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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】環状の砥石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20221129BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20221129BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20221129BHJP
   B24D 5/12 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221129BHJP
   B24D 3/10 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
B24D3/00 340
B24D3/06 B
B24D3/00 310Z
B24D5/00 P
B24D5/12 Z
H01L21/78 F
B24D3/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019055539
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151835
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】片山 壮一
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168655(JP,A)
【文献】特開2017-087353(JP,A)
【文献】特開2002-166370(JP,A)
【文献】特開平09-070759(JP,A)
【文献】特開昭60-080562(JP,A)
【文献】特開2013-018099(JP,A)
【文献】特開平06-088285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 ー 99/00
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に貫通孔を有する砥石部を備え、
該砥石部は、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が該貫通孔の貫通方向に沿って交互に積層され、両面が該第1の層で構成される計3層以上の積層構造を含む環状の砥石の製造方法であって、
砥粒が混入されたニッケルめっき液と、該多孔質構造の形成に寄与する添加剤と、が収容されためっき浴槽を準備するめっき浴槽準備工程と、
ニッケル電極と、一部が環状に露出された基台と、を該めっき浴槽に浸漬する浸漬工程と、
該基台を陰極とし、該ニッケル電極を陽極として該ニッケルめっき液に直流電流を流すことで、該基台の環状に露出された表面にニッケルを含む結合材で固定された該砥粒を含むめっき層を堆積させるめっき層形成工程と、を備え、
該めっき層形成工程では、該直流電流の電流密度を所定値未満の電流密度と、該所定値以上の電流密度と、に交互に変えることで、該第1の層と、該第2の層と、を交互に積層させ、最外層が該第2の層で構成された該めっき層を形成し、
該めっき層形成工程の後、該めっき層の該最外層を撮像し、該最外層を構成する第2の層が有する多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する気孔率検査工程と、
該気孔率検査工程の後、該めっき層の該最外層を除去し、該最外層が除去されためっき層で構成される該砥石部を形成する砥石部形成工程と、
該めっき層形成工程の後、該基台の全部又は一部を除去して該めっき層の該基台で覆われていた領域の全部又は一部を露出させる基台除去工程と、
をさらに備えることを特徴とする環状の砥石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の環状の砥石の製造方法であって、
該基台除去工程では、該基台の全部を除去し、
該砥石部のみからなる環状の砥石を製造することを特徴とする請求項1に記載の環状の砥石の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の環状の砥石の製造方法であって、
該基台除去工程では、該基台の一部を除去し、
