(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】インク組成物、インクセット、及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20221129BHJP
C09D 11/326 20140101ALN20221129BHJP
B41M 5/00 20060101ALN20221129BHJP
B41J 2/01 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
C09D11/037
C09D11/326
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021503470
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2020004026
(87)【国際公開番号】W WO2020179313
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019039672
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白木 文也
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-249769(JP,A)
【文献】特開2012-153754(JP,A)
【文献】特開2013-076028(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173901(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181992(WO,A1)
【文献】特開2016-132758(JP,A)
【文献】特開平11-263930(JP,A)
【文献】特開2007-302804(JP,A)
【文献】特開2018-100341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤によって架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料と、下記式(1)で表されるベタイン化合物(1)と、水と、を含有するインク組成物。
【化1】
式(1)中、R
1は、炭素数6~20のアルキル基を表し、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~5の鎖状炭化水素基を表し、L
1は、単結合又は二価の連結基を表し、L
2は、二価の連結基を表し、A
-は、-SO
3
-基を表す。
【請求項2】
前記架橋剤によって架橋された樹脂は、カルボキシ基を有する未架橋の水溶性樹脂と、架橋剤としての2官能以上のエポキシ化合物と、の反応物である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ベタイン化合物(1)の分子量が、1000以下である請求項1
又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
更に、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される化合物である有機溶剤Aを含有する請求項1
~請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化2】
式(A1)中、R
A11は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表し、R
A12は、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~3の整数を表す。
式(A2)中、R
A21は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表す。
【請求項5】
前記ベタイン化合物(1)の含有質量に対する前記有機溶剤Aの含有質量の比が、0.5~100である請求項
4に記載のインク組成物。
【請求項6】
更に、樹脂粒子を含有する請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記樹脂粒子が、下記式(p-1)で表される構造単位p-1を含む樹脂からなる樹脂粒子Pを含む請求項
6に記載のインク組成物。
【化3】
式(p-1)中、R
31は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、X
1は、2価の連結基を表し、Y
1は、アニオン性基を表し、X
1及びY
1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている。
【請求項8】
前記構造単位p-1を含む樹脂中に占める前記構造単位p-1の割合が、1質量%~20質量%である請求項
7に記載のインク組成物。
【請求項9】
2種以上のインクを備え、
前記2種以上のインクのうちの少なくとも1種が、請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載のインク組成物であるインクセット。
【請求項10】
記録媒体上に、請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載のインク組成物である第1インクを付与する工程と、
前記記録媒体上に付与された前記第1インク上に、色材及び水を含有し、第1インクとは色相が異なる第2インクを付与する工程と、
を含む画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、両性界面活性剤を含有するインク組成物が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、記録媒体の吸収性にかかわらず、色滲みやカラーブリードの無い画像を印刷する事が可能なインクジェット記録方法として、少なくとも色材、アニオン性樹脂エマルジョン、水溶性有機溶媒、水から構成される水性インク組成物と、上記水性インク組成物と接触したときに凝集物を生じさせる反応剤及びカチオン性樹脂エマルジョンを含んでなる反応液とを組み合わせたインクセットを用いた記録方法が開示されており、更に、インク組成物がアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高明度色と低明度色との境界でも、色滲みなどを防止可能な水性顔料インク組成物セットとして、分散顔料と界面活性剤とを含む水性インク組成物2種以上からなるインクセットであって、(1)明度が最も低いインク組成物の表面張力を他のインク組成物の表面張力よりも高くし、(2)明度が最も高いインク組成物の表面張力を他のインク組成物の表面張力よりも低くし、更に(3a)明度が最も低いインク組成物中の分散顔料、及び明度が最も高いインク組成物中の分散顔料が、共にアニオン性分散顔料である場合には、(イ)明度が最も低いインク組成物がアニオン性界面活性剤を含み、明度が最も高いインク組成物が両性界面活性剤を含むか、若しくは(ロ)明度が最も低いインク組成物が両性界面活性剤を含み、明度が最も高いインク組成物がアニオン性界面活性剤を含むか、あるいは(3b)明度が最も低いインク組成物中の分散顔料、及び明度が最も高いインク組成物中の分散顔料が、共にカチオン性分散顔料である場合に、(イ)明度が最も低いインク組成物がカチオン性界面活性剤を含み、明度が最も高いインク組成物が両性界面活性剤を含むか、若しくは(ロ)明度が最も低いインク組成物が両性界面活性剤を含み、明度が最も高いインク組成物がカチオン性界面活性剤を含むインクセットが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、インクジェット記録方法を用いて普通紙に高速で印字した際にも、吐出安定性や保存安定性に優れ、かつ良好な記録画像与えることのできるインクジェット記録用顔料インクとして、ポリマー微粒子に水不溶性または難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョンを含有するインクジェット記録用インクにおいて、グリセリン、1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、およびトリメチロールエタンから選ばれた少なくとも1種類以上の湿潤剤(第1の種類のヒドロキシ化合物)を含有し、炭素数8以上で11以下のポリオール(第2の種類のヒドロキシ化合物)またはグリコールエーテル、両性界面活性剤、水溶性有機溶剤、水を少なくとも含有し、25℃におけるインク粘度が5mPa・sec以上であるインクジェット記録用インクが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、高温保存安定性に優れたインクジェット用インクとして、少なくとも、顔料、水溶性溶媒、少なくとも2種類以上の界面活性剤、及び水を含有するインクジェット用インクであって、
(I)上記界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤の少なくとも1種類以上と、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の少なくとも1種類以上と、を更に含有し、
(II)上記ノニオン性界面活性剤の重量平均分子量が1000以下であり、SP値が9.2~13であり、かつ、親水基部を構成するユニット中の炭素原子数と酸素原子数の和が10以上であり、
(III)上記アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の重量平均分子量が175以上1500以下であるインクジェット用インクが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、保存安定性、吐出安定性が高く、かつ普通紙・再生紙等においては滲み・濃淡ムラ・裏抜けが少なくて画像濃度が高く、光沢メディアにおいては滲み・濃淡ムラが無く光沢性に優れた、インクジェット記録用インクとして好適な水性インク組成物として、着色成分、保湿剤、HLB値が8以下の非イオン系界面活性剤、水、及び両性界面活性剤を少なくとも含んでなる水性インク組成物であって、該着色成分が着色剤を分散ポリマーで包含して水に分散可能となる分散体であり、かつ該分散ポリマーが疎水性部分と親水性部分とから成り、該親水性部分の少なくとも一部分が該疎水性部分の一部分である未中和基を中和して得られる中和基であって、中和基の存在量が未中和基と中和基との和に対してモル比で20%以上60%未満の範囲であるものからなる水性インク組成物が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、高い光硬化感度を有し、長期に保存しても、光硬化感度の変動が少なく、高い出射安定性が得られる活性エネルギー線硬化型インクジェットインクとして、それぞれ重合性不飽和結合を有する少なくとも2種の重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインクにおいて、上記少なくとも2種の重合性化合物が有するそれぞれの重合性不飽和結合を構成する炭素原子の電荷の差の最大値が、0.24以上、0.40以下であり、更に該インクが、0.2mgKOH/g以上の酸価、および0.2mgKOH/g以上のアミン価を有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-111374号公報
【文献】特開2002-155225号公報
【文献】特開2003-201429号公報
【文献】特開2006-241279号公報
【文献】特開2006-274128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、記録媒体上に、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与することにより多色画像を形成する場合がある。この場合において、上層側に付与されたインクが滲む、色間滲みを生じる場合がある。
本発明者の検討により、少なくとも下層側のインク(例えば1色目のインク)に対し、両性界面活性剤の1種である、炭素数6~20のアルキル基を有するベタイン化合物を含有させることにより、色間滲みを抑制できることが判明した。しかし、本発明者の検討により、インクに対し、炭素数6~20のアルキル基を有するベタイン化合物を含有させた場合には、インクの保存安定性が低下する場合があることも判明した。
【0011】
