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  • 特許-導電性高分子溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】導電性高分子溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/03 20060101AFI20221129BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08J3/03 CEZ
C08G61/12
H01B13/00 Z
H01B1/12 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018169874
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020041062
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 高分子学会第67回高分子討論会講演予稿集 掲載年月日 平成30年8月29日 掲載アドレス https://cloud.dynacom.co.jp/tohron2018/download_pdf.php?id=1L07
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】奥崎 秀典
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-513219(JP,A)
【文献】特開2018-123213(JP,A)
【文献】特開2014-065898(JP,A)
【文献】特開2017-197659(JP,A)
【文献】特開2010-067448(JP,A)
【文献】特開2017-115089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 5/00-5/22
C08G 2/00-2/38;
61/00-61/12
H01B 13/00
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンと、溶媒からなる溶液を加熱処理することを特徴とする、導電性高分子溶液の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記ポリチオフェンの溶液が水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理が、温度50℃~250℃での加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し構造及び前記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンが、下記一般式(3)
【化2】
(上記一般式(3)において、R、m及びnは、上記一般式(1)及び(2)のR、m及びnと同じ定義であり、Mは、アルカリ金属イオンを表わす。)
で表されるチオフェンモノマーを、少なくとも水を含む溶媒中、酸化剤の存在下で重合させ、次いで、得られたポリマーを少なくともイオン交換により精製して得られるポリチオフェンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己ドープ型導電性高分子溶液の製造方法に関するものである。具体的には重合反応で得られた自己ドープ型ポリチオフェンの溶液を加熱処理することで高い電気伝導度を有する自己ドープ型ポリチオフェンを提供することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役高分子に対して、電子受容性化合物をドーパントとしてドープした外部ドープ型導電性高分子が開発されているが、不溶不融であるために精製が困難であることや、安定したドーピングを維持することが難しいという課題があった。一方で、水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子が開発され、例えば、スルホン化ポリアニリン、スルホン化ポリチオフェン等が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。これらの中でも直鎖のアルキレンスルホン酸基が置換したポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)は、比較的高い電気伝導度を示すことが報告されている(例えば特許文献1、非特許文献3、4参照)。また、PEDOT-S以外に、高い導電性と優れた水溶性を兼ね備えた自己ドープ型導電性高分子が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
近年、新規な用途として透明電極や低ESRコンデンサへの適用検討が盛んに検討されており、市場からはさらに高い導電性を有する導電性高分子の要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4974095号公報
【文献】国際公開第2014/007299号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the American Chemical Society, 117, 10055-10062(1995)
【文献】Journal of the Chemical Society, Chemical Communications, 23, 1694-1695(1990)
【文献】Chemistry of Materials, 21, 1815-1821(2009)