該砥石部及び該基台で構成される該環状の砥石を製造することを特徴とする請求項1に記載の環状の砥石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置に装着される環状の砥石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップは、例えば、半導体を含む円板状のウェーハが切断されることで形成される。例えば、交差する複数の分割予定ラインをウェーハの表面に設定し、分割予定ラインで区画された各領域に該半導体を含むIC(Integrated Circuit)等のデバイスを形成する。そして、ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割すると個々のデバイスチップが形成される。
【0003】
近年、電子機器の小型化・薄型化に伴い、該電子機器に搭載されるデバイスチップに対しても小型化・薄型化への要求が高まっている。薄型のデバイスチップを形成するには、例えば、ウェーハの表面に複数のデバイスを形成した後、ウェーハの裏面を研削して該ウェーハを所定の厚みに薄化し、その後、分割予定ラインに沿ってウェーハを分割する。
【0004】
ウェーハの分割には、環状の砥石(切削ブレード)を備えた切削装置が使用される。切削装置では、ウェーハ等の被加工物に垂直な面内に環状の砥石を回転させながら該環状の砥石を該被加工物に切り込ませる。該環状の砥石は、砥粒と、該砥粒が分散された結合材と、を有し、結合材から適度に露出した砥粒が被加工物に接触することで被加工物が切削される(特許文献1参照)。
【0005】
被加工物の切削加工を進めると砥粒が結合材から脱落するが、刃先が消耗して次々に該結合材から新たな砥粒が露出される。この作用は自生発刃と呼ばれており、該自生発刃の作用により該環状の砥石の切削能力は一定以上に保たれる。
【0006】
ところで、LED(Light Emitting Diode)等の光デバイスでは、機械的・熱的特性が優れ、化学的にも安定なサファイア基板が使用される。サファイア基板に複数の光デバイスを形成し、該光デバイス毎にサファイア基板を分割すると、光デバイスチップを形成できる。しかし、サファイア基板は硬度が非常に高い難削材と呼ばれる素材である。
【0007】
難削材の切削には、例えば、環状の基台の外周縁に電解めっき等の方法で砥石部が電着されたハブタイプと呼ばれる環状の砥石が使用される。より具体的には、該環状の砥石は、例えば、ダイヤモンド等の砥粒を分散させたニッケル層等の結合材をアルミニウム基台に電着して形成された環状の砥石である。なお、電解めっきで形成される環状の砥石は、電着砥石とも呼ばれる。
【0008】
ニッケル層を結合材とする電着砥石では結合材に砥粒が強く固定されるため、該電着砥石では自生発刃が生じにくく、砥石の切削能力を十分に維持できないとの問題があった。そこで、自生発刃の作用を容易に発現させるために、多孔質構造の結合材を備える環状の砥石が開発された(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-87282号公報
【文献】特開2016-168655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
結合材が多孔質構造である環状の砥石で被加工物を切削すると、結合材が消耗して自生発刃が適度に生じ、該環状の砥石の切削能力が一定以上に保たれる。しかし、該環状の砥石の側面も摩耗し易いため、該環状の砥石の強度は低い。そこで、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が交互に積層され、外部に露出する両最外層が該第1の層である計3層以上の積層構造を含む砥石部を備える環状の砥石を形成することが考えられる。
【0011】
該環状の砥石は多孔質構造を有する第2の層を含むため、多孔質構造を有する層を全く含まない環状の砥石と比較して砥石部が消耗しやすく、消耗による自生発刃が生じ易い。その一方で、第1の層も含むため、多孔質構造を有する層のみで砥石部が形成された環状の砥石と比較して強度が高い。さらに、積層構造の最外層は第1の層であるため、該環状の砥石の側面が摩耗しにくい。
【0012】
ここで、第1の層及び第2の層を含む該環状の砥石の性能は、第2の層が有する多孔質構造の気孔率に大きく左右される。そのため、該環状の砥石を製造する際に、第2の層の検査が望まれる。しかしながら、該環状の砥石の最外層は第1の層で構成されるため、該環状の砥石を破壊することなしに第2の層を検査することはできない。
【0013】
