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特許7185141フレキシブルデバイスおよびフレキシブルデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイスおよびフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20221130BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20221130BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20221130BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 617M
H01L29/28 100A
H01L29/28 280
G01N27/00 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019084556
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020181909
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 東一郎
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 寛
(72)【発明者】
【氏名】塚田 信吾
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-508958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0323945(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0191200(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0000712(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/30
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板の表面に互いに間隔を空けて形成されたソース電極、ドレイン電極および延長ゲート電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隔に配置されたチャネルと、前記チャネルの全体と前記延長ゲート電極の一部を覆うように形成されたゲート誘電体と、を有し、
前記絶縁基板は、光透過性を有する可撓性薄膜であり、
前記延長ゲート電極は、生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜であって、
前記チャネルは、有機半導体薄膜であり、
前記ゲート誘電体は、イオン液体もしくはイオンゲルであり、
前記延長ゲート電極の先端部は、特定の物質に選択的に結合する修飾がなされてい るフレキシブルデバイス。
【請求項2】
前記絶縁基板は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上である請求項1に記載のフレキシブルデバイス。
【請求項3】
前記延長ゲート電極が、sp混成軌道を形成している炭素原子を含む炭素材料薄膜である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス。
【請求項4】
前記延長ゲート電極が、グラフェン膜である請求項3に記載のフレキシブルデバイス。
【請求項5】
前記延長ゲート電極は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のフレキシブルデバイス。
【請求項6】
前記延長ゲート電極は、下記の方法により測定される神経細胞の付着率が50%以上である請求項1~5のいずれか一項に記載のフレキシブルデバイス。
(神経細胞の付着率の測定方法)
神経細胞懸濁液1mLを前記延長ゲート電極上に滴下し、温度37℃、相対湿度100%に調節した恒温槽内で24時間静置する。静置後、ガラス基板上の神経細胞懸濁液を除去して、リン酸緩衝生理食塩水を追加する。次いで、ガラス基板の細胞を、トリパンブルーを染色し、神経細胞の生細胞と死細胞の数を計測し、全細胞数に対する生細胞の割合を、神経細胞の付着率として算出する。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキシブルデバイスの製造方法であって、
光透過性を有する可撓性薄膜と、前記可撓性薄膜の表面に積層された、生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜とを有する積層体を用意する工程と、
前記積層体の前記炭素材料薄膜の一部を除去することにより、ソース電極、ドレイン電極および延長ゲート電極を形成する工程と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隔に有機半導体薄膜を形成する工程と、
