IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特許7184378カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット
<>
  • 特許-カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット 図1
  • 特許-カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット 図2
  • 特許-カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット 図3
  • 特許-カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット 図4
  • 特許-カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6858 20180101AFI20221129BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20221129BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z
C12Q1/6895 Z
C12N15/29 ZNA
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020186834
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076414
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】尾上 典之
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆介
(72)【発明者】
【氏名】東 暁史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明彦
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】Kanzaki S. et al.,SCAR Markers for Practical Application of Marker-assisted Selection in Persimmon (Diospyros kaki Thunb.) Breeding, 2010, J. Japan Soc. Hort. Sci., vol. 79, no. 2, p. 150-155
【文献】Onoue N. et al.,SSR-based molecular profiling of 237 persimmon (Diospyros kaki Thunb.) germplasms using an ASTRINGENCY-linked marker, 2018, Tree Genetics & Genomes, vol. 14, p. 28
【文献】Kono A. et al.,Characterization of a highly polymorphic region closely linked to the AST locus and its potential use in breeding of hexaploid persimmon (Diospyros kaki Thunb.), Mol. Breeding, 2016, vol. 36, p. 56
【文献】Akagi T. et al.,Quantitative Genotyping for the Astringency Locus in Hexaploid Persimmon Cultivars using Quantitative Real-time PCR, J. Amer. Soc. Hort. Sci., 2010, vol. 135, no. 1, p. 59-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/UniProt/SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法であって、
(工程1)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される非完全甘ガキ性と連鎖している領域の塩基配列(以下、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列とも称する)を検出する工程、
(工程2)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される完全甘ガキ性と連鎖している領域の塩基配列(以下、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列とも称する)を検出する工程、及び、
(工程3)前記工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅されず、前記工程2において、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅された場合に、増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を、制限酵素StuIで切断し、配列番号4で表される塩基配列からなるDNAを検出する工程、
を含む、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出されるか、または、前記工程3において、配列番号4で表される塩基配列からなるDNAが検出されるカキ植物体は、非完全甘ガキ性を有すると判定し、
前記工程1において、前記非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出されず、且つ、前記工程3において、配列番号4で表される塩基配列からなるDNAが検出されないカキ植物体は、完全甘ガキ性を有すると判定する、請求項1に記載の識別方法。
【請求項3】
配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
【請求項4】
配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、及び制限酵素StuIを含む、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット。
【請求項5】
さらに、配列番号4で表される塩基配列からなるDNAを含む、請求項4に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
カキには渋ガキと甘ガキがある。甘ガキの中にも種子形成の有無に関わらず成熟期に渋みが無くなる完全甘ガキと、種子形成が不十分な場合は渋みが残る不完全甘ガキがある。
日本のカキ産業を維持および発展させるため、既存品種より良食味で多収性の完全甘ガキの育成が求められている。近交弱勢による低収量化を回避して多収性完全甘ガキを育成するには、完全甘ガキとは遠縁の非完全甘ガキ(渋ガキおよび不完全甘ガキ)を交雑親に利用する必要がある。この際、完全甘ガキと非完全甘ガキが混在する交雑実生集団から完全甘ガキのみをDNAマーカーを用いて早期選抜することで、完全甘ガキ新品種の育成効率を高めている。
【0003】
非特許文献1及び非特許文献2には、完全甘ガキと非完全甘ガキを、SCAR(sequence characterized amplified region)マーカーを用いて、キャピリーシーケンサーによるフラグメント解析により検出する方法が報告されている。
【0004】
非特許文献3には、SCARマーカーにより、完全甘ガキ性を決定している遺伝子座であるAST遺伝子座の近傍に、多型が検出されることが報告されているが、この多型の塩基配列が完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別に関連していることについては記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kanzaki et al., (2010) SCAR Markers for Practical Application of Marker-assisted Selection in Persimmon (Diospyros kaki Thunb.) Breeding. J Jpn Soc Hortic Sci 79(2):150-155.
【文献】Kono A, Kobayashi S, Onoue N, Sato A (2016) Characterization of a highly polymorphic region closely linked to the AST locus and its potential use in breeding of hexaploid persimmon (Diospyros kaki Thunb.) Mol Breeding 36:56.