【文献】Advanced Materials, 23, 4403-4408(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自己ドープ型導電性高分子は帯電防止材、コンデンサの固体電解質、透明電極等への応用が期待される。ただし、従来公知の自己ドープ型導電性高分子については、固体電解コンデンサ等に要求される高導電性を発現させることが困難であった。自己ドープ型導電性高分子の導電性を高めることができれば、固体電解コンデンサ等の性能をさらに向上させることが可能である。本発明の目的は、従来に無い高導電性を示す自己ドープ型導電性高分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理することで、従来の自己ドープ型導電性高分子では成し得なかった極めて高い導電性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理することで、ドーピングを促進し、より高い電気伝導度の自己ドープ型ポリチオフェンを得る製造方法に関するものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]に存する。
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理することを特徴とする、導電性高分子溶液の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【0011】
[2] 前記ポリチオフェンの溶液が水溶液であることを特徴とする[1]に記載の製造方法。
【0012】
[3] 前記加熱処理が、温度50℃~250℃での加熱処理であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0013】
[4] 前記一般式(1)で表される繰り返し構造及び前記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンが、下記一般式(3)
【化2】
(上記一般式(3)において、R、m及びnは、上記一般式(1)及び(2)のR、m及びnと同じ定義であり、Mは、アルカリ金属イオンを表わす。)
で表されるチオフェンモノマーを、少なくとも水を含む溶媒中、酸化剤の存在下で重合させ、次いで、得られたポリマーを少なくともイオン交換により精製して得られるポリチオフェンであることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の自己ドープ型ポリチオフェンよりも顕著に高い導電性を示すという顕著な効果を奏する。このため、本発明のポリチオフェンは、固体電解コンデンサ等の性能を向上させることができる点で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ポリチオフェンの水溶液を24時間加熱処理した場合の加熱処理温度と電気伝導度の関係(実施例1~4)を示す。
図2】ポリチオフェンの水溶液を各温度(40,60,80,100℃)で24時間加熱処理した場合のUV-Vis-NIRスペクトル(実施例1~4)を示す。
図3】ポリチオフェンの水溶液を24時間加熱処理した場合の加熱処理温度とUV-Vis-NIRスペクトルの波長900nmにおける吸収強度の関係(実施例1~4)を示す。
図4】ポリチオフェンの水溶液を100℃で加熱処理した場合の加熱処理時間と電気伝導度の関係(実施例1,5~7)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理することを特徴とする、導電性高分子溶液の製造方法である。
【0018】
【化3】
【0019】
上記一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。上記一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表す。また、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。
【0020】
上記のアルカリ金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオンが好ましい。
【0021】
上記のアミン化合物の共役酸としては、アミン化合物にヒドロン(H)が付加してカチオン種になったものを示す。
【0022】
上記の第4級アンモニウムカチオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムカチオン、テトラノルマルブチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルヘキシルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。入手の観点から、第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン又はテトラエチルアンモニウムカチオンであることが好ましい。
【0023】
上記の炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0024】
としては、導電性樹脂組成物の成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0025】
mは、1~10の整数であるが、好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは2である。
【0026】
nは、0又は1であるが、好ましくは0である。
【0027】
上記一般式(2)で表される構造単位は、上記一般式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0028】
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。アクセプタは、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、ドナーは、アクセプタとは逆に主鎖の共役系に電子を与えることにより、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0029】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは、自己ドープ型ポリマーと呼ばれている。
【0030】
