(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20221129BHJP
B23K 26/55 20140101ALI20221129BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 V
B23K26/55
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2018121825
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】武田 昇
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/064409(WO,A1)
【文献】特開2014-221483(JP,A)
【文献】特開2011-056544(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020145(WO,A1)
【文献】特開2017-208445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/55
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハを分割予定ラインに沿って複数のチップに分割するウェーハの加工方法であって、
該ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザービームを、該パルスレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質領域とからなるシールドトンネルを該分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成ステップと、
該ウェーハに外力を付与して、該シールドトンネルが形成された該ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割するウェーハ分割ステップと、を含み、
該パルスレーザービームは、該分割予定ラインに対して平行な方向に沿う2以上の該集光点を有し、
該パルスレーザービームは、光学系を備えるレーザー加工ユニットから照射され、
該光学系は、角度を変更することによって2以上の該集光点間の距離を調節可能なミラーを備え、
該集光点間の距離は3μm未満であることを特徴とするウェーハの加工方法。
【請求項2】
ウェーハを分割予定ラインに沿って複数のチップに分割するウェーハの加工方法であって、
該ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザービームを、該パルスレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質領域とからなるシールドトンネルを該分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成ステップと、
該ウェーハに外力を付与して、該シールドトンネルが形成された該ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割するウェーハ分割ステップと、を含み、
該パルスレーザービームは、該分割予定ラインに対して平行な方向に沿う2以上の該集光点を有し、
該パルスレーザービームは、光学系を備えるレーザー加工ユニットから照射され、
該光学系は、位置を調整することによって該パルスレーザービームが2以上の該集光点で集光する時間の差を制御可能なミラーを備え、
該集光点間の距離は3μm未満であることを特徴とするウェーハの加工方法。
【請求項3】
該パルスレーザービームは、回折光学素子によって分岐されることを特徴とする請求項1
又は2に記載のウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを分割予定ラインに沿って分割する際に用いられるウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスチップの製造工程においては、分割予定ラインによって区画された領域にIC、LSI等のデバイスを備える半導体ウェーハが形成される。この半導体ウェーハを分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数の半導体デバイスチップが得られる。同様に、LED等の光デバイスが形成された光デバイスウェーハを分割することにより、光デバイスチップが製造される。
【0003】