本開示の一態様が解決しようとする課題は、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与した場合の色間滲みを抑制でき、かつ、保存安定性の低下が抑制されたインク組成物、このインク組成物を含むインクセット、及び、上記インク組成物を用いた画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料と、下記式(1)で表されるベタイン化合物(1)と、水と、を含有するインク組成物。
【0013】
【0014】
式(1)中、R1は、炭素数6~20のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~5の鎖状炭化水素基を表し、L1は、単結合又は二価の連結基を表し、L2は、二価の連結基を表し、A-は、-SO3
-基又は-COO-基を表す。
<2> ベタイン化合物(1)の分子量が、1000以下である<1>に記載のインク組成物。
<3> A-が、-SO3
-基である<1>又は<2>に記載のインク組成物。
<4> 更に、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される化合物である有機溶剤Aを含有する<1>~<3>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0015】
【0016】
式(A1)中、RA11は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表し、RA12は、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~3の整数を表す。
式(A2)中、RA21は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表す。
【0017】
<5> ベタイン化合物(1)の含有質量に対する有機溶剤Aの含有質量の比が、0.5~100である<4>に記載のインク組成物。
<6> 更に、樹脂粒子を含有する<1>~<5>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<7> 樹脂粒子が、下記式(p-1)で表される構造単位p-1を含む樹脂からなる樹脂粒子Pを含む<6>に記載のインク組成物。
【0018】
【0019】
式(p-1)中、R31は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、X1は、2価の連結基を表し、Y1は、アニオン性基を表し、X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている。
【0020】
<8> 構造単位p-1を含む樹脂中に占める構造単位p-1の割合が、1質量%~20質量%である<7>に記載のインク組成物。
<9> 2種以上のインクを備え、
2種以上のインクのうちの少なくとも1種が、<1>~<8>のいずれか1つに記載のインク組成物であるインクセット。
<10> 記録媒体上に、<1>~<8>のいずれか1つに記載のインク組成物である第1インクを付与する工程と、
記録媒体上に付与された第1インク上に、色材及び水を含有し、第1インクとは色相が異なる第2インクを付与する工程と、を含む画像形成方法。
【発明の効果】
【0021】
本開示の一態様によれば、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与した場合の色間滲みを抑制でき、かつ、保存安定性の低下が抑制されたインク組成物、このインク組成物を含むインクセット、及び、上記インク組成物を用いた画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0023】
本開示において、「画像」とは、インク組成物を用いて形成される膜全般(塗膜を含む)を意味する。
本開示における「画像」の概念には、ベタ画像(solid image)も包含される。
【0024】
本開示において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド及びメタクリルアミドの両方を包含する概念である。
【0025】
本開示のインク組成物(以下、単に「インク」ともいう)は、架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料と、下記式(1)で表されるベタイン化合物(1)と、水と、を含有する。
【0026】
【0027】
式(1)中、R1は、炭素数6~20のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~5の鎖状炭化水素基を表し、L1は、単結合又は二価の連結基を表し、L2は、二価の連結基を表し、A-は、-SO3
-基又は-COO-基を表す。
【0028】
本開示のインクによれば、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与した場合の色間滲みを抑制できる。
更に、本開示のインクは、保存安定性の低下が抑制されている。
【0029】
本開示において、色間滲みとは、記録媒体上に、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与した場合において、上層側に付与されたインクが滲む現象を意味する。
【0030】
色間滲み抑制の効果が奏される理由は、以下のように推測される。
本開示のインク(以下、「第1インク」ともいう)を記録媒体上に付与した場合、記録媒体上に、第1インクによる膜(以下、「インク膜」ともいう)が形成される。記録媒体上のインク膜において、第1インクに含有されるベタイン化合物(1)は、インク膜の表面(即ち、気液界面)近傍に移動し、このインク膜の表面近傍に偏在すると考えられる。このインク膜の表面近傍において、ベタイン化合物(1)は、疎水的な基であるR1(即ち、炭素数6~20のアルキル基)が気液界面側を向き、残りの部分がインク膜中を向くように配向すると考えられる。このようにして、インク膜の表面(気相との界面)が疎水的になると考えられる。
上述した疎水的な表面を有する上記インク膜上に、別の水系インク(例えば、2色目以降の水系インク;以下、第2インクともいう)が付与された場合には、インク膜の成分である本開示のインク(即ち、第1インク)と、上記インク膜上に付与された第2インクと、の間での混合が抑制されると考えられる。
従って、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与する際、本開示のインクを、少なくとも下層側のインク(例えば1色目のインク)として用いることにより、色相が異なる2種以上のインクを重ねて付与した場合の色間滲みを抑制できると考えられる。
ここで、上層側に付与されるインク(例えば、2色目以降のインク)は、本開示のインクであってもよいし、本開示のインク以外の水系インクであってもよい。
【0031】
本発明者の検討により、樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料(詳細には、後述の未架橋樹脂被覆顔料)を含有するインクに、ベタイン化合物(1)を含有させた場合には、インクの保存安定性が低下する場合があることが判明した。
インクの保存安定性の低下の理由は、ベタイン化合物(1)が樹脂被覆顔料における樹脂と相互作用することにより、顔料から樹脂が剥ぎ取られて顔料が剥き出しになり、その結果、顔料の分散安定性が低下するためと考えられる。
【0032】
上述した保存安定性の問題に関し、本開示のインクでは、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていることにより、顔料から樹脂が剥ぎ取られる現象が抑制されると考えられる。
このようにして、本開示のインクでは、ベタイン化合物(1)を含有するインクであるにもかかわらず、顔料の分散安定性の低下が抑制され、ひいてはインクの保存安定性の低下が抑制されると考えられる。
【0033】
本開示のインクは、各種のインクとして特に制限なく用いることができるが、特に、インクジェットインクとして好適に用いることができる。
本開示のインクをインクジェットインクとして用いた場合には、インクジェットヘッドからの吐出性(以下、「インクの吐出性」ともいう)に優れる。かかる効果が奏される理由は、インクの保存安定性の低下が抑制される理由と同様の理由が考えられる。
【0034】
以下、本開示のインクに含有され得る各成分について説明する。
【0035】
<ベタイン化合物(1)>
本開示のインクは、ベタイン化合物(1)を少なくとも1種含有する。
ベタイン化合物(1)は、下記式(1)で表されるベタイン化合物である。
【0036】
【0037】
式(1)中、R1は、炭素数6~20のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~5の鎖状炭化水素基を表し、L1は、単結合又は二価の連結基を表し、L2は、二価の連結基を表し、A-は、-SO3
-基(即ち、スルホネート基)又は-COO-基(即ち、カルボキシレート基)を表す。
【0038】
式(1)中、R1で表される炭素数6~20のアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐アルキル基であってもよい。
R1で表される炭素数6~20のアルキル基の炭素数は、好ましくは8~18であり、より好ましくは10~16である。
【0039】
式(1)中、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~5の鎖状炭化水素基を表す。
R2又はR3で表される炭素数1~5の鎖状炭化水素基は、ヒドロキシ基によって置換されていてもよい。
R2又はR3で表される炭素数1~5の鎖状炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基のいずれであってもよいが、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくはアルキル基である。
R2又はR3で表される炭素数1~5の鎖状炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~3であり、より好ましくは1又は2であり、更に好ましくは1である。
R2又はR3で表される炭素数1~5の鎖状炭化水素基として、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、又はプロピル基であり、更に好ましくは、メチル基又はエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0040】
式(1)中、L1は、単結合又は二価の連結基を表す。
L1で表される二価の連結基として、好ましくは、以下の基(L-1)~基(L-5)である。
【0041】
【0042】
基(L-1)~基(L-5)中、*1は、式(1)中のR1との結合位置を表し、*2は、式(1)中のN+との結合位置を表す。
基(L-1)中のRL11、基(L-2)中のRL21、基(L-3)中のRL31、基(L-4)中のRL41、及び基(L-5)中のRL51は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表す。
基(L-1)中のRL12及び基(L-2)中のRL22は、それぞれ独立に、水素原子、又は、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0043】
基(L-1)中のRL11、基(L-2)中のRL21、基(L-3)中のRL31、基(L-4)中のRL41、及び基(L-5)中のRL51は、それぞれ独立に、無置換の炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、無置換の炭素数1~4のアルキレン基がより好ましく、無置換の炭素数1~3のアルキレン基が更に好ましい。
【0044】
基(L-1)中のRL12及び基(L-2)中のRL22としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0045】
式(1)中、L1としては、単結合、基(L-1)、又は基(L-2)が好ましく、単結合又は基(L-1)がより好ましい。
【0046】
式(1)中、L2は、二価の連結基を表す。
L2で表される二価の連結基として、好ましくは、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、更に好ましくは、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキレン基である。
【0047】
式(1)中、A-は、-SO3