本発明のポリチオフェン(A)は、下記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを、少なくとも水を含む溶媒中、酸化剤の存在下で重合させることにより製造することができる。
【0031】
【化4】
【0032】
上記一般式(3)において、R、m、nは、上記一般式(1)及び(2)と同じ定義である。Mは、アルカリ金属イオンを表わす。
【0033】
上記一般式(3)におけるアルカリ金属イオンMとしては、特に限定するものではないが、例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーはアルカリ金属イオンMを含むため、このチオフェンモノマーを重合した後のポリマー(ポリチオフェン)は、金属塩となる。必要に応じて、金属塩のポリマーを酸処理することで、アルカリ金属イオンMを水素イオンへ変換可能である。さらに、水素イオンに変換されたポリマーをアミン化合物又は第4級アンモニウムと反応させることで、水素イオンを上記一般式(1)で説明したアミン化合物の共役酸又は第4級アンモニウムカチオンへ変換可能である。
【0035】
上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーとしては、特に限定するものではないが、具体的には、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、及び8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム等が例示される。
【0036】
上記一般式(1)において、Mであるアミン化合物の共役酸を得るためには、スルホン酸基(H型の一般式(1))と反応して共役酸を形成するアミン化合物を用いればよい。このアミン化合物としては、sp3混成軌道を有するN(Rで表されるアミン化合物(共役酸としては[NH(Rで表される。)、又はsp2混成軌道を有するピリジン類化合物、イミダゾール類化合物等が挙げられる。
【0037】
3つの置換基Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は置換基を有する炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0038】
上記の炭素数1~6のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0039】
上記の置換基を有する炭素数1~6のアルキル基において、この置換基としては、特に限定するものではないが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、アミノ基、又はヒドロキシ基が挙げられる。置換基を有する炭素数1~6のアルキル基としては、具体的には、トリフルオロメチル基、2-ヒドロキシエチル基等が例示される。
【0040】
3つの置換基Rとしては、各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、2-ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0041】
N(Rで表されるアミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、tert-ブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン化合物(例えば、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、又は1,4-ブタンジアミン等があげられる。また、N(Rで表されるアミン化合物以外の化合物としては、イミダゾール類化合物(例えば、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール)や、ピリジン類としてのピリジンピコリン、又はルチジン等が例示される。これらのうち、好ましくは、エタノールアミン化合物、イミダゾール類化合物が挙げられる。
【0042】
本発明のポリチオフェンは、少なくとも水を含む溶媒中、酸化剤の存在下、上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの濃度を0.2~20重量%で、反応液全体が混ざり合うように、均一攪拌下に酸化重合することによって得ることができる。
【0043】
なお、ここでいう「チオフェンモノマーの濃度」とは、チオフェンモノマーの重量を、チオフェンモノマー、溶媒及び酸化剤の総重量で除算して100を乗算した値(重量%)である。
【0044】
上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを重合した後のポリマーは、金属塩であるため、必要に応じて、得られたポリマーを酸処理することでアルカリ金属イオンMを水素イオンへ変換可能であり、さらにこれをアミン化合物と反応させることで、水素イオンをアミン化合物の共役酸へ変換可能である。
【0045】
本発明のポリチオフェンの製造に用いる少なくとも水を含む溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、水又は水とアルコール化合物の混合物が挙げられる。
【0046】
水としては、重合反応を阻害する成分を含むものでなければ特に支障はないが、例えば、純水、蒸留水、又はイオン交換水を用いることができる。
【0047】
アルコール化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等が挙げられる。これらのアルコール化合物は、水と併用して使用する。
【0048】
これらの溶媒のうち、より分子量が大きいポリチオフェンが得られる点で、水又はメタノール水溶液が好ましく、水がより好ましい。
【0049】
また、本発明のポリチオフェンの製造に用いる少なくとも水を含む溶媒については、特に限定するものではないが、脱気を行ったものを用いてもよいし、溶媒に予め含まれているガスを窒素等の不活性ガスで置換したものを用いてもよい。
【0050】