【文献】Onoue et al., (2018) SSR-based molecular profiling of 237 persimmon (Diospyros kaki Thunb.) germplasms using an ASTRINGENCY-linked marker. Tree Genetics & Genomes 14:28.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記SCARマーカーを用いる方法では、表現型では非完全甘ガキであるにもかかわらず、完全甘ガキと判別される植物体があるという問題があった。
従って、本発明では、SCARマーカーを用いる方法では、表現型では非完全甘ガキであるにもかかわらず、完全甘ガキと判別される植物体を、非完全甘ガキと判定することを可能とする、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カキ植物体において、完全甘ガキ性と連鎖している領域の塩基配列をSCARマーカーでPCR増幅した増幅産物を、制限酵素StuIで処理することにより、SCARマーカーのみでは検出できなかった非完全甘ガキ性と連鎖した多型を識別できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1] カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法であって、
(工程1)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される非完全甘ガキ性と連鎖している領域の塩基配列(以下、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列とも称する)を検出する工程、
(工程2)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される完全甘ガキ性と連鎖している領域の塩基配列(以下、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列とも称する)を検出する工程、及び、
(工程3)前記工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅されず、前記工程2において、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅された場合に、増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を、制限酵素StuIで切断し、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー(以下、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーとも称する)を検出する工程、
を含む、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法。
[2] 前記工程1において、前記非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出されるか、または、前記工程3において、前記完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出されるカキ植物体は、非完全甘ガキ性を有すると判定し、
前記工程1において、前記非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出されず、且つ、前記工程3において、前記完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出されないカキ植物体は、完全甘ガキ性を有すると判定する、[1]に記載の識別方法。
[3] 配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー。
[4] 配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、及び制限酵素StuIを含む、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット。
[5] さらに、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカーを含む、[4]に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カキ植物体が完全甘ガキ性を有するか、非完全甘ガキ性を有するかを、遺伝子により効率的に識別することができる、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキットを提供することができる。本発明の識別方法、識別マーカー及びキットにより、非完全甘ガキ親を用いた交雑育種において、完全甘ガキ植物体を効率的に選抜することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】PCNA-Fと5R3Rとで増幅される完全甘ガキ性連鎖領域と、AST-Fと5R3Rとで増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域を示した図である。
図2】実験例1において、PCNA-Fと5R3Rとで増幅される完全甘ガキ性連鎖領域と、AST-Fと5R3Rとで増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域とを、ABI 3130xlジェネティックアナライザを用いて検出した結果を示した図である。
図3】実験例2において、実験例1で得られたPCR増幅産物を、制限酵素StuIで切断して得られた反応液を、ABI 3130xlジェネティックアナライザを用いて検出した結果を示した図である。
図4】実験例3において、PCNA-Fと5R3Rとで増幅される完全甘ガキ性連鎖領域と、AST-Fと5R3Rとで増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域とを、ABI 3130xlジェネティックアナライザを用いて検出した結果を示した図である。
図5】実験例3で得られたPCR増幅産物を、制限酵素StuIで切断する前後の反応液を、ABI 3130xlジェネティックアナライザを用いて検出した結果を示した図である。左図が、制限酵素StuIで切断する前、右図が、制限酵素StuIで切断した後の検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法]
本発明のカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法は、
(工程1)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する工程、
(工程2)カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する工程、及び、
(工程3)前記工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅されず、前記工程2において、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅された場合に、増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を、制限酵素StuIで切断し、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する工程、
を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0012】
(工程1)
工程1は、カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する工程である。
【0013】
工程1において、カキ植物体としては、カキの成長した植物体であっても、未熟な植物体であってもよい。植物体としては、特に制限はなく、例えば、葉、茎、芽、花、根、果実等が挙げられる。
【0014】
