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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】研削装置のアイドリング方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/04 20060101AFI20221129BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20221129BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B24B49/04 Z
B24B7/04 A
H01L21/304 631
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019054756
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151828
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-022920(JP,A)
【文献】特開2017-019067(JP,A)
【文献】特開2018-027588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0095902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-51/00
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持し回転するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削砥石が環状に配設された研削ホイールを回転可能に備えた研削手段と、該研削砥石に研削水を供給する研削水供給手段と、被加工物の厚みを計測する厚み計測手段と、から少なくとも構成された研削装置のアイドリング方法であって、
該チャックテーブルに被加工物を保持する被加工物保持工程と、
該厚み計測手段を該チャックテーブルに保持された被加工物に作用する厚み計測手段作用工程と、
アイドリング運転を開始するアイドリング運転工程と、
アイドリング運転中において該厚み計測手段からの厚み信号の変化の幅が許容値であるか否かを監視する厚み信号監視工程と、
該厚み信号監視工程において、厚み信号の変化の幅が該許容値に収まったと判断した際に、アイドリング運転を終了する研削装置のアイドリング方法。
【請求項2】
該アイドリング運転は、研削ホイールの回転、チャックテーブルの回転、及び研削水の供給を含む請求項1に記載の研削装置のアイドリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置のアイドリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、研削装置によって裏面が研削され所定の厚みに形成された後、ダイシング装置、レーザー加工装置等によって個々のデバイスチップに分割され携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削砥石が環状に配設された研削ホイールを回転可能に備えた研削手段と、研削砥石に研削水を供給する研削水供給手段と、ウエーハの厚みを計測する厚み計測手段とから概ね構成されていて、ウエーハを所望の厚みに加工することができる(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、研削装置は、長時間停止した状態が継続し、装置全体が外気温度に近い状態から運転を開始すると、装置内の発熱源から発せられる熱エネルギーによって、装置全体の温度が上昇し、該温度上昇の過程において、装置全体で熱歪が生じる。この熱歪が発生する過程で研削加工を開始してしまうと、加工精度に影響を及ぼすおそれがあるため、一定時間(例えば1時間程度)のアイドリング運転をさせることで安定状態とし、熱歪による影響を回避するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-153090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したアイドリング運転をすることで、熱歪による影響は回避できるものの、アイドリング運転が長時間に及ぶと、生産性を悪化させるという問題がある。特に、上記したアイドリング運転の時間は、経験上、熱歪の影響が回避できる時間として設定されているものであるが、設置場所の環境条件や、前回運転時からの経過時間等で、熱歪の影響が低下する時間が変化するため、アイドリング運転を実施するための時間は、様々な作動環境を想定した上で、熱歪の影響を回避できる最大時間として設定されている。