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特許7184174データ補正装置、データ補正方法、およびプログラム
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  • 特許-データ補正装置、データ補正方法、およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】データ補正装置、データ補正方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04M 1/24 20060101AFI20221129BHJP
   H04M 3/26 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H04M1/24 G
H04M3/26 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021518231
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2019018261
(87)【国際公開番号】W WO2020225851
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】栗原 祥子
(72)【発明者】
【氏名】原田 登
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-215211(JP,A)
【文献】国際公開第2009/022407(WO,A1)
【文献】特開2018-064162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04M1/00
1/24-3/00
3/08-3/58
7/00-7/16
11/00-11/10
99/00
H04Q1/20-1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信端末間で行われる通話において一方の通信端末から出力される音声を録音した評価対象音と、他方の通信端末を用いる通話相手が発話した音声を録音した基準音とを比較して、上記通話の音響品質を評価する際に用いる試験データを補正するデータ補正装置であって、
上記基準音を表す音響信号から検出した上記通話相手の音声が含まれない有声区間を補正対象区間として決定する補正対象決定部と、
上記基準音を表す音響信号の上記補正対象区間を所定の非音声信号で更新する補正実行部と、
を含むデータ補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ補正装置であって、
上記非音声信号は、上記他方の通信端末が存在する空間において上記通話相手が発声していない状態で録音した音響信号である、
データ補正装置。
【請求項3】
請求項1に記載のデータ補正装置であって、
上記非音声信号は、ホワイトノイズである、
データ補正装置。
【請求項4】
複数の通信端末間で行われる通話において一方の通信端末から出力される音声を録音した評価対象音と、他方の通信端末を用いる通話相手が発話した音声を録音した基準音とを比較して、上記通話の音響品質を評価する際に用いる試験データを補正するデータ補正方法であって、
補正対象決定部が、上記基準音を表す音響信号から検出した上記通話相手の音声が含まれない有声区間を補正対象区間として決定し、
補正実行部が、上記基準音を表す音響信号の上記補正対象区間を所定の非音声信号で更新する、
データ補正方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のデータ補正装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通話品質を評価するための技術に関し、特に拡声系通信システムの品質評価試験技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の発達とともに、機器を持たずに通話できる手軽さから、会議システムやスマートフォンによるハンズフリー拡声通話などの拡声系通信システムを利用する機会が増えている。拡声系通信システムで問題となる音響エコーや周辺雑音を除去し、快適な通話環境を提供するために、音響エコーキャンセラ(AEC: Acoustic Echo Canceller)が利用されている。
【0003】
音響エコーとは、近端から送信された音声が遠端のスピーカから出力され、遠端のマイクロホンが拾うことで発生する現象である。音響エコーキャンセラの効果が弱ければ音響エコーが消し残り、強すぎれば遠端からの送話音声までもが除去されてしまい、歪んだり消えたりして聞き取りにくくなる。音響エコーキャンセラの性能は音響エコーがどれだけ的確に消去されているかに依存することから、従来の音響エコーキャンセラの性能評価は、音響エコーの消去量に着目した客観評価が主流であった。客観評価は計算機処理で評価できるため手軽であるが、必ずしも実際の通話でユーザが体感する品質(「ユーザ体感品質」とも呼ぶ)とは一致しないという問題があった。
【0004】