-基(即ち、スルホネート基)又は-COO-基(即ち、カルボキシレート基)を表す。
色間滲み抑制の効果がより効果的に奏される観点から、A-としては、-SO3
-基が好ましい。
【0048】
ベタイン化合物(1)の分子量は、1000以下であることが好ましい。
ベタイン化合物(1)の分子量が1000以下である場合には、インク膜中において、ベタイン化合物(1)がより移動し易いので、色間滲み抑制の効果がより効果的に奏される。
ベタイン化合物(1)の分子量は、より好ましくは800以下であり、更に好ましくは600以下である。
【0049】
ベタイン化合物(1)の具体例としては、後述の実施例に示す、化合物(1-1)~(1-7)が挙げられる。
【0050】
【0051】
本開示のインクにおけるベタイン化合物(1)の含有量は、インクの全量に対し、好ましくは0.01質量%~10質量%であり、より好ましくは0.1質量%~3質量%であり、更に好ましくは0.1質量%~2質量%である。
【0052】
<架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料>
本開示のインクは、架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料(以下、「架橋樹脂被覆顔料」ともいう)を少なくとも1種含有する。
架橋樹脂被覆顔料は、例えば、架橋されていない樹脂(以下、「未架橋樹脂」ともいう)を分散剤として用いて顔料を分散させることにより、未架橋樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている未架橋樹脂被覆顔料を得、得られた未架橋樹脂被覆顔料における未架橋樹脂(即ち、顔料の少なくとも一部を被覆している未架橋樹脂)を、架橋剤によって架橋することによって形成される。
【0053】
(顔料)
架橋樹脂被覆顔料における顔料としては、インクの分野において公知の有機顔料及び無機顔料を特に制限なく用いることができる。
顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料;等が挙げられる。
顔料として、好ましくは、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、又はカーボンブラック顔料である。
顔料については、特許第5404669号公報等の公知文献の記載を適宜参照してもよい。
【0054】
本開示のインクにおける顔料濃度(即ち、インクの全量に対する顔料の含有量)としては、1質量%~20質量%が好ましく、1質量%~15質量%がより好ましく、1質量%~10質量%が更に好ましい。
【0055】
(架橋された樹脂、及び、未架橋樹脂)
架橋樹脂被覆顔料における架橋された樹脂は、未架橋樹脂が架橋されることによって形成される。
未架橋樹脂として、好ましくは、水溶性樹脂である。
即ち、架橋樹脂被覆顔料における架橋された樹脂として、好ましくは、架橋された水溶性樹脂である。
【0056】
本開示において、「水溶性樹脂」における「水溶性」とは、25℃の蒸留水に2質量%以上溶解する性質を意味する。
水溶性樹脂は、25℃の蒸留水に、5質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましい。
なお、未架橋の水溶性樹脂が水溶性を有することは言うまでもないが、「架橋された水溶性樹脂」は、必ずしも水溶性を有している必要はない。
【0057】
未架橋の水溶性樹脂としては、ポリビニル類、ポリウレタン類、ポリエステル類等が挙げられるが、その中でもポリビニル類が好ましい。
未架橋の水溶性樹脂としては、架橋剤により架橋可能な官能基を有する水溶性樹脂が好ましい。
架橋可能な官能基としては、カルボキシ基又はその塩、イソシアナート基、エポキシ基等が挙げられるが、分散性向上の観点からカルボキシ基又はその塩が好ましく、カルボキシ基が特に好ましい。
【0058】
未架橋の水溶性樹脂の好ましい態様である、カルボキシ基を有する水溶性樹脂としては、カルボキシ基含有モノマーに由来する構造単位(即ち、カルボキシ基含有モノマーが重合することによって形成される構造単位)を含む共重合体がより好ましい。
共重合体に含まれるカルボキシ基含有モノマーに由来する構造単位は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0059】
カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられる。
カルボキシ基含有モノマーとしては、架橋性および分散安定性の観点から、(メタ)アクリル酸又はβ-カルボキシエチルアクリレートが好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を包含する概念である。
【0060】
カルボキシ基含有モノマーに由来する構造単位を含む共重合体は、更に、疎水性モノマーに由来する構造単位(即ち、疎水性モノマーが重合することによって形成される構造単位)を含むことが好ましい。
この場合、共重合体に含まれる疎水性モノマーに由来する構造単位は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
疎水性モノマーとしては、炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、芳香環基を有する(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等)、スチレン、スチレン誘導体、等が挙げられる。
【0061】
共重合体の合成方法は特に限定されないが、ビニルモノマーをランダム共重合させる方法が、分散安定性の点で好ましい。
【0062】
未架橋樹脂の好ましい態様である、カルボキシ基を有する水溶性樹脂としては、
カルボキシル基含有モノマーに由来する構造単位と、炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び芳香環基を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位の少なくとも一方と、を含む共重合体がより好ましく、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、芳香環基を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位と、を含む共重合体が更に好ましく、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、ベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位と、を含む共重合体が更に好ましい。
【0063】
未架橋樹脂の酸価は、顔料の分散性の観点から、67mgKOH/g~200mgKOH/gが好ましく、67mgKOH/g~150mgKOH/gがより好ましい。
また、架橋された樹脂の酸価は、顔料の分散性の観点から、55~100mgKOH/gが好ましい。
【0064】
未架橋樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、顔料の分散性の観点から、3,000~100,000であることが好ましく、5,000~80,000であることがより好ましく、10,000~60,000が更に好ましい。
架橋された樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲も、未架橋樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲と同様である。
【0065】
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。GPCは、HLC-8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM-H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgel
SuperHZ2000(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用いて3本直列につなぎ、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、示差屈折率検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作成する。
【0066】
(架橋剤)
架橋された樹脂として、好ましくは、架橋剤によって架橋された樹脂である。
架橋剤によって架橋された樹脂は、未架橋樹脂を架橋剤によって架橋することによって形成される。
架橋された樹脂の形成において、架橋剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0067】
架橋剤としては、未架橋樹脂(例えば、カルボキシ基を有する水溶性樹脂)との反応部位を2つ以上有する化合物が好ましい。
架橋剤と未架橋樹脂との好ましい組み合わせは、架橋剤としての、2つ以上のエポキシ基を有する化合物(即ち、2官能以上のエポキシ化合物)と、未架橋樹脂としての、前述のカルボキシ基を有する水溶性樹脂と、の組み合わせである。この組み合わせでは、カルボキシ基を有する水溶性樹脂におけるカルボキシ基と、2つ以上のエポキシ基を有する化合物におけるエポキシ基と、の反応により、架橋構造が形成され、これにより、架橋された樹脂が形成される。かかる架橋構造の形成は、好ましくは、カルボキシ基を有する水溶性樹脂によって顔料を分散させた後(即ち、未架橋樹脂被覆顔料を形成した後)に行われる。
【0068】
架橋剤の好ましい態様である2官能以上のエポキシ化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられる。
中でも、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0069】
架橋剤としては、市販品を用いることもできる。
市販品としては、例えば、Denacol EX-321、EX-821、EX-830、EX-850、EX-851(ナガセケムテックス(株)製)等を用いることができる。
【0070】
架橋剤における架橋部位(例えばエポキシ基)と、未架橋樹脂における被架橋部位(例えばカルボキシ基)と、のモル比〔架橋剤における架橋部位(例えばエポキシ基):未架橋樹脂における被架橋部位(例えばカルボキシ基)〕は、架橋反応速度及び/又は架橋後の分散液安定性の観点から、1:1.1~1:10が好ましく、1:1.1~1:5がより好ましく、1:1.1~1:3が更に好ましい。
【0071】
また、架橋樹脂被覆顔料において、架橋された樹脂に対する顔料の質量比(以下、質量比〔顔料/架橋された樹脂〕)は、好ましくは0.1~1.5であり、より好ましくは0.2~1.0である。
【0072】
架橋樹脂被覆顔料の体積平均粒径としては、10nm~200nmが好ましく、10nm~150nmがより好ましく、40nm~150nmが更に好ましく、50nm~150nmが更に好ましい。
【0073】
本開示において、体積平均粒径は、動的光散乱法によって求められた値を指す。
体積平均粒径の測定は、例えば、ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150(日機装社製)を用いて行う。
【0074】
本開示のインクにおいて、架橋樹脂被覆顔料の含有量としては、インクの全量に対し、1.5質量%~25質量%が好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、2質量%~15質量%が更に好ましい。
【0075】
<水>
本開示のインクは、水を含有する。
本開示のインクにおける水の含有量は、インクの全量に対し、例えば40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。
水の含有量の上限は、他の成分の量による。水の含有量の上限は、インクの全量に対し、例えば95質量%であり、好ましくは90質量%である。
【0076】
<有機溶剤A>
本開示のインクは、更に、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される化合物である有機溶剤Aを含有してもよい。
本開示のインクが有機溶剤Aを含有する場合、本開示のインクに含有される有機溶剤Aは1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0077】
【0078】