しかしこれでは、必要以上にアイドリング運転が長時間に及び、生産性が悪いという問題があることから、適正な時間でアイドリング運転を実施するための方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、無駄な時間を要することがない研削装置のアイドリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持し回転するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削砥石が環状に配設された研削ホイールを回転可能に備えた研削手段と、該研削砥石に研削水を供給する研削水供給手段と、被加工物の厚みを計測する厚み計測手段と、から少なくとも構成された研削装置のアイドリング方法であって、該チャックテーブルに被加工物を保持する被加工物保持工程と、該厚み計測手段を該チャックテーブルに保持された被加工物に作用する厚み計測手段作用工程と、アイドリング運転を開始するアイドリング運転工程と、アイドリング運転中において該厚み計測手段からの厚み信号の変化の幅が許容値であるか否かを監視する厚み信号監視工程と、該厚み信号監視工程において、厚み信号の変化の幅が該許容値に収まったと判断した際に、アイドリング運転を終了する研削装置のアイドリング方法が提供される。
【0009】
該アイドリング運転は、研削ホイールの回転、チャックテーブルの回転、及び研削水の供給を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の研削装置のアイドリング方法は、チャックテーブルに被加工物を保持する被加工物保持工程と、厚み計測手段をチャックテーブルに保持された被加工物に作用する厚み計測手段作用工程と、アイドリング運転を開始するアイドリング運転工程と、アイドリング運転中において厚み計測手段からの厚み信号の変化の幅が許容値であるか否かを監視する厚み信号監視工程と、厚み信号監視工程において、厚み信号の変化の幅が許容値に収まったと判断した際に、アイドリング運転を終了するようにしていることから、無駄な時間を要することなく、アイドリング運転を適正に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態を実施する研削装置の斜視図である。
図2】被加工物保持工程の実施態様を示す斜視図である。
図3】厚み計測手段作用工程の実施態様を示す斜視図である。
図4】アイドリング運転工程、及び厚み信号監視工程を実施すべく構成されたフローチャートである。
図5】アイドリング運転の実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のアイドリング方法を実施すべく構成された研削装置、及び該研削装置によって実施されるアイドリング方法の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る研削装置1の斜視図が示されている。研削装置1は、略直方体状の装置ハウジング2を備えている。図1において、装置ハウジング2の右側の上端には、静止支持板21が立設されている。この静止支持板21の内側面には、上下方向に延びる2対の案内レール22、22及び23、23が設けられている。一方の案内レール22、22には粗研削手段としての粗研削ユニット3が上下方向に移動可能に装着されており、他方の案内レール23、23には仕上げ研削手段としての仕上げ研削ユニット4が上下方向に移動可能に装着されている。
【0014】
粗研削ユニット3は、ユニットハウジング31と、ユニットハウジング31に回転自在に支持された回転軸31aの下端に装着されたホイールマウント32に装着され、下面に環状に複数の研削砥石33aが配置された粗研削ホイール33と、該ユニットハウジング31の上端に装着されホイールマウント32を矢印R1で示す方向に回転させる電動モータ34と、ユニットハウジング31を装着した移動基台35とを備えている。移動基台35には上記した静止支持板21に設けられた案内レール22、22に摺動可能に嵌合する被案内溝が設けられていることにより、粗研削ユニット3が上下方向に移動可能に支持される。図示の実施形態における研削装置1は、粗研削ユニット3の移動基台35を案内レール22、22に沿って移動して研削送りする研削送り機構36を備えている。研削送り機構36は、静止支持板21に案内レール22、22と平行に上下方向に配設され回転可能に支持された雄ねじロッド361と、該雄ねじロッド361を回転駆動するためのパルスモータ362と、移動基台35に装着され雄ねじロッド361と螺合する図示しない雌ねじブロックを備えており、パルスモータ362によって雄ねじロッド361を正転及び逆転駆動することにより、粗研削ユニット3を上下方向(後述するチャックテーブルの保持面に対して垂直な方向)に移動させる。
【0015】