上記の半導体ウェーハや光デバイスウェーハなどに代表されるウェーハの分割には、例えばウェーハにレーザービームを照射するレーザー加工装置が用いられる。特許文献1には、レーザービームの照射によってウェーハの内部に改質層を形成する手法が開示されている。改質層が形成された領域はウェーハの他の領域よりも脆くなるため、このウェーハに外力を付与すると改質層を起点としてウェーハが分割される。
【0004】
上記の手法を用いて例えば厚さが300μm程度のウェーハを分割する場合には、外力の付与によって適切にウェーハを分割するために、ウェーハの内部に改質層を数段重ねて形成する。そのため、分割予定ラインに沿って複数回のレーザービームの走査を行う必要があり、ウェーハの加工効率が低下する。
【0005】
そこで、ウェーハを透過する波長のレーザービームを照射することにより、シールドトンネルと称されるフィラメント状の領域をウェーハに形成する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このシールドトンネルは、ウェーハの厚さ方向に沿う細孔と、該細孔を囲繞する非晶質領域から構成される。シールドトンネルが形成された領域はウェーハの他の領域と比較して脆くなるため、シールドトンネルはウェーハの分割起点として機能する。
【0006】
上記のシールドトンネルを形成するためには、レーザービームを分割予定ラインに沿って1回走査すればよく、これによってウェーハの厚さ方向の広範囲に渡ってシールドトンネルが形成される。そのため、前述の改質層を形成する手法と比較してレーザービームの照射工程を簡略化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-192370号公報
【文献】特開2014-168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウェーハの分割予定ラインに沿ってシールドトンネルを形成した後、ウェーハに外力を付与すると、ウェーハはシールドトンネルを起点として分割される。しかしながら、シールドトンネルを分割起点とする場合、ウェーハの分割には比較的大きな外力の付与が必要となることが問題となっている。ウェーハに大きな外力が付与されると、ウェーハの分割時にチッピングやクラックなどの加工不良が発生しやすくなり、チップの生産性が低下する。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、ウェーハの分割に要する外力を低減し、加工不良の発生を抑制することが可能なウェーハの加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、ウェーハを分割予定ラインに沿って複数のチップに分割するウェーハの加工方法であって、該ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザービームを、該パルスレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質領域とからなるシールドトンネルを該分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成ステップと、該ウェーハに外力を付与して、該シールドトンネルが形成された該ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割するウェーハ分割ステップと、を含み、該パルスレーザービームは、該分割予定ラインに対して平行な方向に沿う2以上の該集光点を有し、該パルスレーザービームは、光学系を備えるレーザー加工ユニットから照射され、該光学系は、角度を変更することによって2以上の該集光点間の距離を調節可能なミラーを備え、該集光点間の距離は3μm未満であるウェーハの加工方法が提供される。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、ウェーハを分割予定ラインに沿って複数のチップに分割するウェーハの加工方法であって、該ウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザービームを、該パルスレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質領域とからなるシールドトンネルを該分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成ステップと、該ウェーハに外力を付与して、該シールドトンネルが形成された該ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割するウェーハ分割ステップと、を含み、該パルスレーザービームは、該分割予定ラインに対して平行な方向に沿う2以上の該集光点を有し、該パルスレーザービームは、光学系を備えるレーザー加工ユニットから照射され、該光学系は、位置を調整することによって該パルスレーザービームが2以上の該集光点で集光する時間の差を制御可能なミラーを備え、該集光点間の距離は3μm未満であるウェーハの加工方法が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様において、該パルスレーザービームは、回折光学素子によって分岐されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法は、2以上の集光点を有するパルスレーザービーム、又は楕円形のビームスポットを有するパルスレーザービームを分割予定ラインに沿って照射することにより、ウェーハにシールドトンネルを形成する。