主観評価で音響エコーや音響エコーキャンセラによる処理音を評価するためには、音響エコーを知覚する必要があり、評価者本人が通話することで初めて評価可能となる。そのため、ハンズフリー拡声通話などの拡声系通信システムでは、双方向の会話試験による品質評価が推奨されてきた(非特許文献1参照)。しかしながら、会話試験の実施にはノウハウが必要であり、手間やコストがかかる上、再現性が低いという問題があった。
【0005】
一方、ハンドセットを使用して通話するIP電話では、遠端から送信される音声は、音響エコーなど近端話者の影響を受けず、遠端音声のみを評価対象にできる。そのため、IP電話の品質評価は、会話試験を簡略化し、片方向通話を対象とした受聴試験により行うことが一般的である。受聴試験は、会話試験に較べて再現性が高く、実施時間が短いため、利便性が高い。また、受聴試験による主観評価値(「受聴MOS: Mean Opinion Score」とも呼ぶ)を推定するPESQ(Perceptual Evaluation of Speech Quality)などの客観評価法も確立されている(非特許文献2参照)。近年では、受聴試験による主観評価やPESQなどの客観評価を拡声系通信システムに応用する手法も提案されている(非特許文献3参照)。
【0006】
受聴試験では、遠端話者の発話した音声が近端話者側で再生される音声(以下、「評価対象音」とも呼ぶ)を録音した音響信号と、遠端話者の発話した音声(以下、「基準音」とも呼ぶ)を直接録音した音響信号とを、評価者が聞き比べて音響品質の評価を行う。PESQでは、評価対象音を表す音響信号と基準音を表す音響信号それぞれから、例えば音声符号化歪、遅延の変動による時間構造歪、パケット/セル損失歪などの品質要因を物理測定し、その結果から受聴MOSを推定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】ITU-T, "ITU-T Recommendation P.800: Methods for subjective determination of transmission quality", ITU, 1996
【文献】ITU-T, "ITU-T Recommendation P.862: Perceptual evaluation of speech quality (PESQ): An objective method for end-to-end speech quality assessment of narrow-band telephone networks and speech codecs", ITU, 1996
【文献】栗原祥子,島内末廣,福井勝宏,原田登,“ハンズフリー通話におけるユーザ体感品質評価 ~ PESQと整合する主観評価法の検討 ~”,信学技報,vol. 117,no. 386,CQ2017-96,pp. 63-68,2018年1月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、評価対象音と基準音とを比較する音響品質評価試験を拡声系通信システムに対して行う場合、遠端話者側で基準音を録音するときにスピーカから出力された近端話者の音声の回り込みが基準音に重畳して録音されてしまうことがある。また、遠端話者側の周囲騒音が基準音に重畳して録音されてしまうこともある。近端話者の音声の回り込みや周囲騒音のように遠端話者の音声信号に基づかない余計な音響信号は妨害音とも呼ばれる。このように基準音に妨害音が入り込んでいると評価対象音の正確な評価を妨げる要因となる。特に音響エコーキャンセラを用いている場合は、音響エコー(すなわち近端話者の音声の回り込み)が評価対象音からは除去されているが、基準音には入り込んでいるため、本来よりも低い評価がなされるおそれがある。
【0009】
この発明の目的は、上記のような技術的課題に鑑みて、評価対象音と基準音とを比較して行う音響品質評価試験において評価の精度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明の一態様のデータ補正装置は、複数の通信端末間で行われる通話において一方の通信端末から出力される音声を録音した評価対象音と、他方の通信端末を用いる通話相手が発話した音声を録音した基準音とを比較して、通話の音響品質を評価する際に用いる試験データを補正するデータ補正装置であって、基準音を表す音響信号から検出した通話相手の音声が含まれない有声区間を補正対象区間として決定する補正対象決定部と、基準音を表す音響信号の補正対象区間を所定の非音声信号で更新する補正実行部と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
この発明のデータ補正技術によれば、評価対象音と基準音とを比較して行う音響品質評価試験において、基準音に重畳した妨害音を除去するため、評価の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、評価対象音と基準音の具体例を示す図である。
図2図2は、試験データ生成システムの機能構成を例示する図である。
図3図3は、試験データ生成方法の処理手順を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、図面中において同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0014】