前記有機半導体薄膜の全体と前記延長ゲート電極の一部を覆うようにイオン液体もしくはイオンゲルを塗布する工程と、を含むフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイスおよびフレキシブルデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IOE(Internet of Everything)の普及に伴い、フレキシブルデバイスに注目が集まっている。フレキシブルデバイスの中でもヘルスケア・医療用途に用いるウェアラブル電極や、血中の酸素や糖の濃度を計測するバイオセンサーはウェアラブルシステムの市場の拡大に貢献している。最近では生体の表皮貼付型デバイスに続き、脳や心臓などの生体内組織に直接貼り付けて、生体の電気信号を測定するバイオデバイスとして利用可能なフレキシブルデバイスに関する研究開発が盛んに行われている。
【0003】
生体の電気信号を計測する代表的な手法として、生体内組織に接した2つの電極間の電流を測定する二端子計測と、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極の3つの電極を有する電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)を用いた三端子計測とが知られている。三端子計測は、二端子計測と比較して一般に、高精度・安定化の観点で有利である。
【0004】
FET構造のフレキシブルデバイスとして、ソース電極とドレイン電極との間に配置されるチャネルとして有機半導体薄膜を用いた有機FET構造のフレキシブルデバイスが知られている。また、ゲート電極の先端を、ソース電極とドレイン電極から離れた位置に延長した延長ゲート電極を用いた延長ゲート型FET構造のフレキシブルデバイスが知られている。例えば、非特許文献1には、チャネルとして有機半導体薄膜を用い、ゲート電極として延長ゲート電極を用いた延長ゲート型有機FET構造のフレキシブルデバイスが開示されている。この非特許文献1に開示されているフレキシブルデバイスでは、延長ゲート電極としては金薄膜が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Tsukuru Minamiki et al., APPLIED PHYSICS LETTERS 104, 243703 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、生体組織の挙動を様々な観点から研究するために、生体の電気信号を計測しながら、生体組織を光学的に観察したり、光遺伝操作や膜電位イメージングなどを行えたりすることができれば好ましい。しかしながら、従来のフレキシブルバイオデバイスでは、電極が不透明であるため、生体組織に対して光学的な観察や光照射を行うことはできなった。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、生体組織の電気的な測定と生体組織に対する光学的な観察あるいは光照射とを同時に行うことができるフレキシブルデバイスおよびフレキシブルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様であるフレキシブルデバイスは、絶縁基板と、前記絶縁基板の表面に互いに間隔を空けて形成されたソース電極、ドレイン電極および延長ゲート電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隔に配置されたチャネルと、前記チャネルの全体と前記延長ゲート電極の一部を覆うように形成されたゲート誘電体と、を有し、前記絶縁基板は、光透過性を有する可撓性薄膜であり、前記延長ゲート電極は、生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜であって、前記チャネルは、有機半導体薄膜であり、前記ゲート誘電体は、イオン液体もしくはイオンゲルであり、前記延長ゲート電極の先端部は、特定の物質に選択的に結合する修飾がなされている。
【0009】
本発明の一の態様である電極において、前記絶縁基板は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上である構成としてもよい。
また、本発明の一の態様である電極において、前記延長ゲート電極が、sp混成軌道を形成している炭素原子を含む炭素材料薄膜である構成としてもよい。
さらに、本発明の一の態様である電極において、前記延長ゲート電極が、グラフェン膜である構成としてもよい。
またさらに、本発明の一の態様である電極において、前記延長ゲート電極は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上である構成としてもよい。
さらにまた、本発明の一の態様である電極において、前記延長ゲート電極は、下記の方法により測定される神経細胞の付着率が50%以上である構成としてもよい。
(神経細胞の付着率の測定方法)
神経細胞懸濁液1mLを前記延長ゲート電極上に滴下し、温度37℃、相対湿度100%に調節した恒温槽内で24時間静置する。静置後、ガラス基板上の神経細胞懸濁液を除去して、リン酸緩衝生理食塩水を追加する。次いで、ガラス基板の細胞を、トリパンブルーを染色し、神経細胞の生細胞と死細胞の数を計測し、全細胞数に対する生細胞の割合を、神経細胞の付着率として算出する。
【0010】