該第2の層を観察するには、例えば、該環状の砥石を破壊して第2の層を露出させることになるが、この場合、破壊された該環状の砥石はもはや被加工物の切削には使用できない。そのため、該環状の砥石の製造方法における生産性の低下や、工数増加等の新たな課題が生じている。
【0014】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が交互に積層された砥石部を有する環状の砥石を製造する際、該多孔質構造を検査できる環状の砥石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、中央に貫通孔を有する砥石部を備え、該砥石部は、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が該貫通孔の貫通方向に沿って交互に積層され、両面が該第1の層で構成される計3層以上の積層構造を含む環状の砥石の製造方法であって、砥粒が混入されたニッケルめっき液と、該多孔質構造の形成に寄与する添加剤と、が収容されためっき浴槽を準備するめっき浴槽準備工程と、ニッケル電極と、一部が環状に露出された基台と、を該めっき浴槽に浸漬する浸漬工程と、該基台を陰極とし、該ニッケル電極を陽極として該ニッケルめっき液に直流電流を流すことで、該基台の環状に露出された表面にニッケルを含む結合材で固定された該砥粒を含むめっき層を堆積させるめっき層形成工程と、を備え、該めっき層形成工程では、該直流電流の電流密度を所定値未満の電流密度と、該所定値以上の電流密度と、に交互に変えることで、該第1の層と、該第2の層と、を交互に積層させ、最外層が該第2の層で構成された該めっき層を形成し、該めっき層形成工程の後、該めっき層の該最外層を撮像し、該最外層を構成する第2の層が有する多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する気孔率検査工程と、該気孔率検査工程の後、該めっき層の該最外層を除去し、該最外層が除去されためっき層で構成される該砥石部を形成する砥石部形成工程と、該めっき層形成工程の後、該基台の全部又は一部を除去して該めっき層の該基台で覆われていた領域の全部又は一部を露出させる基台除去工程と、をさらに備えることを特徴とする環状の砥石の製造方法が提供される。
【0016】
好ましくは、該基台除去工程では、該基台の全部を除去し、該砥石部のみからなる環状の砥石を製造する。
【0017】
また、好ましくは、該基台除去工程では、該基台の一部を除去し、該砥石部及び該基台で構成される該環状の砥石を製造する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係る環状の砥石の製造方法では、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が交互に並ぶ計3層以上の積層構造を含む砥石部を備える環状の砥石が製造される。ここで、該砥石部の両面は第1の層で構成される。しかし、本発明の一態様に係る環状の砥石の製造方法では、基台にめっき層を積層させる際に最外層を第1の層とはせず、砥石部の最外層となるべき第1の層にさらに第2の層を積層させておく。すなわち、該めっき層の最外層を第2の層とする。
【0019】
第2の層が外部に露出していると、該第2の層が有する多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する際に該第2の層を容易に観察できる。例えば、該第2の層を撮像することで該多孔質構造の気孔率に関する情報を容易に取得できる。そして、該第2の層を観察した後に、該めっき層の最外層を除去することで砥石部を形成する。この場合、該砥石部の最外層は第1の層となる。
【0020】
このように、本発明の一態様に係る環状の砥石の製造方法では、該第2の層を容易に観察できる上、該第2の層を除去することで最外層が第1の層である砥石部を形成して環状の砥石を製造できる。換言すると、被加工物の加工に使用可能な環状の砥石を製造する工程において、該第2の層の多孔質構造を検査できる。
【0021】
したがって、本発明の一態様により、第1の層と、多孔質構造を有する第2の層と、が交互に積層された砥石部を有する環状の砥石を製造する際、該多孔質構造を検査できる環状の砥石の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(A)は、砥石部のみからなる環状の砥石を模式的に示す斜視図であり、図1(B)は、砥石部及び基台で構成される環状の砥石を模式的に示す斜視図である。
図2】砥石部のみからなる環状の砥石の製造工程におけるめっき層形成工程を模式的に示す断面図である。