仕上げ研削ユニット4も上記粗研削ユニット3と同様に構成されており、ユニットハウジング41と、ユニットハウジング41に回転自在に支持された回転軸41aの下端に装着されたホイールマウント42に装着され下面に環状に複数の研削砥石43aが配置された仕上げ研削ホイール43と、ユニットハウジング41の上端に装着されホイールマウント42を矢印R2で示す方向に回転させる電動モータ44と、ユニットハウジング41を装着した移動基台45とを備えている。移動基台45には上記した静止支持板21に設けられた案内レール23、23に摺動可能に嵌合する被案内溝が設けられていることにより、仕上げ研削ユニット4が上下方向に移動可能に支持される。図示の実施形態における研削装置1は、仕上げ研削ユニット4の移動基台45を案内レール23、23に沿って移動する研削送り機構46を備えている。研削送り機構46は、上記静止支持板21に案内レール23、23と平行に上下方向に配設され回転可能に支持された雄ねじロッド461と、雄ねじロッド461を回転駆動するためのパルスモータ462と、移動基台45に装着され雄ねじロッド461と螺合する図示しない雌ねじブロックを備えており、パルスモータ462によって雄ねじロッド461を正転及び逆転駆動することにより、仕上げ研削ユニット4を上下方向に移動させる。
【0016】
電動モータ34及び電動モータ44によって回転させられる回転軸31a、回転軸41aの回転軸端31b、41bには、研削水供給手段10が接続されている。研削水供給手段10は、圧送ポンプを内蔵する研削水タンク10aと、開閉バルブ10bを備えた研削水供給通路10cとを備え、研削水タンク10aから圧送される研削水Lを、回転軸31a、及び回転軸41aの内部に形成された図示しない貫通孔を介して供給し、粗研削ホイール33、及び仕上げ研削ホイール43の下端面からチャックテーブル6に向けて噴射する。なお、図1においては、説明の都合上、研削水供給手段10を装置ハウジング2の外部に示しているが、装置ハウジング2の内部に収容されていてもよい。
【0017】
図示の実施形態における研削装置1は、上記静止支持板21の前側において装置ハウジング2の上面と略面一となるように配設されたターンテーブル5を備えている。このターンテーブル5は、比較的大径の円盤状に形成されており、図示しない回転駆動機構によって矢印R3で示す方向に適宜回転させられる。ターンテーブル5には、図示の実施形態の場合それぞれ120度の位相角をもって3個のチャックテーブル6が水平面内で回転可能に配置されている。このチャックテーブル6は、円盤状の基台61と、ポーラスセラミック材によって円盤状に形成されチャックテーブル6の上面を形成する吸着チャック62とからなっており、吸着チャック62の上面(保持面)に載置される被加工物を図示しない吸引手段を作動することにより吸引保持する。基台61は、吸着チャック62を支持すると共に吸着チャック62を囲繞する外縁部を構成する。吸着チャック62の上面と基台61の外縁部は、その高さが均一になるように構成されている。なお、図示の実施形態では、吸着チャック62は、内周部と、該内周部を囲繞する外周部とにより区画され、2種のサイズ、例えば、直径が8インチと6インチのサイズのウエーハに対応すべく、内周部と外周部とで個別に吸引負圧を作用させることが可能になっている。このように構成されたチャックテーブル6は、図1に示すように図示しない回転駆動機構によって矢印R4で示す方向に回転させられる。ターンテーブル5に配設された3個のチャックテーブル6は、ターンテーブル5が矢印R3で示す方向に回転させられることにより、被加工物搬入・搬出域A→粗研削加工域B→仕上げ研削加工域C→被加工物搬入・搬出域Aに順次移動させられる。
【0018】
図示の研削装置1は、被加工物搬入・搬出域Aに対して一方側に配設され研削加工前の被加工物であるウエーハをストックする第1のカセット7と、被加工物搬入・搬出域Aに対して他方側に配設され研削加工後の被加工物であるウエーハをストックする第2のカセット8と、第1のカセット7と被加工物搬入・搬出域Aとの間に配設され被加工物の中心合わせを行う仮置き手段9と、被加工物搬入・搬出域Aと第2のカセット8との間に配設された洗浄手段11と、第1のカセット7内に収納された被加工物であるウエーハを仮置き手段9に搬出するとともに洗浄手段11で洗浄されたウエーハを第2のカセット8に搬送する被加工物搬送手段12と、仮置き手段9上に載置され中心合わせされたウエーハを被加工物搬入・搬出域Aに位置付けられたチャックテーブル6上に搬送する第1の搬送手段13と、被加工物搬入・搬出域Aに位置付けられたチャックテーブル6上に載置されている研削加工後のウエーハを洗浄手段11に搬送する第2の搬送手段14を備えている。
【0019】
被加工物搬送手段12が配置された装置ハウジング2の手前側には、研削作業を指示したり、加工条件を指定したりするための操作パネル15と、研削加工時の状況を表示したり、又タッチパネル機能を備えることにより、適宜作業指示を実施可能に構成された表示モニタ16が配設されている。