<拡声系通信システムでの音響品質評価試験>
まず、拡声系通信システムでの受聴試験による音響品質評価試験を概念的に説明する。この音響品質評価試験では、近端話者と遠端話者とが拡声系通信システムを通じて会話を行い、近端話者側に位置する評価者が当該拡声系通信システムの品質評価を行う。なお、拡声系通信システムとは、マイクロホンとスピーカとを備えた端末装置間で音響信号を送受信する通信システムであって、端末装置のスピーカから出力された音の少なくとも一部がその端末装置のマイクロホンで受音されるもの(音の回り込みが生じるもの)をいう。拡声系通信システムの一例は、音声会議システムやテレビ会議システムである。
【0015】
拡声系通信システムでは、近端話者の音声が近端話者側のマイクロホンで受音され、それに基づいて得られた音響信号がネットワーク経由で遠端話者側に伝送され、当該音響信号が表す音が遠端話者側のスピーカから出力される。また、遠端話者側の音が遠端話者側のマイクロホンで受音され、それに基づいて得られた音響信号がネットワーク経由で近端話者側に伝送され、当該音響信号が表す音が近端話者側のスピーカから出力される。ただし、遠端話者側のスピーカから出力された音の少なくとも一部は遠端話者側のマイクロホンでも受音される。すなわち、遠端話者側のマイクロホンで受音される遠端話者側の音は、遠端話者の音声に近端話者の音声の回り込み(音響エコー)が重畳されたものである。すなわち、遠端話者側のマイクロホンで受音される遠端話者側の音は、遠端話者の音声に基づく信号に近端話者の音声に基づく信号が遠端話者側の空間で劣化して重畳した信号に基づく。なお、近端話者が発話していないときは、近端話者の音声に基づく信号が重畳しないため遠端話者の音声が劣化することはない。また、遠端話者側の音の劣化は、遠端話者側の周囲騒音の重畳も要因となり得る。
【0016】
近端話者側に伝送される音響信号は、遠端話者側のマイクロホンで受音された音を表す信号に所定の信号処理を行って得られた処理信号に由来するものであってもよいし、このような信号処理を行うことなく得られたものであってもよい。信号処理は、どのような処理であってもよい。信号処理の例は、エコーキャンセル処理およびノイズキャンセル処理の少なくとも一方を含む処理である。なお、エコーキャンセル処理とは、エコーを低減させるための広義のエコーキャンセラによる処理を意味する。広義のエコーキャンセラによる処理とは、エコーを低減させるための処理全般を意味する。広義のエコーキャンセラによる処理は、例えば、適応フィルタを用いた狭義のエコーキャンセラのみによって実現されてもよいし、音声スイッチによって実現されてもよいし、エコーリダクションによって実現されてもよいし、これらの少なくとも一部の技術の組み合わせによって実現されてもよいし、さらにその他の技術との組み合わせによって実現されてよい(下記参考文献1参照)。またノイズキャンセル処理とは、遠端端末のマイクロホンの周囲で発生する、遠端話者の音声以外のあらゆる環境雑音に起因する雑音成分を抑圧または除去する処理を意味する。環境雑音とは、例えば、オフィスの空調音、走行中の車内音、交差点での車の通行音、虫の音、キーボードのタッチ音、複数の人の声(ガヤガヤ音)などを指し、音の大/小、屋内/屋外は問わない(下記参考文献2参照)。
【0017】
〔参考文献1〕知識ベース 知識の森、2群-6編-5章、“音響エコーキャンセラ”、電子情報通信学会
〔参考文献2〕阪内澄宇,羽田陽一,田中雅史,佐々木潤子,片岡章俊,“雑音抑圧及びエコー抑圧機能を備えた音響エコーキャンセラ”,電子情報通信学会論文誌,Vol.J87-A,No.4,pp.448-457,2004年4月
【0018】
評価者は、ヘッドフォンやイヤホン等の両耳装着型音響再生装置を用い、遠端話者側での音の回り込みがないと仮定した場合の近端話者側のスピーカから出力される音(すなわち、基準音)を表す音響信号と、遠端話者側での音の回り込みがある場合の近端話者側のスピーカから出力される音(すなわち、評価対象音)を表す音響信号と、を交互に聴き比べ、通話品質を主観評価(オピニオン評価)する。
【0019】
PESQによる客観評価では、上述のように取得した基準音を表す音響信号と評価対象音を表す音響信号の組を入力とし、例えば非特許文献2に記載された算出方法に従ってPESQ値を算出する。非特許文献2に記載された“original signal X(t)”が基準音を表す音響信号に、“degraded signal Y(t)”が評価対象音を表す音響信号に、それぞれ該当する。
【0020】
図1に評価対象音を表す音響信号と基準音を表す音響信号の具体例を示す。この例では、近端話者と遠端話者が相互に発話する会話が行われており、音響信号の前半区間(一点鎖線で囲われた部分)では近端話者が発話し、後半区間(破線で囲われた部分)では遠端話者が発話している。評価対象音を表す音響信号は、遠端端末側でエコーキャンセル処理が行われ、近端端末側へ伝送されたものであり、基準音を表す音響信号は、遠端端末のマイクロホンから直接録音したものである。近端話者が発話している前半区間では、基準音には近端話者の音声が重畳しているが、評価対象音は音響エコーキャンセラの機能により近端話者の音声の回り込みが除去されている。一方、遠端話者が発話している後半区間では、いずれの音響信号も遠端話者の音声を表している。基準音に近端話者の音声が重畳している前半区間は評価対象音との差分が大きいため、評価対象音と基準音とを比較する音響品質評価試験では適切な評価が得られないおそれがある。このように基準音に近端話者の音声が重畳している区間の音響信号を、誰も発話をしていない非音声区間の音響信号に置き換えることで、音響品質評価試験の精度を向上することができると考えられる。