図3図3(A)は、めっき層形成工程より基台に形成されためっき層を模式的に示す断面図であり、図3(B)は、基台除去工程を模式的に示す断面図である。
図4図4(A)は、気孔率検査工程を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、気孔率検査工程が実施されるめっき層の最外層を撮像したSEM写真である。
図5図5(A)は、砥石部形成工程により形成される砥石部を模式的に示す断面図であり、図5(B)は、形成された砥石部の最外層を撮像したSEM写真である。
図6】砥石部及び基台で構成される環状の砥石の製造工程におけるめっき層形成工程を模式的に示す断面図である。
図7図7(A)は、めっき層形成工程より基台に形成されためっき層を模式的に示す断面図であり、図3(B)は、基台除去工程を模式的に示す断面図である。
図8図8(A)は、環状の砥石の製造方法の各工程の流れの一例を示すフローチャートであり、図8(B)は、環状の砥石の製造方法の各工程の流れの他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る実施形態について説明する。図1(A)は、本実施形態に係る環状の砥石(切削ブレード)の製造方法で製造される環状の砥石の一例として、砥石部のみからなる環状の砥石を模式的に示す斜視図である。図1(A)に示す環状の砥石1aは、ワッシャータイプと呼ばれる環状の砥石である。
【0024】
該環状の砥石1aは、中央に貫通孔を有する円環状の砥石部3aからなる。該環状の砥石1aは切削装置の切削ユニットに装着される。該貫通孔にはスピンドルが通され、該スピンドルが回転することで該環状の砥石1aが該貫通孔の伸長方向に垂直な面内に回転される。そして、回転する環状の砥石1aの砥石部3aを被加工物に接触させると、被加工物が切削される。
【0025】
なお、本実施形態に係る環状の砥石の製造方法で製造される環状の砥石はこれに限定されない。図1(B)は、砥石部及び基台を備える環状の砥石を模式的に示す斜視図である。図1(B)に示す環状の砥石1bは、環状の基台5の外周縁に砥石部3bが配設されたハブタイプと呼ばれる砥石である。該環状の基台5は、該環状の砥石1bを切削装置の切削ユニットに着脱する際に切削装置の使用者(オペレータ)が持つ把持部5aを有する。
【0026】
該砥石部3a,3bは、例えば、ダイヤモンド砥粒等の砥粒を分散させたニッケル層等の結合材を基台に電着して形成される。なお、電解めっき等の方法で形成される環状の砥石1a,1bは、電着砥石とも呼ばれる。
【0027】
環状の砥石1a,1bの該砥石部3a,3bは、結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む。結合材から適度に露出した砥粒が被加工物に接触することで被加工物が切削される。被加工物の切削を進めると砥粒が結合材から脱落するが、刃先が消耗して次々に該結合材から新たな砥粒が露出される。この作用は自生発刃と呼ばれており、該自生発刃の作用により該環状の砥石1a,1bの切削能力は一定以上に保たれる。
【0028】
該被加工物は、例えば、シリコン、SiC(シリコンカーバイド)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。例えば、被加工物の表面は格子状に配列された複数の分割予定ラインで区画されており、区画された各領域にはIC(Integrated Circuit)やLED(Light Emitting Diode)等のデバイスが形成されている。最終的に、被加工物が分割予定ラインに沿って分割されることで、個々のデバイスチップが形成される。
【0029】
なお、ニッケル層を結合材とする電着砥石では結合材に砥粒が強く固定されるため、該電着砥石では自生発刃が生じにくく、砥石の切削能力を十分に維持しにくい。これに対して、自生発刃の作用が容易に発現する多孔質構造の結合材を備える砥石で被加工物を切削すると、該砥石の側面が摩耗し易く該砥石の強度が低下してしまう。
【0030】
そこで、互いに構造の異なる第1の層と、第2の層と、が交互に積層された砥石部3a,3bを備えた環状の砥石1a,1bが製造される。以下、砥石部の構造についてワッシャータイプの環状の砥石1aを例に説明する。図5(A)に、第1の層7と、第2の層9と、が交互に並ぶ計3層以上の積層構造を含み、外部に露出する該積層構造の両面には第1の層7が配された砥石部3aを模式的に示す断面図を示す。
【0031】
ここで、第1の層7は、第2の層9が有する多孔質構造に含まれる孔の径よりも小さな径の孔を含む多孔質構造を有する。または、第1の層7は、多孔質構造を有さない。このような構造を有する第1の層7は、第2の層9と比較して、強度が高く消耗しにくい層となる。
