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  • 特許-ニッケル粉の製造方法 図1
  • 特許-ニッケル粉の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ニッケル粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/26 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
B22F9/26 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017250471
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116656
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】高石 和幸
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150717(WO,A1)
【文献】特開2017-214605(JP,A)
【文献】特開2015-140480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106450(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と水素ガスを高温高圧容器内で反応させ、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを水素ガスで還元してニッケルの粉末を得る方法において、
前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が、ニッケルとアンモニアをモル濃度で表した値における「NH /Ni」が1.9の組成であり、且つ、緩衝剤としての硫酸アンモニウムを100g/L以上、500g/L以下を含有すると共に、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル重量に対して1~100重量%となる量の範囲内となるニッケル粉を種晶として含み、
前記高温高圧容器内に、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を液相とする液相部-気相部の2相状態を形成し
前記液相部及び気相部の温度が180℃以上、185℃以下の温度範囲を維持した状態とした 後、
前記気相部の圧力が、圧力が3.0MPa以上、3.5MPa以下の範囲を維持するように、水素ガスの供給量を調整して前記水素ガスを前記気相部に吹き込み、撹拌状態にある前 記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の液面に吹き付けて前記水素ガスが構成する気相と前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が構成する液相を、前記気相と液相が形成する界面で接触させることで、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを前記水素ガスにより還元処理してニッケル粉末を生成することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを水素ガスで還元してニッケル粉末を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式製錬プロセスを用いてニッケルの粉末を工業的に製造する方法の一つとして、特許文献1に示すように、ニッケル酸化鉱石やスクラップや中間原料などのニッケルを含有する原料と硫酸溶液とを接触させて得られたニッケルを含有する硫酸酸性溶液を、中和処理や溶媒抽出などの方法に付して共存する不純物を除去し、次いで、その不純物を除去した硫酸酸性溶液にアンモニアを添加して含有するニッケルをアンミン錯体に錯形成させて硫酸ニッケルアンミン錯体溶液とし、次いで、その硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に水素ガスを供給し、ニッケルイオンを還元してニッケル粉を製造する方法が知られている。
【0003】
上記水素ガスを用いてニッケルイオンを還元する方法では、その反応が高温高圧下でないと効率よく進まないため、オートクレーブなどの高温高圧容器を用いて行われることが一般である。
この高温高圧容器を用いて、高温高圧下で硫酸ニッケルアンミン錯体水溶液に水素ガスを吹込む場合、ニッケルイオンと水素ガスを効率よく反応させるために、ランスと呼ばれる吹込み管やシンターと呼ばれる微細な吹き出し穴を多数有する吹込み管を用いて水素ガスを吹き込む場合が多い。
【0004】
しかしながら、上述したような吹込み管を用いた場合、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中にニッケルが析出してスケーリングを生成することが多く、スケーリングが進行するとランスの閉塞が生じてしまう課題があった。このため定期的にスケーリングを除去したり、ランスを交換したりする手間と費用を要していた。