【0021】
<試験データ生成システム>
実施形態の試験データ生成システムは、上述の音響品質評価試験に用いる試験データを生成する情報通信システムである。実施形態の試験データ生成システム10は、図2に示すように、近端話者が用いる近端端末1と、遠端話者が用いる遠端端末2と、データ補正装置3とを含む。近端端末1は、少なくとも送話部11、受話部12、および録音部13を備え、さらに信号処理部14を備えてもよい。遠端端末2は、少なくとも送話部21、受話部22、および録音部23を備え、さらに信号処理部24を備えてもよい。データ補正装置3は、評価対象音記憶部30、補正対象決定部31、補正実行部32、および基準音記憶部33を備える。この試験データ生成システム10が図3に例示する各ステップの処理を行うことにより実施形態の試験データ生成方法が実現される。
【0022】
近端端末1と遠端端末2とは音声通信網4を介して接続される。データ補正装置3は、近端端末1および遠端端末2と図示していないネットワークを介して接続される。ただし、音声通信網4が帯域制御等により音声用の通信経路とデータ用の通信経路とを論理的に分割可能であれば、音声通信網4を介して近端端末1および遠端端末2とデータ補正装置3とが接続されてもよい。音声通信網4は、接続される各装置が相互に通信可能なように構成された回線交換方式もしくはパケット交換方式の通信網であり、特に音声通信を想定して構成されたものである。音声通信網4は、具体的には、インターネットやWAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、専用線、公衆交換電話網、携帯電話通信網などで構成することができる。
【0023】
近端端末1および遠端端末2は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。近端端末1および遠端端末2は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。近端端末1および遠端端末2に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。近端端末1および遠端端末2は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。近端端末1および遠端端末2は、具体的には、スマートフォンやタブレットのようなモバイル端末、もしくはデスクトップ型やラップトップ型のパーソナルコンピュータなどの音声送受信機能およびデータ通信機能を備えた情報処理装置である。
【0024】
データ補正装置3は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。データ補正装置3は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。データ補正装置3に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。データ補正装置3は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。データ補正装置3が備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。データ補正装置3は、具体的には、デスクトップ型やラックマウント型のサーバコンピュータなどのデータ通信機能およびデータ処理機能を備えた情報処理装置である。
【0025】
ステップS1において、近端端末1と遠端端末2とが音響品質の評価対象とする音響信号を取得するための通話を開始する。まず、近端端末1が近端話者の操作に従って遠端端末2へ発信を行う。遠端端末2は遠端話者の操作に従って近端端末1からの着信に応答する。これにより、近端端末1と遠端端末2との間で通話が確立する。ここでは近端端末1から遠端端末2へ発信する例を示したが、遠端端末2から近端端末1へ発信することで通話を確立しても構わない。
【0026】
通話が確立すると、近端話者の発話した音声が近端端末1のマイクロホンM1により音響信号に変換され、送話部11がその音響信号を遠端端末2の受話部22へ送信する。遠端端末2の受話部22は、近端端末1の送話部11から受信した音響信号を遠端端末2のスピーカS2から出力する。遠端話者の発話した音声は遠端端末2のマイクロホンM2により音響信号に変換されるが、このとき遠端端末2のスピーカS2から出力された近端話者の音声の回り込みが遠端話者の音声に重畳して音響信号に変換される。遠端端末2の送話部21は、音響信号を近端端末1の受話部12へ送信する。遠端端末2の信号処理部24は、近端端末1へ送信される音響信号に対してエコーキャンセル処理およびノイズキャンセル処理の少なくとも一方を含む信号処理を行う。近端端末1の受話部12は、遠端端末2の送話部21から受信した音響信号を近端端末1のスピーカS1から出力する。このようにして、近端話者と遠端話者とは近端端末1と遠端端末2との間で確立した通話を介して会話を行う。