式(A1)中、RA11は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表し、RA12は、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~3の整数を表す。
式(A2)中、RA21は、炭素数4~9の鎖状炭化水素基又は炭素数6~10のアリール基を表す。
【0079】
本開示のインクが有機溶剤Aを含有する場合には、インクの表面張力をより低減できる。このため、インクによって形成される画質の向上の面で有利である。
【0080】
架橋樹脂被覆顔料を含有しないインク(例えば、架橋剤樹脂被覆顔料の代わりに未架橋樹脂被覆顔料を含有するインク)が更に有機溶剤Aを含有する場合には、架橋樹脂被覆顔料を含有するインクが更に有機溶剤Aを含有する場合と比較して、インクの保存安定性が低下しやすい傾向がある。この理由は、有機溶剤Aと、未架橋樹脂被覆顔料中の未架橋樹脂(好ましくは水溶性樹脂)と、の親和性が高いことから、未架橋樹脂被覆顔料における顔料から未架橋樹脂が剥れやすくなり、その結果、顔料の分散安定性が低下しやすくなるためと考えられる。
樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていることにより、上記有機溶剤Aを含有する場合においても、インクの保存安定性に優れる。
従って、本開示のインクが有機溶剤Aを含有する場合には、樹脂を架橋したことによる改善幅(保存安定性の改善幅)がより大きくなる。
【0081】
式(A1)中のRA11で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基及び式(A2)中のRA21で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基は、それぞれ、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐を有する炭化水素基であってもよい。
RA11で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基及びRA21で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基の各々は、好ましくは、炭素数4~9のアルキル基である。
RA11で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基及びRA21で表される炭素数4~9の鎖状炭化水素基の各々の炭素数は、好ましくは6~8である。
【0082】
式(A1)中のRA11で表される炭素数6~10のアリール基及び式(A2)中のRA21で表される炭素数6~10のアリール基の各々としては、フェニル基又はナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0083】
式(A1)中、nは、1~3の整数を表す。
nは、インクの表面張力をより低減させる観点から、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0084】
有機溶剤Aは、ClogP値が0.5~3.5であることが好ましく、1.5~3.0であることがより好ましく、1.7~3.0であることが更に好ましい。
有機溶剤AのClogP値が、0.5以上である場合には、形成画像の画質がより向上する。
有機溶剤AのClogP値が、3.5以下である場合には、インクの保存安定性がより向上する。
【0085】
本開示において、ClogP値は、疎水性の程度を示す値である。ClogP値が大きい程、疎水性が高いことを示す。
本開示におけるClogP値は、ChemBioDrawUltra 13.0(パーキンエルマー社製)を用いて計算される。
【0086】
有機溶剤Aのうち、式(A1)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノノニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノノニルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル;トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノノニルエーテル、トリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のトリエチレングリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノヘプチルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル;ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘプチルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル;、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘプチルエーテル、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル等のトリプロピレングリコールモノアルキルエーテル;等が挙げられる。
【0087】
有機溶剤Aのうち、式(A2)で表される化合物としては、例えば、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール等のアルカンジオールが挙げられる。
【0088】
有機溶剤Aとしては、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、又は1,2-オクタンジオールが好ましい。
【0089】
本開示のインクが有機溶剤Aを含有する場合、有機溶剤Aの含有量は、インクの全量に対し、好ましくは0.1質量%~15質量%であり、より好ましくは0.5質量%~10質量%であり、更に好ましくは1.0質量%~5.0質量%である。
有機溶剤Aの含有量が0.1質量%以上である場合には、形成される画像の画質の面で有利である。
有機溶剤Aの含有量が15質量%以下である場合には、インクの保存安定性の面で有利である。
【0090】
本開示のインクが有機溶剤Aを含有する場合、ベタイン化合物(1)の含有質量に対する有機溶剤Aの含有質量の比(以下、「含有質量比〔有機溶剤A/ベタイン化合物(1)〕ともいう)は、好ましくは0.5~100であり、より好ましくは1~50であり、更に好ましくは2~10である。
含有質量比〔有機溶剤A/ベタイン化合物(1)〕が0.5以上である場合、形成される画像の画質の面で有利である。
含有質量比〔有機溶剤A/ベタイン化合物(1)〕が100以下である場合、色間滲み抑制の面で有利である。
【0091】
<その他の有機溶剤>
本開示のインクは、有機溶剤A以外のその他の有機溶剤を含有していてもよい。
その他の有機溶剤としては、例えば、インクの乾燥性の観点から、有機溶剤A以外の有機溶剤であって、かつ、20℃における蒸気圧が1.0Pa以上である有機溶剤Bが挙げられる。
なお、20℃における蒸気圧が1.0Pa以上である有機溶剤であっても、有機溶剤Aに該当するものは、有機溶剤Bには含まれないものとする。
【0092】
有機溶剤Bの20℃における蒸気圧は、1.0Pa以上であることが好ましく、2.0Pa以上であることがより好ましく、10Pa以上であることが更に好ましい。
有機溶剤Bの20℃における蒸気圧は、公知の方法により測定されるが、例えば、静止法によって求めることができる。静止法は、試料の固体と平衡にある蒸気の圧力を直接又は間接的に測定する方法であり、OECDガイドライン104に従って実施される。
【0093】
有機溶剤BのClogP値は、-3.0~0であることが好ましく、-2.0~0であることがより好ましい。
【0094】
本開示のインクが有機溶剤Bを含有する場合、有機溶剤Bの含有量は、インクの吐出性及び乾燥性の観点から、インクの全量に対し、1質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~25質量%であることが好ましく、10質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0095】
また、本開示のインクが有機溶剤A及び有機溶剤Bを含有する場合、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計含有量は、インクの吐出性及び乾燥性の観点から、インクの全量に対し、6質量%~40質量%であることが好ましく、10質量%~30質量%であることがより好ましく、15質量%~25質量%であることが更に好ましい。
また、有機溶剤Aに対する有機溶剤Bとの含有質量比(含有質量比〔有機溶剤B/有機溶剤A〕)は、インクの吐出性及び乾燥性の観点から、1~15であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、3~8であることが更に好ましい。
【0096】
有機溶剤Bとしては、ジエチレングリコール(20℃における蒸気圧:2.7Pa、ClogP値:-1.30)、ジプロピレングリコール(20℃における蒸気圧:1.3Pa、ClogP値:-0.69)、プロピレングリコール(20℃における蒸気圧:10.6Pa、ClogP値:-1.06)、1,2-ブタンジオール(20℃における蒸気圧:2.7Pa、ClogP値:-0.53)等が挙げられる。
【0097】
<樹脂粒子>
本開示のインクは、樹脂粒子を含有することが好ましい。
これにより、形成される画像の強度及び耐擦性がより向上する。
本開示において、樹脂粒子は、樹脂からなる粒子である点で、前述の架橋樹脂被覆顔料及び未架橋樹脂被覆顔料と区別される。
【0098】
樹脂粒子を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、等が挙げられる。中でも、アクリル樹脂が好ましい。
ここで、アクリル樹脂とは、アクリル酸、アクリル酸の誘導体(例えば、アクリル酸エステル等)、メタクリル酸、及びメタクリル酸の誘導体(例えば、メタクリル酸エステル等)からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーの重合体(単独重合体又は共重合体)を意味する。
【0099】
樹脂粒子を構成する樹脂は、樹脂粒子の分散性の観点から、アニオン性基を有することが好ましい。
ここで、アニオン性基とは、インク中でアニオンを形成する基を指す。
アニオン性基としては、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホ基、スルホ基の塩、硫酸基、硫酸基の塩、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩、リン酸基、及びリン酸基の塩からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
上述した、カルボキシ基の塩、スルホ基の塩、硫酸基の塩、ホスホン酸基の塩、及びリン酸基の塩における「塩」としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又は有機アミン塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
【0100】
樹脂粒子を構成する樹脂がアニオン性基を有する場合において、樹脂1g当たりのアニオン性基のミリモル数を樹脂の酸価とした場合、樹脂の酸価は、樹脂粒子の分散性の観点から、0.05mmol/g~0.7mmol/gであることが好ましく、0.1mmol/g~0.4mmol/gであることがより好ましい。
【0101】
樹脂粒子を構成する樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、10,000~1,000,000が好ましく、20,000~500,000がより好ましい。
【0102】
樹脂粒子を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は、得られる画像の耐擦性の観点から、30℃~120℃が好ましく、50℃~100℃がより好ましく、70℃~100℃が更に好ましい。
【0103】
上記ガラス転移温度(Tg)としては、実測によって得られる測定Tgを適用する。
測定Tgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定された値を意味する。示差走査熱量計(DSC)としては、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220を用いることができる。
