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特許7184932多層構造体並びにそれを備える包装材及び縦製袋充填シール袋
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  • 特許-多層構造体並びにそれを備える包装材及び縦製袋充填シール袋 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】多層構造体並びにそれを備える包装材及び縦製袋充填シール袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20221129BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221129BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20221129BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20221129BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/32 101
C08L23/26
C08L29/04 C
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020569685
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003181
(87)【国際公開番号】W WO2020158803
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019014214
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕司
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌宏
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-090380(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141610(WO,A1)
【文献】特開2001-80002(JP,A)
【文献】特開2004-268441(JP,A)
【文献】特表2016-513980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 1/01-101/14
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分が実質的にエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のみからなる樹脂組成物(x)からなる層(X)と、層(X)の両面側に熱可塑性樹脂(C)を含む層(Y)とを備える多層構造体であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対する酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の質量比(B/A)が3/97以上17/83以下であり、
酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1g/10min以上10g/10min以下であり、
全層の平均厚みの合計が50μm以上500μm以下であり、
全層の平均厚みの合計に対する層(X)の平均厚みの割合が1%以上15%以下であり、
上記樹脂組成物(x)の樹脂成分に対するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の合計含有量が95質量%以上である、多層構造体。
【請求項2】
酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の酸価が3.0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートと、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートとの差の絶対値が10g/10min以下である、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
層(X)の平均厚みが1μm以上20μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
層(Y)の平均厚みが25μm以上499μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体を備える包装材。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造体を備える縦製袋充填シール袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成分が実質的にエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)及び酸変性エチレン-αオレフィン共重合体のみからなる樹脂組成物からなる層を備える多層構造体並びにその多層構造体を備える縦製袋充填シール袋に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、酸素等のガスに対して優れたバリア性を示し、かつ溶融成形性にも優れることから、フィルムなどに加工され、食品包装材料等として広く利用されている。しかし、EVOHのフィルムは高い結晶性を有するために剛直であり、屈曲によりピンホールが生じる場合があった。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために、特許文献1には、エチレン単位含有量が10~32モル%であるEVOH及び177℃における溶融粘度が50000cP未満である無水物及び/またはカルボン酸官能化エチレン/アルファ-オレフィンインターポリマーを含むバリア層を備える多層構造体が、良好な強靭性を示し、かつ、円滑なドローダウンを可能にする多層構造体であり、熱成形用途において有用であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、最内層にEVOH及び柔軟樹脂を含有する樹脂組成物層を備える、ピンチオフ部を有するブロー成形容器が、側面、底面、角部及びピンチオフ部において衝撃強度に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-531571号公報
【文献】国際公開2013/172226号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の多層構造体を用いた場合、透明性が問題となる場合がある。特に、近年では消費者の購買意欲を高めるため、透明性の高い包装材が求められる傾向にあり、より透明性の高い包装材が求められている。しかし、EVOHの耐屈曲性を高めるために柔軟樹脂等をブレンドすると透明性が低下する傾向となる。