【0027】
ステップS13において、近端端末1の録音部13は、近端端末1の受話部12がスピーカS1から出力する音響信号を録音し、評価対象音を表す音響信号としてデータ補正装置3へ送信する。データ補正装置3は、近端端末1の録音部13から受信した評価対象音を表す音響信号を評価対象音記憶部30へ記憶する。
【0028】
ステップS23において、遠端端末2の録音部23は、遠端端末2のマイクロホンM3に入力された音を音響信号へ変換し、基準音を表す音響信号としてデータ補正装置3へ送信する。データ補正装置3は、遠端端末2の録音部23から受信した基準音を表す音響信号を補正対象決定部31へ入力する。
【0029】
録音部23は、近端端末1が備えてもよい。この場合、遠端端末2が存在する空間内にマイクロホンM3を配置し、マイクロホンM3から近端端末1が存在する空間へ敷設したオーディオケーブルを用いて、マイクロホンM3と近端端末1が備える録音部23を接続する。これにより、遠端話者が発話した音声を近端端末1が備える録音部23で直接録音することが可能となる。
【0030】
ステップS31において、データ補正装置3の補正対象決定部31は、入力された基準音を表す音響信号の中から有声区間を検出し、有声区間の中で遠端話者の音声が含まれない区間を補正対象区間として決定する。音響信号から有声区間を検出する方法は、既知の有声無声判定技術を用いることができる。有声区間のうち遠端話者の音声が含まれるか否かは、既知の話者識別技術を用いて判別することができ、例えば予め遠端話者の声の周波数を分析しておき、その周波数成分が各有声区間に含まれるか否かにより判定することができる。補正対象決定部31は、補正対象区間を表す情報(例えば、開始時刻と終了時刻やフレーム番号など)を補正実行部32へ出力する。
【0031】
ステップS32において、データ補正装置3の補正実行部32は、補正対象決定部31から補正対象区間を表す情報を受け取り、基準音を表す音響信号の補正対象区間を所定の非音声信号で上書きして更新する。所定の非音声信号は、遠端端末2が存在する空間において、遠端話者が発声していない状態(すなわち、無声状態)で録音した音響信号(以下、「無声音響信号」と呼ぶ)を用いればよい。予め長さの異なる複数の無声音響信号を用意しておき、補正対象区間の長さに応じて、適切な長さの無声音響信号を選択する、もしくは、複数の無声音響信号を組み合わせる、などにより非音声信号を生成してもよい。遠端端末2が存在する空間において無声音響信号を得ることが困難な場合には、ホワイトノイズを非音声信号として用いてもよい。ホワイトノイズであれば機械的に生成することができるため、補正対象区間と等しい長さの非音声信号を得ることができる。一方、ホワイトノイズには遠端端末2が存在する空間の環境雑音が含まれないため、評価者に違和感を与える可能性もある。補正実行部32は、補正後の基準音を表す音響信号を基準音記憶部33へ記憶する。
【0032】
評価対象音記憶部30に記憶された評価対象音を表す音響信号と基準音記憶部33に記憶された補正後の基準音を表す音響信号との組は、音響品質評価試験の試験データとして用いる。例えば、受聴試験による主観評価を行う場合には、評価者が評価対象音と補正後の基準音とを交互に聴き比べて、例えば非特許文献1に記載された評価カテゴリーに従って主観評価値を決定する。また、例えば、PESQによる客観評価を行う場合には、評価対象音を表す音響信号と補正後の基準音を表す音響信号との組を入力し、例えば非特許文献2に記載されたPESQ値を算出する。
【0033】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計の変更等があっても、この発明に含まれることはいうまでもない。実施の形態において説明した各種の処理は、記載の順に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。
【0034】
[プログラム、記録媒体]
上記実施形態で説明した各装置における各種の処理機能をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記各装置における各種の処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0035】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0036】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0037】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記憶装置に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0038】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 試験データ生成システム
1 近端端末
2 遠端端末
3 データ補正装置
4 音声通信網
11,21 送話部
12,22 受話部
13,23 録音部
14,24 信号処理部
30 基準音記憶部
31 補正対象決定部
32 補正実行部
33 評価対象音記憶部
図1
図2
図3