【0032】
該環状の砥石1aは、多孔質構造を有する第2の層9を含むため、該多孔質構造を有する第2の層9を全く含まない環状の砥石と比較して、消耗による自生発刃が生じ易い。砥石部3aを構成する結合材中には砥粒11が分散されている。環状の砥石1aで難削材を切削する場合でも、該砥石部3aが適度に消耗して次々と新しい砥粒11が露出するため、該環状の砥石1aの切削能力は十分に維持される。
【0033】
その一方で、該環状の砥石1aは第1の層7を含むため、第2の層9のみからなる砥石部を備える環状の砥石と比較して強度が高くなる。さらに、砥石部3aの最外層は強度の高い該第1の層7であるため、該環状の砥石1aの側面が摩耗しにくい。
【0034】
ここで、第1の層7及び第2の層9を含む該環状の砥石1aの性能は、第2の層9が有する多孔質構造の気孔率に大きく左右される。そのため、環状の砥石1aを製造する際に、第2の層9の検査が望まれる。しかしながら、環状の砥石1aの最外層は第1の層7で構成されるため、該環状の砥石1aを破壊することなしに第2の層9を検査することはできない。
【0035】
第2の層9を観察するには、例えば、該環状の砥石1aを破壊して第2の層9を露出させることになるが、この場合、破壊された該環状の砥石1aはもはや被加工物の切削には使用できない。そのため、該環状の砥石1aの製造方法における生産性の低下や、工数増加等の新たな課題が生じている。また、該環状の砥石1aを破壊すると、その影響により第2の層9の状態が変化し、第2の層9の検査を適切に実施できない場合がある。
【0036】
そこで、本実施形態に係る環状の砥石の製造方法では、砥石部3aを破壊することなく第2の層9の多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する。以下、本実施形態に係る環状の砥石の製造方法について説明する。図8(A)は、該環状の砥石の製造方法の流れの一例を模式的に示すフローチャートである。
【0037】
環状の砥石1aは、例えば、電解めっき等の方法で形成される。該製造方法では、まず、砥粒が混入されたニッケルめっき液16と、多孔質構造を有する層を含むめっき層の形成に寄与する添加剤18と、が収容されためっき浴槽2を準備するめっき浴槽準備工程S1を実施する。図2には、めっき浴槽準備工程S1で準備されるめっき浴槽2の断面図が模式的に示されている。
【0038】
ニッケルめっき液16は、硫酸ニッケルや硝酸ニッケル等のニッケル(イオン)を含む電解液であり、ダイヤモンド等の砥粒が混入されている。なお、本実施形態では、硫酸ニッケルを270g/L、塩化ニッケルを45g/L、ホウ酸を40g/L含むニッケルめっき液16(ワット浴)を6L使用している。ただし、ニッケルめっき液16の構成や使用量は任意に設定できる。
【0039】
このニッケルめっき液16には、図2に示すように、多孔質化を促進するための添加剤18がさらに添加される。添加剤18としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等の疎水性基を有する水溶性のアンモニウム化合物を含むもの用いることが好ましい。
【0040】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等の直鎖又は分枝を有する炭素数が1~20のアルキル基を挙げることができる。
【0041】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、アリール基には、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メチル、エチル等のアルキル基、トリフルオロメチル等のハロアルキル基、メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、フェニル等のアリール基等の置換基が結合していてもよい。
【0042】
アラルキル基としては、例えば、2-フェニルエチル、ベンジル、1-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル等の炭素数が7~10のアラルキル基等を挙げることができる。アラルキル基には、アリール基と同様の置換基が結合していても良い。
【0043】
アンモニウム化合物としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライド、ベンジルピリジニウムクロライド、これらの臭化物、硫酸塩等を挙げることができる。なお、これらのアンモニウム化合物は、単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0044】