【0007】
また、特許文献1に記載のバリア層では比較的溶融粘度が低いエチレン/α-オレフィンインターポリマーを用いるため、衝撃強度、特に折り目を付けた状態で衝撃を与えた際の折り目の強度(以下、「折り目強度」と略記する場合がある)が不十分となる場合があり、特に膜厚が薄い態様が求められる包装材用途において問題となる場合がある。加えて、特許文献1に記載のような比較的溶融粘度が低いエチレン/α-オレフィンインターポリマーを用いた場合や、柔軟樹脂の含有割合を高めた場合には、多層構造体の外観が低下する傾向にある。
【0008】
さらに、特許文献2に記載のブロー成形容器においては、最内層にEVOHを含む樹脂組成物層を備える構成であるため、耐屈曲性が不十分となる場合があり、特に膜厚が薄い態様が求められる包装材用途において問題となる場合がある。
【0009】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むバリア層が高いガスバリア性及び透明性を維持しつつ耐衝撃性に優れ、多層構造体自体の外観、耐屈曲性及び折り目強度に優れる多層構造体並びにその多層構造体を備える包装材及び縦製袋充填シール袋を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
[1]樹脂成分が実質的にエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のみからなる樹脂組成物(x)からなる層(X)並びに層(X)の両面側に熱可塑性樹脂(C)を含む層(Y)を備え、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対する酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の質量比(B/A)が3/97以上17/83以下であり、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1g/10min以上10g/10min以下であり、全層の平均厚みの合計が50μm以上500μm以下であり、全層の平均厚みの合計に対する層(X)の平均厚みの割合が1%以上15%以下である、多層構造体;
[2]酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の酸価が3.0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、[1]の多層構造体;
[3]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートと、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートとの差の絶対値が10g/10min以下である、[1]または[2]の多層構造体;
[4]層(X)の平均厚みが1μm以上20μm以下である、[1]~[3]のいずれかの多層構造体;
[5]層(Y)の平均厚みが25μm以上499μm以下である、[1]~[4]のいずれかの多層構造体;
[6][1]~[5]のいずれかの多層構造体を備える包装材;
[7][1]~[5]のいずれかの多層構造体を備える縦製袋充填シール袋;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むバリア層が高いガスバリア性及び透明性を維持しつつ耐衝撃性に優れ、多層構造体自体の外観、耐屈曲性及び折り目強度に優れる多層構造体並びにその多層構造体を備える縦製袋充填シール袋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る縦製袋充填シール袋を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の多層構造体は、樹脂成分が実質的にエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)及び酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)(以下「重合体(B)」と略記する場合がある)のみからなる樹脂組成物(x)からなる層(X)並びに層(X)の両面側に熱可塑性樹脂(C)を含む層(Y)を備え、EVOH(A)に対する重合体(B)の質量比(B/A)が3/97以上17/83以下であり、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1g/10min以上10g/10min以下であり、全層の平均厚みの合計が50μm以上500μm以下であり、全層の平均厚みの合計に対する層(X)の平均厚みの割合が1%以上15%以下である。
【0014】
本発明において、樹脂成分が実質的にEVOH(A)及び重合体(B)のみからなる樹脂組成物(x)とは、本発明の効果を損なわない範囲であれば樹脂組成物(x)に他の樹脂成分を含んで良いことを意味する。樹脂成分とは、1又は複数の構造単位を有する重合体の成分であってよい。樹脂成分とは、例えば分子量が1,000以上の化合物(高分子)の成分であってよい。また、平均厚みとは、多層構造体における任意の5ヶ所で測定した厚みの平均値をいう。
【0015】
(層(X))
層(X)は、樹脂成分が実質的にEVOH(A)及び重合体(B)のみからなる樹脂組成物(x)からなる。層(X)が樹脂組成物(x)からなることで、透明性を維持した状態で耐屈曲性、耐衝撃性及び折り目強度が増加する傾向となる。層(X)がEVOH(A)及び重合体(B)以外の樹脂成分を含む場合、透明性、耐衝撃性、折り目強度等が低下する傾向となる。
【0016】
層(X)の平均厚みは、バリア性の観点から1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、6μm以上がさらに好ましい。また、上記層(X)の平均厚みは、耐屈曲性の観点から20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下がさらに好ましい。上記層(X)の平均厚みは、本発明の多層構造体に含まれる全ての層(X)の平均厚みの合計を意味する。
【0017】
本発明の多層構造体の平均厚み(本発明の多層構造体を構成する全層の平均厚みの合計)に対する層(X)の平均厚みの割合は1%以上であり、3%以上が好ましく、6%以上がより好ましい。また層(X)の平均厚みの割合は、15%以下であり、12%以下が好ましい。層(X)の平均厚みの割合が1%未満であると多層構造体の膜面にストリーク等が発生する成形不良(以下「膜面安定性」と表現する場合がある)に伴い、外観が悪化する傾向となる。また、層(X)の平均厚みの割合が15%超であると耐屈曲性が低下する傾向となる。ここで、膜面とは層(X)と層(Y)との界面を意味し、層(X)と層(Y)が接着性樹脂層等の他の層を介して積層されている場合は、各層(層(X)及び層(Y))と他の層との界面を意味する。