これにより、ウェーハの分割に要する外力を低減し、加工不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図6】
図6(A)はウェーハにパルスレーザービームが照射される様子を示す一部断面側面図であり、
図6(B)はウェーハにシールドトンネルが形成される様子を示す一部断面側面図であり、
図6(C)はシールドトンネルを模式的に示す斜視図である。
【
図7】集光点間の距離と分割強度との関係を示すグラフである。
【
図8】遅延時間と分割強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に係るウェーハの加工方法によって加工可能なウェーハの構成例について説明する。
図1はウェーハ11を示す斜視図である。ウェーハ11は円盤状に形成されており、表面11a及び裏面11bを備える。
【0016】
ウェーハ11は、互いに交差するように格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)13によって複数の領域に区画されており、この複数の領域の表面11a側にはそれぞれIC、LSI等で構成されるデバイス15が形成されている。分割予定ライン13に沿ってウェーハ11を分割することにより、デバイス15をそれぞれ含む複数のチップが得られる。
【0017】
なお、ウェーハ11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハ11は、半導体(シリコン、GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料によって形成できる。また、デバイス15の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。
【0018】
ウェーハ11を環状フレームで支持することにより、フレームユニットが構成される。
図2はフレームユニット21を示す斜視図である。
図2に示すように、ウェーハ11の裏面11b側は、樹脂等の材料でなりウェーハ11よりも径の大きい円形のテープ17の中央部に貼付される。また、テープ17の外周部は、中央部に円形の開口19aを備える環状フレーム19に貼付される。これにより、テープ17を介して環状フレーム19に支持されたウェーハ11を備えるフレームユニット21が構成される。
【0019】
本実施形態においては、分割予定ライン13に沿ってレーザービームを照射することによってウェーハ11に分割起点を形成する。この分割起点は、後の工程でウェーハ11に外力が付与された際にウェーハ11が分割される起点(きっかけ)となる領域である。ウェーハ11へのレーザービームの照射は、レーザー加工装置を用いて行う。
【0020】
図3は、レーザー加工装置2を示す斜視図である。レーザー加工装置2は、ウェーハ11を保持するチャックテーブル4と、チャックテーブル4によって保持されたウェーハ11にレーザービームを照射するレーザー加工ユニット6とを備える。
【0021】
チャックテーブル4は、テープ17を介してウェーハ11を吸引保持する。具体的には、チャックテーブル4の上面がウェーハ11を保持する保持面を構成しており、この保持面はチャックテーブル4の内部に形成された吸引路(不図示)を通じて吸引源(不図示)と接続されている。
【0022】
チャックテーブル4の周囲には、環状フレーム19を把持して固定する複数のクランプ(不図示)が設けられている。また、チャックテーブル4は、チャックテーブル4の下部側に設けられた移動機構(不図示)及び回転機構(不図示)と連結されている。チャックテーブル4は、移動機構によってX軸方向(加工送り方向)及びY軸方向(割り出し送り方向)に移動し、回転機構によってZ軸方向(鉛直方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。
【0023】
ウェーハ11は、表面11aが上方に露出するように、テープ17を介してチャックテーブル4の保持面によって支持される。また、チャックテーブル4の周囲に備えられたクランプによって環状フレーム19が固定される。この状態でチャックテーブル4の保持面に吸引源の負圧を作用させると、ウェーハ11がチャックテーブル4によって吸引保持される。