カキ植物体に含まれるAST遺伝子は、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを制御している遺伝子である。完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性はAST遺伝子座により決まっており、完全甘ガキ性が劣性である。カキ栽培種は六倍体であることから、完全甘ガキは完全甘ガキ型アリル(aアリル)を六つ揃えたホモ型(aaaaaa)でなくてはならず、一つ以上の非完全甘ガキ型アリル(Aアリル)を保有する植物体(例えば、Aaaaaa、AAaaaa等)はすべて非完全甘ガキ(渋ガキ及び不完全甘ガキ)となる。
【0015】
AST遺伝子の近傍領域を、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行うことにより、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅される。非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列には多型があり、これら全ての多型は、本発明における非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列に含まれる。
【0016】
非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列としては、例えば、配列番号5~10のいずれかで表される塩基配列、配列番号5~10のいずれかで表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列等が挙げられる。ここで、複数個とは、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行うことにより増幅された非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列である限り特に限定されず、例えば、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個であってもよい。
【0017】
工程1において、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーが多少変異を含んでいても、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅することができる。したがって、工程1において、配列番号1又は2で表される塩基配列からなるプライマーにおいて、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーを用いて、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅してもよい。
【0018】
ここで、複数個とは、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅することができる限り特に限定されず、例えば2~4個であってもよく、例えば2~3個であってもよい。
【0019】
工程1において、プライマーは、増幅産物の検出を容易に行うため、蛍光物質等の物質で標識されていてもよい。このような蛍光物質としては、例えば、6-FAM、VIC、NED、PET等が挙げられる。プライマーは、必ずしもこのような物質で標識される必要はなく、例えば、ゲル電気泳動で増幅産物のサイズの差異により、増幅産物の検出を行ってもよい。
【0020】
工程1において、増幅した非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する方法としては、特に制限はなく、例えば、蛍光物質等の物質で標識されたプライマーを用いて、標識された増幅産物を検出する方法、アガロースゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等の電気泳動により、増幅産物のサイズで検出する方法等が挙げられる。増幅産物のサイズで検出する方法の場合、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列のサイズとしては、例えば、220~254bpが挙げられる。
【0021】
工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出された場合は、カキ植物体は、非完全甘ガキ性を有すると判定することができる。工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が検出されなかった場合は、次の工程2へ進む。
【0022】
(工程2)
工程2は、カキ植物体に含まれるAST遺伝子の近傍領域を、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行い、増幅される完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する工程である。
【0023】
工程2において、カキ植物体としては、前記したものが挙げられる。
【0024】
AST遺伝子の近傍領域を、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行うことにより、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅される。完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列には多型があり、これら全ての多型は、本発明における完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列に含まれる。
【0025】
完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列としては、例えば、配列番号11~17のいずれかで表される塩基配列、配列番号11~17のいずれかで表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列等が挙げられる。ここで、複数個とは、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを用いてPCR反応を行うことにより増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列である限り特に限定されず、例えば、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個であってもよい。
【0026】
工程2において、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーが多少変異を含んでいても、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅することができる。したがって、工程2において、配列番号2又は3で表される塩基配列からなるプライマーにおいて、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーを用いて、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅してもよい。ここで、複数個とは、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を増幅することができる限り特に限定されず、例えば2~4個であってもよく、例えば2~3個であってもよい。
【0027】
工程2において、プライマーは、増幅産物の検出を容易に行うため、蛍光物質等の物質で標識されていてもよい。このような蛍光物質としては、例えば、6-FAM、VIC、NED、PET等が挙げられる。プライマーは、必ずしもこのような物質で標識される必要はなく、例えば、ゲル電気泳動で増幅産物のサイズの差異により、増幅産物の検出を行ってもよい。
【0028】
工程2において、増幅した完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を検出する方法としては、特に制限はなく、例えば、蛍光物質等の物質で標識されたプライマーを用いて、標識された増幅産物を検出する方法、アガロースゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等の電気泳動により、増幅産物のサイズで検出する方法等が挙げられる。増幅産物のサイズで検出する方法の場合、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列のサイズとしては、例えば、347~355bpが挙げられる。
【0029】