本発明の一の態様であるフレキシブルデバイスの製造方法は、前記各項に記載のフレキシブルデバイスの製造方法であって、光透過性を有する可撓性薄膜と、前記可撓性薄膜の表面に積層された、生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜とを有する積層体を用意する工程と、前記積層体の前記炭素材料薄膜の一部を除去することにより、ソース電極、ドレイン電極および延長ゲート電極を形成する工程と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隔に有機半導体薄膜を形成する工程と、前記有機半導体薄膜の全体と前記延長ゲート電極の一部を覆うようにイオン液体もしくはイオンゲルを塗布する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体組織の電気的な測定と生体組織に対する光学的な観察あるいは光照射とを同時に行うことができるフレキシブルデバイスおよびフレキシブルデバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法における電極形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、III(b)-III(b)線断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法における電極形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、IV(b)-IV(b)線断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法における電極形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、V(b)-V(b)線断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法におけるチャネル形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、VI(b)-VI(b)線断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法におけるチャネル形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、VII(b)-VII(b)線断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法におけるゲート誘電体形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、VIII(b)-VIII(b)線断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの製造方法におけるゲート誘電体被覆層形成工程を説明する図面であって、(a)は平面図であり、(b)は、IX(b)-IX(b)線断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの使用状態の一例を示す概念図である。
図11】本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの使用状態の別の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0014】
<フレキシブルデバイス>
以下、本発明の一実施形態であるフレキシブルデバイスについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの平面図であり、図2は、図1のII-II線断面図である。
【0015】
図1、2に示すように、フレキシブルデバイス1は、絶縁基板2と、絶縁基板2の表面に互いに間隔を空けて形成されたソース電極3、ドレイン電極4および延長ゲート電極5と、ソース電極3とドレイン電極4との間隔に配置されたチャネル6と、チャネル6の全体と延長ゲート電極5の一部を覆うように形成されたゲート誘電体7と、を有する。ゲート誘電体7は保護層8で被覆されている。また、ソース電極3はソース電極端子3aを、ドレイン電極4はドレイン電極端子4aをそれぞれ備えている。
【0016】
絶縁基板2は、光透過性を有する可撓性薄膜13から構成されている。絶縁基板2は、用途によっても異なるが、フレキシブルデバイス1を全体的に円筒状、円錐状などの任意の形状に加工できる程度の可撓性を有していることが好ましい。また、絶縁基板2は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上であることが好ましい。さらに、絶縁基板2は、生体適合性を有し、かつ化学的に安定性であることが好ましい。
【0017】
絶縁基板2の材料としては、ポリパラキシレン樹脂が好ましい。ポリパラキシレン樹脂は、湿気や腐食性ガスへの耐性が強く、蒸着で容易に薄膜化できる上、生体内組織に対して無害なので、絶縁基板2の材料として適している。
絶縁基板2の厚さは通常、1μm以上3μm以下の範囲内である。
【0018】