【0024】
チャックテーブル4の上方には、レーザー加工ユニット6が配置されている。レーザー加工ユニット6は、ウェーハ11に対して透過性を有する波長のパルスレーザービーム(少なくとも一部がウェーハ11を透過する波長のパルスレーザービーム)を所定の位置で集光させるように構成されている。また、レーザー加工ユニット6の側方には、被加工物11等を撮像するための撮像ユニット8が配置されている。この撮像ユニット8によって取得される画像に基づいてチャックテーブル4及びレーザー加工ユニット6の位置が制御され、ウェーハ11に対するレーザービームの照射位置が調節される。
【0025】
本実施形態では、レーザー加工ユニット6からウェーハ11にパルスレーザービームを照射することにより、シールドトンネルと称されるフィラメント状の領域を分割予定ライン13に沿って形成する。このシールドトンネルは、ウェーハ11の厚さ方向に沿う細孔と、該細孔を囲繞する非晶質領域から構成される。
【0026】
シールドトンネルが形成された領域はウェーハ11の他の領域と比較して脆くなるため、シールドトンネルはウェーハの分割起点として機能する。そして、シールドトンネルが分割予定ライン13に沿って形成されたウェーハ11に外力を付与することにより、ウェーハ11がデバイス15をそれぞれ含む複数のチップに分割される。
【0027】
シールドトンネルは、ウェーハ11に対して透過性を有する波長のパルスレーザービームを、その集光点をウェーハ11の内部に位置付けて照射することによって形成される。しかしながら、パルスレーザービームを一箇所に集光させてシールドトンネルを形成した場合、後の工程でウェーハ11を分割する際に比較的大きな外力の付与が必要となることが分かっている。分割時にウェーハ11に大きな外力が付加されると、チッピングやクラックなどの加工不良が発生しやすくなり、チップの生産性が低下する。
【0028】
この問題について本発明者が鋭意研究に努めた結果、2以上の集光点を有するパルスレーザービームをウェーハ11に照射してシールドトンネルを形成すると、ウェーハ11の分割に要する外力を低減できることが分かった。この現象は、2以上の集光点を有するパルスレーザービームによってシールドトンネルを形成すると、ウェーハ11の残留応力が大きくなり、これによってウェーハ11が分割されやすくなることに起因していると推察される。
【0029】
そこで本実施形態では、2以上の集光点を有するパルスレーザービームをウェーハ11の分割予定ライン13に沿って照射することにより、ウェーハ11にシールドトンネルを形成する。これにより、ウェーハ11の分割に要する外力を低減し、加工不良の発生を抑制できる。
【0030】
2以上の集光点を有するパルスレーザービームは、レーザー加工ユニット6によって生成され、ウェーハ11に照射される。
図4は、レーザー加工ユニット6に用いることが可能な光学系10を示す模式図である。
【0031】
光学系10は、レーザービームをパルス発振するレーザー発振器12を備える。レーザー発振器12としては、例えばYAGレーザー、YVO4レーザー、YLFレーザー等を用いることができる。レーザー発振器12によってパルス発振されたレーザービームは、ミラー14で反射して回折光学素子(DOE)16に入射し、回折光学素子16によって2つに分岐される。その後、パルスレーザービームは集光レンズ18によって所定の位置に集光される。
【0032】
上記の光学系10によって、2つの集光点を有するパルスレーザービームが生成される。なお、ここでは2つの集光点を有するパルスレーザービームが生成される場合について説明したが、レーザー加工ユニット6は3つ以上の集光点を有するパルスレーザービームを生成するように構成されていてもよい。
【0033】
また、
図4では回折光学素子16によってパルスレーザービームを分岐させる光学系10を示したが、例えば、偏光ビームスプリッタ(PBS)によってパルスレーザービームを分岐させてもよい。
図5は、偏光ビームスプリッタを備えた光学系20を示す模式図である。
【0034】
光学系20は、レーザー発振器12(
図4参照)と同様の構成及び機能を有するレーザー発振器22を備える。レーザー発振器22からパルス発振されたレーザービームは、角度が可変のλ/2板24によってその偏光方位が制御された後、偏光ビームスプリッタ26に入射する。そして、パルスレーザービームは、偏光ビームスプリッタ26を透過するP偏光のレーザービームLB1と、偏光ビームスプリッタ26で反射するS偏光のパルスレーザービームLB2とに分岐する。
【0035】