本発明のポリチオフェンの製造に用いる酸化剤としては、酸化的脱水素化反応による酸化重合を進行させるものを用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、硫酸系酸化剤、塩酸系酸化剤、硝酸系酸化剤、金属系酸化剤、過酸化水素、酸素等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0051】
ここで、硫酸系酸化剤としては、具体的には、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が例示される。
【0052】
塩酸系酸化剤としては、具体的には、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、塩素酸、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等が例示される。
【0053】
硝酸系酸化剤としては、具体的には、硝酸、発煙硝酸等が例示される。
【0054】
金属系酸化剤としては、具体的には、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、バナジン酸塩、ビスマス酸塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、セリウム(IV)塩等が例示される。
【0055】
また、鉄(II)塩としては、具体的には、FeCl、FeSO等が例示される。これらは無水物を使用しても、水和物を使用してもよい。より好ましくは、取扱いが容易で反応容器の腐食回避の観点からFeSO・7HOが望ましい。
【0056】
また、鉄(III)塩としては、具体的には、FeCl、Fe(SO、過塩素酸鉄、パラ-トルエンスルホン酸鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(III)塩等が例示される。これらは無水物を使用しても、水和物を使用してもよい。
【0057】
また、過マンガン酸塩としては、具体的には、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウム等が例示される。
【0058】
また、重クロム酸塩としては、具体的には、重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム等が例示される。
【0059】
これらの酸化剤のうち、好ましくは、硫酸系酸化剤、塩酸系酸化剤及び硝酸系酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤と金属系酸化剤を含む混合物であることが好ましく、硫酸系酸化剤、塩酸系酸化剤及び硝酸系酸化剤(いずれも、標準酸化還元電位が1.0~5.0ボルトの範囲)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤と鉄(II)塩又は鉄(III)塩を含む混合物であることがより好ましく、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤とFeSO4・7HO、FeCl、及びFe(SOからなる群より選ばれる少なくとも1種の鉄塩(II又はIII)を含む混合物であることがより好ましい。
【0060】
酸化剤としては、鉄(II又はIII)塩単独系、又は過硫酸塩と鉄塩(II又はIII)との併用系がある。鉄(II)塩としては、特に限定するものではないが、例えば、FeSO・7HOが好ましい。鉄(III)塩としては、特に限定するものではないが、例えば、FeCl、Fe(SOが好ましい。
【0061】
本発明のポリチオフェンの製造に用いる酸化剤の量としては、特に限定するものではないが、上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの仕込みモル数に対して、0.5~50倍のモル数である。より好ましくは、1~20倍のモル数である。更に好ましくは、1~10倍のモル数である。
【0062】
本発明のポリチオフェンの製造に用いる酸化剤が、例えば、鉄(III)塩単独系の場合、原料として用いられるチオフェンモノマーの仕込みモル数に対して、鉄(III)塩が等倍モル以上であり、且つ溶媒に対する鉄濃度が10重量%以上となるような条件において重合させることが好ましい。より良好な導電性を発現させるために必要なドーピングの観点からは、溶媒に対する鉄濃度が20重量%以上であることがさらに好ましい。なお、ここでいう「鉄濃度」とは、鉄塩の重量を、鉄塩及び溶媒の総重量で除算して100を乗算した値(重量%)であり、鉄塩は無水物として計算する。
【0063】
また、本発明のポリチオフェンの製造に用いる酸化剤が、例えば、過硫酸塩と鉄(II又はIII)塩との併用系である場合には、原料として用いられるチオフェンモノマーの仕込みのモル数に対して、過硫酸塩が0.5~20倍のモル数の範囲であり、且つ鉄(II又はIII)塩が0.01~10倍のモル数の範囲であることが好ましく、過硫酸塩が1.5~10倍のモル数の範囲であり、且つ鉄(II又はIII)塩が0.05~5倍のモル数の範囲であることがより好ましい。
【0064】
本発明のポリチオフェンの製造において、反応の圧力は、特に限定するものではないが、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよい。
【0065】
本発明のポリチオフェンの製造については、粘度上昇に伴う重合反応の停滞を防ぐように反応液を撹拌させることが重要である。このような撹拌方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ポッター型ホモジナイザーによる撹拌、超音波式ホモジナイザーによる撹拌、又はホモミキサーによる撹拌等が挙げられる。なお、必要に応じてホモミキサー撹拌、ホモジナイザー撹拌、及びその他の撹拌方法から選ばれる2つ以上の撹拌方法を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明のポリチオフェンの製造における反応雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中であってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス中であってもよい。なお、好ましくは不活性ガス中である。