さらに、ランスを用いて硫酸ニッケルアンミン錯体水溶液中に水素ガスを吹き込む場合、ランスの吐出口付近など特定の場所での硫酸ニッケルアンミン錯体溶液内での水素ガス濃度が局部的に高くなり、その結果部分的に還元が進んで、粒径が不均一なニッケル粉が析出・成長することがあり、製品の均質化の点でも課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-140480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温高圧下で水素ガスを吹込んで還元処理してニッケルの粉末を得る方法において、高温高圧状態で高温高圧容器内に貯留されている硫酸ニッケルアンミン錯体水溶液に水素ガスを吹込む際に、水溶液中のニッケルイオンと吹き込む水素ガスを効率よく均質なニッケル粉が得られるように反応させて均一な大きさのニッケル粉を安定的に得られるニッケル粉の製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の第1の発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と水素ガスを高温高圧容器内で反応させ、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを水素ガスで還元してニッケルの粉末を得る方法において、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が、ニッケルとアンモニアをモル濃度で表した値における「NH /Ni」が1.9の組成であり、且つ、緩衝剤としての硫酸アンモニウムを100g/L以上、500g/L以下を含有すると共に、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル重量に対して1~100重量%となる量の範囲内となるニッケル粉を種晶として含み、前記高温高圧容器内に、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を液相とする液相部-気相部の2相状態を形成し、前記液相部及び気相部の温度が180℃以上、185℃以下の温度範囲を維持した状態とした後、前記気相部の圧力が、圧力が3.0MPa以上、3.5MPa以下の範囲を維持するように、水素ガスの供給量を調整して前記水素ガスを前記気相部に吹き込み、撹拌状態にある前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の液面に吹き付けて前記水素ガスが構成する気相と前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が構成する液相を、前記気相と液相が形成する界面で接触させることで、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを前記水素ガスにより還元処理してニッケル粉末を生成することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細で大きさのそろったニッケル粉を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られたニッケル粉のSEM像(×100)である。
図2】比較例1で得られたニッケル粉のSEM像(×500)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を水素ガスで還元してニッケル粉を得る方法において、水素ガスを反応容器の気相部に吹き込むことを用いたもので、より詳細には、水素ガスは撹拌されている錯体溶液表面に向かって吹き付けられ、錯体溶液の表面を接触面とする気液相界面から溶液の内部へ拡散する水素による還元反応によって、錯体溶液中のニッケルイオンが水素ガスの水素により還元処理されてニッケル粉を形成するものである。
【0011】
ところで、水素のように溶液への溶解度が低いガスを吹き込む場合、溶液との接触を効率的に行うためには、一般的には液相に吹き込まれる方法が採られている。
しかし、高温高圧下の状態では液相への水素ガスの溶解度が常圧の場合よりも大きくなるため、溶液中に水素ガスを吹き込むと水素と溶液との反応が常圧下よりも進みやすく、その結果、水素ガスの吹き込みに使用される吹込み管の吐出口付近で局部的に水素ガス濃度が上昇し、その結果不均一なサイズのニッケル粉になりやすいことを見出した。
【0012】
そのため、本発明では高温高圧容器に液相部と気相部の2相を設け、液相部は貯留された錯体溶液が占有し、気相部には水素ガスが吹き込まれ、高温高圧容器内に貯留されて液相部を構成する錯体溶液(又はスラリー)の液相と水素ガスが構成する気相の気相/液相界面を通じて水素ガスを溶液内に拡散させることで、ガス濃度の均一化を図り、その結果均一なサイズのニッケル粉を安定して得ることができるようにするものである。
【0013】
また、本発明のような液相と気相の界面を通じてガスを拡散させて反応させる方法では、気相内の水素ガスの分圧を一定に制御し、液相への水素ガスの溶け込みを一定に維持することが重要となる。