前記工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅されず、前記工程2において、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅された場合は、次の工程3に進む。
【0030】
(工程3)
工程3は、工程1において、非完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅されず、工程2において、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列が増幅された場合に、増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を、制限酵素StuIで切断し、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する工程である。
【0031】
工程3において、増幅された完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列を、制限酵素StuIで切断して得られる配列番号4で表される塩基配列が多少変異を含んでいても、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーとして検出することができる。したがって、工程3において、配列番号4で表される塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーにおいて、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを用いて、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別してもよい。ここで、複数個とは、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーとして検出することができる限り特に限定されず、例えば、2~4個であってもよく、例えば2~3個であってもよい。
【0032】
工程3において、工程2において増幅される完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列は、増幅産物の検出を容易に行うため、蛍光物質等の物質で標識されていてもよい。このような蛍光物質としては、例えば、6-FAM、VIC、NED、PET等が挙げられる。プライマーは、必ずしもこのような物質で標識される必要はなく、例えば、ゲル電気泳動で増幅産物のサイズの差異により、増幅産物の検出を行ってもよい。
【0033】
工程3において、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する方法としては、特に制限はなく、例えば、蛍光物質等の物質で標識された完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを用いて、標識された完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する方法、アガロースゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等の電気泳動により、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーのサイズで検出する方法等が挙げられる。完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーのサイズで検出する方法の場合、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列のサイズとしては、例えば、183bpが挙げられる。
【0034】
工程3において、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出された場合は、カキ植物体は、非完全甘ガキ性を有すると判定し、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出されない場合は、カキ植物体は、完全甘ガキ性を有すると判定することができる。
【0035】
[完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカー]
本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーは、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーである。
【0036】
配列番号4で表される塩基配列が多少変異を含んでいても、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーとして検出することができる。したがって、本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーは、配列番号4で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーであってもよい。ここで、複数個とは、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーとして検出することができる限り特に限定されず、例えば、2~4個であってもよく、例えば2~3個であってもよい。
【0037】
完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーは、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーの検出を容易に行うため、蛍光物質等の物質で標識されていてもよい。このような蛍光物質としては、例えば、6-FAM、VIC、NED、PET等が挙げられる。完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーは、必ずしもこのような物質で標識される必要はなく、例えば、ゲル電気泳動でのサイズの差異で確認することもできる。
【0038】
完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する方法としては、特に制限はなく、例えば、蛍光物質等の物質で標識された完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを用いて、標識された完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出する方法、アガロースゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等の電気泳動により、完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーのサイズで検出する方法等が挙げられる。完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーのサイズで検出する方法の場合、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列のサイズとしては、例えば、183bpが挙げられる。
【0039】
本発明のカキ植物体の完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法の工程3において、本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出された場合は、カキ植物体は、非完全甘ガキ性を有すると判定し、本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーが検出されない場合は、カキ植物体は、完全甘ガキ性を有すると判定することができる。
【0040】
本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを有する非完全甘ガキとしては、アブラデン、甘百目、紅衣紋、紅早生、エボー、烏帽子、絵御所、Gailey、祇園坊、御所ガキ-寒河江、Harbiye、Heixinshi(Hei-xin-shi)、宝生丸、Huo-shi、市田柿、一両、稲佐、甘草、甲州丸、国富、黒熊、水島、岡山晩御所、Rojo Brillante、渋妙丹、新蜂屋、Shogatsu-Italy、東洋一、Triumph、月夜、Umurbey、八つ寺、吉田御所、四谷、四ツ溝、禅寺丸等が挙げられる。従って、これらの非完全甘ガキと、完全甘ガキとの交配種において、本発明の完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを検出することにより、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別を効率的に行うことができる。