【0018】
層(X)は、本発明の多層構造体に少なくとも1層含まれていればよく、本発明の多層構造体が層(X)を複数層含む場合、それぞれの層(X)は同一であっても異なっていてもよい。本発明の多層構造体に含まれる層(X)の層数の上限は、例えば40層、10層又は3層であってよい。本発明の多層構造体に含まれる層(X)は1層であることが好ましいこともある。また、本発明の多層構造体が複数の層(X)を含む場合の上記層(X)の平均厚みは、上記の通り、複数の層(X)の平均厚みの合計を意味する。
【0019】
層(X)1層の平均厚みは、バリア性の観点から1μm以上、さらには3μm以上又は6μm以上が好ましいことがある。また、層(X)1層の平均厚みは、耐屈曲性の観点から20μm以下、さらには15μm以下又は12μm以下が好ましいことがある。
【0020】
(EVOH(A))
樹脂組成物(x)がEVOH(A)を含むことで、層(X)、ひいては本発明の多層構造体のガスバリア性が良好になる。
【0021】
EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得ることができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的であるが、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のその他の脂肪酸ビニルエステルであってもよい。
【0022】
EVOH(A)のエチレン単位含有量は20モル%以上が好ましく、22モル%以上がより好ましく、24モル%以上がさらに好ましい。また、前記EVOH(A)のエチレン単位含有量は60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有量が20モル%以上であると、溶融成形性及び高湿下でのガスバリア性が良好となる傾向にある。一方、エチレン単位含有量が60モル%以下であると、ガスバリア性が高まる傾向にある。EVOH(A)のエチレン単位含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0023】
EVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。ケン化度を90モル%以上とすることで、ガスバリア性を高めること等ができる。またEVOH(A)のケン化度は100モル%以下であっても、99.99モル%以下であってもよい。EVOH(A)のケン化度は、H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。EVOH(A)のケン化度が上記範囲内であると、良好なガスバリア性となる傾向にある。
【0024】
また、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)が前記他の単量体単位を有する場合、EVOH(A)の全構造単位に対する前記他の単量体単位の含有量は、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その下限値は0.05モル%であってもよいし0.10モル%であってもよい。前記他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0025】
EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法の後変性されたEVOH(A)であってもよい。
【0026】
EVOH(A)として、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無又は変性の種類等が異なる2種以上のEVOH(A)を混合して用いてもよい。
【0027】
EVOH(A)の230℃、2160g荷重におけるMFRは、0.1g/10min以上が好ましく、0.5g/10min以上がより好ましく、1g/10min以上がさらに好ましい。一方、EVOH(A)のMFRは50g/10min以下が好ましく、30g/10min以下がより好ましく、15g/10min以下がさらに好ましい。EVOH(A)のMFRを上記の範囲の値とすることで、得られる樹脂組成物の溶融混練性及び溶融成形性が向上する。
【0028】
EVOH(A)は1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0029】
(酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B))
酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)とは、不飽和カルボン酸またはその無水物等をエチレン-αオレフィン共重合体に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合して得られる、変性エチレン-αオレフィン共重合体を意味する。樹脂組成物(x)が重合体(B)を含むことで屈曲性および折り目強度が増加する傾向となる。酸変性剤としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物が挙げられるが、EVOH(A)との反応性の観点から無水マレイン酸変性が好ましい。
【0030】
重合体(B)は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数3~20のαオレフィンに基づく単量体単位を有する共重合体である。該炭素原子数3~20のαオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等があげられる。より好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセンである。また、上記の炭素原子数3~20のαオレフィンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
重合体(B)中のエチレンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン-αオレフィン共重合体の全質量(100質量%)に対して、通常50質量%以上である。炭素原子数3~20のαオレフィンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン-αオレフィン共重合体の全質量(100質量%)に対して、通常50質量%以下である。
【0032】
重合体(B)は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数3~20のαオレフィンに基づく単量体単位とに加え、本発明の効果を損なわない範囲において、エチレンと炭素原子数3~20のαオレフィン以外の単量体に基づく単量体単位を有していてもよく、該単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンなどの共役ジエン;1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエンなどの非共役ジエン;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物などがあげられる。