【0067】
本重合反応の反応温度は、例えば、上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを酸化重合できる温度であればよく、特に限定するものではないが、-10~150℃の範囲が好ましく、-5~120℃の範囲がより好ましく、0~100℃の範囲が更に好ましい。
【0068】
本発明のポリチオフェンの製造における反応時間は、例えば、上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの酸化重合が十分進行する時間が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、0.5~200時間の範囲が好ましく、0.5~80時間の範囲が更に好ましい。
【0069】
本発明のポリチオフェンの製造における反応方法については、特に限定するものではないが、例えば、本重合反応に用いる酸化剤が、鉄(II又はIII)塩単独系の場合、原料として用いられるチオフェンモノマーを水溶液として、これに前記酸化剤を一度に又はゆっくりと滴下する方法が挙げられる。また、逆に酸化剤の固体又は水溶液にチオフェンモノマーの水溶液を一度に又はゆっくりと滴下する方法を行ってもよい。
【0070】
また、酸化剤が過硫酸塩と鉄(II又はIII)塩との併用系である場合には、チオフェンモノマーの水溶液中に過硫酸塩と鉄(II又はIII)塩とを固体又は水溶液として、同時に又は順次添加してもよく、また逆に過硫酸塩と鉄(II又はIII)塩の水溶液中にチオフェンモノマーの水溶液を添加してもよい。
【0071】
本発明のポリチオフェンについては、以上のような製造工程の後、そのまま用いることもできるし、精製して用いることもできる。本発明のポリチオフェンの精製法としては、特に限定するものではないが、例えば、溶媒洗浄、再沈殿、遠心沈降、限外ろ過、透析、イオン交換樹脂処理等が挙げられる。それぞれ単独で行っても又は組み合わせて行っても良い。
【0072】
本発明のポリチオフェンの典型的な単離精製方法は、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。
【0073】
まず、重合反応後のポリマー水溶液をアセトン等の貧溶媒に添加し、ポリマーを沈殿させた後、減圧ろ過で得たポリマーを当該貧溶媒でろ液が無色透明になるまで洗浄する。このポリマーに、水に不溶なFe塩が含まれている場合、一度水酸化ナトリウム水溶液中に添加し、水に溶解するNa塩型ポリマーに変換することが好ましい。
【0074】
次に、これをアルコール等の貧溶媒に添加してポリマーを沈殿させるとともに、アルカリ分を除去し、減圧濾過により得た固体をアルコール等の貧溶媒で洗浄する。次いでアセトン等の貧溶媒で洗浄し、Na塩型ポリマーを得る。
【0075】
得られたNa塩型ポリマーを、引き続き、H型ポリマーに変換する場合には、陽イオン交換樹脂で処理する。処理方法としては、例えば、得られたNa塩型ポリマーの水溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる方法や、陽イオン交換樹脂を水溶液に添加するボディーフィード法等が挙げられる。後者の場合、処理後にろ紙やガラスフィルター等で陽イオン交換樹脂を除去することができる。このようにして本発明のポリチオフェンを含む水溶液が得られる。また、得られた水溶液は、アセトン等の貧溶媒に添加して沈殿させ、減圧ろ過して得た固体を当該貧溶媒でよく洗い、減圧乾燥してH型ポリマーとして得てもよい。得られたH型ポリマーを再度水に溶解させて本発明のポリチオフェンを含む水溶液を作製してもよい。また、重合反応後のポリマー水溶液からポリマーを再沈殿により析出させることなく限外ろ過等により無機塩等を脱塩した後に本工程を行ってもよい。引き続き、アニオン成分の除去を目的に陰イオン交換樹脂で処理してもよい。また、陽・陰イオン交換樹脂混合品で処理してもよい。さらに必要に応じて、限外ろ過等の方法により濃度調整を行ってもよい。
【0076】
重合後処理の各工程では必要に応じて、遠心沈降、ホモジナイズ処理を行ってもよい。これにより、ろ過効率の改善を図ることができる。
【0077】
更に、各種アミンとの塩を形成させる場合には、例えば、H塩型ポリマーの水溶液に、各種アミンの原液若しくはその水溶液又はその他適当な溶媒で希釈したものを加えることで容易にアミン塩型ポリマーに変換することができる。例えば、アンモニア水で処理した場合には、反応液を粗濃縮し、その水溶液をアセトン等の貧溶媒に添加してポリマー沈殿させた後、減圧濾過により得た固体を当該貧溶媒で洗浄し、減圧乾燥することでアンモニウム塩型ポリマーが得られる。
【0078】
本発明に用いられるポリチオフェンの電気伝導度は、特に限定するものではないが、フィルム状態で電気伝導度として、50S/cm以上であることが好ましい。
【0079】
本発明のポリチオフェンを含む水溶液の濃度は、ポリチオフェンが溶解する濃度であれば特に限定されないが、例えば0.005~10.0重量%のポリチオフェンを含むものである。なお、電気伝導度及び操作性に優れる点で、本発明の導電性高分子溶液中のポリチオフェンの濃度は、0.005~7重量%の範囲であることが好ましく、0.01~5重量%の範囲であることがより好ましい。
【0080】
本発明の導電性高分子溶液の製造方法については、上記の重合工程及び精製工程(少なくともイオン交換による精製工程)を行って得られたポリチオフェンの溶液を加熱処理することが好ましい。
【0081】
なお、前記ポリチオフェンの溶液については、水溶液であることが好ましく、前記の導電性高分子溶液については、導電性高分子水溶液であることが好ましい。
【0082】