偏光ビームスプリッタ26を透過したレーザービームLB1は、λ/4板28を通過してミラー30で反射した後、再度λ/4板28を通過して偏光ビームスプリッタ26に入射する。これにより、レーザービームLB1の偏光面が90°回転し、レーザービームLB1は偏光ビームスプリッタ26で反射する。
【0036】
なお、ミラー30は、偏光ビームスプリッタ26に対して接近、離隔する方向に移動可能となっている。このミラー30の位置を変更することにより、レーザービームLB1の光路長を調整できる。
【0037】
偏光ビームスプリッタ26で反射したレーザービームLB1は、ミラー32及びミラー34で反射した後、λ/2板36に入射する。これにより、レーザービームLB1の偏光面が90°回転する。その後、レーザービームLB1はミラー38で反射し、偏光ビームスプリッタ40を透過する。
【0038】
一方、偏光ビームスプリッタ26で反射したレーザービームLB2は、ミラー42,44,46,48で反射した後、偏光ビームスプリッタ40で反射する。そして、偏光ビームスプリッタ40を透過したレーザービームLB1と、偏光ビームスプリッタ40で反射したレーザービームLB2とはそれぞれ、レンズ50及びレンズ52を通過してミラー54で反射した後、対物レンズ56によって所定の位置で集光される。なお、レンズ50及びレンズ52によって、レーザービームLB1及びレーザービームLB2が対物レンズ56に入射する位置及び角度が調整される。
【0039】
このように、光学系20を用いることによって2つの集光点を有するパルスレーザービームを生成できる。なお、ミラー38は反射面の角度を変更可能となっており、ミラー38の角度を変更することによって2つの集光点間の距離を調節できる。また、ミラー30の位置を調整してレーザービームLB1の光路長を変化させることにより、レーザービームLB1とレーザービームLB2とが集光点で集光する時間の差(遅延時間)を制御できる。
【0040】
なお、上記では回折光学素子や偏光ビームスプリッタを用いてパルスレーザービームを分岐させる例を説明したが、パルスレーザービームの分岐が可能であればレーザー加工ユニット6に用いられる光学系の構成に制限はない。例えば、空間光位相変調器や複屈折素子などを用いてパルスレーザービームを分岐させてもよい。
【0041】
上記のレーザー加工ユニット6を用いて、チャックテーブル4によって吸引保持されたウェーハ11に2以上の集光点を有するパルスレーザービームを照射し、ウェーハ11にシールドトンネルを形成する。ウェーハ11にシールドトンネルを形成する方法の具体例を
図6を参照して説明する。
【0042】
まず、表面11aが上方に露出するようにウェーハ11をチャックテーブル4によって吸引保持し、ウェーハ11がレーザー加工ユニット6の下に位置付けられるようにチャックテーブル4を移動させる。そして、撮像ユニット8(
図3参照)によって取得された画像に基づいてチャックテーブル4とレーザー加工ユニット6との位置合わせを行い、ウェーハ11に対するパルスレーザービームの照射位置を調整する。
【0043】
次に、レーザー加工ユニット6からウェーハ11に向かって、ウェーハ11に対して透過性を有する波長のパルスレーザービーム60を照射する。
図6(A)は、ウェーハ11にパルスレーザービーム60が照射される様子を示す一部断面側面図である。
【0044】
パルスレーザービーム60は2つの集光点60a,60bを有し、集光点60a,60bがそれぞれウェーハ11の内部の異なる地点に位置付けられるように照射される。
図6(A)では、集光点60a,60bが概ねウェーハ11の表面11aと裏面11bとの中間に位置付けられた状態を示している。なお、パルスレーザービーム60の集光点の数は3以上であってもよい。
【0045】
そして、パルスレーザービーム60がウェーハ11の分割予定ライン13(
図1参照)に沿って照射されるように、チャックテーブル4を分割予定ライン13の長さ方向(加工送り方向)に沿って移動させる。これにより、チャックテーブル4とレーザー加工ユニット6とが加工送り方向に沿って相対的に移動し、パルスレーザービーム60が分割予定ライン13に沿って照射される。
【0046】
なお、パルスレーザービーム60は、集光点60a,60bが加工送り方向(パルスレーザービーム60が照射される分割予定ライン13の長さ方向)に対して平行な方向に沿って配置されるように照射される。集光点60a,60b間の距離は、例えば0μmより大きく且つ3μm未満、好ましくは0.5μm以上2μm以下とすることができる。また、パルスレーザービーム60が2つの集光点60a,60bに照射される時間の差(パルスレーザービーム60の遅延時間)は、例えば33ps未満、好ましくは16ps以下とすることができる。
【0047】
パルスレーザービーム60を分割予定ライン13に沿って照射すると、ウェーハ11には分割予定ライン13に沿って複数のシールドトンネルが形成される(シールドトンネル形成ステップ)。