ソース電極3およびドレイン電極4は、導電性薄膜から構成されている。ソース電極3およびドレイン電極4は、延長ゲート電極5と同様に後述の炭素材料薄膜から構成されていてもよい。また、ソース電極3およびドレイン電極4は、金属薄膜、導電性酸化物薄膜、導電性高分子薄膜から構成されていてもよい。金属薄膜の材料の例としては、Au、Ti、Cu、Co、Pt、Al、Crを挙げることができる。導電性酸化物薄膜の材料の例としては、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素酸化スズ(FTO)、アルミニウム酸化亜鉛(AZO)を挙げることができる。導電性高分子薄膜の材料の例としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリチオフェン系高分子、ポリビチオフェン系高分子、ポリイソチオフェン系高分子、ポリドデシルチオフェン系高分子、ポリイソナイトチオフェン系高分子、ポリ-3-ヘキシルチオフェン系高分子、ポリアセン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリジアセチレン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子を挙げることができる。なお、フレキシブルデバイス1の使用の際に、ソース電極3およびドレイン電極4が生体組織に接しない場合は、ソース電極3およびドレイン電極4の材料は生体適合性を有していなくてもよい。
ソース電極3およびドレイン電極4の厚さは通常、10nm以上1μm以下の範囲内である。
【0019】
ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aは、導電性薄膜から構成されている。ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aは、金属薄膜から構成されていることが好ましい。ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aの材料の例としては、Au、Ti、Cu、Co、Pt、Al、Crを挙げることができる。
ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aの厚さは通常、10nm以上500nm以下の範囲内である。
【0020】
延長ゲート電極5は、先端部5a(センサ部)がソース電極3およびドレイン電極4から離れた位置に延長されている。ソース電極3およびドレイン電極4と延長ゲート電極5の先端部5aの距離は用途によっても異なるが、通常は2cm以上であり、好ましくは2cm以上5cm以下の範囲内である。
【0021】
延長ゲート電極5は、生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜から構成されている。延長ゲート電極5は、sp混成軌道を形成している炭素原子を含む炭素材料薄膜から構成されていることがより好ましい。延長ゲート電極5は、グラフェン膜であることが特に好ましい。また、グラフェン膜は、単層グラフェン膜および2~10層の多層グラフェン層を含む。
【0022】
延長ゲート電極5は、下記の方法により測定される神経細胞の付着率が50%以上であることが好ましい。神経細胞の付着率が50%以上である延長ゲート電極5は、一般的な細胞に対する親和性が高いので、生体適合性が高い。
(神経細胞の付着率の測定方法)
神経細胞懸濁液1mLを前記延長ゲート電極上に滴下し、温度37℃、相対湿度100%に調節した恒温槽内で24時間静置する。静置後、ガラス基板上の神経細胞懸濁液を除去して、リン酸緩衝生理食塩水を追加する。次いで、ガラス基板の細胞を、トリパンブルーを染色し、神経細胞の生細胞と死細胞の数を計測し、全細胞数に対する生細胞の割合を、神経細胞の付着率として算出する。
【0023】
また、延長ゲート電極5は、波長300nm以上4μm以下の範囲内の光の透過率が70%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
このような生体適合性と光透過性とを有する延長ゲート電極5を用いることによって、生体組織の電気的な測定と生体組織に対する光学的な観察あるいは光照射とを同時に行うことができる。
【0024】
延長ゲート電極5は、用途に応じて、先端部5aの表面を修飾してもよい。例えば、延長ゲート電極5を用いて、抗原抗体反応により特定の抗原を補足する場合は、延長ゲート電極5の先端部5aの表面を、特定の抗原と結合する抗体あるいは検出目標となる抗原と選択的に結合するアプタマーで修飾してもよい。また、例えば、匂いセンサーの検出器として用いる場合は、延長ゲート電極5の先端部5aの表面を匂いレセプターで修飾してもよい。
【0025】
チャネル6は、有機半導体薄膜から構成されている。すなわち、フレキシブルデバイス1は、有機FET構造を有する。有機半導体薄膜は、n型半導体であってもよいし、p型半導体であってもよい。有機半導体としては、ルブレン、C60(フラーレン)、P3HT(ポリヘキシルチオフェン)を用いることができる。
有機半導体薄膜は、FETのチャネルとして広く利用されているシリコン薄膜などの無機薄膜と比較して生産性に優れ、種類が豊富かつ、柔軟で可撓性が高い。このため、任意のチャネル6(有機半導体薄膜)を絶縁基板2上に簡単に作製できる。
【0026】
チャネル6の形状は特に限定ないが、通常は四角形である。チャネル6の長さと幅は、ソース電極3およびドレイン電極4のサイズによっても変動するが、通常は50μm以上500μm以下の範囲内である。
【0027】
ゲート誘電体7は、イオン液体もしくはイオンゲルから構成されている。