本発明の製造方法における加熱処理温度は、高導電性を得るために、ポリチオフェンの重合反応温度よりも高い温度であることが好ましく、特に限定するものではないが、30℃~300℃であることが好ましい。重合反応温度を-10~150℃の範囲とした場合には、加熱処理温度は50℃~250℃の範囲であることが好ましく、重合反応温度を-5℃~120℃の範囲とした場合には、加熱処理温度は55℃~200℃の範囲であることが好ましく、重合反応温度を0℃~100℃の範囲とした場合には、加熱処理温度は60℃~150℃の範囲であることが好ましい。
【0083】
本発明の製造方法における加熱処理は、密閉系でも開放系で行ってもよい。高温で加熱処理する場合には、溶媒の蒸発等が考えられるため、密閉系で行うことが好ましく、必要に応じて耐圧容器を使用してもよい。
【0084】
本発明の製造方法における加熱処理の時間は、特に限定するものではないが、1000時間以内であることが好ましい。より好ましくは、100時間以内、より好ましくは1~50時間である。
【0085】
本発明の製造方法における加熱処理による電気伝導度の上昇率(加熱処理後の電気伝導度を加熱処理前の電気伝導度で除算した値)は、加熱処理前の電気伝導度の値を1とし、それよりも大きければ特に限定されないが、好ましくは1.1倍以上である。
【0086】
本発明の製造方法における加熱処理によるUV-Vis-NIR分析で得られた吸収スペクトルの波長900nmの吸収強度の上昇率(加熱処理後の吸収強度を加熱処理前の吸収強度で除算した値)は、加熱処理前の吸収強度の値を1とし、それよりも大きければ特に限定されないが、好ましくは1.1倍以上である。
【0087】
本発明の加熱処理されたポリチオフェンの電気伝導度を測定する方法としては、特に限定されないが、ポリチオフェンの導電膜を形成して測定する方法を用いることができる。例えば、本発明の加熱処理されたポリチオフェンの溶液を、基材に塗布し乾燥することが挙げられる。
【0088】
前記の基材としては、特に限定するものではないが、例えば、高分子化合物で形成された基材(高分子基材という)又は無機化合物で形成された基材(無機基材という)が挙げられる。高分子基材としては、特に限定するものではないが、例えば、熱可塑性樹脂、不織布、紙、又はレジスト膜基板等が挙げられる。前記の熱可塑性樹脂としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレート、又はポリカーボネート等が挙げられる。前記の不織布としては、例えば、天然繊維、合成繊維、又はガラス繊維等が挙げられる。前記の紙としては一般的なセルロースを主成分とするものが挙げられる。前記の無機基材の材料としては、ガラス、セラミックス、酸化アルミニウム、又は酸化タンタル等が挙げられる。
【0089】
本発明の導電性高分子溶液の塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ディスペンサ法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、又はインクジェット法等が挙げられる。好ましくはバーコート法、スピンコート法である。
【0090】
本発明の導電性高分子溶液を塗布して得られたウエット塗膜について、乾燥させることによって、導電膜が得られる。前記ウエット塗膜の乾燥温度は、均一な乾燥状態の導電膜が得られる温度及び基材の耐熱温度以下であれば特に限定するものではないが、室温~300℃の範囲が好ましく、より好ましくは室温~200℃の範囲であり、さらに好ましくは90℃~150℃の範囲である。
【0091】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。導電膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。得られる導電膜の膜厚としては特に限定するものではないが、1×10-3~1×10μmの範囲が好ましい。より好ましくは1×10-3~1×10-1μmである。
【0092】
本発明の製造方法によって製造された導電性高分子溶液については、他の成分を添加して導電性組成物とすることができる。添加剤としては、一般公知の物を用いることができる。
【0093】
前記の導電性組成物を調製する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温~加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下である。導電性組成物を調製する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でもよい。
【0094】
導電性組成物を調製する際には、スターラーチップ、攪拌羽根等による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0095】
前記の導電性組成物中の固形分の粒径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、導電性や成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。
【0096】
前記の導電性組成物についてはどのような粘度であってもかまわないが、産業利用の点で、20℃における粘度が、1000mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましい。
【実施例
【0097】
以下に、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではない。なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0098】
[自己ドープ型導電性高分子の電気伝導度測定]
・導電性フィルムの製膜
スライドガラス(26×70mm)の真中にビニールテープを貼り、ビニールテープで区画された半分の面積(26×35mm)にポリチオフェン水溶液(約1.0 重量%)を滴下する。赤外水分計(MOC-120H,島津製作所)を用いて空気中,120℃で加熱乾燥後、200℃,30分で熱処理することで導電性フィルムを作製した。
【0099】
・膜厚測定