図6(B)は、ウェーハ11にシールドトンネル31が形成される様子を示す一部断面側面図である。
【0048】
シールドトンネル31は、集光点60a,60bが位置付けられた地点からウェーハ11の表面11a側及び裏面11b側に向かってフィラメント状に形成される。
図6(B)には、シールドトンネル31がウェーハ11の表面11aから裏面11bに渡って厚さ方向全域に形成されている例を示す。
【0049】
図6(C)は、シールドトンネル31を模式的に示す斜視図である。シールドトンネル31は、ウェーハ11の厚さ方向に沿って形成された細孔33と、細孔33を囲繞する非晶質領域35とによって構成される。なお、例えば細孔33の直径は1μm未満程度、非晶質領域35の直径は5μm程度であり、隣接するシールドトンネル31の非晶質領域35は互いに結合していてもよい。
【0050】
その後、他の分割予定ライン13に対しても同様にパルスレーザービーム60を照射する。そして、ウェーハ11に含まれる全ての分割予定ライン13に沿ってパルスレーザービーム60が照射されると、シールドトンネル31の形成工程が完了する。
【0051】
シールドトンネル31が形成された領域はウェーハ11の他の領域よりも脆くなるため、シールドトンネル31はウェーハ11の分割起点として機能する。よって、分割予定ライン13に沿ってシールドトンネル31が形成されたウェーハ11に外力を付与することにより、ウェーハ11を複数のチップに分割できる(ウェーハ分割ステップ)。
【0052】
このシールドトンネル31は、分割予定ライン13に沿ってパルスレーザービーム60を1回走査することによって形成できる。そのため、ウェーハ11の内部に改質層を複数段重ねて形成する方法等を用いる場合と比較してレーザービームの照射工程を簡略化でき、ウェーハ11の加工効率の向上を図ることができる。
【0053】
また、上記のように2つ以上の集光点を有するパルスパルスレーザービーム60を照射してシールドトンネル31を形成すると、パルスレーザービームを一箇所に集光させる場合と比較して、ウェーハ11の分割に要する外力の大きさが低減される。そのため、本実施形態に係るウェーハ11の加工方法を用いることにより、分割時にウェーハ11に付与される外力を低減できる。これにより、チッピングやクラックなどの加工不良の発生を抑え、チップの歩留まりを向上させることが可能となる。
【0054】
次に、本実施形態に係るウェーハの加工方法を用いてシールドトンネルを形成したウェーハの評価結果について説明する。本評価では、2つの集光点を持つパルスレーザービームを照射することによってウェーハにシールドトンネルを形成した後、外力を付与してウェーハを分割し、そのときの外力の大きさを測定した。
【0055】
評価には、長さ100mm、幅25mm、厚さ0.3mmのホウケイ酸ガラスでなるウェーハを用いた。また、2つの集光点を有するパルスレーザービームは、レーザー発振器からパルス発振されたレーザービームを2つに分岐させることにより生成した。
【0056】
上記のウェーハに対して2つの集光点を有するパルスレーザービームを照射しながら加工送りをすることにより、分割予定ラインに沿ってシールドトンネルが形成されたウェーハを得た。なお、パルスレーザービームは、ウェーハの深さ方向の概ね中間地点に集光させ、2つの集光点が加工送り方向と平行な方向に沿って配列されるように位置付けた。また、レーザービームの照射条件を以下のように設定した。
光源 :YAGパルスレーザー
波長 :1064nm
エネルギー :40μJ(分岐前)
繰り返し周波数 :10kHz
加工送り速度 :100mm/s
【0057】
上記のシールドトンネルの形成には、2つの集光点間の距離Dが異なる5種類のパルスレーザービームを用いた。集光点間の距離Dはそれぞれ、0μm(2つの集光点の位置が同一)、0.5μm、1.0μm、2.0μm、3.0μmとした。そして、各パルスレーザービームを用いてそれぞれ10枚のウェーハにシールドトンネルを形成し、シールドトンネルが形成された計50枚のウェーハを得た。
【0058】
その後、外力を付与することによってウェーハをそれぞれ分割し、分割の際にウェーハに付加した外力(分割強度)を測定した。
図7は、集光点間の距離Dと分割強度との関係を示すグラフである。なお、
図7には、分割強度の平均値を示す丸印と、分割強度の誤差範囲を表すエラーバーとを示している。
【0059】
図7に示すように、2つの集光点をウェーハ内部の異なる地点に位置付けた場合(D>0μm)、2つの集光点の位置が同一(D=0μm)である場合と比較して分割強度が低下した。これより、パルスレーザービームを分岐してウェーハ内部の異なる地点で集光させることにより、ウェーハの分割に要する外力を低減できることが分かった。
【0060】