本実施形態では、添加剤18として奥野製薬工業株式会社製の「トップポーラスニッケルRSN」を用い、ニッケルめっき液16に対して1mL/L以上10mL/L以下となるように添加する。
【0045】
めっき浴槽準備工程S1を実施した後には、電着により砥石部3aが形成される基台20aと、ニッケル電極6と、をめっき浴槽2内のニッケルめっき液16に浸漬する浸漬工程S2を実施する。基台20aは、例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属材料で円盤状に形成されており、その表面には、所望の砥石部3aの形状に対応したマスク22aが形成されている。なお、本実施形態では、円環状の砥石1aを形成できるようなマスク22aが形成される。
【0046】
基台20aは、スイッチ8を介して直流電源10のマイナス端子(負極)に接続される。一方、ニッケル電極6は、直流電源10のプラス端子(正極)に接続される。ただし、スイッチ8は、ニッケル電極6と直流電源10との間に配置されても良い。
【0047】
次に、基台20aを陰極とし、ニッケル電極6を陽極としてニッケルめっき液16に直流電流を流すことで、該基台20aの環状に露出された表面にニッケルを含む結合材で固定された砥粒を含むめっき層を堆積させるめっき層形成工程S3を実施する。より詳細には、マスク22aで覆われていない基台20aの環状に露出された表面に結合材で固定された砥粒を含むめっき層24a(図3(A)参照)を形成する。
【0048】
めっき層形成工程S3では、図2に示すように、モータ等の回転駆動源12でファン14を回転させてニッケルめっき液16を攪拌しながら、基台20aと直流電源10との間に配置されたスイッチ8を短絡させる。これによって、図3(A)に示すように、ニッケルを含むめっき層中に砥粒が概ね均等に分散されためっき層24aを形成できる。所望の厚さのめっき層24aが得られると、めっき層形成工程S3は終了する。
【0049】
なお、めっき層形成工程S3では、直流電源10の電流密度を所定値未満の電流密度と、該所定値以上の電流密度と、に交互に変える。ここで、電流密度とは、単位面積当たりの電流値であり、より詳細にはめっき層24aを形成する面積(マスク22aで露出される基台20aの面積)に対する該直流電流の電流値である。
【0050】
ニッケルを含むめっき層24aを形成する際、比較的高い電流密度で直流電流を流すと孔の径の大きい多孔質構造を有する層が形成されやすい。そして、形成されるめっき層中の多孔質構造の孔の径は電流密度が低くなるほど小さくなる傾向にあり、さらに低い電流密度で直流電流を流すと多孔質構造と認められない構造となる。
【0051】
そこで、めっき層形成工程S3では、所定値未満の電流密度と、該所定値以上の電流密度と、に交互に代えて直流電流を流すことにより、強度の高い第1の層7と、多孔質構造を有する第2の層9と、を交互に積層する。ここで、電流密度の該所定値とは、ニッケルめっき液16の各成分の混合割合や、形成予定の砥石部3a(めっき層24a)の構造等により適宜設定される値である。
【0052】
なお、環状の砥石1aの砥石部3aの両面には強度の高い第1の層7が配されるが、めっき層形成工程S3では最外層に第2の層9が配されるようにめっき層24aを形成する。すなわち、直流電流をめっき浴槽2に流し始めるときには該直流電流が該所定値未満の電流密度となるように直流電源10を制御するが、めっき浴槽2に直流電流を流し終えるときには、該直流電流が該所定値以上の電流密度となるように直流電源10を制御する。以上により、最外層が第2の層9で構成されためっき層24aを形成できる。
【0053】
めっき層形成工程S3が完了した時点で、めっき層24aの最外層は第2の層9となる。この場合、最外層を構成する第2の層9を外部から観察して該第2の層9が有する多孔質構造の気孔率を評価できる。そこで、本実施形態に係る環状の砥石の製造方法では、めっき層形成工程S3の後、気孔率検査工程S4を実施する。
【0054】
気孔率検査工程S4では、例えば、めっき層24aの最外層を撮像し、該最外層を構成する第2の層9が有する多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する。図4(A)は、気孔率検査工程S4を実施する際の様子を模式的に示す断面図である。めっき層24aの最外層の撮像は、例えば、光学顕微鏡、または、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により実施される。図4(A)に模式的に示された撮像ユニット26は、光学顕微鏡の対物レンズ、または、SEMの電子検出器等である。