ただし、材料の分解等により測定Tgの測定が困難な場合には、下記の計算式で算出される計算Tgを適用する。計算Tgは下記の式(F1)で計算される値である。
1/Tg=Σ(Xi/Tgi) …(F1)
式(F1)では、計算対象となるポリマーが、i=1からnまでのn種のモノマーの共重合体であることを前提としている。
式(F1)中、Xiはi番目のモノマーの質量分率(ΣXi=1)であり、Tgiはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。ただし、Σはi=1からnまでの和をとる。
なお、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tgi)は、Polymer Handbook (3rd Edition) (J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley-Interscience、1989))の値を採用する。
【0104】
樹脂粒子の体積平均粒径は、樹脂粒子の分散安定性の観点から、1nm~200nmであることが好ましく、5nm~100nmであることがより好ましく、10nm~50nmであることが更に好ましい。
【0105】
本開示のインクが樹脂粒子を含有する場合、インクの保存安定性及び得られる画像の耐擦性の観点から、樹脂粒子の含有量は、インクの全量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましく、2質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0106】
(樹脂粒子P)
本開示のインクが樹脂粒子を含有する場合、含有される樹脂粒子は、下記式(p-1)で表される構造単位p-1(以下、「単位p-1」ともいう)を含む樹脂からなる樹脂粒子Pを含むことが好ましい。
樹脂粒子Pを構成する樹脂は、単位p-1を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0107】
(構造単位p-1)
【0108】
【0109】
式(p-1)中、R31は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、X1は、2価の連結基を表し、Y1は、アニオン性基を表し、X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている。
【0110】
式(p-1)中、R31は、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0111】
式(p-1)中、X1で表される2価の連結基は、-C(=O)O-、-C(=O)NR34-、アルキレン基、アリーレン基、又は、これらの結合により表される基であることが好ましく、-C(=O)O-、-C(=O)NR34-、炭素数6~22のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は、これらの結合により表される基であることがより好ましい。R34は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
X1が、-C(=O)O-又は-C(=O)NR34-を含む場合、式(p-1)中のR31が結合した炭素原子と、-C(=O)O-又は-C(=O)NR34-中の炭素原子(但し、R34に含まれる炭素原子は除く)と、が直接結合することが好ましい。
【0112】
式(p-1)中、Y1は、-C(=O)OM、-S(=O)2OM、又は、-OP(=O)(OM)2であることが好ましく、-C(=O)OMであることがより好ましい。
ここで、Mは、プロトン、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。Mは、Oに対し、結合していても解離していてもよい。
【0113】
式(p-1)中、X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている。
【0114】
本開示において、「X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている」との条件を満足するかどうかは、以下のようにして確認する。
式(p-1)中の主鎖(即ち、炭素原子)を0番目とし、この主鎖に(他の原子を介さずに)直接結合している原子を1番目として、X1及びY1中の各原子について、主鎖から何番目の原子であるかを、主鎖から延びる結合に沿って数える。この際、複数の経路が存在する場合には、最短の経路を採用する。このようにして、X1及びY1中の全ての原子について、主鎖から何番目(以下、n番目とする)の原子であるかを調べ、X1及びY1中の原子のうち、上記nが最も大きい原子を、主鎖から最も離れた原子とする。主鎖から最も離れた原子における上記nが4~27である場合を、「X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から4原子~27原子離れている」との条件を満足するものとする。
【0115】
式(p-1)中、X1及びY1のうち、主鎖から最も離れた原子は、主鎖から10原子~23原子離れていることが好ましく、主鎖から12原子~20原子離れていることがより好ましい。
【0116】
式(p-1)中、X1で表される2価の連結基としては、下記基(X1-1)又は下記基(X1-2)が特に好ましい。
【0117】
【0118】
基(X1-1)又は基(X1-2)中、*1は、式(p-1)中の主鎖(炭素原子)との結合位置を表し、*2は、式(p-1)中のY1との結合位置を表す。
基(X1-1)又は基(X1-2)中、AX1は、単結合、-C(=O)O-、又は-C(=O)NR34-を表し、R34は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基(好ましくは水素原子又はメチル基、より好ましくは水素原子)を表す。
基(X1-1)又は基(X1-2)中、LX1は、炭素数6~22の2価の連結基を表す。
【0119】
基(X1-1)中、LX1としては、炭素数6~22(より好ましくは8~22、更に好ましくは8~16、更に好ましくは10~22)のアルキレン基が好ましい。
基(X1-1)中のLX1で表されるアルキレン基としては、樹脂粒子Pの安定性の観点から、直鎖アルキレン基が好ましい。
【0120】
基(X1-2)中、LX1としては、炭素数6~20の2価の連結基が好ましく、-C(=O)NR35-(CH2)n-又は-C(=O)O-(CH2)n-がより好ましく、-C(=O)NR35-(CH2)n-が更に好ましい。ここで、R35は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、水素原子が好ましい。また、nは、5~18の整数であり、7~15が更に好ましく、10~12が更に好ましい。
【0121】
以下、単位p-1の好ましい具体例を示すが、これに限定されるものではない。
下記具体例中、nは繰り返し数を表し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を
(好ましくは、水素原子又はメチル基)表す。
【0122】
【0123】
単位p-1(即ち、式(p-1)で表される構造単位p-1)のClogP値は、有機溶剤AのClogP値より大きいことが好ましい。
これにより、インクの保存安定性がより向上する。
ここで、単位p-1のClogP値は、ポリマー中の構造のClogP値として、ChemBioDrawUltra 13.0を用いて計算される。
上記計算において、アニオン性基の対イオンはH+として計算する。
有機溶剤AのClogP値と単位p-1のClogP値との差((有機溶剤AのClogP値)-(単位p-1のClogP値))は、インクの吐出性及び保存安定性の観点から、0.2以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましい。
【0124】
本開示のインクが樹脂粒子Pを含有する場合、インクの保存安定性をより向上させる観点から、樹脂粒子Pを構成する樹脂中の単位p-1の含有量は、樹脂粒子Pを構成する樹脂の全量に対し、好ましくは1質量%~20質量%であり、より好ましくは1.5質量%~18質量%であり、更に好ましくは2質量%~12質量%である。
【0125】
また、本開示のインクが樹脂粒子Pを含有する場合、インクの保存安定性をより向上させる観点から、ベタイン化合物(1)の含有質量に対する単位p-1の含有質量の比(以下、「含有質量比〔単位p-1/ベタイン化合物(1)」又は「含有質量比〔p-1/(1)〕」ともいう)は、好ましくは0.05~6.00であり、より好ましくは0.10~5.00であり、更に好ましくは0.20~4.00である。
【0126】
(構造単位p-2)
樹脂粒子Pを構成する樹脂は、更に、芳香環構造又は脂環式構造を有するエチレン性不飽和化合物由来の構造単位p-2(以下、「単位p-2」ともいう。)を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0127】
単位p-2に含まれる芳香環構造又は脂環式構造としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及び、炭素数5~20の脂肪族炭化水素環、が挙げられ、ベンゼン環、及び、炭素数6~10の脂肪族炭化水素環が好ましい。
これらの芳香環構造又は脂環式構造は、環構造上に置換基を有していてもよい。
【0128】
単位p-2を形成するためのモノマーである芳香環構造又は脂環式構造を有するエチレン性不飽和化合物としては、化合物末端にエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和化合物が好ましく、置換基を有していてもよいスチレン、又は、(メタ)アクリレート化合物、又は、(メタ)アクリルアミド化合物がより好ましく、置換基を有していてもよいスチレン、又は、(メタ)アクリレート化合物、が更に好ましい。
芳香環構造又は脂環式構造を有するエチレン性不飽和化合物としては、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0129】
樹脂粒子Pを構成する樹脂が単位p-2を含む場合、単位p-2の含有量は、樹脂粒子Pを構成する樹脂の全量に対し、インクの吐出性の観点から、5質量%~90質量%であることが好ましく、10質量%~50質量%であることがより好ましい。
【0130】
(構造単位p-3)
樹脂粒子Pを構成する樹脂は、得られる画像の耐擦性をより向上させる観点から、更に、下記式A~式Eのいずれか1つの式により表される構造単位p-3(以下、「単位p-3」ともいう)を含有してもよい。
単位p-3としては、インクの吐出性をより向上させる観点からみて、式Aで表される構造単位が好ましい。
【0131】
【0132】
式A~式E中、R11及びR12はそれぞれ独立に、メチル基又は水素原子を表し、R13はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表し、nは0~5の整数であり、L11は単結合又は炭素数1~18のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、又は、これらを2個以上連結して形成される2価の連結基を表す。
【0133】
式A中、R11は水素原子であることが好ましい。
式B~式E中、R12はメチル基であることが好ましい。
式A~式C中、R13はそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
式A~式C中、nは0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが更に好ましい。
式B中、L11は、式B中に記載されたカルボニル基に結合する-O-又は上記カルボニル基に結合する-NH-を含む2価の連結基が好ましく、上記-O-又は上記-NH-と、炭素数1~18のアルキレン基と、を含む2価の連結基がより好ましく、-OCH2-又は-NHCH2-が更に好ましく、-OCH2-が特に好ましい。
式C~式E中、L11は、式C~式E中に記載されたカルボニル基に結合する-O-又は上記カルボニル基に結合する-NH-を含む2価の連結基が好ましく、-O-又は-NH-がより好ましく、-O-が更に好ましい。
【0134】
式Aにより表される構造単位である場合の単位p-3は、スチレンに由来する構造単位であることが好ましい。
式Bにより表される構造単位である場合の単位p-3は、ベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