【0033】
重合体(B)としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体等の酸変性物があげられる。中でも得られる多層構造体の耐屈曲性の観点から酸変性エチレン-1-ブテン共重合体または酸変性エチレン-プロピレン共重合体が好ましい。
【0034】
重合体(B)の酸価は、層(X)、ひいては本発明の多層構造体の透明性の観点から3.0mgKOH/g以上が好ましく、7.0mgKOH/g以上がより好ましく、8.0mgKOH/g以上がさらに好ましく、10.0mgKOH/g以上が特に好ましい。また、重合体(B)の酸価は、ゲルブツの発生を抑える観点から20mgKOH/g以下が好ましく、18mgKOH/g以下がより好ましく、15mgKOH/g以下がさらに好ましい。ここで、重合体(B)の酸価は、溶剤としてキシレンを用い、JIS K 2501の記載に従って測定した値を意味する。
【0035】
重合体(B)の230℃、2160g荷重におけるMFRは、層(X)の透明性、折り目強度等を向上させる観点から、0.1g/10min以上が好ましく、0.5g/10min以上がより好ましく、1.0g/10min以上がさらに好ましい。一方、この重合体(B)のMFRは、外観及び折り目強度を向上させる観点から、10g/10min以下が好ましく、7g/10min以下がより好ましく、5g/10min以下がさらに好ましい。
【0036】
重合体(B)は1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0037】
(樹脂組成物(x))
樹脂組成物(x)の樹脂成分は実質的にEVOH(A)及び重合体(B)のみからなり、EVOH(A)に対する重合体(B)の質量比(B/A)が3/97以上17/83以下である。質量比(B/A)は5/95以上が好ましく、7/93以上がより好ましく、9/91以上がさらに好ましい。また、質量比(B/A)は15/85が好ましく、13/87以下がより好ましく、11/89以下がさらに好ましい。質量比(B/A)が3/97未満であると耐屈曲性及び折り目強度が低下する傾向となる。また質量比(B/A)が17/83超であると流動性不良による膜面安定性の低下により外観が低下する傾向となる。また質量比(B/A)が17/83超であると層(X)の透明性が低下する。
【0038】
樹脂組成物(x)のJIS K 7210:2014に従って測定した210℃、2160g荷重におけるMFRは、1.2g/10min以上が好ましく、1.5g/10min以上がより好ましく、2.0g/10min以上がさらに好ましい。210℃、2160g荷重におけるMFRが1.2g/10min未満であると流動性が低下し膜面安定性が低下する傾向となる。一方、前記樹脂組成物(x)の210℃、2160g荷重におけるMFRは、10g/10min以下が好ましく、5g/10min以下がより好ましい。
【0039】
EVOH(A)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるMFRと、重合体(B)のJIS K 7210:2014に従って測定した230℃、2160g荷重におけるMFRとの差の絶対値は、外観、折り目強度、耐衝撃性等を良好にする観点から10g/10min以下が好ましく、7g/10min以下がより好ましく、4g/10min以下がさらに好ましい。
【0040】
樹脂組成物(x)の樹脂成分に対するEVOH(A)及び重合体(B)の合計含有量は、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、99.9質量%以上が特に好ましい。
【0041】
樹脂組成物(x)に対する樹脂成分の含有量は、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物(x)における、EVOH(A)及び重合体(B)の含有量も、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0042】
(その他の成分)
樹脂組成物(x)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば、EVOH(A)及び重合体(B)以外の樹脂、カルボン酸化合物、リン酸化合物、ホウ素化合物、金属塩、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、乾燥剤、各種繊維などの補強剤などのその他の成分(EVOH(A)及び重合体(B)以外の成分)を含有してもよい。
【0043】
EVOH(A)及び重合体(B)以外の樹脂としては、例えば、非変性ポリエチレン、非変性ポリプロピレン、非変性エチレン-αオレフィン共重合体等の非変性ポリオレフィン;ポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリエステル;ポリスチレン;エポキシ樹脂;アクリル樹脂;ウレタン樹脂;ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、重合体(B)との相溶性に優れる観点から非変性ポリオレフィンであることが好ましく、非変性エチレン-αオレフィン共重合体がより好ましい。樹脂組成物(x)がEVOH(A)及び重合体(B)以外の樹脂を含む場合、本発明の効果を阻害しない観点から、その含有量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。樹脂組成物(x)はEVOH(A)及び重合体(B)以外の樹脂を含まない態様であってもよい。
【0044】
樹脂組成物(x)がカルボン酸化合物を含むと、溶融成形時の着色を抑制できる傾向となる。樹脂組成物(x)に含まれるカルボン酸は、モノカルボン酸でも多価カルボン酸でもよく、これらの組み合わせであってもよい。樹脂組成物(x)に含まれるカルボン酸はイオンであってもよく、かかるカルボン酸イオンは金属イオンと塩を形成していてもよい。
【0045】
樹脂組成物(x)がリン酸化合物を含むと、溶融成形時の着色を抑制できる傾向となる。樹脂組成物(x)に含まれるリン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩が好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。樹脂組成物(x)がリン酸化合物を含む場合、リン酸化合物の含有量はリン酸根換算で5ppm以上200ppm以下が好ましい。リン酸化合物の含有量が5ppm以上であると、溶融成形時の耐着色性が良好となる傾向にある。一方、リン酸化合物の含有量が200ppm以下であると溶融成形性が良好となる傾向にあり、より好適には160ppm以下である。