イオン液体は、アニオンとカチオンが対になった液体である。イオン液体としては、例えば、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME/TFSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(P13/TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMIM/TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(EMIM+/BF )を用いることができるが、イオン液体を成すカチオンの側鎖長及びアニオン種と有機溶媒や水との混和性に注意してイオン液体を選ぶことが好ましい。例えば、有機溶媒との混和性を重視するなら、十分に有機溶媒に溶けるほどカチオンの側鎖が長く、アニオンに(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)やPF が含まれていることが好ましい。一方、水との混和性を重視するなら、カチオンの側鎖は十分水と混和するほど短く、アニオンはClやCFCOOを含んでいることが好ましい。通常、有機FETの駆動電圧と電荷移動度はトレードオフの関係にあるが、高い電荷移動度を示すとされるP13/TFSIでさえ0.2V以下の低駆動電圧を示すので、イオン液体またはイオンゲルをゲート誘電体として用いる場合、たいていの有機FETはバイオセンサーとして十分な感度で機能する。
【0028】
イオンゲルは、イオン液体を含むゲル状物質であり、一般にイオン液体に共重合体を混ぜて溶媒に溶かした後に溶媒を揮発することで得られる。溶媒は特に指定しないが、通常はアセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、トルエンなどの有機溶媒が用いられる。共重合体も特に指定はないが、主にメタクリル酸メチル・スチレン共重合体(PS-PMMA-PS)、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)などが用いられる。例えば、イオン液体EMIM/TFSI50μLとPVDF-HFP25mgの混合物をアセトニトリル1mLに溶かして、ウェハやガラス基板にスピンコートまたは滴下する。その後、基板をホットプレート上で70℃前後の温度で10分ほど過熱して有機溶媒(アセトニトリル)を揮発して、基板表面にイオンゲルを得る。最後にイオンゲルを基板から剥離する。必要なら剥離の前後で適宜、イオンゲルを成型する。イオン液体と共重合体の比率を変えてゲルの膜質を制御することも可能である。また、共重合体の代わりにセルロースを用いてイオンゲルを得ることもできる。
【0029】
イオン液体およびイオン液体を含むイオンゲルから構成されたゲート誘電体7は、厚さがイオン液体を構成するカチオン分子サイズ(1nm程度)と薄い。このため、ゲート誘電体7を用いることによって、微弱な生体信号や化学結合を高感度に検出する有機FET構造のフレキシブルデバイス1を得ることができる。
【0030】
保護層8は、ゲート誘電体7を構成するイオン液体が流失しないように保護するための層である。保護層8の材料としては特に制限はないが、シリコーン樹脂が好ましい。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂、ポリパラキシレン樹脂を用いることができる。柔軟性や加工性の観点から、ポリジメチルシロキサン樹脂が好ましい。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態であるフレキシブルデバイス1によれば、絶縁基板2は光透過性を有する可撓性薄膜から構成され、延長ゲート電極5は生体適合性と光透過性とを有する炭素材料薄膜から構成され、チャネル6は、有機半導体薄膜であり、ゲート誘電体7は、イオン液体もしくはイオンゲルから構成されているので、生体組織の電気的な測定と生体組織に対する光学的な観察あるいは光照射とを同時に行うことができる。また、電気的な測定を高感度で行うことができる。
【0032】
なお、上記実施形態のフレキシブルデバイス1は本発明の例示に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態のフレキシブルデバイス1では、ソース電極3はソース電極端子3aを、ドレイン電極4はドレイン電極端子4aをそれぞれ備えているが、これに限定されるものではない。ソース電極3とドレイン電極4とをそれぞれ直接、生体の電気信号を計測する装置に接続してもよい。
また、本実施形態のフレキシブルデバイス1では、ゲート誘電体7を被覆する保護層8が設けられているが、ゲート誘電体7を構成するイオン液体もしくはイオンゲルが高粘度で流出しにくい場合は、保護層8は設けなくてもよい。さらに、本実施形態のフレキシブルデバイス1では、延長ゲート電極5の先端部5aは幅が広くなっているが、先端部5aの幅に特に制限はなく、電気信号の計測に支障がなければ、先端部5aの幅を広くする必要はなく、先端部5aの幅を他の部分よりも狭くしてもよい。
【0033】
次に、本発明の一実施形態であるフレキシブルデバイス1の製造方法について説明する。本実施形態のフレキシブルデバイス1の製造方法は、原料となる積層体を用意する用意工程と、その積層体を用いて、ソース電極、ドレイン電極および延長ゲート電極を形成する電極形成工程と、ソース電極とドレイン電極との間隔にチャネルを形成するチャネル形成工程と、チャネルの全体と延長ゲート電極の一部を覆うようにゲート誘電体を塗布するゲート誘電体形成工程とを含む。以下、本実施形態であるフレキシブルデバイス1の製造方法を、図3図9を参照しながら説明する。なお、図3図9において、(a)は平面図であり、(b)は、各(a)の(b)-(b)線断面図である。
【0034】
用意工程では、図3に示すように、固体基板11の上に、犠牲層12、光透過性を有する可撓性薄膜13、炭素材料薄膜14がこの順で積層された積層体10を用意する。