式Cにより表される構造単位である場合の単位p-3は、シクロヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
式Dにより表される構造単位である場合の単位p-3は、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
式Eにより表される構造単位である場合の単位p-3は、ジシクロペンタニル(メタ)
アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
【0135】
樹脂粒子Pを構成する樹脂が単位p-3を含む場合、画像の耐擦性をより向上させる観点からみると、単位p-3の含有量は、樹脂粒子Pを構成する樹脂の全量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましい。
インクの吐出性をより向上させる観点からみると、単位p-3の含有量は、樹脂粒子Pを構成する樹脂の全量に対し、5質量%~90質量%であることが好ましく、10質量%~50質量%であることがより好ましい。
【0136】
(その他の構造単位(構造単位p-4))
樹脂粒子Pを構成する樹脂は、上述の単位p-1~単位p-3以外のその他の構造単位である構造単位p-4(以下、「単位p-4」ともいう。)を含有していてもよい。
単位p-4としては、(メタ)アクリルアミド化合物又は(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位が好ましく、(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位がより好ましい。
また、単位p-4は、アニオン性基を含まないことが好ましい。
【0137】
モノマー単位p-4は、アルキル基の炭素数が1~10であるアルキル(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0138】
樹脂粒子Pを構成する樹脂が単位p-4の含有量は、吐出性及び耐擦性の観点から、樹脂粒子Pを構成する樹脂の全量に対し、0質量%~90質量%であることが好ましく、0質量%~70質量%であることがより好ましい。
【0139】
(樹脂粒子Pを構成する樹脂の具体例)
樹脂粒子Pを構成する樹脂の具体例を下記に示すが、樹脂粒子Pを構成する樹脂は、これらの具体例に限定されるものではない。
下記具体例中、nは繰り返し数を表し、質量%の記載は、各構造単位の含有質量%を意味し、Mwの欄の数値は、重量平均分子量を表す。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
樹脂粒子Pの好ましい物性(例えば、Mw、Tg、体積平均粒径)については、前述した樹脂粒子の好ましい物性と同様である。
【0144】
本開示のインクが樹脂粒子Pを含む場合、インクの保存安定性及び得られる画像の耐擦性の観点から、樹脂粒子Pの含有量は、インクの全量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましく、2質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0145】
また、本開示のインクが樹脂粒子Pを含む場合において、樹脂粒子Pによる効果(具体的には、インクの保存安定性を向上させる効果)をより効果的に発揮させる観点から、インクに含有される全ての樹脂粒子中に占める樹脂粒子Pの割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。
【0146】
樹脂粒子(例えば樹脂粒子P)は、公知の方法によって製造できる。
製造方法については、国際公開第2018/062212号等の公知文献を適宜参照できる。
【0147】
樹脂粒子(例えば樹脂粒子P)は、自己分散性樹脂粒子であることが好ましい。
ここで、自己分散性樹脂粒子とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態とした場合、樹脂自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩等の親水性基)によって、水性媒体中で分散状態となり得る、水不溶性樹脂からなる樹脂粒子を意味する。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性樹脂が液体状態で分散された乳化状態(エマルジョン)、及び、水性媒体中に水不溶性樹脂が固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
また、「水不溶性」とは、25℃の水100質量部に対する溶解量が5.0質量部以下であることを指す。
樹脂粒子は、顔料の分散剤として機能するものではなく、従って、粒子の内部に顔料を含まない。
【0148】
<その他の成分>
本開示のインクは、上述した成分以外のその他の成分を含有していてもよい。
本開示のインクに含有され得るその他の成分としては、上記ベタイン化合物(1)以外の、界面活性剤、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤、固体湿潤剤等が挙げられる。
本開示のインクに含有され得るその他の成分についても、国際公開第2018/062212号等の公知文献を適宜参照できる。
【0149】
<インクの好ましい物性>
〔粘度〕
本開示のインクの30℃における粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、2.0mPa・s以上13.0mPa・s以下であることがより好ましく、2.5mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが更に好ましい。
ここで、インクの粘度は、粘度計を用いて測定された値を意味する。粘度計としては、例えば、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いる。
【0150】
〔pH〕
本開示のインクの25℃におけるpHは、インクの保存安定性の観点から、6.0~11.0であることが好ましく、7.0~10.0であることがより好ましく、7.0~9.0であることが更に好ましい。
ここで、インクのpHは、pHメーターを用いて測定された値を意味する。
pHメーターとしては、例えば、WM-50EG(東亜DKK(株)製)を用いる。
【0151】
〔インクセット〕
本開示のインクセットは、2種以上のインクを備え、2種以上のインクのうちの少なくとも1種が、本開示のインクであるインクセットである。
本開示のインクセットは、2種以上(例えば2色以上)の本開示のインクからなるものであってもよいし、1種以上(例えば1色以上)の本開示のインクと、1種以上(例えば1色以上)の本開示のインク以外のインクと、を備えるものであってもよい。
本開示のインクセットは、本開示のインクである第1インクによるインク膜上に、第2インクを重ねて付与する態様の画像形成に好適である。第2インクは、本開示のインクであってもよいし、本開示のインク以外の水系インクであってもよい。
本開示のインクセットを用いて上記態様の画像形成を行うことにより、色間滲みが抑制された画像を形成できる。
また、本開示のインクセットにおける本開示のインクは、樹脂被覆顔料及びベタイン化合物(1)を含有するインクであるにもかかわらず、ベタイン化合物(1)に起因するインクの保存安定性の低下が抑制される。
【0152】
本開示のインクセットにおいて、2種以上のインクのうちの少なくとも2種が、本開示のインクであることが好ましい。
この場合の本開示のインクセットは、本開示のインクである第1インクによるインク膜上に、本開示のインクである第2インクを重ねて付与する態様の画像形成に好適である。この態様の画像形成によれば、色間滲み抑制の効果がより効果的に発揮される。
【0153】
本開示のインクセットの一例として、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを含むインクセットであって、インクセットのうちの少なくとも1種(好ましくは、少なくとも2種)のインクが、本開示のインクである態様が挙げられる。
【0154】
〔画像形成方法〕
本開示の画像形成方法は、記録媒体上に、本開示のインクである第1インクを付与する工程(以下、「第1インク付与工程」ともいう)と、
記録媒体上に付与された第1インク上に、色材及び水を含有し、第1インクとは色相が異なる第2インクを付与する工程(以下、「第2インク付与工程」ともいう)と、を含む。
【0155】
本開示の画像形成方法では、上記のとおり、記録媒体上に付与された第1インク上に第2インクを付与する。このため、前述した理由により、色間滲みが抑制された多色画像を形成できる。
また、第1インクは、樹脂被覆顔料及びベタイン化合物(1)を含有するインクであるにもかかわらず、ベタイン化合物(1)に起因するインクの保存安定性の低下が抑制される。
【0156】
本開示の画像形成方法において、第1インク及び第2インクは、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
例えば、第1インクが1種のみであり、かつ、第2インクが1種のみである場合には、色間滲みが抑制された二色の画像を形成できる。
また、第1インクが1種のみであり、かつ、第2インクが2種である場合には、色間滲みが抑制された三色の画像を形成できる。
【0157】
また、第2インクは、本開示のインクであってもよいし、本開示のインク以外の水系インクであってもよい。色間滲み抑制の効果をより効果的に発揮する観点から、第2インクは、本開示のインクであることが好ましい。
【0158】
<記録媒体>
本開示の画像形成方法に用いられる記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙を用いることができる。
塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。
【0159】
塗工紙としては、一般に上市されているものを入手して使用できる。
塗工紙として、例えば、一般印刷用塗工紙を用いることができ、具体的には、王子製紙製の「OKトップコート+」、日本製紙社製の「オーロラコート」、「ユーライト」等のコート紙(A2、B2)、三菱製紙社製の「特菱アート」等のアート紙(A1)などを挙げることができる。
【0160】
記録媒体としては、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体を用いることもできる。
本開示において、低吸水性記録媒体とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m2・ms1/2~0.5mL/m2・ms1/2であるものをいい、0.1mL/m2・ms1/2~0.4mL/m2・ms1/2であることが好ましく、0.2mL/m2・ms1/2~0.3mL/m2・ms1/2であることがより好ましい。
また、非吸水性記録媒体とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m2・ms1/2未満であるものをいう。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機社製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0161】
非吸収性記録媒体としては樹脂基材が好ましい。
樹脂基材としては、例えば、熱可塑性樹脂をシート状に成形した基材が挙げられる。
上記樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、又は、ポリイミドを含むことが好ましい。
樹脂基材は、透明な樹脂基材であっても、着色された樹脂基材であってもよいし、少なくとも一部に金属蒸着処理等がなされた樹脂基材であってもよい。
樹脂基材の形状は、特に限定されないが、シート状の樹脂基材であることが好ましい。
画像形成方法における生産性の観点から、ロール状に巻き取られたシート状の樹脂基材を用いてもよい。
【0162】
<第1インク付与工程>
第1インク付与工程は、記録媒体上に、本開示のインクである第1インクを付与する工程である。
【0163】
第1インク付与工程において、記録媒体上に第1インクを直接付与した場合には、本開示のインクによる色間滲み抑制の効果がより効果的に発揮される。以下、この点について補足する。
水性インクを用いた画像形成の分野では、インクを付与する前に、記録媒体に対し、予め前処理を施す場合がある。ここでいう前処理は、記録媒体に対し、インク中の成分を凝集させる凝集剤(例えば、有機酸、多価金属塩、カチオン性ポリマー等)を含む処理液を付与する処理である。処理液の一例として、前述の特許文献1における反応液が挙げられる。