【0020】
図示の研削装置1は、粗研削加工域B及び仕上げ研削加工域Cにそれぞれ隣接して配設されたウエーハの厚みを計測する厚み計測手段としての第1のハイトゲージ17A、及び第2のハイトゲージ17Bを備えている。この第1のハイトゲージ17A及び第2のハイトゲージ17Bは、それぞれ粗研削加工域B及び仕上げ研削加工域Cに位置付けられたチャックテーブル6に保持されたウエーハの上面の高さ位置を検出し、ウエーハの厚みを算出するためのものであり、その検出データを後述する制御手段100(図3、又は図5を参照)に送る。
【0021】
制御手段100は、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)101と、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)と、演算結果等を記憶する記憶手段としての読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)と、入力インターフェース及び出力インターフェースを備えている(いずれも図示は省略する)。このように構成された制御手段100の入力インターフェースには、上記第1のハイトゲージ17A、第2のハイトゲージ17B、及び研削装置1の各作動部からの信号が入力され、出力インターフェースからは、上記第1のハイトゲージ17A、第2のハイトゲージ17B、粗研削ユニット3の電動モータ34、仕上げ研削ユニット4の電動モータ44、研削送り機構36のパルスモータ362、及び研削送り機構46のパルスモータ462等の各作動部に制御信号が出力される。なお、制御手段100には、後述するアイドリング運転工程、及び厚み信号監視工程を実施すべく図4に示すフローチャートに沿って構築された制御プログラム110が備えられている。
【0022】
図示の研削装置1は、概ね上記したとおりの構成を備えており、研削装置1の立ち上げ時に実施されるアイドリング方法について、以下に説明する。
【0023】
先ず、研削装置1に対し、図示しない電源スイッチを操作して、電源を投入して研削装置1を立ち上げる。研削装置1を立ち上げた後、本実施形態のアイドリング方法が実施される。アイドリング方法を実施するに際しては、チャックテーブル6に被加工物を保持する被加工物保持工程を実施する。具体的には、図2に示すような被加工物としてのウエーハWを用意する。ウエーハWは、厚みが例えば200μmに形成されており、ウエーハWの全域で均一な厚みに調整されたものが好ましい。なお、アイドリング方法を実施するために用意するウエーハWは、実際に研削加工が施されるウエーハWと同等の形態を備えるダミーウエーハであってもよい。本実施形態では、ウエーハWの厚みを計測しながらアイドリング方法を実施することから、その厚みが、できるだけ高精度に均一に調整されたウエーハを選択することが望ましい。
【0024】
上記したウエーハWを用意したならば、ターンテーブル5を作動して、被加工物が保持されていないチャックテーブル6を、被加工物搬入・搬出域Aに位置付ける。次いで、図2の上段に示すように、チャックテーブル6上にウエーハWを載置する。そして、図示しない吸引手段を作動して、チャックテーブル6の上面の吸着チャック62に吸引負圧を作用させてウエーハWを吸引保持する(図2の下段を参照)。以上により、被加工物保持工程が完了する。なお、上記した被加工物保持工程では、一のチャックテーブル6にウエーハWを載置して吸引保持する例を示したが、一のチャックテーブル6にウエーハWを吸引保持した後、ターンテーブル5を回転してウエーハWを吸引保持していない隣のチャックテーブル6を被加工物搬入・搬出域Aに位置付けて、同様のウエーハWを吸引保持させてもよい。
【0025】
被加工物保持工程が完了したならば、上記した厚み計測手段をチャックテーブル6に保持されたウエーハWに作用させる厚み計測手段作用工程を実施する。図1、及び図3を参照しながら、該厚み計測手段作用工程について、より具体的に説明する。
【0026】
厚み手段作用工程では、ターンテーブル5を図1で示す矢印R3で示す方向に回転し、ウエーハWを吸引保持したチャックテーブル6を、被加工物搬入・搬出域Aから、粗研削加工域Bに向けて移動させる。図1に示すように、粗研削加工域Bの近傍には、第1のハイトゲージ17Aが配設されており、計測針17aを備えている。計測針17aは、図3に示すように、先端部が上昇した退避位置(2点鎖線で示す)と、先端部が下降して厚みを計測すべくウエーハWに作用する作用位置(実線で示す)と、に移動させることができる。ターンテーブル5が回転する際には、計測針17aとチャックテーブル6とが干渉しないように、計測針17aは上方の退避位置に移動させられる。なお、上記したように、仕上げ研削ユニット4によって仕上げ研削加工が施される仕上げ研削加工域Cの近傍にも、第1のハイトゲージ17Aと同様に構成された第2のハイトゲージ17Bが配設されており、第2のハイトゲージ17Bは、計測針17bを備えている。