【0046】
樹脂組成物(x)がホウ素化合物を含むと、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となる。樹脂組成物(x)に含まれるホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては前記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。樹脂組成物(x)がホウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物の含有量はホウ素元素換算で20ppm以上2000ppm以下が好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm以上であると、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となり、より好適には50ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppm以下であると、成形性を良好に保てる傾向にあり、より好適には1000ppm以下である。
【0047】
樹脂組成物(x)がアルカリ金属塩を含むと、樹脂組成物(x)からなる層(X)を有する多層構造体において、層(X)と他の樹脂層との層間接着性が良好になる傾向となる。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩またはカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加できる。樹脂組成物(x)がアルカリ金属塩を含む場合、アルカリ金属塩の含有量は金属元素換算で10ppm以上500ppm以下であることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量が10ppm以上であると層間接着性が良好となる傾向となり、より好適には50ppm以上である。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppm以下であると溶融安定性に優れる傾向となり、より好適には300ppm以下である。
【0048】
樹脂組成物(x)がアルカリ土類金属塩を含むと、成形体を繰り返し溶融成形した際の劣化抑制やゲル等の劣化物の発生を抑制できる傾向となる。アルカリ土類金属塩のカチオン種は特に限定されないが、マグネシウム塩またはカルシウム塩が好適である。アルカリ土類金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加できる。
【0049】
溶融安定性等を改善するための安定剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)等が挙げられ、樹脂組成物(x)が安定剤を含む場合、その含有量は樹脂組成物(x)において0.001質量%以上1質量%以下であってもよい。
【0050】
酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0051】
紫外線吸収剤としては、エチレン-2-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0052】
可塑剤としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。帯電防止剤としては、ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等が挙げられる。滑剤としては、エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。着色剤としては、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。充填剤としては、グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
【0053】
樹脂組成物(x)の製造方法は特に限定されないが、例えばEVOH(A)及び重合体(B)を溶融条件下で混合または混練することで製造できる。溶融条件下における混合または混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。混合または混練の時の温度は使用するEVOH(A)の融点などに応じて適宜調節すればよいが、通常160℃以上300℃以下の温度範囲内の温度を採用すればよい。
【0054】
層(X)の透明性は、層(X)の内部ヘイズを測定することで評価できる。層(X)の内部ヘイズは、内容物の外観を鮮明にする観点から15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。ここでの内部ヘイズとは、厚み20μmの層(X)からなる単層フィルムの両面に水を塗布し、ガラス板で挟んで測定したヘイズ値(曇り度)である。
【0055】
(層(Y))
層(Y)は、熱可塑性樹脂(C)を含む層であり、少なくとも層(X)の両面側に配置される。層(Y)が層(X)の両方の面側にそれぞれ配置されていないと、耐屈曲性が低下する傾向となる。層(Y)は、層(X)の表面上に直接積層されていてもよく、他の層(例えば接着性樹脂層等)を介して積層されていてもよい。
【0056】
層(Y)の平均厚みは、耐屈曲性の観点から25μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、35μm以上がさらに好ましい。また、上記層(Y)の平均厚みは、耐屈曲性の観点から499μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、80μm以下が特に好ましい。また、上記層(Y)の平均厚みは、本発明の多層構造体に含まれる全ての層(Y)の平均厚みの合計を意味する。
【0057】
層(Y)は、本発明の多層構造体に少なくとも2層含まれていればよく、それぞれの層(Y)は同一であっても異なっていてもよい。本発明の多層構造体に含まれる層(Y)の層数の上限は、例えば41層、11層又は4層であってよい。本発明の多層構造体に含まれる層(X)は2層であることが好ましいこともある。
【0058】
層(Y)1層の平均厚みは、耐屈曲性の観点から15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましい。また、層(Y)1層の平均厚みは、耐屈曲性の観点から240μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。
【0059】
