重ね合わせ状態に初期設定する。その後徐々に横磁場項を小さくし、結合定数Ji' j'と外場hi'の影響を相対的に大きくしていくと、イジングモデルのハミルトニアン(すなわち評価関数H)の基底状態を構成する各スピンが+1または-1のいずれかの状態に近づいていく。最終的に横磁場項をゼロにすると基底状態が選ばれる。
【0057】
ただし、量子アニーリングにおいて最終的に基底状態が選ばれないことがある。基底状態が選ばれない原因は、極所解(すなわち最小値ではなく極小値)に落ち込んだり、熱雑音や周辺の環境との相互作用を完全に遮断にできないこと、などが考えられる。そこで、量子アニーリングによる計算を複数回行って多数決を採用したり、複数回の計算結果の中から最小値を選ぶようにしてもよい。
【0058】
決定部220は、イジングマシン230の計算結果に基づいて、空間光変調素子110の各ピクセルの状態を決定し、制御部130に出力する(S115)。すなわち、決定部220は、計算結果に含まれる複数のビットの値に基づいて、複数のピクセルのそれぞれについて、第1状態と第2状態のいずれにすべきかを決定する。
【0059】
この場合、上記のσi=1-2ξiの関係から、イジングモデル240における計算結果におけるi番目のビットのスピン状態σiを、空間光変調素子110のi番目のピクセルの状態ξiに割り当てる。すなわち、ビットのスピン状態σi=-1をピクセルの第1状態ξi=1に割り当て、ビットのスピン状態σi=+1をピクセルの第2状態ξi=0に割り当てる。
【0060】
以上、本実施形態によれば、目標像に近い形成像を形成するための空間光変調素子110の各ピクセルの状態をより早く計算することができる。すなわち、上記数4で示される評価関数Hを状態ξiの可能な組み合わせについて総当り的に計算することも理論上は考えられるが、ピクセルの数が多くなると現実的な時間で計算が終わらない。これに対して、本実施形態の方法によれば、イジングモデルにおけるエネルギーをイジングマシンで計算するので、ピクセルの数が多くても十分に現実的な時間で計算をすることができる。
【0061】
[第1実施形態の変形例]
図8は第1実施形態の変形例を説明するための概念図である。上記第1実施形態では形成像を連続的な値で表したが、形成像を露光・現像後にレジストが残る程度の像強度と残らない程度の像強度として表してもよい。
【0062】
図8に示すように、ネガのレジストを仮定し、レジストが残るか否かの像強度の閾値に対し、上下のマージンをそれぞれI
U,I
Lとする。この場合に、位置xがレジストを残す領域S
Uに属する場合には、I
U≦I(x)を満たすことが求められる。一方、位置xがレジストを残さない領域S
Lに属する場合には、I
L≧I(x)を満たすことが求められる。
【0063】
ここで、不等式を等式として扱うことができるように、Slack変数Y(x)(<0)すなわち「あそび」を導入すると、下記数9のように表すことができる。ただしY(x)は数10に定義する通りである。
【0064】
【0065】
【数10】
ここで、η(x,n)は±1であり、Slackの値を決める補助ビットである。この補助ビットはピクセルの状態とは関係なく、すなわち、ピクセルの状態とは独立して決めることができる。なお、0≦Y(x)≦2
Nbであり、取り得る値をbとNとで調整することができる。
【0066】
上記Y(x)を用いることにより、形成像I(x)を、露光・現像後にレジストが残る程度の像強度と残らない程度の像強度として表すことができた。よって、±Y(x)をまとめてY(x)で表すこととすれば、第1実施形態の数7に対応して、評価関数Hは下記数11で表すことができる。
【0067】
【0068】
上記数11をxについて離散化すると、下記数12を得る。
【0069】
【0070】
さらに、上記数12のkについて和をとり、係数をまとめると、下記数13を得る。ここで、変数σi、σij、η(xk,n)をまとめてsiと記した。
【0071】
【0072】
上記数13の評価関数Hを第1実施形態と同様に評価することにより、レジストが残る程度の像強度と残らない程度の像強度に対応した、各ピクセルの状態を決定することができる。なお、ネガ型のレジストを例としたが、ポジ型のレジストにも同様に適用できる。
【0073】
[第2実施形態]
第2実施形態は、
図4のステップS101で目標像V
t(x)を振幅分布として表現し、これに対応してステップS102で形成像V(x)も振幅分布として定式化する点で、第1実施形態と異なる。これは点像分布関数120の1次カーネルφ(x)のみを考慮することに対応し、完全なコヒーレント結像として近似することに対応する。形成像V(x)は下記数14のように定式化される。
【0074】
【0075】
ステップS105において評価関数Hは下記数15のように設定できる。本実施形態でも評価関数Hの一例として差分の二乗和が設定されている。
【0076】
【0077】
上記数15は、xについての積分がされるとξn(nはiまたはj)を変数とする高々2次の関数になる。すなわち、イジングモデルに対応させた場合に、高々2次の相互作用である(S107:No)。よって、ステップS109の補助ビットを利用した次数下げをしなくてもよい。
【0078】
上記数15を展開してxに関する積分を実行して整理し(S111)、イジングモデルに置き換えると、評価関数Hは、下記数16のように表される。ここで、第1実施形態と同様に空間光変調素子110の各ピクセルの状態ξ
iを、イジングモデルのスピンの状態σ
iへ、σ
i=1-2ξ
iで変数変換する。
【数16】
【0079】
これにより、結像における複数のピクセル像の間の干渉性と目標像に基づいて、複数のスピンの間の結合定数に相当する物理量Ji jと各スピンに作用する外場に相当する物理量hiが計算されたことになる。なお数14において、σiに依らない定数項は以降の計算に影響を与えないので省略した。さらに、上記ステップ113およびS115を実行することにより、空間光変調素子110の各ピクセルの状態が決定される。
【0080】