【0027】
ターンテーブル5を回転させて、チャックテーブル6に保持されたウエーハWの厚みを計測する計測点Pが、計測針17aの先端部の直下に位置付けられたならば、ターンテーブル5を一旦停止する。次いで、図3に示すように、第1のハイトゲージ17Aを作動して、計測針17aの先端部を退避位置から下降させてウエーハW上の計測点Pに作用した状態とする。これにより、厚み計測手段作用工程が完了する。ここで、計測針17aがウエーハW上の計測点Pに作用した状態では、第1のハイトゲージ17Aにより計測される計測点Pの高さ信号が上記した制御手段100に周期的に送られ、所定の基準値との差分を算出してウエーハWの厚み信号としてメモリ(RAM)に常時記憶される。なお、該所定の基準値としては、吸着チャック62を囲繞する基台61の外縁部の上端面の高さを採用することができ、予め第1のハイトゲージ17Aの計測針17aの先端部を、基台61の外縁部の上端面に作用させて、その高さを検出して適宜のメモリに記憶しておくことができる。
【0028】
上記した厚み計測手段作用工程を実施したならば、図4に示すフローチャートに沿って構築された制御プログラム110によって、後述するアイドリング運転工程、及び厚み信号監視工程をさらに遂行する。図4、及び図5を参照しながら、より具体的に説明する。
【0029】
上記したように厚み計測手段作用工程が実施され完了したならば、操作パネル15、又はタッチセンサ機能を備えた表示モニタ16上に表示されるボタン等を作業者が操作することにより、制御プログラム110に対してアイドリング運転の開始を指示し(ステップS1)、アイドリング運転工程が開始される。ステップS1においてアイドリング運転の開始が指示されると、実際に研削加工が施される状況を想定した研削装置1のアイドリング運転が開始される。より具体的には、図5に示すように、粗研削加工域BにウエーハWを保持したチャックテーブル6が位置付けられた状態で、矢印R4で示す方向に例えば300rpmの回転速度で回転させられる。さらに、粗研削ユニット3の電動モータ34を駆動し粗研削ホイール33を矢印R1で示す方向に例えば6000rpmの回転速度で回転させるとともに、研削送り機構36のパルスモータ362を正転駆動して粗研削ユニット3を下降させ、ウエーハWの表面に近接した位置、例えばウエーハWの表面から1.0mm程度上方の位置に位置付ける。
【0030】
なお、仕上げ研削加工域Cに位置付けられるチャックテーブル6にもアイドリング運転用のウエーハWが吸引保持されている場合は、研削加工域Cに位置付けられたチャックテーブル6を、上記と同様に、図示しない回転駆動機構によって300rpmの回転速度で回転させ、仕上げ研削ユニット4の電動モータ44を駆動し仕上げ研削ホイール43を、例えば6000rpmの回転速度で回転させるとともに、研削送り機構46のパルスモータ462を正転駆動して仕上げ研削ユニット4を下降させ、チャックテーブル6に保持されたウエーハWの表面に近接した位置、例えばウエーハWの表面から1.0mm程度上方の位置に位置付ける。
【0031】
そして、研削水供給手段10の開閉バルブ10bを開放して、研削水タンク10aから研削水供給通路10cを介して、回転軸31a、回転軸41aの回転軸端31b、41bに研削水Lを供給する。この結果、粗研削加工域Bに位置付けられたチャックテーブル6、及び仕上げ研削加工域Cに位置付けられたチャックテーブル6上に研削水Lが供給され、アイドリング運転が実施された状態となる。
【0032】
上記したアイドリング運転が実施された状態で、厚み計測手段、すなわち、第1のハイトゲージ17Aからの厚み信号の変化の幅が許容値に収まったか否かを監視する厚み信号監視工程を実施する。より具体的には、上記したアイドリング運転が実施された状態で第1のハイトゲージ17Aによる厚み計測を開始する(ステップS2)。第1のハイトゲージ17Aによる厚み計測が開始されると、図4においてステップS2の右方側に示すように、時間経過(min:横軸で示す)と共に、第1のハイトゲージ17Aによって厚み(μm:縦軸で示す)が計測され、適宜メモリに記憶される。このように、厚み計測を開始したならば、ステップS3に進み、厚み信号の単位時間当たりの変化の幅が、制御手段100に予め記憶された許容値に収まったか否かの判定を実施する(ステップS3)。
【0033】