層(Y)に含まれる熱可塑性樹脂(C)としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン(ブロック又はランダム)共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらを不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどのポリオレフィン;ポリエステル;ポリアミド(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリビニルエステル;ポリエステルエラストマー;ポリウレタンエラストマー;塩素化ポリスチレン;塩素化ポリプロピレン;芳香族ポリケトン又は脂肪族ポリケトン、及びこれらを還元して得られるポリアルコール;ポリアセタール;ポリカーボネート等が挙げられる。中でも、ヒートシール性及び熱収縮性が優れる観点からはエチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリエチレンが好適に用いられる。層(Y)に含まれる熱可塑性樹脂(C)は、実質的にカルボキシ基を有さない樹脂が好ましい場合がある。また、熱可塑性樹脂(C)は、接着性樹脂以外の樹脂が好ましい場合がある。
【0060】
熱可塑性樹脂(C)が層(Y)を占める割合は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。すなわち、層(Y)が実質的に熱可塑性樹脂(C)のみから構成されていてもよい。
【0061】
(多層構造体)
本発明の多層構造体の層構成は、層(X)の両面側に層(Y)を備えていれば、特に限定されないが、接着性樹脂層をAdで表した場合、Y/X/Y、Y/X/Ad/Y、Y/Ad/X/Ad/Y、Y/Ad/Y/X/Y/Ad/Y、Y/X/Y/X/Y等を例示できる。中でも、本発明の多層構造体がY/Ad/X/Ad/Yのように、層(X)と層(Y)との間に接着性樹脂層を有していることが好ましい。本発明の多層構造体が上記層構成を有していることで、耐屈曲性及び折り目強度が極めて良好となる傾向となる。一方、本発明の多層構造体が、例えばX/Ad/Yのように、本発明の構成を満たさない場合、耐屈曲性が低下するのみならず、折り目強度も同様に低下する。また、Y/X/Ad/Yのように、層(X)及び層(Y)が直接積層されている箇所がある場合に比べて、Y/Ad/X/Ad/Yのように、層(X)と層(Y)とが全て接着性樹脂層を介して積層されている場合、耐屈曲性等がより高まる。特に、層(Y)に含まれる熱可塑性樹脂(C)が極性官能基を有さないポリオレフィンである場合は、Y/Ad/X/Ad/Yのように、層(X)と層(Y)との間に接着性樹脂層を有することが好ましい。
【0062】
本発明の多層構造体を構成する全層の層数の下限は、3層であり、5層が好ましい。一方、この全層の層数の上限は、例えば100層であってよく、40層、20層又は10層であってもよい。
【0063】
本発明の多層構造体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、押出コーティング、共押出、共射出、ラミネート等公知の方法を使用でき、層(X)と層(Y)は接着性樹脂層を介していてもよい。
【0064】
接着性樹脂としては、層(X)及び層(Y)との接着性を有していれば特に限定されないが、カルボン酸変性された接着性樹脂が好ましく、具体的にはエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物を化学的に結合させたカルボキシル基を含有する接着性樹脂が好ましい。かかる接着性樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等の不飽和カルボン酸変性体が好ましい。
【0065】
接着性樹脂層の1層の平均厚みとしては、例えば1μm以上20μm以下であってよく、2μm以上10μm以下が好ましい。
【0066】
(包装材及び縦製袋充填シール袋)
本発明の多層構造体は、層(X)が高いガスバリア性及び透明性を維持しつつ耐衝撃性に優れ、かつ、多層構造体自体の外観、耐屈曲性及び折り目強度に優れるため、フレキシブルな包装材として有用である。フレキシブルな包装材としては、例えば縦製袋充填シール袋が挙げられる。縦製袋充填シール袋は様々な用途に適用することができるが、酸素に対するバリア性が必要となる用途、例えば、食品を内容物とする袋として好ましく用いられる。本発明の縦製袋充填シール袋の内容物は、日用品;農薬、医薬などの薬品;医療器材;機械部品、精密材料などの産業資材;衣料などであってもよい。
【0067】
縦製袋充填シール袋は、例えば、液体、粘稠体、粉体、固形バラ物、または、これらを組み合わせた食品や飲料物などを包装するために用いられることが多い。本発明の多層構造体を備える縦製袋充填シール袋は、ガスバリア性及び透明性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にそのガスバリア性が維持される。また優れた折り目強度を有するため、内容物を充填する際もフィルムは破断が起こりにくく、生産性に優れている。
【0068】
縦製袋充填シール袋(Vertical form fill seal pouch)の一形態を図1に示す。図1の縦製袋充填シール袋1は、シール袋1の上端部11、下端部12及び胴体部15の三方でフィルム材10がシールされている。図示したシール袋1では、胴体部15は、背面20を二つに分割するように上端部11から下端部12へと伸びる背面中央部に配置されている。上端部11、下端部12及び胴体部15において、フィルム材10はその内面同士が接触する状態でシールされている。すなわち、胴体部15におけるシールの形態はいわゆる合掌貼りである。図1には示されていないシール袋1の前面(背面の反対側にある背面と同形状の面)は、背面20とは異なり、シールされた部分により分割されておらず、通常は内容物や商品を表示する面として用いられる。なお、シールされる胴体部15は、側端部21、22のいずれかに配置されることもあり、この場合は背面もシールされた部分により分割されることがない。図示したシール袋1は、背面20の幅の2倍(前面の幅と背面の幅の合計)に胴体部15でのシールに要する幅を加えた幅を有する1枚のフィルム材10が縦型製袋充填機に供給されて製造された袋である。上端部11、下端部12及び胴体部15は、いずれも分岐がない直線状のシール部として形成されている。以上のように、縦製袋充填シール袋は、その一形態において、袋の前面および背面の上辺に相当する上端部、下辺に相当する下端部、上端部から下端部に至るまでこれらの端部に垂直に伸びる胴体部の3つの部位において、1枚のフィルム材がシールされて製袋されている。フィルム材10が、本発明の多層構造体を含む。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例及び比較例で用いた材料)
・EVOH(A)
A-1:「エバール(登録商標)L171B」(EVOH、株式会社クラレ製、エチレン単位含有量:27モル%、MFR:8.0g/10min(230℃、2160g荷重))
・酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)