固体基板11は、フレキシブルデバイスを製造する際の基板である。固体基板11は、表面が平坦な基板であり、通常の半導体プロセスで利用されている基板を用いることができる。固体基板11の材料としては、特に制限はなく、ガラス、シリコン、プラスチックを用いることができる。固体基板11の厚さは、0.3mm以上1mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
犠牲層12は、化学的もしくは物理的な手法によって除去可能な層であり、フレキシブルデバイス1の製造後に、この層を除去することにより、フレキシブルデバイスを固体基板11から剥離しやすくするための層である。犠牲層12の材料は、製造したフレキシブルデバイスにダメージを与えることなく除去が可能な材料であれば種類を問わない。犠牲層12の材料は、金属であってもよいし、有機物であってもよい。金属の例としては、アルミニウム、鉄、銅などが挙げられる。アルミニウムや鉄は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液(濃度1M)あるいはMicroposit(登録商標)351 Developerに1~5分ほど浸漬すれば除去できる。銅は、例えば、アンモニア水(3M)と過酸化水素水(3~30%)を等量混合した溶液に浸漬すれば速やかに除去できる。また、銅は、グルタミン酸ナトリウム水溶液(1~5g/20mL)に塩化ナトリウム1~5gと過酸化水素水(3~30%)を4~10mL加えた水溶液中や塩化鉄(III)水溶液を用いても除去できる。金属製の犠牲層12の形成方法としては特に制限はないが、スパッタ法、EB蒸着法などを用いることができる。
【0036】
犠牲層12の材料として用いる有機物の例としては、ゲル化したアルギン酸ナトリウムが挙げられる。ゲル化したアルギン酸ナトリウムを用いた犠牲層12は、例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液(1%wt)を親水性フィルター(200nmポア径)でろ過した後、固体基板11の表面にスピンコート法(例えば、3000rpm、30秒)を用いて塗布し、次いで得られた塗布膜を塩化カルシウム水溶液(0.1M)に10秒浸漬してゲル化することによって形成することができる。このゲル化アルギン酸ナトリウムを用いた犠牲層12は、EDTA(5mM)を用いて除去することができる。ゲル化アルギン酸ナトリウムを用いた犠牲層12は生体分子に対して無害なEDTAを用いて除去できるので、タンパク質などの生体分子を延長ゲート電極に修飾したフレキシブルデバイスを製造する場合は好ましい。
犠牲層12の膜厚は通常、10nm以上200nm以下の範囲内である。
【0037】
可撓性薄膜13は、フレキシブルデバイス1の絶縁基板2を構成する膜である。絶縁基板2がポリパラキシレン樹脂膜である場合、絶縁基板2の形成方法としては、蒸着法を用いることができる。
【0038】
炭素材料薄膜14は、フレキシブルデバイス1のソース電極3、ドレイン電極4および延長ゲート電極5を構成する膜である。炭素材料薄膜14がグラフェン膜である場合、炭素材料薄膜14の形成方法としては、転写法を用いることができる。転写法は、別に用意した転写用基板の表面にグラフェン膜を形成し、その転写用基板の表面に形成したグラフェン膜を、可撓性薄膜13の表面に転写する方法である。
【0039】
電極形成工程では、図3に示すように、積層体10の炭素材料薄膜14の表面全体に、ネガ型レジスト層15を積層し、次いで、所定パターンのマスク16を形成する。所定パターンのマスク16は、例えば、光硬化性樹脂を3Dプリンタで加工することによって形成することができる。3Dプリンタで得たマスクの場合、パターン部が開口部となるので、露光・現像処理された箇所のレジストが残るネガ型レジストを用いることが望ましい。
マスク16を形成した後、ネガ型レジスト層15の表面に露光・現像処理して、マスク16で覆われていないネガ型レジスト層15を除去した後、マスク16を除去する。これによって図4に示すように、所定パターンのネガ型レジスト層15a、15b、15cが形成される。
【0040】
次に、図4に示すように、積層体10の表面にイオンビームを照射する。これにより、ネガ型レジスト層15a、15b、15cで覆われていない炭素材料薄膜14を除去する。その後、ネガ型レジスト層15a、15b、15cを、アセトン等の有機溶媒により除去する。これによって図5に示すように、炭素材料薄膜14から構成された、ソース電極3、ドレイン電極4および延長ゲート電極5が形成される。
【0041】
チャネル形成工程では、まず、図6に示すように、積層体10のソース電極3とドレイン電極4の間隔以外の表面の領域をマスク17で被覆する。次いで、マスク17で被覆されていない部分に、有機半導体薄膜18を形成する。有機半導体薄膜18は、フレキシブルデバイス1のチャネル6を構成する膜である。有機半導体薄膜18の形成方法には特に制限はなく、キャスト法やスピンコート法など任意の方法で形成することができる。
【0042】
次に、図7に示すように、マスク17を除去し、有機半導体薄膜18がソース電極3とドレイン電極4の間隔に形成されていることを確認する。
【0043】
ゲート誘電体形成工程では、図8に示すように、有機半導体薄膜18(チャネル6)の全面と延長ゲート電極5の一部を覆うようにイオン液体19を塗布する。イオン液体19の代わりにイオンゲルを用いてもよい。イオン液体19は、フレキシブルデバイス1のゲート誘電体7を構成する。イオン液体19の塗布方法には特に制限はなく、点塗布法を用いることができる。