ステップS3で示す判定についてより具体的に説明すると、上記したように、アイドリング運転では、研削砥石33aは、ウエーハWに接しておらず、実際に研削は行われていないことから、本来は、第1のハイトゲージ17Aによって検出されるウエーハWの厚み信号は一定となる。しかし、長時間停止し外気温度に近い状態となっていた研削装置1において、アイドリング運転が開始されると、研削装置1全体が徐々に加熱されて、装置全体に熱歪が生じ、ウエーハWが研削されていないにも関わらず、ステップS2の右方側に示すように、第1のハイトゲージ17Aによって検出されるウエーハWの厚みの値が初期に検出される値から徐々に変化する。ここで、研削装置1のアイドリング運転が進行して、研削装置1の状態が熱歪の観点で平衡状態に近づくと、第1のハイトゲージ17Aによって検出される値の変化の幅が縮小してくる。すなわち、上記した許容値とは、研削装置1の運転時間の経過が第1のハイトゲージ17Aによって検出される厚み信号に影響を与えないと考えられる安定した状態に移行したか否かを判定するための値であり、予め実験等により設定され、制御手段100のメモリに記憶される。第1のハイトゲージ17Aによって検出される厚み信号の単位時間当たりの変化の幅が、許容値に収まったか否かを判定する際には、例えば、該厚み信号の単位時間当たりの変化の幅が、予め記憶された許容値(例えば、3μm/min)以下であるか否かによって判断する。なお、当該許容値は、研削装置1において求められる加工精度に応じて適宜決定される値である。
【0034】
ステップS3によって、該厚み信号の単位時間当たりの変化の幅が、許容値以下でない(no)と判定された場合は、アイドリング運転を継続しつつ、ステップS3による判定を、所定の時間毎、例えば数ミリ秒毎に繰り返す。そして、厚み信号の変化の幅が、該許容値(3μm/min)以下である(yes)ことが検出されたならば(時間T)、ステップS4に進み、アイドリング運転が終了となる。なお、この際は、作業者に対しアイドリング運転が終了したことを知らせるブザー音や、音声メッセージを発すると共に、表示モニタ16に、アイドリング運転が終了したことを知らせるメッセージを表示することが好ましい。なお、仕上げ研削加工域Cに位置づけられたチャックテーブル6にも同様のウエーハWが保持されている場合は、第2のハイトゲージ17Bに対しても、厚み信号の監視を行い、第2のハイトゲージ17Bによって検出される厚み信号の変化の幅が許容値以下であるか否かも判定することが好ましい。その場合は、第1のハイトゲージ17Aと、第2のハイトゲージ17Bとによって検出される厚み信号の変化の幅が両方とも許容値以下に収まったことが判定された場合に、アイドリング運転を終了させる。
【0035】
上記したように、アイドリング運転が終了したならば、図4に示すフローチャートが終了し、研削加工が開始可能なスタンバイ状態となる。
【0036】
上記した実施形態によれば、アイドリング運転を開始した後、厚み計測手段である第1のハイトゲージ17A(及び第2のハイトゲージ17B)によって計測される厚み信号の変化を監視することにより、アイドリング運転が進行して、熱歪による影響が低下することを判定していることから、アイドリング運転時間を無駄に長くする必要がなく、適正な時間で終了させることができる。
【0037】
研削加工が開始可能なスタンバイ状態に移行して、作業者により研削加工が指示されたならば、通常の手順にしたがって研削装置1による研削加工が実施される。
【0038】
なお、上記した実施形態では、アイドリング運転を実施する際に、研削ホイール(粗研削ホイール33、仕上げ研削ホイール43)の回転、チャックテーブル6の回転、及び研削水Lの供給を同時に実施するように構成したが、本発明は必ずしもこれに限定されず、研削ホイール(粗研削ホイール33、仕上げ研削ホイール43)の回転、チャックテーブル6の回転、及び研削水Lの供給を適宜選択して動作をさせるものであってもよい。
【0039】
また、上記した実施形態では、ターンテーブル5上に3つのチャックテーブル6を備え、粗研削ユニット3、及び仕上げ研削ユニット4を備えることにより、連続的に研削加工を実施することが可能な研削装置1を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、他の形態の研削装置、例えば、チャックテーブルを1つのみ備えた研削装置において実施することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1:研削装置
2:装置ハウジング
21:静止指示板
22、23:案内レール
3:粗研削ユニット
31:ユニットハウジング
33:粗研削ホイール
35:移動基台
36:研削送り機構
4:仕上げ研削ユニット
41:ユニットハウジング
43:仕上げ研削ホイール
45:移動基台
46:研削送り機構
5:ターンテーブル
6:チャックテーブル
61:基台
62:吸着チャック
7:第1のカセット
8:第2のカセット
9:仮置き手段
10:研削水供給手段
10a:研削水タンク
10b:開閉バルブ
11:洗浄手段
12:被加工物搬送手段
13:第1の搬送手段
14:第2の搬送手段
15:操作パネル
17A:第1のハイトゲージ(厚み計測手段)
17B:第2のハイトゲージ(厚み計測手段)
100:制御手段
110:制御プログラム
A:被加工物搬入・搬出域
B:粗研削加工域
C:仕上げ研削加工域
W:ウエーハ
図1
図2
図3
図4
図5