スライドガラスに貼ったビニールテープを剥がし、ガラス基板と導電性フィルムの段差を触針式段差計(D-100,KLA Tencor)で測定した。ガラス基板の表面でベースライン補正した後、段差測定から導電性フィルムの膜厚を算出した。
【0100】
・電気伝導度測定
導電性フィルムの電気伝導度は、抵抗率計(ロレスタGP,MCP-T610型,三菱化学)を用いて測定した。4探針プローブ(PSPプローブ,三菱化学)をスタンドに固定し、フィルムを持ち上げることでプローブに接触させた。フィルムサイズ(26×35mm)および膜厚を入力し、最低3サンプルの測定平均(表面抵抗率)から電気伝導度を算出した。電気伝導度の算出式を以下に示す。
電気伝導度[S/cm]=10/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
【0101】
・UV-Vis-NIR測定
紫外可視近赤外分光光度計(UV-3100、SHIMADZU製)を用い、自己ドープ型導電性高分子水溶液(100ppm)を分析した。
【0102】
合成例1
ポリチオフェン[下記式(4)及び下記式(5)で表される繰り返し構造を含む重合体]の合成
120.0gのモノマーである3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(99.5%LC純度)と62.5mLの硫酸を約1000mLの純水に溶解した。この混合液に60.55gの硫酸鉄七水和物を加え、さらに165.67gの過硫酸アンモニウムを含む水溶液を滴下し、最後に全重量が1500gになるよう純水を加えて調製した。全重量に対するモノマーの仕込み濃度は8.0重量%であった。混合溶液を0℃で24時間、反応液全体が流動するように均一強撹拌させながら重合反応を行った。その後、反応溶液のイオン交換処理や脱塩処理等を行い、濃度1.0重量%のポリチオフェン(下記式(4)及び下記式(5)で表される繰り返し構造を含む重合体)の水溶液を得た。得られた水溶液をガラス基板上に成膜して塗膜を得た。得られた塗膜の電気伝導度は818S/cmであった。結果を下記表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理時間の関係を図4に記載した。
【0103】
【化5】
【0104】
(実施例1)
ポリチオフェン[上記式(4)及び上記式(5)で表される繰り返し構造を含む重合体]の加熱処理
合成例1で得られた濃度1.0重量%のポリチオフェン水溶液を、室温から100℃まで加熱し、100℃で24時間、加熱処理し、次いで放冷後、ポリチオフェン水溶液をガラス基板上に成膜して塗膜を得た。得られた塗膜の電気伝導度は924S/cmであった。結果を下記表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理温度の関係を図1に、UV-Vis-NIR測定から得られたスペクトルを図2に、波長900nmでの吸収強度と加熱処理温度の関係を図3に、電気伝導度及び加熱処理時間の関係を図4に記載した。
【0105】
(実施例2)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を40℃で24時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理温度の関係を図1に、UV-Vis-NIR測定から得られたスペクトルを図2に、波長900nmでの吸収強度と加熱処理温度の関係を図3に示した。
【0106】
(実施例3)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を60℃で24時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理温度の関係を図1に、UV-Vis-NIR測定から得られたスペクトルを図2に、波長900nmでの吸収強度と加熱処理温度の関係を図3に示した。
【0107】
(実施例4)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を80℃で24時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理温度の関係を図1に、UV-Vis-NIR測定から得られたスペクトルを図2に、波長900nmでの吸収強度と加熱処理温度の関係を図3に示した。
【0108】
(実施例5)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を100℃で1時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理時間の関係を図4に示した。
【0109】
(実施例6)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を100℃で5時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理時間の関係を図4に示した。
【0110】
(実施例7)
実施例1において、100℃で24時間の加熱処理を100℃で48時間の加熱処理とした以外は実施例1と同様の操作を行い、塗膜の電気伝導度測定及びUV-Vis-NIR測定を行った。結果を表1に記載した。また、電気伝導度及び加熱処理時間の関係を図4に示した。
【0111】
【表1】
【0112】
上記表1から分かるように、合成例1で得られたポリチオフェン水溶液を加熱することにより、塗膜の電気伝導度を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のポリチオフェンは、従来(例えば、特許文献1、2)よりも高い導電性を有するため、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、並びに帯電防止フィルム、巻回型アルミ電解コンデンサ用のセパレータへの利用が可能である。その他、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、熱電変換材料、化学センサ、アクチュエータ、電磁波シールド材等への応用も期待できる。
図1
図2
図3
図4