第2実施形態においても、目標像に近い形成像を形成するための空間光変調素子110の各ピクセルの状態をより早く計算することができる。さらに、目標像および形成像を振幅分布で表現したので、評価関数Hにおけるイジングモデルの相互作用が高々2次であり、次数を下げるための補助ビットを用いなくてもよいという利点がある。
【0081】
[第3実施形態]
図9は、第3実施形態を説明する模式図である。第3実施形態は、イジングモデルの複数のビットを用いて擬似的に一つのビットを表す点で第1実施形態と異なる。
【0082】
評価関数Hをイジングマシンで評価する場合に、イジングマシンに設定できる結合定数に想定する物理量Ji jとおよび外場に相当する物理量hiの階調数が小さい場合がある。説明を簡単にするため、2ビットの例で下記数17および数18を表現したいとする。すなわち、Jabを(2L+1)階調で表現したい場合を考える。
【0083】
【0084】
【0085】
しかしながら、イジングマシンが下記数19のようにJijが(2K+1)階調(ただしK<<L)しか表現できない、という場合が問題となる。
【0086】
【0087】
この場合に、
図9に示すように、複数のビットσ
i、σ
j、・・・(構成ビットと呼ぶことがある)を連結して実質的に一つの論理ビットσ
Aとして機能させる。
図9では一例として6つの構成ビットを一つの論理ビットとして機能させる。さらに、異なる論理ビットσ
A、σ
Bに含まれる構成ビット同士の結合定数を使って、論理ビット間の結合定数J
ABを表す。
【0088】
複数の構成ビットσi、σj、・・・を一つの論理ビットσAとして機能させるには、同じ論理ビットσAに含まれる構成ビットσi、σj、・・・は常に同じ値になることが好ましい。これが担保されるには、下記数20で示される構成ビット間のすべての結合定数Jを他の結合定数よりも大きく設定する。
【0089】
【0090】
上記数20によれば、構成ビットが一つ反転した場合に増えるエネルギーΔENは、2(N-1)Jとなり、解として選択され難くなる。
【0091】
ここで、論理ビットσ
Aのうちの構成ビットm
A個と、論理ビットσ
Bのうちの構成ビットm
B個とが相互作用する、すなわち、ゼロでない結合定数J
ijを有するように設定すれば、結合関係は最大ではm
A×m
B個設定できる。
図9ではm
A=m
B=2の例が示されている。よって、個々の結合定数J
ijが(2K+1)の整数から一つを選べるのであれば、結合関係の全体としては(2m
Am
BK+1)の整数から一つを選べることになる。これはすなわち、論理ビット間の結合関係としてみた場合に、階調が(2m
Am
BK+1)に増加したことに相当する。
【0092】
以上を定式化すると、表現したかった上記数17は下記数21および数22を使って表現することができる。なお、数21における第1項および第2項は上記数20の拘束項に対応する。
【数21】
【0093】
【0094】
ここで、拘束が満たされているとして、下記数23の表記を用いれば、数22は下記数24のように表すことができる。これは(2mAmBK+1)階調の結合定数JABが設定できる2つのビットσA、σB間の相互作用によるイジングモデルに相当している。
【0095】
【0096】
【0097】
図4のステップS111において、ピクセルの評価関数Hを、上記数24を用いてイジングモデルの論理ビットを用いた評価関数Hに置き換える。これにより、イジングマシンで構成ビットを使った評価が、論理ビットの値としても評価でき、高い階調での計算が可能となる。
【0098】
説明の簡略化のために2つの論理ビットについて説明したが、3つ以上の論理ビットでも同様にして実質的に階調を上げることができる。また、結合係数について説明したが、外場についても同様にして階調を上げることができる。また、第3実施形態は、第1実施形態のみならず、その変形例および第2実施形態にも適用できる。
【0099】
[第4実施形態]
図10は、第4実施形態を説明する模式図である。第4実施形態は、評価関数Hの一次項すなわち外場の項に補助ビットを導入する点で、第1実施形態と異なる。
【0100】
イジングマシンによっては、一次項の計算ができないものがある。そこで、一次項を仮想的に計算するために、補助ビットを導入する。
【0101】
例えば上記数13の評価関数Hを考える。数13の第二項が一次項、すなわち、外場との相互作用に相当する。当該第二項に補助ビットσ'を一つ導入して、下記数25のように二次にする。
【0102】
【0103】
上記数25を
図4のステップS113で評価する。これは、
図10に示すように、ビットσ
iに対する外場の効果を補助ビットσ'との結合関係に置き換えていることに相当する。この場合、補助ビットσ'の値が+1のときだけ元の系と等価になる。よって、イジングマシンによる計算結果のうち、σ'=+1となる解だけを採用する。
【0104】
以上、第4実施形態によれば、一次項を含む評価関数Hが、一次項の計算ができないイジングマシンによって二次項のみの計算で評価できる。また、第4実施形態は、第1実施形態のみならず、その変形例、第2実施形態および第3実施形態にも適用できる。
【0105】
[第5実施形態]
第5実施形態は、空間光変調素子110の各ピクセル114が多値を有する、すなわち3つ以上の状態のいずれかをとり得る点で、第1実施形態と異なる。すなわち、第5実施形態において、各ピクセル114は入射された光を第2の光学系150に向けて反射しない状態と、異なる強度で反射する複数の状態とを有する。
【0106】
この場合に、i番目のピクセルの状態ξiは、2値をとるξi(m)(ただしm=0、1、2、・・・)を用いて、下記数26のように表すことができる。
【0107】
【0108】
図4のステップS103において、上記数26を用いて、形成像I(x)をξ
iに代えてξ
i(m)で表す。これにより、ステップS105において評価関数Hを設定すると、ξ
n(m)(ただし、nはiまたはj)の高々4次式となる。よって、ξ
i(m)にイジングモデルの各ビットの状態σ
i'(ただし、i'はiに属するm=0、1、2、・・・のいずれか)を対応させれば、イジングモデルで表した評価関数Hもσ
n'(ただし、n'はi'またはj')の高々4次式となる。
【0109】