【0044】
また、図8に示すように、ソース電極3にソース電極端子3aを、ドレイン電極4にドレイン電極端子4aをそれぞれ形成する。ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aの形成方法としては、蒸着法やスパッタ法など任意の方法で形成することができる。ソース電極端子3aおよびドレイン電極端子4aは、イオン液体19の塗布前に形成することが望ましい。
【0045】
次に、図9に示すように、イオン液体19(ゲート誘電体7)を覆うように、保護材料膜20を形成する。保護材料膜20はフレキシブルデバイス1の保護層8を構成する。保護材料膜20の形成方法には特に制限はなく、保護材料膜20がポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂膜である場合は、レーザ加工や金型による成型を適用できる。
【0046】
そして、最後に、犠牲層12を除去して、固体基板11と可撓性薄膜13(絶縁基板2)とを剥離する。
【0047】
以上のような構成とされた本実施形態であるフレキシブルデバイス1の製造方法によれば、フレキシブルデバイス1を工業的に有利に製造することができる。
【0048】
なお、上記実施形態のフレキシブルデバイス1の製造方法は本発明の例示に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態のフレキシブルデバイス1の製造方法では、マスク16の形成を、3Dプリンタで加工することによって行っているが、マスク16はフォトマスクとしてもよい。フォトマスクの場合、マスクの仕様によってポジ型、ネガ型両方のレジストを用いることができる。
【0049】
次に、本実施形態であるフレキシブルデバイス1の利用方法について説明する。図10は、本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの使用状態の一例を示す概念図である。
図10に示す使用状態では、3個のフレキシブルデバイス1を用いて、脳組織31の電気的な測定と脳組織31の光学的な観察を行う。3個のフレキシブルデバイス1の延長ゲート電極5の先端部5aは、それぞれ脳組織31に接続している。各フレキシブルデバイス1はドレイン電圧が一定とされ、脳組織31からの電圧変化をゲート電圧の変化として延長ゲート電極5の先端部5aが感知することによって、ゲート電圧の変化に追随してドレイン電流が変化する。このドレイン電流を計測することによって、脳組織31の電気信号の変化を測定する。なお、図10に示すように、ソース電極3およびドレイン電極4とチャネル6は生体内組織に接しない位置に配置することが好ましい。
【0050】
フレキシブルデバイス1は、延長ゲート電極5が光透過性であるので、脳組織31の電気信号の測定と共に、脳組織31を光学的に観察したり、光を付与したときの電気信号の変化を測定したりすることができる。よって、本実施形態のフレキシブルデバイス1を用いることによって、従来のフレキシブルデバイスと比較して、種々の情報を得ることができる。
【0051】
図11は、本発明の一実施形態に係るフレキシブルデバイスの使用状態の別の一例を示す概念図である。
図11に示す使用状態では、1個のフレキシブルデバイス1を用いて、延長ゲート電極5の先端部5aに固定されている抗体41と試料42中の抗原43との抗原抗体反応を、電気的な測定と光学的な観察により解析する。なお、抗原43は、予め蛍光体(標識)が結合されている。フレキシブルデバイス1の延長ゲート電極5の先端部5aは、抗原43に対して親和性を有する抗体41が固定されている。延長ゲート電極5に一定の電圧を印加して、延長ゲート電極5の先端部5aに試料42を滴下する。必要なら参照電極44(通常は銀/塩化銀電極)を試料42に入れる。抗体抗原反応が起きて抗原43が抗体41に結合すると、延長ゲート電極5と試料42の界面電位変化によりドレイン電流が変化する。このドレイン電流の計測と、抗原43に結合されている蛍光体の蛍光観察により、電気信号と光という二種類の情報から抗原抗体反応が解析可能になる。なお、検出目的の抗原と選択的に結合するアプタマーがあれば、抗体の代わりにそれを用いてもよい。
【0052】
以上、本実施形態のフレキシブルデバイス1の使用方法について説明したが、フレキシブルデバイス1の使用方法は上記の実施形態に限定されるものではない。フレキシブルデバイス1は、例えば、バイオセンサーの表皮貼付型デバイスなどのウェアラブルシステムにおいて、生体の電気信号を測定するバイオデバイスとして利用することができる。また、フレキシブルデバイス1は、匂いセンサーの匂い成分を補足して検出する検出器としても利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…フレキシブルデバイス、2…絶縁基板、3…ソース電極、3a…ソース電極端子、4…ドレイン電極、4a…ドレイン電極端子、5…延長ゲート電極、5a…先端部、6…チャネル、7…ゲート誘電体、8…保護層、10…積層体、11…固体基板、12…犠牲層、13…可撓性薄膜、14…炭素材料薄膜、15a、15b、15c…ネガ型レジスト層、16、17…マスク、18…有機半導体薄膜、19…イオン液体、20…保護材料膜、31…脳組織、41…抗体、42…試料、43…抗原、44…参照電極
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