【0055】
また、図4(B)は、実際に作製しためっき層24aの表面が写る写真13aである。なお、該写真13aはSEMにより撮像された写真である。撮像時のめっき層24aが載るステージのチルト角は、45度とした。図4(B)に示す写真13aには、多孔質構造を有する第2の層9が写る。写真13aにより、複数の砥粒11が結合材15により固定されて結合材15の表面に露出していることが確認される。そして、写真13aによると、結合材15には、無数の孔17が形成されているのが確認される。
【0056】
例えば、この写真13aを解析して、結合材15の表面に占める孔17の面積を算出することにより該多孔質構造の気孔率に関する情報を取得できる。ただし、気孔率に関する情報を取得する方法はこれに限定されず、該写真13aを使用した他の方法により実施してもよく、さらにめっき層24aを撮像せず他の方法によりめっき層24aを分析してもよい。また、多孔質構造の気孔率に関する情報とは、気孔率を厳密に算出した数値である必要はない。
【0057】
そして、気孔率検査工程S4を実施した後、めっき層24aの該最外層を除去し、該最外層が除去されためっき層24aで構成される砥石部3aを形成する砥石部形成工程S5を実施する。図5(A)は、砥石部形成工程S5により形成される砥石部3aを模式的に示す断面図である。
【0058】
砥石部形成工程S5では、めっき層24aの最外層を構成する第2の層9を除去する。該第2の層9の除去は、例えば、以下に説明する方法により実施される。まず、濃塩酸と濃硝酸とを3対1の体積比で混合して作成した王水が入れられた処理槽を準備する。また、めっき層24aを直流電源のプラス端子(正極)に電気的に接続し、直流電源のマイナス端子(負極)にはスイッチを介して王水に耐性を有する電極を電気的に接続しておく。
【0059】
そして、めっき層24a及び該電極を処理槽中に投入する。このとき、後述の基台除去工程S6が実施されていない場合、めっき層24aを基台20a(図2等参照)ごと処理槽中に投入する。その後、該スイッチをオンに切り替えて、めっき層24aを陽極とし、該電極を陰極として該処理槽中の王水に直流電流を流すことで、めっき層24aの最外層を構成する第2の層9を電気分解する。
【0060】
このとき、例えば、該直流電源の電圧を5Vに設定し、6A程度の電流を王水中に10秒間から20秒間程度流す。すると、めっき層24aの最外層を構成する第2の層9が除去されて、最外層に第1の層7を備える砥石部3aが形成される。図5(B)は、砥石部形成工程S5により実施に形成された砥石部3aの最外層を撮像して得られたSEM写真である。なお、砥石部3aを撮像する際にも、砥石部3aを支持するステージのチルト角を45度とした。
【0061】
図5(B)に示される写真13bと、図4(B)に示される写真13aと、を比較すると理解される通り、写真13bには、結合材15に形成された孔17が確認されない。すなわち、多孔質構造を有する第2の層9が砥石部形成工程S5により除去されたことが確認された。
【0062】
砥石部形成工程S5の後に、基台20aの全部又は一部を除去して該めっき層24aの該基台20aで覆われていた領域の全部又は一部を露出させる基台除去工程S6を実施する。例えば、砥石部3aのみからなる環状の砥石1aを製造する場合、基台20aの全部を除去する。図3(B)は、基台除去工程S6を模式的に示す断面図である。
【0063】
図3(B)に示す例では、基台20aから砥石部3aを剥離させることで基台20aの全部を砥石部3aから除去する。これにより、ワッシャータイプの環状の砥石1aが完成する。環状の砥石1aは、中央に貫通孔を有する砥石部3aを備え、該砥石部3aは、第1の層7と、多孔質構造を有する第2の層9と、が該貫通孔の貫通方向に沿って交互に積層され、該砥石部3aの両面が該第1の層7で構成される計3層以上の積層構造を含む。環状の砥石1aは切削装置に装着され、被加工物の切削に使用される。
【0064】
本実施形態に係る環状の砥石の製造方法では、めっき層形成工程S3を実施して最外層が第2の層9であるめっき層24aを形成する。第2の層9が外部に露出していると、該第2の層9が有する多孔質構造の気孔率に関する情報を取得する気孔率検査工程S4を実施する際に該第2の層9を容易に観察できる。そして、気孔率検査工程S4を実施した後に砥石部形成工程S5を実施して、該めっき層24aの最外層を除去することで砥石部3aを形成する。この場合、該砥石部3aの最外層は第1の層7となる。