かかる態様の画像形成とは異なり、前処理が施されていない(即ち、インク中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液が付与されていない)記録媒体上に第1インクを直接付与する態様の画像形成では、一般的には、色間滲みがより発生し易くなる傾向がある。
しかし、本開示の画像形成方法の場合は、第1インクがベタイン化合物(1)を含有することにより、前処理が施されていない記録媒体上に第1インクを直接付与する態様の画像形成であっても、色間滲み抑制の効果を得ることができる。即ち、第1インク付与工程において、前処理が施されていない記録媒体上に第1インクを直接付与した場合には、本開示のインクによる色間滲み抑制の効果がより効果的に発揮される。
【0164】
第1インク付与工程における第1インクの付与は、好ましくはインクジェット法によって行う。
インクジェット法としては、インクジェットヘッドからインクを吐出する公知の方法を特に制限なく適用できる。
好ましいインクジェット法の一例として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法が挙げられるが、インクジェット法は、この一例には限定されない。
【0165】
インクジェット法によるインクの吐出方式には、特に制限はなく、公知の方式を適用できる。
インクジェット法によるインクの吐出方式として、例えば;静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式;ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式);電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式;インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式;等が挙げられる。
また、インクジェット法によるインクの吐出方式としては、特開昭54-59936号公報に記載の方法により、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させる方式も挙げられる。
【0166】
インクジェット法に用いられるインクジェットヘッドとしては;短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式;記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式;等が挙げられる。
ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。
また、ライン方式では、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
本開示の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦性の向上効果が大きい。
【0167】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの吐出量としては、高精細な画像を得る観点で、1pL以上10pL(ピコリットル)以下が好ましく、1.5pL以上6pL以下がより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる吐出量を組み合わせて吐出することも有効である。
【0168】
第1インク付与工程は、必要に応じ、記録媒体上に付与された第1インクを加熱乾燥させることを含んでもよい。
第1インク付与工程は、必要に応じ、記録媒体上に付与された第1インクを加熱定着させることを含んでもよい。
加熱乾燥及び加熱定着については、公知の方法及び条件を適宜適用できる。
【0169】
<第2インク付与工程>
第2インク付与工程は、記録媒体上に付与された第1インク上に、色材及び水を含有し、第1インクとは色相が異なる第2インクを付与する工程である。
第2インク付与工程は、記録媒体上に付与された第1インク上に第2インクを付与することを除けば、第1インク付与工程と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0170】
<その他の工程>
本開示の画像形成方法は、必要に応じ、上記の工程以外のその他の工程を含んでもよい。その他の工程としては、第1インク付与工程及び第2インク付与工程によって得られた多色画像を熱定着させる工程等が挙げられる。
【実施例】
【0171】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
以下の実施例において、量を示す「部」及び「%」は、特に断りが無い限り、それぞれ、質量部及び質量%を意味する。
【0172】
〔実施例1〕
<樹脂粒子P1の水性分散物の調製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた三口フラスコに、水(250g)、12-メタクリルアミドドデカン酸(7.0g)、炭酸水素カリウム(0.17g)及びイソプロパノール(20g)を仕込んで、窒素気流下で85℃まで昇温した。ここにV-501(ラジカル重合開始剤、富士フイルム和光純薬(株)製)(0.11g)、炭酸水素カリウム(0.08g)及び水(9g)からなる混合溶液を加え、10分間撹拌した。次いで、上記三口フラスコに、スチレン(30g)とメタクリル酸メチル(63g)からなるモノマー溶液を3時間で滴下が完了するように等速で滴下し、更にV-501(0.06g)、炭酸水素カリウム(0.04g)及び水(6g)からなる混合溶液を、上記モノマー溶液滴下開始直後とモノマー溶液滴下開始1.5時間後の2回に分けて加えた。上記モノマー溶液の滴下完了後、1時間撹拌した。続いて、得られた反応混合物にV-501(0.06g)、炭酸水素カリウム(0.04g)及び水(6g)からなる混合溶液を加え、更に3時間撹拌した。得られた反応混合物を網目50μmのメッシュでろ過し、樹脂粒子P1の水性分散物を得た。得られた樹脂粒子P1の水性分散物はpH8.5、固形分濃度(即ち、樹脂粒子P1の含有量)25質量%、体積平均粒径30nm(体積平均粒径はマイクロトラックUPA EX-150(日機装社製)で測定した)、重量平均分子量(Mw)25万、Tg96℃であった。
樹脂粒子P1は樹脂粒子Pの一例であり、構造単位p-1として、12-メタクリルアミドドデカン酸に由来する構造単位を含んでいる。樹脂粒子P1の詳細は前述のとおりである。
【0173】
<インクの調製>
(顔料分散物の調製)
-水溶性樹脂分散剤Q-1の合成-
メタクリル酸(172部)と、メタクリル酸ベンジル(828部)と、イソプロパノール(375部)とを混合することにより、モノマー供給組成物を調製した。また、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(22.05部)と、イソプロパノール(187.5部)とを混合することにより、開始剤供給組成物を調製した。
次に、イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温し、そこに、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、得られた溶液を更に4時間、80℃に保った後、25℃まで冷却した。
冷却後、溶媒を減圧除去することにより、重量平均分子量約30,000、酸価112mgKOH/gの水溶性樹脂分散剤Q-1を得た。
【0174】
-シアン顔料分散物QC1の調製-
上記で得られた水溶性樹脂分散剤Q-1(150部)中のメタクリル酸量の0.8当量を、水酸化カリウム水溶液を用いて中和した後、水溶性樹脂分散剤濃度が25質量%となるように、更にイオン交換水を加えて調整し、水溶性樹脂分散剤水溶液を得た。
この水溶性樹脂分散剤水溶液(124部)と、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)(48部)と、水(75部)と、ジプロピレングリコール(30部)とを混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で分散し、シアン顔料濃度15質量%の樹脂被覆シアン顔料粒子の未架橋分散物を得た。
この未架橋分散物(136部)に、Denacol EX-321(ナガセケムテックス社製、架橋剤)(1.3部)と、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)(14.3部)とを添加し、50℃にて6時間半反応させた後、25℃に冷却し、架橋分散物を得た。次に、得られた架橋分散物にイオン交換水を加え、撹拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(ADVANTEC社製、分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター)を用いて限外ろ過を行った。架橋分散物中のジプロピレングリコール濃度が0.1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度が15質量%となるまで濃縮することにより、シアン顔料分散物QC1(シアン顔料濃度15質量%)を得た。
得られたシアン顔料分散物QC1には、架橋剤によって架橋された水溶性樹脂分散剤Q-1によってシアン顔料の少なくとも一部が被覆されている構造を有する架橋樹脂被覆シアン顔料が含有されている。
【0175】
-マゼンタ顔料分散物QM1の調製-
ピグメントブルー15:3(シアン顔料)を、同質量のピグメントレッド122(マゼンタ顔料)に変更したこと以外はシアン顔料分散物の調製と同様の操作を行い、マゼンタ顔料分散物QM1(顔料濃度15質量%)を得た。
得られたマゼンタ顔料分散物QM1には、架橋剤によって架橋された水溶性樹脂分散剤Q-1によってマゼンタ顔料の少なくとも一部が被覆されている構造を有する架橋樹脂被覆マゼンタ顔料が含有されている。
【0176】
(シアン(C)インクの調製)
以下の各成分を混合し、次いで1μmフィルターを用いて粗大粒子を除去することにより、以下の組成を有するシアンインクを得た。
【0177】
-シアンインクの組成-
・シアン顔料分散液QC1 … シアン顔料濃度として3質量%(架橋樹脂被覆シアン顔料の含有量として5.1質量%)
・エチレングリコールモノヘキシルエーテル(EGmHE)〔有機溶剤A〕 … 2質量%
・ジエチレングリコール(DEG)〔有機溶剤B〕 … 15質量%
・樹脂粒子P1の水性分散物 … 樹脂粒子P1の量として6質量%
・ラウリルスルホベタイン〔東京化成工業社製;ベタイン化合物(1)としての後述の化合物(1-1)〕 … 0.5質量%
・水 … 合計が100質量%となる残量
【0178】
(マゼンタ(M)インクの調製)
以下の各成分を混合し、次いで1μmフィルターを用いて粗大粒子を除去することにより、以下の組成を有するマゼンタインクを得た。
【0179】
-マゼンタインクの組成-
・マゼンタ顔料分散液QM1 … マゼンタ顔料濃度として5質量%(架橋樹脂被覆マゼンタ顔料の含有量として8.5質量%)
・ヘキシルグリコール(富士フイルム和光純薬社製)〔有機溶剤A〕 … 2質量%
・ジエチレングリコール(DEG) … 15質量%
・樹脂粒子P1の樹脂粒子分散物 … 樹脂粒子P1の量として6質量%
・ラウリルスルホベタイン〔東京化成工業 社製;ベタイン化合物(1)としての後述の化合物(1-1)〕 … 0.5質量%
・水 … 合計が100質量%となる残量
【0180】
<評価>
上記シアンインク及びマゼンタインクを用い、以下の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0181】
(色間滲み(線幅差M))
シアンベタ画像上にマゼンタ線幅画像を形成した場合の色間滲み抑制効果を評価するために、以下で説明する色間滲み(線幅差M)の評価を行った。
記録媒体としてのコート紙(商品名「OKトップコート+」、王子製紙社製)上に、シアンインクを付与してシアンベタ画像を形成し、得られたシアンベタ画像上に、マゼンタインクを25pixelの線幅画像状に付与してマゼンタ線幅画像を形成した。
シアンインク及びマゼンタインクは、それぞれ、シングルパス方式により、下記吐出条件で吐出することによって付与した。
【0182】
-吐出条件-
・ヘッド:1,200dpi(dot per inch、1inch = 2.54cm)/20inch幅ピエゾフルラインヘッド
・吐出量:2.4pL
・駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec)
・ヘッド間距離:120mm
【0183】