したがって、ステップS105以降は第1実施形態と同様に計算することにより、基底状態に対応する各ビットσi'の状態を得ることができる。基底状態に対応する各ビットσi'の状態を各ξi(m)の値に変換することにより、上記数26を用いて、多値のi番目のピクセルをいずれの状態ξiにするかが決定される。
【0110】
以上、第5実施形態によれば、空間光変調素子110の各ピクセル114が多値を有する場合であっても、目標像を形成するために各ピクセル114をどの値にするかを決定することができる。また、第5実施形態は、第1実施形態のみならず、その変形例、第2実施形態および第3実施形態にも適用できる。
【0111】
[他の変形例]
図11は、他の反射型の空間光変調素子111を模式的に示す。空間光変調素子111は、基板12上において空間的に異なる位置に配置された複数のマイクロミラー117、118を有する。複数のマイクロミラー117、118は基板112の面方向に格子状に並んでいる。
図11では説明のために、側面から見た、一列分のうちの5個のマイクロミラーを示すが、マイクロミラーの数は空間光変調素子110と同程度であってよい。
【0112】
複数のマイクロミラー117、118はそれぞれ、制御部130の制御により、独立して、基板112の主面に対して並行移動し、第1状態と第2状態のいずれかをとることができる。第1状態(図中のマイクロミラー117)は、基板112から第1の距離にある状態である。一方、第2状態(図中のマイクロミラー118)は、基板12から第1の距離よりも近い第2の距離にある状態である。第1状態と第2状態の基板12からの距離の差は、露光に用いる光の波長の1/4、またはこれに半波長の整数倍を加えた値である。これにより第2状態は第1状態に対して電場振幅の符号が反転した状態となる。そこで、第1状態をξi=+1、第2状態をξi=-1と表す。
【0113】
空間光変調素子111の場合には、ステップS105において空間光変調素子110でピクセルの状態ξiからイジングモデルのスピンの状態σiへ変換式σi=1-2ξiで変数変換したことに代えて、恒等変換(ξi=σi)する。これにより、空間光変調素子110の場合と同様に、空間光変調素子111の各ピクセルの状態を上記第1から第5実施形態を用いて決定することができる。
【0114】
図12は第1から第5実施形態の他の変形例を示す模式図である。第1から第5の実施形態においては、
図2に示す反射型の空間光変調素子110の各ピクセル114の状態を、イジングモデルの各スピンの状態に対応させた。
【0115】
これに代えて、第1から第5実施形態を、
図12に示すマスク162を用いる露光装置160のマスク162の設計に適用してもよい。この場合に、マスク162を仮想的に微小領域に分割して考える。この場合の各微小領域をピクセルとみなす。複数の仮想的なピクセルについて、光源からの光を遮光する遮光部164を設けるピクセルと、遮光部164を設けずに光を透過光として透過させるピクセルとをそれぞれイジングモデルのスピンの状態に対応させる。これにより、イジングモデルの基底状態の各スピンの値に基づいて、マスク162の各ピクセルの状態、すなわち、遮光部164を設けた状態と設けない状態とを決定することができる。
【0116】
さらに、上記第1から第5の実施形態を、位相差を利用した位相差マスクに適用してもよい。同様に、第1から第5実施形態を、透過型の空間光変調素子における各ピクセルの状態の決定に用いてもよい。
【0117】
上記第1から第5の実施形態においては、
図4のステップS101において、目標像である強度分布や振幅分布が予め与えられている。これに代えて、目標像が満たすべき条件が不等式等で間接的に与えられている場合でも、それらの条件に基づいて目標像を定式化することにより、上記第1から第5の実施形態を適用することができる。
【0118】
上記第1から第5の実施形態においては、イジングマシン230として、量子アニーリングに特化した計算機を用いた。しかしながら、イジングマシン230はこれに限られず、例えば、シミュレーテッドアニーリングに特化した計算機を用いてもよい。シミュレーテッドアニーリングに特化した計算機は、シミュレーテッドアニーリングを高速に実行できる計算機を含む。
【0119】
シミュレーテッドアニーリングは、イジングモデルの各スピンの状態に対応するビットを古典的なコンピュータ上で表し、熱ゆらぎを表す古典的な確率過程で最適解を探索する方法である。この場合に、上記Jijは複数のビットの間の積に掛ける係数であり、hiは各ビットに掛ける係数に相当する量である。
【0120】
上記
図2の決定装置200は露光装置100に組み込まれているが、決定装置200は露光装置100とは別個の装置であってもよい。さらに、
図2ではイジングマシン230が決定装置200に組み込まれているが、イジングマシン230が決定装置200とは別個の装置であってもよい。また、決定装置200による
図4のフローチャートの少なくとも一部の定式化および計算をユーザが行ってもよい。
【0121】
本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0122】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(RTM)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0123】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0124】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0125】
図13は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ1200の例を示す。コンピュータ1200にインストールされたプログラムは、コンピュータ1200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ1200に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ1200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU1212によって実行されてよい。