ただし、D=3.0μmに達すると分割強度がD=0μmの場合と同程度の値まで増加した。よって、パルスレーザービームの集光点間の距離は、0μmより大きく且つ3μm未満とすることが好ましい。一方、D=0.5μm、1.0μm、2.0μmの場合は、D=0μmの場合と比較して分割強度が低く抑えられていることが分かる。そのため、パルスレーザービームの集光点間の距離は、0.5μm以上2μm以下とすることがより好ましい。
【0061】
なお、分割強度はD=1.0μmである場合に特に低減された。また、D=1.0μmとした場合、パルスレーザービーム照射後のウェーハには平面視で楕円形の加工痕が観察された。そのため、D=1.0μmに設定すると、2つの集光点が繋がってパルスレーザービームの進行方向に垂直な断面における形状が楕円形であるビームスポットが形成されると考えられる。そして、このようなパルスレーザービームがウェーハに照射されると、分割強度が大幅に低減されることが確認された。
【0062】
次に、レーザービームが2つの集光点に照射される時間の差(遅延時間T)による影響を評価した。評価には、遅延時間Tが0ps(同時照射)、2ps、4ps、8ps、16ps、33psである6種類のパルスレーザービームを用いた。なお、2つの集光点間の距離は1μmに統一し、遅延時間Tの調節は
図5に示す光学系20を用いて行った。そして、各パルスレーザービームを用いてそれぞれ10枚のウェーハにシールドトンネルを形成し、シールドトンネルが形成された計60枚のウェーハを得た。
【0063】
その後、外力を付与することによってウェーハをそれぞれ分割し、分割強度を測定した。
図8は、遅延時間Tと分割強度との関係を示すグラフである。なお、
図8には、分割強度の平均値を示す丸印と、分割強度の誤差範囲を表すエラーバーとを示している。また、
図8には参考例として、遅延時間Tが1minの場合の分割強度も示している。
【0064】
図8に示すように、遅延時間Tが33psに達すると、同時照射(T=0ps)の場合よりも分割強度が大きくなることが分かる。これは、一方の集光点にレーザービームが照射された後に一定以上の時間が経過すると、レーザービームの照射領域周辺が改質され、その後に他方の集光点に照射されたレーザービームによる加工が阻害されやすくなったためと推察される。そのため、遅延時間Tは33ps未満とすることが好ましい。
【0065】
一方、レーザービームの照射に遅延があっても(T>0ps)、その値が16ps以下であれば、分割強度が同時照射(T=0ps)の場合と同等以下に抑えられている。そのため、遅延時間Tは16ps以下とすることがより好ましい。
【0066】
以上の結果より、2つの集光点間の距離が所定の値に設定されたパルスレーザービームの照射によってシールドトンネルを形成することにより、ウェーハの分割に要する外力を低減できることが確認された。
【0067】
なお、本実施形態では2以上の集光点を有するパルスレーザービームを用いる場合について説明したが、レーザービームの進行方向に垂直な断面における形状が楕円形であるビームスポットを有するパルスレーザービームを用いても、同様の効果が得られることが予想される。楕円形のビームスポットを有するパルスレーザービームを用いる場合は、ビームスポットの長軸方向が加工送り方向(パルスレーザービームが照射される分割予定ラインの長さ方向)に対して平行な方向に沿うようにパルスレーザービームをウェーハに照射して、シールドトンネルを形成する。
【0068】
なお、ビームスポットの寸法は、分割予定ライン13の寸法などに応じて適宜設定できる。また、ビームスポットの短軸の長さは、例えば長軸の長さの1/5以上1/2以下とすることができる。なお、楕円形のビームスポットを有するパルスレーザービームの形成方法に制限はなく、例えばシリンドリカルレンズなどを用いて形成できる。
【0069】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0070】
11 ウェーハ
11a 表面
11b 裏面
13 分割予定ライン
15 デバイス
17 テープ
19 環状フレーム
19a 開口
21 フレームユニット
31 シールドトンネル
33 細孔
35 非晶質領域
2 レーザー加工装置
4 チャックテーブル
6 レーザー加工ユニット
8 撮像ユニット
10 光学系
12 レーザー発振器
14 ミラー
16 回折光学素子
18 集光レンズ
20 光学系
22 レーザー発振器
24 λ/2板
26 偏光ビームスプリッタ
28 λ/4板
30 ミラー
32 ミラー
34 ミラー
36 λ/2板
38 ミラー
40 偏光ビームスプリッタ
42 ミラー
44 ミラー
46 ミラー
48 ミラー
50 レンズ
52 レンズ
54 ミラー
56 集光レンズ
60 パルスレーザービーム
60a,60b 集光点