シアンベタ画像上に形成されたマゼンタ線幅画像の線幅を、マイクロスコープによって測定した。
マゼンタ線幅画像の線幅の測定結果と、1200dpi・25pixelの理論上線幅529.2μmと、の差(以下、「線幅差M」ともいう)を求め、得られた線幅差Mに基づき、下記評価基準にて、色間滲み(線幅差M)を評価した。
下記評価基準において、色間滲みの抑制効果に最も優れる評点は、Aである。
【0184】
-色間滲み(線幅差M)の評価基準-
A:線幅差Mが200μm未満であった。
B:線幅差Mが200以上300μm未満であった。
C:線幅差Mが300以上500μm未満であった。
D:線幅差Mが500μm以上であった。
【0185】
(色間滲み(線幅差C))
シアン線幅画像上にマゼンタベタ画像を形成した場合の色間滲み抑制効果を評価するために、以下で説明する色間滲み(線幅差C)の評価を行った。
記録媒体上に、シアンインクを25pixelの線幅画像状に付与してシアン線幅画像を形成し、次いで、上記シアン線幅画像及びその周囲を覆うようにマゼンタインクを付与してマゼンタベタ画像を形成した。
記録媒体及び吐出条件は、それぞれ、「色間滲み(線幅差M)」における記録媒体及び吐出条件と同様とした。
【0186】
マゼンタベタ画像の下のシアン線幅画像の線幅を、マイクロスコープによって測定した。
シアン線幅画像の線幅の測定結果と、1200dpi・25pixelの理論上線幅529.2μmと、の差(以下、「線幅差C」ともいう)を求め、得られた線幅差Cに基づき、下記評価基準にて、色間滲み(線幅差C)を評価した。
下記評価基準において、色間滲み(線幅差C)の抑制効果に最も優れる評点は、Aである。
【0187】
-色間滲み(線幅差C)の評価基準-
A:線幅差Cが200μm未満であった。
B:線幅差Cが200以上300μm未満であった。
C:線幅差Cが300以上500μm未満であった。
D:線幅差Cが500μm以上であった。
【0188】
(インクの保存安定性(C、M))
上記シアン(C)インク及び上記マゼンタ(M)インクのそれぞれについて、以下のようにして、インクの保存安定性を評価した。
インク調合後、25℃下で1時間静置したインクの粘度(以下、「保存前粘度」とする)、及び、インク調合後密封した状態で50℃、24時間の条件下、保存したインクの粘度(以下、「保存後粘度」とする)を測定した。保存前粘度及び保存後粘度は、いずれも、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて、30℃、100rpm(revolutions per minute)の条件で測定した。ここで、密封した状態とは、内容物を容器内に封入した状態であって、内容物を50℃、24時間の条件で加熱した場合の、内容物の質量の減少量が1質量%未満である状態を指す。
保存後粘度から保存前粘度を差し引いた値を求め、下記評価基準に従い、インクの保存安定性を評価した。
下記評価基準において、インクの保存安定性に最も優れる評点は、Aである。
【0189】
-インクの保存安定性(C、M)の評価基準-
A:保存後粘度から保存前粘度を差し引いた値が、0.3mPa・s未満であった。
B:保存後粘度から保存前粘度を差し引いた値が、0.3mPa・s以上0.5mPa・s未満であった。
C:保存後粘度から保存前粘度を差し引いた値が、0.5mPa・s以上1.0mPa・s未満であった。
D:保存後粘度から保存前粘度を差し引いた値が、1.0mPa・s以上であった。
【0190】
〔実施例2〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、有機溶剤Aを用いなかったこと(詳細には、有機溶剤Aを同質量の水に変更したこと)以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0191】
〔実施例3~6〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、ベタイン化合物の種類を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0192】
表1中の化合物(1-1)~(1-5)は、以下のとおりである。
化合物(1-1)としては、東京化成工業社製のラウリルスルホベタインを用いた。
化合物(1-2)としては、東京化成工業社製のパルミチルスルホベタインを用いた。
化合物(1-3)としては、東京化成工業社製のカプリリルスルホベタインを用いた。
化合物(1-4)としては、川研ファインケミカル社製のソフタゾリン(登録商標)LSB-Rを用いた。
化合物(1-5)としては、川研ファインケミカル社製のソフタゾリン(登録商標)LPB-Rを用いた。
【0193】
【0194】
〔実施例7〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、樹脂粒子P1の水性分散物を、構造単位p-1を有しない樹脂粒子X1の水性分散物に変更することにより、各々のインクに含有される樹脂粒子P1を樹脂粒子X1に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
樹脂粒子X1の水性分散物は、以下のようにして調製した。
【0195】
(樹脂粒子X1の水性分散物の調製)
12-メタクリルアミドドデカン酸を、同質量のメタクリル酸に変更したこと以外は樹脂粒子P1の水性分散物の調製と同様にして、樹脂粒子X1の水性分散物を調製した。
【0196】
〔実施例8及び9〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、ベタイン化合物(1)を表1の含有質量としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0197】
〔比較例1〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、ベタイン化合物(1)を用いなかったこと(詳細には、化合物(1-1)を同質量の水に変更したこと)以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0198】
〔比較例2〕
シアンインクの調製に用いたシアン顔料分散物QC1を、同質量の未架橋分散物(詳細には、シアン顔料分散物QC1の調製に用いた未架橋分散物)に変更し、かつ、マゼンタインクの調製に用いたマゼンタ顔料分散物QM1を、未架橋分散物(マゼンタ顔料分散物QM1の調製に用いた未架橋分散物)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
この比較例2は、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていない例である。
【0199】
〔比較例3〕
シアンインクの調製に用いたシアン顔料分散物QC1を、同質量の未架橋分散物(詳細には、シアン顔料分散物QC1の調製に用いた未架橋分散物)に変更し、かつ、マゼンタインクの調製に用いたマゼンタ顔料分散物QM1を、未架橋分散物(マゼンタ顔料分散物QM1の調製に用いた未架橋分散物)に変更したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
この比較例3は、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていない例である。
【0200】
〔比較例4〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、ベタイン化合物(1)を用いなかったこと(詳細には、化合物(1-1)を同質量の水に変更したこと)以外は比較例2と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0201】
〔比較例5、7、及び8〕
シアンインクの調製及びマゼンタインクの調製の各々において、ベタイン化合物(1)としての化合物(1-1)を、比較用ベタイン化合物である、下記化合物(CX1)、下記化合物(CX2)、及び下記化合物(CX3)のいずれかに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0202】
下記化合物(CX1)としては、東京化成工業社製のスルホベタインを用いた。
化合物(CX2)としては、東京化成工業社製のベタインを用いた。
化合物(CX3)としては、特開2014-65840号公報の段落0206に記載された「C-2」を用いた。化合物(CX3)は、ベタイン構造を有するポリマーであり、Mw及び組成比(a/b)は、以下のとおりである。ここで、組成比(a/b)は質量基準である。
【0203】
【0204】
〔比較例6〕
シアンインクの調製に用いたシアン顔料分散物QC1を、同質量の未架橋分散物(詳細には、シアン顔料分散物QC1の調製に用いた未架橋分散物)に変更し、かつ、マゼンタインクの調製に用いたマゼンタ顔料分散物QM1を、未架橋分散物(マゼンタ顔料分散物QM1の調製に用いた未架橋分散物)に変更したこと以外は比較例5と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0205】
【0206】
表1に示すように、架橋された樹脂によって顔料の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料と、ベタイン化合物(1)と、水と、を含有するインクを用いた実施例1~9では、画像の色間滲みが抑制されており、インクの保存安定性に優れていた。
これに対し、ベタイン化合物(1)を含有しない比較例1及び4では、画像の色間滲みが劣化した。
また、ベタイン化合物(1)を含有するが、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていない比較例2及び3では、インクの保存安定性が低下した。この理由は、樹脂被覆顔料中の樹脂とベタイン化合物(1)とが相互作用することにより、樹脂被覆顔料中の顔料から樹脂が剥がれ、その結果、顔料の分散安定性が低下したためと考えられる。これら比較例2及び3に対し、実施例1~9では、樹脂被覆顔料中の樹脂が架橋されていることにより、樹脂被覆顔料中の顔料からの樹脂の剥がれを抑制でき、その結果、インクの保存安定性の低下が抑制されたと考えられる。
また、ベタイン化合物(1)に代えて比較用ベタイン化合物を用いた比較例5~8では、画像の色間滲みが劣化した。
【0207】
樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されていない、比較例2、3、及び6の結果から、R1の炭素数が6~20であるベタイン化合物(1)を用いた場合(比較例2及び3)には、R1の炭素数が6未満又は20超である場合(比較例6)と比較して、色間滲み抑制効果に優れる一方で、インクの保存安定性が低下し易いことがわかる。
比較例2及び3に対し、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されている実施例1~9では、R1の炭素数が6~20であるベタイン化合物(1)を用いているにもかかわらず、インクの保存安定性に優れる。
このように、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されている場合には、R1の炭素数が6~20であるベタイン化合物(1)を用いた場合の特有の問題(インクの保存安定性の低下)が解決されることがわかる。
【0208】
また、比較例2及び3の結果から、インクが有機溶剤Aを含有する場合(比較例2)には、インクの保存安定性が特に低下し易いことがわかる。この理由は、有機溶剤Aと樹脂被覆顔料中の樹脂(樹脂分散剤)との親和性が高いことから、樹脂被覆顔料における顔料(樹脂分散剤)から樹脂が剥れやすくなるためと考えられる。
この比較例2に対し、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されている実施例1及び3~9では、有機溶剤Aが含有されているにもかかわらず、インクの保存安定性に優れる。
従って、樹脂被覆顔料における樹脂が架橋されている場合には、有機溶剤Aを用いた場合の特有の問題(インクの保存安定性の低下)も解決されることがわかる。
【0209】
また、実施例1及び7の結果から、単位p-1を有する樹脂粒子P1を含有する場合(実施例1)は、単位p-1を有しない樹脂粒子X1を含有する場合(実施例7)と比較して、インクの保存安定性がより向上することがわかる。この理由は、樹脂粒子P1中の単位p-1とベタイン化合物(1)とが相互作用することによりベタイン化合物(1)が樹脂粒子P1にトラップされ、その結果、樹脂被覆顔料中の樹脂に対するベタイン化合物(1)の影響がより低減されるためと考えられる。