【0126】
本実施形態によるコンピュータ1200は、CPU1212、RAM1214、グラフィックコントローラ1216、およびディスプレイデバイス1218を含み、それらはホストコントローラ1210によって相互に接続されている。コンピュータ1200はまた、通信インタフェース1222、ハードディスクドライブ1224、DVD-ROMドライブ1226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ1220を介してホストコントローラ1210に接続されている。コンピュータはまた、ROM1230およびキーボード1242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ1240を介して入/出力コントローラ1220に接続されている。
【0127】
CPU1212は、ROM1230およびRAM1214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ1216は、RAM1214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU1212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス1218上に表示されるようにする。
【0128】
通信インタフェース1222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ1224は、コンピュータ1200内のCPU1212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD-ROMドライブ1226は、プログラムまたはデータをDVD‐ROM1201から読み取り、ハードディスクドライブ1224にRAM1214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0129】
ROM1230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ1200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ1200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ1240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ1220に接続してよい。
【0130】
プログラムが、DVD-ROM1201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ1224、RAM1214、またはROM1230にインストールされ、CPU1212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ1200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ1200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0131】
例えば、通信がコンピュータ1200および外部デバイス間で実行される場合、CPU1212は、RAM1214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インタフェース1222に対し、通信処理を命令してよい。通信インタフェース1222は、CPU1212の制御下、RAM1214、ハードディスクドライブ1224、DVD‐ROM1201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0132】
また、CPU1212は、ハードディスクドライブ1224、DVD‐ROMドライブ1226(DVD‐ROM1201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM1214に読み取られるようにし、RAM1214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU1212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0133】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU1212は、RAM1214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM1214に対しライトバックする。また、CPU1212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU1212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0134】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ1200上またはコンピュータ1200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ1200に提供する。
【0135】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0136】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0137】
10 ウエハ、20 ダイ、30 一部、100、160 露光装置、102 光源、104 第1の光学系、106 反射鏡、110 空間光変調素子、112 基板、114、116 マイクロミラー、120 点像分布関数、122 形成像、130 制御部、150 第2の光学系、152 ステージ、162 マスク、164 遮光部、200 決定装置、210 設定部、220 決定部、230 イジングマシン、240 イジングモデル、242、244 ビット