B-1:「タフマー(商標)MH7020」(無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:1.5g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価12mgKOH/g)
B-2:「タフマー(商標)MH7010」(無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:1.8g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価6mgKOH/g)
B-3:「タフマー(商標)MP0620」(無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:0.3g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価12mgKOH/g)
B-4:「タフマー(商標)MA8510」(無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:5.0g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価6mgKOH/g)
B-5:「タフマー(商標)MP0610」(無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:0.6g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価6mgKOH/g)
B-6:「Fusabond(商標)M603」(酸変性エチレン-αオレフィン共重合体、Du pont製、MFR:50g/10min(230℃、2160g荷重)、酸価42mgKOH/g)
・エチレン-αオレフィン共重合体(B’)
B’-1:「タフマー(商標)P0280」(エチレン-プロピレン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:5.4g/10min(230℃、2160g荷重))
B’-2:「タフマー(商標)A4070」(エチレン-ブテン共重合体、三井化学株式会社製、MFR:6.7g/10min(230℃、2160g荷重))
上記樹脂のMFR及び酸価は後述する評価方法(1)及び(2)に従って測定した。
【0071】
(評価方法)
(1)メルトフローレート(MFR)
実施例及び比較例で使用する樹脂並びに実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、JIS K 7210:2014に準じて、メルトインデクサを用い、温度210℃または230℃、2160g荷重の条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定した。各樹脂については温度230℃の条件とし、各樹脂組成物については温度210℃の条件とした。
【0072】
(2)酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)の酸価
JIS K 0070:1992に準じて、酸変性エチレン-αオレフィン共重合体(B)をキシレンに溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として用い、0.05mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液を滴下することで酸価を算出した。
【0073】
(3)透明性評価(内部ヘイズ)
実施例及び比較例で得られた厚み20μmの単層フィルムについて、JIS K7375に準じて、ポイック積分球式光線透過率・全光線反射率計(村上色彩技術研究所製「HR-100型」)を使用し内部ヘイズを測定した。内部ヘイズとは、フィルム両面に水を塗布し、ガラス板で挟んで測定したヘイズ値(曇り度)である。
【0074】
(4)衝撃強度評価
実施例及び比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムについて23℃/50%RHの条件下で調湿したのち、フィルムインパクトテスター(東洋精機製)を使用し測定を行った。
【0075】
(5)多層フィルム外観評価(膜面のストリーク有無)
実施例及び比較例で得られた多層フィルムの膜面を、以下の基準で目視評価した。
A:良好な膜面
B:わずかにストリークあり
C:ゲルブツが確認できる
【0076】
(6)酸素透過速度(ガスバリア性評価)
実施例及び比較例で得られた厚み20μmの単層フィルムを20℃、65%RHの条件下で7日間調湿後、JIS K 7126-2(等圧法)に準じ、20℃、65%RHの条件下で酸素透過速度の測定(Mocon社製「OX-TORAN MODEL 2/21」)を行った。
【0077】
(7)耐屈曲性評価
実施例及び比較例で得られた多層フィルムを23℃/50%RHの条件下で調湿したのち、ゲルボフレックステスター(テスター産業株式会社製BE-1005)を使用し、屈曲性の測定を行った。具体的には、まず、12インチ×8インチのフィルムを直径3.5インチの円筒状とした。この両端を把持し、初期把持間隔7インチ、最大屈曲時の把持間隔1インチ、ストロークの最初の3.5インチで角度440度のひねりを加え、その後2.5インチは直進水平運動である動作の繰り返しからなる往復運動を40回/分の早さで行い、1000回往復運動後のピンホールの発生有無を評価した。
【0078】
(8)折り目強度評価
実施例及び比較例で得られた多層フィルムを23℃/50%RHの条件下で調湿したのち、JIS K7124に準じて、ダートインパクトテスター(テスター産業製IM-302)を使用し測定を行った。測定は、多層フィルムをMD方向にそって折りたたみ、フィルムに折り目をつけた後、フィルムを開いて折れ目から5mm離れた位置に260gのおもりによる衝撃が当たるようにした。折り曲げ部に沿ってフィルムが裂けるかどうかを判定した。
【0079】
(実施例1)
EVOH(株式会社クラレ製、「エバール(登録商標)L171B」)(A-1)95質量部、及びエチレン-ブテン共重合体(三井化学株式会社製、「タフマー(商標)MH7020」)(B-1)5質量部をドライブレンドし、以下の押出機の条件で樹脂組成物ペレットを得た。
<押出機の条件>
装置:30mmφ二軸押出機
L/D:45.5
スクリュー:同方向完全噛合型
押出し温度(℃):220℃
回転数:200rpm
吐出量:20kg/hr
【0080】
得られた樹脂組成物ペレットを用い、以下の条件で厚み20μm及び100μmの単層フィルムを作製した。
<厚み20μmの単層フィルム作製条件>
装置:20mmφ単軸押出機(東洋精機製作所製ラボプラストミル15C300)
L/D:20
スクリュー:フルフライト
ダイ:300mmコートハンガーダイ
押出し温度(℃):C1=200、C2~C5=230、Die=230
スクリーン:50/100/50
冷却ロール温度:80℃
引取り速度:3.0~3.5m/分
フィルム厚み:20μm
<厚み100μmの単層フィルム作製条件>