【0065】
このように、本実施形態に係る環状の砥石の製造方法では、該第2の層9を容易に観察できる上、該第2の層9を除去することで最外層が第1の層7である砥石部3aを形成して環状の砥石1aを製造できる。換言すると、被加工物の加工に使用可能な環状の砥石1aを製造する工程において、該第2の層9の多孔質構造を検査できる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、ワッシャータイプの環状の砥石1aの製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の一態様に係る環状の砥石の製造方法によると、例えば、図1(B)に示すハブタイプの環状の砥石1bも製造できる。以下、ハブタイプの環状の砥石1bの製造方法について説明する。
【0067】
図6は、砥石部及び基台を備える環状の砥石1bの製造工程におけるめっき層形成工程S3を模式的に示す断面図である。環状の砥石1bは、環状の砥石1aと同様に、例えば、めっき浴槽2における電解めっき等の方法で形成される。該製造方法では、環状の砥石1aの製造方法と同様に、めっき浴槽準備工程S1を実施する。
【0068】
めっき浴槽2、ニッケルめっき液16、及び添加剤18の構成は、上述の環状の砥石1aの製造方法と同様であるため説明を省略する。ただし、直流電源10の負極に接続される基台20bの一部は環状の砥石1bの砥石部3bを支持する環状の基台5となるため、基台20bの形状は、該環状の基台5に対応した形状とする。また、基台20bの表面には砥石部3bの形状に対応した形状のマスク22bを形成する。そして、上述の環状の砥石1aの製造方法と同様に、浸漬工程S2と、めっき層形成工程S3と、を実施する。
【0069】
環状の砥石1bを製造する当該製造方法においても、めっき層形成工程S3により最外層が第2の層9で構成されるめっき層24b(図7(A)参照)を形成でき、気孔率検査工程S4を実施して該第2の層9の気孔率に関する情報を取得できる。その後、砥石部形成工程S5を実施して該第2の層9を除去して砥石部3bを形成する。
【0070】
次に、該基台20bの一部を除去して該砥石部3bの該基台20bで覆われていた領域の一部を露出させる基台除去工程S6を実施する。なお、図7(A)に示す通り、基台除去工程S6を実施する前に予めマスク22bを基台20bから除去しておく。
【0071】
そして、図7(B)に示すように、基台20bにおいて砥石部3bが形成されていない側の外周領域を部分的にエッチングして、基台20bに覆われていた砥石部3bの一部を露出させる。これにより、環状の基台5の外周領域に砥石部3bが固定されたハブタイプの環状の砥石1bが完成する。なお、把持部5aは該エッチングにより環状の基台5に形成してもよく、基台20bに予め形成してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、該直流電流の電流密度を所定値未満にして強度の高い第1の層7を形成し、電流密度を所定値以上にして多孔質構造を有する第2の層9を形成する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。ニッケルめっき液16の各成分の混合割合や、形成予定の砥石部3a,3bの構造等によっては、該直流電流の電流密度を所定値以上にして強度の高い第1の層7を形成し、電流密度を所定値以上にして多孔質構造を有する第2の層9を形成してもよい。
【0073】
さらに、上記実施形態では、気孔率検査工程S4及び砥石部形成工程S5を実施した後に基台除去工程S6を実施する場合について説明したが、本発明の一態様に係る環状の砥石の製造方法はこれに限定されない。すなわち、図8(B)に示されたフローチャートの通り、めっき層形成工程S3を実施した後、気孔率検査工程S4を実施する前に基台除去工程S6を実施してもよい。
【0074】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b 環状の砥石
3a,3b 砥石部
5 環状の基台
5a 把持部
7 第1の層
9 第2の層
11 砥粒
13a,13b 写真
15 結合材
17 孔
2 めっき浴槽
6 ニッケル電極
8 スイッチ
10 直流電源
12 回転駆動源
14 ファン
16 ニッケルめっき液
18 添加剤
20a,20b 基台
22a,22b マスク
24a,24b めっき層
26 撮像ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8