このためには、反応温度を水素ガスがニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを還元するのに実用的に十分な反応速度が得られる150℃以上、185℃以下、好ましくは180℃以上、185℃以下の温度範囲に維持する。
150℃未満の温度では反応速度が著しく遅く、実用的ではない。一方、185℃を超える温度にしてもエネルギーが余計にかかる割には反応速度の向上は期待できず、設備面での負担が余計にかかり好ましくない。
【0014】
また、本発明では気相部に吹き込まれた水素が液相部の錯体溶液(又はスラリー)内に拡散することで均一に反応させることが特徴である。
このためには反応温度が上記の適した領域にあるだけでなく、容器内、すなわち気相部の内部圧力が2.5MPa以上、3.5MPa以下、好ましくは3.0MPa以上、3.5MPa以下を維持するように水素ガスの流量を調整して圧力を維持することが必要である。この圧力範囲を維持することで気相部の水素ガスが均一に液相部に拡散して均一に還元反応が進行し、その結果粒径がそろった均質なニッケル粉を得ることができる。
なお、水素ガスの供給を停止しても内部の圧力が変化しなくなった時点が、水素での還元が進まなくなった状態、すなわち反応が終了した状態となる。
【0015】
また、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を含有するスラリーは、ニッケルとアンモニアをモル濃度で表した値の比「NH /Ni」が1.9となることが好ましい。1.9未満では一部のニッケルがアンミン錯体を形成せず、水酸化ニッケルの沈殿が生成されてしまう。1.9を超えるとアンモニアが過剰となり好ましくないので、上限は2.1程度に収めることが好ましい。
【0016】
また、緩衝剤として用いる硫酸アンモニウム濃度は、100~500g/Lであることが好ましい。500g/Lを超える量では溶解度を超えてしまい、結晶が析出してしまい、プロセスのメタルバランス上、100g/L未満を達成するのは困難である。
【0017】
さらに種晶としてニッケル粉を錯体溶液中のニッケル重量に対し、1重量%以上、100重量%以下の範囲の量を含有する組成とすることが好ましい。1重量%未満では、種晶量が不十分であり還元効率が低下し、100重量%を超える量を添加しても効果に影響はなく、過剰な添加となる。
【実施例
【0018】
以下、実施例により本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0019】
内部容量が2.6Lのステンレス製の高温高圧容器に、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液のスラリー1.0Lを装入した。使用したスラリーの組成は、Ni濃度が75g/Lの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と硫酸アンモニウム(硫安)が330g/Lであり、さらに種晶として別途製造したニッケル粉を75g/Lとなるように混合した。
なお、高温高圧容器には電磁誘導式の撹拌機を設けたものを使用し、容器内の撹拌羽を毎分400回転で撹拌した。
【0020】
次いで上記スラリーを温度185℃に保ちつつ、高温高圧容器の内部とスラリーとの間の気相部に、水素ガスを0.1~2.0L/分で吹き込みながら高温高圧容器の内部圧力を3.5MPaに維持した。
具体的には、水素ガスを最大2.0L/分の流量で高温高圧容器の天井部から吹き出すように吹込みながら、高温高圧容器の圧力が3.5MPaになるよう水素ガス吹込み量を上記の範囲で調整した。
なお、水素ガスを吹込み開始してから、高温高圧容器の圧力が3.5MPaに維持したまま水素ガスの供給が止まるまでの時間は31分で、この時間が反応時間に相当した。
【0021】
反応終了後、100℃以下の温度まで冷却し、次いで高温高圧容器を開け、容器内のスラリーを濾紙とヌッチェを用いて固形分と濾液とに固液分離した。得られた固形分、即ちニッケル粉は、水洗、真空乾燥を経た後に、その重量を秤量した。一方、濾液は、ICPを用いてその成分分析を行った。
【0022】
固形分と反応後の濾液のニッケル濃度から算定したニッケルイオンからニッケル粉への還元率は99.3%となった。
反応で得たニッケル粉の電子顕微鏡写真を図1に示す。図1を見て判るように、均一なニッケル粉が得られていた。
【0023】
(参考例)
種晶のニッケル粉を添加しなかった点以外は、実施例1と同様の条件で還元処理を行い、ニッケル粉を製造した。
その反応時間は、16分間で、得られたニッケル粉の還元率は、89.6%となった。
【0024】
(比較例1)
水素ガスを内径6φの吹込み管を用いて直接スラリー内の底部に吹き込んだ以外は、上記実施例1と同じ設備と条件によって硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を還元してニッケル粉を得た。水素ガスが消費されなくなるまでの時間は30分だった。
【0025】
固形分と反応後の濾液のニッケル濃度から算定したニッケルイオンからニッケル粉への還元率は99.3%だった。
反応で得られたニッケル粉の電子顕微鏡写真を図2に示す。本発明に係るニッケル粉の図1に比べると、部分的に2次成長した大きさが不均一なニッケル粉となっていることが判る。
図1
図2