装置:20mmφ単軸押出機(東洋精機製作所製ラボプラストミル15C300)
L/D:20
スクリュー:フルフライト
ダイ:300mmコートハンガーダイ
押出し温度(℃):C1=200、C2~C5=230、Die=230
スクリーン:50/100/50
冷却ロール温度:80℃
引取り速度:1.5m/分
フィルム厚み:100μm
【0081】
また、得られた樹脂組成物ペレットを用い、以下の条件で多層フィルム(多層構造体)を作製した。
<多層フィルム作製条件>
低密度ポリエチレン(LDPE):日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標) LC600」
接着性樹脂(Ad):三井化学株式会社製「アドマー(登録商標) NF500」
多層フィルムの層構成:LDPE層(Y)/Ad/樹脂組成物層(X)/Ad/LDPE層(Y)=34μm/6μm/10μm/6μm/34μm(総厚み90μm)
装置:フィードブロック型3種5層フィルム押出成形機
ダイ温度:220℃。冷却ロール温度:60℃。引取り速度:5.0m/min。
<LDPE層押出機の条件>
押出機:32φ単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所製)。回転数:57rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/210℃。
<接着性樹脂層押出機の条件>
押出機:20φ単軸押出機(株式会社テクノベル製)。回転数:25rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/220℃。
<樹脂組成物層押出機の条件>
押出機:20φ単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)。回転数:20rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=175℃/210℃/220℃。
【0082】
得られた単層フィルム及び多層フィルムについて、上記(3)~(8)の評価方法に従って、透明性、衝撃強度、多層フィルムの外観、酸素透過度、耐屈曲性及び折り目強度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2~7、比較例1~6)
表1に記載される通り重合体(B)(及び重合体(B’))の種類及びEVOH(A-1)との質量比を変更した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製した。また、表1に記載した通りに全層厚みを変更した以外は、実施例1と同様の方法で多層フィルムを作製した。なお、接着性樹脂層の厚みはいずれも実施例1と同じ厚みとし、樹脂組成物層(X)とLDPE層(Y)の厚みを変更して、全層厚みを調整した。実施例2~7、比較例1~4及び6については実施例1と同様の評価を実施し、比較例5については上記(3)~(7)の評価方法に従って、透明性、衝撃強度、多層フィルムの外観、酸素透過度及び耐屈曲性について評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例7)
フィードブロック型3種5層フィルム押出成形機の片側の接着性樹脂層及びLDPE層を形成するための流路を閉じ、各層の厚みを調整した以外は実施例2と同様の方法で、LDPE層(Y)/Ad/樹脂組成物層(X)=74μm/6μm/10μm(総厚み90μm)の多層フィルムを作製した。なお、単層フィルムについては実施例2と同様の方法で作製した。
装置:フィードブロック型3種5層フィルム押出成形機
ダイ温度:220℃。冷却ロール温度:60℃。引取り速度:5.0m/min。
<LDPE層押出機の条件>
押出機:32φ単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所製)。回転数:62rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/210℃。
<接着性樹脂層押出機の条件>
押出機:20φ単軸押出機(株式会社テクノベル製)。回転数:12.5rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/220℃。
<樹脂組成物層押出機の条件>
押出機:20φ単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)。回転数:20rpm。押出温度:供給部/圧縮部/計量部=175℃/210℃/220℃。
【0085】
得られた単層フィルム及び多層フィルムについて、上記(3)~(8)の評価方法に従って、透明性、衝撃強度、多層フィルムの外観、酸素透過度、耐屈曲性及び折り目強度の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1~3から、樹脂組成物における重合体(B)の含有比率の増加に伴い、衝撃強度が高まる一方透明性及び酸素透過度が悪化する傾向が読み取れるが、外観、耐屈曲性及び折り目強度等を含め、いずれの評価結果も良好であることがわかる。一方、比較例1のように非変性の重合体(B’)を含む樹脂組成物を用いた場合、透明性の低下や折り目強度の低下が見られることがわかる。また、重合体(B)の比率が高い比較例2では、透明性及び酸素透過度が悪化すると同時に、多層フィルムの膜面にストリークが発生していることがわかる。実施例1と実施例4~6の対比から、重合体(B)を変更した場合でもMFRが特定の範囲であれば、いずれの評価項目も良好であることがわかる。また、実施例7から、EVOH(A)及び重合体(B)以外の他の樹脂を含む場合であっても、その含有量が微量であれば十分な効果が得られることがわかる。そして、実施例2と実施例7とを対比すると、EVOH(A)及び重合体(B)以外の他の樹脂を含まない場合には、透明性及び耐衝撃性がより高まることがわかる。比較例3のように重合体(B)を含まない樹脂組成物を用いた場合は、透明性及びガスバリア性は良好となるが、衝撃強度、耐屈曲性及び折り目強度が悪化することがわかる。比較例4に記載の通り、MFRが高い酸変性エチレン-αオレフィン共重合体を用いた場合、衝撃強度が高くならず折り目強度が悪化し、多層フィルムの膜面でゲルブツが発生する傾向にあることがわかる。また、比較例5~7に記載の通り、フィルムの膜厚、層(X)の比率及び層構成によって、耐屈曲性に影響が出ることが読み取れる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の多層構造体は、フレキシブルな包装材として好適に使用でき、用途に限定されず、例えば、食品用、医薬用、工業薬品用、農薬用等、幅広い分野に適用できる。特に縦製充填シール袋として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0089】
1 縦製袋充填シール袋
10 フィルム材
11 上端部
12 下端部
15 胴体部
20 背面
21、22 側端部
図1