【0041】
[カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキット]
本発明のカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキットは、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマーとを含むプライマーセット、及び制限酵素StuIを含む。本発明のキットは、本発明のカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法に用いることができる。
【0042】
本発明のキットは、上述したプライマーセット、及び制限酵素StuIのほか、配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなる完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーを含んでいてもよい。ここで、複数個とは、前記した通りである。
本発明のキットにおいて、前記完全甘ガキ性・非完全甘ガキ性識別マーカーは、陽性コントロールとして用いることができる。また、本発明のキットは、PCR反応を行うための、DNAポリメラーゼ、緩衝液、陰性コントロール、DNA抽出試薬等を含んでいてもよい。
【実施例
【0043】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実験例1]
(1)DNA抽出
完全甘ガキである富有と、非完全甘ガキである吉田御所との交配種の約1.0cmの葉を液体窒素で凍結後、-20℃で保存したものを試料として用いた。試料を液体窒素で冷却した状態で粉砕し、500μLの前処理バッファー(0.1M HEPES-NaOH(pH8.0)、0.1%(w/v)soluble polyvinylpyrrolidone、10mM ジチオスレイトール)を加えてボルテックスでよく撹拌した。ジチオスレイトールは、使用直前に添加した。20,000×g、4℃で5分間遠心分離した後、上清を捨て、得られた沈殿物を、前処理バッファー1mLを用いて溶解し、20,000×g、4℃で、3分間遠心分離し、上清を捨てた。この操作を計3回繰り返した後、得られた沈殿物について、DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)に添付のプロトコルに従って、DNAを抽出した。DNA濃度の測定にはQubit 3.0 fluorometer(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。
【0045】
(2)PCR反応
PCR反応は、以下の条件でマルチプレックスPCR反応により行なった。
(PCR反応液10μLの組成)
・5μLの2×KOD FX neoバッファー(TOYOBO社製)
・dNTPs(終濃度0.4mM)
・FAM-AST-F(AST-Fは配列番号1で表される塩基配列からなるフォワードプライマー:終濃度0.4μM)
・HEX-PCNA-F(PCNA-Fは配列番号3で表される塩基配列からなるフォワードプライマー:終濃度0.2μM)
・5R3R(5R3Rは配列番号2で表される塩基配列からなるリバースプライマー:終濃度0.6μM)
・(1)で得られた10~20ngの抽出DNA
【0046】
(PCRサイクル条件)
94℃で2分、98℃で10秒-55℃で30秒-68℃で30秒(30サイクル)、68℃で7分
【0047】
図1に、PCNA-Fと5R3Rとで増幅される完全甘ガキ性連鎖領域と、AST-Fと5R3Rとで増幅される非完全甘ガキ性連鎖領域を示す。
【0048】
上記PCR反応で増幅したPCR増幅産物を、ABI 3130xlジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて解析した。DNAのサイズはGeneScan 500 ROX Dyeサイズスタンダード(Thermo Fisher Scientific社製)を元にGeneMapper ver.5.0ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて計算した。その結果を図2に示す。
図2に示したように、652-03、652-04、652-05、652-06及び652-07の全ての交配種において、完全甘ガキ性連鎖領域のピークである、347~355bpのピークが検出された。このうち、652-03及び652-7は完全甘ガキであったが、652-04、652-05及び652-06は非完全甘ガキであり、347~355bpのピークのみの検出では、完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別はできなかった。
【0049】
[実験例2]
実験例1で得られたPCR増幅産物の5μLを、制限酵素処理反応液(1μLの10X CutSmartバッファー(NEB社製)、制限酵素StuI(終濃度0.5U/μL))10μLに添加し、37℃で2時間インキュベートし、PCR増幅産物を制限酵素StuIで切断した。得られた反応液を、実験例1と同様にABI 3130xlジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて解析した。その結果を、図3に示す。
【0050】
図3に示したように、交配種のうち、652-03及び652-07においては、183bpのピークが検出されなかったが、652-04、652-05及び652-06には、183bpのピークが検出された。183bpのピークが検出されなかった652-03及び652-07は、完全甘ガキであり、183bpのピークが検出された652-04、652-05及び652-06は、非完全甘ガキであった。この結果、完全甘ガキ性連鎖領域塩基配列のPCR増幅産物を制限酵素StuIで切断して得らえた183bpのピークの検出の有無により、完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性を識別できることが明らかとなった。
【0051】
[実験例3]
試料として、完全甘ガキである富有と、非完全甘ガキである吉田御所との交配種の代わりに、交配種の親である、富有と吉田御所を用いる以外は、実験例1及び実験例2と同様に行い、PCR増幅産物及び制限酵素StuIで切断した反応液を、ABI 3130xlジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて解析した。その結果を図4及び図5に示す。図4に示したように、完全甘ガキである富有は、183bpのピークが検出されなかったが、非完全甘ガキである吉田御所は、183bpのピークが検出された。この結果、183bpが検出されるカキは、非完全甘ガキであり、183bpのピークが検出されなかったカキは、完全甘ガキであると識別できることが確認された。
また、図5に示すように、制限酵素StuIで切断する前(左図)は、完全甘ガキである富有には、352.5bpのピークは検出されなかったが、非完全甘ガキである吉田御所には、352.5bpのピークが検出された。吉田御所において制限酵素StuIで切断する前に検出された352.5bpのピークは、制限酵素StuIで切断した後(右図)では検出されなかった。この結果から、吉田御所で検出された352.5bpの増幅産物が、StuIにより切断され、183bpのピークが生成することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、カキ植物体が完全甘ガキ性を有するか、非完全甘ガキ性を有するかを、遺伝子により効率的に識別することができる、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別する識別方法、カキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性との識別マーカー、及びカキの完全甘ガキ性と非完全甘ガキ性とを識別するためのキットを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
0007184378000001.app